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平成25年5月30日判決言渡
平成21(行ウ)第310号所得税決定処分取消等請求事件(第1事件)
平成21年(行ウ)第316号源泉所得税納税告知処分取消等請求事件(第2事件)
平成22年(行ウ)第60号市民税及び県民税賦課決定処分取消等請求(第3事件)
主文
1原告P1の被告国に対する請求について(第1事件関係)
(1)別紙1「却下部分目録」記載の訴えを却下する。
(2)別紙2「取消対象処分目録」記載1ないし4の各処分をいずれも取り
消す。
(3)原告P1の被告国に対するその余の請求を棄却する。
2原告会社の被告国に対する請求について(第2事件関係)
原告会社の被告国に対する請求をいずれも棄却する。
3原告P1の被告川口市に対する請求について(第3事件関係)
(1)別紙3「取消対象処分目録」記載1ないし4の各処分をいずれも取り
消す。
(2)原告P1の被告川口市に対するその余の請求を棄却する。
4訴訟費用については,①原告P1に生じた費用の5分の1,被告国に
生じた費用の10分の1,被告川口市に生じた費用の3分の1を原告P1
の負担と,②原告会社に生じた費用と被告国に生じた費用の10分の3
を原告会社の負担と,③原告P1に生じた費用の5分の3と被告国に生
じた費用の10分の6を被告国の負担とし,④原告P1に生じた費用の
5分の1と被告川口市に生じた費用の3分の2を被告川口市の負担とす
る。
事実及び理由
第1請求
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1第1事件
(1)西川口税務署長が平成18年12月18日付けで原告P1に対してした
原告P1の平成14年分の所得税に係る決定処分及び無申告加算税賦課決
定処分(ただし,平成25年2月8日付け更正処分及び無申告加算税の変更
決定処分によりそれぞれ一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。
(2)西川口税務署長が平成18年12月18日付けで原告P1に対してした原
告P1の平成15年分の所得税に係る更正処分及び過少申告加算税賦課決
定処分(ただし,平成25年2月8日付け更正処分及び過少申告加算税の変
更決定処分によりそれぞれ一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。
(3)西川口税務署長が平成18年12月18日付けで原告P1に対してした原
告P1の平成16年分の所得税に係る決定処分及び無申告加算税賦課決定
処分(ただし,平成25年2月8日付け更正処分及び無申告加算税の変更決
定処分によりそれぞれ一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。
(4)西川口税務署長が平成18年12月18日付けで原告P1に対してした原
告P1の平成17年分の所得税に係る決定処分及び無申告加算税賦課決定
処分(ただし,平成25年2月8日付け更正処分及び無申告加算税の変更決
定処分によりそれぞれ一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。
2第2事件
西川口税務署長が平成18年12月15日付けで原告会社に対してした平成
14年1月から同年12月まで及び平成16年1月から平成18年3月まで
の各月分の源泉徴収に係る所得税の各納税告知処分及び不納付加算税の各賦
課決定処分(ただし,平成24年11月15日付け各減額賦課決定処分による
変更後のもの)をいずれも取り消す。
3第3事件
(1)川口市長が平成20年12月3日付けで原告P1に対してした原告P1
の平成15年度分の市民税及び県民税に係る決定処分(ただし,平成25年
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3月14日付け市県民税変更決定処分によりそれぞれ一部取り消された後
のもの)を取り消す。
(2)川口市長が平成20年12月3日付けで原告P1に対してした原告P1の
平成16年度分の市民税及び県民税に係る決定処分(ただし,平成25年3
月14日付け市県民税変更決定処分によりそれぞれ一部取り消された後の
もの)を取り消す。
(3)川口市長が平成20年12月3日付けで原告P1に対してした原告P1の
平成17年度分の市民税及び県民税の決定処分(ただし,平成25年3月1
4日付け市県民税変更決定処分によりそれぞれ一部取り消された後のもの)
を取り消す。
(4)川口市長が平成20年12月3日付けで原告P1に対してした原告P1の
平成18年度分の市民税及び県民税に係る決定処分(ただし,平成25年3
月14日付け市県民税変更決定処分によりそれぞれ一部取り消された後の
もの)を取り消す。
(5)川口市長が平成21年2月23日付けで原告P1に対してした原告P1の
平成15年度分の市民税及び県民税に係る督促処分(ただし,平成25年3
月14日付け市県民税変更決定処分によりそれぞれ一部取り消された後の
もの)を取り消す。
(6)川口市長が平成21年2月23日付けで原告P1に対してした原告P1の
平成16年度分の市民税及び県民税に係る督促処分(ただし,平成25年3
月14日付け市県民税変更決定処分によりそれぞれ一部取り消された後の
もの)を取り消す。
(7)川口市長が平成21年2月23日付けで原告P1に対してした原告P1の
平成17年度分の市民税及び県民税に係る督促処分(ただし,平成25年3
月14日付け市県民税変更決定処分によりそれぞれ一部取り消された後の
もの)を取り消す。
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(8)川口市長が平成21年2月23日付けで原告P1に対してした原告P1の
平成18年度分の市民税及び県民税に係る督促処分(ただし,平成25年3
月14日付け市県民税変更決定処分によりそれぞれ一部取り消された後の
もの)を取り消す。
第2事案の概要
第1事件は,原告P1が,平成14年ないし平成17年の各年分の所得税に
ついて,西川口税務署長から,所得税法(平成18年法律第10号による改正
前のもの。以下同じ。)2条1項3号所定の居住者(以下「日本の居住者」と
いう。)に該当することなどを理由として,①所得税の確定申告をしていな
かった平成14年,平成16年及び平成17年の各年分については所得税の各
決定処分(以下「本件各所得税決定処分」という。)及び無申告加算税の各賦
課決定処分を,②確定申告をしていた平成15年分については所得税の更正
処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分を
受けたことに対し,上記各年(以下「本件各課税年」という。)において原告
P1は同項5号所定の非居住者(以下「日本の非居住者」という。)であった
し,仮に日本の居住者であったとしても,同項4号所定の非永住者(以下「日
本の非永住者」という。)であったから,原告P1が日本の居住者で,かつ,
日本の非永住者に当たらないことを前提にされた上記各課税処分(以下「本件
各所得税課税処分」という。)はいずれも違法である上,原告P1の所得の算
定にも誤りがあるなどと主張し,西川口税務署長が所属する国を被告として,
本件各所得税課税処分の取消しを求めている事案である。
第2事件は,原告会社が,平成14年1月から同年12月まで及び平成16
年1月から平成18年3月までの間に原告P1に対して支払った役員報酬や配
当等につき源泉所得税の徴収及び納付をしたところ,西川口税務署長から,原
告会社がした上記の各源泉徴収には原告P1を日本の非居住者としてされた誤
りがあるとして源泉所得税の各納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処
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分(これらの処分を,以下「本件各源泉所得税課税処分」という。)を受けた
ことに対し,原告P1は本件各課税年において日本の非居住者であったから,
原告P1が日本の非居住者に当たらないことを前提としてされた本件各源泉所
得税課税処分はいずれも違法であるなどと主張し,西川口税務署長が所属する
国を被告として,本件各源泉所得税課税処分の取消しを求めている事案である。
第3事件は,原告P1が,川口市長から,平成15年度分ないし平成18年
度分の市民税及び県民税(以下「住民税」という。)の各賦課決定処分(以下
「本件各住民税賦課決定処分」という。)及び各督促処分(以下「本件各住民
税督促処分」といい,本件各住民税賦課決定処分と併せて,以下「本件各住民
税関係処分」という。)を受けたことに対し,原告P1は米国の居住者であり
住民税の納付義務を負っていないから,本件各住民税関係処分は違法であるな
どと主張し,川口市長が所属する川口市を被告として,本件各住民税関係処分
の取消しを求めている事案である。
1法令の定め
本件に関係する法令の定めは,別紙4「関係法令の定め」のとおりである。
なお,事案の概要に記載したとおり,第1事件及び第2事件においては,原
告P1が本件各課税年において日本の居住者であったか否かが問題となって
いるところ,所得税法は,納税義務者を居住者,非居住者等の類型に分けて,
そのそれぞれについて課税所得の範囲等を定めている。すなわち,同法によれ
ば,①居住者(国内に住所を有し,又は現在まで引き続いて1年以上居所を
有する個人をいう(2条1項3号)。)は,その源泉が国内にあるか国外にあ
るかを問わず,すべての所得について納税義務を負う(5条1項,7条1項1
号)とされているのに対し,②非永住者(居住者のうち,国内に永住する意
思がなく,かつ,現在まで引き続いて5年以下の期間国内に住所又は居所を有
する個人をいう(2条1項4号)。)は,国内源泉所得(所得税法161条)
及びこれ以外の所得で国内において支払われ,又は国外から送金されたものに
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ついてのみ納税義務を負うとされ(5条1項,7条1項2号。以下「国内源泉
所得等」という。),③非居住者(居住者以外の個人をいう(2条1項5号)。)
は,国内源泉所得(161条)を有するときに限り,納税義務を負うとされて
いる(5条2項,7条1項3号)。
2前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨
により容易に認められる事実)
(1)当事者等
ア原告P1及びその家族
(ア)原告P1は,昭和▲年▲月▲日生まれの男性である。原告P1は,本
件各課税年において,原告会社のほか,アメリカ合衆国(以下「米国」
という。)ニューヨーク州所在のP2,Inc.(以下「P2社」とい
う。),株式会社P3(以下「P3」という。)及びP4株式会社(以
下「P4社」という。)の各代表取締役を務めていた。
(イ)原告P1は,昭和57年に妻P5及び長男P6(昭和▲年▲月▲日生。)
と共に渡米し,米国ニュージャージー州(以下「米国NJ州」という。)
オールドタッパンに土地・建物(以下「米国NJ州家屋」という。)を
購入し,同地での生活を開始した。(甲27の1ないし甲27の6,甲
60,63,164,原告P1本人[16頁])
(ウ)原告P1と妻P5の間には,長男P6のほか,次男P7(昭和▲年▲
月▲日生。),長女P8(昭和▲年▲月▲日生。),次女P9(平成▲
年▲月▲日生。)がいる(妻P5及び4人の子供を併せて,以下「本件
家族」という。)。
(エ)原告P1,妻P5,長男P6,次男P7及び長女P8は,平成11年
8月18日,それぞれ米国の永住権を取得した。なお,次女P9は,米
国で誕生したため,米国の国籍を有している。(甲7,10ないし13)
イ原告会社
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(ア)原告会社は,電子機器,電気機器及びコンピューター周辺機器の設計,
開発,製造及び販売等を目的とする株式会社P10(以下「P10」と
いう。)上場(平成16年12月株式上場)の株式会社であり,原告会
社のグループは,原告会社,原告会社が100%出資する海外販売子会
社2社及び欧州にある子会社(P11社)の100%出資に係る販売子
会社8社の11社により構成されている。(乙23,26)
(イ)原告P1は,昭和53年2月,原告会社の代表取締役社長に就任し,
平成9年2月から平成13年12月10日までの間は原告会社の代表取
締役会長を務め,同月11日に再度,原告会社の代表取締役社長に就任
し,現在に至っている。(乙26[4枚目])
ウP3
P3は,発行済株式総数1000株のうち,原告P1が710株,妻P
5が290株をそれぞれ保有し,原告P1の資産を保有管理することを主
な目的とする株式会社である。(乙20ないし22,26,原告P1本人
[50頁])
(2)原告P1の日本での居住状況等
ア本件各課税年における原告P1の日本での出入国の状況は別紙5「原告
P1の日本での出入国の状況」,国内外での滞在日数の状況は別紙6「原
告P1の国内外での滞在日数」各記載のとおりである。(乙24の1及び
乙24の2)
イ(ア)原告P1は,昭和53年11月30日から平成15年2月25日まで
は,妻P5と共同で川口市α×番地の1(以下「本件旧肩書地」という。)
に木造セメント瓦葺2階建ての建物(以下「本件旧家屋」という。)を
所有し,別紙7「原告P1の住民登録状況一覧」の1及び3の各期間に
つき,本件旧肩書地に住民登録をしていた。(乙7,8)
(イ)また,原告P1は,平成15年1月21日頃から現在まで,P3名義
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で川口市β×番11号(以下「本件肩書地」という。)に木造2階建て
の建物(以下「本件家屋」という。)を所有し,別紙7「原告P1の住
民登録状況一覧」の順号4,6,8,10,12及び14の各期間につ
き,本件肩書地に住民登録をしていた。(乙7,8,50,弁論の全趣
旨)
(3)原告P1による別紙8「物件目録」(以下「本件物件目録」という。)記
載の各土地(以下「本件各土地」という。)の取得及び譲渡
ア本件物件目録記載1(1)ないし(4)の各土地(これらの土地を併せて,以
下「本件A土地」という。)について
(ア)本件A土地の取得
原告P1は,昭和53年10月10日付けの土地付建物売買契約(以
下「本件A53土地等売買」といい,その契約書を,「本件A53土地
等売買契約書」という。)により,有限会社P12(以下「P12」と
いう。)から,本件物件目録記載1(1)及び(2)の各土地(以下「本件A
53土地」という。)及び同土地上の建物(以下「本件A建物」という。)
を代金1630万円で購入した(ただし,本件物件目録記載1(1)の土地
についてはP13から,同(2)の土地についてはP14から,いずれも同
年11月2日付け売買を原因として原告P1への所有権移転登記がされ
ている。)。(甲17,20,41の1)
また,原告P1は,昭和55年2月7日,P13から,本件物件目録
1(3)及び(4)の各土地(以下「本件A55土地」という。)を購入した。
(甲18,19)
なお,本件A土地の譲渡所得の計算に当たり,本件A55土地の取得
価額を66万0660円とすること(1坪当たりの単価を原告P1の記
憶に基づき40万円として計算すること)は当事者間に争いがない。
(イ)本件A土地の譲渡
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原告P1は,平成17年9月14日,株式会社P15(以下「P15」
という。)に対し,代金を1234万9696円(未経過固定資産税と
して原告P1が受領した1万8696円を含む。)として,本件A土地
を譲渡した。(乙3,4)
イ本件物件目録記載2(1)の土地(以下「本件B土地」という。)及び同(2)
の土地(以下「本件C土地」という。)について
(ア)本件B土地及び本件C土地(以下「本件B土地等」という。)の取得
原告P1は,昭和55年2月7日,P14から本件B土地を購入した。
(甲21,59の1及び甲59の2)
本件B土地の譲渡所得の計算に当たって,本件B土地の取得価額を2
444万2000円とすること(1坪当たりの単価を原告P1の記憶に
基づき40万円として計算すること)は当事者間に争いがない。また,
原告P1が平成15年2月5日付けで225万9110円を支出して本
件C土地を取得したことも当事者間に争いがない。
(イ)本件B土地等の譲渡
原告P1は,平成17年10月19日,P16に対し,売買代金を4
054万6558円(未経過固定資産税として原告P1が受領した3万
0558円を含む。)として,本件B土地等を譲渡した。(乙5,6の
1及び乙6の2)
なお,上記売買代金のうち,本件B土地分の譲渡価額を3243万3
009円とし,本件C土地分の譲渡価額を811万3549円とするこ
とは当事者間に争いがない。
(4)原告P1がP3に対してしたオルゴールその他の自動演奏機械(以下「オ
ルゴール等」という。)の譲渡
ア平成14年譲渡分
原告P1は,平成14年5月5日,P3に対し,売買代金を2億669
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5万3050円(206万7000米国ドル)として,原告P1所有のオ
ルゴール等87台(以下「平成14年譲渡オルゴール等」という。)を譲
渡した。(乙76)
イ平成15年譲渡分
原告P1は,平成15年5月1日,P3に対し,売買代金を4215万
円として,原告P1所有のオルゴール等43台(以下「平成15年譲渡オ
ルゴール等」といい,平成14年譲渡オルゴール等と併せて,以下「本件
オルゴール等」という。)を譲渡した。
(5)原告会社等による原告P1に対する役員報酬の支払
ア原告会社は,原告P1に対し,①平成14年及び平成15年には各3
550万8000円,②平成16年には6513万9111円,③平
成17年には7402万8000円の各役員報酬(以下「原告会社役員報
酬」という。)を支払った。
イP2社は,原告P1に対し,①平成14年には19万9999米国ド
ル,②平成15年には18万7999米国ドル,③平成16年には1
9万9120米国ドル,③平成17年には19万5539米国ドルの各
役員報酬(以下「P2社役員報酬」という。)を支払った。
(6)P3に対する貸付金に係る受取利子(乙1[9枚目],2[13枚目],
20[3枚目],21[3枚目])
ア原告P1は,P3に対して貸付けをしていたところ,平成14年には2
37万8958円,平成15年には388万1587円,平成16年には
410万1974円,平成17年には494万8820円の利子をそれぞ
れ受領した。
イ原告P1は,上記アの貸付けを行うため,金融機関から金銭の借入れを
していたところ,当該借入金の支払利子の金額は,平成14年は166万
1238円,平成15年は232万3017円,平成16年は416万8
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210円,平成17年は340万3679円であった。
(7)原告会社による源泉徴収等
原告会社は,原告P1に対して支払った平成14年1月から同年12月ま
で及び平成16年1月から平成18年3月までの各月分の各役員報酬並びに
平成16年2月分及び平成17年2月分の各配当については,原告P1を日
本の非居住者として源泉所得税を徴収し,平成15年1月から同年12月ま
での各月分の各役員報酬及び同年2月分の配当については,原告P1を日本
の居住者として源泉所得税を徴収した。
(8)課税処分の経緯等
ア原告P1に対する課税処分の経緯等
(ア)原告P1は,平成16年3月15日,平成15年分の所得税について,
総所得金額を3289万1030円,給与所得の金額を3203万26
00円,一時所得の金額を85万8430円,納付すべき税額を6万2
200円とする確定申告書(以下「平成15年分確定申告書」という。)
を提出して法定申告期限までに申告(以下「平成15年分確定申告」と
いう。)をした。(乙43)
(イ)原告P1は,平成14年分,平成16年分及び平成17年分の所得税
については,確定申告書を提出しなかった。
(ウ)西川口税務署長が原告P1に対してした本件各所得税課税処分の経緯
等は,別表1「本件各所得税課税処分の経緯等(平成14年分所得税)」
ないし別表4「本件各所得税課税処分の経緯等(平成17年分所得税)」
各記載のとおりである。なお,本件各所得税課税処分につき,平成25
年2月8日付けでそれぞれ減額更正処分及び無申告加算税又は過少申告
加算税の変更決定処分がされているが,これらの処分を以下「本件第4
減額更正処分等」という。)
イ原告会社に対する課税処分の経緯等
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西川口税務署長が平成18年12月15日付けで原告会社に対してした
平成14年1月分ないし同年12月分及び平成16年1月分ないし平成1
8年3月分までの各月分の源泉所得税の納税告知処分(以下「本件納税告
知処分」という。)及び不納付加算税の賦課決定処分(以下「本件原告会
社賦課決定処分」という。)の経緯等は,別表5「本件各源泉所得税課税
処分の経緯等」記載のとおりである。
ウ被告川口市による課税処分の経緯等
(ア)川口市長は,平成16年6月1日,原告P1に対し,原告P1が提出
した平成15年分確定申告書に基づき,平成16年度分の住民税の賦課
決定処分をし,同日,賦課決定通知を原告P1に発送した。
(イ)川口市長は,平成16年8月9日,原告P1に対する平成16年度分
住民税の賦課決定処分を取り消した(以下,この取消処分を「本件住民
税賦課決定取消処分」という。)。
(ウ)川口市長は,平成20年12月3日,以下のとおり,原告P1の平成
15年度分ないし平成18年度分に係る住民税の各賦課決定処分(本件
各住民税賦課決定処分)をした。(甲35ないし38)
①平成15年度分課税総所得:1億8456万5000円
年税額:2361万4300円
②平成16年度分課税総所得:7488万6000円
年税額:935万6500円
③平成17年度分課税総所得:8217万円
年税額:1030万3400円
④平成18年度分課税総所得(総合):7億6535万7000円
分離短期:585万4000円
分離長期:4254万3000円
年税額:1億0179万1800円
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(エ)川口市長は,平成21年2月23日付けで,原告P1に対し,原告P
1の平成15年度分ないし平成18年度分に係る住民税の各督促処分
(本件各住民税督促処分)をした。(甲40)
(オ)川口市長は,原告P1の平成15年度分,平成17年度分及び平成1
8年度分の住民税に関し,平成21年12月24日付けで,以下の内容
の変更決定処分をした。(丙1ないし3)
①平成15年度分課税総所得:1億8271万3000円
年税額:2337万3500円
②平成17年度分課税総所得:8090万円
年税額:1013万8300円
③平成18年度分課税総所得:7億6111万8000円
年税額:1億0124万0700円
(カ)川口市長は,平成24年8月6日,平成18年度分の課税標準額のう
ち分離長期所得を4254万3000円から3223万4000円に,
年税額を1億0124万0700円から1億0072万5300円に変
更すること等を内容とする決定をした。(丙66)
(キ)川口市長は,平成24年11月20日,平成18年度分の課税標準額
のうち分離長期所得を3223万4000円から879万7000円に,
年税額を1億0072万5300円から9953万3400円に変更す
ること等を内容とする決定をした。(丙67)
(ク)川口市長は,平成25年3月14日付けで,以下とおり,平成15年
度分ないし平成18年度分に係る住民税の変更決定処分(以下「平成2
5年3月14日付け住民税変更決定処分」という。)をした。(丙69
ないし72)
①平成15年度分
市民税の所得割額が1797万7300円から1383万6700
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円に,県民税の所得割額が539万2700円から415万0600
円に変更された。(丙69)
②平成16年度分
市民税の所得割額が719万4600円から652万0600円に,
県民税の所得割額が215万7900円から195万5700円に変
更された。(丙70)
③平成17年度分
市民税の所得割額が779万6000円から775万1000円に,
県民税の所得割額が233万8300円から232万4800円に変
更された。(丙71)
④平成18年度分
市民税の所得割額が7648万3500円から7645万0500
円に,県民税の所得割額が2306万5900円から2305万60
00円に変更された。(丙72)
(9)被告国の主張する課税処分の根拠
ア被告国が本件訴訟において主張する本件各所得税課税処分の根拠及び適
法性は,別紙9「本件各所得税課税処分の根拠及び適法性」記載のとおり
である。
イ被告国が本件訴訟において主張する本件各源泉所得税課税処分の根拠
及び適法性は,別紙10「本件各源泉所得税課税処分の根拠及び適法性」
記載のとおりである。なお,原告会社が新たに納付すべきと被告国が主張
する源泉所得税の額及び不納付加算税の額は別表6「本件係争月分の源泉
徴収すべき所得税額等」記載のとおりである。
(10)本件各訴えの提起等
ア原告P1による不服申立て
(ア)原告P1は,平成19年2月13日,西川口税務署長に対し,本件各
-15-
所得税課税処分を不服として異議申立てをしたが,西川口税務署長は,
平成19年5月9日付けで,棄却の異議決定をした。(甲6)
(イ)原告P1は,平成19年6月8日,国税不服審判所長に対し,上記(ア)
の異議決定を経た後の処分に不服があるとして審査請求をした。これに
対し,国税不服審判所長は,平成20年12月25日付けで,上記審査
請求を棄却する旨の裁決をした。(甲6)
(ウ)原告P1は,平成21年3月6日付けで,川口市長に対し,本件各住
民税賦課決定処分を不服として異議申立てをした。これに対し,川口市
長は,平成21年6月23日付けで,棄却の異議決定をした。(甲39,
弁論の全趣旨)
(エ)原告P1は,平成21年4月1日付けで,川口市長に対し,本件各住
民税督促処分を不服として異議申立てをした。これに対し,川口市長は,
同年6月23日付けで,棄却の異議決定をした。(甲40,弁論の全趣
旨)
イ原告会社による不服申立て
(ア)原告会社は,平成19年2月13日,西川口税務署長に対し,本件各
源泉所得税課税処分を不服として異議申立てをした。これに対し,西川
口税務署長は,平成19年5月9日付けで,棄却の異議決定をした。(甲
25)
(イ)原告会社は,平成19年6月8日,国税不服審判所長に対し,上記(ア)
の異議決定を経た後の処分に不服があるとして審査請求をした。これに
対し,国税不服審判所長は,平成20年12月25日付けで,上記審査
請求を棄却する旨の裁決をした。(甲25)
ウ本件各訴えの提起
原告らは,平成21年6月19日,第1事件及び第2事件に係る各訴え
を当庁に提起した。また,原告P1は,平成21年12月15日,第3事
-16-
件に係る訴えをさいたま地方裁判所に提起した(平成22年2月4日付け
移送決定により当庁に移送された。)。(顕著な事実)
(11)税額等に関する被告らの主張
被告らが本件訴訟の中で主張する原告P1の総所得金額,納付すべき税
額,無申告加算税,過少申告加算税の額等は,それぞれ別表7「原告P1
の平成14年分の所得税額等」ないし別表10「原告P1の平成17年分
の所得税額等」の「被告らの主張額」欄各記載のとおりであり,本件の争
点に関する部分を除き,計算の基礎となる金額及び計算方法に争いはない。
3争点
(1)本案前の争点
ア原告P1の平成15年分の所得税に係る更正処分(本件更正処分)のう
ち確定申告額を超えない部分の取消請求についての訴えの利益の有無(第
1事件関係。争点1)
イ被告川口市が原告P1に対してした平成15年度分,平成17年度分及
び平成18年度分の各住民税賦課決定処分の取消請求の訴えの利益の有無
(第3事件関係。争点2)
(2)本件各所得税課税処分及び本件各住民税関係処分に係る本案の争点(第1
事件・第3事件関係)
ア原告P1の日本の居住者・非永住者該当性等(争点3)
(ア)原告P1は,本件各課税年において日本の居住者であったか否か。ま
た,原告P1は,「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税
の防止のための日本国とアメリカ合衆国との間の条約」(昭和47年6
月23日条約第6号。以下「旧日米租税条約」という。)及び「所得に
対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府
とアメリカ合衆国政府との間の条約」(平成16年3月30日条約第2
号。以下「新日米租税条約」という。)にいう居住者であったか否か。
-17-
(争点3(1))
(イ)原告P1は,地方税法294条1項1号により住民税の納税義務を負
う住民であったと認められるか否か。(争点3(2))
(ウ)原告P1が日本の居住者であった場合,日本の非永住者であったか否
か(争点3(3))。
イ本件オルゴール等の譲渡所得に対する課税について
(ア)課税の可否(本件オルゴール等の譲渡所得は国内源泉所得等に該当す
るか否か。)(争点4)
(イ)譲渡所得の発生の有無(争点5)
a本件オルゴール等の具体的な取得費の額は幾らか。
b本件オルゴール等は減価償却の対象となる財産に該当するか否か。
ウP2社役員報酬に対する課税について
(ア)課税の可否(P2社役員報酬は国内源泉所得等に該当するか否か。)
(争点6)
(イ)課税の方法(P2社役員報酬の邦貨への換算方法は,TTB(対顧客
直物電信買相場)とTTM(対顧客直物電信売相場と対顧客直物電信買
相場の仲値)のいずれが相当か。)(争点7)
エP3からの利得所得等の課税方法(原告会社役員報酬,貸付金利子及び
国内配当に対する課税は,総合課税と源泉分離課税のいずれの方法による
べきか。)(争点8)
オ原告会社が平成15年に支払った原告会社役員報酬から源泉徴収すべき
所得税の額(争点9)
カ本件各土地の譲渡所得に対する課税について
(ア)本件A建物の取得価額(本件A53土地等売買に係る売買代金から控
除すべき本件A建物の価額)(争点10)
(イ)本件各土地の譲渡所得に対する課税方法の違法の有無(源泉徴収額相
-18-
当額の控除の要否)(争点11)
キ二重課税による違法性の有無(本件各所得税課税処分及び本件各住民税
賦課決定処分は許されない二重課税として違法となるか否か。)(争点1
2)
ク原告P1に対してされた質問検査権行使の違法性の有無(第1事件関係。
争点13)
ケ国税通則法65条4項又は66条1項ただし書の「正当な理由」の有無
(第1事件関係。争点14)
コ平成15年度分ないし平成17年度分の住民税賦課決定処分の法定期間
内通知の有無(第3事件関係。争点15)
サ本件各住民税関係処分の信義則違反該当性(争点16)
(3)本件各源泉所得税課税処分に関する本案の争点(第2事件関係)
ア原告P1の日本の居住者該当性等(上記(2)ア(ア)と同じ。争点17)
イ国税通則法67条1項ただし書の「正当な理由」の有無(争点18)
ウ原告会社に対してされた質問検査権行使の違法性の有無(争点19)
4争点に関する当事者の主張の要点
(1)本案前の争点
ア争点1(本件更正処分のうち確定申告額を超えない部分の取消請求につ
いての訴えの利益の有無)について
(被告国の主張の要点)
所得税法は申告納税方式を採用し,納付すべき税額は,納税者がする申
告により確定されることを原則としており,納税申告書を提出した納税者
が自らのした申告の誤りを是正するには国税通則法23条所定の更正の
請求の手続を経ることを要する。
したがって,確定申告により確定された納税額を超えない部分の取消し
につき,更正の請求の手続を経ることなくされた訴えは,特段の事情がな
-19-
い限り,訴えの利益を欠き不適法なものとなる。
これを本件についてみるに,原告P1は,平成16年3月15日,西川
口税務署長に対し,平成15年分の所得税につき総所得金額を3289万
1030円,納付すべき税額を6万2200円とそれぞれ記載した平成1
5年分確定申告書を提出し,その後,更正の請求をしていない。
したがって,本件更正処分の取消しを求める本件訴えのうち,原告P1
が平成15年分確定申告により自ら確定させた納付すべき税額を超えな
い部分の取消しを求める訴えは,取消しを求める訴えの利益がないから不
適法なものとして却下されるべきである。
(原告P1の主張の要点)
平成15年分確定申告書の中に被告国が主張する記載があること,原告
P1が国税通則法23条所定の更正の請求をしていないことは認める。
しかし,平成15年分確定申告は,原告P1の錯誤に基づいてされたも
のである上,更正の請求をしていないことについても同様に錯誤が認めら
れるから,本件では,原告P1が平成15年分確定申告により自ら確定さ
せた納付すべき税額を超えない部分につき,更正の請求手続を経ることな
く訴えを提起することを許容すべき特段の事情が存する。すなわち,平成
15年分確定申告には,原告P1の意思と確定申告に係る事務を担当した
P17公認会計士・税理士(以下「P17税理士」という。)のした表示
との間に齟齬が見られるほか,原告P1がP17税理士と川口市役所に出
向き,原告P1が日本の居住者ではないことについて被告川口市の担当者
が納得したことから,納税に関して素人である原告P1は,国税について
も同様の取扱いがされるものと考えたのであって,更正の請求手続を経る
ことなく訴えを提起することにつきやむを得ない事情がある。
以上によれば,本件更正処分のうち確定申告額を超えない部分の取消し
に係る訴えについて,原告P1は訴えの利益を有する。
-20-
イ争点2(被告川口市が原告P1に対してした平成15年度分,平成17
年度分及び平成18年度分の各住民税賦課決定処分の取消請求の訴えの
利益の有無)について
(被告川口市の主張の要点)
