弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は弁護人鶴和夫掲出の控訴趣意書記載のとおりであるから、これ
を引用する。
 同控訴趣意第一点(一)について。
 よつて記録を精査するに、起訴状記載の訴因には「金地金合計九百グラムをよう
解、加工したものである」とあるところ、所論も認めるとおり検察官は昭和三〇年
八月二日の第二九回公判期日において、起訴状記載の訴因中「よう解、加工」とあ
る部分をすべて「加工」と訂正すると陳述しているから、これにより起訴状の訴因
は訂正され処罰の対象が加工行為たること極めて明白になつたものというべきを以
て所論の如き訴因不明確の点は毫も存しない。尚右訴因における加工の客体は金地
金約九百グフムであつて、その後の訴訟手続発展の経過に徴すれば、右金地金は即
ち刀剣附属金具その他金地金の加工品等をいつぶして得た金地金なることが極めて
明白であるから、加工の客体が特定していることにつき疑を容れる余地は存しな
い。以上のとおりで本件起訴以は刑事訴訟法第二五六条第二項に違背するところな
きを以て論旨は理由がない。
 同控訴趣意第一点(二)について。
 しかし、原判決挙示の証拠殊に被告人の検察官及び司法警察員に対する各供述調
書によれば、被告人が模造大判に加工するためAに交付した物件け刀剣附属金具の
みならず、磨滅した大判、こうがい、やすり屑等が存在していたことが認められる
から、原判決が「刀剣附属金具、その他の金地金の加工品等」と判示したのはまこ
とに相当であり、原判決に事実誤認の違法は存しない。論旨は理由がない。
 同控訴趣意第一点(三)、(四)について。
 しかし、起訴状記載の金地今は所論の如く金を用いた製品たる刀剣附属金具等自
体を謂うものではなくして、これ等をいつぶして得た金地金を指すものなることは
記載の文言とその後の訴訟経過に徴し極めて朋らかであるから、検察官が起訴状に
「金地金をより解、加工し」とあるのを「金地金を加工し」と訂正したのは相当で
あり、毫も公訴事実の同一性を害するものとは謂われない。論旨は理由がない。
 同控訴趣意第二点について。
 貴金属管理法(昭和二五年法律第一二八号)は先ず第一条において、この法律は
貴金属を国際収支の改善その他の国民経済上最も有効な用途にあてるため、これを
政府に集中するとともに、その取引及び使用を調整することを目的とすると規定
し、第三条第四条において、貴金属地金を工業的方法により取得、回収した者は原
則としてすべてこれを政府に売却すべきことを命し、第七条乃至第九条において、
政府は法定の用途に供する者に対してのみ貴金属地金を売却するものとし、更に第
一二条において金地金及び法定の除外物品以外の金地金とみなされる金製品等につ
いては、法定の除外事由にあたる場合を除き、すべて主務大臣の許可を受けなけれ
ば取引、よう解、加工してはならないものとし、なお第一三条において、これに違
反した取引を無効とし、第二四条以下において、以上の諸規定に違反する行為を処
罰することとし、以て第一条所定の目的達成を期していることが看取される。かく
の如く同法が国内に存する金地金(工業的に取得、回収したものでないもの)及び
金地金とみなされる金製品等の自由な移動、変形を原則として禁止し乍ら、他面第
一二条第三項第一号但書、昭和二五年五月一日大蔵省告示第三〇二号を以て、同告
示所定の金製品等については第一二条第一項の取引、よう解、加工に対する制限規
定を適用しないこととし、その自由処分を許容している法意を探究するに、前叙の
如き本法の目的、趣旨を参照し且つ右告示により制限規定適用除外物品として指定
されている各種金製品の品目を仔細に観察すればこれ等の物品はその数量において
僅少であるから、その含有する金の価値もさること乍ら、寧ろ美術品、骨とう品、
じゆう器、身辺装飾用品としての存在価値に重点を置いてこれを尊重し自由に利用
させることが国民感情に副う所以であるとともに、法第一条の目的達成を阻害する
ものでないとした<要旨>ためなることが窺われる。従つてかかる律意に鑑みれば、
前記告示指定の各種金製品が自由処分を許されるは当該金製品としての形態
を保持する間に限らるべく、一旦その形態を変じて右物品に該当しないものとなつ
た場合はその瞬間直ちに前記制限除外規定たる第一二条第三項第一号但書の適用を
受けなくなり同条第一項の制限規定の適用を受くるに至るものと解すべく、しかも
