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平成18年10月30日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成17年(ワ)第15455号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成18年7月31日
判決
東京都新宿区〈以下略〉
原告株式会社平河工業社
訴訟代理人弁護士澤田三知夫
同中田好昭
訴訟代理人弁理士滝田清暉
補佐人弁理士中村成美
東京都千代田区〈以下略〉
被告三菱製紙株式会社
訴訟代理人弁護士熊倉禎男
同富岡英次
同奥村直樹
訴訟代理人弁理士近藤直樹
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,金6億6000万円及びこれに対する平成17年9
月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,多頁面付け方法についての特許権の共有持分を有する原告が,多
頁面付け方法に関するソフトウェアを製造,販売している被告に対して,同
ソフトウェアを用いて多頁面付けを行う際の方法は,上記特許権に係る特許
発明の技術的範囲に属するものであって,同ソフトウェアを販売する被告の
行為は,特許法101条3号又は4号により,上記特許権の原告の共有持分
を侵害するものとみなされるとして,民法709条に基づく損害賠償(予備
的に,民法703条に基づく不当利得返還)及び民法703条に基づく不当
利得返還(いずれも一部請求,また,いずれについても,本訴状送達の日の
翌日から支払済みに至るまで年5分の割合による遅延損害金)を求めている
事案である。
1争いのない事実
()原告は,下記のとおりの特許権(以下「本件特許権」といい,その特許1
請求の範囲請求項1項の発明を「本件発明」という。また,本件特許権に
係る特許を「本件特許」といい,その明細書を「本件明細書」という。)
を被告と共有し,その持分は,原告10分の6,被告10分の4である
(甲2)。

特許番号第2633960号
発明の名称多頁面付け方法
出願日平成元年7月13日
登録日平成9年4月25日
特許請求の範囲請求項1
「1枚の版に複数頁分の原稿の像を形成するための多頁面付け方法
であって,多頁面付けパターンに必要な各種データをパターンデー
タとフォーマットデータに分類し,複数のパターンデータからなる
パターンデータ群と複数のフォーマットデータからなるフォーマッ
トデータ群を記憶させておき,各データ群の中から任意に選択した
各データを組み合わせて最終フォーマットを作成することを特徴と
する多頁面付け方法。」
()本件発明の構成要件を分説すると,次のとおりとなる。2
A1枚の版に複数頁分の原稿の像を形成するための多頁面付け方法であ
って,
B多頁面付けパターンに必要な各種データをパターンデータとフォーマ
ットデータに分類し,
C複数のパターンデータからなるパターンデータ群と複数のフォーマッ
トデータからなるフォーマットデータ群を記憶させておき,
D各データ群の中から任意に選択した各データを組み合わせて最終フォ
ーマットを作成すること
Eを特徴とする多頁面付け方法。
()被告は,多頁面付け方法を内包する製版印刷に関するパッケージソフト3
ウェアであるファシリス()(ファシリスには,いくつかのヴFACILISIM
ァージョンがあるが,いずれのヴァージョンにおいても,その面付け方法
は本件発明との対比の関係では同一である。以下,ファシリスを「被告製
品」と総称し,被告製品に基づく面付け方法を「被告方法」という。)を,
遅くとも平成5年8月から製造,販売している。
()被告方法は,本件発明の構成要件A,Eを充足する。4
2争点
()被告方法の構成1
()被告方法は本件発明の技術的範囲に属するか。2
ア構成要件Bの充足性
イ構成要件Cの充足性
ウ構成要件Dの充足性
()被告の行為は,本件特許権の原告の共有持分の侵害となるか。3
()原告の損害額4
3争点に対する当事者の主張
()争点()(被告方法の構成)について11
(原告)
被告方法の構成を分説すると次のとおりである。
a1枚の版に複数頁の原稿の像を形成するための多頁面付け方法であっ
て,
b刷版サイズと仕上がりサイズ,面付け数,折りの種類など,台の基本
的な情報を用い,
cこれらの情報を組み合わせてレイアウトを作成すること
dを特徴とする多頁面付け方法。
(被告)
被告方法の構成を分説すると次のとおりである。
a1枚の版に複数頁分のページコンテンツを含む印刷物データを形成す
るための多頁面付け方法であって,
b多頁面付けパターンに必要な各種設定項目を,パターン及びフォーマ
ットに分類することなくレイアウトデータとして設定し,
c複数のレイアウトデータからなるレイアウトデータ群を記憶させてお
き,
dレイアウトデータ群から任意に選択したレイアウトデータが最終フォ
ーマットを形成すること
eを特徴とする多頁面付け方法
()争点()ア(構成要件Bの充足性)について22
(原告)
ア本件発明の構成要件Bの解釈
(ア)「パターンデータ」及び「フォーマットデータ」の意義
a実際の多頁面付け作業を実施するに際しては,具体的な寸法やパ
ターンを指定しなければ作業を進めることができないことは自明で
ある。したがって,個々の設定項目についてのデータも,「パター
ンデータ」又は「フォーマットデータ」であることは明らかである
(以下,パターンに関する個々の設定項目についてのデータを「最
小パターンデータ」と,フォーマットに関する個々の設定項目につ
いてのデータを「最小フォーマットデータ」といい,最小パターン
データと最小フォーマットデータを併せて「最小データ」とい
う。)。
また,本件明細書全体の記載からすれば,最小パターンデータ又
は最小フォーマットデータの集合であり,それ自体で具体的なパタ
ーンやフォーマットを形成でき,それぞれ一つずつ組み合わせて最
終フォーマットを作成するに足るデータ(以下,パターンに関する
ものを「セットパターンデータ」と,フォーマットに関するものを
「セットフォーマットデータ」といい,セットパターンデータとセ
ットフォーマットデータを併せて「セットデータ」という。)も,
「パターンデータ」又は「フォーマットデータ」である。
bこれに対し,被告は,「パターンデータ」とはセットパターンデ
ータを,「フォーマットデータ」とはセットフォーマットデータを
意味し,最小データはこれに含まれない旨主張するが,被告の主張
する「具体的パターンを形成する」,「具体的フォーマットを形成
する」との文言の意味が不明である上に,そもそも本件明細書では,
明確に,「(フォーマットデータ)とは,・・・各種寸法データで
ある。」(7欄2ないし6行目)と定義されていることから,被告
の上記主張は失当である。
cまた,被告は,本件特許出願の審査段階において発せられた拒絶
理由通知に対して提出された意見書(乙4。以下「本件意見書」と
いう。)を引用して,「パターンデータ」及び「フォーマットデー
タ」は,それぞれ一つずつを組み合わせて最終フォーマットを作成
するに足るものでなければならないと主張する。
しかしながら,被告が引用する箇所は,「それぞれのデータ群の
中から任意に選択した各データを組み合わせ」る操作として,「そ
れぞれのデータ群の中から多頁面付けに要求される両データのそれ
ぞれ一つを選択」するという,ごく当たり前のことを述べたにすぎ
ず,「これを組み合わせて(P1+F1)」とは正にこのことであ
り,このことをもって組み合わせる回数がただ1回であると限定す
ることは不可能である。すなわち,本件意見書においては,パター
ンデータとフォーマットデータを組み合わせることによって最終フ
ォーマットを作成するということが主張されているだけであり,そ
の組み合わせ操作が繰り返されるか,1回だけで済むかは,組み合
されるデータによるのである。実際にも,「パターンデータ群(P
n)」と「フォーマットデータ群(Fn)」の中からそれぞれ一つ
を組み合わせ,ただ1回の組み合わせだけで最終フォーマット(F
F)が形成されるなどとはどこにも記載されていない。
また,本件特許出願の審査段階において引用された引用文献A及
びBに記載された発明は,本件発明における最終フォーマットを手
作業によって得た後の別個の作業に関する発明であり,引用文献C
に記載された発明は,印刷される各頁の原稿の作成方法に関する発
明であって,本件発明の多頁面付け方法とは直接関係がないから,
