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平成25年6月28日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成20年(ワ)第14955号特許権侵害差止等請求事件(以下「甲事件」と
いう。)
平成21年(ワ)第43334号特許権侵害差止等本訴請求事件(以下「乙事件
本訴」という。)
平成22年(ワ)第2146号虚偽事実告知・流布行為差止等反訴請求事件(以
下「乙事件反訴」という。)
口頭弁論終結日平成25年4月17日
判決
栃木県上都賀郡<以下略>
甲事件・乙事件本訴原告・乙事件反訴被告株式会社チヤンピオン
(以下「原告」という。)
同訴訟代理人弁護士酒井将
同訴訟復代理人弁護士太期宗平
同櫻井遥二
同小瀬弘典
栃木県栃木市<以下略>
甲事件・乙事件本訴被告・乙事件反訴原告亀山社中株式会社
(以下「被告亀山社中」という。)
栃木県栃木市<以下略>
乙事件本訴被告・乙事件反訴原告有限会社チャンピオン化成
(以下「被告チャンピオン化成」と
いい,被告亀山社中と併せて「被告
ら」という。)
被告両名訴訟代理人弁護士熊倉禎男
同渡辺光
同佐竹勝一
同補佐人弁理士前田純博
主文
1被告らは,原告に対し,連帯して,176万9580円及びこれに対す
る平成22年6月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3被告らの反訴請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用は,甲事件について生じた分はこれを2分し,その1を原告の
負担とし,その余を被告亀山社中の負担とし,乙事件本訴について生じた
分は原告の負担とし,乙事件反訴について生じた分は被告らの負担とする。
5この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
〔甲事件・乙事件本訴〕
1被告チャンピオン化成は,別紙物件目録記載の製品(以下「レボ1」という。)
を製造してはならない。
2被告亀山社中は,レボ1を販売し,又は販売のために展示してはならない。
3被告らは,原告に対し,連帯して,562万1940円及びこれに対する平
成22年6月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(上記を主位的請求とする予備的請求)
被告らは,原告に対し,連帯して,440万5158円及びこれに対する平
成22年11月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4被告らは,原告に対し,連帯して,3630万円及びこれに対する平成21
年12月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
〔乙事件反訴〕
1原告は,被告ら又は原告の製造・販売に係る商品を現に取り扱い,又は今後
取り扱う可能性のある相手方に対し,別紙告知行為目録記載の各告知をし,又
は一般に流布してはならない。
2原告は,原告のウェブページに掲載されている,別紙表示目録記載の記事を
抹消せよ。
3原告は,被告亀山社中に対し,3310万円及びこれに対する平成22年2
月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4原告は,被告チャンピオン化成に対し,2810万円及びこれに対する平成
22年2月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5原告は,日本屋根経済新聞紙に,別紙謝罪広告目録記載の掲載要領で,同目
録記載の内容の謝罪広告を1回,及び自ら運営するウェブサイト
(http://www.champion-hp.info/)
のトップページに,同目録記載の内容の謝罪広告を180日間,各掲載せよ。
第2事案の概要
1前提となる事実(末尾に証拠〔枝番省略〕を掲げていない事実は当事者間に
争いがない。)
(1)原告の有する特許権
ア原告は,次の特許権を有している(以下「本件特許権」といい,本件特
許権に係る特許を「本件特許」という。)。
発明の名称屋根下地材
特許番号第2741655号
出願日平成6年6月28日
登録日平成10年1月30日
イ本件特許の特許請求の範囲,明細書及び図面の内容は,別紙特許公報記
載のとおりである(以下,上記明細書及び図面を「本件明細書等」という。)。
ウ本件特許の特許請求の範囲
本件特許の特許請求の範囲における請求項の数は3であるが,そのうち
請求項1の記載は,別紙特許公報の特許請求の範囲【請求項1】記載のと
おりである(以下,同請求項記載の発明を「本件発明」という。)。
(2)本件発明の構成要件
本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,それぞれの
記号に従い,「構成要件A」などという。)。
A軟質性合成樹脂のシート状基材の上下両面に紙を一体的に接合して成り
屋根の野地板上に敷く屋根下地材において,
B上記シート状基材の上面には,下部が大径で上部が小径とされ所定の高
さだけ2段階に突出した多数のすべり止め突部を一体的に形成すると共に,
Cこれらのすべり止め突部を所定の単位面積中に複数個存在するように配
置して全面に等方的に設けたことを特徴とする
D屋根下地材。
(3)被告らの行為
ア被告チャンピオン化成は,「ゴールドREVO」という名称の屋根下地
材(以下「ゴールドレボ」という。)を製造し,被告亀山社中は,平成1
9年11月から平成20年2月まで,同製品を合計5220本販売した。
〔A甲3の1,2,A乙8,A検甲1〕
イ被告チャンピオン化成は,レボ1を製造し,被告亀山社中は,同製品を
販売した。
2(1)甲事件について
甲事件は,被告チャンピオン化成が製造し,被告亀山社中が販売するゴー
ルドレボが,本件発明の技術的範囲に属するとして,原告が,被告亀山社中
に対し,本件特許権侵害による損害賠償請求として,主位的に562万19
40円及びこれに対する平成22年6月3日(同月8日付け「請求の拡張申
立書」送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅
延損害金の各支払を,予備的に440万5158円及びこれに対する同年1
1月27日(同月26日付け原告第7準備書面送達の日の翌日)から支払済
みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める事案であ
る。
(2)乙事件本訴について
乙事件本訴は,被告チャンピオン化成が製造し,被告亀山社中が販売する
ゴールドレボ及びレボ1が,いずれも本件発明の技術的範囲に属するとして,
原告が,被告らに対し,レボ1の製造,販売等の差止め及び廃棄を求めると
ともに,共同不法行為(本件特許権侵害)による損害賠償請求として,(1)
被告チャンピオン化成に対しては,①主位的に562万1940円及びこれ
に対する平成22年6月3日(同月8日付け「請求の拡張申立書」送達の日
の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支
払を,予備的に440万5158円及びこれに対する同年11月27日(同
月26日付け原告第7準備書面送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定
の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求め,並びに,②3630万円
及びこれに対する平成21年12月15日(乙事件本訴の訴状送達の日の翌
日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を
求め,(2)被告亀山社中に対しては3630万円及びこれに対する平成21年
12月15日(前同)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延
損害金の各支払を求める事案である。
(3)乙事件反訴について
乙事件反訴は,原告が,被告チャンピオン化成が製造し,被告亀山社中が
販売する製品に関する虚偽の事実を被告らの取引先に告知し,又は,原告の
ホームページにおいて流布し,被告らの営業上の利益を侵害したとして,被
告らが,原告に対し,不正競争防止法(以下「不競法」という。)2条1項
14号,同法3条に基づき,上記各告知及び流布行為の差止め,並びにホー
ムページからの記事の削除を求め,同法4条に基づき,被告らに発生した損
害(①被告亀山社中につき,逸失利益として1260万円,弁護士費用とし
て220万円及び名誉毀損による損害1000万円の合計2480万円及び
これに対する平成22年2月2日〔乙事件反訴状送達の日の翌日〕から支払
済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,②被告チャンピオン化
成につき,逸失利益として1260万円,弁護士費用として220万円及び
名誉毀損による損害500万円の合計1980万円並びにこれに対する平成
22年2月2日〔前同〕から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅
延損害金)の賠償を求め,不競法14条の規定に基づき,業界紙(日本屋根
経済新聞紙)及び原告のホームページに謝罪広告を掲載することを求めると
ともに,さらに,原告による本件訴訟の提起及び仮処分命令の申立て(当庁
平成21年(ヨ)第22082号。以下「本件仮処分命令の申立て」という。)
は不当提訴(不法行為)であるとして,原告に対し,被告らに発生した損害
(被告ら各自につき信用毀損等による損害500万円及び弁護士費用330
万円の合計830万円並びにこれに対する平成22年2月2日〔前同〕から
支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の賠償を求める事
案である。
3本件の争点
〔甲事件・乙事件本訴の争点〕
(1)ゴールドレボ及びレボ1は,それぞれ本件発明の技術的範囲に属するか(構
成要件Bの充足性)
(2)本件発明は進歩性が欠如しているため特許無効審判により無効にされるべ
きものか
アA乙12(B乙11)を主引例とする無効主張
イB乙4(A乙11)を主引例とする無効主張
(3)被告亀山社中の過失の有無
(4)損害の有無及びその額
アゴールドレボにつき
(ア)特許法102条1項による損害額
(イ)特許法102条3項による損害額
(ウ)寄与率
イレボ1についての損害額
〔乙事件反訴の争点〕
(5)原告の行為は,虚偽告知等の不正競争行為(不競法2条1項14号)に当
たるか
(6)原告による本件訴訟の提起及び本件仮処分命令の申立ては不当提訴として
不法行為といえるか
(7)損害の有無及びその額
第3争点に関する当事者の主張
1争点(1)(ゴールドレボ及びレボ1は,それぞれ本件発明の技術的範囲に属す
るか(構成要件Bの充足性))について
〔原告の主張〕
ゴールドレボ及びレボ1は,いずれも,構成要件A,C及びDを充足するこ
とはもとより,構成要件Bを充足しており,本件発明の技術的範囲に属する。
(1)ゴールドレボの構成
ゴールドレボは,次の構成aないしdを有する。
a軟質性合成樹脂のシート状基材(1)の上下両面に紙(2)(3)を一体的に接
合して成り屋根の野地板上に敷く屋根下地材において,
b上記シート状基材(1)の上面には,外径が約2mmと小径であり,高さが
約2mmの円柱形状に形成された多数のすべり止め突部(6)が,一体的に突
出した状態で形成されているとともに,当該すべり止め突部(6)は,その高
さ約0.5mmにわたる上端部分(5)の外径が約1.5mmと他の主たる部分
(4)と比較してやや小径になっており,
cこれらのすべり止め突部(6)を所定の単位面積中に複数個存在するように
配置して全面に等方的に設けた
d屋根下地材。
(2)ゴールドレボに係る構成要件の充足性
アゴールドレボの構成a,c及びdは,本件発明の構成要件A,C及びD
を充足する。
イゴールドレボの構成bは,次のとおり,本件発明の構成要件Bを充足す
る。
すなわち,ゴールドレボは,すべり止め突部につき,下部は直径が約2
mm,高さが約2mm,上部は直径が1.5mm,高さが0.5mmとの構
成を有している。これによれば,ゴールドレボは,明らかに下部が大径で,
上部が小径とされ,所定の高さだけ2段階に突出されている(A乙6のイ
号説明書【図1】)。
そうすると,ゴールドレボのすべり止め突部につき,下部が大径,上部
が小径とされる2段階に突出した形状であることは明らかである。
ウ被告らの主張に対する反論
被告らは,本件発明の作用・効果,すなわち,野地板上に敷かれた屋根
下地材の上面に乗って瓦ぶき作業をする作業者の足のすべり止め効果を発
揮し,特に下部大径突起で作業者の踏み感の安定性を維持するとともに,
上部小径突起で作業者の作業靴下面に食いつき状となってすべり止め効果
を増大させるためには,本件発明に係る屋根下地材は,すべり止め突部の
下部大径部が4mm程度,上部小径部の直径が2mm程度と妥当な範囲の
直径が定められているということができると主張する。
しかし,本件明細書等によれば,本件発明は,2段階に突出した形状の
ものであって,屋根下地材の上面に乗って瓦葺き作業をする際に,作業者
の足がすべるのを防止するすべり止め機能を有するものであれば,平面形
状や側面形状,高さ等はどのようなものでもよい。そして,ゴールドレボ
のすべり止め突部(6)が,このようなすべり止め機能を有することは明らか
である。
また,被告らは,上記の本件発明の作用・効果を達成するためには,本
件発明に係る下地材は,すべり止め突部の下部大径部の高さが約1.5m
m程度,上部小径部の高さが約1mm程度必要とされているということが
できると主張する。
しかし,上記のように,本件明細書等によれば,本件発明は,2段階に
突出した形状のものであって,屋根下地材の上面に乗って瓦葺き作業をす
る際に,作業者の足がすべるのを防止するすべり止め機能を有するもので
あれば,平面形状や側面形状,高さ等はどのようなものでもよい。そして,
ゴールドレボのすべり止め突部(6)が,このようなすべり止め機能を有する
ことは明らかである。
もとより,ゴールドレボは,1段階構成の場合と比べて,防滑性が顕著
であり,実質的に1段階構成の場合とみることはできない。
以上のとおり,被告らの上記主張はいずれも失当である。
(3)レボ1の構成
レボ1は,次の構成aないしdを有する。
a軟質性合成樹脂のシート状基材の上下両面に紙を一体的に接合して成り
屋根の野地板上に敷く屋根下地材において,
b上記シート状基材の上面には,外径が約2mm,高さが約1.5mmの
円柱形状に形成された主たる部分と,外径が約0.5ないし1mm,高さ
が約0.2ないし0.5mmの略半球状に形成された上端部分とからなる
多数のすべり止め突部が,一体的に突出した状態で形成されているととも
に,
cこれらのすべり止め突部を所定の単位面積中に複数個存在するように配
置して全面に等方的に設けた
d屋根下地材。
(4)レボ1に係る構成要件の充足性
アレボ1の構成a,c及びdは,本件発明の構成要件A,C及びDを充足
する。
イレボ1の構成bは,次のとおり,本件発明の構成要件Bを充足する。
すなわち,レボ1は,すべり止め突部につき,その下部に当たる主たる
部分は直径が約2mmの径を有する円形形状であるとともに,その主たる
部分における上端面の略中心部分には,約0.5mmの径を有する突起が
形成されていて,主たる部分と上記突起には約1.5mmの径差がある。
そして,主たる部分の上端面における突起部分を除いた部分は,上記径
差の分だけ突起の周囲を取り囲むように略水平の平坦面状に形成されてい
る。
これによれば,レボ1は,主たる部分と上記突起とが,主たる部分の上
端面における平坦面状に形成された部分を境目として,それぞれが独立し
た存在として明確に区別し得る構成となっている。
そうすると,レボ1のすべり止め突部につき,上記境目を介して下部が
大径,上部が小径とされる2段階に突出した形状であるといえる。
〔被告らの主張〕
ゴールドレボ及びレボ1は,いずれも,構成要件Bを充足しないから,その
他の構成要件A,C,Dを充足するとしても,本件発明の技術的範囲に属しな
い。
(1)本件発明において,構成要件B「上記シート状基材の上面には,下部が大
径で上部が小径とされ所定の高さだけ2段階に突出した多数のすべり止め突
部を一体的に形成すると共に,」が要件となっている技術的意義は,シート
状基材の上面に所定の高さだけ2段階に突出して一体的に形成された多数の
すべり止め突部により,野地板上に敷かれた屋根下地材の上面に乗って瓦葺
き作業をする作業者の足のすべり止め効果を発揮し,すべり止め突部の下部
大径突部により,踏み感の安定性を維持し,同上部小径突部により,作業者
の作業靴下面にくいつき状となりすべり止め効果を増大させることができる,
という効果を発揮させるためである。
したがって,すべり止め突部が下部と上部に区画されておらず,すべり止
め突部の下部から上部にまでわたって直径が等しい場合,すなわち,すべり
止め突部が1段階構成の場合には,構成要件Bを充足しない。
