弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成15年(行ケ)第123号 審決取消請求事件
平成15年9月9日口頭弁論終結
判    決
原   告      株式会社ネットマーク
訴訟代理人弁護士   日 野 修 男
被   告      株式会社ネットマークス
訴訟代理人弁護士   吉 田 和 彦
同          加 藤 ちあき
同          相 良 由里子
主    文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1) 特許庁が取消2002-30077号事件について平成15年2月25日
にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
住友電気工業株式会社(以下「住友電工」という。)は,別紙審決書の写し
末尾記載のとおり「NETMARKS」のブロック体の欧文字を横書きして成り,
商標法施行令1条別表の商品及び役務の区分第42類の「コンピュータシステムに
関するコンサルティング,通信ネットワークシステム・機器に関するコンサルティ
ング,コンピュータシステムの分析・評価・開発・設計・作成・運用・管理又は保
守,通信ネットワークシステム・機器の分析・評価・開発・設計・作成・運用・管
理又は保守,電子計算機による情報処理」を指定役務とする登録第4227162
号商標(平成9年2月3日登録出願。平成11年1月8日設定登録。以下「本件商
標」という。)の商標権者であった者である。
原告は,平成14年1月23日,住友電工を被請求人として,特許庁に対
し,本件商標について,その指定役務中「コンピュータシステムに関するコンサル
ティング,通信ネットワークシステム・機器に関するコンサルティング,コンピュ
ータシステムの分析・評価・開発・設計・作成・運用・管理又は保守,通信ネット
ワークシステム・機器の分析・評価・開発・設計・作成・運用・管理又は保守,電
子計算機による情報処理」の登録について,商標法50条に基づく取消しの審判
(不使用取消しの審判)の請求をした(審判の請求の登録日・平成14年2月20
日。甲第2号証)。住友電工は,平成14年2月21日,本件商標権を被告に譲渡
し,同年3月6日権利移転の登録がなされた(甲第2号証。以下,この登録によっ
て効力の生じた上記譲渡を「本件譲渡」という。)。
特許庁は,上記審判請求を取消2002-30077号事件として審理し,
その結果,平成15年2月25日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審
決をし,その謄本を同年3月10日原告に送達した。
 2 審決の理由
  別紙審決書の写し記載のとおりである。要するに,本件商標の通常使用権者
であった被請求人(被告)は,本件商標を,本件審判の請求の登録前3年以内に日
本国内において,請求に係る指定商品中「通信ネットワークシステム・機器の分
析・評価・開発・設計・作成・運用・管理又は保守」について,使用していたもの
というべきであるから,本件商標の登録は,商標法50条により,請求に係る役務
について,取り消すことはできない,としたものである。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
審決は,本件譲渡前において,本件商標の前商標権者であった住友電工から
被告に対し,本件商標の使用許諾がなされていた,と誤って認定し(取消事由
1),審判請求人が使用を主張していない商標を誤って使用商標2として採り上
げ,これについて認定判断し(取消事由2),使用商標2が商標法50条1項括弧
書きに規定する本件商標と社会通念上同一と認められる商標に該当すると誤って判
断した(取消事由3)ものであり,これらの誤りがそれぞれ審決の結論に影響を及
ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件譲渡前における本件商標の使用許諾の有無)
審決は,本件商標の使用者についての判断において,「被請求人(判決注・
被告。以下同じ。)は,前商標権者が親会社の住友電工であったこと,本件商標権
は請求人による不使用取消審判請求後であるが住友電工から被請求人に譲渡された
ことよりすれば,被請求人より本件商標の使用許諾を立証する証左は提出されてい
ないとしても,住友電工と被請求人との間において,本件商標の使用許諾はなされ
ていたものというのが社会通念に照らし相当である。」(審決書9頁30行~35
行)と認定した。しかし,この認定は誤りである。
被告が親会社の住友電工から本件商標権について通常使用権の設定を受け使
用を許諾されていたのであれば,使用許諾契約書が作成されていたはずであり,本
件訴訟において証拠として提出することができたはずである。本件訴訟において使
