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       主   文
本件各上告を棄却する。
上告費用は各上告人の負担とする。
       理   由
第1 平成11年(オ)第853号上告代理人山崎潮,同佐村浩之,同江口とし
子,同植垣勝裕,同竹中章,同西謙二,同大須賀滋,同川口泰司,同田中芳樹,同
廣戸芳彦,同白井ときわ,同若狭正幸,同高田薫,同高橋幸喜,同片山さつき,同
宇山和也,同笠原喜保,同岸川誠次,同須賀清栄,同井竹嘉和,同大西彰の上告理
由(第六を除く。)及び同年(オ)第854号上告代理人伊藤幹郎,同岡田尚,同
小島周一,同杉本朗,同上条貞夫,同木村和夫,同武井共夫,同岡村三穂の上告理
由(第二を除く。)について
1 本件は,平成11年(オ)第854号上告人(以下「個人原告」という。)ら
が,横浜税関の職員であった昭和39年4月1日から同49年3月31日までの期
間(以下「本件係争期間」という。)に,任命権者である横浜税関長から,平成1
1年(オ)第853号被上告人(以下「原告組合」という。)の組合員(以下「原
告組合員」という。)であることを理由に,昇任,昇格,昇給について不当な差別
的取扱いを受け,これにより経済的,精神的損害を被ったとして,また,原告組合
が,原告組合員(個人原告ら以外の者を含む。)が上記のような差別的取扱いを受
けたほか,横浜税関当局の違法な支配介入等により団結権を侵害され,これにより
無形の損害を被ったとして,いずれも国家賠償法1条1項に基づき,平成11年
(オ)第853号上告人・同年(オ)第854号被上告人(以下「被告」とい
う。)に対し,損害賠償を求める事件である。
2 原審は,本件の事実関係につき,次のとおり認定判断した。
(1) 全国税関労働組合(以下「全税関」という。)は,昭和22年11月に結
成された,全国の税関に勤務する職員をもって組織される労働組合(職員団体)で
あり,同時に税関ごとにその支部組合が結成された。原告組合は,横浜税関に勤務
する職員をもって組織される労働組合であり,全税関の支部である。個人原告ら
は,本件係争期間において,横浜税関に勤務していた職員であり,原告組合員であ
った。
 原告組合は,昭和30年代半ばころまでは,職制を含む大部分の横浜税関の職員
が加入しており,専ら待遇改善など職場の諸要求に重点を置き活動を行ってきた
が,全税関が同33年に日本労働組合総評議会(総評)に加盟し同34年に日本国
家公務員労働組合共闘会議に参加したころから,安保反対等の政治的要求を掲げる
活動にも取り組むようになった。
 昭和36年10月から12月にかけて,神戸税関において,全税関神戸支部が大
幅賃上げ,政暴法反対,人員増加等の要求を掲げて勤務時間内職場集会,庁舎内デ
モ行進等を行ったことにつき,神戸税関長は,同月15日,支部長ら3人に対し懲
戒免職処分を行った。同支部は,同37年2月の臨時大会において,同処分は無効
であるとしてこれら3人を支援することを決議した。これに対し,執行部に批判的
な同支部の職制組合員らが,神戸労働問題研究会を結成し,同年6月及び7月の役
員選挙に対立候補を出して争った。そして,同年8月には鑑査部の職制組合員が集
団で脱退し,同38年2月までに700人が脱退するに及び,同年3月,同研究会
の会員を中心に神戸税関労働組合(以下「神戸労組」という。)が結成された。
 横浜税関においても,昭和36年になって,原告組合執行部に対し,政治的な活
動に重点が置かれすぎているなどの批判が寄せられることがあり,同37年1月9
日,職制で構成する横浜税関課長会が,神戸税関における懲戒免職処分を正当と受
け止め,全税関の資金カンパに反対することを決め,原告組合に申し入れた。原告
組合執行部は,この動きを全税関に対する裏切りであると強く非難した。また,全
税関は同年7月の全国大会において総評がいわゆるスト権奪還闘争を組むことを受
けて臨時カンパを決定し,原告組合が同年12月の給与からこれを徴収しようとし
たが,鑑査部の職制組合員がこれに反対を表明した。その後,同38年6月末から
7月1日にかけて,原告組合執行部の信任投票が行われ,最低でも71%の信任票
を得て,全員が信任された。ところが,同年9月,横浜税関当局が貨物検査場付近
の貨物線高架工事に伴い現場検査を実施することとしたのに対し,原告組合が労働
