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平成26年7月11日判決言渡
平成25年(行ウ)第114号標準報酬改定請求却下決定取消等請求事件
主文
1本件訴えのうち被告が原告とAとの間の別紙3「年金分割のための
情報通知書(厚生年金保険制度)」記載の情報に係る年金分割につい
ての請求すべきあん分割合を0.45に改定することの義務付けを求
める部分を却下する。
2本件訴えのその余の部分に係る原告の請求を棄却する。
3訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告が原告に対し平成23年3月4日付けでした標準報酬の改定の請求を却
下する旨の処分(以下「本件処分」という。)を取り消す。
2被告は,原告とAとの間の別紙3「年金分割のための情報通知書(厚生年金
保険制度)」記載の情報(以下「本件情報」という。)に係る年金分割につい
ての請求すべきあん分割合を0.45に改定せよ(以下,本件訴えのうちこの
請求に係る部分を「本件義務付けの訴え」という。)。
第2事案の概要等
本件は,平成20年▲月▲日に離婚の訴えに係る訴訟における和解によ
りAと離婚した原告が,平成22年3月5日,厚生労働大臣に対し,厚生年金
保険法(以下「厚年法」という。)78条の2第1項の規定に基づく当該離婚
について対象期間に係る被保険者期間の原告及びAの標準報酬の改定の請求
(以下「本件標準報酬改定請求」という。)をしたところ,平成23年3月4
日,厚生労働大臣から権限に係る事務の委任を受けた被告から,本件標準報酬
改定請求はAが死亡した日から起算して1月以内にされたものではなく,厚生
年金保険法施行令(以下「厚年法施行令」という。)3条の12の7(平成2
4年政令第197号による改正前のもの。以下,単に「厚年法施行令3条の1
2の7」という。)が定める場合に該当しないとして,これを却下する旨の処
分(本件処分)を受けたことから,本件処分の取消し等を求める事案である。
1関係法令の定め
別紙1「関係法令の定め」に記載したとおりである(同別紙で定める略称
は,以下においても用いる。)。
2前提事実
証拠(各認定事実の後に掲げる。証拠を掲げない事実は,当事者間に争いが
ない。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実(以下「前提事実」とい
う。)が認められる。
(1)原告(昭和29年▲月▲日生まれ)は,昭和54年▲月▲日,A
(昭和23年▲月▲日生まれ)との婚姻の届出をした(各生年月日につき
甲1)。
(2)原告は,平成3年頃,Aとの別居を開始した(甲15)。
(3)原告は,平成20年3月下旬,Aの代理人から,Aが原告との離婚を求め
て□□家庭裁判所に調停を申し立てた旨を知らされた(甲15)。
(4)原告は,平成20年4月28日,平成19年法律第109号による改正前
の厚年法78条の4第1項の規定に従い,社会保険庁長官に対し,標準報酬
改定請求を行うために必要な情報であって同条2項に規定するものの提供を
請求した。
(5)これに対し,社会保険庁長官は,平成20年5月7日,原告に対し,同日
付け「年金分割のための情報通知書(厚生年金保険制度)」(甲2。別紙
3)を交付して,本件情報の提供をした。
(6)平成20年5月12日,□□家庭裁判所において,前記(3)の調停の期日が
開かれ,原告がAとの離婚に合意しない旨を述べたところ,Aは,同日,
同調停の申立てを取り下げた(甲15)。
(7)Aは,平成20年5月22日,原告に対して離婚を求める訴えを〇〇家庭
裁判所△△支部に提起した(甲15,16)。
(8)これに対し,原告は,平成20年9月24日,慰謝料200万円及びこれ
に対する遅延損害金の支払を求める反訴の提起並びに原告とAとの間の本件
情報に係る年金分割についての請求すべきあん分割合を0.5と定めること
を求める申立てをした(甲15,16)。
(9)平成20年▲月▲日,○○家庭裁判所△△支部の前記(7)及び(8)の各
事件において,原告とAとの間に,①Aと原告は,同日和解離婚する,②原
告とAとの間の本件情報に係る年金分割についての請求すべきあん分割合を
0.45と定めるなどの内容による和解が成立した(甲3,15,16)。
(10)Aは,平成21年▲月▲日頃,死亡した。
(11)原告は,Aに対して財産の分与の請求もしたいと考え,平成21年4月
15日,前記(7)及び(8)の各事件について,〇〇家庭裁判所△△支部に期日
の指定の申立てをした(甲15,17,18)。
(12)原告は,平成21年4月29日,〇〇県警察の警察官から,Aが行方不
明となっており,Aの妹から家出人捜索願の届出がされている旨を知らされ
た(甲15,20)。
(13)原告は,〇〇家庭裁判所△△支部の裁判所書記官から,前記(7)及び(8)
の各事件について,期日の呼出状をAに送達することができなかった旨の連
絡を受けたことから,平成21年6月9日,同支部に公示送達の申立てをし
た(甲15,19,22)。
(14)原告は,平成21年7月3日,○○県警察の警察官から,同月1日にA
の遺体が発見された旨を知らされた(甲15)。
(15)原告は,平成22年3月5日,標準報酬改定請求書(甲4,乙1)に,
前記(9)の和解についての和解調書の抄本(甲3)を添付して,これを◇◇
年金事務所に提出することにより,厚生労働大臣に対し,本件標準報酬改定
請求をした。
(16)厚生労働大臣から権限に係る事務の委任を受けた被告は,平成23年3