原告としては,審査段階で,本件発明における「パターンデータ」
を被告が主張するようなものに限定する必要性も理由もない。実際,
審査段階で提出された補正書には,被告が主張するような補正内容
は全く見当たらず,また,本件明細書には,実施例として,一つ一
つのパターンデータを組み合わせてセットパターンを作成する工程
が明記されている上,このパターンデータ群の中から一つを選択し
これを組み合わせていくという一つ一つの作業工程が,本件発明の
構成要素の一部になっていることも,本件明細書の6欄1ないし3
行目の「本発明は,多頁面付けのパターンの作成部分と最終フォー
マット作成部分に大別することができる」との記載から明らかであ
る。
(イ)「分類」の意義
本件発明以前における多頁面付けは,手作業によって行われていた
が,手作業によって最終フォーマットを作成する場合には,実際の頁
を順次手作業で貼り付けるなどするのであるから,頁のサイズや頁と
頁の間隔等を,設定及び変更可能なデータと認識して最終フォーマッ
トを作成するという考え方は存在しなかった。
本件発明は,最終フォーマットの作成過程において,「パターンデ
ータ」という変更及び視覚化の可能なデータを観念する一方,視覚化
されたパターンの位置を決める,変更可能な寸法を「フォーマットデ
ータ」として観念し,両者を別異のデータとして分類して意識した。
すなわち,本件発明は,「パターンデータ」と「フォーマットデー
タ」とを別異のデータとして認識して分類するようにしたのであり,
本件発明の構成要件Bの「分類」も,このような意味を有する。
そして,本件発明において,「パターンデータ」は,パターンを視
覚化させるデータであり,視覚によって確認することのできる画像を
作成するためのデータである。これに対し,「フォーマットデータ」
は寸法データであり,版の寸法,頁のサイズ,ドブの幅,くわえの幅
のデータ等の寸法は,例えば,予め記憶させた版の種類を選択するこ
とによって,又はキーボードから直接入力することによって設定する
ことができ,その設定によってパターンの位置が定められる。このよ
うに,パターンデータとフォーマットデータは,異なった種類のデー
タとして機能的に分類されている。
イ対比
(ア)本件発明における「パターンデータ」及び「フォーマットデー
タ」の意味は,前記アのとおりであり,被告製品における印刷サイズ
及び仕上がりサイズなどについてのデータは,フォーマットデータに
当たり,面付け数及び折りの種類などについてのデータは,パターン
データに当たる。
(イ)被告製品においては,面付け数,折りの数,背丁等についての具
体的なパターンデータや頁サイズ,刷版サイズ,ドブ幅等についての
具体的なフォーマットデータをそれぞれ独立に設定することができる。
また,被告製品では,パターンデータとフォーマットデータとは見か
け上混在し,パターンデータとフォーマットデータは分類されていな
いように見えるが,被告製品のレイアウトデータにおける寸法データ
は変更することが可能であるのに対し,パターンデータは変更するこ
とができないから,被告製品においては,パターンデータとフォーマ
ットデータが,それぞれ分類可能に存在している。
被告製品においては,寸法データを変更しようとしてパターンデー
タが変更されることはなく,パターンデータに対応するパターンを変
更しようとして寸法が変わるというようなことはあり得ない。すなわ
ち,被告製品においては,フォーマットデータとパターンデータを異
なった種類のデータとして認識しているのであるから,被告製品では,
フォーマットデータとパターンデータの分類がされているといわざる
を得ない。
(ウ)したがって,被告製品を用いる被告方法は,本件発明の構成要件
Bを充足する。
(被告)
ア本件発明の構成要件Bの解釈
(ア)「パターンデータ」及び「フォーマットデータ」の意義
本件発明における「パターンデータ」とはセットパターンデータを,
「フォーマットデータ」とはセットフォーマットデータを意味し,最
小データは,「パターンデータ」ないし「フォーマットデータ」とは
いわないと解すべきである。
理由は以下のとおりである。
a構成要件Dにおける「各データ群」が,構成要件Cの「パターン
データ群」及び「フォーマットデータ群」を指すことは明白である
ところ,構成要件Dの「各データ群から任意に選択した各データ」
とは,「各」という用語が「おのおの。それぞれ」の意味を有する
ことにかんがみれば,「パターンデータ群」の中から一つの「パタ
ーンデータ」を選択し,「フォーマットデータ群」の中から一つの
「フォーマットデータ」を選択することを意味すると解釈できる。
さらに,構成要件Dの「各データ群の中から任意に選択した各デ
ータを組み合わせて最終フォーマットを作成する」とは,選択され
た「パターンデータ」一つと,「フォーマットデータ」一つを組み
合わせて「最終フォーマット」を作成することを意味すると解され
るが,このことは,「パターンデータ」一つと,「フォーマットデ
ータ」一つを組み合わせることによって「最終フォーマット」を作
成することが可能であることも意味する。
b本件明細書の5欄37ないし39行目には,「パターンデータは,
少なくとも頁の順番,頁の天の方向,背丁,頁の露光の順番,くわ
えの方向のデータとしてもよい」との記載があるが,本件明細書の
4欄3ないし6行目において,「各種」の「寸法」が集合し,集合
することによって構成されるのが「フォーマットデータ」であると
されていることにかんがみれば,上記記載は,同記載のすべてのデ
ータが必須であることを意味し,「パターンデータ」は,「頁の順
番」,「頁の天の方向」,「背丁」,「頁の露光の順番」,「くわ
えの方向」一つ一つを意味するというのではなく,これらの設定項
目についてのデータの集合により構成されることを意味していると
考えるのが整合的である。
同様に,「フォーマットデータは,少なくとも版の寸法,頁のサ
イズ,ドブの幅,くわえの幅のデータとする。」(5欄35ないし
37行目)との記載は,「フォーマットデータ」が上記各設定項目
についてのデータの集合により構成されていることを意味すると解
すべきである。
c本件明細書の8欄29ないし33行目には,「本発明によれば,
任意のパターンと任意のフォーマットデータとを組み合わせて多種
多様の多頁面付け最終フォーマットを得ることができるため,製版
カメラ等において対応できる範囲をほとんど無限に拡大することが
できる。」との記載があるが,同記載は,「パターンデータ」に
「フォーマットデータ」が組み合わせられることにより,「最終フ
ォーマット」が得られることを意味するのであるから,「フォーマ
ットデータ」は,具体的フォーマットを形成するために必要な最小
フォーマットデータの集合を意味するというべきである。
d本件明細書の実施例においては,入力された個々の最小のパター
ンデータの集合を一つの「パターンデータ」として取り扱い,デー
タを入力したデータディスクに対し一つの番号を付しているが,こ
のことは,「パターンデータ」が個々の最小のパターンデータ自体
ではなく,その集合を意味するという解釈と整合する。
また,本件明細書の実施例においては,「パターンデータ」の入
ったディスク1枚と「フォーマットデータ」の入ったディスク1枚
で最終フォーマットの作成が可能であることを示しているが,この
ことは,「パターンデータ」及び「フォーマットデータ」とは,そ
れぞれ具体的なパターンないしはフォーマットを形成するために必
要とされる個々の設定項目についてのデータ(最小のデータ)の集
合を意味するとの解釈に整合する。
e本件特許の特許公報(以下「本件公報」という。)の第1図には,
「面付数」,「天方向」,「背丁の数」,「背丁の位置」,「背丁
の順位」,「背丁の天方向」,「1折のページ数」,「1版中の折
りの種類,数」がデータディスクに入力され,パターン番号を入力
される状況が図示され,第3図では,パターンデータとフォーマッ
トデータの入ったディスク1枚ずつが組み合わせられることにより,
最終フォーマットが作成される過程が図示されているが,このよう
な図面の記載は,「パターンデータ」及び「フォーマットデータ」
の解釈に関する被告の主張と整合している。
f本件特許は,その出願の審査段階において拒絶理由通知が発せら
れたが,これに対して提出された本件意見書には,「本願請求項1
記載の発明は,・・・を構成上の特徴としています。これを具体的
に説明すると,多頁面付けに必要なデータを,パターンデータ群
(Pn)と,フォーマットデータ群(Fn)に分類し,それぞれの
