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平成19年(行ウ)第32号設楽ダム公金支出差止等請求事件(甲事件)
平成20年(行ウ)第3号ダム公金支出差止請求事件(乙事件)
主文
1本件訴訟のうち,甲事件原告X1に関する部分は平成19年○
,,月○日に甲事件原告X2に関する部分は平成22年○月○日に
それぞれ当該原告の死亡により終了した。
2その余の原告らの請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は,前項の原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1甲事件
(1)被告愛知県知事は,特定多目的ダム法8条に基づいて愛知県が河川法60条
1項の規定により負担する設楽ダムの建設に要する費用の負担金のうち,洪水調節
及び流水の正常な機能の維持に係る部分並びにかんがいに係る部分(ただし,特定
多目的ダム法10条1項に基づく流水の貯留を利用して流水をかんがいの用に供す
る者の負担金に係る部分を除く)について,支出命令をしてはならない。。
,,(2)被告愛知県公営企業管理者企業庁長は設楽ダムの建設に要する費用のうち
愛知県が特定多目的ダム法7条1項に基づくダム使用権(水道用水に係るもの)の
設定予定者として負担する負担金について,支出してはならない。
2乙事件
被告愛知県知事は,特定多目的ダム法8条に基づいて愛知県が河川法60条1項
の規定により負担する設楽ダムの建設に要する費用の負担金のうち,同県が収納す
る特定多目的ダム法10条1項に基づく流水の貯留を利用して流水をかんがいの用
に供する者の負担金に係る部分について,支出命令をしてはならない。
第2事案の概要
本件は,国土交通大臣が豊川水系豊川上流の愛知県北設楽郡設楽町に建設を計画
している多目的ダムである設楽ダムに関し,愛知県が河川法及び特定多目的ダム法
以下特ダム法というの規定に基づき負担する建設費の負担金について同(「」。),
県の住民である原告らが,上記負担金の支出は違法な公金の支出に当たるとして,
地方自治法242条の2第1項1号に基づき甲事件及び乙事件被告愛知県知事以,(
下被告知事という並びに甲事件被告愛知県公営企業管理者企業庁長以下被「」。)(「
告企業庁長というに対し上記負担金の支出の差止めを求めている住民訴訟で」。),
ある。
1多目的ダムの建設費の負担等に関する法令の定め
(1)河川法等の定め
ア河川法4条1項に規定する一級河川の管理は,国土交通大臣が行うものであ
るが同法9条1項都道府県はその区域内における一級河川の管理に要する費(),,
用について,所定の割合でその費用を負担するものとされ,改良工事のうち政令で
(「」。),定める大規模な工事以下大規模改良工事というに要する費用については
その負担割合は10分の3とされている(同法60条1項。)
そして,河川法施行令36条の2第1号は,貯留量800万㎥以上のダムに関す
る工事で,これに要する費用が120億円を超えるものは,大規模改良工事に当た
るものと定めている。
イ国土交通大臣が行なう一級河川の管理に要する費用のうち,河川法60条1
,,項の規定により都道府県が負担すべき費用については政令で定めるところにより
国庫に納付しなければならないとされている(河川法64条1項。)
,,,,そして河川法施行令38条1項は国土交通大臣は上記の費用の負担に関し
その費用を負担すべき都道府県に対し,その負担すべき額を納付すべき旨を通知し
なければならないと定めている。
(2)特ダム法等の定め
特ダム法及び特定多目的ダム法施行令以下特ダム法施行令というは多(「」。),
目的ダム(国土交通大臣が河川法9条1項の規定により自ら新築するダムで,これ
による流水の貯留を利用して流水が発電,水道又は工業用水道の用に供されるもの
をいう)の建設に要する費用の負担について,次のとおり定めている。。
アダム使用権の設定予定者の負担
(ア)ダム使用権(多目的ダムによる一定量の流水の貯留を一定の地域において確
保する権利)の設定予定者は,多目的ダムの建設に要する費用のうち,建設の目的
である各用途について,多目的ダムによる流水の貯留を利用して流水を当該用途に
供することによって得られる効用から算定される推定の投資額及び当該用途のみに
供される工作物でその効用と同等の効用を有するものの設置に要する推定の費用の
額並びに多目的ダムの建設に要する費用の財源の一部に借入金が充てられる場合に
おいては,支払うべき利息の額を勘案して,政令で定めるところにより算出した額
の費用を負担しなければならない(特ダム法7条1項。)
ダム使用権の設定予定者の負担金の額は,多目的ダムの建設に要する費用の額に
特ダム法4条1項に規定する基本計画で定めたダム使用権の設定予定者の負担割合
を乗じて得た額並びに当該ダム使用権の設定につき課されるべき消費税及び地方消
費税の額に相当する額とし,上記の負担割合は,原則として,特ダム法施行令所定
の分離費用身替り妥当支出法を基準として算定する(特ダム法施行令1条の2。)
(イ)ダム使用権の設定予定者の負担金の納付の方法,期限等については,政令で
定めるものとし特ダム法7条2項これを受けて特ダム法施行令9条1項1号(),,
は,ダム使用権の設定予定者の負担金(ダム使用権の設定予定者が事業から撤退し
た場合に負担すべき負担金を除く以下同じは毎年度国土交通大臣が当該年。。),,
度の事業計画に応じて定める額を,国土交通大臣が当該年度の資金計画に基づいて
定める期限までに納付することと定めている。
イ都道府県が負担すべき負担金の額
多目的ダムの建設に要する費用について河川法60条1項の規定により都道府県
が負担すべき負担金の額は,①その建設に要する費用の額からダム使用権の設定
予定者の負担金及び政令で定めるその他の負担金の額を控除した額に同項に定める
都道府県の負担割合を乗じた額と,②都道府県が収納する政令で定めるその他の
負担金の額を合算した額とする(特ダム法8条。)
上記の規定を受けて,特ダム法施行令10条1項は,特ダム法8条の多目的ダム
の建設に要する費用の額からその額を控除する政令で定める負担金は,特ダム法9
条及び10条並びに河川法67条及び68条2項の負担金とする旨,また,特ダム
,,法施行令10条2項は特ダム法8条の都道府県が収納する政令で定める負担金は
特ダム法9条及び10条の負担金とする旨定めている。
ウ受益者負担金
多目的ダムの建設によって著しく利益を受ける者がある場合には,その者が流水
を政令で定める用途に供する者であるときは国土交通大臣,その他の者であるとき
は都道府県知事は,その利益を受ける限度において,多目的ダムの建設に要する費
用の一部を負担させることができる(特ダム法9条1項。)
エかんがいの用に供する者の負担金
(ア)専用の施設を新設し又は拡張して,新築される多目的ダムによる流水の貯留
を利用して流水をかんがいの用に供する者は,多目的ダムの建設に要する費用につ
き当該用途について特ダム法7条1項に規定する方法と同一の方法により算出した
額のうち10分の1以内で政令で定める割合の額及びその額に対応する建設期間中
の利息の額を合算した額の負担金を負担しなければならない(特ダム法10条1
項。)
上記の規定を受けて,特ダム法施行令12条は,特ダム法10条1項の政令で定
める割合は,10分の1とする旨定めている。
(イ)かんがいの用に供する者の負担金は,都道府県知事が徴収し,徴収を受ける
者の範囲及び徴収の方法については,都道府県の条例で定める(特ダム法10条1
項,3項,9条2項。)
かんがいの用に供する者の負担金は,元利均等年賦支払の方法(当該負担金の徴
収を受ける者の申出があるときは,その負担金の全部又は一部につき一時支払の方
法)により支払わせるものとし,その支払期間は,多目的ダムの建設が完了し,か
つ,土地改良法による国営土地改良事業又は都道府県営土地改良事業により専用の
施設の新設又は拡張が行われるときは,その工事が完了した年の翌年から起算して
15年を下らない期間とするが,多目的ダムの建設及び専用の施設の工事が完了す
る以前において,当該多目的ダムによる流水の貯留を利用して流水をかんがいの用
に供することにより受けるべき利益のすべてを受けている者があるときは,当該負
担金に係る支払期間は,その利益のすべてが発生した年以後において都道府県知事
が指定する年から起算するものとする(特ダム法施行令13条。)
2前提事実(争いがないか,証拠上又は記録上明らかである)。
(1)当事者等
ア原告ら甲事件原告X1及び甲事件原告X2を除くは愛知県内に居住す(。),
る者であり,甲事件原告X1及び甲事件原告X2は,後記のとおり死亡するまで,
同県内に居住していた者である。
イ被告知事は,愛知県の執行機関であり,同県が河川法60条1項及び特ダム
法8条に基づき負担する設楽ダムの建設費の負担金について,支出命令を行う権限
を有している者である。
ウ被告企業庁長は,地方公営企業法7条,愛知県公営企業の設置等に関する条
例(昭和55年愛知県条例第3号)4条1項,2項に基づいて設置された愛知県公
営企業の管理者であり,同県が特ダム法7条1項に基づくダム使用権(水道用水に
係るもの)の設定予定者として負担する設楽ダムの建設費の負担金について,支出
を行う権限を有している者である。
(2)設楽ダムの概要
ア豊川及び設楽ダムの位置等
豊川は,その源を愛知県北設楽郡設楽町の段戸山に発し,愛知県東三河地方を南
下し三河湾に注ぐ幹川流路延長約77km流域面積約724k㎡の河川法4条に規,,
定する一級河川である。
設楽ダムは,国土交通大臣が,洪水調節,流水の正常な機能の維持並びに新規水
資源開発(農業用水及び水道用水)を目的として,豊川の河口から約70㎞上流の
同町に建設を計画している多目的ダムである(豊川水系における設楽ダム等の位置
関係については,別紙1,2の図を参照。)
イ設楽ダムの事業化の経緯
(ア)古来,豊川では霞堤(洪水を一時的に氾濫させて洪水調節を行うように設け
られた不連続な堤防)を主体とした治水対策が採られていたが,沿川では洪水のた
びに大きな被害を被っていた。そこで,国によって昭和2年度から河川改修による
本格的な治水対策が開始され,豊川放水路の建設(昭和40年度完成)を始めとす
る改修工事が行われてきた。しかし,その後も昭和43年8月,昭和44年8月と
大洪水が相次ぎ特に後者の洪水以下昭和44年8月洪水というでは豊,(「」。),
川流域に甚大な被害が及ぼされた。これを契機に,また,流域の開発が著しいこと
にかんがみて,国により豊川の改修計画の見直しが行われ,その一環として新たな
洪水調節施設を建設することが検討され,昭和53年度から設楽ダムの実施計画調
査が着手された。
その後,平成9年に河川法が改正され,河川整備の計画が,基本となる方針に関
する事項(河川整備基本方針)と具体的な整備に関する計画(河川整備計画)に区
分され,後者については,関係地方公共団体の長や地域住民の意見を反映する手続
が導入された。これに従って,豊川についても,平成11年12月1日,建設大臣
により「豊川水系河川整備基本方針」が定められ,平成13年11月28日,同基
本方針に沿って計画的に河川の整備を実施するため,国土交通大臣から権限の委任
を受けた国土交通省中部地方整備局長以下中部地方整備局長というにより(「」。)
豊川水系河川整備計画大臣管理区間が定められた同計画において洪水調「()」。,
節,流水の正常な機能の維持及び新規水資源開発を目的とする多目的ダムとして設
楽ダムを建設することとされた。なお,同計画については,平成18年4月6日,
その内容が一部変更されたが,変更後の計画においても,河川工事として,設楽ダ
ムの建設が掲げられている。
(イ)一方,豊川水系における利水については,戦後の食糧増産対策として,昭和
24年に農林省の国営事業である豊川農業水利事業が着工され,その後,昭和26
年に天竜東三河地域が国土総合開発法に基づく特定地域に指定され,これに伴い,
同事業は,愛知県東三河地方の平野及び渥美半島の全域並びに静岡県浜名湖西部地
域に,農業用水,水道用水及び工業用水を供給する総合開発事業である豊川用水事
業に発展した。豊川用水事業は,昭和43年にその事業が完成して全面通水が開始
された。
しかし,この地域の水需要は,その後も増え続け,平成2年2月6日,内閣総理
大臣は,この地域につき広域的な用水対策を緊急に実施する必要があると認めて,
水資源開発促進法(平成11年法律第160号による改正前のもの)3条1項に基
づき,豊川水系を水資源開発水系として指定した。そして,平成2年5月15日,
同法4条1項に基づき,豊川水系における水資源の総合的な開発及び利用の合理化
の基本となるべき豊川水系における水資源開発基本計画以下第1次計画と「」(「」
いうが決定された第1次計画においては洪水調節及び流水の正常な機能の維。)。,
持を図るとともに,愛知県東三河地域の農地に対する農業用水及び愛知県の水道用
水の確保等を行うことを事業目的として,設楽ダム建設事業を行うこととされた。
そして,平成18年2月17日,水資源開発促進法4条5項により,第1次計画を
全部変更する形式で豊川水系における水資源開発基本計画第2次計画以下,「()」(
「()」,「」。)豊川水系フルプラン第2次計画又は単に豊川水系フルプランという
が定められたが,豊川水系フルプランにおいても,供給の目標を達成するために必
要な施設整備として,設楽ダム建設事業が掲げられている。
ウ設楽ダムの建設に関する基本計画
国土交通大臣は,特ダム法4条1項の規定により,次のとおり,設楽ダムの建設
に関する基本計画以下設楽ダム基本計画というを作成し平成20年10(「」。),
月27日,これを告示した。
(ア)建設の目的
a洪水調節
設楽ダムの建設される地点における計画高水流量毎秒1490㎥のうち,毎秒1
250㎥の洪水調節を行う。
b流水の正常な機能の維持
下流の既得用水の補給等流水の正常な機能の維持と増進を図る。
cかんがい
愛知県東三河地域の農地約1万7200haに対するかんがい用水として,新たに
毎秒0.339㎥(年平均)の取水を可能とする。
d水道
愛知県東三河地域の水道用水として,新たに毎秒0.179㎥の取水を可能とす
る。
(イ)位置及び名称
a位置豊川水系豊川(右岸・愛知県北設楽郡設楽町松戸,左岸・同町清崎)
b名称設楽ダム
(ウ)規模及び型式
a規模堤高(基礎地盤から堤頂までをいう)129.0m。
b型式重力式コンクリートダム
(エ)貯留量,取水量及び放流量並びに貯留量の用途別配分に関する事項
a貯留量
(a)総貯留量
最高水位は,標高444.0mとし,総貯留量は,9800万㎥とする。
(b)有効貯留量
最低水位は,標高377.0mとし,有効貯留量は,総貯留量のうち標高444.
