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平成20年8月28日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成19年(ワ)第32196号不当利得返還請求事件
口頭弁論終結日平成20年5月27日
判決
東京都杉並区<以下略>
原告タクトロン株式会社
同訴訟代理人弁護士鈴木修
同岡本義則
同神田雄
同木村剛大
同補佐人弁理士田中英夫
京都市南区<以下略>
被告任天堂株式会社
同訴訟代理人弁護士青柳昤子
同粟田英一
同補佐人弁理士役昌明
同林紘樹
同小沢昌弘
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,金5000万円及びこれに対する平成19年12月1
2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,被告の製造,販売していたゲーム機がデータイースト株式会社(以
下「データイースト」という。)の有していた特許権を侵害しており,これに
よって被告が利益を得たとして,データイーストから上記特許権とともに特許
権侵害による不当利得返還請求権を承継したと主張する原告が,被告に対し,
不当利得金2億2250万円の一部請求として5000万円及び訴状送達日の
翌日である平成19年12月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合
による遅延損害金の支払を求める事案である。
1前提となる事実
(1)当事者等
原告は,インターネット等を利用した各種情報提供サービス及びコンテン
ツの制作等を目的とした株式会社である。(弁論の全趣旨)
被告は,ゲーム・映像・音楽等のコンテンツに係る電子応用機器及び装置
の開発及び製造販売,コンピュータネットワーク等を利用した情報処理及び
情報提供サービス事業等を目的とした株式会社である。(弁論の全趣旨)
データイーストは,遊技機器の企画・製造・販売並びに保守等を目的とし
た株式会社(本店所在地東京都杉並区<以下略>)であったところ,平成
15年6月25日午後5時に東京地方裁判所の破産宣告を受けた。(乙38,
弁論の全趣旨)
(2)データイーストの特許権
データイーストは,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許請
求の範囲請求項1の発明を「本件発明1」,同請求項2の発明を「本件発明
2」といい,本件発明1と本件発明2とを併せて「本件発明」といい,その
明細書を「本件明細書」という。)を有していた。(争いのない事実,甲
2)
特許番号第2877779号
出願番号特願平9−46284
分割の表示特願昭59−205670の分割
出願日昭和59年10月2日
公開番号特開平10−31473
公開日平成10年2月3日
審査請求日平成9年3月31日
登録日平成11年1月22日
発明の名称図形表示装置及び方法
特許請求の範囲
【請求項1】
「複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示するデー
タを記憶するマップと、
垂直方向読出信号および水平方向読出信号が入力され、指定された回
転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力する座標
回転処理手段と、
図形発生手段と、
を備え、
前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序デ
ータを得、該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生
手段に供給して図形データを得、該図形データによって図形表示を行
う図形表示装置であって、
前記図形発生手段は、ピクセル単位で、前記区域毎の独立した表示内
容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データ
であって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得、
図形を回転表示することを特徴とする図形表示装置。」
【請求項2】
「複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示するデー
タを記憶するマップを設けるステップと、
垂直方向読出信号および水平方向読出信号を受け取って、指定された
回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力するス
テップと、
前記第1の読出信号に基づいて前記マップから読出順序データを得る
ステップと、
前記読出順序データと前記第2の読出信号とから図形データを得、該
図形データによって図形表示を行うステップと、
を備える図形表示方法であって、
図形表示を行う前記ステップが、ピクセル単位で、前記区域毎の独立
した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する
図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセル
データを得、図形を回転表示するステップを含むことを特徴とする図
形表示方法。」
(3)構成要件の分説
ア本件発明1を構成要件に分説すると,次のとおりである。(争いのない
事実,弁論の全趣旨)
1A1複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示する
データを記憶するマップと,
1A2垂直方向読出信号および水平方向読出信号が入力され,指定され
た回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力す
る座標回転処理手段と,
1A3図形発生手段と,を備え,
1B前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序
データを得,該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発
生手段に供給して図形データを得,該図形データによって図形表示を
行う図形表示装置であって,
1C前記図形発生手段は,ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示
内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形デー
タであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを
得,図形を回転表示することを特徴とする
図形表示装置。
イ本件発明2を構成要件に分説すると,次のとおりである。(争いのない
事実,弁論の全趣旨)
2A1複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示する
データを記憶するマップを設けるステップと,
2A2垂直方向読出信号および水平方向読出信号を受け取って,指定さ
れた回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力
するステップと,
2A3前記第1の読出信号に基づいて前記マップから読出順序データを
得るステップと,
2A4前記読出順序データと前記第2の読出信号とから図形データを得,
該図形データによって図形表示を行うステップと,を備える図形表
示方法であって,
2B図形表示を行う前記ステップが,ピクセル単位で,前記区域毎の独
立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応す
る図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセ
ルデータを得,図形を回転表示するステップを含むことを特徴とする
図形表示方法。
(4)本件特許権の譲渡等
本件特許権について,平成15年3月14日,データイーストから原告に
対し,同月4日受付による移転登録手続がされた。(甲1)
データイーストは,平成15年3月29日,被告に対し,被告が平成11
年1月22日から平成15年3月14日までの間に本件発明を実施したこと
によって生じたデータイーストの被告に対する不当利得返還請求権等を原告
に譲渡した旨を通知し,同通知は,その後数日内に被告に到達した。(甲2
9,31,弁論の全趣旨)
なお,本件特許権は,その後,平成16年10月2日に,存続期間満了に
より消滅した。(甲1)
(5)被告の行為
被告は,平成2年から,「スーパーファミコン」という商品名の据置型ゲ
ーム機(テレビに接続して使用する家庭用ゲーム機,以下「被告製品」とい
い,その商品名により「SFC」ということがある。)を製造,販売してお
り,平成11年1月22日以降も,被告製品を販売したことがある。(争い
のない事実,弁論の全趣旨)
(6)本件訴訟の提起
原告は,平成19年12月3日,被告に対し,本件訴訟を提起した。
(7)関連訴訟
原告は,平成15年,被告に対し,被告の製造,販売する携帯型ゲーム機
(商品名「ゲームボーイアドバンス」,以下「GBA」という。)が本件発
明の技術的範囲に属しており,本件特許権を侵害すると主張して,本件特許
権とともに譲り受けた民法709条に基づく損害賠償請求権の一部請求とし
て,40億円の支払を求める訴えを東京地方裁判所に提起した(同庁平成1
5年(ワ)第23079号損害賠償請求事件)。同裁判所は,上記訴えにつ
いて,平成17年12月27日,原告の請求を棄却した。(乙1)
原告は,同判決を不服として,知的財産高等裁判所に控訴をした(同庁平
成18年(ネ)第10007号損害賠償請求控訴事件,これらの原審及び控
訴審の事件を,以下「前件」という。)。同裁判所は,平成18年9月28
日,控訴人(原告)の控訴を棄却する判決をし,同判決は,その後確定した。
(乙2,弁論の全趣旨)
2争点
(1)本件訴訟の提起が信義則に反するか
(2)被告製品の構成及び動作
(3)本件発明の技術的範囲の解釈
(4)被告製品の本件発明の構成要件の充足性
(5)均等侵害の成否
(6)不当利得返還請求権の成否及び額
第3争点に関する当事者の主張
1争点(1)〔本件訴訟の提起が信義則に反するか〕について
〔被告の主張〕
本件訴訟の提起は,前件訴訟の蒸し返しに当たるから,信義則に反し許され
ない。
(1)前件訴訟の地裁判決(東京地裁平成15年(ワ)第23079号)では,
本件発明の「読出順序データ」とは,本件明細書の詳細な説明から解釈すれ
ば,「マップより供給される2つの隣接するデータ」と解釈され,本件発明
の「第1の読出信号」とは,同様に「座標回転処理手段から出力されマップ
に供給される2つの読出信号であって,マップから2つの読出順序データを
得るための信号」と解釈される旨判示した上,「ピクセル毎に単一の座標を
生成し,生成された単一の座標のうちの上位ビットが画像メモリのスクリー
ンデータに供給されることによって,ピクセル毎に1つのキャラクタコード
が出力される構成と動作を備えている」(すなわち「1ピクセル毎の1サイ
クル処理」を行う)GBAは,「読出順序データ」も「第1の読出信号」も
備えておらず,その技術的範囲に属しないと判断した。
そして,高裁判決(知財高裁平成18年(ネ)第10007号)では,本
件明細書の詳細な説明の解釈と出願経過に照らし,本件発明の「読出順序デ
ータ」とは,「一つの文字コードを走査線でスライスされた行データであり,
図形に回転を与えた場合には,二つの文字コードにまたがってアクセスが行
われ,その各々が「読出順序データ」として読み出されるものである」と判
示し,「ピクセル毎に単一の座標を生成し,生成された単一の座標のうちの
上位ビットが画像メモリのスクリーンデータに供給されることによって,ピ
クセル毎に一つのキャラクタコードが出力される構成と動作を備えている」
(すなわち「1ピクセル毎の1サイクル処理」を行う)GBAは,「読出順
序データ」を具備しておらず,その技術的範囲に属しないと判断し,この判
決が上告されずに確定した。
(2)前件訴訟において,原告は,本件発明は「1ピクセル毎に1サイクル処
理」をする発明であるから,GBAはその技術的範囲に属すると主張したも
のの,前記(1)のとおり,前件訴訟の各判決の判断は,本件明細書の開示
に基づく解釈により,そのような本件発明の技術的範囲の主張が成り立たな
いとした。
前件訴訟の判断対象のGBAの「1ピクセル毎の1サイクル処理」という
構成と動作は,被告製品の「1ピクセル毎の1サイクル処理」の構成と動作
と同一であり,原告は,被告製品が「1ピクセル毎の1サイクル処理」を行
うものであることを実質的に自認している。
(3)したがって,本件訴訟は,対象物の商品名を変えただけの蒸し返し訴訟に
ほかならず,信義則に反するものであって許されないから,原告の請求は,
速やかに棄却されるべきである。
〔原告の主張〕
本件訴訟は,前件訴訟の蒸し返しではない。
(1)本件訴訟の対象物の被告製品と前件訴訟の対象物のGBAとは,商品名の
異なる完全に別の製品であって,据置型と携帯型,メモリの数,Hカウンタ
とVカウンタの有無などの構成が異なり,動作も相違し,何より被告自身が
前件訴訟で両者の構成が異なると主張していたものであるから,本件訴訟と
前件訴訟とでは,その対象が同一でない。
(2)さらに,前件訴訟では,専門委員が選任されず,技術説明会も開催されな
かったことから,原告の主張立証が尽くされておらず,本件訴訟におけるよ
うな均等論も主張していない。また,本件訴訟においては,前件訴訟で提出
することが期待できなかった新証拠(ナムコ社業務用基板SYSTEMⅡ・
ゲーム名「アサルト」(甲17),DVDによる本件特許権の技術解説ビデ
オ(甲13の1・2),技術者の陳述書(甲3,4)など)を提出している。
このように,原告は誠実な努力を重ねて本件訴訟を提起するための準備を
してきたものであり,対象物の構成等が異なっていることから,本件訴訟の
提起によって,何ら当事者間の公平を害することはない。
(3)したがって,本件訴訟の提起は,何ら蒸し返し訴訟などではなく,正当な
権利を行使するものにほかならない。
2争点(2)〔被告製品の構成及び動作〕について
〔原告の主張〕
被告製品の構成及び動作は,別紙被告製品目録1(以下「原告主張目録」と
いう。)記載のとおりである。
(1)原告は,被告において,当然に提出することができるはずの被告製品の回
路図,設計図等を提出しないから,被告の主張する別紙被告製品目録2(以
下「被告主張目録」という。)記載の被告製品の構成及び動作を否認する。
なお,被告主張目録は,次の点において誤っている。
ア「ピクセル毎に単一の座標を生成し」
被告製品においては,「ピクセル毎に2つの座標が変換」されるのであ
って(乙第33号証〔平成12年12月27日付け意見書〕の別紙1「イ
号製品の回転処理機構説明書」及び別紙2「第1図イ号ブロック図」参
照),「ピクセル毎に単一の座標を生成し」ていない。
イ「角度」
乙第33号証の別紙1では,「回転角度γ」とあるのに,被告主張目録
では,単に「角度」としており,妥当でない。
ウ「ピクセルメモリ」
「ピクセルメモリ」は,キャラクタに関するものであるから,原告主張
目録記載のとおり,「キャラクタピクセルメモリ」と表記すべきである。
エ「単一のキャラクタコード」
被告が当然に提出することができるはずの被告製品の回路図,設計図等
を提出していない以上,被告主張目録中の「単一のキャラクタコード」等
を認めることはできない。
(2)被告の主張について
被告は,原告主張目録の構成について,これを否認する。被告は,その理
由として,原告主張目録に,「1つのピクセル毎に1つの座標を生成し,当
該1つの座標のうちの上位ビットに基づいてメモリから1つのピクセル毎に
1つのキャラクタコードを得,当該1つのキャラクタコードと当該1つの座
標のうちの残りの下位ビットとに基づいて他のメモリから1つのピクセル毎
に1つのピクセルデータを得て,当該1つのピクセルデータをディスプレイ
画面に表示する」構成と動作が特定されていないことを指摘する。しかしな
がら,被告製品においては,前記(1)アのとおり,「ピクセル毎に単一の
座標を生成し」ていないから,被告の指摘は,失当である。
また,被告は,原告主張目録の動作の説明として,「被告製品は,以上の
処理を,表示画面上の1ピクセル毎に行う」という記載があるから,構成の
説明に「1つのピクセル毎に1つの座標を生成すること」等を入れるべきで
あると主張する。しかし,被告製品は,表示画面上の水平方向,垂直方向の
値を座標変換して回転後の座標を得るもので,水平方向,垂直方向の回転前,
回転後の「2つの座標の変換」を行うから,被告の主張は失当である。
そもそも,被告の用いる「1ピクセル毎の1サイクル処理」という用語に
ついては,被告製品は,上記のように,変換前と後で1つのピクセル毎に2
つの座標を用いるものであって,そのような処理を行っていない。また,被
告がその主張の根拠として用いる「キャラクタラスタ毎の1サイクル処理」
という用語についても,「キャラクタラスタ」という語が本件明細書にも被
告の提出文献にも記載のない不明瞭なものであるから,本件発明の本質的特
徴が「キャラクタラスタ毎の1サイクル処理」にあるとするのは誤りである。
〔被告の主張〕
被告製品の構成及び動作は,被告主張目録記載のとおりである。
(1)原告主張目録記載の構成については,「1つのピクセル毎に1つの座標を
生成し,当該1つの座標のうちの上位ビットに基づいてメモリから1つのピ
クセル毎に1つのキャラクタコードを得,当該1つのキャラクタコードと当
該1つの座標のうちの残りの下位ビットとに基づいて他のメモリから1つの
ピクセル毎に1つのピクセルデータを得て,当該1つのピクセルデータをデ
ィスプレイ画面に表示する」構成と動作が特定されていないため,これを否
認する。
また,原告主張目録における動作の説明においては,「被告製品は,以上
の処理を,表示画面上の1ピクセル毎に行う」という記載があるにもかかわ
らず,構成の説明においては,「1つのピクセル毎に1つの座標を生成する
こと」,「当該1つの座標の上位ビットに基づいてスクリーンメモリから1
つのピクセル毎に1つのキャラクタコードを得ること」,「当該1つのキャ
ラクタコードと当該1つの座標のうちの残りの下位ビットとに基づいてピク
セルメモリから1つのピクセル毎に1つのピクセルデータを得ること」,
「当該1つのピクセルデータをディスプレイ画面に表示すること」の記載が
なく,被告製品の構成が特定されていないため,動作の説明と構成の説明と
が齟齬している。
(2)原告の主張について
原告は,被告主張目録記載の構成及び動作を否認し,その誤りを指摘する。
しかし,そのような原告の指摘は,いずれも瑣末な意見であって,製品目録
の特定にこと寄せた実質的な審理の引き延ばしであるというほかない。
なお,「1ピクセル毎の1サイクル処理」とは,前記(1)第1段のとお
りの構成と動作をいうものであり,被告製品もGBAもこのような構成と動
作において同一である。もっとも,両者は,座標値の「生成手段」について,
前者では絶対的な座標変換手段を採用しているのに対し,後者では相対的な
