弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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            主      文
    1 原判決を取り消す。
    2 被控訴人は,控訴人に対し,1332万0700円及びこれに対する
平成15年3月29日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払
え。
    3 控訴人のその余の請求を棄却する。
    4 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
    5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
            事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人
 (1) 原判決を取り消す。
 (2) 被控訴人は,控訴人に対し,1344万円及びこれに対する平成15年3月
29日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 被控訴人
  本件控訴を棄却する。
第2 事案の概要
 本件は,控訴人が,被控訴人に対し,控訴人の長男(当時18歳。以下「長
男」という。)の放火により生じた自宅の損害等について,火災保険契約に基づ
く保険金(損害保険金,臨時費用保険金,残存物取片づけ費用保険金)のうち1
344万円及びこれに対する約款の保険金支払日である控訴人が約款24条1項
所定の手続をした日(平成15年2月26日)から30日を経過した日の翌日で
ある同年3月29日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害
金の支払を求めたのに対し,被控訴人が,①長男は保険契約者である控訴人と信
義則上同視しうる,②控訴人自身に長男の放火を防止しなかった重過失があると
して,約款2条1項(1),商法665条,641条の免責等を主張した事案であ
る。
  その余の事案の概要は,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」に記
載のとおりであるから,これを引用する。
  原審は,約款2条1項(1)又は商法665条,641条に定める免責事由(控訴
人の重大な過失)があったとして,控訴人の請求を棄却した。
  これを不服として控訴人から提起されたのが,本件控訴事件である。
  当審における争点は,原審と同様であり,①本件保険金額,②長男は,信義則
上保険契約者と同視しうるか(約款2条1項(1)又は商法665条,641
条),③控訴人に長男の放火を防止しなかった重過失があるか(約款2条1
項(1)又は商法665条,641条),である。
  当審における当事者の主張は次のとおりである。
 1 控訴人
   原判決は,控訴人が長男の本件放火を予見することが十分可能であったとし
て,本件火災は,保険契約者である控訴人の重過失によって発生したものであ
るとするが,次のとおり,控訴人には長男の本件放火を予見することはでき
ず,重大な過失はない。
   長男は,父親である控訴人に対する恐怖心,嫌悪感及び母親の些細な言動に
対する怒りを伴った特殊な感情から器物,建造物損壊を伴う衝動的な行動に出
ていたが,こうした行動が長男の内心において放火の故意に発展し,放火が実
行される過程は,極めて特異な病理的な原因によるものであり,控訴人及び母
親であるその妻(以下,両名を併せて「控訴人ら」という。)が,これを予見
することは,不可能もしくは著しく困難であった。それまでの,長男の一連の
行為,すなわち,平成14年12月初めころ,台所からコップに灯油を入れ
て,消火器とともに自室に持ち込み,机上のレポート用紙や辞書にコップの灯
油をかけてマッチで火を点けたのち,消火器で消火したこと,平成15年1月