0mから標高377.0mまでの有効水深67.0mに対応する貯留量9200万㎥
とする。
b取水量及び放流量並びに貯留量の用途別配分
(a)洪水調節
,。洪水調節を行う場合を除き水位を標高437.0m以下に制限するものとする
洪水調節は,標高444.0mから標高437.0mまでの容量1900万㎥を利
用して行うものとする。
(b)流水の正常な機能の維持
流水の正常な機能の維持と増進を図るための貯留量は標高437.0mから標高,
377.0mまでの容量7300万㎥のうち最大6000万㎥とする。
(c)かんがい
愛知県東三河地域のかんがい用水として新たに毎秒0.339㎥年平均の取,()
水を可能とする。
かんがいのための貯留量は,標高437.0mから標高377.0mまでの容量7
300万㎥のうち最大700万㎥とする。
(d)水道
愛知県東三河地域の水道用水として,新たに毎秒0.179㎥の取水を可能とす
る。
水道のための貯留量は,標高437.0mから標高377.0mまでの容量730
0万㎥のうち最大600万㎥とする。
なお,上記(b)ないし(d)については,効率的な水利用を図るために設楽ダムと豊
川総合用水施設等の利水施設による河川流水の総合的運用を行う。
(オ)ダム使用権の設定予定者愛知県(水道)
(カ)建設に要する費用及びその負担に関する事項
a建設に要する費用の概算額約2070億円
b建設に要する費用の負担者及び負担額
(a)河川法59条,60条1項の規定に基づく国及び愛知県の負担額
建設に要する費用の額に1000分の890を乗じて得た額(このうち,かんが
いに係るものは,建設に要する費用の額に1000分の113を乗じて得た額)と
する。
(b)特ダム法10条1項の規定に基づく流水をかんがいの用に供するものの負担

上記(a)のかんがいに係る負担額のうちその額に10分の1を乗じて得た額とす,
る。
(c)特ダム法7条1項の規定に基づく愛知県(水道)の負担額
建設に要する費用の額に1000分の110を乗じて得た額とする。
(キ)工期昭和53年度から平成32年度までの予定
(3)設楽ダムの建設費に係る愛知県の負担額
ア設楽ダムの建設は,河川法60条1項にいう大規模改良工事に当たり,同項
による愛知県の負担割合は10分の3となる。したがって,設楽ダム基本計画の下
で,愛知県が河川法60条1項及び特ダム法8条に基づき負担する建設費の負担額
は,次の(ア)及び(イ)を合算した金額である。
(ア)河川法59条,60条1項に基づく国及び愛知県の負担額(前記(2)ウ(カ)b
(a)記載のとおり建設費に1000分の890を乗じて得た額からかんがい利,),
用者負担額同(b)記載のとおり建設費に1万分の113を乗じて得た額を減じ(,)
て得た額に,10分の3を乗じて得た額
(イ)かんがい利用者の負担額(上記のとおり,建設費に1万分の113を乗じて
得た額)
イ前記(2)ウ(カ)b(c)記載のとおり設楽ダムの建設費のうち愛知県が特ダム,,
法7条1項に基づくダム使用権(水道用水に係るもの)の設定予定者として負担す
る負担額は,建設費に1000分の110を乗じて得た額である。
(4)監査請求及び本件訴えの提起
ア甲事件
(ア)甲事件原告X1及び甲事件原告X3らは,平成19年2月7日,愛知県監査
委員に対し,設楽ダムの建設費に係る愛知県の負担金につき,①支出しない,②国
(国土交通省)に対する負担義務の不存在の確認請求,③支出されたときは支出職
員に対する損害賠償請求,④その他必要な措置を求める旨の住民監査請求をした。
愛知県監査委員は,同年3月12日,上記監査請求を却下した。
(イ)甲事件原告X2及び甲事件原告X4らは,平成19年3月19日,同月26
,,。日又は同月27日愛知県監査委員に対し上記(ア)と同様の住民監査請求をした
(ウ)甲事件原告らは,平成19年4月12日,甲事件の訴えを提起した。
,,。(エ)愛知県監査委員は平成19年4月23日上記(イ)の監査請求を却下した
(オ)甲事件原告X5は平成19年5月1日愛知県監査委員に対し上記(ア)と,,,
同様の住民監査請求をした。
愛知県監査委員は,同月11日,上記監査請求を却下した。
イ乙事件
(ア)乙事件原告らは,平成19年11月26日,愛知県監査委員に対し,愛知県
が,特ダム法10条3項に基づくかんがい利用者負担金の徴収に係る条例が存在し
ない下で,設楽ダムのかんがい利用者負担金に係る負担金を負担し,国に納付する
ことは違法であるとして,同負担金につき,①支出しない,②支出されたときは支
出職員に対する損害賠償請求,③その他必要な措置を求める旨の住民監査請求をし
た。
愛知県監査委員は,同年12月26日,上記監査請求を却下した。
(イ)乙事件原告らは,平成20年1月9日,乙事件の訴えを提起した。
(5)当事者の死亡
甲事件原告X1は平成19年○月○日に死亡し,甲事件原告X2は平成22年○
月○日に死亡した。
3争点
(本案前の争点)
(1)監査請求前置の要件の充足の有無(争点1)
(2)住民訴訟の対象としての適否(争点2)
(本案の争点)
負担金の支出の違法性の有無(争点3)
4争点に関する当事者の主張
(1)争点1(監査請求前置の要件の充足の有無)について
(原告らの主張)
甲事件原告らは,設楽ダムの建設費に係る愛知県の負担金の支出の差止め等を求
めて住民監査請求を行っており,この監査請求は,対象となる財務会計行為を特定
してされた適法なものであり,甲事件に係る請求との同一性を備えているから,甲
事件原告らは,適法な住民監査請求を経ている。乙事件原告らも,同様に,適法な
住民監査請求を経ている。
甲事件原告X2,甲事件原告X4ら及び甲事件原告X5は甲事件の訴え提起時に監
査結果を得ていないが住民訴訟についての監査請求前置の要件は訴訟要件にすぎ,,
ず,事実審の口頭弁論終結時までに具備すれば足りるのであるから,上記原告らの
訴えは,監査請求前置の要件に欠けるところはない。
地方自治法242条の2第4項は,住民訴訟が係属しているときに別訴による同
一の請求を禁止しており,複数の住民による同一の請求は共同訴訟として提訴する
以外に方法がなく,むしろ,それを義務付けているのであって,同一内容の住民訴
訟は,住民監査請求をした時期にかかわらず同時に共同して訴えを提起できるので
ある(なお,複数の住民が提起した住民訴訟は,類似必要的共同訴訟となる。。)
(被告らの主張)
愛知県監査委員は原告らがした住民監査請求については愛知県の財務会計行為の,,
違法性不当性を具体的に示したものではないことから不適法であるとして却下して,,
おりこの判断は正当なものであるしたがって原告らはいずれも適法な住民監査,。,,
請求を経ておらず,その訴えは不適法である。
殊に甲事件原告X2甲事件原告X4ら及び甲事件原告X5は甲事件の訴え提,,,
起時に監査結果を得ておらず甲事件原告X5については甲事件の訴え提起時に住民,,
監査請求すらしていなかったのであるから,これらの原告らの訴えが不適法であること
は明らかである。
(2)争点2(住民訴訟の対象としての適否)について
(被告らの主張)
住民訴訟の対象は地方公共団体の財務会計行為又は怠る事実であって対象行為の,,
主体は,当該地方公共団体の長若しくは委員会若しくは委員又は当該地方公共団体の職
員に限られるものである。
原告らは本件訴訟において専ら設楽ダム建設に伴うデメリットを強調して被告,,,
らに対し負担金の支出命令又は支出の差止めを求めているものであるが,設楽ダム建設
の事業主体は国であって地方公共団体である愛知県ではなくかつ設楽ダムの建設,,,
という国の行為が財務会計行為に当たらないことは明らかである本件訴えは住民訴。,
訟に名を借りて国の事業の適否を争うものというべきであるから,住民訴訟制度の目的
を著しく逸脱した不適法な訴えというべきである。
(原告らの主張)
被告らの上記主張は争う。
(3)争点3(負担金の支出の違法性の有無)について
(原告らの主張)
ア原告らの主張する違法事由の骨子
設楽ダムの都市用水及び農業用水の新規水資源開発,流水の正常な機能の維持並
びに洪水調節についての費用負担金に係る各支出は,後述のとおり,その原因とな
っている当該各目的につき,その必要性が認められなかったり確認されていないた
め,当該各目的について費用負担をして公金を支出することは,愛知県に財産的損
害を発生させることになるものであって著しく合理性を欠いており,加えて,設楽
ダムの建設が環境に悪影響を与えることにより違法であるため,その支出は一層著
しく合理性を欠いており,当該支出自体において,予算執行の適正確保の見地から
看過できない違法がある。
原告らは,上記負担金に係る支出自体に違法があると主張するものであり,それ
に先行し費用負担の原因となっている設楽ダム基本計画,さらには設楽ダムを位置
づけた豊川水系フルプランや豊川水系河川整備計画の違法性が承継されることを根
拠として上記負担金に係る支出が違法であると主張するものではない。
以上のほか,かんがい利用者の負担金に係る愛知県の負担金については,特ダム
法10条3項に基づくかんがい利用者の負担金の徴収に係る条例が存在しない下
で,同県がかんがい利用者の負担金に係る負担金を負担し,国に納付することは違
法である。
イ水道用水供給のための必要性の欠如
(ア)水道用水の供給事業を目的とする水道事業は,地方公営企業として料金収入
による独立採算制によって経営しなければならない(地方財政法6条,地方財政法
施行令12条したがって水源開発はその開発水の需要がありかつそれを)。,,,,
河川から取水して利用する体制があり,料金収入が得られ,投資経費が回収できる
ものでなければならない。
需要の見込みのない,また,河川から取水する計画のない必要性のない水道用水
に係る建設費用負担金の支出は,料金収入で回収できない投資経費を発生させるこ
とになる。これは,経費は当該目的を達成するために必要かつ最少限度を超えて支
出してはならないと定めた地方財政法4条1項の規定に違反し,著しく合理性を欠
き,予算執行の適正確保の見地から看過できない違法があるということになる。
(イ)豊川水系フルプランの目標年次である平成27年度において,都市用水(水
道用水及び工業用水)の需要見通しは6.16㎥/s(なお「/s」は1秒当たり,
を意味する以下同じとされているこれに対して平成18年度の都市用水の開。。)。
発水量は6.61㎥/s,供給総量は7.73㎥/sであり,既に供給量が需要量を
上回っている。したがって,新たに設楽ダムを建設して都市用水の水資源を開発す
る必要はない。ところが,豊川水系フルプランにおいては,降雨総量が減少傾向を
示しており,このため河川流量が減少してダムからの補給量が増大する渇水の年に
は計画通りの開発水量を安定的に供給することが困難になるとの理由により,豊川
用水が10年に1回程度発生する規模の渇水時においても取水制限なしに取水がで
きるようにするため,設楽ダムを建設する必要があるとしている。
しかしながら,統計上,少雨化傾向があるということはできないし,平成14年
度末の豊川総合用水事業の完成により,豊川用水は10年に1回程度発生する規模
の渇水時においてもおおむね取水制限なく取水することができるようになってお
り,設楽ダムを建設する必要性は認められない。
(ウ)豊川水系フルプランは,目標年次である平成27年度における都市用水(水
道用水及び工業用水の需要見通しとして愛知県においては水道用水として4.),,
51㎥/s工業用水として1.38㎥/sの需要を想定しているこれは愛知県,。,
が国土交通省の依頼により行った需給想定調査(以下「愛知県需給想定調査」とい
う)の需要想定に従ったものである。。
しかしながら,愛知県需給想定調査の需要想定値は,実績の傾向とは連続性がな
く,それを無視したもので,実績とかい離した過大な値となっている。
水道用水について,平成19年までの実績値に基づいて,平成27年の需要想定
値を精確に想定すれば(一人一日家庭用有収水量は余裕を考慮して大きめの値であ
る愛知県需給想定調査の232.8ℓを用いるが,その他の日有収水量は平成15年
の実績値を用い負荷率は最近5年間の実績最低値の平成15年の85.5%利用,,
量率は平成15年の実績値の98.8%を用いる,水道用水の豊川水系依存量は。)
3.57㎥/s,うち水資源開発施設分は2.61㎥/sとなる。この程度が,供給
の余裕を見込む大きめの平成27年の需要想定値というべきである。
また,工業用水について,愛知県需給想定調査では,大規模開発要因として臨海
工業用地244.2haへの工場立地により新たに補給水量で1日当たり3万1090
㎥の新規需要が発生すると想定しているが,実績とかい離した過大な想定である。
大規模開発要因は加えず,実績値に基づいて,工業用水の平成27年の需要想定値
を精確に想定すれば,愛知県では0.74㎥/s程度,静岡県では0.17㎥/s程
度,合計では0.91㎥/s程度である。
なお東三河工業用水道事業においては牟呂松原頭首工で0.903㎥/sを取,,
水することになっているが,現在,全くその取水がされておらず,牟呂松原頭首工
の0.903㎥/s近年20年間で2番目の渇水年における供給可能量で056(.
㎥/s)はまとまった余剰水となっている。
(エ)以上のように,実績に基づいて精確に平成27年の水道用水需要量を想定す
ると大きめにみても豊川水系依存量のうちの水資源開発施設分は2.61㎥/s程,
度である。これに対し,供給は,設楽ダムのない現状において,水道用水の豊川水
系依存量のうちの水資源開発施設分の供給量は開発水量で4.18㎥/s安定供給,
可能量という近年20年間で2番目の渇水年における供給可能量で2.59㎥/sと
されている。開発水量では大幅な供給過剰であり,安定供給可能量においても需給
はほぼ均衡している。そのうえ,上記のように,工業用水のうち,牟呂松原頭首工
の開発水量で0.903㎥/s近年20年間で2番目の渇水年における供給可能量(
),。で0.56㎥/sが余剰となっておりこれを水道用水に利用することができる
したがって,設楽ダムのない現状の水源で,水道用水の開発水量はもちろん,近
年20年間で2番目の渇水年における供給可能量でも,需要に対して供給不足とな
ることはないから,設楽ダムは,水道用水供給のために必要はないのである。
ウ農業用水供給のための必要性の欠如
(ア)豊川水系フルプランの農業用水需給想定では,用水需要水量である粗用水量
1億9918万9000㎥から既存用水源である地区内利用可能量2178万10
00㎥と既開発水量1億6668万3000㎥を差し引きして供給不足となる不足
水量1072万5000㎥が求められ,これが新たに水源確保をしなければならな
い新規需要水量であるとして秒平均に換算した0.34㎥/sを設楽ダムによって,
供給するとしている。
しかし,上記の既開発水量1億6668万3000㎥は,昭和43年(設楽ダム
計画基準年)における需要水量であって,既開発の豊川用水と豊川総合用水の供給
量ではない。需要に対して供給不足となる水量であるから,粗用水量から差し引き
するのは供給量でなければならないのに,需要量が使用されており,需給計算に用
いるものを誤っているのである。
既開発施設(豊川用水と豊川総合用水)の供給量は,豊川総合用水の供給計画や
豊川水系フルプラン説明資料から明らかなように,1億9710万㎥である。した
がって,上記豊川水系フルプランの農業用水需給想定における既開発水量は,1億
6668万3000㎥ではなく1億9710万㎥とすべきである。一方,豊川水系
フルプラン需給想定での幹線依存の需要水量は1億7740万8000㎥(粗用水
量1億9918万9000㎥から地区内利用可能水量2178万1000㎥差し引
いた値)であるから,既開発水量は幹線依存需要水量を上回っており,不足水量が
ないので,設楽ダムによる農業用水の供給は必要がないのである。
(イ)豊川水系フルプランにおける農業用水の新規需要水量は年間1072万50
00㎥,毎秒換算では0.34㎥/sとされている。
しかしながら,①豊川水系フルプランにおいて,農業用水の受益面積が1万7
800haとされているが,豊川水系の耕地面積は顕著な減少傾向を示しており,豊
川水系フルプランにおいては,受益面積が過大に設定されていること,特に,かん
がい用水を大量に必要とする水田面積が大きく減少し,施設畑を含む畑地面積や樹
園地面積も減少し続けており,全体として新規需要は発生しないこと,②豊川水
系フルプランの需要想定では「水田用水量の増加」として「三河湾沿岸の干拓地,,
に位置する水田地帯の一部区域において,排水改良が進展したことに伴い,地下水
位が低下していると考えられ,その結果,減水深(水稲栽培の単位面積当たりの消
)」,,,費水量が増加しているとして新規需要を見込んでいるが当該地区において
排水改良によって新規の水田用水需要量が発生することはあり得ないこと,③豊
,「,川水系フルプランの需要想定では生活雑排水等の流入による水質悪化等により
ため池等の地区内水源の利用可能な水量が減少している」として,この減少補完分
の新規需要が発生するとしているが,水質悪化の要因は家畜汚水や生活雑排水の流
,,,入であるから畜産排水の排出規制や浄化槽下水道の普及により改善可能であり
ため池の保全を進めることによって,必要かつ十分なため池を整備することが可能
であることからすると,豊川水系フルプランの既設供給施設の供給を上回る農業用
水の新規需要は認められず,設楽ダムは,農業用水供給のために必要性はない。
エ洪水調節のための必要性の欠如
(ア)ダムによる洪水調節は,他の洪水対策による対応が不可能又は困難である場
合において,ダムによる洪水調節が問題解決に有効な方法であるときに選択される
