弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原告らの訴えをいずれも却下する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求5
1原告らの請求
⑴石垣市長が,石垣市平得大俣地域への陸上自衛隊配備計画の賛否を問う
住民投票を実施しないことが違法であることを確認する。
⑵石垣市長は,石垣市平得大俣地域への陸上自衛隊配備計画の賛否を問う
住民投票を実施せよ。10
2原告A1の予備的請求
石垣市長は,石垣市平得大俣地域への陸上自衛隊配備計画の賛否を問う住
民投票を実施せよ。
第2事案の概要
1事案の要旨15
本件は,石垣市民らが,石垣市長に対し,平成30年12月20日,石垣市
自治基本条例28条1項所定の同市の有権者の4分の1以上の連署をもって,
石垣市平得大俣地域への陸上自衛隊配備計画(以下「本件配備計画」という。)
の賛否を問う住民投票(以下「本件住民投票」という。)の実施を請求した(以
下「本件実施請求」という。)にもかかわらず,石垣市長が本件住民投票を実20
施しないのは同条4項に違反して違法であるとして,石垣市長の属する被告
石垣市に対し,①本件実施請求の代表者27名の全員及び本件実施請求に連
署した者のうち3名である原告らが,本件実施請求は石垣市長において諾否
の応答をすべき行政事件訴訟法上の「申請」に当たることを前提に,同法37
条及び同法37条の3に基づき,石垣市長が相当の期間内に本件実施請求に25
応答しない不作為が違法であることの確認及び本件住民投票の実施のいわゆ
る申請型義務付けを求める(以下,便宜「主位的請求」という。)とともに,
②原告A1においては,予備的に,仮に本件実施請求が「申請」に当たらない
としても,本件住民投票が実施されないことにより重大な損害を生ずるおそ
れがあり,かつ,その損害を避けるため他に適当な方法がないとして,同法3
7条の2に基づき,本件住民投票の実施のいわゆる非申請型義務付けを求め5
る(以下,単に「予備的請求」という。)事案である。
2関連法令の定め
⑴行政事件訴訟法
(抗告訴訟)
第3条〔略〕10
2~5〔略〕
6この法律において「義務付けの訴え」とは,次に掲げる場合におい
て,行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟
をいう。
一行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされない15
とき(次号に掲げる場合を除く。)。
二行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請
又は審査請求がされた場合において,当該行政庁がその処分又は裁
決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。
⑵地方自治法20
第74条普通地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を有する者〔中
略〕は,政令で定めるところにより,その総数の50分の1以上の者の
連署をもって,その代表者から,普通地方公共団体の長に対し,条例
〔中略〕の制定又は改廃の請求をすることができる。
2~9〔略〕25
⑶石垣市自治基本条例(平成21年石垣市条例第23号。以下「本件自治基
本条例」という。甲1)
(目的)
第1条この条例は,石垣市における自治の基本理念と基本原則を明らか
にし,市民の権利及び責務,事業者等の権利及び責務,市議会及び市長
その他執行機関の責務並びに市政運営の原則を定めることにより相互5
に理解し合い,共に手を携えて豊かな地域社会を築くことを目的とす
る。
(住民投票)
第27条市長は,市政に係る重要事項について市民の意思を確認するた
め,その案件ごとに定められる条例により住民投票を実施することが10
できる。
2市民,市議会及び市長は,住民投票の結果を尊重しなければならな
い。
第28条市民のうち本市において選挙権を有する者は,市政に係る重要
事項について,その総数の4分の1以上の者の連署をもって,その代15
