弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
     当審における訴訟費用は被告人A同Bの各負担とする。
         理    由
 被告人C弁護人相沢登喜男の上告趣意について。
 所論は、被告人は喘息に苦しみそのため麻薬を使用しないことは期待できないか
ら、被告人の行為は罪とならないという主張であつて、刑法解釈の問題に過ぎず、
刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして所論を是認できないとした原判決の判
示説明は正当である。
 被告人Aの弁護人安藤久夫の上告趣意について。
 所論第一点は、単なる事実誤認の主張であり、第二点は、量刑不当の主張に過ぎ
ず、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。なお所論第一点は麻薬取締法三条にいう
譲渡又は譲受は所有権の移転を前提とすると主張するが、当裁判所が旧麻薬取締法
四条三号の譲渡の解釈として、所有権の移転を目的とする授受に限られないとした
判例の趣旨は、所論の同法三条における譲渡についても同様に解するを相当とする
から、所論の理由も認められない。(昭和二七年(あ)第三三七三号同二九年八月
二〇日第二小法廷判決、集八巻八号一二三九頁参照)
 被告人A、同Bの弁護人百溪計助の上告趣意、被告人Dの弁護人林武雄の上告趣
意、被告人Eの弁護人野田底司の上告趣意、被告人Fの弁護人松野喜七、同飯野豊
治の上告趣意第三点、被告人Gの弁護人加藤博隆の上告趣意について。
 各所論は、いずれも単なる量刑不当の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に
当らない。そして原判決の判示説明と挙示の証拠とを合せ考えると、量刑不当とは
認められない。
 被告人Hの弁護人武藤鹿三の上告趣意について。
 所論は、判例違反を主張するが、引用の判例は、所論のように、原判決の刑より
重い刑を言渡すことのできる場合は、裁判所が検察官の量刑不当の控訴趣意を判断
した場合に限るというようなことは判示していないから、右判例は本件に適切でな
い。そして本件は検察官からも控訴申立があつたのであるから、刑訴四〇二条に違
反しないことはいうをまたない。また所論は判断遺脱をいうが、原判決は、検察官
の控訴趣意と弁護人の控訴趣意の各要旨を示し、しかる後原審の科刑は軽きに過ぎ
ると判断しているのであるから、所論は失当である。
 被告人Fの弁護人松野嘉七、同飯野豊治の上告趣意第一点について。
 原判決の刑が憲法三六条に違反するという所論は、事実審の裁判官が普通の刑を
法律において許された範囲内で量定した場合は、憲法三六条の残虐な刑罰とはいえ
ないとする当裁判所大法廷の判例に徴し採用できない。(昭和二二年(れ)第三二
三号同二三年六月二三日判決、集二巻七号七七七頁参照)。
 同第二点について。
 所論は、被告人の麻薬所持の関係について原審の判断を攻撃するのであつて、事
実誤認又は法令違反の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(なお記
録を調べてみると、所論(イ)(ロ)について被告人は、はじめ塩酸モルヒネ末五
瓦入の瓶三本を所持していてその塩酸モルヒネ末の中の一部宛を順次相被告人Iに
交付し注射液の製剤を依頼したものであること所論のとおりとしても、被告人はそ
の後再び注射液として所持するに至つたことが認められるから、このような場合紛
末全体の所持と注射液の所持とは別罪をなすと解することは不当とはいえない。故
に被告人の右所為を併合罪として処断した原判決は結局正当である。所論(ハ)は、
注射液の製剤について、被告人と相被告人Iとは共同正犯であり、紛末の所持は製
剤に吸収されると主張するが右両名が共同正犯とは認められず所論は独自の見解で
あつて、採用できない。所論(ニ)の主張について、仮りに被告人が単なる塩酸モ
ルヒネを所持するものと思つていたとしても、被告人は少くともそれが麻薬(塩酸
モルヒネ)であることを知つていたのであるから、麻薬取締法三条に違反すること
明らかであつて、同法同条による刑責を免れるものではない。所論(ホ)は、注射
液の管数について審理不尽を主張するが、記録によつて調べてみると、原判決の認
定は相当であつて、これを所論のように重複して処罰したとか、識別不能とかいう
のは失当である)。
 その他記録を調べても刑訴四一一条を適用すべき事由は認められない。
 よつて同四〇八条、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決す
る。
  昭和三〇年四月一九日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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