(ア)税額の更正決定は,先にされた賦課決定等の処分と一体として既に成
立している一個の納税義務の内容を具体化するための行為である。
住民税は,所得税の有する所得再分配の機能よりも,地方公共団体の
住民が地域社会の費用をその能力に応じて広く負担する負担分任を基
調とする点において国税と異なる性質を有するところ,所得税について
減額更正処分がされた場合には,これを受けた市町村は減額更正された
所得税の総所得金額等に基づいて住民税における所得控除を行った上
で課税標準を決定し所得割の税額を決定するのであって,住民税の減額
更正処分は,課税標準の内容の変更に基づき再計算した税額による新規
の賦課決定としての性格を有し,先にされた賦課決定の単なる一部取消
しではない。
(イ)川口市長は,平成25年3月14日付けで,平成15年度,平成16
年度分の住民税については,譲渡所得の算定につき従前の賦課決定処分
では認めていなかった取得費の控除を認め,所得金額を減額して税額変
更決定処分を行っている。また,平成17年度分及び平成18年度分の
住民税については,扶養控除の算定につき従前の賦課決定処分では認め
ていなかった長男の扶養控除を認め,扶養控除額を増額して税額変更決
定処分を行うなどしている。これらの平成25年3月14日付け住民税
変更決定処分は,住民税の課税標準の変更による新規賦課決定であるか
ら,本件において取消しの対象とすべき決定は,平成20年12月3日
付けでされた当初の賦課決定処分ではなく,平成25年3月14日付け
住民税変更決定処分である。
-21-
(ウ)よって,川口市長が原告P1に対して平成20年12月3日付けでし
た本件各住民税賦課決定処分の取消しを求める原告P1の被告川口市
に対する本件各訴えは,いずれも訴えの利益を欠き不適法である。
(原告P1の主張の要点)
減額更正処分は,減額した税額に係る部分についてのみ法的な効果を及
ぼすものであり,それ自体は,当初の処分と別個独立の課税処分ではなく,
当初の処分の変更であるから,その場合の取消しの対象は減額された先の
賦課決定処分となる。すなわち,減額更正処分がなされても,先の賦課決
定処分が減額更正処分に吸収されることもなければ一体化することもな
いから,取消しの対象は,川口市長が平成20年12月3日付けで原告P
1に対してした本件各住民税賦課決定処分である。よって,本件各住民税
賦課決定処分の取消しの訴えにつき訴えの利益がないとする被告川口市
の主張に理由がないことは明らかである。
(2)本件各所得税課税処分及び本件各住民税関係処分に係る本案の争点
ア争点3(原告P1の日本の居住者・非永住者該当性等)について
(原告P1の主張の要点)
(ア)原告P1は,本件各課税年において日本の居住者に当たらない。
本件各所得税課税処分及び本件各住民税関係処分は,いずれも原告P
1が所得税法2条1項3号所定の日本の居住者に該当すること(及び川
口市内に住所を有すること(地方税法294条1項1号))を前提とし
てされたものであるが,ここで,日本の居住者とは「国内に住所を有し,
又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人」のことをいうから,
本件各所得税課税処分が適法であるというためには,原告P1が本件各
課税年において同号の上記要件を満たしていたことを要する。
本件では,①原告P1は,米国内に,生活の本拠となる住居である
米国NJ州家屋及び米国ペンシルバニア州(以下「米国PA州」という。)
-22-
所在の土地建物(以下「米国PA州家屋」といい,米国NJ州家屋と併
せて,以下「本件各米国家屋」という。)を所有し,平成11年8月1
8日には米国の永住権まで取得していること,②西川口税務署長及び
川口市長(以下,両者を併せて「課税庁」という。)は,平成13年度
までは,原告P1が日本の非居住者である旨の認定をし,原告P1に対
して何らの課税処分をしていなかったこと,③米国NJ州政府は,平
成16年時点でも原告P1の住所が米国にある旨の認定をし,米国NJ
州の租税裁判所(以下「米国NJ州租税裁判所」という。)も,平成1
6年度につき原告P1が米国の居住者である旨の認定をしていること,
④原告P1は,本件各課税年当時,米国の企業年金及び健康保険にそ
れぞれ加入していた一方,日本の健康保険には加入していなかったこと,
⑤原告P1は,昭和59年3月以降,P2社の代表取締役に就任し,
本件各課税年中も毎年約20万米国ドルの役員報酬を受領していたこ
と,⑥原告P1と生計を一にしていた本件家族は,本件各課税年当時,
いずれも米国内に生活の本拠を有していた上,妻P5,長男P6,次男
P7及び長女P8は,原告P1と共に米国の永住権を取得し,次女P9
は米国の国籍を有していたこと,⑦原告P1は,本件各課税年当時,
米国NJ州家屋以外にも生活に密接に関係する多数の財産を米国内に
所有していたこと,⑧原告P1は,原告会社の代表取締役社長に復帰
した平成13年12月11日以降,平成14年に5回,平成15年に4
回,平成16年に2回,平成17年に6回にわたり忙しい業務の合間を
縫って米国に帰国して本件家族と交流を持っていたこと,⑨原告P1
は,本件各課税年において米国での納税義務を誠実に履行していたこと,
⑩原告P1は,日本国の自動車運転免許を取得したことがない一方で,
本件各課税年当時,米国NJ州の自動車運転免許を所持していたこと,
⑪妻P5は20年以上にわたり米国の居住者として生活を続け,本件
-23-
各課税年当時から現在に至るまで米国に永住する意思を持っているこ
と,⑫原告P1の4人の子供らも米国に永住する意思を有し,本件各課
税年当時,長女P8が一時期日本に住んでいたことを除き,いずれも米
国に居住していたことなどの事情が認められる。
以上に述べた各事情によれば,原告P1が本件各課税年当時において
米国の居住者,すなわち日本の非居住者であったことは明らかである。
したがって,本件では,対象者が双方の居住者である場合の処理を定め
た旧日米租税条約及び新日米租税条約(以下,両者を併せて「新旧日米
租税条約」という。)の適用はそもそも問題とならないが,日本と米国
における原告P1の人的,経済的関係を比較すれば,原告P1にとって
重要な利害関係の中心がある国は米国であるから,仮に新旧日米租税条
約の適用があるとしても,原告P1が米国の居住者に振り分けられるこ
とは明らかである。
(イ)原告P1は,日本の居住者に当たるとしても日本の非永住者である。
仮に,原告P1が本件各課税年当時において日本の居住者であったと
しても,上記(ア)で述べた各事情によれば,原告P1が本件各課税年当
時において日本に永住する意思を有していなかったことは明らかであ
る。
また,原告P1は,米国PA州に墓を造るため,平成15年に愛知県
東海市にあった原告P1の父の墓を東海市に返還しているところ,かか
る原告P1の行為は,我が国に永住する意思を有している者であれば到
底するはずのないものであるし,本件家族はその全員が米国に永住する
予定であることや,原告P1の交友関係の中心は米国にあることによれ
ば,原告P1が本件各課税年当時において日本に永住する意思を有して
いたとは経験則上考えられない。
そして,原告P1が,本件各所得税課税処分や本件各住民税賦課決定
-24-
処分を受けた後にも,課税庁に対し,自らが米国の居住者であることを
繰り返し主張していたということは,原告P1が日本に永住する意思を
有していなかったことを裏付ける事実である。
さらに,原告P1は,平成13年までは生活の本拠を米国とする日本
の非居住者であり,課税庁も同様の認定をしていたのであるから,仮に
原告P1が本件各課税年において日本の居住者であったとしても,原告
P1が日本の居住者となったのは平成14年以降であるということに
なる。そうすると,本件各課税年における原告P1の日本国内での居住
期間は5年以下となる。
以上によれば,原告P1は,本件各課税年において所得税法2条1項
4号の「居住者のうち,国内に永住する意思がなく,かつ,現在まで引
き続いて5年以下の期間国内に住所又は居所を有する個人をいう。」と
いう要件をいずれも満たしていたから,同号が規定する日本の非永住者
に当たる。
(被告らの主張の要点)
(ア)原告P1は,本件各課税年において日本の居住者に当たる。
a所得税法上の住所,すなわち生活の本拠については,納税義務者の
滞在日数,住居,職業,国内において生計を一にする配偶者その他の
親族を有するか否か,資産の所在等の客観的事実に基づき総合的に判
定すべきである。
これを本件についてみると,①原告P1は,本件各課税年におい
ては1年の7割を超える期間,日本国内に居住しており,平成10年
以降の各年において1か月間全く国内に居住しなかったのは数か月
にとどまること,②原告P1は,本件各課税年を通じて国内に常用
の住居(本件旧家屋及び本件家屋)を有していたこと,③原告P1
は,日本国内に本店を置く原告会社,P3,P4社の代表取締役社長
-25-
を務めており,我が国を離れてその任務を全うすることはおよそ考え
られない上,現に原告会社からは多額の報酬を得ていること,④原
告P1は,平成13年5月頃から平成15年頃まで長女と共に本件旧
家屋で生活していたこと,⑤原告P1は,平成14年に将来使用す
る目的で北海道函館市内の土地を取得したほか,平成17年から平成
19年にかけて,上記土地の隣接地を原告の資産管理会社であるP3
を通じて取得するなど我が国に多数の不動産を保有し,その他,多額
の預金・負債も有するなど,我が国に相当の資産を保有していること,
⑥原告P1は,本件各課税年を通じて日本国籍を有し,我が国に住民
票を置くことを基本としていたことなどの事情が認められる。
これらの原告P1の住居,職業,資産の所在,親族の居住状況,国
籍等に関する客観的事情を総合すれば,原告P1が,本件各課税年の
いずれの年においても,我が国に住所を有していたことは明らかであ
る。また,上記の各事情をもってすれば,原告P1が,本件各課税年
のいずれの年においても,現在まで引き続いて1年以上,我が国に居
所を有していたことは優に認められるというべきである。
b以上に述べた原告P1の我が国における住所又は居所の状況,生計
を一にする親族の状況,職業及び資産の状況等の諸事情を総合勘案す
れば,原告P1は,「国内に住所を有し,又は現在まで引き続いて一
年以上居所を有する」者(所得税法2条1項3号),すなわち,我が
国所得税法上の居住者に該当することとなり,旧日米租税条約上は
「日本国の租税に関し日本国における居住者とされるその他の者」
(3条(1)(b))に,また,新日米租税条約上も「日本国の居住者に該
当する者」(4条2項(a))に該当する。そして,原告P1の恒久的住
居が存在する国,重要な利害関係の中心のある国並びに常用的住居が
存在する国及び原告P1が国民である締約国は,いずれも我が国であ
-26-
るから,いずれにしても,原告P1は,新日米租税条約上も我が国の
居住者に振り分けられる。
(イ)原告P1は,本件各課税年において日本の非永住者には当たらない。
a上記(ア)で述べた原告P1の我が国における住所又は居所の状況,
生計を一にする親族の状況,職業及び資産の状況等の諸事情に加え,
①原告P1は,米国NJ州租税裁判所に係属していた自身を原告とし
米国の課税当局を被告とする訴訟(以下「本件米国訴訟」という。)
の中で宣誓書(以下「本件宣誓書」という。)や略式判決を求める申
立書(以下「本件略式判決申立書」という。)を訴訟資料として提出
しているところ,これらの書面の中には,原告P1が本件各課税年当
時において日本に永住する意思を有していた旨の記載があること,②
原告P1は,関東信越国税局課税第一部課税総括課所属の職員(以
下「関東信越国税局の職員」という。)に対し,米国の永住権を取得
した後に返却しようと試みたことがある旨の供述をしていること,③
原告P1の日本国内での滞在日数が平成13年に大幅に増加し,滞
在日数の増加が平成17年に至るまで継続していることは,本件各課
税年において,原告P1が日本に永住する意思を有していたことを示
すものであること,④原告P1は,少なくとも平成12年2月1日
ないし平成17年1月4日までの間,妻P5も,少なくとも平成12
年2月1日ないし平成15年12月1日までの間,日本の国民年金の
保険料を納付していたこと,⑤原告P1が日本の健康保険に加入し
ていないのは,原告会社が原告P1の負担すべき保険料額を徴収し,
事業主の負担分と合わせて納付する義務を履行していないことが原
因であるにすぎないこと,⑥自動車運転免許証は,当該免許証の効
力を有する国に永住する意思を表すものではないから,原告P1が米
国NJ州の自動車運転免許証を所持し,日本の自動車運転免許証を所
-27-
持していないことをもって,日本に永住の意思がないという結論が導
き出されるものとはいえないこと,⑦原告P1が本件各課税年中に
取得した函館市内の土地は,本件各課税年において原告P1が日本に
永住する意思を有していたことを示すものであることなどの事情が
存する。
これらの事情を総合勘案すれば,原告P1が,本件各課税年におい
て我が国に永住する意思を有していたことは明らかであり,「永住の
意思がなくて入国した外国人」とは到底評価することができない(な
お,原告P1は,自らが日本の非居住者であることの根拠として,米
国の永住権の保有者であることを挙げているが,原告P1自身,米国
の永住権を取得した後,一旦はこれを返却しようとしていた旨を供述
しているのであるから,米国の永住権を保有していることが米国での
永住の主観的意思の存在を客観的に立証し得る証明力を持つもので
ないことは,原告P1自身自認しているものといわなければならな
い。)。
bそして,原告P1は,日本国籍を保有する者であり,昭和60年3
月16日付けで,本件旧肩書地に住所を定めた以後の大半の期間,本
件旧肩書地及び本件肩書地に住所を定めていた。また,原告P1は,
我が国において昭和53年2月ないし平成9年2月までの間,原告会
社の代表取締役社長を務め,同月ないし平成13年12月までの間は,
同社の代表取締役会長,平成13年12月には,再度,原告会社の代
表取締役社長に就任して現在に至っている。
このような我が国における職業の状況や実際の滞在日数等の状況
を総合勘案すれば,原告P1は,少なくとも平成9年ないし平成17
年に至るまでの間,我が国に定期的かつ長期間にわたって滞在してい
たことが明らかである。
-28-
そして,原告P1は,本件各課税年において,本件旧家屋及び本件
家屋において起居していたものと考えられるところ,原告P1の住居
となるべき家屋(本件旧家屋)が日本国内にあったことや,原告P1
の日本国内における職業の状況,日本国内における滞在日数等といっ
た状況において,本件各課税年と平成9年ないし平成13年までの期
間とを画すべき合理的な事情は何ら存在しないのであるから,原告P
1は,少なくとも平成9年ないし平成13年までの間においても本件
旧家屋で起居していたものということができる。そうすると,原告P
1は,平成9年ないし平成13年までの間,すなわち,本件各課税年
のそれぞれの年分との関係において,いずれも,現在まで5年を超え
る期間,我が国において住所又は居所を有していたものというべきで
ある。
c以上によれば,原告P1は,本件各課税年において,それぞれ国内
に永住する意思がない者であったとはいえず,また,現在まで引き続
いて5年以下の期間国内に住所又は居所を有する者にも当たらない
のであるから,原告P1は,日本の非永住者には該当しない。
(被告川口市の主張の要点)
(ア)地方税法上,個人住民税の納税義務者の判断は住民性(同法294条
1項)であり,所得税法上の居住者性,非永住者性によるものではない。
すなわち,平成24年度分までの地方税法に基づく個人住民税について
は,日本国民のうち,同法の施行地外に居住していた者で帰国して新た
に法施行地に居住することとなった者に対する個人住民税については,
<ア>個人住民税の賦課期日(1月1日)まで引き続いて1年以上日本
国内に居住している外国人等については賦課期日現在の居住地に住所
があるものとし,また,<イ>賦課期日までの法施行地における居住期
間が1年未満の外国人等でも,入国後継続して1年以上日本国内に居住
-29-
することを通常必要とする職業を有する場合には,賦課期日現在の居住
地に住所があるものと推定して,均等割及び所得割を課すものとしてい
る(昭和41年5月31日自治府第54号各都道府県総務部長,東京都
総務・主税局長あて自治省税務局長通達「外国人等に対する個人の住民
税の取扱いについて」。以下「本件通達」という。)。
(イ)原告P1は,本件通達が規定する「日本国民のうち,地方税の施行地
外に居住していた者で帰国して新たに法施行地(川口市)に居住するこ
ととなった者」に当たり,仮に原告P1の居住日数だけに着目すれば,
賦課期日までの法施行地における居住期間が1年未満に当たるとして
も,原告P1が原告会社の代表取締役であることに照らせば,原告P1
は,入国後継続して1年以上日本国内に居住することを通常必要とする
職業を有する場合に該当する。また,原告P1は,原告会社の平成13
年の株式公開を控え,同年初めから平成14年11月期に至るまで,川
口市内に居住をしていたのであるから,平成13年の入国後,継続して
1年以上日本国内に居住することを通常必要とする職業を有する場合
に該当することは明らかである。そして,この事実は,平成13年以降
は,米国NJ州の住居を放棄して日本に居住し続け,米国NJ州に戻る
意思がないと断言した本件宣誓書の内容とも合致する。
(ウ)以上によれば,原告P1は,本件通達が規定する要件に基づき,個人
住民税を賦課される外国人等に当たる。
イ争点4(本件オルゴール等の譲渡所得に対する課税の可否)について
(原告P1の主張の要点)
所得税法7条1項2号は,日本の非永住者が納税義務を負うのは国内源
泉所得等に限られる旨を定めている。
上記ア(原告P1の主張の要点)で述べたとおり,原告P1は,本件各
課税年において少なくとも日本の非永住者であったことが認められるか
-30-
ら,本件オルゴール等の譲渡所得が課税の対象となるというためには,同
所得が国内源泉所得等に該当することを要する。
しかし,本件オルゴール等の譲渡は,いずれも米国PA州内にある倉庫
で行われ,しかも,原告P1は,P3から本件オルゴール等の代金の支払
を一切受けていないから,本件オルゴール等の譲渡所得は国内源泉所得等
に当たらない。よって,原告P1は,本件オルゴール等の譲渡所得につき
納税義務を負わない。
(被告らの主張の要点)
原告P1は,本件各課税年において日本の居住者であったから,本件オ
ルゴール等の譲渡所得につき納税義務を負うことは明らかである。
また,仮に,原告P1が本件各課税年において日本の非永住者であった
としても,本件オルゴール等は,原告P1がP3宛てに輸出したものでは
なく,日本国内で譲渡されたものであるから,本件オルゴール等の譲渡所
得は国内源泉所得として課税の対象となる。
ウ争点5(本件オルゴール等の譲渡に関する譲渡所得の発生の有無)につ
いて
(ア)本件オルゴール等の具体的な取得費の金額
(原告P1の主張の要点)
a平成14年譲渡オルゴール等の取得費の額
平成14年譲渡オルゴール等87台のうち51台について,現時点
で発見された各請求書(以下「本件各請求書」という。)から判明し
た取得費の一部のみで既に105万2850米国ドル(1億3160
万6250円。1米国ドルを約125円で計算)となっており,これ
に,メリーゴーランドの改良費1万4734米国ドル(184万17
50円)及び輸送費1万6800米国ドル(210万円)を合計する
と108万4384米国ドル(1億3554万8000円)に達する。
-31-
そうすると,平成14年譲渡オルゴール等の取得費は2億1794万
7843円となり,その譲渡価額は2億6695万3050円である
から,被告らが用いる計算方法によっても,平成14年譲渡オルゴー
ル等の長期譲渡所得は4900万5207円となり,少なくとも平成
14年譲渡オルゴール等の長期譲渡所得がこの金額を超えることは
ない。しかも,本件各請求書は,本件オルゴール等の代金の前金や残
金など代金の一部にすぎないものも含まれているし,請求書の発見に
至っていない残り36台のオルゴール等についても取得費(購入費,
改良費及び運送費)が発生していること,請求書の一部が発見された
51台についても多額の部品代,改良費及び運送費を要したと解され
るところ,これらの費用については,メリーゴーランド1台分のみし
か積算していないこと,原告P1が平成6年から平成13年にかけて
小切手で支払ったオルゴール等の代金のうち現時点で確認すること
ができたものだけでも2億8292万6161円(1米国ドルを11
2円で計算)ないし3億1576万5805円(1米国ドルを125
円で計算)に達していることによれば,平成14年譲渡オルゴール等
の取得費が被告らの主張する1334万7652円にすぎないとい
うことはあり得ず,平成14年譲渡オルゴール等の取得費は,譲渡価
額と同額ないしこれを下回るものではないことは明らかである。
b平成15年譲渡オルゴール等の取得費の額
上記aの平成14年譲渡オルゴール等取得費割合(51台分)の8
1.64%を前提に,平成15年譲渡オルゴール等の取得費を計算す
ると3441万1260円となり,同オルゴールの譲渡価額(421
5万円)から当該取得費を控除した長期譲渡所得は773万8740
円となる。
そうすると,平成15年譲渡オルゴール等の取得費は3441万1
-32-
260円となり,その譲渡価額は4215万円であるから,被告らが
用いる計算方法によっても,平成15年譲渡オルゴール等の長期譲渡
所得は773万8740円となり,少なくとも平成15年譲渡オルゴ
ール等の長期譲渡所得がこの金額を超えることはない。
そして,平成14年譲渡オルゴール等と同様,平成15年譲渡オル
ゴール等の取得に当たっては,多額の部品代,改良費及び運送費など
を要しているから,平成15年譲渡オルゴール等の取得費は,譲渡価
額と同額ないしこれを下回るものではないことは明らかである。
(被告らの主張の要点)
a本件オルゴール等の譲渡所得は,所得税法33条が規定する譲渡
所得に該当するところ,譲渡所得の基因となった資産の取得費は,
譲渡所得に係る課税標準の計算において重要な計算要素であり,か
つ,アンティーク・オルゴールの価格は個別性が極めて高いもので
あるから,本件オルゴール等に係る譲渡所得の課税標準を適正に計
算するためには,本件オルゴール等ごとの個別の取得費が明らかに
されなければならない。
この点に関し,原告P1は,本件各税務調査や本件各所得税課税
処分がされた時期からみると約4年半ないし5年,本訴提起時期か
らみると約3年半を経過した現在においても,本件オルゴール等の
個別の取得費について,自らの立証責任を適切に果たすことなく,
本訴を提起してから相当期間が経過してからようやく取得費に関
する証拠として,多数の明細書(以下「本件各明細書」という。)
や備忘録(以下「本件備忘録等」という。)を提出し,しかも,そ
れらの提出は一度ではなく,五月雨式に随時提出している。かつ,
それらの証拠をみても,その成立の真正すら疑わざるを得ないよう
な極めて証拠価値の低い資料といわざるを得ないものであり,結局,
-33-
本件オルゴール等の個別の取得費を全体において明らかにしてい
ない。
このような状況ではあるものの,被告らは,適正公平な課税に努
めるべく,本件オルゴール等の個別の取得費を明らかにするものと
して原告P1が提出した資料(本件各明細書及び本件備忘録等)が,
本件オルゴール等の個別の取得費を明らかにするものであるか否
かについて,精査・検討した。具体的には,本件各明細書の記載内
容に鑑みると,本件オルゴール等の個別の取得費が明らかになるに
は,①宛先(明細書の宛先が原告P1と記載されているかどうか),
②日付(日付が正確に記載されているかどうか。),③内訳金
額(オルゴール等の取引金額が個別に記載されているかどうか。),
④筆跡(筆跡に疑わしい点がないかどうか。),⑤その他(譲
渡されたオルゴール等の名称と明細書に記載されたオルゴール等
の名称が一致しているか。本件オルゴール等のうち特定の1台に係
るものとして複数の明細書が提出されているが,その中には別のオ
ルゴール等に係る明細書が含まれていると認められるものがない
か。取引金額の総額ではなく残高のみ記載されている明細書ではな
いか。その他原告P1が取得したオルゴール等の取得費であること
を明らかにするものと評価することができない明細書ではない
か。)という5つの基準(以下「本件取得費各基準」という。)に
照らして,本件各明細書が本件オルゴール等の個別の取得費を明ら
かにするものと認められるか否かを個別に検討した。その結果,本
件各明細書のうち,本件取得費各基準を満たした明細書(以下「本
件基準充足明細書」という。)については,必ずしもその中に記載
された本件オルゴール等(以下「本件基準充足オルゴール等」とい
う。)の取得費を個別的ないし直接的に明らかにするものであると
-34-
認めることはできないものの,それぞれ本件基準充足明細書に記載
された金額相当額の取得費が存在する蓋然性が高いとみることが
できるとして取得費を認定することとした。また,平成14年譲渡
オルゴール等のうち,本件基準充足オルゴール等以外のものについ
ては,本件基準充足オルゴール等について,上記のとおり,取得費
が存在している以上,本件基準充足オルゴール等と同程度の取得費
が存在する蓋然性が高いものと認められるから,本件基準充足オル
ゴール等の取得費割合(36.98%。本件基準充足オルゴール等
の取得費の合計額÷本件基準充足オルゴール等の譲渡価額の合計額
×100。「本件基準充足オルゴール等取得費割合」という。)を
参考として取得費を算出した。また,平成15年譲渡オルゴール等
についても,少なくとも本件基準充足オルゴール等と同程度の取得
費が存在する蓋然性が高いものと認められるから,本件基準充足オ
ルゴール等取得費割合を参考として平成15年譲渡オルゴール等
に係る総合長期譲渡所得を算出した。
b上記のとおり算出した平成14年譲渡オルゴール等の取得費の
合計額は9872万0674円となり,平成15年譲渡オルゴール
等の取得費の合計額は1558万7070円となる。本件第4減額
更正処分等は,かかる計算に基づいてされたものであり,本件第4
減額更正処分等によりそれぞれ一部取り消された後の本件各所得
税課税処分は適法である。また,これを受けて被告川口市がした平
成25年3月14日付け住民税変更決定処分によりそれぞれ一部
取り消された後の本件各住民税関係処分も適法である。
なお,本件オルゴール等の取得費に関する事実は,原告P1に有
利な事柄であるとともに,これに関する証拠との距離は,原告P1
の方が,被告らに比べて,極めて近いものであること,本件におい
-35-
ては,課税庁が国外に存在する原告P1の関係者又は関係資料等に
対して質問検査権を行使することは実際上不可能であるという事
情があることを併せ考慮すれば,被告らは,本件オルゴール等の譲
渡所得に係る主張立証責任を十分に果たしたものとして,原告P1
がこれを覆すに足りる反証をしない限り,本件オルゴール等の取得
費は被告らが主張立証する額を超えては存在しないと認定される
べきである。
(被告らの主張に対する原告P1の反論の要点)
a本件取得費各基準は,被告らが自己に不都合な証拠を排除するた
めに作成した独自の恣意的な基準にすぎない。①宛先についてい
えば,米国PA州に居住する友人で,アンティークオルゴールの専
門業者であったP18と原告P1との間で相手の呼称を法人名で
記載したり個人名で記載するなど統一したルールが定まっていな
かったことは,本件に書証として提出した小切手帳(以下「本件小
切手帳」という。)の記載などからも明らかであるし,そもそも,
原告P1が,請求書にP4社と記載してあるオルゴールだけをわざ
わざP4社名義で取得する理由がないし,P4社がP18からオル
ゴールを取得したこともないし,P4社からP3にオルゴールの譲
渡が行われたこともないし,P4社とP3という2つの法人がオル
ゴールを分けて管理もしていないし,そうする理由もない。宛先の
記載のないものについていえば,常識的に考えればそれを原告P1
が保有していること自体から原告P1宛のものであることが推認
されるし,少なくとも本件において原告P1がP18からアンティ
ークオルゴールを継続的に購入していたという事実の存在は明ら
かなのであるから,P18が発行した宛先空欄の請求書を原告P1
が保有していれば原告P1宛に発行されたものと解して何ら不自
-36-
然ではない。また,②日付については,月日まで正確に記載され
ていないと信用できないというのはおよそ合理性のない基準であ
る。そもそも,本件各明細書は,友人であり信頼関係のある原告P
1とP18が,長年継続して取引していたときの請求書であって,
このような事実を看過したまま,日付については年の記載があって
も,月日がないと信用できないという選別基準はそれ自体不合理で
あって,明らかに考慮するべき事情を看過した誤った判断である。
さらに,③内訳金額についても,本件各明細書に記載されている
本件オルゴール等が少なくとも原告P1がP18から購入したも
のであり,原告P1がP18に代金を支払っていること自体は明ら
かなのであるから,その個別の内訳金額の記載がないことをもって
一切取得費として考慮しないというのは不当である。そして,請求
書が存在し,支出がされていることも確実であるのに内訳金額の記
載がないことを理由に取得費をゼロと評価するのは,明らかに経験
則に反する違法な処分である。したがって,この点についても被告
らの設定した基準は極めて不合理であるから,このような恣意的な
基準に従って原告P1が主張する改良費等の取得費を看過してい
ることは違法である。
次に,④筆跡については,原告P1が,被告らの主張する本件
各明細書の該当部分だけを取り上げて,そこだけをわざわざ偽造す
る合理性はないし,被告らが偽造したと主張する記載も後から挿入
できるような箇所でもない。また,原告P1以外の他の人物であっ
ても,本件各明細書を偽造する理由など存在しないのである。この
ように,被告らの主張は,明らかに行きすぎであり,合理的な基準
として全く機能し得ないものであって,およそ失当であるから,こ
のような基準に従って原告P1が主張する改良費等の取得費を看
-37-
過していることは違法である。
さらに,⑤その他についても,被告らの設定した独自の基準は,
結局,原告P1が記載内容に漏れの無い処分証書に類する証拠を全
て取り揃え,かつ完全な立証を行わなければ取得費は認めないとい
うのと同じである。しかしながら,被告らの主張を前提とすると,
書類の保管義務もない納税者が,20年以上過去の個別の取引の資
料を保管していなければ取得費は認められないことになり,それど
ころか資料が存在し確実に取得費の支出が確認できても,日付の記
載が完璧になされていないとか,その正確な内訳金額が判明しない
とか,筆跡が疑わしいという恣意的な理由で,当該取得費はゼロと
評価されるのである。このように,いかに資料が存在し,かつ,こ
れと矛盾しない合理的な説明がされていても,被告らの恣意的な判
断で取得費は認められないというのは,余りにも裁量権の逸脱が甚
だしい処分内容である。そして,被告らも,通常,他の納税者に対
してはそこまで極端な対応はしないのであるから,原告P1に対し
ても他の納税者と公平・平等に取り扱うべきである。そもそも,課
税における立証責任は被告らにあり,少なくとも被告らが本件オル
ゴール等の譲渡価額の5%を取得費とする通達に従った処分を取
りやめたのであれば,原告P1が既に証拠資料を提出して合理的な
説明を行っている以上,これに対する反証の責任は被告らに課され
ているはずである。したがって,原告P1が取得費を支出している
ことが明らかであるにもかかわらず,被告らの恣意的な判断でこれ
を処分の前提から排斥し,原告P1が主張する改良費等の取得費を
看過していることは違法であるから,本件各所得税課税処分等は必
ず取り消されなくてはならない。
b多数の証拠が米国に存在し,しかもその多くが相当過去の証拠で
-38-
あるところ,これらの事情を看過して被告らが提出時期等について
論難しているのはそれ自体不合理である。そもそも,被告らが証拠
の成立の真正まで争うなどして原告P1の立証の負担を過度に重
くしておきながら,原告P1が多くの時間と労力を割いて被告らの
主張に対する反論の証拠を提出すると,今度は提出時期云々を述べ
るのは背理である。結局,被告らは,自ら理由のない主張を行って
おきながら,これを弾劾する証拠が原告P1から提出されると,提
出時期等に言及し成立の真正を争うなどの対応に終始しているの
であるが,このような被告らの対応は,証拠の成立の真正が認めら
れれば,原告P1の主張に理由があることを認めているに等しい対
応である。しかも,本件各土地や本件オルゴール等の資料は古いも
のでは約20年から30年も過去のものである上,本件では,居住
者・非居住者にも関連する多数の争点があり,証拠も多岐にわたる。
そして,原告P1は,本件オルゴール等の資料だけを探していたの
ではなく,多忙な業務の合間に,これまで提出した多数の争点にわ
たる証拠を探して提出していた上,その大半は米国に存在するので
ある。また,原本が発見されていない本件オルゴール等の請求書の
写しが存在するのも,原告P1の秘書であったP19などが原告P
1にFAXするために写しを作成しており,当時写しを作成してい
たものについては,その写しが発見されたときは,その写しを提出
しているだけである。したがって,原告P1の証拠の提出時期には
何も不自然な点はなく,これをもって成立の真正を否定する被告ら
の主張は論理の飛躍があるし,不合理である。
(イ)本件オルゴール等は減価償却の対象となる財産であるか否か。
(原告P1の主張の要点)
本件オルゴール等は,所得税基本通達2-14(書画,骨とう等)に
-39-
掲げられている「古美術品,古文書,出土品,遺物等のように歴史的価
値又は稀少価値を有し,代替性のないもの」に該当し,所得税法施行令
6条柱書きの括弧書きの「時の経過によりその価値の減少しないもの」
として減価償却資産から除外される。
すなわち,アンティークオルゴールの価値や価格は,制作年代,稀少
性,美術性により決まるところ,本件オルゴール等は,原告P1の趣味