最後の方法でなければならない。以下に述べるとおり,設楽ダムの洪水調節効果は
限定的であって豊川の洪水対策としては不十分であり,豊川の洪水対策は,河道改
修による方が効果的である。
(イ)ダムによる洪水調節機能のメカニズムは,ダムの上流から入ってきた洪水の
一部をダムで貯留することによって,下流の洪水流量を削減するものである。下流
の洪水流量を削減することで洪水対策が有効に機能するためには,ダムの集水域に
雨が十分降り,かつ,下流域にもある程度雨が降って洪水が起きるような状態でな
ければならない。ダムの集水域に雨が降らない場合,あるいはダムの集水域で雨が
降っても下流域で雨が降らない場合にはダムによる洪水調節は有効に機能しない。
したがって,ダムによる洪水調節の効果は,雨の降り方によって大きく変動する
ものであり,特に,ダムの集水域が狭い場合には,集水域で水を貯留する能力が限
定され,ダムによる洪水調節機能は極めて限定的なものにならざるを得ない。設楽
ダムの集水面積は豊川流域全体の8.6%でありその効果は極めて限定的なもので,
ある。しかも,ダムによる洪水調節効果は,下流に行くにつれて小さくなっていく
のである。
(ウ)豊川水系河川整備計画は,おおむね30年を対象期間とし,戦後最大流量の
4650㎥/sとなったとされる昭和44年8月洪水が再来したときに,破堤によ
る甚大な被害を防止することを目標とし,そのために,水位をほぼ全川で計画高水
位以下にしようとするものである。
しかしながら,昭和44年8月洪水は,戦後の大面積皆伐により,森林の保水力
が低下した状態で発生したのであり,現在は,森林が生長して,森林の永続的な保
水力と一時的な保水力が回復してきたため,同様の雨が降っても,当時のような戦
後最大流量となった洪水が発生する危険性は小さい。仮に,昭和44年8月洪水と
同規模の洪水が発生した場合であっても,設楽ダム以外の河道改修による対策で破
堤による被害を防止することが可能である。しかるに,豊川水系河川整備計画の策
定において,現況河道で水位が高くなる区間の水位を下げるための部分的な河道改
修が全く検討されていない。
(エ)以上のとおり,設楽ダムの洪水調節効果は限定的であって,豊川の洪水対策
としては不十分である上,豊川の洪水対策は,代替案として部分的な河道改修によ
る方が効果的である。また,豊川水系河川整備計画の策定においては,設楽ダムの
他の代替案として,水位が高まるところに関する部分的な河道改修案の検討がなさ
れていない。
したがって,設楽ダムは,豊川の洪水対策として必要性がなく,あるいは,いま
だその必要性が確認されていない。
オ流水の正常な機能の維持のための必要性の欠如
(ア)設楽ダム(貯水容量9800万㎥)の有効貯水容量9200万㎥の65%,
利水容量7300万㎥の82%を占めるのが流水の正常な機能を維持するための容
量(当該貯留水を利用して流水を利用する利用者が特定しないため不特定容量とも
いわれるの6000万㎥である豊川水系河川整備基本方針においては流水の。)。,
正常な機能を維持するために必要な流量を,牟呂松原頭首工(直下流)において5
。,,㎥/sと設定した豊川水系河川整備計画では河川環境の保全を図るためとして
これを牟呂松原頭首工の利水上の制限流量とし,さらに大野頭首工での利水上の制
限流量1.3㎥/sを設定して利水の取水不足水量を設楽ダムの不特定容量からの,
補給水によって取水させるようになった。
しかしながら,以下に述べるとおり,この流水の正常な機能を維持するための流
量は根拠がなく,これを利水上の制限流量とすることは,環境保全方法として本末
転倒で矛盾している上,流水の正常な機能を維持するための流量としても過大なも
のであって,設楽ダムは,豊川の流水の正常な機能の維持のために必要性がないも
のである。
(イ)川の正常な状態は,川の一部分だけでなく,海も含めた河川全体を考慮して
こそ保つことのできるものであり,水だけでなく,土砂,生物,栄養分を含めたも
のである。水の動きについても,最低流量だけではなく最大から最小までの多様な
流量変動があって正常な状態なのであって,下流部において渇水期の最低流量とい
う流水の流量が保全されていることが正常な状態ではない。しかも,ダム建設は,
海も含めた河川全体に対して,重大な悪影響を与える。ダムは堤体によって流れを
,。,,,遮断しその上流に大規模な水没を生じさせるまたせき止めによって水土砂
生物の動きが遮断される。そして,水没によってダム湖が形成されてダム上流の水
域環境が悪化し,放流によってその影響は下流にまで及ぶ。さらに,水と土砂の流
れの遮断,流量の減少とその平準化による影響は,ダムの上流と下流だけでなく,
海中における鉛直循環流の流量低下による水質汚濁や土砂供給の減少による干潟や
海浜の喪失などによって海にまで及ぶ。このように,ダムは,ダムとその上流域だ
けでなく,その下流域,その先の海域にまで,自然によるものとは違った重大な変
化を与えるのである。したがって,たかだか下流部において渇水期の最低流量とい
う流水の流量を保全するために上流部にダムを建設することは,より大きな環境悪
化をもたらすのであって,環境保全対策として根本的に誤っている。
(ウ)豊川水系の河川環境の現状の分析からも,設楽ダムの建設が河川環境に悪影
響をもたらすことは明らかである。
すなわち,設楽ダムの建設によって,宇連川水系のダム群や大野頭首工及び寒狭
川の発電用堰や寒狭川頭首工のように,ダムの上流における堆砂,それによるダム
下流への砂礫の流出の停止と砂礫流失によるダム下流でのアーマーコート化,ダム
,。下流での流量の減少と平準化により河川の自然環境の著しい悪化がもたらされる
とりわけ,豊川(寒狭川)上流部のように自然環境が保たれている所において,そ
のわずかに残された自然環境が破壊されるのである。
したがって,たかだか下流部の渇水時の最低流量をより多くするという「河川環
境の改善を図るためにそれも大野頭首工下流のように人為的に壊した環境を改善」,
するために,設楽ダムを建設するということは明らかな誤りであるといわざるを得
ない。
(エ)豊川水系河川整備基本方針において,牟呂松原頭首工(直下流)地点におけ
る正常流量が,渇水時の河川環境保全を図るという理由で,従前の工事実施基本計
画での2㎥/sから増量されて5㎥/sとされた。豊川水系河川整備計画では,こ
れを利水上の制限流量として牟呂松原頭首工直下流で従前の2.0㎥/sから,()
5.0㎥/s,大野頭首工(直下流)で従前の制限なしから1.3㎥/sにと増量さ
れ,利水の不足水を補給するために設楽ダムを建設するものとされた。しかし,上
記の正常流量や利水上の制限流量は,次のとおり,それ自体が科学的に根拠のない
過大なものであって,豊川の流水の正常な機能を維持するために,設楽ダムは必要
のないものである。
すなわち,正常流量(流水の正常な機能を維持するための流量)は,基準渇水流
量である渇水流量とは1年365日の流量のうちの上から355番目の流量。「」,
のことをいい基準渇水流量とはその10分の1の出現頻度つまり10年間,「」,,
で下から1番目,40年間で下から4番目の渇水流量をいい,低水管理の基準とな
っている。現状において,牟呂松原頭首工のすぐ上流部の石田基準点での基準渇水
流量が3.4㎥/sであることに照らせば,牟呂松原頭首工(直下流)地点での正
常流量を5㎥/sとすることは,国の定める低水管理の基準(10年に1度の渇水
に備えるという基準)から見て,明らかに過大な設定である。
また,大野頭首工下流の水涸れ状態は,制限のない主として農業用水の取水のた
めに生じているのであるから,水涸れ状態の解消のためには,そのような取水の規
制をまず行うべきで,環境への悪影響の大きいダム建設を所与の前提にすべきでは
ない。
カ環境影響評価法違反と環境悪影響
(ア)ダム事業に係る環境影響評価については,環境影響評価法11条3項に基づ
きダム事業に係る環境影響評価の項目並びに当該項目に係る調査予測及び評価,「,
を合理的に行うための手法を選定するための指針,環境の保全のための措置に関す
る指針等を定める省令以下ダム事業指針というが定められておりダム事」(「」),
業指針を満たさない環境影響評価は,環境影響評価法12条1項に違反し違法とな
る。
設楽ダムの建設事業は,環境影響評価法2条2項1号ロ,環境影響評価法施行令
1条,別表第1により規定された「第一種事業」に当たり,環境影響評価を行うこ
とが義務づけられるところ,設楽ダムについて行われた環境影響評価(以下「設楽
ダム環境影響評価というは以下に述べるとおりダム事業指針に反するもの」。),,
であって違法である。
(イ)ダム事業指針3条は「対象ダム事業に係る法第6条第1項に規定する環境,
影響を受ける範囲であると認められる地域は,対象ダム事業実施区域及び既に入手
している情報によって一以上の環境要素に係る環境影響を受けるおそれがあると認
められる地域とする」と定めている。。
設楽ダム環境影響評価は,影響を的確に把握できる地点として,新城市布里地先
までを調査地域とし,布里地点下流域及び三河湾に対する環境影響評価を行ってい
ない。しかしながら,設楽ダムから布里地点まではもちろん,布里地点よりも下流
の豊川さらに三河湾までが,設楽ダムの建設によって河床状態,底質および水質の
悪化という環境影響を受けるおそれがあると認められるから,ダム事業指針3条に
基づき,布里地点より下流の三河湾を含む範囲も調査地域としなければならないの
であり,この点で,設楽ダム環境影響評価は,ダム事業指針3条に反している。
(ウ)設楽ダムの環境影響評価は,次のとおり,設楽ダムが生態系や稀少生物種に
与える影響を過小評価しており,環境保全措置は実施されないか,実施が予定され
,。ていてもその実効性は未だ検証されておらず信頼することができないものである
aネコギギについて
ネコギギは,愛知県,岐阜県及び三重県の伊勢湾又は三河湾に流入する河川の中
流部から上流下部にのみ生息するナマズ目ギギ科の淡水魚であり,国の天然記念物
に指定されている。
設楽ダム環境影響評価は,設楽ダム建設予定地周辺が,東海地方に固有な希少種
であり清流の豊かな自然を象徴するネコギギがまとまって生息する残された場所で
あること,設楽ダムの建設によってその生息域の改変等がされることを明らかにし
ながら,ネコギギの移植とその生息環境の整備という代償措置による環境保全措置
を安易に選択した。しかし,移植は,ネコギギのような希少な生物が生息できる自
,,,然環境を保全するという本来的な対策ではなくしかも個体の生存という点でも
野外実験において満足な結果が得られておらず,ダム事業指針15条に定める環境
保全措置の検討結果の検証ができていないのである。
bクマタカについて
クマタカは国が絶滅危惧種ⅠB類に指定しておりレッドデータブックあいち,,「
2009において県内の山間部に周年生息し繁殖するが生息域は限られてお」,「,
り,数も少ない。定住性が強く,営巣・採餌に多様で十分な環境が必要であること
から,開発圧の影響を受けやすい。近年の研究では繁殖成功率の低下が指摘されて
おり,絶滅の危機に瀕していると考えられる」とされている鳥である。。
設楽ダム建設予定地周辺には,3つがいのクマタカが生息することが確認されて
いる。このことは,設楽ダム建設予定地周辺が豊かな生態系を有していることを雄
弁に物語っている。しかし,設楽ダム建設予定地域周辺はクマタカの生息地域とし
ては中部地方の南限に近く,これらのクマタカは,分布域の中心域にいるものと比
してぎりぎりの環境で生きているといえる。設楽ダム建設予定地周辺には,クマタ
カが生息し得る豊かな生態系が存在しているとともに,その自然環境は決して盤石
なものではなく,開発行為に当たっては,開発の影響に関する厳しい事前予測が求
められる。
しかるに,設楽ダム環境影響評価は,クマタカに関して,設楽ダム建設工事の実
施に伴う影響に限って対策を講じようとしているにすぎず,ダム事業指針9条,1
0条によって求められている水準の予測及び評価を行っていない。
(エ)以上のように設楽ダム環境影響評価は,ダム事業指針に反し環境影響評価法,
12条1項に違反している。また,設楽ダムの建設は,豊川で唯一河川の自然が残
(),された豊川寒狭川上流とそこから下流の三河湾を含む水域環境に悪影響を与え
豊川に残された天然記念物のネコギギの生息域を破壊してその生息を困難にし,生
態系の頂点に立つ絶滅危惧種ⅠB類のクマタカのエサである地上動物を減少させ,
生息環境を悪化させて,その生息を困難にするとともに生態系を破壊するものであ
って,環境に悪影響を与えるものであるから違法なものである。
(被告らの主張)
ア原告らの主張が住民訴訟の目的及び審理の範囲を逸脱し判例法理に反し失当
であること
(ア)住民訴訟における違法性の承継
住民訴訟における審理の対象は,地方公共団体の財務会計行為であり,対象行為
の主体は,地方公共団体の長若しくは委員会若しくは委員又は当該地方公共団体の
職員に限られている。ところが,地方公共団体の財務会計行為の先行行為は,その
行為主体が当該地方公共団体の長若しくは委員会若しくは委員又は当該地方公共団
体の職員に限られているわけではなく,行為内容も財務会計行為に限られているわ
けではないことから,先行行為と後行の地方公共団体の財務会計行為との間で違法
性の承継を安易に肯定した場合には,当該地方公共団体の長若しくは委員会若しく
は委員又は当該地方公共団体の職員以外の者,すなわち,国,国務大臣その他の者
が行為の主体となる非財務会計行為についてまでも住民訴訟において広く争うこと
が可能となり,住民訴訟における審理の対象を地方公共団体の財務会計行為に限定
した地方自治法の規定を全く空文化してしまうおそれがある。
この問題についての最高裁判例によれば,先行行為の違法性が後行行為である財
務会計行為に承継されることを肯定するための要件としては,先行行為に「著しく
合理性を欠き,そのため予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵があるこ
と」のみでは足りず,その上に,先行行為が無効であること,又は後行行為である
財務会計行為に係る行為者が,自ら先行行為を解消し,これに従う義務を消滅させ
ることができる権限を有する等の特段の事情が存在することが必要であると解され
る。
これを本件についてみると,被告知事は,河川法施行令の規定による国土交通大
臣からの納付通知により通知を受けた河川法60条1項及び特ダム法8条の規定に
より都道府県が負担することとされた額を,また,被告企業庁長は,特ダム法施行
令の規定による国土交通大臣からの納付通知により通知を受けた特ダム法7条1項
の規定によりダム使用権設定予定者が負担することとされた額を,それぞれ,歳入
徴収官国土交通省大臣官房会計課長の発行した納入告知書に従って支出するもので
あり,したがって,被告知事及び被告企業庁長が行う財務会計行為の先行行為に当
たるものは,国土交通大臣からの納付通知及び歳入徴収官国土交通省大臣官房会計
課長の発行する納入告知書であり,豊川水系フルプラン,豊川水系河川整備基本方
針,豊川水系河川整備計画及び設楽ダム基本計画は,先行行為のそのまた先の行為
(以下「先々行為」という)に当たるものである。。
以上の点に関する原告らの主張は判然としないが,本件においては,被告知事及
び被告企業庁長が行う財務会計行為にも,その先行行為及び先々行為にも瑕疵は存
在しないから,被告知事及び被告企業庁長が行う財務会計行為が違法であるとする
原告らの主張が失当であることは明らかである。
(イ)裁量処分の違法性に関する司法審査の範囲,限界
設楽ダムの建設に関する事項は,河川の重要度,既往洪水による被害の実態,経
済効果等を総合的に考慮し,民主的な基盤を有する国土交通大臣がその裁量によっ
て定めたものである。
行政庁の裁量処分が司法審査の対象とされた場合において,行政庁が法令によっ
て付与された裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとされたときは,当該
,,裁量処分に瑕疵があるものとして当該裁量処分は違法と判断されるものであるが
行政庁の裁量処分の適否を論じるに当たって,論者が当該裁量権者と同一の立場に
立ち,自己が裁量権者であったならばしたであろうとする処分を措定して,当該処
分と裁量権者がした処分とを対比し,両処分に差異が存するときには裁量権者であ
る行政庁のした処分を常に違法とすることが許されないことは,判例法理により明
らかにされている。
原告らの主張は,設楽ダムの建設による利水,洪水調節及び流水の正常な機能の
維持に関する効果並びに周辺環境に対する影響についての所説をるる展開した上,
設楽ダムの建設は不要であると結論付け,これに反する国土交通大臣の裁量処分は
違法であるとすることに尽きるものであるから,正に上記の判例法理に反する主張
であることは明らかである。
(ウ)損害発生の有無
地方自治法242条の2第1項1号の差止め請求が認容されるためには,当該行
為により損害発生のおそれがあることが相当の確実性をもって客観的に予測される
ことを要するものである。
本件における損害の発生に関する原告らの主張は,要するに,設楽ダムは必要が
ないと考えるから,また,河川環境を悪化させると考えるから,それに支出した又
は支出する負担金等が愛知県が被った又は被るであろう損害だと主観的に評価して
いるにすぎないものである。すなわち,原告らの主張する愛知県の財産上の損害な
るものは,現実的かつ客観的なものではなく,原告らの主観的な考えに基づくもの
にすぎないものである。
原告らは,被告知事又は被告企業庁長の行為により損害発生のおそれのあること