座標変換手段を採用している点で異なっているものの,上記の構成と動作に
おいて同一であることに変わりがない。
3争点(3)〔本件発明の技術的範囲の解釈〕について
〔原告の主張〕
本件明細書に開示された本件発明の基本的な考え方は,次のとおりである。
○Hカウンタ,Vカウンタの座標値に対し,数学的に正確な回転の座標変換
を施して,回転後の座標値を求める(ただし,小数点以下は切り捨てるか
四捨五入して整数値とする。)。
○回転後の座標値を,キャラクタの横幅・縦幅で除算した商を用いて,マッ
プからキャラクタコードを読み出す。そのキャラクタコードが示すキャラ
クタのピクセルの中から,除算の余りを用いて,回転後のピクセルデータ
を得る。
○以上を1ピクセル毎に繰り返すことで,任意の角度の回転表示を実現する。
なお,本件明細書に示されたハードウエアで実現するための実施例において
は,①Hカウンタ,Vカウンタと②座標回転処理手段では,1ピクセル毎に処
理しているものの,速度を重視して,③マップでは,16ピクセルをまとめて
処理し,④図形発生手段では,4ピクセル並列処理の後,1ピクセル毎に処理
している。
(1)本件明細書の記載によれば,本件発明の請求項の「読出順序データ」につ
いては,キャラクタコードを意味するものであり,その用語自体,数の限定
を含まないものであること(【0005】や【0062】の「N個の読出順
序データ」,「1つの読出順序データ」等の表現),「ナウ」,「ネクス
ト」又は「バック」がその例であること(【0067】),区域毎の独立の
表示内容についてのものであって,図形データと対応するものであること
(【0078】)が開示されている。
そして,本件発明の請求項の「読出順序データ」について,実施例による
限定解釈をしても,本件明細書の実施例に使われている「読出順序データ」
(【0062】,【0067】,【0071】)の意味になるだけであり,
当業者として,本件明細書から「読出順序データ」がキャラクタコードを意
味することは容易に理解することが可能であるから,実施例限定解釈によっ
ても,「読出順序データ」の意味は変わらない。
(2)前件訴訟における高裁判決は,「読出順序データ」を「一つの文字コード
を走査線でスライスされた行データ」であるとした。すなわち,同判決は,
「本件特許発明1にいう『読出順序データ』とは,一つの文字コードを走査
線でスライスされた行データであり,図形に回転を与えた場合には,二つの
文字コードにまたがってアクセスが行われ,そのおのおのが『読出順序デー
タ』として読み出されるものであり,本件特許発明2にいう『読出順序デー
タ』も同様である。」と説示している(乙2,51頁上から8行ないし12
行)。
しかし,文字コードを走査線でスライスさせることはできないし,マップ
から行データを読み出すこともない。さらに,高裁判決の上記説示は,①文
字コードにまたがってアクセスすることはできないこと,②「文字コード」
を「文字」と書き換えても,2つの文字にまたがってアクセスが行われると
いうのが何を意味するのかが不明瞭であること,③「読出順序データ」の説
明のために「読出順序データ」を用いる循環論法となっていること,④文字
だけではなく,図形を表示することが明らかなのに,キャラクタコードでな
く文字コードとしていることなど,不可解な点が多数あり,このような解釈
は,技術的に明らかに間違っている。
〔被告の主張〕
原告の本件発明の技術的範囲に関する主張は,本件明細書の記載及び出願経
過に照らし,成り立つ余地がない。
(1)前件訴訟における地裁判決と高裁判決により,本件発明の技術的範囲に関
し,請求項記載の「読出順序データ」が「1つのキャラクタコード」である
とする原告の解釈は,本件明細書の開示に基づかない主張であるとして明確
に排斥された。それにもかかわらず,原告は,本件訴訟においても,上記の
誤った解釈を蒸し返して主張しているものである。
(2)本件明細書の記載によれば,本件発明を具現化している実施例において,
出願時の従来技術である「複数のピクセル毎」に表示処理を行う「従来のキ
ャラクタ方式」の下で,回転を与えられた場合に生じる「マップにおいて隣
接するデータにもアクセスする必要がある」という問題点を次のような具体
的な手段によって解決したことが技術開示されており,本件発明は,このよ
うな解決手段を特許請求の範囲の各請求項において特定したものである。
○表示画面上の「複数個のピクセルからなる区域毎」に1つの図形(キャ
ラクタ,以下同じ)を表示するために,表示すべき図形の複数個のピク
セルからなる1行分についての連続した座標変換が行われ,
○「ナウ」と「ネクスト又はバック」の2つの信号(「第1の読出信
号」)をマップに与え,
○マップから,この2つの読出信号に対応し,表示すべき図形の複数個の
ピクセルに対応するマップ上の隣り合う「ナウ」と「ネクスト又はバッ
ク」の2つの読出データ(「読出順序データ」)を得,
○上記「ナウ」と「ネクスト又はバック」の2つの読出データである「読
出順序データ」に対応するキャラクタジェネレータの選択を行うことに
よって,表示すべき図形の複数個のピクセルからなる1行分に対応する
2種類の「図形データ」を,「図形発生手段」中のキャラクタジェネレ
ータから読み出し,
○読み出された,表示すべき図形の複数個のピクセルからなる1行分に対
応する2種類の「図形データ」について,「図形発生手段」中の図形組
立部において,表示すべき図形の複数個のピクセルからなる1行分(複
数のドット)に対応するデータの並べ換え(図形の組立て)を行い,
○表示すべき図形の複数個のピクセルからなる1行分(複数のドット)に
対応する,並べ換えられた複数個のピクセル(複数のドット)のピクセ
ルデータを,順次画面上の上記「複数個のピクセルからなる区域」に表
示する。
このような本件明細書の開示によれば,本件発明は,「複数個のピクセル
毎の処理」を行う従来のキャラクタ方式を前提とするものである。この前提
の下で図形の回転表示を行うために,2つの隣接する読出データからなる
「読出順序データ」をマップから読み出し,これに対応する複数のピクセル
からなる「図形データ」を図形発生手段のキャラクタジェネレータから読み
出して,図形発生手段の図形組立部で「図形データ」中のピクセルデータを
並べ換えて,回転後の複数個のピクセルからなるキャラクタラスタを組み立
て,このようなキャラクタラスタを順次表示画面に表示する。つまり,「キ
ャラクタラスタ毎の1サイクル処理」によって「図形を回転表示」する点に
本件発明の特徴があり,このような特定のキャラクタラスタ毎の処理手段に
よる図形の回転表示技術が,本件発明として本件明細書において唯一開示さ
れている技術事項である。
(3)出願経過に照らしても,本件発明について,マップ上の隣接する2つの読
出データである「読出順序データ」を用いるものであり,「読出順序デー
タ」及び「図形発生手段」の構成によって図形を回転表示する点に特徴があ
るとの意見が表明されている。
すなわち,本件発明は,親出願(特願昭59−205670)の出願日か
ら13年を経た平成9年2月28日,親出願明細書の実施例の欄の記載に基
づいて分割出願されたものであり,本件明細書の実施例の説明の記載は,親
出願の当初の明細書とほとんど同じであるものの,分割出願の際に本件明細
書に追加された記載(【0010】下から2行ないし1行,【0062】下
から4行ないし1行,【0067】,【0071】下から8行ないし2行)
の内容に,上記の本件発明の本質や特徴とする部分が表れている。また,本
件発明と唯一の実施例を共通にする多数の特許出願に係る特許発明(特許第
1849067号(乙13),特許第1849068号(乙14),特許第
1790677号(乙15),特許第2647073号(乙16),特許第
1790678号,(乙17))があり,このうちの特許第1849067
号(乙13)の明細書によれば,唯一の実施例による回転表示の技術思想は
2つの読出データ(「読出順序データ」)を読み出す点にあることが明らか
である(なお,同明細書には,本件発明と同一の用語である「第1の読出信
号」について,これが「マップ読出信号発生部13からマップ部4に供給さ
れる信号」であることも明記されている。)。
そして,親出願からの分割出願後の経過によれば,本件発明が「N個以上
の読出順序データ」を用いる構成によって,上記特許第1849067号
(乙13)の発明と区別され,「ピクセル単位で,読出順序データに対応す
る図形データであって第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを
得ることによって図形を回転表示する」構成によって進歩性を有する旨が表
明されている。さらに,本件発明の特許請求の範囲の補正の経過において,
「読出順序データ」に関し,「N個以上2N個以下の」,「N個を超える」,
「N個以上の」との表記について,最終的な平成10年10月28日付けの
補正により,審査官からの不明瞭との指摘に応えて,「複数個のピクセルか
らなる区域毎に独立した表示内容を指示するデータを記憶するマップ」,
「前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序デー
タに対応する図形データであって」との表現に改めたにすぎず,この補正の
前後を通じて,本件発明は同一であり,回転表示の際にはキャラクタラスタ
毎に2個の読出データが必要であることに変わりがない。この点は,前件訴
訟の高裁判決が詳細に判断を加えており,本件発明は「回転しない場合,回
転する場合と無関係に,出力されるピクセルとキャラクタコードとを1対1
に対応させることに最大の特徴がある」との原告の主張について,上記の補
正の経過と相容れないとして,これを排斥している。
4争点(4)〔被告製品の本件発明の構成要件の充足性〕について
〔原告の主張〕
被告製品は,原告主張目録記載の構成及び動作のとおりであり,本件発明1
の構成要件をすべて充足する図形表示装置であり,また,本件発明2の構成要
件をすべて充足する図形表示方法である。
(1)本件発明1
ア構成要件1A1
キャラクタは,複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容で
あり,キャラクタコードは,キャラクタを指示するデータである。
被告製品の「スクリーンメモリ」は,キャラクタコードを記憶するマッ
プである。
したがって,被告製品は,構成要件1A1を充足する。
イ構成要件1A2
被告製品の「Vカウンタ」と「Hカウンタ」は,それぞれ垂直方向と水
平方向に当たり,「Hc信号」と「Vc信号」は,情報を読み出すために
用いられる信号である。
また,「座標値(X2,Y2)の上位7ビットの信号」,「座標値(X
2,Y2)の下位3ビットの信号」は,それぞれ「スクリーンメモリ」,
「キャラクタピクセルメモリ」から情報を読み出すために用いられる信号
であり,「第1の読出信号」,「第2の読出信号」に当たる。
そして,「演算回路」は,座標回転演算を行うもので,「座標回転処理
手段」に当たる。
したがって,被告製品は,構成要件1A2を充足する。
ウ構成要件1A3
被告製品の「キャラクタピクセルメモリ」は,キャラクタのピクセル情
報を出力することによって,文字や絵などの図形を発生させるものである
から,「図形発生手段」に当たる。
したがって,被告製品は,構成要件1A3を充足する。
エ構成要件1B
被告製品の「キャラクタコード」は,「読出順序データ」に当たり,
「キャラクタピクセルメモリ」の出力から得られた図形のデータによって
図形の表示が行われる。
また,「座標値(X2,Y2)の上位7ビットの信号」,「座標値(X
2,Y2)の下位3ビットの信号」がそれぞれ「第1の読出信号」,「第
2の読出信号」に当たることは,構成要件1A2のとおりである。
したがって,被告製品は,構成要件1Bを充足する。
オ構成要件1C
被告製品の「キャラクタピクセルメモリ」は,ピクセル単位で,特定さ
れたピクセルデータを得ている。
また,「キャラクタコード」,「座標値(X2,Y2)の下位3ビット
の信号」がそれぞれ「読出順序データ」,「第2の読出信号」に当たるこ
とは,構成要件1B及び1A2のとおりである。
したがって,被告製品は,構成要件1Cを充足する。
カよって,被告製品は,本件発明1の構成要件をすべて充足する図形表示
装置である。
(2)本件発明2
ア構成要件2A1
被告製品は,本件発明1の構成要件1A1と同様,構成要件2A1を充
足する。
イ構成要件2A2
被告製品は,本件発明1の構成要件1A2と同様,構成要件2A2を充
足する。
ウ構成要件2A3
被告製品は,本件発明1の構成要件1Bと同様,構成要件2A3を充足
する。
エ構成要件2A4
被告製品は,本件発明1の構成要件1Bと同様,構成要件2A4を充足
する。
オ構成要件2B
被告製品は,本件発明1の構成要件1Cと同様,構成要件2Bを充足す
る。
カよって,被告製品は,本件発明2の構成要件をすべて充足する図形表示
方法である。
〔被告の主張〕
被告製品は,被告主張目録記載の構成及び動作のとおりであり,図形表示装
置として,本件発明1の構成要件をいずれも充足せず,また,図形表示方法と
して,本件発明2の構成要件をいずれも充足しない。
以下,本件発明の構成要件を総括的に解釈した後,被告製品と個別に対比す
る。
(1)本件発明の構成要件の解釈
ア「読出順序データ」(本件発明1につき構成要件1B及び1C,本件発
明2につき構成要件2A3,2A4及び2B)
「読出順序データ」とは,本件明細書の開示から,「表示画面上の複数
個のピクセル」(キャラクタラスタ分)に対応する読出データであり,ま
た,「マップ」上の隣接する「ナウ」と「ネクスト又はバック」の2つの
読出データの総称であって,回転表示の場合には回転表示を行わない場合
に比べて2倍の種類の「図形データ」を読み出すことのできるデータであ
る。
イ「第1の読出信号」(本件発明1につき構成要件1A2及び1B,本件
発明2につき構成要件2A2及び2A3)
「座標回転処理手段」から出力される「第1の読出信号」とは,構成要
件1Bの「前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出
順序データを得」との構成を具備するものであるから,本件明細書の開示
と併せれば,表示画面上の「複数個のピクセル」に対応して「座標回転処
理手段」から出力されるように固定化された読出信号であって,「読出順
序データ」中の「ナウ」を「マップ」から読み出すための信号と,「読出
順序データ」中の「ネクスト又はバック」を「マップ」から読み出すため
に補正された読出信号であり,複数個のピクセルに対応する2つの読出信
号の総称である。
ウ「図形データ」(本件発明1につき構成要件1B及び1C,本件発明2
につき構成要件2A4及び2B)
「図形データ」とは,特許請求の範囲の記載及び本件明細書の開示から,
「読出順序データ」(複数個のピクセルに対応するマップ上の隣接する2
つの読出データ)と「第2の読出信号」のうちの1つの信号(「図形発生
手段」中のキャラクタジェネレータ部に供給されて「読出順序データ」を
キャラクタジェネレータ部に適切に振り分けて「図形データ」を得るため
の信号)を,「図形発生手段」中のキャラクタジェネレータ部に供給して
得られる走査線方向の順序で並んだ複数のピクセルデータ(スライスデー
タ)であって,「図形表示を行う」ことができるデータであり,回転表示
をする場合には「読出順序データ」に対応して得られる,回転表示を行わ
ない場合に比べて2倍の種類のデータの総称である(なお,特許請求の範
囲においては,「図形データ」と「ピクセルデータ」とを文言上明確に区
別して記載している。)。
エ「図形発生手段」(本件発明1の構成要件1A3,1B及び1C)
「図形発生手段」とは,特許請求の範囲の記載から,構成要件1B及び
1Cに記載された構成をすべて必須の構成とするものである。また,「図
形発生手段」(図形発生部)とは,本件明細書において,キャラクタジェ
ネレータ部と図形組立部とからなり,キャラクタジェネレータ部から読み
出したデータを図形組立部で組み立てると定義されている。
(ア)構成要件1Bの規定する「図形発生手段」
「図形発生手段」とは,特許請求の範囲の記載及び本件明細書の開示
から,「読出順序データ」と「第2の読出信号」のうちの「図形発生手
段」中のキャラクタジェネレータ部に供給されて「読出順序データ」を
キャラクタジェネレータ部に適切に振り分けて「図形データ」を得るた
めの信号によって,「図形データ」を出力する手段である。
(イ)構成要件1Cの規定する「図形発生手段」
「前記図形発生手段は,・・・前記区域毎の独立した表示内容の読出
順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって」
(構成要件1C前段)に対応する「図形発生手段(のうちの「キャラク
タジェネレータ部」)」とは,特許請求の範囲の記載及び本件明細書の
開示から,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて,
該読出順序データに対応する「図形データ」(走査線方向の順序で並ん
だ複数のピクセルデータ(スライスデータ)によって図形を表したデー
タであって,「読出順序データ」に対応して得られる,回転表示を行わ
ない場合に比べて2倍の種類のデータ)を得るとの構成を必須とするも
のである。
そして,「前記図形発生手段は,ピクセル単位で,・・・図形データ
であって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得,
図形を回転表示する」(構成要件1C後段)に対応する「図形発生手段
(のうちの「図形組立部」)」とは,特許請求の範囲の記載及び本件明
細書の開示から,「図形発生手段」中のキャラクタジェネレータ部で得
られた「図形データ」の中から,ピクセル単位で,前記の「第2の読出
信号」のうちの「図形発生手段(のうちの図形組立部)」に供給されて
「図形データ」の中からピクセル単位でピクセルデータを特定して回転
後のデータに並べ換えるための信号によって特定されたピクセルデータ
を得,図形を回転表示する(得られた「図形データ」の範囲で,ピクセ
ルデータを特定して回転後のデータに並べ換えを行い,組み立て直され
た図形データの1行分(キャラクタラスタ分)を当該区域毎の表示内容
とすることによって,図形を回転表示する)手段との構成を必須とする
ものである。
オ「第2の読出信号」(本件発明1につき構成要件1A2,1B及び1C,
本件発明2につき構成要件2A2,2A4及び2B)
「座標回転処理手段」から出力される「第2の読出信号」とは,構成要
件1Bの「該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生手段
に供給して図形データを得」との構成,構成要件1Cの「前記図形発生手
段は,・・・前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該
読出順序データに対応する図形データ・・・を得」及び「前記図形発生手
段は,ピクセル単位で,・・・図形データであって前記第2の読出信号に