であるアンティークオルゴールの収集のために,その制作年代,稀少性,
美術性を吟味した上で,アンティークショップからその価値を見極めて
購入したものである。したがって,本件オルゴール等は,それぞれが個
性を有するアンティークであり,歴史的価値及び稀少価値を有し,代替
性のない古美術品に当たるから,減価償却資産から除外されるものであ
って,課税庁が本件オルゴール等を減価償却資産であるとしてした本件
各所得税課税処分及び本件各住民税賦課決定処分は明らかに誤りであ
る。
(被告らの主張の要点)
本件オルゴール等に関する原告P1の使用・保管状況等に照らすと,
本件オルゴール等はいずれも減価償却資産に該当するから,その取得費
は,所得税法38条2項により計算される。そうすると,仮に,原告P
1が本件オルゴール等の取得価額を証する証拠として提出した本件各
明細書が本件オルゴール等の取得価額に係るものであったとしても,本
件オルゴール等の取得費の計算においては,取得価額から取得以降譲渡
日までの減価の額を控除しなければならず,本件各明細書に記載された
金額が直ちに本件オルゴール等の取得費を示すものとはいえない。
エ争点6(P2社役員報酬に対する課税の可否)について
(原告P1の主張の要点)
原告P1がP2社から支払を受けた役員報酬(P2社役員報酬)は,い
-40-
ずれも米国内で支払われたものであるから米国の国内源泉所得に当たる。
そして,上記アの(原告P1の主張の要点)で主張したとおり,原告P
1は,本件各課税年において日本の居住者ではないし,仮に日本の居住者
に該当するとしても日本の非永住者であるから,P2社役員報酬が我が国
の所得税の課税対象にならないことは明らかである。
(被告らの主張の要点)
原告P1は日本の居住者であるから,所得税法5条1項,7条1項1号
に基づき,国内及び国外から生ずる全ての所得について納税義務を負う。
したがって,P2社役員報酬が本件各課税年における原告P1の所得とし
て課税の対象となることは明らかである。
オ争点7(P2社役員報酬の邦貨への換算方法)について
(原告P1の主張の要点)
仮に,原告P1が日本の居住者であり,また,日本の永住者であると認
定され,P2社役員報酬が課税の対象となるとしても,米国ドル建てによ
り原告P1が受領したP2社役員報酬を邦貨に換算する際には,納税者に
有利となるように対顧客直物電信買相場(以下「TTB」という。)を用
いなければならない。
そもそも,平成18年4月1日より前の所得税に関する法令においては,
外貨建取引の換算に関する規定は存しないのであるから,本件においては,
外貨建取引の換算については納税義務者の公平を考えて合理的な解釈を
するほかないところ,外貨で収入を得た場合に納税者が邦貨に換算するこ
とにより不利益を被るとすれば,邦貨で収入を得た納税者に比し,明文な
く過大な課税がされるに等しい。したがって,納税者の公平という観点か
らも,P2社役員報酬の邦貨への換算はTTBによるべきである(なお,
国内株式の配当や外国株式の売買の場合と,外国法人からの報酬の場合の
換算方法を別異に解する合理的理由はないから,国内株式の配当や外国株
-41-
式の売買の場合にTTBを用いることとしている租税特別措置法通達9
の2-3が本件においても適用されるというべきである。)。
(被告らの主張の要点)
現行の所得税法57条の3第1項が施行される平成18年4月1日よ
り前の所得税に関する法令では,外貨建取引の換算に関する規定が設けら
れていなかったところ,従前から法人税法の規定による外貨建取引の換算
方法に準じ,外貨建取引の邦貨への換算方法は,全て外貨と円貨との翻訳
という立場を採用して対顧客直物電信売相場と対顧客直物電信買相場の
仲値(以下「TTM」という。)によるものとされていた。したがって,
P2社役員報酬を邦貨に換算する際にもTTMを用いることが相当であ
る。
なお,原告P1が主張する租税特別措置法通達9の2-3は,「支払の
取扱者が支払代理機関等から外国通貨によって国外株式の配当等の支払
を受け,当該国外株式の配当等を居住者又は内国法人に本邦通貨で交付す
る場合には」としており,国外株式の配当等が外国の法人から外国通貨で
支払われたときに,その配当等を邦貨に換算の上,邦貨でその権利者に交
付される場合の取扱いを定めたものであり,外国法人であるP2社から原
告P1が受領したP2社役員報酬に適用することはできない。
カ争点8(P3からの利得所得等の課税方法)について
(原告P1の主張の要点)
上記アの(原告P1の主張の要点)で述べたとおり,原告P1は本件各
課税年において日本の非居住者であるから,原告P1に対する課税の範囲
は国内源泉所得に限られる。
そして,日本の非居住者が内国法人から受け取る役員報酬は,所得税法
161条8号イの「国内において行う勤務その他の人的役務の提供(中略)
に基因するもの」に該当するから国内源泉所得となるが,日本国内に恒久
-42-
的な施設を有しない日本の非居住者の当該国内報酬の課税方法は源泉分
離課税となる。また,日本の非居住者が内国法人から受け取る貸付金利子
及び配当所得は,所得税法上,国内源泉所得となるが,日本国内に恒久的
施設を有しない日本の非居住者の当該貸付金利及び当該国内配当の課税
方法は,国内報酬と同様に源泉分離課税となる。ところが,被告国は,原
告会社役員報酬,貸付金利子及び国内配当につきいずれも総合課税の処理
をしており,かかる処理は,所得税法164条2項2号に違反する。
(被告らの主張の要点)
日本の非居住者に対する課税の範囲,日本の非居住者が内国法人から受
け取る役員報酬,貸付金利子及び配当所得につき源泉分離課税が所得税法
上適用されることはおおむね認めるが,上記アの(被告らの主張の要点)
で述べたとおり,原告P1は,本件各課税年において日本の居住者である
から,原告P1の主張はその前提を欠き失当である。
キ争点9(原告会社が平成15年に支払った原告会社役員報酬から源泉徴
収すべき所得税の額)について
(原告P1の主張の要点)
所得税法120条1項5号の「源泉徴収をされた又はされるべき所得税
の額」とは,所得税法の源泉徴収の規定に基づき正当に徴収された又はさ
れるべき所得税の額であるところ,同額は正しくは,1239万5400
円であるから,仮に,原告P1が日本の居住者に該当するとしても,被告
国の処分は,所得税法120条1項5号の解釈を誤っている。
(被告国の主張の要点)
原告P1は,平成15年分の給与所得者の扶養控除等(異動)報告書を
提出している日本の居住者であるから,経済社会の変化等に対応して早急
に講ずべき所得税及び法人税の負担軽減措置に関する法律(以下「旧負担
軽減法」という。)別表第1の甲欄が適用され,また,原告会社は,給与
-43-
等の支払額に関する計算を電子計算機などの事務機械によって処理して
いることも考慮して平成15年分役員報酬に係る源泉徴収すべき税額を
計算すると,合計826万8480円となる。
原告P1は,上記源泉徴収額につき正しくは1239万5400円であ
るなどと主張するが,当該金額は,扶養控除等申告書を提出していない日
本の居住者に対する税額を算出したものであって,所得税法の規定を正し
く当てはめて計算された金額でないことは明らかであるから,その主張は
失当である。
ク争点10(本件A建物の取得価額)について
(原告P1の主張の要点)
本件A建物は,本件A53土地等売買契約書の記載によれば新築の建物
であるところ,本件A53土地を管轄するさいたま地方法務局に保管され
ていた「新築建物価格認定基準表」(上記売買契約が締結された昭和53
年当時のもの。以下同じ。)によれば,本件A建物の価格は202万60
00円となる。
これに対し,被告らは,「建物の標準的な建築価額表」に基づいて再計
算をし,本件A建物の価額が541万7945円である旨主張するが,
「建物の標準的な建築価額表」は,納税者が建物価格を合理的に算定する
ことができない場合につき,法務局などの公的機関等に照会する手間を省
くという納税者の便宜のために大雑把な目安に近い基準を定めているに
すぎず,より詳細な基準を定める「新築建物価格認定基準表」に基づいて
合理的かつ具体的な価額が明らになる場合にまで「建物の標準的な建築価
額表」を使用して建物の価額を算定することには合理性が認められない。
よって,本件A建物の価額の算定には「新築建物価格認定基準表」を用
いるべきである。
(被告らの主張の要点)
-44-
原告P1が本件A建物の取得価額の算定に用いるべきと主張する「新築
建物価格認定基準表」は,飽くまで登記機関が登録免許税の課税標準額を
定めるに当たって,不動産価額の認定事務の公正と迅速化を図る趣旨で定
めた基準であり,これと趣旨目的を異にする譲渡所得の計算において,建
物の取得費の認定に用いることは適当ではない。
国土交通省は,建築の動態を把握するため,建築基準法15条の規定に
よる建築工事の届出等を基に,統計法による指定統計等として毎月実施し
ている建築動態統計調査の結果を取りまとめ,建築統計年報を作成してお
り,「建物の標準的な建築価額表」は,この建築統計年報を基礎資料とし
て取りまとめられたものであり,建築価格の算定に十分な合理性の認めら
れるものである。そして,この「建物の標準的な建築価額表」に基づき本
件A建物の取得価額を算定すると541万7945円となる。
ケ争点11(課税方法の違法の有無)について
(原告P1の主張の要点)
原告P1は本件各課税年において日本の非居住者であるから,平成17
年分の不動産譲渡所得(以下「本件不動産譲渡所得」という。)について
は,譲渡価額から取得価額を控除した所得金額に所定の税率を乗じて算出
した税額から,当該不動産の購入者の支払金額の10%を控除しなければ
ならない。
しかるに,被告国は本件不動産譲渡所得につき上記の源泉徴収額相当額
の控除をしていないから,原告P1に対してされた本件各所得税課税処分
には所得税法120条1項5号に反する違法がある。
(被告国の主張の要点)
争う。
原告P1は本件各課税年において日本の居住者であるから,原告P1の
主張はその前提を欠き失当である。
-45-
コ争点12(二重課税による違法性の有無)について
(原告P1の主張の要点)
原告P1は,既に米国において,その所得に対して課税処分を受けてお
り,本件各所得税課税処分及び本件各住民税賦課決定処分(以下「本件各
課税処分」という。)に基づいて日本でも課税がされることになると,原
告P1は,日本と米国において二重に課税されることになる。しかし,か
かる事態は,租税正義の理念及び二重課税を排除するために締結された新
旧日米租税条約の趣旨に反するものであり,許されない。
(被告らの主張の要点)
所得税法95条1項は,国際的二重課税を排除するために外国税額控除
制度を設け,「居住者が各年において外国所得税(中略)を納付すること
となる場合(中略)には,(中略)その年分の所得税額のうち,その年に
おいて生じた所得でその源泉が国外にあるものに対応するものとして政
令で定めるところにより計算した金額(中略)を限度として,その外国所
得税の額をその年分の所得税の額から控除する。」と規定する。しかし,
上記規定は,確定申告書に同項の規定による控除を受けるべき金額及びそ
の計算に関する明細の記載があり,かつ,外国所得税を課されたことを証
する書類その他財務省令で定める書類の添付がある場合に限り適用され
る。
原告P1の場合には,平成15年分確定申告書には,所得税法95条5
項に規定する各種書類の添付はなく,また,平成14年分,平成16年分
及び平成17年分の各所得税に関しては,確定申告書の提出すらされてい
ないのであるから,原告P1は,本件各課税年分の所得税の計算上,外国
税額控除を適用することは認められず,二重課税の違法に関する原告P1
の主張は失当である。
サ争点13(原告P1に対してされた質問検査権行使の違法性の有無)に
-46-
ついて
(原告P1の主張の要点)
原告P1に対しては,平成18年4月ころから,西川口税務署職員によ
る税務調査が行われていたところ,関東信越国税局の職員は,同年10月
16日,現P20法人で法人税部マネージャーを務めるP21を関東信越
国税局に呼び出し,また,他の日に原告P1が代表者を務める原告会社に
臨場するなどして,調査の主体ではないにもかかわらず,事実上,質問検
査権を行使した。
所得税法234条は,「国税庁,国税局又は税務署の当該職員は,所得
税に関する調査について必要があるときは,(中略)質問し,(以下略)」
と定め,質問検査権の行使は「調査について」のみ行使することを認めて
いる。しかるところ,原告P1に対してされた税務調査は,西川口税務署
長の指示の下,西川口税務署の職員が「所得税に関する調査について」行
ったものであり,本件各所得税課税処分の決定通知書等には関東信越国税
局による調査である旨の教示もないことから,関東信越国税局は本件税務
調査を行っておらず,「調査について」質問検査権が行使されたものでは
ない。
また,財務省組織規則468条4号は,「課税総括課は,次に掲げる事
務(括弧内省略)をつかさどる。」,「所得税,法人税,相続税等,消費
税及び印紙税の課税標準の調査並びにこれらの国税に関する検査に関す
る事務(括弧内省略)で,国税局長が必要があると認めた特定事項に係る
事務の指導及び監督並びにこれに必要な調査及び検査に関すること。」と
定めるが,同法は組織内での権限分掌について定めた組織法であり,質問
検査権の授権規範とはなりえないし,原告P1に対する調査について「国
税局長が必要があると認めた」という事実も存在しない。
したがって,関東信越国税局の職員が原告P1に対してした質問検査権
-47-
の行使は,法令に基づかず,何ら権限がないにもかかわらず行われたもの
であって,適正手続(憲法31条)に反する重大な違法行為であり,かか
る重大な違法手続を経てなされた本件各所得税課税処分は取り消される
べきである。
(被告国の主張の要点)
所得税法が規定する国税庁,国税局又は税務署の職員の質問検査権にお
ける質問検査の範囲,程度,時期,場所等の細目は,質問検査の必要があ
り,かつ,これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限
度にとどまる限り,権限のある税務職員の合理的な選択に委ねられている。
関東信越国税局の職員が本件に関してした調査は,社会通念上相当と認め
られる限度を超えておらず,国税局の職員が,指導監督上の必要に基づい
て,納税者に対して直接質問検査権を行使することは当然に許容されてい
るから,関東信越国税局の職員がした原告P1に対する質問検査権の行使
につき適正手続違反は存しない。
また,税理士法上,「税理士又は税理士法人の使用人その他の従業員」
は,「業務に関して知り得た秘密を他に漏ら」してはならないという内容
の守秘義務が課されているから,関東信越国税局の職員がP21との間で
原告P1の調査に関するやり取りをしたとしても,そのことから直ちに原
告P1のプライバシー権が侵害されたということはできない。
シ争点14(国税通則法65条4項又は同法66条1項ただし書の「正当
な理由」の有無)について
(被告国の主張の要点)
(ア)本件各所得税課税処分はいずれも適法であるところ,原告P1は,平
成15年分の所得税については,納付すべき税額を過少に申告していた
ものであり,納付すべき税額を過少に申告していたことについて国税通
則法65条4項に規定する正当な理由があるとは認められない。したが
-48-
って,原告P1に課されるべき過少申告加算税の額は,同条1項に基づ
き,本件更正処分により新たに納付すべきこととなった税額1332万
円に100分の10の割合を乗じて算出した金額133万2000円
と,同条2項の規定に基づき,本件更正処分により新たに納付すべきこ
ととなった税額のうち期限内申告税額879万5725円と50万円
のいずれか多い金額を超える部分の税額452万円に100分の5を
乗じて算出した金額22万6000円との合計額である155万80
00円となる。
(イ)また,原告P1は,平成14年分,平成16年分及び平成17年分の
各所得税については確定申告を期限内にしなかったものであり,当該期
限内にできなかったことについて,国税通則法66条1項ただし書に規
定する正当な理由があるとは認められない。したがって,同項本文に基
づき,平成14年分の所得税については544万6500円,平成16
年分の所得税については51万3000円,平成17年分の所得税につ
いては123万7500円の無申告加算税の納付義務を負う。
(原告P1の主張の要点)
仮に,原告P1に対してされた本件各所得税課税処分が適法であるとし
ても,原告P1には,自己が日本の非居住者に該当すると判断することが
やむを得ない事情が多数存在し,原告P1に無申告加算税及び過少申告加
算税を賦課することは不当又は酷になる場合であるということができる
から,原告P1が自己を日本の非居住者であると判断し,確定申告を期限
内に行わなかったこと及び税額を過少に申告したことについては,国税通
則法65条4項,66条1項ただし書所定の正当な理由が存在し,いずれ
にしても原告P1に対してされた無申告加算税及び過少申告加算税の各
賦課決定処分は違法であり取消しを免れない。
ス争点15(平成15年度分ないし平成17年度分の住民税賦課決定処分
-49-
の法定期間内の通知の有無)について
(原告P1の主張の要点)
住民税の賦課決定は,法定納期限の翌日から起算して3年を経過した日
以後はすることができないところ,平成21年1月22日に原告P1が納
税通知書(以下「本件納税通知書」という。)を受領した平成15年度分
ないし平成17年度分の住民税の賦課決定処分は,いずれも各法定納期限
である平成15年6月30日,平成16年6月30日及び平成17年6月
30日から3年を経過した後にされたものであるから,賦課決定をする期
間を徒過している。
また,住民税の所得割及び均等割の各賦課決定は,その課税標準の基準
となる所得税の更正又は決定の通知が発せられた日の翌日から起算して
2年間することができる。しかし,本件各住民税賦課決定処分の課税標準
の基準となる所得税の更正又は決定の通知が発せられた日は平成18年
12月18日であり,同日から2年を経過する平成20年12月18日の
満了までに原告P1に対して有効に本件納税通知書が送達されなければ
ならないところ,平成15年度分ないし平成17年度分の住民税の各納税
通知は,平成21年1月22日に原告P1に送達されているから,法定期
間内に有効な通知がなされていない。
以上に述べたところによれば,川口市長が原告P1に対してした平成1
5年度分ないし平成17年度分の住民税の賦課決定処分は有効な送達を
欠くものであり無効である。
(被告川口市の主張の要点)
(ア)地方公共団体の徴収金の賦課等に関する書類は,郵便等による送達又
は交付送達により,その送達を受けるべき者の住所,居所,事務所又は
事業所に送達する。ここで,送達とは,書類の送達を受けるべき者がそ
の書類を受領し,その書類に記載された内容を了知し得る状態に達する
-50-
ことをいうが,上記の各送達場所は,送達書類を名宛人に対して確実に
送達するために最も適当な場所として列挙されたものである。また,送
達は,その書類が送達の相手方の支配下に入れば足り,名宛人が現実に
書類に記載された内容を了知しなくても送達の効力は生ずる。
これを本件についてみるに,被告川口市は,平成20年12月3日付
けで,原告P1に対し,平成15年度分ないし平成20年度分の住民税
の賦課決定通知書(本件納税通知書)を,原告P1の住所であるP3宛
に配達証明付書留郵便の方法により発送したが,原告P1は,その保管
期限を経過しても本件納税通知書を受領しなかった。しかし,本件納税
通知書は,社会通念上,留置期間中において原告P1が了知可能な状態
に置かれていたということができるから,遅くとも留置期間の満了日で
ある平成20年12月11日には原告P1に送達されたということが
できる。よって,平成15年度分ないし平成17年度分の住民税の賦課
決定処分は法定期間内に原告P1に通知されているから,いずれも有効
である。
(イ)また,地方税の賦課決定等に関する書類が名宛人の下に確実かつ迅速
に送達されることを確保するという地方税法20条1項の趣旨に照ら
せば,登録上の住所地よりも確実かつ迅速に,当該個人宛ての書類を受
領し得る所在地がある場合には,当該所在地も同項に規定する住所地に
当たるものとして,当該所在地に送達することも許されると解される。
これを本件についてみるに,原告P1は,原告会社の代表取締役社長
として同社で執務をしていたのであるから,原告会社の本店所在地は,
住民登録上の住所地と共に原告P1の送達に関する住所に当たるとい
うべきである。
セ争点16(本件各住民税関係処分の信義則違反該当性)について
(原告P1の主張の要点)
-51-
被告川口市は,平成16年,自ら原告P1につき日本の非居住者である
との信頼の対象となる公的見解を表示し,原告P1がこれを信頼して米国
で納税をしていたにもかかわらず,本件において上記表示と異なる課税処
分を行ったため,原告P1は,既に米国において納付した税金について二
重課税となり著しい経済的不利益を受けている。このような被告川口市の
処分は,信義則上違法の評価を受けるべきものであるから,被告川口市が
原告P1に対してした本件各住民税関係処分はいずれも取り消されなけ
ればならない。
(被告川口市の主張の要点)
租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係において,信義則法理
の適用の是非を検討すべき場合とは,租税法規の適用における納税者間の
平等,公平という要請を犠牲にしても,なお当該課税処分に係る課税を免
れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するという特別な事情
が存する場合をいう。そして,上記の特別の事情が存するか否かの判断に
当たっては,課税庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示した
ことにより,納税者がその表示を信頼し,その信頼に基づいて行動したと
ころ,その後に上記表示に反する課税処分がされ,そのために納税者が経
済的不利益を受けることになったものであるかどうか,また,納税者が上
記表示を信頼し,その信頼に基づいて行動したことについて納税者の責め
に帰すべき事由がないかどうかという考慮を要する。
これを本件についてみると,川口市長が平成16年8月9日付けで原告
P1に対してした平成16年度の住民税の賦課決定処分の取消処分(本件
住民税賦課決定取消処分)は,同年度の住民税の賦課決定処分をすること
を封じる効果を持つものではないから,原告P1の信頼の基礎となる公的
見解には当たらない。また,この点をおくとしても,本件住民税賦課決定
取消処分により,原告P1が信頼する表示があるとすれば,それは,原告
-52-
P1が平成16年1月1日には被告川口市の住民ではなかったとの判断
にすぎないし,原告P1の平成16年の米国NJ州租税裁判所等での行動
に照らせば,原告P1が平成16年1月1日に被告川口市の住民でないこ
とを前提とした行動をした事実はない。さらに,川口市長が本件住民税賦
課決定取消処分をしたのは,原告P1及びP17税理士による説明並びに
原告P1が提出した資料に基づくものであるから,原告P1がその経済活
動の実態を正しく説明しなかったという納税者の責めに帰すべき事由が
ある。
(3)本件源泉所得税課税処分に関する本案の争点(第2事件関係)
ア争点17(原告P1の日本の居住者該当性)について
(原告会社の主張の要点)
原告会社に対してされた本件各源泉所得税課税処分は,原告P1が所得
税法2条1項3号,181条1項,183条1項に規定する日本の居住者
に該当することを前提にされたものであるところ,上記(2)ア(原告P1
の主張の要点)欄において原告P1が主張したとおり,原告P1は,米国
の居住者であり,日本の居住者ではないから,原告会社は,同法181条
1項,183条1項に基づく源泉徴収義務を負っていない。
したがって,本件各源泉所得税課税処分は,原告P1が日本の居住者で
あるという誤った前提事実に基づいてされた違法なものであるから,当然
に取消しを免れない。
(被告国の主張の要点)
原告P1は,上記(2)アの(被告らの主張の要点)で主張したとおり,
日本の居住者に当たるから,原告会社の主張はその前提を欠き失当である。
イ争点18(国税通則法67条1項ただし書の「正当な理由」の有無)に
ついて
(原告会社の主張の要点)
-53-
(ア)仮に,原告P1が日本の居住者に該当するとしても,次のとおり,原
告会社には,役員報酬等に係る源泉所得税額を法定納期限までに納付し
なかったことにつき正当な理由(国税通則法67条1項ただし書)があ
る。
すなわち,原告会社における源泉所得税の取扱いに関しては,国内の
総務管理業務を担当していたP22会長が実質上最終の決定権限を有
していたところ,P22会長は,原告P1から日本の非居住者であると
いう申告を受けていた。また,P22会長は,原告P1が生計を一にす
る家族と住む居宅を米国内に有し,米国の永住権を取得し,健康保険も
日本ではなく米国で加入し,原告会社の業務の合間を縫って頻繁に米国
に帰国していたことなどの事情を認識していたことに加えて,原告P1
が日本の非居住者であることを判断する際,念のため,原告P1が,米
国において米国の居住者として税務申告を行っていたことも確認して
いる。
(イ)そもそも,源泉徴収義務は,本来の納税義務と異なり,金員の支払時
において即時に確定する性質のものであるから,源泉徴収義務者である
原告会社の源泉所得税の判断についても,P22会長は,原告P1に対
する金員支払時点における上記(ア)で述べた各事実に基づいて判断せざ
るを得ず,役員1人の源泉所得税の取扱いの判断のために,企業が膨大
な時間を掛けて資料を取りそろえ,課税庁が行うような専門的調査を行
うことはおよそ不可能である。
(被告国の主張の要点)
(ア)国税通則法67条1項ただし書に規定する「正当な理由」がある場合
とは,その納税義務の不履行が,通常の状態において源泉徴収義務者が
知り得ることができなかった場合や,その責めに任じられない外的事情
による場合等が考えられ,法の不知は正当な理由とはならない。
-54-
(イ)仮に,P22会長が,原告P1から,日本の非居住者であるとの申告
を受けていたとしても,日本の非居住者に該当するか否かは,源泉徴収
義務者である原告会社が独自に判断すべき性質のものであるから,原告
P1の申告に従っていたことのみをもって,源泉徴収義務に係る国税の
不納付につき正当な理由があるとはいえないことは明らかである。
また,P22会長において,原告P1の家族が米国に居住しているこ
とや,原告P1が米国で税務申告をしていたことなどの事実を確認して
いたとしても,原告P1の我が国での滞在日数や出入国の状況,原告会
社内での原告P1の職務の状況等に照らせば,日本の非居住者である旨
の原告P1の申告について合理的な疑念を抱くことは当然に可能であ
ったということができる。さらに,原告P1が我が国の健康保険に未加
入であることは,そもそも,原告会社が健康保険法に定める義務を履行
していないことに起因するものであるし,原告会社の法人税の確定申告
書において,原告P1の代表者の住所として本件旧肩書地が記載されて
いたことなどの諸事情を総合勘案すれば,真に納税者の責めに帰するこ
とのできない客観的な事情があり,不納付加算税の趣旨に照らしても,
なお納税者に不納付加算税を賦課することが不当又は酷になる場合で
はないことは明らかである。
以上によれば,原告会社につき国税通則法67条1項の「正当な理由」
があるとする原告会社の主張は失当である。
ウ争点19(原告会社に対してされた質問検査権行使の違法性の有無)に
ついて
(原告会社の主張の要点)
上記(2)サの(原告P1の主張の要点)で原告P1が主張した関東信越
国税局の職員による質問検査権の行使は,原告会社に対しても同様に実施
されているところ,上記(2)サと同様の理由から,原告会社に対してされ
-55-
た質問検査権の行使は,重大な違法行為であって,かかる重大な違法手続
を経てなされた本件各源泉所得税課税処分は,いずれも取り消されなけれ
ばならない。
(被告国の主張の要点)
上記(2)サの(被告国の主張の要点)で述べたとおり,関東信越国税局
の職員がした原告らに対する調査は適法であるから,原告会社の主張は失
当である。
第3当裁判所の判断
1争点1(本件更正処分のうち確定申告額を超えない部分の取消請求について
の訴えの利益の有無)について
(1)被告国は,原告P1の平成15年分の所得税に係る更正処分(本件更正処
分)の取消しを求める訴えのうち,原告P1が平成15年分確定申告により
自ら確定させた納付すべき税額を超えない部分の取消請求は,訴えの利益を
欠き不適法である旨主張する。そこで,この被告国の主張の当否につき検討
する。
(2)ア所得税のように納付すべき税額の確定手続につき申告納税方式によるこ
ととされている国税においては,納付すべき税額は,原則として納税者の
する申告により確定し(国税通則法15条,16条1項1号,2項,所得
税法120条1項参照),納税者が自らした申告内容を当該納税者に有利
な内容に変更するには更正の請求の方法(国税通則法23条等)によらな
ければならない。このように申告納税制度が採られている国税において,
確定申告書に記載された事項の過誤の是正につき更正の請求という特別の
手続が設けられているのは,課税標準等の決定は最もその間の事情に通じ
ている納税者自身の申告に基づくものとし,その過誤の是正は,法律が特
に認めた場合に限るものとすることが租税債務を可及的速やかに確定させ
るべき国家財政上の要請に応ずるものであり,納税者に対しても過当な不
-56-
利益を強いるおそれがないと考えたからであると解される(最高裁昭和3
8年(オ)第499号同39年10月22日第一小法廷判決・民集18巻
8号1762頁参照)。
このような更正の請求の手続が設けられた趣旨に照らすと,申告に係る
納付すべき税額等の更正処分を受けた納税者は,申告の錯誤が客観的に明
白かつ重大であって法の所定する方法以外にその是正を許さなければ納税
義務者の利益を著しく害すると認められるといった特段の事情がある場合
を除き,当該更正処分のうち申告に係る納付すべき税額を超えない部分に
ついては,上記更正の請求の手続を経ない限り,抗告訴訟により取消しを
求めることはできないというべきである(前掲昭和39年10月22日第
一小法廷判決参照)。
イこれを本件についてみるに,前提事実(8)ア記載の事実によれば,原告P
1は,平成16年3月15日,西川口税務署長に対し,平成15年分の所
得税につき総所得金額を3289万1030円とし,納付すべき税額を6
万2200円とする申告(平成15年分確定申告)をしたことが認められ,
原告P1が平成15年分確定申告につき更正の請求をしていないことは当
事者間に争いがない。そうすると,本件更正処分の取消しの訴えのうち,
平成15年分確定申告により原告P1が自ら確定させた納付すべき税額を
超えない部分の取消しを求める部分は,上記アの特段の事情が認められな
い限り,不適法ということになるものと解される。
(3)アこの点に関して,原告P1は,平成15年分確定申告は錯誤に基づいて
されたものであり,更正の請求をしていないことにも錯誤があるから,更
正の請求の手続を経ることなく本件更正処分の取消しの訴えを提起する
ことを許容する特段の事情がある旨の主張をし,その根拠として,①平
成15年分確定申告には原告P1の意思と確定申告の担当者であるP1
7税理士のした表示との間に齟齬があること,②原告P1は,P17税
-57-
理士と共に川口市役所を訪問し,被告川口市の担当者に対して原告P1が
日本の居住者に該当しない旨を説明したところ,上記担当者が納得して課
税処分を取り消したことから,所得税についても日本の非居住者として処
理されることになると考えたことなどを挙げる。
イしかし,上記①の点については,証拠(乙43,44)によれば,平成
15年分確定申告書は,原告P1の委任を受けたP17税理士が税理士法
2条の税理士業務として作成したものであることが認められるから,平成
15年分確定申告につき錯誤があるか否かは,民法101条の規定に基づ
き,代理人であるP17税理士について決せられるべきであるということ
になる。したがって,代理人であるP17税理士が平成15年分確定申告
書の中でした表示と本人である原告P1の真意との間に齟齬があるとし
ても,P17税理士自身がした表示行為(代理行為)に錯誤があるとはい
えないから,平成15年分確定申告にはそもそも錯誤があるとはいえない。
また,この点をおくとしても,平成15年分確定申告は税務申告の専門家
であるP17税理士が代理人として関与していたのであるから,原告P1
としては,P17税理士と十分な意思の疎通を図ることにより自らの意思
を的確に反映させた申告をすることが可能であったということができる。
そうすると,仮に原告P1が主張するような錯誤が平成15年分確定申告
に存したとしても,そのような錯誤が生じた原因は,原告P1とP17税
理士との間で十分な意思の疎通を欠いたことにあるというべきであるか
ら,平成15年分確定申告の是正を許さなければ納税義務者である原告P
1の利益を著しく害すると認められるといった特段の事情があるとはい
えない。
以上によれば,原告P1の上記①の主張は採用することができない。
ウ次に,上記②の点については,国税である所得税と地方税である住民税
が課税主体を異にする別個の税であることは,上場会社である原告会社の
-58-
代表取締役を務めていた原告P1は当然に知っていたものと考えられる
上,上記イで説示したとおり,平成15年分確定申告を代理したP17税
理士は,原告P1と被告川口市の担当者との交渉に同行するなどして原告
P1に対してされた本件各課税処分に関する一連の問題に深く関与して
いたことが認められるから,原告P1は,P17税理士から,平成15年
分確定申告書に記載された事項の過誤を是正するには,別途,国税通則法
23条所定の更正の請求の手続を経る必要があることの説明を受け得る
立場にあったということができる(なお,原告P1は,更正の請求の手続
を経ずに取消しの訴えを提起することを許容すべき特段の事情として,被
告川口市の職員から所得税につき更正の請求をする必要がある旨の教示
