弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1 被告は,原告甲及び原告乙に対し,それぞれ3463万7620円及びこれに
対する平成11年11月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
2 被告は,原告丙に対し,281万2443円及びこれに対する平成11年11
月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告丙のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用はこれを13分し,その1を原告丙の負担とし,その余を被告の負担
とする。
5 この判決は,第1項及び第2項に限り仮に執行することができる。
   事実及び理由
第1 請求
1 被告は,原告甲及び乙に対し,6927万5241円及びこれに対する平成1
1年11月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告丙に対し,902万2559円及びこれに対する平成11年11
月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
第2 事案の概要
 1 争いのない事実等
(1) 被告は,商品取引法上の取引員であり,商品取引の受託業務等を業とする会社
である。
(2) 亡丁は,平成8年3月当時81才の男性であり,会社経営者であった。
(3) 原告丙は,平成8年8月当時60才の女性であり,商品先物取引については未
経験者であった。
(4) 丁は,平成8年3月15日,被告との間で商品先物取引の基本委託契約を締結
し,原告丙は,同年8月30日,被告との間で商品先物取引の基本委託契約を締結
した(乙1,13,弁論の全趣旨)。
(5) 丁については,平成8年4月24日から平成10年1月12日まで,原告丙に
ついては,平成8年8月30日から平成9年11月10日まで,別紙委託者別先物
取引勘定元帳記載のとおり,それぞれ取引が行われた(以下「本件取引」とい
う。)。
(6) 丁の本件取引の担当者は,被告名古屋支店勤務の戊及び己であった。戊は,平
成8年4月24日の初回建玉(別紙「取引経過表」の取引番号A1,A2の各建
玉)のみ担当し,その後の取引については,己が担当した(弁論の全趣旨)。
(7) 原告丙の本件取引については,約諾書の取付事務を除いては,全て己が担当し
た(弁論の全趣旨)。
(8) 丁の上記(5)の平成8年4月24日から平成10年1月12日までの全取引の
結果は,下記のとおりであった。
売買損益4,328,200円
委託手数料68,488,340円
消費税2,872,676円
  取引所税  242,425円
帳尻益金105,313,366円
帳尻損金172,588,607円
(9) 原告丙の上記(5)の平成8年8月30日から平成9年11月10日までの取引
の結果は,下記のとおりであった。
売買損益-5,718,800円
委託手数料 2,680,200円
消費税          114,326円
  取引所税    9,233円
帳尻益金  7,732,108円
帳尻損金 16,254,667円
(10) 丁は,平成13年6月27日死亡し,原告甲及び原告乙は,丁の子である。
 2 争点
(1)被告による不法行為の成否
(2)丁及び原告丙の損害額及び過失相殺の可否
 3 争点に関する当事者の主張
(1)被告による不法行為の成否
(原告らの主張)
ア 丁の本件取引に関する己の行為は,以下の点に違法があり,一連の行為が全体
として不法行為を構成するから,被告は使用者として不法行為に基づく損害賠償責
任を負う。
 (ア)断定的判断の提供
 丁が,戊の勧めで平成8年4月24日に初回建玉をした後,戊に同行して丁の元
を訪れた己が,丁に対し,「指数などとろくさいことをやっていては駄目だ。」
「自分にまかせれば,大豆で,資金を1億から3億にする。」「自分の扱った例と
して,一宮の顧客で,3億円の損を出していた人に米国産大豆の取引をまかされ
て,損を1億にまでに減らしたことがある。」と言って,大豆の先物取引を行うこ
とを強く勧誘した。丁は,己の上記の言葉を信用して,本件取引を行っていくこと
になったが,その内容は,己が強引に自分の判断で取引を行っていったものであ
り,丁は,絶対に儲けさせるという己の言葉を信用して,己のやり方に従ってい
た。このように己は,老齢で判断能力の低下している丁に対し,絶対に儲かる旨の
断定的判断の提供をして取引
を行わせたものである。
(イ) 無断売買,一任売買
丁は,己に対し,玉を指定して取引をしたことは1度もなく,全ての取引につい
て己に一任しており,本件取引は丁の指示なく行われていたもので,一任売買,無
断売買である。
 (ウ)無意味な反復売買,過当売買
丁の本件取引においては,平成8年4月24日から平成10年1月12日までの
約22か月の取引期間中,495回(玉を建てて落として1回と数えると257
回)という極めて多数回の取引が行われており,取引の性質上定型的に委託者の利
益を損なうおそれの高い取引である特定売買(直し,両建て,途転,日計り,手数
料不抜け)の回数は合計139回という多数回にわたっている。
行政においては,過当売買等による委託者事故を未然に防止し,営業姿勢につい
て問題のある商品取引員の体質を改善し,業界全体のレベルアップをして社会的な
信用向上を図ることを目的に,売買内容の精査を商品取引員に義務づけており,農
林水産省は「委託者売買状況チェックシステム」を,通産省は「売買状況に関する
ミニマムモニタリング」を導入して(以下「チェックシステム等」と総称す
る。),直し,両建て,途転,日計り,手数料不抜けを「特定売買」と定義し,監
督官庁に対し売買状況並びに特定売買比率を報告すべきこととすると共に,農林水
産省においては,特定売買比率,すなわち,全取引回数に占める特定売買の比率を
20パーセント,売買回転率,すなわち,取引期間に占める仕切玉の回数は1か月
あたり3回以内,手数料化
率,すなわち,全損害に占める手数料の率を10パーセントにとどめるよう指導す
ることにしている。
しかるに,丁の本件取引においては,特定売買比率は約54パーセント,売買回
転率は1か月あたり約12.9回,手数料化率は約101.8パーセントと,いず
れも農林水産省が定めた上記基準を大幅に上回っている。
本件取引においては,新規の建玉とその仕切りの期間が短く,ほとんど連日のよ
うに新規の建玉とその仕切りが繰り返され,取引枚数も極めて多く,本件取引全体
についての損金,すなわち帳尻益金から帳尻損金を差し引いた額は,6727万5
241円という多額になっているが,一方で委託手数料の合計額は6848万83
40円であり,ほぼ損金の額に見合う金額が委託手数料という形で被告に取られて
いるのである。
さらに,個々の取引を見ても,特定売買の1つである直しについて,被告は,建
玉に計算上の利益が乗っている場合にこれを処分して計算上の利益を現実の利益と
することが,時には有用かつ有効な取引手法である旨主張しているが,本件におい
ては,建玉に計算上損失が出ているにもかかわらずその建玉を仕切って即日また同
じ建玉を建てるという,被告の主張に矛盾する直しが何回も行われている。また,
特定売買の1つである両建てについて,被告は,両建ては,建玉の値洗いが損にな
ってもすぐに仕切らずに,反対の建玉をすることによってその後の相場の損失の増
