弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人諌山博の上告趣意第一点及び同第二点前段について。
 論旨は、公衆浴場法二条二項後段は、公衆浴場の設置場所が配置の適正を欠くと
認められる場合には、都道府県知事は公衆浴場の経営を許可しないことができる旨
定めており、また昭和二五年福岡県条例五四号三条は、公衆浴場の設置場所の配置
の基準等を定めているが、公衆浴場の経営に対するかような制限は、公共の福祉に
反する場合でないのに職業選択の自由を違法に制限することになるから、右公衆浴
場法及び福岡県条例の規定は、共に憲法二二条に違反するものであると主張するの
である。
 しかし、公衆浴場は、多数の国民の日常生活に必要欠くべからざる、多分に公共
性を伴う厚生施設である。そして、若しその設立を業者の自由に委せて、何等その
偏在及び濫立を防止する等その配置の適正を保つために必要な措置が講ぜられない
ときは、その偏在により、多数の国民が日常容易に公衆浴場を利用しようとする場
合に不便を来たすおそれなきを保し難く、また、その濫立により、浴場経営に無用
の競争を生じその経営を経済的に不合理ならしめ、ひいて浴場の衛生設備の低下等
好ましからざる影響を来たすおそれなきを保し難い。このようなことは、上記公衆
浴場の性質に鑑み、国民保健及び環境衛生の上から、出来る限り防止することが望
ましいことであり、従つて、公衆浴場の設置場所が配置の適正を欠き、その偏在乃
至濫立を来たすに至るがごときことは、公共の福祉に反するものであつて、この理
由により公衆浴場の経営の許可を与えないことができる旨の規定を設けることは、
憲法二二条に違反するものとは認められない。なお、論旨は、公衆浴場の配置が適
正を欠くことを理由としてその経営の許可を与えないことができる旨の規定を設け
ることは、公共の福祉に反する場合でないに拘らず、職業選択の自由を制限するこ
とになつて違憲であるとの主張を前提として、昭和二五年福岡県条例五四号第三条
が、憲法二二条違反であるというが、右前提の採用すべからざることは、既に説示
したとおりである。そして所論条例の規定は、公衆浴場法二条三項に基き、同条二
項の設置の場所の配置の基準を定めたものであるから、これが所論のような理由で
違憲となるものとは認められない。それ故所論は採用できない。
 同第二点後段について。
 論旨は、公衆浴場法が公衆浴場の経営について許可を原則とし、不許可を例外と
する建前をとつているに拘わらず、昭和二五年福岡県条例五四号は不許可を原則と
し、許可を例外とする建前をとつており、右条例は公衆浴場法にくらべて、より多
く職業選択の自由を制限しているので、憲法の精神に反するのみならず、地方公共
団体は「法律の範囲内で」条例を制定できるという憲法九四条に違反していると主
張する。しかし、右条例は、公衆浴場法二条三項に基き、同条二項で定めている公
衆浴場の経営の許可を与えない場合についての基準を具体的に定めたものであつて、
右条例三条、四条がそれであり、同五条は右三条、四条の基準によらないで許可を
与えることができる旨の緩和規定を設けたものである。即ち右条例は、法律が例外
として不許可とする場合の細則を具体的に定めたもので、法律が許可を原則として
いる建前を、不許可を原則とする建前に変更したものではなく、従つて右条例には、
所論のような法律の範囲を逸脱した違法は認められない。それ故所論は採用できな
い。
 被告人本人の上告趣意について。
 論旨の中違憲をいう点は、上記弁護人諌山博の上告趣意第一点及び同第二点前段
について判示したところと同様の理由によつて、採用できない。その他の論旨は、
単なる法令違反の主張乃至事情の説明を出でないものであつて、刑訴四〇五条の上
告理由に当らない。
 よつて同四〇八条により、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三〇年一月二六日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    田   中   耕 太 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    谷   村   唯 一 郎
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    池   田       克

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