を受けなかったことも挙げているが,先に説示したとおり,所得税と住民
税は課税主体を異にする別個の税であるから,住民税を担当している被告
川口市の担当者が,原告P1に対し,国税である所得税につき更正の請求
をすることを要する旨の教示をしなければならないとはいえない。よって,
この点に関する原告P1の主張に理由がないことは明らかである。)。そ
うすると,原告P1が更正の請求の手続を経ていないことについても上記
アの特段の事情があるとはいえない。
エそして,原告P1が主張する他の事情を見ても,平成15年分確定申告
の錯誤が客観的に明白かつ重大であって更正の請求を経ることなくその
是正を許さなければ原告P1の利益を著しく害すると認められる特段の
事情があることを認めるに足りるものは見当たらない。
(4)以上によれば,本件更正処分の取消しの訴えのうち,平成15年分確定申
告により原告P1が自ら確定させた申告額を超えない部分(総所得金額32
89万1030円,納付すべき税額6万2200円を超えない部分)の取消
しを求める部分については,取消訴訟を提起することは許されないものとし
て不適法であり,却下を免れないということができる。
-59-
2争点2(被告川口市が原告P1に対してした平成15年度分,平成17年度
分及び平成18年度分の各住民税賦課決定処分の取消請求の訴えの利益の有
無)について
(1)被告川口市は,住民税の減額更正処分は,課税標準の内容の変更に基づき
再計算された税額による新規の賦課決定という性格を有するから,原告P1
が本件訴えの中で取消しを求めるべき対象は,原告P1に対してされた平成
25年3月14日付け住民税変更決定処分であり,川口市長が平成20年1
2月3日付けで原告P1に対してした平成15年度分,平成17年度分及び
平成18年度分の各住民税の賦課決定処分について取消しを求める原告P1
の各訴えは,いずれも訴えの利益を欠き不適法である旨主張する。
そこで,以下,この被告川口市の主張の当否につき検討する。
(2)ア所得税その他の国税につき決定ないし更正処分がされた後において,い
わゆる減額更正処分(再更正処分を含む。以下同じ。)がされたときは,
当該減額更正処分は,それにより減少した税額に係る部分についてのみ法
的効果を及ぼすものであり(国税通則法29条2項参照),減額更正処分
の理由のいかんにかかわらず,当初の処分とは別個独立の課税処分ではな
く,それによって税額の一部取消しという納税者に有利な効果をもたらす
当初の処分の変更としての性格を有するものであると解される。
したがって,納税者は,上記の減額更正処分に対してその取消しを求め
る訴えの利益はなく,専ら減額された当初の処分の取消しを請求すること
をもって足りるものと解される(最高裁昭和52年(行ツ)第12号同5
6年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁)。このような
国税に関する理解を地方税である本件の住民税にも同様に当てはめると,
川口市長が原告P1に対して賦課した平成15年度分,平成17年度分及
び平成18年度分の各住民税に関して原告P1がその訴えの中で取消しを
求めるべき対象は,川口市長が平成20年12月3日付けでした当初の処
-60-
分であり,その後にされた平成25年3月14日付け住民税変更決定処分
ではないということになる。
イこの点に関し,被告川口市は,自らの主張の根拠として,国税である所
得税と地方税である住民税とでは課税処分の方法等に違いがあることなど
を挙げる。
しかし,地方税法20条の9の2第3項は,「すでに確定した納付し,
又は納入すべき税額を減少させる更正は,その更正により減少した税額に
係る部分以外の部分の地方税についての納付又は納入の義務に影響を及ぼ
さない」旨を規定しているところ,同項の規定内容は,国税通則法29条
2項の規定(「既に確定した納付すべき税額を減少させる更正は,その更
正により減少した税額に係る部分以外の部分の国税についての納税義務に
影響を及ぼさない。」)と同様の内容であることによれば,特段の事情が
ない限り,国税と同様の取扱いをすることが相当であると解される。そし
て,被告川口市の主張を見ても,減額更正処分がされた後の手続につき所
得税(国税)と住民税(地方税)とで異なる取扱いがされていることを認
めるに足りる事情は見当たらないことによれば,減額更正がされた場合の
取消しの対象は,所得税と地方税とで同様の取扱いをすることが相当であ
ると解される。よって,この点に関する被告川口市の主張を採用すること
はできない。
(3)以上によれば,原告P1の平成15年度分,平成17年度分及び平成18
年度分の住民税に係る取消しの訴えにおいて原告P1が取消しを求めるべき
対象は,川口市長が平成20年12月3日付けで原告P1に対してした平成
15年度分,平成17年度分及び平成18年度分の各住民税の賦課決定処分
(ただし,平成25年3月14日付け住民税変更決定処分によりそれぞれ一
部取り消された後のもの)であるというべきであるから,その取消しを求め
る原告P1の本件各訴えはいずれも適法であるということができる。
-61-
3争点3(1),(2)及び争点17(原告P1の日本の居住者該当性等)について
(1)ア所得税法は,日本の居住者には所得税を納める義務がある旨規定し(同
法5条1項),日本の非永住者以外の日本の居住者は,国内及び国外の全
ての所得について所得税を納める義務がある旨を規定する(同法7条1項
1号)。
本件において,被告国は,原告P1は本件各課税年中において日本の居
住者であったから,そのことを前提としてされた本件各所得税課税処分は
いずれも適法である旨主張するのに対し,原告らは,原告P1は本件各課
税年において日本の非居住者であったから,本件各所得税課税処分のうち
原告P1が日本の居住者であることを前提としてされた部分は違法である
旨主張する。
そこで,以下,原告P1が本件各課税年において日本の居住者であった
と認められるか否かにつき検討する。
イ所得税法2条1項3号は,同法所定の「居住者」につき「国内に住所を
有し,又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいう。」と定
義し,日本の居住者に該当するか否かについては,課税年度において国内
に住所又は居所を有するか否かにより判定することとしている。
所得税法は,日本の居住者を判定する際の要件となる「住所」の意義に
ついて明文規定を置いていないところ,「住所」とは,反対の解釈をすべ
き特段の事由がない以上,生活の本拠,すなわち,その者の生活に最も関
係の深い一般的生活,全生活の中心を指し,一定の場所がその者の住所に
当たるか否かは,客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かによ
り決すべきであると解される(最高裁昭和29年(オ)第412号同年1
0月20日大法廷判決・民集8巻10号1907頁,最高裁昭和32年(オ)
第552号同年9月13日第二小法廷判決・裁判集民事27号801頁,
最高裁昭和35年(オ)第84号同年3月22日第三小法廷判決・民集1
-62-
4巻4号551頁,最高裁平成20年(行ヒ)第139号同23年2月1
8日第二小法廷判決・裁判所時報1526号2頁参照)。そして,生活の
本拠たる実体を具備しているか否かを判断する際には,①その者の所在,
②職業,③生計を一にする配偶者その他の親族の居所,④資産の所
在等の客観的事実に基づき総合的に判定すべきであり,これに対し,主観
的な居住の意思は,客観的な居住の事実に具体化されていることが通常で
あるため,生活の本拠の判定において無関係であるとはいえないが,居住
の意思は必ずしも常に存在するものではなく,しかも,外部から認識し難
い場合が多いことによれば,補充的な考慮要素にとどまるというべきであ
る。
ウそこで,以下,上記イの判断枠組みに基づき,本件各所得税課税処分の
適法性を判断する前提として,原告P1が本件各課税年中において日本の
居住者であったと認められるか否かにつき検討を進めることとする。
(2)ア前記(1)イで説示したとおり,ある者の生活の本拠に関する判断は,様々
な客観的事実に基づき総合的に判定されるべき性格のものであるが,生活
の本拠があるというためには,その者が特定の場所(国)に一定の期間滞
在を継続することが不可欠であると考えられるから,その者の所在(日本
国内での滞在日数)や滞在に必要となる住居の有無は,生活の本拠の判定
の際の重要な判断要素になるものと解される。また,この点に関連して,
我が国では,住民基本台帳法に基づく住民登録の制度が整備されていると
ころ,この住民登録の制度は,市区町村の住民をその住所地の住民票に登
録し,その居住関係等を明らかにするために設けられたものであるから
(同法1条),住民登録の状況は,その者の所在や住居に係る客観的事実
と併せ,生活の本拠を判定する上で重要な判断要素になり得るものである
と解される。
イそこで,まず,原告P1の所在(本件各課税年における日本国内での滞
-63-
在日数)についてみるに,前提事実(2)アによれば,①本件各課税年に
おける原告P1の日本国内での滞在日数は,平成14年が298日,平成
15年が297日,平成16年が330日,平成17年が269日であり,
いずれも日本国内での滞在日数が海外での滞在日数を大きく上回ってい
ること(最も滞在日数の少ない平成17年でも全体の74%であり,最も
滞在日数の多い平成16年では全体の90%であること),②原告P1
が本件各課税年中において1か月間全く日本国内に滞在しなかった月は
存しないことが認められ,これらの事情によれば,原告P1は,本件各課
税年中の期間の大部分につき日本国内に滞在していたと評価することが
できる。
次に,原告P1の我が国での住民登録の状況についてみると,前提事実
(2)イによれば,原告P1が本件各課税年中に住所地の登録を日本国内か
ら米国に異動したのは,<ア>平成16年12月23日から平成17年3
月10日までの間,<イ>同年12月23日から平成18年1月9日まで
の間の2回であることが認められる。このうち,上記<イ>については年末
年始を含む18日間にすぎず,上記<ア>については比較的長期(約3か月)
であるものの,上記<イ>と同様に年末年始を含んでいる上,平成17年1
月10日から同年2月21日までの間は,原告P1は住民登録をせずに日
本国内に滞在していたことが認められるから(別紙5の番号11及び12
並びに別紙7参照),住民登録の状況が原告P1の実際の滞在状況を反映
しているとはいえない。
このように,原告P1が本件各課税年中において日本国内に長期にわた
り継続して滞在し,その大部分の期間について日本国内に住民登録をして
いたということは,原告P1が日本国内に生活の本拠を有していたことを
強く推認させる事情であるということができる。
ウ次に,原告P1が上記イで認定した日本国内での滞在中の居住場所(住
-64-
居)についてみるに,前提事実(2)イによれば,原告P1は,本件各課税
年において日本国内にある自己又はP3名義の住居(平成14年から平成
15年1月21日までは本件旧家屋,同日以降は本件家屋)に居住してい
たことが認められる。
そして,証拠(乙9,原告P1本人[49頁])によれば,本件旧家屋
は居住用の建物として原告P1が取得し,昭和57年に渡米するまで居住
していた建物であることが認められるところ,原告P1は,長女P8が日
本国内の中学校に通学する際の住居とするため,平成13年に本件旧家屋
を修補し,その後,本件旧家屋が収用により平成15年3月25日に取り
壊された後は,自らの資産管理会社であるP3名義で居住用建物である本
件家屋を取得し,本件旧家屋に置かれていた家財道具一式を移転させてい
ることが認められる(なお,証拠(甲167,原告P1本人[51頁])
によれば,本件家屋の中には冷蔵庫,電子レンジを始めとする調理用具や
ベッド,アンティークのたんすなどが置かれていたことが認められる。)。
これらの本件に顕れた事実を総合考慮すると,原告P1は,本件旧家屋の
取壊しにより日本国内での常用的住居を失うことになったため,その取壊
しに先立ち,本件旧家屋に代わる新たな常用的住居として本件家屋を取得
したものとみることができる。そうすると,本件旧家屋及び本件家屋は,
本件各課税年において原告P1の生活の本拠となり得るものであったと
いうことができる。
(3)アまた,所得税法施行令14条1項1号は,継続して1年以上居住するこ
とを通常必要とする職業を有する者は日本国内に住所を有する者と推定
する旨を規定している。したがって,同号によれば,日本国内でどのよう
な職業に従事しているかということは,その者の生活の本拠を判定する際
の重要な判断要素になるということができる。
イそこで,原告P1の本件各課税年における職業への従事状況についてみ
-65-
るに,前提事実(1)イ及び証拠(乙24の1,乙46の1-1ないし乙4
6の13-3,乙48の1ないし乙48の7)によれば,①原告P1は,
平成13年12月11日,原告会社の代表取締役社長に復帰していること,
②原告P1が代表取締役社長に復帰する以前には,原告会社の取締役の
うち代表権を有する者は,P23(社長。以下「P23前社長」という。)
と原告P1(会長)の2名であったのに対し,原告P1が代表取締役社長
に復帰した後は原告P1のみとなったこと,③代表取締役1名の体制は,
本件各課税年中,継続されたことが認められる。
そして,原告会社の職務権限規程(乙27)を見ると,社長は,会社を
代表し,定款及び取締役会で定められた方針に基づき又は自ら諸方針を立
て会社の業務の執行を統括するとされ,新規契約の締結・変更・解約を始
めとする業務執行に関連する事項につき広範な決定権限を有するとされ
ている。また,取締役会規程(乙28)や経営会議規程(乙29)を見る
と,原告会社の定例の取締役会や社長の諮問機関に当たる経営会議は,原
則として毎月1回開催され,社長が各会議の議長を務めることとされてい
るほか,金銭出納に関する権限規程(乙30)や稟議規程(乙31)を見
ると,社長は,原告会社の財務等の執行に関する事項についても詳細な判
断を求められる立場にあったことが認められる。
これらの内部規程から明らかとなる原告会社の代表取締役社長の地位
に照らすと,原告会社の業務執行において代表取締役社長が果たす役割は
他の取締役と比べて極めて大きく,このような代表取締役社長としての役
割を原告P1が適正かつ迅速に遂行するためには,通信・交通手段が相当
程度発達している現在においても,原告会社の本店や事業所がある日本国
内に生活の本拠を置き,日本国内に継続して居住していることが不可欠で
あると解される。
これに対し,原告P1は,<ア>原告P1が代表取締役社長に復帰した
-66-
のは,原告会社の株式をP10に上場するための臨時的な措置であり,代
表取締役社長に復帰した平成13年12月11日の前後において,原告会
社での勤務の実態に変化はなかった旨の主張や,<イ>原告会社では会長
のP22会長が業務執行の中心を担うとされ,原告P1が米国内に滞在し
ても問題が起きない体制が本件各課税年までに構築されていた旨の主張
をする。しかし,上記<ア>の主張については,原告P1は,原告会社の株
式が上場された平成16年12月以降も代表取締役社長を続けている上,
上記のとおり,平成17年の日本国内での滞在日数は269日に上ること
によれば,代表取締役社長への復帰が,原告会社の株式上場のための臨時
的なものであったとは認め難い。また,上記<イ>の点についても,原告P
1の主張を前提とすると,原告会社の内部規程が実際の業務執行の状況と
異なっていたことになるが,証拠(乙27ないし31,原告P1本人[5
5頁,56頁])によれば,原告会社は株式を上場するに当たり,上場の
基準に適合する形で内部規程を整備したことが認められるから,原告会社
が株式を上場した平成16年12月を含む本件各課税年において内部規
程と異なる体制を採っていたとは考え難い。また,仮に,原告P1が主張
するように,原告会社においてP22会長を業務執行の中心とする体制が
採られていたというのであれば,原告P1が代表取締役社長に復帰した際
に,併せてP22会長についても代表権を有する取締役に就任していたと
考えられるところ,P22会長が本件各課税年中において原告会社の代表
権を有する取締役に就任した事実はない。よって,この点からも原告P1
の上記各主張は不自然であり採用することができない。
さらに,証拠(原告P1本人[55頁,56頁])及び弁論の全趣旨に
よれば,原告会社では,P10への株式の上場を控え,証券会社の担当者
との折衝などを継続して行う必要が生じていたところ,原告P1は,原告
会社の代表取締役社長として,これらの折衝等に関与していたことが認め
-67-
られる。そうすると,これらの折衝を円滑に進めるためにも,原告P1が
日本国内に継続して居住している必要があったと考えられる(なお,原告
P1は,本件各課税年の大半につき日本国内に住民登録をしていた理由と
して,住民登録を米国に異動させると印鑑証明書及び住民票の取得ができ
なくなり,原告会社の業務に支障が生じたことを挙げるが,かかる事実は,
本件各課税年において原告P1が原告会社の代表取締役社長として日本
国内に生活の本拠を有して継続して居住する必要があったことを端的に
示すものであるということができる。)。
ウ上記イで検討したところによれば,原告P1の日本国内での職業への従
事状況は,原告会社の代表取締役社長に復帰した平成13年12月11日
の前後において大きく変化したことが認められ,かかる事実は,原告P1
が本件各課税年において日本に生活の本拠を有していたことを推認させ
る事情であるということができる。
(4)アこれに対し,原告らは,①長女P8を除く本件家族は,本件各課税年
においていずれも米国内に居住していたこと,②原告P1は,本件各課
税年において本件各米国家屋その他の多数の財産を米国内に所有してい
たこと,③原告P1は,平成14年には5回,平成15年には4回,平
成16年には2回,平成17年には6回にわたり,忙しい仕事の合間を縫
って米国に帰国し,米国内に居住する本件家族と交流を持ったこと,④
課税庁は,平成13年分までの原告P1の所得税や住民税に関しては原告
P1を日本の非居住者と認定し,原告P1に対し何らの課税処分もしてい
ないことなどを挙げて,本件各課税処分は明らかに誤っている旨の主張を
する。
イしかし,前記(1)イの生活の本拠の判定に関する判断の在り方の中で既
に説示したとおり,生計を同一にする家族が海外に居住していることや海
外の特定の国に多数の資産を保有していることは,その者の生活の本拠を
-68-
判定する際に考慮される一つの要素ではあるものの,生活の本拠の認定は,
その者の所在や職業などを始めとする様々な客観的事実を踏まえて総合
的に判定されるものであるから,原告P1が主張する上記①及び②の各事
情が認められたとしても,そのことから直ちに本件各課税年中における原
告P1の生活の本拠が米国内にあったと評価することは相当とはいえな
い。
かえって,証拠(甲29,31,160[4頁],乙7,25の1及び
乙25の2,原告P1本人)によれば,<ア>長女P8は,日本国内の中
学校に編入して教育を受けるため,平成13年1月16日,日本に入国し,
その後,平成14年は292日,平成15年は302日,平成16年は2
62日,平成17年(8月10日まで)は95日間にわたり日本国内に滞
在し,平成13年1月27日から平成14年7月17日までの間は川口市
γ×番7号に,同年8月29日から平成15年3月20日までの間は本件
旧肩書地に,同日から平成15年11月15日までの間及び平成16年2
月23日から平成17年2月25日までの間は本件肩書地に住民登録を
した上,平成13年5月頃から平成15年7月頃までは,本件旧家屋又は
本件家屋で原告P1と同居していたことが認められる。
また,<イ>原告P1の収入の状況をみてみると,原告P1が本件各課
税年中に原告会社から得た報酬の合計額は2億1000万円(さらに,原
告P1は,平成14年9月17日にストックオプションの付与を受け,平
成17年3月24日に上記ストックオプションを行使して7億0530
万円の経済的利益を取得している(甲154)。)に上るのに対し,P2
社から得た役員報酬の合計額は邦貨に換算して9000万円程度にすぎ
ないことが認められる(前提事実(5))。そうすると,本件各課税年にお
ける原告P1の主な収入源は,原告会社の代表取締役社長として日本国内
で職務に従事することによる対価である原告会社役員報酬であったとい
-69-
うことができる。さらに,<ウ>原告P1は,本件各課税年中において,
P3名義により日本国内にオルゴール等を始めとする多数の資産を有し
ていたことが認められること(なお,本件各課税年後の事情であるが,平
成18年12月31日当時では,原告P1が日本国内に有していた財産の
総額は現金預金が約1億7400万円,原告会社の株式が約8億7600
万円に上り(乙35),本件各課税年中にもそれに近い財産を有していた
ことがうかがわれる。)からすれば,原告P1の日本国内と米国内の資産
の多寡をもって原告P1が日本と米国のいずれに生活の本拠を有してい
たか判定することは困難であるといわざるを得ない。
以上の本件に顕れた諸般の事情を総合考慮すると,本件家族の居所や原
告P1の資産の所在をもって,原告P1が本件各課税年において米国の居
住者であったとは認められず,原告らの上記①及び②の各主張は採用する
ことはできない。
ウ次に,上記③の点については,日本国内に生活の本拠を有する者が海外
に居住する家族と交流するために,一時的に日本を出国して海外の特定の
国を訪問することは一般に見られることであるから,原告P1が本件各課
税年中に,本件家族が居住する米国を複数回にわたり訪問し,米国内に短
期間滞在していることをもって,原告P1の生活の本拠が米国内にあった
ことを示す事情であるとはいえない。
さらに,上記④の点については,確かに,<ア>平成13年分までの所
得税及び住民税に関しては,課税庁は,原告P1に何らの課税処分もして
おらず,<イ>原告P1の平成13年の日本国内での滞在日数(301日)
は,平成14年の滞在日数(298日)とほぼ同じであることが認められ
る。しかし,我が国の所得税法は申告納税方式を採用し,所得税の課税標
準等及び税額等の計算,申告書の提出及び納税は,基本的に納税者の自発
的な行為に委ねることとしているため,課税庁が申告書を自主的に提出し
-70-
ない者の全てにつき日本の居住者に該当するか否か等を調査して決定処
分等をすることは不可能である。また,無申告者が日本の非居住者に該当
するか否かを課税庁が認定することを定めた法令の規定も存在しない。さ
らに,日本の居住者に該当するか否かについては,課税庁が課税年度ごと
に個別に判定するものであるから,平成13年分までの所得税及び住民税
について原告P1が何らの課税処分も受けていなかったことをもって原
告P1が本件各課税年につき課税処分を受けることが不当であるともい
えない。
なお,平成13年の原告P1の日本国内での滞在日数が平成14年の滞
在日数とほぼ同じであることは,原告会社の代表取締役社長であったP2
3前社長が平成13年に体調を崩し原告会社の業務が一時混乱したこと
や,原告会社の株式のP10上場に係る事務のため,原告P1が代表取締
役社長に復帰した同年12月11日以前から原告P1に対して求められ
る役割が徐々に増えていたこと(甲171の1及び甲171の2,甲17
2の1ないし甲172の17,原告P1本人[20頁,56頁],原告ら
準備書面(16)9頁)がその背景にあると考えられる(なお,原告P1の平
成12年までの日本国内での滞在日数(平成10年198日,同11年1
92日,同12年211日)と比較して平成13年における原告P1の日
本国内での滞在日数が顕著に増加していることは,上記認定を裏付ける事
情であるということができる。)。そうすると,原告P1の平成13年と
平成14年における日本国内での各滞在日数に大きな変化がないことは,
本件各課税年中における原告P1の日本の居住者該当性を否定するに足
りる事情であるとはいえない。
(5)さらに,証拠(甲66の2,甲67の2,乙3ないし5,6の1,乙11,
原告P1本人[70頁])によれば,①原告P1の住所は,<ア>原告会
社の商業登記上,平成14年2月27日から平成15年3月19日までは本
-71-
件旧肩書地とされ,平成15年3月20日以降は本件肩書地とされていたこ
と,<イ>P3の商業登記上,平成13年6月28日から平成15年3月31
日までは本件旧肩書地とされ,平成15年4月1日以降は本件肩書地とされ
ていたこと,②原告P1は,金融機関への提出書類や土地の売買契約書等
の中では本件旧肩書地又は本件肩書地を使用していたことが認められると
ころ,このように,原告P1が本件各課税年において本件旧肩書地又は本件
肩書地を自らの住所として外部に表示していたということは,原告P1の本
件各課税年当時の生活の本拠が本件旧肩書地又は本件肩書地にあったこと
を推認させる一つの事情であると評価することもできる。
(6)ア以上によれば,本件各課税年中における原告P1の住所は,本件旧家屋,
本件家屋の各所在地である川口市α×番地の1(本件旧肩書地)又は同市
β×番11号(本件肩書地)であったと認められ,そうすると,原告P1
は,本件各課税年において「国内に住所を有し,又は現在まで引き続いて
1年以上居所を有する個人」という所得税法2条1項3号が規定する要件
を満たしていたということができるから,本件各課税年において日本の居
住者であったと認められる(なお,原告らは,米国NJ州政府及び米国N
J州租税裁判所が原告P1を米国の居住者と認定していたことを挙げて,
原告P1が本件各課税年において米国の居住者であり,日本の非居住者で
あったことは明らかである旨の主張もしている。しかし,日本の課税庁と
米国の課税庁はそれぞれ異なる税法に基づいて課税を行うのであるから,
原告P1が米国連邦税法上又は州税法上,米国の居住者として課税を受け,
又は受けるべきことは,我が国の所得税法に規定する日本の居住者に該当
するという事実と互いに排斥し合う関係にはないということができる。よ
って,原告P1が米国の法制度ないしは税制度の下で米国居住者に該当す
ると判定されたことをもって,我が国の課税庁における日本の居住者該当
性の判定が左右されるとはいえないから,原告らの上記主張は採用するこ
-72-
とができない。)。
イそして,原告P1は,本件各課税年を通じて,本件肩書地及び本件旧肩
書地に住所を定め,我が国滞在期間の大半の期間,恒久的住居(恒久的利
用のために用意し維持している住居)である本件家屋及び本件旧家屋で起
居していたと認められる上,前記(3)で説示したとおり,原告P1は,本
件各課税年中において,原告会社の代表取締役社長として本邦内で職務を
遂行し,ストックオプションの権利行使に係る利益を含む多額の役員報酬
を受領していたことが認められるから,原告P1の重要な利害関係の中心
のある国は,原告会社の本店所在地国である日本であるということができ
る。そうすると,原告P1の恒久的住居の存在する国,重要な利害関係の
中心のある国はいずれも日本であるということになるから,原告P1は,
新旧日米租税条約上,日本の居住者であるとみなされ,日本の所得税法を
適用する上で,日本の居住者として全世界所得課税を受けることになると
いうことができる。
(7)次に,原告P1が平成15年度ないし平成18年度の住民税の納税義務を
負うか否かについて検討する。
地方税法は,道府県内に住所を有する個人は道府県民税の納税義務を負い
(同法24条1項1号),市町村内に住所を有する個人は市町村民税の納税
義務を負う(同法294条1項1号)旨を規定する。
地方税法は,所得税法と同様,住所の意義について明文規定を置いていな
いところ,「住所」とは,反対の解釈をすべき特段の事由がない以上,生活
の本拠,すなわち,その者の生活に最も関係の深い一般的生活,全生活の中
心を指し,一定の場所がその者の住所に当たるか否かは,客観的に生活の本
拠たる実体を具備しているか否かにより決すべきであると解される。
そして,前記(1)ないし(6)で検討したところによれば,原告P1は,平成
15年度ないし平成18年度の住民税の課税期間につき,被告川口市内に住
-73-
所を有する個人であることが認められるから,各年度につき住民税の納税義
務を負うものと認められる(原告P1が「日本国民のうち,地方税法の施行
地外に居住していた者で帰国して新たに法施行地に居住することとなった
者」に当たるとしても,前記認定に係る事情によれば,平成15年度の個人
住民税の賦課期日(1月1日)まで引き続いて1年以上日本国内に居住して
いたといえるし,少なくとも入国後継続して1年以上日本国内に居住するこ
とを通常必要とする職業を有する場合に当たるから,本件通達の定めるとこ
ろによっても,個人住民税の均等割及び所得割を課されることとなる。)。
4争点3(2)(原告P1の日本の非永住者該当性)について
(1)ア所得税法は,日本の非永住者について「居住者のうち,国内に永住する
意思がなく,かつ,現在まで引き続いて5年以下の期間国内に住所又は居
所を有する個人をいう。」と定義し(同法2条1項4号),日本の非永住
者に対しては,国内源泉所得等(同法161条に規定する国内源泉所得及
びこれ以外の所得で国内において支払われ,又は国外から送金されたも
の)に対してのみ所得税を課税する旨を定めている(同法7条1項2号)。
イ前記3で説示したとおり,原告P1は,本件各課税年中において日本の
居住者であったと認められるところ,原告P1は,仮に自らが日本の居住
者であったとしても,日本の非永住者であるから,本件各課税年中の所得
につき納税義務を負うのは国内源泉所得等に限られる旨の主張をする。そ
こで,次に,原告P1が本件各課税年中において日本の非永住者であった
と認められるか否かにつき検討する。
(2)ア証拠(甲7,10ないし14,27の1ないし甲27の6,甲33の1
ないし甲33の11,甲46ないし48,60,164,原告P1本人)
及び弁論の全趣旨によれば,①原告P1は,昭和57年に妻P5及び長
男P6と共に渡米し,米国NJ州内の土地及び建物(米国NJ州家屋)を
29万米国ドルで購入し,米国での生活を長年にわたり続けたこと(甲2
-74-
7の1ないし甲27の6,甲33の1ないし甲33の11,甲60,16
4,原告P1本人),②原告P1と妻P5との間には長男P6のほかに
3人の子供がいるところ,これら4人の子供(以下「本件子供ら」という。)
は,いずれも保育園入園時から米国内の公立学校での教育を受け,母国語
は英語で,日本語の能力は十分なものとはいえないこと(甲14,原告P
1本人[18頁]),③原告P1は,平成11年8月18日,本件家族
(米国の国籍を有する次女P9を除く。)と共に米国の永住権を取得した
こと(甲7,10ないし13),④原告P1は,本件各課税年当時,米
国の医療保険に加入していた一方,日本の国民健康保険は自らの意思で加
入を中止していたこと(甲46[6頁]),⑤原告P1は,本件各課税
年当時,米国NJ州の自動車運転免許を所持していた一方,日本の自動車
運転免許は所持していなかったこと(甲47,48,原告P1本人[19
頁]),⑥原告P1は,本件各課税年以前から米国の確定拠出型の企業
年金に加入しており,平成25年中には受給資格(20年の納付実績)を
取得する見込みであること(原告P1本人[18頁,19頁])が認めら
れる。
これらの本件に顕れた各事実は,いずれも原告P1が本件各課税年中に
おいて米国に永住する意思を持っていたことを推認させる事情であると
いうことができる。
特に,原告P1が本件家族(次女P9を除く。)と共に取得した米国の
永住権は,米国以外の国籍を有する者が米国内で永続的に居住し,就学や
就労をすることを可能とする権利であるから,その取得には米国に永住す
る意思が不可欠であると解されるところ,上記③で認定したとおり,原告
P1が米国の永住権を取得したのは,昭和57年に渡米してから約27年
経過後の平成11年8月18日であるから,取得から数年が経過したにす
ぎない本件各課税年中に米国に永住する意思を喪失するとは考え難い。
-75-
仮に,被告らが主張するように,本件各課税年まで,あるいは本件各課
税年中に原告P1が日本国内に永住する意思を有するに至っていたとす
れば,原告P1において,米国NJ州家屋その他の米国内の資産の全部又
は一部を処分したり,日本国内に米国NJ州家屋と同程度の居住用の不動
産を購入したりすることが通常の行動であると考えられるところ,本件全
証拠を見ても,原告P1がそのような行為に出たことは認められず,証拠
(甲164[6頁],167)によれば,原告P1は,本件各課税年中も,
米国NJ州家屋や米国PA州家屋と比較すると狭隘でかつ設備も不十分
である本件旧家屋や本件家屋を生活の本拠として使用していたことが認
められる。また,日本に永住する意思を有していたとすれば,日本で病気
になった場合などに備えるため健康保険に加入すると考えられるところ,
原告P1は,本件各課税年において自らの意思で日本の健康保険に加入せ
ず,高額な保険料を支払い米国の医療保険への加入を継続している。これ
らの原告P1の行動に照らしてみても,原告P1は,本件各課税年当時,
米国に永住する意思を有していたものと推認することができる。
また,証拠(甲89の1及び2,甲90,91,160[7頁],原告
P1本人[22頁])及び弁論の全趣旨によれば,原告P1は,平成15
年10月24日付けで,米国PA州にP3名義で土地・建物(米国PA州
家屋)を購入しているところ,その取得費用は45万米国ドル,改装費用
は15万米国ドルといずれも多額である上,米国PA州家屋は,約2万坪
の敷地の上に住居,ミュージアム,修理工場及び納屋等を有する大規模な
ものであることによれば,米国に永住する意思を失っていた者が購入する
物件であるとは考え難く,原告P1が本件各課税年中の平成15年にこの
ような米国PA州家屋を取得したことは,その時点で,原告P1が米国に
永住する意思を失っていなかったことを推認させる事情であるというこ
とができる(さらに,本件各課税年後の事情であるが,原告P1は,平成
-76-
18年に25万米国ドルで購入した米国PA州内の不動産でレストラン
の経営を始めたり(甲99,160[9頁],169,原告P1本人[2