が相当の確実性をもって客観的に予測されることについて主張立証をしていないか
ら,本訴請求は,原告らの個々の主張についての当否の判断を待つまでもなく,そ
れ自体失当として棄却されるべきものである。
イ設楽ダム基本計画等が関係法令の定める所要の手続を経て適正に策定された
ものであること
設楽ダム建設事業は,閣議決定を経て国土交通大臣により決定された豊川水系フ
ルプランにおいて,地域の実情に即して安定的な水利用を可能にするという供給の
目的を達成するために必要な施設として,水道用水,農業用水の確保を目的とし,
併せて,一級河川である豊川の河川管理者である国土交通大臣が策定した豊川水系
河川整備基本方針に沿って策定された豊川水系河川整備計画に基づき,洪水調節及
び流水の正常な機能の維持を目的として,特ダム法4条1項に基づき国土交通大臣
が作成した設楽ダム基本計画により,その建設が計画された事業である。
設楽ダム基本計画並びにその前提となる豊川水系フルプラン,豊川水系河川整備
基本方針及び豊川水系河川整備計画は,いずれも関係法令の定める所要の手続を経
て適正に策定されたものである。
ウ設楽ダムの各事業目的
設楽ダムの各事業目的につき要点を述べると,次のとおりである。
(ア)洪水調節の目的について
豊川水系河川整備計画においては,設楽ダムは,洪水調節をその建設目的の一つ
とする多目的ダムとして計画されており,設楽ダム地点の計画高水流量1490㎥
/sのうち,1250㎥/sの洪水調節を行うことにより,基準地点石田における
基本高水のピーク流量7100㎥/sに対して,約1000㎥/sの流量低減効果
が見込まれている。また,戦後最大の洪水(昭和44年8月洪水)に相当する洪水
に対しては550㎥/sの流量低減効果が見込まれている。
豊川水系フルプランにおいても,設楽ダムにより洪水調節を図ることが見込まれ
ている。
そして,上記両計画において上記のとおりその必要性が位置付けられた設楽ダム
の建設に関する具体的な計画である設楽ダム基本計画においても,上記両計画を踏
まえ,設楽ダム地点の計画高水流量1490㎥/sのうち,1250㎥/sの洪水
調節を行うこととされており,そのための貯留量として1900万㎥を確保するこ
ととされているのである。
(イ)流水の正常な機能の維持の目的について
豊川水系河川整備計画においては,設楽ダムは,流水の正常な機能の維持をその
建設目的の一つとする多目的ダムとして計画されている。流水の正常な機能の維持
のうち,渇水時における河川流量については,牟呂松原頭首工(直下流)地点及び
主要な取水地点における利水上の制限流量を適正に運用することにより,渇水時の
河川流量を牟呂松原頭首工(直下流)地点において約2㎥/sから約5㎥/sに,
大野頭首工(直下流)地点において水涸れ状態から約1.3㎥/sにそれぞれ流量
増加に努め,豊川における動植物の保護,漁業,観光・景観,流水の清潔の保持と
いった河川環境の保全を可能とすることとされている。また,塩害の防止,流水の
占用といった既得用水の取水の安定化については,これまでの実績利水安全度おお
むね1/4(4年に1度ぐらいの割合で起こる渇水時において,安定した取水を確
保することから既設の利水施設と連携して計画利水安全度おおむね1/101),(
0年に1度ぐらいの割合で起こる渇水時において,安定した取水を確保すること)
に向上させ,安定した取水を可能とすることとされている。
豊川水系フルプランにおいても,設楽ダムにより流水の正常な機能の維持を図る
ことが見込まれている。
そして,上記両計画において上記のとおりその必要性が位置付けられた設楽ダム
の建設に関する具体的な計画である設楽ダム基本計画においても,上記両計画を踏
まえ,下流の既得用水の補給等流水の正常な機能の維持と増進を図ることとされて
おり,そのための貯留量として最大6000万㎥を確保することとされているので
ある。
(ウ)新規水資源開発の目的について
豊川水系河川整備計画においては,設楽ダムは,新規水資源開発をその建設目的
の一つとする多目的ダムとして計画されており,東三河地域における水道用水と農
業用水を合わせて約0.5㎥/sの新規利水を可能とすることとされている。
豊川水系フルプランにおいても,愛知県東三河地域の農地に対して必要な農業用
水として新規利水量0.34㎥/sを,愛知県の水道用水として新規利水量0.1
8㎥/sを設楽ダムにより確保することが見込まれている。
そして,上記両計画において上記のとおりその必要性が位置付けられた設楽ダム
の建設に関する具体的な計画である設楽ダム基本計画においても,上記両計画を踏
まえ,愛知県の東三河地域の農地に対するかんがい用水として,新たに0.339
㎥/s(年平均)の取水を,愛知県の東三河地域の水道用水として,新たに0.1
79㎥/sの取水を可能とすることとされているのである。
エ設楽ダム環境影響評価
ダム建設事業に係る支出差止めを求める住民訴訟と環境影響評価の関係について
は,たとえ当該事業に環境影響評価上の違法があっても,その場合における支出命
令等の是非は政策上の問題にとどまるものであるから,環境影響評価上の違法をい
う原告らの主張は主張自体失当なものであるが,設楽ダム建設事業については,環
境影響評価上の違法もない。
すなわち,設楽ダム建設事業の環境影響評価手続については,環境影響評価法及
び愛知県環境影響評価条例(平成10年愛知県条例第47号)に基づき,最終的に
事業者が補正した環境影響評価書を平成19年6月29日に公告し,同年7月30
日まで縦覧することをもって,適正に実施され,適法に終了しているものである。
そして,上記環境影響評価書の内容については,被告知事並びに環境大臣及び国土
交通大臣の各意見が適切に反映されており,事業者である国が実施する設楽ダム事
業に係る環境保全対策に関しては,環境保全上適切な措置が確保されていることは
明白である。
オまとめ
以上のとおり,設楽ダム建設事業の実施に係る所要の法手続はすべて適法に履践
されている。また,豊川水系河川整備基本方針,豊川水系河川整備計画,豊川水系
フルプラン及び設楽ダム基本計画のいずれの内容についても,何らの不備もなく,
洪水調節,流水の正常な機能の維持及び新規水資源開発を目的とする施設としての
設楽ダムの必要性は明らかである。
さらに,設楽ダム建設事業に係る愛知県の費用負担についての被告知事及び被告
企業庁長が行う支出行為も,所定の法手続に基づき適法にされるものであることは
明らかであるから,原告らの本訴請求は失当として棄却されるべきである。
第3当裁判所の判断
1職権による検討
前記第2の2(5)当事者の死亡記載のとおり甲事件原告X1は平成19年○(),
月○日に,甲事件原告X2は平成22年○月○日に,それぞれ死亡したところ,地
方自治法242条の2第1項に基づき住民訴訟を提起した者の訴訟上の地位は,一
身専属的なものであって,相続の対象とはならないから,本件訴訟のうち上記原告
両名に関する部分は,当該原告の死亡により終了したものというべきである。
2本案前の争点について
(1)争点1(監査請求前置の要件の充足の有無)について
ア地方自治法242条の2第1項に規定する住民訴訟は,適法な住民監査請求
を経ていることがその訴訟要件となるところ被告らは原告らがした住民監査請求,,
は愛知県の財務会計行為の違法性不当性を具体的に示したものではないから不適法,,
なものであることまた甲事件原告らのうち一部の者は訴え提起時に監査結果を得て,,
いないことなどを理由として,その訴えが不適法である旨主張する。
イそこで検討するに前記前提事実及び証拠甲1の1ないし5甲2の1ない,,(,
し3,甲27の1,2)によれば,次の事実が認められる。
(ア)甲事件原告らがした住民監査請求は,設楽ダムの建設費につき愛知県が負担する
こととなる水道用水に係るダム使用権設定予定者の費用負担,農業用水に係る費用負担
かんがい目的費用負担額からかんがい利用者負担額を差し引いた額の10分の3並()
びに流水の正常な機能の維持及び洪水調節に係る費用負担について,新規利水の使用の
見込みがないこと洪水調節につき他の代替案との比較検討が必要であること流水の,,
正常な機能の維持のための容量が異常に大きく,環境保全対策として矛盾していること
などを理由に上記各費用負担は違法であるとしてその支出をしないことなどの措置,,
を求めたものであること。
(イ)乙事件原告らがした住民監査請求は特ダム法10条3項に基づくかんがい利,
用者負担金の徴収に係る条例が存在しない下で,愛知県がかんがい利用者負担金に
係る負担金を負担し国に納付することは違法であるとしてその支出をしないこと,,
などの措置を求めたものであること。
(ウ)甲事件原告X3らは平成19年2月7日愛知県監査委員に対し上記(ア),,,
の内容の住民監査請求をし,同年3月12日,同監査委員から同監査請求を却下さ
れ,同年4月12日,他の甲事件原告らとの共同訴訟の形式で甲事件の訴えを提起
したこと。
(エ)甲事件原告X4らは平成19年3月19日同月26日又は同月27日愛,,,
知県監査委員に対し上記(ア)の内容の住民監査請求をしたがその監査結果が出る,,
のを待たずに,同年4月12日,他の甲事件原告らとの共同訴訟の形式で甲事件の
訴えを提起し,同監査委員は,同月23日,同監査請求を却下したこと。
(オ)甲事件原告X5は,平成19年4月12日,他の甲事件原告らとの共同訴訟
の形式で甲事件の訴えを提起し,その後,同年5月1日,愛知県監査委員に対し,
上記(ア)の内容の住民監査請求をし同監査委員は同月11日同監査請求を却下,,,
したこと。
(カ)乙事件原告らは平成19年11月26日愛知県監査委員に対し上記(イ),,,
の内容の住民監査請求をし,同年12月26日,同監査委員から同監査請求を却下
され,平成20年1月9日,乙事件の訴えを提起したこと。
ウ上記認定の甲事件原告ら及び乙事件原告らがした各住民監査請求の内容によれ
ばこれらの監査請求は設楽ダムの建設費に係る愛知県の負担金の支出という財務会,,
計上の行為を対象とするものであり,監査請求人において当該行為が違法であると考え
る理由の要旨を明示しているものであるから住民監査請求としてその要件に欠ける,,
ところはないものと認められる。
また甲事件原告らのうち一部の者甲事件原告4ら及び甲事件原告X5が訴,(),
えを提起した時点で住民監査請求に対する監査結果を得ておらずさらにそのうちの,,
1名甲事件原告X5は訴えを提起した時点で住民監査請求自体をしていなかった(),
という点については一般に訴訟要件は本案判決がされるための要件としての性質,,,
を持つものであり訴え提起時にその要件を欠いていたとしても口頭弁論終結時まで,,
にその要件を具備するに至ればその瑕疵は治癒されるものと解されるところ監査請,,
求前置の要件につきこれと異なる取扱いをすべき理由は認められないそして上記,。,
各原告らは,本件の口頭弁論終結時までに住民監査請求を行ってその監査結果を得てい
るのであるから上記各原告らの訴えについては監査請求前置の要件に係る瑕疵が治,,
癒されたものというべきである。
したがって,被告らの主張は採用することができない。
(2)争点2(住民訴訟の対象としての適否)について
,,,被告らは本件訴えは住民訴訟に名を借りて国の事業の適否を争うものであって
住民訴訟制度の目的を著しく逸脱した不適法な訴えである旨主張する。
しかしながら原告らは本件訴訟において設楽ダムの建設費に係る愛知県の負,,,
担金の支出命令ないし支出の差止めを求めているものであり,その判断の前提とし
,,,て国の事業である設楽ダム建設事業の適否が問題となるとしてもそのことから
本件訴えが住民訴訟制度の目的を著しく逸脱した不適法な訴えであるということはでき
ない。
したがって,被告らの主張は採用することができない。
3本案の争点(負担金の支出の違法性の有無)について
(1)本件の違法性判断の枠組みについて
ア地方自治法242条の2第1項に規定する住民訴訟は,普通地方公共団体の
執行機関又は職員による同法242条1項所定の財務会計上の違法な行為又は怠る
事実の予防又は是正を裁判所に請求する権能を住民に与え,もって地方財務行政の
適正な運営を確保することを目的とするものである。このような住民訴訟の目的に
かんがみれば,普通地方公共団体の住民が同法242条の2第1項1号に基づき当
該普通地方公共団体の執行機関又は職員の財務会計上の行為の差止めを求めること
ができるのは,当該財務会計上の行為それ自体が財務会計法規上違法と評価される
場合に限られるものというべきである。
甲事件及び乙事件を併せて原告らの請求を要約すれば,原告らは,①愛知県が河
川法60条1項及び特ダム法8条に基づき負担する設楽ダムの建設費の負担金並び
に②同県が特ダム法7条1項に基づきダム使用権の設定予定者として負担する設楽
ダムの建設費の負担金の支出が違法な公金の支出に当たるとして,地方自治法24
2条の2第1項1号に基づき,①については,被告知事に対しその支出命令の差止
めを求め,②については,被告企業庁長に対しその支出の差止めを求めるものであ
るから,本件においては,上記支出命令ないし支出が財務会計法規上違法と評価さ
れるか否かが問題となるものである。
イところで,多目的ダムの建設費に係る都道府県の負担金に関する法令の定め
を見ると,前記第2の1(多目的ダムの建設費の負担等に関する法令の定め)記載
のとおり,河川法60条1項及び特ダム法8条に基づき都道府県が負担すべき負担
金については,国土交通大臣が都道府県に対しその負担すべき額を納付すべき旨を
通知し,都道府県はこれに従って負担金を国庫に納付しなければならないものとさ
れ河川法64条1項河川法施行令38条1項また特ダム法7条1項に基づ(,),,
きダム使用権の設定予定者として負担すべき負担金については,毎年度,国土交通
大臣が当該年度の事業計画に応じて定める額を,国土交通大臣が当該年度の資金計
画に基づいて定める期限までに納付することとされている(同条2項,特ダム法施
行令9条1項1号。。)
これらの法令の定めによれば,多目的ダムの建設費に係る都道府県の負担金(河
川法60条1項及び特ダム法8条に基づく負担金並びに特ダム法7条1項に基づく
負担金)について,国土交通大臣が都道府県に対して発する納付通知は,具体的な
負担金の納付を命ずる納付命令の性質を有しているものと解される。そして,地方
財政法17条の2第1項は,いわゆる国の直轄事業について,地方公共団体が法律
又は政令の定めるところによりその経費の一部を負担するときは,当該普通地方公
共団体は,その負担する金額を国に対して支出するものと定めていることからする
と,多目的ダムの建設費に係る都道府県の負担金について,国土交通大臣から納付
通知を受けた都道府県の執行機関としては,当該通知が著しく合理性を欠き,その
ためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存する場合には,国
土交通大臣に対し協議を求めるなどしてその是正を図るよう努めるべきであるが,
当該通知に上記のような瑕疵が存するとはいえない場合には,国土交通大臣の納付
通知を尊重し,その内容に従った財務会計上の措置を執るべき義務を負うと解する
のが相当であり,したがって,この場合において,都道府県の執行機関がその通知
に係る負担金を支出するために行う財務会計上の行為については,財務会計法規上
違法との評価を受けることはないものというべきである。
そして,上記の瑕疵の存否に関しては,多目的ダムの建設費に係る都道府県の負
担金について国土交通大臣が発する納付通知は当該多目的ダムに係る基本計画特,(
ダム法4条所定の基本計画)に基づいて発せられるものであるから,その基本計画
が著しく合理性を欠き,そのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得な
い瑕疵が存する場合には,これに基づいて発せられる納付通知も同様の瑕疵を帯び
るものと解するのが相当である。
ウ設楽ダムの建設費に係る愛知県の負担金について,被告知事が行う支出命令
及び被告企業庁長が行う支出は,前記の法令に基づいて国土交通大臣が発する納付
通知を受けて行われるものである。したがって,上記支出命令ないし支出が財務会
計法規上違法との評価を受けるか否かを判断するに当たっては,設楽ダムの建設費
に係る愛知県の負担金について国土交通大臣が発する納付通知が著しく合理性を欠
き,そのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存するか否
かが問題となるところ,本件においては,上記通知に固有の瑕疵があるとの主張は
,,されていないので上記通知の基礎となる設楽ダム基本計画が著しく合理性を欠き
そのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存するか否かを
検討すべきことになる。
この点に関し,原告らは,設楽ダムの都市用水及び農業用水に係る新規水資源開
発,流水の正常な機能の維持並びに洪水調節の各目的につき,その必要性が認めら
れなかったり確認されていないため,当該各目的につき費用負担をして公金を支出
することは,愛知県に財産的損害を発生させることになるものであって,著しく合
理性を欠いているなどとして,当該支出自体に予算執行の適正確保の見地から看過
できない違法があると主張するが,前示のとおり,本件においては,設楽ダムの建
設費に係る愛知県の負担金について被告知事が行う支出命令及び被告企業庁長が行
う支出が財務会計法規上違法と評価されるか否かが問題となるものであり,この点
