弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、「1、原判決を取消す。2、被控訴人が昭和四四年五月三一日付
て控訴人に対してなした(一)控訴人の昭和四一年四月一日から昭和四二年三月三
一日までの事業年度の法人税に関する更正処分(『法人税額等の更正通知書』保法
法特更第六九号)ならびに(二)控訴人の昭和四二年四月一日から昭和四三年三月
三一日までの事業年度の法人税に関する更正および加算税賦課決定処分(『法人税
額等の更正通知書および加算税の賦課決定通知書』保法法特更第七〇号)はいずれ
も取消す。3、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求
め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上法律上の主張および証拠の関係は、控訴代理人において、
 (一) 一般に国民の権利または利益を設定する行政行為には、行政庁の自由な
取消し、変更を許さないという意味での不可変更性が認められている。被控訴人が
控訴人の昭和四一事業年度の法人税等についてした第二次更正処分(取消処分)
は、控訴人にいつたん課した過大な納税義務から控訴人を解放し、控訴人の利益を
設定した行為である。すなわち右の第二次更正処分は、控訴人の同年度における欠
損金額を金八二万九八九三円とした第一次更正処分を取消したものであり、その結
果右欠損金額が控訴人の確定申告額のとおり金三〇七万四七三三円となつたのであ
つて、これにより法人税法第五七条第一項により翌昭和四二事業年度に繰越算入し
得る損金の額が増加して同年の課税所得金額が減少し、ひいて同年の税額が減少す
るのであるから、控訴人に利益に処分したものである。したがつて右の第二次更正
処分に不可変更性を認めるべきであり、これに違背してなされた昭和四一事業年度
についての第三次更生処分は違法である。
 また右の第一次更生処分が第二次更正処分によつて取消されたのは、第一次更正
処分の理由とされた所得がすべてなかつたものと判断されたためであるとみるべき
であり、これと金額的にも内容的にも全く同一の所得があるとしてなされた第三次
更正処分は違法である。一度取消された所得金額をなんらの事情も理由もなく再び
更正処分の名において復活させることは、信義則に反し、行政行為の不可変更性の
原則に反し、税務行政の法的安定性を冒すことになるからである。
 (二) 被控訴人か控訴人の昭和四二事業年度の法人税等についてした第二次更
正処分(取消処分)は、控訴人の同年度における課税所得金額を金二五六万〇三五
三円、法人税額を金七一万六八〇〇円とした第一次更正処分を取消したものであつ
て、その結果控訴人の確定申告額のとおり課税所得金額金〇円、法人税額も金〇円
となつたのであつて、控訴人に利益に処分したものであり、したがつてこの処分に
不可変更性を認めるべきであり、これに違背してなされた昭和四二事業年度につい
ての第三次更正処分は違法である。
 また右の第一次更正処分が第二次更正処分によつて取消されたのは、第一次更正
処分の理由とされた所得がすべてなかつたものと判断されたためとみるべきであ
り、これと金額的にも内容的にも全く同一の所得があるとしてなされた第三次更正
処分が、信義則に反し、行政行為の不可変更性の原則に反し、税務行政の法的安定
性を冒すことになつて違法であることは、昭和四一事業年度における第三次更正処
分について述べたのと同断である。
 さらに昭和四一事業年度についての第三次更正処分が取消されれば、これを前提
とする昭和四二事業年度についての第三次更正処分も瑕疵があることになるから取
消されるべきである。
 と述べたほかは、原判決事実摘示のとおり(ただし原判決八枚目裏八行目に「本
件各第三次更正処分は」とあるのを「本件各第三次更正処分について」と改める)
であるからこれを引用する。
         理    由
 当裁判所も控訴人の本訴請求は失当であると判断するものであるが、その理由と
して原判決九枚目裏九行から十行目の「通知してきたが」の次に「昭和四一事業年
度分の更正には第一次更正処分の理由が若干補充訂正されていたこと」を挿入する
ほか原判決九枚目表九行目から十枚目表五行目までの理由説示を引用し、左記のと
おり附加し、更にその次に五として原判決一四枚目裏四行目以下の理由説示を引用
