弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 被告人の上告趣意について。
 所論は、事実誤認ないし単なる法令違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理
由に当らない。
 弁護人開原勇、同根本孔衛の上告趣意第一点について。
 所論は、憲法三八条一項、二項違反を主張するけれども、Aの所論各供述調書が、
取調官の強制によつてつくられたものであることを疑うべき事由は記録上認められ
ない。従つて違憲の主張は前提を欠き採用できない。
 同第二点について。
 所論は、憲法三一条違反を主張するけれども、その実質は単なる訴訟法違反の主
張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。かつ所論各供述調書中Aの検察
官に対する供述調書については、一審裁判所が同三二一条一項二号後段の要件を具
えたものと認めて、これを証拠として取り調べたことを是認した原判決に、違法が
あるものとは認められない。次に同人の司法警察員に対する供述調書については、
同三二一条一項三号の要件を具えておらず、一審においても、被告人に対する証拠
としては取調べがなされていない。しかるにこれを被告人に対する有罪認定の証拠
として掲げた一審判決には違法があり、またこれを看過し、右供述調書を引用して、
一審判決の有罪認定を支持した原判決には違法がある。しかし、被告人に対する一
審判示事実は、右供述調書を除いた他の証拠によつて認めることができるから、右
違法は判決に影響をおよぼさないこと明らかである。
 同第三点について。
 所論は、憲法三八条三項違反を主張するけれども、共犯者の自白をもつて、右憲
法の規定にいわゆる「本人の自白」と同一視し、またはこれに準ずるものとするこ
とのできないことは、判例(昭和二九年(あ)一〇五六号同三三年五月二八日大法
廷判決、刑集一二巻八号一七一八頁)の示すところである。従つて右違憲の主張は
採用できない。
 同第四点について。
 所論は、憲法三七条二項違反(三八条とある部分は誤記と認める)を主張する。
しかし、右憲法の規定が、被告人側の申請した証拠は不必要と認められるものでも
取り調べなければならないという趣旨でないことは、判例(昭和二二年(れ)二三
〇号同二三年七月二九日大法廷判決、刑集二巻九号一〇四五頁)の示すところであ
り、原審裁判所が所論証拠調の請求を却下したことをもつて、右憲法の規定に違反
するものといえないことは、右判例の趣旨により明らかである。
 同第五点について。
 所論は、単なる法令違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
なお第二点に対する判断参照。
 同第六点について。
 所論は、事実誤認の主張であつて、同四〇五条の上告理由に当らない。
 また記録を調べても、各所論の点につき同四一一条を適用すべきものとは認めら
れない。
 よつて同四〇八条により、弁護人関原勇、同根本孔衛の上告趣意第三点に関する
裁判官田中二郎の反対意見を除くほか、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決
する。
 裁判官田中二郎の反対意見は次のとおりである。
 弁護人関原勇、同根本孔衛の上告趣意第三点について。
 憲法三八条三項は、「何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場
合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない」と規定している。これは、いうま
でもなく、自白偏重の弊に陥ることを避け、万一にも起り得る誤判を防止しようと
するものである。この趣旨から考えると、ここでいう自白の中には共犯者の自白を
も含むものと解するを相当とする。法文の字句からいえば、「本人の自白」とあり
(刑訴法三一九条二項も被告人の自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合には、
有罪とされないと規定している)、文理上は、共犯者の自白は含まれないようにみ
え、これが多数意見の有力な根拠とされているようであるが、自白偏重の弊に陥る
ことを避けようとする憲法の趣旨に即して合理的に解釈すれば、本人の自白のみな
らず、共犯者の自白をも含み、共犯者の自白を唯一の証拠として、本人を処罰する
ことは許されないといわなければならない。何となれば、共犯者の自白を唯一の証
拠としてよいということになれば、被告人本人を処罰するために、共犯者の自白強
要を助長するおそれがあり、ひいて誤判を生ずる危険があるからである。もう少し
具体的にいえば、甲乙共犯の場合の自白の内容が、被告人甲の犯罪事実であると同
時に被告人乙の犯罪事実である場合には、甲の自白だけでに甲を処罰することがで
きないために、そのことを理由として捜査当局が乙の自白を誘導しようとするおそ
れが絶対にないとはいえず、乙もまた、捜査当局の意を迎えて、自己について寛大
な取扱いを求めるために、甲に不利な事実を誇張し、乙自身に不利益な事実を隠蔽
しようとする態度をとらないとも限らない。このような事情のもとになされる可能
性のある乙の自白に唯一の証拠として甲を有罪と断ずることは、甲自身の自白を唯
一の証拠として甲を有罪と断ずる以上に不当な結果を来たすおそれさえあるといつ
てよい。また、右の場合に、自白者たる乙はその自白によつて有罪とされることな
く、同一犯罪事実を終始否認している共犯者たる甲が右の自白によつて有罪とされ
るという不合理な結果を来たすことともなつて、常職上からも納得しがたい。
 それ故、原判決が共犯者の自白を唯一の証拠として罪責を認め得るものとしたの
は違法であり、この点において、破棄を免れない。
  昭和四〇年二月九日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    五 鬼 上   堅   磐
            裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎

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