を判断するに当たって,設楽ダム基本計画が著しく合理性を欠き,そのためこれに
予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存するか否かを検討する必要が
。,。あるのであるこれと異なる趣旨をいう原告らの主張は採用することができない
(2)豊川水系河川整備基本方針,豊川水系河川整備計画,豊川水系フルプラン及
び設楽ダム基本計画の策定経過及び内容について
前記第2の2(2)イ設楽ダムの事業化の経緯記載のとおり設楽ダム基本計画(),
は,豊川水系河川整備基本方針,豊川水系河川整備計画及び豊川水系フルプランを
前提として定められたものである。設楽ダム基本計画が著しく合理性を欠き,その
ためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存するか否かを判断
するに当たっては,設楽ダム基本計画の前提となった上記の諸計画についても検討
する必要があるところ,前記前提事実及び証拠(認定に供した証拠は,各項目ごと
にその冒頭に掲げたによれば豊川水系河川整備基本方針豊川水系河川整備計。),,
,(。)画豊川水系フルプラン及び設楽ダム基本計画の策定経過策定の根拠規定を含む
及び内容は,次のとおりであると認められる。
ア豊川水系河川整備基本方針の策定経過及び内容(甲10,乙5,46,証人
A)
(ア)策定経過
a河川法16条1項は,河川管理者は,その管理する河川について,計画高水
流量その他当該河川の河川工事及び河川の維持についての基本となるべき方針に関
する事項(河川整備基本方針)を定めておかなければならない旨規定している。
b建設大臣(当時)は,一級河川である豊川の河川管理者として,河川法(平
成11年法律第160号による改正前のもの)16条3項の規定に従って河川審議
会(現行法における社会資本整備審議会)の意見を聴いた上で,平成11年12月
1日,豊川水系河川整備基本方針を策定し,これを公表した。
(イ)内容
豊川水系河川整備基本方針においては,基本高水(洪水防御に関する計画の基本
となる洪水をいう)並びにその河道及び洪水調節施設への配分に関する事項とし。
て,昭和44年8月洪水等の既往水害についての検討を踏まえ,豊川の基準地点と
なっている新城市の石田地点で,基本高水のピーク流量(ダム等の洪水調節施設が
ない状態で河道に流れる流量)を7100㎥/sと設定し,このうち流域内の洪水
調節施設により3000㎥/sを調節して,河道への配分流量(計画高水流量)を
4100㎥/sとすることが定められている。
また,豊川水系河川整備基本方針においては,主要な地点における流水の正常な
機能を維持するため必要な流量に関する事項として,牟呂松原頭首工(直下流)地
点における流水の正常な機能を維持するため必要な流量は,利水の現況,動植物の
保護,漁業,塩害の防止などを考慮し,おおむね5㎥/sとすることが定められて
いる。
(,,,イ豊川水系河川整備計画の策定経過及び内容甲11ないし13乙614
15,46,証人A)
(ア)策定経過
a河川法16条の2第1項は,河川管理者は,河川整備基本方針に沿つて計画
的に河川の整備を実施すべき区間について,当該河川の整備に関する計画(河川整
備計画)を定めておかなければならない旨規定している。
b豊川水系に係る河川整備計画の策定について国土交通大臣から権限の委任を
受けた中部地方整備局長は,平成10年12月,河川法16条の2第3項の規定に
従って河川に関し学識経験を有する者の意見を聴くために,学識者等で構成される
「豊川の明日を考える流域委員会」を設置し,同月から平成13年10月まで合計
23回にわたって同委員会を開催して学識者等の意見を聴いた。また,中部地方整
備局長は,同条4項に基づき,同年7月から8月までに関係市町の12会場で地区
別意見交換会を開催し,関係住民の意見を聴いた。さらに,中部地方整備局長は,
同条5項に基づき,同年10月17日付けで被告知事の意見を求め,被告知事は,
あらかじめ関係市町村長の意見を聴いた上で,同月30日付けで意見はない旨回答
した。
以上の手続を経て,中部地方整備局長は,平成13年11月28日,豊川水系河
川整備計画を策定し,これを公表した。その後,中部地方整備局長は,河川法所定
の手続を経て,平成18年4月6日,上記計画の内容を一部変更し,これを公表し
(,「」,。)。た以下豊川水系河川整備計画とはこの変更後の計画をいうものとする
(イ)内容
a豊川水系河川整備計画においては,計画対象期間はおおむね30年とされ,
その間の河川整備計画の目標として,①洪水,高潮等による災害の発生の防止又は
,,軽減に関する目標②河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持に関する目標
③河川環境の整備と保全に関する目標が,要旨次のとおり設定されている。
(a)洪水,高潮等による災害の発生の防止又は軽減に関する目標
治水対策の整備目標の設定に当たっては,過去の水害の発生状況,流域の重要度
や豊川の整備状況等を勘案し,豊川の治水対策として整備期間内に達成すべき整備
水準を念頭に置きながら,投資規模等の社会的,現実的な諸条件を考慮する必要が
ある。
本計画では,戦後最大流量(4650㎥/s)となった昭和44年8月洪水が再
来した場合の水位をほぼ全川で計画高水位以下に低下させ,破堤等による甚大な被
害を防止するとともに,霞堤地区の浸水被害を軽減し,さらに,基本高水相当の洪
水に対しても被害の軽減を図ることを,計画対象期間(おおむね30年)における
目標とする。
(b)河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持に関する目標
河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持の目標の設定に当たっては,豊川
における動植物の保護,漁業,観光・景観,流水の清潔の保持といった河川環境の
保全や塩害の防止,流水の占有といった既得用水の取水の安定化並びに当該地域に
おける将来の水需要等を考慮する必要がある。
本計画では,渇水時における河川環境の回復を図るため,牟呂松原頭首工(直下
流)地点や大野頭首工(直下流)地点における河川流量の増加に努めるものとし,
その際,牟呂松原頭首工(直下流)地点において5㎥/s,大野頭首工(直下流)
地点において1.3㎥/s,寒狭川頭首工(直下流)地点において3.3㎥/sの
利水上の制限流量を設定し,河川流量を保全する。
また,豊川用水では近年の少雨化傾向等とも相まって渇水時における取水制限が
毎年のように行われていることから,取得用水が10年に1回程度発生する規模の
渇水時においても安定して取水できるよう利水安全度の向上を図る。
(c)河川環境の整備と保全に関する目標
河川環境の整備と保全に関する目標の設定に当たっては,流水の正常な機能の維
持に関する目標を踏まえつつ,豊川における動植物の保護,漁業,観光・景観,流
水の清潔の保持といった河川環境の保全に配慮する必要がある。特に,豊川の特徴
である河道内の樹木群の保全や全国的にも極めて良質な水質の保全に配慮する必要
がある。このため,渇水時などにおいて大野頭首工(直下流)地点で水涸れ状態と
なり,生物の生息環境が分断されている区間の河川流量を回復するとともに,渇水
時における牟呂松原頭首工(直下流)地点の河川流量を増加し,河川環境の回復な
どに努めるものとする。
b豊川水系河川整備計画においては,河川の整備の実施に関し,基本的な考え
方が示されており,そのうち,①洪水,高潮等による災害の発生の防止又は軽減に
関する事項,②河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持に関する事項につい
ては,次のような考え方が示されている。
(a)洪水,高潮等による災害の発生の防止又は軽減に関する事項
本計画の目標である戦後最大洪水が再来した場合の水位を計画高水位以下に低下
させるための対策としては,引堤や河道内の掘削等による流下断面の確保及び洪水
調節施設の設置が考えられる。
引堤による対策は,本川下流部の狭窄部対策として,昭和46年度から15年間
を要し,約100戸の家屋移転を伴う築堤を実施するなど,現状では霞堤を除くほ
とんどの堤防が整備されており,新たに沿川家屋の移転が伴う引堤による対策は現
実的ではない。
次に,大規模な河道内樹木の伐採や低水路の拡幅(高水敷の掘削)は,豊川の象
徴である樹木群に代表される良好な自然環境や景観が大幅に損なわれることとな
る。
このため,本計画では,ダムや遊水池などの新たな洪水調節施設や既設の放水路
改築等について比較検討するとともに,河川の適正な利用や流水の正常な機能の維
持を併せて総合的に勘案した結果,流下断面の不足している箇所において樹木群の
必要最小限の伐採及び低水路拡幅を実施するとともに設楽ダムの建設を併せて行
い,所要の水位低下を図る。
(b)河川の適正な利用及び流水の正常な機能の維持に関する事項
本計画の目標である渇水時における河川流量の増加や既得用水の取水の安定化に
ついては「他水系からの導水「雨水利用・再生水利用等受益地域における節水活」,
動」等が考えられるが,実効の確実性,社会的な影響等を考慮し,流況安定施設と
して設楽ダムを建設するとともに,河川流水の総合的な運用を行うために必要な施
設や情報伝達システムを整備する。さらに,異常な渇水時においても被害を最小限
に抑えるため,河川管理者と利水者相互の情報交換を行い,緊急時における水融通
の円滑化を図るなど渇水対策及び渇水活動の推進に向け関係機関と連携を強化す
る。
このような状況にかんがみ,現在実施計画調査中の設楽ダムは,洪水調節,流水
の正常な機能の維持と併せて新規水資源開発を目的とする多目的ダムとして建設す
る。
c豊川水系河川整備計画においては,河川の整備の実施に関し,同計画におけ
る河川工事として,①霞堤対策,②河道改修及び河川環境の整備と保全,③内水対
策,④耐震対策,⑤豊川流況総合改善事業,⑥設楽ダムの建設が掲げられている。
このうち⑤及び⑥については,要旨次のとおり定められている。
(a)豊川流況総合改善事業
豊川における渇水時の河川流量の確保と取水の安定化を図るとともに,設楽ダム
と利水施設による河川流水の総合的運用を可能にする豊川流況総合改善事業を完成
させる。
豊川流況総合改善事業は,豊川総合用水事業により建設された寒狭川頭首工及び
寒狭川導水路を利用して,設楽ダム及び寒狭川頭首工から流水の正常な機能の維持
のために必要な流量を大野頭首工上流に導水し,大野頭首工(直下流)地点におい
て約1.3㎥/sの流量増加に努め,また,河川流量等の河川情報と貯留量や取水
量等の利水情報の伝達に必要なシステムの整備を行い,設楽ダムや利水施設の連携
による河川流水の総合的運用を図ろうとする事業である。
(b)設楽ダムの建設
治水及び水利用からの必要性のほか,自然環境への影響及び地形,地質条件の制
約,社会状況などを総合的に考慮の上,豊川上流の愛知県北設楽郡設楽町清崎(左
岸松戸右岸地先に洪水調節流水の正常な機能の維持及び新規水資源開発),(),,
の目的を有する多目的ダムとして,総貯水容量約9800万㎥の設楽ダムを建設す
る。
設楽ダムの洪水調節効果については,設楽ダム地点の計画高水流量1490㎥/
sのうち,1250㎥/sの洪水調節を行うことにより,基準地点石田における基
本高水のピーク流量7100㎥/sに対して,約1000㎥/sの流量低減効果を
見込んでいる。また,戦後最大の洪水(昭和44年8月洪水)に対しては550㎥
/sの流量低減効果を見込んでいる。
流水の正常な機能の維持のうち,渇水時における河川流量については,牟呂松原
頭首工(直下流)地点及び主要な取水地点における利水上の制限流量を適正に運用
することにより,渇水時の河川流量を牟呂松原頭首工(直下流)地点において約2
,().㎥/sから約5㎥/sに大野頭首工直下流地点において水涸れ状態から約1
3㎥/sにそれぞれ流量増加に努め,豊川における動植物の保護,漁業,観光・景
観,流水の清潔の保持といった河川環境の保全を可能にする。また,塩害の防止,
流水の占用といった既得用水の取水の安定化については,これまでの実績利水安全
度おおむね1/4(4年に1度ぐらいの割合で起こる渇水時において,安定した取
水を確保すること)から,既設の利水施設と連携して計画利水安全度おおむね1/
10(10年に1度ぐらいの割合で起こる渇水時において,安定した取水を確保す
ること)に向上させ,安定した取水を可能にする。
新規水資源開発については,東三河地域における水道用水と農業用水を合わせて
約0.5㎥/sの新規取水を可能にする。水資源の開発に当たっては,効率的な水
利用を図るために設楽ダムと豊川総合用水施設等の利水施設による河川流水の総合
的運用を行う。
設楽ダムの建設では,ダムや付替え道路等の工事,新たな貯水池などにより環境
に与える影響や,河川の連続性の遮断等が大気環境,水環境,地形・地質,土壌,
植物,動物,生態系へ与える影響,景観,人と自然の触れ合い活動の場の変化等を
予測し,その結果に応じて回避,低減又は代償のための措置を講ずる。特に,ネコ
ギギやクマタカをはじめとした動植物の生息・生育環境に与える影響をできる限り
回避,低減し,必要に応じ代償措置を講ずるよう配慮する。
設楽ダムの建設が地域に与える社会的影響を緩和するため,関係住民等の意向を
十分配慮・尊重し,国,県,設楽町及び下流市町村等と連携して,水源地域の生活
再建や地域整備が図られるよう必要な措置を講ずるとともに,ダム周辺の開発計画
・プロジェクトとの連携,調整を進め地域づくりを支援する。
ウ豊川水系フルプランの策定経過及び内容(甲6の1,2,乙7,9,48な
いし50,52ないし58,71,証人B,証人C)
(ア)策定経過
a水資源開発促進法3条1項は,国土交通大臣は,産業の開発又は発展及び都
市人口の増加に伴い用水を必要とする地域について,広域的な用水対策を緊急に実
施する必要があると認めるときは,厚生労働大臣,農林水産大臣,経済産業大臣そ
の他関係行政機関の長に協議し,かつ,関係都道府県知事及び国土審議会の意見を
聴いて,当該地域に対する用水の供給を確保するため水資源の総合的な開発及び利
用の合理化を促進する必要がある河川の水系を水資源開発水系として指定する旨規
定している。そして,同法4条1項は,国土交通大臣は,水資源開発水系の指定を
したときは,厚生労働大臣,農林水産大臣,経済産業大臣その他関係行政機関の長
に協議し,かつ,関係都道府県知事及び国土審議会の意見を聴いて,当該水資源開
発水系における水資源の総合的な開発及び利用の合理化の基本となるべき水資源開
発基本計画を決定しなければならない旨規定している(なお,平成11年法律第1
60号による改正前の水資源開発促進法においては,水資源開発水系の指定及び水
資源開発基本計画の決定は,内閣総理大臣の権限とされていた。。)
b内閣総理大臣は,平成2年2月6日,豊川水系を水資源開発水系に指定し,
同年5月15日,平成12年度を目標年度とする「豊川水系における水資源開発基
本計画(第1次計画)を決定し,同月17日,これを公示した。」
,(),第1次計画の目標年度が平成12年度とされていたことから国土庁当時は
平成12年11月6日,農林水産省に対し,第1次計画の変更に当たっての基礎的
な調査として,農業用水に係る需給実績調査を依頼した。
平成13年8月21日,国土審議会水資源開発分科会が開催され,同分科会に豊
川部会が設置された。豊川部会の任務は,豊川水系における水資源開発基本計画に
ついて調査審議し,その結果を水資源開発分科会に報告することとされた。
平成14年11月8日,第1回豊川部会が開催され,豊川水系の現状等について
調査審議が行われた。
国土交通省は,平成15年8月7日,愛知県及び静岡県に対し都市用水に係る需
給想定調査を依頼し,平成17年12月1日,両県からその回答があった。また,
同月2日,農林水産省から農業用水に係る需給実績調査(以下「農林水産省需給調
査」という)の回答があった。。
平成17年12月8日,第2回豊川部会が開催され,第1次計画の評価,第2次
計画案における需要の見通し,供給施設の安定性等について調査審議が行われた。
平成18年1月19日,第3回豊川部会が開催され,第2次計画の案文等につい
て調査審議が行われた。
平成18年2月3日,水資源開発分科会が開催され,豊川部会における審議結果
の報告があり,同分科会において,第2次計画の案文等が妥当であるとされ,了承
された。
国土交通大臣は平成18年2月6日被告知事に対し豊川水系フルプラン第,,(
),,,,2次計画の案について意見を求め被告知事は同月8日国土交通大臣に対し
異議はない旨回答した
国土交通大臣は,平成18年2月17日,閣議決定を経て,第1次計画を全部変
更する形式で豊川水系フルプラン(第2次計画)を決定し,同月28日付けの官報
でこれを公示した。
(イ)内容
豊川水系フルプランは,平成27年度を目標年度とし,また,豊川水系に水道用
水,工業用水及び農業用水を依存している愛知県東三河地域と静岡県湖西地域を対
象地域としている。豊川水系フルプランには,①水の用途別の需要の見通し及び供
給の目標,②供給の目標を達成するため必要な施設の建設に関する基本的な事項,
③その他水資源の総合的な開発及び利用の合理化に関する重要事項が記載されてい
るところ,このうち①及び②の要旨は,次のとおりである。
a水の用途別の需要の見通し及び供給の目標
(a)水の用途別の需要の見通しは,計画的な生活・産業基盤の整備,地下水の適
正利用,合理的な水利用等を考慮し,おおむね次のとおりとする。