表者から市長に対して住民投票の実施を請求することができる。
2議員は,法令の定めるところにより,議員定数の12分の1以上の
者の賛成を得て,住民投票を規定した条例を市議会に提出することで
住民投票を発議することができる。
3市長は,必要に応じ,住民投票を規定した条例を市議会に提出する20
ことで住民投票を発議することができる。
4市長は,第1項の規定による請求があったときは,所定の手続を経
て,住民投票を実施しなければならない。
(条例の位置付け)
第42条この条例は,市政運営の最高規範であり,他の条例等の制定又25
は改廃にあたっては,この条例の趣旨を尊重し,整合性を確保しなけ
ればならない。
2市民,事業者等及び市は,この条例を尊重し,本市の自治の推進に
努めるものとする。
3この条例の第7章から第16章〔第14条から第41条〕に定める
施策の推進に関して,必要な事項は別で定める。5
3前提事実(後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
⑴原告らは,いずれも石垣市内に住民票を置く石垣市民であり,石垣市の
議会の議員及び長の選挙権を有する者(いわゆる有権者)である。
⑵原告A1,原告B1,原告C1,原告D1,原告E1,原告F1,原告G
1,原告H1,原告I1,原告J1,原告K1,原告L1,原告M1,原告10
N1,原告O1,原告P1,原告Q1,原告R1,原告S1,原告T1,原
告U1,原告V1,原告W1,原告X1,原告Y1,原告Z1及び原告A2
(以下「本件実施請求代表者ら」ということがある。)は,平成30年12
月1日現在の石垣市の有権者の総数3万8799名の4分の1以上となる,
原告らを含む1万4263名の有効署名を集めて,同月20日,請求代表15
者として,石垣市長に対し,別紙2石垣市平得大俣地域への陸上自衛隊配
備計画の賛否を問う住民投票条例案(以下「本件実施条例案」という。)記
載の内容の条例の制定を請求した(本件実施請求)。その請求書には,「地
方自治法第74条第1項の規定により別紙条例案〔本件実施条例案〕を添
えて条例制定の請求をいたします。」との記載がある。(甲3)20
⑶石垣市長は,本件請求を受け,本件実施条例案と概ね同内容の条例案を
石垣市議会に付議したが,石垣市議会は平成31年2月及び令和元年6月,
条例案を2度にわたり否決した。
⑷石垣市長は,本件口頭弁論終結時まで,本件住民投票を実施していない。
4争点25
本件の主な争点は,以下のとおりである。
⑴本件住民投票の実施について行政事件訴訟法上の義務付けの訴えとして
訴求できるか(本案前の争点)
ア本件住民投票の実施が義務付けを訴求できる行政処分に当たるか(本
件住民投票実施の処分性。主位的請求及び予備的請求に係る訴えに共通
の争点。争点1)5
イ本件実施請求が行政事件訴訟法上の「申請」に当たるか(主位的請求に
係る訴えについての争点。争点2)
ウ原告A1は本件住民投票の実施を求めるにつき法律上の利益を有する
か(原告適格の有無。予備的請求に係る訴えについての争点。争点3)
エ本件住民投票が実施されないことにより重大な損害を生ずるおそれが10
あるか(予備的請求に係る訴えについての争点。争点4)
オ本件住民投票が実施されないことによる損害を避けるため他に適当な
方法がないか(予備的請求に係る訴えについての争点。争点5)
⑵石垣市長の本件住民投票実施義務の明白性(主に本案の争点。争点6)
5争点に関する当事者の主張15
⑴争点1(本件住民投票実施の処分性)
(原告らの主張)
ア義務付けの訴えの対象となる処分とは,行政庁の処分その他公権力の
行使に当たる行為であって,その行為によって,直接国民の権利義務を
形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。20
イこの点,原告らを含む石垣市の有権者は,本件自治基本条例28条1
項に基づき市政に係る重要事項につき政策意思を表明する権利ないし投
票する権利を有し,住民投票の実施によって,これらの権利が形成され,
その範囲が確定することが本件自治基本条例上認められているから,
本件住民投票の実施は,義務付けの訴えの対象となる処分に当たるこ25
とは明らかである。