24日,2階の自室の窓ガラスを壊し,タンスを引き倒したこと,居間のレタ
ーケースに入っていたボーリングのスコアカードに,自ら購入していたライタ
ーの火をかざして焦がしたことは,いずれも衝動的に物を損壊する行為,ある
いはその延長上の行為であって,これらの行為からは失火の危険性は予見でき
たとしても,放火の可能性を予見することはできない。これらの行為から長男
の放火の可能性が予見できるのであれば,長男が受診していたA医院の医師A
(以下「A医師」という。)が,控訴人らにこれを指摘していたはずである
が,控訴人らはA医師からそのような指摘を受けたことはない。本件放火は,
精神科医のA医師においても予見できなかったことであり,精神疾患及びその
病理について専門的な知識を有しない控訴人らが,これを予見することは不可
能であった。
 2 被控訴人
   長男の控訴人らに対する攻撃的な行動は,次第にエスカレートし,本件放火
の以前に既に火を扱った危険な行為に及んでいたのであるから,控訴人らは,
精神疾患に関する専門的な知識を有していないとしても,同居している両親の
立場から,長男の行動に対応することは可能であったというべきである。それ
にもかかわらず,控訴人らは,長男の一連の行動に対し,これを放置ないし無
視し,かえって,長男を挑発するような言動を採るなどして,真剣に長男に向
き合って対処した行動を採っておらず,こうしたことが,本件放火に発展した
といえるのであり,控訴人ら(特に控訴人は,本件放火の前日に長男に対して
放火を挑発するような言動に及んでおり,その言動には,控訴人の妻も不安を
感じた程であった。)に重大な過失があることは明らかである。
第3 当裁判所の判断
  当裁判所は,①本件保険金額は1332万0700円,②長男を保険契約者と
同視することはできず,また,③控訴人に長男の放火を防止しなかった重過失を
認めることはできず,約款2条1項(1)又は商法665条,641条に定める免責
事由はいずれも存在しないから,被控訴人は控訴人に対し本件契約に基づき本件
保険金を支払う義務があるものと判断する。その理由は,前記①,②について
は,原判決「事実及び理由」の「第3 争点に対する判断」の2及び3(原判決
8頁下から7行目から10頁1行目まで)に説示のとおりであるから,これを引
用し,前記③については,次のとおりである。
1 前提事実,証拠(甲16,乙7ないし10,原審証人B)及び弁論の全趣旨
によれば,次の事実が認められる。
(1) 本件契約
 ア 控訴人は,平成4年4月ころ,本件建物を新築し,保険期間を1年とする
火災保険契約を締結し,以後同様の契約を継続し,平成14年2月,保険期
間を平成14年3月27日午後4時から平成15年3月27日午後4時まで
の1年間とする本件契約を被控訴人と締結した。
 イ 控訴人は,平成15年2月26日,被控訴人に対し,本件火災の発生を通
知するとともに,その後,損害見積書(甲3)その他の書類を被控訴人に提
出して約款24条1項所定の手続をした。
(2) 長男の症状と治療経過
 ア 長男は,小学生のころからよく勉強し,成績も良く,中学入学後も山口県
立C高等学校(以下「県立高校」という。)への進学を目指していた。
    ところが,中学3年生になった平成11年夏ころからは塾をやめ,体調が
悪くて思うように勉強ができないと言うようになり,2学期に入ると,「夜
眠れない。」,「頭に違和感がある。」などと訴えるようになったので,母
親である控訴人の妻(以下「母親」という。)は,同年9月の終わりころ,
長男をD内科に受診させた。D内科では,検査の結果異常はないと言われ,
精神科のA医院を受診するように勧められたが,そのときはA医院を受診し
ていない。
    なお,控訴人は平成11年から山口県E土木事務所勤務となったので,早
朝に自宅を出て,午後7時ころ帰宅していた。
 イ しかし,長男は,その後も頭の違和感を訴え続け,夜眠れないというの
で,平成11年12月15日,母親は,長男にA医院を受診させた。
    A医師は,長男の症状について,器質的な障害はなく,受験によるストレ