また,すべり止め突部が下部と上部に区画されるとしても,すべり止め突
部が全体として本来下部の大径部が発揮する効果のみしか発揮しない場合や,
すべり止め突部が全体として本来上部の小径部が発揮する効果のみしか発揮
しない場合には,実質的にはすべり止め突部が1段階構成の場合とみなすこ
とができる。
したがって,かかる場合にも,構成要件Bを充足しない。
(2)ゴールドレボは,直径が約2mmであり,金型切削の際にエンドミルによ
る加工の際にすじが付いたことによるもの,いわば金型製造時の工程におけ
るミスから形成されたものであり,大径と小径というような明確な二段階構
成の突起形状のものではない。
また,ゴールドレボは,1段階構成の場合と摩擦係数がほとんど変わらな
いし,「下部大径部で踏み感の安定を維持する。」という効果を有しないか
ら,実質的にはすべり止め突部が1段階構成の場合とみなすことができる。
(3)レボ1は,そのすべり止め突部が,略円形状か,極めて円柱に近いテーパ
ー状であり,テーパー状の部分は,下部の径が上部の径と比べて大きいとは
いえどもその差はわずかであり,かつ,連続的に径が変化している。また,
レボ1は,そのすべり止め突部が,その上面は不規則な形状をしており,凹
凸を有するものもあれば,弧を描くものもあって,しかも連続的に形状が変
化しているから,すべり止め突部が1段階構成の場合に当たる。
(4)したがって,ゴールドレボ及びレボ1は,いずれも,構成要件Bを充足し
ない。
2争点(2)(本件発明は進歩性が欠如しているため特許無効審判により無効に
されるべきものか)について
〔被告らの主張〕
(1)A乙12(B乙11)を主引例とする無効主張
ア本件発明の特許出願前に頒布された刊行物である実願昭49-1529
10号(実開昭51-77821号)のマイクロフィルム(A乙12,B
乙11。以下「A乙12文献」といい,これに記載された発明を「引用発
明1」という。)には,屋根下地材に関する発明として,次の記載がある。
(ア)実用新案登録請求の範囲
「半硬質の合成樹脂基材の両面に紙が接合されているシート材におい
て,少くとも一面は,紙と基材が圧着一体化してる規則的又は不規則
的うね状突起を有し,該うね状突起がおおむね一方向に並んでいる屋根
下地材。」(1頁5行~9行)
(イ)「この考案によると,上層にうね状突起を無数に設けることにより,
基材と表層の紙との一体化は物理的に強化され,施行時に紙が破れ,又
は剥離することなく,結露防止,湿気の吸収,作業能率の向上が達成さ
れ,施行時の紙の剥離がないので滑ることがなく作業の安全が確保され
る。」(3頁2行~8行)
(ウ)「瓦桟と下地材の間に隙間を保ち,屋根からの漏水を瓦桟上角に滞留
させることなく,流下せしめ,且つ,通気良好のため,併せて湿気によ
る瓦桟の腐蝕を防止できる。」(3頁11行~14行)
イ本件発明と引用発明1との対比
(ア)一致点
本件発明と引用発明1とは,次の点で一致する。
軟質性合成樹脂のシート状基材の上下両面に紙を一体的に接合して成
り屋根の野地板上に敷く屋根下地材である点(構成要件A,D)
(イ)相違点
本件発明と引用発明1とは,次の点で相違する。
〔相違点1〕
本件発明では,シート状基材の上面には,下部が大径で上部が小径と
され所定の高さだけ2段階に突出した多数のすべり止め突部を一体的に
形成している(構成要件B)のに対して,引用発明1は,シート状基材
の少なくとも一面に,通気,排水用うね状突起をおおむね一方向に並べ
たものであり,本件発明の構成要件Bに相当する構成が開示されていな
い点
〔相違点2〕
本件発明では,シート状基材の上面には,すべり止め突部を所定の単
位面積中に複数個存在するように配置して全面に等方的に設けている(構
成要件C)のに対して,引用発明1は,シート状基材の少なくとも一面
に,通気,排水用うね状突起をおおむね一方向に並べたものであり,本
件発明の構成要件Cに相当する構成が開示されていない点
ウ各相違点の検討
(ア)相違点1につき
a実願昭49-60154号(実開昭50-148022号)のマイ
クロフィルム(A乙10。以下「A乙10文献」といい,これに記載
された発明を「A乙10発明」という。)には,「従来,屋根下地材
として熱可塑性樹脂シートよりなる屋根下地材が汎用されているが,
該熱可塑性樹脂シートよりなる屋根下地材は野地板上に敷設施工した
後,該屋根下地材上に屋根材を載置して屋根を葺き上げる際に,作業
者が足を滑らし易いと云う欠点があ」るとの記載(1頁,11行~1
6行),「本考案の屋根下地材は熱可塑性樹脂シート表面に凸部を粗
面化せる凹凸を形成せしめてる」との記載(2頁11行~13行)
がある。
bまた,特開平4-371644号公報(A乙11。以下「A乙11
文献」といい,これに記載された発明を「A乙11発明」という。)
には,「たとえば,多数の小突起からなるドット(1)を加工成形した塩
化ビニル樹脂発泡体等の軟質塩化ビニル樹脂シート(2)」との記載(2
頁2欄31行~33行)がある。
c引用発明1のみならず,A乙10発明,A乙11発明も,いずれも
屋根下地材であり,技術分野は同一である。
dそうすると,引用発明1に記載された屋根下地材において,「屋根
下地材上に屋根材を載置して屋根を葺き上げる際に,作業者が足を滑
らし易いと云う欠点」を解消するために,引用発明1のうね状突起に
代えて,A乙10発明の「凸部を粗面化せる凹凸」を採用するか,又
は,A乙11発明の「多数の小突起からなるドット(1)」を採用するこ
とは,当業者にとって容易に想到できることである。
eまた,A乙11発明には,「もちろんこの発明は,以上の例によっ
て限定されるものではない。屋根下地材の構成,不織布の種類,ドッ
トの形状およびその加工法,また各層の配設法等の細部については様々
な態様が可能であることはいうまでもない。」との記載(3頁3欄1
9行~4欄2行)がある。
そうすると,引用発明1の「うね状突起」に代えて,A乙10発明
の「凸部を粗面化せる凹凸」を採用するか,又はA乙11発明の「多
数の小突起からなるドット(1)」を採用するに当たり,防滑性及び把持
力を高めるために,特開平5-64840号公報(A乙31。以下「A
乙31文献」といい,これに記載された発明を「A乙31発明」とい
う。)に記載されているように,すべり止め突起5として,下部が大
径で上部が小径とされ所定の高さだけ2段階に突出した四角形状や円
形状のすべり止め突起5を採用することも,当業者にとって容易に想
到できることである。
(イ)相違点2について
A乙10文献には,その図面に示されるように,複数の凹凸2が所定
の単位面積中に複数個存在するように配置した点がそのまま開示されて
いる。また,A乙11文献の図2には,多数の小突起からなるドットを
所定の単位面積中に複数個存在するように配置して全面に等方的に設け
た点がそのまま開示されている。
そうすると,相違点2は,引用発明1にA乙10発明及びA乙11発
明を組み合わせることで自ずと解消されるものにすぎない。
(ウ)そうすると,A乙10文献に記載されているように,「屋根下地材上
に屋根材を載置して屋根を吹き上げる時に作業者が足を滑らすおそれ」
をなくすために,引用発明1の通気,排水用うね状突起の代わりに,A
乙10発明の凹凸を設けるか,又は熱可塑性樹脂シート表面にA乙10
文献に記載の「凸部を粗面化せる凹凸」に代えて,凸部の表面にA乙1
1文献に記載された「小突起からなるドット」を設けるとともに,当該
「ドット」の形状として,A乙12文献の「ドットの形状・・・につい
ては種々な態様が可能であることはいうまでもない。」との記載に基づ
いて,引用発明1の「ドット」として,凸部の表面に円柱形状の突起を
設け,結果的に2段階に突出した突起形状を採用することは,当業者に
とってさほど困難性を伴うことなく想到できることである。
エそうすると,本件発明は,引用発明1,A乙10発明,A乙11発明に
基づいて当業者が容易に想到することができたものであり,特許法29条
2項に該当するものであるから,本件特許は,特許無効審判により無効に
されるべきものである(特許法第104条の3)。
(2)B乙4(A乙11)を主引例とする無効主張
ア特開平4-371644号公報(B乙4,A乙11。以下「B乙4文献」
といい,これに記載された発明を「引用発明2」という。)には,次のと
おり記載されている。
a軟質性合成樹脂のシート状基材の下面に紙を一体的に接合して成り屋
根の野地板上に敷く屋根下地材において,
b上記シート状基材の上面には,多数のすべり止めドットを一体的に形
成すると共に,
cこれらのすべり止めドットを所定の単位面積中に複数個存在するよう
に配置して全面に等方的に設けたことを特徴とする屋根下地材
なお,引用発明2において,屋根下地材に多数のドットを設けた目的は,
「瓦葺き作業の安全性」(1欄34行)を含む瓦のすべり止め機能の向上
にある(2欄25行)。
イ本件発明と引用発明2との対比
引用発明2の構成aは,上面に紙を一体的に接合した点を除き,構成要
件Aと一致する。引用発明2の構成bは,すべり止めドットが,「下部が
大径で上部が小径とされ所定の高さだけ2段階に突出」している点を除き,
構成要件Bと一致する。引用発明2の構成cは,構成要件Cと一致する。
また,作用効果の点においても,瓦葺きの作業者のすべり止め機能を向上
させ,安全性を向上させる点において共通する。
したがって,両発明の相違点は,次の2点である。
〔相違点1〕
本件発明では,屋根下地材の上面に紙を一体的に接合した構成を有する
(構成要件A)のに対し,引用発明2は,屋根下地材の上面に紙を一体的
に接合するか否かが不明である点
〔相違点2〕
本件発明では,下部が大径で上部が小径とされ所定の高さだけ2段階に
突出した多数のすべり止め突部を有する(構成要件B)のに対し,引用発
明2は,多数のすべり止めドットが,下部が大径で上部が小径とされ所定
の高さだけ2段階に突出しているか不明である点
ウ相違点1(上面にも紙を接合する構成)について
屋根下地材の上下両面に紙を一体的に接合することは,周知技術である
から(B乙7ないし11),当業者が相違点1に係る構成を想到すること
は容易である。
エ相違点2(突部が2段階に突出する構成)について
すべり止め用の突部を設けるときに,当該突部を1段よりも2段にした
方がすべり止めの効果が大きくなることは,摩擦力に関する技術常識であ
る。すなわち,すべり止め突部において「下部が大径で上部が小径とされ
所定の高さだけ2段階に突出」している構成は,特開昭53-82026
号公報(B乙29。以下「B乙29文献」という。)及び実願平4-32
363号(実開平6-20642号)のCD-ROM(B乙30。以下「B
乙30文献」という。)に記載されているように,建物や構造物の建築の
分野において周知であるだけでなく,特開平5-64840号公報(B乙
14。以下「B乙14文献」という。),実願昭58-42722号(実
開昭59-14953号)のマイクロフィルム(B乙15。以下「B乙1
5文献」という。),株式会社学習研究社発行「タミヤRC30年間の全
記録」(B乙16。以下「B乙16文献」という。),特開平6-786
53号公報(B乙31。以下「B乙31文献」という。),実願昭57-
112452号(実開昭59-16479号)のマイクロフィルム(B乙
32。以下「B乙32文献」という。)に記載されているように,すべり
止め突部を有する製品の分野において周知である。したがって,当業者が,
本件発明における小径とされた部分がなく1段階であるすべり止め突部を,
周知であるところの下部が大径で上部が小径とされ所定の高さだけ2段階
に突出するすべり止め突部にすることには,何ら困難性はなく,当業者が
相違点2に係る構成を想到することは容易である。
オそうすると,本件発明は,引用発明2,周知技術及び技術常識等に基づ
いて当業者が容易に想到できたものであるから,特許法29条2項に該当
するものであり,本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきもの
である(特許法104条の3)。
〔原告の主張〕
(1)A乙12文献を主引例とする無効主張について
ア引用発明1の認定
(ア)引用発明1は,A乙12文献の記載からみて,その実用新案登録請求
の範囲に記載された事項であって,これを構成要件に分説すると,次の
とおりである。
A半硬質の合成樹脂基材の両面に紙が接合されているシート材におい
て,
B少なくとも一面は紙と基材が圧着一体化して成る規則的又は不規則
的うね状突起を有し,
C該うね状突起がおおむね一方向に並んでいる
D屋根下地材。
(イ)作用効果
上記構成を採用することにより,引用発明1は,上層にうね状突起を無
数に設けることで,基材と表層との一体化が物理的に強化され,施工時
において紙が破れたり又は剥離したりせずに,滑ることなく作業の安全
を確保することが可能となる。
イ本件発明と引用発明1との対比
(ア)一致点
本件発明と引用発明1とは,上記構成要件Aの一部及び上記構成要件
Dについて一致している。すなわち,シート状基材の上下両面に紙を一
体的に接合すること,及び屋根の野地板上に敷く屋根下地材であること,
の点で一致する。
(イ)相違点
本件発明と引用発明1とは,次の点で相違する。
〔相違点A〕
シート状基材の材質について,本件発明では軟質性合成樹脂を採用す
る(構成要件A)のに対し,引用発明1では半硬質の合成樹脂を採用し
ている点
〔相違点B〕
本件発明では,シート状基材の上面には,下部が大径で上部が小径と
され所定の高さだけ2段階に突出した多数のすべり止め突部を一体的に
形成している(構成要件B)のに対し,引用発明1では,シート状基材
の少なくとも一面に紙と基材が圧着一体化して成る規則的又は不規則的
うね状突起を有している点
〔相違点C〕
本件発明では,すべり止め突部を所定の単位面積中に複数個存在する
ように配置して全面に等方的に設けている(構成要件C)のに対し,引
用発明1では,うね状突起がおおむね一方向に並んでいる点
ウ各相違点の検討
上記の各相違点について,被告らは,A乙10文献,A乙11文献及び
A乙31文献を引用して,本件発明は当業者が容易に想到できるものであ
ると主張するが,次のとおり,少なくとも相違点A及びBにつき失当であ
る。
(ア)相違点Aについて
シート状基材の材質が軟質であるか半硬質であるかによって,折曲性
能や敷設の際の作業性等に少なからず影響を及ぼすことは明らかである
ところ,被告らは,相違点Aを看過している。
(イ)相違点Bについて
a被告らは,引用発明1のうね状突起に代えて,A乙10発明の「凸
部を粗面化せる凹凸」を採用するか,又は,A乙11発明の「多数の
小突起からなるドット」を採用することで,本件発明を容易に想到し
得る旨主張する。
しかし,本件発明は,単にシート状基材に凹凸を設けるだけで成立
するものではない。本件発明は,シート状基材の上面に,下部が大径
で上部が小径とされ,かつ,所定の高さだけ2段階に突出した多数の
すべり止め突部を一体的に形成して,以上をもって初めて成立するも
のである。
そうすると,引用発明1にA乙10発明,若しくはA乙11発明を
適用してもなお,本件発明を容易に想到し得ないことは明らかである。
bなお,被告らは,A乙31文献を引用し,A乙10発明の「凸部を
粗面化せる凹凸」あるいはA乙11発明の「多数の小突起からなるド
ット」にA乙31発明の2段突起を採用することは容易であり,当業
者は,構成要件Bの2段階に突出した多数のすべり止め突部を一体的
に形成することも容易に想到し得る旨主張する。
しかし,A乙31発明は,履物の底面形状についての技術である。
被告らは,屋根下地材のすべり止め効果と関連付けて,該履物と屋根
下地材とがあたかも同一分野あるいは密接な関連分野であるかのよう
に主張するが,屋根下地材とは分野を全く異にするものであるから,
被告らの上記主張は失当である。
(2)B乙4文献を主引例とする無効主張について
ア被告らの主張する相違点のうち,少なくとも前記相違点2については,
当業者が,引用発明2,周知技術及び技術常識等に基づいて本件発明を容
易に想到し得たということはできない。すなわち,被告らの提出するB乙
4文献のほか,B乙14ないしB乙16,B乙29ないしB乙32の各文
献を見ても,これらの発明には,単に,すべり止め用の2段突起が図示さ
れていて,「二段とした方がすべり止め効果が向上する」という記述が記
載されているにすぎず,2段突起の具体的な形状や寸法についてまで言及
した記載やその示唆をする内容は何ら開示されていない。なお,B乙31
文献には,寸法について具体的に記載されているが,B乙31文献に記載
の突起は,釣竿の握部に形成され,直接手の平に触れるものであることか
ら,手が痛くならないようにしつつすべり防止を検討するなど,本件発明
とは解決課題を異にするものである。また,B乙31文献に記載の突起は,
その具体的な構成を見ても,B乙31文献の第2欄第39行目ないし第3
欄第15行目に記載されるとおり,極めて微細な寸法の突起であり,その
すべり止め効果を得る対象物が相違しているし,その課題を解決するため
の具体的手段としてスクリーン印刷で形成する手段を採用している点にお
いても大きく相違している。
イまた,B乙14文献,B乙15文献及びB乙32文献の各先行技術文献
の図面には2段突起が記載されているが,これらの技術分野は,それぞれ
