弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人築平二の上告理由第二点、第四点、第五点および第八点について。
 本願商標は、(1)「ヤグルト」の片仮名文字を楔形文字風の書体で縦書したも
の(原審第七〇号、第六二号事件)、(2)「YAGULT」のローマ文字をゴシ
ツク体風の書体で横書したもの(原審第六一号、第六八号事件)、(3)「ニユー
ヤグルト」の片仮名文字をゴシツク体風の書体で横書したもの(原審第六四号、第
六五号事件)、(4)「ネオヤグルト」の片仮名文字をゴシツク体風の書体で縦書
したもの(原審第七二号、第七一号事件)、(5)「ネオヤグルト」の片仮名文字
を楔形文字風の書体で縦書したもの(原審第六七号、第六〇号事件)、(6)「N
EO YAGULT」のローマ文字をゴシツク体風の書体で横書したもの(原審第
六六号、第六九号事件)、(7)「酵素ネオヤグルト」の漢字および片仮名文字を
一連に同一の書体で縦書したもの(原審第八○号、第八一号事件)からなるという
のである。
 ところで、「ニユー」または「ネオ」ないし「NEO」の文字は、いずれも新ら
しいという意味をもつものとして一般世人に理解されている形容詞であることは公
知の事実であり、また「酵素」なる文字も商品の品質を現わすものであるから、こ
れらの文字を冠した本願商標の要部は、「ヤグルト」または「YAGULT」の文
字にあるものと認むべきである。そこで、「ヤグルト」およびこれと同一の発音を
生ずる「YAGULT」と原審決引用の「ヨーグルト」とを称呼の点から比較対照
すれば、両者はその音感の最初において「ヤ」「ヨー」との差異はあるが、いずて
もヤ行に属する近似音であり、しかも通常余韻が最も強く印象され易く長く残存す
る後尾の部分が両者とも全く同一であるから、両者の全体知な語感、印象は可成り
紛わしいものであるといわなければならない。そして、かような称呼の近似性は、
近来の簡易迅速をたつとぶ取引社会にあつては、彼此混同を生ぜしめる虞れがある
から、両者はその称呼の点において類似するものと認めるのが相当である。
 所論引用の大審院判決は、いずれも、それと事案を異にする本件には適切でない。
 されば、叙上と同趣旨に出た原審の所論判断は正当であつて、その過程に所論の
違法を見い出し難く、論旨は、すべて採用することができない。
 同第一点、第三点、第六点、第七点、第九点および第一〇点について。
 原審の確定した事実によれば、前示「ヨーグルト」なる称呼は一種の乳酸菌飲料
を現わす普通名称となつているが、本願各商標の指定商品たる乳酸清涼飲料類およ
び乳酸菌飲料も、商品ヨーグルトとともに、大体同様の目的で飲用に供され、また
その販売態様も瓶詰にしたものを主として家庭配給の方法で行われており、これが
ため、上告人が「ヤクルト」の商標を使用してその商品を販売している現在におい
ても、一般世人の中にはヤクルトとヨーグルトとを同一物と考えている者があると
いうのであり、原審の右認定は、その挙示の証拠に照らして首肯できる。
 しかして、かかる事実関係の下においては、本願各商標をその指定商品たる乳酸
清涼飲料類または乳酸菌飲料(但し、ヨーグルトを除く。)に使用した場合、世人
をして商品ヨーグルトとの間に品質の誤認を生ぜしめる虞れがあるものとした原判
決の判断は正当である。もつとも、本願各商標(但し、原審第七二号事件のものを
除く。)が前記「ヤクルト」の文字からなり、またはそれを要部として構成される
商標の連合商標として登録出願されていることは、記録によつて明らかであるが、
連合商標は被連合の基本たる商標に附随するものではなく、これと全く独立した内
容を有するものであるから、出願にかかる連合商標に商品の誤認を生ぜしめる虞れ
があるかどうかは、専ら、当該連合商標自体について決定すべきであつて、その連
合商標の基本たる商標との関係によつてこれを決定すべきではない(昭和三六年六
月二七日第三小法廷判決、民集一五巻六号一七三〇頁参照)。従つて、所論のごと
く、本願各商標の要部たる「ヤグルト」または「YAGULT」の称呼、観念が「
ヨーグルト」よりもむしろ基本たる商標の「ヤクルト」に近似するとしても、また、
上告人が右「ヤクルト」の商標のもとに古くから販売している一種の乳酸菌飲料が
現在では全国に普及していて、本願各商標をその指定商品に使用すれば、取引者お
よび需要者がそれを上告人の新製品と観念することは必定であるとしても、これら
の事情は、前叙判断を左右するに足らないものといわなければならない。
 されば、原審の所論判断は正当であつて所論の違法はなく、論旨はひつきよう原
審にまかされている証拠の取捨、選択を非難するか、右に反する独自の見解に立脚
してその違法をいうに過ぎず、いずれも理由がない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    斎   藤   朔   郎
            裁判官    長   部   謹   吾

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