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平成一一年(ネ)第二四一九号特許権に基づく不当利得金返還請求控訴事件(原審・
大阪地方裁判所平成五年(ワ)第二六九四号)
平成一二年九月六日口頭弁論終結
判決
控訴人(第一審原告)亡【A】訴訟承継人【B】
控訴人(第一審原告)   株式会社クロスフロウ
右代表者代表取締役      【B】
右両名訴訟代理人弁護士    村 林 隆 一
被控訴人(第一審被告)    シャープ株式会社
右代表者代表取締役      【C】
右訴訟代理人弁護士      高 坂 敬 三
同              鳥山半六
右補佐人弁理士伊 藤 英 彦
同              深 見 久 郎
 主文
一 本件控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事    実
第一 控訴の趣旨
 一 原判決を取り消す。
二 被控訴人は、控訴人【B】(以下「控訴人【B】」という。)に対し、金四
億四三六七万一二三二円及びこれに対する昭和六一年二月二四日から支払済みまで
年五分の割合による金員を支払え。
三 被控訴人は、控訴人株式会社クロスフロウ(以下「控訴人会社」という。)
に対し、金五億五六三二万八七六八円及びこれに対する平成元年七月一八日から支
払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 当事者の主張
一 当事者の主張は、次のとおり付加訂正する他は、原判決「事実」欄の「第二
 当事者の主張」(三頁末行から一〇頁八行目まで)のとおりであるから、これを
引用する。
1 八頁三行目「認否」の次に「及び反論」を加え、九頁七行目の次に改行の
上、次の文章を加える。
「(三) 本件特許発明にいう「帯状環体」とは言葉本来の意味に従って「帯
状であり、環体である」もの、すなわち衣類の帯のごとく一定の厚みと幅とを持っ
た細長い形状のものを丸めてリングにしたものと解釈すべきところ、イ号物件及び
ロ号物件の隠蔽凹部はケーシングに設けられた凹みであり、これに当たらないこと
は明らかである。
 のみならず、本件明細書第2欄16行目ないし18行目によれば「渦流中心
部がこのように変移するのは流出側の流れが環体6、6'に衝突するためである」と
されており、「帯状環体」は流出側の流れの中にあって、流出側の流れと衝突する
ことによって渦流の変動性を抑制する機能を果たすということである。しかし、イ
号物件、ロ号物件の隠蔽凹部はケーシングに設けた凹みであるから流出側の空気の
流れの中になく、流出側の空気の流れが隠蔽凹部の内壁に衝突して渦流中心部の変
移を来すという現象は生じない。したがって、イ号物件、ロ号物件の隠蔽凹部が本
件特許発明にいう「帯状環体」の作用効果を発揮する余地はない。
(四) また、そもそも「帯」とは、常識的には、その幅寸法に較べて厚み寸
法がかなり小さい(薄い)形状のものである。これに対しイ号物件、ロ号物件の仕
切板21は、径方向に見たとき幅寸法に較べて厚み寸法がかなり大きく、とても「帯
状」と呼べるものではない。
 しかも「帯状環体」は、羽根車の外周に接するか又は接近するものであ
るところ、本件明細書の記載内容から判断すると、羽根車外周に接するか又は接近
する部分は、「帯状環体」の内周面である。これに対しイ号物件、ロ号物件の仕切
板21の内周面は、羽根車の外周から遠く離れた羽根車の径方向から見て内側に位置
している。しかも、仕切板21は隣接する羽根車部分の間に位置し、羽根車の外周に
重なっていない。換言すれば、仕切板21は羽根車外周に対して「接するか又は接近
する」構成にはなっていないから、「帯状環体」には当たらない。」
2 九頁九行目の次に、改行の上、次の文章を加え、以下の漢数字の項目番号
を順次繰り下げる。
「三 被控訴人の反論に対する控訴人らの再反論
1 「帯状環体」の意味するものは、流れに対して抵抗作用をもたらすある
幅を持った抵抗面そのものである。「帯状」とは、ある幅を有するということを意
味していて厚みは問題ではなく、また、「環体」とは環状の形態を意味している。
そして、その作用効果は、渦位置の羽根車反転方向への変移と騒音値の低下であ
る。
2 羽根車の誘起する流出流れに対する抵抗面が「帯状環体」の本質である
から、羽根車に外接している必要はなく、近接していてもその効果が発現する限り
「帯状環体」に該当する。このことは、本件明細書第2欄7行目ないし8行目に
「羽根車2の外周に近接して、同様の帯状環体6'をケーシングに固定してもよい」
と記載されていることからも明らかである。また、別途製造の上ケーシングに固定