スを原因とする不安神経症であると診断し,抗不安剤,抗うつ剤を投与する
とともに,カウンセリングなどを行い,長男は,同月中,初診を含め合計3
回A医院に通院したが,症状は改善されなかった。
 ウ 母親は,平成12年1月,長男が希望したことから,頭の断層写真を撮影
してもらうためにF病院を受診させたが,同病院脳外科でも異常所見はない
と診断され,精神科への通院を続けるよう勧められた。
    その後,控訴人らは,A医師に受験によるストレスが原因と指摘されたこ
ともあり,受験が終われば治るかもしれないと考えて,しばらく様子を見る
ことにした。
 エ 長男は,平成12年1月26日,G高等学校(以下「私立高校」とい
う。)を受験し,合格したが,3月上旬に行われた県立高校の入学試験に
は,当日,頭が痛いと言って試験会場に行かなかった。
    その後も長男の症状が改善しないことから,母親は,3月下旬になって長
男にF病院精神神経科を受診させた。同精神神経科の医師は,長男の症状に
ついて,心因性反応が出ており,集団生活が困難であるので,自宅で静養
し,そののち通信制の高等学校へ進学するよう勧め,投薬治療を行った。し
かし,この薬剤を服用したところ副作用で動悸や手足指の爪が青く変化した
ため,長男はパニック状態となり,病院に行くことを拒否するようになっ
た。
    そこで,母親は,前記精神神経科の医師に相談したところ,長男に適合す
る薬剤を探すためには1か月の入院が必要であるとして,入院を勧められた
が,長男がこれを強く拒否しため,再度医師に相談したところ,自宅で静養
させ,様子を見るよう言われ,長男はそれ以後同病院に通院していない。
 オ 長男は,平成12年4月,私立高校に入学したが,母親が購入してきた私
立高校の教科書を両親が野焼きしていた庭で燃やし,同高校へは通学しよう
とはしなかった。母親は,数日後,長男が教科書を燃やした上に泥をかぶせ
てあるのを発見し,志望校を受けられなかったことから気落ちしていると思
い,心配している旨を記載した手紙を長男に渡すなどしたが,前記焼却行為
を通学拒否の意思表示と受け取っていたので,火を点けたことについては特
に注意しなかった。
 カ 長男は,それ以降,何か気に入らないことがあると,「僕がこうなったの
はお母さんのせいじゃ。くそばばあ。」などと言い,また,自宅の壁の窓ガ
ラスに向かって,食器を投げて壊すようになり,さらに次第に投げて壊す物
が大きくなり,同年9月ころには,イライラし始めた。
    そこで,母親は,長男にF病院に行くよう勧めたが,本人がこれを拒否し
たため,同月22日,本人の希望に沿ってA医院を受診させた。長男は,そ
れ以降,継続的にA医院を受診するようになったが,機嫌の良いときに月1
回程度通院するのがやっとであり,通院を拒否するときは,母親が1人でA
医院に赴き,長男の状態を医師に報告し,薬剤の処方を受けていた。その後
も長男の症状は一進一退であり,両親は家族旅行で気分転換させたりした
が,長男は精神的不安や緊張感を訴え,パソコンゲームに没頭したり,自殺
願望を口にしたりすることもあり,長女(長男の姉)とも対立することがあ
ったので,母親は通院の際にA医師に症状を報告していた。
 キ 長男は平成13年に私立高校を退学し,平成14年4月以降,母親の勧め
に従って県立高校の通信制を受講するようになり,同年8月までの前期は,
母親が付き添って2週間に1回登校するようになった。しかし,そのころ,
長男が,控訴人のいびきで勉強ができないと言い始めたため,控訴人らは,
庭に一間長男の部屋を建て増しし,家族はできるだけ物音を立てないように
気をつけて通学を継続できるように努めていたが,結局,長男は,9月から
の後期にはほとんど登校しなくなり,自宅に引きこもるようになった。
 ク また,長男は,平成14年5月,父親の書籍を破り,破った書類を紙袋に
詰めて自室に隠すなどした。母親は,長男にその理由を尋ねたところ,父親
に憎しみがある旨答えた。このころ,長男は,控訴人の部屋のテレビのコー
ドを切ったり,DVDデッキを床に落として壊したり,控訴人らの書籍を前
