弁護士法人ITJ法律事務所

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平成14年12月25日判決言渡平成12年(ワ)第26241号損害賠償請求事件
主       文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
              事実及び理由
第1 原告らの請求
  被告らは,各自,X1に対し7629万3788円,X2,X3に対しそれぞ
れ550万円と,これらに対する平成11年10月9日から支払済みまで年5分の
割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
  原告X1は,Y1が設置する病院で,双胎の第2子として娩出されたが,低酸
素血症による新生児仮死の状態で出生し,脳性麻痺による重度の障害が生じた。
  原告ら(X1~3)は,担当医師であったY2には,第2子が胎児仮死に陥っ
ていたにもかかわらず帝王切開術の実施を怠った過失があるなどと主張して,被告
らに対し,不法行為による損害賠償を求めた。
1 争いのない事実
(1) 当事者
  Y1は,肩書地においてA病院(被告病院)を設置している。Y2は,被告病
院の産婦人科医師である。
  X2とX3は夫婦であり,X3は,平成11年10月9日,被告病院で,双胎
の第2子としてX1を分娩した。
(2) 分娩に至る経過
  X3は,平成11年3月9日,杉並区にあるB産婦人科で妊娠の診断を受け
た。その後,超音波検査で二絨毛膜性双胎であることが判明したため,B産婦人科
の紹介により,7月6日と9月28日に,被告病院の産婦人科でY2の診察を受け
た。分娩予定日は10月30日であった。
  X3は,前期破水があったため,10月8日午前6時50分,被告病院に入院
した。
  Y2らが担当医師となり,その診察と処置の下で,10月9日午後4時1分に
第1子が吸引により娩出され,午後5時12分に,第2子であるX1が鉗子と吸引
により娩出された。第1子は低出生体重児であったが,アプガースコアに問題はな
かった。しかし,X1は新生児仮死の状態で出生し,蘇生措置がとられたが,脳性
麻痺による重度の障害が生じた。
2 争点
(1) 10月9日午後4時4分,4時25分,4時40分の各時点で,Y2に帝王切
開術実施の決定をする義務があったか。
(2) 午後4時25分までに,Y2に帝王切開術の準備に着手する義務(ダブルセッ
トアップの義務)があったか。
(3) Y2が帝王切開術実施の決定をせず,又はその準備に着手しなかったことと,
X1が新生児仮死の状態で出生したこととの間に,相当因果関係があるか。
(4) 原告らの損害
3 当事者の主張
 争点に関する当事者の主張は,別紙「当事者の主張」に記載のとおりである。
第3 争点に対する判断
1 事実の経過
  証拠(甲A1,2,甲B5,12,乙A1~4,証人C,X3本人,Y2本
人)によれば,次の事実が認められる。
(1) 分娩開始まで
  X3が被告病院へ外来で通院中,胎児の発育は第1子,第2子ともに順調であ
り,元気であること(well-being)にも問題はなかった。Y2は,X3に対し,双
胎では第2子の分娩に異常が生じる場合があるが,そうなれば帝王切開術を実施す
る可能性もあると説明していた。
  X3は,平成11年10月8日午前4時ころ前期破水があり,午前6時50分
ころ,被告病院に入院した。同日午後7時20分,陣痛が自然に発来した。10月
9日(妊娠37週0日)午前8時45分までに行われたノンストレステストでも,
第1子,第2子ともに異常は見られなかった。
(2) 第1子娩出まで
ア 10月9日午後0時30分(以下,時刻はいずれも10月9日午後),子宮口
がほぼ全開大,陣痛が2,3分間隔,展退(子宮頚管成熟度の指標)が90パーセ
ントとなったため,X3は分娩室に入室した(陣痛発来後17時間10分経過)。
分娩には,Y2のほか2人の産婦人科医師と,助産婦ら(直接介助がD助産婦)が
立ち会った。
  第1子,第2子ともに頭位であった。胎児心拍数の測定は,外測法(母体の外
側からトランスデューサーで胎児の心音を拾う方法)により行われた。
  X3の陣痛は微弱であったので,0時45分,原告らの同意を得て,陣痛促進
剤であるアトニンOの点滴投与が開始された。アトニンOの投与量は,第2子娩出
時まで,徐々に増加している。3時,展退が100パーセントとなったが,第1子
の手が先進していた。
  3時40分,子宮口開大後3時間以上が経過したが,陣痛は微弱のまま推移し
ていた。Y2は,X3の疲労が蓄積していたこと,先進部は出口部分まで達してい
たことから,吸引分娩の実施を決定した。3時48分,吸引分娩の準備が始めら
れ,清潔野が作成された。
イ 3時50分ころ,第1子の胎児心拍数は,基線が毎分120回台であったが,