データ群の中から多頁面付けに要求される両データのそれぞれ一つ
を選択し,これらを組み合わせて(P1+F1),所望の最終フォ
ーマット(FF)を得ることを特徴としています。」,「引例1記
載の発明によれば,多種多様の数多くのモードの中から所望のもの
を選択する必要があるため,本願発明のように,パターンデータ群
の中から一つとフォーマットデータ群の中から一つを選択して組み
合わせるようにしたものに比べて,最終フォーマットの作成が面倒
である」との記載がある。
(イ)「パターンデータとフォーマットデータに分類し」の意義
「分類」とは,「種類によって分けること。類別」を意味すること
から,本件発明の構成要件Bの「パターンデータとフォーマットデー
タに分類し」とは,単に「パターンデータ」又は「フォーマットデー
タ」の構成要素に分類可能な個々の設定項目についてのデータが存在
するだけでは足りず,現実に各種データが「パターンデータ」と「フ
ォーマットデータ」を構成する要素として分けられていることが必要
と解すべきである。
イ対比
被告製品が実施する面付け方法は,多頁面付けパターンに必要な印刷
サイズ,仕上がりサイズ,面付け数,用紙の返し方向,マージン,くわ
え量,ドブ幅,綴じ位置等の各種設定項目について,最小データとして
入力することによってレイアウトを作成している。
したがって,被告製品が実施する面付け方法は,「多頁面付けパター
ンに必要な各種データを」セットパターンデータとしての「パターンデ
ータ」と,セットフォーマットデータとしての「フォーマットデータ」
とに分類しておらず,本件発明の構成要件Bを充足しない。
()争点()イ(構成要件Cの充足性)について32
(原告)
ア最小データは,必要となったときにその都度入力してもよいが,入力
すべき最小データが類似のデータの場合,それらの最小データを群とし
てまとめその中から適宜選択するようにすれば入力の作業効率がよくな
る。そこで,本件発明は,類似の最小データを,データ群として「記
憶」させたのである。本件発明の構成要件Cの「パターンデータ群」,
「フォーマットデータ群」とは,最小データを,入力の作業効率の向上
の観点から類似するものでまとめたデータを意味する。本件発明の構成
要件Cは,このように,作業の効率化を図るためのデータの蓄積を,
「方法の発明」の一つの工程という観点から記述し直したにすぎない。
本件発明において,頁の順番,頁の天の方向,トンボ,背丁のデータ
等の「パターンデータ」は,キーボードから直接入力することができな
いから,通常は,迅速にそれらのパターンを使用したり指定したりする
ことができるように,それらの「パターンデータ」を予めコンピュータ
に記憶させておく。版の寸法,頁のサイズ,仕上がりサイズ,ドブの幅,
くわえの幅等の「フォーマットデータ」は,キーボードから直接入力す
ることもできるが,予めコンピュータに記憶させておき,設定時にこれ
らの中からいずれかを指定することによって設定することもできる。こ
れらが,本件発明の構成要件Cの「記憶させておき」の内容である。
イ被告製品の場合にも,「パターンデータ」と「フォーマットデータ」
を分類し,上記のように記憶させていることは明らかであり,このこと
は,被告製品に関連してされた特許出願(特願4−184371)の明
細書の【0017】段落の4ないし6行目の記載によって確認すること
ができる。
したがって,被告製品を用いる被告方法は,本件発明の構成要件Cを
充足する。
(被告)
ア本件発明の構成要件Cの解釈
(ア)「パターンデータ」,「フォーマットデータ」の意義
まず,前記()で主張したように,本件発明における「パターンデー2
タ」とはセットパターンデータを,「フォーマットデータ」とはセッ
トフォーマットデータを意味する。
以下,「パターンデータ」,「フォーマットデータ」という言葉を
使用するときは,上記の意味で使用する。
(イ)「記憶させ」の意義
本件発明の構成要件Cにおける「記憶」とは,「パターンデータ」
と「フォーマットデータ」が分類・区別された状態を前提に,「パタ
ーンデータ」,「フォーマットデータ」各々が一つの単位として記憶
媒体に「記憶」されていることを意味するものと解すべきである。理
由は以下のとおりである。
a前記()ア(イ)で主張したように,本件発明の構成要件Bの「パタ2
ーンデータとフォーマットデータに分類し」たというためには,現
実に各種データが「パターンデータ」と「フォーマットデータ」を
構成する要素として分けられていることが必要であるところ,本件
発明においては,この「分類」の構成要件を受けて「記憶」の構成
要件が設けられているから,「パターンデータ」と「フォーマット
データ」は,上記のとおり分類された状態で,別個に「記憶」され
ていることが必要と解すべきである。
b「パターンデータ」と「フォーマットデータ」は「組み合わせ」
の対象となるのであるから(構成要件D),本件発明は,「パター
ンデータ」及び「フォーマットデータ」がそれぞれその単位で記憶
媒体に記憶されていることを前提としている。
c本件明細書は,「パターンとフォーマットデータは任意に設定で
き,これらの組み合わせも自由である」(5欄45ないし47行
目),「本発明によれば,任意のパターンと任意のフォーマットデ
ータとを組み合わせて」(8欄29ないし30行目)と記載し,
「パターンデータ」と「フォーマットデータ」の「記憶」されたも
のは「組み合わせ」の対象となるとしていることから,本件発明で
は,「パターンデータ」は「パターンデータ」単位で,「フォーマ
ットデータ」は「フォーマットデータ」単位で記憶されることを前
提としている。
d本件明細書には,「・・・これによってパターン作成に必要な一
通りのデータの入力が終了する。そこで次に,ディスクドライブ装
置にデータディスクをセットし,パターン作成処理を行う。そして,
作成したパターンに付する番号を入力し,データディスクにそのパ
ターンデータを書き込む。」(6欄26ないし31行目)との記載
があり,「パターンデータ」は,「パターンデータ」単位で「記
憶」されている。
e本件明細書には,「・・・上記実施例によれば,パターン作成に
おいて任意のパターンデータを入力することにより任意の多頁面付
けパターンを作成することができ,これに任意の寸法データ(フォ
ーマットデータ)を入力して任意の最終フォーマットを作成するこ
とができる」(8欄3ないし7行目)との記載があるが,これは,
「記憶」されている「パターンデータ」と「記憶」されている「フ
ォーマットデータ」が別個,個別に入力されることで任意の最終フ
ォーマットが作成されることを意味するから,「パターンデータ」
及び「フォーマットデータ」は,それぞれの単位で記憶されている
との解釈と整合する。
f本件公報の第1図には,複数の設定項目についてのデータが入力
された上で,1枚のデータディスク内にそれら複数の設定が記憶さ
れ,一つのパターン番号が付されるという「パターンデータ」の作
成作業が示されており,また,第3図では,「最終フォーマット」
作成について,「パターンデータ」の入ったディスクをセットして
「パターンデータ」を読み込み,さらに,「フォーマットデータ」
をディスクから読み込んで「最終フォーマット」を作成するという
過程が図示されており,このような図面の記載は,「記憶させ」に
ついての被告の上記解釈と一致する。
g本件意見書において,「引例1記載の発明は,・・・『制御部C
のCPU55には,用紙の寸法,印刷機の形式と大きさ,製本の様
式等各種の要求に対応した,用紙に刷り合わせる原稿の数とその配
置に関する多種のモードが予め記録され,操作盤54の選択ボタン
により,上記モードを自由に選択することができるようになってい
る。』とあるとおり,本願発明でいうところのパターンに関するデ
ータとフォーマットに関するデータとが分類されることなく混然と
記録された多種多様のモードの中から一つを選択するものであって,
本願発明のように,多頁面付けパターンに必要な各種データをパタ
ーンデータとフォーマットデータに分類するという思想や,複数の
パターンデータからなるパターンデータ群と複数のフォーマットデ
ータからなるフォーマットデータ群を記憶させるという思想や,各
データ群の中から任意に選択した各データを組み合わせて最終フォ
ーマットを作成するという思想はありません。」(2頁16ないし
27行目)との記載があるように,本件特許出願人は,制御部に
「用紙の寸法」(フォーマットに関する個々の設定項目についての
データ),「製本の様式」(パターンに関する個々の設定項目につ