強化につながるとして反対運動を行ったところ,分会の職制組合員は,同年10
月,分会執行部にはついていけないなどとして原告組合を脱退した。また,これに
前後して,職制組合員26人が原告組合を脱退し,その後も職制組合員を中心に脱
退者が相次ぎ,同年12月27日までに脱退者は250人以上に上った。これらの
脱退者の有志は,同39年1月ころ,横浜税関労組刷新同志会を結成し,機関誌で
原告組合を強く批判するとともに,原告組合員に対し,原告組合からの脱退と同会
への結集を呼び掛けた。その後も原告組合からの脱退者が続出し,同年5月9日,
脱退者を中心とする約500人により横浜税関労働組合(以下「横浜労組」とい
う。)が結成され,刷新同志会は発展的に解消された。同38年10月から同39
年9月までの1年間の脱退者は739人(うち職制組合員215人)に及び,その
ほとんどは横浜労組に加入し,横浜労組は結成1年後には組合員数が約900人と
なった。原告組合の組合員数は,同38年7月の約1300人から,同39年7月
には569人に激減して,横浜労組と組合員数が逆転し,その後も新規採用職員の
大部分が横浜労組に加入するようになったため,その差が拡大し,本訴提起時には
196人にまで減少した。
 昭和39年5月,横浜労組と神戸労組とによって税関労働組合全国協議会が結成
され,同40年2月から5月にかけて,長崎,東京,名古屋,大阪,函館及び門司
の各税関に,全税関の支部組合から脱退した組合員を中心とする新組合が結成さ
れ,その後,これら8税関の新組合(以下「税関労組」という。)によって税関労
働組合連絡協議会が結成された。その結果,同年において既に税関労組の組合員数
は全税関組合員数を上回り,同46年には,税関職員約7500人中税関労組の組
合員が約5800人,全税関組合員数が七百数十人となった。
(2) 横浜税関当局が昭和41年以降に行った新入職員に対する研修終了後,横
浜労組主催のバス旅行及び加入勧誘活動が行われ,新入職員のほとんどがこれに参
加した。当局の研修に接着するこれらの企画は,横浜労組による加入勧誘が行われ
る趣旨のものであることを含めて,当局の容認又は暗黙の了解がなければ行い得な
いものであり,この限度で,当局が横浜労組の活動を容認ないし助長するなどして
関与したことを推認するのが相当である。
(3) 昭和39年に入関し横浜労組に加入していたAは,同40年初めころから
横浜労組の姿勢に疑問を感じ,原告組合に親和的な態度をとっていたところ,同年
2月18日,Aの上司であった関税鑑査官Bが,「横浜税関総務部総務課」の印を
押なつした封筒を用い肩書きの官名を記した書簡によりAの父兄を呼び出し,来庁
した父兄に対し,Aについて,「赤の分子に操られている。」などと話をした。上
記のような行為の態様等からみて,Bの行為は横浜税関の職制上司として親を通じ
てAの原告組合への加入を思いとどまらせようと働き掛けたものと認められ,この
行為については横浜税関当局の容認,助長があったと推認することができ,この限
度で当局の関与を認めるのが相当である。このほかにも,横浜労組から脱退し原告
組合へ加入する姿勢がみられた職員に対して,これを思いとどまるよう職制上司が
働き掛けを行った疑いは強い。
(4) 昭和46年に入関した職員のうちただ1人原告組合に加入したCは,横浜
税関監視部取締第2部門第3班に配置されたところ,同班の同期入関者6人のうち
5人が同47年3月3日から6月1日までの間に担当した31回の宿直勤務のうち
10回以上同期入関者と相勤したのに対し,1回も相勤をしなかった。このこと
は,偶然の結果とは考えられず,後記(5)の東京税関文書において新入職員の配
置等の面で全税関の影響を排除する方策が検討されていたことや,横浜税関当局も
本件係争期間中一貫して全税関を嫌悪してその勢力拡大を警戒していたことを併せ
考えれば,横浜税関当局において,Cの同期入関者との離間を図ったなどという見
方を全く否定することはできない。そうすると,この点は,原告組合員たるCと原
告組合員でない他の同期入関者とを宿直の勤務形態について差別的に扱ったという
べきで,横浜税関当局が原告組合員と横浜労組の組合員との接触を断つ方針を採っ
ており,Cの宿直勤務形態はその方針に基づくものと推認するほかはない。
(5) 昭和42年3月ないし同43年11月に開催された東京税関の幹部会議議