90回以下まで下降した。また,第2子の胎児心拍数も,100回程度まで下降し
た。D助産婦は,第1子,第2子ともに遅発一過性徐脈が出現したと考え,パルト
グラムの助産経過記録に「Rate(lateの意)で下降する」という記載をした。
  一方,Y2は,この徐脈は第1子娩出のための子宮収縮に伴う一時的な軽度の
低酸素血症と迷走神経反射に起因するものであり,急速遂娩の必要がある状況では
ないとの判断をした。
ウ 3時55分,Y2は,吸引カップを2回目の試行で第1子の児頭に吸着させ,
クリステレル圧出法を併用して吸引を行った。陰門から児頭が見えた段階でカップ
をはずした。
  3時58分,第1子の手の先進が解消されたので,Y2は,会陰切開を行い,
切開部をガーゼで止血しながら,クリステレル圧出法により第3回旋を終え,臍帯
巻絡がないことを確認したうえで,肩甲を通過させた。4時,第1子の心拍数が毎
分90回台の徐脈となっていたため,吸引を続けた。
エ 4時1分,第1子が娩出された。アプガースコアは1分後8点,5分後9点で
あり,問題はなかったが,2195グラムの低出生体重児であったため,新生児集
中治療管理室で管理された。
(3) 第2子娩出まで
ア 第1子の娩出後,子宮内で第2子の位置が大きく変わったため,2,3分間,
胎児心拍数が記録されない状態が続いた。その後,約1分間,毎分70回程度の基
線細変動が見られない心拍数が出現した。Y2は,この部分について,X3の心拍
数が記録されたものと考えたが,念のため,X3に対し酸素5リットルを投与し
た。
  4時4分,陣痛がほぼ消失したため,アトニンOの投与量が増加された。第2
子の児頭はステーションマイナス3以上と高い位置にあり,骨盤内に固定しない状
態で,子宮口も狭窄していた。助産婦らは,子宮体部を押さえつけて児頭の下降を
試みたが,効果がなかった。第2子の胎児心拍数は,4時10分ころまでは,毎分
100回から110回程度の軽度の徐脈であった。基線細変動は存在した。
  4時10分,微弱陣痛のためアトニンOの投与量が増加された。会陰切開部か
らの出血が止まらなかったため,ガーゼでの止血が続けられた。4時10分ころか
ら20分ころの間の胎児心拍数は,毎分90回以下の徐脈も出現する状態であっ
た。基線細変動は存在した。4時20分,陣痛は相変わらず微弱で,児頭は高位で
あった。
イ 4時25分,児頭の位置に変化はなく,手も先進していた。X3の疲労が強い
ため,足台から足を下ろして半座位様の姿勢をとらせた。Y2は,有効な陣痛の回
復を待つこととして,助産婦らに対し,分娩台上での経過観察を指示した。
  4時20分ころから4時40分ころまでの間,第2子の胎児心拍数は,子宮収
縮の度に,毎分80回から90回台までの下降と,150回から170回台までの
上昇とを繰り返した。基線細変動は存在した。D助産婦は,これを遅発一過性徐脈
と考え,パルトグラムにその趣旨の記載をした。
  しかし,Y2は,心拍数の下降と上昇が急峻で,徐脈の始まりと終わりの部分
に一過性頻脈があったことから,変動一過性徐脈が出現したと考えた。徐脈の際の
心拍数が毎分60回を下回ることはなく,1分弱で回復していたことから,軽度の
変動一過性徐脈と判断した。そして,高度変動一過性徐脈が繰り返し出現する場合
のみ胎児仮死と認めるという考え方に従い,この時点で第2子が胎児仮死に至った
とは診断しなかった。ただし,徐脈が繰り返し出現したため,第2子に異常がない
とはいえないと考えて,監視を続けた。
ウ その後も有効な陣痛の回復は見られず,児頭の下降と子宮口の開大もなかっ
た。4時40分前後になると,毎分150回程度の胎児心拍数が,100回程度の
徐脈になって,回復しても150回を超えることがほとんどなくなった。Y2は,
徐脈の回復が不良であるとの判断をした。基線細変動は存在したが,元気であるこ
と(well-being)に問題がないといえるほどではなかった。
  Y2は,娩出方法について,母体の安全のため帝王切開術の実施には慎重であ
るべきと考えていた。そして,第2子が横位になるとか,臍帯脱出を起こすなどの
帝王切開術の適応はなかったこと,また,帝王切開術の準備には手術室への移動や
麻酔の導入などで30分以上かかること,第1子が経膣で娩出されたことなどの事
情を考慮して,第2子の分娩はこのまま経膣分娩で行うとの方針を立てた。
エ 4時53分ころ以降,胎児心拍数は毎分60回台まで下降して,回復にも時間
を要するようになり,4時57分ころ以降は,記録もほぼ途切れるようになった。
4時58分,児頭が骨盤に陥入してきたが,依然として手が先進していた。Y2
は,アトニンOの投与量を増加した。4時25分から4時58分ころまでの間,X
3は,足台から足を下ろして,大きく呼吸しながら児頭が下がるのを待機する状態