いてのデータ)が予め記録されている状態が,パターンに関するデ
ータとフォーマットに関するデータとが分類されることなく混然と
記録されているものであるとの意見を述べている。
イ対比
被告製品の実施する面付け方法では,セットパターンデータである
「パターンデータ」とセットフォーマットデータである「フォーマット
データ」が区別された状態で,各々が一つの単位として「記憶」されて
いないのであるから,「複数のパターンデータからなるパターンデータ
群」,「複数のフォーマットデータからなるフォーマットデータ群」の
「記憶」がされているとはいえない。
したがって,被告製品を用いる被告方法は,本件発明の構成要件Cを
充足しない。
()争点()ウ(構成要件Dの充足性)について42
(原告)
ア「各組み合わせて」の意義
(ア)「パターンデータ」及び「フォーマットデータ」の意味は,前記
()で主張したとおりであり,このことから,本件発明におけるデータ2
の組合せの態様は,「パターンデータ群A×パターンデータ群B×パ
ターンデータ群C×・・・×フォーマットデータ群A’×フォーマッ
トデータ群B’×・・・」とおり存在し,本件発明においては,これ
らの組合せの中から合理的な組合せを適宜選択すればよいことになる。
すなわち,本件発明において最終フォーマットを作成する際に行われ
る組合せの方法としては,①一つのセットパターンデータに,一つの
セットフォーマットデータを組み合わせて最終フォーマットを作成す
るという態様に限定されることなく,②セットパターンデータに,最
小フォーマットデータを一つずつ順次組み合わせていって最終フォー
マットを作成する態様,③まずパターンデータ群A及びBの中から最
小パターンデータaとbを選択し,これとフォーマットデータ群B’
から選択された最小フォーマットデータb’を組み合わせ,次いで,
別に選択された最小パターンデータcを組み合わせるというように,
逐次組み合わせていって最終フォーマットを作成する態様等がある。
(イ)この点,被告は,構成要件Dの意味を上記①の態様に限定するが,
上記①の態様は本件発明の好ましい態様であるにすぎず,本件発明を
上記①の態様に限定解釈することには全く根拠がない。
また,被告は,最小パターンデータと最小フォーマットデータとの
複数回の組合せを含むことを示唆する記載はない旨主張するが,多頁
面付け作業はその設定項目の多様性を考慮すれば,当然複数回の工程
の組合せからなると考えるのが常識であり,本件発明を,セットパタ
ーンデータとセットフォーマットデータとを1回のみ組み合わせると
いう特殊な場合に限定するのであれば,そのことを補正によって明記
しなければならないが,そのような補正はされていないから,被告の
上記主張は失当である。
イ対比
(ア)本件発明の構成要件Dの意味は,上記のとおりであるから,被告
製品を用いる被告方法が同構成要件Dを充足することは明らかである。
(イ)なお,被告は,被告製品の実施方法が,既に作成されてフォルダ
に保存されているレイアウトファイルのうちの一つを読み出し,この
読み出したレイアウトファイルのうちの個々の設定項目についてのデ
ータを変更して,新たなレイアウトを作成するという方法であると主
張するが,このような方法は,本件発明の実施例(本件明細書の6欄
46行目ないし7欄1行目,7欄7ないし12行目)と同一であり,
本件発明の技術的範囲に含まれる。すなわち,被告主張の上記方法で
は,選択されたレイアウトのうち,すべてのフォーマットデータが修
正される場合は,使用可能なデータとして実際に機能するのはパター
ンデータのみであり,既存のフォーマットデータは修正消去されるデ
ータである以上,新たなレイアウトにおいては全く意味を有しない存
在といえるから,上記選択されたレイアウトは,本件明細書の8欄3
6ないし39行目に記載された「さらに,予め用意した各種のパター
ンデータ群の中から適宜のパターンデータを選択し,これに任意のフ
ォーマットデータを入力して所望の最終フォーマットを作成するよう
にした場合」における予め用意した各種のパターンデータ群の中から
選択された適宜のパターンデータ(セットパターンデータ)というこ
とができ,これに,個々の設定項目についてのデータを変更して,新
たなレイアウトを作成することは,選択されたパターンデータ(セッ
トパターンデータ)にフォーマットデータ(最小フォーマットデー
タ)を組み合わせる行為に該当するといえるのである。
この点,被告は,原告が引用した上記の本件明細書の6欄46行目
ないし7欄1行目及び8欄36ないし39行目は,本件明細書の特許
請求の範囲の記載に対応する部分ではなく,単に本件特許の出願当初
の明細書における特許請求の範囲に対応する記載部分であり,特許請
求の範囲の補正に応じて削除されるべきものが残存していたにすぎな
いから,このような記載部分を現在の特許請求の範囲による技術的範
囲の解釈のために参酌することは許されないと主張する。しかし,原
告が引用した上記部分は,本件明細書に厳然と存在しており,審査段
階においても削除する必要のなかった部分である。すなわち,上記の
部分は,補正後の特許請求の範囲に記載された発明の効果でもあり実
施例でもあると認められたから,従前の特許請求の範囲が一部補正さ
れた際も,その補正に関係しないものとして意図的に削除されずに残
ったものである。そして,上記の部分は,本件発明の技術的範囲の解
釈に重要な役割を有するのであり,その意味で,本件発明の技術的範
囲を構成するものといえる。
(被告)
ア「各データを組み合わせて」の意味
「各データ」とは,セットパターンデータとセットフォーマットデー
タを意味し,「各データを組み合わせて」とは,「パターンデータ群」
からセットパターンデータである「パターンデータ」一つと,「フォー
マットデータ群」の中からセットフォーマットデータである「フォーマ
ットデータ」一つが,一度組み合わせられることを意味すると解すべき
である。
理由は以下のとおりである。
(ア)このように解するのが文理上自然である。
(イ)「組み合わせ」が仮に複数回のものも含むのであれば,特許請求
の範囲の記載中に,「1回ないしは複数回組み合わせ」といった記載
がされるのが当然であるにもかかわらず,そのような記載は全く存在
せず,また,他に複数回の組合せも含むことを示唆する記載も存在し
ない。
(ウ)本件明細書の実施例及び本件公報の第3図でも,「パターンデー
タ」と「フォーマットデータ」が一つずつ,一度限り組み合わせられ
る作業が行われており,「パターンデータ」又は「フォーマットデー
タ」の入ったデータディスクからそれぞれ複数読み込まれ,組み合わ
せられるという記載は存在しない。
(エ)前記()で指摘したように,本件意見書には,「それぞれのデータ2
群の中から多頁面付けに要求される両データのそれぞれ一つを選択し,
これらを組み合わせて(P1+F1),所望の最終フォーマット(F
F)を得ることを特徴としています。」,「本願発明のように,パタ
ーンデータ群の中から一つとフォーマットデータ群の中から一つを選
択して組み合わせるようにした・・・」,「引例1記載の発明によれ
ば,多種多様の数多くのモードの中から所望のものを選択する必要が
あるため,本願発明のように,パターンデータ群の中から一つとフォ
ーマットデータ群の中から一つを選択して組み合わせるようにしたも
のに比べて,最終フォーマットの作成が面倒である」との記載がある
ように,本件特許の出願人は,審査段階において,従来の多頁面付技
術では,「引例1記載の発明」のように数多くのモードの中から一つ
ずつ選択して最終フォーマットを作成する必要があったため,最終フ
ォーマット作成が面倒であったのに対して,本件発明では,「パター
ンデータ」一つと「フォーマットデータ」一つのみを選択して1回組
み合わせることにより,このような面倒さを解消した点を本件発明の
特徴として強調している。
(オ)「組み合わせ」の意味を原告のように解すると,最小データを組
み合わせることもこれに含まれることになり,「パターンデータ」と
「フォーマットデータ」に分類し,記憶するという本件発明の要件が
全く無視されることになる。
イ対比
(ア)被告製品の実施する面付け方法では,セットパターンデータであ
る「パターンデータ」とセットフォーマットデータである「フォーマ
ットデータ」を「組み合わせ」る作業は全く行われていないから,被
告製品を用いる被告方法は,本件発明の構成要件Dを充足しない。
(イ)この点,原告は,被告製品の実施する面付け方法が,本件発明の
実施例と同じであると主張する。
しかしながら,被告がその根拠として引用する本件明細書の6欄4