大を防いでおき,適当と思うときに一方を反対売買して残った建玉の方で利益を得
ようとすること等を目的とする取引の方法で,例えば買建玉に損が発生したとき,
その後の相場の動向
について判断がつかない場合には,新たに売建玉を建てて両建て状態にし,この両
建玉を異時かつ適時に決済することによって,両建てをしないで当初の買建玉を決
済した場合に比べて損金の額を少なくすることができ,また,見通しがよければ両
方の建玉共に益を出させることができるのであるから,両建ては有害無益な取引手
法とは言えない旨を主張しているが,本件取引においては,両建てした建玉を同時
に仕切るという,被告の主張に矛盾する両建ても行われている。そもそも,直しや
両建てはそれ自体,委託者にとって危険かつ無意味な取引であるが,本件取引にお
いては,上記のとおり,被告の主張とも矛盾する,常識では考えられない直しや両
建てが行われている。
これらの客観的事実は,本件取引が丁の意思ではなく,己の判断のみでなされた
ことを示すと共に,己が,手数料稼ぎを目的とした無意味な反復売買,過当売買,
いわゆる「転がし」を行ったことを示している。
イ 原告丙の本件取引に関する己の行為は,以下の点に違法があり,一連の行為が
全体として不法行為を構成するから,被告は使用者として不法行為に基づく損害賠
償責任を負う。
 (ア)無断売買,一任売買
原告丙は,己に対し,玉を指定して取引をしたことは1度もなく,全ての取引に
ついて己に一任しており,本件取引は原告丙の指示なく行われていたもので,一任
売買,無断売買である。
 (イ) 無意味な反復売買,過当売買
原告丙の本件取引においては,取引の回数(玉を建てて落として1回)が32回
であるのに対し,特定売買(直し,両建て,途転,日計り,手数料不抜け。丁につ
いての本件取引との関係で特定売買となるものも含む。)の回数が合計25回であ
り,特定売買比率は約78パーセント,売買回転率は1か月あたり約5.49回,
手数料化率は約31.4パーセントと,いずれも農林水産省が定めた上記基準を大
幅に上回っている。原告丙の本件取引においても,手数料稼ぎを目的とした無意味
な反復売買,過当売買が行われたものである。
(ウ) 新規委託者保護義務違反
被告の受託業務管理規則(乙45)第6条によれば,商品先物取引の経験のない
新たな委託者からの受託にあっては,外務員の委託者の建玉枚数に係る判断枠は2
0枚とされ,当該委託者から当該判断枠を超える建玉要請があった場合は,別途に
その当否を審査するものとされ,その方法と基準については,「商品先物取引の経
験のない新たな委託者からの受託に係る取扱い要領」が別途に定められ,同取扱い
要領では,当該委託者の資質,資力等を考慮のうえ,相応の建玉枚数の範囲におい
て受託を行うよう,100枚以内は管理サービス部責任者(支店長),101枚以
上は総括責任者(取締役本部長)が審査を行いその適否について判断し,妥当と認
められる範囲内において受託するものとされている。
 しかるに,原告丙の本件取引においては,最初から23枚の建玉をしており,ま
た,取引開始後3か月後の平成8年10月1日までに取引枚数は88枚に達してい
る。
 しかし,原告丙の顧客カード(乙19)には,同人には預貯金が6000万円あ
り,年収が2000万円あり,その結果投下可能資金が2000万円と記載されて
いるが,この記載はその内容を含め己が戊に指示して記載させたものであり,その
記載には根拠がなく,預貯金や年収等の金額は己の想像で書かれたもので,かつ,
過大な表現で書かれた事実に反するものである。原告丙の建玉枚数についての審査
(委託者調書(乙20)における審査)は,上記のような事実に反する収入,資産
を前提にしてなされたもので違法なものであり,原告丙の本件取引については新規
委託者保護義務違反がある。
(被告の主張)
ア 丁の取引について
(ア)断定的判断の提供
 己が,丁に対し,「指数などとろくさいことをやっていては駄目だ。」「自分に
まかせれば,大豆で,資金を1億から3億にする。」等と一任売買を取り付けた
り,断定的言辞を使用した事実はない。
(イ) 無断売買,一任売買
己は,丁に対し,相場動向や相場観を伝えて取引について指導・助言はしている
が,個々の取引の最終判断は,丁自らがなしたものであった。
 そもそも,丁は,商品先物取引の経験者であって,被告と取引する以前,下記の
とおり商品先物取引を行っていた者であるから,己にとっては,断定的判断の提供
や無断売買や一任売買をなし得る相手ではなかったし,また,現にそのような事実
はなかった。
 ① 取引業者名  庚
   取引期間   平成7年2月16日から平成8年4月17日まで   取引
金額   金6500万円
   取引銘柄   米国産大豆
 ② 取引業者名  辛
   取引期間   平成8年1月23日から同年10月末日まで
   取引金額   金1645万円
   取引銘柄   トウモロコシ,ゴム,金,銀,白金等
 (ウ)無意味な反復売買,過当売買
 相場は日々刻々と変動するのであるから,その対応として,売買をなすことは当
然であって,その結果として取引回数が多くなることも当然にあり得ることであ
り,取引の過当性は,取引回数が多数であることや取引数量が多いことによって決
すべき問題ではなく,委託者の経験,資力,判断能力等との関係で決すべき問題で
ある。
 丁の場合は,取引経験があり,資力も十分であって,取引の理解や判断につき,
十分な能力があった者であるから,取引回数が多いからといって,取引の過当性・
無断性・一任性を推認すべきではない。丁は,己と,毎日のように,しかも多い時
は日に何回も連絡を取り合っていたものであり,この連絡に基づく丁の指示又は承
諾(了解)の下,己は,本件取引を執行(取次)したものである。
 また,特定売買については,チェックシステム等によっても,それ自体行うこと
が禁止されるものではなく,特定売買は相場の局面によっては有効な取引手法であ
り,特定売買が多いからといって,そのこと自体が委託者の取引に必ずしも損害を
生ぜしめる要因とはなり得ない。丁の本件取引における特定売買は,いずれも丁の
判断に基づく,相場への対応としての取引の結果であり,手数料稼ぎの結果では断
じてない。
 丁の特定売買の認定とその回数については,取引所の定めた「委託者売買状況チ
ェックシステムQ&A」(乙43)の基準に従って数えると,直しが36回,途転
が15回,両建てが36回,日計りが21回,手数料不抜けが15回で,これらの
特定売買の回数は合計123回である。
 丁の全取引回数は356回である(「委託者売買状況チェックシステムQ&A」
(乙43)に基づき,売買状況の回数は,月をまたぐ時は,仕切りも当該月の回数
として数える。例えば,11月25日10枚売建,12月5日10枚買仕切の場
合,2回と数える。)。 
 よって,丁の本件取引の特定売買比率は約34.55パーセントである。これ
は,チェックシステム等における特定売買比率の基準20パーセントを超過はする
が,異常な高率とまでは評価し得ないし,上記比率がいささか高率と評価するとし
ても,それは相場への対応としての取引の単なる結果であり,この一事をもって丁
の本件取引が社会的相当性を欠く違法なものとまでは評価し得ない。また,元来,
いわゆるチェックシステム等は,取引参入後3か月以内の新規委託者の保護育成策
としてのものであって,丁のごとき取引経験者に対し,これを問うのは妥当でな
い。
 丁の取引期間は,平成8年4月24日から平成10年1月12日までであるか