記オと同様に庭で燃やしたりした。
    このような中,同年6月には,長男が控訴人に対し,「お父さんがいると
緊張するからあっちへ行って。」などと言ったことから,控訴人が腹を立て
て長男を押さえ付けるということがあった。
    さらに,このころから長男は月に1回くらい些細なことに激昂しては母親
に怒りをぶつけるようになり,ポットや扇風機,地球儀などを投げつけるな
ど,家庭内暴力に及ぶようになった。
    なお,長女は,長男の常軌を逸する言動への対応等を余儀なくされたこと
もあり,平成12,13年ころから精神的変調をきたし,平成14年6月に
H病院に入院し,その後同年10月からは山口市内のアパートで一人暮らし
をしている。また,二女(長男の妹)も平成12年ころから登校拒否をする
ようになったため,両親は,姉妹の養育監護にも相当の気を使うようになっ
ていた。
 ケ 長男は,平成14年9月ころから,3日に1本くらいたばこを吸うように
なり,母親は,A医院のA医師にこのことを報告していたが,長男に注意す
ることはなかった。
    同年9月以降,長男は,通信制の高校にも行かなくなり,問題行動も多く
なったことから,母親はA医師に入院の相談をしたところ,本人が同意しな
いと予後が余計に悪くなり難しいとの意見であったため,控訴人らは,長男
が機嫌の良いときに入院の話を持ち出したりしていたが,結局,同意が得ら
れず,入院はしないままとなった。
 コ 長男は,普段は母親ともよく話をし,二女とも買物に出かけたり,ボーリ
ングを楽しむこともあったが,気分は一定せず,平成14年12月初めころ
には,机上の辞書,レポートをコップに入れて自室に持ち込んだ灯油をかけ
て台所にあった箱入りマッチで燃やし,消火器で消火するとの行動をとった
りした。母親は,掃除の際に焼却に気付き,長男になぜそのようなことをし
たか尋ねたところ,長男は消火訓練をした旨の回答をしたので,母親は,
「危ないからやめて。」と一応の注意をしたものの,長男がこのような行為
に及んだのは,通信制の高校に行きたくないということを訴えたかったのだ
と考えていたので,それ以上は深く理由を聞くことはなかった。マッチ等は
台所のシンクの引き出しに保管されていたほか,控訴人がたばこを吸うため
のライターが控訴人の寝室にあったが,この件以降も控訴人らはマッチ等の
保管場所を特に変更することはしなかった。これを機に控訴人らは,消火器
2本を購入したが,長男が新しい消火器で家中に消火剤を撒布しないように
と考えて1階の寝室に隠して保管した。
 サ 平成15年になると,長男の家庭内で暴れる回数は増え,時間も長くなっ
ていった。そこで,母親は,同年1月18日,A医師に,長男が机上の問題
集に火を点け,自分で消したことを報告したところ,同医師は「何か行き詰
まっているのかな。」と驚いた様子であった。
    長男は,同月24日にも,母親が聖書を引用して「小さなことに忠実な者
は,大きなことにも忠実。」と諭したことに反発し,窓ガラスをたたき割っ
たり,タンスを引き倒したりした。このとき,母親は,手に負えず,勤務中
の控訴人に連絡して帰宅してもらったが,長男は,自室のドアを開けようと
しないので,控訴人は,ドアごしに「こんなことをすると,お父さんは,仕
事ができないので,こんなことはやめてくれ。」と訴えた。
    なお,母親は,A医院に赴くたびに,長男のことのほか,長女の症状等も
A医師に報告していたが,控訴人も平成14年以降,5,6回母親とともに
A医院を訪れ,A医師に相談して助言を受けていた。また,長女との接触は
主として控訴人がしており,長女は次第に軽快の方向に向かっていた。
(3) 本件放火に至る経緯
  ア 長男は,控訴人が学歴を重視するような発言をしたこともあって,中学3
年生ころから,受験に対する不安の高まりをきっかけにして,控訴人らに対
する敵意が生じるようになり,精神的な不調を覚えるようになり,県立高校
への進学もできなかったことから,控訴人らに対する敵意,控訴人に対して
は,恐怖感,嫌悪感,憎悪など,また,母親に対しては,その言動に対する