6行ないし7欄1行目及び8欄36ないし39行目の記載は,いずれ
も本件明細書の特許請求の範囲の記載に対応する部分ではなく,単に
本件特許の出願当初の明細書における特許請求の範囲に対応する記載
部分であり,特許請求の範囲の補正に応じて削除されるべきものが残
存していたにすぎないから,このような記載部分を現在の特許請求の
範囲による技術的範囲の解釈のために参酌することは許されないとい
うべきである。
すなわち,本件特許の出願当初の明細書における特許請求の範囲は,
「1枚の版に複数頁分の原稿の像を形成するための多頁面付け方法で
あって,多頁面付けパターンに必要な各種データを入力して各種の多
頁面付けパターンを作成し,作成された各種多頁面付けパターンの中
から任意のパターンを選択し,これに各種寸法データ(フォーマット
データ)を入力して最終フォーマットを作成することを特徴とする多
頁面付け方法」と記載されていたが,平成7年3月3日に,審査官よ
り拒絶理由通知が発せられたのを受けて,出願人は,本件補正書によ
り特許請求の範囲を減縮する補正を行い,その結果,特許請求の範囲
に,セットパターンデータである「パターンデータ」とセットフォー
マットデータである「フォーマットデータ」に分類すること,複数の
「パターンデータ群」と複数の「フォーマットデータ群」を記憶させ
ること,各セットデータ群の中から任意に選択された各セットデータ
を組み合わせることという構成要件が加えられた。ところが,上記補
正に際しては,明細書の発明の詳細な説明における新たな特許請求の
範囲の発明に関係のない部分の削除その他の補正は行われず,本件明
細書の上記部分が残ってしまったのである。
このように,明細書の発明の詳細な説明に,補正に伴い削除すべき
記載が削除されずにそのまま残ってしまった場合でも,特許発明の技
術的範囲は,特許法70条の基本原則のとおり,特許請求の範囲の記
載に従って定めることは当然である。
また,被告が引用する本件明細書の7欄7ないし12行目の記載に
ついては,過去のセットパターンデータと過去のセットフォーマット
データを組み合わせても,具体的な場合に何らかのデータを変更する
必要がある場合が生ずることは当然予想されるから,「これに変更し
ようとするデータを入力する」との記載が入っただけであり,正に本
件補正により限定された現在の特許請求の範囲に記載された発明を記
述したものである。
したがって,原告の上記主張は失当である。
()争点()(被告の行為は,本件特許権の原告の共有持分の侵害となる53
か。)について
(原告)
前記()ないし()で主張したように,被告方法は,本件発明の構成要件24
をすべて充足している。
そして,被告製品を購入したユーザーは,被告製品をパソコンにインス
トールする以外に使用方法はなく,また,ユーザーが被告製品を使用して
多頁面付け作業を実施すれば,本件発明を実施することになるから,被告
製品を製造,販売する行為は,特許法102条3号又は4号の間接侵害を
構成する。
(被告)
争う。
()争点()(原告の損害額)について64
(原告)
ア主位的請求
(ア)特許権侵害に基づく損害賠償請求
被告は,平成5年8月から平成17年7月末日までの間に,被告製
品を単価120万円で,少なくとも6960個製造,販売し,83億
5200万円の売上を上げたが,被告が被告製品の開発費等の経費と
して支出した額は1億5770円であるから,被告製品の販売による
利益率は,約86%,被告製品1個当たりの販売利益は,103万円
となる。
被告は,平成14年8月から平成17年7月までの間に,被告製品
を少なくとも4680個販売しており,これにより,少なくとも48
億2040円の利益を得た(4680個×103万円=48億204
0万円)。
本件特許権についての原告の共有持分は10分の6であるから,原
告の損害額は,28億9224万円と推定される。
(イ)不当利得返還請求
被告は,平成5年8月から平成14年7月までの間に,被告製品を
少なくとも2280個販売し,少なくとも23億4840万円(22
80個×103万円=23億4840万円)の利益を得ている。
そして,原告の本件特許権についての共有持分は10分の6である
から,被告の不当利得金は,14億0904万円と推定される。
(ウ)したがって,原告は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請
求として,平成14年8月から平成17年7月までの間に原告が被告
製品の販売により得た利益28億9224万円の支払請求権を有して
いるが,そのうち5億円の支払を,また,不当利得返還請求として,
平成5年8月から平成14年7月までに被告が得た利益14億090
4万円の支払請求権を有しているが,そのうちの1億6000万円の
支払を求める。
イ予備的請求(主位的請求のうち,不当利得返還請求とは重複する。)
被告は,平成5年8月から平成17年7月までの間に,被告製品を少
なくとも6960個販売し,少なくとも71億6880万円(6960
個×103万円=71億6880万円)の利益を得ている。
そして,原告の本件特許権についての共有持分は10分の6であるか
ら,被告の不当利得金は,43億0128万円と推定される。
したがって,原告は,被告に対して,不当利得返還請求として,平成
5年8月から平成17年7月までの間に原告が被告製品の販売により得
た利益43億0128万円の支払請求権を有しているが,そのうち6億
6000万円の支払を求める。
(被告)
被告が平成5年8月から平成14年7月までの間に被告製品を少なくと
も2280個販売したことは認め,その余は争う。
なお,本件特許の登録日は,平成9年4月25日であるから,原告が登
録前である平成5年8月から不当利得返還請求をする根拠は不明である。
第3当裁判所の判断
1争点()イ,ウ(構成要件C,Dの充足性)について2
事案にかんがみ,まず,争点⑵イ,ウについて検討する。
()構成要件C,Dの意義について1
ア出願等の経緯及び明細書等の記載について
(ア)出願等の経緯
証拠(甲1,3,乙1ないし4)並びに弁論の全趣旨によれば,本
件特許の出願及び特許査定に至る経緯について,次の各事実が認めら
れる。
a本件特許は,平成元年7月13日に出願され(以下「本件出願」
という。),平成元年8月9日付けで,本件出願の願書に最初に添
付された明細書(以下「当初明細書」という。)及び図面(同日付
け補正により補正された後の図面を以下「本件図面」という。)に
ついて,誤記の訂正のために,若干の補正がされ,その後,平成3
年2月27日に出願公開された(乙1)が,平成7年3月3日付け
で,特許庁審査官から,本件出願について,特許法29条2項によ
り特許を受けることができないことを理由とした拒絶理由通知(以
下「本件拒絶理由通知」といい,本件拒絶理由通知に係る拒絶理由
通知書を「本件拒絶理由通知書」という。)が発せられた(乙2)
ことから,本件特許の出願人は,同年5月17日付けで,平成元年
8月9日付けの上記補正により補正された後の明細書の特許請求の
範囲のすべてと発明の詳細な説明の一部を補正する旨の補正(以下
「本件補正」という。)をし(乙3),併せて,特許庁審査官に対
し,同日付けの本件意見書(乙4)を提出した。
b本件拒絶理由通知書には,本件出願に係る発明の進歩性が否定さ
れる理由として,特公昭59−47290号公報が先行文献の一つ
として引用され(以下「本件引用例」という。),「製版機におい
て,製本様式に応じた複数のモードを予め記憶しておき,その中の
モードを選択する点及び撮影倍率や寸法を考慮して面付けを行う
点」との指摘がなされている。
c当初明細書の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。
(a)請求項1
「1枚の版に複数頁分の原稿の像を形成するための多頁面付け
方法であって,多頁面付けパターンに必要な各種データを入力し
て各種の多頁面付けパターンを作成し,作成された各種多頁面付
けパターンの中から任意のパターンを選択し,これに各種寸法デ
ータ(フォーマットデータ)を入力して最終フォーマットを作成
することを特徴とする多頁面付け方法」
(b)請求項2
「1枚の版に複数頁分の原稿の像を形成するための多頁面付け
方法であって,予め用意されている各種の多頁面付けパターンの
中から任意のパターンを選択し,これに各種寸法データ(フォー
マットデータ)を入力して最終フォーマットを作成することを特
徴とする多頁面付け方法」
d本件意見書には,次のとおりの記載がある。