Ⅰ水道事業及び工業用水道事業が豊川水系に依存する需要の見通し
約6.1㎥/s
(内訳)ⅰ豊川水系に水道用水を依存している愛知県の諸地域において,水
道事業が依存する需要の見通し約4.5㎥/s
ⅱ豊川水系に工業用水を依存している静岡県及び愛知県の諸地域に
おいて,工業用水道事業が依存する需要の見通し約1.6㎥/s
Ⅱ豊川水系に農業用水を依存している愛知県東三河地域において,農業生産
の維持及び増進を図るために増加する農業用水の需要の見通し
約0.3㎥/s
,,(b)上記の水の需要に対し近年の降雨状況等による流況の変化を踏まえた上で
地域の実情に即して安定的な水の利用を可能にすることを供給の目標とし,そのた
め次のbに掲げる施設整備を行う。
次のbに掲げる水資源開発のための施設とこれまでに整備した施設等により,供
給が可能と見込まれる水道用水及び工業用水の水量は,近年の20年間で2番目の
規模の渇水時における流況を基にすれば約6.5㎥/s(計画当時の流況を基にす
れば約7.9㎥/s)となる。
また,農業用水の増加分である約0.3㎥/sを設楽ダムにより供給する。
(c)なお,豊川水系フルプランの説明資料によれば,上記(a),(b)の需給想定の
内訳等は,別紙3(水道用水及び工業用水)及び別紙4(農業用水)記載のとおり
である。
b供給の目標を達成するため必要な施設の建設に関する基本的な事項
上記の供給の目標を達成するために次の施設整備を行う。
(a)設楽ダム建設事業
洪水調節及び流水の正常な機能の維持を図るとともに,愛知県東三河地域の農地
に対して必要な農業用水及び愛知県の水道用水の確保を行うことを事業目的とし
て,新規利水容量約1300万㎥(有効貯水容量約9200万㎥)の設楽ダムを建
設する。
(b)豊川用水二期事業
静岡県湖西地域及び愛知県東三河地域の農地に対して必要な農業用水の確保及び
補給,愛知県の水道用水の確保並びに静岡県及び愛知県の工業用水の確保を行う豊
川用水施設の幹線水路等の老朽化等に対処するため,同施設の改築を行う。
エ設楽ダム基本計画の策定経過及び内容(乙44,46,47,証人A)
(ア)策定経過
a特ダム法4条1項は,国土交通大臣は,多目的ダムを新築しようとするとき
は,その建設に関する基本計画を作成しなければならない旨規定している。
b国土交通大臣は,平成18年2月に豊川水系フルプランを決定し,また,同
年4月に豊川水系河川整備計画が一部変更され,さらに,平成19年7月に設楽ダ
ム建設事業に係る環境影響評価手続が終了したことを受けて,設楽ダムの建設に関
する基本計画を作成することとなった。
国土交通大臣は,設楽ダムの建設に関する基本計画の策定に当たり,平成20年
,,,,1月31日付けで被告知事に対しその計画案について意見を求め被告知事は
同年3月24日付けで県議会の議決を経た上で,同月25日付けでこれに同意する
旨回答した。また,国土交通大臣は,平成20年8月までに関係行政機関の長との
協議を終えた。
そして,国土交通大臣は,設楽ダム基本計画を作成し,平成20年10月27日
付けの官報でこれを告示した。
(イ)内容
設楽ダム基本計画の内容は,前記第2の2(2)ウ(設楽ダムの建設に関する基本計
画)記載のとおりである。
(3)設楽ダムの目的について
設楽ダムは,洪水調節,流水の正常な機能の維持並びに水道用水及び農業用水に
係る新規水資源開発を目的とする多目的ダムであるところ,原告らは,これらの目
的につき,その必要性が認められないか,又はその必要性が確認されていない旨主
張するので,以下,各目的について検討する。
ア洪水調節の目的について
(ア)豊川水系河川整備基本方針においては,戦後最大流量となった昭和44年8
月洪水等の既往水害についての検討を踏まえ,豊川の基準地点となっている新城市
の石田地点で,基本高水のピーク流量(ダム等の洪水調節施設がない状態で河道に
流れる流量)を7100㎥/sと設定し,このうち流域内の洪水調節施設により3
000㎥/sを調節して,河道への配分流量(計画高水流量)を4100㎥/sと
することとしている。
そして,豊川水系河川整備計画においては,洪水等による災害の発生の防止又は
軽減に関する目標として,昭和44年8月洪水が再来した場合の水位をほぼ全川で
計画高水位以下に低下させ,破堤等による甚大な被害を防止するとともに,霞堤地
区の浸水被害を軽減し,さらに,基本高水相当の洪水に対しても被害の軽減を図る
ことを掲げ,その目標を達成するための河川工事として,霞堤対策,河道改修等の
ほか,設楽ダムの建設を掲げている。同計画においては,設楽ダムの洪水調節効果
について,設楽ダム地点の計画高水流量1490㎥/sのうち1250㎥/sの洪
水調節を行うことにより,基準地点石田における基本高水のピーク流量7100㎥
/sに対して,約1000㎥/sの流量低減効果を見込み,また,戦後最大の洪水
(昭和44年8月洪水)に対しては550㎥/sの流量低減効果を見込んでいる。
,,,これを受けて設楽ダム基本計画においては設楽ダムの建設目的の一つとして
洪水調節を掲げ,設楽ダムにより,設楽ダム建設地点の計画高水流量1490㎥/
sのうち1250㎥/sの洪水調節を行い,そのために1900万㎥の容量を利用
することとしている。
(イ)原告らは,ダムによる洪水調節は,他の洪水対策による対応が不可能又は困
難である場合において,ダムによる洪水調節が問題解決に有効な方法であるときに
選択される最後の方法でなければならない旨主張する。
しかしながら,原告らの主張するような見解は,我が国の治水対策において一般
的に採用されている考え方ではない。
すなわち,アジア・モンスーン地域に位置する我が国は,年間降水量が多く,梅
雨期や台風期を中心に短時間に集中して大雨が降るという降雨特性を有しており,
また,地形が急峻であることから多くの河川は勾配が急であり,それゆえ,大雨に
見舞われると,それらの河川では洪水が一気に流れ出る特性がある。一方,我が国
の都市の多くは,河川の氾濫によって形成された沖積平野を中心に広がっており,
今日では氾濫原において高密度の社会経済活動が営まれている。こうした我が国の
国土条件,社会条件から,ひとたびが破堤氾濫が生じると大規模な被害が発生する
ことになるため,洪水時の河川水位を極力下げて洪水を安全に流すことが治水の原
則とされており,そのため,水系ごとの治水計画を策定するに当たっては,堤防嵩
上げ,河床掘削,引堤といった河道改修や放水路,遊水池,ダム等の治水施設の建
設などの多様な治水手法の最適な組合せを適用することとされている。このうち,
ダムについては,短時間で流量が大きく増減する我が国の洪水に対して,限られた
容量で効率的にピーク流量を低減することができるという特徴があるとされている
(以上につき,乙25。)
上記のとおり,我が国の治水対策においては,水系ごとに,ダムを含めた多様な
治水手法がその最適な組合せを考えて適用されてきているのであり,ダムによる洪
水調節は最後の方法でなければならないという原告らが主張するような見解は採用
されていないのである。
(ウ)また,原告らは,ダムによる洪水調節の効果は雨の降り方によって大きく変
動するものであり,特に,ダムの集水域が狭い場合には,ダムによる洪水調節機能
は極めて限定的なものとなるところ設楽ダムの集水面積は豊川流域全体の8.6%,
であり,その洪水調節効果は極めて限定的なものである旨主張する。
しかしながら,豊川水系河川整備計画においては,設楽ダムの洪水調節効果につ
いて,設楽ダム地点の計画高水流量1490㎥/sのうち1250㎥/sの洪水調
節を行うことにより,基準地点石田における基本高水のピーク流量7100㎥/s
に対して,約1000㎥/sの流量低減効果を見込み,また,戦後最大の洪水(昭
和44年8月洪水)に対しては550㎥/sの流量低減効果を見込んでいるのであ
る。ダムによる洪水調節の効果は,雨の降り方によって変動するものであり,常に
上記の数値のとおりの流量低減効果が期待できるわけではないとしても,設楽ダム
の建設により相応の洪水調節機能が果たされるものと認められる。もとより,豊川
水系河川整備計画においては,設楽ダムの建設のみによって,治水上の目標を達成
しようとするものではなく,霞堤対策や河道改修等の他の方策も併せて実施しよう
としているものであり,こうした他の方策と併せて,設楽ダムの建設によって洪水
調節を図ることは,洪水対策として合理性を欠くものであるとは認められない。
(エ)さらに,原告らは,豊川水系河川整備計画において治水対策の基準とされて
いる昭和44年8月洪水は,戦後の大面積皆伐により,森林の保水力が低下した状
態で発生したのであり,現在は,森林が生長して森林の永続的な保水力と一時的な
保水力が回復してきたため,昭和44年8月洪水の時と同様の雨が降っても,当時
のような戦後最大流量となった洪水が発生する危険性は小さく,仮に,昭和44年
8月洪水と同規模の洪水が発生した場合であっても,設楽ダム以外の河道改修によ
る対策で破堤による被害を防止することが可能である旨主張する。
まず,現在は森林が生長して森林の永続的な保水力と一時的な保水力が回復して
きたため,昭和44年8月洪水の時と同様の雨が降っても,当時のような戦後最大
流量となった洪水が発生する危険性は小さいとの原告らの主張については,証人D
がこれに沿う証言をし,同人作成の意見書(甲52,65)にも同旨の意見が記載
されている。しかしながら,他方で,日本学術会議が平成13年11月に農林水産
大臣に行った答申「地球環境・人間生活にかかわる農業及び森林の多面的な機能の
評価について(乙110)によれば「森林は中小洪水においては洪水緩和機能を」,
発揮するが,大洪水においては顕著な効果は期待できない」との見解が示されてお
り,また,平成18年6月6日に開催された第40回河川整備基本方針検討小委員
会の議事録(乙112)によれば,森林の治水効果はまだ定まったものではないと
の見解が同委員会委員長によって示されている。こうした証拠関係に照らすと,現
在,昭和44年8月洪水の時と同様の雨が降っても,当時のような戦後最大流量と
なった洪水が発生する危険性が小さいと断ずることはできないし,仮に昭和44年
8月洪水と同様の洪水が発生する危険性が小さくなっていたとしても,ひとたび破
堤氾濫が生じれば沿川住民等に甚大な被害が発生することになるのであるから,戦
後最大流量となった昭和44年8月洪水と同程度の洪水が再来した場合を想定して
治水計画を策定することには,合理性に欠ける点はないというべきである。
次に,設楽ダム以外の河道改修による対策で破堤による被害を防止することが可
能であるとの原告らの主張については,証人Dがこれに沿う証言をし,同人作成の
(,)。,,意見書甲5265にも同旨の意見が記載されているしかしながら一般に
治水計画の策定に当たって,多様な治水手法のうち,いずれを選択し,それらをど
のように組み合わせるかの具体的な決定は,河川管理者の合理的な裁量にゆだねら
れているものである。豊川水系に係る河川整備計画の策定について国土交通大臣か
ら権限の委任を受けた中部地方整備局長は,学識者等で構成される「豊川の明日を
」,,考える流域委員会を合計23回にわたって開催して学識者等の意見を聴きまた
,,関係住民や被告知事の意見も聴いた上で豊川水系河川整備計画を策定したところ
,,同計画においては新たに沿川家屋の移転を伴う引堤による対策は現実的ではなく
大規模な河道内樹木の伐採や低水路の拡幅(高水敷の掘削)は,豊川の象徴である
樹木群に代表される良好な自然環境や景観が大幅に損なわれることとなるため,ダ
ムや遊水池などの新たな洪水調節施設や既設の放水路改築等について比較検討し,
河川の適正な利用や流水の正常な機能の維持を併せて総合的に勘案した結果,流下
断面の不足している箇所において樹木群の必要最小限の伐採及び低水路拡幅を実施
するとともに設楽ダムの建設を併せて行い,所要の水位低下を図ることとしたもの
。,である上記のような豊川水系河川整備計画の策定経過やその内容にかんがみれば
設楽ダムの建設を含む同計画の治水計画が,河川管理者に与えられた裁量権の範囲
を逸脱するものであるとは認められない。
(オ)小括
以上のとおり,洪水調節の目的に関する原告らの主張は,いずれも採用すること
ができない。そして,他に,設楽ダム基本計画のうち洪水調節に関する部分に著し
く合理性に欠ける点があると断ずるに足りる事情は認められない。
イ流水の正常な機能の維持の目的について
(ア)河川の流水が果たしている役割には,動植物の保護,漁業,景観・観光,流
水の清潔の保持などといった河川環境の保全のほか,塩害の防止,既得用水の取水
の安定化などがあり,河川管理における「流水の正常な機能の維持」とは,河川の
流水が果たしているこれらの機能を適正に維持することである。なお,上記のとお
り,既得用水の取水の安定化ということも流水の正常な機能の維持の目的に包含さ
れるものであるから,そのための費用も河川管理の費用になるものである。
流水の正常な機能を維持するためには,河川において一定の流量を確保する必要
,,,,があるところ豊川水系河川整備基本方針においては利水の現況動植物の保護
漁業,塩害の防止などを考慮し,牟呂松原頭首工(直下流)地点における流水の正
常な機能を維持するため必要な流量をおおむね5㎥/sとすることを定めている。
そして,豊川水系河川整備計画においては,河川の適正な利用及び流水の正常な
機能の維持に関する目標として,渇水時における河川環境の回復を図るため,牟呂
松原頭首工(直下流)地点において5㎥/s,大野頭首工(直下流)地点において
1.3㎥/s,寒狭川頭首工(直下流)地点において3.3㎥/sの利水上の制限
流量を設定して河川流量を保全するとともに,取得用水が10年に1回程度発生す
る規模の渇水時においても安定して取水できるよう利水安全度の向上を図ることを
掲げ,その目標を達成するための河川工事として,豊川流況総合改善事業のほか,
設楽ダムの建設を掲げている。同計画においては,設楽ダムの建設により,渇水時
における河川流量について,牟呂松原頭首工(直下流)地点及び主要な取水地点に
おける利水上の制限流量を適正に運用することによって,渇水時の河川流量を牟呂
松原頭首工(直下流)地点において約2㎥/sから約5㎥/sに,大野頭首工(直
下流)地点において水涸れ状態から約1.3㎥/sにそれぞれ流量増加に努め,豊
川における動植物の保護,漁業,観光・景観,流水の清潔の保持といった河川環境
の保全を可能にし,また,既得用水の取水の安定化について,これまでの実績利水
安全度おおむね1/4から,既設の利水施設と連携して計画利水安全度おおむね1
/10に向上させ,安定した取水を可能にするとしている。
,,,これを受けて設楽ダム基本計画においては設楽ダムの建設目的の一つとして
流水の正常な機能の維持を掲げ,そのための貯留容量を最大6000万㎥とするこ
ととしている。
(イ)原告らは,ダムは,上流域だけでなく下流域やその先の海域にまで,自然に
よるものとは違った重大な変化を与えるものであり,下流部において渇水期の流量
を保全するために上流部にダムを建設することは,より大きな環境悪化をもたらす
のであって,環境保全対策として根本的に誤っているとし,設楽ダムの建設につい
ても,これによって,ダム上流における堆砂,それによるダム下流への砂礫の流出
の停止とダム下流でのアーマーコート化など,河川の自然環境の著しい悪化がもた
らされ,とりわけ,豊川(寒狭川)上流部のように自然環境が保たれている所にお
いて,そのわずかに残された自然環境が破壊されることになるのであって,たかだ
か下流部の渇水時の最低流量をより多くするという河川環境の改善を図るために,
設楽ダムの建設を行うことは明らかな誤りである旨主張する。
しかしながら,ダムは,下流河川の流量が少ない時に貯留水を放流することによ
って,下流河川の流況を改善し,河川環境の保全や既得用水の取水の安定化に資す
るものである。流水の正常な機能の維持や河川環境の整備,保全のためにいかなる
方策を採るかについての具体的な決定は,事柄の性質上,河川管理者の合理的な裁
量にゆだねざるを得ないものであり,ダムが環境に与える影響を考慮した上で,流
水の正常な機能を維持するためにダムの建設を行うかどうかも,河川管理者の裁量
に属する事項というべきである。一般論として,下流部において渇水期の流量を保
全するために上流部にダムを建設することは環境保全対策として根本的に誤ってい
るとの原告らの主張は,このような河川管理者の裁量をおよそ否定するものであっ
て失当である。
豊川水系河川整備計画においては,渇水時などにおいて大野頭首工(直下流)地
点で水涸れ状態となり,生物の生息環境が分断されているという深刻な事態が生じ
ていることなどから,設楽ダムの建設により,渇水時における河川流量を増加し,
動植物の保護,漁業,観光・景観,流水の清潔の保持といった河川環境の保全を図
ろうとしたものである。河川環境の保全のために設楽ダムを建設することに対して
の原告らの批判は,河川環境の保全において何を重視するかという点についての価
値判断の違いに由来するものであり,豊川水系河川整備計画で採用された河川環境
の保全のために設楽ダムを建設するという考え方が明らかな誤りであるということ
はできない。
したがって,原告らの主張は採用することができない。
(ウ)また,原告らは,正常流量(流水の正常な機能を維持するための流量)は基
準渇水流量であるとした上で,牟呂松原頭首工のすぐ上流部の石田基準点での現状
の基準渇水流量が3.4㎥/sであることに照らせば,豊川水系河川整備基本方針
において定められた50㎥/sという同頭首工(直下流地点での正常流量及びこ.)
