弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成12年(行ケ)第174号 審決取消請求事件(平成12年12月20日口頭
弁論終結)
          判         決
       原      告   【A】
       訴訟代理人弁理士   三   中   英   治
       同三   中   菊   枝
       被      告   特許庁長官 【B】
       指定代理人      【C】
       同          【D】
       同【E】
       同          【F】
          主         文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
          事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
 1 原告
   特許庁が平成9年審判第16000号事件について平成12年3月27日に
した審決を取り消す。
   訴訟費用は被告の負担とする。
 2 被告
   主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   原告は、昭和63年4月18日、名称を「ウェットティッシュ包装体」とす
る発明(以下「本願発明」という。)について特許出願(特願昭63-94791
号)をしたが、平成9年8月26日、拒絶査定を受けたので、同年9月25日、こ
れに対する不服の審判を請求した。特許庁は、同請求を平成9年審判第16000
号事件として審理した上、平成10年7月9日、「本件審判の請求は、成り立たな
い。」とする審決をしたが、当庁平成10年(行ケ)第287号審決取消請求事件
において、平成11年5月26日言渡しの判決により上記審決が取り消されたの
で、更に審理をした結果、平成12年3月27日、「本件審判の請求は、成り立た
ない。」との審決をし、その謄本は、同年4月29日、原告に送達された。
2 本願発明の要旨
  【請求項1】柔軟な液密性のシートから形成された封入袋とトレイ部材とから
構成され、前記封入袋の内部には液体を含浸させたティッシュが連続的に引出し可
能に収納されており、該封入袋はその頂面に、取出し口または該取出し口を形成す
るための切離し用切込み、および前記取出し口または取出し口を形成するための切
離し用切込みを覆い且つ繰返し開封・密封可能な可撓性の開閉蓋を有しており、前
記トレイ部材は前記封入袋の頂面とウェットティッシュとの間において封入袋の内
部に収納され、前記トレイ部材は頂面部と凹部を有しており、前記トレイ部材の頂
面部と少なくとも凹部底面の一部とが別部材からなり、前記頂面部とは別部材の凹
部底面にウェットティッシュを把持する開口が設けられていることを特徴とするウ
ェットティッシュ包装体。(以下「本願発明1」という。)
  【請求項2】トレイ部材が封入袋に固着されていることを特徴とする請求項1
記載のウェットティッシュ包装体。(以下「本願発明2」という。)
  【請求項3】柔軟な液密性のシートから形成された封入袋とトレイ部材とから
構成され、前記封入袋の内部には液体を含浸させたティッシュが連続的に引出し可
能に収納されており、該封入袋はその頂面に、取出し口または該取出し口を形成す
るための切離し用切込み、および前記取出し口または取出し口を形成するための切
離し用切込みを覆い且つ繰返し開封・密封可能な可撓性の開閉蓋を有しており、前
記トレイ部材は前記封入袋の頂面とウェットティッシュとの間において封入袋の内
部に収納され、前記トレイ部材は凹部を有しており、該凹部の底面にウェットティ
ッシュを把持する開口が設けられており、前記収納された各ウェットティッシュが
Z状に折畳まれており、隣接するウェットティッシュはそれらの端部が互いに重な
り合っており、その重なり合いの程度が前記トレイ部材の凹部の深さの0.5~4
倍であることを特徴とするウェットティッシュ包装体。(以下「本願発明3」とい
う。)
 3 審決の理由
   審決の理由は、別添審決謄本記載のとおり、本願発明1ないし3は、実願昭
59-164846号(実開昭61-80273号)のマイクロフィルム(以下
「引用例A」という。)、実願昭60-163087号(実開昭62-72970
号)のマイクロフィルム(以下「引用例B」という。)及び実願昭60-6116
9号(実開昭61-178379号)のマイクロフィルム(以下「引用例C」とい
う。)に記載の各考案に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたもので
あるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができないというも
のである。
第3 原告主張の審決取消事由
   審決は、本願発明1の容易想到性の判断を誤り(取消事由1)、本願発明2
についても同様であり(取消事由2)、さらに、本願発明3(取消事由3)につい
ても同様であるから、違法として取り消されるべきである。
 1 取消事由1(本願発明1の容易想到性の判断の誤り)
  (1) 引用例Aには、本願発明1のような頂面部と凹部を有するトレイ部材を用
いることの開示も示唆もなく、まして、頂面部と少なくとも凹部底面の一部とを別
部材とするものではない。引用例A記載の考案の課題は、開閉自在なV字状スリッ
トと小孔を有する板体を用いたことによりすべて達成されているから、引用例Aに
は本願発明1のように凹部を有するトレイ部材を用いるという課題がない。
  (2) 引用例B及び引用例C記載の各考案では、合成樹脂から作られたウェット
ティッシュ容器そのものに凹部を形成しているから、収納容器の把持部材は存在し
ていないし、トレイ部材が柔軟な液密性のシートから形成された封入袋の内部に設
けられたものではない。しかも、引用例B及び引用例Cの天板部は、密閉容器その
ものを構成しており、そのまま封入袋の内部に収納することはできず、仮に、これ
ら引用例に記載されている容器をそのまま封入袋の内部に収納しても、本願発明1
は得られない。これら引用例に記載されているものを、引用例A記載の考案の板体
に替えるためには、引用例B及び引用例Cの取出口のみを切り出して封入袋の内部
に収納することが必要となるが、これら引用例においては、取出口を切り出して柔
軟な液密性のシートから形成された封入袋の内部に収納することの開示も示唆もな
く、その必要性も認識されていない。
    ウェットティッシュについては、ポケット収納タイプ、卓上載置タイプ等
種々の形態と技術があり、ウェットティッシュの収納容器についても、いわゆるボ
トルタイプ、弁当箱タイプ、封入袋タイプ等多岐にわたった用途及び需要に対応し
ているのであるから、当業者は、技術的な必要性や課題もなく、単にウェットティ
ッシュの容器に係る技術であるという理由により、特定のウェットティッシュの容
器の技術を他のウェットティッシュ容器に適用するものではない。したがって、引
用例Aにはティッシュ端部が邪魔になるとの問題認識がないから、その問題を解消
しようとする課題がなく、また、引用例B及び引用例Cのいずれにも、引き出され
把持された次のティッシュ端部が邪魔にならないようにするという技術思想が開示
されていない以上、これらの引用例をどのように組み合わせても、柔軟な液密性の
シートから形成された封入袋の中に凹部を有するトレイ部材を入れるという本願発
明の構成に、当業者が容易に想到することはできない。
    審決は、「ティッシュ把持部材の素材を、例えば把持に適した硬さの素材
を選択できるように、容器本体のその他の部材とは別の部材で構成することも、引
用例A、Bの記載[A-2]、[B-1]~[B-3]からみて、周知の事項と認
められる。」(審決謄本5頁26行目~29行目)と認定しているが、この認定内
容は、技術的に全く意味不明である。
  (3) 実開昭59-106376号(甲第6号証)の考案は、引用例Aの実用新
案登録出願と同一の考案者及び出願人による出願であるが、この考案から引用例A
記載の考案まで、板体の穴の形状を変えるだけで約2年が費やされている。また、
本件特許出願より後の出願である実開平7-9196号(甲第7号証)では、取出
口の形成された浮き板は平板であり、この出願人が、浮き板に凹部を形成した登録
実用新案公報第3001857号(甲第8号証)の考案に達するまでに相当の期間
を要している。このような本件出願前後の技術水準に照らすと、本件出願当時、引
用例Aの板体に凹部を設けることは、当業者が容易に想到し得なかったことが明ら
かである。
  (4) 審決は、「本願発明1の奏する作用、効果も上記各引用例に記載された技
術事項から当業者が容易に予測し得る程度のものであって、格別なものがあるとも
認められない。」(審決謄本5頁34行目~36行目)と認定しているが、本願発
明1の奏する作用、効果をどのように認定したかについては全く記載していない。
本願発明1においては、取り出されたウェットティッシュとともに引き出された次
のウェットティッシュの先端部が、トレイ部材の凹部内に収容される状態となっ
て、開閉蓋を封入袋にぴったりと貼着して閉めることができるので、次のウェット