「本願請求項1記載の発明は,別途手続補正書で改めた特許請求
の範囲に記載されているとおり,a.1枚の版に複数頁分の原稿の
像を形成するための多頁面付け方法であること,b.多頁面付けパ
ターンに必要な各種データをパターンデータとフォーマットデータ
に分類し,複数のパターンデータからなるパターンデータ群と複数
のフォーマットデータからなるフォーマットデータ群を記憶させる
こと,c.各データ群の中から任意に選択した各データを組み合わ
せて最終フォーマットを作成すること,を構成上の特徴としていま
す。
これを具体的に説明すると,多頁面付けに必要なデータを,パタ
ーンデータ群(Pn)と,フォーマットデータ群(Fn)に分類し,
それぞれのデータ群の中から多頁面付けに要求される両データのそ
れぞれ一つを選択し,これを組み合わせて(P1+F1),所望の
最終フォーマット(FF)を得ることを特徴としています。」(2
頁4ないし15行目)
「これに対して引例1記載の発明は,引例1の第5欄第31行な
いし第36行に『制御部CのCPU55には,用紙の寸法,印刷機
の形式と大きさ,製本の様式等各種の要求に対応した,用紙に刷り
合わせる原稿の数とその配置に関する多種のモードが予め記録され,
操作盤54の選択ボタンにより,上記モードを自由に選択すること
ができるようになっている。』とあるとおり,本願発明でいうとこ
ろのパターンに関するデータとフォーマットに関するデータとが分
類されることなく混然と記録された多種多様のモードの中から一つ
を選択するものであって,本願発明のように,多頁面付けパターン
に必要な各種データをパターンデータとフォーマットデータに分類
するという思想や,複数のパターンデータからなるパターンデータ
群と複数のフォーマットデータからなるフォーマットデータ群を記
憶させるという思想や,各データ群の中から任意に選択した各デー
タを組み合わせて最終フォーマットを作成するという思想はありま
せん。従って,引例1記載の発明によれば,多種多様の数多くのモ
ードの中から所望のものを選択する必要があるため,本願発明のよ
うに,パターンデータ群の中から一つとフォーマットデータ群の中
から一つを選択して組み合わせるようにしたものに比べて,最終フ
ォーマットの作成が面倒であるという難点があります。」(2頁1
6行目ないし3頁3行目)
e本件補正により,当初明細書の記載は,次のとおり補正された。
(a)特許請求の範囲
ⅰ請求項1
前記第2の1(前記争いのない事実)の()のとおり。1
ⅱ請求項2
「パターンデータ群及び/又はフォーマットデータ群は変更
可能であることを特徴とする請求項1記載の多頁面付け方
法。」
ⅲ請求項3
「パターンデータは,少なくとも頁の順番,頁の天の方向,
背丁のデータであり,フォーマットデータは,少なくとも版の
寸法,頁のサイズ,ドブの幅,くわえの幅のデータである請求
項1記載の多頁面付け方法。」
ⅳ請求項4
「パターンデータは,少なくとも頁の順番,頁の天の方向,
背丁,頁の露光の順番,くわえの方向のデータであり,フォー
マットデータは,少なくとも版の寸法,頁のサイズ,ドブの幅,
くわえの幅のデータである請求項1記載の多頁面付け方法。」
(b)発明の詳細な説明
ⅰ当初明細書の(課題を解決するための手段)の項目(当初明
細書の3頁左下欄13行目ないし右下欄8行目。本件明細書の
5欄29ないし39行目)
「本発明は,多頁面付けに必要なデータをパターンデータ群
とフォーマットデータ群に分類し,それぞれのデータ群の中か
ら任意に選択して入力することにより最終フォーマットを作成
することを特徴とする多頁面付け方法であり,具体的には,多
頁面付けパターンに必要な各種データを入力して各種の多頁面
付けパターンを作成し,作成された各種多頁面付けパターンの
中から任意のパターンを選択し,これに各種寸法データ(フォ
ーマットデータ)を入力して最終フォーマットを作成するのも
のである。また,多頁面付けパターンは予め各種のものを用意
しておき,その中から任意のパターンを選択し,これに各種寸
法データ(フォーマットデータ)を入力して最終フォーマット
を作成するようにしてもよい。」とあったのを,「本発明は多
頁面付けに必要なデータをパターンデータ群とフォーマットデ
ータ群に分類し,それぞれのデータ群の中から任意に選択して
入力することにより最終フォーマットを作成することを特徴と
する。パターンデータ群及び/又はフォーマットデータ群は変
更可能としてもよい。パターンデータは,少なくとも頁の順番,
頁の天の方向,背丁のデータとし,フォーマットデータは,少
なくとも版の寸法,頁のサイズ,ドブの幅,くわえの幅のデー
タとする。また,パターンデータは,少なくとも頁の順番,頁
の天の方向,背丁,頁の露光の順番,くわえの方向のデータと
してもよい。」と補正した。
ⅱ当初明細書の(作用)の項目(当初明細書の3頁右下欄20
行目ないし4頁左上欄4行目。)
「多頁面付けパターンとして予め各種のものを用意した場合
でも,フォーマットデータは自由に設定できるため,これまで
行われてきた多頁面付け方法に比べれば,対応できる範囲は格
段に拡大する。」との記載が削除された。
ⅲ当初明細書の(実施例)の項目
当初明細書の4頁左下欄1行目の各「パターン」の後に「デ
ータ」が挿入された。
当初明細書の5頁左上欄13ないし14行目の「パターンデ
ータとフォーマットデータ」が「パターンデータ群とフォーマ
ットデータ群」に補正された。
当初明細書の5頁右下欄18ないし20行目の「各種のパタ
ーンの中から適宜のパターンを選択し」が「各種のパターンデ
ータの中から適宜のパターンデータを選択し」に補正された。
(イ)本件明細書及び本件図面の記載
a本件明細書には,次のとおりの記載がある(甲3)。
(a)「パターンとは,頁の順番,頁の天の方向,背丁に関するデ
ータ,頁露光の順番,印刷機のくわえの方向等の頁面付けレイア
ウトを指定するものをいう。」(3欄19ないし21行目)
(b)「ここでパターンのデータとフォーマットデータからなる頁
面付けに必要な全データを『最終フォーマット』ということにす
る。」(5欄5ないし7行目)
(c)「上記マイコンが上記各ステッピングモータを順次制御する
ためには,多頁面付けのパターンとフォーマットデータが予め決
められていなければならない。そこでこれまでは,各種の最終フ
ォーマットを用意しておき,その中から一つを選択して使用して
いた。しかし,予め用意されていた最終フォーマットはいわば既
成のものであり,希望する最終フォーマットデータの中に一部で
も上記既成のデータと異なるデータがあるとその最終フォーマッ
トは適用することができない。しかも,前に説明したように,多
頁面付けパターン及びフォーマットデータには多種多様のものが
あるし,製版カメラのユーザー独自のパターン及びフォーマット
データがあることを考えると,総ての最終フォーマットを網羅す
ることは困難である。本発明は,かかる従来技術の問題点を解消
するためになされたもので,希望する任意の最終フォーマットを
自由に作成することができるようにして,製版用カメラ等に対応
できる範囲をほとんど無限に拡大することができるようにした多
頁面付け方法を提供することを目的とする。」(5欄8ないし2
7行目)
(d)「多頁面付けパターンはそれに必要な各種データの入力によ
って作成されるため,所望のパターンを任意に作成することがで
きる。また,最終フォーマットは,作成された各種パターンの中
に各種寸法データ(フォーマットデータ)を入力することによっ
て任意に設定でき,これらの組み合わせも自由であるから,希望
する多頁面付け最終フォーマットに柔軟に対応することができ
る。」(5欄41ないし48行目)
(e)「本発明は,多頁面付けパターンの作成部分と最終フォーマ
ット作成部分に大別することができる。第1図,第2図は多頁面
付けパターンの作成の例を示し,第3図は最終フォーマット作成
の例を示す。」(6欄1ないし5行目)
(f)「これによってパターン作成に必要な一通りのデータの入力
が終了する。そこで次に,ディスクドライブ装置にデータディス
クをセットし,パターン作成処理を行う。そして,作成したパタ
ーンに付する番号を入力し,データディスクにそのパターンデー
タを書き込む。書き込まれたパターンデータは,あとで説明する
最終フォーマット作成時に読み出される。」(6欄26ないし3
3行目)
(g)「次に,第3図を参照しながら最終フォーマット作成につい
て説明する。最終フォーマット作成では,まずディスクドライブ