その形態の変化はそれが終局的に生じた場合たると、他の物品に加工の過程におい
て一時的、中間的に現われた場合たるとを区別して取扱うべき理由は存しない。
 このことは法第一二条第一項所定の許可を受くべき場合として、昭和二五年五月
一日大蔵省令第四二号金地金使用規則第二条第三号において、金を用いた製品―
(これが前記告示指定の金製品なることは第一条と対照すれば自ら明らかである)
―を金地金にし―(即ち終局的ではなく加工の過程において一時的に金地金に還元
する趣旨なることは文理上明らかである)―これを以て前二号に掲げる用に供する
場合を挙げていることに徴してもその然る所以が首肯される。これを本件について
観るに、原判決挙示の証拠によれば刀剣附属金具、こうがい等の金製品をるつぼに
入れてとかし、これを鉄箱に流し込んで大判の形にした後刻印、茣蓙目を打つて模
造大判を造つたことが認められるから、刀剣附属金具等はとかした瞬間従来の形態
を喪失し法が自由処分を許容した物品でなくなると同時に、一時的ではあるが所謂
金地金の状態に変形し法第一二条第一項の制限規定の適用を受けるに至つたものと
謂わねばならない。尤も、被告人の検察官及び司法警察員に対する各供述調書によ
れば、原判決第一犯罪表の一の模造大判二枚は大判二枚を改鋳したものなることが
窺われるけれども、記録によれは右大判は茣蓙目等が磨滅し大判の完全なる形態を
失つて法第一二条第三項第二号所定の物件に該当するに至つていたことが窺われる
のみならず、これを改鋳したものであるからその過程において一時金地金の状態を
現出したことが窺われる。所論は要するに、法第一二条第一項の加工とは附属金具
等を材料とし新たに金製品を製作することで、材料をとかして新製品を造る中間に
おいて金塊の状態が一時存在しても、それは当然加工に吸収されて独立の法的評価
を受くべきでないから、自由処分を許された刀剣附属金具をとかして模造大判を造
つても刀剣附属金具に加工して大判を造つたものに過ぎない。その加工の工作過程
におけるとかして金塊となつた一時的現象を捉えて金地金と観るのは法律の解釈を
誤つたものであると謂うのである。しかし、法の解釈は法律の目的に即して合理的
に解釈すべく、同一用語と雖法令によりてはその解釈を別異にすべきことあるは当
然である。加工の意味についての所論は他の法律解釈においては或は首肯されるで
あろうが、本法の目的と制限除外規定を設けた趣旨に鑑みれば、刀剣附属金具に加
工して新製品を造る過程の一時的現象を捉え金地金として取扱うことはまさに貴金
属管理法の本旨に副うところであり、又加工を単に製造のみに限定すべき根拠はな
く、補修、改造も亦加工の一範疇に属するものと解するのが相当である。なお金地
金とはその価値が専らその含有する金に在ることは所論のとおりであるが、右価値
は主観的判断によるべきものではなく客観的に評価さるべきものなるところ、刀剣
附属金具等をとかした大判製造直前のものと雖客観的には矢張りその価値が専らそ
の含有する金のみに在るものと謂わねばならないから、これが金地金に該当するこ
と勿論である。従つて原審が挙示の証拠により原判示事実を認定し、これに貴金属
管理法第一二条第一項第二四条第四号を適用処断したのはまことに相当であつて原
判決に事実誤認、法律解釈の誤りは存しない。論旨は理由がない。
 同控訴趣意第三点について。
 よつて記録を精査するに、原審において取調べた検算四四号の一乃至五、原審証
人Bの証言によれば、本法施行当時大蔵当局は新聞広告、ラヂオ放送、説明会等に
より自由処分を許された金製品と雖これを潰して他の金製品、補修、改造等の用に
供する場合は大蔵大臣の許可を得なければならないことにつき、一般周知徹底させ
る方法を構じた事実を認め得べく、該事実を原判決挙示にかかる被告人の検祭官に
対する各供述調書に参照して考察すれば、被告人が当時所論の如く刀剣附属金具六
等を許可なくとかして加工することが許されていると信じていた事実は到底認めら
れないのみならず、仮にかく信じていたとしてもそれは事実の錯誤ではなく、単な
る法律の不知に過ぎずして犯意の成立を阻却するものとは謂い難い。論旨引用の判
例は本件に適切でない。論旨は理由がない。
 そこで刑事訴訟法第三九六条に則り本件控訴を棄却すべきものとし、主文のとお
り判する。
 (裁判長裁判官 西岡稔 裁判官 岡林次郎 裁判官 中村荘十郎)

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