ら,その日数は629日であるところ,上記全取引回数356回をこの日数で割る
と約0.566となり,これが1日当たりの回数に相当するが,これに1か月当た
りの営業日数20日を乗ずると,売買回転率は,1か月当たり11.32回とな
る。チェックシステム等の売買回転率の基準は,1か月当たり3回以内を目標とす
るものであるから,その約3倍の回転率であるが,取引経験が豊富な丁の取引に
は,これを問うことが妥当でないことは上記特定売買比率の場合と同様である。
 手数料化率については,丁の本件取引における帳尻損金額は1億7258万86
07円であるから,これで同取引の委託手数料総額6848万8340円を除する
と約0.3968であるので,約39.68パーセントである。これは,チェック
システム等の基準値10パーセントからすると,約4倍となるものであるが,それ
は約21か月間に及ぶ丁の取引の単なる結果でしかない。
 丁の本件取引にあっては,原告が主張するようないわゆる「転がし」はない。
 丁の本件取引のように,継続的取引の経過の中で特定売買が多々存在するとして
も,このことは委託手数料分の負担増を別として,直ちに売買損失の発生に寄与す
るものではない。
イ 原告丙の取引について
(ア)無断売買,一任売買
己は,原告丙に対し,相場動向や相場観を伝えて取引について指導・助言はして
いるが,原告丙の個々の取引は,同人自らの意思と判断に基づく取引であり,原告
丙の注文により,主として己が担当して,これを執行したものであった。
 (イ) 無意味な反復売買,過当売買
 原告丙の取引は,丁の取引と密接ではあったが不可分ではなく,原告丙独自の取
引であった。
 よって,原告主張のように丁の本件取引との関係で原告丙の本件取引の特定売買
の回数を数えるのではなく,原告丙の本件取引自体の特定売買の回数を数えるべき
であり,そうすると,特定売買の回数は合計15回である。
 原告丙の取引回数は60回である(「委託者売買状況チェックシステムQ&A」
(乙43)に基づき,売買状況の回数は,月をまたぐ時は,仕切りも当該月の回数
として数える。例えば,11月25日10枚売建,12月5日10枚買仕切の場
合,2回と数える。)。
 よって,原告丙の特定売買比率は,25パーセントである。
 これは,チェックシステム等の基準値20パーセントを5パーセント上回るのみ
で,格別の問題はない。
 売買回転率については,取引期間は437日であり,この期間中の取引回数は8
0回であるから,これを437で除すると0.183であるから,1か月の営業日
を20日として,0.183を20倍すると3.66である。よって,原告丙の本
件取引の売買回転率は,1か月当たり3ないし4回である。
 手数料化率については,原告丙の本件取引の手数料合計268万200円を帳尻
損金1625万4667円で除すると,約16.5パーセントとなる。
 以上を鑑みれば,原告丙については,特定売買の存在の故をもって取引が過当で
あるとか,手数料稼ぎであると非難することは当を得ない。
(ウ) 新規委託者保護義務違反
 原告丙は,当初,中部輸入大豆において23枚の取引に及び,その後63枚の建
玉をなすところであったが,被告は,被告の「受託業務管理規則」及び「商品先物
取引の経験のない新たな委託者からの受託に係る取扱い要領」(乙45)によっ
て,原告丙の建玉要請を受けて実質的審査をなし,50枚,100枚と順次認定作
業を経由して取引に至ったものである(乙20の1,2)。
 すなわち,被告は,原告丙の資金力と取引への理解力・判断力等を総合して(乙
16ないし19),100枚までの建玉の取引適格者としたものであり,被告に新
規委託者保護規定の違反はない。
(2)丁及び原告丙の損害額及び過失相殺の可否
(原告らの主張)
ア 丁は,被告従業員の不法行為により,以下の損害を被った。
(ア)被告に支払った金員総額9878万771円から被告から支払を受けた金員
総額3010万5530円を控除した残額6867万5241円
(イ)弁護士費用200万円
イ 原告丙は,被告従業員の不法行為により,以下の損害を被った。
(ア)被告に支払った金員総額1371万1000円から被告から支払を受けた金
員総額358万8441円を控除した残額1012万2559円
(イ)弁護士費用50万円
ウよって,丁の相続人である原告甲及び原告乙は,上記アの損害の内金6927
万5241円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまでの民法所定の
年5分の割合による遅延損害金,原告丙は,上記イの損害の内金902万2559
円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまでの民法所定の年5分の割
合による遅延損害金の各支払を,被告に対して求めるものである。
(被告の主張)
ア ア(ア)については否認し,ア(イ)については不知。
丁が被告に支払った金員の総額は,9878万0771円であり,丁が被告から
支払を受けた金員の総額は,3150万5530円であるから,前者から後者を控
除した残額は,6727万5241円である。
イ イ(ア)については否認し,イ(イ)については不知。
原告丙が被告に支払った金員の総額は,1371万1000円であり,原告丙が
被告から支払を受けた金員の総額は,518万8441円であるから,前者から後
者を控除した残額は,852万2559円である。
また,原告丙の本件取引については,委託証拠金を全て丁が出捐し,原告丙と丁
との間では,利益が出れば原告丙のものに,損が出れば丁がこれを負担する旨の合
意がなされていたことからすれば,原告丙に財産的損害が発生したと法的に評価で
きるか疑問がある。
ウ仮に,被告従業員に不法行為が認められるとしても,丁及び原告丙には,各
々の取引について,以下のとおりの過失が存在するので,その損害賠償額について
は過失相殺がなされるべきである。
 (ア)丁について
仮に,被告従業員の行為に一部違法が認められるとしても,丁の場合,その損害
の発生との関係上では,10中8及び9の責任が同人に存在するものと評価され
る。
なぜなら,丁は,取引の経験者であり,取引の危険性は十分に熟知していた者で
あって,取引への知識と能力,特に取引参入への資力も一応に備えていたものであ
るから,自己責任の下に本件取引に及び,その損害発生への寄与度は過半以上のも
のが存在すると思料するのが妥当であるからである。
丁程度の取引経験等を有する委託者(顧客)にあっては,「相場の損は相場で取
り返す。」べきであり,本訴請求のごとく損害賠償請求を行うことは自己責任の原
則から妥当でない。
 (イ)原告丙について
原告丙については,丁の勧めにより本件取引を開始し,取引上の委託証拠金は丁
が出捐し,原告丙と丁との間では,利益が出れば原告丙のものに,損が出れば丁が
これを負担する旨の合意がなされていたことから,商品先物取引の何たるかを全く
理解せずして取引に参入したというのであり,さらには,被告から送付された売買
報告書は自ら検討することなく丁に渡し,被告から照会された残高照合回答書に
は,その内容を検討することなく「何ら異議がない」旨を回答しており,これらの
こと等を鑑みると,基本的委託契約の締結及び個々の取引の委託契約締結のそれぞ
れにつき,原告丙には大きな過失が存在すると言わざるを得ない。
 4 争点に対する判断
(1) 争点(1)について
ア丁の本件取引について
 (ア) 断定的判断の提供について
