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平成24年11月15日判決言渡
平成24年(ネ)第10024号損害賠償請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成22年(ワ)第31756号)
口頭弁論終結日平成24年9月13日
判決
控訴人株式会社荒井鉄工所
訴訟代理人弁護士日野和昌
同中田利通
補佐人弁理士丹羽宏之
同西尾美良
同中村英子
被控訴人信和エンジニアリング株式会社
訴訟代理人弁護士鈴木和夫
同鈴木きほ
補佐人弁理士齊藤誠一
同小田治親
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2被控訴人は,控訴人に対し,1億2750万円及びこれに対する平成22年
9月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2事案の概要(略称は原判決の例による。)
1本件は,一審原告である控訴人が,一審被告である被控訴人に対し,被控訴
人が製造販売している被控訴人各製品(被告各製品)は本件特許権に係る特許発明
(発明の名称「スクレーパ濾過システム」)の技術的範囲に属すると主張して,被
控訴人に対し,民法709条及び特許法102条2項に基づく損害賠償1億275
0万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成22年9月4日から支払済
みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2原判決(平成24年2月22日判決言渡)は,要旨次のとおり判示して,控
訴人の請求を棄却した。
(1)被控訴人製品(被告製品。被控訴人各製品のうち,型番SRE350-LP
Hを除いたもの)は,本件特許発明の技術的範囲に属する。型番SRE350-L
PHについては,本件特許権の存続期間満了日である平成21年4月28日以前に
製造販売されたものであることを認めるに足りる証拠はない。
(2)本件特許発明は,乙7発明と同一の発明であるから,特許法29条1項3号
に違反し,また,乙8発明から容易に想到することができたものであるから,同条
2項にも違反する。本件特許発明は,特許無効審判により無効にされるべきものと
認められる。
(3)本件訂正は適法である。被控訴人製品は,本件訂正発明の技術的範囲に属す
るものである。乙7文献に基づく無効理由は,本件訂正によって解消することがで
きるが,乙8文献に基づく無効理由は,本件訂正によっても解消されない。
3控訴人は,原判決が乙8文献に基づく無効理由は本件訂正によっても解消さ
れないとした点を不服として,本件控訴を提起した。
第3当事者の主張等
前提事実,争点及び当事者双方の主張は,次のとおり付加するほか,原判決の
「事実及び理由」中,第2の1及び2,第3記載のとおりであるから,これを引用
する。ただし,「原告」は「控訴人」と,「被告」は「被控訴人」と,それぞれ読
み替える。
1当審における控訴人の主張
原判決は,乙8発明の「押圧盤」が本件訂正発明の「押圧弁」に相当すると認定
した上で,本件訂正発明と乙8発明との相違点①(本件訂正発明は,豆乳原液など
の食品原料を被濾過液体とするものであるのに対し,乙8発明は,公害処理施設…
その他での汚泥,醸造施設においてのモロミ,食品製造施設においての水産物その
他の加工食品,製紙製造施設においてのボード類等の含水繊維物その他の産業廃棄
物を被処理物とするものである点)は,実質的な相違点であるとは認められないと
し,乙8発明に接した食品原料の濾過システムの技術分野の当業者は,乙8発明の
ケーシング20の目詰まり防止という課題の解決手段として,乙7発明に示された
コイルばね式清掃用ブレードを適用して,本件訂正発明と乙8発明との相違点②
(本件訂正発明が「スクリュ状羽根の外周端面全域に沿って,前記フィルタエレメ
ントと摺接し,スクリュ状羽根の前後に隙間を開けずに設けたスクレーパ機構を設
けて前記フィルタエレメントの周面に付着する濾カス固形分を引掻除去できるよう
にしてなることを特徴とするスクレーパ濾過システム」であるのに対し,乙8発明
にはこの点に関する記載がない点)に係る本件訂正発明の構成とすることは容易で
あるとしている。
しかし,原判決の上記認定・判断には誤りがある。すなわち,①乙8発明の「押
圧盤」は,本件訂正発明の「押圧弁」に相当するものではない(後記(1))。また,
②乙8発明は,本件訂正発明とは技術分野を異にし,当業者が乙8発明に乙7発明
を適用して,本件訂正発明に想到することが容易であったとはいえず(後記(2)),
③本件訂正発明の「押圧弁」と,乙8発明の「押圧盤」とは,全く異質の技術内容
と構成を備えるものであるから,乙8発明の「押圧盤」から本件訂正発明の「押圧
弁」を想起することは不可能であり(後記(3)),④目詰まり防止という課題の解
決手段として,乙7発明に示されたコイルばね式清掃用ブレードを適用することは,
当業者といえども容易ではない(後記(4))。以下詳述する。
(1)乙8発明の「押圧盤」が本件訂正発明の「押圧弁」に相当するとした原判決
の認定は誤りであること
ア本件訂正発明の「押圧弁」は,排出口に対して,閉塞力を随時大小自在に可
変調節できる機能を有している。すなわち,本件訂正発明は,「押圧弁」に当接さ
せたコイルバネに対し,そのバネ圧を可変調節して固形分の搾汁効果を可変調節で
きるようにした構成を備え,そのような作用を奏するものである。これに対し,乙
8発明の「押圧盤」は,排出口に対しては,略閉塞して配設されているだけで,閉
塞力を可変調節する機構も機能も有していない。すなわち,乙8発明の押圧スプリ