よって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示する」との構成を
具備するものであるから,本件明細書の開示と併せれば,「図形発生手
段」中のキャラクタジェネレータ部に供給されて「読出順序データ」(複
数個のピクセルに対応するマップ上の隣接する「ナウ」と「ネクスト又は
バック」の2つの読出データ)をキャラクタジェネレータ部に適切に振り
分けて「図形データ」(複数個のピクセルに対応する2種類のデータ)を
得るための信号,及び,「図形発生手段」中の図形組立部に供給されて
「図形データ」の中からピクセル単位でピクセルデータを特定して回転後
のデータに並べ換えるための信号であり,かかる2種類の信号の総称であ
る。
カ「座標回転処理手段」(本件発明1の構成要件1A2)
「座標回転処理手段」とは,特許請求の範囲の記載及び本件明細書の開
示から,キャラクタラスタ毎の1サイクル処理のために,表示すべき図形
(キャラクタ)の複数個のピクセルからなる1行分(キャラクタラスタ
分)についての連続した座標変換を行うものであり,「第1の読出信号」
及び「第2の読出信号」を出力する手段である。
キ「マップ」(本件発明1につき構成要件1A1及び1B,本件発明2に
つき構成要件2A1及び2A3)の解釈
「マップ」とは,構成要件1Bの「前記第1の読出信号を前記マップに
供給して該マップより読出順序データを得」との構成を具備するものであ
るから,本件明細書の開示と併せれば,「第1の読出信号」によって,
「読出順序データ」が,読み出される構成を具備するものであり,表示画
面上の「複数個のピクセルからなる区域毎」に対応した表示内容を指示す
るデータを記憶するものである。
(2)被告製品と本件発明1との対比
ア構成要件1A1について
構成要件1A1の「マップ」とは,前記(1)キのとおりである。
被告製品は,「1ピクセル毎の1サイクル処理」を行うものであり,被
告製品の「スクリーンメモリ」は,1ピクセル毎に1つの座標の上位ビッ
トによって1つのキャラクタコードを読み出し,1ピクセル毎に後続の回
路に指示するデータを記憶するから,構成要件1A1の「マップ」を具備
しない。
したがって,被告製品は,構成要件1A1を充足しない。
イ構成要件1A2について
構成要件1A2の「座標回転処理手段」とは,前記(1)カのとおりで
あり,「座標回転処理手段」から出力される「第1の読出信号」とは,前
記(1)イのとおりであり,「座標回転処理手段」から出力される「第2
の読出信号」とは,前記(1)オのとおりである。
被告製品は,1ピクセル毎の1サイクル処理の一環として,演算回路に
おいて1ピクセル毎に独立して新たな1座標を生成して,1ピクセル毎に
当該1つの座標を出力するものであるから,構成要件1A2の「座標回転
処理手段」を具備しない。
被告製品の演算回路から1ピクセル毎に出力される1つの座標は,当該
1つの座標の上位ビットがスクリーンメモリから1つのピクセル毎に1つ
のキャラクタコードを得るものであるから,構成要件1A2の「第1の読
出信号」を具備しない。
被告製品の演算回路から1ピクセル毎に出力される1つの座標は,当該
1つの座標の下位ビットが上記1つのキャラクタコードとともに,1つの
ピクセル毎にピクセルメモリのみに供給されてただ1つのピクセルデータ
をダイレクトに読み出すものであるから,構成要件1A2の「第2の読出
信号」を具備しない。
したがって,被告製品は,構成要件1A2を充足しない。
ウ構成要件1A3について
構成要件1A3の「図形発生手段」とは,特許請求の範囲の記載から,
構成要件1B及び1Cに記載された構成をすべて必須の構成とするもので
ある。
被告製品は,後記エ及びオのとおり,構成要件1B及び1Cをいずれも
充足しないから,構成要件1A3の「図形発生手段」を具備しない。
したがって,被告製品は,構成要件1A3を充足しない。
エ構成要件1Bについて
構成要件1Bの「前記マップ」とは,前記(1)キのとおりであり,
「前記第1の読出信号」とは,前記(1)イのとおりであり,「前記第2
の読出信号」とは,前記(1)オのとおりであり,「読出順序データ」と
は,前記(1)アのとおりであり,「図形データ」とは,前記(1)ウの
とおりであり,「図形発生手段」(図形発生部)とは,前記(1)エ
(ア)のとおりである。
被告製品は,前記ア及びイのとおり,構成要件1Bの「前記マップ」,
「前記第1の読出信号」,「前記第2の読出信号」の構成を具備しない。
被告製品は,1ピクセル毎の1サイクル処理を行うものであり,1つの
ピクセル毎に演算回路で独立して新たに1つの座標を生成して出力し,当
該1つの座標の上位ビットによって,スクリーンメモリから1つのピクセ
ル毎に1つのキャラクタコードを得ているものであるから,構成要件1B
の「読出順序データ」を具備しない。
被告製品は,「読出順序データ」,「第2の読出信号」を具備しないか
ら,構成要件1Bの「図形データ」を必然的に具備せず,また,現に,通
常の表示,回転の表示,拡大縮小の表示,これらの組合せの表示のいずれ
の場合であっても,「1ピクセル毎の1サイクル処理」によって,1つの
ピクセル毎に1つのキャラクタコードによってダイレクトに1つのピクセ
ルデータをピクセルメモリから得て表示を行うものであるから,これを具
備しない。
被告製品は,「読出順序データ」,「第2の読出信号」,「図形デー
タ」を具備しないから,構成要件1Bの「図形発生手段」を必然的に具備
せず,また,現に,通常の表示,回転の表示,拡大縮小の表示,これらの
組合せの表示のいずれの場合であっても,同一の構成と動作からなる「1
ピクセル毎の1サイクル処理」によって,1つのピクセル毎に,1つの独
立した新たな座標を生成して出力し,当該1つの座標の上位ビットによっ
て1つのキャラクタコードをピクセル毎に得,1つのピクセル毎に,当該
1つのキャラクタコードと当該1つの座標の下位ビットによってダイレク
トに1つのピクセルデータをピクセルメモリから得て表示を行うものであ
るから,これを具備しない。
したがって,被告製品は,構成要件1Bを充足しない。
オ構成要件1Cについて
構成要件1Cの「読出順序データ」とは,前記(1)アのとおりであり,
「図形データ」とは,前記(1)ウのとおりであり,「前記第2の読出信
号」とは,前記(1)オのとおりであり,「前記図形発生手段」(図形発
生部)とは,特許請求の範囲の記載から,構成要件1Bに記載された構成
をすべて必須の構成とするものであり,「前記図形発生手段は,・・・前
記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データ
に対応する図形データであって」(構成要件1C前段)に対応する「図形
発生手段(のうちの「キャラクタジェネレータ部」)」及び「前記図形発
生手段は,ピクセル単位で,・・・図形データであって前記第2の読出信
号によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示する」(構成
要件1C後段)に対応する「図形発生手段(のうちの「図形組立部」)」
とは,それぞれ前記(1)エ(イ)のとおりである。
被告製品は,前記イ及びエのとおり,構成要件1Cの「読出順序デー
タ」,「図形データ」,「前記第2の読出信号」,「前記図形発生手段」
(キャラクタジェネレータ部)の構成を具備しない。
被告製品は,「1ピクセル毎の1サイクル処理」によって,1つのピク
セル毎に,1つのキャラクタコードを受けて1つのピクセルデータをピク
セルメモリから得て,表示を行うものであるから,構成要件1C前段の
「読出順序データ」,「図形データ」,「図形発生手段」を具備しない。
被告製品は,通常の表示,回転の表示,拡大縮小の表示,これらの組合
せの表示のいずれの場合であっても,同一の構成と動作からなる「1ピク
セル毎の1サイクル処理」によって,1つのピクセル毎に,1つの独立し
た新たな座標を生成して出力し,当該1つの座標の上位ビットによって1
つのキャラクタコードをピクセル毎に得,1つのピクセル毎に,当該1つ
のキャラクタコードと当該1つの座標の下位ビットによってダイレクトに
1つのピクセルデータをピクセルメモリから得て表示を行うものであるか
ら,構成要件1C後段の「図形データ」,「第2の読出信号」,「図形発
生手段」を具備しない。
したがって,被告製品は,構成要件1Cを充足しない。
カよって,被告製品は,図形表示装置として,本件発明1の構成要件をい
ずれも充足しない。
(3)被告製品と本件発明2との対比
ア本件発明2の構成要件の「マップ」(構成要件2A1及び2A3),
「第1の読出信号」(構成要件2A2及び2A3),「第2の読出信号」
(構成要件2A2,2A4及び2B),「読出順序データ」(構成要件2
A3,2A4及び2B),「図形データ」(構成要件2A4及び2B),
「ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受
けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号
によって特定されたピクセルデータを得,図形を回転表示する」(構成要
件2B)とは,本件発明1の構成要件の該当箇所と同一であるから,被告
製品は,前記(2)で述べたところと同じく,これらを具備しない。
イよって,被告製品は,図形表示方法として,本件発明2の構成要件をい
ずれも充足しない。
5争点(5)〔均等侵害の成否〕について
〔原告の主張〕
仮に,本件特許権について,被告製品による文言侵害が否定されたとしても,
被告製品の製造時を基準に判断すれば,被告製品の構成に置換することは容易
であり,均等侵害が成立する。
(1)均等論の前提
本件発明の構成要件のうちの「読出順序データ」(本件発明1につき構成
要件1B及び1C,本件発明2につき構成要件2A3,2A4及び2B)が
限定解釈されたとしても,被告製品に存在して本件発明の構成要件を充足す
る構成部分については,均等論による置換の必要がないから,以下では,被
告製品において,「1ピクセル毎に処理」していることにより,本件発明の
構成要件のうち,「読出データの個数が複数ピクセルに対応する隣接する2
つであること」が非充足であると仮定する。そうすると,被告製品の製造時
の平成2年を遡って若干の余裕をみた昭和63年当時,当業者において,本
件明細書の開示を参考にして,「1ピクセル毎にマップから供給される1つ
の読出データ」との構成に置換することができるか否かを検討すれば足りる
ことになる。
そして,昭和59年当時には,メモリ・アクセスタイムの問題があったた
め,被告製品の回転機構を実施することができなかったとしても,遅くとも
昭和63年当時には,劇的に状況が変わっていたことは明らかである。
すなわち,昭和59年以降,記憶素子の価格と性能が大幅に改善したこと
から,特に工夫をせずに,回転の座標変換の原理に忠実に最初から最後まで
1ピクセル毎に処理する回路を作っても,商品として成功しやすくなってお
り,当業者は,本件明細書を読めば,昭和59年当時でも商品として成功す
るかはともかく,被告製品の回転機構を実施することができたのであり,遅
くとも,商品として優に成功することが確実となっていた昭和63年当時に
は,前記の置換をすることが可能かつ容易であった。
(2)本件発明の本質的部分
本件発明において,最初から最後まで1ピクセル毎に処理するか否か,キ
ャラクタの色数が何色かは,発明の要件ですらなく,ましてや本質的な部分
ではない。本件発明は,キャラクタ方式であるにもかかわらず,「座標回転
処理」を行い,回転後のピクセルデータを「ピクセル単位」で出力すること
により,任意の角度の回転を実現する点に特徴的な解決手段を有する。
発明の本質的な部分に当たるか否かの判断においては,従来技術から進歩
した中核的な思想が考慮されるべきであり,本件発明における核心は,キャ
ラクタ方式であるのに,「座標回転処理」を行い,回転後のピクセルデータ
を「ピクセル単位」で得て図形を回転表示することであり,これが本件発明
の本質的な部分である。先行技術におけるキャラクタ方式の回転表示として
は,特定の角度の回転しか実現することができない場当たり的な解決手段し
かなかったものである。
他方,被告製品も,キャラクタ方式であるにもかかわらず,「座標回転処
理」を行い,回転後のピクセルデータを「ピクセル単位」で出力する点で,
本件発明における解決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものであっ
て,この本質的部分を充たしている。すなわち,本件発明の構成要件のうち,
「読出データの個数が複数ピクセルに対応する隣接する2つであること」が
非充足であったとしても,それは本件発明の本質的な部分ではない。
本質的部分の判断には,従来技術から進歩した中核的な思想が考慮される
べきである。被告も,キャラクタ方式において,Hカウンタ,Vカウンタか
らの信号に「座標回転処理」を施し,回転後のピクセルデータを,「ピクセ
ル単位」で得ていくことにより,図形の回転表示を実現した従来技術があっ
たとは主張していない。従来技術から進歩した技術思想の中核的な部分は,
キャラクタ方式であるのに,「座標回転処理」を行い,回転後のピクセルデ
ータを「ピクセル単位」で得て図形を回転させることであり,これが本質的
部分である。
被告は,本件発明1の構成要件1C(本件発明2の構成要件2B)が本件
発明の本質的部分であると主張する。しかしながら,その理由は「図形を回
転表示する」との記載を含むという形式的なものにすぎず,何ら説得力はな
い。
(3)置換可能性
被告製品の構成を採用しても,本件発明の目的である図形の回転表示は可
能であり,キャラクタ方式を採りながら,図形の回転表示を行うことができ
るという同一の作用効果を奏するから,置換可能性を充たす。
被告は,「読出順序データ」についての特定の解釈を前提として,複数ピ
クセル毎の処理のままにする置換の場合には置換可能性がないと主張するも
のの,この解釈は,本件明細書の記載に整合せず,また,そもそも1ピクセ
ル毎に処理する実施形態は最も素直なものであるため,当業者は1ピクセル
毎に処理する回路に置換するのであるから,失当である。
(4)置換容易性
被告製品の構成への置換容易性は,少なくとも「アサルト」(甲17)の
ゲーム機(1ピクセル毎に処理する構成)が発売された昭和63年以降には,
充たされている。被告製品は,平成2年11月21日の発売である。
置換容易性の判断基準時は,「製造等の時点」とされており,どの見解に
よっても,医薬品などとは異なり,設計図の完成から発売までのタイムラグ
が少ないことから,昭和63年以降であることは明らかである。
仮に,「読出順序データ」が限定解釈されたとしても,本件発明の構成要
件のうち,被告製品に存在する部分は,均等論による置換の必要性はない。
当業者として,本件明細書を読めば,昭和59年当時でも,被告製品の回
転機構を実施することができたのであり,遅くとも商品として優に成功する
ことが確実となっていた昭和63年当時には,置換が可能かつ容易であり,
被告製品の回転機構は,最も素直な実施態様であるから,当然に置換される
ものである。
(5)容易推考性
本件発明は,画期的なパイオニア発明であって,従来技術ができなかった
ことを実現して,そこから大きく前進したものであるから,出願時において
公知技術から当業者に容易に推考できたものではない。
(6)意識的除外等
本件発明は,画期的なパイオニア発明であり,特許出願手続において,広
い権利取得がされているから,被告製品が特許請求の範囲から意識的に除外
されたなどということはない。
〔被告の主張〕
原告の主張する被告製品による本件特許権の均等侵害は,成り立たない。
(1)原告の均等論
被告製品と本件発明の構成要件との対比については,前記4〔被告の主
張〕(2)及び(3)のとおりであり,「1ピクセル毎の1サイクル処理」
を行う被告製品は,本件発明のすべての構成要件において異なるものである
から,均等論の主張は,結局,本件発明のすべての構成を被告製品のすべて
の相違する構成に置換するものであり,そもそも成り立たない主張である。
そして,本件発明のすべての構成要件の置換は,その具体的解決手段自体
の置換であって,当該置換が本件発明の本質的部分であることは論じるまで
もなく自明であり,また,このような置換は,本件発明の技術思想(「キャ
ラクタラスタ毎の1サイクル処理」)とは全く別個の技術思想(「1ピクセ
ル毎の1サイクル処理」)と評価される置換であって,本件発明の本質的部
分の置換であることが明らかである。
また,本件発明は,「キャラクタラスタ毎の1サイクル処理」の構成と動
作を技術思想としており,この構成中の「読出順序データ」の部分のみを被
告製品の「1ピクセル毎に,スクリーンメモリから,1つのキャラクタコー
ドを得る」との構成に置換してみても,前後の構成と動作が「キャラクタラ
スタ毎の1サイクル処理」を行う本件発明の構成のままでは,これを置換す
るのみでは被告製品の構成とならず,いかなる回転表示をすることもできな
いから,置換によって本件発明の目的及び作用効果を奏せず,「置換可能
性」を欠くから,均等論は成り立たない。
(2)構成要件毎の置換
仮に,本件発明の「読出順序データ」についての置換,本件発明1の構成
要件1B及び1Cないし本件発明2の構成要件2A3,2A4及び2Bにつ
いての置換としてとらえても,いずれも本件発明の本質的部分の置換となる。
ア「読出順序データ」の置換
本件発明が「読出順序データ」を必須の構成としているのは,その技術
思想である「キャラクタラスタ毎の1サイクル処理」において,複数個の
ピクセル(キャラクタラスタ)に対応してマップ上の隣り合う2つの読出
データである「読出順序データ」を読み出すことによって,「図形発生手
段(のうちのキャラクタジェネレータ部)」から複数個のピクセルに対応
する2種類のデータ(「図形データ」)を得て,「図形発生手段(のうち
の図形組立部)」において対応する回転後の複数個のピクセル(キャラク
タラスタ分)のピクセルデータを得るためである。
すなわち,このような「読出順序データ」によって「図形データ」を得
るのでなければ,回転によって2つの文字コードにまたがってアクセスが
生じた場合に,対応するキャラクタラスタ分の図形のデータを得ることが
できず,さらには得られた「図形データ」の中からピクセルデータを特定
することによって回転後のキャラクタラスタ分のピクセルデータを得るこ
とができず,図形の回転表示ができない。
したがって,「読出順序データ」は,本件発明の特許請求の範囲に記載
された構成のうち,本件発明特有の作用効果を生じさせる特徴的部分であ
るから,本件発明の本質的部分である。また,「読出順序データ」を被告
製品の「1ピクセル毎の1サイクル処理」のための「スクリーンメモリか
ら1つのピクセル毎に得られる1つのキャラクタコード」との構成に置換
すれば,本件発明の「キャラクタラスタ毎の1サイクル処理」の技術思想
とは全く別個の「1ピクセル毎の1サイクル処理」の技術思想と評価され
ることになることからしても,「読出順序データ」は,本件発明の本質的
部分であるといえる。
イ本件発明1の構成要件1B及び1Cないし本件発明2の構成要件2A3,
2A4及び2Bの置換
