弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
本件訴えをいずれも却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 原告らの昭和五三年実用新案登録願第一三六八八〇号の実用新案登録出願に係
る昭和五四年五月四日付提出の出願審査の請求に対し、被告が昭和五四年八月一〇
日付でした不受理処分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
(本案前の申立)
主文同旨
(本案に対する答弁)
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1(一) 原告らは、原告らを特許出願人として昭和四九年四月一五日に出願した
昭和四九年特許願第四一〇〇一号の特許出願(以下、「本件特許出願」という。)
について、昭和五〇年一一月一八日出願審査の請求をしたが、昭和五三年七月二七
日付で拒絶査定を受け、右拒絶査定謄本は同年九月一四日原告らに送達された。
(二) 原告らは、実用新案法第八条第一項の規定により、昭和五三年一〇月六
日、本件特許出願を実用新案登録出願(昭和五三年実用新案登録願第一三六八八〇
号。以下、「本件出願」という。)に変更した。
(三) 原告らは、昭和五四年五月四日、本件出願について出願審査の請求(以
下、「本件審査請求」という。)をしたところ、被告は、昭和五四年八月一〇日付
で本件審査請求を期間経過後の差出として不受理処分(以下、「本件不受理処分」
という。)に付し、その通知は昭和五四年八月二二日原告らに送達された。
(四) 原告らは、被告に対し、昭和五四年九月一三日、本件不受理処分につき行
政不服審査法による異議申立をしたところ、被告は昭和五五年一〇月一七日付で右
申立を棄却する旨の決定をし、その決定書謄本は同月二〇日原告らに送達された。
2 本件不受理処分は、以下に述べるとおり、違法であつて、取り消されるべきも
のである。
(一) 本件特許出願についてなされた出願審査の請求は、次の(1)ないし
(3)に述べる理由により、本件出願についてもその効果を有するものであるか
ら、本件出願は、実用新案法第一〇条の三第二項の規定で準用される特許法第四八
条の三第四項の規定の「期間内に出願審査の請求がなかつたとき」には該当せず、
したがつて取り下げたものとはみなされず、有効に存続するものである。
(1) 特許出願とは、自然法則を利用した技術的思想の創作(考案)のうち高度
のものすなわち発明について、出願審査の請求を停止条件として、国に対し独占排
他権の付与を請求する出願人の、願書という要式的な書面による意思表示である。
 特許出願についてされる出願審査の請求は、特許出願の対象である特定の高度の
考案について審査を求める旨の意思表示であり、特許出願の意思表示とは別個独立
の、特許出願の意思表示に係る停止条件を成就させるための意思表示である。
 実用新案法第八条の規定による出願の変更は、出願人がその創作したものについ
て高度の考案として独占排他権の付与を求めた意思表示を変更して、これに高度の
考案としてではなく、単なる考案として独占排他権の付与を国に対し請求する出願
人の意思表示であるから、もとの特許出願も出願変更後の実用新案登録出願も、同
じ考案について独占排他権の付与を求める意思表示であるという点においては同一
である。
 したがつて、出願審査請求がされて停止条件が成就し、出願に係る考案について
国に対し独占排他権の付与を求める確定的な意思表示になつた特許出願が出願変更
されて実用新案登録出願となつても、その意思表示はすでに停止条件が成就した状
態のままのものであると解するのが出願審査請求という意思表示の性格に照らし、
自然である。
 特許出願を実用新案登録出願に変更するのは、本件のように特許出願につき出願
審査の請求をし審査を受けて拒絶査定がなされた後であることが多い。このような
場合に出願変更するのは、特許権として独占排他権を取得するのは無理であるか
ら、その代わりに実用新案権として独占排他権を確保しようという意図においてな
されるのであり、変更後の実用新案登録出願につき出願人に出願審査の請求の意思
が消失しているというようなことはない。また、変更後の実用新案登録出願には変
更前の特許出願の出願番号が記載されているから、変更前の特許出願について出願
審査の請求があつたことは書面により客観的に明らかである。したがつて、出願審
査の意思表示が取り下げられることなく存続している以上(特許法第四八条の三第
三項)、もとの特許出願についての出願審査の請求の効果が変更後の実用新案登録
出願に及ばないというような解釈は認め難い。
 もとの特許発明についての出願審査の請求の効果が出願変更後の実用新案登録出
願には及ばないと解するのは、発明者及び考案者のためにその発明ないしは考案を
保護するという特許法、実用新案法の目的に反する。
(2) 特許法又は実用新案法に規定する出願人自身の出願審査の請求という意思
表示には、実体法的な効果と手続法上の効果の二つが存在する。
 実体法的な効果は、前述のとおり、自己の出願した考案又は発明について独占排