すなわち,本件住民投票の実施は,単なる事実行為ではなく,当事
者の意思とは無関係に法令により特に法的効果が認められる準法律行
為であるし,仮に,単なる事実行為であったとしても,①本件自治基本
条例27条2項により,市民,市議会及び市長にその結果を尊重すべき
義務を生じさせるという,また,②石垣市の有権者が,住民投票権を保5
障されることを通じて,政治的意思を表明する権利を行使できる法的地
位を獲得するという,それぞれ法律上の効果ないし法的効力を有する以
上,処分性を有する。
ウ上記イのとおり,本件において義務付けを求める対象は,本件自治基
本条例28条4項に規定された「所定の手続」を経ることそのものでは10
なく,本件住民投票の実施であり,「所定の手続」は本件住民投票を実施
するための手段にすぎないが,「所定の手続」を経ることについても,本
件住民投票の実施と一体となって,義務付けの対象となると解する余地
はある。
すなわち,条例等の規範の定立(制定行為)は,特定の者に対し,直接15
法的地位を与える結果を生じさせるものであれば行政処分と同視でき,
直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定するものであれば行政
処分であるところ,本件実施条例案に代わる,規則の制定や地方自治法
179条に基づく専決処分としての条例の制定(以下「規則等の制定」
という。)は,本件実施請求代表者ら若しくは署名をした者という限ら20
れた特定の者らに対し,本件配備計画の賛否に関して投票することがで
きる法的地位を与えるものであるから,行政処分と同視でき,又は,石
垣市の有権者について,直接政策意思を表明する権利ないし投票する権
利を形成し又はその範囲を確定するものであるから,行政処分である。
エしたがって,本件住民投票の実施は,義務付けの対象となる処分であ25
る。
(被告の主張)
ア処分性の有無の判断基準は公権力性と直接の法的効果の有無であるか
ら,非権力的な行為や国民の権利に直接影響を及ぼさない行為には処分
性はなく,①一般的・抽象的な行為(条例の制定など),②事実行為(公
共工事,行政指導など),③行政機関の内部行為(通達など)は,処分性5
が否定される。
イこの点,本件住民投票の実施に必要な規則等の制定は,一般的・抽象的
な行為であり,住民投票の実施は,石垣市の有権者全員を対象とするも
ので,一般的行為であるから,処分性はない。
ウ次に,仮に本件住民投票が実施されたとしても,本件自治基本条例210
7条2項は,住民投票の結果を尊重すべき旨定めるのみであり,住民投
票の結果は,何ら法的効果を有しない。本件配備計画の賛否についての
政策意思を表明する権利ないし投票する権利は,投票そのものが直接の
権利の実現ではなく,投票の結果を集計し,公表することに目的があり,
投票の結果に法的な効果が与えられない以上,石垣市に対する陳情や要15
請と変わらず,石垣市による世論調査と大差のない事実行為にすぎない。
政策意思の表明は,街頭署名活動や演説,マスメディアなどを通じた
自由な表現活動でも可能であって,石垣市長が行う住民投票でなければ
実現できないものではなく,その意味で権力的な行為ではないし,結果
の尊重が事実上のものとして求められるのみであれば,原告らに対し,20
直接,法的な権利を付与したものではない。
エしたがって,規則等の制定を含む本件住民投票の実施は,直接国民の
権利義務を形成し又はその範囲を確定するものではなく,義務付けの対
象となる処分に当たらない。
⑵争点2(本件実施請求が行政事件訴訟上の「申請」に当たるか)25
(原告らの主張)
ア「申請」とは,法令に基づき行政庁の許可,認可,免許その他の自己に
対し何らかの利益を付与する処分を求める行為であって,当該行為に対
して行政庁が諾否の応答をすべきこととされているものをいう(行政手
続法2条3号)。
イこの点,本件住民投票が実施されれば,原告らに対し,本件配備計画の5
賛否についての政策意思を表明する権利,ないし投票する権利を行使す
る機会という利益が付与されるものであるから,本件実施請求は,自己
に対し何らかの利益を付与する処分を求める行為に当たることは明らか
である。本件実施請求が,本件実施請求代表者らや署名者のみならず,署