月4日,原告に対し,本件標準報酬改定請求はAが死亡した日から起算して
1月以内にされたものではなく,厚年法施行令3条の12の7が定める場合
に該当しないとして,これを却下する旨の本件処分をした。
(17)原告は,平成23年5月2日,本件処分に不服があるとして,関東信越
厚生局社会保険審査官に対して審査請求をしたが,同審査官は,同年12月
28日,これを棄却する旨の決定(甲6)をした。
(18)原告は,平成24年2月27日,前記(17)の決定に不服があるとして,
社会保険審査会に対して再審査請求をしたが,同審査会は,平成25年1月
31日,これを棄却する旨の決定(甲7)をした。
(19)原告は,平成25年3月2日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。
3主たる争点及びこれに関する当事者の主張の要旨
本件の主たる争点は,本件処分の適法性である。これに関する当事者の主張
の要旨は,別紙2「主たる争点に関する当事者の主張の要旨」記載のとおりで
あり,本件処分は,本件標準報酬改定請求はAが死亡した日から起算して1月
以内にされたものではなく,厚年法施行令3条の12の7が定める場合に該当
しないとして,これを却下したものであるところ,原告は,同条の規定が厚年
法78条の12の規定による委任の範囲を逸脱したものであるとして,同令3
条の12の7の規定に基づいてされた本件処分は違法である旨を主張してい
る。
第3当裁判所の判断
1本件処分の適法性について
(1)離婚等をした場合における標準報酬の改定の特例の制度について
ア厚年法78条の2第1項は,第1号改定者又は第2号改定者は,離婚等
をした場合であって,第1号改定者及び第2号改定者が標準報酬改定請求
をすること及び請求すべきあん分割合について合意しているとき(同項1
号)又は同条2項の規定により家庭裁判所が請求すべきあん分割合を定め
たとき(同条1項2号)は,厚生労働大臣に対し,当該離婚等について対
象期間に係る被保険者期間の第1号改定者及び第2号改定者の標準報酬の
改定又は決定を請求することができるが(本文),当該離婚等をしたとき
から2年を経過したときその他の厚生労働省令で定める場合に該当すると
きは,この限りでない(ただし書)旨を定めている。
同法が,上記のような離婚等をした場合における標準報酬の改定の特例
の制度(いわゆる離婚時年金分割制度)を設けた趣旨は,比較的婚姻期間
の長い中高齢者の夫婦における離婚件数が増加してきているところ,いわ
ゆる現役時代の男女の雇用の格差等を背景として,夫婦間の年金受給額に
大きな格差が生ずる場合があり,取り分け,老齢厚生年金等の保険給付の
報酬比例部分の額は,被保険者の標準報酬を基礎として算定されることか
ら,夫婦が離婚した場合において,就労期間がないか,短期間であった
り,低賃金であったりした者は,高齢期において十分な所得水準を確保す
ることができないという問題が指摘されていたことを受けて,夫婦の離婚
時に厚生年金保険について分割をすることを可能とすることにあったと解
される(甲12参照)。
イ前記アで述べたとおり,厚年法は,夫婦の離婚時に厚生年金保険につい
て分割をする具体的な方法として,第1号改定者及び第2号改定者の標準
報酬の改定又は決定という法技術を採用したものであるところ,年金受給
権を一身専属的なものとし,受給権者の死亡によって消滅するものとする
同法上の年金制度の趣旨(同法45条,53条1号参照)からして,死亡
した者に係る標準報酬は観念され得ないものと解され,同法第3章の2
(離婚等をした場合における特例)又は同章の規定による委任に基づき定
められた厚年法施行令若しくは厚年法施行規則(なお,同法78条の2第
1項ただし書は,標準報酬改定請求をすることができる期間については厚
年法施行規則の定めるところに委任する旨を定めている。)中に離婚時年
金分割制度につき上記の同法の基本とするところを同制度について改める
ものとする明文の規定はないことから,標準報酬改定請求がされる前に第
1号改定者及び第2号改定者の一方が死亡した場合には,第1号改定者及
び第2号改定者が離婚等をしたときから2年を経過する前であったとして
も,同法78条の6の規定に従った第1号改定者及び第2号改定者の標準
報酬の改定又は決定をする前提が欠けることになるため,第1号改定者及
び第2号改定者の他方が標準報酬改定請求をすることはできなくなるもの
と解される(乙2参照)。
そして,同令3条の12の7は,同法78条の12の規定による委任に
基づき,第1号改定者及び第2号改定者の一方が死亡した日から起算して
1月以内に第1号改定者及び第2号改定者の他方による標準報酬改定請求
があったときは,第1号改定者及び第2号改定者の一方が死亡した日の前
日に標準報酬改定請求があったものとみなす旨を定めているところ,これ
は,標準報酬改定請求がされる前に第1号改定者及び第2号改定者の一方
が死亡した場合には,第1号改定者及び第2号改定者の他方が標準報酬改
定請求をすることはできなくなるという上記と同様の理解に立った上で,
同法78条の2第1項ただし書の規定による委任に基づき厚年法施行規則
78条の3第1項が定めた標準報酬改定請求をすることができる期間の原
則に対する例外として同条2項が定めた例(同条1項に掲げる離婚が成立
した日等から起算して2年を経過した日以後に請求すべきあん分割合を定
めた審判が確定した場合等においては,その事由が生じた日の翌日から起
算して1月を経過するまでは同請求をすることができるものとするもの)