する。
 <要旨>二、 成立に争のない甲第五および第六号証(本件各第二次更正処分の通
知書)ならびに甲第三および第四号証(本件各第一次更正処分の通知書)に
よると本件各第二次更正処分にはいづれも「更正理由」の欄に「当初更正所得金額
を取消します。」と記載し「申告または更正前の金額」欄に各第一次更正処分によ
つて更正した金額を、「更正または決定の金額」欄に控訴人の各確定申告の金額を
それぞれ記載した「法人税額等の更正通知書」によつて控訴人に通知されているこ
とが認められ、この通知書の記載内容だけからすれば本件各第二次更正処分は、各
第一次更正処分において確認しかつ更正の理由とした所得を始めからなかつたもの
と判断し、確定申告額どおりの所得金額または欠損金額に再更正したものであると
みることもできるであろうが、同日付で第三次更正処分として昭和四一事業年度の
更正としては理由の補充訂正がなされ、昭和四二事業年度の更正としては税率が是
正されて控訴人に通知されていることを考えると右各第二次更正処分は各第三次更
正処分をする前提の手続として形式的に各第一次更正処分を取消すためになされた
にすぎず、本来取消処分であるのに更正処分の形式をかり更正通知書の用紙を利用
してしたため通知書上は前記のようにあたかも確定申告額のとおりに再更正したか
のような記載となつているが、これは第一次更正処分を取消す結果として確定申告
書が提出されて未だ更正処分のなされていない状態に復することを示したに止ま
り、各第一次更正処分において確認しかつ更正の理由とした各所得について、それ
らが始めからなかつたものと判断したものではないと認めるのが相当である。のみ
ならず第一次更正処分が第二次更正処分をもつて取消され、その取消の同一日付で
第三次更正処分として昭和四一事業年度のそれは理由を補充訂正し昭和四二事業年
度のそれは税率を是正した経緯は、これを卒直かつ実質的に観察すれば、昭和四一
事業年度の第三次更正処分は第一次更正処分の理由を直接補充訂正したものであり
昭和四二事業年度の第三次更正処分は第一次更正処分の税率を直接是正したものと
解するのが相当である。
 三、 以上のとおりであるとするならば、昭和四一事業年度の第一次更正処分の
理由を第三次更正処分で直接訂正補充することおよび昭和四二事業年度の第一次更
正処分の税率を直接第三次更正処分で是正することが可能であるかぎり、第二次更
正処分を第一次更正処分の取消ないし控訴人の確定申告額どおりの所得金額または
欠損金額に再度更正した処分であるとし、これを前提として行政処分の不可変更性
および更正権の制限を主張し本件各第三次更正処分の違法をいう控訴人の主張は、
すべてその理由がないものとしなければならない。
 四、 そこでまづ第三次更正処分によつて昭和四二事業年度の第一次更正処分の
税率を是正することが可能であるかどうかについて考えるのに、前記甲第四号証と
成立に争のない甲第二号証を対比すると、第三次更正処分は第一次更正処分の税率
を是正することによつて法人税額は七一万六、八〇〇円が五八万八、八〇〇円に過
少申告加算税額は三万五、八〇〇円が二万九、四〇〇円にそれぞれ減額しているこ
とが認められ、これは国税通則法第二六条の規定によつて再更正をなしうる場合に
該るからかかる第三次更正を適法になし得ることはいうまでもない。
 次に昭和四一事業年度の第三次更正処分の適法性について考えるのに、この第三
次更正処分は前段認定の通り昭和四一事業年度の第一次更正処分の理由を若干補充
訂正したに止るものであるから国税通則法の前記法条が適用されるべき場合には該
らないけれども、右第三次更正処分は控訴人に新たな責務を課し或は既に控訴人に
賦与した利益を奪うという性質のものではなく単に前処分に訂正補充すべき部分が
あるとしてなされた単なる訂正処分たるに止るから後段において判断する更正権の
濫用に渉るような事実がないかぎりこれを違法とすべき何等の理由もない。
 よつて本件控訴は理由かないからこれを棄却すべく、控訴費用の負担につき民事
訴訟法第九五条第八九条を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 菅野啓蔵 裁判官 小林信次 裁判官 中平健吉)

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