名をしなかった者も含めて石垣市の有権者全体に対して本件住民投票に10
おいて投票することができるという利益をもたらすからといって,公文
書公開請求に基づく公文書の公開によって広く一般市民に利益をもたら
す場合と同様の構造を有しているだけであり,第三者に対する処分を求
めたこととなるものではない。
また,本件実施請求は,本件自治基本条例28条1項に基づくもので15
あるから,法令に基づきなされたものであることは明らかである。
そして,申請とそれに対する処分の制度が法令で定められていれば,
諾否の応答をすべきことは制度の性質上当然であるから,行政庁が諾否
の応答をすべきこととされているものという要件は,「申請」の範囲を
画する上で独自の意味をほとんど持っていないとされている。本件自治20
基本条例28条1項が住民投票の実施を請求することができる権利,す
なわち住民投票の実施の申請権を,同条4項が住民投票の実施義務を規
定していて,申請とそれに対する処分の制度が法令で定められているこ
とから,行政庁が諾否の応答をすべきことは制度の性質上当然である場
合に当たる。25
ウしたがって,本件実施請求は,法令に基づく「申請」に当たる。
(被告の主張)
「申請」に当たるか否かは,私人の行為に対する行政庁の応答が法的な意
味で義務付けられているか否かにかかっているが,本件自治基本条例28
条1項は,住民投票の実施を請求することができると定め,同条4項は,所
定の手続を経て,住民投票を実施しなければならないと定めるのみであり,5
石垣市長の応答が法的な意味で義務付けられているわけではない。
また,「申請」といえるためには,自己に対し何らかの利益を付与する処
分であることが必要であり,「自己に対し」というのは一般処分その他を除
外する趣旨であるところ,仮に原告らの主張するとおり,住民投票の実施
が利益といえるとしても,石垣市の有権者全員に利益が与えられることに10
なるから,自己に対し利益を付与するものとはいえない。
したがって,本件実施請求は「申請」に当たらない。
⑶争点3(予備的請求に係る原告A1の原告適格の有無)
(被告の主張)
予備的請求に係る原告A1の原告適格の有無は,同原告において侵害さ15
れていると主張する住民投票によって政策意思を表明する権利が,根拠法
規である本件自治基本条例により保護されているか否かによって判断する
ことになろうが,本件自治基本条例は,石垣市民に対し,住民投票によって
政策意思を表明する権利を付与したものではないから,原告A1に原告適
格はない。20
(原告A1の主張)
本件自治基本条例28条1項及び4項によれば,石垣市民のうち選挙権
を有する者は,住民投票の実施請求をすることができ,この請求があった
ときは,住民投票の実施が義務付けられるから,石垣市民のうち選挙権を
有する者は,本件住民投票の実施を請求することにつき法律上の利益を有25
する。
原告A1は,石垣市において選挙権を有することのみならず,本件実施
請求の代表者の1人であることからも,本件住民投票の実施につき法律上
の利益を有するものであり,予備的請求に係る訴えの原告適格が認められ
るのは明らかである。
⑷争点4(本件住民投票が実施されないことにより重大な損害を生ずるお5
それがあるか)
(原告A1の主張)
原告A1を含む石垣市民は,住民投票の対象となる「市政に係る重要事
項」(本件自治基本条例28条1項)に関して政策意思を表明する権利ない
し投票する権利を有する。これらの権利は,石垣市の最高規範でありその10
憲法ともいうべき本件自治基本条例によって保障された権利であると同時
に,「地方自治の本旨」(憲法92条)の一内容としての住民自治を実現す
るものであり,かつ,直接民主制の過程においても極めて重要な権利であ
る。
処分行政庁たる石垣市長が本件住民投票をしない状態が続けば,石垣市15
民は上記各権利を行使する機会を失うのであり,これらは原状回復及び金
銭賠償によって補填することができない重大な損害である。
(被告の主張)
本件住民投票が実施されないからといって,原告A1において原状回復
及び金銭賠償によって填補することのできない重大な損害が生じるという20
ことはできない。