装置にパターンデータの入ったディスクをセットし,パターンデ
ータの読み込みを行う。次に,過去のフォーマットデータを参照
するかどうかを選択し,過去のフォーマットデータを参照しない
場合は,最終フォーマット作成に必要な全データを入力する。最
終フォーマット作成に必要な全データ(フォーマットデータ)と
は,感光材料の幅,感光材料の長さ,ページサイズ(縦横寸法)
各ドブの幅,くわえの幅,トンボと称する折り(原文では「祈
り」となっている。)の基準マークの撮影幅,背丁の撮影幅,そ
の他必要な各種寸法データである。一方,入力済みの過去のフォ
ーマットデータを参照する場合は,参照のフォーマットデータの
入ったディスクをディスクドライブ装置にセットし,過去のデー
タを読み込む。読み込まれた過去のデータの中から参照しようと
するデータのデータ番号を入力して選択し,これに変更しようと
するデータを入力する。」(6欄45行目ないし7欄12行目)
(h)「データ入力をしなおす必要がない場合はディスクドライブ
装置にデータディスクをセットしたあとデータ番号を入力し,さ
らに綴じの種類を入力したあと最終フォーマット作成処理を行い,
データディスクへ最終フォーマットを書き込む。・・・こうして,
データディスクに書き込まれたパターンデータ群とフォーマット
データ群は,製版用カメラで1枚の感光材料に多数ページの原稿
の像を頁面付けする場合に利用される。」(7欄19ないし32
行目)
(i)「上記実施例によれば,パターン作成において任意のパター
ンデータを入力することにより任意の多頁面付けパターンを作成
することができ,これに任意の寸法データ(フォーマットデー
タ)を入力して任意の最終フォーマットを作成することができる
ため,任意のパターンと任意のフォーマットデータとを組み合わ
せて多種多様の多頁面付け最終フォーマットを作成することがで
きる。従って,製版カメラのユーザーによって独自のパターンと
フォーマットデータがあったとしても,これに柔軟に対応するこ
とができる。なお,多頁面付けパターンは,予め各種のパターン
を用意しておき,これに任意のフォーマットデータを入力して所
望の最終フォーマットを作成するようにしてもよい。この場合,
パターンについてはいわゆる既成のパターンということになるが,
フォーマットデータは任意のものを入力することができるため,
これまで行われてきたように,既成の最終フォーマットの中から
選択する場合に比べて,対応するできる範囲を格段に拡大するこ
とができる。」(8欄3ないし21行目)
(j)「本発明によれば,任意のパターンと任意のフォーマットデ
ータとを組み合わせて多種多様の多頁面付け最終フォーマットを
得ることができるため,製版カメラ等において対応できる範囲を
ほとんど無限に拡大することができる。また,製版カメラ等のユ
ーザーによって独自のパターンとフォーマットデータがあったと
しても,これに柔軟に対応することができる。さらに,予め用意
した各種のパターンデータ群の中から適宜のパターンデータを選
択し,これに任意のフォーマットデータを入力して所望の最終フ
ォーマットを作成するようにした場合でも,フォーマットデータ
は任意のものを入力することができるため,既成の最終フォーマ
ットの中から選択する場合に比べて,対応できる範囲を格段に拡
大することができる。」(8欄29ないし42行目)
b本件図面
(a)第1図
本件図面の第1図は,パターン作成の例を示したフローチャー
トであり,「面付数の入力」,「ページデータの入力」,「天方
向の入力」,「1版中の背丁の数入力」,「背丁の位置入力」,
「背丁の順位入力」,「背丁の天方向入力」,「表裏の区別あり,
なし入力」,「1折のページ数入力」,「1版中の折りの種類,
数入力」,「ディスクドライブにデータディスクをセット」,
「パターン作成処理」,「パターン番号入力」,「データディス
クへパターン書き込み」という順序によりパターンが作成される
という,パターン作成の過程が示されている。
(b)第3図
本件図面の第3図は,最終フォーマット作成の例を示したフロ
ーチャートであり,過去のフォーマットデータを参照する場合は,
順に,「ディスクドライブにパターンデータの入ったディスクを
セット」,「パターンデータの読み込み」,「過去のフォーマッ
トデータ参照する」,「参照データの入ったディスクをディスク
ドライブにセット」,「過去のフォーマットデータ読み込み」,
「参照データのデータ番号入力」,「変更データの入力」,「デ
ィスクドライブにデータディスクをセット」,「データ番号の入
力」,「綴じの種類入力」,「最終フォーマット作成処理」,
「データディスクへ最終フォーマット書き込み」という順序によ
り,過去のフォーマットデータを参照しない場合は,上記の「過
去のフォーマットデータ参照する」,「参照データの入ったディ
スクをディスクドライブにセット」,「過去のフォーマットデー
タの読み込み」,「参照データのデータ番号入力」,「変更デー
タの入力」という順序の部分を,「過去のフォーマットデータを
参照しない」,「全データの入力」という順序として,最終フォ
ーマットが作成されるという,最終フォーマット作成の過程が示
されている。
(c)第4図
本件図面の第4図は,最終フォーマットに基づいて撮影を行う
場合の操作手順の例を示したフローチャートであり,「データ番
号入力」,「パターン番号入力」,「データディスクより最終フ
ォーマット読み込み」,「最終フォーマットデータにより各ステ
ッピングモータ駆動」,「次の撮影ページを表示」,「撮影」,
「全撮影終了」という順序により上記手順が示されている。
イ判断
(ア)本件発明の「パターンデータ」及び「フォーマットデータ」の意
義と本件発明の構成要件Dの解釈との関係について
本件発明の構成要件B,C及びD(構成要件Dの「各データを組み
合わせて」の「各データ」がパターンデータないしフォーマットデー
タを指すことは明らかである。)の「パターンデータ」及び「フォー
マットデータ」の意義について,原告は,最小データを意味する場合
とセットデータを意味する場合があると主張するのに対して,被告は,
セットデータのみを意味すると主張する。
そして,本件発明の構成要件並びに前記ア(イ)で判示した本件明細
書及び本件図面の記載からすれば,「パターンデータ」及び「フォー
マットデータ」を,被告の主張のとおり,セットデータのみを意味す
ると解すると,構成要件Cの「パターンデータ群」ないし「フォーマ
ットデータ群」を「記憶させておき」とは,「セットパターンデー
タ」ないし「セットフォーマットデータ」のいくつかの類型をデータ
ディスク等に記憶させておくことを意味し,構成要件Dは,このよう
に記憶させておいた各種の「セットパターンデータ」及び「セットフ
ォーマットデータ」の中からそれぞれ一つずつを選択して,これを組
み合わせて最終フォーマットを作成することを意味することになる。
これに対し,「パターンデータ」及び「フォーマットデータ」を,原
告の主張のとおり,セットデータと最小データの双方を意味すると解
すると,構成要件Dは,各種の「セットパターンデータ」及び「セッ
トフォーマットデータ」の中からそれぞれ一つずつを選択して,これ
を組み合わせて最終フォーマットを作成することのほか,「最小パタ
ーンデータ」ないし「最小フォーマットデータ」を複数個選択して,
これらを組み合わせて最終フォーマットを作成することも含むことに
なる。
(イ)以上を前提に,検討する。
a当初明細書における解釈
当初明細書における特許請求の範囲の記載は,前記ア(ア)cのと
おりであり,これに,当初明細書の発明の詳細な説明の欄の記載
(前記ア(イ)で認定した本件明細書の記載のうち,前記()ア(ア)e1
(b)で判示した補正部分についての補正前の記載)及び本件図面を
考慮すると,当初明細書に開示された発明は,多頁面付けパターン
の作成のために必要な各種データを入力していき,各種の多頁面付
けパターンを作成し,作成された各種の多頁面付けパターンの中か
ら任意のパターンを選択し,これに各種フォーマットデータを複数
入力して最終フォーマットを作成するというものと認められるから,
上記の「パターン」は,セットパターンデータと,「各種データ」
は,最少パターンデータと,「フォーマットデータ」は,最小フォ
ーマットデータと,それぞれ同義となるものと解される。
b本件明細書における解釈
(a)本件補正により,特許請求の範囲の記載は,前記ア(ア)e
(a)のとおり補正されたが,補正された後の請求項1の構
成要件B,C及びDについてみると,本件発明の「パターンデー
