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東京駅構内のコンビニエンスストアでおこった強盗殺人の事案について,検察官の
無期懲役の求刑に対し,自首減軽を認め,懲役15年が言い渡された事例。
平成14年合(わ)第411号
強盗殺人被告事件
主文
被告人を懲役15年に処する。
未決勾留日数中90日をその刑に算入する。
理由
(犯行に至る経緯等)
1 被告人の身上・経歴
 被告人は,昭和43年6月13日,東京都において出生したが,両親が離婚す
るなどしたため,小学2年生のとき,実弟とと もに養護施設に預けられ,その施
設から小中学校に通学した。被告人は,昭和59年3月中学卒業後,東京都内の寿
司店に見習 いに入ったが,仕事が性に合わず,1か月で辞めると,再婚した実母
の紹介により,叔父が経営する有限会社で水道配管工とし て勤務し始めた。被告
人は,7,8年ほどその会社で働いた後,何度か職場を変えながら稼働したが,そ
の間も,給料を支給さ れると,無断で何日も休んだ後,職場に復帰するというこ
とを繰り返していた。
 ところで,平成13年5月のいわゆるゴールデンウィークが明けたころ,当時
再び勤務していた前記叔父の会社を辞め,同僚 から借りた12,3万円を手にし
て,神奈川県川崎市に行き,昼間はパチスロをして,夜は漫画喫茶等に泊まるとい
う自堕落な 生活を3か月ほど送っていた。被告人は,同年8月半ば,所持金を使
い果たし,実母宅に帰る電車賃すらなくなってしまったた め,川崎市内の路上に
エンジンのかかったまま停車していた自動車を盗んで,東京都内の実母宅まで戻
り,家人の不在中,実母 のクレジットカードを持ち出して,10万円ほど引き出
した。被告人は,再び川崎市に戻り,その現金を元手に数日パチスロを した後,
義父の許しを得て,実母宅に戻った。義父らの手前,被告人は,職業安定所の紹介
により東京都内の会社で水道配管
 工として雇用してもらったが,同年9月上旬には,無断でその会社も辞め,所持
金22,3万円を持って新宿でパチスロに興じ る生活を再び始めた。しかし,所
持金をほぼ使い果たしたため,同月17日,新宿区内の店で食料品を万引きした
が,従業員に 発見されて警察に引き渡された。被告人が万引きの際,果物ナイフ
を携帯していたため,翌日罰金10万円に処せられ,釈放さ れた。被告人は,そ
の後,実母宅に戻り,別の会社で水道配管工として働いたが,前記の自動車盗で逮
捕され,同年12月28 日B簡易裁判所で,懲役1年,執行猶予3年間に処せら
れた。
 なお,被告人は,平成6年に婚姻して,2人の娘をもうけたものの,平成12
年には協議離婚し,娘は妻が引き取った。
2 犯行に至る経緯
(1) 被告人は,前記執行猶予の判決を受けた後,実母宅に戻り,平成14年1月
下旬ころから,東京都内の会社で再び水道配 管工として働き始めたが,そこも2
か月程度で辞めてしまった。しかし,実母や義父の強い勧めもあって,同年5月半
ばころか ら,以前にも働いたことのある母親の実弟の経営する会社で,水道配管
工として再び稼働し始めた。義父らから,「ここを最後 に頑張れ。今度,また,
いなくなったら家には入れない。浮浪者にでもなれ。」などと叱咤され,被告人な
りに懸命に働いてき たが,同年6月29日早朝,目覚めると,張り詰めていた気
持ちがプツンと切れ,前日支給されたばかりの給料約24万円等を 持ち,実母宅
を飛び出してしまった。性懲りもなく,元来の遊び癖を出した被告人は,その足で
A駅に向かい,所持金をパチス
 ロやパチンコ(以下「パチスロ等」という。)で倍増しようと勇んで,A駅周辺
のパチンコ店に赴き,朝10時の開店から午後 11時の閉店まで,ほぼ1日中パ
チスロ等をし続けた。しかし,被告人のもくろみは外れ,結局,1日で10万円を
すってしま う羽目になった。その後も,被告人は,A駅北口周辺を根城として,
開店時間からパチスロ等をし,夜中は漫画喫茶で過ごすと いう生活を続けたが,
1日1万円くらいのペースで所持金を費消していった。
(2) 同年7月10日前後ころになると,被告人の所持金は,5万円くらいを残す
のみになっていた。家には入れないと義父か ら厳しく言い渡されていた被告人