いらだちなどを次第に募らせ,前記(2)のとおり,物の損壊や家庭内暴力に及
んでいたが,本件放火のしばらく前から,こうした自分のうっぷんをはら
し,控訴人らを困らせるため,本件建物に放火しようと漠然と考えるように
なっていた。   
イ このような状況で,長男は,平成15年2月10日ころ,たばこを吸うた
め本件ライターを購入し,母親に気に入ったライターを買ってきたと言って
見せたことがあった。
     また,同月13日又は14日ころ,長男は,おもしろ半分に,ボーリン
グのスコアカードに本件ライターで火をかざして焦がすということもあっ
た。これに気付いた母親が,長男に燃やした理由を尋ねたところ,長男は
「いいスコアが出なかったから。」などと言っていた。このころ,長男は,
本件ライターは家に火を点けるのに使えると考えるようになった。
     さらに,同月16日夕刻,長男は,控訴人に本件ライターを「使わない
からあげる。」と言ったところ,控訴人は,「お前に持たせておくと何をす
るかわからない。」などと答えた。
     長男は,この控訴人との遣り取りののち,本件放火を決意し,自分も死
のうと思い,翌17日午前9時30分ころ,母親が二女を連れて外出したこ
とを確認したのち,石油ストーブのカートリッジに入っていた灯油を撒き,
本件ライターで本件建物に放火した。
  ウ 長男は,本件放火ののち,平成15年2月17日午後8時25分に逮捕さ
れ,同日実況見分が実施されているが,その結果,長男の部屋の机の上,引
き出し内にはノート類が焼損した痕跡があり,ゴミ箱内にも残焼紙類が入っ
ており,床の灰皿内5本及びその周辺に4本のたばこの吸い殻が認められて
いる。
  エ 長男は,その後,同月19日に勾留され,同月28日の観護措置決定によ
り引き続き身柄を拘束され,同年3月7日,審判手続が開始された。同手続
において,長男の精神状態について,少年鑑別所の精神科医の診断では,
「不安障害(社会恐怖のニュアンスが強い。),抑うつ症状(希死念慮をも
った)がある。人格的に情緒不安定性人格障害(境界型)を有する。」とさ
れ,A医師には,「パーソナリティ障害,不安障害,抑うつ状態」と診断さ
れている。同審判では,長男の資質・性格の特質が病理的な原因にあるとし
て,平成15年3月25日,医療少年院に送致することが決定された。同決
定に基づいて,長男は,I医療少年院に収容されたが,平成16年3月23
日,同少年院を仮退院し,その後はJ病院精神科に入院して治療を受けてい
る。
2 控訴人の重大な過失の有無について
  前記1認定のとおり,長男は私立高校に入学したものの,精神的不調から登校
せず,通信制の高校を受講するも,これも次第に通学することができなくなり,
自宅に引きこもるようになったが,こうした中,家の中の物を壊すようになり,
それが家庭内暴力へと発展し,平成15年になると,その回数が増え,時間も長
くなる傾向を示し,また,本件放火の約2か月半前には,自室内の机上で辞書や
レポート用紙を燃やして消火器で消火するといった事態を引き起こし,さらに喫
煙のために本件ライターを購入し,本件火災の数日前には,ボーリングのスコア
カードに本件ライターで火をかざして焦がしたりしているほか,前記1(3)ウの
実況見分の結果によれば,前記2件以外にもノートなどに火を点けて燃やしたこ
とがあったことが窺われる。このようなことからすると,本件放火までは,自分
で消火していたとはいうものの,長男の放火行為に対する抵抗感は次第に薄れ,
破壊的な衝動もエスカレートしていたということができるのであり,放火行為に
及ぶ傾向を少なからず有していたことは否定できない。そして,控訴人にして
も,本件火災の前日,長男に対して,お前がライターを持っていると何をするか
わからない旨の発言をしていることからすると,控訴人らにおいても,長男が衝
動的に本件放火行為に及ぶことを予見できなかったということはできない。
  しかしながら,前記1(2)のとおり,長男は,中学3年生のころから精神的不調
を訴えるようになったことから,控訴人らにおいても,長男を,D内科,A医
