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裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人大槻龍馬、同谷村和治、同平田友三、同安田孝の上告理由第一点及び
第二点について
 一 本件について原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
 1 被上告人は、第一審判決添付の物件目録記載の各土地(以下「本件土地」と
いう。)の所有者であるが、大和郡山市長は、本件土地に対する昭和五七年度(基
準年度)の固定資産税の課税標準たる本件土地の価格について、同目録(一)記載の
土地は一六六万一四〇〇円、同目録(二)記載の土地は一四六万四四〇〇円と決定し
て、これを固定資産課税台帳に登録し、昭和五七年四月五日から同月二五日までの
間同台帳を関係者の縦覧に供した。
 2 被上告人は、同月三〇日、上告人に対し右登録された本件土地の価格に不服
があるとして審査の申出をし、口頭審理の手続を申請し、(1) 大和郡山市(以下
「市」という。)の基準宅地の評価額の上昇率は一二四パーセントであるのに、何
故に本件土地の評価額の上昇率が一五三パーセントになるのか根拠を明らかにされ
たい、(2) 市に対し、本件土地の評価と他の土地の評価について、比較検討でき
る判断資料の提示を求める、と主張した。
 3 上告人は、同年五月一九日に本件につき口頭審理を行い、同期日においては、
まず、市の税務担当者が、(1) 本件土地の地目を宅地と認定し、同土地の価格の
評価は、固定資産評価基準(昭和三八年一二月二五日自治省告示第一五八号)に基
づき、その中の第1章「土地」、第3節「宅地」に定められた「その他の宅地評価
法」に従って行ったこと、(2) 本件土地が存するa地域は以前は地目が田等であ
ったところ、昭和五六年に新たに宅地造成がされ地目が宅地となったところであり、
宅地としての評価は今回が初めてであること、右地域は用途区分による普通住宅地
区であること、(3) 昭和五七年度の評価替えに臨みa地域の標準宅地をb町c番
地のd所在の土地(以下「本件標準宅地」という。)と定め、その評点数は、本件
標準宅地と状況の類似したb町e番地のf所在の土地(以下「gの土地」という。)
に比準し、不動産鑑定士の鑑定価格と相続税評価額及びこれらへの到達率、売買実
例価格、交通機関までの距離等の資料を基に決定したものであること、(4) 本件
標準宅地の評点数は一平方メートル当たり一万七一〇〇点であること、(5) 本件
土地について、本件標準宅地に対する比準割合を一・〇と定めて評点数を付し(一
平方メートル当たり一万七一〇〇点)、評点一点当たりの価格を一円としてその価
格を決定したことを説明し、被上告人の前記2(1)の主張について、a地域は昭和
五四年度(前基準年度)において農地等であり、今年新たに宅地と認定して状況の
類似したgの土地に比準してその価格を決定したところ、結果的に一五三パーセン
トの上昇率になったものである旨を、同2(2)の主張について、a以外の資料は出
しかねる旨を答弁した。次いで、上告人は、被上告人の意見を聴取した上、口頭審
理手続を終了させた。
 4 上告人は、昭和五七年五月二〇日、口頭審理外において、a地域及び本件標
準宅地の評価に当たり比準したgの土地その他状況の類似する市内五か所を実地調
査し、そのあと市の税務担当者からこれら各地の売買実例、不動産鑑定士の鑑定価
格、相続税評価額等及びこれらに基づく評点数付設の方法、手順等について説明を
受け、その後同月二六日午前、被上告人の要請により被上告人と上告人の委員らと
の協議会を開催し、その席上において同月二〇日に実地調査を行ったことを被上告
人に知らせた上、被上告人の意見を聴取した。なお、右協議会において、被上告人
から市内各土地の評価に関する資料の提出要求があったが、上告人は他の地域の宅
地の評価額は開示する必要性が認められないとし、これに応じられない旨を回答し
た。上告人は、同月二六日午後、市の税務担当者から再度市内各地域別の前同様の
事項について説明を受け、そのあと市内一四か所の実地調査を行った。上告人は、
右各実地調査の際、被上告人に立会いの機会を与えておらず、また、右各実地調査
の結果等を口頭審理に上程する手続をとっていない。
 5 上告人は、同月二九日委員会を開催し、本件について被上告人の審査の申出
を棄却する旨の決定(以下「本件決定」という。)をした。
 二 以上の事実関係の下において、原審は、上告人は、口頭審理手続を通じて、
被上告人が本件土地の評価額に対する不服事由を特定するに足る合理的に必要な範
囲で評価の手順、方法、特にその根拠を明らかにさせず、また、他の納税者の宅地
の評価額と比較検討するため、状況類似地域における標準宅地等合理的に必要な範
囲の他の土地の評価額を明らかにする措置を講ぜず、さらに、口頭審理外で職権に
より収集した資料や調査の結果を口頭審理に上程しなかったのであるから、被上告