ティッシュが乾燥することがなく、また、トレイ部材はその頂面部と少なくとも凹
部底面の一部とを別部材としているので、ウェットティッシュを把持する開口を設
けた凹部底面部と頂面部について、それぞれ目的に応じた任意の硬さの素材を使用
することができるという顕著な効果を奏する。
(5) したがって、本願発明1は、引用例Aないし引用例C記載の考案に基づい
て当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
 2 取消事由2(本願発明2の容易想到性の判断の誤り)
   引用例A及び引用例Cのいずれにも、ティッシュの取出部が設けられた部位
が容器本体に固着されている構成は開示されておらず、本願発明2は、引用例Aな
いし引用例C記載の考案に基づいて当業者が容易に発明をすることができたという
ことはできない。
 3 取消事由3(本願発明3の容易想到性の判断の誤り)
  (1) 引用例Aには、紙片の一部を係合させて折り畳み連続的に引き出し得るよ
うにされたものである旨の記載はあるが、Z状に折り畳まれているとは開示されて
いない。引用例Bには、ティッシュがL形又はZ形に折り込み積層して容器本体に
収納してある旨記載されているが、Z状に折り畳まれたものが、一部を係合させて
折り畳み連続的に引き出し得るようにされたものを積層状に収納した状態の代表的
なものであるとの記載はない。一方、引用例Bの第2図では、ティッシュはZ状で
はなく、箱入りのティッシュペーパーに広く見られるような二つ折りのL形であっ
て、引用例Bにおいては、Z形よりむしろL形のティッシュが代表的なものである
と解される。
  (2) 本願発明3の、柔軟な液密性のシートから形成された封入袋の中に、頂面
部と凹部を有するトレイ部材を入れたというウェットティシュ包装体の構成は、前
記のとおり本件特許出願前には知られていないが、その中に収納された各ウェット
ティシュの端部を互いに重なり合わせておく構成、まして、その重なり合いの程度
を前記トレイ部材の凹部の深さの0.5~4倍とする構成は、いずれも本件特許出
願前には知られていない。そして、本願発明3では、Z状に折畳まれたウェットテ
ィッシュの端部の重なり合いの程度をトレイ部材の凹部の深さに対して特定の範囲
とすることにより、次回使用のウェットティッシュの端部をトレイ部材の凹部に確
実に収容し、ウェットティッシュの端部に邪魔されることなく、確実に開閉蓋を密
閉することができるという顕著な効果を奏するものである。
  (3) したがって、本願発明3は、引用例Aないし引用例Cから当業者が容易に
発明をすることができたものではない。
第4 被告の反論
 1 取消事由1(本願発明1の容易想到性の判断の誤り)について
  (1) ウェットティッシュの容器において、ティッシュを把持する開口が設けら
れている場合、1枚のティッシュが引き出された後、次のティッシュは先端部近傍
が把持されて一定量上面に飛び出すものであり、平らな蓋材を用いた場合、その先
端部が蓋をする際に邪魔になることは、当業者が容易に想定し得ることにすぎな
い。したがって、引用例Aに明示の記載がないとしても、ティッシュの把持部の構
成を、飛び出したティッシュの先端部が邪魔にならないようにするという課題は、
当業者が十分に認識し得たもののーつである。
  (2) 引用例B及び引用例Cの各々に、ウェットティッシュの包装容器におい
て、その上面のティッシュ引出部周辺に凹部を設けて成るものが示されているよう
に、ウェットティッシュを把持する開口が設けられた引出し部周辺を凹部形状と
し、蓋片と把持部との間にティッシュ先端部が収納される空間を形成させること
は、従来周知である。引用例Aないし引用例Cは、いずれもウェットティッシュの
容器の技術に係るものであり、引用例Aには、従来、容器の一部として形成されて
いたスリット等の紙片取出部、紙片把持部を容器の内部に収納する部材に設けるも
のであることが示されており、引用例B及び引用例Cには、容器の一部であっても
ウェットティッシュを把持する開口を有する箇所が存在し、そのような箇所は把持
部材といえるから、その形状を引用例Aにおける板体のような把持部材における把
持部近傍の形状として適用することは、当業者にとって格別困難なことではない。
    引用例Aでは、「容器あるいは袋体」は気密性のみを勘案した薄板又はラ
ミネート紙等により成形され、板体は比較的強度を有するものであると説明されて
いる。引用例Bでは、容器本体と蓋部材、取出口等は合成樹脂から作られ、スリッ
トを有する「掩蔽片」は、濡れナプキンに比較して復元性と摩擦抵抗がある板状の
素材から作られる旨説明されている。すなわち、引用例A及び引用例Bの各容器に