れを前提に豊川水系河川整備計画で定められた利水上の制限流量は,それ自体根拠
のない過大なものであると主張するので,以下検討する。
a国土交通省河川局監修国土交通省河川砂防技術基準同解説・計画編平「」〔
成17年11月発行(甲88の3,乙26。以下「技術基準解説」という)によ〕。
れば,正常流量とは,舟運,漁業,観光,流水の清潔の保持,塩害の防止,河口の
閉塞の防止,河川管理施設の保護,地下水位の維持,景観,動植物の生息・生育地
の状況人と河川の豊かな触れ合いの確保等を総合的に考慮して定められた流量維,(
持流量)及びそれが定められた地点より下流における流水の占有のために必要な流
量(水利流量)の双方を満足する流量であって,適正な河川管理のために基準とな
る地点において定めるものをいうとされている。そして,技術基準解説によれば,
流水の正常な機能を維持するために必要な流量を確保するための方策は,原則とし
て10か年第1位相当の渇水時においても流水の正常な機能を維持するために必要
な流量が確保できるよう策定するものとされている。
b原告らは,正常流量は基準渇水流量(10か年第1位相当の渇水流量)であ
ると主張し,原告X6は,本人尋問において,正常流量は基準渇水流量の範囲内で
設定されるべきである旨供述する。
しかしながら,基準渇水流量は,本来,水利使用の許可基準(新規の水利使用の
許可は,取水しようとする地点における基準渇水流量から正常流量を控除した水量
の範囲内でのみすることができるという基準)として用いられるものであり(原告
X6甲89乙69正常流量を決定する基準となるものではないのである前,,),。
記のとおり,技術基準解説によれば,舟運,漁業,観光,流水の清潔の保持,塩害
の防止,河口の閉塞の防止,河川管理施設の保護,地下水位の維持,景観,動植物
の生息・生育地の状況,人と河川の豊かな触れ合いの確保等を総合的に考慮して定
められた流量(維持流量)及びそれが定められた地点より下流における流水の占有
のために必要な流量(水利流量)の双方を満足する流量として定められるものであ
って,当該地点における基準渇水流量が正常流量を下回る場合には,河川管理者と
しては,ダムの建設等によって基準渇水流量を増加させる方策を講ずる必要が生じ
るのである。すなわち,河川管理者としては,基準渇水流量が正常流量を下回るこ
とがないよう方策を講ずることが求められるのであって(技術基準解説において,
流水の正常な機能を維持するために必要な流量を確保するための方策は,原則とし
て10か年第1位相当の渇水時においても流水の正常な機能を維持するために必要
な流量が確保できるよう策定するものとされているのは,この趣旨をいうものであ
る,現状における基準渇水流量を所与のものとして,その範囲内で正常流量を定。)
めなければならないというものではないのである。
c次に,豊川水系河川整備基本方針において,牟呂松原頭首工(直下流)地点
での正常流量がおおむね50㎥/sと定められた検討過程を見てみると証拠甲.,(
10,75の2,甲114)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(a)豊川につき流水の正常な機能を維持するために必要な流量を設定する地点に
ついては,①豊川の流況を代表できる地点として,宇連川合流点より下流である
こと,②流量把握が可能で,過去の水文資料が十分に備わっている地点であるこ
と,③流水の正常な機能を維持するため必要な流量を安定的かつ確実に管理でき
,)。る地点であることを勘案して牟呂松原頭首工(直下流地点とすることとしたこと
(b)牟呂松原頭首工(直下流)地点における過去20年間(昭和53年から平成
9年まで)の平均渇水流量は約2.3㎥/s,平均低水流量は約3.8㎥/sであ
ったこと(なお,渇水流量とは,前記のとおり,1年を通じて355日はこれを下
らない流量をいい,低水流量とは,1年を通じて275日はこれを下らない流量を
いうものである。。)
(c)牟呂松原頭首工(直下流)地点から下流における既得水利としては,水道用
水として0.358㎥/s,工業用水として0.835㎥/sの合計1.193㎥
/sの許可水利があったこと。
(d)流水の正常な機能を維持するため必要な流量の検討項目のうち,動植物の保
護及び漁業については,代表魚種(アユ,アマゴ,オイカワ,ウグイ,ヨシノボリ
類,カジカ)に着目し,それぞれの魚類の生息のために河川に確保すべき流量を算
出し,牟呂松原頭首工(直下流)地点で必要な流量を5.2㎥/sとしたこと。
(e)流水の正常な機能を維持するため必要な流量の検討項目のうち,観光・景観
については,散策,スポーツ,水遊び等の河川利用者が多い場所において,一般の
河川利用者に対してアンケート調査を実施し,豊川の景観を損なわない最小水面幅
を確保するために必要な流量を算出し,牟呂松原頭首工(直下流)地点で必要な流
量を5.2㎥/sとしたこと。
(f)流水の正常な機能を維持するため必要な流量の検討項目のうち,流水の清潔
の保持については,渥美湾・豊川等流域別下水道整備総合計画で算出されている将
来汚濁負荷量を基に環境基準値のBOD生物化学的酸素要求量2㎎/ℓを渇水,()
時にも満足することが可能な流量を算出し,牟呂松原頭首工(直下流)地点で必要
な流量を2.0㎥/sとしたこと。
(g)流水の正常な機能を維持するため必要な流量の検討項目のうち,塩害の防止
については,感潮区間である豊橋市下条地先(河口から10.3㎞地点)で,豊橋
市が水道用水を取水しており,流況が悪化した場合には,塩素イオン濃度が高くな
り,取水に影響を与えることがあるため,同市の水道用水の取水地点において,原
水の塩素イオン濃度が基準値200㎎/ℓ以下となるよう塩害発生時のイオン(),
濃度と河川流量との相関から必要流量を算出し,牟呂松原頭首工(直下流)地点で
必要な流量を4.9㎥/sとしたこと。
(h)流水の正常な機能を維持するため必要な流量の検討項目のうち,舟運,河口
閉塞の防止,河川管理施設の保護及び地下水位の維持については,豊川の具体的な
状況や過去の実績等から見て,特別な流量を設定する必要はないと考えたこと。
(i)牟呂松原頭首工(直下流)地点における流水の正常な機能を維持するため必
要な流量については,同地点の過去20年間の実績流況,同地点下流の既得水利,
上記(d)ないし(g)の各検討項目からの必要流量,流況安定施設建設の可能性等を総
合的に考慮し,これを5㎥/sとすることとしたこと。なお,この流量は,昭和4
6年3月に策定された豊川水系工事実施基本計画において定められた正常流量であ
ること。
d上記のとおり豊川水系河川整備基本方針においては牟呂松原頭首工直,,(
下流地点の過去20年間の実績流況同地点下流の既得水利流水の正常な機能),,
を維持するため必要な流量の各検討項目から求められた必要流量,流況安定施設建
設の可能性等を総合的に考慮して,同地点における正常流量を従前と同様におおむ
ね5㎥/sと定めたものであって,上記各検討項目から求められた必要流量の客観
性等については議論の余地があり得るとしても,少なくとも,その正常流量が著し
く合理性を欠くほど過大なものであるとは認められない。
そして,豊川水系河川整備計画においては,豊川水系河川整備基本方針で定めら
れた上記正常流量を踏まえ,豊川における動植物の保護,漁業,観光・景観,流水
の清潔の保持といった河川環境の保全の観点から,渇水時などにおいて水涸れ状態
となっている大野頭首工下流での河川流量を回復するとともに,渇水時における牟
呂松原頭首工(直下流)地点の河川流量を増加するために,牟呂松原頭首工(直下
流地点で5㎥/s大野頭首工直下流地点で13㎥/s寒狭川頭首工直),().,(
下流)地点で3.3㎥/sの利水上の制限流量を設定したのであって,この利水上
の制限流量の設定が合理性を欠くものであるとは認められない。
(エ)さらに,原告らは,大野頭首工下流の水涸れ状態は,制限のない主として農
業用水の取水のために生じているのであるから,水涸れ状態の解消のためには,そ
のような取水の規制をまず行うべきで,環境への悪影響の大きいダム建設を所与の
前提にすべきではない旨主張する。
しかしながら,豊川水系河川整備計画においては,渇水時における河川流量の増
加や既得用水の取水の安定化を図るためには,受益地域における節水活動等が考え
られるとしつつ,実効の確実性,社会的な影響等を考慮し,流況安定施設として設
楽ダムを建設するとともに,河川流水の総合的な運用を行うために必要な施設や情
報伝達システムを整備するという方策を採用したのである。こうした方策の決定が
されるに至る過程では,多数回にわたって開催された「豊川の明日を考える流域委
員会」で学識者等の意見が聴取され,また,関係住民や被告知事の意見も聴取され
ていることをも併せて考えれば,その方策決定は,河川管理者の有する裁量権の範
囲を逸脱するものであるとは認められない。
(オ)小括
以上のとおり,流水の正常な機能の維持の目的に関する原告らの主張は,いずれ
も採用することができない。そして,他に,設楽ダム基本計画のうち流水の正常な
機能の維持に関する部分に著しく合理性に欠ける点があると断ずるに足りる事情は
認められない。
ウ水道用水に係る新規水資源開発の目的について
(ア)豊川水系フルプランにおいては,その計画の目標年度である平成27年度に
おける都市用水(水道用水及び工業用水)の需要の見通しを約6.1㎥/sと想定
し,近年の降雨状況等による流況の変化を踏まえた上で,地域の実情に即して安定
的な水の利用を可能にすることを供給の目標とし,その目標を達成するための施設
として設楽ダムを建設することとしている。
,,,これを受けて設楽ダム基本計画においては設楽ダムの建設目的の一つとして
水道用水に係る新規水資源開発を掲げ,最大600万㎥の貯留容量を利用して,新
たに0.179㎥/sの取水を可能にすることとしている。
(,,,,,,,,,,(イ)証拠甲6の2甲7935の12甲48乙794850
54,証人B)によれば,豊川水系フルプランにおける都市用水の需要想定及び供
給の目標については,次の事実が認められる。
a需要想定について
(a)豊川水系フルプランにおける水道用水及び工業用水の需要想定値(別紙3参
照は国土交通省土地・水資源局水資源部以下水資源部というが関係県),(「」。)
である愛知県及び静岡県に対して依頼した需給想定調査の結果を基にして設定され
た。なお,設定に際しては,関係県による需要想定値と水資源部が全国的な統計デ
ータ等に基づいて算出した需要試算値との比較検討が行われた。
,。(b)愛知県需給想定調査における水道用水の需要想定は別紙5のとおりである
上記需要想定においてはその主要な部分を占める上水道の分につき上水道給,,「
水人口推計に一人一日平均給水量推計を乗じたものを負荷率と利()」「()」「」「
用量率」で除して「一日最大取水量」を求める方法が採用された(一日最大取水,「
量」=「上水道給水人口(推計」×「一人一日平均給水量(推計」÷「負荷率」))
÷利用量率このうち負荷率は給水量の変動を見込むための補正係数であ「」)。,「」
り(負荷率」=「一日平均給水量」÷「一日最大給水量「利用量率」は取水ロ「」),
スや浄送水ロスを見込むための補正係数である利用量率=給水量÷取水(「」「」「
量。」)
愛知県は上記需要想定において上水道の負荷率については近年10か年平,,,(
成6年から平成15年)の下位3か年の平均値である79.1%とし,また,利用
量率については,水資源開発施設分につき,導水ロス5%,浄水及び配水ロス10
%を採用し,その結果,全体としての上水道の利用量率は92.3%となった。
.,(c)水資源部が算出した愛知県の水道用水の需要試算値は420㎥/sであり
愛知県需給想定調査の需要想定値4.53㎥/sとは開きがあった。この数値の違
いは,愛知県需給想定調査の需要想定では利用量率を92.3%としていたのに対
し,水資源部による試算では水道統計等から算出される利用量率の平成15年度の
実績値98.8%を用いたことによるものであった。国土審議会水資源開発分科会
(,「」。),豊川部会及び同分科会以下両者を併せて豊川部会等というの審議では
過年度の利用量率実績の中に100%を超える年度があることなどから,平成15
.,.年度の実績値988%は採用し難いと判断され愛知県の想定する利用量率92
3%が採用された。この利用量率を用いると水資源部の試算値は4.49㎥/sと
,。,なり愛知県需給想定調査の需要想定値との差はわずかとなった豊川部会等では
将来の水需要の見通しは,地域の実情を踏まえて設定されることが望ましいことか
ら,愛知県需給想定調査の需要想定値を採用することが妥当であると判断された。
,。(d)愛知県需給想定調査における工業用水の需要想定は別紙6のとおりである
上記需要想定においては「一日平均給水量(推計」に「大規模開発要因加算分,)
)」「」「」,「」(推計を加算したものを負荷率と利用量率で除して一日最大取水量
を求める方法が採用された一日最大取水量=一日平均給水量推計+大(「」《「()」「
規模開発要因加算分(推計》÷「負荷率」÷「利用量率。)」」)
愛知県は,上記需要想定において,大規模開発要因加算分として,臨海工業用地
(面積244.2ha)に対する補給水量として1日当たり3万1090㎥を計上し
た。
.,(e)水資源部が算出した愛知県の工業用水の需要試算値は123㎥/sであり
愛知県需給想定調査の需要想定値1.38㎥/sとは近い値であったが,内容には
相違があった。すなわち,実績データを基とする推計においては,愛知県需給想定
調査における推計値が0.40㎥/s低いが,愛知県需給想定調査においては企業
進出に伴う必要水量分(大規模開発要因加算分)として,0.55㎥/sを需要と
して見込み加算した結果,両者の差はわずかなものとなったのであった。豊川部会
等の審議では,将来の水需要の見通しは,地域の実情を踏まえて設定されることが
望ましいことから,愛知県需給想定調査の需要想定値を採用することが妥当である
と判断された。
b供給の目標について
(a)豊川水系フルプランの策定過程では,①ダム等の水資源開発施設が計画さ
れた当時と比べ,近年では少雨の年が多くなり,毎年の降水量の変動が大きくなる
傾向にあり,これと併せて,降雨総量の年平均値が減少傾向を示していること,②
このような近年の降雨状況の傾向等により河川流量が減少してきているため,渇
水時には,当初計画していたとおりの安定的な水の供給や利用が困難になっている
,,との認識の下目標年度である平成27年度における水需給の見通しに当たっては
「水需要の見通し」と「供給施設の安定性を評価した供給可能量(近年の20年間
)」,で2番目の規模の渇水時における安定供給可能量の両者を比較することにより
将来における水利用の安定性が検討された。
(b)上記の検討において,施設実力調査等を基にして,豊川水系における供給施
,(,)設の安定性を評価したところ設楽ダムがない現況の施設宇連ダム大島ダム等
(。),及び設楽ダム完成後の施設現況の施設に設楽ダムが加わるのそれぞれにつき
開発水量計画値安定供給可能量近年の20年間で2番目の規模の渇水時平(),(《
成7年度において年間を通じて供給が可能となる水量近年最大渇水時供給可能》),
量(近年の20年間で最大規模の渇水であった平成8年度において年間を通じて供
給が可能となる水量)は,別紙7のとおりであると認められた。
(c)そして,上記の検討の結果,水道用水及び工業用水について,これまでに整
備した施設とこれから整備する設楽ダム等によって,近年の20年間で2番目の規
模の渇水時において供給が可能と見込まれる水量は6.5㎥/sとなり,目標年度
である平成27年度における水需要の見通しである約6.1㎥/sを満たすことが
できると判断された。
(ウ)原告らは,豊川水系フルプランにおいて,ダム等の水資源開発施設が計画さ
れた当時と比べ近年では少雨の年が多くなり,渇水時には当初計画していたとおり
の安定的な水の供給や利用が困難になっているとの認識の下に,近年の20年間で
2番目の規模の渇水時においても安定的な水の利用を可能にすることを供給の目標
として,設楽ダムを建設することとしている点について,統計上,少雨化傾向があ
るとはいえない旨主張する。
証拠(甲82,証人E)によれば,国土交通省が豊川水系フルプランの策定過程
において近年少雨化傾向があることを示すために作成した年間総雨量の変化を記載
した資料(x軸に年,y軸に年間総雨量を記載した折れ線グラフ。本判決に別紙8
として添付する)には「y=−2.2276x+2442.8」という回帰式が。,
記載されているが,その回帰式の決定係数を計算すると0.0079となること,
統計学上,回帰式については,その決定係数が正の相関であれば1,負の相関であ
ればマイナス1に近いほど,相関関係を示す回帰式として有効性が高いと評価され
ることが認められる。そうすると,上記資料から統計学上直ちに近年少雨化傾向が
あると断ずることは困難である。しかしながら,上記資料によれば,年ごとの年間
総雨量に大きな変動があることは明らかであり,少雨の年においても安定的な水の
利用を可能にするという観点からすれば,豊川水系フルプランが近年の20年間で
2番目の規模の渇水時においても安定的な水の利用を可能にすることを供給の目標
,。として施設整備の計画を立てたことには合理性を欠く点はないというべきである
(エ)また,原告らは,豊川水系フルプランの基礎となった愛知県需給想定調査の
水道用水及び工業用水の需要想定値は,実績の傾向と連続性がなく,実績とかい離
した過大な値となっている旨主張し,証人Eはそれに沿う証言をし,同人作成の意
見書等(甲53の1,82)にもその旨の記載がある。
まず,水道用水の需要想定値について検討する。前記のとおり,愛知県需給想定
調査の需要想定では,上水道につき負荷率が79.1%,利用量率が92.3%と
されているところ,証拠(甲7,乙54)によれば,①愛知県の上水道(豊川水
系フルプラン需要想定区域内のもの)の昭和55年度から平成15年度までの各年
度の負荷率の実績値を見ると,平成3年度までは,昭和63年度が81.0%とな
っているのを除き,いずれも80%未満であり,最も低い昭和59年度は71.6
%となっているが,平成4年度以降は,平成7年度が78.4%となっているのを
,,.,除きいずれも80%を超えており直近5か年度では平成11年度が845%
平成12年度が83.0%,平成13年度が84.0%,平成14年度が83.8
%,平成15年度が85.5%となっていること,②同じく利用量率について,
昭和55年度から平成15年度までの各年度の実績値を見ると,98%を下回った
.,.のは昭和55年度の974%のみであり直近5か年度では平成11年度が99
0%,平成12年度が99.3%,平成13年度が99.1%,平成14年度が9
9.0%,平成15年度が98.8%となっていることが認められる。これらの実
績値と比較して見ると,愛知県需給想定調査の需要想定においては,上水道の利用
量率が相当低く設定されており,負荷率についても近年の傾向に沿わずに低く設定
されていることが明らかである。負荷率及び利用量率が低く設定されると,需要想
定値が大きくなる関係にあるから,過去の実績に照らして考えると,平成27年度
における実際の水道用水の需要量は,愛知県需給想定調査の需要想定値に達しない
可能性が相当高いものと思われる。
次に,工業用水の需要想定値について見ると,愛知県需給想定調査の需要想定に