と同様に,第1号改定者及び第2号改定者の一方が死亡した日から起算し
て1月以内に第1号改定者及び第2号改定者の他方による標準報酬改定請
求があったときに限り,第1号改定者及び第2号改定者の一方が死亡した
日の前日,すなわちその者に係る標準報酬をなお観念することのできた時
点において標準報酬改定請求がされたものとみなし,特例を設ける趣旨で
あると解される。
(2)原告の主張について
ア原告は,厚年法78条の12の規定が,同法78条の2第1項ただし書
の規定とあいまって,離婚等をしたときから2年間の標準報酬改定請求を
することができる期間を保障したものであるという理解を前提に,厚年法
施行令3条の12の7の規定は,この期間を第1号改定者及び第2号改定
者の一方が死亡した日から起算して1月以内に限定するものであって,同
法78条の12による委任の範囲を逸脱するものである旨を主張する。
イしかし,標準報酬改定請求をすることができる期間について定める厚年
法78条の2第1項ただし書の規定及び同規定による委任に基づき定めら
れた厚年法施行規則78条の3の規定は,離婚等をしたときから2年を経
過したとき等には,標準報酬改定請求をすることができない旨を定めてい
る一方,上記の期間中に第2号改定者による上記の請求に係る第1号改定
者が死亡した場合について,同法の基本とするところと解される前記(1)
イに述べたところの例外とする旨を定める規定は見当たらず,このような
同法の関係規定の文理に照らし,同法78条の2第1項ただし書の規定が
離婚等をしたときから2年を経過するまでは常に標準報酬改定請求をする
ことができることを保障する趣旨のものであるとまでは解し難い。むし
ろ,前記(1)で述べたとおり,同法が,夫婦の離婚時に厚生年金保険につ
いて分割をする具体的な方法として,第1号改定者及び第2号改定者の標
準報酬の改定又は決定という法技術を採用した以上は,第1号改定者及び
第2号改定者の一方が死亡し,その者に係る標準報酬を観念することがで
きない状況に至った場合には,離婚等をしたときから2年を経過する前で
あったとしても,第1号改定者及び第2号改定者の他方による標準報酬改
定請求はすることができなくなることは,同法が当然に予定するところで
あると解するのが相当である。
そして,同法78条の12は,同法第3章の2(離婚等をした場合にお
ける特例)に定めるもののほか,離婚等をした場合における特例に関し必
要な事項は,政令で定める旨を定めているにすぎないのであって,この規
定が,上記のとおりの同法78条の2第1項ただし書の規定とあいまっ
て,離婚等をしたときから2年間の標準報酬改定請求をすることができる
期間を保障したものと解する余地は,直ちには見当たらない。
そうすると,前記アの原告の主張は,厚年法78条の12の規定が,同
法78条の2第1項ただし書の規定とあいまって,離婚等をしたときから
2年間の標準報酬改定請求をすることができる期間を保障したものである
という前提において失当であるといわざるを得ない。
これまで述べたところからすれば,標準報酬改定請求がされる前に第1
号改定者及び第2号改定者の一方が死亡した場合には,離婚等をしたとき
から2年を経過する前であったとしても,第1号改定者及び第2号改定者
の他方による標準報酬改定請求はすることができなくなるのが本来である
ところ,厚年法施行令3条の12の7の規定は,第1号改定者及び第2号
改定者の一方が死亡した日から起算して1月以内に第1号改定者及び第2
号改定者の他方による標準報酬改定請求があったときに限り,第1号改定
者及び第2号改定者の一方が死亡した日の前日に標準報酬改定請求がされ
たものとみなすことによって,これを適法なものと取り扱おうとしたもの
というべきであって,同法78条の12の規定による委任の範囲を逸脱し
て標準報酬改定請求をすることができる期間を限定したものと解すること
は相当ではない。以上と異なる原告の主張は,採用することができない。
(3)小括
原告が本件標準報酬改定請求をしたのは平成22年3月5日のことである
ところ(前提事実(15)),Aは平成21年▲月▲日頃に死亡していたのであ
るから(前提事実(10)),本件標準報酬改定請求は,Aが死亡した日から起
算して1月以内にされたものとはいえず,厚年法施行令3条の12の7の規
定によっても,Aの標準報酬をなお観念することのできた時点においてされ
たものとみなすことはできない。
そうすると,本件標準報酬改定請求は,Aが死亡し,その標準報酬を観念
することができなくなってからされたものであるから,不適法なものであっ
たといわざるを得ず,これを却下する旨の本件処分は,適法であったという
べきである。
2本件義務付けの訴えの適法性について
原告は,本件義務付けの訴えにおいて,被告に対し原告とAとの間の本件情
報に係る年金分割についての「請求すべきあん分割合」を0.45に改定する
ことの義務付けを求めているところ(前記第1の2),前提事実(9)のとお
り,平成20年▲月▲日に,〇〇家庭裁判所△△支部において,原告とA
との間に,原告とAとの間の本件情報に係る年金分割についての請求すべきあ
ん分割合を0.45と定めるなどの内容による和解が成立しているのであるか
ら,本件義務付けの訴えは,被告に請求すべきあん分割合を定める権限がある
かどうかという問題をひとまずおくとしても,一見して訴えの利益を欠くもの
であるようにも見える。
もっとも,原告が本件標準報酬改定請求をした目的等に照らせば,原告は,
被告に対し原告及びAの「標準報酬」について本件標準報酬改定請求の内容に
