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平成10年(行ケ)第412号審決取消請求事件
平成12年12月21日口頭弁論終結
判決
原      告  矢崎総業株式会社
代表者代表取締役【A】
訴訟代理人弁護士   竹 田稔
同弁理士   三好秀和
同   岩崎幸邦
同   中嶋知子
被      告   伊藤工機株式会社
代表者代表取締役【B】
訴訟代理人弁理士   鎌田文二
同   東尾正博
同   鳥居和久
同   田川孝由
主文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 特許庁が平成10年審判第35258号事件について平成10年11月6日
にした審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
 被告は、考案の名称を「配管漏洩検知装置」とする実用新案登録第2502
840号の実用新案(平成1年4月21日出願、平成8年4月9日登録。以下、こ
の出願を「本件出願」といい、その考案を「本件考案」、その登録を「本件実用新
案登録」という。)の実用新案権者である。なお、被告は、平成7年9月25日付
けで手続補正書を提出して、本件考案の登録出願当初の明細書(以下「当初明細
書」という。)の内容を補正(以下「本件補正」という。)し、補正された明細書
(以下「補正明細書」という。)について実用新案登録の査定を受けたものであ
る。
 原告は、平成10年6月5日、特許庁に対して本件実用新案登録を無効にす
ることについて審判を請求した。特許庁は、同請求を平成10年審判第35258
号事件として審理した結果、平成10年11月6日、「本件審判の請求は、成り立
たない。」との審決をし、同年12月9日、その謄本を原告に送達した。
2 実用新案登録請求の範囲
(1) 本件補正前
「大量のガスを流す主管路に設けた圧力調整器に小流量のバイパス管路を設
け、このバイパス管路に小型圧力調整器を設けて主管路にガスが流れたときバイパ
ス管路にも必ずガスが流れるようにし、さらに、このバイパス管路に小型漏洩検知
機能付ガスメータを取付けた配管漏洩装置。」
(2) 本件補正後
「大量のガスを流す主管路に設けた圧力調整器に小流量のバイパス管路を設
け、このバイパス管路に、前記圧力調整器より出口圧力を少し高く設定した小型圧
力調整器、及び一定期間ガス流れが停止しないときに漏洩していると判断して表示
する小型漏洩検知機能付ガスメータを取付けた配管漏洩検知装置。」
(別紙図面参照)
3 審決の理由
 審決は、別紙審決書の理由の写しのとおり(ただし、12頁2行に「初期」
とあるのは「所期」の誤記と認める。)、請求人(原告)が、①本件補正は明細書
の要旨を変更するものであるので、本件出願の出願日は平成7年9月25日(補正
書提出日)とみなされ、その結果、本件考案は、その出願日前に日本国内において
頒布された刊行物(特開平3-41300号公報)に記載された考案と同一となっ
て実用新案法3条1項3号に該当するから、本件実用新案登録は無効とすべきもの
である、②本件考案は、実用新案法3条1項柱書の規定又は実用新案法5条3項及
び4項の規定に違反して登録されたものであり、実用新案法37条の規定により無
効とすべきものである、と主張したのに対し、昭和62年7月20日高圧ガス保安
協会発行の「高圧ガス」Vol.24 No.7通巻206号13頁ないし18頁
(本訴の甲第7号証、審決の乙第7号証。以下「甲第7号証刊行物」という。)に
記載されたマイコンメータⅡに係る技術を認定し、一方、当初明細書には、高圧ガ
ス保安協会が定める基準に合格したマイコンメータⅡとして市販されているものを
用いた実施例の記載があることを理由に、マイコンメータⅡの「一定期間ガス流れ
が停止しないときに漏洩していると判断して表示する」という作用は、当初明細書
の「小型漏洩検知機能付ガスメータ5」の作用として明細書に実質的に記載されて
いるとし、また、甲第7号証刊行物及び昭和62年8月31日改正の「液化石油ガ
スの保安の確保及び取引の適正化に関する法律施行規則関係基準」の「29 供給
管又は配管等の気密試験方法及び漏えい試験の方法」(本訴の甲第6号証、審決の
乙第6号証。以下「甲第6号証刊行物」という。)を考慮すれば、当初明細書に記
載されている「異常」、「異常時」には、「微少漏洩」に関するものも当然含まれ
ており、補正明細書の「・・・その連続検出期間が、例えば30日間続けば、ガス
漏洩として警報を発する。」との記載は、当初明細書に記載されているに等しい事