事録等の写しとして提出された甲号証(以下「東京税関文書」という。)は,東京
税関当局作成に係る文書の写しと認められる。その記載中には,大蔵省関税局や東
京税関幹部が全税関と比べて税関労組の方を好ましいものとみて前者の活動への嫌
悪,警戒と後者の育成の必要を述べたもの,新人職員の職場配置,独身寮,サーク
ル活動,職場レクリエーションの在り方等について,新入職員を始めとする若年層
の職員と全税関組合員との接触の場をできるだけ少なくし,全税関の影響力や勢力
の伸張を極力排除するために東京税関において採られた様々な検討,方策を示した
もので,全税関に対する嫌悪,警戒感を推認させるものがある。
 これらの発言の多くは大蔵省関税局が主催して行われた全国税関総務部長会議や
全国税関長会議の結果報告の一部としてされたもの,あるいは大蔵省の施策又は意
向に関連してされたものであり,後記(6)の関税局文書及び(7)のDメモに関
する事実を併せ考察すれば,東京税関におけるこれらの発言に示された認識は,関
税局や東京税関のみならず,横浜税関を含む各税関においてほぼ共通のものがあっ
たと推測される。しかし,これらの検討や方策は直接的には東京税関におけるもの
であるから,横浜税関において同様なことが行われたことを直ちに示すものではな
い。
(6) 昭和61年3月ないし4月に開催された全国税関総務部長会議又は同人事
課長会議の関係資料の写しとして提出された甲号証(以下「関税局文書」とい
う。)は,大蔵省関税局作成に係る文書の写しであると認められる。その記載中に
は,これらの会議において,上席官昇任,7級昇格及び4,5,6級昇格について
全税関組合員の選考基準をそれ以外の職員の選考基準とは別個に扱うことを検討な
いし確認しようとする部分があり,全税関組合員をそれ以外の職員に比べて昇格等
に関し不利に扱おうという意向が示されているのみならず,その相当以前からその
ような異なる選考基準ないし方針が存在していたことを疑わせる。もっとも,上記
会議における議題自体は,それまでに既に発生していた上席官昇任に関する全税関
組合員のそれ以外の職員と比べた場合の大幅な遅れを是正する方策を協議するもの
であって,それ自体全税関組合員を不利に扱おうとするものではなく,結論的にい
かなる方策が決定,実施されたかは明らかでない。
 しかし,そのことを考慮しても,① 昭和38年から40年にかけて全国の税関
に税関労組が結成され職員団体が2分されて以降,関税局以下の税関当局は全税関
の勢力や影響力の拡大を嫌悪,警戒し,税関労組の勢力の拡大を期待する態度を有
していたとみられること,② これがその後改められたことをうかがわせる事情は
見当たらないこと,③ 上記会議が開かれた相当前の時点から全税関に所属する職
員とそうでない職員との間において全体的に相当の昇任等の格差が顕在化していた
とみられること等を考え併せれば,税関当局における上記のような全税関組合員と
それ以外の職員について昇任,昇格について別個に基準を設け,全税関組合員を全
体的に他より低位に処遇するという差別的取扱いの姿勢は,その具体的内容や方法
は明らかではないものの,少なくとも本件係争期間の一部を含む時期から,全体
的,一般的指針として採られていた可能性を否定することができず,この限りで関
税局以下の各税関当局の全税関ないし全税関組合員に対する昇任,昇格に関する全
体的,一般的差別意思を推認することができる。
(7) 横浜税関α出張所統括審議官であったDが昭和47年ころに作成していた
私物のノート(以下「Dメモ」という。)中の「旧勧誘解除」の記載は,横浜税関
において,時期は特定することができないものの,同年6月8日開催の横浜税関課
長会議以前の時期に,当局による原告組合員に対する原告組合からの脱退の勧誘が
職制を通じて行われていた事実を推認させるものであり,同会議において,脱退勧
誘の方針を解除する方針が示され,これが横浜税関管内幹部職員に伝達されたと認
められる。しかし,Dメモ中の「特昇等は約束しない」の記載からは,職制を通じ
ての脱退勧誘において以前には特別昇給等を約束して利益誘導的な勧誘を行ってい
たのをやめるとの意味までは読み取れない。
(8) 前記(1)の事実によれば,原告組合の分裂は,大局的にみれば,執行部
の活動方針に対する職制組合員を中心としたかねてからの不満が神戸税関における