従った厚年法所定の改定をすることの義務付けを求めて,行政事件訴訟法3条
6項2号に規定するいわゆる申請型の義務付けの訴えとして本件義務付けの訴
えを提起したものとも解される。しかし,このように解したとしても,申請型
の義務付けの訴えは,法令に基づく申請を却下し,又は棄却する旨の処分がさ
れた場合において,当該処分が取り消されるべきものであり,又は無効若しく
は不存在であるときに限り提起することができるとされているところ(同法3
7条の3第1項2号),本件処分が取り消されるべきものでないことは,前記
1で判示したとおりであり,また,一件記録によっても,それが無効又は不存
在であるとは認められないから,本件義務付けの訴えは,同号所定の訴訟要件
を満たさない訴えであり,いずれにせよ不適法なものであるといわざるを得な
い。
第4結論
以上の次第であって,本件訴えのうち本件義務付けの訴えに係る部分は,不
適法であるからこれを却下し,本件訴えのその余の部分に係る原告の請求は,
理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
裁判長裁判官八木一洋
裁判官福渡裕貴
裁判官川嶋知正
別紙1
関係法令の定め
1厚年法の定め
(1)離婚等をした場合における標準報酬の改定の特例
ア厚年法78条の2第1項は,第1号改定者(被保険者又は被保険者であっ
た者であって,同法78条の6第1項1号及び2項1号の規定により標準報
酬(標準報酬月額及び標準賞与額をいう。同法28条。以下同じ。)が改定
されるものをいう。以下同じ。)又は第2号改定者(第1号改定者の配偶者
であった者であって,同法78条の6第1項2号及び2項2号の規定により
標準報酬が改定され,又は決定されるものをいう。以下同じ。)は,離婚等
(離婚(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあった者
について,当該事情が解消した場合を除く。),婚姻の取消しその他厚生労
働省令で定める事由をいう。以下同じ。)をした場合であって,次の各号の
いずれかに該当するときは,厚生労働大臣に対し,当該離婚等について対象
期間(婚姻期間その他の厚生労働省令で定める期間をいう。以下同じ。)に
係る被保険者期間の第1号改定者及び第2号改定者の標準報酬の改定又は決
定を請求することができるが(本文),当該離婚等をしたときから2年を経
過したときその他の厚生労働省令で定める場合に該当するときは,この限り
でない(ただし書)旨を定めている。
1号第1号改定者及び第2号改定者が標準報酬の改定又は決定の請求をす
ること及び請求すべきあん分割合(当該改定又は決定後の第1号改定者及
び第2号改定者の同法78条の3第1項に規定する対象期間標準報酬総額
の合計額に対する第2号改定者の対象期間標準報酬総額の割合をいう。以
下同じ。)について合意しているとき。
2号同法78条の2第2項の規定により家庭裁判所が請求すべきあん分割
合を定めたとき。
イ厚年法78条の2第2項は,同条1項の規定による標準報酬の改定又は決
定の請求(以下「標準報酬改定請求」という。)について,同項1号の第1
号改定者及び第2号改定者の合意のための協議が調わないとき,又は協議を
することができないときは,第1号改定者及び第2号改定者の一方の申立て
により,家庭裁判所は,当該対象期間における保険料納付に対する第1号改
定者及び第2号改定者の寄与の程度その他一切の事情を考慮して,請求すべ
きあん分割合を定めることができる旨を定めている。
ウ平成23年法律第53号による改正前の厚年法78条の2第4項は,標準
報酬改定請求は,第1号改定者及び第2号改定者が標準報酬の改定又は決定
の請求をすること及び請求すべきあん分割合について合意している旨が記載
された公正証書の添付その他の厚生労働省令で定める方法によりしなければ
ならない旨を定めている。
(2)標準報酬の改定又は決定
ア厚年法78条の6第1項は,厚生労働大臣は,標準報酬改定請求があった
場合において,第1号改定者が標準報酬月額を有する対象期間に係る被保険
者期間の各月ごとに,第1号改定者及び第2号改定者の標準報酬月額をそれ
ぞれ次の各号に定める額に改定し,又は決定することができる旨を定めてい
る。
1号第1号改定者改定前の標準報酬月額(同法26条1項の規定により
同項に規定する従前標準報酬月額が当該月の標準報酬月額とみなされた月
にあっては,従前標準報酬月額。同法78条の6第1項2号において同
じ。)に1から改定割合(あん分割合を基礎として厚生労働省令で定める
ところにより算定した率をいう。以下同じ。)を控除して得た率を乗じて
得た額
2号第2号改定者改定前の標準報酬月額(標準報酬月額を有しない月に
あっては,零)に,第1号改定者の改定前の標準報酬月額に改定割合を乗
じて得た額を加えて得た額
イ厚年法78条の6第2項は,厚生労働大臣は,標準報酬改定請求があった
場合において,第1号改定者が標準賞与額を有する対象期間に係る被保険者
期間の各月ごとに,第1号改定者及び第2号改定者の標準賞与額をそれぞれ
次の各号に定める額に改定し,又は決定することができる旨を定めている。
1号第1号改定者改定前の標準賞与額に1から改定割合を控除して得た
率を乗じて得た額
2号第2号改定者改定前の標準賞与額(標準賞与額を有しない月にあっ
ては,零)に,第1号改定者の改定前の標準賞与額に改定割合を乗じて得
た額を加えて得た額
ウ厚年法78条の6第4項は,同条1項及び2項の規定により改定され,又