2頁]),平成23年に上記レストランの隣の建物を7万米国ドルで購入
し,10万米国ドルを支出して改装の上,賃貸したりしているところ(甲
160[9頁],原告P1本人[23頁]),これらの原告P1の行為は,
原告P1が本件各課税年中にも米国に永住する意思を有していたことを
推認させる事情であるということができる。)。
さらに,証拠(甲160[9頁],原告P1本人[25頁])によれば,
原告P1は,平成15年頃,愛知県東海市内にあった父の墓を米国PA州
内に移築するために東海市に返還したことが認められるところ,墓の移築
は繰り返し行うような性質のものではないから,原告P1の当該行為は,
平成15年当時において,原告P1が墓の移築予定先の米国PA州に永住
する意思を有していたことを示す重要な事情であるということができる。
イこれに対し,被告らは,①原告P1が,関東信越国税局の職員に対し,
米国の永住権を返却しようとしたことがある旨の供述をしたことや,②
原告P1が米国NJ州租税裁判所に提出した各書面(本件略式判決申立書
及び本件宣誓書)の中に,原告P1が日本に永住する意思を有することを
うかがわせる記載が見られること,③原告P1については,少なくとも
平成12年2月1日から平成17年1月4日までの間,妻P5については,
少なくとも平成12年2月1日から平成15年12月1日までの間,それ
ぞれ国民年金保険料を納付していたこと,④原告P1は,本件各課税年
において,北海道芦別市や北海道函館市の不動産を取得したことなどを指
摘し,これらの事情は,原告P1が本件各課税年中において日本に永住す
る意思を有していたことを示すものである旨の主張をする。
確かに,被告らが主張するとおり,証拠(乙36,68,69)によれ
ば,<ア>原告P1と関東信越国税局の職員との面談結果が記載された文
-77-
書の中には,米国の永住権を返却しようとしたことがある旨の原告P1の
供述が記載されていること(乙36[4頁]),<イ>本件略式判決申立
書の中には,原告P1が日本に永住する意思を持って平成13年に米国N
J州を去り,日本に定住した旨の記載があること(乙68[6枚目,7枚
目]),<ウ>本件宣誓書の中には,原告P1が米国NJ州家屋を去った
後,平成13年から日本に居住しており,米国NJ州に戻る意思はない旨
の記載があること(乙69[3枚目])が認められる。
しかし,上記<ア>の点については,原告P1と関東信越国税局の職員と
の間でされた面談の際の会話の全体像が明らかになっているとはいえな
い上,原告P1と上記職員との間では,当時,原告P1が日本の居住者に
該当するか否かについての協議がされており,原告P1は,上記職員に対
し,自らが米国の居住者に該当することを説明した上で,理解を求めてい
たことが認められるから,そのような中でされた原告P1の供述の一部分
のみを取り出し,当該供述の存在をもって原告P1につき日本に永住する
意思があったと認定することは相当であるとはいえない。また,上記<イ>
の点については,日本と米国のいずれか一方の居住者であると主張して対
応しなくてはならない状況に置かれ,日本と米国の双方から二重に課税さ
れる事態を回避するために進退極まって米国の弁護士の方針に従ったと
いう原告P1の供述(甲160[10頁],原告P1本人[59頁])は
不合理なものとまではいえないし,上記<ウ>の本件宣誓書の記載は,原告
P1が日本に永住する意思を有していたと認定するに足りるものとはい
えない。しかも,本件略式判決申立書及び本件宣誓書は,いずれも本件各
課税年から数年を経た平成22年に作成されたものであるから,これらの
文書中に被告らが主張する記載があることをもって,原告P1が本件各課
税年中に米国に永住する意思を有していたという上記アの認定を覆すに
足りる事情であるとまではいえない。以上によれば,被告らが指摘する上
-78-
記①及び②の各事情は,原告P1が日本の永住者であることを示すものと
は認められない。
また,上記③の点については,我が国の国民年金保険料を納付していた
事実から直ちに本件各課税年中において,原告P1が日本に永住する意思
を有していたとはいえないし,証拠(甲46[6頁])及び弁論の全趣旨
によれば,海外に居住する国民年金の被保険者も,所定の期間,保険料を
納付することにより国民年金の受給資格を取得することができることが
認められるから,納付済みの保険料が無駄になることを避けるために,受
給資格を取得するまで保険料の納付を続けたとの原告P1の供述は相応
の合理性を有するものであるということができる。よって,上記③の点に
関する被告らの主張は採用することができない。
さらに,上記④の点については,証拠(甲104,乙33の1及び2,
乙34)によれば,原告P1は,平成14年8月19日には北海道芦別市
δ町所在の土地・建物を,また,同年12月22日には北海道函館市内の
各土地をP3名義又は原告P1名義でそれぞれ取得していることが認め
られるが,前者については工場及びその敷地として利用されていたものを
購入したことが認められるから,原告P1が同土地上に居住用建物を建築
するなどして我が国に永住する目的で取得したものとは考え難いし,後者
については墓地に近く,その周辺は空地が多いなど,居住用の建物を建築
する敷地としては若干不向きな土地であることがうかがわれる上(甲10
4,原告P1本人[32頁]),原告P1が上記の各土地上に居住用の建
物を建築するなどの行為に出たことはうかがわれない。これらの事情に照
らすと,これらの各不動産は投資用やオルゴール等のミュージアムの建設
など,居住用以外の目的で取得したものと推認することができ,本件全証
拠を見ても,原告P1が我が国に永住する目的でこれらの不動産を購入し
たことを認めるに足りるものは存しない(前記の原告P1の米国PA州で
-79-
の不動産の取得状況との対比においても,上記各不動産の取得をもって我
が国に永住する意思を有していたことを示すものとみることはできな
い。)。
ウ以上の本件に顕れた事実を総合考慮すると,原告P1は,本件各課税年
中において,日本国内に永住する意思を有していたとは認められない。そ
うすると,原告P1は,本件各課税年中,所得税法2条1項4号の「国内
に永住する意思がなく」という非永住者の要件を満たしていたということ
ができる(なお,被告らは,原告P1と妻P5との婚姻関係が平成13年
頃には破綻したことを理由として,原告P1は,本件各課税年中において
日本に永住する意思を有していた旨の主張もしている。確かに,原告P1
は,本件宣誓書(乙69)の中で,妻P5との婚姻関係が破綻し,平成1
3年から妻P5と別居をした旨の供述をしていることが認められ,原告本
人尋問の中でこのような記載をしたことにつき合理的な説明をすること
ができていないこと(原告P1本人[59頁以下])に照らすと,原告P
1と妻P5の婚姻関係が同年頃までに破綻していた可能性があることは
否定することができない。しかし,本件全証拠を見ても,原告P1と妻P
5との婚姻関係が平成13年頃までに破綻していたことを明確に認める
に足りる証拠は存在しないといわざるを得ないし,仮に原告P1と妻P5
との婚姻関係が破綻した状態にあったとしても,上記ア及びイで認定した
各事情に照らすと,妻P5との婚姻関係の破綻を理由として原告P1が日
本に永住する意思を有するに至っていたとまでは認め難い。よって,この
点に関する被告らの主張は採用することができない。)。
(3)ア次に,原告P1が,本件各課税年中,所得税法2条1項4号の「現在ま
で引き続いて5年以下の期間国内に住所又は居所を有する個人」という要
件を満たしていたと認められるか否かについて検討する。
前提事実(2)ア及びイ並びに証拠(甲45,46,乙24の2,原告P
-80-
1本人)によれば,①原告P1の平成9年の国内外における滞在日数は,
日本国内が137日,国外が228日であり,国外での滞在日数が日本国
内での滞在日数を大きく上回っていたこと(乙24の2[1枚目]),②
原告P1の平成10年から平成12年までの国内外の滞在日数は拮抗
しているものの,原告P1は,平成13年に本件旧家屋を修繕するまでは,
日本国内滞在中,原告会社の旧本社の宿直室や川口市内のビジネスホテル
に宿泊していたこと(甲28の1及び甲28の2,甲45[9頁,10頁],
46[13頁],原告P1本人[52頁]),③原告P1は,平成9年
2月に,原告会社の代表取締役社長を退任し,原告会社の代表取締役社長
は,同月から平成13年12月まではP23前社長が務めていたため,原
告P1が日本国内に生活の本拠を有していないと原告会社の業務遂行に
重大な支障が生じる状況にはなかったと考えられること,④平成9年か
ら平成12年にかけて,原告P1が1か月間全く日本国内に滞在しなかっ
た月数は,平成9年が3月,平成10年が2月,平成11年が4月,平成
12年が3月あり,平成13年以降とは状況が異なっていたと考えられる
こと(乙24の2[1枚目,2枚目])等の事実が認められる。そして,
これらの事実に照らすと,原告P1は,平成9年ないし平成12年までの
間,日本国内に住所又は居所を有していなかったものと認められ,本件全
証拠を見ても,この認定を覆すに足りるものは存しない。
また,証拠(乙24の2)によれば,原告P1の平成13年の日本国内
での滞在日数は301日であり,国外での滞在日数を大きく上回っている
ことが認められるが,平成13年12月に原告会社の代表取締役社長に復
帰するまでは原告P1が日本に居住していないと原告会社の業務に支障
が生じるという状態にあったとまでは認められない上,上記②で認定した
とおり,原告P1は,平成13年に本件旧家屋を修繕するまでは,日本滞
在中,原告会社本社の宿直室やビジネスホテルに宿泊していたことによれ
-81-
ば,平成13年については,原告P1の生活の本拠が日本にあったとも継
続的に日本に居所を有していたとも認めるに足りない。
イ以上によれば,原告P1は,平成9年から平成13年までの間において
引き続いて日本国内に住所又は居所を有していたとは認められないから,
本件各課税年において「現在まで引き続いて5年以下の期間国内に住所又
は居所を有する個人」という要件を満たしていたということができる。
(4)以上によれば,原告P1は,本件各課税年において「居住者のうち,国内
に永住する意思がなく,かつ,現在まで引き続いて5年以下の期間国内に住
所又は居所を有する個人」という所得税法2条1項4号の各要件を満たして
いたということができるから,本件各課税年において日本の非永住者であっ
たと認められる。そうすると,本件各課税年において原告P1が納税義務を
負うのは国内源泉所得等に限られるから,本件各課税処分のうち,原告P1
が日本の居住者であり,かつ,永住者であることを前提としてされた部分は
違法であるということができる。
5争点4(本件オルゴール等の譲渡所得に対する課税の可否)について
(1)前記4で認定したとおり,原告P1は,本件各課税年において日本の非永
住者であったということができるから,原告P1の本件各課税年中の所得の
うち我が国の所得税法に基づき納税義務を負うのは,国内源泉所得等に限ら
れる(同法5条1項,7条1項2号)。
そこで,以下,本件オルゴール等の譲渡所得がこの国内源泉所得等に該当
すると認められるか否かにつき検討する。
(2)ア所得税法161条1号は,「国内において行う事業から生じ,又は国内
にある資産の運用,保有若しくは譲渡により生ずる所得(中略)その他そ
の源泉が国内にある所得として政令で定めるもの」は国内源泉所得に該当
する旨を規定している。そうすると,本件オルゴール等の譲渡所得が所得
税法161条1号が規定する国内源泉所得に該当するというには,本件オ
-82-
ルゴール等が,P3への譲渡当時,日本国内にあったことを要するという
ことになる。なお,本件オルゴール等の譲渡所得が国内源泉所得に該当す
ること,すなわち,本件オルゴール等が日本国内にあったことについての
主張立証責任は被告らにあるものと解される。
この点に関して,被告らは,本件オルゴール等がその譲渡当時,日本国
内にあったことの根拠として,①本件オルゴール等がその譲渡当時,北
海道芦別市内や原告会社の本社の内部にあった旨の原告P1の西川口税務
署職員に対する供述や,②原告P1が館長を務める北海道芦別市所在の
アンティーク・オルゴール館(以下「P24」という。)に,平成7年8
月当時,64台のアンティークオルゴール等が展示されていた旨の新聞記
事の存在を挙げる。
イ確かに,<ア>西川口税務署法人課税第一部門の職員のP25作成に係
る平成15年1月27日付け質問調書(以下「本件質問調書」という。)
を見ると,原告P1は,P25に対し,P3に譲渡する前のオルゴールが
「芦別,原告会社の本社,米国にあった」旨の供述をしていること(乙7
4[1枚目]),<イ>平成7年8月に掲載された新聞記事(以下「本件
新聞記事」という。)には,当時,P24に64台のオルゴール等が展示
されていた旨の記載があること(乙73)が認められ,これらの事実は,
被告らの上記主張を裏付けるものであるようにもみえる。
しかし,本件質問調書の前後の文脈は極めて曖昧である。また,質問の
対象とされたオルゴールは,原告P1が約10年前から調達していたもの
であり,しかも,原告P1が回答したオルゴールの所在は3箇所にわたる
ことによれば,原告P1の回答を見ても,本件オルゴール等のうち,どの
オルゴールが,どこにあったのかという点を特定することはできないとい
わざるを得ない。そうすると,本件質問調書の記載をもって,本件オルゴ
ール等の譲渡当時,本件オルゴール等の全部又は一部が日本国内にあった
-83-
ことを認めることは困難である。また,本件新聞記事の記載内容を見ても,
証拠(原告P1本人[2頁])及び弁論の全趣旨によれば,原告P1は,
P24が開館された平成7年以前から,P3にオルゴール等を譲渡してい
たことが認められるから,同年8月当時,P24に展示されていた64台
のオルゴール等の中に本件オルゴール等が含まれていたことが本件新聞記
事により明らかにされたともいえない。かえって,証拠(甲16,122,
123,178,乙74,原告P1本人)によれば,①原告P1は,米
国PA州に居住する友人で,アンティークオルゴールの専門業者であった
P18から,米国内で本件オルゴール等の大部分を購入していたこと(甲
16,122,原告P1本人[1頁,2頁,34頁]),②本件オルゴ
ール等の多くは100年以上前に作られた古いものであり,演奏可能な状
態にするには長期にわたる修理を要するものが多かったこと(甲178,
原告P1本人[1頁],弁論の全趣旨),③原告P1は,本件オルゴー
ル等を一旦米国PA州内の倉庫に保管し,P18に依頼するなどして必要
な修理を施した上で,演奏可能な状態になったものをP3に譲渡し,P2
4などに展示していたこと(原告P1本人[3頁,5頁],弁論の全趣旨),
④平成14年譲渡オルゴール等の譲渡の際に作成された同年5月5日付
けのインボイス(乙76)上では,原告P1の住所表示は米国NJ州家屋
の所在場所が記載され,平成14年譲渡オルゴール等の各価格及び合計金
額はいずれも米国ドルで表示されていたこと,⑤本件オルゴール等を日
本に輸送する際に要した費用はP3が負担したことがうかがわれること
(原告P1本人[5頁],弁論の全趣旨)などの事実が認められる。
これらの本件に顕れた各事実に照らすと,本件オルゴール等は,米国内
でP3に譲渡されたと強く推認することができ,本件全証拠を見ても,本
件オルゴール等が原告P1からP3に譲渡された当時において日本国内に
あり,日本国内で譲渡されたと認めるに足りるものは存しない。
-84-
以上検討したところによれば,本件オルゴール等は,日本国内で原告P
1からP3に譲渡されたとは認められないから,本件オルゴール等の譲渡
所得は,所得税法161条1号所定の国内源泉所得には当たらないという
ことができる
また,原告P1は,原告本人尋問の中で,P3から本件オルゴール等の
売買代金の支払は受けていない旨を供述しているところ(原告P1本人[2
頁]),証拠(乙1,2,32の1ないし乙32の5,原告P1本人)及
び弁論の全趣旨によれば,<ア>P3は,原告P1と妻P5が全株式を所
有している同族会社であり,常勤の社員はおらず,原告P1の資産の管理
以外に実質的な経済活動を行っていなかったこと(32の1ないし乙32
の5,原告P1本人[2頁],弁論の全趣旨),<イ>原告P1がP3に
本件オルゴール等を譲渡した主な目的は,原告P1の死亡等により本件オ
ルゴール等が散逸することの防止にあったこと(原告P1本人[1頁,4
頁,35頁,66頁])などが認められ,これらの本件に顕れた諸般の事
情を総合考慮すると,本件オルゴール等の譲渡がされた平成14年又は平
成15年当時において,原告P1とP3の利害は完全に一致していたとい
うことができる。そうすると,P3から本件オルゴール等の売買代金を受
領していないという原告P1の上記供述は信用することができ,本件全証
拠を見ても,P3が,原告P1に対し,本件オルゴール等の売買代金を支
払ったことを認めるに足りるものは存しない。
そうすると,本件オルゴール等の譲渡所得は,「国内源泉所得以外の所
得で国内において支払われ,又は国外から送金されたもの」にも当たらな
いということができる。
(3)以上によれば,仮に原告P1がP3に対して本件オルゴール等を譲渡した
ことにより原告P1に譲渡所得が発生していたとしても,当該所得は我が国
の課税の対象となる国内源泉所得等に当たらないということになるから,原
-85-
告P1に対してされた本件各課税処分のうち本件オルゴール等の譲渡所得が
課税の対象となることを前提としてされた部分は違法であり,取消しを免れ
ないということができる。
6争点5(本件オルゴール等の譲渡所得の発生の有無)について
(1)ア前記5で説示したとおり,本件オルゴール等の譲渡所得は国内源泉所得
等に当たらないから,本件各課税年において日本の非永住者であった原告
P1はその納税義務を負わない。したがって,本件オルゴール等をP3に
譲渡したことにより,原告P1において譲渡所得が実際に生じていたか否
かについては判断の必要がないということになるが,以下では,念のため,
本件オルゴール等の譲渡により原告P1に譲渡所得が生じていたと認めら
れるか否かについても検討しておくこととする。
イ譲渡所得の前提となる所得の発生については課税庁において主張立証責
任を負う。したがって,本件においても,被告らが主張する取得費を超え
るものがないという点については,被告らの側に主張立証責任があるとい
うことになる。もっとも,本件オルゴール等を購入したり改良したりする
などして証拠に近い立場にあるのは原告P1であるということができるか
ら,原告P1においてもある程度の主張立証をしなければならない。もっ
とも,そうであるからといって,実額をそれを証するに足りる全ての証拠
をもって主張立証しなければならないとすることは,本件オルゴール等の
購入が現時点でみると10年以上前にされていることによれば,不可能を
強いることにもなりかねない。したがって,実額の全てを直接証する証拠
を提出することができない場合には,間接証拠や合理的推認をもって直接
証拠の不足を補う方法を用いるなどして一定額以上の取得費があったこと
を立証すれば足りるものと思われる。そこで,以下,このような観点から,
本件オルゴール等の譲渡により原告P1に譲渡所得が生じたと認められる
か否か(本件オルゴール等の取得費は幾らか。)について検討を進めるこ
-86-
ととする。
(2)前提事実(4)記載のとおり,①原告P1は,平成14年5月5日,P3に
対し,売買代金を2億6695万3050円(206万7000米国ドル)
として平成14年譲渡オルゴール等を譲渡したこと,②原告P1は,平成
15年5月1日,P3に対し,売買代金を4215万円として平成15年譲
渡オルゴール等を譲渡したことが認められる。そうすると,本件オルゴール
等の譲渡によって原告P1に譲渡所得が発生したというためには,平成14
年譲渡オルゴール等の取得費(本件オルゴール等の取得に要した金額並びに
設備費及び改良費の額の合計額。所得税法38条1項)が上記2億6695
万3050円(206万7000米国ドル)を,平成15年譲渡オルゴール
等の取得費が上記4215万円をいずれも下回るものであるということを要
することになる(なお,被告らは,本件オルゴール等の取得費に関し,本件
オルゴール等は時の経過により減価する資産(以下「減価償却資産」という。)
に当たる旨の主張もしている。しかし,証拠(甲15,16)及び弁論の全
趣旨によれば,アンティークオルゴールの価値や価格は,制作年代,稀少性
及び美術性により決定されるところ,原告P1は,アンティークオルゴール
の収集を趣味にし,制作年代,稀少性及び美術性を吟味して,アンティーク
オルゴールの専門業者であるP18から本件オルゴール等を購入しているこ
とが認められる。そうすると,本件オルゴール等は,歴史的価値及び稀少価
値を有し,代替性のない古美術品に該当するということができるから減価償
却資産には当たらないものと認められる。そして,本件全証拠を見ても,本
件オルゴール等が減価償却資産であることを認めるに足りるものは存しない。
よって,この点に関する被告らの主張は採用することができない。)。
(3)ア被告らは,本件オルゴール等の取得価額に関する証拠として原告P1が
提出した本件各明細書について,①宛先(明細書の宛先が原告P1と記
載されているか否か。),②日付(日付が正確に記載されているか否か。),
-87-
③内訳金額(オルゴール等の取引金額が個別に記載されているか否か。),
④筆跡(筆跡に疑わしい点がないか否か。),⑤その他(譲渡された
オルゴール等の名称と明細書に記載されたオルゴール等の名称が一致して
いるか否か等)の5つの基準(本件取得費各基準)を設定し,本件各明細
書のうち本件取得費各基準を満たすもの(甲73,78,112及び13
8の4件の明細書。本件基準充足明細書)に記載された金額に基づき,平
成14年譲渡オルゴール等の取得費を9872万0674円,平成15年
譲渡オルゴール等の取得費を1558万7070円と算出している。
イ確かに,本件各明細書の記載内容を見ると,①原告P1ではなくP4
社が宛先欄に記載されているもの(甲80,107ないし109,115
ないし117,127ないし137,139ないし146,151,15
2)や宛先の記載自体がないもの(甲72,77,84,110,111,
113),②日付欄の全部又は一部が記載されていないもの(甲69,
70,72,74ないし77,84,106,110,113,144),
③取引金額が個別に記載されていないもの(甲68,71)などの不備
が見られる。しかし,その一方で,上記①の宛先に関して見ると,本件各
明細書の中には,<ア>P4社と原告P1が宛先として併記(「P4C
o(P1)」(甲148)や「P1(P4Co)」(甲149,150))
されているもの,<イ>「P1方P4株式会社」を意味する記載(「P4
Coc/oP1」(甲147))となっているもの,<ウ>原告P1
本人が宛先として記載された上で,住所欄にP4社の社名が記載されてい
るもの(甲120の2ないし甲120の4)などがあることが認められる。
このような本件各明細書の宛先欄の記載内容に徴すると,P18は,本
件各明細書の宛先欄の記入の際,P4社と原告P1個人とを厳密に区別し
て記載していなかったことがうかがわれる。そして,前提事実(1)ア(ア)及
び弁論の全趣旨によれば,P4社は,原告P1が館長を務めるP24の運
-88-
営を目的として設立された原告P1を代表取締役とする株式会社であるこ
とが認められるほか,前記5(2)で認定したとおり,P18は原告P1の友
人であり,近所に住む住人として家族ぐるみの付き合いをしていたことが
認められること(甲160[3頁],原告P1本人)によれば,P18が,
本件各明細書の中で,原告P1個人とP4社とを厳密に区別せずに記載し
ていたとしても,それが不自然であるとまではいえない(なお,このこと
は,日付や代金の内訳等に関する記載についても同様のことを指摘するこ
とができる。)。
さらに,被告らは,本件各明細書の筆跡などについても疑問を呈してい
るが,本件各明細書の筆跡を仔細に見ても,原告P1その他の者により本
件各明細書が偽造されたことなど,本件各明細書の信用性を疑わせるに足
りるものは存しない。
以上によれば,本件各明細書の記載は,いずれも信用するに足りるもの
であるということができる。また,被告らは,本件備忘録等についてもそ
の信用性に疑義を呈しているが,被告らが主張する事情を詳細に見ても,
本件備忘録の信用性を否定するに足りる事情は見当たらない。
以上によれば,原告P1は,本件オルゴール等の取得に要した金額とし
て少なくとも約2億8000万円を支払ったものと認められる。
ウまた,所得税法38条1項は,譲渡所得の金額の計算上控除する資産の
取得費は,別段の定めがあるものを除き,その資産の取得に要した金額並
びに設備費及び改良費の額の合計額とする旨を定めている。
そして,前記5で認定した事実及び証拠(甲53,原告P1本人)並び
に弁論の全趣旨によれば,①原告P1は,P18から,修理を要する状
態で本件オルゴール等の大半を購入し,一旦米国PA州内の倉庫に保管し
て必要な修理をした上で,修理により演奏が可能になったものをP3に譲
渡していたこと,②本件オルゴール等は,原告P1がP18から購入し
-89-
た後に行われた修理により,品質や状態は良好であったこと(甲53,弁
論の全趣旨),③原告P1は,本件オルゴール等を演奏可能な状態に改
良するため,部品取りの目的で同型のオルゴール等を取得することもあっ
たこと(原告P1本人[4頁]),④本件オルゴール等の中には極めて
大型で運送に多額の費用を要するものもあったことが認められるから,本
件オルゴール等の取得費の算定の際には,これらの運送費や改良費を考慮
することを要するということができる(例えば,平成14年譲渡オルゴー
ル等の中に含まれるメリーゴーランドについてみると,証拠(甲82,8
3,110,115ないし117)によれば,原告P1は,その取得に2
7万2000米国ドル,改良費及び運送費として少なくとも合計1万94
50米国ドルをそれぞれ支出していることが認められ,そうすると,メリ
ーゴーランドの取得費は合計で少なくとも29万1450米国ドル(1米
国ドル112円で換算すると3264万2400円)に上ることが認めら
れる。)。
エそして,前記5(2)イで認定した事実及び証拠(乙32の1ないし乙32
の5,原告P1本人)並びに弁論の全趣旨によれば,①P3は,原告P
1の資産保有会社として設立された法人であり,原告P1がP3に本件オ
ルゴール等を譲渡した主な目的は相続などを原因とする本件オルゴール等
の散逸防止にあったと考えられること(前記5(2)イ),②原告P1とP
3との間では,本件オルゴール等の売買代金の授受は実際にはされていな
いこと(原告P1本人[2頁],弁論の全趣旨),③原告P1は,本件
オルゴール等を当初からP3名義で購入する予定であったものの,P3名
義で購入した場合には購入手続,必要書類等の処理が煩雑になるとの理由
から原告P1の個人名義で購入し,その後にP3に譲渡することにしたも
のであること(原告P1本人),④本件各課税年中においてP3の損益
計算書(販売費及び一般管理費)には給与手当の計上(従業員給与の支払)
-90-
がされていないなど,P3の経済活動の大半は原告P1により行われてい
た上,P3の株主は原告P1と妻P5のみであったこと(乙32の1ない
し乙32の5,原告P1本人[2頁]),⑤P3が購入した後の本件オ
ルゴール等の維持管理費用は,原告P1とP4社が負担していたなど,本
件オルゴール等の維持管理に関連する原告P1,P4社及びP3の会計は
厳密に分別されていなかったことがうかがわれること(乙74[2枚目])
などの事実が認められるところ,これらの事実に照らすと,本件オルゴー
ル等の譲渡当時,原告P1とP3の利害関係は一致していたということが
できる。したがって,本件オルゴール等の譲渡により原告P1に譲渡所得
が発生し所得税の納税義務を負うことや,逆に,低額譲渡として課税当局
から実質的に贈与ないし寄付と認定されることによりP3に納税義務が生
じることは,原告P1及びP3の双方にとって利益とならないものとして
これを避ける行動を採ることは十分考えられるところである。
そして,原告P1は,原告本人尋問の中で,P3に本件オルゴール等を
譲渡するに当たって譲渡所得が生じないように,本件オルゴール等の取得
や修理などに関与したP18に鑑定を依頼して適切な譲渡価額を決定した
旨の供述をしているところ(原告P1本人[3頁,4頁]),かかる原告
P1の供述は,上記認定とも符合し,その信用性は高いものであるという
ことができる。
オ以上検討したところによれば,本件オルゴール等の譲渡価額は,本件オ
ルゴール等の取得費と同額ないしはこれを下回るものであると認めること
ができるから(なお,平成14年譲渡オルゴール等の譲渡当時の評価額が
3億1510万円であることが記載された株式会社P26作成に係る鑑定
書(甲54)も,この認定を裏付けるものであるということができる。),
本件オルゴール等の譲渡により原告P1に所得が生じたとは認められない。
よって,本件各所得税課税処分及び本件各住民税賦課決定処分のうち本
-91-
件オルゴール等の譲渡につき原告P1に譲渡所得が発生したことを前提と
してされた部分は違法であり取消しを免れない。
7争点6(P2社役員報酬に対する課税の可否),争点7(P2社役員報酬の
邦貨への換算方法)について
(1)前記4で認定したとおり,原告P1は,本件各課税年において日本の非永
住者であったことが認められるから,原告P1が本件各課税年中の所得の中
で我が国の納税義務を負うものは国内源泉所得等に限られる(前記5(1)参
照)。そこで,以下,P2社役員報酬が国内源泉所得等に該当すると認めら
れるか否かにつき検討する。
(2)前提事実(5)イ記載のとおり,P2社は,原告P1に対し,平成14年には
19万9999米国ドル,平成15年には18万7999米国ドル,平成1
6年には19万9120米国ドル,平成17年には19万5539米国ドル
の各役員報酬(P2社役員報酬)をそれぞれ支払っていることが認められる。
証拠(原告P1本人[21頁])及び弁論の全趣旨によれば,これらのP
2社役員報酬は,原告P1と妻P5が共同で管理していた米国の銀行口座に
振り込まれ,妻P5が必要に応じて同口座から出金して本件家族の生活費に
充てていたことが認められる。そして,本件全証拠を見ても,P2社役員報
酬の全部又は一部が日本国内で支払われていたり,国外から日本国内に送金
されたりしたことを認めるに足りるものは存しない。
(3)以上によれば,P2社役員報酬に係る所得は,我が国での課税の対象とは
ならないということができるから,本件各所得税課税処分及び本件各住民税
賦課決定処分のうちP2社役員報酬が課税対象となることを前提としてされ
た部分は,その余の点(争点7(P2社役員報酬の邦貨への換算方法))に
ついて判断するまでもなく違法であり,取消しを免れないということになる。
8争点8(P3からの利得所得等の課税方法)について
(1)原告P1は,原告P1の原告会社役員報酬,原告会社から受領した利子及
-92-
び国内配当(これらを,以下「原告会社役員報酬等」という。)に係る課税
の方法は,非居住者に対する課税方法を定めた所得税法164条2項2号に
より源泉分離課税となるから,原告会社役員報酬等につき総合課税としてさ
れた本件各所得税課税処分は違法である旨主張する。
(2)しかし,前記3で説示したとおり,原告P1は本件各課税年中において日
本の居住者であったことが認められるから,原告P1の主張は,その前提を
欠くものであるというほかない。以上によれば,原告会社役員報酬等に対す
る課税の方法につき違法な点は認められない。
9争点9(原告会社が平成15年分に支払った原告会社役員報酬から源泉徴収
すべき所得税の額)について
(1)原告P1は,原告P1の平成15年分の課税総所得金額から控除される原
告会社からの給与所得に係る源泉徴収税額は,原告会社が実際に源泉徴収し
た金額である826万8480円ではなく,1239万5400円とするこ
とが正しいから,原告P1の平成15年分の課税総所得金額の計算に当たっ
ては,同金額を用いるべき旨の主張をする。そこで,以下,この原告P1の
主張の当否につき検討する。
(2)ア所得税法120条1項5号によれば,課税総所得金額につき税額の計算
の規定を適用して計算した所得税の額から控除される源泉徴収税額は,課
税総所得金額の計算の基礎となった各種所得につき源泉徴収された又はさ
れるべき所得税の額であるとされているところ,「源泉徴収された又はさ
れるべき所得税の額」とは,源泉徴収に関する規定に基づき正当に徴収さ
れた又はされるべき所得税の額を意味するものと解されるから,支払者が
誤った金額を源泉徴収した場合には,実際に源泉徴収された金額ではなく,
正しい源泉徴収税額を控除すべきことになる。そして,給与所得に係る源
泉徴収については,同法185条1項1号イにおいて,同法183条1項
の規定により徴収すべき所得税の額は,扶養控除等申告書を提出した居住
-93-
者に対し,給与等の支給期が毎月と定められている場合は,同法別表2の
甲欄に掲げる税額とする旨規定され,旧負担軽減法11条において,所得
税法185条1項中にある「別表2」を,「旧負担軽減法別表1」と読み
替える旨規定されている。さらに,給与等の支払額に関する計算を電子計
算機などの事務機械によって処理しているときは,旧負担軽減法別表1の
甲欄を適用する給与等については,財務省告示で定める別表によって源泉
徴収すべき税額を求めることができる特例が設けられている(乙65[2
2頁])。
イこれを本件についてみると,原告P1は,平成15年分の給与所得者の
扶養控除等(異動)申告書(乙66)を提出した居住者であるから(原告
P1本人[70頁]),旧負担軽減法別表1の甲欄が適用され,また,原
告会社は,給与等の支払額に関する計算を電子計算機などの事務機械によ
って処理していることが認められるから(弁論の全趣旨),上記アの規定
に基づき,上記財務省告示で定める別表によって,平成15年分の原告会
社から原告P1に支給された役員報酬に係る源泉徴収すべき税額を計算す
ると,合計826万8480円となる。