⑸争点5(本件住民投票が実施されないことによる損害を避けるため他に
適当な方法がないか)
(原告A1の主張)
本件自治基本条例は,処分行政庁たる石垣市長が同条例28条4項に基25
づく住民投票実施義務に違反した場合における救済の措置を定めておらず,
その他抗告訴訟によって住民投票が実施されないことによる損害を避ける
こともできないから,本件住民投票の実施を義務付ける判決を求める以外
に適当な救済方法がないのは明らかである。
(被告の主張)
本件配備計画の賛否に関する政策意思は,住民投票でなければ表明する5
ことができないわけではなく,本件訴訟手続での意見陳述などを含む市民
生活の様々な場面で表明することはできる。また,住民投票についても,改
めて署名を集めて,再度本件基本自治条例に基づき議会に付議して審理す
ることを請求することも可能であるから,本件義務付け訴訟以外に手段が
ないことにはならず,補充性の要件を満たさない。10
⑹争点6(石垣市長の本件住民投票実施義務の明白性)
(原告らの主張)
ア本件自治基本条例28条は,議員の発議と市長の発議による住民投票
の場合は,「住民投票を規定した条例を市議会に提出することで」住民投
票を「発議することができる」とのみ規定している(2項,3項)のに対15
して,4分の1以上の有権者が連署して請求した住民投票の場合には,
市長は,「所定の手続を経て,」住民投票を「実施しなければならない」
と規定し(4項),明確に文言を書き分けていることからすれば,そこに
いう「所定の手続」としては,条例制定以外の手続,すなわち規則等の制
定が想定されていることは明白である。本件自治基本条例の立案過程で20
も,地方自治法74条1項に基づく条例制定請求権を単に確認するもの
であった事務局案に対して,市民検討会議において,署名数の要件を4
分の1以上と大幅に加重して厳しくする一方,請求があった場合に住民
投票の実施義務を市長に課す追加の提案がされて,原告の本件自治基本
条例の形になったものである。25
被告は,「所定の手続」として住民投票条例の制定が必要であるかのよ
うに主張するが,仮にそれが必要であるとすれば,地方自治法74条1
項に基づき住民投票条例を制定するには有権者の50分の1の署名で足
りるのに,本件自治基本条例においては4分の1以上の署名を要するこ
ととなり,地方自治法上の住民の権利をかえって大幅に制限する規定と
なってしまって,法律の範囲内で条例を制定することができるとする憲5
法94条に明らかに違反する違憲のものとなるから,そのような法解釈
はおよそ採り得ない。
一般に住民投票が行われる場合,実施手続の大半は規則によって定
められているのが通常であるし,規則のみによって住民投票を実施し
た例も存在するのであり,石垣市長は,規則等の制定という「所定の10
手続」を経て本件住民投票を実施する義務がある。
イ石垣市長は,現在に至るまで本件住民投票を実施すべき義務を懈怠
(サボタージュ)し続けているのであり,これを実施しない不作為は,
明らかに本件自治基本条例28条4項に違反し,違法であるから,申
請型義務付けの訴え提起のための不作為の違法確認請求に係る勝訴15
要件を満たす。そして,石垣市長は,本件住民投票を実施すべき義務
を負っていることが本件自治基本条例の規定から明らかであるから,
本件住民投票実施の義務付けの要件も満たす(非申請型義務付け請求
については原告A1の主張)。
(被告の主張)20
本件実施請求は,本件自治基本条例に基づく請求ではなく,地方自治法
74条1項に基づく条例の制定請求である。本件自治基本条例28条1項
に基づく住民投票の実施の請求に際して,地方自治法74条1項の手続を
利用せざるを得ないことについて異論はないが,本件自治基本条例28条
1項及び4項は,地方自治法74条1項の条例制定改廃請求を更に推し進25
め,住民投票条例を制定した上で,その住民投票の実施を石垣市長に義務
付けたものと解釈すべきである。
本件自治基本条例28条が1項と4項の二段構成になっているのは,案
件ごとに住民投票条例の制定を待って石垣市長が住民投票を実施すること
が予定されているからであり,財政上も,住民投票の実施には多大な費用
が掛かり,それは当然石垣市の予算から支弁されることになるが,石垣市5