おいては、容器本体及び蓋部材とティッシュ取出部が設けられる部位の素材とは、
それぞれが必要とされる性質に応じて別部材で構成し得ることが開示されている。
  (3) 技術水準を示す証拠として原告が提出した甲第6~8号証のうち、甲第6
号証の出願は拒絶査定が確定したものであり、甲第7、第8号証は本件特許出願の
後に出願されたものであって、これらの技術内容は、本願発明1の容易想到性を判
断する際に考慮すべき技術水準とは関係がない。
  (4) 審決は、明記してはいないが、本願発明1の作用効果を本件明細書の「作
用」及び「発明の効果」の欄に記載されたとおりのものと認定した上で、それらの
作用効果は、当業者が引用例Aないし引用例Cから容易に予測し得る程度のもので
あると認定した。したがって、審決は、本願発明1の効果を看過してはいない。
 2 取消事由2(本願発明2の容易想到性の判断の誤り)について
   引用例Aの従来技術の欄に記載された「スリット或いは小孔」を設けられた
「上板」、引用例Bのスリットを有する「掩蔽片」、引用例Cの取出口を有する
「凹部の底面」の構成に照らすと、ティッシュの取出部の設けられた部位が容器本
体に固着されている構成は、従来周知のものである。
 3 取消事由3(本願発明3の容易想到性の判断の誤り)について
  (1) 引用例Bには、適宜の大きさに裁断したティッシュ数枚を互いに断面L形
又はZ形に折り込み積層して容器本体に収納した構成が記載され、これを参酌すれ
ば、引用例Aにおいて、その一部を係合せしめて折り畳み連続的に引き出し得るよ
うにされたティッシュは、Z状に折り畳まれたものを含んでいる。
  (2) 容器に収納されたウェットティッシュの端部を互いに重なり合わせておく
ことは、本件出願前に周知慣用である。本願発明3において、トレイ部材の凹部の
深さが特定されたものではなく、その深さに対する割合も0.5~4倍と幅がある
こと、また、その範囲の幅としたことにより格別顕著な作用効果を奏するものでは
ないことに照らすと、本願発明3においてウェットティッシュの端部の重なりの程
度を上記の範囲のものとすることは、当業者が適宜決定し得るものである。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由1(本願発明1の容易想到性の判断の誤り)について
  (1) 原告は、引用例Aには本願発明1のように凹部を有するトレイ部材を用い
るべきことの課題がないと主張する。しかしながら、引用例A(甲第3号証)に
は、「本案は湿潤紙片等の包装体の改良に関するものであり、特に・・・紙片の取
出しを容易とし、且つ一度開封後の密封性の向上を計るべく勘案された湿潤紙片等
の包装体構造に関するものである。」(明細書1頁13行目~17行目)、「角箱
状容器10内には一部を係合せしめて折畳み連続的に引出し得るようなされたもの
か、或いは長さ方向に適宜の間隔をおいてミシン目等による破断線を施した紙片2
2を積重状に収納し」(同3頁14行目~17行目)、「また当初紙片22を取出
す際には略V字状のスリット26からなる紙片取出し部28を開いて内部の紙片2
2の端部を抓み出し、スリット32を通過せしめて紙片引出し部30へと誘導する
ので取出しが容易であり、使用途中において紙片22が容器内部で破断した際にも
容易に紙片22を紙片引出し部30へと導くことができる。」(同6頁6行目~1
3行目)と記載されている。これらの記載によれば、引用例A記載の考案では、紙
片の取出しを容易とするために、使用途中においては、紙片が容器内部で破断され
ない限り、ほぼV字状のスリットから成る紙片取出部を開くことなく次の紙片を取
り出すことが予定されており、したがって、紙片が引き出される際に、次の紙片の
端部が少なくとも一部、共に引き出されるものと認められる。そうすると、紙片取
出部の周辺の構成を、飛び出した次の紙片の端部が包装体の密封を妨げることのな
いような形状とすることは、当業者であれば十分に認識し得た課題であったといわ
なければならない。
    なお、原告は、引用例A記載の考案の課題は、開閉自在なV字状スリット
と小孔を有する板体を用いたことによりすべて達成されていると主張するが、ある
考案が従前の課題を解決したとしても、完成した考案に新たな別の課題が生じるこ
とは、技術の発展において通常生ずることであるから、引用例Aの考案について、
当業者が新たな課題を読み取ることはあり得るというべきである。
  (2) 次に、原告は、引用例B及び引用例Cでは、トレイ部材が柔軟な液密性の
シートから形成された封入袋の内部に設けられたものではないと主張する。しかし