は,義父らに頭を下げて実母宅に戻り難くなり,食料品を万引きして出費を減ら
し,1日でも 長く,今の生活を維持していこうと考えた。しかし,万引きを働い
たとしても,もし捕まれば,執行猶予中の身ゆえに刑務所行 きを余儀なくされる
ことから,被告人は,店員等に発見されたら,その店員等を脅し,あるいは場合に
よっては刺してけがをさ せても逃げるしかないと考え,A駅周辺のスーパーマー
ケットでペティナイフを万引きし,ウエストポーチに忍ばせて携帯する こととし
た。
 このように,食料品を万引きすることを決めた被告人は,それ以降,午前5
時か5時半ころ漫画喫茶を出て,A駅で160 円の切符を購入して,東京駅とC
駅等を往復する電車内で睡眠を取ることを覚え,日中は,冷房の利いた電車内で過
ごし,午後 2,3時ころ,A駅に戻り,パチンコをし,パチンコ代にも事欠くよ
うになって以降は,パチンコ店で涼を取ったりしていた。 そして,夕方になる
と,ペティナイフを万引きしたスーパーマーケットで,おにぎりや飲み物を盗み,
再びパチンコ店で涼むな どした後,漫画喫茶で夜を明かし,朝になったら電車に
乗って寝るという生活を繰り返していた。
 ところで,被告人は,そうした生活を始めて2,3日たった後,東京駅近く
で偶然目を覚ました折,東京駅で降車して,駅 構内を散策したところ,コンビニ
エンスストア「D店」(以下「本件コンビニ」という。)を見付けて,パン2個を
万引きし  た。客も多いことなどから,万引きがしやすい店と判断した被告人
は,その後も,東京駅で目が覚めていた際に,本件コンビニ でパンやおにぎり等
の万引きを合計で5回程度繰り返したが,一度も発覚しなかった。
(3) 本件犯行当日である同月21日には,被告人の所持金はついに二千数百円と
なった。被告人は,この日午前1時すぎころ から,A駅周辺の漫画喫茶で涼んだ
後,料金を支払わずに出ると,同日午前5時35分ころA駅から電車に乗り込んで
睡眠を取 ろうとしたが寝付けず,同日午前6時45分ころ,東京駅で降車した。
被告人は,こんな早朝で客が少なく万引きできるかと不 安を感じたが,とりあえ
ず,本件コンビニに赴くこととした。
3 被害者の身上・経歴
 一方,本件コンビニの総括店長であったEは,昭和44年1月5日,警察官で
あった父親と専業主婦の母親の間に,長男とし て,東京都で出生した。Eは,高
校を卒業後,F大学法学部に入学した。大学進学後は,司法試験を志して受験勉強
をする傍  ら,株式会社Gが経営するコンビニエンスストアでアルバイトとして
稼働し,卒業後もそのまま同社で働きながら,勉強を続け た。Eは,H店の副店
長などを経た後,平成12年7月,本件コンビニの総括店長に就任し,万引き犯を
見付けては警察に引き 渡すなどしていた。なお,Eは,平成7年ころから,H店
でアルバイトをしていた女性と交際を始め,平成13年春ころから  は,その女
性と生活を共にしていた。
 (罪となるべき事実)
被告人は,平成14年7月21日午前6時50分ころ,東京都千代田区所在の東
京駅構内の株式会社G「D店」内において,同 店総括店長E(当時33歳)管理
に係るパン2個等4点(販売価格合計550円)を窃取して同店から外に出たとこ
ろ,これを 発見して追尾してきたEに取り押さえられたことから,同日午前6時
51分ころ,東京駅構内I口付近通路上において,逮捕を 免れるため,Eに対
し,殺意をもって,所携のペティナイフで腹部を1回突き刺し,よって同日午後0
時32分ころ,東京都中 央区所在のJ病院において,Eを腹部刺創に基づく右総
腸骨動脈損傷による出血性ショックにより死亡させて殺害したが,同月 23日警
視庁B警察署に出頭し,同署警察官に自首したものである。
 (殺意の有無等)
第1 弁護人の主張
  弁護人は,被告人と被害者は全く面識のない単なる万引き犯と店長という関係
にすぎず,被告人には殺害の動機がない上,被 告人は,無意識的・対抗的にペテ
ィナイフを突き出したのであって,人体の枢要部を狙ったものではなく,創傷の程
度も,向か ってくる被害者の力が加わって,予想以上のものとなった可能性も否
定できないことから,被告人は殺意を有していなかった旨 主張し,被告人も,興