ウこれに対し,原告P1が主張する原告会社からの給与所得に係る源泉徴
収税額(1239万5400円)は,扶養控除等申告書を提出していない
居住者に対する税額を算出したものであるところ,前記3で説示したとお
り,原告P1は,本件各課税年当時において日本の居住者であり,しかも,
扶養控除等申告書を提出していることが認められるから,原告P1の上記
主張は,その前提を欠くというほかない。
10争点10(本件A建物の取得価額)について
(1)ア前提事実(3)によれば,本件A土地(本件A53土地及び本件A55土地)
については,①原告P1が,昭和53年10月10日,P12から,本
件A53土地及び本件A建物を合計1630万円で購入し,次いで,昭和
-94-
55年2月7日,P13から本件A55土地を購入したこと,②原告P
1は,平成17年9月14日,P15に対し,本件A土地を1234万9
696円(未経過固定資産税として原告P1が受領した1万8696円を
含む。)で売却したことが認められ,③本件A土地のうち本件A55土
地の取得価額を66万0660円とすることは当事者間に争いがない。
また,本件B土地については,<ア>その取得費を2444万2000
円とし,その譲渡価額を3243万3009円とすること,<イ>本件B
土地に係る分離長期譲渡所得を799万1009円とすることは当事者間
に争いがない。さらに,本件C土地については,<ア>その取得費を22
5万9110円とし,その譲渡価額を811万3549円とすること,<イ
>本件C土地に係る分離短期譲渡所得を585万4439円とすること
は当事者間に争いがない。
イ以上によれば,本件各土地の譲渡所得の金額は,本件A土地の取得費,
具体的には,本件A建物の取得価額により結論が異なるということになる。
そこで,以下,本件A建物の取得価額につき検討することとする。
(2)アこの点に関し,被告らは,本件A建物の取得価額は「建物の標準的な建
築価額表」を用いて算定すべきであり,そうすると,本件A建物の取得価
額は541万7945円となる旨の主張をするのに対し,原告P1は,本
件A建物の取得価額は「建物の標準的な建築価額表」より精度の高い「新
築建物価格認定基準表」を用いて算定すべきであり,そうすると,本件A
建物の取得価額は202万6200円となる旨の主張をする。
そこで,以下,西川口税務署長が「建物の標準的な建築価額表」を用い
て本件A建物の取得価額を541万7945円と算定したことが合理性を
有するものであると認められるか否かにつき検討する。
イ証拠(乙80,99)及び弁論の全趣旨によれば,「建物の標準的な建
築価額表」に記載された建築単価は,国土交通省作成に係る建築統計年報
-95-
の「構造別,用途別-建築物の数,床面積の合計,工事費予定額」の全国
計の「木造」欄の「工事費予定額」(8兆1781億0184万円)を「床
面積の合計」(1億0493万8309㎡)で除して算出した金額である
ことが認められる。また,建築統計年報は,国土交通省が建築の動態を把
握するという目的から,建築基準法15条の規定による建築工事の届け等
に基づき,統計法による指定統計等として毎月実施している建築動態統計
調査の結果を取りまとめたものであるところ(弁論の全趣旨),建築基準
法の上記規定を見ると,建築主が建築物を建築しようとする場合又は建築
物の除却の工事を施工する者が建築物を除却しようとする場合には,これ
らの者は,原則として建築主事を経由してその旨を都道府県知事に届け出
なければならず,市町村の長は,当該市町村の区域内における建築物が火
災,震災,水災,風災その他の災害により滅失し,又は損壊した場合には,
原則として都道府県知事に報告しなければならないとされている。そして,
建築動態統計調査はこれらの届出や報告に基づいて実施されていることに
よれば,同調査の結果が取りまとめられた建築統計年報は客観的合理性を
有する資料であるということができる。そうすると,本件A53土地等売
買のように建物と土地の価額が区分されていない不動産売買の事例につい
て「建物の標準的な建築価額表」に基づき建物部分の取得価額を算定する
ことには合理性があるということができる。
ウそして,証拠(乙80[32頁,38頁])によれば,国税庁は,不動
産購入時の売買代金につき建物と土地の価額が区分されていない場合にお
いて,建物の取得価額を計算する必要があるときは,当該建物の建築年に
対応する「建物の標準的な建築価額表」によって計算することとしても差
し支えない旨を記載したパンフレット(「譲渡所得の申告のしかた(記載
例)」)を公開していることが認められるから,「建物の標準的な建築価
額表」は,本件A53土地等売買のような事例において譲渡所得を計算す
-96-
るためにも用いられていることが認められる。そうすると,税負担の公平
という観点からも,西川口税務署長が「建物の標準的な建築価額表」を使
用して本件A建物の取得価額を算定したことには合理性があるということ
ができる(これに対し,原告P1が本件A建物の取得価額の算定に用いる
べきであると主張する「新築建物価格認定基準表」は,固定資産課税台帳
に登録されていない新築建物の価額につき,登記官がその建物に類似する
建物の固定資産課税台帳上の価格と均衡を失しない形で価格の認定をする
ことを可能とする目的で各法務局又は地方法務局が独自に作成しているも
のであるから(甲156ないし158,乙70,71),それ自体は客観
的な合理性を有する基準であるとは認められるものの,本件A53土地等
売買のような事例において譲渡所得を計算する目的で作成された基準では
ないから,上記で説示した税負担の公平という観点からも,本件A建物の
価額について「新築建物価格認定基準表」ではなく,「建物の標準的な建
築価額表」を用いて算定したことは正当であるということができる。)。
(3)以上によれば,本件A53土地の取得価額の算定に当たって,本件A53
土地等売買に係る売買代金(1630万円)から控除すべき本件A建物の取
得価額は被告らが主張するとおり541万7945円であるということがで
きるから,この点に関する原告P1の主張は採用することができない。
そうすると,本件A53土地の取得価額は1088万2055円(163
0万円-541万7945円)となり,これに当事者間に争いのない本件A
55土地の取得価額(66万0660円)を足すと本件A土地の取得費は1
154万2715円となる。そして,本件A土地の譲渡価額は1234万9
696円であるから,本件A土地に係る分離長期譲渡所得は80万6981
円(1234万9696円-1154万2715円)となり,本件B土地の
分離長期譲渡所得は799万1009円であるから(前記(1)ア),平成17
年分の原告P1の分離長期譲渡所得は,879万7990円(80万698
-97-
1円+799万1009円)となる。
11争点11(本件各土地の譲渡所得に対する課税方法の違法の有無)について
(1)原告P1は,自らは本件各課税年において日本の非居住者であったから,
本件不動産譲渡所得につき譲渡価額から取得価額を控除した所得金額に所定
の税率を乗じて算出した税額から,当該不動産の購入者の支払金額の10%
を控除していないことは違法である旨の主張をする。
(2)しかし,前記3で説示したとおり,原告P1は本件各課税年中において日
本の居住者であったことが認められるから,原告P1の上記の主張は,その
前提を欠くものというほかない。以上によれば,本件不動産譲渡所得の課税
方法につき違法な点は認められない。
12争点12(二重課税による違法性の有無)について
(1)原告P1は,本件各課税処分が違法であることの根拠として,本件各課税
年において原告P1が得た各種所得は既に米国において課税済みであるから,
所得税及び住民税に係る本件各課税処分により日本の課税当局から更に課税
されることは二重課税に当たり違法である旨の主張をする。
(2)アしかし,日本と米国の両国は,それぞれの課税の根拠となる税法に基づ
き独立して課税をするのであるから,各国の税法の規定次第で双方の国の
居住者と判定される場合があり得ることは不可避であり,異なる国から居
住者であるとの判定を受け,二重に課税されたことから直ちに当該一方の
国がした課税処分が違法になるとはいえない(このことは,本件の中で原
告P1が指摘している新旧日米租税条約においても,二重課税となる場合
があることを当然の前提とし,それを回避するための方策につき規定され
ていること(旧日米租税条約3条(3)及び25条(1),新日米租税条約4条
3項及び25条1項)からも明らかである。)。
イそして,所得税法95条1項は,二重課税を排除するために外国税額の
控除制度を設け,「居住者が各年において外国所得税(中略)を納付する
-98-
こととなる場合(中略)には,(中略)その年分の所得税の額のうち,そ
の年において生じた所得でその源泉が国外にあるものに対応するものとし
て政令で定めるところにより計算した金額(中略)を限度として,その外
国所得税の額をその年分の所得税の額から控除する。」旨を規定している。
もっとも,上記規定は,確定申告書に同項の規定による控除を受けるべき
金額及びその計算に関する明細の記載があり,かつ,外国所得税を課され
たことを証する書類その他財務省令で定める書類の添付がある場合に限り
適用されることとなっているところ,原告P1は,平成15年分確定申告
書につき所得税法95条5項に規定する各種書類の添付をしておらず,ま
た,平成14年分,平成16年分及び平成17年分の所得税に関しては,
確定申告書の提出をしていないため,本件各課税年における所得税の計算
上,外国税額控除の適用がされなかったものと認められる。そうすると,
このような手続を執らなかった原告P1が二重課税の状態に置かれたこと
はやむを得ないものであるということができるから,原告P1に対してさ
れた本件各課税処分が二重課税に当たり違法である旨の原告P1の主張は
採用することができない。
(3)以上によれば,原告P1の所得税及び住民税に係る本件各課税処分が二重
課税に当たることにより違法であるとは認められない。
13争点13(原告P1に対してされた質問検査権行使の違法性の有無),争点
19(原告会社に対してされた質問検査権行使の違法性の有無)について
(1)ア所得税法234条1項は,国税庁,国税局又は税務署の調査権限を有す
る職員は,所得税に関する調査について必要があるときは,納税義務があ
る者,納税義務があると認められる者又は所得税法の規定による申告書を
提出した者に質問し,又はその者の事業に関する帳簿書類その他の物件を
検査することができる旨を規定し,また,財務省組織規則468条4号は,
課税総括課は,所得税等の課税標準の調査及びこれらの国税に関する検査
-99-
に係る事務で国税局長が必要があると認めた特定事項に係る事務の指導及
び監督並びにこれに必要な調査及び検査に関する事務をつかさどる旨を規
定している。
ここで,所得税法234条1項の「調査について必要があるとき」とは,
調査権限を有する税務職員において,当該調査の目的,調査すべき事項,
申請及び申告の体裁内容,帳簿等の記入保存状況,相手方の事業の形態等
諸般の具体的事情に鑑み,客観的な必要性があると判断される場合のこと
をいい,質問検査権を行使する場合の質問検査の範囲,程度,時期,場所
等実定法上特段の定めのない実施の細目については,質問検査の必要があ
り,かつ,これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当な限
度にとどまる限り,権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているも
のと解される(最高裁昭和45年(あ)第2339号同48年7月10日
第三小法廷決定・刑集27巻7号1205頁)。そして,一般に,課税処
分の適否は客観的な課税要件の存否によって決せられるものであるから,
課税処分の基礎となった調査手続の違法は,当然に課税処分の取消事由と
なるものではなく,それが刑罰法規に触れ又は社会正義に反するなど公序
良俗に反するような重大な違法がある場合に限り当該課税処分の取消事由
になり得るものと解される。
イそこで,以下,上記アの観点から,関東信越国税局の職員及び西川口税
務署職員が原告らに対してした一連の税務調査(以下「本件各税務調査」
という。)に重大な違法があり,それにより,原告P1に対してされた本
件各所得税課税処分及び原告会社に対してされた本件各源泉所得税課税処
分が取り消されるべきものであると認められるか否かにつき検討する。
(2)ア原告らは,本件各税務調査が違法であることの理由として,①本件各
税務調査は,西川口税務署長の指示の下に西川口税務署職員が「所得税に
関する調査について」実施されたものであるところ,本件各所得税課税処
-100-
分の決定通知書等には関東信越国税局の調査である旨の教示は存在しない
から,関東信越国税局は本件各税務調査の主体ではなく,所得税法234
条1項が規定する調査について質問検査権が行使されたものではないこと,
②財務省組織規則468条4号は組織内での権限の分掌について定めた
組織法であり,質問検査権の授権規範とはなり得ない上,本件各税務調査
において国税局長が必要があると認めたとの要件も満たさないこと,③
関東信越国税局の職員や西川口税務署職員がP21と本件各税務調査に関
するやりとりをしたことは原告P1のプライバシー権の侵害に当たること
などを挙げる。
イ確かに,証拠(乙8,36,42)によれば,本件各税務調査は,平成
18年4月頃に開始され,関東信越国税局の職員は,同年11月30日,
西川口税務署職員と共に関東信越国税局の会議室でP21と面接し,P2
1に対して質問検査権に基づく質問をするなどして本件各税務調査に関与
したことが認められる。
しかし,前記(1)アで説示したとおり,所得税法234条1項は,質問検
査権を行使することのできる職員として「国税庁,国税局又は税務署の調
査権限を有する職員」を挙げているから,本件各税務調査に関東信越国税
局の職員が関与したことが直ちに違法であるとはいえない。また,本件各
税務調査を実施した関東信越国税局の職員が所属していた課税総括課は,
国税局長が必要があると認めた場合には,所得税等の課税標準の調査及び
これらの国税に関する検査に係る特定の事務の指導監督及びこれに必要な
調査及び検査に関する事務を所管する部局であるから(上記財務省組織規
則468条4号),関東信越国税局の職員が,本件各税務調査を実施して
いる西川口税務署職員に対する指導監督上の必要性に基づいて,本件各税
務調査の調査対象とされた原告らに対し,直接質問検査権を行使すること
は当然に許容されるものと解される。したがって,関東信越国税局の職員
-101-
がP21に対して直接質問検査権を行使したことが違法であるとはいえな
い(なお,原告らは,財務省組織規則468条4号は組織内での権限の分
掌について定めた組織法であり,質問検査権の授権規範とはなり得ない旨
の主張をするが,そもそも,所得税法234条1項が国税局の職員に対し
て質問検査権の行使を許容していることによれば,原告らの主張を採用す
ることができないことは明らかである。)
また,原告らは,<ア>課税総括課の職員の関与が認められるのは国税
局長がその必要性を認めた場合に限られるところ,本件ではこの要件を満
たしていない旨の主張や,<イ>関東信越国税局の職員が直接質問検査権
を行使したことは指導監督の範囲を超える旨の主張もする。
しかし,証拠(乙8,36)によれば,関東信越国税局の職員が本件各
税務調査に従事したのは,原告P1が原告会社以外にも数社の代表取締役
を兼務し多額の収入を得ていたことや,国際的な取引にも関係するなどし
ていたため,西川口税務署の上級官庁に当たる関東信越国税局が西川口税
務署が主体として実施される本件各税務調査を指導監督することとしたこ
とが認められるから,国税局長が必要性を認めた場合の要件を満たすこと
は明らかであるし,本件全証拠から明らかとなる本件各税務調査の一連の
調査の実施状況を見ても,関東信越国税局の職員による西川口税務署の職
員に対する指導監督が社会通念上相当な限度を越えたものであるとは認め
られない。
以上によれば,本件各税務調査につき関東信越国税局の職員が関与した
ことをもって,本件各税務調査に刑罰法規に触れ又は社会正義に反するな
ど公序良俗に反するような重大な違法があるとは認められない。よって,
上記ア①及び②の原告らの主張は採用することができない。
ウまた,本件各税務調査によって原告P1のプライバシーが侵害されたと
いう上記ア③の原告らの主張については,その主張を詳細に見ても侵害さ
-102-
れた原告P1のプライバシー権の具体的内容が明らかになっているとは言
い難い。また,この点をおくとしても,証拠(甲42,88,乙8)によ
れば,<ア>P21は,平成13年頃から,現P20法人においてP3の
税務処理に係る業務に関与し,平成15年頃からは原告会社の税務処理に
係る業務についても担当していたこと(甲88[1頁]),<イ>原告P
1は,平成18年5月22日に実施された税務調査にP21を同席させ,
その後の本件各税務調査に関する対応をP21に任せる旨を述べたこと
(甲42[2枚目],88,乙8),③P21は,原告P1の意向を受
けて,関東信越国税局の職員や西川口税務署の職員と話し合いをするなど,
業務として本件各税務調査の対応に当たっていたことが認められるから,
原告P1は,P21が本件各税務調査に関して課税当局と折衝することを
承諾していたものと評価することができる。
また,税理士法54条は,税理士又は税理士法人の使用人その他の従業
員は,業務に関して知り得た秘密を他に漏らしてはならないとして守秘義
務を課し,同法59条1項2号は,上記守秘義務に違反した者に対する罰
則を定めているところ,上記③で認定したとおり,P21は,現P20法
人の従業員としての業務に基づき本件各税務調査に関与していたものとい
うことができるから,本件各税務調査により知り得た秘密につき守秘義務
が課されていたものと認められる。そうすると,仮に本件各税務調査に関
する交渉の中で原告P1のプライバシーの一部が税理士の資格のないP2
1に明らかになったとしても,そのことをもって原告P1のプライバシー
権が侵害されたということはできない。よって,上記ア③の原告らの主張
は採用することができない。
(3)上記(2)で検討したところによれば,本件各税務調査に違法な点があるとは
認められない。そして,原告らが本件各税務調査が違法であることの根拠と
する他の事情を見ても,本件各税務調査の手続が刑罰法規に触れ,又は社会
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正義に反するなど公序良俗に反するような重大な違法があると認めるに足り
るものは存しない。
以上によれば,本件各税務調査の違法を理由として本件各所得税課税処分
及び本件各源泉所得税課税処分が取り消されるべきであるという原告らの主
張は,いずれも採用することができない。
14争点14(国税通則法65条4項又は66条1項ただし書の「正当な理由」の
有無)について
(1)原告P1は,仮に本件各所得税課税処分が適法であるとしても,原告P1
が自己を日本の非居住者であると判断し,確定申告を期限内に行わなかった
こと及び税額を過少に申告したことについては,国税通則法65条4項及び
66条1項ただし書所定の正当な理由があるから,本件各所得税課税処分の
うち原告P1に対してされた無申告加算税及び過少申告加算税の各賦課決定
処分は違法である旨主張する。そこで,以下,この原告P1の主張の当否に
つき検討する。
(2)ア無申告加算税は期限内に申告書を提出しなかった者に対して課されるも
の,過少申告加算税は過少申告による納税義務違反をした者に対して課さ
れるものであるところ,これら無申告加算税及び過少申告加算税は,当初
から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正
を図るとともに,無申告又は過少申告による納税義務違反の発生を防止し,
適正な申告納税の実現を図り,もって納税の実を挙げようとする行政上の
措置である一方,主観的責任の追及という意味での制裁的な要素は重加算
税に比して少ないということができる。
このような無申告加算税等の趣旨に照らすと,国税通則法65条4項又
は66条1項ただし書の「正当な理由」がある場合とは,真に納税者の責
めに帰することのできない客観的な事情があり,上記のような無申告加算
税等の趣旨に照らしても,なお納税者に無申告加算税等を賦課することが
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不当又は酷になる場合をいうものと解することが相当であり(最高裁平成
17年(行ヒ)第9号同18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4
号1611頁参照),法の不知や納税者の主観的な事情に基づく単なる法
律解釈の誤りは正当な理由とならないものというべきである。
イこれを本件についてみるに,前記3で認定したとおり,原告P1は,本
件各課税年において日本の居住者であったことが認められるところ,平成
14年,平成16年及び平成17年の各年分については確定申告をしてお
らず,確定申告をした平成15年分については,納付すべき税額を過少に
申告していることが認められる。そうすると,原告P1は,上記アの「正
当な理由」があると認められない限り,無申告加算税等の納付義務を負う
ということになる(もっとも,納付すべき税額がない場合にはこの限りで
ないということはいうまでもない。)。
そして,原告P1の日本国内での滞在状況や原告会社での代表取締役社
長としての職務の執行状況,本件旧家屋及び本件家屋での居住の実態その
他の前記3で認定した客観的事情に照らすと,原告P1は,自らが本件各
課税年において日本の居住者に該当する旨の認識を持つことは十分可能
であったということができる。そうすると,原告P1については,真に納
税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,上記のような無
申告加算税等の趣旨に照らしても,なお納税者に無申告加算税等を賦課す
ることが不当又は酷になる場合には当たらないということができる(なお,
確かに,原告P1が主張するとおり,川口市長は,平成16年8月9日に
原告に対してした本件住民税賦課決定取消処分により原告P1に対する
平成16年度分の住民税の賦課決定処分を取り消していることが認めら
れるが,前記1で説示したとおり,所得税と住民税は課税主体を異にする
税金であるから,川口市長が平成16年度分の原告P1の住民税の賦課決
定処分を取り消したことをもって,所得税についても日本の非居住者に当
-105-
たることを前提とした行動を採ることが正当化される事情とはいえない。
そして,証拠(甲153)によれば,P21は,平成17年4月26日付
けのメールの中で,原告P1に対し,ストックオプションに係る源泉所得
税に係る納税に関連して原告P1が日本の居住者に該当するか否かを判
断するために必要となる情報(原告P1の日本国内での滞在状況等)の教
示を求めていることが認められるから,このような機会の中で,原告P1
は,自らが日本の居住者であることを認識することは可能であったと考え
られる。よって,川口市長が平成16年度分の住民税の賦課決定処分を取
り消したことをもって,原告P1に上記の正当な理由があるとはいえな
い。)。
15争点15(平成15年度分ないし平成17年度分の住民税の賦課決定処分の
法定期間内の通知の有無)について
(1)ア地方税法17条の6第3項は,住民税の所得割及び均等割の各賦課決定
は,その課税標準の基準となる所得税の更正又は決定があった場合には,
法定納期限の翌日から起算して3年を経過した日以後においても,当該所
得税の更正又は決定の通知が発せられた日の翌日から起算して2年間する
ことができる旨を規定している。
イ証拠(甲39)によれば,被告川口市は,平成19年1月19日,西川
口税務署長から平成18年12月18日付けで発せられた原告P1の平成
14年分所得税に係る決定決議書,平成15年分所得税に係る更正決議書
並びに同16年分所得税及び平成17年分所得税に係る各決定決議書の写
しを受領したことが認められるから,これらの所得税の更正又は決定によ
り,平成15年度分ないし平成17年度分の住民税の賦課決定処分をする
ことのできる期間は平成20年12月18日までになったことが認められ
る。したがって,川口市長が原告P1に対してした平成15年度分ないし
平成17年度分の住民税の賦課決定処分が適法にされたというためには,
-106-
同日の満了までに,上記各処分の決定がされ,その通知が原告P1に送達
されたことを要するということになる。
ウこの点に関し,原告P1は,平成15年度分ないし平成17年度分の住
民税の賦課決定処分に係る納税通知書(本件納税通知書)が原告P1宛て
に送達されたのは上記イの期限(平成20年12月18日)を経過した後
の日(平成21年1月22日)であるから,原告P1に対してされた平成
15年度分ないし平成17年度分の住民税の賦課決定処分はいずれも効力
がない旨の主張をする。そこで,以下,本件納税通知書が原告P1に適法
に送達されたと認められる時期につき検討する。
(2)ア地方税に係る書類の送達について規定する地方税法20条1項は,その
本文で,地方団体の徴収金の賦課徴収又は還付に関する書類の送達につい
ては,郵便若しくは信書便による送達又は交付送達により,その送達を受
けるべき者の住所,居所,事務所又は事業所に送達する旨を規定している。
書類の送達の効力は,その書類が社会通念上送達を受けるべき者の支配
下に入ったと認められる時(送達を受けるべき者が了知し得る状態に置か
れた時)に生じ(最高裁昭和26年(れ)第754号第三小法廷判決同2
9年8月24日・刑集8巻8号1372頁),その者が現実にその書類を
受領し,了知することまでは要しないものと解される。そうすると,本件
において,原告P1に対する本件納税通知書の送達の効力が生じたという
には,本件納税通知書が平成20年12月18日までに原告P1が了知し
得る状態に置かれていれば足りるということになる。
イ証拠(甲35ないし39,丙4ないし6,証人P27)によれば,①川
口市長は,平成20年12月2日,平成15年度分ないし平成18年度分
の原告P1の住民税の賦課決定処分をし,同月3日付けで,上記各処分に
係る本件納税通知書を本件家屋宛てに配達証明郵便の方法により送付した
こと(甲35ないし38,丙4,証人P27[11頁]),②P28会
-107-
社P29支店の職員は,同月4日,本件納税通知書を原告P1に配達する
ため,本件家屋を訪問したところ,原告P1が不在であったため持ち帰る
こととし,その際,不在連絡通知書(期限1週間)を差し置きしたこと(丙
5),③上記の保管期間(同月11日まで)が経過しても原告P1から連
絡がなかったため,本件納税通知書は,同月15日,川口市役所の市民税
課に返戻されたこと(甲39,丙5,6)が認められる。
一方,証拠(甲56,原告P1本人[28頁])及び弁論の全趣旨によ
れば,原告P1は,平成20年12月4日から同月17日にかけて北海道
芦別市に出張していたため,本件納税通知書を実際に受領していないこと
が認められる。
そうすると,本件納税通知書の送達の効力の有無を判断するに当たって
は,上記②のとおり本件納税通知書が本件家屋に差し置きされたことによ
って原告P1が了知し得る状態に置かれたものということができるか否か
が問題になる。
証拠(丙11,証人P27,原告P1本人)によれば,<ア>川口市役
所理財部市民税課の職員であるP27は,平成20年11月26日,P2
1に対し,地方税の規定に基づき同年12月17日までに原告P1に対す
る住民税各賦課決定処分を行う予定である旨の説明をしたこと(丙11[4
頁,5頁],証人P27[8頁,9頁]),<イ>原告P1は,同年11
月又は12月頃,P21から,川口市長が,原告P1に対して住民税の賦
課決定処分をし,当該賦課決定処分に係る納税通知書を原告P1宛てに送
付する予定であるとの報告を受けたこと(原告P1本人[28頁,65頁]),
<ウ>本件家屋は,原告P1の居宅としての利用のほか,P3の事務所と
しても利用されており,原告会社の本社にも近く,原告会社の従業員が訪
問したり,原告P1の不在中にお手伝いと称する第三者が室内に立ち入る
こともあったこと(証人P27[13頁],原告P1本人[54頁,66
-108-
頁])が認められる。
上記<ア>ないし<ウ>の各事実によれば,原告P1は,出張中に本件納税
通知書が本件家屋宛てに送達されることを認識することができた上,原告
会社の社員その他の第三者に指示することにより,本件納税通知書が本件
家屋に配達されているか否かを確認することができたものと認められる。
以上によれば,本件納税通知書は,社会通念上,遅くともその留置期間
が満了した平成20年12月11日の時点で,原告P1が了知し得る状態
に置かれたものと認められ,他に,この認定を覆すに足りる証拠は見当た
らない。
(3)上記のとおり,原告P1の平成15年度分ないし平成17年度分の住民税
の賦課決定処分は,いずれも法定期間内に原告P1に通知されたということ
ができるから,この点に関する原告P1の主張は採用することができない。
16争点16(本件各住民税関係処分の信義則違反該当性)について
(1)前記14(2)で認定したとおり,川口市長は,平成16年8月9日,本件住
民税賦課決定取消処分をし,原告P1に対する平成16年度分の住民税の賦
課決定処分を取り消したことが認められるところ,原告P1は,本件住民税
賦課決定取消処分は原告P1が日本の非居住者であるとの公的な見解を表
示したものであり,原告P1はこの公的見解を信頼して米国で納税をしてい
たのであるから,それにもかかわらず,川口市長が本件各住民税関係処分を
したことは信義則上違法の評価を受けるべきものである旨主張する。
(2)ところで,信義則の法理は法の一般原理であるが,租税法律主義の原則が
貫かれるべき租税法律関係においては,同法理の適用については慎重でなけ
ればならず,租税法規の適用における納税者間の平等や公平という要請を犠
牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れさせて納税者の信頼を保護
しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存在する場合に,初め
て上記法理の適用を考えるべきものであると解される。そして,上記の特別
-109-
の事情の存在が認められるというためには,少なくとも,①課税庁が納税
者に対して信頼の対象となる公的見解を表示したこと,②納税者がその表
示を信頼して行動したところ,後に上記表示に反する課税処分がされたこと
により経済的不利益を受けたこと,③上記信頼及びこれに基づく行動につ
き納税者の責めに帰すべき事由がないことが必要であると解される(最高裁
昭和60年(行ツ)第125号同62年10月30日第三小法廷判決・裁判
集民事第152号93頁)。
(3)アこれを本件についてみるに,確かに,原告P1が主張するとおり,川口
市長は,平成16年8月9日付けで本件住民税賦課決定取消処分をし,原
告P1に対する平成16年度分の住民税の賦課決定処分を取り消してい
ることが認められる。
しかし,住民税の賦課決定処分の取消しは,当該取消しがされた時点で
課税庁が有する資料に基づいて判断をすると課税要件を満たすとはいえ
ない場合にされるものであり,その後に明らかになった資料により課税要
件が満たされていることが判明した場合にも課税処分をしないことまで
も保障する性質のものとはいえない。そして,証拠(証人P27[2頁,
3頁])及び弁論の全趣旨によれば,本件住民税賦課決定取消処分は,原
告P1及びP17税理士がP27に対してした説明や,原告P1が提出し
た米国の永住権の所持者であることを示すグリーンカード,パスポート,
運転免許証及び民間保険会社のカードを根拠として行われたことが認め
られることによれば,本件住民税賦課決定取消処分がされたのは,原告P
1が前記3で説示した事情を十分に説明しなかったことが原因であると
いうことができる。したがって,本件住民税賦課決定取消処分をしたこと
により,平成16年度分の原告P1の住民税につき,原告P1が日本の非
居住者である旨の公的な見解を表示したということはできない。
イまた,前記4(2)イで認定したところによれば,原告P1が本件米国訴
-110-
訟の中で提出した本件略式判決申立書の中には,原告P1が日本に永住す
る意思を持って平成13年に米国NJ州を去り,日本に定住した旨の記載
があるほか,本件宣誓書の中には,原告P1が米国NJ州家屋を去った後,
平成13年から日本に居住しており,米国NJ州に戻る意思はない旨の記
載があることが認められ,かかる原告P1の行動によれば,原告P1が本
件住民税賦課決定取消処分を信頼して行動したともいえない。
ウそして,前記3で認定した客観的事情に照らすと,原告P1は,本件各
課税年において自らが被告川口市の住民であることを認識することが可
能であったということができるから,川口市長が取消処分をしたことを信
頼し,それに基づく行動をしたことにつき原告P1の責めに帰すべき事由
がないともいえないし,納税者はもともと自己の責任と判断の下に行動す
べきものであることからすれば,本件のような場合につき,原告P1に附
帯税を含め課税処分が課されることはやむを得ないということができる。
(4)以上に検討したところによれば,川口市長が原告P1に対して本件各住民
税関係処分をしたことが信義則に反するとは認められない(なお,原告P1
は,川口市長が平成16年度分の住民税の賦課決定処分の取消しをしたこと
をもって,平成16年度分だけでなく,平成14年度分ないし平成18年度
分の本件各住民税賦課決定処分が信義則違反として違法となる旨の主張を
するが,納税者が課税要件を満たすか否かは課税年度ごとに判定されるもの
であるから,平成16年度分の住民税の賦課決定処分が取り消されたことを
もって,その他の年度分の住民税につき川口市長が賦課決定処分をすること
が信義則違反とはならないことは明らかであり,この点からも,原告P1の
主張を採用することができないことは明らかである。)。