であり(助産婦から酸素を多く吸入するよう助言を受けた),Y2らに特に動きは
ないように感じていた。
  5時ころ,再度,清潔野が作成され,人工破膜が行われた。その際,第2子の
臍帯脱出が起こった。
  5時5分,Y2は吸引カップの吸着を試みたが,子宮口が全開しておらず,先
進していた手が邪魔になって,1回目は失敗した。5時7分,2回目でも吸着でき
ず,児頭が浮遊してしまった。Y2は,吸引分娩を断念して,鉗子分娩に切り替え
た。
  5時8分,児頭は依然として高位であったが,Y2は,鉗子で児頭を挟んで,
クリステレル圧出法を併用して出口部分まで牽引し,5時10分,児頭に吸引カッ
プを吸着させて吸引した。Y2は,児頭が高位にある状態で鉗子分娩を行うことに
ついて,かなり危険が伴う処置であると認識していたが,第2子の娩出を急ぐため
に実行した。
オ 5時12分,第2子であるX1が娩出された。体重は2318グラムで,第1
子より大きかったが,アプガースコアは1分後0点,5分後1点,10分後2点と
非常に悪く,新生児仮死の状態であった。Y2は,後に原告らに対し,X1は自力
で呼吸することができず,今にも心臓が止まりそうな状態であったと説明してい
る。
  羊水混濁(胎便の混入)が見られ,臍帯血ガスのペーハー値は6.777であっ
た(アシドーシスの状態)。胎盤病理組織検査の結果によれば,絨毛膜羊膜炎であ
り,母体側絨毛膜,羊絨毛膜,臍帯に強い炎症所見があった。
  X1は,すぐに小児科医に引き継がれ,新生児集中治療管理室で管理された。
(4) その後の経過
  X3は,産後,順調に回復して,10月14日に退院した。
  X1は,重度の脳性麻痺により,現在まで寝たきりの状態で,常時,鼻や口に
チューブがつながれ,そこから酸素や栄養の補給を受けている。
2 事実認定の補足(臍帯脱出の有無について)
  臍帯脱出とは,破水後に臍帯が胎児の先進部を越えることである。可及的に急
速遂娩の処置が必要とされ,急速遂娩の方法として帝王切開術が行われることが多
い(甲B13)。
  D助産婦は,パルトグラムに,午後5時の助産経過記録として「Ⅰ子かⅡ子か
不明であるが,臍帯ループ状に下垂あり」と記載し,看護経過記録には,原告らに
説明した言葉として「臍帯が2人目のものとして出ていると思われたのは,2人目
の出る直前でした」という記載をした(乙A2・62頁,74頁)。Y2も,原告
らに分娩の経過を説明するに当たり,子宮や第2子の状態を図示して「《臍帯脱
出》」という記載をしている(甲A2)。ただし,後に「詳細不明」という記載を
追加した(乙A2・21頁)。
  これらによれば,午後5時ころ臍帯脱出が起こったことは明らかであり,ルー
プ状に下垂した臍帯が既に娩出された第1子のものであるはずがないから,その臍
帯脱出は第2子のものである。被告らは,第1子のものか第2子のものか判別でき
なかったとか,Y2は一般論として臍帯脱出の説明をしたにすぎないなどと主張す
るが,失当である。
3 本件に関する医学的知見
  証拠(甲B1,5,11,13,乙B1,3,4,7,8,10,18,20
~25,27)によれば,胎児心拍陣痛図に出現する一過性徐脈について,次の知
見が認められる。
(1) 遅発一過性徐脈は,胎児心拍数の低下が子宮収縮の開始よりも遅れて始まり,
心拍数の最下点は子宮収縮のピークより遅れ,徐脈からの回復も子宮収縮の終了よ
り遅れるパターンである。子宮収縮により循環血液量が減少した時に,胎児の予備
能力が減退して交感神経系優位が途切れると,遅発一過性徐脈が出現する。通常
は,子宮収縮の度に規則的に出現し,収縮の程度が同じであれば毎回類似の波形を
呈する。
  遅発一過性徐脈が1回でも出現したら,胎児が低酸素状態に陥っていることの
徴候である。毎回の子宮収縮に出現するようになった場合には,基線細変動の有無
にかかわらず,胎児仮死と診断されるから,急速遂娩の実施をすべきである。
  わが国では,胎児仮死に陥ると最後に遅発一過性徐脈が出現するとの説もあっ
たが,平成10年ころ以降,遅発一過性徐脈は,胎児低酸素血症の最初の徴候であ
るとの見解が有力となっている。
(2) 遷延一過性徐脈は,持続時間の長い(2分以上10分以内)一過性徐脈であ
り,単発のこともある。心拍数低下が長引くメカニズムとしては,単純な胎児低酸
素血症の持続のほかに,迷走神経反射で生じた低心拍数による心拍出量の減少が低
酸素症状態を引き起こし,低心拍出量であることがさらに低酸素からの回復を遅ら
せることなどが考えられる。
(3) 変動一過性徐脈は,繰り返し出現する一過性徐脈の形がそれぞれ異なり,子宮
収縮と一過性徐脈の時間関係も一定でないパターンである。これは,分娩の終了ま
でに83パーセントの頻度で発生するとの報告もある(全分娩の約30から40パ
ーセントで,数回は出現するとの報告もある)。波形の特徴としては,心拍数の下