院,F病院脳外科,同病院精神神経科に順次受診させ,平成12年9月22日以
降本件火災まで長男はA医師から継続して投薬等の治療を受けるようになってお
り,この間,長男が拒否して通院できないときは,母親がA医師に状況を報告し
たり,控訴人らがA医師に相談して助言を求めたりしながら,控訴人らは,長男
に対応し,長男を精神的に刺激しないようにして生活してきたものであり(乙
7),長男の入院についても,A医師から本人が同意しないと予後が悪くなると
言われて同意を得るように努めたものの,結局は,思いとどまらざるを得なかっ
たものである。少年審判においても,長男は,精神状態について,人格障害,不
安障害,抑うつ症状など,病理的なものがあることが指摘されている(前記
1(3)エ)。
  このような状況の下では,精神的疾患に関して専門的知識を有していない控訴
人らとしては,長男に医師の治療を受けさせ,また,医師の助言指導に従って長
男に対応するよりほかはなかったものというべきであるところ,前記経過に照ら
せば,控訴人らは,これを尽くしていたというべきである。また,控訴人は勤務
のかたわら,手のかかる長女や二女の養育監護にも努めていたことを考え併せる
と,控訴人らの長男への対応等に重大な過失があるということはできない。
  なお,被控訴人は,控訴人らが長男の一連の行動を放置ないし無視し,かえっ
て長男を挑発するような言動を採ったと主張する。
  しかしながら,前記のとおり,控訴人らは,長男に専門家である精神科医によ
る治療を受けさせ,自分たちも医師の助言指導を受けながら長男に対応してきた
ものであるから,長男の行動を無責任に放置ないし無視していたということはで
きない。また,控訴人の平成14年6月ころの長男への対応(前記1(2)ク)や
本件火災前日の言動(前記1(3)イ)は,長男の控訴人に対する嫌悪感を募ら
せ,精神状態を刺激するようなものであったといえなくもない。しかし,長男は
審判廷においては,本件放火行為について,前の晩に何かあったわけではない
が,それまでのいろいろなことでイライラしてストレスが溜まっていたことが理
由である旨の供述をしており,本件火災前日の控訴人の言動に我慢ができないく
らい腹が立ち家に火を点けてやろうと思った旨の捜査過程における供述はある
(乙7)ものの,衝動的な行動に及ぶ傾向のあった長男が,その日のうちに放火
行為に及んでないことに照らし,控訴人の本件火災前日の言動と本件放火行為を
関連づけるには疑問の余地もある(審判においても,本件放火を決意する特定の
エピソードはなく,日頃の敵意,怒り,恨み,うっぷんが累積した結果,本件放
火行為に及んだものと認定判断されている。)。仮に,控訴人の本件火災前日の
言動に適切さを欠く面があったとしても,本件放火が,主として長男の病理的な
精神状態に起因して引き起こされたものであることからすれば,控訴人の言動を
して重大な過失とまで非難することはできない。
  したがって,控訴人には,本件契約約款2条1項(1)又は商法665条,641
条に定める免責事由はいずれも認められないから,被控訴人は,既に引用した原
審の認定判断のとおり1332万0700円の本件保険金の支払義務を免れな
い。
 以上の次第であり,控訴人の請求は,被控訴人に対し,1332万0700円及
びこれに対する約款の保険金支払日である控訴人が約款24条1項所定の手続をし
た平成15年2月26日から30日を経過した日の翌日である同年3月29日から
支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理
由があり,これを認容すべきであるから,これと異なる原判決を変更する。
 よって,主文のとおり判決する。
       広島高等裁判所第2部
         裁判長裁判官     牧       弘   二
           裁判官     松   井   千 鶴 子
           裁判官     工   藤   涼   二

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