議会での予算審議も経ず,予算確保もままならないまま,議会の承認なく
市長の判断のみで住民投票を実施することは不可能である。議会で住民投
票条例が否決された場合にまでも,石垣市長が,住民投票についての条例
の制定無くして,規則や専決処分で住民投票の実施手続を定めて住民投票
を実施しなければならないものではない。10
第3当裁判所の判断
1争点1(本件住民投票実施の処分性)について
⑴行政事件訴訟法にいう「処分」とは,行政庁の処分その他公権力の行使に
当たる行為をいい(同法3条2項),処分が主観訴訟たる抗告訴訟の対象と
なるものであることからすると,直接個々の国民の権利義務を形成し又は15
その範囲を確定することが法律上認められているものが,ここにいう公権
力の行使に当たる行為といえるものと解するのが相当である(最高裁昭和
28年(オ)第1362号同30年2月24日第一小法廷判決・民集9巻2
号217頁参照)。
一連の手続を経て行われる行政作用については,行政機関によってなさ20
れる一連の行為のうち,直接個々の国民の権利義務に影響を与えるような
法的効果を生ずるものとして公権力の行使に当たる行為を捉えて抗告訴訟
の対象として画することで,主観訴訟としての充実した審理を可能にする
ことが行政事件訴訟法の法意であると考えられるから,処分性の有無は,
この観点から決定されなければならない。25
⑵これを本件についてみると,原告らの主張によっても,本件住民投票は,
本件実施条例案に代わる本件住民投票を実施するための規則等の制定がさ
れた後,当該規則等(以下「本件実施規則等」という。)に基づき,住民投
票を市長が執行することによって実施に移されるものである(別紙2の本
件実施条例案3条参照)。その実施の過程において,住民投票の期日(以下
「投票日」という。)は,本件実施規則等の施行の日から起算して60日を5
経過する日までの間において市長が定めるものとされ(同4条1項参照),
市長は,投票日を定めたときは,当該投票日の7日前までにこれを告示し
なければならず(同条3項参照),本件住民投票において投票を行う資格を
有する者(以下「投票資格者」という。)は,その告示の前日において,公
職選挙法第9条の規定により,石垣市の議会の議員及び市長の選挙権を有10
する者とされる(別紙2の本件実施条例案5条参照)。そして,市長は,投
票資格者名簿を調製しなければならず(同6条参照),住民投票をしようと
する投票資格者(投票人)は,規則で定める期日前投票又は不在者投票を行
う場合のほか,投票日の当日,自ら投票所に行き,当該名簿又はその抄本と
の対照を経て投票し(同8条参照),このような投票の集積としての住民投15
票の結果が確定して告示されることによって(同15条参照),本件住民投
票が完了する。
本件配備計画に係る政治的意思を表明して投票することが,石垣市の有
権者の権利と観念することができるとしても,このような一連の本件住民
投票の実施の過程において,直接個々の市民の権利を形成する法的効果を20
生ずるものとして公権力の行使に当たり得る行為は,投票人が投票資格者
であることを対照されることになる投票資格者名簿の調製であるといわざ
るを得ず,それに至るまでの市長による本件実施規則等の制定や,抽象的
行為としての本件住民投票の執行は,いまだ直接個々の市民の権利を形成
する法的効果を生じさせるものとはいえない。25
上記にも判示したとおり,本件住民投票における投票資格者は,投票日
の告示の前日において,公職選挙法第9条の規定により,石垣市の議会の
議員及び市長の選挙権を有し,かつ,投票資格者名簿に記載された者であ
って,具体的にこれを有することとなるのは,日本国民たる年齢満18年
以上の者で引き続き3箇月以上石垣市の区域内に住所を有する者である
(同条2項)。そうすると,年齢満18年への到達や転入からの期間経過等5
によって,今後これに該当することとなる者も存在し得る一方,現在これ
に該当する者でも,投票日の告示の前日までに,死亡や石垣市の区域外へ
の転出等によって投票資格者でなくなる者も存在し得るものである。この
ように,いまだ具体的に定められてもいない投票日の告示の前日よりも前
