東京高裁平成21・1・9
316条の20第1項棄却
主文
本件即時抗告を棄却する。
理由
1本件即時抗告の趣意は,弁護人作成の即時抗告申立書に記載されたとおりであるから,こ
れを引用する。
論旨は,要するに,原決定は,法解釈を誤って本件証拠開示命令請求を棄却したものであ
るから,原決定を取り消して,A,B,C及びDが指定・非指定暴力団構成員ないし準構成員,
周辺者に該当するかしないかに関する捜査報告書ないしそれに準じる書面(以下,併せて
「本件証拠」という。なお,即時抗告申立書で「捜査官の備忘録等を含む。」と明示されている
ことに関して,原審裁判所は,意見書の中で,本件証拠開示命令請求の時点では,対象に含ま
れていなかった旨述べている。そのような解釈の余地もあるが,弁護人作成の平成20年12月
12日付け証拠開示請求書では「捜査報告書ないしそれに類する記録」と,裁定請求書では「捜
査報告書ないしそれに準じる書面」と,それぞれ記載されていて,いずれにしても,対象書面
の範囲が厳密に特定されたものではなかったから,即時抗告申立書の記載は,対象書面の範
囲を部分的にせよ明確にした趣旨と解される。)の開示を検察官に対して命じる決定を求め
る,というのである。
2(1)そこで,一件記録によって検討すると,既に訴因変更請求が許可されている本件公訴事
実の要旨は,被告人が,E及びF(以下「Eら」という。)と共謀の上,平成19年12月16日,宇都
宮市内のパチンコ店内で,回胴式遊技機から,同店店長管理に係る遊技用メダルを窃取した
ところ,同店で遊戯中の前記Aに犯行を目撃されてEらが店外に連れ出されるや,同人らの
逮捕を免れさせる目的で,そのころ,同店南東駐車場に設置された自動販売機付近に佇立し
ていた前記A及び前記Bに対し,あえて同所先路上から普通乗用自動車を発進させて時速
約30キロメートルの速度で衝突させるなどの暴行を加えて,前記Bに○の後遺症を伴う入
院加療約313日間を要する○,○等の傷害を,前記Aに加療約60日間を要する○,○等の傷害
を,それぞれ負わせた,という強盗致傷の事案である。
(2)弁護人は,現在も進行中である公判前整理手続の中で,窃盗の共犯の成立を認めつつも,
強盗致傷罪の成立に関しては,Eらが「ゴト狩り」(即時抗告申立書2頁によれば,多くの場合
に暴力団員ないし関係者がゴト師を事務所などに連行して監禁し,暴行を加えて,サラ金に
借り入れさせるなどして金員を奪取する事象をいうとされている。)として連行,拉致され
ようとしているのを防止すべく,前記傷害行為に及んだものであるから,前記傷害行為は,
事後強盗罪の「逮捕を免れ」させる目的を欠いており,事後強盗罪の構成要件に該当しない
などと様々に主張しており,その主張との関連で,本件証拠の開示を求めている。
(3)原決定は,「本件請求にかかる書面等は,その存否にかかわらず,必要性及び弁護人の主
張との関連性が低く,開示することが相当であるとは認められない」としている。
そして,Eらが,Aらから「ヤクザなめんじゃねえ」「事務所に連れていくぞ」と罵声を浴び
せられ,A所有のマーチにEが押し込まれそうになったことを被告人が見聞している旨の
主張を始めとする所論を逐一検討しても,その判断に誤りがあるとは認められない。
また,関係者らが暴力団構成員ないし準構成員,周辺者に該当するか否かについての証拠
がみだりに公開されれば,当該関係者らの名誉やプライバシー等が侵害される弊害の程度
も看過できない。
3よって,本件抗告は理由がないから,刑事訴訟法426条1項により,本件即時抗告を棄却す
ることとし,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官・植村立郎,裁判官・青沼潔,裁判官・國井恒志)
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