運動靴,カーマット及びラグマットであって,屋根下地材とは技術分野を
異にしており,異なる技術分野である屋根下地材の技術を組み合わせるこ
とには阻害要因がある。
ウしたがって,本件発明は,引用発明2との対比において,本件特許の出
願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明
をすることができたものであるとはいえず,特許法29条2項の規定には
該当しない。
3争点(3)(被告亀山社中の過失の有無)について
〔被告亀山社中の主張〕
本件では,原告が製造販売する「ゴールドチャンピオン」(以下「本件原告
製品」という。)は本件発明の技術的範囲に属しないことを原告自ら表明して
いたこと,ゴールドレボは本件原告製品と同様の製品であること,原告は,ゴ
ールドレボを実際に入手した後もしばらくの間はゴールドレボが本件発明の技
術的範囲に属しないと考えていたこと,特許の専門家である弁理士においても
ゴールドレボが本件発明の技術的範囲に属しないとの判断を下していたこと,
被告亀山社中は,原告の上記判断に基づいてゴールドレボの販売を決断したも
のであるという事情が存する。以上の事情に基づけば,被告亀山社中がゴール
ドレボの販売を開始した平成19年11月時点はもとより,同年12月27日
付け通知書(A乙55)及び平成20年2月4日付け警告書(A甲7の1)を
受領した時点においても,被告亀山社中にはゴールドレボの販売が本件特許権
を侵害するものであることを認識する期待可能性はなく,特許法103条の過
失の推定は覆されるべきである。
〔原告の主張〕
被告亀山社中の主張する事実はすべて否認する。少なくとも,警告書(A甲
7の1)が特許権侵害を警告したものであることはその記載から明らかであり,
被告亀山社中が本件特許権の侵害についての認識を有していたことは明白であ
る。
4争点(4)ア(ア)(ゴールドレボについての特許法102条1項による損害額)
について
〔原告の主張〕
(1)ゴールドレボの売上本数は,平成19年11月から平成20年2月まで
の間で,5220本である。
本件原告製品1本当たりの製造単価は,次のとおりとなる。
ア製造に関する原価約1415.13円
内訳原材料費樹脂につき約799.14円
紙につき約326.6円
電気代約80.54円
人件費約208.85円
イ梱包・出荷準備費用約23.34円
ウ運賃約256.86円
エその他諸経費約11.31円
内訳工場用地代約8.09円
フォークリフト代約3.22円
オ以上合計約1707円
そして,本件原告製品1本当たりの製造単価を1707円として,こ
れに基づいて,請求明細書(A甲13)記載の平成19年9月から平成
20年5月までの期間に係る本件原告製品の売上利益を算定すると,8
68万8113円となる。これを当該期間の本件原告製品の販売本数8
066本で除すると,1077円となる。
したがって,特許法102条1項による原告の損害額は,上記107
7円に5220本を乗じた562万1940円となる。
(2)被告らの主張に対する原告の反論
ア本件原告製品1本当たりの利益額の算定につき
この点に関して被告らは,原価として本社経費や営業経費等も計上すべ
きである旨主張する。
しかし,本社経費や営業経費をも原価として算定するのは,本件におけ
る損害額の算定として不正確であって,被告らの主張は失当である。
イ損害との因果関係につき
この点に関して被告らは,原告が多量の不良品を製造していて市場の
需要を満たせなくなる一方で,被告らは,ゴールドレボを製造・販売す
ることによって市場の需要に応えていたのであるから,本件原告製品の
売上の低下は,被告らがゴールドレボを製造・販売していたこととは因
果関係がないと主張する。
しかし,原告は,本件原告製品の不良品を大量に製造した事実はない。
被告らがゴールドレボを製造・販売したことにより,原告は本件原告製
品の市場機会を奪われたのであり,ゴールドレボの販売と本件原告製品
の売上低下に因果関係が存在することは明らかである。
また,被告らは,民訴法224条1項又は2項及び3項の適用により,
被告らによるゴールドレボの製造・販売は,原告による本件原告製品の販
売量の減少について,何らの因果関係を有していないとの被告らの主張が
認められるべきである旨主張するが,原告は,手元に現存する文書を全て
提出しており,一部の未提出文書は原告の不注意によって散逸したもので
あるから,いずれの適用も認められるべきではない。
ウ「実施の能力」につき
被告らは,原告が多量の不良品を製造していて,現に販売した数量以
上の本件原告製品を製造することができなかったことを理由に,被告ら
によるゴールドレボの売上は,全て原告の「実施の能力に応じた額」(特
許法102条1項本文)を超えた部分であると主張する。
しかし,原告は,技術者が退職した平成19年10月以降も,熟練の
技術者が工場で稼働していて,十分な製造能力を備えていたし,樹脂の
適正な配合により不良品の製造は少なかったのであるから,ゴールドレ
ボの売上本数全部について「実施の能力」を有していたことは明らかで
ある。
エ「販売することができないとする事情」について
(ア)被告らは,本件原告製品は不良品率が高く,そのために顧客が流出
したこと,本件原告製品には競合品があり,市場における原告製品の
シェアは30パーセント程度であったことなどを理由として,それら
の事情が特許法102条1項の「販売することができないとする事情」
に当たると主張する。
しかし,同条項の立法趣旨に照らせば,同条項は,排他的独占権と
いう特許権の本質に基づき,侵害品と権利者製品が市場において補完
関係に立つという擬制の下に設けられた規定であるから,同項ただし
書の「販売することができないとする事情」とは,具体的には①天災
等により必要不可欠の部品の供給等が途絶えて生産ラインが止まり,
あるいは原材料が払底してしまい,その事情が特許権の存続期間中に
は解消できない場合,②侵害行為の後に当該特許発明の実施に何らか
の法的規制が行われ,その実施が法的に禁止されるか又は制限された
場合,③侵害行為の後,新たに画期的な新技術が開発され,当該特許
発明が陳腐化して市場における販売に限界が生じた場合等,市場機会
の喪失とさえも評価できないような特別の事情のある場合をいうので
あって,本件原告製品の不良品率の高さとか,侵害者の営業努力とか,
競合製品の存在等は上記「販売することができないとする事情」には
含まれないというべきであるから,被告らの上記主張は失当である。
(イ)仮に上記(ア)が認められないとしても,以下のとおり,この点に関す
る被告らの主張は失当である。
a被告らは,原告の技術者が大量に退職した平成19年10月以降,
原告の技術力が著しく低下したと主張する。
しかし,平成19年9月に,原告の技術者6名のうち4名が退職し
たことはあるが,平成19年11月から平成20年2月までの期間に
おいて,原告技術者が多数退職したという事実はなく,技術力が著し
く低下したという事実はない。また,原告代表者も,樹脂の配合等に
関し専門的な知識を有している。
b被告らは,原告が,平成19年11月頃から平成20年2月頃ま
で劣化した樹脂を使って不良品を大量に生産したと主張する。
しかし,そもそもそのような事実はない。原告は,樹脂の仕入先
である株式会社大誠樹脂(以下「大誠樹脂」という。)と,継続的
に,仕入れた樹脂に対する物性試験を行っていたのであり(A甲7
4,80~83),不良品を大量に製造し続けることはあり得ない。
cまた,原料となる樹脂の配合の誤りや機械の調子等の関係で,若干
の不良品が発生したことはあるが,その割合はせいぜい1.25パー
セント程度であり,不良品率が約50パーセントにも上ったという事
実はない。
オ寄与率について
被告らの寄与率に係る主張はいずれも否認ないし争う。
〔被告らの主張〕
(1)本件原告製品1本当たりの利益額について
ア原告は,本件原告製品の利益額を主張しているのであるから,その計
算には,本件原告製品の販売単価のみを用いるべきであるところ,A甲
5には,本件原告製品以外の原告製品も含まれており,どのような資料
に基づいてどのような経緯で作成された書類であるかが不明であり,信
用性がない。
イ本件原告製品の平均販売価格は,2800円である。
本件原告製品の原価率は,92.3パーセントであるから,その原価は
約2584円となり,本件原告製品1本当たりの得べかりし利益は,せ
いぜい216円である。
ウなお,費目別に計算するときは,本件原告製品の1本当たりに要する
費用の単価は,次のとおり,約3141円となる。
(ア)製造に関する原価1710円
内訳原材料費樹脂1001円
紙351円
電気代1本当たり150円
人件費1本当たり208円
(イ)機械償却費及びリース代・工場設備費約260円
(ウ)その他諸経費(製造原価の1割)約171円
(エ)運賃及び梱包費1本当たり400円
(オ)本社経費400円
(カ)営業経費200円
(キ)以上合計約3141円
(2)損害との因果関係について
原告は,被告らがゴールドレボを製造・販売していた平成19年11月
から平成20年2月までの期間において,多量の不良品を製造していて,
市場の需要を満たせなくなり,代替品が求められていた。被告らは,かか
る市場の状況の下でゴールドレボを製造・販売して,市場の需要に応えて
いたのであるから,本件原告製品の売上の低下は,被告らがゴールドレボ
を製造・販売していたこととは因果関係がない。
また,被告亀山社中が文書提出命令の申立てをして,当庁が原告に確定申
告書等の提出を命じたにもかかわらず,原告はこれに従わないで確定申告書
等の一部を提出していないから,民訴法224条1項又は2項及び3項の適
用により,被告らによるゴールドレボの製造・販売は原告による本件原告製
品の販売量の減少について何らの因果関係を有していないとの被告らの主張
が認められるべきである。
(3)「実施の能力」について
原告は,多量の不良品を製造していて,現に販売した数量以上の本件原
告製品を製造することができなかったから,被告らがゴールドレボを製造
・販売していた平成19年11月から平成20年2月までの期間において
は,原告の販売数量が原告の実施能力の上限であった。
したがって,ゴールドレボの売上は,全て原告の「実施の能力に応じた
額」(特許法102条1項本文)を超えた部分であり,原告は被告らに対
して損害として賠償を求めることはできない。
(4)「販売することができないとする事情」について
ア原告には,平成19年11月から平成20年2月までの間,原告の技
術者が多数退職したこと,原料の樹脂に著しく劣化した樹脂を使用した
ことなどによって,本件原告製品において不良品が多数発生し,多くの
顧客を失ったという事情がある。
すなわち,原告の決算書類(A乙76ないし79)に基づいて計算す
ると,本件原告製品の不良品率は,被告らがゴールドレボを製造・販売
した平成19年11月から平成20年2月までの間,80パーセント超
であった。
また,本件においては,屋根下葺材業界に複数の業者が参入していて,
本件原告製品と価格帯が共通する複数の競合品が市場で流通していたも
のであり,また,本件原告製品のシェア,ゴールドレボの品質,被告ら
の営業努力,本件発明の本件原告製品の売上げに対する寄与等も,被告
らが売り上げた売上本数の全部又は一部に相当する数量を「販売するこ
とができないとする事情」に当たる。
したがって,被告らは,ゴールドレボを5220本製造し販売したが,
上記の事情を考慮すると,原告が本件原告製品を同数製造・販売できた
と仮定すべきではなく,その約90パーセントが,「特許権者・・・が
販売することができない・・・」とされるべきである。
イ原告の主張に対する反論
原告は,特許法102条1項ただし書の「販売することができないと
する事情」とは,市場機会の喪失とさえも評価できないような特別の事
情のある場合をいうのであって,本件原告製品の不良品率の高さとか,
侵害者の営業努力とか,競合製品の存在等は上記「販売することができ
ないとする事情」には含まれないと主張する。
しかし,同条項の立法趣旨からすれば,同条項に基づく損害額の算定
に当たっては,侵害者の営業努力や代替品の存在等の事情はもちろんの
こと,権利者製品の売り上げ減退という形で生じる損害と侵害行為との
因果関係を阻害しうる一切の事情を「販売することができないとする事
情」として考慮すべきであって,原告の上記解釈は明らかに誤りである。
(5)寄与率について
本件発明は,その作用効果,すなわち防滑性の点において,レボ1のよ
うに1段階構成を有するものと比較しても実用的な差がない。また,顧客
は,本件原告製品について,その構成をほとんど認識していないか,若し
くは全く評価しておらず,被告亀山社中がゴールドレボの販売を終了して
レボ1の販売に切り替えた際に,突起が2段階構成でなくなることを理由
に,購入をレボ1から本件原告製品に切り替えた業者は皆無であった。さ
らに,本件原告製品の競業品がいずれも突起が1段階構成を有するもので
あったこと,原告が自ら,本件原告製品の上記構成によって防滑性能が高
いことについては一切宣伝しておらず,宣伝において特許番号を付すこと
もしなかったことからすると,本件発明が顧客の選択に影響を与えた程度
はごくわずかであり,本件原告製品の利益に対する本件発明の寄与率は,
せいぜい10パーセントというべきである。
5争点(4)ア(イ)(ゴールドレボについての特許法102条3項による損害額)
について
〔原告の主張〕
前記4の特許法102条1項に基づく損害算定が認められないとしても,少
なくとも特許法102条3項に基づく実施料相当額の損害が認定されるべきで
ある。
(1)被告亀山社中の売上高
アゴールドレボの定価
被告亀山社中は,平成19年12月,ゴールドレボを1636本販売し,
459万1650円の売上を上げたものであり(A乙1),また,平成2
0年1月,ゴールドレボを900本販売し,254万1000円の売上を
上げたものである(A乙5)。
そうすると,ゴールドレボの定価の平均額は,
713万2650円÷2536本=2,812.5591・・・
≒2813円
である。
イゴールドレボの売上額
そうすると,被告亀山社中が平成19年11月から平成20年2月まで
に販売した本製品の本数は5220本であるから,この期間のゴールドレ
ボの推定売上額は,
2813円×5,220本=1468万3860円
である。
(2)相当実施料率
本件発明の技術分野,原告と被告らとの関係性等に鑑みれば,本件発明実
施について相当な実施料率は,ゴールドレボの売上額の30パーセントを下
るものではない。
そうすると,本件における相当実施料は,
1468万3860円×0.3=440万5158円
を下るものではない。
したがって,仮に特許法102条1項に基づく損害算定が認められないと
しても,同3項に基づく損害算定により,被告らは,原告に対して,440
万5158円の損害賠償責任を負っているというべきである。
〔被告らの主張〕
原告の上記主張は争う。
6争点(4)イ(レボ1についての損害額)について
〔原告の主張〕
被告らは,レボ1を1本当たり平均2800円で販売しているところ,原告
において製造販売している同種製品の製造原価は,平均1700円である。そ
して,被告らは,取引先に対して,レボ1を1月当たり1500本販売してい
る。
そうすると,被告らの1月当たりの利益は,165万円となり,被告らは,
レボ1を平成20年2月から平成21年11月まで販売しているから,レボ1
によって3630万円の利益を上げていることとなる。
したがって,特許法102条1項により,同額が,被告らによるレボ1の製
造販売によって原告の被った損害額であると推定される。
〔被告らの主張〕
原告の上記主張は争う。
7争点(5)(原告の行為は,虚偽告知等の不正競争行為(不競法2条1項14
号)に当たるか)について
〔被告らの主張〕
原告は,以下のとおり,被告らの営業上の信用に関する各事実の告知及び
流布行為を行った。これらの原告による各告知行為及び流布行為が,不競法
2条1項14号に基づく被告らの営業上の信用を害する虚偽の告知・流布行
為に該当することは明らかである。
(1)ア原告代表者は,常陸屋根材センターのM氏に対し,「亀山社中が屋
根下葺材製品を販売する際に,同社製品にチャンピオンの社名を示すラ
ベルを貼って,チャンピオン製造であるかのように偽造して販売してい
るため,チャンピオンの製造・販売する製品に不良品が多数発生してい
る。」との発言を行った(以下「告知行為(1)①」という。)。
イ原告代表者は,平成20年4月頃,栃木県瓦工事業組合連合会が主催
する総会の際,同連合会会長であるS氏や屋根施工業者らに対して,「チ
ャンピオンを退職した従業員が,退職前に不良品を大量に生産したため,
チャンピオンの製造・販売する製品に不良品が多数発生した。」との発
言を行った(以下「告知行為(1)②」という。)。
(2)原告は,平成20年2月頃から平成20年9月頃までの間に,被告らの
取引先に対して,「亀山社中の屋根下葺材はチャンピオンの特許を侵害し
ている。」(以下「告知行為(2)①」という。),「亀山社中の商品は,特
許違反品なので販売すると損害賠償の対象となるから,購入はやめたほう
が良い。」との告知をした(以下「告知行為(2)②」という。)。
(3)原告代表者は,平成20年中頃,被告らの取引先の代表取締役に対して,