降と上昇が急峻であり,一過性徐脈の波形内にも比較的大きな細変動が見られる。
一過性徐脈の始まりと終わりの部分に一過性頻脈を伴うことがある。
  変動一過性徐脈の原因は,基本的に臍帯圧迫による迷走神経反射であるから,
それ自体は胎児状態の悪化を意味しない。しかし,強い血流遮断が長く続いたり繰
り返し発生する場合には,胎児が低酸素状態やアシドーシスに陥る危険がある。そ
こで,日本では,徐脈が1分以上持続して心拍数の最下点が毎分60回未満である
ものを高度変動一過性徐脈とし,これが繰り返し出現する場合には胎児仮死と判断
するのが一般である。ただし,変動一過性徐脈は予後も多様であり,分娩後の児の
状態が波形から予測したより良いことも悪いこともあり,状況判断が困難なことも
少なくない。軽度の変動一過性徐脈であっても,程度によっては胎児仮死を疑い,
厳重な監視をすべき場合もある。
4 午後4時4分に帝王切開術実施の決定をする義務について
(1) 原告らは,第2子について,午後3時50分に遅発一過性徐脈が出現し,第1
子娩出後の4時4分には基線細変動が消失したから,Y2には,その時点で第2子
に胎児仮死の危険が切迫していると判断して,帝王切開術実施の決定をする義務が
あったと主張する。
  この点につき,パルトグラムの助産経過記録には,第2子の胎児心拍数が3時
50分に「Rate(lateの意)で下降する」とか,4時4分に「バリアビリティ乏し
く」などという記載がある(乙A2・61頁)。
(2) しかし,胎児心拍陣痛図(乙A3)によれば,午後3時50分ころの徐脈は単
発であり,子宮収縮の度に規則的に出現したものではないから,前記3の医学的知
見に照らすと,遅発一過性徐脈には当たらない。むしろ,波形が定型的でなく,徐
脈が2分以上継続していることが認められるから,遷延一過性徐脈と理解される。
そうすると,この時点で第2子に低酸素状態が生じていた可能性はあるが,これ
は,第1子娩出前の子宮収縮に伴う一時的な低酸素血症と迷走神経反射に起因する
ものと考えられる。したがって,第2子は,3時50分の時点で胎児仮死が疑われ
る状態にあったとはいえない。本件について意見を述べるC医師も,意見書(甲B
5)や証言中で,3時50分ころにおける第2子の状態を特に問題にはしていな
い。
  前記1で認定したとおり,第1子娩出の2,3分後に,約1分間にわたり基線
細変動が見られない時間帯がある。しかし,この部分は,胎児心拍陣痛図に見られ
る前後の波形と比較すれば,母体であるX3の心拍数が記録されたものと理解する
のが自然である。4時4分ころ以降,再び記録された第2子の胎児心拍数には基線
細変動が存在しており,ここに胎児仮死の徴候はうかがわれない。
(3) 以上によれば,午後4時4分の時点で,Y2に,第2子に胎児仮死の危険が切
迫していると判断して,帝王切開術実施の決定をする義務があったと認めることは
できない。むしろ,Y2は,このころ,X3に対し念のため酸素5リットルを投与
しており,低酸素状態の危険に対する警戒を怠ってはいない。
5 午後4時25分に帝王切開術実施の決定をする義務について
(1) 原告らは,第2子について,午後4時20分ころ胎児心拍数の回復が不良とな
り,4時25分には遅発一過性徐脈となって,胎児仮死又は低酸素状態に陥ってい
たから,Y2には,その時点で,帝王切開術実施の決定をする義務があったと主張
する。
  この点につき,パルトグラムの助産経過記録には,第2子の胎児心拍数が4時
25分に「発作ごとに80~90代(台の意)までRate(lateの意)様に下降」
という,遅発一過性徐脈が出現したかのような記載がある(乙A2・62頁)。
(2) しかし,胎児心拍陣痛図(乙A3)と前記3の医学的知見によれば,まず午後
4時20分までに遅発一過性徐脈が出現した形跡はうかがわれない。むしろ,一過
性頻脈(心拍数が一時的に増加し,短時間で基線に戻るもの。胎児の交感神経系が
生きていて,生理的反応が維持されていることを意味する。乙B25)が出現して
おり,基線細変動も存在している。この時点で第2子が胎児仮死であったとか,そ
の危険が切迫していたとはいえない。
  4時20分から4時40分までの間は,徐脈が繰り返し出現している。しか
し,この時間帯の徐脈は波形が相似形とはいえず,徐脈の始まりや終わりの部分に
一過性頻脈が見られる部分もあることが認められるから,前記3の医学的知見によ
れば,遅発一過性徐脈ではなく,変動一過性徐脈と理解される(C医師も,遅発一
過性徐脈と断定はせず,むしろ変動一過性徐脈の可能性を示唆している)。そし
て,変動一過性徐脈の場合,分娩後の児の状態が波形から予測したより良いことも
悪いこともあり,状況判断が困難なことも少なくないというのであるから,徐脈出
現の5分後である4時25分の時点で,胎児心拍数の回復が不良となっていると