17争点18(国税通則法67条1項ただし書の「正当な理由」の有無)について
(1)原告会社は,仮に,原告P1が本件各課税年において日本の居住者に該当
するとしても,原告会社には原告P1の役員報酬等に係る源泉所得税額を法
-111-
定納期限までに納付しなかったことにつき正当な理由(国税通則法67条1
項ただし書)があるから,西川口税務署長が原告会社に対してした不納付加
算税の賦課決定処分は違法である旨の主張をする。そこで,以下,この原告
会社の主張の当否につき検討する。
(2)不納付加算税に関して規定する国税通則法67条1項は,その本文におい
て,源泉徴収による国税がその法定納期限までに完納されなかった場合には,
不納付加算税を徴収する旨を規定し,そのただし書において,法定納期限ま
でに納付されなかったことについて正当な理由があると認められる場合に
はこの限りでない旨を規定している。
不納付加算税は,当初から適法に納付した納税者との間の客観的不公平の
実質的な是正を図るとともに,不納付という納税義務違反の発生を防止し,
源泉徴収に係る国税の適正な自主納付の実現を図り,もって徴税の実を挙げ
ようとする行政上の措置であり,主観的責任の追及という意味での制裁的な
要素は重加算税に比して少ないから,同法67条1項ただし書の「正当な理
由」があると認められる場合とは,真に納税者の責めに帰することのできな
い客観的な事情があり,上記のような不納付加算税の趣旨に照らしても,な
お,納税者(源泉徴収義務者)に対して不納付加算税を賦課することが不当
又は酷になる場合をいうものと解することが相当である(過少申告加算税に
関する前掲最高裁平成17年(行ヒ)第9号同18年4月20日第一小法廷
判決参照)。
そこで,以下,上記の観点から,原告会社において正当な理由があると認
められるか否かにつき検討する。
(3)証拠(甲45)及び弁論の全趣旨によれば,原告P1は,P22会長やそ
の他の原告会社の従業員に対し,本件各課税年当時,自らが日本の非居住者
である旨の説明をしていたことが認められる。しかし,原告P1が日本の居
住者に該当するか否かの判定は,源泉徴収義務を負う原告会社が自ら判断す
-112-
べき性格のものであるから,原告P1本人が原告会社に上記の申告をしてい
たことから直ちに,源泉徴収に係る国税の不納付につき原告会社の責めに帰
することのできない客観的な事情があるとはいえない。
そして,前記3で認定したとおり,原告P1は,本件各課税年において,
原告会社の代表取締役社長としてその73%(平成17年)から90%(平
成16年)の期間にわたり国内に滞在し,その間,原告会社から近距離にあ
る本件旧家屋や本件家屋に居住していたことが認められるところ,このよう
に原告P1が本件各課税年において日本国内に長期にわたり滞在し,個人又
はその資産管理会社名義で居住用の建物を所有して当該建物に居住してい
たことは原告会社において当然に認識することができたということができ
る。
そして,仮に,P22会長において,本件家族が米国に居住していること
や,原告P1が米国で納税義務を果たしていることなどを認識していたとし
ても,原告P1の日本国内での滞在状況や出入国の状況,原告会社の代表取
締役社長としての職務の遂行状況等に照らせば,原告P1が日本の非居住者
であることにつき合理的な疑念を抱くことができたものと考えられる。
さらに,証拠(甲45[1頁],乙8,16ないし19,24の1,乙4
6の1-1ないし乙46の13-3,乙61)によれば,<ア>原告P1が
P2社を訪問する際に要した費用の多くは,平成15年7月7日以降,旅費
交通費等の形で原告会社が負担していたことや,<イ>原告会社の法人税の
確定申告書では,原告P1の代表者住所は本件旧肩書地が記載されていたこ
とが認められるところ,かかる事実は,原告会社の内部でも,原告P1が日
本の居住者であるとの認識を有していたことをうかがわせる事情であると
いうことができる。
ウ以上検討したところによれば,原告会社において,原告P1が非居住者に
該当することとして本件納税告知処分に係る所得税を原告P1から源泉徴
-113-
収して法定納期限までに納付しなかったことについて,真に原告会社の責め
に帰することのできない客観的な事情があったということはできないし,納
税者である原告会社に不納付加算税を賦課することが不当又は酷になる場
合ということもできないから,国税通則法67条1項ただし書の「正当な理
由」があると認められる場合には該当しない。よって,この点に関する原告
会社の主張は採用することができない。
18小括
(1)本件各所得税課税処分の取消しに係る訴えについて
以上検討したところによれば,原告P1は,本件各課税年において所得税
法2条1項4号の非永住者であったことが認められ,原告P1が本件各課税
年に得た所得の中で納税義務を負うものは国内源泉所得等に限られるとい
うことになるから,P2社役員報酬に係る給与所得及び本件オルゴール等に
係る譲渡所得は総所得金額に算入されないことになる。また,本件オルゴー
ル等に係る譲渡所得は国内源泉所得等に該当しない上,そもそも譲渡所得が
発生したと認めるに足りる証拠は存しないから,原告P1に対してされた本
件各所得税課税処分における原告P1の総所得金額を算定する際には,本件
オルゴール等の譲渡所得は0円とすべきものと解される。その余の点につい
ては,被告らの主張する各課税処分の根拠に違法な点は見当たらない。以上
に基づき,原告P1の平成14年分ないし平成17年分の所得税に係る所得
金額及び納付すべき所得税額並びに無申告加算税等を算定すると,別表7な
いし別表10の「当裁判所の認定額」欄各記載のとおりとなり,平成14年
分の総所得金額は3507万5545円,還付金の額に相当する税額は39
6万8467円,無申告加算税額は0円に,平成15年分の総所得金額は3
677万4825円,納付すべき所得税額は91万8000円,過少申告加
算税額は8万5000円に,平成16年分の総所得金額は6250万740
5円,還付金の額に相当する税額は414万0311円,無申告加算税額は
-114-
0円に,平成17年分の総所得金額は,総合課税の総所得金額が7億425
3万1991円,分離課税の長期譲渡所得の金額が879万7990円,短
期譲渡所得の金額が585万4439円(分離課税に係る各所得の金額は被
告らの主張額と同額),納付すべき所得税額は63万2500円,無申告加
算税額は9万4500円になる。したがって,本件各所得税決定処分及び本
件更正処分のうち上記各所得金額及び各納付すべき所得税額を超える部分
並びに無申告加算税等の賦課決定処分のうち上記無申告加算税等の額を超
える部分は違法であり,取消しを免れない(なお,平成14年分及び平成1
6年分については,上記のとおり還付金の額に相当する税額が生じているが,
原告P1は,当該年分の所得税につき申告をしておらず,還付金の還付請求
もしておらず,本件訴訟においても各決定処分の取消しを求めるにとどまっ
ているから,納付すべき税額0円を超える部分の取消しを求めているものと
して,還付金の額に相当する税額について考慮することなく,当該年分の各
決定処分を取り消すこととする。)。
(2)本件各源泉所得税課税処分の取消しに係る訴えについて
原告会社の本件請求はいずれも理由がないから,棄却することとする。
(3)本件各住民税関係処分の取消しに係る訴えについて
前記(1)で説示したとおり,原告P1の総所得金額は平成14年分が35
07万5545円,平成15年分が3677万4825円,平成16年分が
6250万7405円,平成17年分が7億4253万1991円,平成1
7年分の分離課税の長期譲渡所得の金額が879万7990円,短期譲渡所
得の金額が585万4439円となるから,原告P1の平成15年度分ない
し平成18年度分の各住民税の所得割も上記各所得金額を超えて算出され
た部分(平成15年度分は383万8300円を超える部分,平成16年度
分は409万9200円を超える部分,平成17年度分は742万2300
円を超える部分,平成18年度分は9683万1200円を超える部分。別
-115-
表11参照)は違法であり,原告P1に対する本件住民税関係処分のうち上
記各部分はいずれも取消しを免れないということになる。
第4結論
以上によれば,原告P1の被告国に対する訴えのうち別紙1「却下部分目録」
記載の部分は不適法であるから,これを却下し,この部分を除く原告P1の被
告らに対する請求は,主文1項(2)及び主文3項(1)各記載の限度において理由
があるから,これらの限度で認容し,その余の請求は理由がないからいずれも
棄却し,原告会社の被告国に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却
することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法6
1条,64条本文,65条1項ただし書後段を適用して,主文のとおり判決す
る。
東京地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官川神裕
裁判官富澤賢一郎及び裁判官菅野昌彦は,填補のため,署名押印することが
できない。
裁判長裁判官川神裕
-116-
((((別紙別紙別紙別紙1111))))
却下部分目録
西川口税務署長が平成18年12月18日付けで原告P1に対してした原告P1
の平成15年分の所得税に係る更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(ただし,
平成25年2月8日付け更正処分及び過少申告加算税の変更決定処分によりそれぞ
れ一部取り消された後のもの)の取消しを求める訴えのうち,総所得金額3289
万1030円,納付すべき税額6万2200円を超えない部分の取消しを求める部

-117-
((((別紙別紙別紙別紙2222))))
取消対象処分目録
1西川口税務署長が平成18年12月18日付けで原告P1に対してした原告
P1の平成14年分の所得税に係る決定処分及び無申告加算税賦課決定処分
(ただし,平成25年2月8日付け更正処分及び無申告加算税の変更決定処分
によりそれぞれ一部取り消された後のもの)
2西川口税務署長が平成18年12月18日付けで原告P1に対してした原告
P1の平成15年分の所得税に係る更正処分及び過少申告加算税賦課決定処
分(ただし,平成25年2月8日付け更正処分及び過少申告加算税の変更決定
処分によりそれぞれ一部取り消された後のもの)のうち,更正については総所
得金額3677万4825円,納付すべき税額91万8000円を超える部分,
賦課決定については8万5000円を超える部分
3西川口税務署長が平成18年12月18日付けで原告P1に対してした原告
P1の平成16年分の所得税に係る決定処分及び無申告加算税賦課決定処分
(ただし,平成25年2月8日付け更正処分及び無申告加算税の変更決定処分
によりそれぞれ一部取り消された後のもの)
4西川口税務署長が平成18年12月18日付けで原告P1に対してした原告
P1の平成17年分の所得税に係る決定処分及び無申告加算税賦課決定処分
(ただし,平成25年2月8日付け更正処分及び無申告加算税の変更決定処分
によりそれぞれ一部取り消された後のもの)のうち,決定については総所得金
額(総合課税分)7億4253万1991円,納付すべき税額63万2500
円を超える部分,賦課決定については9万4500円を超える部分
-118-
((((別紙別紙別紙別紙3333))))
取消対象処分目録
1川口市長が平成20年12月3日付けで原告P1に対してした原告P1の平
成15年度分の市民税及び県民税に係る決定処分(ただし,平成25年3月1
4日付け市県民税変更決定処分によりそれぞれ一部取り消された後のもの)及
びその督促処分のうち,納付すべき税額383万8300円を超える部分
2川口市長が平成20年12月3日付けで原告P1に対してした原告P1の平
成16年度分の市民税及び県民税に係る決定処分(ただし,平成25年3月1
4日付け市県民税変更決定処分によりそれぞれ一部取り消された後のもの)及
びその督促処分のうち,納付すべき税額409万9200円を超える部分
3川口市長が平成20年12月3日付けで原告P1に対してした原告P1の平
成17年度分の市民税及び県民税に係る決定処分(ただし,平成25年3月1
4日付け市県民税変更決定処分によりそれぞれ一部取り消された後のもの)及
びその督促処分のうち,納付すべき税額742万2300円を超える部分
4川口市長が平成20年12月3日付けで原告P1に対してした原告P1の平
成17年度分の市民税及び県民税に係る決定処分(ただし,平成25年3月1
4日付け市県民税変更決定処分によりそれぞれ一部取り消された後のもの)及
びその督促処分のうち,納付すべき税額9683万1200円を超える部分
-119-
((((別紙別紙別紙別紙4444))))
関係法令の定め
第第第第1111所得税法所得税法所得税法所得税法((((平成平成平成平成18181818年法律第年法律第年法律第年法律第10101010号号号号によるによるによるによる改正前改正前改正前改正前のもののもののもののもの))))
1111居住者等居住者等居住者等居住者等のののの定義定義定義定義((((2条1項)
この法律において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるとこ
ろによる。
1・2号(略)
3号居住者国内に住所を有し,又は現在まで引き続いて1年以上居所を
有する個人をいう。
4号非永住者居住者のうち,国内に永住する意思がなく,かつ,現在ま
で引き続いて5年以下の期間国内に住所又は居所を有する個人をいう。
5非居住者居住者以外の個人をいう。
6号から48号まで(略)
2222納税義務者納税義務者納税義務者納税義務者((((5555条条条条))))
1項居住者は,この法律により,所得税を納める義務がある。
2項非居住者は,第161条(国内源泉所得)に規定する国内源泉所得(中
略)を有するときは,この法律により,所得税を納める義務がある。
3項・4項(略)
3333課税所得課税所得課税所得課税所得のののの範囲範囲範囲範囲((((7777条条条条1111項項項項))))
所得税は,次の各号に掲げる者の区分に応じ当該各号に定める所得について
課する。
1号非永住者以外の居住者すべての所得
2号非永住者第161条(国内源泉所得)に規定する国内源泉所得(以下
この条において「国内源泉所得」という。)及びこれ以外の所得で国内に
おいて支払われ,又は国外から送金されたもの
3号非居住者第百六十四条第一項各号(非居住者に対する課税の方法)に
-120-
掲げる非居住者の区分に応じそれぞれ同項各号及び同条第二項各号に掲
げる国内源泉所得
4号・5号(略)
4444譲渡所得譲渡所得譲渡所得譲渡所得のののの金額金額金額金額のののの計算上控除計算上控除計算上控除計算上控除するするするする取得費取得費取得費取得費((((38383838条条条条))))
1項譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は,別段の定めがあるも
のを除き,その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合
計額とする。
2項譲渡所得の基因となる資産が家屋その他使用又は期間の経過により減
価する資産である場合には,前項に規定する資産の取得費は,同項に規定
する合計額に相当する金額から,その取得の日から譲渡の日までの期間の
うち次の各号に掲げる期間の区分に応じ当該各号に掲げる金額の合計額
を控除した金額とする。
1号その資産が不動産所得,事業所得,山林所得又は雑所得を生ずべき業
務の用に供されていた期間第四十九条第一項(減価償却資産の償却費
の計算及びその償却の方法)の規定により当該期間内の日の属する各年
分の不動産所得の金額,事業所得の金額,山林所得の金額又は雑所得の
金額の計算上必要経費に算入されるその資産の償却費の額の累積額
2号前号に掲げる期間以外の期間第四十九条第一項の規定に準じて政令
で定めるところにより計算したその資産の当該期間に係る減価の額
5555確定所得申告確定所得申告確定所得申告確定所得申告((((120120120120条条条条1111項項項項))))
居住者は,その年分の総所得金額,退職所得金額及び山林所得金額の合計額
が第2章第4節(所得控除)の規定による雑損控除その他の控除の額の合計額
を超える場合において,当該総所得金額,退職所得金額又は山林所得金額から
これらの控除の額を第87条第2項(所得控除の順序)の規定に準じて控除し
た後の金額をそれぞれ課税総所得金額,課税退職所得金額又は課税山林所得金
額とみなして第89条(税率)の規定を適用して計算した場合の所得税の額の
-121-
合計額が配当控除の額を超えるときは,第123条第1項(確定損失申告)の
規定による申告書を提出する場合を除き,第3期(その年の翌年2月16日か
ら3月15日までの期間をいう。以下この節において同じ。)において,税務
署長に対し,次に掲げる事項を記載した申告書を提出しなければならない。
1号その年分の総所得金額,退職所得金額及び山林所得金額並びに第2章第
4節の規定による雑損控除その他の控除の額並びに課税総所得金額,課税
退職所得金額及び課税山林所得金額又は純損失の金額
2号第90条第1項(変動所得及び臨時所得の平均課税)の規定の適用を受
ける場合には,その年分の変動所得の金額及び臨時所得の金額並びに同条
第3項に規定する平均課税対象金額
3号第1号に掲げる課税総所得金額,課税退職所得金額及び課税山林所得金
額につき第3章(税額の計算)の規定を適用して計算した所得税の額
4号前号に掲げる所得税の額の計算上控除しきれなかつた外国税額控除の額
がある場合には,その控除しきれなかつた金額
5号第1号に掲げる総所得金額若しくは退職所得金額又は純損失の金額の計
算の基礎となつた各種所得につき源泉徴収をされた又はされるべき所得
税の額(当該所得税の額のうちに,第127条第1項から第3項まで(年
の中途で出国をする場合の確定申告)の規定による申告書を提出したこと
により,又は当該申告書に係る所得税につき更正若しくは決定を受けたこ
とにより還付される金額その他政令で定める金額がある場合には,当該金
額を控除した金額。以下この項において「源泉徴収税額」という。)があ
る場合には,第3号に掲げる所得税の額からその源泉徴収税額を控除した
金額
6号から11号まで(略)
6666国内源泉所得国内源泉所得国内源泉所得国内源泉所得((((161161161161条条条条))))
この編において「国内源泉所得」とは,次に掲げるものをいう。
-122-
1号国内において行う事業から生じ,又は国内にある資産の運用,保有若し
くは譲渡により生ずる所得(次号から第12号までに該当するものを除
く。)その他その源泉が国内にある所得として政令で定めるもの
2号から7号まで(略)
8号次に掲げる給与,報酬又は年金
イ俸給,給料,賃金,歳費,賞与又はこれらの性質を有する給与その他人
的役務の提供に対する報酬のうち,国内において行う勤務その他の人的役
務の提供(内国法人の役員として国外において行う勤務その他の政令で定
める人的役務の提供を含む。)に基因するもの
ロ・ハ(略)
9号から12号まで(略)
7777利子所得及利子所得及利子所得及利子所得及びびびび配当所得配当所得配当所得配当所得にににに係係係係るるるる源泉徴収義務源泉徴収義務源泉徴収義務源泉徴収義務((((181181181181条条条条1111項項項項))))
居住者に対し国内において第23条第1項(利子所得)に規定する利子等(以
下この章において「利子等」という。)又は第24条第1項(配当所得)に規
定する配当等(以下この章において「配当等」という。)の支払をする者は,
その支払の際,その利子等又は配当等について所得税を徴収し,その徴収の日
の属する月の翌月10日までに,これを国に納付しなければならない。
8888給与所得給与所得給与所得給与所得にににに係係係係るるるる源泉徴収義務源泉徴収義務源泉徴収義務源泉徴収義務((((183183183183条条条条1111項項項項))))
居住者に対し国内において第28条第1項(給与所得)に規定する給与等(以
下この章において「給与等」という。)の支払をする者は,その支払の際,そ
の給与等について所得税を徴収し,その徴収の日の属する月の翌月10日まで
に,これを国に納付しなければならない。
9999質問検査権質問検査権質問検査権質問検査権((((234234234234条条条条1111項項項項))))
国税庁,国税局又は税務署の当該職員は,所得税に関する調査について必要
があるときは,次に掲げる者に質問し,又はその者の事業に関する帳簿書類(そ
の作成又は保存に代えて電磁的記録(電子的方式,磁気的方式その他の人の知
-123-
覚によっては認識することができない方式で作られる記録であつて,電子計算
機による情報処理の用に供されるものをいう。)の作成又は保存がされている
場合における当該電磁的記録を含む。第242条第9号において同じ。)その
他の物件を検査することができる。
1号納税義務がある者,納税義務があると認められる者又は第123条第1
項(確定損失申告),第125条第3項(年の中途で死亡した場合の確定
申告)若しくは第127条第3項(年の中途で出国をする場合の確定申告)
(これらの規定を第166条(非居住者に対する準用)において準用する
場合を含む。)の規定による申告書を提出した者
2号第225条第1項(支払調書)に規定する調書又は第226条から第2
28条の2まで(源泉徴収票等)に規定する源泉徴収票,計算書若しくは
調書を提出する義務がある者
3号第1号に掲げる者に金銭若しくは物品の給付をする義務があったと認め
られる者若しくは当該義務があると認められる者又は同号に掲げる者か
ら金銭若しくは物品の給付を受ける権利があったと認められる者若しく
は当該権利があると認められる者
第第第第2222国税通則法国税通則法国税通則法国税通則法((((平成平成平成平成24242424年法律第年法律第年法律第年法律第16161616号号号号によるによるによるによる改正前改正前改正前改正前のもののもののもののもの))))
1111更正更正更正更正のののの請求請求請求請求((((23232323条条条条1111項項項項))))
1項納税申告書を提出した者は,次の各号の一に該当する場合には,当該申
告書に係る国税の法定申告期限から1年以内に限り,税務署長に対し,そ
の申告に係る課税標準等又は税額等(当該課税標準等又は税額等に関し次
条又は第26条(再更正)の規定による更正(以下この条において「更正」
という。)があった場合には,当該更正後の課税標準等又は税額等)につ
き更正をすべき旨の請求をすることができる。
1号当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関す
る法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったこと
-124-
により,当該申告書の提出により納付すべき税額(当該税額に関し更正が
あった場合には,当該更正後の税額)が過大であるとき。
2号・3号(略)
2222過少申告加算税過少申告加算税過少申告加算税過少申告加算税((((65656565条条条条4444項項項項))))
第1項又は第2項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のう
ちにその修正申告又は更正前の税額(還付金の額に相当する税額を含む。)の
計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められる
ものがある場合には,これらの項に規定する納付すべき税額からその正当な理
由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計
算した金額を控除して,これらの項の規定を適用する。
3333無申告加無申告加無申告加無申告加算税算税算税算税((((66666666条条条条1111項項項項))))
次の各号のいずれかに該当する場合には,当該納税者に対し,当該各号に規
定する申告,更正又は決定に基づき第35条第2項(期限後申告等による納付)
の規定により納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額
に相当する無申告加算税を課する。ただし,期限内申告書の提出がなかつたこ
とについて正当な理由があると認められる場合は,この限りでない。
1号期限後申告書の提出又は第25条(決定)の規定による決定があった場合
2号期限後申告書の提出又は第25条の規定による決定があった後に修正申告
書の提出又は更正があった場合
4444不納付加算税不納付加算税不納付加算税不納付加算税((((67676767条条条条1111項項項項))))
源泉徴収による国税がその法定納期限までに完納されなかった場合には,
税務署長は,当該納税者から,第36条第1項第2号(括弧内省略)の規定
による納税の告知に係る税額又はその法定納期限後に当該告知を受けるこ
となく納付された税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相
当する不納付加算税を徴収する。ただし,当該告知又は納付に係る国税を法
定納期限までに納付しなかったことについて正当な理由があると認められ
-125-
る場合は,この限りでない。
第第第第3333地方税法地方税法地方税法地方税法
1111書類書類書類書類のののの送達送達送達送達((((20202020条条条条))))
1項地方団体の徴収金の賦課徴収又は還付に関する書類は,郵便若しくは信
書便による送達又は交付送達により,その送達を受けるべき者の住所,居
所,事務所又は事業所に送達する。ただし,納税管理人があるときは,地
方団体の徴収金の賦課徴収(滞納処分を除く。)又は還付に関する書類に
ついては,その住所,居所,事務所又は事業所に送達する。
2項交付送達は,地方団体の職員が,前項の規定により送達すべき場所にお
いて,その送達を受けるべき者に書類を交付して行う。ただし,その者に
異議がないときは,その他の場所において交付することができる。
3項次の各号に掲げる場合には,交付送達は,前項の規定による交付に代え,
当該各号に掲げる行為により行うことができる。
1号送達すべき場所において書類の送達を受けるべき者に出会わない場合
その使用人その他の従業者又は同居の者で書類の受領について相当の
わきまえのあるものに書類を交付すること。
2号書類の送達を受けるべき者その他前号に規定する者が送達すべき場所
にいない場合又はこれらの者が正当な理由がなく書類の受取を拒んだ
場合送達すべき場所に書類を差し置くこと。
4項通常の取扱いによる郵便又は信書便によって第1項に規定する書類を発
送した場合には,この法律に特別の定めがある場合を除き,その郵便物又
は民間事業者による信書の送達に関する法律第2条第3項に規定する信
書便物(中略)は,通常到達すべきであった時に送達があったものと推定
する。
5項地方団体の長は,前項に規定する場合には,その書類の名称,その送達
を受けるべき者の氏名,あて先及び発送の年月日を確認するに足りる記録
-126-
を作成しておかなければならない。
2222道府県民税道府県民税道府県民税道府県民税のののの納税義務者等納税義務者等納税義務者等納税義務者等((((24242424条条条条1111項項項項))))
道府県民税は,第1号に掲げる者に対しては均等割額及び所得割額の合算額
によって,第3号に掲げる者に対しては均等割額及び法人税割額の合算額によ
って,第2号及び第4号に掲げる者に対しては均等割額によって,第4号の2
に掲げる者に対しては法人税割額によって,第5号に掲げる者に対しては利子
割額によって,第6号に掲げる者に対しては配当割額によって,第7号に掲げ
る者に対しては株式等譲渡所得割額によって課する。
1号道府県内に住所を有する個人
2号ないし7号(略)
3333個人個人個人個人のののの道府県民税道府県民税道府県民税道府県民税のののの賦課徴収賦課徴収賦課徴収賦課徴収((((41414141条条条条1111項項項項))))
個人の道府県民税の賦課徴収は,本款に特別の定めがある場合を除くほか,
当該道府県の区域内の市町村が,当該市町村の個人の市町村民税の賦課徴収
(均等割の税率の軽減を除く。)の例により,当該市町村の個人の市町村民税
の賦課徴収と併せて行うものとする。この場合において,第17条の4の規定
に基づく還付加算金,第321条第2項の規定に基づく納期前の納付に対する
報奨金,第321条の2,第326条,第328条の10若しくは第328条
の13の規定に基づく延滞金,第328条の11の規定に基づく過少申告加算
金若しくは不申告加算金又は第328条の12の規定に基づく重加算金の計
算については,道府県民税及び市町村民税の額の合算額によって当該各条の規
定を適用するものとする。
4444市町村民税市町村民税市町村民税市町村民税のののの納税義務者等納税義務者等納税義務者等納税義務者等((((294294294294条条条条))))
1項市町村民税は,第1号の者に対しては均等割額及び所得割額の合算額に
よって,第3号の者に対しては均等割額及び法人税割額の合算額によって,
第2号及び第4号の者に対しては均等割額によって,第5号の者に対して
は法人税割額によって課する。
-127-
1号市町村内に住所を有する個人
2号ないし5号(略)
2項前項第1号の市町村内に住所を有する個人とは,住民基本台帳法の適用
を受ける者については,当該市町村の住民基本台帳に記録されている者を
いう。
3項市町村は,当該市町村の住民基本台帳に記録されていない個人が当該市
町村内に住所を有する者である場合には,その者を当該住民基本台帳に記
録されている者とみなして,その者に市町村民税を課することができる。
この場合において,市町村長は,その者が他の市町村の住民基本台帳に記
録されていることを知つたときは,その旨を当該他の市町村の長に通知し
なければならない。
4項ないし9項(略)
-128-
((((別紙別紙別紙別紙5555))))
原告P1の日本での出入国の状況
日本からの出国年月日日本への入国年月日
1平成14年1月13日平成14年2月6日
2平成14年7月17日平成14年8月7日
3平成14年9月22日平成14年10月5日
4平成14年11月19日平成14年12月3日
5平成14年12月26日平成15年1月9日
6平成15年7月7日平成15年7月24日
7平成15年9月24日平成15年10月8日
8平成15年11月20日平成15年12月5日
9平成15年12月18日平成16年1月16日
10平成16年9月22日平成16年10月4日
11平成16年12月23日平成17年1月9日
12平成17年2月21日平成17年3月11日
13平成17年5月24日平成17年6月9日
14平成17年8月23日平成17年9月8日
15平成17年9月23日平成17年10月6日
16平成17年10月26日平成17年11月11日
17平成17年12月23日平成18年1月10日
18平成18年2月21日平成18年3月10日
-129-
((((別紙別紙別紙別紙6666))))
原告P1の国内外での滞在日数
日本での滞在日数国外での滞在日数
平成14年298日67日
平成15年297日68日
平成16年330日36日
平成17年269日96日
-130-
((((別紙別紙別紙別紙7777))))
原告P1の住民登録状況一覧
期間住所
1昭和53年11月26日から昭和59年8月23日まで川口市α×番地の1
2昭和59年8月24日から昭和60年3月15日までアメリカ合衆国
3昭和60年3月16日から平成15年3月19日まで川口市α×番地の1
4平成15年3月20日から平成16年12月22日まで川口市β×番11号
5平成16年12月23日から平成17年3月10日までアメリカ合衆国
6平成17年3月11日から同年12月22日まで川口市β×番11号
7平成17年12月23日から平成18年1月9日までアメリカ合衆国
8平成18年1月10日から同年12月22日まで川口市β×番11号
9平成18年12月23日から平成19年6月13日までアメリカ合衆国
10平成19年6月14日から同年12月24日まで川口市β×番11号
11平成19年12月25日から平成20年3月13日までアメリカ合衆国
12平成20年3月14日から同年12月20日まで川口市β×番11号
13平成20年12月21日から平成21年1月8日までアメリカ合衆国
14平成21年1月9日から川口市β×番11号
-131-
((((別紙別紙別紙別紙9999))))
本件各所得税課税処分の根拠及び適法性
第1本件各所得税決定処分及び本件更正処分の根拠及び適法性
1被告国が本件訴訟の中で主張する原告P1の本件各課税年分における所得
税の所得金額及び納付すべき税額は,以下のとおりである。
(1)平成14年分
ア配当所得の金額(別表1「減額更正4」欄の順号①)
232万5225円
上記金額は,原告P1が平成13年11月30日現在所有していた原告会
社の株式9万3009株に,1株当たり25円の利益配当を乗じて算出した
金額である。
イ給与所得の金額(別表1「減額更正4」欄の順号②)
5575万0181円
上記金額は,下記(ア)及び(イ)の各役員報酬の合計額6047万3875
円から,所得税法28条の規定に基づいて算出した金額である。
(ア)原告会社からの役員報酬3550万8000円
上記金額は,原告会社から原告P1に対する役員報酬の額である。
(イ)P2社からの役員報酬2496万5875円
上記金額は,P2社から原告P1に対する役員報酬19万9999米
国ドルに,平成14年中の各月末におけるTTMの平均額124.83
円/1米国ドルを乗じて算出した金額である。
ウ雑所得の金額(別表1「減額更正4」欄の順号③)71万7720円
上記金額は,下記(ア)から(イ)を控除した金額である。
(ア)雑所得の総収入金額237万8958円
上記金額は,P3に対する貸付金に係る受取利子の金額であり,P3
-132-
の平成14年4月期の法人税の確定申告書に添付の「借入金及び支払利
子の内訳書」に記載されている金額と同額でる。
(イ)雑所得の必要経費166万1238円
上記金額は,原告P1が上記(ア)の貸付を行うために,金融機関から
借り入れた金銭に対する支払利子の金額である。
