弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を罰金五千円に処する。
     右の罰金を完納することができないときは、金弐百五拾円を壱日に換算
した期間被告人を労役場に留置する。
     原審並びに当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、本判決書末尾添附弁護人家藤信吉作成の控訴趣意書記載のと
おりである。
 所論は要するに、原判示の被害者Aが、自動二輪車に乗つてB中学校玄関から衝
突地点まで距離三十六メートル二七の下り勾配を時速約四十キロメートルで飛び出
して来たのであつて、その所要時間は一秒ないし二秒未満であるから、原判決の言
うように、前方注視、左右側注視、警笛吹鳴、速力の適宜減少等の具体行為をする
時間的余裕がない、被告人としては被害者を約十メートル手前で発見するや、直ち
に急停車の処置をとりハンドルを右に廻わすより他に施すべき術なき状態であつた
から、本件の事故を未然に防ぐことは不可能であつて、本件は結局被害者自らの全
面的過失によるものである、また、本件現場附近は人家がなく交通まれで道路上の
見透しもよく、事故発生時は同校の授業中であつて、校門附近は生徒の出入のない
時刻であつたから、生徒の登校退校時のように自動車の速度を減少する必要がなか
つた、従つて、原判決が警笛吹鳴、速力減少等の注意義務があると判決し本件が被
告人の過失によるものとして有罪の認定をしたのは、事実を誤認<要旨>し法令の適
用を誤つたものである、というのである。乗合自動車の運転に従事する者が、中学
校の正門前附近のように歩行者又は自転車等の出入のひん繁な道路を進行す
る際にはあらかじめ警音器を吹鳴して校門を出入しようとする者に警告するととも
に、前方並びにその左右を警戒して校門出入者の有無に注意し、その出入者と衝突
のおそれがあるときは何時でも停車し得る程度に速度を減少する等事故の発生を未
然に防止するべき業務上の注意義務がある。そして、学校が授業時間中であつて
も、人が徒歩又は自転車等で走り出して来るおそれのあることは当然予想し得ると
ころであるから、自動車運転者は、登校又は退校時たると授業時間中たると問わ
ず、右の注意義務を負つていると言わなければほらない。もとより、自動二輪車を
操縦する者が校内から公道に出るときには、一時停車するか又は徐行して公道を通
過する乗合自動車に進路を譲らなければならない(道路交通取締法第十八条第一項
参照)から、右の者が乗合自動車の進行に注意せず不用意に公道に走り出て来て乗
合自動車と衝突したとすれば、右の自動二輪車の操縦者に過失のあることはもちろ
んであつて、それが乗合自動車運転者の視界の及ぶ範囲外から突然飛び出して来た
ため危害の発生を避ける余裕がなかつたような場合には、一応所論のように不可抗
力と言えるが、被害者に過失があつても、被告人の過失が事故発生原因の一部分と
なつている以上、被告人に対して過失致死傷罪の成立することは多言を要しないと
ころであるから、その前段階において、乗合自動車の運転考が、その注意義務に違
反し、危険の発生を予測し得るにかかわらず不注意によつて予測せず、又はこれを
予測しながら懈怠により、前方注視、警音器吹鳴、速力減少等適当な手段を採らな
かつた場合には、被害者の接近を知つたときにはすでに衝突をさける余裕がなかつ
たとしても、過失の責任を免れることができないのである。
 原判決の挙示する証拠及び当審証人C、同Dの各供述調書並びに当審における検
証調書の記載を綜合すれば、被告人は、E株式会社の乗合自動車の運転業務に従事
するものであるが、昭和二十九年二月四日午前十時十六分頃、同会社の乗合自動車
に乗客約二十五名を乗せて運転し、京都府相楽郡a町大字b小字c附近の国道上を
中央からやや左寄りに時速約四十キロメートルで西進し、B中学校正門(道路の左
側)附近に差しかかつたところ、同校の生垣は植栽後間もなく枝葉疎であり、かつ
その内庭は道路に向つて下り傾斜になつているので、道路上の乗合自動車から見れ
ば、校門から約三十六メートル東方において生垣の上文は中を通して校門内を見透
し得る状況であるにかかわらず、授業時間中だから校門出入者はあるまいと軽信
し、校門出入者への警戒を怠つて、前方左側を注視せず、かつ警音器を吹鳴せず、
漫然約四十キロメートルの速反で進行を続けたため、おりから自動二輪車に乗つて
前記中学校玄関から校門を通つて国道上に出ようとする同校校長A(当時五十三
年)を左前方約十メートルの地点において始めて発見し、急いでハンドルを右に切
るとともに急停車の措置を採つたが及ばす、同人の自動二輪車に右乗合自動車の車
体前部中央を衝突させて右自動二輪車とともにAを顛倒させ、約八メートルの間押
して行つてようやく停車したのであつて、そのためAに対し頭蓋骨骨折等の傷害を
負わせ、同日死亡するに至らしめたことを認め得られる。
 原審証人F、原審並びに当審証人Cの各供述、原審鑑定人Gの鑑定の結果によれ
ば、被害者Aは、a町役場へ行くため同校玄関前において自動二輪車に始動をかけ
たがかからず二回目にかかつて発進し、約四十キロメートルの時速をもつて校門を
通過し国道を北北東に旋回しようとしたため、西進中の被告人操縦の乗合自動車の
正面に衝突したものであることを認め得られるから、被害者側において乗合自動車
に進路を譲らなかつた過失のあることは所論のとおりであるが、被告人は、同校正
門前を通過するに当つて、前述の注意義務を怠り、校門附近を注視せず、警音器を
吹鳴せず、速力を安全速度に減少しなかつた過失があるから、業務上過失致死罪の
成立は免れない。原判決の事実認定並びに注意義務の解釈は正当であつて、記録を
精査しても、原判決には所論のような違法はないから、論旨は理由がない。
 しかし、職権をもつて量刑の点を考えてみるに、本件においては前叙のように、
被害者の過失が事故発生の重要な原因の一つとなつているのであるから、原審の量
刑は重きに過ぎると思われる。原判決はこの点において破棄を免れない。
 よつて、刑事訴訟法第三百九十七条、第三百八十一条に従い原判決を破棄し、同
法第四百条但し書によつて更に判決をする。
 原判決の認定した事実に、刑法第二百十一条、罰金等臨時措置法第二条、第三
条、刑法第十八条、刑事訴訟法第百八十一条第一項本文を適用して主文のとおり判
決する。
 (裁判長判事 松本圭三 判事 川崎薫 判事 辻彦一)

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