するという製作方法を取らず、製造工程上一体成型した場合も、分割して形成した
場合も、それが流出流れに対する抵抗作用を有する限り、「帯状環体」に該当する
ことは特許の本質上自明のことである。
3 また、本件明細書第2欄1行目ないし4行目には「上記環体6は・・そ
の固定位置は羽根車2の軸方向の任意の位置でよい。」と記載されているところ、
イ号物件及びロ号物件の隠蔽凹部(原判決添付の各物件目録における各第2図の
14、15)は羽根車端部に位置しており、その内面は羽根車の外周に近接しているか
ら、「帯状環体」の構成に合致している。しかも、隠蔽凹部が前記1の「帯状環
体」の作用効果を有していることも、控訴人側の実施した鑑定試験により実証され
ている。」
二 当審における当事者の補足・追加主張
(被控訴人の主張)
1 本件明細書によると「環体6・6'が存在する部分において上記のごとき変
動が生じると、環体6・6'の両側に存在する渦流中心部a1は、」となっている。そ
して、環体6・6'の両側に渦流が存在するためには、空気の流れは環体の両側を通
過するものでなければならず、そうだとすれば、当然、環体は羽根車の両端よりも
内側の中央よりに位置するものでなければならない。しかし、イ号製品の隠蔽凹部
は両側を空気の流れが通過することになっておらず、環体に該当しないことは明ら
かである。
2 また、「帯状環体」は、言葉の本来の意味どおり帯状の環体であり、ケー
シング側壁間を通過する空気の流れの中に位置している。これに対し、イ号及びロ
号物件に対応する隠蔽凹部は、ケーシング側壁間を通過する空気の流れの抵抗体と
なっておらず、空気の流れの外にある。
(控訴人らの主張)
1 被控訴人が指摘する本件明細書部分は、帯状環体による部分制御の機構、
すなわち、部分的に設置した帯状環体によって、羽根車全体にわたる渦位置制御が
どのように成立するかを示している箇所であり、端部設置の場合を但書等であえて
注記する必要はない。
2 また、空気の流れは羽根車が誘起している。羽根車を基準としてみれば明
らかなように、言葉の本来の意味での隠蔽凹部であっても、それは厚みを有する端
部リングなのであって、端部リングと同様に流出流れに対する抵抗作用を有し、流
速を減じているのである。
 理    由
一 当裁判所も控訴人らの本件請求はいずれも理由がないものと判断する。その
理由は、次のとおり付加訂正する他は、原判決「理由」欄一ないし五(一一頁一行
目から二四頁四行目まで)のとおりであるから、これを引用する。
1 一一頁一行目「請求原因3」及び二行目「請求原因4」をそれぞれ「請求
原因4」、「請求原因5」と改める。
2 一二頁一〇行目「本件公報1欄29ないし33行目」を「本件公報1欄27ない
し33行目」と改める。
3 二二頁一行目「前記2(二)(1)」を「前記二2(三)(1)」と改め、同頁三行
目の次に、改行の上、次の文章を加える。
「3(一) さらに、控訴人らは、イ号物件の横断流送風機を使った甲16の実験及
びロ号物件の横断流送風機を使った甲18の実験によって、いずれも隠蔽凹部が、渦
位置の羽根車反回転方向への移動及び騒音値の低下という帯状環体と同様の作用効
果を奏することを確認したと主張する。すなわち、これらの実験においては、隠蔽
凹部内面を模擬するものとして端部リング(幅七㎜のプラスティック製)を設置
し、直径二㎜の円筒型単孔ピトー管を使用して羽根車端部からより離れた内部断面
における測定円周上での全圧分布の測定を行い、かつ、暗騒音三〇デシベル以下の
状態を確保した状態下で普通騒音計を使用して騒音測定を行い、それぞれ端部リン
グを設置していない状況下での同様の実験結果との比較を行った。その結果、端部
リングを付けた場合、(1) イ号物件においては、渦位置は舌部より羽根車反回転方
向に五ないし八度変移し、かつ、一デシベルの騒音低下が確認され、(2) ロ号物件
においても渦位置は舌部より羽根車反回転方向に九度変移し、かつ、一・六デシベ
ルの騒音低下が確認されたとするのである。
(二) しかしながら、証拠(甲38、原審における検証結果)によると、イ号、
ロ号物件とも、羽根車端部の隠蔽凹部以外に凸凹がなく平面的な形状を有するいわ
ゆる「理想的隠蔽凹部」ではなく、突起状ないし一部リング状の成型品が取り付け
られているところ、これらが取り付けられた後の端部の形状は、甲16、18で用いら
れている完全なリング状の形態とは相当に異なるものである。したがって、右各実
験結果がそのままイ号、ロ号物件の端部におけると同様の作用効果を実現している
ものと直ちに判断することはできない。
(三) また、本件明細書においては、「流量全開状態における騒音を周波数分