組合分裂等に刺激されて一気に表面化したとみることができる。
 しかしながら,個人原告らの大量の陳述書等によれば,昭和38年末ころから同
42年ころにかけて,職制上司から部下の原告組合員に対し時には将来の処遇面で
の利益,不利益を示唆しての脱退勧誘が行われたことは,否定しきれない。そし
て,① 前記(5)の東京税関文書及び(6)の関税局文書からうかがわれる当局
の全税関に対する嫌悪,警戒意思の存在,② 同47年以前のある時期において横
浜税関当局が原告組合員に対し原告組合からの脱退勧誘を職制を通じて行っていた
のを解除したという,同(7)のDメモによって推認される事実,③ 同(1)の
とおり,原告組合からの組合員の脱退は,当初職制組合員について原告組合執行部
の信任投票後間もない同38年10月ころから始まって,一般職員に及び,同39
年1月ころの刷新同志会の結成,同年5月の横浜労組の結成を挾んで,同38年7
月に約1300人を数えた原告組合員数は1年後の同39年7月には569人に激
減したこと,④ 同(3)のとおり,同40年2月ころ,Aの上司がその職制とし
ての立場において原告組合加入防止の働き掛けをしており,この行為については横
浜税関当局の少なくとも容認があったとみられることを総合観察すれば,上司から
部下職員,個人原告に対する脱退の勧誘がすべて末端の職制の純然たる個人的見解
や信念に基づいてされたものとみるのは不自然であって,少なくともその一部は,
当局がこうした行為を容認,期待ないし助長し,職制がその期待にこたえた結果で
あると推認すべきであり,この限度で横浜税関当局の関与を認めるのが相当であ
る。しかし,この限度を超えて,原告組合脱退に続く刷新同志会の結成,横浜労組
の結成に横浜税関当局が直接的,組織的に関与したことを認めるには足りない。
(9) 昭和38年7月1日から同50年7月1日までの昇任,昇格及び特別昇給
の処遇状況に照らせば,資料の正確性に問題があることを考慮しても,原告組合員
は,上記期間の当初においては,原告組合員以外の横浜税関職員(以下「非原告組
合員」という。)のうち対比すべき者との間での等級号俸は同じであったか低いと
しても同一等級内での1,2号俸程度の差であったが,上記期間を通じてほぼ例外
なく非原告組合員と比べて昇任,昇格及び特別昇給の面で低位に処遇され,結果と
して上記期間終了日現在の等級号俸は,対比すべき非原告組合員集団の中でも最も
低位に処遇された者と同等かそれ以下であるということができる。ただし,年次の
古い女子の場合は,横浜税関全体として男子と女子との間に集団としての大きな処
遇の格差があったことがうかがわれるものの,原告組合員女子と非原告組合員女子
との間に集団的にみた格差があったとはいえない。
(10) 個人原告ごとに昇任,昇格,昇給をみると,各個人原告は,同年同資格
で入関した非原告組合員中最も処遇の遅れた者と同程度かそれより低位の処遇を受
けていること,その大部分については,職務の一般的能力に関する限り非原告組合
員の平均よりも劣るものではないことが認められる。
 しかしながら,本件係争期間中,個人原告らの中には,原告組合の活動の一環と
して,正当な組合活動とは到底いえない無許可庁舎内集会,抗議行動,プレート着
用,庁舎建物へのビラはり等の非違行為を繰り返し行い,病気休暇日数や遅刻と目
すべき始業時休暇取得回数が平均をかなり上回る者が少なからず存在することが認
められる。これらの非違行為や休暇等が個人原告の間で最も軽度の部類に属する者
についても,その内容,程度に照らし勤務成績評価への悪影響は看過し得ないもの
がある。他方において,非原告組合員については,少なくとも原告組合から脱退後
又は原告組合に属しない段階では,個人原告らと同等の非違行為はなく,出勤状況
についても消極に評価すべき事由があったと認めるべき証拠もないから,総じて各
個人原告の本件係争期間中の勤務成績は非原告組合員のそれより劣るといわざるを
得ない。
3 以上の事実関係に基づき,原審は,個人原告ら及び原告組合の被告に対する各
損害賠償請求権の成否等につき,次のとおり判断した。
(1) 個人原告らの損害賠償請求権の成否
 一般職の職員の給与に関する法律,人事院規則等に照らせば,横浜税関長は,横
浜税関の職員の昇任等について,成績主義の基本原則の下で,職員各自の経歴,学