「亀山社中の大谷は,背任罪と窃盗罪の罪で刑務所に入っている。」など
と発言した(以下「告知行為(3)」という。)。
(4)原告は,被告らの取引先に対し,「亀山社中はもうすぐ倒産するため,
今後保証を受けることができなくなるから同社製品は買わない方がよい。」
との告知を行った(以下「告知行為(4)」という。)。
(5)原告は,平成19年(2007年)11月12日付け及び平成21年(2
009年)10月付けで,自社のウェブページにおいて,「チャンピオン
ルーフィングシリーズの模造品並びに特許侵害商品が市場で流通していま
す。」との記事を掲載した(以下「流布行為(1)」という。)。
(6)ア原告は,「弊社模造品に対する特許侵害損害賠償事件において,弊社
が全面勝訴の運びとなりました。」(B乙20,6頁)という記事をウェ
ブページに掲載した(以下「流布行為(2)①」という。)。
イ原告は,「弊社模造品に対する特許侵害損害賠償事件において,特許
庁より侵害判定がされました。」(B乙21,4頁)という記事をウェ
ブページに掲載した(以下「流布行為(2)②」という。)。
(7)原告は,平成21年6月5日に,「現行製品の『レボ1』や『レボ3』に
関しましても,特許庁での判定請求を行っています。(遅くとも年内には判
明いたします)今回の判定の内容を勘案しますと,現行製品につきましても,
弊社特許権に属する可能性が非常に高いものであると考えられます。・・・
また現状では,現行の上記該当模造品を販売すると損害賠償請求の対象にな
る可能性が非常に高いことから,そのお取扱には十分ご注意いただき,慎重
なご判断とご検討をしていただくことについて,業界内でのお呼びかけをよ
ろしくお願い申し上げます。」と記載された文書を,多くの顧客に送信した
(以下「流布行為(3)」という。)。
〔原告の主張〕
被告らの上記主張は,いずれも否認ないし争う。被告らが主張するような告
知行為はそもそも存在しておらず,原告は,虚偽の告知行為,流布行為を行っ
ていない。
8争点(6)(原告による本件訴訟の提起及び本件仮処分命令の申立ては不当提訴
として不法行為といえるか)について
〔被告らの主張〕
原告は,乙事件本訴請求が事実的,法律的根拠を欠くことを知っており,
又は通常人であれば容易にそのことを知り得たにもかかわらず,乙事件本訴
を提起し,本件仮処分命令の申立てをしたものである。すなわち,レボ1につ
いて本件特許の技術的範囲に属するかどうかを判断するために必要なのは,
レボ1に設けられた突起が1段か2段かという常識的判断だけであったもの
である。それにもかかわらず,レボ1について乙事件本訴を提起した原告は,
特許侵害訴訟が係属中であるという事実を営業に用いるためだけに乙事件本
訴を提起し,本件仮処分命令の申立てをしたというべきであって,原告にお
いては不純な動機があったといわざるを得ない。
以上のとおり,原告による乙事件本訴の提起及び本件仮処分命令の申立て
は,裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くことは明らかであり,
不法行為を構成する不当訴訟に該当することは明白である。
〔原告の主張〕
被告らの上記主張は否認ないし争う。
9争点(7)(損害の有無及びその額)について
〔被告らの主張〕
被告らは,次の(1),(2)の損害を被った。
(1)不正競争による損害
ア逸失利益(各1260万円,連帯債権)
原告が,被告亀山社中の取引先であった常陸屋根材センターに対して告
知行為(1)①,②及び告知行為(3)を行った結果,常陸屋根材センターは,
一旦成立した被告亀山社中とのゴールドレボやレボ1,「REVO2」,
「REVO3」,「REVO4」といった商品(以下,併せて「被告製品」
という。)の取引を解消した。同取引は,少なくとも毎月100万円の売
上げを伴うものであり,原告の上記告知行為により解消されなければ,遅
くとも平成20年4月以降,平成21年12月に至るまで,被告亀山社中
は,少なくとも毎月100万円,合計2100万円の売上を計上できたは
ずであり,被告製品を製造する被告チャンピオン化成においても,これに
対応する売上を計上できたはずである。
しかるに,原告の常陸屋根材センターに対する原告製品の販売価格は1
本当たり3000円を下らないところ,原告製品の製造原価は1本当たり
1200円以下である。そうすると,1本当たりの利益額は1800円で
あり,利益率は60パーセントである。
したがって,原告が上記不正競争によって得た利益は,1260万円(2
100万円×60パーセント)であるから,同額が,被告らが原告の不正
競争によって被った損害額と推定される。
イ信用毀損(被告亀山社中1000万円,被告チャンピオン化成500万
円)
被告亀山社中は,被告亀山社中の取引先を対象とした,悪質な告知行為
及び流布行為により,社会的信用を著しく害された。そして,原告の告知
行為,流布行為が,遅くとも平成20年2月頃からおよそ2年弱の期間に
わたって継続されてきたこと,前記常陸屋根材センターにおける損害額,
その他にも被告亀山社中が取引に至らなかった事例があること(岐阜県所
在の矢橋林業株式会社)を考慮すれば,上記信用毀損によって被告亀山社
中が被った損害額は,1000万円を下らない。また,同様に,被告チャ
ンピオン化成が被った信用毀損による損害額は,500万円を下らない。
(2)不当提訴による損害(各500万円)
被告らは,原告から特許権を侵害したことを理由に本件訴訟提起をされる
ことにより,名誉及び信用が毀損された。また,被告らの代表者及び従業員
一同は,本件訴訟の提起により,精神的に大きな損害を被った。これらの信
用毀損及び精神的損害の総額は,各被告らにつきそれぞれ500万円を下ら
ない。
(3)弁護士費用(各550万円,連帯債権)
上記(1),(2)につき,被告らは,被告ら代理人弁護士に対し,本訴等のほ
か反訴の提起及び訴訟追行を委任し,着手金及び成功報酬金として各550
万円を支払うことを約した。
(4)合計
以上によれば,原告の上記行為により,被告亀山社中は合計2810万円,
被告チャンピオン化成は合計2310万円の損害を被ったものである(この
うち1810万円については被告らの原告に対する連帯債権である。)。
〔原告の主張〕
被告らの上記主張は否認ないし争う。被告らには,原告の行為と相当因果関
係のある損害は発生していない。
第4当裁判所の判断
1本件発明の意義
(1)本件明細書等には,次の記載がある。
【産業上の利用分野】
・「本発明は,屋根の瓦ぶきの際に野地板上に敷く屋根下地材に関し,特に
上記野地板上に敷かれた屋根下地材の上面にのって瓦ぶき作業をするのに
作業者の足のすべり止め効果を発揮することができる屋根下地材に関する。」
(段落【0001】)
【従来の技術】
・「従来,・・・屋根の瓦ぶきをするのに使用する屋根下地材3は,・・・
例えば軟質性合成樹脂のシート状基材の上下両面に紙を一体的に接合して
成っていた。或いは,実公昭54-32824号公報に記載されているように,半
硬質合成樹脂のシート状基材の上下両面に紙を接合すると共に,少なくと
もその一面はシート状基材と紙とが接着剤を介さずに圧着一体化されてお
おむね一方向に並んだうね状突起を有して成っていた。」(段落【000
2】)
【発明が解決しようとする課題】
・「しかし,このような従来の屋根下地材3においては,その上面はおおむ
ね平らに形成されていたので,野地板2上に敷かれた屋根下地材3の上面
にのって瓦ぶき作業をするのに,作業者の足がすべることがあった。・・
・」(段落【0003】)
・「・・・実公昭54-32824号公報に記載された屋根下地材は,その上面にお
おむね一方向に並んだうね状突起を有しているが,このうね状突起は屋根
からの漏水を軒方向に案内して流下せしめるものであり,その方向性はお
おむね屋根の棟から軒に向かって上下方向に伸びるように位置付けられる
ものであった。従って,この屋根下地材の上面にのって瓦桟を打ち付けた
り,瓦を並べたりする作業において,作業者の足のすべり止めの効果はほ
とんど期待できず,やはり安全性の確保が十分にできないものであった。」
(段落【0004】)
・「そこで,本発明は,このような問題点に対処し,野地板上に敷かれた屋
根下地材の上面にのって瓦ぶき作業をするのに作業者の足のすべり止め効
果を発揮して作業の安全性を向上することができる屋根下地材を提供する
ことを目的とする。」(段落【0005】)
【課題を解決するための手段】
・「上記目的を達成するために,本発明による屋根下地材は,軟質性合成樹
脂のシート状基材の上下両面に紙を一体的に接合して成り屋根の野地板上
に敷く屋根下地材において,上記シート状基材の上面には,下部が大径で
上部が小径とされ所定の高さだけ2段階に突出した多数のすべり止め突部
を一体的に形成すると共に,これらのすべり止め突部を所定の単位面積中
に複数個存在するように配置して全面に等方的に設けたものである。」(段
落【0006】)
【作用】
・「このように構成された屋根下地材は,シート状基材の上面に所定の高さ
だけ2段階に突出して一体的に形成された多数のすべり止め突部により,
野地板上に敷かれた屋根下地材の上面にのって瓦ぶき作業をする作業者の
足のすべり止め効果を発揮する。このとき,上記すべり止め突部の下部大
径突部で踏み感の安定性を維持し,上部小径突部で作業者の作業靴下面に
くいつき状となりすべり止め効果を増大させる。また,上記すべり止め突
部は,所定の単位面積中に複数個存在するように配置されていることから,
屋根下地材の上面に打ち付けられる所定幅の瓦桟をその幅方向において複
数個のすべり止め突部で支持することとなり,打ち付け状態の瓦桟が幅方
向にぐらつかないように安定させる。」(段落【0009】)
【実施例】
・「以下,本発明の実施例を添付図面に基づいて詳細に説明する。図1は本
発明による屋根下地材の実施例を示す斜視図である。この屋根下地材6は,
図8に示すように屋根の瓦ぶきの際に野地板2上に敷くもので,図1に示
すように,シート状基材7の上下両面にそれぞれ紙8,9が一体的に接合
されている。上記シート状基材7は,本発明の屋根下地材6の芯材となる
もので,例えばポリエチレンなどの軟質性合成樹脂により厚さ0.5~1mm
程度のシート状に形成されている。また,紙8,9は,上記シート状基材
7の上下両面を覆う表面材となるもので,例えばクラフト紙からなり,該
シート状基材7の上面及び下面にそれぞれ一体的に接合されている。この
ような屋根下地材6の全体的な寸法は,例えば幅が1m前後とされ,長さ
が約21m,42mなどとされている。」(段落【0010】)
・「ここで,本発明においては,上記シート状基材7の上面に多数のすべり
止め突部10,10,・・・が一体的に形成されている。このすべり止め
突部10は,屋根の瓦ぶきの際に野地板上に敷かれた屋根下地材6の上面
にのって作業をする作業者の足のすべり止め効果を発揮するもので,図2
に示すように,下部が大径で上部が小径とされ所定の高さだけ2段階に突
出している。すなわち,下部大径突部11は,図3に示すように平面視で
直径4mm程度の円形の台座とされており,図2に示すように側断面形状は
矩形とされ,高さが約1.5mmとされている。また,上部小径突部12は,
図3に示すように上記下部大径突部11の中心部にて平面視で直径2mm程
度の円形の突起とされており,図2に示すように側断面形状は矩形とされ,
高さが約1mmとされている。従って,上記のように2段に形成されたすべ
り止め突部10の全体では,突出高さH1が約2.5mmとされている。」(段
落【0011】)
・「そして,これらのすべり止め突部10,10,・・・は,図3に示すよ
うに,所定の単位面積Sの中に複数個存在するように配置して全面に等方
的に設けられている。すなわち,屋根下地材6の上面に打ち付けられる瓦
桟4(図7参照)の幅をwとすると,この幅wを一辺とする正方形の面積
を単位面積Sとし,この単位面積S中に所定の複数個が配置されている。
具体的には,屋根下地材6の長手方向に沿って多数行設けられたすべり止
め突部10,10,・・・を,一行おきに半ピッチだけ位置をずらして千
鳥状に配置し,例えば18mm四方の面積Sの中に4個以上のすべり止め突部
10が配置されている。」(段落【0012】)
・「・・・図2に示すようにシート状基材7と紙8,9とが圧着一体化され
ると共に,上記凹型14によりすべり止め突部10が形成されて,矢印C
方向に屋根下地材6が連続的に成形流出される。このとき,図2に示すよ
うに,上面側の紙8は,上記すべり止め突部10の上部小径突部12によ
って破られて孔があくことが多いが,その周りの部分は下部大径突部11
の側面部等に圧着一体化されるので問題はない。」(段落【0014】)
・「・・・屋根下地材6を使用して屋根の瓦ぶきをするには,図7に示すよ
うに,屋根の傾斜に沿って野地板2を打ち付け,この野地板2の上面に本
発明の屋根下地材6を敷き,この屋根下地材6の上面に所定の間隔で軒線
と平行に瓦桟4,4,・・・を釘等で打ち付ける。このとき,作業者は,
作業靴のまま屋根下地材6の上面にのるが,図2に示すように,シート状
基材7の上面に所定の高さだけ2段階に突出した多数のすべり止め突部1
0,10,・・・により,足のすべり止めの効果を受ける。すなわち,上
記すべり止め突部10の上部小径突部12がゴム製などの靴底にくいつき
状態となり,屋根下地材6上でほとんどすべることなく,安全に瓦桟4を
打ち付けることができる。・・・」(段落【0015】)・「その後,図
8に示すように,裏面上部に引掛爪を有する瓦5の該引掛爪を上記瓦桟4
の上辺部に引っ掛けることにより,上記瓦5を滑り落ちないように掛止し
て瓦ぶきをし,屋根を形成する。このときも,作業者は,作業靴のまま屋
根下地材6及び瓦桟4の上にのりながら作業をするが,上述と同様に屋根
下地材6の上面のすべり止め突部10,10,・・・のすべり止め効果に
より,安全に瓦ぶきの作業をすることができる。」(段落【0016】)
【発明の効果】
・「本発明は以上のように構成されたので,シート状基材の上面に所定の高
さだけ2段階に突出して一体的に形成された多数のすべり止め突部により,
野地板上に敷かれた屋根下地材の上面にのって瓦ぶき作業をする作業者の
足のすべり止め効果を発揮する。このとき,上記すべり止め突部の下部大
径突部で踏み感の安定性を維持し,上部小径突部で作業者の作業靴下面に
くいつき状となりすべり止め効果を増大させることができる。従って,作
業者は,屋根下地材上でほとんどすべることなく,作業の安全性を向上す
ることができる。・・・」(段落【0019】)
(2)上記記載によれば,本件発明は,屋根の瓦ぶき作業をするのに使用して
いた屋根下地材3が,従来,その上面がおおむね平らに形成されていたの
で,野地板2上に敷かれた屋根下地材3の上面にのって瓦ぶき作業をする
のに,作業者の足がすべることがあるという技術的課題があったことから,
かかる課題を解決するため,軟質性合成樹脂のシート状基材の上下両面に
紙を一体的に接合して成り屋根の野地板上に敷く屋根下地材において,上
記シート状基材の上面に,下部が大径で上部が小径とされ所定の高さだけ
2段階に突出した多数のすべり止め突部を一体的に形成すると共に,これ
らのすべり止め突部を所定の単位面積中に複数個存在するように配置して
全面に等方的に設けるという構成を採用したことにより,これらの多数の
すべり止め突部により,野地板上に敷かれた屋根下地材の上面にのって瓦
ぶき作業をする作業者の足のすべり止め効果を発揮させ,上記すべり止め
突部の下部大径突部で踏み感の安定性を維持し,上部小径突部で作業者の
作業靴下面にくいつき状となりすべり止め効果を増大させ,もって屋根の
瓦ぶき作業をする際の作業者の作業の安全性を向上させた発明である,と
認められる。
2争点(1)(ゴールドレボ及びレボ1は,それぞれ本件発明の技術的範囲に属
するか(構成要件Bの充足性))について
(1)本件発明における「下部が大径で上部が小径とされ所定の高さだけ2段
階に突出した多数のすべり止め突部」の意義
ア前記1のとおり,本件発明は,従来の屋根下地材の上面がおおむね平ら
に形成されていたことからその上にのって瓦ぶき作業をする作業者の足が
すべることがあったという技術的課題を解決するため,屋根下地材のシー
ト状基材の上面に,下部が大径で上部が小径とされ所定の高さだけ2段階
に突出した多数のすべり止め突部を一体的に形成するとともにこれらのす
べり止め突部を所定の単位面積中に複数個存在するように配置して全面に
等方的に設けるという構成を採用し,これによって,作業者の足のすべり
止め効果を発揮させ,上記すべり止め突部の下部大径突部で踏み感の安定
性を維持し,上部小径突部で作業者の作業靴下面にくいつき状となりすべ
り止め効果を増大させるとの作用効果を生じさせるようにしたという発明
である。
かかる本件発明の意義を踏まえると,上記「・・・すべり止め突部」に
ついては,外形上,下部が大径で上部が小径というだけでは足りず,下部
と上部に区画される2段階構成と見ることができる形状であることを必要
とすると解されるから,下部と上部に区画されるといえないようなテーパ
状のものは含まれないというべきである。
そして,本件発明は「屋根下地材」に関するものであって,すべり止め
効果の対象は何ら特定されておらず,作業者が必ず屋根タビ靴を履くとも