の段階では,有権者という法的地位自体も不確定なのであり,規則等の制10
定がされた場合ですら,そのようにいまだ不安定で間接的な法的効果をも
たらすにすぎない本件住民投票の実施過程を包括的に捉える形で抗告訴訟
の対象とすることが,前記⑴に判示した行政事件訴訟法の法意に照らして
想定されているとは解されない。
常設型,個別型いずれのものであるにせよ,住民投票を実施するための15
条例又は規則すら制定されていない段階において,その実施が処分に当た
るとしてこれを義務付けの訴えによって実現しようとするのは,無理があ
るといわざるを得ず,仮に本件住民投票が実施されないことが違法である
と解される場合でも,その救済は,実施の義務付け以外の方法により図ら
れるべきものというほかない。20
⑶原告らは,本件住民投票の実施が,義務付けの対象となる処分である旨
主張するところ,その主張を,一連の住民投票実施過程のうち処分に相当
するものを捉えて義務付けを求める趣旨であると解したとしても,住民投
票は,投票を行う前提として,当該住民投票における投票日を定め,投票資
格者を確定する等の行政機関における一連の手続が実施されて初めて実現25
されるものであり,本件自治基本条例28条1項に基づく住民投票の実施
の請求がされた場合においてもこれと異なるところはない。
すなわち,本件自治基本条例が,石垣市政運営の最高規範であるとして
も(同条例42条1項),同条3項は,同条例28条に基づく住民投票を含
む本件自治基本条例に定める施策の推進に関して必要な事項は別に定める
旨規定し,住民投票を実施する場合に必要な手続については,別途条例又5
は規則により定めることを予定しているものである。しかし,弁論の全趣
旨によれば,被告においては,これらの手続を規律する条例又は規則の定
めがされていないことが明らかであり,このような本件自治基本条例及び
被告における条例ないし規則の定めの状況は,比喩的にいえば,憲法96
条1項において憲法改正の投票について定められてはいるものの,日本国10
憲法の改正手続に関する法律に相当するその実施手続について定めた法規
範を欠いている状態に類比すべきものと解される。本件実施規則等が制定
された場合における投票資格者名簿の調製を捉えれば処分と解する余地が
あるとしても,その処分は本件自治基本条例に基づくものではなく,いま
だ制定されていない本件実施規則等という別の法令に基づくものといわざ15
るを得ないから,そもそも行政機関として,本件自治基本条例そのものに
基づいて直接処分を行う前提を欠いている。
⑷また,原告らは,本件実施条例案と同旨の本件実施規則等の制定が,本件
住民投票の実施と一体となって処分に当たると解する余地があるとも主張
するが,前記⑵に検討したところによれば,これらの規則等の制定がされ20
たとしても,それは本件住民投票の実施に先立つ規範定立行為であるにと
どまっていて,一般的,抽象的な法的効果を有するにすぎず,いまだ個々の
石垣市民に本件住民投票における投票権を直接発生させるものではないか
ら,規則等の制定自体が処分に当たると解することはできない。
なお,原告らが,規則等の制定と本件住民投票の実施とが「一体となっ25
て」処分に当たると主張する趣旨は必ずしも判然としないが,行政事件訴
訟法が,一般的規範としての処分根拠法令の制定と当該法令に基づく具体
的処分とを合わせて義務付けるようなことを許容しているとは解されず,
原告らの上記主張がそれを求めるものだと解しても,同法の想定する義務
付けの訴えの範疇を超えているものといわざるを得ない。
⑸以上のとおり,原告らの主張する本件実施規則等の制定や,これを含む5
本件住民投票の実施が,行政事件訴訟法上の義務付けの訴えの対象となる
処分に当たると解することはできない。
2結論
よって,その余の争点につき判断するまでもなく,原告らの訴えはいずれ
も不適法であるから,却下することとして,主文のとおり判決する。10
那覇地方裁判所民事第2部
裁判長裁判官平山馨
裁判官小西圭一
裁判官立仙早矢
別紙2「石垣市平得大俣地域への陸上自衛隊配備計画の賛否を問う住民投票条
例案」は掲載省略

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