用許諾契約書が証拠として提出されていないのは,被告が本件商標権について通常
使用権の許諾を受けていないことを示すものである。
住友電工は,本件商標権を子会社である被告に譲渡することができたにもか
かわらず譲渡しておらず,本件の不使用取消審判を請求された直後に被告に譲渡し
た。住友電工は,子会社である被告の株式総数の過半数を有するにすぎない。住友
電工は,本件譲渡前において,商標権を被告に移転しない,使用許諾をしない,と
いう状況を創設することによって,本件商標権を通じて,被告の本件商標の使用に
対し潜在的な支配力を保有し続けていたものである。すなわち,住友電工は,将来
において被告の株主構成比率が変動し,住友電工の会社支配の割合が低下したとし
ても,本件商標権の保有の継続と,被告による無権限の本件登録商標の使用という
状況下において,被告に対する商標権の行使あるいはその可能性を通じて,被告に
対し経営上の影響を及ぼすことができたものである。
2 取消事由2(被告の主張していない商標についての検討)
審決は,別紙審決書の写し末尾記載の商標を使用商標2として検討の対象と
した。同商標の図形部分の色は,黒の一色である。
しかし,被告が本件審判において使用を主張した商標は,別紙の1記載のと
おりの商標であり,図形部分などは存在しない。
原告は,本件審判において,被告が使用してきたのは別紙の2記載の商標で
ある,と主張した。しかし,被告は,上記商標については,審判においていかなる
主張もしていない。上記商標の図形部分は黒の一色ではなく,左右に薄墨色の三角
形を各一個配し,中央部の三角形はひときわ目立つ赤色が使用されている点で,審
決が検討の対象とした使用商標2とも異なる。
審決は,審判被請求人(判決注・被告)が使用の主張をしていない使用商標
2を検討の対象として判断をしたものであり,弁論主義に違反している。
3 取消事由3(商標法50条1項括弧書き該当性)
仮に,審決が使用商標2として検討した商標は,正確に表示すれば別紙の2
記載の商標(以下「使用商標3」ということがある。)である,と解することがで
きるとしても,同商標を商標法50条1項括弧書きに規定する本件商標と社会通念
上同一と認められる商標に該当するものとした,審決の判断は誤りである。
本件商標は,「NETMARKS」との構成から成り,「ネットマークス」
と一連の称呼のみが生じるものであり,「ネット」や「マークス」などと称呼が分
断されて生じる余地はない。
これに対し,使用商標3は,図形部分こそが看者に強い印象を与えるもので
ある。図形部分は,文字部分に比して全体として3倍も面積が広いというだけでな
く,これを構成する三つの三角形のうち中心にある二等辺三角形は,この商標にお
いて唯一色彩が使われている部分である。しかも,それは,鮮明な赤色である。こ
のため,同商標に接した者は,自然に,文字部分の「E」に突き刺さるように配置
された赤地の二等辺三角形に注意を払うことになる。同商標においては,図形と文
字との組合せ,特に「E」の文字に突き刺さるように配置された赤地の二等辺三角
形と左右の正三角形とから構成される図形部分が自他識別の重要な要素となってい
る。
使用商標3の文字部分は,2段に分けて記載された「NET」と「M」とを
変形させた文字と「ARKS」とから成るものである。このような文字部分から
「ネットマークス」という一連の称呼が生じる余地はない。
そうである以上,使用商標3は,商標法50条1項括弧書きが規定する本件
商標と社会通念上同一と認められる商標に該当するものではないというべきであ
る。
第4 被告の反論の要点
1 取消事由1(本件譲渡前における本件商標の使用許諾の有無)について
 住友電工が,被告に対し,本件譲渡前において,本件商標権の使用許諾をし
ていたことは,次の事実から明らかである。
① 本件商標は,住友電工が,平成9年2月3日に商標登録出願をし,平
成11年1月8日に商標登録を受けた。その指定役務は,「コンピュータシステム
に関するコンサルティング,通信ネットワークシステム・機器に関するコンサルテ
ィング,コンピュータシステムの分析・評価・開発・設計・作成・運用・管理又は
保守,通信ネットワークシステム・機器の分析・評価・開発・設計・作成・運用・
管理又は保守,電子応用機械器具の貸与,電子計算機による情報処理」(商品及び
役務の区分第42類)である。
② 被告は,平成9年4月1日,住友電工がその株式の60%を有する子
会社として資本金10億円で設立された株式会社である。被告の商号は,本件商標
及び下記③記載の商標を片仮名で表記した「ネットマークス」の前に「株式会社」
を付したものであり,その事業目的は,上記①記載の指定役務を提供すること,下
記③記載の指定商品を販売することを含むものであった。
③ 住友電工は,平成9年5月22日,標準文字の欧文字「NETMAR