  丁の陳述書(甲5,9,19)には,己が,丁に対し,「指数などとろくさ
いことをやっていては駄目だ。」「自分にまかせれば,大豆で,資金を1億から3
億にする。」「自分の扱った例として,一宮の顧客で,3億円の損を出していた人
に米国産大豆の取引をまかされて,損を1億にまでに減らしたことがある。」と述
べたことがあった旨の,原告らの主張に沿う内容の記載が存在する。
しかしながら,己,戊の各証言等に照らして,丁の陳述書の記載内容を直ちに信
用することはできず,他に己が上記のような言葉を丁に対して述べたと認めるに足
りる証拠はない。
また,原告丙の本人尋問の結果等によれば,丁は,被告と取引を始める以前にも
商品先物取引を行って損失を出した経験があったことが認められる上,丁と被告の
本社顧客サービス部の壬との間の電話でのやり取りを録音したテープの反訳書(乙
52)によれば,丁が本件取引を開始した前日の平成8年4月23日において,壬
が「相場のことですから,絶対ということはありませんから。」と述べるのに対
し,丁は「そらあ,そうやわね。」とそのことを当然理解しているかのような態度
を示しているのであって,これらのことからすれば,仮に,己において,丁が陳述
書に記載するような発言をしたことがあったとしても,丁が,己の言葉をもって,
本件取引によって利益が出るのが確実であると考えたとまでは認め難い。
以上より,己から丁に対し,原告らの主張する断定的判断の提供があったとは認
めることはできない。
 (イ)無断売買,一任売買について
丁の陳述書(甲5,9,19)においては,「取引に当たり(己から)一々連絡
があったのではなく,己さんに任せておけば絶対にもうかると言われて,全部任せ
たもので,私はどのような商品が,いつ,いくらで,どのような数量売買されたの
か全く知らず,全てを己に任せておりました。」等,原告らの無断売買,一任売買
に関する主張に沿う内容の記載があり,原告丙も本人尋問において,「丁が『己は
事後に(取引の)報告をしてくる。』と言っているのを聞いたことがある。」「丁
は,取引のことが分からなかったので,己に取引の指示はしていないと思う。」等
と供述している。
しかしながら,丁と被告の本社顧客サービス部の壬との電話でのやり取り(乙5
2)によれば,平成8年4月23日において,壬が,「慎重に取引をお願いしま
す。」ということを何度も述べるのに対し,丁は,「よく見とってもらわにゃあ
な。わしが,いくら慎重にやってもあかんのやで。あんたの方で,よく見とっても
らわなあかんの。」「わしが慎重にやっとんやない,やり方が分からへんのやで,
あんたの方が慎重にやってもらわなあかんねやわ。」「いろんなね証文とか何とか
あっても,それは形式であってね。実際は,その本筋は,あんたの方の営業マンの
人が,ちゃんと,よう見とってもらわなあかんの。」などと述べており,丁が,被
告の従業員の判断に依存して取引を行う態度でいたことは明らかに認められるが,
その一方で,同月24日
の壬とのやり取りにおいては,壬が同日の取引内容の確認をしようとするのに対し
て,丁は「ちょっと待って下さい。」とメモを確認するかのような間を置いた上
で,「神戸ゴムやね」と質問を挟みながら,壬の取引確認に答えていること,平成
9年3月5日の壬とのやり取りにおいては,「それがな,それが20枚」と,壬が
確認する前に後場1節の取引における建玉の枚数を自ら述べることができており,
また,建玉のその日の終値も,丁の方から述べていることが認められる。さらに
は,丁の本件取引においては,平成8年4月24日から平成9年2月26日まで常
時建玉が建てられている状態であったが,同月27日以降同年3月5日に東京とう
もろこしの売建玉を建てるまでの約1週間,はじめて何も建玉が建っていない期間
が生じたことが認められ
るところ,丁は,平成9年3月5日の壬とのやり取りにおいて,「今日,また始め
たから。」と述べており,丁においては,同日以前にしばらく取引を行っていない
ということを認識していたことが認められる上,「10年3月分が,1万6000
円」と,壬が確認する前に自分から,同日に建てた建玉の限月や約定値段を正確に
述べることもできている。これらの丁の発言内容からすれば,丁は,自らの取引の
内容をそれなりに把握していることが認められ,「どのような商品が,いつ,いく
らで,どのような数量売買されたのか全く知らず,全てを己に任せていた」旨の丁
の陳述書の記載内容は信用できない。また,原告丙の上記供述は,丁から聞いた話
あるいは原告丙の推測に過ぎず,この供述をもって,直ちに丁の本件取引が無断売
買,一任売買であっ
たと認めることはできず,他に本件取引全体が無断売買,一任売買であることを認
めるに足りる証拠もない。
以上より,丁の本件取引が無断売買,一任売買であったとまでは認めることはで
きない。
 (ウ)無意味な反復売買,過当売買
a 丁の本件取引は,別紙委託者別先物取引勘定元帳(以下「別紙委託勘」とい
う。)記載のとおりであり,取引期間は,平成8年4月24日から平成10年1月
12日までの629日,取引回数は,建玉の仕切りごとに1回と数えると(別紙委
託勘の行数。ただし,平成9年3月31日をまたいで建落ちがある取引について
は,新規建玉は回数に入れず,仕切りをもって1回と数える。),305回であ
る。また,特定売買(直し,途転,両建て,日計り,手数料不抜け)の回数は,合
計で少なくとも123回あることは当事者間に争いがない(なお,被告は,「委託
者売買状況チェックシステムQ&A」(乙43,以下「Q&A」という。)のQ1
5に基づき,売買状況の回数は,月をまたぐ時は,仕切りも当該月の回数として数
えるべきであると主張する
が,Q&Aにおいては,チェックシステムが月単位で集計,作成し報告されること
から,回数の定義を当該月の取引に係る委託者別先物取引勘定元帳の行数とし,建
落ちが月をまたぐときには,落ち(仕切り)も当該月の回数として数えることとし
ているのであり,Q&Aのかかる趣旨からすれば,月単位の取引ではなく数年にわ
たってなされた取引全体の特定売買の比率等が問題となる本件においては,被告が
主張する取引回数の数え方は相当ではなく,当裁判所においては採用しない。)。
 以上の数値を基に計算すると,丁の本件取引における特定売買比率は,305回
中123回で,約40.3パーセントと相当な高率であり,売買回転率は,629
日中305回で,月平均約14.5回(1か月30日として計算する。)と著しく
高率である。また,前記争いのない事実等の(8)に記載したとおり,帳尻損金と帳尻
益金の差額は6727万5241円であるが,これに対し,委託手数料合計は68
48万8340円であり,手数料化率は約101.8パーセントという異常に高い
割合である。
 また,本件取引の手数料は,手数料化率が上記のとおり異常に高率であるという
のみならず,金額も6848万8340円と多額である。本件取引においては,取
引それ自体としては,432万8200円の売買益が出ているにもかかわらず,委
託手数料が上記のとおり総額6848万8340円発生しており,結果として,丁
には6727万5241円の損失が発生している。6727万5241円は,後記
認定のとおり丁が本件取引に投資した金額(入金額と出金額の差額)でもあるが,
本件取引においては,上記のとおり手数料化率が100パーセントを超え,丁が投
資した金額を超える金額が被告の委託手数料収入となっているのである。
 以上に認定した本件取引における手数料化率,特定売買比率,売買回転率の著し