は決定された標準報酬は,当該標準報酬改定請求のあった日から将来に向か
ってのみその効力を有する旨を定めている。
(3)政令への委任
厚年法78条の12は,同法第3章の2(離婚等をした場合における特例)
に定めるもののほか,離婚等をした場合における特例に関し必要な事項は,政
令で定める旨を定めている。
(4)被告への厚生労働大臣の権限に係る事務の委任
厚年法100条の4第1項21号は,厚生労働大臣の権限に係る事務のうち
同法78条の2第1項及び78条の4第1項の規定による請求の受理につい
て,同法100条の4第1項23号は,厚生労働大臣の権限に係る事務のうち
同法78条の6第1項の規定による標準報酬月額の改定又は決定及び同条2項
の規定による標準賞与額の改定又は決定について,それぞれ日本年金機構(被
告)に行わせるものとする旨を定めている。
2厚年法施行令の定め(標準報酬改定請求の特例)
厚年法施行令3条の12の7は,第1号改定者及び第2号改定者の一方が死亡
した日から起算して1月以内に平成23年法律第53号による改正前の厚年法7
8条の2第4項に規定する方法(同条1項1号に規定する請求すべきあん分割合
について同項各号のいずれかに該当することを証明することができる方法として
厚生労働省令で定める方法に限る。)により第1号改定者及び第2号改定者の他
方による標準報酬改定請求があったときは,第1号改定者及び第2号改定者の一
方が死亡した日の前日に標準報酬改定請求があったものとみなす旨を定めてい
る。
3厚生年金保険法施行規則(以下「厚年法施行規則」という。)の定め
(1)標準報酬改定請求の請求期限
ア厚年法施行規則78条の3第1項本文は,厚年法78条の2第1項ただし
書に規定する厚生労働省令で定める場合は,次の各号に掲げる日の翌日から
起算して2年を経過した場合とするが(本文),同法78条の4第1項の規
定により対象期間の末日以後に提供を受けた情報について補正を要したと認
められる場合における標準報酬改定請求の請求期間の計算については,当該
補正に要した日数は,算入しない(ただし書)旨を定めている。
1号離婚が成立した日
2号婚姻が取り消された日
3号同規則78条に定める事由に該当した日
イ厚年法施行規則78条の3第2項は,同条1項各号に掲げる日の翌日から
起算して2年を経過した日以後に,又は同項各号に掲げる日の翌日から起算
して2年を経過した日前1月以内に次の各号のいずれかに該当した場合(同
条2項1号又は2号に掲げる場合に該当した場合にあっては,同条1項各号
に掲げる日の翌日から起算して2年を経過した日前に請求すべきあん分割合
に関する審判又は調停の申立てがあったときに限る。)について,厚年法7
8条の2第1項ただし書に規定する厚生労働省令で定める場合は,同規則7
8条の3第1項本文の規定にかかわらず,次の各号のいずれかに該当するこ
ととなった日の翌日から起算して1月を経過した場合とする旨を定めてい
る。
1号請求すべきあん分割合を定めた審判が確定したとき
2号請求すべきあん分割合を定めた調停が成立したとき
3号人事訴訟法32条1項の規定による請求すべきあん分割合を定めた判
決が確定したとき
4号人事訴訟法32条1項の規定による処分の申立てに係る請求すべきあ
ん分割合を定めた和解が成立したとき
(2)平成23年法律第53号による改正前の厚年法78条の2第4項に規定する
厚生労働省令で定める方法
平成24年厚生労働省令第165号による改正前の厚年法施行規則78条の
4第1項は,標準報酬改定請求をする第1号改定者及び第2号改定者は,同規
則78条の11第1項に規定する請求書に,次の各号のいずれかに掲げる書類
を添付して,これを日本年金機構(被告)に提出しなければならない旨を定め
ている。
1号から4号まで省略
5号請求すべきあん分割合を定めた和解についての和解調書の謄本又は抄本
別紙2
主たる争点に関する当事者の主張の要旨
第1被告の主張の要旨
1本件標準報酬改定請求は厚年法施行令3条の12の7が定める要件を満たさ
ないこと
厚年法78条の2第1項ただし書は,離婚等をしたときから起算して2年を
経過したときその他の厚生労働省令で定める場合に該当するときは,標準報酬
改定請求をすることができない旨を定めている。また,本来,死亡した者に係
る標準報酬改定請求は行うことができないところ,厚年法施行令3条の12の
7は,第1号改定者及び第2号改定者の一方が死亡した日から起算して1月以
内にその他方による標準報酬改定請求があったときは,その一方が死亡した日
の前日に標準報酬改定請求があったものとみなす旨を定めている。
原告は,平成20年▲月▲日にAとの和解離婚が成立した後,その翌日
から起算して2年以内である平成22年3月5日に本件標準報酬改定請求を行
っているが,これはAが死亡した日である平成21年▲月▲日頃から起算して
1月を経過しているので,厚年法施行令3条の12の7が定める場合に該当し
ない。
このように,本件標準報酬改定請求は,第1号改定者及び第2号改定者の一
方が死亡した日から起算して1月以内にされたものではなく,所要の要件を欠
いた補正をすることのできない不適法なものである。
2厚年法施行令3条の12の7の規定が厚年法78条の12による委任の範囲
を逸脱したものではないこと
(1)離婚等をした場合における標準報酬の改定の特例の制度の導入の背景等
近年,中高齢者等の比較的婚姻期間の長い夫婦における離婚件数が増加し
てきているところ,老齢厚生年金等の保険給付(報酬比例部分)の額は,平
均標準報酬額及び被保険者期間に基づいて計算されるから,離婚した夫婦の