限らないのであるから,靴底の堅さとの関係を考慮することは必ずしも必
要とはされていないとみるべきである。
したがって,突部が外形上,下部と上部に区画される2段階構成を採用
しているといえるものであれば,踏み感の安定性を維持し作業靴下面にく
いつき状になるものであって,これによって従来技術にない技術的効果(瓦
葺き作業をする際の作業者の足のすべり止め効果の発揮,増大)を生じさ
せているといえることから,上記「・・・すべり止め突部」には,そのよ
うな2段階構成を採用しているものがすべて含まれると解するのが相当で
ある。
イこの点に関して被告らは,
すべり止め突部が下部と上部に区画されるとしても,すべり止め突部が全
体として本来下部の大径部が発揮する効果のみしか発揮しない場合や,全
体として本来上部の小径部が発揮する効果のみしか発揮しない場合も,か
かるすべり止め突部は実質的には1段階構成とみなすことができるから構
成要件Bを充足しない,と主張する。
しかし,すべり止め突部が外形上下部と上部に区画される2段階構成を
採用しているといえる場合には,これによって従来技術にない上記アの技
術的効果を生じさせているというべきであるから,かかるすべり止め突部
を実質的に1段階構成とみなすことができるとして全て構成要件Bに含ま
れないということはできない。
したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
(2)ゴールドレボ及びレボ1の構成要件Bの充足性
アゴールドレボについて
(ア)証拠(A甲3,9,A乙8,検A甲1)及び弁論の全趣旨によれば,
ゴールドレボにおける突部の上部,下部の寸法については,被告らが述
べている寸法(被告らは,下部が直径約2mm,高さ約2mmの円柱形
状で,上部は直径1.5mm,高さ0.5mmの円柱形状とする〔A乙8〕。)
であっても,原告が述べている寸法(原告は,外径が約2mm,高さが
約1mmの円柱形状に形成された主たる部分と,外径が約1~1.5mm
と主たる部分よりもやや小径で,高さが約0.5mm~0.8mmの略円
柱形状に形成された上端部分,とする〔A甲9〕)であっても,その実
際の寸法から見て許容誤差の範囲内に入っているものと認められる。こ
れを前提として検討すると,ゴールドレボにおける突部の寸法について
は,その外径の差は,絶対値としては小さくても,径の差ははっきり認
識し得るものであって,2段階に突出した突部が容易に見てとれるもの
である。これによって本件発明が想定するような,踏み感の安定性を維
持し作業靴下面にくいつき状になり,もって,瓦葺き作業をする際の作
業者の足のすべり止め効果を発揮させるという作用効果を奏することが
認められる(A甲10,A乙26,A乙32参照)。そうすると,ゴー
ルドレボにおける突部は,外形上下部と上部に区画される2段階構成を
採用しているといえ,「下部が大径で上部が小径とされ所定の高さだけ
2段階に突出した多数のすべり止め突部」に該当するというべきである。
よって,ゴールドレボは,構成要件Bを充足する。
(イ)この点に関して被告らは,ゴールドレボは,直径が約2mmであり,
金型切削の際にエンドミルの加工ですじが付いたものにすぎず,大径と
小径というような明確な二段階突起形状ではないから,すべり止め突部
が実質的に1段階構成とみなすことができるとか,ゴールドレボは,1
段階構成の場合と摩擦係数がほとんど変わらず,また,「下部大径部で
踏み感の安定を維持する。」という効果を有しないなどと主張して,ゴ
ールドレボは構成要件Bを充足しないと主張する。
しかし,上記のとおり,ゴールドレボの突部は,被告らが述べている
寸法を前提にしても外形上下部と上部に区画される2段階構成を採用し
ていると見てとることができるものである。そして,証拠(A甲10)
によれば,すべり止めの効果について1段階構成の突部と2段階構成の
突部とを対比したとき,実際の屋根の傾斜や作業者の体重を考慮しても
なお,その効果には有意な差が認められるのであって,被告らが提出す
る品質性能試験報告書(A乙26)の実験結果は,上記の認定判断を左
右するに足りるものではない。したがって,被告らの上記主張は採用す
ることができない。
以上によれば,ゴールドレボは,構成要件Bを充足しており,その他
の構成要件A,C,Dについて被告らは,それらの充足性を明らかに争
わない。
よって,ゴールドレボは,本件発明の技術的範囲に属するというべき
である。
イレボ1について
(ア)証拠(B甲4,B乙24,検B甲1)によれば,レボ1の突部は,そ
の構造・形状が,外形上下部と上部に区画されるとはいえないようなテ
ーパ状のものであることが認められ,段差の存在を見てとることができ
ないから,外形上下部と上部に区画される2段階構成を有しているとい
うことはできない。また,突部の2段階構成がすべり止めの効果を奏す
るものであるところ,レボ1の突部は,かかる構成を有していないから,
本件発明のような作用効果,すなわち,作業靴下面にくいつき状になる
ことによって瓦葺き作業をする際の作業者の足のすべり止め効果を発揮
させることも,また,踏み感の安定性を維持するという作用効果を奏す
るということもできない。
したがって,レボ1は構成要件Bを充足しない。
(イ)この点に関して原告は,レボ1は,主たる部分と突起とが,主たる部
分の上端面における平坦面状に形成された部分を境目として,それぞれ
が独立した存在として明確に区別し得る構成となっており,上記境目を
介して下部が大径,上部が小径とされる2段階に突出した形状であると
いえるとして,レボ1も構成要件Bを充足する旨主張する。
しかし,証拠(B乙24,検B甲1)によれば,レボ1の突起は,そ
の形状が一様ではなく,突起ごとに差異がある上,上部の径と下部の径
とを区画する部位を特定することが容易ではなく,そのほとんどが上部
の径と下部の径とが連続的に変化しているテーパ状のものであることが
認められる。そして,このようなテーパ状の突起形状のものについては,
段部といえるものがないことから,前記1(2)の本件発明の意義に照ら
すと,踏み感の安定性を維持し作業靴下面にくいつき状になるような,
外形上下部と上部に区画される2段階構成を採用しているとはいえない
というべきである。
したがって,レボ1は構成要件Bを充足しないといわざるを得ず,原
告の上記主張は採用することができない。
以上によれば,レボ1は,本件発明の技術的範囲に属しないことが明
らかである。
3争点(2)(本件発明は進歩性が欠如しているため特許無効審判により無効に
されるべきものか)について
(1)A乙12文献を主引例とする無効主張について
アA乙12文献の内容
(ア)A乙12文献には,以下の記載がある。
・「2実用新案登録請求の範囲
半硬質の合成樹脂基材の両面に紙が接合されているシート材におい
則的うね状突起を有し,該うね状突起がおおむね一方向に並んでいる
屋根下地材。」(1頁5行~9行)
・「この考案によると,上層にうね状突起を無数に設けることにより,
基材と表層の紙との一体化は物理的に強化され,施行時に紙が破れ,
又は剥離することなく,結露防止,湿気の吸収,作業能率の向上が達
成され,施行時の紙の剥離がないので滑ることがなく作業の安全が確
保される。」(3頁2行~8行)
・「瓦桟と下地材の間に隙間を保ち,屋根からの漏水を瓦桟上角に滞
留させることなく,流下せしめ,且つ,通気良好のため,併せて湿気
による瓦桟の腐蝕を防止できる。」(3頁11行~14行)
(イ)上記記載によると,引用発明1は次の構成を有するものと認められる。
a半硬質の合成樹脂基材の両面に紙が接合されているシート材におい
て,

則的うね状突起を有し,
c該うね状突起がおおむね一方向に並んでいる
d屋根下地材。
イ本件発明と引用発明1との対比
本件発明と引用発明1とを対比すると,次のとおりとなる。
(ア)一致点
合成樹脂のシート状基材の上下両面に紙を一体的に接合して成り屋根
の野地板上に敷く屋根下地材において,シート状基材の上面に多数の突
部を一体的に形成すると共に,これらの突部を複数個存在するように配
置して設けた屋根下地材である点
(イ)相違点1
屋根下地材を構成し,その上下両面に紙を一体接合される合成樹脂シ
ート状基材が,本件発明では「軟質性合成樹脂」であるのに対して,引
用発明1では「半硬質の合成樹脂」である点
(ウ)相違点2
シート状基材の上面に一体的に形成された多数の突部が,本件発明に
おいては,「所定の単位面積中に複数個存在するように配置して全面に
等方的に設け」られた「下部が大径で上部が小径とされ所定の高さだけ
2段階に突出した」「すべり止め突部」であるのに対して,引用発明1
では「不規則的に又は規則的に」「配列され」「おおむね一方向に並ん
でいる」「うね状突起」である点
ウ相違点についての判断
被告らは,相違点2につき,引用発明1に記載された屋根下地材におい
て,「屋根下地材上に屋根材を載置して屋根を葺き上げる際に,作業者が
足を滑らし易いと云う欠点」を解消するために,引用発明1のうね状突起
に代えて,A乙10発明の「凸部を粗面化せる凹凸」を採用するか,又は,
A乙11発明の「多数の小突起からなるドット(1)」を採用することは,
当業者にとって容易に想到することができる旨主張するので,以下,検討
する。
(ア)A乙10文献には,次の記載がある。
・「2実用新案登録請求の範囲
熱可塑性樹脂シート表面に凸部を粗面化せる凹凸を形成せしめてな
」(1頁2行~4行)
・「従来,屋根下地材として熱可塑性樹脂シートよりなる屋根下地材が
汎用されているが,該熱可塑性樹脂シートよりなる屋根下地材は野地
板上に敷設施工した後,該屋根下地材上に屋根材を載置して屋根を葺
き上げる際に,作業者が足を滑らし易いと云う欠点があ(る)」(2
頁11行~16行)
(イ)また,A乙11文献には,次の記載がある。
・「【特許請求の範囲】【請求項1】表面ドット加工した軟質塩化ビニ
ル樹脂シートの裏面にタール含浸フェルト紙またはクラフト紙,もし
くはゴムアスファルト層を配設してなることを特徴とする屋根下地材。」
(2頁1欄1行~5行)
・「たとえば,多数の小突起からなるドット(1)を加工成形した塩化
ビニル樹脂発泡体等の軟質塩化ビニル樹脂シート(2)の裏面には,
タール含浸フェルト紙またはクラフト紙(3)を配設する。」(2頁
2欄31行~35行)
・「このドット(1)は,ロールプレスや発泡成形等の適宜なドット加
工により軟質塩化ビニル樹脂シート(2)に成形することができる。
こうすることで,従来のような撒き砂よりもはるかに向上した滑り止
め効果が実現される。もちろん,このドット(1)の形状や配置につ
いては特に制限はなく,任意のものとすることができる。」(2頁2
欄44行~50行)
・「もちろんこの発明は,以上の例によって限定されるものではない。
屋根下地材の構成,不織布の種類,ドットの形状およびその加工法,
また各層の配設法等の細部については様々な態様が可能であることは
いうまでもない。」(3頁3欄19行~同頁4欄2行)
以上を前提に検討するに,前記2(1)アのとおり,本件発明における「す
べり止め突部」の文言は,突部が外形上,下部と上部に区画される2段
階構成を採用しているといえるものであれば,本件発明の技術的効果,
すなわち,踏み感の安定性を維持し作業靴下面にくいつき状になるもの
であって,これによって従来技術にない技術的効果(瓦ぶき作業をする
際の作業者の足のすべり止め効果の発揮,増大)を生じさせるものとし
て,かかる形状の突部をすべて含むものである。
この点,A乙10発明,A乙11発明をみると,いずれも,屋根下地
材を技術分野とするものであり,「・・・作業者が足を滑らし易いと云
う欠点」を解消させるための発明ではある。もっとも,引用発明1のう
ね状突起に代えて,A乙10発明の「凸部を粗面化せる凹凸」やA乙1
1発明の「多数の小突起からなるドット(1)」を採用したとしても,
それらの「凹凸」や「ドット(1)」は,下部が大径で上部が小径とい
うにとどまり,外形上,下部と上部に区画される2段階構成のものでな
いことは明らかであり,ほかに「凹凸」や「ドット(1)」がかかる2
段階構成のものであることを示すことを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,突部について,下部が大径で上部が小径であることを超
えて,本件発明の「すべり止め突部」のような2段階構成のものにまで
至る示唆ないし動機付けは何らなされていないとみるべきであり,当業
者であれば容易に想到できるとはいえない。
(エ)A乙31文献について
aこの点について被告らは,A乙31文献を根拠に,すべり止め突起
5として,下部が大径で上部が小径とされ所定の高さだけ2段階に突
出した四角形状や円形状のすべり止め突起5を採用することも,当業
者にとって容易に想到できることであると主張するので検討する。
bA乙31文献には,次の記載がある。
刷したものを加熱加圧して前記エンボス模様部分に滑り止め突起を
形成して成り,また前記エンボス模様以外の部分には不織布が熱融
着して薄膜化したソリッドフィルム部を形成して成ることを特徴と
するエンボスシート。」(2頁1欄1~8行)
・「【産業上の利用分野】本発明は,運動靴の靴底のような防滑性の
突起を備えたエンボスシート並びにその製造方法と,このエンボス
シートを適用した靴底に関するものである。」(2頁1欄33行~
36行)
・「ベースたる部分をソリッドフィルム化することで吸水性が無く,
薄層に形成され,しかも防滑性が高く,耐摩耗性の有るエンボスを
形成する方法を提供するものである。また,これによって得られる
エンボスシートをアウターソールとしてミッドソールに被着して,
吸水性が無く,地面把持力が有り,耐摩耗性も有する真に軽量化さ
れた靴底を提供しようとする。」(2頁2欄24行~30行)
・「更に図4に示すように符号9は靴底の滑り止め突起5の模様の反
転模様を刻設した上金型であって,滑り止め突起5を形成する部分
には凹陥部10が刻設され,滑り止め突起を形成しない部分は平坦
部11を形成しており,これら凹陥部10と平坦部11とが相互に
隣接し合って全体として滑り止め突起の反対模様を形成している。」
(3頁4欄28行~34行)
・「また更に符号12は上金型9と対となる下金型であって,本実施
例では平坦な板で構成されている。」(3頁4欄35行~37行)
c前記2(1)アのとおり,本件発明における「すべり止め突部」の文言
は,踏み感の安定性を維持し作業靴下面にくいつき状になるという技
術的効果の見地から,外形上下部と上部に区画される2段階構成を採
用しているといえるような形状の突部をいうものと解される。
しかし,上記のとおり,A乙31発明は,あくまで履物の分野にお
ける履物の底面形状についての技術であって,本件発明(屋根下地材)
とは技術分野を異にすることが明らかであるし,本件発明とはくいつ
き状の対象としてこれに相対する側となるものであるから,実質的に
みても技術を異にするものである。また,A乙31を精査しても,そ
の記載は靴自体の防滑性に関する説明に止まっていて,靴と接地面の
どちらか一方に2段階の突部を形成しておくことにより両者の摩擦力
を高めるという技術的知見については記載が見あたらない。そうする
と,靴の突部をこれと相対する側となる屋根下地材に付け替えるよう
な改変については,当業者にとってこれを容易に想到できるというこ
とは困難といわなければならない。
したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
エ以上のとおり,相違点1について検討するまでもなく,本件発明は,引
用発明1,A乙10発明,A乙11発明及びA乙31発明に基づいて当業
者が容易に想到することができたものということはできない。
(2)B乙4文献を主引例とする無効主張について
アB乙4文献の内容
(ア)B乙4文献には,以下の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】表面ドット加工した軟質塩化ビニル樹脂シートの裏
面にタール含浸フェルト紙またはクラフト紙,もしくはゴムアスファ
ルト層を配設してなることを特徴とする屋根下地材。」(2頁1欄1
行~5行)
・「図5に施工例を例示したように,屋根下地材(ウ)の上部に配置す
る瓦(カ)の滑りを,アスファルト含浸基材(エ)表面に散布した砂
(オ)により防止している。これによって,瓦葺き作業の安全性を高
めてもいる。」(2頁1欄31行~35行)
・「塩化ビニル樹脂シートの表面をドット加工することにより,滑り止
め機能が向上する。」(2頁2欄24行~25行)
・「たとえば,多数の小突起からなるドット(1)を加工成形した塩化
ビニル樹脂発泡体等の軟質塩化ビニルシート(2)の裏面には,ター
ル含浸フェルト紙またはクラフト紙(3)を配設する。」(2頁2欄
31行~35行)
(イ)上記記載によると,引用発明2は,以下の構成を有するものと認めら
れる。
a軟質塩化ビニル樹脂シート基材の裏面に紙を配設して成り屋根の野
地板上に敷く屋根下地材において,
b上記基材の上面には,多数のドットを一体的に形成する
c屋根下地材。
イ本件発明と引用発明2との対比
本件発明と引用発明2とを対比すると,次のとおりとなる。
(ア)一致点
軟質性合成樹脂のシート状基材の下面に紙を一体的に接合して成り屋