項といえるとし、その他の請求人(原告)の主張についても同様に当初明細書の開
示範囲内であるとして、本件補正は明細書の要旨の変更に当たらないと結論付け、
これを前提に、請求人(原告)の無効の主張をいずれも退け、本件実用新案登録を
無効とすることはできない、とした。
第3 原告主張の取消事由の要点
 審決の理由中、Ⅰ(手続の経緯)、Ⅱ(本件請求項1に係る考案)、Ⅲ(審
判請求人の主張の概要)、Ⅳ(被請求人の主張の概要)は認める。Ⅴ(本件実用新
案登録出願の平成7年9月25日付け手続補正の適否について)、Ⅵ(請求人の前
記主張1に対する当審の判断)、Ⅶ(請求人の前記主張2に対する当審の判断)、
Ⅷ(むすび)は争う(ただし、一部認めるところがある)。
1 取消事由1(明細書の要旨変更についての認定判断の誤り)
 審決は、本件補正には明細書の要旨変更がないとの判断の前提として、甲第
6号証刊行物、甲第7号証刊行物を考慮すれば、当初明細書に記載されている「異
常」、「異常時」には、「微少漏洩」に関するものも当然含まれており、補正明細
書の「・・・その連続検出期間が、例えば30日間続けば、ガス漏洩として警報を
発する。」との記載は、当初明細書に記載されているに等しい事項といえると認定
しているが、この認定は明らかに誤っている。
(1) 当初明細書に記載されている「異常」、「異常時」には、「微少漏洩」に
関するものは含まれていない。
 当初明細書にいう「ガス漏れ」は、主管路にガス漏れが生じると、バイパ
ス管路のガスの流れにも異常が生ずるような特殊な「ガス漏れ」である。このこと
は、「主管路にガス漏れが生じてガスの流れに異常が生じると、バイパス管路内の
ガスの流れも異常となり、小型漏洩検知機能付ガスメータが働いて警報を発す
る。」(3頁15行~18行)との記載から明らかである。当初明細書に係る考案
は、「主管路の流量に関係なく漏洩検知ができる」(甲第3号証6頁7行~8行)
ものであるから、主管路に大量のガスが流れているときに、主管路にガス漏れが生
じるとガスの流れに異常が生じるようなガスの漏洩である。微少漏洩は、一般には
長期にわたり(パイプの修理、取替え等がない限り)徐々に漏洩するものであっ
て、漏洩に流量の変動がない状態で漏洩するものであるから、当初明細書記載の
「配管漏洩検知」には、流量の変動がない状態で漏洩する微少漏洩の検知は含まれ
ない。
 当初明細書には、微少漏洩の検知を示唆するような記載は全く見当らな
い。むしろ、例えば、「主管路にガス漏れが生じてガスの流れに異常が生じると、
バイパス管路内のガスの流れも異常となり、小型漏洩検知機能付ガスメータが働い
て警報を発する。」(3頁15行~18行)といった微少漏洩の検知に反する記載
がある。
 本願の願書に最初に添付した図面(以下「当初図面」という。)の記載か
らも、補正後の微少漏洩を読み取ることはできない。
 このように、当初明細書に記載されている考案は、流量の大きい主管路の
漏洩を家庭用の小型漏洩検知機能付ガスメータによって検知するものであって、実
施例に用いたマイコンメータⅡは、小流量のバイパスに取り付け、ガス流の異常に
よって主管路のガス漏洩を検知するものであり、マイコンメータを微少漏洩の検知
に用いるという技術思想は当初明細書及び図面に記載されていない。
 本件補正後の考案は、当初明細書に記載されている考案とは、技術的課題
も作用も異なる。当初明細書の記載によれば、ガス漏洩を検出し、警報を発するも
のであったのが、補正明細書、特に、当初明細書には記載がなく、補正によって新
たに追加された記載事項によれば、ガスの微少漏洩をどのようにして検出し、ガス
漏洩として警報を発するか、について記載されているのである。
(2) 補正明細書の「・・・その連続検出期間が、例えば30日間続けば、ガス
漏洩として警報を発する。」の記載を、当初明細書に記載されているに等しい事項
とすることはできない。
 当初明細書に記載されている「小型漏洩検知機能付ガスメータ5」の技術
的内容は、「メータ上部に内蔵されているマイクロコンピュータがガスの流量をチ
ェックして、異常時にガスを遮断したり、警報を発したりするものである。」とい
う内容のみである。一方、前述のとおり、当初明細書に記載された小型漏洩検知機
能付ガスメータ5の対象とするガス漏れは、ガス漏れがあるとガスの流れに異常が
生じるガス漏れに限られている。つまり、ガス漏れがあっても、ガスの流れに異常
が生ぜず、漏洩の有無を判別し難いような微少漏洩は対象としていない。
 補正後の本件考案にあっては、「一定期間ガス流れが停止しないときに漏