構成要件1Bないし構成要件2A3及び2A4は,いわゆる「おいてク
レーム」として,本件発明が大前提とする技術事項であり,また,構成要
件1Cないし構成要件2Bは,本件発明において図形を回転表示するため
の特徴となる構成として,クレームに記載されている技術事項であって,
このような構成要件を具備することによって,はじめて本件発明において
回転後の複数個のピクセルデータの並べ換えを行って,キャラクタラスタ
分の組立てを行い,「図形の回転表示」を達成する部分であるから,これ
らの構成要件は,本件発明の特許請求の範囲に記載された構成のうち,本
件発明特有の作用効果を生じさせる特徴的部分であって,本件発明の本質
的部分である。また,これらの構成要件を被告製品の構成に置換すれば,
本件発明の「キャラクタラスタ毎の1サイクル処理」の技術思想とは全く
別個の「1ピクセル毎の1サイクル処理」の技術思想と評価されることに
なることからしても,本質的部分といえる。
(3)出願経過と均等論
データイーストは,本件発明の出願経過において,先登録発明の特許第1
849067号(乙13)とのダブルパテントを回避するために,クレーム
に構成要件1Cないし構成要件2Bに相当する構成を付加して限定した上で,
これによって本件発明は上記発明と相違するとの意見を表明し,さらに,公
知例を克服するために,これらの構成要件によって公知例からの進歩性を有
するとの意見を表明して特許登録に至っている。
すなわち,出願経過で構成要件1C(ないし構成要件2B)が先登録発明
と区別され,公知例からの進歩性をもたらす本件発明の特徴的部分であると
の意見を表明した原告が,侵害訴訟である本件訴訟において,これらの構成
要件が本件発明の特徴部分(本質的発明)でないと原告が主張すること自体,
出願経過禁反言の法理によって許されない。
したがって,これらの構成要件の置換は,本件発明の本質的部分の置換で
あり,均等成立の要件を充たさない。
(4)置換可能性について
原告は,本件発明の全構成要件の置換あるいは「読出順序データ」の置換,
本件発明1の構成要件1B及び1Cないし本件発明2の構成要件2A3,2
A4及び2Bの置換について,置換可能性があると主張するものである。
置換可能性とは,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を
奏することであり,このような目的,作用効果は,明細書の記載に基づいて
確定されるものである。
本件明細書(【発明が解決しようとする課題】【0008】,【従来の技
術】【0003】,図24,図25)の記載によれば,「この発明はマップ
とキャラクタジェネレータとを用いて図形の回転表示を可能とする装置及び
方法を提供することを目的とする」との「目的」とは,出願前の従来技術で
ある複数のピクセル毎の処理(キャラクタラスタ毎の処理)を行うキャラク
タジェネレータと,従来のキャラクタラスタ毎の処理を行うRAMの「マッ
プ」とを用いて,図形の回転表示を可能とする装置及び方法を提供すること
を「目的」とすると記載しているものであり,このような「目的」を達成す
る1つの具体的な解決手段として本件発明が提供されたものである。
しかし,被告製品の構成に置き換えた場合,被告製品は,「1ピクセル毎
の1サイクル処理」によってピクセル毎にピクセルメモリから直接1つのピ
クセルデータを読み出して,これを表示画面上に表示しているものであるか
ら,出願前の従来技術である複数のピクセル毎の処理を行うキャラクタジェ
ネレータ及び従来の複数ピクセル毎(キャラクタラスタ毎)の処理を行うR
AMである「マップ」を用いて図形の回転表示を可能とするものではない。
また,本件明細書(【発明の効果】)によれば,本件発明の作用効果とは,
構成要件1B(ないし構成要件2A3及び2A4)を前提技術として,「構
成要件1C(ないし構成要件2B)の構成(あるいは「読出順序データ」の
構成)を具備して,図形の回転表示を行うことによって,出願前の従来技術
たる複数のピクセル毎の処理を行うキャラクタジェネレータとマップを用い
ながらも,図形の回転を行うことができるという点にある。
しかし,被告製品の構成に置き換えた場合,そのような作用効果を奏すこ
とはない。
したがって,原告の主張する上記置換によっては,本件発明の目的を達す
ることはできず,本件発明と同一の作用効果を奏することができないから,
「置換可能性」がなく,均等は成立しない。
(5)置換容易性について
置換容易性は,置換可能性を具備する置き換えであるときにはじめて判断
されるものである。
本件発明の全構成要件の置換,「読出順序データ」の置換,本件発明1の
構成要件1B及び1Cないし本件発明2の構成要件2A3,2A4及び2B
の置換については,これらの置換によって,本件発明の目的を達することが
できず,同一の作用効果を奏することができないから,そもそも置換可能性
がなく,置換容易性について論ずる必要はない。
しかも,これらの置換は,本件発明の本質的部分の置換であることが自明
であって,均等が成立する余地がないから,「アサルト」(甲17)の構成
などについて論じるまでもない。
(6)意識的除外について
データイーストは,本件発明の出願手続において,先登録発明の特許第1
849067号(乙13)とのダブルパテントを克服するために,平成10
年6月12日付け手続補正書(乙12の4)によって構成要件1C(ないし
構成要件2B)に相当する限定要件(「マップよりN個以上の読出順序デー
タを得,得られた読出順序データを前記図形発生部に供給して,各々の前記
読出順序データに対応する図形のデータであって前記第2の読出信号によっ
て特定されたピクセルデータを得て図形を回転表示する」)を付する補正を
行って,特許請求の範囲を減縮した。
この減縮補正は,構成要件1C(ないし構成要件2B)を具備しない装置
(方法)を,特許請求の範囲から意識的に除外したものである。
被告製品は,構成要件1C(ないし構成要件2B)を充足しない装置(方
法)であるから,このような被告製品に対して,原告が均等を主張すること
は許されない。
6争点(6)〔不当利得返還請求権の成否及び額〕について
〔原告の主張〕
(1)被告は,本件特許権の登録日の平成11年1月22日から少なくとも平成
13年12月31日まで,業として,被告製品を製造,販売している。
平成11年1月1日から平成13年12月31日までの期間における被告
製品の販売台数は128万4000台であり,その売上額は57億1400
万円であるから(甲21),1台あたりの平均販売価格は4450円である。
被告の上記の実施期間における被告製品の販売台数は100万台を下らず,
その売上額は44億5000万円を下らない。
実施料相当額は,これを5パーセントとみて,2億2250万円となるか
ら,被告は,少なくとも同額の不当利得返還債務を負っている。
(2)原告は,平成15年3月29日,データイーストから,本件特許権及び上
記の不当利得返還請求権の譲渡を受け,被告に対する対抗要件を備えた。
(3)よって,原告は,被告に対し,本件特許権の侵害による不当利得返還請求
権に基づいて,2億2250万円の一部請求として5000万円及びこれに
対する訴状送達日の翌日である平成19年12月12日から支払済みまで民
法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
〔被告の主張〕
(1)原告の主張(1)のうち,被告が被告製品(「スーパーファミコン」)を
平成11年1月22日以降も販売したことがあることは認め,その余は,不
当利得返還請求権の発生を含め,すべて否認する。
(2)原告の主張(2)は,否認する。データイーストに,不当利得返還請求権
は発生しておらず,そのような不存在の債権を原告に対して譲渡することは
できない。なお,データイーストから原告に対する本件特許権等の譲渡につ
いては,極めて疑問が多いことを指摘しておく。
第4当裁判所の判断
1争点(2)〔被告製品の構成及び動作〕について
(1)前記第2の1前提となる事実に,証拠(乙1,2,13,32∼35,4
4∼47,55)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
ア前件訴訟前の経過
データイーストは,平成11年2月12日付け「通知書」をもって,被
告に対し,SFC(「スーパーファミコン」,被告製品)がデータイース
トの有する本件特許権,関連特許権の実施品に該当するか否かの調査,回
答をすることなどを求め,被告は,同年4月7日付け「貴社所有特許の
件」と題する書面をもって,データイーストに対し,SFCが本件特許権
等の技術的範囲に属するものではないと判断していることなどを回答した。
さらに,データイーストは,平成11年4月23日付け書簡をもって,
被告に対し,被告のSFC,任天堂64及びそのソフトが本件特許権と特
許第1849067号(乙13)に含まれる技術を使用している可能性が
高いと判断している旨を伝え,被告の見解の理由を具体的に明らかにする
ことなどを求めた。
その後,原告と被告との間で話合いが継続するなか,被告は,SFCが
本件特許権と特許第1849067号のいずれかの技術的範囲に属するか
の問題につき知財専門の弁護士3名が被告に宛ててこれを否定する旨の見
解をまとめた平成12年12月27日付け「意見書」(乙第33号証,以
下,これを「SFC意見書」といい,これに添付された「(別紙1)イ号
製品の回転処理機構説明書」を「SFC回転説明書」,「(別紙2)第1
図イ号ブロック図」を「SFCブロック図」という。なお,SFCブロ
ック図は,別紙SFCブロック図のとおりである。)をデータイーストに
送付した。
データイーストは,平成13年5月18日付け書簡をもって,被告に対
し,平成12年2月以来,SFCの技術が本件特許権と特許第18490
67号を侵害しているか否かの話合いが継続しているものの,進展がない
こと,被告のGBA(「ゲームボーイアドバンス」)がSFCの機能を充
たしている可能性がある点も話合いの対象としたいことなどを伝えた。
イ前件訴訟における原告の主張
原告は,前件訴訟において,被告に対し,被告の製造,販売するGBA
が本件発明の技術的範囲に属して本件特許権を侵害すると主張し,GBA
の構成はSFC(被告製品)と同一であるとして,GBAの構成の説明図
として,SFCブロック図を一部加工した説明図(平成15年10月8日
付け訴状別紙「イ号物件ブロック図」)を用いていた。
そして,原告は,「原告は、被告商品である「ゲームボーイアドバン
ス」(GBA)の構成について、CPUを分析する方法により確認したこ
とはないが、①被告がスーパーファミコン(SFC)による本件特許権侵
害に関する訴外データイーストとの交渉過程において示したSFCのハー
ドウェア構成図、②被告自身によって自らのホームページ等において公表
された公知の事実である「GBAの背景表示はSFCの背景表示技術を継
承している」事実(甲第5号証)、③被告自身が展示会等の場で「GBA
のスペックは、SFCとほぼ同等」である旨標榜している事実(甲第6号
証の1、2)、・・・などの各種資料から合理的に推測し、かつ確認した
結果、GBAが本件特許権を侵害しているとの判断に達したものである。
なお、上記推認は・・・既にSFCのソフト構成・ハード構成が明らか
となっており、GBAのソフト構成もほぼ公知となっている状況下におい
て、・・・GBAのハード構成を推認することは極めて容易なことであ
る。」(平成15年12月19日付け準備書面(1)第3の1)などと主
張していた。
ウ前件訴訟の判決
前件訴訟の地裁判決は,GBAの構成及び動作について,別紙GBA目
録のとおり認定し,これを要約して,次のとおり判示した。
「まず,3つのタイミング信号と角度を含む1つのパラメータが演算回
路に供給されることによって,ピクセル毎に単一の座標を生成し,生成
された単一の座標のうちの上位ビットが画像メモリのスクリーンデータ
に供給されることによって,ピクセル毎に1つのキャラクタコードが出
力され,その1つのキャラクタコードと,上記生成された単一の座標の
内の下位各3ビットに基づいて,1ドット1アドレスの構成を持つ画像
メモリのキャラクタデータの領域からピクセル毎に単一のピクセルデー
タを出力し,1つの座標が生成される都度,当該単一のピクセルデータ
をディスプレイ上に表示しているものである。したがって,被告製品は,
画面上のある1点に1つのピクセル(1ドット)を表示するに際して,
表示すべき1ピクセル(1ドット)分のデータについての座標生成から
表示までの一連のまとまった処理(1サイクル処理)を,1ピクセル
(1ドット)毎という周期で行うこと(すなわち被告の主張する「1ピ
クセル毎の1サイクル処理」)をその特徴としているものと認められ
る。」
そして,前件訴訟の高裁判決は,GBAの構成及び動作について,別紙
GBA目録のとおりの地裁判決の認定を是認し,これを引用する形で判断
を示した。
エSFC意見書(乙33)における被告製品(SFC)の説明内容
SFC意見書に添付されたSFC回転説明書には,次のとおりの記載が
ある。
「Ⅰイ号製品の概要
イ号製品は、ラスタスキャン方式により、テレビ画面上に表示した
図形を回転して表示させるための装置である。
別紙2の第1図〔SFCブロック図〕は、イ号製品における回転処
理機構のブロック図である。
イ号の回転処理機構は、1ピクセル毎に座標演算を行い、キャラク
タコードを読み出し、ピクセルを表示する。イ号の回転処理機構は、
表示すべきピクセルが座標演算の計算結果のみに依存して決定される
ので、ランダムに即ち、重複して、または飛び飛びに指定され得るた
め、同じ回路で正確な回転とともに、任意の大きさでの拡大・縮小を
も可能にしている。」
「Ⅱイ号製品の構成
ブロック図〔SFCブロック図〕に示されているとおり、イ号製品
は、Hカウンタ1、Vカウンタ2、パラメータ設定レジスタ3、オフ
セット設定レジスタ4、演算回路5、ラッチa6、スクリーンメモリ
7、ピクセルメモリ8、ラッチb9、ラッチc10、カラーパレット1
1、DAC/ビデオエンコーダ12より成る。」
「Ⅲイ号製品による回転制御の説明
1イ号製品による回転は、下記のイ号製品による図形回転の処理にあ
るとおり、演算回路5の演算部で、全て図形回転のための制御を完了
し、演算部からラッチa6に出力される段階で図形の回転は終了して
いる。
イ号製品の図形回転は、従って演算回路5によって、全ての必要な
処理がなされ、それ以後のラッチa6、スクリーンメモリ7、ラッチ
b9、ピクセルメモリ8、ラッチc10においてなされる作業は、演算
回路5から出力された(X2,Y2)の信号を図形に表示するだけで
ある。」
「Ⅳイ号製品による図形回転の処理
1図形回転の前処理
イ号製品は回転表示に先立って、スクロールおよび回転のための情
報がCPUから設定される。スクロールのための情報は、オフセット
設定レジスタ4にセットされ、回転(および拡大、縮小)のためのパ
ラメータは、パラメータ設定レジスタ3にセットされる。
スクロールのための情報は水平方向のスクロール値を示すHp、垂
直方向のスクロール値を示すVpであり、回転のためのパラメータは
回転の中心(X0,Y0)とパラメータデータA、B、C、Dである。
ここでパラメータデータA、B、C、Dは、回転角度γ、水平方向の
拡大・縮小率α、垂直方向の拡大・縮小率βによって次のように定義
される。
A=1/α・cosγ
B=1/α・sinγ
C=−1/β・sinγ
D=1/β・cosγ
ここで、回転処理のみを行う場合にはα=β=1に設定される。
2図形回転の処理
イ号製品では、以下に述べる①乃至③に記載された動作が1ピクセ
ル毎に繰り返されることにより、TV画面上に表示される画像の回転
表示がなされる。
今、TV画面上の走査線の水平座標値を示す信号をHc信号、同じ
く垂直方向座標値を示す信号をVc信号、回転を行わない場合にメモ
リから読み出すべき図形の座標を(X1,Y1)、回転後の座標を
(X2,Y2)とすると、上述した回路の動作は以下のとおりである
①HカウンタからHc信号、VカウンタからVc信号、パラメータ
設定レジスタからX0,Y0及びA、B、C、Dの各データ、オフ
セット設定レジスタからHp信号、Vp信号が演算回路5に送られ
る。このとき、回転前のメモリ上の座標(X1,Y1)は、次の式
によって得られることになる。
X1=Hc+Hp
Y1=Vc+Vp
②演算回路5において、回転(及び拡大縮小)のために下記のアフ
ィン変換と呼ばれるマトリクス演算がなされ、回転後の座標である
(X2,Y2)が得られる。
実際の演算は水平帰線期間と各ピクセル表示期間とで分割して行
われるが、X2、Y2が最終的に算出されるのは各ピクセル毎であ
り、従って演算回路5は1ピクセル毎にX2、Y2をラッチa6に
出力する。
このアフィン変換は整数部分19ビット、小数点以下8ビットの、
合計27ビットの固定小数点演算で行われるが、演算部5に続くラ
ッチa6にはその整数部分の10ビットだけが出力され、小数部分
と、メモリエリアをオーバーする整数部分の上位9ビットは切り捨
てられる。ラッチa6は、演算回路5から与えられたX2信号とY
2信号を、なんら組み替えることなくそのままの形で以降のメモリ
に伝達する。以下便宜上、小数以下を含むX2、Y2データをX2、
Y2と記載し、整数部だけのX2、Y2データをX2信号、Y2信
号と記載する。この演算部5の動作は、例を用いて以下に説明する。
(演算の例)
例えばHp=Vp=0、すなわちスクロール無しで、座標X0=
0、Y0=0を中心に−45度回転した場合には次のようにしてX
1、Y1に対応するX2、Y2が計算され、X2信号、Y2信号が
出力される。
A=1/α・cosγ=cos45°=0.707
B=1/α・sinγ=sin45°=−0.707
C=−1/β・sinγ=−sin45°=0.707
D=1/β・cosγ=cos45°=0.707
X2=A・(X1−X0)+B・(Y1−Y0)
=0.707Hc−0.0707Vc
Y2=C・(X1−X0)+D・(Y1−Y0)
=0.707Hc+0.0707Vc
ここでTV画面上の走査線が(0,0)からラスター順に移動し
た場合、下記の表のような計算結果が出ることになる。
TV画面上の座標演算結果メモリ上の座標
(Hc、Vc)(X2、Y2)X2信号、Y2信号
Hc=0、Vc=0X2=0、Y2=0X2信号=0、Y2信号=0
Hc=1、Vc=0X2=0.707、Y2=0.707X2信号=0、Y2信号=0
Hc=2、Vc=0X2=1.414、Y2=1.414X2信号=1、Y2信号=1
Hc=3、Vc=0X2=2.121、Y2=2.121X2信号=2、Y2信号=2
Hc=4、Vc=0X2=2.828、Y2=2.828X2信号=2、Y2信号=2
Hc=5、Vc=0X2=3.536、Y2=3.536X2信号=3、Y2信号=3
Hc=6、Vc=0X2=4.243、Y2=4.243X2信号=4、Y2信号=4
Hc=7、Vc=0X2=4.950、Y2=4.950X2信号=4、Y2信号=4
従って,このキャラクタが下記のようなメモリ構成を取る場合、①、
①、②、③、③、④、⑤、⑤の並びでピクセルが読み出されること
になる。
キャラクタの構成画像表示
0123456701234567
0①○○○○○○○①①②③③④⑤⑤...