ングは,専らスクリュ羽根で押圧される被処理物の押圧力に対抗して圧縮変更され
るだけであり,押圧スプリング自体の張力を可変調節する構成も機能もない。
イ本件訂正発明では,排出口に押圧弁が配設されているので,液体分が固形分
と一緒に漏出することは不可能であり,固形分のみが排出される。これに対し,乙
8発明では,排出口には隙間が形成されているので,液体分が排出されることが不
可避であり,その漏れに相当する液体分だけ含水率を下げることができない。そし
て,固形分は漏出される液体分と共に押し出される。
ウ乙8発明の「押圧盤」は,スクリュ軸と連動して回転するものであるから,
一般的な「弁」でなく,不完全閉塞であり,ケーシング内で押し出される移送物の
漏出は避けられない。これに対し,本件訂正発明の「押圧弁」は,特許法70条2
項により明細書全体の記載内容から判断して,通常の「弁」であり,フィルタエレ
メントの排出口には閉塞されて配設されていることが明らかである。したがって,
両者の作用の相違は明らかである。
エ乙8発明の「押圧盤」は,押圧スプリングを介してスクリュ羽根の回転軸上
に配設してあるので,「押圧盤」は押圧スプリングを含めて回転を余儀なくされ,
ケーシングの排出口とは略閉塞,すなわち,隙間を設けて配設されている。これに
対し,本件訂正発明に示す「押圧弁」は,通常の弁構造として機能させているので,
被濾過流体が移送されるフィルタエレメントの排出口に接離自在に配設されている。
したがって,「押圧弁」と「押圧盤」の絞り作用は明確に相違している。
(2)乙8発明と本件訂正発明の技術分野は異なること
ア乙8発明は,乙7発明と同様に,水分と固形分との混合体から水分を排出し,
水分を含まない固形分を得ることを目的とする脱水処理装置である。これに対し,
本件訂正発明は,液体を含有する被濾過物から液体分を抽出し,その液体分を採集
し,これを利用するための濾過システムであって,液体分には不純物が含有されて
はならず,また固形分はその副産物あるいは廃棄物にすぎない。このように,乙8
発明と本件訂正発明とは,濾過の目的が正反対であり,技術分野は全く異なる。こ
のことは,乙7発明あるいは乙8発明において,目詰まり防止のため,清浄水を噴
射させる点に如実に現れている。本件訂正発明では,液体分を希釈させるように清
浄水を用いることは許されないのである。
イ原判決は,「乙8発明で挙げられた被処理物のうち,『醸造施設においての
モロミ』及び『食品製造施設においての水産物その他の加工食品』が食品原料に当
たることは明らかであり,乙8発明の技術分野は本件訂正発明における食品原料の
濾過システムの技術分野を含むものであるから,相違点①は実質的な相違点とは認
められない。」(88頁)と判断した。しかし,この判断には誤りがある。
すなわち,乙8発明の〔実施例〕には,「醸造施設においてのビール,粕,モロ
ミその他,食品製造施設においての食肉,水産物,果実等の加工食品,」との記載
があるため,乙8発明の被処理物として食品原料が含まれるかのように見える。
しかし,その実施例の結論部分には,「その結果,被処理物中の水分は除去され,
半ば固形化された被処理物は機枠10前部の貯留室16に貯留され,適宜に廃棄処
理される」と記載されており,また,「浸出された水分は所定の場所に吸引除去処
理され」「被処理物中の水分は除去される」のであって,乙8発明の被処理物は廃
棄処理され,被処理物中の水分は除去されるだけであり,乙8発明の被処理物が食
品として利用されることはない。このことは,目詰まり防止のため,食品品質維持
に禁忌の清浄水を噴射することによっても裏付けられる。
また,乙8発明の〔発明の技術的背景とその問題点〕の冒頭をみると,「汚泥,
モロミ,加工食品,ボード類等の含水繊維物その他の産業廃棄物を脱水処理させ
る」と記載されており,乙8発明は,モロミ,加工食品そのものの脱水処理技術に
関するものではなく,「モロミ,加工食品…等の含水繊維その他の産業廃棄物」の
脱水処理技術に関するものであることが明記されていることからすると,乙8発明
の〔実施例〕の「醸造施設においてのビール,粕,モロミその他,食品製造施設に
おいての食肉,水産物,果実等の加工食品,」との記載は,食品原料を指すのでは
なく,醸造施設や食品製造施設から排出された「産業廃棄物」を意味するものと解
される。そうだからこそ,発明の名称も「汚泥その他の脱水処理装置」とされ,特
許請求の範囲にも「汚泥その他の脱水処理装置」とされているのである。
そうすると,乙8発明の被処理物として食品原料は含まれず,乙8発明は,本件
訂正発明とは技術分野を異にし,発明の目的,作用効果も異なり,当業者が乙8発
明に乙7発明を適用して本件訂正発明に想到することが容易であったとはいえない。
ウ被控訴人は,乙7発明,乙8発明の脱水処理装置と,本件訂正発明の「濾過
システム」とは,前者が固形分に着目し,後者が液体分に着目しただけであって技
術的差異はないと主張する。
しかし,乙7発明及び乙8発明は,液体分の含有の少ない固形物である廃棄物を
得ることが目的であり,そのため,良好な品質の食品用液体の収集を阻害する構成
となっており,良好な品質の食品用液体の収集を目的とする本件訂正発明とは,技
術分野を異にするものというべきである。
すなわち,乙8発明の技術的目的は,「汚泥その他の脱水処理装置に関するも
の」であり,「含水繊維物から水分を確実に除去」し(乙8,2頁左上欄8行目),
「被処理物に対して圧縮作用によって水分を絞り出すようにしてこれを確実に除去
し」(乙8,2頁右上欄6~7行目),「半ば固形化された被処理物を廃棄処理」
するところにある。そこには,被処理物から液体分を収集し利用するとの意識は,