人が的確な主張及び証拠を提出することを可能ならしめるような形で手続を実施し
なかったものといわざるを得ず、したがって、本件口頭審理手続には判断の基礎及
び手続の客観性と公正が十分に図られなかった瑕疵があり、違法たるを免れないと
した上、これらの瑕疵は、地方税法(以下「法」という。)が市町村長から独立し
た第三者機関である固定資産評価審査委員会(以下「委員会」という。)の口頭に
よる審理手続を通じて、評価額の適否につき審査申出人に対し主張及び証拠を提出
する機会を与える対審的、争訟的審理構造を採用することにより、判断の基礎及び
手続の客観性と公正を要求し、もって納税者の権利保護を保障せんとする特別な制
度の趣旨の根幹にかかわる重大な瑕疵といわざるを得ないとし、上告人のした本件
決定は違法として取消しを免れない、とした。
 三 しかし、原審の右判断は、是認することができない。その理由は、以下のと
おりである。
 法によれば、固定資産税の課税標準たる固定資産の価格は、市町村長が固定資産
評価員の行った評価に基づいて決定し(四一〇条)、固定資産課税台帳に登録する
のであるが(四一一条一項)、固定資産税の納税者は、その納付すべき当該年度の
固定資産税に係る固定資産について固定資産課税台帳に登録された価格(以下「登
録価格」という。)に不服があるときは、委員会に審査の申出をすることができる
とされ(四三二条一項)、また、委員会は、右審査の申出を受けた場合においては、
直ちにその必要と認める調査、口頭審理その他事実審査を行った上、その申出を受
けた日から三〇日以内に審査の決定をしなければならないものとされ(四三三条一
項)、審査申出人の申請があったときは、特別の事情がある場合を除き、口頭審理
の手続によらなければならず(同条二項)、この場合には、審査申出人、市町村長
又は固定資産評価員その他の関係者の出席及び証言を求めることができ(同条三項)、
その手続は公開しなければならない(同条六項)と規定されている。法が固定資産
の登録価格についての不服の審査を評価、課税の主体である市町村長から独立した
第三者的機関である委員会に行わせることとしているのは、中立の立場にある委員
会に固定資産の評価額の適否に関する審査を行わせ、これによって固定資産の評価
の客観的合理性を担保し、納税者の権利を保護するとともに、固定資産税の適正な
賦課を期そうとするものであり、さらに、口頭審理の制度は、固定資産の評価額の
適否につき審査申出人に主張、証拠の提出の機会を与え、委員会の判断の基礎及び
その過程の客観性と公正を図ろうとする趣旨に出るものであると解される。そうで
あってみれば、口頭審理の手続は、右制度の趣旨に沿うものでなければならないが、
それはあくまでも簡易、迅速に納税者の権利救済を図ることを目的とする行政救済
手続の一環をなすものであって、民事訴訟におけるような厳格な意味での口頭審理
の方式が要請されていないことはいうまでもない。
 右の見地に立って、本件口頭審理手続に違法が存するかどうかについて検討する。
 まず、審査申出人に対し当該宅地の評価の根拠等を知らせる措置に関して違法が
存するかどうかについてみるに、宅地の評価は、法三八八条以下の規定及び固定資
産評価基準の定めるところに従い、専門技術的な方法、手順で行われるものであっ
て、固定資産評価基準の「その他の宅地評価法」を例にとっていえば、(1) おお
むねその状況が類似していると認められる宅地の所在する地区ごとに状況類似地区
の区分を行う、(2) 状況類似地区ごとに道路に沿接する宅地のうち、奥行、間口、
形状等からみて標準的と認められるものを標準宅地として選定して、その適正な時
価を評定し評点数を付設する、(3) 標準宅地の評点数に比準して、状況類似地区
内の各筆の宅地に評点数を付設する、という方法、手順で評価をするものと定めら
れているのであるが、納税者は、固定資産課税台帳を閲覧してその所有に係る宅地
の評価額を知り、これに不服を抱いた場合に、不服事由を具体的に特定するために
必要なその評価の手順、方法、根拠等をほとんど知ることができないのが通常であ
る。したがって、宅地の登録価格について審査の申出があった場合には、口頭審理
制度の趣旨及び公平の見地から、委員会は、自ら又は市町村長を通じて、審査申出
人が不服事由を特定して主張するために必要と認められる合理的な範囲で評価の手
順、方法、根拠等を知らせる措置を講ずることが要請されているものと解される。
しかし、委員会は、審査申出人において他の納税者の宅地の評価額と対比して評価
が公平であるかどうかを検討することができるように、他の状況類似地域における
宅地の評価額等を了知できるような措置を講ずることまでは要請されていないもの
というべきである。けだし、法三四一条五号によれば、固定資産税の課税標準とな
る固定資産の価格は、適正な時価をいうものとされているのであって、宅地の登録
価格についての不服の審査は、宅地の登録価格が適正な時価を超えていないかどう
かについてされるべきものである。そして、法によれば、自治大臣は固定資産評価
基準を定め、これを告示しなければならず(三八八条一項)、市町村長は固定資産