1○②○○○○○○
2○○③○○○○○
3○○○④○○○○
4○○○○⑤○○○
5○○○○○⑥○○
6○○○○○○⑦○
7○○○○○○○⑧」
「③以上で回転のための操作は終了しており、以下は単にX2信号、
Y2信号で指定された座標に基づいて図形を表示するためだけの操
作である。その具体的内容は以下のとおりである。
ⅰX2信号とY2信号の各々上位7ビットは、合計14ビットの
アドレス信号としてスクリーンメモリ7に与えられる。スクリー
ンメモリ7は単一のメモリであり、与えられたアドレス信号に基
づいて8ビットのキャラクタコードを出力する。スクリーンメモ
リ7に与えられるアドレス信号は、X2信号およびY2信号によ
って構成されているため、必然的にX2信号およびY2信号と同
様にピクセル単位で与えられる。これにより、スクリーンメモリ
7からは、ピクセル毎に、ただ1種類のキャラクタコードが出力
される。」
「ⅱキャラクタコードはX2信号およびY2信号の各々下位3ビッ
トとともにラッチb9によって一時的に記憶される。ラッチb9
はそれぞれの信号を、なんら組み替えることなくそのままの形で
以降のメモリに伝達する。
ⅲキャラクタコード8ビット、X2信号およびY2信号の各々下
位3ビットは、合計14ビットのアドレスとしてピクセルメモリ
8に与えられる。ピクセルメモリ8は、256種類のキャラクタ
の画像データを記憶する単一のメモリである。各キャラクタは8
×8ピクセルで構成されており、1ピクセル分の画像データにつ
き1つのアドレスが割り当てられている。8ビットのキャラクタ
コードによって256種類のキャラクタの中から1つが指定され、
X2信号の下位3ビットによってキャラクタ内のX方向の座標が、
Y2信号の下位3ビットによってキャラクタ内のY方向の座標が
指定される。これによって、ただ1つのピクセルデータが指定さ
れ、ピクセルメモリから8ビットのカラーコードとして出力され
る。」
「ⅳピクセルメモリ8から出力されたピクセルデータはラッチc1
0によって一時的に記憶される。ラッチc10はピクセルデータを、
なんら組み替えることなくそのままの形でカラーパレット11に出
力する。カラーパレット11は256色の色データを記憶するメモ
リであり、8ビットのピクセルデータによって指定された色デー
タを出力する。カラーパレット11から出力された色データはHカ
ウンタ1からのHc信号とVカウンタ2からのVc信号に基づい
て生成された水平、垂直同期信号(図示せず)と合成され、DA
コンバータおよびビデオエンコーダによってコンポジットビデオ
信号として出力される。」
オSFCの技術者による陳述書(乙32,55)の記載内容
平成元年当時,被告の主任技術者としてSFCの開発に従事し,SFC
で採用された回転・拡大・縮小技術の開発に関わったA(現在,被告の総
務本部総務部製品法務グループのグループマネージャー)の作成した平成
19年12月28日付け「商品名『スーパーファミコン』の構成と動作並
びに作用効果に関する陳述書」(乙32)及び平成20年4月22日付け
「訂正被告製品目録に即したSFCの構成と動作並びに作用効果に関する
陳述書」(乙55,上記乙第32号証における表記をSFC意見書に添付
されたSFC回転説明書の説明と統一するために訂正したもの)には,次
のとおり,記載されている。
「SFCの表示の技術思想は、「被告製品目録」〔被告主張目録〕・・
・に記載されている構成と動作により、1つのピクセル毎に1つの座標
を生成し、当該1つの座標のうちの上位ビットに基づいてメモリから1
つのピクセル毎に1つのキャラクタコードを得、当該1つのキャラクタ
コードと当該1つの座標のうちの残りの下位ビットとに基づいて他のメ
モリから1つのピクセル毎に1つのピクセルデータを得て、当該1つの
ピクセルデータをディスプレイ画面に表示します。SFCは上記のよう
に、1ピクセル毎に1サイクルで処理を行う「1ピクセル毎の1サイク
ル処理」を行って画像表示を行うものです。従ってSFCは、原告特許
のように「1列分の複数個のピクセル群」ごとに処理を行い一画面分の
画像表示をするのではなく、「単一のピクセル」ごとに処理を行い一画
面分の画像表示を行うものですから、画像の処理の仕方についての根本
的な思想自体が異なるものです。
SFCは、原告特許とは異なり、上記の如き表示の方法の構成となっ
ているために、この同一の構成によって拡大表示、縮小表示、回転表示、
あるいはこれらの任意の組合せの表示を行うことができるのです。」
「前訴訟の対象製品であったGBAとSFCについて、回転・拡大・縮
小のための構成と動作で異なる点は、
(1)1ピクセル毎の1サイクル処理を行うに当って、最初に1つの座
標を生成しますが、SFCでは、・・・絶対的な座標変換によって1つ
の座標を生成しているのに対して、GBAでは携帯ゲーム機としての小
型化のために相対的な座標変換によって1つの座標を生成している点が
異なるだけで、1つの座標を生成した後の「1ピクセル毎の1サイクル
処理」の点では両者は同一です。
(2)またSFCがスクリーンメモリとピクセルメモリとして物理的に
別個のメモリを採用している点を、GBAは1つのメモリ中の2つの記
憶領域としていますが、これは具体的な回路レベルの相異にすぎません。
従って両者は、・・・構造において同一です。従って、演算回路があ
る角度をもって座標を生成したときには、生成された座標に対応するピ
クセルデータが独立してメモリから読み出されますので、大きさを変化
させない完全な回転を、360度の全周にわたって行うことができると
いう作用効果においても同一です。」
「このようなSFCの拡大・縮小・回転表示に関する顕著な作用効果は、
ピクセル毎に個別に表示内容を読み出すという・・・SFCの「1ピク
セル毎の1サイクル処理」そのものによって、達成されているものです。
さらにSFCではピクセルデータが8ビットの構成となっており、こ
れによって256色の色を指定することができます。SFCは上記構成
によりピクセルデータを個別に読み出すため、メモリから読み出される
ピクセルデータのビット数を増やすだけで、それ以外の回路をなんら変
更することなく、使用できる色数を増やすことができますので、極めて
容易にフルカラーの画像を表示することができるのです。」
(2)前記(1)で認定した事実に基づき,被告製品の構成及び動作につき検討
する。
アまず,被告製品の構成について,原告主張目録(別紙被告製品目録1)
と被告主張目録(別紙被告製品目録2)とを対比すると,①直交座標系の
水平方向と垂直方向の座標値を示す「Hカウンタ」と「Vカウンタ」,②
与えられた座標値と回転角度に応じて変換後の座標値を出力する「演算回
路」,③キャラクタコードを入力に応じて出力する「スクリーンメモリ」
及びピクセルデータを入力に応じて出力する「ピクセルメモリ」,④キャ
ラクタコードを得るための座標値(X値,Y値)の「上位ビット」及びキ
ャラクタコードとともにピクセルデータを得るための座標値(X値,Y
値)の「下位3ビット」を具備する点において一致しており,これらの点
は当事者間に争いがない。
次に,被告製品の動作について,原告主張目録と被告主張目録とを対比
すると,①演算回路によって座標値が出力され,②座標値(X値,Y値)
の上位ビットによってスクリーンメモリからキャラクタコードが得られ,
また,キャラクタコードと座標値(X値,Y値)の下位3ビットによって
ピクセルメモリからピクセルデータが得られ,ピクセルデータがディスプ
レイ画面上に表示されて,③このような処理が表示画面上の1ピクセル毎
に行われる点において一致しており,これらの点も当事者間に争いがない。
イ前記(1)で認定した前件訴訟前の経過や前件訴訟における原告の主張
に照らすと,被告製品(SFC)の構成及び動作については,原告におい
て,SFC意見書(乙33,なお,前件訴訟では,甲第14号証として,
原告により提出された。)に基づき,その説明内容を了解済みのものとし
て把握しており,これを前提として,前件訴訟でGBAにおける構成と動
作が問題とされたものと認められる。そして,原告は,本件訴訟において
も,被告が被告製品の回路図や設計図等を提出しないと指摘はするものの,
基本的にSFC意見書のSFC回転説明書とSFCブロック図に基づいて,
その主張を展開するものである(弁論の全趣旨)。
他方,SFC意見書のSFC回転説明書とSFCブロック図は,被告製
品の構成及び動作について,必要かつ十分な範囲において,これを開示し
ており,前件訴訟において,原告自身の主張を通じ,GBAの構成と動作
の解明に関連して,判決により,その内容の信用性が担保されたものとい
うことができる。また,SFC意見書を踏まえて被告製品を説明するSF
Cの技術者による陳述書(乙32,55)の記載についても,その内容の
信用性を疑わせるような事情は見当たらない。
したがって,前記ア以外の点の被告製品の構成及び動作については,基
本的に,SFC意見書(乙33)のSFC回転説明書とSFCブロック図
を参酌して認定すれば足りるものというべきである。
ウそこで,以上で述べたところを踏まえ,被告製品のその余の構成及び動
作を含む全体の構成及び動作についてみるに,まず,被告製品の構成につ
いては,①演算回路に入力されるデータは,座標値を示すHカウンタから
のHc信号とVカウンタからのVc信号のほか,スクロール量を示すオフ
セット設定レジスタからのHp信号とVp信号,アフィン変換の演算をす
るための回転の中心座標及び回転角度と水平・垂直方向の拡大・縮小率に
よって処理された4つの値からなるパラメータ設定レジスタからのX0,
Y0,A,B,C,Dのデータであり,これらが入力されて,ピクセル毎
に単一の座標である整数の座標値(X値,Y値)を出力する演算回路であ
ること,②物理的に独立したメモリ領域として,スクリーンメモリとピク
セルメモリとを有すること,③当該単一の座標のうち,座標値(X値,Y
値)の上位7ビット(すなわち,128×128のキャラクタからなるス
クリーンを有する)に基づいてキャラクタコードが取得され,このキャラ
クタコードと座標値(X値,Y値)の下位3ビット(すなわち,8×8の
ピクセルからなるキャラクタを有する)とに基づいてピクセルデータが取
得され,この単一の座標のピクセル毎に上記のピクセルデータがディスプ
レイ画面に表示されることが認められる。
次に,被告製品の動作については,①スクロールの有無と量,回転の有
無と量,拡大・縮尺の有無と割合に応じて,Hカウンタ,Vカウンタ,オ
フセット設定レジスタ及びパラメータ設定レジスタからのデータを演算回
路で処理して単一の座標の座標値(整数のX値・Y値)が出力され,②座
標値(X値,Y値)の上位7ビットによってスクリーンメモリからキャラ
クタコードが取得され,上記のキャラクタコードと座標値(X値,Y値)
の下位3ビットとによってピクセルメモリからピクセルデータが取得され
て,このピクセルデータがディスプレイ画面上に表示され,③このような
処理が表示画面上の1ピクセル毎に行われて,スクリーン上のキャラクタ
における任意の点が表示されるものであることが認められる。そして,演
算回路がある回転角度をもって単一の座標の座標値を出力した場合におい
ても,同様にして,①座標値(X値,Y値)の上位7ビットによってスク
リーンメモリからキャラクタコードが取得され,上記のキャラクタコード
と座標値(X値,Y値)の下位3ビットとによってピクセルメモリからピ
クセルデータが取得されて,このピクセルデータがディスプレイ画面上に
表示され,②このような処理が表示画面上の1ピクセル毎に行われるもの
であることが認められる。
エ原告は,被告主張目録について,①「ピクセル毎に単一の座標を生成
し」とあるのは,SFC意見書のSFC回転説明書及びSFCブロック図
に照らし,「ピクセル毎に2つの座標が変換」されるのであって,誤りで
あり,②「角度」とあるのは,「回転角度γ」と表記すべきであり,③
「ピクセルメモリ」とあるのは,「キャラクタピクセルメモリ」と表記す
べきであり,④「単一のキャラクタコード」とあるのは,被告製品の回路
図,設計図等が提出されない以上,認められないなどと主張する。
そこで,前記ウの認定に関わりのある限度で原告の上記指摘につき言及
するに,上記①は,単一の座標のうち,座標値のX値とY値の2つを指す
記載箇所を取り上げたにすぎないものと思われ,これを「2つの座標」と
みることはできず,上記②及び③は,単なる表記の問題にすぎず,内容に
おいて異なるものとはいえない。上記④については,演算回路が出力した
単一の座標のピクセル毎にキャラクタコードを取得してそのピクセルデー
タをディスプレイ画面上に表示する構成であるから,ピクセル毎に単一の
キャラクタコードとなることは,被告製品の回路図等を見るまでもなく明
らかであって,自明の事項である。
上記の原告の主張は,いずれも失当である。
(3)以上によれば,被告製品の構成及び動作については,別紙被告製品目録3
記載のとおりであると認められる。すなわち,被告製品(SFC)について
も,前件訴訟の判決においてされたGBAの構成及び動作の認定と同じく,
被告の主張するいわゆる「1ピクセル毎の1サイクル処理」を行っているこ
とが認められる。
2争点(3)〔本件発明の技術的範囲の解釈〕について
(1)特許法70条は,その1項において,「特許発明の技術的範囲は、願書に
添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」と規定
し,その2項において,「前項の場合においては、願書に添付した明細書の
記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈す
るものとする。」と規定している。
これらの規定によれば,特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載
に基づいて定めなければならないものの,特許請求の範囲の意味内容をより
具体的で正確に判断する資料として,明細書の発明の詳細な説明の記載及び
図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意味を解釈すべきもの
と解するのが相当である。
そして,公衆に発明の技術を開示した代償として当該発明に独占権を与え
るという我が国の特許制度の趣旨や,特許発明は,発明の詳細な説明に,当
業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでなけ
ればならないとする特許法36条の趣旨に照らすと,特許請求の範囲に記載
された特許発明の技術的範囲は,明細書の実施可能に開示された技術に基づ
いて解釈されるべきである。
ところで,前記第2の1前提となる事実(2)のとおり,本件発明1の特
許請求の範囲には,
「複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示するデータを
記憶するマップと、
垂直方向読出信号および水平方向読出信号が入力され、指定された回転量
に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力する座標回転処理
手段と、
図形発生手段と、
を備え、
前記第1の読出信号を前記マップに供給して該マップより読出順序データ
を得、該読出順序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生手段に供
給して図形データを得、該図形データによって図形表示を行う図形表示装
置であって、
前記図形発生手段は、ピクセル単位で、前記区域毎の独立した表示内容の
読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって
前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得、図形を回転
表示することを特徴とする図形表示装置。」
との記載があり,本件発明2の特許請求の範囲には,
「複数個のピクセルからなる区域毎に独立した表示内容を指示するデータを
記憶するマップを設けるステップと、
垂直方向読出信号および水平方向読出信号を受け取って、指定された回転
量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力するステップと、
前記第1の読出信号に基づいて前記マップから読出順序データを得るステ
ップと、
前記読出順序データと前記第2の読出信号とから図形データを得、該図形
データによって図形表示を行うステップと、
を備える図形表示方法であって、
図形表示を行う前記ステップが、ピクセル単位で、前記区域毎の独立した
表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形デー
タであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得、
図形を回転表示するステップを含むことを特徴とする図形表示方法。」
との記載がある。
しかしながら,これらの記載のうち,「垂直方向読出信号および水平方向
読出信号」,「第1の読出信号」,「第2の読出信号」,「座標回転処理手
段」,「図形発生手段」,「読出順序データ」等の用語は,特定の意味で使
用されているものの,それ自体,抽象的かつ機能的な表現であるため,特許
請求の範囲の記載だけでは,当業者において,いかなる技術的意義を有する
のかを理解することができない。また,「複数個のピクセルからなる区域毎
に独立した表示内容を指示するデータ」,「図形データ」,「ピクセルデー
タ」等の用語については,それらの一般的な意味を理解することも可能であ
るものの,これら相互の関係,さらには,「第1の読出信号」,「第2の読
出信号」,「読出順序データ」との関係が不明であり,特許請求の範囲の記
載だけでは,当業者において,本件発明の技術的範囲を正確に理解すること
が困難であるといわざるを得ない。
そこで,以下において,本件発明の技術的範囲の理解のため,本件明細書
の発明の詳細な説明等を参照することとする。
(2)本件明細書(甲2)には,発明の詳細な説明として,次の記載がある(な
お,明らな誤記と認められる記載については,訂正して記載する。)。
ア発明の属する技術分野
「この発明は、マップと図形発生部とを用いて図形を回転表示することがで
きる図形表示装置及び方法に関するものである。」(段落【0001】)
イ従来の技術
「従来、キャラクタジェネレータを用いた装置によって図形(文字を含む)
を表示するために、マップおよびキャラクタジェネレータによって表示図
形が記憶されたメモリを構成し、マップから読出された読出順序データに
よってキャラクタジェネレータから図形データを読出し、その読出した図
形データを、ラスタスキャン方式によって図形として表示している。この
表示は図22に示すように先ず、画面の右端においてラスタA0を形成し
順次、画面の左側に走査位置を移動させてラスタA1∼Anを表示するこ
とによって図形を表示している。一つのラスタにはN個(例えば16個)
のキャラクタが表示され、全て異なる図形の場合には、N種類の図形が表
示できる。(この図は一般的なブラウン管を90度回転させて用いてい
る)。図23はこのような表示を行なう装置の一例を示すブロック図であ
り、1はディジタル信号を処理する処理装置、2はブラウン管の水平方向
の走査位置を指定するためのHカウンタ、3はブラウン管の垂直方向の走
査位置を指定するためのVカウンタ、4はキャラクタジェネレータの読出
アドレス順序が記憶されたマップ部、5はキャラクタジェネレータ、6は
シフトレジスタ、7はブラウン管であり、Hカウンタ2およびVカウンタ
3は直交座標で表わされる読出信号を発生する読出信号発生器を構成して
いる。マップ部4およびキャラクタジェネレータ5はグラフィックディス
プレイにおけるビデオRAMに相当する図形を表示するためのメモリを構
成している。」(段落【0002】)
「このように構成された装置において、処理装置1によって制御されるHカ
ウンタ2およびVカウンタ3の出力信号によってマップ部4に記憶された