歴,知識,資格,能力,適性,勤務実績等を総合的に勘案して,限られた官職数や
等級別定数に応じ,広範な裁量により決定することができるものとされている。横
浜税関においては,全体的な傾向として,入関後勤務年数が比較的浅いうちはとも
かく,入関後勤務年数が経過しての上位官職や上位等級への発令については,その
時期にかなりの差が出ていることがうかがわれる。勤務年数を経れば外形的な勤務
成績に差がない場合でも昇任等に一定の差が出るのは当然であり,横浜税関におい
て,昇任,昇格等の人事に関し,成績主義を排し年功序列を旨とした運用が行われ
ていた事実を認めることはできない。
 前記2(9)の事実によれば,原告組合員と非原告組合員との間には,本件係争
期間中の処遇において,全体的,集団的にみて,特に男子について昇任,昇格,昇
給等給与にかかわる面で格差があること,個別的にみても,特に男子の個人原告ら
は,それぞれ程度の差はあるものの,同年同資格で入関した非原告組合員男子と比
べ低位の処遇を受けていることが認められる。また,東京税関文書や関税局文書の
一部の内容からは,関税局や横浜税関を含む各税関当局が全税関を嫌悪,警戒し,
一方税関労組の勢力の伸張を望み,そのような差別意思の表れとして,東京税関に
おいては,新入職員の配置,サークル,レクリエーション等の場面で全税関の影響
を減殺するための様々の方策が検討されたことが認められ,また,横浜税関におい
ても,前記のとおり,本件係争期間中,原告組合に対する支配介入に当たるいくつ
かの類型の事実が認められる。そして,原告組合に対する上記差別意思に加えて,
関税局文書からは,少なくとも本件係争期間を含む相当前の時期から,全国的に全
税関組合員を昇任,昇格等の面で一般的にその他の職員より低位に処遇するという
意味での全体的,一般的差別意思の存在が推認されること,横浜税関において,本
件係争期間中,原告組合員と非原告組合員との間に全体的,集団的な処遇の格差が
認められることを総合すれば,本件係争期間中原告組合員に対する昇任等給与面で
の当局の差別意思は,全体的,一般的にはこれを肯認するほかはない。そうする
と,個人原告らが非原告組合員と比べて勤務実績や能力等において劣っていたなど
の特段の事情がなければ,前記給与格差の全部又は一部は被告のこのような差別意
思を反映したものであると推認するのが相当である。
 しかしながら,前記2(10)の事実によれば,個人原告らの本件係争期間中の
処遇の格差は,いずれも横浜税関長の昇任等に関する裁量の範囲内にとどまるもの
というべきであり,本件係争期間中の個人原告らに対する処遇がその勤務成績,能
力,適性等に照らし著しく不相当であって裁量権の範囲を逸脱しているとまで認め
るには足りない。
(2) 原告組合の損害賠償請求権の成否等
 前記2(5)ないし(7)のとおり,横浜税関当局は,本件係争期間の前後を通
じて,原告組合ないし原告組合員の活動に対する嫌悪,警戒心を持ち,横浜労組の
勢力伸張を望み,その活動に対しては協力する姿勢を有していたところ,昇任等差
別を除く具体的行為として,① 同(8)のとおり,職制上司等による原告組合か
らの脱退勧誘を容認,期待ないし助長するなどして関与し,② 同(2)のとお
り,新入職員の研修直後の横浜労組による組合加入勧誘活動を含むバス旅行等の企
画について,これを容認,助長するなどして関与し,③ 同(3)のとおり,横浜
労組から脱退し原告組合へ加入する姿勢がみられた若手職員に対し職制上司等によ
る脱退,加入かん止の働き掛けを容認,助長するなどして関与し,④ 同(4)の
とおり,原告組合員であるCに対し,同47年の宿直勤務において非原告組合員た
る同期入関者と相勤させないようにしてその勤務形態において差別的に取り扱った
ものである。これらの横浜税関当局の行為は,いずれも原告組合に対する支配介入
といわざるを得ず,その団結権を違法に侵害したものとして,被告は,国家賠償法
1条1項により,原告組合に対し,これにより被った無形の損害の賠償をすべき義
務がある。
 その額については,上記支配介入が,原告組合の活動方針に基づく過激な違法行
為の反復に対する対抗手段として行われた面があるにせよ,矯正措置,懲戒処分等
違法行為に対して国の機関が採るべき正当な対応方法を超え,本件係争期間中を含
む長期間にわたり様々の態様によって行われたものであって,とりわけ職制上司に