析器によって記録した。第四図Aは帯状環体のない場合であり、回転音(矢印で示
すピーク)が現われている。同図Bは帯状環体を羽根車の外周に固定した場合であ
り、回転音が発生していない。」(第2欄35行目から第3欄3行目)と記載されて
おり、本件発明では、特定の周波数におけるピークである回転音が帯状環体を設け
ることによって発生しなくなるとその効果が明記されている。しかるに、前記各実
験においては周波数分析が行われておらず、本件特許の最も特徴的な効果の一つと
して開示されている回転音のピーク値の消失という現象が右各実験においても起こ
っていたのかは明らかになっていない。
 この点、前記各実験を実施した【D】教授は、甲38及び当審における証人
尋問において、回転音レベルはオーバーオール値(SPL)と深い相関を持ってお
り、オーバーオール騒音値が低下すれば回転音レベルの低下も意味しているから、
周波数分析を行わなくてもオーバーオール値の低下を測定すれば十分である旨証言
する。しかし、本件特許明細書第4図A、Bのグラフを比較すると、帯状環体を装
着しないときのオーバーオール値は約八〇デシベルであり、他方、帯状環体を装着
したときのオーバーオール値は約七二デシベルで、約八デシベルも減少している。
これに対し、前記イ号、ロ号物件にそれぞれ端部リングを使用した実験では一ない
し一・六デシベルの低下しか認められず、本件特許明細に示されているのと同じ作
用効果を奏しているとは到底いえない。
(四) しかも、右各実験における渦流中心の羽根車反回転方向への変移は九度
認められ、本件特許明細に示されているのと同じ程度の効果が生じているのに、騒
音の低下の点では右(三)のようなわずかな効果しか生じていないことに鑑みると、
右各実験において、渦流中心の変移と騒音の低下との相関も証明されているとはい
い難い。
 したがって、控訴人らが行った前記の実験によっても、イ号、ロ号物件の
「隠蔽凹部」が「帯状環体」と同一の作用効果を有していることを認めるには足り
ないといわざるを得ない。」
 二 当審における追加・補足主張に対する判断
1 本件明細書には「環体の両側に存在する渦流中心部は、」との記載部分が
存し(第2欄19、20行目)、この記載は横断流れが帯状環体の両側を通過し、両側
で渦流が生じていることを前提としているものと解されるところ、本件イ号及びロ
号物件における隠蔽凹部においては横断流れが片側しか通過していないことが明ら
かである。この点について控訴人らは、当該箇所は部分的に設置した帯状環体によ
る羽根車全体にわたる渦位置制御過程を示しているもので、帯状環体を端部に設置
した場合をあえて注記する必要はないとするが、本件明細書の右記載部分が、少な
くとも帯状環体が羽根車の両端よりも内側に取り付けられていることを念頭に置い
たものであることは否定することができない。
2 また、控訴人らは、隠蔽凹部も流出流れに対する抵抗作用を有し、流速を
減じていると主張し、【D】教授も甲36において「流体力学的見地からは、帯状環
体に要求されている機能は、その内面の吐出流に対する抵抗作用のみ」であること
を前提とした上、控訴人らの主張に沿った供述をする。しかしながら、甲19及び
【D】証言によると、端部リングを取り付けた場合、その外側部分に空気流れの止
まっている死水域が生じるとされている(甲19の図2のニ)ところ、同様の死水域
は端部リングの内側部分にも生じていると考えられる。もっとも、羽根車中央部の
渦流が波及して端部リング内にも渦流が発生しており、その作用で空気流れの若干
が端部リング内に流入している可能性は理論上否定できないが、右端部リング内の
渦流の存在自体が実験的に確認されているわけでもなく、また、羽根車端部の境界
層流れの構造は非常に複雑でいまだ理論的に解明されていない点も少なくないこと
などを考慮すると、端部の隠蔽凹部について、控訴人ら主張のような羽根車中央部
に設置された帯状環体と同様の抵抗作用が存することを確実に認定するには足りな
いといわざるを得ない。
 三 結論
 以上の次第で、控訴人らの請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は
いずれも理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。
    大阪高等裁判所第八民事部
  裁判長裁判官  鳥越健治
              
         裁判官  若林 諒
           裁判官 西井和徒

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