エ総合短期譲渡所得の金額(別表1「減額更正4」欄の順号④)
256万1800円
上記金額は,下記(ア)から(イ)を控除した残額から,所得税法33条3項及
び4項の規定に基づき,譲渡所得の特別控除額50万円を控除した金額であ
る。
(ア)総合短期譲渡所得の総収入金額671万5800円
上記金額は,原告P1から,P3に対する平成14年譲渡オルゴール
等の譲渡のうち,本件基準充足明細書により,取得の日以後5年以内に
譲渡されたものであることが明らかである2台のオルゴール等の譲渡
に係る収入金額である。なお,この金額は,P3の平成16年4月期の
法人税の確定申告書に添付された「資産別固定資産減価償却内訳表」に
記載された「P30」の取得価額413万2800円及び「P31」の
取得価額258万3000円の合計額と同額である。
(イ)総合短期譲渡所得の取得費365万4000円
上記金額は,上記(ア)の本件基準充足オルゴール等2台の取得費であ
り,甲第138号証に記載された金額3万米国ドル(乙第2号証7枚目
の「P30」に対応する金額1万8000米国ドルと7枚目の「P31」
に対応する金額1万2000米国ドルの合計額)に,平成11年(19
99年)6月1日のTTM121.8円/1米国ドルを乗じて算出した
金額である。
オ総合長期譲渡所得の金額(別表1「減額更正4」欄の順号⑤)
-133-
1億6517万0576円
上記金額は,下記(ア)から(イ)を控除した金額である。
(ア)総合長期譲渡所得の総収入金額2億6023万7250円
上記金額は,原告P1から,P3に対する平成14年譲渡オルゴール
等(ただし,上記エ(ア)のオルゴール等を除く。)の譲渡に係る収入金
額である。
(イ)総合長期譲渡所得の取得費9506万6674円
上記金額は,平成14年譲渡オルゴール等(ただし,上記エ(ア)のオ
ルゴール等を除く。)の取得費とした金額であり,次のa及びbの合計
額である。
a平成14年譲渡オルゴール等(ただし,上記エ(ア)のオルゴール等
を除く。)のうち本件基準充足オルゴール等4台に係る取得費の合計

814万4075円
b平成14年譲渡オルゴール等のうち本件基準充足オルゴール等以
外81台に係る取得費の合計額
8692万2599円
上記金額は,平成14年譲渡オルゴール等のうち本件基準充足オル
ゴール等以外のものに係る譲渡価額の合計額2億3505万300
0円に本件基準充足オルゴール等取得費割合36.98パーセントを
乗じて算出した金額である。
カ総所得金額(別表1「減額更正4」欄の順号⑥)
1億4394万0214円
上記金額は,所得税法22条の規定に基づき,上記アないし上記エの金額
及び上記オの2分の1に相当する金額(8258万5288円)を合計した
ものである。
-134-
キ所得控除の合計額(別表1「減額更正4」欄の順号⑪)
332万2600円
上記金額は,下記(ア)ないし(エ)の金額の合計額である。
(ア)社会保険料控除の金額(別表1「減額更正4」欄の順号⑦)
29万2600円
上記金額は,原告P1が平成14年中に納付した同人及び妻P5に係
る国民年金保険料の合計額である。
(イ)配偶者控除の金額(別表1「減額更正4」欄の順号⑧)38万円
(ウ)扶養控除の金額(別表1「減額更正4」欄の順号⑨)227万円
上記金額は,原告P1の長男,次男,長女及び次女に係る扶養控除の
合計額である。なお,長男,次男及び長女は特定扶養親族に該当するこ
とから各63万円を,次女については一般扶養親族に該当することから
38万円を控除している。
(エ)基礎控除の金額(別表1「減額更正4」欄の順号⑩)38万円
ク課税総所得金額(別表1「減額更正4」欄の順号⑫)
1億4061万7000円
上記金額は,所得税法89条2項の規定に基づき,上記カの金額から上
記キの金額を控除した後の金額である(ただし,国税通則法118条1項
の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの。)。
ケ算出所得税額(別表1「減額更正4」欄の順号⑬)
4953万8290円
上記金額は,上記クの金額に,所得税法89条1項(平成18年法律第
10号による改正前のもの。以下同じ。)及び旧負担軽減法4条に規定す
る税率を乗じて算出した金額である。
コ配当控除(別表1「減額更正4」欄の順号⑭)11万6262円
上記金額は,上記アの配当所得の金額に所得税法92条1項の規定を適
-135-
用して算出した金額である。
サ差引所得税額(別表1「減額更正4」欄の順号⑮)
4942万2028円
上記金額は,上記ケの金額から上記コの金額を差し引いた金額である。
シ定率減税額(別表1「減額更正4」欄の順号⑯)25万円
上記金額は,旧負担軽減法6条の規定により算出した金額である。
ス源泉徴収税額(別表1「減額更正4」欄の順号⑰)
1286万0445円
上記金額は,下記(ア)及び(イ)の金額の合計額である。
(ア)原告会社からの配当所得に係る源泉徴収税額46万5045円
上記金額は,上記アの配当所得に係る源泉徴収税額である。
(イ)原告会社からの給与所得に係る源泉徴収税額
1239万5400円
上記金額は,上記イ(ア)の役員報酬に係る源泉徴収税額である。
セ納付すべき税額(別表1「減額更正4」欄の順号⑱)
3631万1500円
上記金額は,上記サの金額から上記シ及びスの金額の合計額を控除した
金額である(ただし,国税通則法119条1項の規定により100円未満
の端数を切り捨てた後のもの。)。
(2)平成15年分
ア配当所得の金額(別表2「減額更正4」欄の順号①)
232万5225円
上記金額は,原告P1が平成14年11月30日現在所有していた原告
会社の株式9万3009株に,1株当たり25円の利益配当を乗じて算出
した金額である。
-136-
イ給与所得の金額(別表2「減額更正4」欄の順号②)
5270万1867円
上記金額は,下記(ア)及び(イ)の各役員報酬の合計額5726万5124
円から,所得税法28条の規定に基づいて算出した金額である。
(ア)原告会社からの役員報酬3550万8000円
上記金額は,原告会社から原告P1に対する役員報酬の額であり,原
告P1が,平成15年分確定申告書に添付した平成15年分給与所得の
源泉徴収票の「支払金額」欄に記載された金額と同額である。
(イ)P2社からの役員報酬2175万7124円
上記金額は,P2社から原告P1に対する役員報酬18万7999米
国ドルに,平成15年中の各月末におけるTTMの平均額115.73
円/1米国ドルを乗じて算出した金額である。
ウ雑所得の金額(別表2「減額更正4」欄の順号③)
155万8570円
上記金額は,下記(ア)から(イ)を控除した金額である。
(ア)雑所得の総収入金額388万1587円
上記金額は,P3に対する貸付金に係る受取利子の金額であり,P3
の平成15年4月期の法人税の確定申告書に添付の「借入金及び支払利
子の内訳書」に記載されている金額と同額である。
(イ)雑所得の必要経費232万3017円
上記金額は,原告P1が上記(ア)の貸付を行うために,金融機関から
借り入れた金銭に対する支払利子の金額である。
エ総合長期譲渡所得の金額(別表2「減額更正4」欄の順号④)
2606万2930円
上記金額は,下記(ア)から(イ)を控除した残額から,所得税法33条3項
及び4項の規定に基づき,譲渡所得の特別控除額50万円を控除した金額
-137-
である。
(ア)総合長期譲渡所得の総収入金額4215万円
上記金額は,原告P1から,P3に対する平成15年譲渡オルゴール
等43台の譲渡に係る収入金額であり,P3の平成16年4月期の法人
税の確定申告書に添付された「資産別固定資産減価償却内訳表」に記載
された平成15年譲渡オルゴール等の取得価額の合計と同額である。
(イ)総合長期譲渡所得の取得費1558万7070円
上記金額は,平成15年譲渡オルゴール等43台の取得費とした金額
であり,上記(ア)の金額4215万円に本件基準充足オルゴール等取得
費割合36.98パーセントを乗じて算出した金額である。
オ一時所得の金額(別表2「減額更正4」欄の順号⑤)
171万6861円
上記金額は,原告P1の平成15年分の一時所得の金額であり,原告P1
が平成15年分確定申告書に記載した金額と同額である。
カ総所得金額(別表2「減額更正4」欄の順号⑥)
7047万5557円
上記金額は,所得税法22条の規定に基づいて,上記アないしウの金額
並びに上記エ及びオの合計額の2分の1に相当する金額(1388万98
95円)を合計したものである。
キ分離長期譲渡所得の金額(別表2「減額更正4」欄の順号⑦)0円
上記金額は,原告P1の平成15年分の分離長期譲渡所得の金額であり,
原告P1が平成15年分確定申告書に記載した金額と同額である。
ク所得控除の合計額(別表2「減額更正4」欄の順号⑪)
296万9200円
上記金額は,下記(ア)ないし(ウ)の金額の合計額であり,原告P1が平成
15年分確定申告書に記載した金額と同額である。
-138-
(ア)社会保険料の金額(別表2「減額更正4」欄の順号⑧)
31万9200円
上記金額は,原告P1が平成15年分確定申告書に記載した金額と同
額である。
(イ)扶養控除の金額(別表2「減額更正4」欄の順号⑨)227万円
上記金額は,原告P1の長男,次男,長女及び次女に係る扶養控除の
合計額であり,原告P1が平成15年分確定申告書に記載した金額と同
額である。
なお,長男,次男及び長女は特定扶養親族に該当することから各63
万円を,次女については一般扶養親族に該当することから38万円を控
除している。
(ウ)基礎控除の金額(別表2「減額更正4」欄の順号⑩)38万円
ケ課税総所得金額(別表2「減額更正4」欄の順号⑫)
6750万6000円
上記金額は,所得税法89条2項の規定に基づき,上記カの金額から上
記クの金額を控除した後の金額である(ただし,国税通則法118条1項
の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの。)。
コ課税分離長期譲渡所得金額(別表2「減額更正4」欄の順号⑬)0円
上記金額は,上記キの金額と同額である。
サ算出所得税額(別表2「減額更正4」欄の順号⑭)
2248万7220円
上記金額は,上記ケの金額に,所得税法89条1項及び負担軽減法4条
に規定する税率を乗じて算出した金額である。
シ配当控除(別表2「減額更正4」欄の順号⑮)11万6262円
上記金額は,上記アの配当所得の金額に,所得税法92条1項の規定を
適用して算出した金額である。
-139-
ス差引所得税額(別表2「減額更正」4欄の順号⑯)
2237万0958円
上記金額は,上記サの金額から上記シの金額を差し引いた金額である。
セ定率減税額(別表2「減額更正4」欄の順号⑰)25万円
上記金額は,旧負担軽減法6条の規定により算出した金額である。
ソ源泉徴収税額(別表2「減額更正4」欄の順号⑱)
873万3525円
上記金額は,下記(ア)及び(イ)の金額の合計額である。
(ア)原告会社からの配当所得に係る源泉徴収税額46万5045円
上記金額は,上記アの配当所得に対する源泉徴収税額である。
(イ)原告会社からの給与所得に係る源泉徴収税額
826万8480円
上記金額は,上記イ(ア)の役員報酬に係る源泉徴収税額である。
タ納付すべき税額(別表2「減額更正4」欄の順号⑲)
1338万7400円
上記金額は,上記スの金額から上記セ及びソの金額の合計額を控除した
金額である(ただし,国税通則法119条1項の規定により100円未満
の端数を切り捨てた後のもの。)。
(3)平成16年分
ア配当所得の金額(別表3「減額更正4」欄の順号①)
232万5250円
上記金額は,原告P1が平成15年11月30日現在所有していた原告
会社の株式93万0100株(なお,原告会社は,平成15年1月28日
付けで,同社の普通株式1株を普通株式10株にする株式分割を実施して
いる。)に,1株当たり2.5円の利益配当を乗じて算出した金額である。
-140-
イ給与所得の金額(別表3「減額更正4」欄の順号②)
8062万5108円
上記金額は,下記(ア)及び(イ)の各役員報酬の合計額8665万8009
円から,所得税法28条の規定に基づいて算出した金額である。
(ア)原告会社からの役員報酬6513万9111円
上記金額は,原告会社から原告P1に対する役員報酬の額である。
(イ)P2社からの役員報酬2151万8898円
上記金額は,P2社から原告P1に対する役員報酬19万9120米
国ドルに,平成16年中の各月末におけるTTMの平均額108.07
円/1米国ドルを乗じて算出した金額である。
ウ雑所得の金額(別表3「減額更正4」欄の順号③)0円
上記金額を算出するためには,下記(ア)から(イ)を控除することとなるが,
雑所得の計算上生じた損失については,他の各種所得の金額と損益通算す
ることができないことから(所得税法69条1項),上記雑所得の金額は
0円となる。
(ア)雑所得の総収入金額401万0014円
上記金額は,P3に対する貸付金に係る受取利子の金額であり,P3
の平成16年4月期の法人税の確定申告書に添付の「借入金及び支払利
子の内訳書」(乙第2号証13枚目)に記載されている金額と同額であ
る。
(イ)雑所得の必要経費416万8210円
上記金額は,原告P1が上記(ア)の貸付を行うために,金融機関から
借り入れた金銭に対する支払利子の金額である。
エ総所得金額(別表3「減額更正4」欄の順号④)
8295万0358円
上記金額は,所得税法22条の規定に基づき,上記アないし上記ウの金
-141-
額を合計したものである。
オ所得控除の合計額(別表3「減額更正4」欄の順号⑨)
318万9600円
上記金額は,下記(ア)ないし(エ)の金額の合計額である。
(ア)社会保険料控除の金額(別表3「減額更正4」欄の順号⑤)
15万9600円
上記金額は,原告P1が平成16年中に納付した原告P1に係る国民
年金保険料の金額である。
(イ)配偶者控除の金額(別表3「減額更正4」欄の順号⑥)38万円
(ウ)扶養控除の金額(別表3「減額更正4」欄の順号⑦)227万円
上記金額は,原告P1の長男,次男,長女及び次女に係る扶養控除の
金額の合計額である。
なお,長男,次男及び長女は特定扶養親族に該当することから各63
万円を,次女については一般扶養親族に該当することから38万円を控
除している。
(エ)基礎控除の金額(別表3「減額更正4」欄の順号⑧)38万円
カ課税総所得金額(別表3「減額更正4」欄の順号⑩)
7976万円
上記金額は,所得税法89条2項の規定に基づき,上記エの金額から上
記オの金額を控除した金額である(ただし,国税通則法118条1項の規
定により1000円未満の端数を切り捨てた後のもの。)。
キ算出所得税額(別表3「減額更正4」欄の順号⑪)
2702万1200円
上記金額は,上記カの金額に,所得税法89条1項及び旧負担軽減法4
条に規定する税率を乗じて算出した金額である。
ク配当控除(別表3「減額更正4」欄の順号⑫)11万6263円
-142-
上記金額は,上記アの配当所得の金額に,所得税法92条1項の規定を
適用して算出した金額である。
ケ差引所得税額(別表3「減額更正4」欄の順号⑬)
2690万4937円
上記金額は,上記キの金額から上記クの金額を差し引いた金額である。
コ定率減税額(別表3「減額更正4」欄の順号⑭)25万円
上記金額は,旧負担軽減法6条の規定により算出した金額である。
サ源泉徴収税額(別表3「減額更正4」欄の順号⑮)
2323万1338円
上記金額は,下記(ア)及び(イ)の金額の合計額である。
(ア)原告会社からの配当所得に係る源泉徴収税額46万5050円
上記金額は,上記アの配当所得に対する源泉徴収税額である。
(イ)原告会社からの給与所得に係る源泉徴収税額
2276万6288円
上記金額は,上記イ(ア)の役員報酬に係る源泉徴収税額である。
シ納付すべき税額(別表3「減額更正4」欄の順号⑯)
342万3500円
上記金額は,上記ケの金額から上記コ及びサの金額の合計額を控除した
金額である(ただし,国税通則法119条1項の規定により100円未満
を切り捨てた後のもの。)。
(4)平成17年分
ア配当所得の金額(別表4「減額更正4」欄の順号[1])
232万5250円
上記金額は,原告P1が平成16年11月30日現在所有していた原告
会社の株式93万0100株に,1株当たり2.5円の利益配当を乗じて
-143-
算出した金額である。
イ給与所得の金額(別表4「減額更正4」欄の順号[2])
7億5927万1899円
上記金額は,下記(ア)及び(イ)の各役員報酬の合計額9572万3052
円と(ウ)の金額7億0530万円との合計額8億0102万3052円か
ら,所得税法28条の規定に基づいて算出した金額である。
(ア)原告会社からの役員報酬7402万8000円
上記金額は,原告会社から原告P1に対する役員報酬の額である。
(イ)P2社からの役員報酬2169万5052円
上記金額は,P2社から原告P1に対する役員報酬19万5539米
国ドルに,平成17年中の各月末におけるTTMの平均額110.95
円/1米国ドルを乗じて算出した金額である。
(ウ)新株予約権の行使に係る給与収入金額7億0530万円
上記金額は,原告P1が原告会社から付与されたストックオプション
の権利を行使したことにより得た経済的利益の価額であり(所得税法3
6条,所得税法施行令84条3号),当該権利の行使により取得した株
式のその行使の日における価額(証券取引法122条の規定により公表
された最終の価格2790円)から,当該新株予約権の行使に係る新株
の発行価額439円を控除した金額2351円に権利行使した株式数
30万株を乗じた金額(平成18年課個2-18ほか2課共同による改
正前の所得税基本通達23~35共-6,6の2及び9参照)である。
ウ雑所得の金額(別表4「減額更正4」欄の順号[3])154万5141

上記金額は,下記(ア)から(イ)を控除した金額である。
(ア)雑所得の総収入金額494万8820円
上記金額は,P3に対する貸付金に係る受取利子の金額であり,P3の
-144-
平成17年4月期の法人税の確定申告書に添付の「借入金及び支払利子の
内訳書」に記載されている金額と同額である。
(イ)雑所得の必要経費340万3679円
上記金額は,原告P1が上記(ア)の貸付を行うために,金融機関から借
り入れた金銭に対する支払利子の金額である。
エ総所得金額(別表4「減額更正4」欄の順号[4])
7億6314万2290円
上記金額は,所得税法22条2項の規定に基づき,上記アないしウの金額
を合計したものである。
オ分離長期譲渡所得(別表4「減額更正4」欄の順号[5])
879万7990円
上記金額は,下記(ア)の金額及び(イ)の金額の合計額であり,①本件A土
地の譲渡に係る譲渡所得の金額,②本件B土地の譲渡に係る譲渡所得の金
額の合計額である。
(ア)本件A土地に係る分離長期譲渡所得80万6981円
上記金額は,下記aの金額からbの金額を控除した金額である。
a本件A土地の譲渡価額1234万9696円
上記金額は,原告P1が平成17年9月14日付けで,訴外株式会社
P15に譲渡した本件A土地の売買契約書に記載された土地売買代金
総額1233万1000円と,同土地に係る未経過固定資産税として原
告P1が受領した1万8696円の合計額である。
b本件A土地の取得費1154万2715円
上記金額は,下記の金額(a)及び(b)の金額の合計額である。
(a)本件A53土地の取得価額1088万2055円
上記金額は,下記ⅰの金額からⅱの金額を控除した金額である。
ⅰ本件A土地付建物契約書に記載された金額1630万円
-145-
上記金額は,本件A53土地並びに本件A建物及び本件A建物に
係る設備等を売買の目的物とする本件A53土地等売買契約書に
記載されている金額である。
ⅱ本件A建物の標準的な建築価額541万7945円
上記金額は,「建物の標準的な建築価額表」(「建築統計年報(国
土交通省)」の「構造別:建築物の数,床面積の合計,工事費予定
額」表を基に,1平方メートル当たりの工事費予定価額(工事費予
定額を床面積の合計で除したもの。))の「建築年『昭和53年』・
構造『木造・木骨モルタル』」欄の7万7900円に,本件A建物
の延べ床面積69.55平方メートルを乗じて算出した金額である。
(b)本件A55土地の取得価額66万0660円
上記金額は,本件A55土地の面積1.65165坪に,本件A5
5土地の取得時の1坪当たりの単価である40万円を乗じて算出し
た金額である。
(イ)本件B土地に係る分離長期譲渡所得799万1009円
上記金額は,下記aの金額からbの金額を控除した金額である。
a本件B土地の譲渡価額3243万3009円
上記金額は,本件B土地の譲渡価額であり,本件B土地及び本件C土
地の不動産売買契約書に記載された売買代金総額4051万6000
円と,上記各土地に係る未経過固定資産税等として原告P1が受領した
3万0558円の合計額4054万6558円に,本件B土地及び本件
C土地の面積の合計191.35平方メートルに占める,本件B土地の
面積153.06平方メートルの割合を乗じて算出した金額である。
b本件B土地の取得費2444万2000円
上記金額は,本件B土地の面積61.105坪に,本件B土地の取得
時の1坪当たりの単価である40万円を乗じて算出した金額である。
-146-
カ分離短期譲渡所得(別表4「減額更正4」欄の順号[6])
585万4439円
上記金額は,下記(ア)の金額から(イ)の金額を控除した金額であり,本件C
土地の譲渡に係る譲渡所得の金額である。
(ア)譲渡価額811万3549円
上記金額は,本件C土地の譲渡価額であり,上記オ(イ)aで述べた本件
B土地及び本件C土地の譲渡価額の合計額4054万6558円に,本件
B土地及び本件C土地の面積の合計191.35平方メートルに占める,
本件C土地の面積38.29平方メートルの割合を乗じて算出した金額で
ある。
(イ)取得費225万9110円
上記金額は,原告P1が平成15年2月5日付けで本件C土地を取得
した際に支払った金額である。
キ所得控除の合計額(別表4「減額更正4」欄の順号[11])
304万3300円
上記金額は,下記(ア)ないし(エ)の金額の合計額である。
(ア)社会保険料控除の金額(別表4「減額更正4」欄の順号[7])
1万3300円
上記金額は,原告P1が平成17年中に納付した原告P1に係る国民年
金保険料の金額である。
(イ)配偶者控除の金額(別表4「減額更正4」欄の順号[8])38万円
(ウ)扶養控除の金額(別表4「減額更正4」欄の順号[9])227万円
上記金額は,原告P1の長男,次男,長女及び次女に係る扶養控除の金
額の合計額である。
なお,次男,長女及び次女は特定扶養親族に該当することから各63万
円を,長男については一般扶養親族に該当することから38万円を控除し
-147-
ている。
(エ)基礎控除の金額(別表4「減額更正4」欄の順号[10])38万円
ク課税総所得金額(別表4「減額更正4」欄の順号[12])
7億6009万8000円
上記金額は,所得税法89条2項の規定に基づき,前記エの金額から前記
キの金額を控除した金額である(ただし,国税通則法118条1項の規定に
より1000円未満の端数を切り捨てた後のもの。)。
ケ課税分離長期譲渡所得金額(別表4「減額更正4」欄の順号[13])
879万7000円
上記金額は,前記オの分離長期譲渡所得の金額である(ただし,国税通則
法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のも
の。)。
コ課税分離短期譲渡所得金額(別表4「減額更正4」欄の順号[14])
585万4000円
上記金額は,前記カの分離短期譲渡所得の金額である(ただし,国税通則
法118条1項の規定により1000円未満の端数を切り捨てた後のも
の。)。
サ算出所得税額(別表4「減額更正4」欄の順号[18])
2億8182万2010円
上記金額は,下記(ア)ないし(ウ)の金額の合計額である。
(ア)課税総所得金額に対する税額(別表1「減額更正4」欄の順号⑮)
2億7874万6260円
上記金額は,前記クの金額に,所得税法89条1項及び旧負担軽減法4
条に規定する税率を乗じて算出した金額である。
(イ)課税分離長期譲渡所得金額に対する税額(別表4「減額更正4」欄の順
号[16])131万9550円
-148-
上記金額は,前記ケの金額に,措置法31条1項に規定する税率を適用
して算出した金額である。
(ウ)課税分離短期譲渡所得金額に対する税額(別表4「減額更正4」欄の順
号[17])175万6200円
上記金額は,前記コの金額に,措置法32条1項に規定する税率を適用
して算出した金額である。
シ配当控除(別表4「減額更正4」欄の順号[19])11万6263円
上記金額は,前記アの配当所得の金額に所得税法92条1項の規定を適用
して算出した金額である。
ス差引所得税額(別表4「減額更正4」の順号[20])
2億8170万5747円
上記金額は,前記サの金額から上記シの金額を差し引いた金額である。
セ定率減税額(別表1「減額更正4」の順号[21])25万円
上記金額は,旧負担軽減法6条の規定により算出した金額である。
ソ源泉徴収税額(別表4「減額更正4」の順号[22])
2億7319万7450円
上記金額は,下記(ア)ないし(ウ)の金額の合計額である。
(ア)原告会社からの配当所得に係る源泉徴収税額46万5050円
上記金額は,前記アの配当所得に対する源泉徴収税額である。
(イ)原告会社からの給与所得に係る源泉徴収税額
2587万7400円
上記金額は,前記イ(ア)の役員報酬に係る源泉徴収税額である。
(ウ)原告会社から付与された新株予約権の行使による経済的利益に係る給
与所得の源泉徴収税額2億4685万5000円
上記金額は,前記イ(ウ)の給与収入に対する源泉徴収税額である。
タ納付すべき税額(別表4「減額更正4」の順号[23])
-149-
825万8200円
上記金額は,前記スの金額から上記セ及びソの金額の合計額を控除した金
額である(ただし,国税通則法119条1項の規定により100円未満の端
数を切り捨てた後のもの。)
2本件各所得税決定処分及び本件更正処分の適法性
原告P1の本件各課税年分における納付すべき税額は,それぞれ,上記1の
とおりであるところ,平成14年分,平成16年分及び平成17年分所得税に
係る本件各所得税決定処分(本件第4減額更正処分等によりそれぞれ一部取り
消された後のもの。別表1,3及び4の各「減額更正4」欄参照)及び平成1
5年分の所得税の本件更正処分(本件第4減額更正処分等により一部取り消さ
れた後のもの。別表2「減額更正4」欄参照)の額と同額であるから,本件各
決定処分及び本件更正処分はいずれも適法である。
第2本件各加算税賦課決定処分の根拠及び適法性
1本件各所得税決定処分に係る無申告加算税の賦課決定処分の根拠
前記第1のとおり,本件各所得税決定処分はいずれも適法であるところ,原
告P1は,平成14年分,平成16年分及び平成17年分の所得税の確定申告
を期限内にしていなかったものであり,当該期限内の提出ができなかったこと
について,国税通則法66条1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認
められない。
したがって,本件各所得税決定処分に伴って課されるべき無申告加算税の額
はそれぞれ次のとおりとなる。
(1)平成14年分(別表1「減額更正4」欄の順号⑲)544万6500円
上記金額は,国税通則法66条1項に基づき,平成14年分の所得税の決
定処分によって原告P1が納付すべき税額3631万円(別表1「減額更正
-150-
4」欄の順号⑱参照。ただし,同法118条3項の規定により1万円未満の
端数を切り捨てた後のもの。)に100分の15の割合を乗じて算出した金
額である。
(2)平成16年分(別表3「減額更正4」欄の順号⑰)51万3000円
上記金額は,国税通則法66条1項に基づき,平成16年分の所得税の決
定処分によって原告P1が納付すべき税額342万円(別表3「減額更正4」
欄の順号⑯参照。ただし,同法118条3項の規定により1万円未満の端数
を切り捨てた後のもの。)に100分の15の割合を乗じて算出した金額で
ある。
(3)平成17年分(別表4「減額更正4」欄の順号[24])123万750
0円
上記金額は,国税通則法66条1項に基づき,平成17年分の所得税の決
定処分によって原告P1が納付すべき税額825万円(別表4「減額更正4」
欄の順号[23]参照。ただし,同法118条3項の規定により1万円未満の
端数を切り捨てた後のもの。)に100分の15の割合を乗じて算出した金
額である。
2本件更正処分に係る過少申告加算税の賦課決定処分の根拠
前記第1のとおり,本件更正処分は適法であるところ,原告P1は平成15
年分の所得税について,納付すべき税額を過少に申告していたものであり,納
付すべき税額を過少に申告していたことについて,国税通則法65条4項に規
定する正当な理由があるとは認められない。
したがって,原告P1に課されるべき過少申告加算税の額は,国税通則法6
5条1項に基づき,本件更正処分により新たに納付すべきこととなった税額1
332万円(別表2「減額更正4」欄の順号⑲の金額1338万7400円か
ら,同表「確定申告」欄の順号⑲の金額6万2200円を差し引いたもの。た
だし,同法118条3項の規定により1万円未満の端数を切り捨てた後のも
-151-
の。)に100分の10の割合を乗じて算出した金額133万2000円と,
同法65条2項の規定に基づき,本件更正処分により新たに納付すべきことと
なった税額のうち期限内申告税額879万5725円(別表2「減額更正4」
欄の順号⑱の金額873万3525円と,同表「確定申告」欄の順号⑲の金額
6万2200円を加えたもの。)と50万円のいずれか多い金額を超える部分
の税額452万円(ただし,国税通則法118条3項の規定により1万円未満
の端数を切り捨てた後のもの。)に100分の5を乗じて算出した金額22万
6000円との合計額である155万8000円(別表2「減額更正4」欄の
順号⑳)となる。
3本件各加算税賦課決定処分の適法性
前記1及び2で述べたとおり,原告P1に課されるべき所得税の無申告加算
税の額は,それぞれ,平成14年分が544万6500円,平成16年分が5
1万3000円,平成17年分が123万7500円であり,また,同人に課
されるべき平成15年分の所得税の過少申告加算税の額は155万8000
円であるところ,本件各加算税賦課決定処分の額(いずれも本件第4減額更正
処分等により一部取り消された後のもの)と同額であるから,本件各加算税賦
課決定処分は適法である。
-152-
((((別紙別紙別紙別紙10101010))))
本件各源泉所得税課税処分の根拠及び適法性
第1本件納税告知処分について
1根拠について
原告会社は,代表取締役である原告P1に対して,平成14年ないし同18年
において,役員報酬,配当金,原告会社がP10に上場した際の上場祝い金及び
ストックオプションの行使による経済的利益の支払等をしているところ,本件係
争月分の支払等については,原告P1が日本の非居住者であるとして,所得税
法212条に基づき,源泉所得税の徴収及び納付をしていた(別表6「既納付の
源泉所得税額(B)」欄)。
しかしながら,原告P1は,日本の居住者に該当することから,すべての所得
について所得税が課され(所得税法5条1項,7条1項1号),原告会社は,本
件係争月分における役員報酬等の支払について,その支払の際,所得税法の各
規定に基づき計算した金額を源泉徴収し,各徴収の日の属する月の翌月10日ま
でにこれを国に納付すべき義務を負っていた(所得税法6条,181条1項,1
82条2号,183条1項,185条,186条及び旧負担軽減法11条)。し
たがって,原告会社が,上記役員報酬等について,正当に徴収及び納付すべき本
件係争月分の源泉所得税の額は,別表6「源泉徴収すべき所得税額(A)」欄の
とおりとなる。
ところが,原告会社は,その法定納期限までに別表6「新たに納付すべき源
泉所得税額(A)-(B)」欄に記載の各金額を納付しなかったことから,西
川口税務署長は本件納税告知処分(平成21年10月30日付け一部取消し及
び平成24年11月15日付け一部取消し後のもの。以下同じ。)を行ったも
のである。
2適法性について
-153-
被告国が本件訴えで主張する,原告会社が新たに納付すべきこととなる本件
係争月分の源泉所得税の額は,別表6「新たに納付すべき源泉所得税額(A)
-(B)」欄のとおりであり,これらは本件納税告知処分に係る納付すべき税
(別表6「本件納税告知処分」欄記載の金額)と同額であるから,本件納税告
知処分は適法である。
第2原告会社に対する賦課決定処分について
1根拠について
第1の2のとおり,本件納税告知処分はいずれも適法であるところ,原告会
社は本件係争月分の源泉所得税をその法定納期限(所得税法183条1項)ま
でに完納しなかったものであり,これについて,国税通則法67条1項ただし
書に規定する正当な理由があるとは認められない。
したがって,原告会社が納付すべき不納付加算税の額は,国税通則法67条
2項の規定に基づき,原告会社が平成18年3月10日付けで自主的に納付し
た本件ストックオプションの権利行使に係る源泉所得税1億2173万円(た
だし,国税通則法118条3項の規定に基づき1万円未満の端数を切り捨てた
後のもの。)に,100分の5の割合を乗じて算出した金額と国税通則法67
条1項の規定に基づき,新たに納付すべき源泉所得税額(別表6「新たに納付
すべき源泉所得税額(A)-(B)」欄参照。ただし,国税通則法118条3
項の規定に基づき1万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に,100分の
10の割合を乗じて算出した金額の合計額(別表6「不納付加算税の額」欄)
である。
2適法性について
被告国が本件訴えで主張する,原告会社が納付すべき不納付加算税の額は,
別表6「不納付加算税の額」欄のとおりであり,これらは,原告会社に対して
された賦課決定処分(平成21年10月30日付け一部取消し及び平成24年
-154-
11月15日付け一部取消し後のもの。以下同じ。)における不納付加算税(別
表6「原告会社賦課決定処分」欄記載の金額)と同額であるから,本件原告会
社賦課決定処分は適法である。

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