い高さ等は,本件取引が,全体として,己によって,委託者である丁の利益を考慮
せず,被告の利益を図る方向で誘導されたものであることが推認できる。
b さらに,本件取引を証拠(甲1等)及び争いのない事実(別紙委託勘等)に照
らしながら具体的に検討するに,例えば,別紙取引経過表取引番号A2,A3,A
4,A5とA6,A7,A8の各建玉(以下,それぞれ「A2」,「A3」,「A
4」,「A5」,「A6」,「A7」,「A8」といい,本件取引における各建玉
を,同様に別紙取引経過表の取引番号をもって称することとする。)は,同銘柄
(神戸ゴム)の同限月の建玉であり,平成8年6月18日にA6,A7,A8の買
建玉合計120枚が建てられてA3,A4,A5の売建玉合計120枚と両建てと
なったものであるが,両建てがなされた7日後の同月25日の後場第1節で,A
2,A3の売建玉合計80枚とA6の買建玉80枚が仕切られ,同日後場第2節
で,A4の売建玉10枚と
A7の買建玉10枚が仕切られている(両建ての同日同場節での仕切り)。また,
翌26日,後場第1節でA8の買建玉30枚が,後場第2節でA5の売建玉30枚
も仕切られ(両建ての同日仕切り),さらに,同場節で,同銘柄(神戸ゴム)のA
9,A10の売建玉合計37枚が建てられている(A5の仕切りとの関係で同場節
での売り直し)。
 そもそも両建ては,委託者の予想に反して相場が変動し損失を被った場合に委託
者が選択する1つの方策であり,両建てそのものを禁止する法令は特に存在せず,
両建てとなった売り買い双方の建玉を異時かつ適時に仕切ることによって結果的に
利益が出ることもあることから,両建てを行うことそのものが直ちに違法であると
評価すべきものではない。しかしながら,両建ては,新たに同額の対立する建玉を
することに他ならないから,委託証拠金が新たに必要となる他,委託手数料も倍額
必要となる。また,両建てをする場合には,いったん仕切って新たに建玉した場合
よりも,相場の上昇と下降の双方(いわゆる相場の天井と底)を見通す必要がある
ことから,単に売りあるいは買いの一方の建玉をする場合よりも,仕切りのタイミ
ングに関して難しい
判断が必要とされる。そこで,両建ての上記のような経済的効果や仕切りのタイミ
ングの困難性についてまで十分に理解していない委託者に対し,商品取引員及びそ
の外務員が,既存の建玉を仕切ることをせずに両建てをするよう勧誘することは,
結局危険性を告げないまま取引をさせる場合と同視することができ,違法と評価す
べきものである。
 しかるに,丁の上記のA2ないしA8の取引においては,両建てとなった売り買
い双方の建玉を同時に仕切っている。両建ては双方の建玉を異時に仕切ってこそ有
効となる取引手法であって,これは,委託者である丁にとっては,委託手数料を建
玉を仕切った場合の倍額負担することになるだけの無意味かつ不利益な取引と言わ
ざるを得ない。
 この点,己は,両建てを同時に仕切ることは普通はないと証言する一方で,本件
取引において両建てを同時に仕切ったことがあるなら,それは,両建てで建玉をし
ておくよりももっといいチャンスがあり,両建ての建玉を全部仕切って資金をそち
らへ回そうとする場合だと思う旨の証言をしているが,委託証拠金現在高帳(甲
3)を見ても,平成8年6月25日や同月26日ころ出金がなされたわけでもな
く,別紙委託勘を見ても,このころ神戸ゴム以外の銘柄への建玉が始められている
わけでもないのであって,上記の両建ての同時仕切りがなされたころ,丁に,神戸
ゴム以外の銘柄や他の目的に資金を振り向ける必要があったとは認められない。む
しろ,上記のとおり,同月26日には,神戸ゴムの売建玉を再び建てて売り直しを
しており,証拠(甲3等
)からは,その後約1か月専ら神戸ゴムの取引を行っていることが認められる。
 また,己は,陳述書(乙40)において,平成8年6月25日の神戸ゴムの取引
について,「当限安納会と産地の対日オファーから失望投げにて急落しました。投
げが出てくると,相場は急反発する為,私と丁氏は,急いで売玉を手仕舞う様話し
受注しました。」と記載している。しかしながら,この記載は,商取年報(乙34
の1)の「当限安納会と産地の対日オファー価格の下落から失望投げを誘いにて急
落。」という記載がそのまま本件取引の理由として記載されたものであって,実際
に己と丁との間で取引の受発注に際して同陳述書記載のような何らかのやり取りが
あったとはにわかに信じ難い。しかし仮に,陳述書記載のとおりのやり取りが丁と
己の間にあったとするならば,同日の神戸ゴムの買建玉の仕切り(A6,A7)を
己は丁から受注せず
に取引をなしたことになる。また,「相場は急反発する」という陳述書記載の相場
観(相場に対する見通し)を持ちながら,A4,A5の売建玉と共にA6,A7の
買建玉を,同日同場節で仕切るのは不合理と言わざるを得ない。また,己は,同月
26日の神戸ゴムの取引については,陳述書に,「産地安に続落のあと,円安や値
頃買で反発した為,私は丁氏と買玉もはずす様相場観を話し,受注しました。その
後,当限納会値安と産地の受給緩和見通しにより,丁氏は売建を受注しました。」
と記載しており,これも商取年報に記載されている事項がそのまま本件取引の根拠
として記載されたものであるが,仮に同陳述書に記載されたとおりのやり取りが丁
と己の間にあったとするならば,同日の神戸ゴムの売建玉(A5)の仕切りを己は
丁からの受注なく行
っており,また,A5とA8の両建ての同日における仕切り及びA5とA9,A1
0の売り直しのいずれについても,これを行う合理的理由,必要性はなかったとい
うことになる。
 以上のとおり具体的に検討しても,上記のA2ないしA10の各建玉に関する取
引は,丁にとっての利益という観点からは合理的な説明のつかない無意味な取引で
あったと言わざるを得ない。
 また,例えば,平成9年5月22日,B125,B126,B127の東京トウ
モロコシの売建玉が仕切られた後に,B131,B141の東京トウモロコシの売
建玉が建てられており,いわゆる売り直しがなされている。
 直しとは,既存の建玉を仕切って同一日内に同じ建玉をすることであり,例え
ば,直しを1回行えば建玉をそのまま保持する場合と比較して倍額委託手数料がか
かるというように,直しを行うことは,いたずらに委託手数料の負担を増加させる
ものであることから,チェックシステム等においては,指導の対象である特定売買
の1つとされており,本件取引当時には「商品取引員の受託義務に関する取引所指
示事項」において原則禁止するところとなっていたものである。
 本件取引全体においては,直しが多数回存在しているところ(原告らの計算では
50回,被告の計算では36回),被告は,計算上の利益が乗っている場合,その
利益を現実のものとするため,既存の建玉を仕切ると共に更に値上がるとの判断の
下に買い直しを,値下がるとの判断の下に売り直しをすることは何ら不合理なこと
ではなく,利益が乗っている建玉を仕切って利益を現実化させ,取引自体の中味,
すなわち帳尻累計の中味を改善することは,相場の戦法として当然であると主張す
る。
 しかるに,上記のB125,B126,B127とB131,B141の東京ト
ウモロコシの建玉の売り直しにおいては,B125,B126,B127の各建玉
は値洗い損が出ている時点で仕切られている。被告の上記主張の当否はともかく,
これら取引は,被告の主張にさえ沿わない無意味な取引と言わざるを得ない。
 さらに,本件取引は,平成9年5月ころから同年7月ころにかけて取引回数が特