よる脱退勧誘が原告組合員らの大量脱退の大きな契機となったことは否定すること
ができず,そのため原告組合の存立,運営に重大な支障を及ぼしたことがうかがわ
れること,各個人原告に対する昇任等差別は結論において認められないものの,原
告組合員であることを理由とする一定の昇任等差別の意思をもって人事査定を検討
した事実は否定し難いこと等一切の事情を考慮して,200万円をもって相当と認
める。
 また,横浜税関長の違法行為と相当因果関係のある弁護士費用は,50万円をも
って相当と認める。
4 以上の原審の認定判断に対する被告及び個人原告らの各上告理由について検討
する。
(1) 被告の上告理由について
ア 被告は,原審の前記2(5)ないし(8)の認定判断及び3(2)の被告の国
家賠償責任を認めた判断には,理由不備,経験則違背及び国家賠償法1条1項の解
釈適用を誤る違法があると主張する。
 しかしながら,横浜税関における職制上司による原告組合員に対する脱退勧誘行
為を当局が容認,期待ないし助長したことが原告組合に対する支配介入に当たる旨
の原審の認定判断は,一部に措辞必ずしも適切でないところがあるとしても,原判
決挙示の証拠関係に照らし,是認することができ,その過程に所論の違法はない。
 また,被告は,東京税関文書や関税局文書から本件係争期間中における横浜税関
当局の全税関に対する差別意思等を推認したことを論難する。確かに,関税局文書
の記載は,原審のように理解することも十分に可能ではあるものの,正当な理由に
基づいて生じた格差があまりにも大きくなったのでこれを縮小するための方策につ
き協議したものであると理解することもできないではない上,上席官昇任について
全税関組合員にのみ適用される異なる基準があったという事実は,上席官が昭和5
2年に新設された官職であることがうかがわれることに照らすと,それ以前にまで
さかのぼるものではないことや,東京税関文書の記載中には東京税関固有のことと
みられる事実が含まれていることにかんがみれば,これらの資料のみから横浜税関
当局が本件係争期間において全税関を差別する意思を有していたことを直ちに推認
することは,ちゅうちょせざるを得ないところである。しかしながら,原判決は,
これらに加えて,Dメモにより本件係争期間に属する昭和47年6月8日以前の時
期に横浜税関当局により原告組合員に対し原告組合からの脱退の勧誘がされていた
事実を始めとする前記2(8)掲記の横浜税関に固有の諸事実を認定した上で,そ
れらをも総合して上記のように横浜税関においては当局の原告組合に対する一般的
差別意思が認められるとしているのであって,これらの事実をも併せ考慮するなら
ば,その推認過程に経験則に違反する違法があるとはいえず,これを是認すること
ができるというべきである。Dメモに係る論旨は,原審の専権に属する証拠の取捨
判断,事実の認定を非難するものにすぎない。
 なお,税関当局の意思に基づいて職制上司が違法な組合活動を行わないよう部下
を説得することが支配介入に当たらないことは,所論のとおりである。しかし,そ
の限度を超えて,組合からの脱退を勧誘するに及ぶことは,支配介入に当たるとい
うほかはなく,これをもって被告の違法行為と認めた原審の判断に国家賠償法1条
1項の解釈適用を誤る違法はない。
 以上によれば,論旨は,原判決を正解しないで又は結論に影響しない説示部分を
とらえて原判決を論難するものであって,採用することができない。
イ 被告は,原審が,前記2(2)のとおり,横浜税関当局が横浜労組のバス旅行
等の活動を容認ないし助長したと認定判断した上で,同3(2)のとおり,これが
原告組合に対する支配介入に当たると判断したことには, 理由不備,理由齟齬及
び国家賠償法1条1項の解釈適用を誤る違法があると主張する。しかしながら,所
論の点に関する原審の判断は,横浜税関当局が横浜労組にのみ特別の便宜を供与し
たことをいう趣旨に理解されるのであり,原審がこれをもって支配介入に当たると
したことに所論の違法があるとはいえない。論旨は,原判決を正解しないでこれを
論難するものであって,採用することができない。
ウ 被告は,原審の前記2(3)の認定判断につき,経験則違背及び理由不備の違
法があると主張する。しかしながら,原審の上記認定判断は,原判決挙示の証拠関