洩していると判断して表示する」ものであるのに対し、当初明細書記載の考案にあ
っては、右プロセスとは何ら関係なく、小流量のバイパスに取付けたマイコンメー
タⅡによって主管路のガス流を大容量型漏洩検知機能付ガスメータによる検知に代
えてバイパスのガス流の異常によってガス漏洩を検知するものであり、それに尽き
るものである。
(3) 審決は前記(1)、(2)の認定判断をした根拠として、甲第6号証刊行物及び
甲第7号証刊行物の記載事項を挙げている。
 しかしながら、前記1に述べたとおり、甲第6号証刊行物から、高圧ガス
保安業界における配管の漏洩検知の手法として、「配管部に一定期間ガス流れを連
続して検知した場合に配管の漏洩と判断すること」が周知・慣用技術であるという
ことはできず、また、甲第7号証刊行物から、マイコンメータⅡが、①合計流量オ
ーバー遮断機能、②増加流量オーバー遮断機能、③継続使用時間オーバー遮断機
能、④微少漏洩表示機能、⑤復帰安全機能等を備えたものとして周知・慣用技術で
あるということもできず、また、これらの技術につき、当初明細書又は当初図面の
記載をみた当業者にとって自明な事項である、ともいえないのである。
 結局、審決は、当初明細書に記載されておらず、当初明細書又は当初図面
の記載に接した当業者にとって自明な事項でもない記載事項を根拠として、明細書
の要旨変更の認定判断をしているのであり、そのこと自体、誤りであることが明ら
かである。
(4) 被告は、当業者にとって当初明細書又は当初図面の記載からみて自明な事
項は、明細書を補正して追加しても、その明細書の要旨を変更するものではないと
し、この自明の事項とは、その事項自体を直接表現する記載はないものの、当初明
細書又は当初図面に記載されている技術内容を、出願時において当業者が客観的に
判断すれば、その事項自体が記載してあったことに相当すると認められる事項をい
うとし、したがって、当業者が明細書から読み取れる事項のみならず、当業者が図
面の記載から読み取れる事項もまた判断資料となるとして、これを前提に、「配管
の漏洩検知」が「配管部に一定期間ガス流れを連続して検知した場合に配管の漏洩
と判断すること」を含むことは周知・慣用の事項であり、また、当業者であれば
「配管の漏洩検知」の一つに「配管部に一定期間ガス流れを連続して検知した場合
に配管の漏洩と判断すること」が周知・慣用であり、本件考案の目的である「配管
の漏洩検知」は、その配管に一定期間ガス流れが連続した場合の漏洩検知であっ
て、マイコンメータⅡは、その機能の1つである微少漏洩検知を行うものであると
容易に理解することができる旨主張する。
 しかし、被告の上記主張は、特許庁の審査基準において「その発明の属す
る技術分野における周知・慣用技術であっても、それが自明であるか否かはその発
明の目的との関連において判断すべきものであるから、その全ての周知・慣用技術
が自明な事項であるとはいえない。」としていることと相容れないものである。ま
た、明細書の記載を解釈するに当たり、公知技術あるいは公知事実を参酌すること
は許されないわけではないとしても、それはあくまで当該明細書自体から知ること
ができる具体的内容に関連する場合に限られるものと解すべきである。
(5) また、被告は、当初図面の第1図の記載から補正後の「微少漏洩」が読み
取れる旨主張する。
 しかし、被告のこの主張は誤りである。図面は発明を説明するための補助
的機能を有するにすぎないから、発明を説明する明細書の記載を離れて図面の記載
から技術内容を推察することはできず、図面から読みとれる技術内容は、明細書の
記載に根拠を置くものでなければならないのである。
 当初明細書には、補正明細書に記載されている微少漏洩を示唆する記載は
一切ないのであるから、当初図面の記載から補正後の「微少漏洩」を読み取ること
は、およそできることではないのである。
2 取消事由2(審理不尽ないし理由不備)
 昭和62年改正実用新案法9条で準用する昭和62年改正特許法41条は、
「出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前に、願書に最初に添附した明細書又は
図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変更する
補正は、明細書の要旨を変更しないものとみなす。」と規定している。しかし、こ
こに「願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項」とは、あくまでも、
当初明細書自体から知ることができる具体的技術的事項に限られる。