全く存しない。そのため,液体分の品質について全く考慮する必要はなく,目詰ま
り防止のために「洗浄管で適宜の圧力を付与した清浄水を噴射させることで水切り
孔の目詰まりを防止する」こととしたり,「水切孔は後部から前部に至るに伴い次
第に大径なもの」としたりできるのである。被控訴人は,清浄水は必ず噴射するも
のではないと主張するが,乙8発明にはその装置が設けられており,目詰まりは必
ず発生するものであるから,乙8発明では,必ず噴射する必要がある。また,乙7
発明では,濾過式脱水用リング間の環状空間58(本件訂正発明のスリット孔に当
たる)では,清掃用ノズルから流体を噴射し,あるいはブレードを挿入し,固形物
を濾過水と一緒に濾過水ハウジングに排出する。このように,乙8発明及び乙7発
明では,濾過水には余分な水分又は固形物が混入し,食品に適する良好な品質の液
体分を得ることはできない。
これに対し,本件訂正発明では,「スリット孔5を通過できる液体分のみが(所
望の)濾過液の豆乳として取り出され」(甲2・特許公報5欄13行目)「濾過孔
に相当する大きさ以上の固形分を残して濾過流体を得ることができる」(同3欄2
4行目)とされ,食品用に適する品質の液体分を収集することが意識されている。
以上のとおり,本件訂正発明と乙7発明及び乙8発明とでは,被控訴人が主張す
るように,単に固形分に着目するか,液体分に着目するかという点に差異があるだ
けではなく,発明の目的,作用効果の差異を伴う技術的差異がある。
(3)乙8発明の「押圧盤」から本件訂正発明の「押圧弁」を想起することは不可
能であること
ア乙8発明の「押圧盤」は,排出口に対して回転する。このように回転する押
圧盤の構成から,単に排出口を開閉して作動する「押圧弁」を想起することはでき
ない。
イ乙8発明の「押圧盤」は回転するので,ケーシングの排出口を完全に閉塞で
きず「略閉塞」せざるを得ず,隙間が生じ「漏れ」の発生が不可避である。このよ
うな構成の「押圧盤」から,全く異質の構成である,隙間を完全に閉塞し液体分の
漏れを生じない本件訂正発明の「押圧弁」を想起することは不可能である。
ウ乙8発明の押圧盤には,押圧スプリングが設けられており,移送される被濾
過液体に対抗させて,被濾過液体の押圧力の大きさに対抗して押圧スプリングの張
力が変化し,含水率,即ち脱水率の調整を可能としている。これに対し,本件訂正
発明の押圧弁は,固形分の搾汁効果を食品用として被濾過流体の種類に応じて可変
調節できる構成としており,単に移送される被濾過液に対抗してコイルバネの張力
を可変するものでなく,事前に又は作動中に螺杆によってコイルバネの張力を可変
自在に調節できる機能,すなわち,被濾過流体の種類に応じて押圧弁の押圧力を可
変調節できる機能を有するものである(甲11・全文訂正明細書3頁下から10行
から7行)。このように,本件訂正発明の「押圧弁」と乙8発明の「押圧盤」とは,
全く異質の技術内容を備えるものであり,本件訂正発明の「押圧弁」に係る構成が,
乙8発明に開示された「押圧盤」の構成に起因ないし契機に相当する動機付けが全
く示されていないので,異質の構成の「押圧盤」から本件訂正発明の「押圧弁」を
想起することは不可能である。
(4)乙8発明の目詰まり防止という課題の解決手段として乙7発明に示されたコ
イルばね式清掃用ブレードを適用することは容易ではないこと
ア乙8発明の目詰まり防止手段は,ケーシングの外側から水切孔に圧力を加え
て固形物をケーシング内部に落下させるというものであるのに対し,乙7発明のコ
イルばね式清掃用ブレードは,内側表面に付着した固形物を切り剥がしこすり取る
ことにより,清掃用ブレード100と相俟って付着した固形物を取り除き,付着し
た固形物を外側へ排出させ,目詰まりを防止するというものである。このように,
乙8発明の外部から圧力を加える手段から,乙7発明の内部からこすり取るという
解決手段を想到することは,当業者といえども容易であるとはいえない。
イ乙7発明で目詰まり防止の対象となるのは,孔ではなく,濾過式脱水用のフ
ープあるいはリング間の環状空間であり,乙8発明の水切孔とは構成が全く異なる
から,乙8発明に乙7発明をそのまま適用することはできない。
ウ圧力を加えたり,こすり取って固形物を外側に排出させるという手段は,目
詰まり防止に資するかもしれないが,豆乳などの製造にとっては,固形物を液体分
と一緒に排出させることは禁忌であり,この点からも,乙7発明や乙8発明の目詰
まり防止の技術的思考を本件訂正発明にそのまま適用することはできない。
2当審における被控訴人の主張
(1)乙8発明の「押圧盤」が本件訂正発明の「押圧弁」に相当するとした原判決
の認定に誤りはないこと
ア控訴人は,本件訂正発明の「押圧弁」は,排出口に対して,閉塞力を随時大
小自在に可変調節できる機能を有しているのに対し,乙8発明の「押圧盤」は,排
出口に対しては,略閉塞して配設されているだけで,閉塞力を可変調節する機構も
機能も有していないと主張する。
しかし,本件訂正発明(請求項1)には,「~フィルタエレメントの排出口には
固形分の搾汁効果を可変調節できる押圧弁を配設し,~」とあり,閉塞力を可変調
節するとは記載されていないから,控訴人の主張は,本件訂正発明に基づかない主
張である。
乙8発明の明細書3頁左上欄14行~同右上欄3行には,「図中24は搾り機構
であり,図示のように,シャフト30前端に外嵌固定したドーナツ状固定部25と
ケーシング20前端開口である前記排出口22を略閉塞するドーナツ円錐状押圧盤
27との間に押圧スプリング26を介在して成り,押圧スプリング26の排出口2
2がわへの押圧力を変更することで圧縮されて半ば固形化される被処理物に対して
の貯留室16がわへの排出を規制し,被処理物の含水率すなわち脱水率の調整を可