ながら、引用例A(甲第3号証)には、「本案にあっては比較的強度を有する紙片
引出し部は別体の板体24により形成し、該板体24を任意の容器、或いは袋体の
中へ入れるものであるから包装体は気密性のみを勘案した薄板、またはラミネート
紙等により成形することが可能であり、合成樹脂等のフィルムにより袋状にするこ
とも可能である。」(明細書5頁6行目~12行目)と記載されており、この記載
によれば、引用例A記載の考案では、トレイ部材が柔軟な液密性のシートから形成
された封入袋の内部に設けられたものであると認められる。そして、引用例Aない
し引用例Cは、それぞれ「湿潤紙片」、「濡れナプキン」、「ウエットペーパー」
に関するものであるが、これらは、いずれも本願発明1における「ウェットティッ
シュ」と同一のものと認められるから、当業者であれば、これらの考案を組み合わ
せることは容易であるというべきである。したがって、引用例B及び引用例Cにお
いて、トレイ部材が柔軟な液密性のシートから形成された封入袋の内部に設けられ
たものではないとしても、このことにより、引用例B及び引用例C記載の技術を引
用例A記載の考案に組み合わせることを妨げる理由とはならない。
    原告は、ウェットティッシュ及びその収納容器にそれぞれ各種のものがあ
り、当業者が技術的な必要性や課題もなく、単にウェットティッシュの容器に係る
技術であるという理由により、特定のウェットティッシュの容器の技術を他のウェ
ットティッシュ容器に適用するものではないと主張する。しかしながら、ウェット
ティッシュ及びその容器に各種のものがあるとはいえ、これらがウェットティッシ
ュとして共通するものであることに変わりはなく、また、当業者であれば、顧客の
需要や用途に応じて各種のウェットティッシュについて技術的な検討をするもので
あるから、引用例Aないし引用例Cが開示するウェットティッシュの種類が異なっ
ているからといって、これら引用例の組合せが容易でないということはできない。
    また、原告は、ティッシュ把持部材の素材を容器本体のその他の部材とは
別の部材で構成することが周知の事項であるとした審決の認定が、技術的に全く意
味不明であると主張する。しかしながら、引用例A(甲第3号証)に「本案にあっ
ては比較的強度を有する紙片引出し部は別体の板体24により形成し」(明細書5
頁6行目~8行目)と記載されているとおり、材料に形成された紙片引出部に強度
が必要であることは当業者の技術常識である。そして、引用例A(甲第3号証)に
は、「合成樹脂薄板等の・・・複合材、或いは気密加工を施した紙板の・・・複合
材等により組立てまたは一体的に成形された各箱状容器10の上板12適所には、
任意形状の開口14をミシン目等による環状の破断線16にて形成し」(明細書3
頁7行目~12行目)と記載されているから、引用例Aの容器は複合材から成るも
のであると認められる。また、引用例B(甲第5号証)には、「遮蔽片7
は、・・・濡れナプキンに比較して復元弾性(クッション性を含む)と摩擦抵抗が
ある板状の素材、好ましくはポリエチレン・ポリプロピレン・ポリスチレン・ポリ
エステル・ポリウレタンなどの発泡体、これら発泡体とほぼ同効の合成繊維布が用
いられる。」(明細書6頁7行目~12行目)、「本考案容器は、第1図、第2図
に示すように、・・・水密の容器本体1と、蓋部材2とを備え、合成樹脂から作っ
てある。」(同5頁2行目~4行目)と記載され、第1、第2図を参酌すれば、遮
蔽片が容器本体及び蓋部材とは異なる材料から成るものと認められる。これらの事
実に照らすと、ティッシュ把持部材の強度を担保するために所望の強度、復元弾
性、摩擦抵抗等の材質を有する材料を適宜選択して用いることは、当業者の技術常
識というべきである。そうすると、ティッシュ把持部材の素材を、例えば把持に適
した硬さの素材を選択できるように、容器本体のその他の部材とは別の部材で構成
することが周知の事項であるとした審決の判断に誤りはない。
  (3) 甲第6ないし8号証の考案は、いずれも本件特許出願の手続とは無関係の
ものである上、これらのうち、甲第6、第7号証の考案は、登録されたものかどう
か明らかではなく、また、甲第7、第8号証の考案は、本件特許出願の後に出願さ
れたものであって、本願発明1の容易想到性を判断する際に考慮すべきものではな
いから、これら証拠は、本願発明の容易想到性に関する上記判断を左右するもので
はない。
  (4) 原告は、本願発明1は、次のウェットティッシュが乾燥することがなく、
凹部底面部と頂面部について、それぞれ目的に応じた任意の硬さの素材を使用する
ことができるという顕著な効果を奏すると主張する。しかしながら、引用例B及び