に多く,例えば,平成9年5月においては,取引回数は62回(仕切りの回数すな
わち別紙委託勘の行数をもって取引回数とする。ただし,建落ちが月をまたぐとき
には,落ち(仕切り)も当該月の回数として数える。),特定売買の回数は29回
(別紙委託勘参照。直しを「直」,途転を「ド」,日計りを「日」,両建てを
「両」,手数料不抜けを「不」とし,各取引の左に記載)であり,売買回転率は1
日平均約2回と異常に高く,特定売買率は約47パーセントと著しく高率となって
いる。しかしながら,本件全証拠に照らしても,丁に,この時期,このような多数
回の特定売買を含む取引を頻繁に繰り返すべき合理的な事情が存在したとは認めら
れない。己の陳述書にお
いては,これらの取引のうちトウモロコシの取引について,商取年報に記載されて
いる事項がそのまま取引の根拠として記載されているが,この記載はにわかには信
用できない上,かえって,同陳述書の記載及び己の証言からは,上記のような特定
売買や頻繁な売買を行うにあたって,己が丁に情報提供したという商取年報に記載
されているような事項の他には,取引判断の根拠とされた事情がなかったこと,例
えば,丁固有の事情等は存在しなかったことが認められる。また,商取年報に記載
されている事項は,ほとんどが,売り買い,建落ち,いずれの取引とも結び付けて
説明することが可能なものであり,もし仮に,己の陳述書記載のとおりの根拠や己
とのやり取りによって丁が本件取引の判断を行い,上記のような多数の特定売買を
含む売買を頻繁に行
っていたとするならば,そのこと自体から,丁が両建て,直し,日計り等の特定売
買の意味を十分に理解していないこと,及び,己が,自ら提供した情報や相場観に
よって,いたずらに委託手数料の負担を増加させる取引を誘導したことが推認でき
る。
 以上のとおり,本件取引はその取引の内容を個別に検討しても,丁の利益という
観点からは合理的な説明のできない不合理な取引が多数存在する。
c 加えて,証拠(乙52)によれば,丁は,本件取引開始当時における丁と被告
の本社顧客サービス部の壬との電話でのやり取りにおいて,壬が「慎重に取引をお
願いします。」と何度か述べるのに対し,丁は,「よく見とってもらわにゃあな。
わしが,いくら慎重にやってもあかんのやで。あんたの方で,よく見とってもらわ
なあかんの。」「わしが慎重にやっとんやない,やり方が分からへんのやで,あん
たの方が慎重にやってもらわなあかんねやわ。」「いろんなね証文とか何とかあっ
ても,それは形式であってね。実際は,その本筋は,あんたの方の営業マンの人
が,ちゃんと,よう見とってもらわなあかんの。」と述べており,このことから,
丁が,被告従業員の判断に依存して取引を行おうという姿勢の強い委託者であった
ことが推認できる。ま
た,己においても,丁に対し,相場動向や相場観を伝えて助言はしたと証言してお
り,上記bで認定した特定売買等が,専ら丁の判断によってなされ,己が丁の注文
を取り次いだだけのものではないことは明らかである。
d 上記aないしcで認定した事実を総合すれば,己は,丁が己の判断に依存して
取引を行っていることを希貨として,本件取引の当初から,手数料稼ぎを目的とし
て過当売買を誘導し,いわゆる「転がし」を行っていたことが明らかに認められ
る。
 なお,被告は,丁は,本件取引当時,高齢であったとは言え,防災警備業を営む
会社等複数の会社を経営していた現役の経営者であって,判断能力は十分にあった
上に,平成7年2月16日から平成8年4月17日まで,庚において,取引金額6
500万円の,米国産大豆の商品先物取引を行って,損失を出した経験が,また,
平成8年1月23日から同年10月末日まで,辛において,取引金額1645万円
の,トウモロコシ,ゴム,金,銀,白金等の商品先物取引を行った経験があり,取
引経験や取引への知識・理解力も十分にあったのであるから,己に誘導されるまま
自主的判断に基づかず取引を行ったということはなく,本件取引における特定売買
率,売買回転率,手数料化率の高さ,取引回数の多さ等は,取引経験者であった丁
が,日々刻々と変動
する相場への対応として取引を行った結果に過ぎないと主張する。
 しかしながら,被告の主張するとおり丁において被告と本件取引を開始する約1
年2か月前から庚において商品先物取引を行った経験があったとしても,前記の壬
とのやり取り(乙52)における丁の言動や丁が「今度の人はすばらしい人だか
ら,今度は儲かる。」旨述べていたという原告丙の供述に照らせば,丁が,庚にお
ける取引においても,外務員の判断に依存して取引を行っていた可能性は否定でき
ず,被告主張の取引経験をもって直ちに,本件取引当時丁が商品先物取引の知識,
理解力を十分に有していたとは推認できず,丁に商品先物取引の取引経験があるこ
とは,上記の認定を妨げるものではない。また,上記a及びbで認定した本件取引
の客観的内容は,特定売買等の取引の意味を十分に理解している委託者が自主的な
判断で取引を行ったな
らば,およそ行わないであろうと考えられる取引内容であり,仮に,被告が主張す
るように,丁がこれら個々の取引をなすことを了解していたとしても,丁がその取
引の意味を十分に理解していたものとは到底認められない。
 以上より,丁の本件取引において,己は,手数料稼ぎを意図して過当売買を行
い,結果的に丁に多額の損害を与えたのであるから,己の行為は全体として違法性
を帯びており,不法行為を構成すると認められる。また,己の不法行為は,被告の
事業の執行につき行われたものであるから,被告は己の使用者として不法行為責任
を負う。
イ 原告丙の本件取引について
(ア)無断売買,一任売買について
原告丙は,己に対し,玉を指定して取引をしたことは1度もなく,全ての取引に
ついて己に一任しており,本件取引は原告丙の指示なく行われていた旨主張し,本
人尋問においてこれに沿う供述をするが,同人の供述内容は,同人が被告の本社顧
客サービス部の壬と3回電話でやり取りをしているという客観的事実(乙53)に
反する点があることや己,戊の証言等に照らして,たやすくは信用できず,本件全
証拠によっては,原告丙の本件取引が,原告丙の了解なく行われた無断売買,一任
売買であったとまでは認めることができない。
 (イ) 無意味な反復売買,過当売買
 原告丙の本件取引は,別紙委託勘記載のとおりであり,別紙委託勘によれば,取
引期間は,平成8年8月30日から平成9年11月10日までの437日,取引回
数は,48回である。また,特定売買の回数は,合計で少なくとも15回あること
は当事者間に争いがない(取引回数及び特定売買の数え方は,ア(ウ)a記載の方法
と同様とする。なお,原告らは,原告丙の本件取引と丁の本件取引が,同一の担当
者によってなされたものであること等から,原告丙の取引のいずれが特定売買に当
たるかは,丁の取引とも関連付けて見るべきであると主張するが,原告丙と丁の担
当者が己であり,原告丙の本件取引の委託証拠金を丁が出捐し,原告丙と丁との間
で,利益が出れば原告丙のものに,損が出れば丁がこれを負担する旨の合意がなさ
れていたという事情
があったとしても,原告丙名でなされた本件取引における委託者は丁ではなくあく
まで原告丙であるから(これは当事者間に争いがない。),当該取引が特定売買に
当たるか否かは,丁の取引と関連付けてではなく,原告丙の取引それ自体において
見るべきである。よって,原告らの主張する特定売買の認定方法を,当裁判所は採
用しない。)