係に照らし,是認することができ,その過程に所論の違法はない。論旨は,原審の
専権に属する事実の認定を非難するものであって,採用することができない。
エ 被告は,原審の前記2(4)の認定判断及び3(2)のうちCの宿直勤務に係
る判断部分には,理由不備,経験則違背及び国家賠償法1条1項の解釈適用を誤る
違法があると主張する。しかし,原審は,当局がCの宿直の勤務形態につき執った
措置が原告組合員と横浜労組の組合員との接触を断つ方針に基づくものであって差
別的取扱いと認められることを理由に,これを支配介入に当たるとしたものであ
り,原判決挙示の証拠関係に照らし,この認定判断は是認することができる。論旨
は,原審の専権に属する事実の認定を非難するか,又は独自の見解に立って原判決
を論難するものであって,採用することができない。
オ 以上のとおりであって,所論の各点に関する原審の認定判断は是認するに足
り,論旨はいずれも採用することができない。
(2) 個人原告らの上告理由について
 個人原告らは,被告の個人原告らに対する国家賠償責任を否定した原審の判断に
は,理由不備,理由齟齬の違法があると主張する。しかし,所論の点に関する原審
の認定判断は,原判決挙示の証拠関係に照らし,正当として是認することができ,
その過程に所論の違法はない。論旨は,原審の専権に属する証拠の取捨判断,事実
の認定を非難するものにすぎず,採用することができない。
第2 平成11年(オ)第853号上告代理人山崎潮,同佐村浩之,同江口とし
子,同植垣勝裕,同竹中章,同西謙二,同大須賀滋,同川口泰司,同田中芳樹,同
廣戸芳彦,同白井ときわ,同若狭正幸,同高田薫,同高橋幸喜,同片山さつき,同
宇山和也,同笠原喜保,同岸川誠次,同須賀清栄,同井竹嘉和,同大西彰の上告理
由第六について
 原告組合の被告に対する国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権は,同法4
条,民法724条により,原告組合が損害及び加害者を知った時から3年間これを
行使しないときは,時効により消滅する。上記損害賠償請求権は横浜税関当局が脱
退勧誘の助長等前記した種々の支配介入を行って原告組合の団結権を侵害したこと
により発生したものであるところ,職制上司等による脱退勧誘等の外形的事実がそ
の当時から原告組合に明らかであったとしても,横浜税関当局がこれを助長したこ
となどを原告組合が当時から知っていたと断定するに足りる事実は,原審により確
定されていない。したがって,上記損害賠償請求権について消滅時効の成立を認め
ることができないとした原審の判断は,結論において正当なものとして,是認する
ことができる。論旨は,原審の認定しない事実を交えて,上記判断を論難するもの
であって,採用することができない。
第3 平成11年(オ)第854号上告代理人伊藤幹郎,同岡田尚,同小島周一,
同杉本朗,同上条貞夫,同木村和夫,同武井共夫,同岡村三穂の上告理由第二につ
いて
 論旨は,原審が,脱退勧誘についての被告の関与等個人原告らが有する団結権に
対する侵害行為を認定しながら,これを理由とする個人原告らへの損害賠償を被告
に命じなかったことをもって,違憲ないし理由齟齬に当たる旨をいうが,個人原告
らが本件において請求しているのは個人原告ら各自の昇任,昇格,昇給における差
別的取扱いを理由とする損害の賠償であるから,所論違憲の主張は前提を欠き失当
であり,原判決に理由齟齬の違法は認められない。
 よって,裁判官深澤武久の意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のと
おり判決する。
 裁判官深澤武久の意見は,次のとおりである。
 私は,多数意見の説示に大筋において賛成するものであるが,関税局文書及び東
京税関文書の理解の仕方に関する説示中には,賛成することができない部分があ
る。すなわち,私は,これらの文書から横浜税関当局の原告組合ないし原告組合員
に対する差別意思を認めることができると考えるものである。その詳細は,平成7
年(オ)第1453号事件及び同9年(オ)第593号事件における私の反対意見
において述べたとおりである。
(裁判長裁判官 藤井正雄 裁判官 井嶋一友 裁判官 町田顯 裁判官 深澤武
久)

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