他権を賦与して欲しい旨の停止条件付意思表示(出願)の停止条件を成就させる効
果である。すなわち、それによつてそれまで未確定であつた出願人の独占排他権取
得請求の意思表示は確定する。
 手続法上の効果は、出願人が手数料を納付することを条件として、考案の内容が
示された具体的な出願書類について、審査官の審査を開始させる効果であり、これ
は同時に当該出願について手続上審査の順位を確保するという効果を伴なうもので
ある。
 ところで、出願審査の請求が法定期間内になされないときは、出願についての停
止条件の不成就が確定するので、独占排他権取得請求の意思表示の無効が確定し、
出願は公開された事実が残ることを除けば存在意義を喪失する。したがつて、この
ような出願が、形式上においてのみ手続上先願として残存していることは審査手続
上の障害となるのみであるので、このような形骸となつた出願を消滅させるために
設けられたのが、特許法第四八条の三第四項(実用新案法第一〇条の三第二項によ
り準用)に定める「取り下げたものとみなす」旨の規定である。すなわち、右の取
下擬制の規定は、法の目的及び条項自体の意図するところからするも、当該出願に
ついて実体法上の独占排他権取得請求の意思表示の無効が確定するということがそ
の適用の当然の前提条件となつているものであるから、出願審査の請求の実体法的
な効果を生じさせる条件が充足され、独占排他権取得請求の意思表示の存在という
実体法的な事実が法手続上も形式上も確定的なものとして客観的に認められる限り
においては、仮に手続法上の効果を生じさせる要件が法所定の期限までに充足され
ていない場合においても、それによつて取下擬制の規定が当然に適用されるという
ことはなく、出願は有効に存続しているものと解すべきである。
(3) 変更出願が変更前のもとの出願とは別個独立の出願であり、審査その他の
出願手続を最初からやり直すこと、及び新たに手数料を納付する必要があることは
被告主張のとおりであるが、このことは変更出願ともとの出願における出願の対象
となる考案の内容の同一性を否定するものではない。また、もとの出願でなされた
補正は変更出願にもそのまま引き継がれていくのと同様に、もとの出願について行
つた出願審査の請求もその実体法的な意思表示は当然変更後の出願の内容として存
続するものである。
(二) 本件出願においては、本件特許出願についての出願審査請求の実体法上の
効果は及んでいるが、手続法上の効果、すなわち審査官の審査を開始させ、審査の
順位を確保させるために、本件出願について別個に出願審査の請求をすることが必
要であり、本件審査請求は右手続法上の効果を発生させる意味で必要なものであ
る。
 なお、仮に出願人が変更後の出願について出願審査の請求を法定期間内にせず、
法定期限経過後も長期間にわたり自発的に手続を行わない場合には被告は、特許法
第一八条又は実用新案法第五五条第二項の規定が準用する特許法の右規定によりい
わゆる出願無効処分という方法でこれを処理することが可能であり、法の目的から
するも被告はそのように処理すべきである。
(三) 本件と同様の事例で、実用新案登録出願に変更した後一年近く経過してか
ら出願審査の請求をしたにもかかわらず、右請求が受理され、審査を受けた先例が
ある。
被告はこのような措置は審査官の過誤によるものである旨主張するが、一方におい
てこのように特許出願、実用新案登録出願が正当に審査され、発明者、考案者が保
護されているにもかかわらず、他方において被告のいうような形式的法解釈により
多数の出願人が保護されるべき発明、考案の保護を奪われているということは、不
公平かつ不合理である。
3 よつて、原告らは本件不受理処分の取消しを求める。
二 請求の原因に対する認否及び被告の本案前の申立の理由
1 請求の原因1の事実は認める。
2 本件訴えは、本件審査請求の前提をなす本件出願が取り下げたものとみなされ
ているから、訴えの利益がない。
 すなわち、本件出願は、本件特許出願(昭和四九年四月一五日出願)をもとの出
願として、昭和五三年一〇月六日実用新案法第八条第一項の規定による変更出願と
して出願されたが、右変更出願の時点で本件特許出願の出願日より四年を経過して
いたにもかかわらず、それから三〇日以内に出願審査の請求がなかつたものである
から、実用新案法第一〇条の三第一項及び同条第二項において準用する特許法第四
八条の三第二項、第四項の規定により、取り下げたものとみなされた。
 したがつて、本件訴えは訴えの利益を欠く不適法な訴えであるから、却下される
べきである。
3 原告らは、本件特許出願についての出願審査の請求の効果が本件出願について
も及ぶから本件出願は取り下げたものとはみなされない旨主張するが、合理的根拠
はない。
 原告らの右主張は、特許出願と実用新案登録出願とは、当該考案が「高度のも
の」であるとして出願したか否かが異なるにすぎないから、出願形式を変更しても
出願審査請求の対象たる考案には同一性があることを前提としている。しかしなが
ら、実用新案法第八条第一項の規定に基づく出願の変更は、もとの特許出願とは別
個独立の新たな実用新案登録出願であつて、もとの特許出願がその同一性を保有し
つつ出願形式のみを変更するものではなく、ただその出願日がもとの特許出願の日