KS」を横書きして成る商標について,商標登録出願をし,平成11年1月22日
に商標登録を受けた。その指定商品は,「測定機械器具,配電用又は制御用の機械
器具,電線及びケーブル,電気通信機械器具,電子応用機械器具及びその部品」
(商品及び役務の区分第9類)である。
④ 住友電工は,本件取消審判請求がなされた直後に,被告に対し,本件
商標権を譲渡し,平成14年3月6日にその登録がされた。
上に述べた事実に照らすと,住友電工が被告に対し本件商標の使用を許諾し
ていたことは,明らかというべきである。そうでなければ,住友電工が,自らの子
会社の商号の要部を欧文字表記した商標について,当該子会社が提供する役務ない
し販売する商品を指定役務又は指定商品として,当該子会社設立の前後に,商標登
録出願をするはずがないのである。
2 取消事由2(被告が主張していない商標についての検討)について
原告は,審決が,被告が使用を主張していない商標について商標法50条1
項括弧書き該当性を判断した,と主張する。
しかし,原告は,審決にいう使用商標2(正確には,別紙の2記載の商標
(使用商標3)である。)について,審判手続において,使用に係る商標であるこ
とを主張している。
仮に,被告が使用商標3の主張をしたとすることができないとしても,審判
手続は,職権主義によって貫かれているから,当事者の意思いかんにかかわらず進
行し(商標法56条で準用する特許法152条),審判においては当事者が主張し
ない事実についても審理することができる(同準用に係る特許法153条)。審判
では,職権で証拠調べが行われ,事実を調査することもできる(同準用に係る特許
法150条,153条)。原告の上記主張は,そもそも失当である。
3 取消事由3(商標法50条1項括弧書き該当性)について
使用商標3の図形部分と文字部分とを,常に一体のものとしてみなければな
らない特段の理由は認められないから,文字部分は独立して自他役務の識別標識と
しての機能を果たしているとみるべきである。
使用商標3の文字部分の「NET」と「MARKS」の文字を上下二段に横
書きした構成は,一体不可分のものとして,看取,理解されるものであり,この文
字部分からは,全体として「ネットマークス」の称呼を生ずる。
本件商標と使用商標3とは,共に「ネットマークス」の称呼を同じくし,使
用商標3の「NET」と「MARKS」のうち,「M」の文字は,やや変形して成
るとしても,両文字を上下二段に横書きした構成は,本件商標を構成する「NET
MARKS」の文字と同一視し得るものである。
使用商標3が本件商標と社会通念上同一と認められる商標に該当する,とし
た審決の判断は正当である。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(本件譲渡前における本件商標の使用許諾の有無)について
原告は,住友電工は被告に対し本件商標につき通常使用権の設定をしていな
かった,と主張する。
しかしながら,証拠(甲第2ないし第4号証,乙第1号証)及び弁論の全趣
旨によれば,住友電工は,昭和50年ころから情報通信ネットワーク関連の事業を
営んでいたこと,平成9年4月1日に,事業の効率化を図ることを目的として,同
社の事業のうち,本件商標の指定役務である「コンピュータシステムに関するコン
サルティング,通信ネットワークシステム・機器に関するコンサルティング,コン
ピュータシステムの分析・評価・開発・設計・作成・運用・管理又は保守,通信ネ
ットワークシステム・機器の分析・評価・開発・設計・作成・運用・管理又は保
守,電子計算機による情報処理」等を業として提供することを目的とする子会社
(住友電工の出資比率60%)として,被告を設立したこと,被告の商号は,本件
商標を片仮名で表記した「ネットマークス」の前に「株式会社」を付したものであ
ること,住友電工は,平成9年2月3日に上記の役務を指定役務とする本件商標の
登録出願をし,平成11年1月8日に同商標につき商標登録を受けたこと,が認め
られる。
上記認定事実によれば,他にそれを妨げる特段の事情が認められない限り,
住友電工は,被告に対し,本件商標の通常使用権の許諾をしていたと認定するのが
相当である。住友電工が被告に対し本件商標の通常使用権を許諾しないということ
は,本件商標に指定役務等を行うために被告を設立した行為と矛盾することにな
る。このようなことは,通常考え難いことである。
原告は,住友電工が,被告に対する経営上の影響力を及ぼすために,本件商
標権の使用を許諾しない状況を作り出していたと主張する。しかし,この主張を裏
付けるに足りる証拠は,本件全資料を検討しても,全く見いだすことができない。
弁論の全趣旨によれば,本件商標の使用許諾についての使用許諾契約書は存
在しないことが認められる。しかしながら,契約書が存在しないことをもって,上