能とする。」と記載されている。特に「押圧スプリング26の排出口22がわへの
押圧力を変更することで」とあるように,押圧スプリング26の押圧力を調節する
ことで被処理物の含水率すなわち脱水率の調節が可能であることが開示されている。
イ控訴人は,「押圧弁」について本件訂正明細書に記載された実施形態を挙げ
て,本件訂正発明は「押圧弁に当接させたコイルバネに対し,そのバネ圧を可変調
節して固形分の搾汁効果を可変調節する」ものであり,乙8発明とは具体的構成が
相違していると主張する。
しかし,本件訂正発明の「押圧弁」については,本件訂正事項2に示すように,
「排出口には固形分の搾汁効果を可変調節できる押圧弁を配設し,」と機能的記載
がなされているのみであり,控訴人が主張するような「押圧弁」の具体的構成は発
明特定事項とされていない。そして,乙8発明の「押圧盤」の作用効果は,乙第8
号証3頁右上欄1行~3行に「被処理物の含水率すなわち脱水率の調整を可能とす
る。」と記載されているように,本件訂正発明に係る「押圧弁」の作用効果と同一
である。
また,「弁」とは,「気体または液体の出入調節をつかさどる器具の総称」(乙
24)を意味する。したがって,本件訂正発明の「押圧弁」は,「搾汁効果の可変
調節ができる」器具の総称を意味するのであるから,乙8発明の「押圧盤」は本件
訂正発明における「押圧弁」に含まれる。
(2)乙8発明と本件訂正発明の技術分野について
ア控訴人は,乙8発明は「脱水処理装置」であるのに対し,本件訂正発明は
「濾過システム」であり,両者は,濾過の目的が正反対であり,技術分野は全く異
なると主張する。
しかし,これは,単に固形分に着目した表現であるか,あるいは液体分に着目し
た表現であるかの差異にすぎず,両者の間に技術的な差異があるわけではない。本
件訂正発明と乙7発明,乙8発明とは,「脱水濾過」という技術において差異はな
く,同一技術分野に属する。
また,乙8発明の明細書2頁右上欄18行目に「果実等の加工食品」とあるよう
に,乙8発明も果実を脱水,すなわち,搾汁することが予定されている。
さらに,控訴人は,乙7発明あるいは乙8発明で清浄水を噴射する点を指摘して
いるが,清浄水は必ず噴射するものでもないし,本件訂正発明と乙7発明及び乙8
発明の技術分野の共通性に影響を及ぼすものではない。
イ控訴人は,乙8発明での被処理物は廃棄処理され,被処理物中の水分は除去
されるだけであり,被処理物は全て食品として利用されることはないと主張する。
しかし,乙第8号証の実施例として記載された「醸造施設においてのビール,粕,
モロミその他」について,ビールの場合は発酵前の液体は麦汁として,発酵後の液
体であればビールとして使用され,ビールを搾ったあとの脱水粕についても飼料や
サプリメント等として利用される。また,モロミの場合であれば液体分は酒となり,
固形分は酒粕となる。さらに,果実等の加工食品の場合であれば液体分は果汁とな
り,搾り粕はパルプとなって食品製造に利用される。そして,乙8号証の3頁左下
欄5行目には,「適宜に廃棄処理され」と記載されており,例えば,被処理物が
「汚泥」の場合であれば液体分も固形分もいずれも廃棄されるのであろうが,上記
ビール,モロミ,果実等の加工品の場合にも液体分及び搾り粕のいずれをも廃棄す
るようなことは通常では考えられない。なお,控訴人は,被処理物が廃棄処理され
る根拠として目詰まり防止のため,食品品質維持に禁忌の清浄水を噴射することに
よって裏付けられる,としているが,乙8号証には処理中に清浄水を噴射して目詰
まり防止を図る旨の記載はなく,上記ビール,モロミ,果実等の加工食品を処理す
る場合には作業終了後あるいは一旦作業を中断して装置を洗浄すると解するのが通
常であって,処理の最中に目詰まり防止のために清浄水を噴射するようなことは常
識的に考えられない。
ウ控訴人は,「発明の技術的背景とその問題点」に記載された文章のみに基づ
いて乙8発明の被処理物には食品原料は含まれず,乙8発明は乙7発明と技術分野
を異にし,適用が容易であったとはいえないと主張する。
しかし,乙第8号証の「発明の技術分野」には,「本発明は汚泥その他の脱水処
理装置に係り,公害処理施設においてのし尿処理場その他での汚泥,醸造施設にお
いてのモロミ,食品製造施設においての水産物その他の加工食品,製紙製造施設に
おいてのボード類等の含水繊維物その他の産業廃棄物の連続圧搾脱水を図れるよう
にした汚泥その他の脱水処理装置に関するものである。」(以上,下線は被控訴
人)と記載されている。すなわち,それぞれの被処理物ごとに「その他の」が使用
されていることからみて,「汚泥,モロミ,加工食品,産業廃棄物」はそれぞれ並
列の関係にあることが理解される。したがって,「汚泥その他の脱水処理装置」に
おける「その他の」は少なくとも「モロミ,加工食品,産業廃棄物」をそれぞれ
「汚泥」と並列に指し示すものと解するべきであって,被処理物が「産業廃棄物」
に限定されると解釈することはできない。
エ控訴人は,乙8発明の技術的目的は,「半ば固形化された被処理物を廃棄処
理」するところにあり,そこには被処理物から液体分を収集し利用するとの意識は,
全く存在しないので液体分の品質について全く考慮する必要がないと主張する。
しかし,被処理物は必ずしも廃棄物ではないことは上記のとおりである。すなわ
ち,被処理物が汚泥や産業廃棄物の場合であれば液体分と搾り粕のいずれも廃棄す
ることは考えられるが,被処理物が少なくとも上記ビール,モロミ,果実等の加工
食品の場合であれば液体分及び搾り粕のいずれをも廃棄することは考えられない。
また,控訴人は,乙8発明における目詰まり防止のための清浄水の噴射及び乙7
発明の清掃用ノズルからの流体の噴射を被処理物の処理中に行うことを前提とした