奮しており自分自身でもなぜペティナイフを出して刺したのか分からないなどと供
述するので,当裁判所 が殺意を認定した理由につき,以下説明しておくこととす
る。
第2 前提事実
  殺意の有無等を決する前提として,犯行前後の状況,被害者の創傷の部位及び
程度,被害者着用のベルトの損傷状況,本件凶 器の性状等について,仔細に事実
認定をすると,次のとおりである。
1 犯行前後の状況
 司法警察員作成の実況見分調書,被告人の検察官に対する供述調書2通及び
司法警察員に対する供述調書等の関係各証拠に  よると,犯行前後の状況は以下
のとおりである。
(1) 被告人は,平成14年7月21日午前6時50分ころ,本件コンビニ店内
において,パン2個,おにぎり1個,コーヒ  ー牛乳1個(販売価格合計550
円)を万引きした。それに気付いた同店店長のEは,被告人を追い掛け,同店出口
から中央  通路を数メートル進んだところで,被告人に対し「この野郎。ちょっ
と待て。」と怒号し,被告人の左後ろ襟首付近の髪の毛  をつかんだ。さらに,
「お前,金持ってるか。」と詰問された被告人が反抗的な態度で「持ってるよ。」
と答えると,Eは,  「お前,金払ってないんだから,事務所までちょっと来
い。」と告げて,被告人の髪の毛をつかんだまま,被告人を前の方に  押すよう
に歩き出した。
(2) 被告人は,執行猶予中の身であったことから,このままでは間違いなく刑
務所に入れられてしまう,刑務所には絶対行  きたくない,なんとかして逃げな
ければと思い,歩きながら何度か体を左右に揺すってみたが,Eの手は離れなかっ
た。被告  人が,ぐずぐずしていると事務所に着いてしまう,このまま事務所に
連れて行かれたら逃げられない,その前になんとかしな  くてはと焦り始めてい
たところ,Eは,I口付近通路上において,事務所の方へ通路を曲がろうとした
が,搬入用の荷物が置  かれていたため,一瞬立ち止まった。そこで,被告人
は,この機会しかないと決意し,左腕を振り上げ,左後方から被告人の  髪の毛
をつかんでいたEの右手を振り払う一方,右手でウエストポーチに入っていたペテ
ィナイフの柄の部分を握りしめた。
(3) Eは,右手を振り払われたためか,1歩くらい後ずさりした後,ひるむこ
となく,被告人の方に1歩ほど前進し,再び  被告人の髪の毛をつかむように手
を伸ばしてきた。被告人は,今度捕まえられたら逃げられない,刺すしかないと決
意し,同  日午前6時51分ころ,ウエストポーチの中に携帯していたペティナ
イフを右手で取り出して腰付近で構えて,Eと正対する  ように体を反転させ
て,右足を1歩前に踏み出し,まっすぐにペティナイフを突き出して,Eの腹部中
央付近を1回突き刺し  た。被告人がEを刺す直前の両者の腹部の間隔は,2,
30センチメートルであった。
 これらの認定事実に対し,被告人は,前述のように,当公判廷においては,
犯行状況については余りよく覚えていないと供  述するものの,個々の質問に対
しては,概ね上記の状況に沿った内容を答え,捜査段階の供述調書においても同様
の犯行状況  を供述している。なお,弁護人は,これらの被告人の供述調書のう
ち,とりわけ司法警察員に対する供述調書につき,順手に  持ったペティナイフ
を突き刺したとの供述が,ベルトのパンチ穴をつなぐように横向きに貫通した損傷
痕と符合しない点を指  摘して,信用性がないと主張するが,その供述調書によ
ると,順手にペティナイフを持っていたとの記載があるものの,ペテ  ィナイフ
の刃の向きまでは記載されていないのであって,その指摘は当たらない。
2 創傷の部位及び程度
 K大学医学部法医学教室助教授L作成の鑑定書,司法警察員作成の捜査報告
書等の関係各証拠によると,創傷の長さは,へ  そ中央から右方1.5センチメ
ートルを右創端とし,へそ中央から左方に1.3センチメートルを左創端とする全
長約2.8  センチメートルである。その創傷は,右総腸骨動脈を損傷し,第
4,5腰椎椎間部に至って止まり,創洞の深さは,腹壁に直  角で約7.7セン
チメートルである。
3被害者着用のベルトの損傷状況
 押収してあるベルト1本,司法警察員作成の実況見分調書等の関係各証拠に
よると,被害者が着用していた革製ベルトに   は,先からバックル方向に約1