 しかも、特許庁の審査基準によっても、出願公告前の補正が要旨変更に当た
るか否かを判断するに当たっては、明細書又は図面に記載された発明の構成に関す
る技術的事項を、発明の目的、効果との関連において解釈すべきものであり、その
発明の属する技術分野における周知・慣用技術であっても、それが当業者にとって
自明であるか否かは、その発明の目的、効果との関連において判断すべきものとさ
れている。
 ところが、審決は、当初明細書に全く記載のない甲第6号証及び甲第7号証
に記載された技術的事項を、当初明細書自体から知ることができる具体的技術的事
項といえるかどうか(それらの技術的事項が周知・慣用技術であるかどうか、それ
らの周知・慣用技術が当初明細書に記載された技術といえるかどうか)について何
ら検討することなく、それらを周知・慣用技術であると決めつけて、当初明細書に
記載された技術的事項と認定判断し、これを根拠に明細書の要旨変更を認定判断し
た。
 この審決の認定判断は、先願主義に反するばかりでなく、審理不尽、理由不
備があり到底許されるものではない。
3 取消事由3(周知・慣用技術についての認定判断の誤り)
 審決は、甲第6号証刊行物から、高圧ガス保安業界において、「配管の漏洩
検知」は、「配管部に一定期間ガス流れを連続して検知した場合に配管の漏洩と判
断すること」を含むことが明らかであると認定し、この認定から直ちに、高圧ガス
保安業界における配管の漏洩検知の手法としての周知・慣用技術であると判断し、
また、甲第7号証刊行物から、マイコンメータⅡが、①合計流量オーバー遮断機
能、②増加流量オーバー遮断機能、③継続使用時間オーバー遮断機能、④微少漏洩
表示機能、⑤復帰安全機能等を備えたものとして周知・慣用技術であると判断し
た。
 しかしながら、当業者にとっても、当該文献に直接当たらなければ容易に正
確に想起し得ないような技術的に細部にわたる具体化された部分を含む技術内容
を、周知・慣用技術とすることはできない。
 また、審決が挙げる周知・慣用技術の技術内容のどこにも、高圧ガス保安業
界において、「配管の漏洩検知」は、「配管部に一定期間ガス流れを連続して検知
した場合に配管の漏洩と判断すること」を含むとの記載を見いだすことはできな
い。
 審決は、周知・慣用技術について誤った認定判断をしており、この誤りが審
決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は、この点で既に取り消さ
れるべきものである。
第4 被告の反論の要点
 審決の認定判断に誤りはなく、これを取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(明細書の要旨変更の認定判断の誤り)について
(1) 当初明細書に記載されている「異常」、「異常時」には、「微少漏洩」に
関するものも当然含まれている。
 すなわち、当初明細書には、マイコンメータⅡに関する単なる一般的な説
明をしている部分(甲第3号証4頁6行~11行)において、唯一、ガスの流れの
異常時のガスの遮断についての言及があるだけで、その余には異常時のガス遮断に
言及した記載はない。かえって、当初明細書には、主管路のガス漏洩を家庭用の小
型漏洩検知機能付ガスメータにより検知し、警報を発することのみが一貫して記載
されている。
 したがって、当初明細書記載の「配管漏洩検知」には、流量の変動がない
状態で漏洩する微少漏洩の検知は含まれない、当初明細書には、微少漏洩の検知を
示唆するような記載は全く見当らない、とする原告の主張は、失当である。
(2) 補正明細書の「・・・その連続検出期間が、例えば30日間続けば、ガス
漏洩として警報を発する。」の記載は、当初明細書に記載されているに等しい事項
といえるものである。
 「漏えい検知装置」は、漏えい試験によって、「③ 被検知部分へのガス
の流入を30日間連続して検知した場合は、自動的に音響又は表示により警報し、
かつ、ガスの漏えいがないことを確認できるまでは、警報し続けるものであるこ
と。」の基準(条件)を満たしたものでなければならない、という法規制の存在が
周知の事項であったことは、甲第6号証刊行物により明らかである。
 本件考案の出願前に、高圧ガス保安業界において、漏えい検知装置に対す
る上述の法規制が周知であり、また、小型漏洩検知機能付ガスメータ5の具体例と
して当初明細書に記載のマイコンメータⅡも周知であったから、当初明細書にいう
「管路の漏洩検知」は、「配管部に一定期間(30日間)ガス流れを連続して検知
した場合に配管の漏洩と判断すること」を含むものであることが明らかである。