か,胎児仮死の危険が切迫しているという判断をすることはできなかったというべ
きである。
(3) 以上によれば,午後4時25分の時点で,Y2に,帝王切開術実施の決定をす
る義務があったと認めることはできない。
6 午後4時40分に帝王切開術実施の決定をする義務について
(1) 午後4時20分以降,第2子には変動一過性徐脈が出現し,前記1で認定した
とおり,4時40分には,徐脈の回復が不良となった。この時点で,第2子は低酸
素状態にあったと認められる。
  そこで,原告らは,4時40分の時点で,Y2には帝王切開術実施の決定をす
る義務があったと主張する。
(2) Y2は,午後4時40分ころ,第2子の娩出方法を検討し,このまま経膣分娩
で行うという選択した(この時点で急速遂娩の実施を決定し,吸引分娩の準備を始
めたと認めるに足りる証拠はない)。その理由は,帝王切開術の実施には慎重であ
るべきと考えていて,第2子が横位とか臍帯脱出などの帝王切開術の適応を満たし
ていなかったことのほか,準備に30分以上を要すること,第1子が経膣で娩出さ
れたことなどであった。Y2は,4時40分の時点で,経膣分娩のほうが帝王切開
術よりも早期に娩出させることができると考えたものと推認できる。
  そして,児頭が下がってくることを期待して,アトニンOの投与量を増加しな
がら経過観察を続けた。しかし,徐脈の回復に時間を要するようになったため,5
時ころ,娩出の準備に着手して人工破膜を行ったところ,第2子の臍帯脱出が起こ
り,直ちに娩出させる必要が生じた。Y2は吸引分娩を試行したが,先進していた
手が邪魔になって吸引カップの吸着に失敗し,児頭が骨盤から浮遊してしまった。
もはや,帝王切開術を実施する時間的余裕はなく,危険な処置であることを認識し
ながら,児頭が高位にある第2子に対して鉗子分娩を試み,5時12分に娩出させ
ることができた。
  帝王切開術実施の決定から娩出まで,通常30分以上を要するといわれている
が(乙B9),本件では,第2子の徐脈の回復が不良となった午後4時40分から
娩出した5時12分まで,帝王切開術を実施したのと同程度の時間がかかってい
る。第2子の分娩経過は,経膣分娩のほうが帝王切開術よりも早期に娩出させるこ
とができるという,Y2の考えどおりには進展しなかったことになる。
  しかも,児頭が高位にある場合の鉗子分娩は,技術的に難度が高く,母児損傷
の危険性が高くなるから,原則として避けるべきである(甲B6)。Y2は,臍帯
脱出後に高位鉗子分娩を断行したことによって,第2子に多大なストレスを与えた
といえる。4時40分の時点で帝王切開術実施の決定をしていたとすれば,このよ
うな事態は生じなかったから,X1の出生時の状態が,現状よりも良好であった可
能性が考えられる。
(3) しかし,次のとおりであるから,午後4時40分の時点で,Y2に帝王切開術
実施の決定をする義務があったと認めることはできない。
ア まず,日本母性保護医協会ME委員会は,徐脈の持続時間が1分以上であっ
て,心拍数の最下点が毎分60回未満である場合を,高度変動一過性徐脈と定義
し,この要件に該当するときは胎児仮死と判定されるとの指針を提示している(乙
B7,8)。
  本件では,第2子に4時20分から4時40分までの間に出現した徐脈は,お
おむね1分以内に回復しており,心拍数の最下点が毎分60回を下回ってはいない
から,高度変動一過性徐脈には当たらない。そうすると,Y2がこの指針に従って
胎児仮死ではないと判断したことについて,その判断を誤りということはできな
い。
イ また,第2子の児頭は高位にあり,手が先進していたが,同じような状況にあ
った第1子は手の先進も解消されて,経膣で高いアプガースコアで娩出されてい
る。したがって,第2子も経膣で娩出される見込みがあると考えることは,不合理
ではない。
  5時ころの臍帯脱出は,娩出の準備に着手すると同時に,突発的に生じた不測
の事態であったといわざるを得ない。児頭が高位にある状態で,しかも臍帯脱出後
に鉗子分娩を断行するのが危険な処置であることは,Y2も自認するとおりである
が,本件においては,5時以降,いわば時間との闘いの様相を呈していたのであ
り,Y2の処置にはやむを得ない面があったというべきである。
ウ 4時40分までに出現した変動一過性徐脈は,高度ではなく,軽度の範疇に分
類されるとはいえ,まったく問題がないほど軽いものであったとはいい難い。C医
師は,証人尋問において,いつ高度変動一過性徐脈に移行するか分からない状態で
あれば,帝王切開術の選択を躊躇すべきではないという供述をしているが,このよ
うな見解は,脳性麻痺を未然に防止するという見地からは傾聴に値するものであ
る。
  しかし,帝王切開術は,いかに安全になったとはいえ,開腹手術であるから,
予期せぬ出血や感染,他臓器の損傷,術後の肺塞栓症などの合併の危険があり,次