7センチメートルの部分に,2個のパンチ穴をまたぐように長さ約2センチメート
ル,下方に  ふくらんだU字型をした損傷痕があり,厚さ約4.15ミリメート
ルを貫通している。
4 凶器の性状等
 押収してあるペティナイフ1本,同ナイフ様のもの1本,司法警察員ほか1
名作成の捜査報告書2通及び被告人の検察官に  対する供述調書等の関係各証拠
によると,被告人が被害者を刺した際に使用したペティナイフと同種同型のペティ
ナイフは,  全長約23.08センチメートル,刃体の長さ約13.08センチ
メートル,刃体の幅最大約2.77センチメートル,刃体  の厚み最大約0.1
5センチメートルの鋭利なものである。
 ところで,被告人は,万引きして入手した際と刃先をハンドタオルで巻いた
際の少なくとも2度ペティナイフを現に手にし  ている上,その性状について,
柄の部分が黒色で,刃の先が尖っていて,刃の長さは,10センチメートルくらい
か,それよ  りも,もう少し長いもので,果物ナイフと思っていた旨供述してい
ることからすると,本件犯行時にはその性状を十分に認識  していた。
第3 判断
1 以上の認定事実によると,執行猶予中の身であった被告人は,万引きが発覚
して刑務所行きになることを極度に恐れ,被告  人の髪をつかんでいた被害者の
手を一旦振り払ったにもかかわらず,なおも被害者が被告人を捕まえようとしたこ
とから,逃  げ切るためにはもはや被害者をペティナイフで刺すほかないと決意
するに至り,被害者の腹部のへそ付近という身体の枢要部  に向けて,刃体の長
さ約13センチメートルの鋭利なペティナイフをその性状を十分に認識しながら,
足を1歩踏み出して正  面からまっすぐに突き出し,厚さ約4.15ミリメート
ルの革製のベルトを貫通して,右総腸骨動脈を突き抜け,腰椎椎間部  で止まる
まで深さ約7.7センチメートルの創傷を負わせたのであるから,被告人は,一旦
手を振り払われた被害者がさらに  被告人を捕まえようとして向かってきた際
に,被害者に対する確定的殺意を抱いたというべきである。また,被告人も,捜査
  段階において,確定的殺意を有していた旨自認していたのであって,その供述
調書は,犯行直後の状況につき,「私は,逃げ  るのに必死でしたが,逃げなが
らも,店長の腹を刺したのに何故倒れもせずに追いかけてこれるんだと怖くなっ
て,このよう  な恐怖心と捕まりたくない一心で必死になって逃げました。」な
どと被告人の率直な心情が吐露されており,信用できる。
2 これに対し,弁護人は,まず,被告人には殺害の動機がなかったと論難する
が,刑務所行きを極度に恐れていた被告人が,  一旦手を振り払ってもなお被告
人を捕まえようとする被害者から逃げ切るには,もはやペティナイフで刺すしかな
いと決意し  たという動機は,被害者殺害に至るものとして十分に理解できるも
のである。また,弁護人は,創傷の部位及び程度につい   て,被告人は,極度
の興奮から無意識の状態で対抗的にペティナイフを突き出したのであるから,その
部位を狙ったものでは  なく,その程度も,一種の格闘状態であって,被告人の
力だけではなく,向かってくる被害者の力も加わり,予想以上のもの  となった
可能性も否定できないから,本件においては,創傷の部位及び程度から,殺意を推
認することはできない旨主張す   る。しかしながら,被告人は,被害者と正対
した上,さほど身長差のない被害者に向かって,右足を1歩前に踏み出し,腰付 
 近で構えたペティナイフをまっすぐに突き出したのであるから,被害者の腹部付
近を狙って突き刺したというべきである。ま  た,被告人は,被害者が,被告人
を捕まえようとして,1歩ほど近寄ってきたことを認識しながら,右足を1歩踏み
出してペ  ティナイフを突き刺しているのであるから,結局,創傷の深さは,も
っぱら被告人の力により生じたものというほかない。よ  って,これ らの点が
被告人に殺意を認める妨げとなるものではない。その他弁護人の主張する諸点を考
慮しても,前記の結  論は変わらない。
(量刑の理由)
 1 本件は,被告人が,東京駅構内のコンビニエンスストアで,パン2個等4点
を窃取して店外に出たところ,これを発見して  追尾してきた同店総括店長に取