記使用許諾がなされたとの認定を覆すに足りるものとすることはできない。
他にも,前記特段の事情に該当するものは,本件全証拠によっても認めるこ
とができない。
取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(被告の主張していない商標についての検討)について
(1) 審決は,別紙審決書の写し末尾記載の図形部分と文字部分とから成る使用
商標2を被告が使用した商標であると認定し,これについて商標法50条1項括弧
書き該当性を検討した。
原告は,被告が使用した商標は,使用商標2とは異なり,別紙の2記載の
とおり,図形部分が単色ではなく色の付いた商標(使用商標3)であり,この商標
については,審決は検討の対象としていない,と主張する。
しかしながら,使用商標2が表示されていると認定する根拠として審決が
用いた証拠の大半(審判乙第2,第3,第7号証,第9ないし第11号証,第22
ないし第27号証(本訴甲第5,第6,第10,第12ないし第14号証,第25
ないし第30号証))に表示された商標は,図形部分に色の付いた別紙の2記載の
とおりの商標(使用商標3)であること,使用商標2が表示されていると認定する
根拠として審決が用いた証拠のうち,審判乙第12ないし第17号証(本訴甲第1
5ないし第20号証)に記載された商標は,図形部分が単色(黒色)で表示されて
いるものの,これらの資料はいずれもコピーであり,その体裁からみて,原本は図
形部分に色の付いたものであったと推認することができること,に照らすと,審決
が検討の対象としたのが,別紙の2記載の商標(使用商標3)であることは,明ら
かである。
原告は,被告が,審判手続において,自らが使用した商標として主張した
のは,別紙の1記載の文字部分のみの商標であり,被告は,審判手続において,自
らが使用した商標として使用商標3を主張していないから,審決は,当事者の主張
しない商標を使用商標として採り上げ,これにつき判断したものであって,弁論主
義に違反する,と主張する。
しかしながら,甲第5ないし第30号証,第32号証によれば,被告は,
本件審判手続において,本件商標を使用したことを立証するための証拠として審判
乙第2ないし第27号証(本訴甲第5ないし第30号証)を提出したこと,これら
の資料のうち,審判乙第2,第3,第7号証,第9ないし11号証,第18ないし
第27号証(本訴甲第5,第6,第10,第12ないし第14号証,第21ないし
第30号証)中には,いずれも図形部分に色の付いた別紙の2記載のとおりの商標
(使用商標3)が記載されていること,被告の提出した証拠のうち,審判乙第12
ないし第17号証(本訴甲第15ないし第20号証)に記載された商標は,図形部
分が単色(黒色)で表示されているものの,これらの資料はいずれもコピーであ
り,その体裁からみて,原本は図形部分に色の付いたものであったと推認すること
ができること,これらの資料中には別紙の1記載の文字部分のみの商標は一切記載
されていないこと,が認められる。これらの事実に照らすと,被告が,本件審判手
続においてその使用した商標として挙げていたのは,使用商標3であるということ
ができる。
本件の審判事件答弁書(甲第32号証)中には,別紙1記載の文字部分の
みを挙げて,これを「使用商標2」と称して,これにつき,本件商標の書体のみに
変更を加えた同一の文字から成る商標である,とする記載がある(4頁9行~下か
ら6行)。しかし,ここでも,同商標は,「乙第2号証その他の乙号証に見られ
る」ものであるとされているのであり,この記載と,上記提出に係る証拠の記載内
容に照らすと,上記審判事件答弁書中の記載は,図形部分と文字部分とから成る別
紙2記載の商標(使用商標3)のうち,文字部分のみが独立した存在として評価さ
れ得ることを前提として主張したものにすぎないと理解すべきであり,文字部分の
みがあって図形部分のないものをその使用した商標であると主張する趣旨を述べた
ものではない,と解するのが相当である。
審決が被告の主張しない商標を使用商標して認定,判断したとの原告の主
張は,採用することができない。
(2) 仮に,被告が自らが使用した商標として使用商標3を主張していないとし
ても,審決が使用商標3を被告の使用した商標として認定,判断したことは,結論
に影響を及ぼさないというべきである。
すなわち,審判においては当事者が主張しない事実についても審理するこ
とができるとされている(商標法56条,特許法153条1項)から,弁論主義違
反を問題とする余地はない。もっとも,審判長は,当事者が申し立てない理由につ
いて審理したときは,その審理の結果を当事者に通知し,相当の期間を指定して,
意見を申し立てる機会を与えなければならないとされている(商標法56条,特許
法153条2項)。本件審判手続において,このような手続がとられたことは,本