評価基準に従って固定資産の価格を決定しなければならない(四〇三条一項)と規
定され、また、固定資産評価基準によれば、市町村長は、評価の均衡を確保するた
め当該市町村の各地域の標準宅地の中から一つを基準宅地として選定すべきものと
され、標準宅地の適正な時価を評定する場合においては、この基準宅地との評価の
均衡及び標準宅地相互間の評価の均衡を総合的に考慮すべきものとされているので
あって、法は、このように統一的な一律の評価基準によって評価を行い、かつ、所
要の調整を行うことによって各市町村全体の評価の均衡を確保することとし、評価
に関与する者の個人差に基づく評価の不均衡も、法及び固定資産評価基準の適正な
運用によって解消することとしているものと解される。したがって、特定の宅地の
評価が公平の原則に反するものであるかどうかは、当該宅地の評価が固定資産評価
基準に従って適正に行われているかどうか、当該宅地の評価に当たり比準した標準
宅地と基準宅地との間で評価に不均衡がないかどうかを審査し、その限度で判断さ
れれば足りるものというべきであり、そうである以上、審査申出人が状況類似地域
における他の宅地の評価額等を了知できるような措置を講ずべき手続上の要請は存
しないと考えられるのである。原審の確定した前記事実によれば、本件の口頭審理
期日において、市の税務担当者は、本件標準宅地の価格、評点数、その評価の方法
及び手順の概要、本件土地の本件標準宅地に対する比準割合、評点一点当たりの価
格を説明しており、また、市の基準宅地の価格は被上告人が本件審査申出前に了知
していたところであって、被上告人において不服事由を特定して主張するために必
要と認められる合理的な範囲の事実は明らかにされているものと認めることができ
る。したがって、右の点に関する上告人の措置に違法とすべき点は存しないという
べきである。
 次に、実地調査の結果等の取扱いに関して違法が存するかどうかについてみるに、
もとより、委員会は、口頭審理を行う場合においても、口頭審理外において職権で
事実の調査を行うことを妨げられるものではないところ(法四三三条一項)、その
場合にも審査申出人に立会いの機会を与えることは法律上要求されていない。また、
委員会は、当該市町村の条例の定めるところによって、審査の議事及び決定に関す
る記録を作成し、法四三〇条の規定によって提出させた資料又は右の記録を関係者
の閲覧に供しなければならないとされているのであって(法四三三条四項、五項、
大和郡山市固定資産評価審査委員会条例(昭和三八年大和郡山市条例第二号)七条
ないし九条)、審査申出人は、右資料及び右条例によって作成される事実の調査に
関する記録を閲覧し、これに関する反論、証拠を提出することができるのであるか
ら、委員会が口頭審理外で行った調査の結果や収集した資料を判断の基礎として採
用し、審査の申出を棄却する場合でも、右調査の結果等を口頭審理に上程するなど
の手続を経ることは要しないものと解すべきである。原審の確定した前記事実によ
れば、本件において、上告人は、口頭審理外で行った実地調査の結果等の一部を判
断の基礎として採用していることが窺われるところ、上告人は、昭和五七年五月二
〇日の実地調査後の同月二六日、被上告人の要請により被上告人と上告人の委員ら
との協議会を開催し、その席上において同月二〇日に実地調査を行ったことを被上
告人に知らせた上、被上告人の意見を聴取したものの、右調査の結果等を口頭審理
に上程していないというのであるが、このような実地調査の結果等の取扱いに何ら
の違法も存しないことは、右に説示したところに照らして明らかである。
 四 以上によれば、本件口頭審理手続に口頭審理を要求した法の趣旨に反すると
認められる程度に重大な瑕疵があったとし、これを理由として本件決定を取り消す
べきものとした前記原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるものとい
わなければならず、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は
理由があり、原判決は、その余の論旨について判断するまでもなく破棄を免れない。
そして、本件については、本件決定に取消原因となるその余の違法が存するかどう
かについて更に審理をさせる必要があるから、これを原審に差し戻すこととする。
 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意
見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   堀   誠   一
            裁判官    角   田   禮 次 郎
            裁判官    大   内   恒   夫
            裁判官    佐   藤   哲   郎
            裁判官    四 ツ 谷       巖

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