 以上の数値を基に計算すると,原告丙の本件取引における特定売買比率は,48
回中15回で,約31.3パーセントとかなりの高率であり,売買回転率は,43
7日中48回で,月平均約3.3回(1か月30日として計算する。)とチェック
システム等の基準である月平均3回を超えている。また,前記争いのない事実等
の(9)に記載したとおり,帳尻損金と帳尻益金の差額は852万2559円である
が,これに対し,委託手数料合計は268万200円であり,手数料化率は約3
1.4パーセントと,チェックシステム等の基準である10パーセントと比較して
も相当に高い割合である。
 以上に認定した特定売買比率,売買回転率,手数料化率の高さ,及び,原告丙
は,本件取引を行う以前に商品先物取引の経験がなく,商品先物取引に習熟してい
なかったこと,己は,原告丙の本件取引と同時期になされた丁の本件取引において
も,上記のとおり明らかな「転がし」を行っていることなどに照らせば,本件取引
も,己が,原告丙の利益を考慮せず,被告の利益を図る方向で誘導したものであ
り,手数料稼ぎを目的とした過当売買であると推認できる。
(ウ) 新規委託者保護義務違反
被告の受託業務管理規則(乙45)第6条によれば,商品先物取引の経験のない
新たな委託者からの受託にあっては,外務員の委託者の建玉枚数に係る判断枠は2
0枚とされ,当該委託者から当該判断枠を超える建玉要請があった場合は,別途に
その当否を審査するものとされ,その方法と基準については,「商品先物取引の経
験のない新たな委託者からの受託に係る取扱い要領」(以下「取扱い要領」とい
う。)が別途に定められ,取扱い要領では,当該委託者の資質,資力等を考慮のう
え,相応の建玉枚数の範囲において受託を行うよう,100枚以内は管理サービス
部責任者(支店長),101枚以上は総括責任者(取締役本部長)が審査を行いそ
の適否について判断し,妥当と認められる範囲内において受託するものとされてい
る。
上記の受託業務管理規則及び取扱い要領は,被告の社内の内部基準であるが,社
団法人全国商品取引所連合会の「受託業務指導基準」において,受託者の保護育成
措置等を社内規則に定めこれを遵守しないといけないと定められていることを受け
て,被告は,受託業務管理規則等に新規委託者保護に関する規定を設けており,上
記「受託業務指導基準」及び被告の受託業務管理規則等の趣旨に照らすと,新規委
託者保護規定は,商品取引員に共通する規則であり,商品先物取引が極めて投機性
の高い取引であることに鑑み,新規委託者が取引開始当初の習熟期間中に不測の損
害を被らないように取引限度枚数の観点から保護するとの趣旨で設けられた規定で
あると解されるから,新規委託者との間において,習熟期間中に過大な取引を行わ
ないということは,
商品取引員の委託者に対する一般的な注意義務の内容をなすものというべきであ
り,商品取引員及びその従業員において,その注意義務に著しく違反するときは,
社会的相当性を逸脱し,不法行為を構成するものと解するのが相当である。
 そこで本件を検討するに,原告丙は,商品先物取引きの経験のない委託者であっ
たところ,原告丙の本件取引においては,当初から23枚の建玉(中部輸入大豆の
買建玉)がなされており,また,取引開始後3か月後の平成8年10月28日まで
に建玉された建玉枚数は合計88枚に達している。
 この点,委託者調書(乙20の1,2)によれば,被告は,顧客カード(乙1
9)に記載された原告丙の収入,資産状況を基礎に,被告の受託業務管理規則及び
取扱い要領所定の審査手続きによって,平成8年8月30日,原告丙の資金力,判
断力に照らして,同人を建玉枚数,50枚までの取引適格者であると認定し,同年
9月17日,同人の資金力,理解力,判断力に照らして,同人を建玉枚数100枚
までの取引適格者であると認定していることが認められる。
 しかし,己は,被告が上記審査の際に基礎とした原告丙の顧客カード上の,原告
丙には預貯金が6000万円,年収が2000万円,投下可能資金が2000万円
ある旨の記載は,己ら被告従業員が原告丙から聴取したものではなく,己が丁と談
話をしていた際,己が「丙さんの預貯金はどんなもんですかね。」と聞いたとこ
ろ,丁がちょっと笑い,己が「5,6千万ですか。」と聞くと,丁が,ニコッと笑
って何も言わなかったことから,その程度の額ではないかと思って,預貯金600
0万円と書き,また,丁が,大体月平均200万円位を丁の経営する会社の社員で
ある原告丙に対し支払っているというようなことを言っているのを聞いて,そこか
ら推測して年収2000万円と書いたものであることを証言している。
 かかる己の証言によれば,原告丙に,預貯金が6000万円,年収が2000万
円,投下可能資金が2000万円がある旨の原告丙の顧客カード上の記載は,原告
丙の資金力を調査することなく記載されたものであったと言わざるを得ず,また,
本件全証拠に照らしても,本件取引当時,原告丙に同顧客カード記載の資力が実際
にあったとは認められない。さらに,被告は,委託者調書において,原告丙の理解
力,判断力も,20枚を超える建玉枚数を認める根拠としているが,本件全証拠に
照らして,建玉枚数20枚までという新規委託者保護規定を適用しないことを相当
とするほど,原告丙に商品先物取引に対する理解力,判断力があったと認めること
もできない。
 以上の認定からすれば,被告の上記審査は,被告において,原告丙の資金力の調
査を行っていないにもかかわらず,原告丙に資金力があることを根拠とするなどし
て20枚を超える建玉枚数を認めたものであるから,同審査は形骸的なものであっ
て,被告の受託業務管理規則及び取扱い要領に実質的に違反するものと言わざるを
得ない。
 よって,原告丙の本件取引において,委託者の建玉枚数の審査の基礎となる顧客
カードに,原告丙から聴取もせずに同人の資産,収入を過大に記載し,原告丙に本
件取引当初から20枚を超える建玉をさせた己の行為は,上記の注意義務に著しく
違反するものであって,不法行為を構成すると評価できる。
(エ) 以上のとおり,原告丙の本件取引において,己は,新規委託者保護 義務に
違反し,かつ,手数料稼ぎを意図した過当売買を行って,結果 的に原告丙に損害
を与えたのであるから,己の行為は全体として違法 性を帯びており,不法行為を
構成するものと言うべきである。また, 己の不法行為は,被告の事業の執行につ
き行われたものであるから, 被告は己の使用者として不法行為責任を負う。
(2)争点(2)について
ア丁の損害額
証拠(甲3,乙11,12)によれば,丁が被告に支払った金員の総額は,98
78万0771円であり,丁が被告から支払を受けた金員の総額は,3150万5
530円であると認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。
よって,丁が被告に支払った金員から丁が被告から支払を受けた金員を控除した
残額6727万5241円が,己の上記の不法行為と相当因果関係のある損害と認
められる。
イ原告丙の損害額
証拠(甲4,乙22,23)によれば,原告丙が被告に支払った金員の総額は,
1371万1000円であり,原告丙が被告から支払を受けた金員の総額は,51
8万8441円であると認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。
よって,原告丙が被告に支払った金員から原告丙が被告から支払を受けた金員を
控除した残額852万2559円が,己の上記一連の不法行為と相当因果関係のあ