読出順序データが順次読出され、その読出された読出順序データ信号に対
応する図形を表わす図形データがキャラクタジェネレータ5から読出され、
キャラクタジェネレータ5は例えば、図24に示すように、文字Aが記憶
されている場合、文字Aの各行のデータが読出され、シフトレジスタ6に
記憶される。そしてこのデータは順番に図25(b)∼(f)に示すよう
なビデオ信号に変換され、図25(a)に示すように文字Aがブラウン管
7に表示される。」(段落【0003】)
「このようにしてキャラクタジェネレータ5に記憶されている図形データが
読出され、ブラウン管に表示されるので、複数のキャラクタジェネレータ
を備えれば、形および大きさが任意な図形を表示することができる。この
とき、キャラクタジェネレータに記憶されているデータの読出し開始位置
を水平方向または垂直方向にシフトすることによって、表示される画面も、
水平方向または垂直方向にシフトさせることができる。」(段落【000
4】)
「このように、マップとキャラクタジェネレータを用いて1つの走査線にN
個の文字等を表示する表示装置では、1文字に1つの読出順序データ、即
ち、N個の文字に対してN個の読出順序データを得、それぞれ対応するキ
ャラクタジェネレータへ供給して可視的な文字としている。」(段落【0
005】)
「このような装置においては、表示される文字は、マップから読み出される
読出順序データを変更することによって変更される。つまり、1つの文字
を変更するには、マップ内の1つの読出順序データのみを変更すればよい。
したがって、こうした表示装置は、グラフィックディスプレイにおけるビ
デオRAMの更新に比べて、遥かに高速に処理を行うことができ、ビデオ
ゲーム機等の高速動画処理のための表示装置に適している。また、グラッ
フィクディスプレイのビデオRAMのように、画面サイズに対応する大き
なメモリ容量を必要とせず、安価に製造することができる。」(段落【0
006】)
ウ発明が解決しようとする課題
「しかしながら、マップとキャラクタジェネレータとを用いる方式は、グラ
フィックディスプレイのビデオRAMを用いた方式のように描画用の1系
統のメモリではなく、属性を異にし共に直接の描画用ではない2系統のメ
モリを必要とし、その分だけ複雑になる。例えば、前記のように表示位置
を水平方向や垂直方向に移動表示させる位のことは可能だが、描画用メモ
リを持たないため、図形を拡大・縮小表示することが可能であるかどうか
も明らかでなく、まして、図形の回転表示など、当該技術分野の技術者の
全く思い及ばないところであり、その手法は未知のものであった。」(段
落【0007】)
「そこで、この発明は、マップとキャラクタジェネレータとを用いて図形の
回転表示を可能とする装置及び方法を提供することを目的とする。」(段
落【0008】)
エ課題を解決するための手段
「このような目的を達成するために、この発明は、複数個のピクセルからな
る区域毎に独立した表示内容を指示するデータを記憶するマップと、垂直
方向読出信号および水平方向読出信号が入力され、指定された回転量に対
応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力する座標回転処理手段
と、図形発生手段と、を備え、前記第1の読出信号を前記マップに供給し
て該マップより読出順序データを得、該読出順序データと前記第2の読出
信号とを前記図形発生手段に供給して図形データを得、該図形データによ
って図形表示を行う図形表示装置であって、前記図形発生手段は、ピクセ
ル単位で、前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読
出順序データに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって
特定されたピクセルデータを得、図形を回転表示することを特徴とする図
形表示装置、を提供するばかりでなく、複数個のピクセルからなる区域毎
に独立した表示内容を指示するデータを記憶するマップを設けるステップ
と、垂直方向読出信号および水平方向読出信号を受け取って、指定された
回転量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力するステッ
プと、前記第1の読出信号に基づいて前記マップから読出順序データを得
るステップと、前記読出順序データと前記第2の読出信号とから図形デー
タを得、該図形データによって図形表示を行うステップと、を備える図形
表示方法であって、図形表示を行う前記ステップが、ピクセル単位で、前
記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データ
に対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピ
クセルデータを得、図形を回転表示するステップを含むことを特徴とする
図形表示方法、を提供する。」(段落【0009】)
オ発明の実施の形態(なお,段落【0010】ないし段落【0077】が
本件明細書に記載された唯一の実施例であり,このうち,図形の回転表示
に関する記載部分は,以下のとおりである。)
「図1はこの発明の一実施例を示すブロック図であり、図23と同一部分は
同記号を用いている。10は直交座標で表わされる読出信号の内、一方の
座標軸を指定する信号を発生するVカウンタ、11は他方の座標軸を指定
する信号を発生するHカウンタ、12は読出信号の座標系に回転を与える
座標回転処理部、13はマップ部4の記憶内容を読出すための信号を発生
するマップ読出信号発生部、14はキャラクタジェネレータ部から図形デ
ータを読出すための信号を発生するキャラクタジェネレータ読出信号発生
部、15はキャラクタジェネレータ部、16はキャラクタジェネレータ部
15から読出したデータを図形に組立てる図形組立部である。なお、キャ
ラクタジェネレータ部15と図形組立部16とを合わせて図形発生部とい
う。」(段落【0010】)
「ここで、座標軸に回転を与えるということは図2に示すように、Vカウン
タ10の出力信号をX方向の座標軸に対応させ、Hカウンタ11の出力信
号をY方向の座標軸に対応させて表わした直交座標を、点線で示すように
角度θだけ傾斜させて、x軸−y軸で表わされる新たな直交座標に変換す
ることである。」(段落【0011】)
「次に図形に回転を与える場合の動作について説明する。図5に示す座標回
転処理部12は図形に回転を与えないとして説明したときの動作に加えて、
加算器12iおよび加算器12jの端子aに供給されている信号に対して、
回転信号演算器12fおよび回転信号演算部12gから供給される出力信
号を加算する演算を行なう。このため、座標回転処理部12から出力され
る直交座標を表わす信号は回転信号演算部12fおよび回転信号演算部1
2gから供給される出力信号に対応した角度だけ座標系が回転して図2に
点線で示すようになる。このように、座標系の回転が行なわれたことによ
って、Vカウンタ10およびHカウンタ11の出力信号が図形に回転を与
えないときと同一の値であっても、メモリは異なった位置がアクセスされ
ることになる。」(段落【0058】)
「今、図14の四角形で示すメモリ空間において、横方向の位置がVアドレ
ス(Vカウンタ10によって指定される座標をVアドレスと定義する)で
指定され、縦方向の位置がHアドレス(Hカウンタ11によって指定され
る座標をHアドレスと定義する)で指定される直交座標で表わされる座標
系に回転が与えられていないとき、Vカウンタ10の値を固定し、Hカウ
ンタ11の値を変化させると、記号Aの実線で示す方向にアクセスが行な
われる。しかし、座標系に回転が与えられているときは、記号Bの点線で
示す方向にアクセスが行なわれる。すなわち、座標系に回転を与えたとき
にはメモリ空間が斜めにアクセスされたことになる。」(段落【005
9】)
「マップ読出信号発生部13から供給された信号によってデータが読出され
るマップ部4はブラウン管7のピクセルが縦横16個で囲まれる区域毎に
独立した表示内容が記憶されている。このマップ部4は例えば、図8に示
すようなデータすなわち、中央の2重線で囲まれた部分がアクセスされた
時は文字Fを表わすデータが読出され、その右隣の部分がアクセスされた
時は文字Bを表わすデータが読出され、左隣がアクセスされた時は文字C
を表わすデータが読出され、座標回転処理部12によって座標系に右方向
の回転が与えられていると、マップ部4は図8の実線のようにアクセスさ
れる。このため、1番目から11番目までのピクセルはFという文字を表
示するためのデータが読出されるが、12番目から16番目までのピクセ
ルはCという文字を表示するためのデータが読出される。一方、表示タイ
ミング信号は16ピクセル毎に発生するようになっているので、図8の横
方向の2重線をよぎる度に発生する。」(段落【0060】)
「この結果、座標系に右回転を与え図8の実線の矢印の方向にマップをアク
セスしたときは、表示タイミング信号の1周期中に文字Fと文字Cを表示
するための2種類のデータが必要になる。このように、座標系に右回転を
与えたときは、表示タイミング信号期間中に現在アクセスしている部分の
記憶内容の外に、その左隣の部分の記憶内容も読出す必要がある。また座
標系に左回転を与えて、図8の一点鎖線で示す矢印の方向にアクセスする
ときには、アクセス中の部分の記憶内容の外に、その右隣の部分の記憶内
容も読出す必要がある。そこで、アクセス中の部分の記憶内容を『ナウ』、
その左隣の部分の記憶内容を『ネクスト』、右隣の部分の記憶内容を『バ
ック』と定義する。」(段落【0061】)
「図6の補正データ発生器13bはこのような目的のために設けており、ラ
ッチ13aから供給されるマップのデータを読出すための5ビットの信号
に対して、第1表で示すような補正を行なっている。例えば、表示状態C
において、図形を左回転させるとき、すなわち座標系を右回転させるとき、
ラッチ13aから供給される信号に対して1を加算するようになっており、
図形を右回転するときは1を減算するようになっている。表示状態Cのと
き、Vカウンタ10から供給されラッチ13aで記憶されている信号はマ
ップの横方向の位置を示している。このため、ラッチ13aから供給され
る5ビットの信号は図8の横方向の位置すなわち文字C,F,Bの識別を
行なう。ラッチ13aから供給される5ビットの信号が文字Fをアクセス
していた場合は、それに1を加算することは左方向の位置を指定すること
になるから、文字Cをアクセスすることを表わす。また、1を減算するこ
とは文字Bをアクセスすることを表わす。この結果、加算器13cの入力
側の端子aの信号は現在アクセス中の部分の記憶内容、すなわち『ナウ』
の信号であるが、出力側の端子cの信号は処理装置1から供給される信号
に応じて補正データ発生器13bの信号が加算され、『ネクスト』または
『バック』の信号を表わすことになる。すなわち、1ラスタ期間中に『ナ
ウ』をN個読み出している他に、『ネクスト』または『バック』も読み出
しているので、マップよりN個以上の読出順序データを読み出しているこ
とになる。」(段落【0062】)
「前述したように、加算器12iから出力されるV信号はアクセスの行なわ
れている時点のマップの横方向位置を指定する信号であり補正データ発生
器13bによる補正は、ラッチ13aから加算器13cに供給される信号
に対して行なわれる。このため、図形に回転を与えるときは、例えば図8
で実線に示すようなアクセスを行なっていると、アクセスの途中でV信号
の内容、すなわち加算器12iの出力信号が変化する。このため、表示タ
イミング信号の繰返し期間中は加算器12iの出力信号が変化しても、加
算器13cに供給されるV信号の内容が変化しないように、ラッチ13a
を設けてデータを固定する。」(段落【0063】)
「図9のセレクタ14a,セレクタ14bは図6のラッチ13a,補正デー
タ発生器13bに同期して切換えられているので、セレクタ14aは『ネ
クスト』または『バック』の信号を出力しており、セレクタ14bは『ナ
ウ』の信号を出力している。一方、表示状態Cにおいて、図8における各
記憶内容の横方向の選択はV信号で行なわれ、縦方向の記憶内容の選択は
H信号で行なわれるので、図8の実線の矢印で示すようなアクセスが行な
われていると、H4信号は1番目のピクセルから16番目のピクセルまで
をアクセスするときデータの内容が変化しないが、V4信号は12番目の
ピクセルをアクセスするときからデータの内容が変化する。このためEO
R回路14nの出力信号はこの時点を境に変化するので、この変化によっ
て表示する画面を『ネクスト』に切換える必要があることが判断され
る。」(段落【0064】)
「EOR回路14nで判断された情報はシフトレジスタ14iに記憶され、
ラッチ14hで記憶される。そして、処理装置1から供給される左右信号
および表示状態信号によってスイッチ回路14gから第2表のようにモー
ド1またはモード2のように制御された出力信号が送出され、セレクタ1
4c∼14fのどのセレクタが『ナウ』のデータを選択し、どのセレクタ
が『ネクスト』のデータを選択するかが、決められる。」(段落【006
5】)
「キャラクタジェネレータ読出信号発生部14から供給された信号によって
キャラクタジェネレータ部15から読出されたデータは図形組立部16で
図形に組立てられ、ブラウン管7に供給されて表示される。」(段落【0
066】)
「前述の回転を行わない場合は、すべて『ナウ』を選択していたので、セレ
クタ14c∼セレクタ14fの端子は、bを選択するのみになっていたが、
回転を行うときは、このように『ネクスト』が選択されると、読出順序デ
ータの『ネクスト』を用いることになる。このように、回転をする場合は
『ナウ』と『ネクスト』または、『バック』の両方を用いるので、回転を
行わないときに比べ、2倍の種類の読出順序データに対応するキャラクタ
ジェネレータの選択が行われる。また、表示位置や表示角度により、図8
の一点鎖線の矢印で示すようなアクセスが行われていると『ナウ』と『バ
ック』のキャラクタジェネレータが選択される。」(段落【0067】)
「この結果、座標系に回転を与えないとき、図15(a)に示すように、三
角形の図形が画面に表示されているとき、図8の実線の矢印で示すように
メモリをアクセスすると、表示図形は図15(b)に示すように左方向に
回転した図形として表示される。また、図8の一点鎖線で示すようにメモ
リをアクセスすると、表示図形は図15(c)に示すように右方向に回転
した図形として表示される。」(段落【0068】)
「キャラクタジェネレータから読出すデータは4個のキャラクタジェネレー
タから同時に読出されて、シフトレジスタ16a∼16dに記憶される。
最初は1番目のピクセルから4番目のピクセルまでをアクセスし、シフト
レジスタ16fからCHG・NOの10のデータがセレクタ16eに供給
され、キャラクタジェネレータ15cのデータを記憶しているシフトレジ
スタ16cが選択される。そしてこのシフトレジスタ16cにマスタタイ
ミング信号が供給され、1番目のピクセルに対応するデータと2番目のピ
クセルに対応するデータが続けて読出される。このとき、他のシフトレジ
スタにもマスタタイミング信号が供給されているので、記号B,C,ロ,
ハで表わされるピクセルに対応するデータも読出されるが、これらのデー
タは今のタイミングではセレクタ16eで選択されていないので、出力さ
れない。なお、このタイミングでシフトレジスタ16cから読出されたデ
ータは文字Fではなく空白の部分であるから『0』である。」(段落【0
070】)
「次に3番目のピクセルに対応するために必要なデータがキャラクタジェネ
レータ15dのデータを記憶しているシフトレジスタ16dから読出すた
めにシフトレジスタ16fからデータ『11』がセレクタ16eに供給さ
れる。そして、このシフトレジスタ16dからマスタタイミングの3ビッ
ト目に3番目のピクセルに必要なデータが読出される。このデータは文字
Fを表示するためのものであるから、『1』である。同様にして4番目の
ピクセルに対応するデータ『1』が読出されるが、このデータはCHG・
AD(V)のデータが変化しているので、読出されたデータはそのCHG
・AD(V)信号に対応したキャラクタジェネレータのものである。以下
同様にして、5番目から8番目のピクセルまでをアクセスし、次に9番目
から12番目、18番目から16番目までの繰り返しを行う。図20の例
では、1番目から15番目までが1つの読出順序データに対応し、16番
目のピクセル1つが別の読出順序データに対応している。すなわち、1つ
の読出順序データに対して少なくとも1つ以上のピクセルデータが対応し
ている。以下同様にして次々とアクセスが行われていく。」(段落【00
71】)
「最初のアクセスが終了すると、記号A∼Pの列のアクセスが行なわれ、順
次イ∼タの列、a∼pの列とアクセスが行なわれていく。この結果、図2
1の斜線部で示すように、文字Fが回転した図形が表示される。この装置
ではCHG・AD(V)とCHG・AD(H)とで指定されるキャラクタ
ジェネレータは同時に読出し、そのうちから必要なデータを使用するよう
にしたので、メモリの読出し速度はこのメモリを1個で構成したときの4
分の1ですみ、装置を簡単で経済性良く構成することができる。また図2
0の例ではキャラクタジェネレータ15c,15d,15a,15bの順
序に選択が行なわれるようにシフトレジスタ16fから信号が供給された
が、この信号はアクセスの開始されるキャラクタジェネレータの位置に対
応して変化し、アクセス順序に応じてデータの並べ換えが行なわれる。」
(段落【0072】)
「なお、処理装置1は表示状態信号、原点信号、回転量信号、左右方向信号
を発生しているが、この信号は操作者の手動によって制御しても良いし、
ソフトウエアの制御によって発生しても良い。また回転角は最大が45度
としているがそれ以下でもよく、またマップおよびキャラクタジェネレー
タで構成したメモリはRAMでもよいので、グラフイックディスプレイで
あっても、極めて高速に図形の回転表示が行なえる。また、表示図形に連
続的な回転を与えるには処理装置1から発生する回転量信号を連続的に変
化させればよい。」(段落【0077】)
カ発明の効果
「以上説明したように、この発明は、ピクセル単位で、区域毎の独立した表
示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データ
であって第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得、図形を
回転表示するようにしたので、マップにキャラクタジェネレータを読み出
す方式を取りながら、図形の回転を行うことができるという効果があ
る。」(段落【0078】)
(3)本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,本件発明は,「マップと
図形発生部とを用いて図形を回転表示することができる図形表示装置及び方
法に関するもの」であり(前記(2)ア),従来の技術においては,「キャ
ラクタジェネレータを用いた装置によって図形(文字を含む)を表示するた
めに、マップおよびキャラクタジェネレータによって表示図形が記憶された
メモリを構成し、マップから読出された読出順序データによってキャラクタ
ジェネレータから図形データを読出し、その読出した図形データを、ラスタ
スキャン方式によって図形として表示」していたところ(前記(2)イ),
「表示位置を水平方向や垂直方向に移動表示させる位のことは可能だが、描
画用メモリを持たないため、図形を拡大・縮小表示することが可能であるか
どうかも明らかでなく、まして、図形の回転表示など、当該技術分野の技術
者の全く思い及ばないところであり、その手法は未知のものであった。」と
されている(前記(2)ウ)。
本件明細書には,前記(2)ウのとおり,「この発明は、マップとキャラ