主張を行っているが,乙7,8号証には,流体の噴射を被処理物の処理中に行うよ
うな記載はなく,ましてや上記ビール,モロミ,果実等の加工食品の処理中に目詰
まり防止のために清浄水を噴射することは常識的にみてもあり得ない。
(3)乙8発明の「押圧盤」から本件訂正発明の「押圧弁」を想起することは不可
能であるとの控訴人の主張について
控訴人は,乙8発明の「押圧盤」から本件訂正発明の「押圧弁」を想起すること
はできないと主張する。
しかし,本件訂正発明の「押圧弁」と乙8発明の「押圧盤」は,作用効果が同一
であるから,両者の間の「動機付け」を問題とする余地はない。
(4)乙8発明の「目詰まり防止手段」に代えて乙7発明を適用することは容易で
あること
控訴人は,乙8発明の「目詰まり防止手段」と本件訂正発明の「目詰まり防止手
段」の差異を述べて,乙8発明の「目詰まり防止手段」から本件訂正発明の「目詰
まり防止手段」に想到することは,当業者といえども容易であるとはいえないと主
張する。
しかし,乙8発明において「水切孔の目詰まり防止」という技術的課題が明記さ
れており(乙8号証3頁右上欄4行~8行),かかる目詰まり防止にスクレーパを
用いることは,例えば,拒絶査定謄本(乙第21号証の1)において「濾過装置の
濾過エレメントの清掃部材として濾過エレメントに付着した固形物を引掻除去する
スクレーパを用いることは慣用技術である。」と指摘されていること,さらには原
判決のみならず,本件特許の特許無効審判(無効2011-800014)の審決
においても同旨の認定がなされていることからも明らかなように,乙8発明を主発
明として乙7発明を適用することは当業者にとって容易想到である。
第4当裁判所の判断
1当裁判所も,本件訂正発明は,乙8発明に乙7発明を適用することによって
当業者が容易に発明をすることができたものであり,無効とされるべきものである
から,本件控訴は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり訂正・付加
するほか,原判決の「事実及び理由」中の「第4当裁判所の判断」の1ないし4
記載のとおりであるから,これを引用する。
2原判決の訂正
(1)原判決84頁14~15行目「記載されているのみであって,」の後に,
「「粘度の高い流体」は,「豆乳原液などの被濾過液体」の属性を示すものとみる
のが相当であり,」を付加する。
(2)原判決86頁2行目「乙7文献に基づく無効理由について」から同頁下から
1行目「イ」までを削除する。
(3)原判決88頁13行目「そこで,まず」から,18行目末尾までを次のとお
り改める。
「a相違点①について
(a)この点について,被控訴人は,乙8発明の被処理物が汚泥の場合であれば,
液体分も固形分もいずれも廃棄されるであろうが,被処理物がビール,モロミ,果
実等の加工品の場合は,液体分及び絞り粕のいずれをも廃棄するようなことは通常
では考えられないと主張する。しかし,乙第8号証には,[発明の実施例]中に,
「ケーシング20外へ浸出された水分は,ケーシング20下方に配置された機枠1
0内のドレン14に落下し,排液口15へ案内されて外部に排出される。」(3頁
左上欄1行目から4行目),「被処理物中の水分を脱水孔32及び水切孔23によ
ってシャフト30内及びケーシングパイプ20外へ浸出させるのであり,浸出され
た水分は所定場所に吸引,除去処理される。その結果被処理物中の水分は除去さ
れ,半ば固形化された被処理物は機枠10前部の貯留室16に貯留され,適宜に廃
棄処理される。」(3頁右上欄末尾から2行目から左下欄6行目)との記載があ
り,これらの記載によれば,乙8発明の被処理物については,水分が除去された後
の固形物はもとより,被処理物中の水分も廃棄処理され,食品として利用されるこ
とは予定されていないことが認められる。
したがって,本件訂正発明は,豆乳原液などの食品原料について,その固形分か
ら液体分を抽出搾汁して利用することが予定されているといえるのに対し,乙8発
明は,汚泥等の脱水処理装置に関する発明であり,控訴人が主張するように,被処
理物中の水分は除去され,食品として利用されることは予定されていないといえ
る。
もっとも,乙8発明の被処理物は,控訴人が主張するように「産業廃棄物」に限
定されるものではない。すなわち,控訴人は,乙8発明の被処理物として挙げられ
ている「醸造施設においてのビール,粕,モロミその他,食品製造施設においての
食肉,水産物,果実等の加工食品,」との記載は,食品原料を指すのではなく,醸
造施設や食品製造施設から排出された「産業廃棄物」を指すものというべきである
と主張する。しかし,乙第8号証の〔発明の技術分野〕には,「本発明は汚泥その
他の脱水処理装置に係り,公害処理施設においてのし尿処理場その他での汚泥,醸
造施設においてのモロミ,食品製造施設においての水産物その他の加工食品,製紙
製造施設においてのボード類等の含水繊維物その他の産業廃棄物の連続圧搾脱水を
図れるようにした汚泥その他の脱水処理装置に関するものである。」と記載されて
おり,それぞれの被処理物ごとに「その他の」の語が使用されていることからみて,
「汚泥,モロミ,加工食品,産業廃棄物」は,被処理物として並列の関係にあると
解される。したがって,乙8発明の被処理物が「産業廃棄物」に限定されると解釈
することはできない。
(b)上記のとおり,本件訂正発明は,豆乳原液などの食品原料について,その固
形分から液体分を抽出搾汁すること,すなわち,被処理物が食品として利用される
ことが予定されているのに対し,乙8発明は,汚泥等の脱水処理装置に関する発明
であり,被処理物が食品として利用されることは予定されていない。
しかしながら,化学大辞典・第2版(平成17年2月28日発行,乙23)によ