り押さえられたことから,逮捕を免れるため,殺意をもってその店長を所携のペテ
ィナイフで  突き刺して死亡させたという事後強盗による強盗殺人の事案であ
る。
 2 まず,被告人は,勤めていた給排水設備工事等を請け負う会社から支給され
たばかりの給料約24万円を持って,パチスロ  等に興じる自堕落な生活をする
中,勝負に負けて所持金が残り少なくなり,食事代を節約するべく,食料品を万引
きしたもの  であって,酌量すべき余地はない。また,被告人は,被害店舗の総
括店長に万引きを発見されて,同店の事務所へ連れて行か  れそうになるや,こ
のままでは,執行猶予中の身であるため,刑務所行きを余儀なくされると考え,逮
捕を免れるため,その  店長の殺害に及んだものであって,自己の身の安全・自
由のためには,他人の尊い人命を一顧だにしない自己保身の極みとい  うべきで
ある。
  次に,犯行態様についてみても,被告人は,万引きが発覚した際には,店員
等を脅したり,傷害を負わせるなどしても逃走  しようと企図し,ペティナイフ
をウエストポーチに忍ばせて万引き行為に及んだ上,本件の被害者である総括店長
に,実際に  捕捉されて事務所に連れて行かれそうになるや,そのペティナイフ
を取り出し,被害者の腹部の中央付近を正面から力一杯一  突きし,被害者着用
の革製ベルトを突き抜け,右総腸骨動脈を損傷して第4,5腰椎の間で止まる深さ
7センチメートル余り  にも及ぶ創傷を負わせ,内臓の一部が飛び出すほどの致
命傷を与えたもので誠に無惨である。被告人は,犯行後,中央線に乗  って逃走
を図り,根城にしていたA駅周辺でペティナイフや犯行当時着用していた衣服等を
処分して,証拠隠滅行為を行った  のであって,犯行後の事情もよくない。
 そして,何にもまして,被告人は,万引きを発見して,被告人を追尾してきた
被害者の尊い命を奪ったのであって,その結果  は重大である。当時33歳の被
害者は,働きながら司法試験を目指し,最近では通信制の大学講座で経営学を学ぶ
など,独立  心と向上心を持った前途有望な青年であって,その人生を被告人の
身勝手な犯行により突如奪われたのである。また,被害者  は,持ち前の正義感
と総括店長という職責から,万引き行為を見過ごすことができず,被告人を追尾
し,さらに,凶行に遭遇  して致命傷を負いながら,気丈にも100メートル余
り被告人を追い掛けたもので,見て見ない振りをする,他人事には関わ  らない
ようにするという現在の悪しき風潮にもかかわらず,誠に勇敢な行為に及んだにも
かかわらず,かえって,理不尽にも  命を奪われたのであり,その憤りと無念さ
に思いを致すと,語るべき言葉もない。
  両親や交際相手ら遺族の被った衝撃は甚大であり,被害感情には極めて厳し
いものがある。すなわち,父親は,意見陳述に  おいて,「被告人には,一罰一
戒を以って百の戒めとなる厳しい,厳しい償いの極刑をお願いしたい。」「Eの命
をかけた行  為が無駄にならないことを念願して,被告には自分自身の命を以っ
て罪を償ってもらいたい。」旨峻烈な処罰感情を吐露して  いる。母親も,捜査
官に対する供述調書において,「犯人からの言葉の償いは必要ありません。犯人は
死刑にして欲しいと思  います。私たちは,Eを失った悲しみにこれから,死ぬ
まで耐えていかなければなりません。私たちが,この悔しい気持ちを  はらすこ
とができないうちに,Eを殺した犯人が社会に戻ってくるようなことはとても耐え
られません。」と供述している。
  また,本件は,被告人が,1日100万人以上もの乗降客が出入りする東京
駅という公共の場所において,強盗殺人という  凶行に及んだ上,一時ペティナ
イフを手にしたまま逃走を図り,一方,被害者が,被害金額550円の万引き犯を
追い掛け,  駅構内で重傷を負ったまま倒れたというものであり,公衆の面前で
敢行された犯罪という面を有するのみならず,そのニュー  スが広く報道され,
東京駅構内で商品を販売する人々だけでなく,一般人に対しても,不安と衝撃を与
えたのであって,本件  犯行の社会的影響は甚大である。
  さらに,被告人は,以前から幾度となく,仕事を投げ出しては,パチスロ等
の遊興にふけるという生活を繰り返し,その間  に,本件と同様,ナイフを所持