回妊娠の際には,子宮破裂や癒着胎盤などの重篤な合併症の危険が高まる。リスク
の高い妊娠が集まる地域の中心病院でも,帝王切開術の適応を厳密に選択すれば帝
王切開率は15パーセント前後であり,安易な帝王切開術は厳に慎むべきであると
いう見解や,母児の安全を守りつつ,極力帝王切開術を減少させるよう努力すべき
であるという見解も示されている(乙B12~15)。
  胎児仮死が発生した場合の対処については,すぐに帝王切開術を実施するのは
一般的ではなく,まず内診し,子宮口の開大や児先進部の下降度などをみて経膣分
娩が可能かどうか,臍帯脱出がないかを確かめる。子宮口がほぼ全開していて,胎
児が十分に下降している場合には,吸引分娩又は鉗子分娩で娩出可能と判断され
る。内診で遂娩不可能と判断されたり,臍帯脱出が認められた場合には,帝王切開
術の準備を行う。その準備中も,陣痛促進剤の投与を中止したり,酸素投与や側臥
位への体位変換を行って,予測される臍帯圧迫の解除を試みる。そのほか輸液や代
用羊水注入などによっても改善が見られなければ,帝王切開術を実施することにな
る(乙B21)。
  このような知見も考慮すると,本件においては,高度変動一過性徐脈は出現し
ておらず,しかも経膣で娩出される見込みがないわけではなかったのであるから,
4時40分の時点で帝王切開術に踏み切るべきだとするのは,医療水準を超えた義
務を課すこととなって,相当ではない。
(4) なお,被告らは,原告らが弁論準備手続終了後に臍帯脱出に関して新たな主張
をしたことにつき,時機に後れた攻撃防御方法の却下を求めた(民事訴訟法157
条)。しかし,これは既に口頭弁論に現れている事実経過についての主張であり,
独立の過失としてではなく,Y2の判断や処置の当否に関する事情として主張を追
加するものにすぎないから,これにより訴訟の完結を遅延させることにはならない
(実際にも遅延を招いてはいない)。したがって,却下の必要は認められない。
7 ダブルセットアップの義務について
(1) 医学文献には,いつでも帝王切開術を実施できる準備をしておくという意味
で,次のとおり,ダブルセットアップの必要性が指摘されている。
  胎児仮死の発見から帝王切開術の実施までの時間は,病室での発見の場合は3
0分から1時間以内と考えるべきであり,臍帯脱出の場合には,15分以内を目標
とすべきである。双胎分娩において,臍帯脱出の可能性が予測されるときには,ダ
ブルセットアップ体制をとる必要がある。帝王切開術の実施を決定してから娩出ま
での時間は短時間であればあるほどよいから,ダブルセットアップをしておくのが
望ましい。しかし,現実問題として,分娩台で直ちに手術ができる環境になってい
ることは少ない。手術室に搬送して帝王切開術を実施することが多く,娩出までに
通常は30分以上を要する(甲B3,4,7,乙B9)。
(2) しかし,本件においては,第1子娩出までの経過は順調であり,第2子も手が
先進していたが,頭位であった。胎児仮死が予測されるような症例ではなく,前記
6のとおり,午後4時40分の時点でも,Y2に帝王切開術実施の決定をする義務
があったとは認めることができない。その後に発生した臍帯脱出は,不測の事態で
あったといわざるを得ない。
  Y2は,X3に対し,外来通院中に,双胎の第2子の分娩には異常が生じる場
合があり,帝王切開術を実施する可能性もあると説明しているが,これは一般論で
ある。本件において,帝王切開術の実施に至ることを予測して,4時25分までに
あらかじめ帝王切開術の準備に着手する義務があったというのは合理的ではない。
  本件で緊急帝王切開術の適応となったのは,臍帯脱出が起こった午後5時の時
点と考えられる。仮にY2がダブルセットアップの必要性を重視して,あらかじめ
場所や人員の手配などの準備を整えていたとしても,その後少なくとも,X3を手
術室に移動させ,麻酔の導入をすることが必要となるから,5時にすぐ帝王切開術
に着手したとしても,その時点から実際の娩出までにかかった12分という時間を
短縮することは不可能である。
(3) 被告病院は,総合周産期母子医療センターの指定を受けた中核的な医療施設で
あり,高度な周産期医療を行うことが期待されているのであるが(甲B9,1
0),以上によれば,本件においては,午後4時25分までに,Y2にダブルセッ
トアップの義務があったとは認めることができない。
第4 結論
 以上のとおり,本件の事実経過において,原告らが主張する義務を認めることは
できず,Y2に過失があったということはできないから,原告らの請求は,そのほ
かの争点について判断するまでもなく理由がない。
  東京地方裁判所民事第35部
        裁判長裁判官     片   山   良   広
           裁判官     松   田   典   浩
           裁判官     釜   田   ゆ   り