れば,「脱水」について,「(1)〔化学〕物質より水分子を取り除くこと。蒸発な
どによる乾燥のほか,脱水反応,縮合反応などの化学反応で,酸素と水素を水とし
て取り除く場合も含める。(2)〔資源〕選鉱・選炭工場で選別された繊細な精鉱・
精炭および排水処理工程で回収された粘土質微細粒子などの付着水分を重力または
機械力により除去すること。(3)〔土木〕汚泥処理および処分を効率的に行うため
に,汚泥中の水分を除去して減量化すること。含水率96~98%程度の濃縮汚泥
または消化汚泥を含水率80%程度に脱水することで,体積は10~20%に減少
する。機械脱水の方式にはろ過式と遠心分離式があり,それぞれベルトプレスろ過
機,遠心脱水機が近年よく採用されている。」との記載があり,他方,「濾過」に
ついては,「多孔質の膜や層を用いて,固体を含む溶液の液体だけを通過させ,固
体と液体を分離すること。通常,ろ紙と漏斗を用いる。沈殿の種類によっては石
綿,ガラス綿など,またグーチるつぼ,ガラスろ過器などが用いられる。集塵な
ど,気体のろ過もある。」との記載があり,これら記載によれば,「脱水」と「濾
過」とは,固体と液体とからなる被処理物を固体と液体とに分離するという点にお
いて技術的に共通するものであるということができる。
また,前記(イ)のとおり,汚泥等の脱水処理装置に関する発明である乙8発明の
押圧盤は,本件訂正発明の押圧弁に相当するものであり,本件訂正発明の押圧弁
は,食品原料を被処理物とするための固有の構成や作用・効果を有するものとはい
えず,その他,本件訂正発明が,食品原料を被処理物とするための固有の構成や作
用・効果を有するものであることを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,本件訂正発明のような濾過システムに係る技術分野の当業者であれ
ば,被処理物が食品原料であるかどうか,被処理物から分離された液体を採集して
利用することを目的としているかどうかにかかわらず,脱水処理装置の技術分野に
おける技術の適用を試みるであろうことは容易に想像される。この意味において,
本件訂正発明のような濾過システムに係る技術分野と,乙8発明の脱水処理装置や
乙7発明の濾過式・脱水圧搾機に係る技術分野とは,それぞれの当業者が互いに他
方の技術の適用を試みるであろう程度の技術分野の関連性が認められるということ
ができる。
(c)そして,乙8発明の被処理物については,水分が除去された後の固形分はも
とより,被処理物中の水分も廃棄処理され,食品として利用されることは予定され
ていないものの,醸造施設におけるビール,粕,モロミその他,食品製造施設にお
ける食肉,水産物,果実等の加工食品も被処理物の対象としていることからする
と,乙8発明において,食品原料を被処理物とし,この被処理物から分離された液
体及び固体を採集して利用する程度のことは,当業者にとって格別困難なこととは
いえない。」
(4)原判決88頁19行目冒頭から24行目「いうことができる。」までを,次
のとおり改める。
「b相違点②について
本件訂正発明のような濾過システムに係る技術分野と,乙8発明の脱水処理装置
や乙7発明の濾過式脱水圧搾機に係る技術分野とは,それぞれの当業者が互いに他
方の技術の適用を試みるであろう程度の技術分野の関連性が認められることは前記
のとおりであって,上記技術的課題は,被処理物の種類にかかわらず,また,被処
理物から分離された液体分を採集して利用することを目的としているかどうかにか
かわらず,共通のものとして示されているものということができる。」
(5)原判決90頁9行目の後に,改行して,「イよって,その余の点について
検討するまでもなく,本件特許は無効とされるべきものである。」を付加する。
3当審における控訴人の主張について
(1)乙8発明の「押圧盤」が本件訂正発明の「押圧弁」に相当するとした原判決
の認定について
ア控訴人は,本件訂正発明の「押圧弁」は,排出口に対して,閉塞力を随時大
小自在に可変調節できる機能を有しているのに対し,乙8発明の「押圧盤」は,排
出口に対しては,略閉塞して配設されているだけで,閉塞力を可変調節する機構も
機能も有していないと主張する。
しかし,控訴人の上記主張は,乙8発明の「押圧盤」が本件訂正発明の「押圧
弁」に相当するか否かの判断において無意味な主張である。
なぜなら,本件訂正発明の「押圧弁」について,本件訂正後の特許請求の範囲の
請求項1には,「筒状ないし円錐状の所望の濾過孔を有するフィルタエレメントの
排出口には固形分の搾汁効果を可変調節できる押圧弁を配設し」と記載されている
のみであるから,本件訂正発明の「押圧弁」に相当するといえるためには,「フィ
ルタエレメント」に相当する部材の排出口に配設され,固形分の搾汁効果を可変調
節できるという作用を有するものであれば足り,控訴人がいうような,「排出口に
対して閉塞力を随時大小自在に可変調節できる」機能を有していることを要しない
からである。
控訴人は,本件訂正発明は,「押圧弁」に当接させたコイルバネに対し,そのバ
ネ圧を可変調節して固形分の搾汁効果を可変調節できるようにした構成を備え,そ
のような作用を奏するものであるのに対し,乙8発明の押圧スプリングは,専らス
クリュ羽根で押圧される被処理物の押圧力に対抗して圧縮変更されるだけであり,
押圧スプリング自体の張力を可変調節する構成も機能もないとも主張する。
しかし,乙8文献には,「図中24は搾り機構であり,図示のように,シャフト
30前端に外嵌固定したドーナツ状固定部25とケーシング20前端開口である前
記排出口22を略閉塞するドーナツ円錐状押圧盤27との間に押圧スプリング26
を介在して成り,押圧スプリング26の排出口22がわへの押圧力を変更すること