タ」ないし「フォーマットデータ」をそれ自体で具体的なパター
ンやフォーマットを形成できるセットデータの意味に解すれば,
一つの「パターンデータ」と一つの「フォーマットデータ」を組
み合わせることにより最終フォーマットを作成することができる
ので,相互に組み合わされるべき「パターンデータ」と「フォー
マットデータ」とを,データディスクなどにそれぞれ別々に記憶
させることにより「分類」することに意味があることになる。
ところが,「パターンデータ」ないし「フォーマットデータ」
に,個々の設定項目についてのデータである最小データの意味も
含ませて解すると,最終フォーマットを作成するには,一つの
「パターンデータ」と一つの「フォーマットデータ」を組み合わ
せるだけでは足りず,「パターンデータ」同士又は「フォーマッ
トデータ」同士を組み合わせる必要が生じる場合もあり,その場
合には,「パターンデータ」と「フォーマットデータ」とに別々
に記憶させて「分類」する技術的な意味が失われ,構成要件Bに
相当する部分が無意味な記載となるから,不合理な解釈といわな
ければならない。
したがって,本件発明における「パターンデータ」及び「フォ
ーマットデータ」は,セットデータを意味するものと解するのが
合理的である。
この点,原告は,「分類し」の意味について,「パターンデー
タ」及び「フォーマットデータ」を最小データと解した場合,パ
ターンを視覚化させるデータである「パターンデータ」と寸法に
ついてのデータである「フォーマットデータ」とを,異なった種
類のデータであると認識することも,「分類し」に当たるという
趣旨の主張をする。
しかし,両データを単に異なった種類のデータであると認識す
るだけで,両データを実際に何らかの方法で分ける作業を行わな
い場合も「分類し」ていると解することは,「分類する」という
文言から技術的に乖離する解釈であって合理的とはいえない。し
かも,原告主張のように,最小パターンデータと最小フォーマッ
トデータとを,単に異なった種類のデータであると認識するだけ
では,本件発明において,いかなる作用効果を奏するのか明らか
でなく,このような主張は,発明の作用効果に結び付かない不自
然な解釈といえる。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
(b)また,本件補正の際に提出された本件意見書には,前記ア
(ア)dのとおり,「多頁面付けに必要なデータを,パターンデー
タ群(Pn)と,フォーマットデータ群(Fn)に分類し,それ
ぞれのデータ群の中から多頁面付けに要求される両データのそれ
ぞれ一つを選択し,これを組み合わせて(P1+F1),所望の
最終フォーマット(FF)を得ることを特徴としています。」,
「引例1記載の発明によれば,多種多様の数多くのモードの中か
ら所望のものを選択する必要があるため,本願発明のように,パ
ターンデータ群の中から一つとフォーマットデータ群の中から一
つを選択して組み合わせるようにしたものに比べ,最終フォーマ
ットの作成が面倒であるという難点があります。」との記載があ
る。
これらの記載及び前記ア(ア)e記載の本件補正の内容を考慮す
ると,本件意見書では,本件拒絶理由通知で指摘された本件引用
例に記載された発明について,多種多様の数多くのモードの中か
ら所望のものを選択する必要があるため,最終フォーマットの作
成が面倒であるという難点があることを主張した上で,本件発明
では,各種のデータの中から任意に選択した一つのパターンデー
タと一つのフォーマットデータとを組み合わせるだけで最終フォ
ーマットを作成できる旨を述べたものであり,これは,各種のセ
ットデータの中から,一つのセットパターンデータと一つのセッ
トフォーマットデータを組み合わせるだけで最終フォーマットデ
ータを作成できることを開示したものと認められる。そして,こ
の意見書の開示に即応して,同日付けで行われた本件補正におい
ても,本件発明の「パターンデータ」及び「フォーマットデー
タ」を,セットデータを意味するものに限定して特許請求の範囲
を減縮し,前記のとおり,本件発明の構成に至ったものと解する
のが相当である。
これに対して,原告は,本件意見書には,一つのパターンデー
タと一つのフォーマットデータを1回だけ組み合わせて最終フォ
ーマットを作成することができる旨の記載はない旨,また,本件
補正においても,「パターンデータ」をセットパターンデータに
限定したことはない旨主張するが,本件意見書の記載は前記のと
おりであり,一つの「パターンデータ」と一つの「フォーマット
データ」を組み合わせることにより最終フォーマットを作成する
ことができることが本件発明の特徴であるとし,これを本件引用
例記載の発明との差異であると主張する内容となっていることは
明らかであるから,その差異を再度失わせることとなる原告の上
記主張を採用する余地はない。さらに,本件補正により補正され
た特許請求の範囲の記載も,上記のとおり,「パターンデータ」
及び「フォーマットデータ」を最小データと解したのでは不合理
な文言となることからしても,原告の上記主張は理由がない。
c以上のとおり,本件補正の結果,本件発明の構成要件Cは,複数
のセットパターンデータからなるセットパターンデータ群と複数の
セットフォーマットデータからなるセットフォーマットデータ群を
データディスク等に記憶させておくことを意味するものとなり,構
成要件Dは,そのように記憶させておいたセットデータ群の中から
任意に選択した一つのセットパターンデータと一つのセットフォー
マットデータとを組み合わせて最終フォーマットを作成することを
意味するものとなったと解するのが相当である。
()対比2
ア証拠(甲5,乙11)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品のうちの
「」を利用した多頁面付けは,同製品をパソコンにFACILISIMVer.3.5J
インストールした上で,パソコンの操作により行われるが,その詳細は
次のとおりであることが認められる。
(ア)新規にレイアウトを作成する方法
刷版サイズ,仕上がりサイズ,面付け数,用紙の返し方向,マージ
ン,くわえ量,ドブ幅,綴じる位置,裁落とし幅,ページの番号と向
き,トンボ,背丁,背標等の各データを入力し(なお,以上のデータ
の項目の中には,例えば,仕上がりサイズの項目では,A5やA4等
のデータが予め登録されているように,その項目を構成する個々のデ
ータ(最小データ)が予め登録されており,ユーザーはその個々のデ
ータの中から任意のものを選択して設定することができるようになっ
ているものもある。),レイアウトを作成する。作成したレイアウト
のデータは,ファイルに保存することができるが,レイアウト作成前
のセットデータに当たるデータを保存することはできない。
(イ)既存のレイアウトを利用して新たなレイアウトを作成する方法
保存していたレイアウトのデータの中から任意のものを選択して読
み出し,個々の設定項目についてのデータを変更して新たなレイアウ
トを作成する。
イ「」に基づく多頁面付け方法は,前記アのとおりFACILISIMVer.3.5J
であり,同多頁面付け方法において,各種の最小データをパターンデー
タとフォーマットデータに分類した上で,各々を適宜セットデータとし
て記憶しておくという作業は行われず,したがって,記憶させておいた
セットパターンデータとセットフォーマットデータを組み合わせるとい
う作業も行われないから,同多頁面付け方法は,本件発明の構成要件C
及びDを充足しない。
そして,被告製品は,いずれのバージョンも,本件発明との対比との
関係において,その構成が同一であることは,当事者間に争いがないか
ら,すべての被告製品に基づく多頁面付け方法は,本件発明の構成要件
C及びDを充足しない。
なお,原告は,本件発明の構成要件の解釈について,被告の主張のと
おりの解釈によれば,被告製品が本件発明の構成要件を充足しないこと
を認めている。
2したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由
がない。
第4結論
以上の次第で,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却する
こととし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官清水節
裁判官山田真紀
裁判官佐野信

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