引用例Cには、それぞれ、引き出された次のウェットティッシュが凹部内に収容さ
れることが開示されているから、開閉蓋を封入袋にぴったりと貼着して閉めること
により次のウェットティッシュが乾燥することがないという効果を奏するものと認
められる。また、ティッシュ把持部材の素材を容器本体のその他の部材とは別の部
材で構成することは、前示のとおり、従来周知の技術手段であるから、目的に応じ
た任意の硬さの素材を使用することができるという効果は、当業者にとって自明の
ことである。そうすると、本願発明1についての原告主張の効果は、いずれも当業
者が引用例AないしCから予測することのできるものであって、これを超える顕著
なものではないというべきである。
 2 以上のとおりであるから、その余の点につき判断するまでもなく、原告主張
の審決取消事由は理由がなく、他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。な
お、本件事案にかんがみ、その余の審決取消事由についても付言する。
 3 取消事由2(本願発明2の容易想到性の判断の誤り)について
   引用例Aにおいて板体と湿潤紙片包装体を互いに固着することは、通常のウ
ェットティッシュの容器がウェットティッシュを把持する開口を容器の蓋部に設け
ていることを考慮すると、当業者が容易に採用することのできる設計事項にすぎな
いと認められるから、本願発明2において、トレイ部材を封入袋に固着する構成を
採用したことは、当業者が容易に想到することができるというべきである。
 4 取消事由3(本願発明3の容易想到性の判断の誤り)について
  (1) 原告は、引用例Aでは、紙片がZ状に折り畳まれていることの開示はな
く、引用例Bでは、濡れナプキンがZ状ではなく二つ折りのL型となっている旨主
張する。しかしながら、引用例B(甲第5号証)には、従来の技術について、「所
定大に裁断したパルプ抄紙からなる数枚の乾燥ティッシュを断面L形またはZ形に
折り込み積層してボール紙製の容器に収納し、これを比較的に大きく開口しスリッ
トを設けたプラスチックフィルムを介して取り出し口から前記方式で一枚ずつ引き
出すようにしたものが実用に供されている。」(明細書2頁16行目~3頁2行
目)、考案が解決しようとする問題点として、「不織布からなる濡れナプキンは、
これを前記乾燥ティッシュのようにL形またはZ形に互に折り込み積層すると、そ
の引き出しによる摩擦抵抗が強くて前記乾燥ティッシュのように連続的に引き出す
ことができない、という問題があり、・・・本考案は、前記乾燥ティッシュのよう
に、不織布からなる濡れナプキンを折り込み積層して収納して一枚ずつ連続的に引
き出すことができるように構成した容器を提供することを目的とする。」(同3頁
13行目~4頁5行目)と記載されているから、引用例B記載の考案は、不織布か
らなる濡れナプキンをL形又はZ形に互いに折り込み積層して収納したものの使用
を予定したものと認められる。引用例Bの第2図が図示するものは、同引用例記載
の考案の一実施例にすぎない。
  (2) 次に、原告は、ウェットティシュの端部を互いに重なり合わせておくこ
と、その重なり合いの程度がトレイ部材の凹部の深さの0.5~4倍とすることは
本件特許出願前に知られていないとした上、本願発明3が次のウェットティッシュ
の端部をトレイ部材の凹部に確実に収容し、ウェットティッシュの端部に邪魔され
ることなく、確実に開閉蓋を密閉することができるという顕著な効果を奏すると主
張する。しかしながら、ウェットティシュの端部を重なり合わせておくことは、引
用例A(甲第3号証)にも、「一部を係合せしめて折畳み積重状とした湿潤紙片等
を箱形容器内に収納する」(明細書2頁2行目~3行目)と記載されているよう
に、本件特許出願前の周知慣用技術であり、また、ウェットティッシュの端部の重
なりをトレイ部材の凹部の深さの0.5~4倍とすることは、当業者が適宜決定し
得る設計事項にすぎず、この構成に基づいて本願発明3が格別顕著な効果を奏する
ものであると認めることもできない。
 5 よって、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用
の負担につき行政事件訴訟法7条、民訴法61条を適用して、主文のとおり判決す
る。
     東京高等裁判所第13民事部
         裁判長裁判官   篠   原   勝   美
            裁判官   石   原   直   樹
            裁判官   長   沢   幸   男

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