で圧縮されて半ば固形化される被処理物に対しての貯留室16がわへの排出を規制
し,被処理物の含水率すなわち脱水率の調整を可能とする。」(3頁左上欄14行
から同頁右上欄3行)との記載があり,これによれば,乙8発明では,押圧スプリ
ングの押圧力を変化させることにより,押圧盤の押圧力の調整がなされるものと認
められるところ,乙8発明において,押圧スプリングの押圧力を変化させることは,
例えば,弾性係数の異なる押圧スプリングに交換することによっても可能である。
したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
イ控訴人は,本件訂正発明では,排出口に押圧弁が配設されているので,液体
分が固形分と一緒に漏出することは不可能であり,固形分のみが排出されるのに対
し,乙8発明では,排出口には隙間が形成されているので,液体分が排出されるこ
とが不可避であり,その漏れに相当する液体分だけ含水率を下げることができない。
そして,固形分は漏出される液体分と共に押し出されると主張する。
しかし,本件訂正発明の「押圧弁」は,「固形分の搾汁効果を可変調節できる」
ものであるから,固形分の搾汁効果を弱める調整をすれば,液体分も固形分と一緒
に漏出させることは可能であり,固形分しか排出させることができないとはいえな
い。他方,乙8発明の押圧盤は,押圧スプリングによってケーシングの排出口に押
圧されているから,ケーシングの排出口に接していることは明らかであり,排出口
に常に隙間が形成されているとはいえないし,また,乙8発明の押圧盤は,「半ば
固形化される被処理物の含水率すなわち脱水率の調整を可能とする」ものであるか
ら,被処理物の脱水率を高める調整をすれば,固形分のみを排出させることも可能
である。
また,そもそも,本件訂正発明の「押圧弁」に相当するといえるためには,「フ
ィルタエレメント」に相当する部材の排出口に配設され,固形分の搾汁効果を可変
調節できるという作用を有するものであれば足りるから,仮に,乙8発明において,
液体分が排出されることが不可避であり,その漏れに相当する液体分だけ含水率を
下げることができず,固形分は漏出される液体分と共に押し出されることがあると
しても,それゆえに乙8発明の「押圧盤」が本件訂正発明の「押圧弁」に相当しな
いということはできない。
したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
ウ控訴人は,乙8発明の「押圧盤」は,スクリュ軸と連動して回転するもので
あるから,一般的な「弁」でなく,不完全閉塞であり,ケーシング内で押し出され
る移送物の漏出は避けられないのに対し,本件訂正発明の「押圧弁」は,特許法7
0条2項により明細書全体の記載内容から判断して,通常の「弁」であり,フィル
タエレメントの排出口には閉塞されて配設されていることが明らかであって,両者
の作用の相違は明らかであると主張する。
しかし,「弁」とは,「気体または液体の出入調節をつかさどる器具の総称」
(乙24)を意味するものであるところ,乙8発明の「押圧盤」は,押圧スプリン
グによってケーシングの排出口に押圧されているから,回転しながらでもケーシン
グの排出口に接していること,すなわち閉塞していることは明らかであり,ケーシ
ング内で押し出される移送物の漏出が避けられないとはいえない。
また,そもそも,本件訂正発明の「押圧弁」に相当するといえるためには,「フ
ィルタエレメント」に相当する部材の排出口に配設され,固形分の搾汁効果を可変
調節できるという作用を有するものであれば足りるから,仮に,乙8発明において,
ケーシング内で押し出される移送物の漏出が避けられないとしても,それゆえに乙
8発明の「押圧盤」が本件訂正発明の「押圧弁」に相当しないということはできな
い。
したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
エ控訴人は,乙8発明の「押圧盤」は,押圧スプリングを介してスクリュ羽根
の回転軸上に配設してあるので,「押圧盤」は押圧スプリングを含めて回転を余儀
なくされ,ケーシングの排出口とは略閉塞,すなわち,隙間を設けて配設されてい
るのに対し,本件訂正発明に示す「押圧弁」は,通常の弁構造として機能させてい
るので,被濾過流体が移送されるフィルタエレメントの排出口に接離自在に配設さ
れており,「押圧弁」と「押圧盤」の絞り作用は明確に相違していると主張する。
しかし,そもそも,本件訂正発明の「押圧弁」に相当するといえるためには,
「フィルタエレメント」に相当する部材の排出口に配設され,固形分の搾汁効果を
可変調節できるという作用を有するものであれば足り,排出口に接離自在に配設さ
れていることを要するものではない。
したがって,控訴人の上記主張は,乙8発明の「押圧盤」が本件訂正発明の「押
圧弁」に相当しないことの理由付けとしては,失当である。
オ小括
以上のとおりであるから,乙8発明の「押圧盤」が本件特許発明の「押圧弁」に
相当するとした原判決の認定に誤りはない。
(2)乙8発明の技術分野について
控訴人は,要旨,「本件訂正発明は,豆乳原液などの食品原料について,その固
形分から液体分を抽出搾汁して利用することを目的とする濾過装置であるのに対し,
乙8発明は,水分と固形分との混合体から水分を排出し,水分を含まない固形分を
得ることを目的とする脱水処理装置であり,被処理物の1つとして挙げられている
『加工食品』は『産業廃棄物』であって,被処理物中の水分は除去され,食品とし
て利用されることはないから,本件訂正発明とは技術分野が全く異なる」旨主張す
る。
なるほど,本件訂正発明は,豆乳原液などの食品原料について,その固形分から