件全資料によっても認めることができない。上記前提の下では,この点において審
決には手続上の瑕疵があることになる。しかしながら,本件審判手続において,被
告が使用の事実を立証するために提出した上記証拠中には,すべて使用商標3が記
載されている。原告は,審判手続において提出した弁駁書(甲第33号証)中にお
いて,被告が使用した商標が使用商標3であること,同商標が商標法50条1項括
弧書きに該当しないことを主張している。これらの事実によれば,原告は,使用商
標3につき十分に意見を述べているということができるから,上記手続上の瑕疵
は,重大であるとはいえず,審決を取り消すべき瑕疵には当たらない,
と解するのが相当である。
(3) いずれにせよ,原告の主張を採用することはできない。取消事由2は理由
がない。
3 取消事由3(商標法50条1項括弧書き該当性)について
原告は,使用商標3(別紙の2記載の商標)においては,図形部分が,その
大きさや色彩から看者に強い印象を与えるものとして,自他識別の重要な要素とな
っていること,同商標の文字部分は,2段に分けて記載された「NET」と「M」
とを変形させた文字と「ARKS」とからなることから「ネットマークス」という
一連の称呼が生じる余地はないこと,を理由として,同商標は,商標法50条1項
括弧書きが規定する本件商標と社会通念上同一と認められる商標に該当するもので
はない,と主張する。
しかしながら,原告の主張は採用することができない。
使用商標3中の図形部分は中央の赤色の逆二等辺三角形とその底辺に接した
左右の灰色の正三角形という幾何学模様から成り,使用商標のほぼ上半分を占める
大きさを有するものである。同図形部分は,その大きさや,中央の逆二等辺三角形
の赤色によって,使用商標3に接した者の目を引くものであるということができ
る。しかしながら,同図形部分は,3個の三角形を組み合わせたもので,特徴のあ
るデザインとまでは言い難く,そこから生ずると考えられる観念,称呼は,せいぜ
い,「3つの三角」といった,ごくありふれた一般的な観念,称呼にすぎないと考
えられる。これに対し,同商標中の文字部分は,図形部分と明確に区別されて,活
字体の欧文字がはっきりと記載されており,後記のとおり「ネットマークス」の称
呼を生じるものである。これらの点に照らすと,使用商標3において,その図形部
分が自他識別標識として果たす役割は極めて小さいものといわざるを得ず,自他識
別標識としての機能のほとんどを果たすのは,その文字部分であって,図形部分
は,このような文字部分を装飾するものとしての役割を果たしているにすぎず,自
他識別標識としての観点において,これをさほど重視することはできないというべ
きである。
使用商標3の文字部分は,「NET」の語と「MARKS」の語とを分けて
上下二段に横書きして成るものではあるものの,二つの語は,同じ幅で,しかも近
接して記載されていることから,一体不可分のものとして,看取,理解されること
が多いものと認められる。同文字部分からは,全体として「ネットマークス」の称
呼を生じ得る。本件商標からは「ネットマークス」の称呼が生じるから,本件商標
と使用商標3とは,称呼を同じくする。
使用商標3においては,「NET」の語と「MARKS」の語とが分けて上
下二段に表示されている点,「MARKS」中,「M」の文字がやや変形されてい
る点において,本件商標の配置及び態様が変更されている。しかし,商取引の実際
において,登録商標の配列又は配置などの態様に変更を加えて使用されることがよ
くあることは当裁判所に顕著な事実であり,このような事情をも考慮するならば,
上記変更は,本件商標と使用商標との同一性を損なうものとまでいうことはできな
いというべきである。
使用商標3と本件商標とは商標法50条1項括弧書きにいう,社会通念上同
一と認められる商標に当たる,と解するのが相当である。
取消事由3も理由がない。
第6 結論
以上のとおりであるから,原告主張の審決取消事由は理由がなく,その他審
決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,本訴請求を棄却するこ
ととし,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用し
て,主文のとおり判決する。
   東京高等裁判所第6民事部
       裁判長裁判官 山  下  和  明
        
          裁判官  阿  部  正  幸
          裁判官  高  瀬  順  久
 (別紙)
                                     
                                     
 

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