まで遡及するという効果のみがあるにすぎない。
もとの特許出願についてなした手続の効力がそのまま変更後の実用新案登録出願に
承継されるものでないことは当然である。このことは、出願の変更には新たに実用
新案登録出願の手数料の納付が必要なこと(実用新案法第五四条第一項)、新たな
願書を作成して提出しなければならないこと(実用新案法施行規則第一条第二
項)、更に、出願の変更があつたときはもとの特許出願は取り下げたものとみなさ
れ、新たな変更出願については、もとの特許出願についての経過とは全く関係なく
拒絶理由通知や公告決定等が行われ、補正についても例えばもとの特許出願におけ
る公告決定の存在によつて何ら制限を受けないこと等からしても明らかである。
 また、本件のように拒絶査定後の特許出願を実用新案登録出願に変更するについ
ては、明文どおり法定期間内に出願審査の請求をすれば足りるのであり、原告ら主
張のような難解な解釈をする必要性はない。出願審査の請求の様式は、きわめて簡
単なものであつて、原告らがこれを法定期間内に提出しえないという事情は見受け
られない。
4 原告らは、被告が本件出願と同様の他の事案について実質審査をした先例があ
ることをとらえて、不公平かつ不合理である旨主張する。しかしながら、被告が本
件以外の他の事案について不受理処分とせず、受理し審査に付したことは過誤によ
るものである。したがつて本件審査請求について原告ら主張の先例と同様の取扱い
をすることはできない。
第三 証拠(省略)
       理   由
一 本案前の申立について
1 請求の原因1の本件出願の経過に関する事実は当事者間に争いがない。
2 右事実によれば、本件出願は実用新案法第八条第三項の規定により本件特許出
願の出願時である昭和四九年四月一五日にしたものとみなされること、右出願時よ
り四年を経過した後の昭和五三年一〇月六日に出願の変更がされたこと、及び出願
の変更の日から三〇日以内に出願審査の請求がなかつたことが明らかであるから、
実用新案法第一〇条の三第一項及び同条第二項により準用される特許法第四八条の
三第二項、第四項の各規定により、本件出願は取り下げたものとみなされる。
 したがつて、本件出願について提出された本件審査請求に対する本件不受理処分
の取消を求める原告らの本件訴えは、そのもととなる本件出願がすでに取り下げら
れて存しない以上、訴えの利益を欠くものといわざるをえない。
3 原告らは、請求原因2(一)において、本件特許出願についての出願審査の請
求は本件出願についてもその効果を有するから、本件出願は前記特許法第四八条の
三第四項の「期間内に出願審査の請求がなかつたとき」には該当せず、取り下げた
ものとみなされるべきではない旨主張する。
 しかしながら、現行法上、特許出願から実用新案登録出願に出願の変更がなされ
た場合、変更後の実用新案登録出願は、もとの特許出願とは別個独立の出願とされ
ていることは実用新案法第八条第一項、第四項の規定から明らかであり、もとの特
許出願がその同一性を保有しつつ出願の形式のみが変更されたものと考える余地は
ないこと、変更後の実用新案登録出願についての出願審査の請求については、同法
第一〇条の三第二項において準用する特許法第四八条の三第二項が、出願審査の請
求の期間についての特則を定めているにもかかわらず、もとの特許出願についてす
でに出願審査の請求がされていたときについての特則は何ら置かれていないことに
かんがみれば、もとの特許出願について出願審査の請求がされた後に出願の変更が
されて実用新案登録出願となつた出願つにいても、実用新案法第一〇条の二、第一
〇条の三の規定が適用され、特許法第四八条の三第二項ないし第四項の規定が準用
されることが予定されているものと解される。このように解しても、出願変更後の
実用新案登録出願について所定の期間内に出願審査の請求をすることは出願人にと
つて容易になしうる行為であることが明らかであるから、出願人に対し何ら不合理
な負担、無用の困難を課するものとはいえないし、発明、考案を保護するという特
許法、実用新案法の目的に反する結果が生ずるものということもできない。
 かえつて、原告ら主張の解釈に立てば、もとの特許出願について出願審査の請求
があり、出願変更後の実用新案登録出願について同請求がされない場合には、審査
順位未確定の出願がそのまま存在して審査の進行上の障害となることが予想される
のであつて、このような事態が生ずるおそれのある解釈をあえてとらなければなら
ない理由はない。
 原告らが請求の原因2(三)において主張する事実は、法規の解釈に影響を及ぼ
す事実でないから、これを参酌する要をみない。
 原告らの主張は、いずれも採用できない。
二 以上のとおり、原告らの本件訴えは、訴えの利益がなく不適法であるからこれ
を却下することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法
第八九条、第九三条第一項本文の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 牧野利秋 清水篤 設楽隆一)

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