クタジェネレータとを用いて図形の回転表示を可能とする装置及び方法を提
供することを目的とする。」と記載されているものの,前記(2)エのとお
り,課題を解決するための手段(段落【0009】)の記載内容は,本件発
明の特許請求の範囲の記載と同一であって,それ以上に具体的な記載はされ
ていない。そして,前記(2)オのとおり,本件明細書では,その大部分が
実施例の説明に割かれており,この唯一の実施例が詳細に記載されているも
のである。
このように,本件明細書の発明の詳細な説明及び図面を参照しても,実施
例以外には十分な技術的事項の開示がされていないため,本件発明の技術的
範囲の解釈に当たっては,この唯一の実施例の記載にあらわれた図形の回転
表示の技術を考慮せざるを得ないというべきである。
そして,前記(2)オによれば,本件発明の技術的事項を具体的にあらわ
す唯一の実施例においては,ラスタスキャン方式の下で,座標回転処理部に
よって座標系に左右の回転を与え,16×16ピクセル単位で区域毎に独立
した表示内容が記憶されたマップから,アクセス中の記憶内容のほかに,マ
ップ上の左右いずれかの隣接した部分の記憶内容をも読み出し(アクセス中
の部分の記憶内容は「ナウ」,その左隣の部分の記憶内容は「ネクスト」,
右隣の部分の記憶内容は「バック」と定義されている。),読み出した2つ
の記憶内容に基づきキャラクタジェネレータから隣接した2つの図形データ
を一度に取り出すことにより,図形を回転して表示することを可能にする技
術が開示されている。
すなわち,本件発明の技術的な要点は,マップから隣接する2つの図形を
表示するためのデータを取り出し,このデータに基づきキャラクタジェネレ
ータから隣接した2つの図形データを一度に取り出して,2つの図形を同時
に処理対象とすることによって,図形の回転表示を実現することにあるもの
と認めることができる。
他方,原告は,本件明細書において,本件発明の基本的な考え方は,回転
後の座標値からキャラクタコードと回転後のピクセルデータを取得し,これ
を1ピクセル毎に繰り返すことで任意の回転表示を実現することにあるので
あり,実施例は,上記の基本的な考え方を前提とした上で,ハードウエアで
実現するための速度を重視して,マップや図形発生手段で複数ピクセルをま
とめて処理した例を記載したにすぎない旨を主張する。
しかしながら,本件明細書中において,原告の主張する1ピクセル毎の繰
返しの処理により回転表示を実現するとの技術思想を開示した記載を見出す
ことはできない。つまり,本件明細書において,本件発明の技術的事項を具
体的に開示する唯一の実施例は,前記(2)オの段落【0058】ないし
【0067】の記載にあらわれたとおり,図形の回転表示を実現するために,
1ピクセル毎の繰返しではなく,いわば1キャラクタ幅(実施例では,16
ピクセル)毎の繰返しをもって,隣接する2つのキャラクタの図形データを
斜めに順次読み出す処理による技術を示したものにほかならないというべき
である。
原告の主張は,本件明細書の開示に基づかないものであって,採用するこ
とができない。
そこで,以下においては,上記の技術的範囲の解釈を踏まえて,本件発明
の構成要件の解釈をすることとする。
3争点(4)〔被告製品の本件発明の構成要件の充足性〕について
(1)「読出順序データ」(本件発明1につき構成要件1B及び1C,本件発明
2につき構成要件2A3,2A4及び2B)の解釈
ア本件特許権の特許請求の範囲には,本件発明1につき「前記第1の読出
信号を前記マップに供給して該マップより読出順序データを得、該読出順
序データと前記第2の読出信号とを前記図形発生手段に供給して図形デー
タを得」(構成要件1B),「ピクセル単位で、前記区域毎の独立した表
示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データ
であって前記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得」
(構成要件1C)との記載があり,本件発明2につき「前記第1の読出信
号に基づいて前記マップから読出順序データを得る」(構成要件2A3),
「前記読出順序データと前記第2の読出信号とから図形データを得」(構
成要件2A4),「ピクセル単位で、前記区域毎の独立した表示内容の読
出順序データを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前
記第2の読出信号によって特定されたピクセルデータを得」(構成要件2
B)との記載がある。
これらの記載によれば,「読出順序データ」は,一応,「第1の読出信
号」を「マップ」に供給することによって「マップ」から得られるもので
あって,「区域毎の独立した表示内容」を有するものであり,対応する
「図形データ」であって「第2の読出信号」で特定される「ピクセルデー
タ」を得るものであると理解することができる。
もっとも,「読出順序データ」は,一般的な専門用語でなく,これだけ
では,当業者において,その技術的な意義を明確に理解することができな
いことから,本件明細書の記載により,「読出順序データ」の技術的意義
をさらに探求することが必要である。
イ本件明細書の「発明の詳細な説明」の「従来の技術」には,「読出順序
データ」に関し,前記2(2)イのとおり,「従来、キャラクタジェネレ
ータを用いた装置によって図形(文字を含む)を表示するために、マップ
およびキャラクタジェネレータによって表示図形が記憶されたメモリを構
成し、マップから読出された読出順序データによってキャラクタジェネレ
ータから図形データを読出し、その読出した図形データを、ラスタスキャ
ン方式によって図形として表示している。」(3欄13行ないし19行,
段落【0002】),「図23はこのような表示を行なう装置の一例を示
すブロック図であり、1はディジタル信号を処理する処理装置、2はブラ
ウン管の水平方向の走査位置を指定するためのHカウンタ、3はブラウン
管の垂直方向の走査位置を指定するためのVカウンタ、4はキャラクタジ
ェネレータの読出アドレス順序が記憶されたマップ部、5はキャラクタジ
ェネレータ、6はシフトレジスタ、7はブラウン管であり、Hカウンタ2
およびVカウンタ3は直交座標で表わされる読出信号を発生する読出信号
発生器を構成している。」(3欄26行ないし35行,段落【000
2】),「このように構成された装置において、処理装置1によって制御
されるHカウンタ2およびVカウンタ3の出力信号によってマップ部4に
記憶された読出順序データが順次読出され、その読出された読出順序デー
タ信号に対応する図形を表わす図形データがキャラクタジェネレータ5か
ら読出され、キャラクタジェネレータ5は例えば、図24に示すように、
文字Aが記憶されている場合、文字Aの各行のデータが読出され、シフト
レジスタ6に記憶される。そしてこのデータは順番に図25(b)∼
(f)に示すようなビデオ信号に変換され、図25(a)に示すように文
字Aがブラウン管7に表示される。」(3欄39行ないし50行,段落
【0003】),「このように、マップとキャラクタジェネレータを用い
て1つの走査線にN個の文字等を表示する表示装置では、1文字に1つの
読出順序データ、即ち、N個の文字に対してN個の読出順序データを得、
それぞれ対応するキャラクタジェネレータへ供給して可視的な文字として
いる。」(4欄9行ないし14行,段落【0005】),「このような装
置においては、表示される文字は、マップから読み出される読出順序デー
タを変更することによって変更される。つまり、1つの文字を変更するに
は、マップ内の1つの読出順序データのみを変更すればよい。」(4欄1
5行ないし19行,段落【0006】)との記載がある。
これらの記載からすれば,従来の技術において,キャラクタジェネレー
タを用いて図形(文字を含む)を表示する装置では,キャラクタジェネレ
ータに図形データが記憶され,マップにキャラクタジェネレータの図形デ
ータの読出アドレス順序(すなわちキャラクタコードとしての「読出順序
データ」)が記憶され,そのマップから読み出された「読出順序データ」
によってキャラクタジェネレータから図形データが読み出され,ラスタス
キャン方式で図形データが表示されており,マップから読み出される「読
出順序データ」を変更すれば,表示される図形を変更することできること
が示されている。
すると,ここでいう「読出順序データ」とは,「マップ」に記憶された
ものであり,「キャラクタジェネレータ」に記憶され,かつ,走査線に表
示されるピクセルデータを格納した「図形データ」の「図形」と対応し,
これを特定するために用いられるものであるから,当業者の理解としては,
図形と1対1に対応する情報,すなわち,いわゆる「キャラクタコード」
を指す意味において使用されているものと読み取ることができる。
ウそして,本件明細書における唯一の実施例には,「読出順序データ」に
関し,前記2(2)オのとおり,「図1はこの発明の一実施例を示すブロ
ック図であり、図23と同一部分は同記号を用いている。10は直交座標
で表わされる読出信号の内、一方の座標軸を指定する信号を発生するVカ
ウンタ、11は他方の座標軸を指定する信号を発生するHカウンタ、12
は読出信号の座標系に回転を与える座標回転処理部、13はマップ部4の
記憶内容を読出すための信号を発生するマップ読出信号発生部、14はキ
ャラクタジェネレータ部から図形データを読出すための信号を発生するキ
ャラクタジェネレータ読出信号発生部、15はキャラクタジェネレータ部、
16はキャラクタジェネレータ部15から読出したデータを図形に組立て
る図形組立部である。なお、キャラクタジェネレータ部15と図形組立部
16とを合わせて図形発生部という。」(5欄25行ないし38行,段落
【0010】),「マップ読出信号発生部13から供給された信号によっ
てデータが読出されるマップ部4はブラウン管7のピクセルが縦横16個
で囲まれる区域毎に独立した表示内容が記憶されている。このマップ部4
は例えば、図8に示すようなデータすなわち、中央の2重線で囲まれた部
分がアクセスされた時は文字Fを表わすデータが読出され、その右隣の部
分がアクセスされた時は文字Bを表わすデータが読出され、左隣がアクセ
スされた時は文字Cを表わすデータが読出され、座標回転処理部12によ
って座標系に右方向の回転が与えられていると、マップ部4は図8の実線
のようにアクセスされる。このため、1番目から11番目までのピクセル
はFという文字を表示するためのデータが読出されるが、12番目から1
6番目までのピクセルはCという文字を表示するためのデータが読出され
る。一方、表示タイミング信号は16ピクセル毎に発生するようになって
いるので、図8の横方向の2重線をよぎる度に発生する。」(17欄48
行ないし18欄14行,段落【0060】),「この結果、座標系に右回
転を与え図8の実線の矢印の方向にマップをアクセスしたときは、表示タ
イミング信号の1周期中に文字Fと文字Cを表示するための2種類のデー
タが必要になる。このように、座標系に右回転を与えたときは、表示タイ
ミング信号期間中に現在アクセスしている部分の記憶内容の外に、その左
隣の部分の記憶内容も読出す必要がある。また座標系に左回転を与えて、
図8の一点鎖線で示す矢印の方向にアクセスするときには、アクセス中の
部分の記憶内容の外に、その右隣の部分の記憶内容も読出す必要がある。
そこで、アクセス中の部分の記憶内容を『ナウ』、その左隣の部分の記憶
内容を『ネクスト』、右隣の部分の記憶内容を『バック』と定義する。」
(18欄15行ないし27行,段落【0061】),「図6の補正データ
発生器13bはこのような目的のために設けており、ラッチ13aから供
給されるマップのデータを読出すための5ビットの信号に対して、第1表
で示すような補正を行なっている。」(18欄28行ないし31行,段落
【0062】),「この結果、加算器13cの入力側の端子aの信号は現
在アクセス中の部分の記憶内容、すなわち『ナウ』の信号であるが、出力
側の端子cの信号は処理装置1から供給される信号に応じて補正データ発
生器13bの信号が加算され、『ネクスト』または『バック』の信号を表
わすことになる。すなわち、1ラスタ期間中に『ナウ』をN個読み出して
いる他に、『ネクスト』または『バック』も読み出しているので、マップ
よりN個以上の読出順序データを読み出していることになる。」(18欄
44行ないし19欄3行,段落【0062】),「前述の回転を行わない
場合は、すべて『ナウ』を選択していたので、セレクタ14c∼セレクタ
14fの端子は、bを選択するのみになっていたが、回転を行うときは、
このように『ネクスト』が選択されると、読出順序データの『ネクスト』
を用いることになる。このように、回転をする場合は『ナウ』と『ネクス
ト』または、『バック』の両方を用いるので、回転を行わないときに比べ、
2倍の種類の読出順序データに対応するキャラクタジェネレータの選択が
行われる。また、表示位置や表示角度により、図8の一点鎖線の矢印で示
すようなアクセスが行われていると『ナウ』と『バック』のキャラクタジ
ェネレータが選択される。」(19欄43行ないし20欄4行,段落【0
067】),「キャラクタジェネレータから読出すデータは4個のキャラ
クタジェネレータから同時に読出されて、シフトレジスタ16a∼16d
に記憶される。最初は1番目のピクセルから4番目のピクセルまでをアク
セスし、シフトレジスタ16fからCHG・NOの10のデータがセレク
タ16eに供給され、キャラクタジェネレータ15cのデータを記憶して
いるシフトレジスタ16cが選択される。そしてこのシフトレジスタ16
cにマスタタイミング信号が供給され、1番目のピクセルに対応するデー
タと2番目のピクセルに対応するデータが続けて読出される。このとき、
他のシフトレジスタにもマスタタイミング信号が供給されているので、記
号B,C,ロ,ハで表わされるピクセルに対応するデータも読出されるが、
これらのデータは今のタイミングではセレクタ16eで選択されていない
ので、出力されない。なお、このタイミングでシフトレジスタ16cから
読出されたデータは文字Fではなく空白の部分であるから『0』であ
る。」(20欄22行ないし39行,段落【0070】),「次に3番目
のピクセルに対応するために必要なデータがキャラクタジェネレータ15
dのデータを記憶しているシフトレジスタ16dから読出すためにシフト
レジスタ16fからデータ『11』がセレクタ16eに供給される。そし
て、このシフトレジスタ16dからマスタタイミングの3ビット目に3番
目のピクセルに必要なデータが読出される。このデータは文字Fを表示す
るためのものであるから、『1』である。同様にして4番目のピクセルに
対応するデータ『1』が読出されるが、このデータはCHG・AD(V)
のデータが変化しているので、読出されたデータはそのCHG・AD
(V)信号に対応したキャラクタジェネレータのものである。以下同様に
して、5番目から8番目のピクセルまでをアクセスし、次に9番目から1
2番目、18番目から16番目までの繰り返しを行う。図20の例では、
1番目から15番目までが1つの読出順序データに対応し、16番目のピ
クセル1つが別の読出順序データに対応している。すなわち、1つの読出
順序データに対して少なくとも1つ以上のピクセルデータが対応している。
以下同様にして次々とアクセスが行われていく。」(20欄40行ないし
21欄9行,段落【0071】),「最初のアクセスが終了すると、記号
A∼Pの列のアクセスが行なわれ、順次イ∼タの列、a∼pの列とアクセ
スが行なわれていく。この結果、図21の斜線部で示すように、文字Fが
回転した図形が表示される。この装置ではCHG・AD(V)とCHG・
AD(H)とで指定されるキャラクタジェネレータは同時に読出し、その
うちから必要なデータを使用するようにしたので、メモリの読出し速度は
このメモリを1個で構成したときの4分の1ですみ、装置を簡単で経済性
良く構成することができる。また図20の例ではキャラクタジェネレータ
15c,15d,15a,15bの順序に選択が行なわれるようにシフト
レジスタ16fから信号が供給されたが、この信号はアクセスの開始され
るキャラクタジェネレータの位置に対応して変化し、アクセス順序に応じ
てデータの並べ換えが行なわれる。」(21欄10行ないし24行,段落
【0072】)との記載がある。
これらの記載には,前記2(3)のとおり,本件発明の技術的な要点が
開示されており,「読出順序データ」については,座標系に回転を与えて
マップにアクセスする場合には,現在アクセスしている部分の記憶内容の
ほかに,回転角度によって定まる表示状態に応じて,その左隣の部分又は
右隣の部分の記憶内容も読み出す必要があることから,アクセス中の部分
の記憶内容を「ナウ」,その左隣の部分の記憶内容を「ネクスト」,右隣
の部分の記憶内容を「バック」と定義すれば,1ラスタ期間中に「ナウ」
をN個読み出すほかに,「ネクスト」又は「バック」も読み出して,マッ
プよりN個以上を読み出すことになって,このようにして回転をする場合,
「ナウ」と「ネクスト」又は「ナウ」と「バック」を用いるために,回転
を行わないときに比べて,2倍の種類となるものであることが説明されて
いる。
上記の記載に,前記イの技術的な意義を併せて考えれば,「読出順序デ
ータ」とは,図形を回転表示する場合に必要となるマップ上の左右に隣接
する2つのキャラクタコードと解するのが相当である。
なお,本件明細書に記載された唯一の実施例においては,上記の記載の
とおり,さらに,「ナウ」と「ネクスト」又は「ナウ」と「バック」の読
出順序データに対応するキャラクタジェネレータの選択が行われ,4個の
キャラクタジェネレータから同時に必要な図形データが読み出されて4個
のシフトレジスタに4ピクセルずつ記憶され(つまり,2つのキャラクタ
コードに対応する図形データにまたがった4ピクセルずつ合計16ピクセ
ルのデータが記憶されることになる。),4個のシフトレジスタからセレ
クタにより選択されたピクセルのデータが1ピクセルずつ出力されて,回
転した図形の画面表示が行われる。
エまとめ
以上のとおり,「読出順序データ」とは,図形を回転表示する場合に必
要となるマップ上の左右に隣接する2つのキャラクタコードであり,本件
発明は,この読出順序データに基づき,これに対応する2個分の図形デー
タから必要な複数個のピクセルデータを一括して取得して,回転した図形
の画面表示を行う技術を開示したものということができる。
(2)「第1の読出信号」(本件発明1につき構成要件1A2及び1B,本件発
明2につき構成要件2A2及び2A3)の解釈
ア本件特許権の特許請求の範囲には,本件発明1につき「指定された回転
量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力する座標回転処
理手段」(構成要件1A2),「前記第1の読出信号を前記マップに供給
して該マップより読出順序データを得」(構成要件1B)との記載があり,
本件発明2につき「指定された回転量に対応した第1の読出信号および第
2の読出信号を出力する」(構成要件2A2),「前記第1の読出信号に
基づいて前記マップから読出順序データを得る」(構成要件2A3)との
記載がある。
これらの記載によれば,「第1の読出信号」は,一応,「指定された回
転量に対応した」ものであって,これによって「マップ」から「読出順序
データ」を得るためのものと理解することができる。
イ本件明細書における唯一の実施例には,次のとおりの記載がある。
「座標回転処理部12はVカウンタ10、Hカウンタ11から供給される
直交座標で表わされる読出信号に、表示状態信号、回転量信号、ブラウ
ン管原点を絶対座標で表わした原点信号、V信号、V4信号、H信号、
H4信号、CHG・AD(V)信号、CHG・AD(H)信号、CHG
・NO信号を発生するようになっている。」(段落【0020】)
「マップ読出信号発生部13はマップ部4の記憶内容を読出す信号の他に
キャラクタジェネレータ読出信号発生部14に供給するV4L信号およ
