弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人の上告趣意は末尾添附別紙記載のとおりてある。
 趣旨第一点に対する判断
 本件公判請求書の公訴事実の記載と原判決が認定した判示第一の事実との間に所
論のような違いのあることは論旨指摘の通りである。然し右公訴事実の記載は「鮮
魚さば大四三六貫あじ八貫等」とあり右二種の鮮魚に限定したものではない、そし
て記録によると前記「鮮魚さば大四三六貫あじ八貫等」とはそれ等の鮮魚の外に当
時被告人が公定価格を超過して販売する目的で所持していた「いなだ二貫二五〇匁」
も含む趣旨であつて特に之を除外する趣旨でないことが窺えるのである。さすれば
原判決において被告人が鮮魚さば大四三六貫あじ八貫及びいなだ二貫二五〇匁をそ
の公定価格を超過して販売する目的で所持していた事実を認定したのは審判の請求
を受けた事実以外の事実を認定したことにはならないので原判決には所論のような
違法は更にない。よつて論旨は理由がない。
 第二点に対する判断
 原判決において被告人が昭和二三年七月二三日物価庁告示第五一四号指定の卸売
業者の統制額から一貫について三〇円位を超過して販売する目的で本件鮮魚類を所
持していた事実を認定していること、そして右告示には卸売業者の統制額の外に小
売業者の統制額についても指定されていること及び原判決において本件鮮魚類の買
受人が右の小売業者であることを確定判示していないことは所論の通りである。然
し原判決が認定しているところは物価統制令第一三条の二(同令第三条)違反の事
実であるから一定の公定価格を超過する価格で販売する目的である物品を所持して
いた事実を確定すれば判示事実としては十分であつて更に之を買受けるであろうと
ころの者の身分まで摘示しなければならないものではない(引用の大審院判例は本
件の場合に適切なものではない)。又前記のように物価庁告示指定の統制額(貫当
りさばとあじはいづれも一五〇円わらさは二五〇円)より一貫について三〇円位を
超過して販売する目的で所持していた事実が認定されている以上当時幾らで販売す
る目的であつたか又その超過額が幾らになるかを具体的に判示しなかつたからとい
つて違法ではない。従つて論旨は理由がない。
 第三点に対する判断
 原判決が罪証に供している被告人大塚定之に対する昭和二三年九月二四日附検事
の聴取書の供述記載(記録二三丁表八行目以下)によると被告人は本件さばを貫当
り一八〇円から一九〇円であじとわらさをいづれも貫当り二七〇円から二八〇円で
売る心算であつたというのであるから前記告示指定の卸売業者の統制額を基準にす
るとさばとわらさは右統制額より三〇円位超過して販売する目的で之を所持してい
たことになるが、あじほその統制額より一二〇円乃至一三〇円超過して販売する目
的で之を所持していたことになつて原判決の摘示事実はあじに関する限り必ずしも
正鵠を得たものと言えない。しかし「三〇円位」という金額は固より一二〇円乃至
一三〇円の範囲内の額であるから前記被告人大塚に対する検事聴取書中の供述記載
によつて必ずしも判示金額即ち本件あじを判示卸売業者の統制額より一貫について
三〇円位を超過して販売する目的であつた点が認定し得ないことはないのである。
従つて原判決には所論のような違法はないばかりではなく元来原判決において認定
しているところより高い超過額を認定すべきであるとの主張に帰着する所論は、畢
竟被告人に不利益な論旨とも言えるのであつていづれの点からしても論旨は採用に
値しない。
 よつて旧刑事訴訟法第四四六条に従い裁判官全員の一致した意見により主文のと
おり判決する。
 検察官 福島幸夫関与
  昭和二六年一〇月二日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保

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