液体分を抽出搾汁して利用することが予定されているといえるのに対し,乙8発明
は,汚泥等の脱水処理装置に関する発明であり,被処理物中の水分は除去され,食
品として利用されることは予定されていない。
しかしながら,前示のとおり,本件訂正発明のような食品原料の濾過システムに
係る技術分野と,乙8発明の脱水処理装置に係る技術分野とは,それぞれの当業者
が互いに他方の技術の適用を試みるであろう程度の技術分野の関連性が認められる。
したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
(3)押圧盤から押圧弁を想起することは不可能であるとする控訴人の主張につい

控訴人は,本件訂正発明の「押圧弁」と乙8発明の「押圧盤」とが,構成及び作
用において差異があることを前提として,「押圧盤」から「押圧弁」を想起するこ
とは不可能である旨縷々主張する。
しかし,乙8発明の「押圧盤」が本件訂正発明の「押圧弁」に相当するものであ
ることは前記のとおりであり,両者の構成及び作用に差異があるとはいえない。
したがって,控訴人の上記主張は,前提において誤っており,失当である。
(4)乙8発明に乙7発明のコイルばね式清掃用ブレードを適用することの容易想
到性について
ア控訴人は,乙8発明の目詰まり防止手段は,ケーシングの外側から水切孔に
圧力を加えて固形物をケーシング内部に落下させるというものであるのに対し,乙
7発明のコイルばね式清掃用ブレードは,内側表面に付着した固形物を切り剥がし
こすり取ることにより,清掃用ブレード100と相俟って付着した固形物を取り除
き,付着した固形物を外側へ排出させ,目詰まりを防止するというものであるとし
て,乙8発明の外部から圧力を加える手段から,乙7発明の内部からこすり取ると
いう解決手段を想到することは,当業者といえども容易であるとはいえないと主張
する。
しかし,乙8発明の目詰まり防止手段に代えて,乙7発明の目詰まり防止手段を
適用することは,当業者であれば必要に応じて適宜なし得るものである(なお,控
訴人の上記主張中,「清掃用ブレード100と相俟って,…」との部分については,
乙7文献に,「ブレード87あるいは98,ノズル90およびブレード100は独
立して利用することができる。」(乙7添付の抄訳8頁15ないし16行)との記
載があるとおり,誤りである。)。
したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
イ控訴人は,乙7発明で目詰まり防止の対象となるのは,孔ではなく,濾過式
脱水用のフープあるいはリング間の環状空間であり,乙8発明の水切孔とは構成が
全く異なるから,乙8発明に乙7発明をそのまま適用することはできないと主張す
る。
しかし,乙7文献には,「本発明は,このような問題点を,好ましくは図13~
17に示されたようなコイルばね式の拭き取り用あるいは清掃用ブレード87を設
けることによって解消する。このブレード87は,一組のガイド88によってブレ
ード76の外側端部に配置することができる。ブレード87のばね作用あるいは
拡張傾向によって,コイルばね式のブレード87と濾過式脱水用媒体48の内側表
面74との間に連続状接触が存在している。この連続状接触によって,内側表面7
4からの固形物の拭き取りが,従って,清掃が行われる。」(乙7添付の抄訳5頁
18~24行)との記載があり,これによれば,コイルばね式清掃用ブレード87
は,濾過式脱水用媒体42の内周面と隙間なく連続的に接触するように設けること
によって,上記内周面に付着する固形物を拭き取り清掃するものであることが認め
られる。
そうすると,乙7発明のコイルばね式清掃用ブレードは,目詰まり防止の対象が,
孔であるか,フープあるいはリング間の環状空間であるかにかかわらず,目詰まり
を防止することができるものと認められる。
したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
ウ控訴人は,圧力を加えたり,こすり取って固形物を外側に排出させるという
手段は,目詰まり防止に資するかもしれないが,豆乳などの製造にとっては,固形
分を液体分と一緒に排出させることは禁忌であり,この点からも,乙7発明や乙8
発明の目詰まり防止の技術的思考を本件訂正発明にそのまま適用することはできな
いと主張する。
しかし,前記(1)イのとおり,乙8発明の押圧盤は,被処理物の脱水率を高める
調整をすれば,固形分のみを排出させることも可能である(他方,本件訂正発明の
押圧弁は,固形分の搾汁効果を弱める調整をすれば,液体分も固形分と一緒に漏出
させることは可能であり,固形分しか排出させることができないとはいえない)。
したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
エ小括
以上のとおりであるから,本件訂正発明は乙8発明に乙7発明を適用することに
よって当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。
したがって,本件訂正発明は,進歩性を欠如するものとして,乙8発明によって
無効とされるべきものであるから,乙8文献に基づく無効理由は,本件訂正によっ
ても解消されないとした原判決の判断に誤りはない。
4結論
以上のとおりであるから,控訴人の本訴請求は理由がなく,これを棄却した原判
決は結論において誤りがなく,本件控訴は理由がないから,これを棄却することと
して,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
芝田俊文
裁判官
西理香
裁判官
知野明

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