びH4信号を発生するようになっている。」(段落【0021】)
「座標回転処理部12は図5に示すように横成分原点レジスタ12b、縦
成分原点レジスタ12c、セレクタ12d、セレクタ12e、回転信号
演算部12f、12g、加算器12h∼12kから構成されている。」
(段落【0022】)
「横成分原点レジスタ12bは、処理装置1から供給される原点信号に応
じてブラウン管原点座標の絶対原点に対する横方向成分を表わすための
信号を発生するようになっている。また、縦成分原点レジスタ12cは、
縦方向成分を表わす信号を発生するようになっている。セレクタ12d
は、処理装置1からの表示状態信号が表示状態A,Cを表わすときは横
成分原点レジスタ12bから供給されている信号を出力し、表示状態B,
Dを表わすときは縦成分原点レジスタ12cから供給されている信号を
出力するようになっている。セレクタ12eは、処理装置1からの表示
状態信号が表示状態A,Cを表わすときは縦成分原点レジスタ12cか
ら供給されている信号を出力し、表示状態B,Dを表わすときは横成分
原点レジスタ12bから供給されている信号を出力するようになってい
る。回転信号演算部12f,12gは、処理装置1から供給される回転
量を表わす信号に応じてVカウンタ10、Hカウンタ11から供給され
ている信号に回転を与えるようになっており、アフィン変換を行なって
いる。」(段落【0023】)
「加算器12iはマップ部4の一方の座標上の位置を表わす5ビットのV
信号、キャラクタジェネレータの縦方向座標軸上の位置を表わす2ビッ
トのCHG・AD(V)信号、図形組立部16に供給する2ビットのC
HG・NO信号を発生するようになっている。加算器12kはマップ4
の他方の座標軸上の位置を表わす5ビットのH信号、キャラクタジェネ
レータの横方向座標軸上の位置を表わす2ビットのCHG・AD(H)
信号、マスタタイミングを表わす2ビットのM・T信号を発生するよう
になっている。このうち、V信号の下位1ビットおよび、H信号の下位
1ビットはキャラクタジェネレータ読出信号発生部14の動作のために
必要なH4信号、V4信号として用いている。」(段落【0024】)
「マップ読出信号発生部13は図6に示すように、ラッチ13a、補正デ
ータ発生部13b、加算器13c、セレクタ13d∼13i、EOR回
路13j、から構成されている。補正データ発生器13bは処理装置1
から供給される回転方向を表わす左右信号、表示状態を表わす表示状態
信号に応じて第1表に示す信号を発生するようになっている。」(段落
【0025】)
「【表1】

これらの記載によれば,「第1の読出信号」とは,生成された加算器1
2iのマップ4の一方の座標軸上の位置を表わす5ビットのV信号と加算
器12kのマップ4の他方の座標軸上の位置を表わす5ビットのH信号と
がマップ読出信号発生部13において回転方向と表示状態に応じた補正を
受け(補正データ発生器13b),マップ部4の「ナウ」と「ネクスト」
又は「バック」との2つの記憶内容(キャラクタコード)を読み出す信号
として供給されるものと理解できる。
ウまとめ
以上のとおり,「第1の読出信号」とは,「マップ」に供給される読出
信号であって,「マップ」から「ナウ」と「ネクスト」又は「バック」と
の2つの記憶内容(キャラクタコード)である「読出順序データ」を得る
ための信号であるということができる。
(3)「第2の読出信号」(本件発明1につき構成要件1A2,1B及び1C,
本件発明2につき構成要件2A2,2A4及び2B)の解釈
ア本件特許権の特許請求の範囲には,本件発明1につき「指定された回転
量に対応した第1の読出信号および第2の読出信号を出力する座標回転処
理手段」(構成要件1A2),「前記第1の読出信号を前記マップに供給
して該マップより読出順序データを得,該読出順序データと前記第2の読
出信号とを前記図形発生手段に供給して図形データを得」(構成要件1
B),「ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序デー
タを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読
出信号によって特定されたピクセルデータを得」(構成要件1C)との記
載があり,本件発明2につき「指定された回転量に対応した第1の読出信
号および第2の読出信号を出力する」(構成要件2A2),「前記読出順
序データと前記第2の読出信号とから図形データを得」(構成要件2A
4),「ピクセル単位で,前記区域毎の独立した表示内容の読出順序デー
タを受けて該読出順序データに対応する図形データであって前記第2の読
出信号によって特定されたピクセルデータを得」(構成要件2B)との記
載がある。
これらの記載によれば,「第2の読出信号」は,一応,「指定された回
転量に対応」したものであって,「読出順序データ」に対応する「図形デ
ータ」から,「ピクセルデータ」を特定するためのものと理解することが
できる。
イ本件明細書における唯一の実施例には,前記(1)ウのとおり,段落
【0070】ないし段落【0072】の記載があり,前記(2)イのとお
り,段落【0020】の記載があるほか,【図20】は,次のとおりであ
る。
「【図20】

これらの記載によれば,「第2の読出信号」とは,加算器12iで生成
された各2ビットのCHG・AD(V)信号及びCHG・NO信号,加算
器12kで生成された各2ビットのCHG・AD(H)信号及びM・T信
号(マスタタイミング信号)であって,これらによって「読出順序デー
タ」に対応する「図形データ」からピクセルデータを特定するものと理解
できる。
ウまとめ
以上のとおり,「第2の読出信号」とは,「キャラクタジェネレータ」
に供給される読出信号であって,「マップ」から得られた「ナウ」と「ネ
クスト」又は「バック」との「読出順序データ」に対応する「図形デー
タ」から,「ピクセルデータ」を特定するための信号であるということが
できる。
(4)前記(1)ないし(3)で述べた本件発明における「読出順序データ」,
「第1の読出信号」及び「第2の読出信号」の解釈を踏まえて,該当する本
件発明の構成要件と被告製品との対比をする。
ア本件発明1について
本件発明1は,「(前記図形発生手段は,)ピクセル単位で,前記区域
毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序データに対応
する図形データであって前記第2の読出信号によって特定されたピクセル
データを得,図形を回転表示することを特徴とする」(構成要件1C)
「図形表示装置」であることから,「読出順序データ」を必須の要件とす
るものである。
しかしながら,被告製品は,前記1(3)の認定のとおり,1ピクセル
毎にスクリーンメモリからキャラクタコードが取得され,特定したピクセ
ルデータを取得してこれを画面に表示する構成及び動作を備えるものであ
るから,少なくとも,前記(1)エのとおり,2つのキャラクタコードを
意味する「読出順序データ」の要件を充たさないことが明らかであり,そ
の余の点につき検討するまでもなく,本件発明1の構成要件1Cを充足し
ない。同様に,本件発明1の「読出順序データ」を含む構成要件1Bも充
足しない。
したがって,本件発明1のその余の構成要件の充足性につき判断するま
でもなく,被告製品は,本件発明1の技術的範囲に属さないものと認めら
れる。
イ本件発明2について
本件発明2は,「(図形表示を行う前記ステップが,)ピクセル単位で,
前記区域毎の独立した表示内容の読出順序データを受けて該読出順序デー
タに対応する図形データであって前記第2の読出信号によって特定された
ピクセルデータを得,図形を回転表示するステップを含むことを特徴とす
る」(構成要件2B)「図形表示方法」であることから,「読出順序デー
タ」を必須の要件とするものである。
しかしながら,被告製品については,前記アのとおり,本件発明1にお
けると同様,1ピクセル毎にスクリーンメモリからキャラクタコードが取
得され,特定したピクセルデータを取得してこれを画面に表示する構成及
び動作を備えるものであるから,少なくとも,2つのキャラクタコードを
意味する「読出順序データ」の要件を充たさないことが明らかであり,そ
の余の点につき検討するまでもなく,本件発明2の構成要件2Bを充足し
ない。同様に,本件発明2の「読出順序データ」を含む構成要件2A3及
び2A4も充足しない。
したがって,本件発明2のその余の構成要件の充足性につき判断するま
でもなく,被告製品は,本件発明2の技術的範囲に属さないものと認めら
れる。
(5)以上のとおりであるから,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属さない
ものというべきである。
4争点(5)〔均等侵害の成否〕について
(1)前記3(4)のとおり,被告製品は,少なくとも,本件発明1につき構成
要件1B及び1C,本件発明2につき構成要件2A3,2A4及び2Bのそ
れぞれ「読出順序データ」の要件を充足しないことが明らかである。
原告は,本件発明の構成要件のうちの「読出順序データ」が限定解釈され
た(被告製品において,「1ピクセル毎に処理」していることにより,「読
出データの個数が複数ピクセルに対応する隣接する2つであること」が非充
足である)としても,均等侵害に当たり,「読出データの個数が複数ピクセ
ルに対応する隣接する2つであること」は,本件発明の本質的部分ではなく,
キャラクタ方式であるのに,「座標回転処理」を行い,回転後のピクセルデ
ータを「ピクセル単位」で得て図形を回転させることが本質的部分である旨
主張する。
しかしながら,本件発明は,前記2(2)イ・ウのとおり,従来技術のマ
ップとキャラクタジェネレータを用いる方式で図形の回転表示をすることに
課題があったのに対し,前記2(2)オのとおり,本件明細書に記載された
唯一の実施例において,この課題を解決したところに発明としての意義があ
るものである。そして,図形の回転を実現するために,「読出順序データ」
として,「ナウ」のほかに「ネクスト」又は「バック」に相当する2つのキ
ャラクタを対象として,必要なピクセルデータを取得し,任意の角度での回
転表示を実現する技術が開示されていることは,前記2(3),3(1)の
とおりであって,この「読出順序データ」を用いることが本件発明における
核心の技術というべきである。
そうすると,原告の均等侵害の主張は,被告製品の構成について,少なく
とも,本件発明1の構成要件1C及び本件発明2の構成要件2Bにおける
「読出順序データ」という本件発明の本質的な部分にかかわる要件を置換す
ることを前提とするものといわざるを得ず,均等論の要件を充たさないもの
である。
(2)以上のとおりであるから,原告の主張する均等侵害については,その余に
つき検討するまでもなく,失当である。
5結論
したがって,原告の請求は,その余につき判断するまでもなく,理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官阿部正幸
裁判官平田直人
裁判官柵木澄子
被告製品目録1
1被告製品の構成(回転処理機構)
被告製品は,Hカウンタからの信号HcとVカウンタからの信号Vcとで表現
される直交座標系を,演算回路において,指定された回転量に応じて回転処理す
る。
演算回路は,アフィン変換に基づき,回転の座標変換後の座標値を計算する。
計算結果の小数点以下は切り捨てられ,座標変換後の座標値の整数値(X2,Y
2)が出力される。
演算回路から出力される座標値(X2,Y2)の上位7ビットが,キャラクタ
コードを記憶するスクリーンメモリに入力される。スクリーンメモリは,キャラ
クタコードを出力する。
演算回路から出力される座標値(X2,Y2)の下位3ビットと,前記のキャ
ラクタコードは,キャラクタのピクセルデータを記憶するキャラクタピクセルメ
モリに入力される。
キャラクタピクセルメモリは,キャラクタのピクセルデータ(8ビット)を出
力する。これは,回転後のピクセルデータである。
回転後のピクセルデータは,カラーパレットで256色のうち1色に変換され
て,DAC/ビデオエンコーダーに出力される。
2被告製品の動作(回転処理方法)
被告製品には,キャラクタコードを記憶するスクリーンメモリが設けられてい
る。
被告製品は,Hカウンタからの信号HcとVカウンタからの信号Vcとで表現
される直交座標系の座標値を,指定された回転量に応じて回転処理し,アフィン
変換に基づき,座標変換後の座標値を計算する。計算結果の小数点以下は切り捨
てられ,座標変換後の座標値の整数値(X2,Y2)が出力される。
被告製品は,座標値(X2,Y2)の上位7ビットを用いて,スクリーンメモ
リからキャラクタコードを得る。
被告製品は,座標値(X2,Y2)の下位3ビットと,前記のキャラクタコー
ドを用いて,回転後のピクセルデータ(8ビット)を得る。
回転後のピクセルデータは,カラーパレットで256色のうち1色に変換され
て,DAC/ビデオエンコーダーに出力される。
被告製品は,以上の処理を,表示画面上の1ピクセル毎に行うことにより,文
字や絵が表示された画面を任意角度で回転表示する。
以上
被告製品目録2
1被告製品の構成
被告製品は,
(1)Vカウンタからの信号と,Hカウンタからの信号と,オフセット設定レジス
タからの信号と,角度を含むパラメータ設定レジスタからのデータとに基づい
て,ピクセル毎に単一の座標を生成し,出力する演算回路と,
(2)スクリーンメモリとピクセルメモリとを有し,
(3)当該単一の座標のうち上位ビットに基づいてピクセル毎にスクリーンメモリ
から単一のキャラクタコードを得,当該単一のキャラクタコードと当該単一の
座標のうち下位各3ビットとに基づいてピクセル毎にピクセルメモリから単一
のピクセルデータを得て,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表
示する,
据置型ゲーム機である。
2被告製品の動作
被告製品は,上記の構成により,演算回路によって生成された当該単一の座標
のうち上位ビットに基づいてピクセル毎にスクリーンメモリから単一のキャラク
タコードを得,当該単一のキャラクタコードと当該単一の座標のうち下位各3ビ
ットとに基づいてピクセル毎にピクセルメモリから単一のピクセルデータを得て,
該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示することによって,演算回
路によって生成された単一の座標に基づいて,ピクセル毎に個別に単一のピクセ
ルデータをピクセルメモリから読み出して,該単一のピクセルデータをディスプ
レイ画面上に表示する。
演算回路がある角度をもって座標を生成したときには,演算回路によって生成
された当該単一の座標のうち上位ビットに基づいてピクセル毎にスクリーンメモ
リから単一のキャラクタコードを得,当該単一のキャラクタコードと当該単一の
座標のうち下位各3ビットとに基づいてピクセル毎にピクセルメモリから単一の
ピクセルデータを得て,該単一のピクセルデータに対応する色の1ドットをディ
スプレイ画面上に表示することによって,生成された単一の座標に基づいて,ピ
クセル毎に個別に単一のピクセルデータをピクセルメモリから読み出して,該単
一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示し,これによって画面全体の画
像の回転表示が行われる。
以上
SFCブロック図
GBA目録
以下に記載する携帯型ゲーム機(商品名「ゲームボーイアドバンス」)
1.構成の説明
被告製品は,
(1)レジスタ値入力タイミング信号,X方向座標算出タイミング信号及びY方向
累積加算タイミング信号の3つのタイミング信号と角度を含むパラメータとに
基づいてピクセル毎に単一の座標を生成し,出力する演算回路と,
(2)スクリーンデータの領域とキャラクタデータの領域とを含む画像メモリとを
有し,
(3)当該単一の座標のうち上位ビットに基づいてピクセル毎に画像メモリのスク
リーンデータの領域から単一のキャラクタコードを得,当該単一のキャラクタ
コードと当該単一の座標のうち下位各3ビットとに基づいてピクセル毎に画像
メモリのキャラクタデータの領域から単一のピクセルデータを得て,該単一の
ピクセルデータをディスプレイ画面上に表示する,
携帯型ゲーム機である。
2.動作の説明
被告製品は,上記の構成により,演算回路によって生成された当該単一の座標
のうち上位ビットに基づいてピクセル毎に画像メモリのスクリーンデータの領域
から単一のキャラクタコードを得,当該単一のキャラクタコードと当該単一の座
標のうち下位各3ビットとに基づいてピクセル毎に画像メモリのキャラクタデー
タの領域から単一のピクセルデータを得て,該単一のピクセルデータをディスプ
レイ画面上に表示することによって,演算回路によって生成された単一の座標に
基づいて,ピクセル毎に個別に単一のピクセルデータを画像メモリから読み出し
て,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示する。
演算回路がある角度をもって座標を生成したときには,演算回路によって生成
された当該単一の座標のうち上位ビットに基づいてピクセル毎に画像メモリのス
クリーンデータの領域から単一のキャラクタコードを得,当該単一のキャラクタ
コードと当該単一の座標のうち下位各3ビットとに基づいてピクセル毎に画像メ
モリのキャラクタデータの領域から単一のピクセルデータを得て,該単一のピク
セルデータをディスプレイ画面上に表示することによって,生成された単一の座
標に基づいて,ピクセル毎に個別に単一のピクセルデータを画像メモリから読み
出して,該単一のピクセルデータをディスプレイ画面上に表示し,これによって
画面全体の画像の回転表示が行われる。
以上
被告製品目録3
1被告製品の構成
被告製品は,
(1)Hカウンタからの信号と,Vカウンタからの信号と,オフセット設定レジス
タからの信号と,回転角度を含む条件を処理したパラメータ設定レジスタから
のデータとに基づいて,ピクセル毎に単一の座標である整数の座標値(X値,
Y値)を出力する演算回路と,
(2)スクリーンメモリとピクセルメモリとを有し,
(3)当該単一の座標のうち,座標値(X値,Y値)の上位ビット7ビットに基づ
いてピクセル毎にスクリーンメモリからキャラクタコードを取得し,このキャ
ラクタコードと上記の座標値の下位3ビットとに基づいてピクセルメモリから
ピクセルデータを取得し,この単一の座標のピクセル毎に上記のピクセルデー
タをディスプレイ画面に表示する,
据置型ゲーム機である。
2被告製品の動作
被告製品は,上記の構成により,スクロールの有無と量,回転の有無と量,拡
大・縮尺の有無と割合に応じて,Hカウンタ,Vカウンタ,オフセット設定レジ
スタ及びパラメータ設定レジスタからのデータを演算回路で処理して単一の座標
である整数の座標値(X値・Y値)が出力され,座標値(X値,Y値)の上位7
ビットによってスクリーンメモリからキャラクタコードが取得され,上記のキャ
ラクタコードと座標値(X値,Y値)の下位3ビットとによってピクセルメモリ
からピクセルデータが取得されて,このピクセルデータがディスプレイ画面上に
表示され,このような処理が表示画面上の1ピクセル毎に行われて,スクリーン
上のキャラクタにおける任意の点が表示される。
演算回路がある回転角度をもって単一の座標の座標値を出力した場合において
も,同様にして,座標値(X値,Y値)の上位7ビットによってスクリーンメモ
リからキャラクタコードが取得され,上記のキャラクタコードと座標値(X値,
Y値)の下位3ビットとによってピクセルメモリからピクセルデータが取得され
て,このピクセルデータがディスプレイ画面上に表示され,このような処理が表
示画面上の1ピクセル毎に行われる。
以上

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激動の時代に
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