根の野地板上に敷く屋根下地材において,上記シート状基材の上面には,
多数のすべり止め突部を一体的に形成するとともに,これらのすべり止
め突部を複数個設けた屋根下地材という点
(イ)相違点1
軟質性合成樹脂のシート状基材に一体的に接合される紙が,本件発明
では「軟質性合成樹脂のシート状基材」の「上下両面」に「一体的に接
合」されるのに対して,引用発明2では,「裏面」のみに一体的に接合
される点
相違点2
「シート状基材の上面」に「一体的に形成」された「多数のすべり止
め突部」が,本件発明においては「下部が大径で上部が小径とされ所定
の高さだけ2段階に突出した」ものであるのに対して,引用発明2の「ド
ット」は,そのような形状を有していない点
(エ)相違点3
すべり止め突部を複数個設ける際に,本件発明では「所定の単位面積
中に複数個存在するように配置して全面に等方的に設け」るのに対して,
引用発明2においては「多数」配置することしか特定されていない点
ウ相違点についての判断
被告らは,本件発明を引用発明2と対比したときの相違点2について,
すべり止め用の突部を設けるときに,当該突部を1段よりも2段にした方
がすべり止めの効果が大きくなることは,摩擦力に関する技術常識であり,
また,すべり止め突部において「下部が大径で上部が小径とされ所定の高
さだけ2段階に突出」している構成は,すべり止め突部を有する製品の分
野において周知であると主張して,B乙29文献,B乙30文献,B乙1
4文献,B乙15文献,B乙16文献,B乙31文献及びB乙32文献を
提出する。
しかし,被告らが指摘するB乙14ないしB乙16,B乙29ないしB
乙32の各文献について,それぞれの技術分野を【発明の名称】等から見
ると,B乙14文献は「エンボスシート並びにその製造方法並びにこれを
使用した靴底」,B乙15文献は「置敷カーマット」,B乙16文献は高
級プラモデルのタイヤ,B乙29文献は「建物用すべり止め」,B乙30
文献は「コンクリートスラブ用滑り止め付き捨型枠」,B乙31文献は「滑
り止めを有する釣竿とその製造方法」,B乙32文献は「ラグ等のマット」
であって,組み合わせる対象である引用発明2の「屋根下地材」とは技術
分野が異なることが明らかである。そうすると,当業者において,これら
の各周知技術を,上記のように異なる技術分野である「屋根下地材」の発
明たる引用発明2と組み合わせることは困難というべきであって,引用発
明2から出発して,本件発明に至る論理付けがあるとはいえない。
仮にすべり止め突部を2段階とすることが一般的な技術事項であるとし
ても,本件発明の「すべり止め突部」の大径とされた「下部」,小径とさ
れた「上部」の技術的意義は,それぞれ,踏み感の安定性を維持すること,
作業者の作業靴下面にくいつき状となりすべり止め効果を増大させること
であり,「すべり止め突部」が「所定の高さ」を有することにより「上面
側の紙8」が「すべり止め突部10の上部小径突部12によって破られて
孔があく」(段落0014)のであるから,本件発明の「すべり止め突部」
は,「(シート状基材の上下両面に)紙を一体的に接合」することを前提
としている。
一方,上記周知の「二段階のすべり止め突部」は,「紙を一体に接合」
するものではなく,まして,上部突起が上面の紙を破る程度の「所定の高
さ」を有するものではないことは明らかである。
そうすると,すべり止め突部を2段階とすることが周知であるといえる
としても,本件発明における「所定の高さの2段階のすべり止め突部」が
周知であるとは到底いえない。
以上のことから,本件発明において紙の接合はロール成形法によりシー
ト状基材7と紙8,9とを圧着一体化してなされるのであるから,本件発
明のすべり止め突部は,その上面から紙を一体的に接合されたものである
のに対して,B乙29文献,B乙30文献,B乙14文献,B乙15文献,
B乙16文献,B乙31文献及びB乙32文献に記載された二段階のすべ
り止め突部は,突部上面に紙を一体的に接合することを前提としたもので
はなく,B乙29文献,B乙30文献,B乙14文献,B乙15文献,B
乙16文献,B乙31文献及びB乙32文献において,すべり止め機能の
点からみて突部上面に紙を一体的に接合することが示唆されるということ
もできない。
エしたがって,いずれにしても,本件発明は,引用発明2に基づいて当業
者が容易に想到することができたものということはできない。
よって,その余の相違点について検討するまでもなく,本件特許は,B
乙4文献を主引例として用いても,特許法29条2項に該当するというこ
とはできないから,特許無効審判により無効にされるべきものである(特
許法第104条の3)と認めることはできない。
4争点(3)(被告亀山社中の過失の有無)について
(1)特許法103条により,被告らには過失が推定される。
この点に関して被告亀山社中は,原告が製造販売する本件原告製品は本件
発明の技術的範囲に属しないことを原告自ら表明していたこと,ゴールドレ
ボは本件原告製品と同様の製品であること,原告は,ゴールドレボを実際に
入手した後もしばらくの間はゴールドレボが本件発明の技術的範囲に属しな
いと考えていたこと,特許の専門家である弁理士においてもゴールドレボが
本件発明の技術的範囲に属しないとの判断を下していたこと,被告亀山社中
は,原告の上記判断に基づいてゴールドレボの販売を決断したものであると
いう事情に基づけば,被告亀山社中には過失がない旨主張する。
しかし,本件全証拠を精査しても,原告が主張する上記事情を認めるに
足りる的確な証拠はなく,仮にそのような事情があったとしても,それら
の事情は被告亀山社中の無過失を基礎づけるに足りるものとはいえない。
したがって,過失がないとする被告亀山社中の主張は採用することがで
きない。
(2)そして,以上のほかに,証拠(A甲22,30,被告亀山社中代表者)
によれば,被告らが本店所在地を同じくし,顧客から被告亀山社中への発
注に係る業務を被告チャンピオン化成が全て担っていることが認められる。
したがって,被告らは,ゴールドレボの製造・販売に関し相互に協働関
係にあったことは明らかであり,前記前提となる事実のとおり被告チャン
ピオン化成が製造したゴールドレボを被告亀山社中が合計5220本販売
したことについては,被告らの間には客観的関連共同のみならず主観的関
連共同も認めるのが相当であるから,被告らはこの点に関し共同不法行為
責任を負うというべきである。
5争点(4)ア(ア)(ゴールドレボについての特許法102条1項による損害額)
について
(1)ゴールドレボの販売期間及び販売本数について
被告らがゴールドレボを販売していた期間が平成19年11月から平成2
0年2月までであること,及びゴールドレボの販売本数が5220本である
ことについては当事者間に争いがない。
(2)単位数量当たりの利益の額について
ア特許法102条1項にいう「単位数量当たりの利益の額」とは,仮に特
許権者において侵害品の販売数量に対応する数量の権利者製品を追加的に
製造販売したとすれば,当該追加的製造販売により得られたであろう利益
の単位数量当たりの額,すなわち,追加的製造販売により得られたであろ
う売上額から,追加的に製造販売するために要したであろう追加的費用(変
動製造原価及び変動販売費を含む変動経費等)を控除した額を追加的製造
販売数量で除した単位当たりの額をいうものと解するのが相当である。
イ販売単価につき
証拠(A甲13〔枝番を含む。〕)によれば,本件原告製品の販売価格
は,一律に設定されたものではなく,販売先や販売時期,販売数量によっ
て異なっているため,販売単価は平均販売価格によるのが相当と認められ
るところ,販売数量が50本以上の販売規模においては,おおむね260
0円前後から3000円前後の価格帯で販売されていたことが認められる
から,本件原告商品の平均販売価格は,2800円と認定するのが相当で
ある。
ウ単位当たりの変動経費等につき
(ア)原告は,本件原告製品の1本当たりにつき,費目ごとに個別に金額を
挙げた上で,製造単価は1707円であると主張する。これに対して被
告らは,費目ごとにみると,製造単価は3141円であると主張し,原
告が変動経費として計上していない本社経費及び営業経費を除外しても
2541円であると主張するから,原告が主張する製造単価は,被告ら
の主張額を相当下回るものといえる。そこで,上記当事者の主張を前提
として,変動経費等について検討する。
(イ)変動製造原価につき
a製造単価のうち原材料費についてみるとして,まず,樹脂につい
ては,原告は,約799.14円で足りる旨主張するが,被告らは1
001円必要とする旨主張する。
証拠(A甲56,57,原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば,
樹脂には冷えると縮む性質があること,原告は,規格に沿った製品を
製造するために,上記の樹脂の性質を踏まえて,規格より幅広めに,
かつ厚めに製造し,製品化する際に規格に合わせてカットしているこ
と,そのため,製造工程においてロスとなる樹脂が一定量生じている
ことが認められる。
この点に関して原告は,ロスとなる樹脂が本件原告製品1本当たり
約0.5kgあるとして,樹脂に係る原材料費を主張するが,その主
張は,規格より多少長目に製造していることは斟酌しているが,厚め
に製造するのに要する樹脂の量まで斟酌していると認めるに足りる的
確な証拠はない。加えて,被告らの主張,すなわち,樹脂が成形加工
後の冷却時に大きく収縮することから,原告が主張する樹脂の量は過
小である旨主張していることに照らせば,原告が主張する額は,ロス
となる分が十分に斟酌されているとはいえない。また,原告は,樹脂
の再利用をもってロスを最小限にしている旨主張して,再利用の工程
を示すものとする写真(A甲54の1ないし3)を提出する。しかし,
西基一が原告の会社員であるにもかかわらず,上記写真の内容につ
いて何ら説明できていないこと(証人K)に照らすと,原告の上記主
張は直ちに採用することができない。
bまた,紙についてみると,原告は,約326.6円で足りる旨主
張するが,被告らは351円かかる旨主張する。
原告は,本件原告製品1本当たり紙2kgが必要であるとして,
紙1kg当たりの平均価格を算定したものに2を乗じて製造単価を
求めている。しかし,原料紙ロールのうち製品の規格に足りない部
分は,余剰として廃棄せざるを得ないところ,原告が主張する額は,
製造単価を長さではなく重量を基に算出されているため,この点が
斟酌されていない。
この点に関して原告は,証拠(A甲45)を提出して,紙にテン
ションを加えて張り詰めた状態にして製造するから,原料紙1ロー
ル(5000mないし5100m)当たり本件原告製品4ないし5
本分(約100m)伸びるとして,原告の算定が合理的である旨主
張する。
しかし,本件全証拠を精査しても,上記のように紙が伸びる事実
を認めるに足りる的確な証拠はないから,原告の上記主張は直ちに
採用することはできない。
以上によれば,変動製造原価のうち原材料費に関する原告の主張を
採用することはできない。もっとも,被告らが前記のとおり原材料費
を主張し,当該主張額を上回るものではないことを認めているから,
樹脂については1001円,紙については351円と認めるのが相当
である。
c次に,電気代についてみると,原告は,約80.54円で足りる旨
主張するが,被告らは150円かかる旨主張する。上記原告の主張は,
被告らがゴールドレボを販売していた期間の全体を通じて加重平均の
計算式を用いるべきところ,各月ごとに加重平均の計算式を用いて数
値を算出し,さらにそれらの数値の平均値を求めて算出されたもので
あるが,このように加重平均の計算式を用いた算出の合理性について
は何ら証明されていない。また,原告は,平均値を取る期間を平成1
9年6月から平成20年4月までとするが,当該期間に対応しない平
成18年10月から平成19年8月までの平均月間製造本数をもって
計算しており,原告の算出方法については,その合理性を認めるには
足りないというべきである。
したがって,電気代についても,原材料費と同様,原告の主張を採
用することはできず,被告らが主張する150円と認めるのが相当で
ある。
dさらに,人件費についてみると,208円であることは当事者間に
争いがないから,同額を認めるのが相当である。
eそうすると,変動製造原価は,本件原告製品1本当たり1710円
となる。
1001+351+150+208=1710(円)
(ウ)工場用地代及びフォークリフト代につき
原告は,工場用地代として約8.09円,フォークリフト代として約
3.22円の合計約11.31円を主張するところ,被告らはこれらに
ついて争うものではないから,原告主張額どおり認定するのが相当であ
る。
(エ)変動販売費(運送費)につき
原告は,梱包・出荷準備費用として約23.34円,運賃として約2
56.86円の合計約280.2円で足りる旨主張するが,被告らは運
送費として平均350円程度,梱包費として平均50円の合計400円
かかる旨主張する。
上記原告の主張は,平成19年10月,同年11月及び平成20年2
月における本件原告製品のみを運送した場合の運送費を選択し,その総
額を運送した本件原告製品の本数で除し,その数値をもって上記運賃の
額とするものである。
しかし,原告が上記期間を選択したことについて十分な合理的根拠が
示されておらず,混載便の運送費が斟酌されていないことに鑑みると,
原告の算出方法については,その合理性を認めるには足りないというべ
きである。
また,原告は梱包・出荷準備費用について,商品名「両更クラフト」
等の材料ごとに個別に費用を主張するが,商品名「両更クラフト」の単
価を示す証拠はA甲51しか提出されていない上,当該証拠は,納品書
であり,単価及び金額が手書きのものであり,商品名「両更クラフト」
の単価すら認めるに足りないというべきである。
したがって,運送費については,原告の主張を採用することはできず,
被告らが主張する400円を下回るものではないと認めるのが相当であ
る。
(オ)その他諸経費につき
被告らは,その他諸経費として,機械償却費及びリース代・工場設
備費として約260円を,さらに別途,廃棄物処理費用や値引き,無
償での商品供給による負担に鑑みて,製造原価の1割(約171円)
の合計約431円をも加算すべきである旨主張する。
しかし,それらの費目は,性質上,原告の製品のうち本件原告製品
という特定の製品の売上について直接対応するものとはいえず,これ
らを変動製造原価あるいは変動販売費と認めるのは相当ではない。
したがって,被告らの上記主張は採用することはできない。
(カ)本社経費及び営業費用につき
被告らは,本社経費及び営業費用を製造原価に計上すべきと主張する
が,いずれも採用できない。すなわち,被告らが主張する本社経費は,
事務職員の給与,役員報酬,交際費,出張費,事務所の電気代といった
ものを計上したものであり,その費目の性質上,本件原告製品を追加的
に製造・販売するに当たって追加的に支出が必要となる費用ということ
はできないから,変動製造原価に計上することは相当ではない。また,
営業費用については,証拠(A甲56,原告代表者)によれば,原告が
従前から安定した取引実績のある卸売業者に本件原告製品を販売してい
たことが認められるから,当該費用も,本件原告製品を追加的に製造・
販売するに当たって追加的に支出が必要となる費用というには足りない
から,変動製造原価若しくは変動販売費に計上することは相当ではない。
この点に関して被告らは,原告の売上高において屋根下葺材製品の
売上げが9割強を占め,原告がカタログ作成,新規顧客開拓等の積極
的な営業活動を行っていた製品は屋根下葺材製品のみであり,原告に
よる屋根下葺材製品の販売の増加量に応じて本社経費及び営業経費が
増加することは明らかであると主張する。
しかし,本社経費及び営業経費は,費目の性質上,ゴールドチャン
ピオンという特定の製品の売上げについては間接的に対応するもので
あるにすぎない。現に,本件原告製品の製造量全体に占める割合をみ
ても3割程度にとどまっており,本件全証拠を精査しても,原告が平
時と異なりもっぱら本件原告製品の売上げにのみ営業費用を費やした
とみるべき特段の事情も認められない。
したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
(キ)まとめ
以上のとおり,本件原告製品の製造単価は,2122円と認めるのが
相当である。
(1001+351+150+208)+400+11.31=2121.31≒2122(円)
エ小括
そうすると,本件原告製品1本当たりの利益の額は,678円を下回る
ものでないことは認めることができる。
2800-2122=678(円)
(3)損害との因果関係について
ア被告らは,本件原告製品の販売量の減少について,被告らのゴールドレ
ボの製造・販売とは因果関係がない旨主張する。
しかし,原告が本件原告製品を製造・販売していた期間及び地域におい
て,被告らが本件特許権の侵害品を製造・販売して,市場において競業関
係を生じさせていたことは明らかであるから,被告らの製造・販売行為と
原告らの損害の発生との間に因果関係があることは優に推認できる。
この点に関して被告らは,因果関係不存在の理由として,原告が本件原
告製品の不良品を大量に製造していたと主張するが,後記(5)ウ(イ)のとお