して万引き行為を行ったこともあり,本件直前にも,義父から最後のチャンスと言
われた職場  を放り出して,パチスロ等の遊興や万引き行為に明け暮れたのであ
って,本件犯行は,このような生活の延長線上の事件とい  っても過言ではな
い。加えて,被告人は,平成13年12月28日,窃盗罪により懲役1年,執行猶
予3年間の判決を受け,  1年も経過しないうちに本件を敢行しており,規範意
識の鈍磨が著しい。
3 以上の諸事情に鑑みると,被告人の刑事責任は重大であるが,被告人は,本件
犯行後の平成14年7月23日,警察官に自首  しているので,自首減軽をする
か否かを検討することとする。自首減軽をするか否かは,裁判所の自由裁量に属
し,罪質,自  首の態様その他諸般の情状を勘案して,その要否及び程度を決す
べきところ,既述した被告人にとって不利に斟酌すべき事情  のほか,有利に斟
酌すべき事情も考慮に入れるべきであるから,ここでは,その点を中心に考えてみ
る。
(1) まず,被告人は,万引きに際し,ペティナイフを携行していたが,これは,
あくまで,万引きが発覚した場合,店員等を  脅し,あるいは場合によっては,
刺して傷害を負わせてでも逃走することを容認していたにすぎず,殺害することま
で認識・  認容していたわけではない。その意味で,本件は,被害者を殺害して
財物を強取しようと企て,それを実行したという典型的  な強盗殺人の事案は無
論のこと,窃盗を敢行後,逮捕されそうになった場合には,逮捕者を殺害すること
を事前に意図してい  た,いわば計画的な事後強盗殺人の事案とは異なり,突発
的,偶発的なものというべきである。
 また,被告人が窃取した被害品は,販売価格にして合計550円という少額
のパン2個等4点であり,被告人は,逃走の過  程でこれらを現場に遺留せざる
を得なかったことは,客観的事実であり,この点も,強盗殺人の財産犯的側面から
みると,斟  酌せざるを得ない。
 (2) 次に,被告人が現場に遺留した眼鏡に基づく捜査の進捗状況等によれば,被
告人が自首をしなくとも,早晩,捜査官側   は,被告人を犯人と特定し得たこ
とは確かであり,関係各証拠によると,被告人は,義弟らの説得を受けるととも
に,自己の  容貌がマスコミ報道されたことなどから逃げ切れないと考え,自首
に及んだこともまた事実である。しかしながら,事件発生  から3日目という早
期の段階で,自首したことによって,容疑者の確保という最も重要な手続が省かれ
た上,犯行状況,犯行  に至る経緯等に関する詳細かつ具体的な被告人の供述に
基づき裏付け捜査等が大幅に進捗したこと,すなわち,被告人の自首  が捜査に
貢献したこともまた否定し難い。また,義弟らの説得により,あるいは逃げ切れな
いとの考えから,自首したとして  も,最終的に決断をしたのは,あくまで被告
人自身であり,自供状況等に照らすと,自首につき悔悟の念がなかったとは断じ 
 得ない。
(3) さらに,被告人は,捜査段階において,自首当初から一貫して,殺意を含
め,詳細に事実関係を認めた上,被害者や遺族  に対して,本当に申し訳ない旨
謝罪の念を供述している。確かに,公判段階においては,殺意自体を否定している
ものの,事  実経過については,これを認め,被告人なりの表現で謝罪の気持ち
を表明している。実母も,遺族には受領を拒否されたが,  謝罪の手紙をしたた
めた上,証人として出廷し,改めて謝罪の意思と被告人の更生への協力を証言して
いる。
4 以上縷々述べてきた被告人にとって有利不利な諸事情に鑑みると,本件につい
ては,強盗殺人罪の法定刑中,無期懲役刑を選  択するが,自首減軽をした上,
被告人を懲役15年に処するのが相当と判断した次第である。
  よって,主文のとおり判決する。
(求刑無期懲役)
 平成15年1月16日
東京地方裁判所刑事第6部
裁判長裁判官  山  崎     学
裁判官  吉  川  奈  奈
裁判官  後  藤  有  己 

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勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