る損害と認められる。
なお,原告丙の本人尋問の結果によれば,原告丙の本件取引の委託証拠金は丁が
出捐しており,原告丙と丁との間で,利益が出ればその利益は原告丙のものにし,
損が出れば丁がこれを負担する旨の合意がなされていたことが認められるが,被告
との関係においては,原告丙名でなされた本件取引の委託者は丁ではなくあくまで
原告丙であるから(争いのない事実),原告丙名でなされた本件取引について己が
行った不法行為によって発生した損害は,原告丙の損害と評価することができ,上
記の委託証拠金の出捐関係や原告丙と丁間の合意の有無は,上記の損害の認定に影
響を及ぼすものではない。
ウ丁についての過失相殺
上記で認定したとおり,丁は,己による手数料稼ぎを目的とした過当売買によっ
て,本件取引において6727万5241円の損害を被ったと認められる一方,被
告は,本件取引によって,合計6848万8340円の委託手数料を得ており,丁
の上記損害は,己の不法行為によって,委託手数料収入として被告の利益に転化し
ていると認められる。
確かに,丁は,本件取引を行う以前に商品先物取引で損失を受けた経験を有して
おり,本件取引開始の当たっては,被告の本社顧客サービス部の従業員である壬か
ら「最終的には自らの判断で取引を行うようお願いします。」と言われたり,被告
から注意事項が記載された「商品先物取引委託のガイド」(乙24)を受け取るな
どしていながら,安易に己の判断に依存して取引を行って利益を得ようと考えた点
において,非常に軽率であったと認められる。また,原告丙の本人尋問の結果,
己,戊の証言等によれば,丁は,自身が本件取引を行うだけでなく,自らが経営す
る会社の営業部長であった原告丙にも商品先物取引を行うことを勧め,同人の取引
のための資金まで出捐していたことも認められ,丁が商品先物取引を行うことにつ
いて,相当積極的であ
ったことも認められる。
しかしながら,己は,丁が己の判断に依存して取引を行おうとしていることに乗
じて,手数料稼ぎを意図した無意味な反復売買を行い,その結果,丁に6727万
5241円の損害を負わせる一方,被告に上記損害額を超える6848万8340
円の手数料収入を得させたのであり,委託手数料の額は取引ごとに定まっていて,
本件取引の結果,6848万8340円の委託手数料の負担を丁が負うことを己は
承知の上であえて反復売買を行っていたのであるから,本件取引における6727
万5241円の損害の発生は,己と丁との関係において見れば,専ら己の不法行為
に起因するものと評価でき,同損害は己の使用者である被告に全額負担をさせるこ
とが相当である。よって,丁の本件取引における不法行為については,過失相殺を
行わない。
エ原告丙についての過失相殺
 証拠(乙16,53,原告丙本人,証人己,同戊等)及び争いのない事実によれ
ば,原告丙は,丁の経営する防災警備会社の営業部長であり,本件取引開始の数週
間前に設立されたアンティークショップを経営する会社である株式会社癸の代表取
締役であったこと,原告丙は,丁から,「己の部下の成績を上げるために原告丙の
名を貸してくれないか。」「利益が出たらあなたに上げる。損をしたときは全部私
が責任を持つ。」等と言われて,本件取引を行うことを誘われたこと,原告丙と丁
は,本件取引で利益が出た場合には,その利益を原告丙の丁からの借入金の返済
や,丁が本件取引のために出捐した金員の返済に充てる旨を合意していたこと,原
告丙は,本件取引開始に当たって「私は商品先物取引及び株式の経験がありません
が担当者から十分説明
を受け先物取引の投機性,仕組等理解し,この度,私の意志で自らの責任において
自己資金の範囲内で先物取引に参加したいと思いますのでよろしくお願い申し上げ
ます」という文書を自筆で記載し被告に差し入れていること,原告丙は,被告から
送られてきた本件取引の売買報告書等の書面を開封せずに全て丁に渡し,その内容
を見ることを怠っていたこと,原告丙は,丁が本件取引開始前に商品先物取引を行
って損失を出していることを知っていたこと,被告の本社顧客サービス部の従業員
壬から電話を受けて,壬から取引の最終的な決断は自分で行うように注意を受けた
ことがあること,原告丙の本件取引においては,特定売買比率は約31.3パーセ
ント,売買回転率は月平均約3.3回,手数料化率は約31.4パーセントと,い
ずれも丁の取引の場
合と比べれば率が低いこと,原告丙が本件取引自体によって被った損害の額が85
2万2559円であるのに対し,委託手数料は268万200円であり,原告丙の
被った損害には売買損金571万8800円等取引自体から発生した損失も含まれ
ていることが認められる。
 以上の認定事実からすれば,原告丙が被った損害には売買損金等取引自体による
損失も含まれている上,原告丙の本件取引において己が行った過当売買は,丁の取
引と比較すれば過当性の程度は低く,己の不法行為の違法性の程度は丁の取引の場
合ほど高くはないこと,原告丙は,丁が商品先物取引を行って損失を受けたことも
知っており,商品先物取引を行えば損失を受けることがあること自体は承知してい
たと考えられること,原告丙は,丁から,本件取引の資金は同人が出すから等と勧
められて本件取引を始めたもので,被告従業員に勧められたというよりは丁に勧め
られて本件取引を始めたという面が強く,また,取引開始にあたって己の指示に従
って自筆文書を差し入れるなどしており本件取引を始めることについて決して消極
的ではなかったこと
,原告丙は,被告従業員である壬から自己の判断で取引するよう言われながらも,
丁や己に実質的に本件取引をまかせていたことが認められ,これらの事情を総合す
れば,原告丙の本件取引の損害の発生と拡大については,原告丙にも過失があると
言わざるを得ない。
 上記で認定した事実その他一切の事情を総合考慮すると,原告丙の過失割合は7
割とするのが相当である。
したがって,原告丙の損害額は,上記イの852万2559円の3割に当たる2
55万6767円(円未満切捨て)となる。
オ弁護士費用
 本件の全事情を斟酌すれば,丁の相続人である原告甲及び原告乙に対して支払う
べき弁護士費用のうち,本件不法行為による損害として原告甲及び原告乙が請求し
うる額は,合計200万円を相当とし,原告丙に対して支払うべき弁護士費用のう
ち,本件不法行為による損害として原告丙が請求しうる額は,25万5676円を
相当とする。
   カ よって,原告甲及び原告乙の被相続人丁の財産に対する相続分はそれぞ
れ2分の1であるから,本件不法行為による損害として原告甲及び原告乙が請求し
うる額は,それぞれ3463万7620円(6927万5241円の半額,円未満
切捨て)であり,本件不法行為による損害として原告丙が請求しうる額は,281
万2441円である。
(3) 以上の次第で,原告甲及び原告乙の請求は理由があるからこれを認容し,原告
丙の請求は,281万2443円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であること
が記録上明らかな平成11年11月19日から支払済みまで年5分の割合による遅
延損害金の支払を求める限度で理由があるからその限度でこれを認容し,原告丙の
その余の請求には理由がないからこれを棄却し,主文のとおり判決する。
     名古屋地方裁判所民事第10部
            裁 判 官   山 下  美 和 子 

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