り,被告らが主張するほどの不良品の存在は認められないから,被告らの
上記主張は,その前提において失当であり,上記推認を覆すには足りない。
イまた,被告らは,民訴法224条1項又は2項及び3項の適用により,
被告らによるゴールドレボの製造・販売は,原告による本件原告製品の販
売量の減少について,何らの因果関係を有していないとの被告らの主張が
認められるべきである旨主張する。
確かに,被告亀山社中による文書提出命令の申立てに基づいて,平成2
3年11月7日,当庁が原告に対し,平成19年度,及び平成20年度の
確定申告書等の提出を命じたにもかかわらず,原告が,その一部である平
成19年度及び平成20年度の「法人事業概況説明書月別の売上高等の
状況」を提出していないことは当裁判所に顕著である。
しかし,証拠(A甲63)によれば,原告が平成19年度,平成20年
度の「法人事業概況説明書月別の売上高等の状況」を提出していないこ
とについては,原告が文書管理上の不手際によりこれを紛失したものと認
められるから,原告が「文書提出命令に従わない」(民訴法224条1項)
ということはできないし,「相手方の使用を妨げる目的で提出の義務があ
る文書を滅失させ,その他これを使用することができないようにしたとき」
(民訴法224条2項)に当たるということもできない。さらに,原告は,
貸借対照表,損益計算書,平成19年度については法人事業概況説明書の
中の月別の売上高等の状況を開示しており,このことからすれば,「当該
文書の記載に関して具体的な主張をすること及び当該文書により証明すべ
き事実を他の証拠により証明することが著しく困難であるとき」(民訴法
224条3項)に該当すると認めるのも相当ではない。
したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
(4)実施の能力について
被告らは,原告の実施の能力を争うが,特許法102条1項にいう「実
施の能力」は,当該特許権の存続期間内に一定量の製品の製造・販売を行
う潜在的能力を備えていれば足りると解されるところ,これを本件につい
てみると,証拠(A甲56~58,証人K,原告代表者)によれば,原告
は,平成19年11月以前から本件原告製品を製造しており,同月から平
成20年2月までの期間においては,工員の退職があったとはいえ,熟練
工1名のほか一定の経験年数を備えた者を製造業務に従事させるとともに
作業人員を補充して,本件原告製品の製造に当たっていたことが認められ
るから,原告が同項の「実施の能力」を備えていたと認めるのが相当であ
る。
この点に関して被告らは,原告が本件原告製品の不良品を製造していた
ことなどを理由として原告には「実施の能力」がなかった旨主張するが,
後記(5)ウ(イ)のとおり,被告らが主張するほどの不良品の存在は認められ
ないし,そもそも,上記説示したとおり,同項の「実施の能力」とは,製
造・販売の潜在的能力をいうものであって,これを基礎づける生産体制が
認定できれば足りるというべきであるから,本件原告製品の不良品の存在
は,同項の「実施の能力」に係る前記の認定判断を左右するものではない
というべきである。
したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
(5)「販売することができないとする事情」について
ア特許法102条1項ただし書の「販売することができないとする事情」
の意義
特許法102条1項本文は,民法709条に基づき逸失利益の損害賠償
を求める際の損害額の算定方法について定めた規定であり,その趣旨は,
特許権はその技術を独占的に実施する権利であり,その技術を使った製品
は特許権者等の権利者しか販売することができず,したがって,特許権者
等の実施の能力の限度では侵害者の譲渡数量と特許権者等の喪失した販売
数量が一致するとみることができるから,侵害者の譲渡数量に特許権者等
がその侵害行為がなければ販売することができた製品の単位数量当たりの
利益額を乗じた額を実施の能力に応じた額の限度において損害額と推定し
た規定と解すべきである。そして,同項ただし書は,実際の侵害事件では,
様々な要因により侵害品の販売数量と特許権者等が喪失した販売数量が一
致しない事情が存在する場合があることから,侵害者がそのような事情を
証明した場合には,その限度で損害額を減額することができることを規定
したものと解される。したがって,「販売することができないとする事情」
としては,市場機会の喪失とさえも評価できないような事情に限らず,特
許権者等が販売することができたものに固有の事情をはじめ,市場におけ
る当該製品の競合品や代替品の存在,侵害者自身の営業努力,ブランド及
び販売力,需要者の購買の動機付けとなるような侵害品の特徴,侵害品の
価格などの事情をも考慮することができると解するのが相当である。
上記解釈を前提に,以下,「販売することができないとする事情」の有
無について検討する。
イ平成19年11月から平成20年2月までの不良品の発生等について
(ア)販売数量の推移
被告らがゴールドレボを販売していた期間(平成19年11月から平
成20年2月まで)の前後において,本件原告製品の販売本数をみると,
証拠(A甲13)によれば,販売数量の推移は次のとおりであることが
認められる。
平成19年10月3129本
平成19年11月1577本
平成19年12月630本
平成20年1月241本
平成20年2月581本
平成20年3月277本
平成20年4月500本
平成20年5月286本
(イ)売上高と材料仕入高の推移
証拠(A乙76~79)及び弁論の全趣旨によれば,原告の決算書類
において,販売本数と関係する売上高が,平成19年度は約4億100
0万円であったのに,平成20年度は約1億9000万円と大幅に下落
したこと,その一方で,製造本数と関係する材料仕入高が,平成19年
度は約4039万円であったところ,平成20年度は約3272万円と
比較的小幅な変化に止まっていたことが認められる。
(ウ)原告の体制及び生産状況等
証拠(A甲33の5~11,46~49,56~58,A乙44~4
6,72,73,証人K,証人E,証人R,原告代表者)及び弁論の全
趣旨によれば,次の事実が認められる。
a原告においては,平成19年9月末,当時7名いた工場職員のうち
4名が退職し,以後,KやCといった派遣社員を雇い入れて人員を補
充した。退職した工場職員には,長年にわたって工場職員として勤務
したOがおり,同人らが退職した後は,その時点におけるプラスチッ
ク樹脂の製造業務の経験者としては,勤続25年以上のIのほかは,
勤続3年以上のG,工場で稼働して2年目の原告代表者がいたが,補
充人員は,原告に就職するまでプラスチック樹脂の製造業務を経験し
たことがなかった。
b原告代表者は,平成19年10月頃,コスト削減の一環として原価
費削減のために,大誠樹脂から安価なプラスチック樹脂を購入するよ
うになった。そのプラスチック樹脂は,容器リサイクル原料と呼ばれ
る種類のもので,劣化が激しく,柔軟性が乏しいものであった。
c原告においては,平成19年10月以降,原告製品の生産量は減少
していたが,電気代や人件費に見るべき減少はなく,かえって人件費
においては,全体で平成19年10月は約140万円,同年11月は
約180万円,同年12月から平成20年2月までは200万円を超
えていて,増加傾向にあった。
d本件原告製品は,平成19年11月頃から,シートを曲げるとポキ
ポキと折れてしまうことがあり,原告の取引先であった日産機械販売
株式会社等の卸売業者が,そのような状態の本件原告製品を不良品と
して原告に返品したり,交換を要請したりするなどし,それでもなお
不良品が納品されるといった事態が続いた。屋根瓦施工業者からは,
本件原告製品について,少しの力でシートが破れてしまう,湾曲して
いて屋根の上でまっすぐに敷くことができない,同じ製品なのに重さ
がばらばらで,ロールの太さもばらばらである,といったクレームが
出ていた。
また,上記卸売業者が原告に本件原告製品を発注しても,原告の納
品が遅滞して,発注から納品まで二,三か月かかることがあった。そ
のため,上記卸売業者は,代わりに他社の屋根下葺材を屋根瓦施工業
者に卸すことがあった。
(エ)以上の事実が認められるところ,原告は,証人Eが被告らと強い結び
つきを有し,原告に敵対的な立場にあること,証人Rが被告亀山社中と
取引関係を継続していて,あえて原告に不利な証言をする立場にあるこ
とから,その証言はいずれも信用すべきでないと主張する。
しかし,上記E及び上記Rはいずれも,本件原告製品について,シー
トを曲げるとポキポキ折れる,などと品質が不良であった状況や,顧客
のクレームの内容について上記認定したように具体的に供述し,反対尋
問を経ても内容が一貫しており,それらの証言は十分に信用できる。
また,証人K及び原告代表者は,大誠樹脂から購入したプラスチック
樹脂が安価であるとしても,そのことをもって直ちに品質が悪いという
ことにはならず,適切な比率で配合すれば支障のない品質で製造できる
し,原告においては製造テストによって品質を確認していたから,不良
品を製造したことはないなどと,原告の主張に沿った供述をするが,次
の理由により,いずれも採用できない。
すなわち,証人Kにあっては,製造業務に従事しているにもかかわら
ず,製造テストとしていかなる作業を行うのか何ら説明することができ
ず,配合したプラスチック樹脂の品質をどのように確認するのかについ
ても曖昧な説明しかできない。原告代表者も,プラスチック樹脂の試験
方法について,その概要を説明することができず,屋根下葺材に求めら
れるプラスチック樹脂の性能について十分な説明をしていない。また,
大誠樹脂が行っていたとする試験結果を見ると,試験に使用される試験
片は,本件原告製品に用いられる押し出し成形によるものではなく,イ
ンジェクション成形によって作成されたものであって,証人Eの供述,
すなわち,証人Eが,試験方法が原告製品の成形方法に即しておらず,
不適切であると指摘することに照らすと,本件原告製品の品質が客観的
に裏付けられているとは認められない。加えて,証人Eが,大誠樹脂が
原告に納めたプラスチック樹脂が著しく品質が悪いものであり,原告の
工場の機械の網が目詰まりしてプラスチック樹脂があふれ出ている状況
を見たことや,原告代表者から,原告製品に不良品が多く,従業員への
技術指導を依頼されたことなどを詳細に供述しており,かかる供述も併
せて総合考慮すると,証人K及び原告代表者の上記供述部分はいずれも
にわかに信用することができない。
ウ不良品の発生率について
(ア)以上認定したとおり,本件原告製品が平成19年11月から平成20
年2月までの期間において,その販売数量が著しく少ないところ,前年
度比の売上高の減少幅(約5割)に比して前年度比の材料仕入高の減少
幅(約2割)が小さいことから,客観的に見て,製造しても売上げに結
び付かない製品が相当数に上っていたことが窺われる。
そこで,上記期間における原告の生産体制等をみると,原告において
は,熟練工の退職に伴い技術力が一定程度低下し,併せて品質の劣る原
材料を用いて本件原告製品を製造したため,本件原告製品の品質が低下
し,ときには返品される事態となっていたことが認められる。しかも,
本件原告製品の販売数が著しく少ないにもかかわらず,電気代や人件費
が従前と比べてさして変化がないことから,原告が従前と同様に工場を
稼働させていたと推認できるところである。
以上の諸事情を総合考慮すると,原告代表者が供述するように,屋根
下葺材としての性質上,冬期には,積雪地を中心に工事数が減ることか
ら販売量が減少する傾向にあることを十分に考慮しても,相当多数の不
良品が生じていたことが推認でき,その不良品の率は,当該時期におい
て80パーセントを超える状況であったとまでは推認するには足りない
が,少なくとも被告らが平成20年度の通年における不良品の率として
主張する3割程度を上回る程度に及んでいたことが推認できるというべ
きである。
(イ)この点に関して被告らは,原告の確定申告書類(A乙76~79)に
基づいて計算すると,原告の本件原告製品において,平成20年度(平
成19年10月1日~平成20年9月30日)の不良品率が34.8パー
セント,被告亀山社中がゴールドレボを販売していた平成19年11月
から平成20年2月には87.6パーセントにもなり,原告が,本件原告
製品を,実際に販売した以上に販売できなかったことは明らかであると
主張する。
確かに,原告が工場職員の退職後に派遣社員を雇って人員を補充した
とはいえ,熟練工の退職に伴い技術者が大幅に減少したことや,販売量
に比べて工場の稼働時間が相当長いことなどは,相当量の不良品を製造
したことを窺わせるものであり,かかる事情は売上げに結び付かない原
因の主たるものとなり得るところである。
もっとも,被告らの試算は,材料仕入高から製造本数を求め,その製
造本数と商品・製品棚卸高(期末と期首の差額)から販売本数を求め,
その販売本数と売上高から販売単価を求めるというもので,試算の前提
として,原告が屋根下葺材のみを製造していること,材料仕入高が全て
紙の購入費用からなるとするものである。しかるに,証拠(B乙21)
によれば,原告は,平成19年度においては,同年9月末にプラスチッ
ク部材製造販売部門を廃止するまで,屋根下葺材のほかにプラスチック
部材も製造しているから,試算の前提に正確性が担保されておらず,本
件原告製品の不良品の率を求めるには合理性を認めるに足りない。また,
製造しても売上げに結び付かない原因としては,被告らによるゴールド
レボ等の競合品の販売といった事情があることは否定できない。したが
って,被告らのように数値的な検討をしても,そのことをもって直ちに,
不良品の製造の率を導くことができるとはいえないというべきである。
さらに,原告は,預金通帳(A甲64,65),手形帳(A甲66)
を提出して,原告が資金面で十分にやり繰りをしていたことを明らかに
している。
以上によれば,原告が製造した不良品の率は,被告らが主張するよう
に8割を超えるとは認められないから,被告らの上記主張は採用するこ
とができない。
エ「販売することができないとする事情」として控除すべき割合について
上記の不良品の率に係る諸事情に併せて,原告も認めるとおり,本件原
告製品が同様の価格帯において同業他社の製品と競合していたこと(「日
本一シリーズ」東和合成工業株式会社,「ライトスーパーシート/スパイ
クルーフ」アナン通商株式会社,「ノンスリップルーフ」浅野化学商事),
原告製品の市場におけるシェアは3割程度であったことも考慮すると,シ
ェア確保のために製品の品質の維持が求められている状況の下で,原告が
本件原告製品について不良品を流通させ,そのために本件原告製品の販売
量が大きく減少したことは容易に推察される。それに加えて,被告らにお
いてなされた営業努力等も勘案すると,被告らのゴールドレボの販売本数
5220本のうち,その5割につき「販売することができないとする事情」
があるものと認めるのが相当である。
(6)具体的な損害額
以上によれば,原告の特許法102条1項による損害額は,次のとおり,
176万9580円となる。
678(円)×5,220(本)×(1-0.5)=1,769,580(円)
(7)寄与率について
被告らは,本件発明は,その作用効果,すなわち防滑性の点において,
レボ1のように1段階構成を有するものと比較しても実用的な差がないこ
とを前提に,顧客は,本件原告製品について,その構成をほとんど認識し
ていないか,若しくは全く評価しておらず,被告亀山社中がゴールドレボ
の販売を終了してレボ1の販売に切り替えた際にも,突起が2段階構成で
なくなることを理由に購入をレボ1から本件原告製品に切り替えた業者は
皆無であったこと,さらに,本件原告製品の競業品がいずれも突起が1段
階構成を有するものであったこと,原告が自ら,本件原告製品の上記構成
によって防滑性能が高いことについては一切宣伝しておらず,宣伝におい
て特許番号を付すこともしなかったことからすると,本件発明が顧客の選
択に影響を与えた程度はごくわずかであるから寄与率を考慮すべきである
と主張する。
しかし,先に説示したとおり,本件発明は,1段階構成の突部を有するも
のと対比して,2段階構成の突部を有することから所定の作用効果を有する
ものと認められるから,作用効果の点においてレボ1などとは有意な差が認
められるものであること,そして,2段階構成の突部が本件原告製品の特色
といえること,被告らが主張するように競合品は1段階構成の突部を有して
いたにすぎないところ,市場において本件原告製品の上記構成はその独自の
特徴となっていたといえることからすると,本件発明は,本件原告製品の販
売に大きく寄与したものと認めるのが相当であり,同認定を覆すに足りる的
確な証拠はない。
したがって,本件において,本件原告製品の利益に対して本件発明の寄与
度による減額を認める必要性は認められないというべきである。
6争点(4)ア(イ)(ゴールドレボについての特許法102条3項による損害額)
について
原告は,予備的に,特許法102条3項に基づいて算定される額を損害額
として主張する。
しかし,特許法102条1項は,前記5(5)アで説示したとおりの規定であ
るから,同項により算定される損害額は市場機会の喪失に関し特許権者等に