おいては,大規模開発要因加算分として,臨海工業用地(面積244.2ha)に対
する補給水量として1日当たり3万1090㎥を計上しているが,そのような工業
用水の需要が見込まれる大規模な開発が行われる予定があることを示す証拠は本件
訴訟において提出されておらず,工業用水についても,平成27年度における実際
の需要量は,愛知県需給想定調査の需要想定値に達しない可能性が相当高いものと
思われる。
以上のとおり,豊川水系フルプランの基礎となった愛知県需給想定調査の水道用
水及び工業用水の需要想定には,平成27年度における実際の需要量がその需要想
定値に達しない可能性が相当高いという問題があることは確かである。しかしなが
ら,水道は,国民の日常生活に直結しその健康を守るために欠くことのできない設
備であり,また,産業の維持,発展のためにも安定した水の供給が要請されるもの
である。その一方で,水資源開発施設については,その整備に長期間を要し,急に
水需要が増大しても,その施設が完成するまでは供給を行うことができないという
,,特質を有していることを考慮すると水資源開発基本計画を策定するに当たっては
長期的な視点に立って将来の当該地域における経済,社会の発展にも十分対応でき
るよう水需要の見通しを立てる必要があるものである。このような点に加え,後記
(オ)のとおり設楽ダムがない現況の施設の下での安定供給可能量河川自流による,(
供給量等を含むと水資源部が試算した需要試算値同試算値は平成15年度の。)(,
利用量率の実績値988%を用いて算出したものであるを比較すると後者が.。),
前者を大きく上回っていることをも勘案すれば,愛知県需給想定調査の水道用水及
び工業用水の需要想定に上記の問題があるからといって,それをもって,直ちに,
上記需要想定を前提として策定された豊川水系フルプランが著しく合理性を欠くも
のであるとまで断ずることはできない。
(オ)豊川水系フルプランの策定過程で行われた豊川水系における供給施設の安定
性の評価によれば,別紙7のとおり,設楽ダムがない現況の施設の下では,開発水
量(計画値)は上水道につき4.18㎥/sとされているが,近年の20年間で2
()番目の規模の渇水時において年間を通じて供給が可能となる水量安定供給可能量
は上水道につき2.59㎥/sであり,これに河川自流による供給量0.50㎥/
s及び地下水による供給量0.56㎥/s並びに他水系への依存量0.02㎥/s
(以上の数値については別紙3参照)を加えても,その供給量は3.67㎥/sに
とどまるものである。一方,平成27年度における愛知県の水道用水の需要量につ
いて,平成15年度の利用量率の実績値98.8%を用いて算出した水資源部の需
要試算値は4.20㎥/sとなっており,その値は上記の設楽ダムがない現況の施
設の下での安定供給可能量(河川自流による供給量等加えたもの)3.67㎥/s
を大きく上回っていることからすれば,豊川水系フルプランにおいて,設楽ダムの
建設により近年の20年間で2番目の規模の渇水時にも安定的な水の利用を可能に
することを供給の目標とし,その際,設楽ダムにより0.18㎥/sの水道用水に
係る新規水資源開発をしようとしたことが著しく合理性を欠くものであるというこ
とはできない。
なお原告らは東三河工業用水道事業において牟呂松原頭首工で0.903㎥/,,
sを取水することになっているものの,現在,全くその取水がされていない点(こ
の事実は,甲14,乙34の1ないし10,乙51及び弁論の全趣旨により認めら
れるを指摘するがもとより将来における新たな工場立地や経済の発展の可能。),,
性を考えれば,上記工業用水道事業による取水が将来にわたって行われないという
ことが確実なわけではないから,原告らの指摘する点は,設楽ダムにより0.18
㎥/sの水道用水に係る新規水資源開発をしようとしたことが著しく合理性を欠く
ものであるということはできないという上記の判断を左右するものではない。
(カ)小括
以上のとおりであるから,原告らの主張する諸点を考慮しても,設楽ダム基本計
画のうち水道用水に係る新規水資源開発に関する部分に著しく合理性に欠ける点が
あると断ずることはできず,他にそのように断ずるに足りる事情は認められない。
エ農業用水に係る新規水資源開発の目的について
(ア)豊川水系フルプランにおいては,その計画の目標年度である平成27年度に
.,,おける農業用水の新規需要水量の見通しを約03㎥/sと想定しこれを受けて
設楽ダム基本計画においては,設楽ダムの建設目的の一つとして,農業用水に係る
新規水資源開発を掲げ,最大700万㎥の貯留容量を利用して,新たに0.339
㎥/s(年平均)の取水を可能にすることとしている。
(イ)証拠(甲6の2,甲9,33の1,2,甲51,74の1ないし3,乙7,
9,10,49,50,証人C)によれば,豊川水系フルプランにおける農業用水
の需要想定については,次の事実が認められる。
a豊川水系フルプランにおける農業用水に係る新規需要想定値(別紙4参照)
は,農林水産省需給調査の結果に基づいて設定された。農林水産省需給調査は,農
林水産省東海農政局が主体となって行い,愛知県は,農業振興計画等基礎資料の提
供や需給想定の確認などの作業協力を行った。
b一般に,水資源開発基本計画に記載される農業用水の需要水量は,当該基本
計画の策定時又は変更時に,関係する地方公共団体の総合計画,農業振興計画,農
業基盤の整備状況等を踏まえつつ,計画されている営農を行うために新たに必要と
なる水量である。具体的には「消費水量(かんがい面積と単位面積当たりの消費,」
水量から算定された水量から有効雨量農業用水として有効に利用できる降雨)「」(
量)を差し引いて「純用水量」を求め,これに損失率(用水が取水口から農地まで
送水される各段階で失われる水量を率に換算した値)を加味して「粗用水量」を求
めた上「粗用水量」から「地区内利用可能量(ため池等により現況で地区内で利,」
用可能な水量)と「既開発水量」を差し引いて「新規需要水量」を算出する方法に
よる。
c農林水産省需給調査においては,上記の一般的な新規需要水量の算出方法に
従い,東三河地域等の受益区域面積約1万7800haの農地に対する粗用水量を1
(,「」。。)億9918万9000㎥/年なお/年は1年当たりを意味する以下同じ
と求め,これから地区内利用可能量2178万1000㎥/年と既開発水量1億6
668万3000㎥/年を差し引いて,新規需要水量を1072万5000㎥/年
と算出した。
以上の新規需要水量の計算は,豊川総合用水事業の営農計画を見直した新たな営
農計画に基づき,設楽ダムの計画基準年である昭和43年を計画基準年として行わ
,,,,れたものであるがその計算に当たっては特に将来における営農改善のために
以下のような畑作営農の増進と状況変化に対応できる水利用計画とされた。
(a)畑作営農の増進
営農改善の主な目標として,畑作営農による施設(ハウス)とトンネル栽培の作
付けを増進することとしているため,畑地かんがいの対象面積が増加する。
(b)水田用水量の増加
三河湾沿岸の干拓地に位置する水田地帯の一部区域において,排水改良が進展し
たことに伴い,地下水位が低下していると考えられ,その結果として減水深(水稲
栽培の単位面積当たりの消費水量)が増加している。
(c)減少した地区内利用可能量の補完
生活雑排水等の流入による水質悪化等により,ため池等の地区内水源の利用可能
な水量が減少していることから,新たな水源確保が必要になっている。
d豊川水系フルプランにおいては,上記cの新規需要水量1072万5000
㎥/年を毎秒換算して,農業用水に係る新規需要水量を0.34㎥/s(年平均)
と想定し,これを設楽ダムによって供給することとしている。
(ウ)原告らは,農業用水の新規需要水量の算出に当たり,粗用水量から差し引き
する既開発水量は既開発の豊川用水と豊川総合用水の供給量(1億9710万㎥/
年)でなければならないのに,農林水産省需給調査において既開発水量とされた1
億6668万3000㎥/年は,昭和43年(設楽ダム計画基準年)における需要
量であって,上記供給量ではないから,農林水産省需給調査は需給計算に用いるも
のを誤っている旨主張する。
そこで,検討するに,証拠(乙27,49,証人C)によれば,①農林水産省
需給調査における農業用水の新規需要水量の計算に当たり用いられた既開発水量1
億6668万3000㎥/年は,豊川総合用水事業の営農計画に基づき,昭和43
年を計画基準年として算定した水源への依存水量であり,その水源は豊川自流水及
び貯水施設(宇連ダム,大島ダム,調整池,佐久間ダム,寒狭川頭首工)であるこ
と,②一般に,農業用水の開発水量とは,水資源開発の対象となる河川本川の自
流水及びダム貯留水に依存する水量を指しており,ダム等の水源施設が有する供給
能力を指すものではないこと,③この開発水量は,かんがい区域における消費水
量から計画基準年における有効雨量を差し引き,損失率を加味した粗用水量から地
区内利用可能量を差し引いて算定されるため,各年の降水量等の降雨条件によって
,,,大きく変動し一般的には年間降水量が少ない年の方が多い年よりも大きくなり
夏渇水の年の方が冬渇水の年よりも大きくなること,④設楽ダムの計画基準年で
ある昭和43年は,水田に大量に水が必要な夏期には降水量が比較的多く,夏期に
(),比べ消費水量が少ない冬期における降水量が少ない年冬渇水の年であったため
開発水量は1億6668万3000㎥と小さくなっており,一方,豊川総合用水事
業の計画基準年である昭和22年は,水田に大量に水が必要な夏期における降水量
が少ない年(夏渇水の年)であったため,開発水量は1億9700万㎥と大きくな
っていることが認められる。
農業用水の新規需要水量を計算するに当たり,粗用水量から既開発水量及び地区
,,内利用可能量を差し引くのは粗用水量から現況で利用が可能な水量を差し引いて
新たに必要となる水量を計算しようとするものであるが,現況で利用が可能な水量
というのは,降雨条件や河川の流況等によって大きく変動するものであり,既存の
利水施設の整備計画で定められた計画水量を常に利用することができるわけではな
い。こうした点を考慮すると,農業用水の新規需要水量を計算するに当たり,計画
基準年という一定の年における降雨条件等の下で,河川やダム貯留水という既存の
水源に依存する水量をもって既開発水量とすることは合理性を欠くものであるとは
いえない。
農林水産省需給調査において既開発水量とされた1億6668万3000㎥/年
が昭和43年(設楽ダム計画基準年)における需要量であることは,原告らの主張
するとおりであるが,上記水量が既開発水量とされたのは上述の趣旨によるもので
あって,農林水産省需給調査における農業用水の新規需要水量の計算に誤りがある
とは認められない。
したがって,原告らの主張は採用することができない。
(エ)また,原告らは,豊川水系フルプランにおける農業用水の新規需要水量の想
定について,①受益面積が過大に設定されており,特に,かんがい用水を大量に
必要とする水田面積が大きく減少し,施設畑を含む畑地面積や樹園地面積も減少し
続けており,全体として新規需要は発生しない,②水田用水量の増加原因とされ
た排水改良については,当該排水改良によって新規の水田用水需要量が発生するこ
とはあり得ない,③生活雑排水等の流入による水質悪化等により,ため池等の地
区内水源の利用可能な水量が減少し,この減少補完分の新規需要が発生するとして
いるが,ため池の保全を進めることによって,必要かつ十分なため池を整備するこ
とが可能であるとし,豊川水系フルプランの既設供給施設の供給を上回る農業用水
の新規需要は認められない旨主張する。
しかしながら,証拠(甲74の3,乙9,31,32の1,2,乙33,49,
証人C)によれば,①農林水産省需給調査においては,農業用水の新規需要水量
を計算するに当たり,豊川用水地区の関係土地改良区の賦課台帳を基に受益面積を
設定し,消費水量の計算に当たっては,過去の作付け実態や関係市長の水田農業ビ
ジョン等の計画を参考にしたこと,②東三河地域等の受益区域は,温暖な気候や
良好な立地条件を活かし,全国有数の畑作地帯であり,畑地は全受益面積の6割以
上を占めているところ,この地域においては,温室栽培(ガラス室,ハウス類によ
るもの)やトンネル栽培(メロンなどの露地栽培において植付け後の保温や防鳥・
防虫等のため作物をビニールシートで覆う栽培方法)などの施設的営農が増加して
おり(ガラス室,ハウス類による栽培面積は,平成7年において合計約1872ha
だったのが,平成17年において合計約2133haとなっていて,10年間で約1
4%増加している,こうした施設的営農においては,降雨(有効雨量)の利用が。)
見込めないため,農業用水の需要量が増加する要因となること,③排水改良が進
展した三河湾沿岸の干拓地に位置する水田地帯の一部区域において減水深が増加し
た事実については,独立行政法人水資源機構が行った実際の調査結果によって確認
されたものであること,④農業用水として利用できるため池の減少については,
愛知県の調査結果に基づき,潰廃や水質汚濁等により既に使用していないため池を
利用不可能としたものであること,⑤豊川用水における農業用水の取水実績は,
,,平成17年が1億8755万7000㎥平成18年が1億9853万3000㎥
平成19年が2億0826万3000㎥と,平成17年以降2年連続して増加して
いることが認められる。
以上の事実に照らせば,豊川水系フルプランにおける農業用水の新規需要水量の
想定が事実の基礎を欠くものであるということはできず,上記想定が著しく合理性
を欠くものであると断ずることはできない。
(オ)小括
以上のとおり,農業用水に係る新規水資源開発の目的に関する原告らの主張は,
いずれも採用することができない。そして,他に,設楽ダム基本計画のうち農業用
水に係る新規水資源開発に関する部分に著しく合理性に欠ける点があると断ずるに
足りる事情は認められない。
オ設楽ダムの目的に関しての総括
以上によれば,洪水調節,流水の正常な機能の維持並びに水道用水及び農業用水
に係る新規水資源開発を目的とする多目的ダムとして設楽ダムを建設することを定
めた設楽ダム基本計画が著しく合理性を欠くものであると断ずることはできない。
(4)環境影響評価等について
設楽ダムの建設事業は,環境影響評価法2条2項1号ロ所定の第一種事業に当た
るから,事業者(中部地方整備局長)は環境影響評価を行うことが義務付けられる
ところ,証拠(乙16ないし19,20の1ないし3,乙35ないし37,47,
64,104ないし106,証人F)によれば,設楽ダムの建設事業については,
平成16年11月24日から同年12月24日まで,環境影響評価方法書の公告及
び縦覧が行われ,以後,同法の規定に従って環境影響評価の手続が進められ,平成
19年6月29日から同年7月30日まで,補正後の環境影響評価書の公告及び縦
覧が行われて,環境影響評価の手続を終了したことが認められる。
原告らは,設楽ダム環境影響評価について,調査地域の設定を誤り,生態系や稀
少生物種に与える影響を過小評価しているなどとして,設楽ダム環境影響評価がダ
ム事業指針に反し,環境影響評価法12条1項に違反すると主張し,また,設楽ダ
ムの建設は環境に悪影響を与えるものであって違法なものである旨主張する。
しかしながら,これらの原告らの主張は,環境影響評価の方法や評価の内容につ
いての当不当の意見をいうものであるか,又は,環境保全の観点から設楽ダムの建
設の是非についての意見をいうものにすぎず,設楽ダム基本計画が著しく合理性を
欠き,そのためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存すると
いうことを理由付ける主張としては足らないものである。
したがって,原告らの主張は採用することができない。
(5)かんがい利用者負担金に係る負担金の支出について
原告らは,かんがい利用者の負担金に係る愛知県の負担金については,特ダム法
10条3項に基づくかんがい利用者の負担金の徴収に係る条例が存在しない下で,
同県がかんがい利用者の負担金に係る負担金を負担し,国に納付することは違法で
ある旨主張する。
(),前記第2の1多目的ダムの建設費の負担等に関する法令の定め記載のとおり
特ダム法10条1項に基づくかんがい利用者の負担金は,都道府県知事が徴収し,
徴収を受ける者の範囲及び徴収の方法については,都道府県の条例で定めることと
されているが特ダム法10条3項9条2項特ダム法施行令13条により上(,),,
記負担金については,元利均等年賦支払の方法により支払わせるものとし,その支
払期間は,多目的ダムの建設が完了し,かつ,土地改良法による国営土地改良事業
又は都道府県営土地改良事業により専用の施設の新設又は拡張が行われるときは,
その工事が完了した年の翌年から起算して15年を下らない期間とされているので
ある。一方,河川法60条1項及び特ダム法8条1項に基づき多目的ダムの建設費
につき都道府県が負担すべき負担金の中には,かんがい利用者の負担金の額に相当
するものも含まれているが,都道府県が負担すべき上記負担金については,当該多
目的ダムの建設工事が完了する前であっても,国土交通大臣が発する納付通知に従
って支払をしなければならないものである(河川法64条1項,河川法施行令38
条1項。)
このような法令の定めに照らせば,かんがい利用者の負担金に係る都道府県の負
担金については,特ダム法10条3項に基づくかんがい利用者の負担金の徴収に係
る条例がいまだ定められていないとしても,都道府県は,かんがい利用者の負担金
に係る部分を含めて当該都道府県の負担金を納付する義務を免れないものである。
そうであるとすれば,特ダム法10条3項に基づくかんがい利用者の負担金の徴
,,収に係る条例が存在しなくとも設楽ダムの建設費に係る愛知県の負担金について
被告知事が,国土交通大臣が発する納付通知を受けて,かんがい利用者の負担金に
係る部分を含めて同県の負担金を納付するために支出命令を行うことは,財務会計
法規上何ら違法と評価されるものではないというべきである。
したがって,原告らの主張は採用することができない。
(6)まとめ
以上によれば,設楽ダム基本計画については,それが著しく合理性を欠き,その
ためこれに予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存するということは
できず,設楽ダム基本計画に基づいて国土交通大臣が発する愛知県の負担金につい
ての納付通知に予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存するというこ
ともできないから,上記納付通知を受けて行われる被告知事の支出命令及び被告企
業庁長の支出は,財務会計法規上違法と評価されることはないというべきである。
第4結論
よって,本件訴訟のうち,甲事件原告X1及び甲事件原告X2に関する部分につ
き,当該原告の死亡による訴訟終了宣言をし,その余の原告らの請求は理由がない
から,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第9部
増田稔裁判長裁判官
杉浦一輝裁判官
裁判官前田郁勝は,転補につき署名押印することができない。
増田稔裁判長裁判官
〔別紙の添付省略〕

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