(別紙) 当事者の主張
│原告ら│被告ら

│1 第2子の状態│

│(1)第2子(X1)の胎児心拍数は,午後3│(1)胎児心拍陣痛図に午後3時5
0分までに│
│時20分ころまでは毎分120回から180│出現した波形は,遅発一過性徐脈
ではなく,│
│回の範囲内で安定していた。ところが,3時│遷延一過性徐脈(prolonged
deceleration)│
│30分ころには,子宮収縮の度に遅れて90│である。徐脈が2分ほど持続して
いるが,胎│
│回台あるいはそれ以下まで下降するようにな│児心拍数は毎分60回以上あり,
基線細変動│
│った。そして,3時50分には,胎児心拍陣│を有しているから,仮に低酸素状
態にあった│
│痛図上に遅発一過性徐脈(latedeceleratio│としても,これは一過性のものに
すぎない。│
│n)を示す波形が出現した。│

│ 遅発一過性徐脈が1回でも出現したら,胎│

│児は低酸素状態にあるというべきである。し│

│たがって,第2子は,3時50分に低酸素状│

│態に陥っており,胎児仮死が疑われる状態に│

│あった。│

│(2)午後4時1分に第1子が出生した後,4│(2)第1子娩出直後には,第2子
の位置が大│
│時4分には,第2子の胎児心拍数が最下点で│きく動いてトランスデューサーが
当たらず,│
│毎分60回から70回台に下降し,基線細変│正確な記録ができなくなるのがほ
とんどであ│
│動も消失した。そのため,Y2がX3に対し│り,午後4時4分ころの波形には
診断価値が│
│酸素5リットルを投与したが,バリアビリテ│ない(一部母体の心拍数を記録し
ていると考│
│ィは乏しく,第2子の心拍数は子宮収縮時に│えられる)。Y2は,この時点で
胎児心拍数│
│毎分80回台まで下降し,陣痛もほとんど消│がはっきりしないので,予防的に
酸素を投与│
│失した。│したのである。

│ そして,遅くとも4時20分ころ心拍数の│ 4時25分の波形は,心拍数が
毎分60回│
│回復が不良となって,4時25分には,子宮│以上あり,心拍数の下降状態の継
続時間も1│
│収縮ごとに心拍数が毎分80回から90回台│分以内であるから,高度変動一過
性徐脈では│
│まで遅れて下降する遅発一過性徐脈となっ│なく,軽度の変動一過性徐
脈(variabledec│
│た。心拍数の下降状態は1分で回復すること│eleration)であった。

│もあれば,4分続くこともあった。一過性徐│

│脈の直前と直後に現れた心拍数の上昇は,臍│

│帯の閉塞による低酸素状態の徴候である。こ│

│のころ陣痛は微弱であり,児頭も依然として│

│高位にあり,手が先進していた。│

│ したがって,第2子は,4時4分には,低│

│酸素状態にあり,胎児仮死の危険が切迫して│

│いたというべきである。また,遅くとも4時│

│25分には,胎児仮死に陥っていたと考えら│ Y2が4時25分に低酸素状態
の可能性が│
│れる。なお,Y2も,4時25分には低酸素│あると考えていたのは,その危険
性も視野に│
│状態の可能性があったことを認めている。│入れて経過を慎重に観察していた
ということ│
││である。

│(3)Y2は,午後4時40分になって初め│(3)第2子については,午後4時
40分に基│
│て,第2子が低酸素状態にあると判断した。│線が毎分150回から90回程度
まで低下│
││し,その後基線の回復が見られな
かった。│
│2 Y2の過失│

│(1)【争点(1)】低酸素状態は胎児仮死の重要│(1)低酸素状態にないにもかかわ
らず帝王切│
│な徴候であるから,Y2には,第2子が低酸│開術を選択することはあり得な
い。また,そ│
│素状態に陥った後である(若しくは陥った時│もそも遅発一過性徐脈は低酸素状
態の最初の│
│点である)午後4時4分又は4時25分に│徴候であるにすぎないし,低酸素
状態に陥っ│
│は,新生児仮死を未然に防止するため,急速│たから直ちに急速遂娩を実施しな
ければなら│
│遂娩に踏み切る義務があった。ただし,4時│ないというものでもない。

│25分までの時点ではいまだ児頭が高位にあ│ まず,低酸素状態が一過性のも
のか持続的│
│り,経膣による急速遂娩(吸引分娩,鉗子分│なものかを胎児心拍数の波形から
判断し,持│
│娩)を採用することは困難であったから,帝│続的であったとしても,母体の体
位変換,酸│
│王切開術実施の決定をするほかなかった。と│素吸入,陣痛抑制などを行いなが
ら経過観察│
│ころが,Y2はこの義務を怠り,漫然と経過│をするのが一般である。そして,
それでもな│
│観察に終始した。│お低酸素状態の所見が不変であっ
たり悪化す│
││るときには,経膣による急速遂娩
を検討し,│
││それが不可能な場合に帝王切開術
を選択する│
││という手順をふむべきである。

│ 双胎の第1子が経膣で娩出された場合で│ また,双胎において第1子が経
膣で娩出さ│
│も,第2子が前記の4時4分ころのような重│れたにもかかわらず,第2子につ
いて帝王切│
│篤な状態にあれば,直ちに帝王切開術を選択│開術を実施するのは,第2子の経
膣分娩が明│
│すべきである。│らかに困難で,かつ,手術をして
も母児とも│
││に安全を確保できる場合に限られ
る。しか│
││し,本件では,第1子の出生後,
第2子の経│
││膣分娩が困難な状況にはなかっ
た。│
│(2)【争点(2)】仮に午後4時4分に帝王切開│(2)第2子の仮死発生防止のた
め,第1子娩│
│術実施の決定をする義務まではなかったとし│出後10分以内の娩出が望ましい
というのは│
│ても,双胎においては第2子の仮死発生防止│目安にすぎず,急速遂娩を行うに
は,適応と│
│のため,第1子娩出後10分以内の娩出が望│要約を満たす必要がある。