生じた逸失利益の全てを評価し尽くした結果であると認められる。他方,同
条3項は,侵害者による特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当す
る額の金銭を特許権者等が受けた損害の額としてその賠償を請求できるとす
るものであって,特許権侵害という不法行為により特許権者等が被った損害
の立証の便宜を図るための規定であるから,上記のとおり,同条1項が特許
権者に生じた逸失利益の全てを評価し尽くしており,これにより特許権者の
被った不利益を補てんして,不法行為がなかったときの状態に回復させてい
るものと解される以上,特許権者等は,同条1項により算定される逸失利益
を請求する場合,さらにこれと並行して,同条3項に基づいて算定される額
を請求することはできないと解するのが相当である。
よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の上記主張は理由
がない。
7争点(5)(原告の行為は,虚偽告知等の不正競争行為(不競法2条1項14
号)に当たるか)について
(1)ア告知行為(1)①について
被告らは,原告代表者が,常陸屋根材センターのMに対し,「亀山社
中が屋根下葺材製品を販売する際に,同社製品にチャンピオンの社名を
示すラベルを貼って,チャンピオン製造であるかのように偽造して販売
しているため,チャンピオンの製造・販売する製品に不良品が多数発生
している。」との発言を行ったと主張する。
しかし,本件全証拠を精査しても,原告代表者が上記発言をしたこと
を認めるに足りる的確な証拠はない。なお,被告らは,原告において,
平成19年11月から平成20年2月頃まで,原告の不良品率が80パ
ーセントを超えるような状況にあった旨指摘するが,これを認めること
ができないことは,前記5(5)ウ(イ)のとおりである。
イ告知行為(1)②について
被告らは,原告代表者が,平成20年4月頃,栃木県瓦工事業組合連
合会が主催する総会の際,同連合会会長であるS氏や屋根施工業者らに
対して,「チャンピオンを退職した従業員が,退職前に不良品を大量に
生産したため,チャンピオンの製造・販売する製品に不良品が多数発生
した。」との発言を行ったと主張する。
しかし,被告らが主張する内容自体,その発言は原告を退職した従業
員についてのものであるし,あくまで原告の製造・販売する製品に関す
るものにすぎないから,これが,被告らに対する関係で不正競争行為と
なると見ることは相当ではないばかりか,本件全証拠を精査しても,上
記事実を認めるに足りる的確な証拠はない。この点について,Zの陳述
書(B乙35)には,被告らの主張に沿う記載があるが,その内容は簡
潔にすぎ,上記発言が行われた経緯等が明らかにされておらず,直ちに
信用することはできない。
ほかに,被告らは,原告において不良品を多数供給していたことから
原告代表者がこの点について釈明しなかったはずがないと主張するが,
前記5(5)ウ(イ)のとおり,被告らの主張するように不良品の率が80パ
ーセントを超えていたことは認めることができないのであって,ある程
度の不良品が出ていたとしても,原告代表者が上記発言をしたことが直
ちに推認されるとはいえない。結局,被告らの上記主張を認めるに足り
る的確な証拠はないというほかない。
(2)告知行為(2)①及び②について
被告らは,原告が,平成20年2月頃から平成20年9月頃までの間に,
被告らの取引先に対して,「亀山社中の屋根下葺材はチャンピオンの特許
を侵害している。」(告知行為(2)①),「亀山社中の商品は,特許違反品
なので販売すると損害賠償の対象となるから,購入はやめたほうが良い。」
(告知行為(2)②)と告知をしたと主張する。
しかし,原告代表者が,ファックス(B乙18)を送信したほかに,上
記告知をしたことを認めるに足りる的確な証拠はない。なお,上記告知が
行われたことを前提としても,ゴールドレボが本件発明の技術的範囲に属
するというべきであること,レボ1についても,その突起の形状が本件発明
の技術的意義に関連するものであるところ,証拠(B乙24)によれば,レ
ボ1の突起の形状は一定せず,特定するのが容易なものではなく,上部の径
と下部の径とが連続的に変化しているテーパ状のものもあることが認められ,
レボ1が本件発明の技術的範囲に属しないとたやすく判断できるものとはい
えないことに照らせば,結果的にレボ1が同範囲に属しないとしても,上記
告知がその主要部分において虚偽であるということはできない。
(3)告知行為(3)について
被告らは,原告代表者が,平成20年中頃,被告らの取引先の代表取締
役に対して,「亀山社中の大谷は,背任罪と窃盗罪の罪で刑務所に入って
いる。」などと発言したと主張し,被告亀山社中代表者の陳述書(B乙1
7)及び当法廷における供述中にはこれに沿う部分があるが,上記発言の
相手先が特定されていないことや,原告代表者が上記発言の存在を否定し
ていること(B甲35,原告代表者)に照らして採用できず,ほかに上記
主張を認めるに足りる的確な証拠はない。
(4)告知行為(4)について
被告らは,原告が,被告らの取引先に対し,「亀山社中はもうすぐ倒産
するため,今後保証を受けることができなくなるから同社製品は買わない
方がよい。」との告知を行ったと主張する。
確かに,この点,原告は,そのウェブサイト(B乙20)において,模
倣品を購入した業者の認識,感想という体裁で,「製品不良があったが,
購入したメーカーの対応が悪い,既に倒産していて製品保証が受けられず
に困っている。また,今後そのような危険性がある」(2009年10月
の項),等の不安が大きくなっている旨を記載したことが認められる。
しかし,上記記載そのもののみならず前後の文脈を考慮しても,同記載
にある「メーカー」が被告らを指すものと解することは困難である。また,
原告が口頭で,取引先に対して告知行為(4)を行ったと認めるに足りる的確
な証拠はない。
したがって,被告らの上記主張を採用することはできない。
(5)流布行為(1)について
被告らは,原告が,平成19年(2007年)11月12日付け及び平
成21年(2009年)10月付けで,自社のウェブページにおいて,「チ
ャンピオンルーフィングシリーズの模倣品並びに特許侵害商品が市場で流
通しています。」(B乙20,6頁)との記事を掲載した行為が,虚偽事
実の流布に当たると主張する。
しかし,前記(2)のとおり,ゴールドレボが本件発明の技術的範囲に属す
るというべきである以上,結果的にレボ1が同範囲に属しないとしても,
上記流布がその主要な部分において虚偽であるということはできない。
したがって,被告らの上記主張を採用することはできない。
(6)ア流布行為(2)①について
被告らは,原告が,「弊社模倣品に対する特許侵害損害賠償事件にお
いて,弊社が全面勝訴の運びとなりました。」(B乙20,6頁)との
記事をウェブページに掲載したことをもって,虚偽事実の流布に当たる
と主張する。
しかし,上記記事のみならず,上記ウェブページを精査しても,被告
らの名称等は何ら示されていないから,上記流布が直ちに虚偽であると
いうことはできない。また,記事掲載後ではあるが,特許庁により,ゴ
ールドレボについて本件発明の技術的範囲に属する旨判定が行われたこ
と(A甲12)や,前記(2)のとおりゴールドレボについて本件発明の技
術的範囲に属するというべきであることなどからすれば,上記記載はそ
の主要な部分において虚偽ということはできず,少なくとも原告に過失
があると認めることはできないというべきである。
したがって,被告らの上記主張を採用することはできない。
イ流布行為(2)②について
被告らは,原告が,「弊社模造品に対する特許侵害損害賠償事件にお
いて,特許庁より侵害判定がされました。」(B乙21,4頁)との記
事をウェブページに掲載したことをもって,虚偽事実の流布に当たると
主張する。
しかし,ゴールドレボについて本件発明の技術的範囲に属するという
べきであること,その旨の判定(A甲12)が行われていたことからす
ると,たとえ「模造品」がゴールドレボに限定するものでないとしても,
上記記載はその主要な部分において虚偽ということはできない。
したがって,被告らの上記主張を採用することはできない。
(7)流布行為(3)について
被告らは,原告が,平成21年6月5日に,「現行製品の『レボ1』や『レ
ボ3』に関しましても,特許庁での判定請求を行っています。(遅くとも年
内には判明いたします)今回の判定の内容を勘案いたしますと,現行製品
につきましても,弊社特許権に属する可能性が非常に高いものであると考え
られます。」「また現状では,現行の上記該当模倣品を販売すると損害賠償
請求の対象になる可能性が非常に高いことから,そのお取扱には十分にご注
意いただき,慎重なご判断とご検討をしていただくことについて,業界内で
のお呼びかけをよろしくお願い申し上げます。」と記載された文書(B乙2
2の1及び2)を,多くの顧客に送信したことが,虚偽事実の流布に当たる
と主張する。
しかし,前記(2)のとおり,先行製品であるゴールドレボについて本件発
明の技術的範囲に属するというべきであること,レボ1が本件発明の技術的
範囲に属しないとたやすく判断できるものとはいえないことに照らせば,レ
ボ1,レボ3について,上記の程度の文章を取引先に配布したとしても,原
告において過失があったと認めるのは相当ではないというべきである。
したがって,被告らの上記主張を採用することはできない。
8争点(6)(原告による本件訴訟の提起及び本件仮処分命令の申立ては不当提
訴として不法行為といえるか)について
被告らは,レボ1について本件発明の技術的範囲に属するかどうかを判断
するために必要なのは,レボ1に設けられた突起が1段か2段かという常識
的判断だけであって,原告は,乙事件本訴請求が事実的,法律的根拠を欠く
ことを知っており,又は通常人であれば容易にそのことを知り得たにもかか
わらず,乙事件を提起し,本件仮処分命令の申立てをしたものであり,また,
特許侵害訴訟が係属中であるという事実を営業に用いるためだけに乙事件を
訴訟提起したものであるから,不純な動機があったと主張する。
この点に関し,民事訴訟の提起が違法な行為となる場合とは,当該訴訟に
おいて提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くもの
である上,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にその
ことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判
制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められる場合をいうもの
と解するのが相当である(最高裁昭和60年(オ)第122号昭和63年1
月26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁参照)。
これを本件についてみると,前記2(2)イのとおり,レボ1の突起の形状は
一定せず,特定するのが容易なものではなく,上部の径と下部の径とが連続
的に変化しているテーパ状のものもあり,レボ1に設けられた突起が1段か
2段か区別することは,通常人の常識をもって容易に判断できるものとはい
えず,さらには,レボ1の突起は,上記のような形状からして,本件発明の
構成要件Bの技術的な意義である「作業者の作業靴下面にくいつき状となり
すべり止め効果を増大させる。」という作用効果を奏するものではないと判
断することが容易でないことは明らかである。
また,本件全証拠を精査しても,被告らが主張するような提訴の動機が原
告にあるとは認めることができない。
そうすると,被告らの上記主張は,そもそも提訴者の主張した権利又は法
律関係が事実的,法律的根拠を欠くものであるとの前提を欠くというべきで
あり,採用することができない。
9結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,甲事件,乙事件本
訴請求のうち,ゴールドレボに関する請求については主文掲記の限度で理由が
あり,また,レボ1に関する請求はいずれも理由がなく,乙事件反訴請求につ
いてはいずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
東海林保
裁判官
実本滋
裁判官
本井修平
(別紙)
物件目録
商品名を「REVO1」とする屋根下地材。
(別紙)
告知行為目録
1-1亀山社中株式会社(以下「亀山社中」という。)が屋根下葺材製品を販売
する際に,同社製品に株式会社チャンピオン(以下「チャンピオン」という。)
の社名を示すラベルを貼って,チャンピオン製造であるかのように偽造して
販売しているため,チャンピオンの製造,販売する製品に不良品が多数発生
している。
1-2チャンピオンを退職した従業員が,退職前に不良品を大量に生産したため,
チャンピオンの製造・販売する製品に不良品が多数発生した。
2-1亀山社中の屋根下葺材製品はチャンピオンの特許を侵害している。
2-2亀山社中の商品は,特許違反品なので販売すると損害賠償の対象になるか
ら,購入はやめたほうが良い。
3亀山社中のOは,背任罪と窃盗罪の罪で刑務所に入っている。
4亀山社中はもうすぐ倒産するため,今後補償を受けることができなくなる
から同社製品は買わないほうがよい。
(別紙)
表示目録
1平成19年(2007年)11月12日及び平成21年(2009年)10月
付の,「チャンピオンルーフィリングシリーズの模倣品並びに特許侵害商品が市
場で流通しています。」との表示。
2平成21年(2009年)10月付の,「弊社模倣品に対する特許侵害損害賠
償請求事件において,特許庁より侵害判定がされました。知的財産権が重視され
る社会に変化したことを示すように,当裁判において,弊社所有の特許権の有効
性が示されたことは非常に有意義なものであり,特許権を侵害する該当事業者が,
常識的なルールを侵し,非常識に自らの利益を追求するために,悪徳に利益を得
る行為は決して許されるべき商行為ではありません。弊社におきましては,歴史
と伝統,信頼と信用を重視する瓦業界において将来的にも不利益となるこのよう
な悪徳事業者を業界から排除するため,今回の経験を活かし,瓦業界に貢献する
べく,その一役を担うことを改めました。これまでに,全瓦連の組合員皆様に代
表される施工事業者様は模造品とはわからずに,または,販売店に知らされずに
購入されてしまっており,云わば被害者であるのが実情のため,『製品不良があ
ったが,購入したメーカーの対応が悪い,既に倒産していて製品保証が受けられ
ずに困っている。また,今後そのような危険性がある』等々,不安が大きくなっ
ているのが現実的な問題でもあります。弊社では,施工事業者様のこれらの不安
を解消するために,悪徳事業者の業界からの排除を目的として,その予防策や対
応策について,特に全瓦連や全陶連を通じて,その組合員様に対する広報活動や
講習会等を行い,業界における模造品排除の周知活動を地道に行っていく所存で
あります。」との表示。
(別紙)
謝罪広告目録
当社は,
1遅くとも平成20年2月ころから,貴社の取引先に対し,①当社を退職し,亀
山社中株式会社殿の代表取締役又は従業員となった者が,退職前に不良品を大量
に生産したため,当社の製造・販売する製品に不良品が多数発生したこと,②貴
社の商品が,当社製品の特許権侵害の有無について客観的な判定機関によって終
局的な判断がなされていないにもかかわらず,特許違反品と断定し,取引先に貴
社の商品の購入はやめた方が良いこと,③亀山社中株式会社殿の代表取締役が,
そのような事実が一切ないにもかかわらず背任罪と窃盗罪の罪で刑務所に入って
いること,④亀山社中株式会社殿が,そのような事実が一切ないにもかかわらず
亀山社中株式会社殿が倒産するため,貴社の製品は買わないほうがよいこと等の
虚偽の事実を告知し,貴社の社会的信用を著しく毀損いたしました。
2当社のホームページ上において,①平成19年(2007年)11月12日及
び平成21年(2009年)10月付で,貴社の製品と当社製品との特許権侵害
の有無について客観的な判定機関による終局的な判断がなされていないにもかか
わらず,貴社の商品を弊社の模倣品として扱い,模倣品並びに特許侵害商品が市
場で流通していること,②2009年(平成21年)10月付で,特許庁による
侵害判定がなされていないにもかかわらず,貴社の商品を弊社模倣品として扱い,
弊社模倣品に対する特許侵害損害賠償請求事件において,特許庁より侵害判定が
されたこと等の虚偽の事実を掲載したことにより,貴社の社会的信用を著しく毀
損いたしました。
3当社の行ったかかる行為について心より深くお詫び申し上げるとともに,今後
二度とこのような行為を行わないことを誓約いたします。
平成年月日
株式会社チャンピオン
代表取締役T
亀山社中株式会社及び有限会社チャンピオン化成御中
(掲載要領)
1広告を掲載する紙面最終頁
2使用する活字本文は,本文記載で一般に用いられている大きさの活字
を用い,「謝罪広告」との表題部分は,同活字の倍角の
ものを用いる。
3広告の大きさ縦135mm×横118mm以上とする。

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