うち,低報酬であったり,被保険者期間がないか短期間であったりした者に
ついては,高齢期において十分な所得水準を確保することができなくなると
いう問題が指摘されていた。
このように,現役時代の男女の雇用格差・給与格差などを背景として,離
婚した夫婦間の年金受給額に大きな開きが生ずる場合があったところ,国民
年金法等の一部を改正する法律(平成16年法律第104号)により,夫婦
の離婚時に厚生年金の分割が可能となるような仕組みを設ける見直しが行わ
れ,夫婦の婚姻期間中の厚生年金の保険料納付記録を,離婚時に限って夫婦
間で分割することを認める標準報酬の改定の特例の制度(いわゆる離婚時年
金分割制度)が導入された。これは,離婚時における財産分与的性格のもの
と位置付けられており,具体的には,婚姻期間中の夫婦の標準報酬額の合計
を分割し,分割を受けた者に保険事故が発生した場合には,分割後の保険料
納付実績に基づいて算定された額の年金受給権が,分割を受けた者自身に発
生するようにする仕組みであって,この「分割」を行うための法技術とし
て,標準報酬の改定又は決定が用いられているのである。
(2)第1号改定者の死亡後の標準報酬改定請求は認められないのが原則である
こと
各年金法においては,年金給付を受ける権利(年金受給権)について,受
給権者の権利を保護する趣旨から,原則として,「譲り渡し,担保に供し,
又は差し押えることができない」旨が定められている(厚年法41条1項
等)。そのため,年金受給権は,受給権者の一身に専属するものであるとさ
れ,また,年金受給権は,受給権者の死亡により消滅し(同法45条等),
相続の対象にもならないとされている(民法896条ただし書)。このこと
から,年金受給権や年金額の計算の基礎となる被保険者期間及び当該期間に
係る標準報酬も受給権者の一身に専属するものであるとされ,相続されない
こととなる。
そして,全ての人間が権利能力を有する民法の下では,人間の死は権利の
主体が存在しなくなるということであり,死亡は人間が有する権利能力の唯
一の消滅原因であるとされているところ,被保険者期間及び当該期間に係る
標準報酬は受給権者の一身に専属するものであり,相続されないのであるか
ら,その者が死亡すれば,その瞬間に被保険者期間及び当該期間に係る標準
報酬は消滅する(存在しなくなる)こととなる(乙4)。
そうすると,標準報酬改定請求の前に第1号改定者が死亡した場合には,
当該者に係る標準報酬は消滅する(存在しなくなる)のであるから,第2号
改定者は標準報酬改定請求をすることはできないことになるのが原則であ
る。
(3)厚年法施行令3条の12の7の規定の位置付け
以上に対し,厚年法施行令3条の12の7に規定する1月の猶予は,飽く
までも離婚時年金分割制度という特例の中の更なる例外的な措置である。
前記(2)で述べたとおり,第1号改定者が死亡した後にその者に係る標準
報酬の改定請求をするということは,存在しない標準報酬の改定を請求して
いることと同じであるから,本来,認められる余地はない。しかし,第1号
改定者の現況を知らない第2号改定者による標準報酬改定請求が,たまさか
第1号改定者の死亡日からわずかに遅れた場合にまで,第1号改定者の標準
報酬は死亡と同時に消滅するという原則どおりの取扱いとしたのでは,第2
号改定者にとって余りにも酷である。そこで,死亡日に近接して標準報酬改
定請求がされた場合に限って,離婚時年金分割制度という特例の中の更なる
例外的な措置として,第1号改定者が死亡した日の前日に当該請求があった
ものとみなすこととされたのである。
ただし,その場合でも,遺族厚生年金は,厚年法の規定により被保険者又
は被保険者であった者の死亡を権利(年金受給権)発生の要件としており,
その死亡の時点から新たに権利関係が発生するものであるところ,離婚時年
金分割がその当事者ではない第1号改定者の遺族の遺族厚生年金の受給権に
影響を与えないようにする必要があることや,死亡した日から相当期間経過
した後に行われた標準報酬改定請求を死亡した日の前日にされたものとみな
すことは理にかなわないこと等を考慮して,その期間は1月とされたのであ
る。
要するに,同令3条の12の7の規定は,離婚後2年間の標準報酬改定請
求の期間を第1号改定者及び第2号改定者の一方が死亡した日から起算して
1月以内に制限したのではなく,第1号改定者及び第2号改定者の一方の死
亡後の標準報酬改定請求であってもその死亡の日から起算して1月以内にさ
れたものであれば認めるという猶予を設けたものなのである。
死亡によりその者の標準報酬が消滅するということは,同法上の原則であ
る。これに対し,離婚時年金分割制度は,同法上の特例として位置付けられ
ている。それゆえ,本体の同法上の原則を優先しつつ,離婚時年金分割制度
という特例的な取扱いの中で同法上の原則を若干緩和して,第2号改定者に
一定程度配慮した例外措置(同令3条の12の7の規定)を講ずることは,
離婚時年金分割制度の趣旨・目的に反するものでもないし,包括的な委任規
定である同法78条の12の委任の範囲を逸脱するものでもない。むしろ,
本件のような標準報酬改定請求がされる前に第1号改定者が死亡してしまう
というような特殊な事象について,同法上の特例として導入された離婚時年
金分割制度の趣旨・目的が,本体である同法上の原則に優先して適用されな
ければならない道理はない。
(4)原告の主張に対する反論
ア原告は,厚年法78条の12の趣旨は,同法78条の2第1項の規定と
あいまって,2年間の標準報酬改定請求の期間を認め,標準報酬改定請求