│ましい。ところが,第2子の児頭は高位のま│ 児頭が高位であることのみをも
って,帝王│
│まであったから,Y2は,4時20分ころま│切開の適応と判断されることはな
い。第1子│
│でには,帝王切開術を念頭に置いてその後の│娩出後,第2子の児頭が高位であ
る場合に│
│方針を定めるべきであった。│は,児頭の下降を待機又は誘導す
るのが通常│
││の管理である。

│ そして,4時20分以降,いつ高度変動一│ 4時20分から4時25分ころ
に出現した│
│過性徐脈に移行するか分からない状態となっ│一過性徐脈は,変動一過性徐脈で
ある。これ│
│たから(一過性徐脈の前後に代償的な心拍数│は,臍帯の一時的狭窄又は閉塞に
よるものと│
│の上昇が2回見られた),Y2には,いつで│推測されるが,だからといって胎
児が常に胎│
│も帝王切開術により第2子を娩出させること│児仮死に陥るとは限らない。本件
において心│
│ができるように,4時25分までには帝王切│拍数の下降は軽度であり,基線細
変動の減少│
│開術の準備に着手する義務があった(ダブル│も認められないから,経過観察を
行うのが通│
│セットアップの義務)。│常である。原告らの,いつ高度変
動一過性徐│
││脈に移行するか分からない状態と
なったとの│
││主張は,根拠が不明確である。

│(3)【争点(1)】Y2は,午後4時40分に,│(3)Y2は,午後4時25分以
降,持続性の│
│第2子が低酸素状態にあると判断したのであ│徐脈を疑うべき所見が出現したた
め,低酸素│
│るから,直ちに帝王切開術実施の決定をすべ│状態の可能性があると考え,胎児
仮死の可能│
│きであった(この時点でもなお児頭は高位の│性も視野に入れた。ただし,胎児
心拍陣痛図│
│ままであり,手が先進していた)。ところ│上,急速遂娩の適応を示す徴候は
現れなかっ│
│が,Y2は漫然と経過観察を続け,5時にな│た。そこで,酸素の投与,内診,
体位の変換│
│るまで吸引分娩の準備にも着手しなかった。│などを行いながら子宮収縮が戻る
のを待って│
││いたが,4時40分,胎児の安全
のため,吸│
│ 被告らは,帝王切開術を選択しなかった理│引分娩の準備を始めた。

│由として,この準備には時間がかかることを│ 帝王切開術は,麻酔,手術室へ
の移動など│
│挙げる。しかし,統計上,双胎の分娩におい│に時間を要する。また,X3は午
後4時10│
│ては帝王切開となる割合が単胎に比べて高い│分の時点で会陰切開創部から出血
しており,│
│ことが明らかであるから,分娩前に,いつで│圧迫止血を行っていたのであるか
ら,母体の│
│も帝王切開術に着手できるようダブルセット│安全を重視すると,手術室への移
動を行える│
│アップをしておくべきである。そして,胎児│状態ではなく,帝王切開術の選択
の余地はな│
│仮死の発見から分娩までの時間を15分以内│かった。なお,超緊急帝王切開術
という分類│
│にすることが重要である(超緊急帝王切開│は一般的とはいえない。

│術)。│

│ そうすると,午後4時25分ころに帝王切│

│開術の準備を始めていれば,4時40分には│

│帝王切開術に着手でき,その数分後に第2子│

│を娩出させることができたはずである。│

│3 相当因果関係【争点(3)】│

│ Y2は,第2子の低酸素状態又はこれに陥│ 帝王切開術の準備を始めてから
娩出まで│
│る危険な状態を見逃し,漫然と経過観察に終│は,手術室への移動,麻酔の導
入,消毒など│
│始して,適切な時機に帝王切開術又はその準│に最低でも30分以上,実際の現
場において│
│備に着手しなかった。その結果,X1は新生│は緊急でも45分前後を要する。
そうする│
│児仮死で出生し,脳性麻痺により,現在も後│と,仮に午後4時25分に帝王切
開術の準備│
│遺障害等級1級の障害状態にある。│に着手したとしても,第2子の娩
出時刻が早│
││まるわけではない。

││ また,4時4分の時点でその準
備に着手し│
││ても,その後胎児がどのような経
過をたどっ│
││て胎児仮死に至ったかは不明であ
る。│
││ したがって,上記の各時点で帝
王切開術の│
││準備に着手しなかったこととX1
が新生児仮│
││死で出生したこととの間に,因果
関係は認め│
││られない。

│4 原告らの損害【争点(4)】│

│(1)X1│ すべて争う。

│ ① 逸失利益 4300万5143円│

│ ② 治療関係費  28万8645円│

│ ③ 慰謝料  2600万円│

│    (小計 6929万3788円)│

│ ④ 弁護士費用 700万円│

│    (合計 7629万3788円)│

│(逸失利益の算出根拠)│

│ 平成10年賃金センサス男性労働者学歴計│

│ 全年齢平均年収 569万6800円│

│ 労働能力喪失率 100パーセント│

│ 就労可能年数 満18歳から67歳まで│

│ ライプニッツ係数(中間利息控除)│

│        19.239-11.690=7.549│

│(2)原告X2,X3│

│ ① 慰謝料  各500万円│

│ ② 弁護士費用 各50万円│

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