の機会を実質的に保障することにあるのであるから,厚年法施行令3条の
12の7が,標準報酬改定請求をすることができる期間を「当事者の一方
が死亡した日から起算して1月以内」に限定したことは,同法78条の1
2による委任の範囲を逸脱しており,違法である旨を主張する。
イしかし,厚年法78条の12は,離婚等をした場合における特例に関す
る政令への包括的な委任規定であって,同条の規定そのものが第1号改定
者及び第2号改定者の一方の死亡後のその他方による標準報酬改定請求を
認めているわけではない。現に,同条の文言は,「離婚等の一方の当事者
が死亡した場合における特例に関し必要な事項は政令で定める」とはなっ
ていない。
同条の趣旨は,原告が主張するように,標準報酬改定請求の期間中,標
準報酬改定請求の前に第1号改定者が死亡した場合,その者に係る標準報
酬が存在しなくなることを前提としつつも,そのことが離婚の第2号改定
者の標準報酬改定請求に影響を及ぼさないような規定の制定を厚年法施行
令に委任したというものではなく,死亡した第1号改定者に係る標準報酬
が存在しなくなることを前提にした上で,第1号改定者の死亡後にされた
第2号改定者による標準報酬改定請求をどう取り扱うかを定める必要があ
るため,そのような規定の制定を同令に委任したというものなのである。
そして,この委任を受けた同令3条の12の7の趣旨は,死亡した者に係
る標準報酬が存在しなくなるという同法上の原則に従って第1号改定者の
死亡後の標準報酬改定請求を一切認めないことにはせず,請求すべきあん
分割合が確定してから実際に標準報酬改定請求を行うまでの手続上必要な
猶予期間を設けたものである。もとより,同法上の原則は堅持しつつ,例
外として第1号改定者の死亡後の標準報酬改定請求をどこまでの範囲で認
めるかという程度の問題であるから,仮に例外を設けずに第1号改定者が
死亡した場合の標準改定請求はできないことにしたとしても違法でない。
ここで,請求すべきあん分割合が確定した後,実際に標準報酬改定請求
を行うまでの手続上必要な猶予期間をどのくらいの期間とするかは,政策
的に判断されるべき事項である。この猶予期間を1月と定めれば,違法又
は政令への委任の範囲を逸脱すると評価され,2年と定めれば,適法又は
政令への委任の範囲を逸脱しないと評価されるような必然性はない。
ウこの点について,原告は,第2号改定者は,第1号改定者の死亡を早期
に知ることが困難であるから,死亡した日から起算して1月以内の請求に
限定することは,標準報酬改定請求の機会を奪われるに等しいなどと主張
する。
しかし,そもそも離婚後2年間という標準報酬改定請求の原則的な期間
については,請求すべきあん分割合が確定している状態で標準報酬改定請
求をするか否かを熟慮するための期間ということでは必ずしもない。請求
すべきあん分割合が確定して標準報酬改定請求をすることができる状態に
あるならば,速やかにそれをすればよいのであって,1月という期間は,
標準報酬改定請求をするために必要な物理的な手続上の猶予期間であっ
て,それをしない間に第1号改定者が死亡したとしても,それは標準報酬
改定請求をしなかった第2号改定者の責任である。それゆえ,第1号改定
者の死亡を第2号改定者が知ることが困難という事情は,問題にはならな
いのである。
1月という期間が,請求すべきあん分割合が確定してからの手続上必要
な猶予期間であることは,厚年法施行規則78条の3第2項が,家庭裁判
所での審理が長引いたような場合には,標準報酬改定請求の期限につい
て,審判が確定したときや調停が成立したとき等から1月の期間の延長を
認める特例を定めていることからも裏付けられるものである。
(5)小括
以上によれば,厚年法施行令3条の12の7の規定は厚年法78条の12
による委任の範囲を逸脱したものではないということができる。
第2原告の主張の要旨
1厚年法施行令3条の12の7の規定が厚年法78条の12による委任の範囲
を逸脱したものであること
(1)厚年法78条の2第1項は,離婚時年金分割制度創設の目的,すなわち,
婚姻期間中における離婚当事者相互の保険料納付実績に対する寄与を適正に
評価して,第1号改定者の標準報酬額の一部を第2号改定者の標準報酬額に
改定することを認め,もって第2号改定者の老後の生活保障を図ること(甲
8,9)を実現すべく,離婚後2年間という長期間の標準報酬改定請求の期
間を設けて,標準報酬改定請求の機会を実質的に保障しているところ,この
ような長期間にわたる標準報酬改定請求の期間を認めた結果として,標準報
酬改定請求の期間中,標準報酬改定請求の前に第1号改定者が死亡する事態
も同法の予定するところとなった。
そうであるにもかかわらず,いざ実際にそのような事態が発生した場合に
おいて,第2号改定者が標準報酬改定請求をすることができなくなるという
のであれば(同法45条参照),同法78条の2第1項の規定の趣旨が没却
されることになる。
そこで,同法78条の12は,標準報酬改定請求の期間中,標準報酬改定
請求の前に第1号改定者が死亡した場合,その者に係る標準報酬が存在しな
くなることを前提としつつも(同法45条参照),そのことが第2号改定者
の標準報酬改定請求に影響を及ぼさないような規定の制定を厚年法施行令に
委任したのである。
(2)ところが,厚年法施行令3条の12の7は,第1号改定者が死亡した後に
第2号改定者が標準報酬改定請求をした場合において,このような標準報酬
改定請求については第1号改定者が死亡した日の前日にされたものとみなす
ことによって,第1号改定者の標準報酬が存在しなくなること(厚年法45
条参照)との調整を図った一方,第2号改定者が標準報酬改定請求をするこ
とができる期間については,離婚後2年間とするのではなく,第1号改定者
が死亡した日から起算して1月以内に制限した。
しかし,離婚後の夫婦が互いに連絡を取り続けることはまれであり,第2
号改定者が第1号改定者の死亡を早期に知ることは困難であるといわざるを
得ないところ,同令3条の12の7によれば,第2号改定者は第1号改定者
の死亡を知ることができないまま,標準報酬改定請求の機会を奪われるに等
しいのであって,離婚した第2号改定者の老後の生活の保障を趣旨とする標
準報酬改定請求に影響が及び,同人に甚大な不利益を被らせることになる。
このような事態を避けるためには,第2号改定者は,標準報酬改定請求をす
るか否かについて熟慮を終えるまでの間,第1号改定者の安否に注意を払い
続けなければならないことになるが,これでは離婚時年金分割制度を創設し
た目的の1つであるクリーン・ブレーク,すなわち離婚後はお互いに関わり
を一切持たないことを達成することはできない。
そもそも同法78条の12の趣旨は,同法78条の2第1項の規定とあい
まって,2年間の標準報酬改定請求の期間を認め,標準報酬改定請求の機会
を実質的に保障することにあるのであるから,既に述べたような同請求につ
いて同法45条の規定による原則に対する例外を認めるべき必要性及び相当
性を考慮すると,同法78条の12による委任を受けた同令3条の12の7
としては,「当事者の一方が死亡した後であっても,離婚から2年が経過す
る以前に当事者の他方による標準報酬改定請求があったときは,当事者の一
方が死亡した日の前日に標準報酬改定請求があったものとみなす。」と規定
しなければならなかったというべきである。
したがって,同条が第2号改定者による標準報酬改定請求の期間を離婚後
2年間とせず,第1号改定者が死亡した日から起算して1月以内に限定した
ことは,同法78条の12による委任の範囲を逸脱するものといわざるを得
ない。
(3)ところで,被告は,離婚時年金分割がその当事者ではない第1号改定者の
遺族の遺族厚生年金の受給権に影響を与えないようにする必要がある旨を主
張する。
しかし,標準報酬改定請求前の第1号改定者の標準報酬額は,婚姻期間中
における第2号改定者の寄与があって初めて形成し得たものであり,その形
成について,第1号改定者の遺族は全く寄与していないのであるから,遺族
厚生年金は,むしろ第2号改定者による標準報酬改定請求によって減額され
た後の標準報酬額を基礎として算定することが,第2号改定者との関係で公
平であるし,離婚時年金分割制度の趣旨・目的である遺族厚生年金の不合理
の是正(甲8,9)にもかなう。そもそも,第1号改定者が死亡した日から
起算して1月以内に標準報酬改定請求がされなかった場合であっても,第1
号改定者と第2号改定者との間においては,既に請求すべきあん分割合は判
決等によって明確に確定されているのであるから,第1号改定者の遺族の期
待は,標準報酬改定請求によって減額された後の標準報酬額を基礎として算
定された遺族厚生年金にしか及んでいないというべきである。このような利
益状況からすると,第1号改定者の標準報酬額の形成に寄与した第2号改定
者の生涯にわたる不利益の下で,第1号改定者の遺族を保護すべき理由はど
こにもないといわざるを得ない。
(4)したがって,厚年法施行令3条の12の7の規定は,厚年法78条の2第
1項が定める標準報酬改定請求をすることができる期間を実質的に制限する
ものであり,同法が離婚時年金分割制度を設けた趣旨を没却するものである
から,同法78条の12による委任の範囲を逸脱し,違法である。
よって,同令3条の12の7の規定に基づいてされた本件処分もまた違法
であるから,取り消されなければならない。
2厚年法施行令3条の12の7の規定が不合理であることについての補充の主

原告は,平成20年▲月▲日にAと和解離婚した後,Aから財産の分与
を受けていないことに気付き,従前の和解内容を前提として財産の分与につい
ても和解協議をするため,平成21年4月15日,Aとの間の離婚事件につ
き,期日指定の申立てを行った。しかし,○○家庭裁判所△△支部からAに宛
てて発送された口頭弁論期日の呼出状は,「あて所に尋ねあたりません」とい
う理由でAに送達できなかった。原告は,同年6月7日,■■県警察●●警察
署やAの従兄弟から聴き取りを行うなどして,Aの住所や居所の調査を行った
が,なおAの行方は不明であり,ましてやAの死亡の事実をうかがわせる事情
は何一つなかった。そうであるからこそ,○○家庭裁判所△△支部は,原告が
同月9日に申し立てた公示送達を採用したのである。
また,○○県警察は,同年4月29日当時,Aの妹から届出のあった家出人
捜素願を受けて,Aの行方を捜していたが,○○県警察でさえ,結局,同年7
月1日にAの遺体が発見されるまで,Aの死亡の事実を知ることはできなかっ
たのである。
これらの事情からすると,原告がAが死亡したとされる同年▲月▲日頃から
1月を経過するまでにAの死亡の事実を知ることなど不可能であったというほ
かない。そうであるにもかかわらず,本件において厚年法施行令3条の12の
7の規定を適用して本件標準報酬改定請求を認めないことは,原告に不可能を
強いるものに等しく,不合理であるというほかない。

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