(3) 当業者にとって当初明細書又は当初図面の記載からみて自明な事項は、明
細書を補正して追加しても、その明細書の要旨を変更するものではない。そして、
この自明の事項とは、その事項自体を直接表現する記載はないものの、当初明細書
又は当初図面に記載されている技術内容を、出願時において当業者が客観的に判断
すれば、その事項自体が記載してあったことに相当すると認められる事項をいう。
この際、当業者が明細書から読み取れる事項のみならず、当業者が図面の記載から
読み取れる事項もまた判断資料となることは、いうまでもないことである。
 この基準に照らして本件考案をみると、「配管の漏洩検知」が「配管部に
一定期間ガス流れを連続して検知した場合に配管の漏洩と判断すること」を含むこ
とは周知・慣用の事項であるのみでなく、当業者であれば、当初明細書及び当初図
面をみれば、本件考案の目的である「配管の漏洩検知」は、その配管に一定期間ガ
ス流れが連続した場合の漏洩検知であって、マイコンメータⅡは、その機能の1つ
である微少漏洩検知を行うものであると容易に理解することができる。
(4) より具体的には、実施例の配管図である当初図面の第1図(別紙図面の第
1図参照)をみると、バイパス管路13に設けられた家庭用の小型漏洩検知機能付
ガスメータ5(マイコンメータⅡ)は、主管路11のガスの流れに異常があったと
き、この主管路11のガスを遮断するためのものでも、バイパス管路13のガスを
遮断するためのものでもないことが理解できる。
 すなわち、この配管図では、ガスメータ5が主管路11のガスの流れの異
常を検知して、ガス遮断機能が働いても、その遮断はバイパス管路13のガスの流
れに限られ、ガスメータ5が主管路11のガスの流れを遮断することはできない。
そして、ガスメータ5がバイパス管路13のガスの流れのみを遮断した状態は、バ
イパス管路13がないのと同様であるから、これでは、主管路11にわざわざバイ
パス管路13を設け、さらにこのバイパス管路13にガスメータ5を設けた技術的
意味(効果)は全くない。
 専門技術者(当業者)であれば、ガス配管図の読み方に熟達しているか
ら、この専門技術者が、第1図の配管図をみると、ガスメータ5(マイコンメータ
Ⅱ)が主管路11のガスの流量をチェックして、そのガス漏洩の異常時にガスの流
れを遮断するものではなく、単に警報を発するものと理解することになり、別紙フ
ローチャートのⅠ、Ⅱ、Ⅲ(A)、Ⅲ(B)の動作をすることを容易に読み取ることがで
きる。
 そして、マイコンメータⅡが、①合計流量オーバー遮断機能、②増加流量
オーバー遮断機能、③継続使用時間オーバー遮断機能、④微少漏洩表示機能、⑤復
帰安全機能等を備えたものとして周知であり、また、当初明細書にいう「管路の漏
洩検知」は、「配管部に一定期間(30日間)ガス流れを連続して検知した場合に
配管の漏洩と判断すること」を含むものであるから、これらを前提として、専門技
術者(当業者)が、さらに第1図の配管図をみると、この配管図に示される装置の
うち、マイコンメータⅡは、別紙フローチャートのⅣ(A)、Ⅵ(B)の動作をすること
を容易に読み取ることができるのである。
2 取消事由2(審理不尽ないし理由不備)について
 原告の審理不尽ないし理由不備の主張が理由のないことは、上述したところ
に照らし明らかである。
3 取消事由3(周知・慣用技術の認定判断の誤り)について
 甲第6号証は、文字どおり、「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化
に関する法律」の施行規則関係基準であり、当業者である高圧ガスの保安に係る専
門技術者は、この法規制である関係基準に従って業務を行わなければならず、その
内容に精通していなければ業務に支障をきたすのであるから、当業者が、上記関係
基準の内容を熟知しているのは当然である。
 また、マイコンメータⅡの各機能については、マイコンメータⅡが広く普及
し、当業者は、その内容に精通していなければ業務に支障をきたすのであるから、
熟知しているのは当然である。高圧ガス保安協会は、昭和63年(1988年)4
月以降、マイコンメータⅡの諸機能や取扱いについて各地において講習を行い、そ
の取扱者である全国の液化石油ガス設備士等への周知、徹底を図っているのであ
る。したがって、少なくとも本件考案の出願時である平成1年(1989年)4月
21日当時には、甲第6、7号証の内容は、周知・慣用技術となっていたものであ
る。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(明細書の要旨変更の認定判断の誤り)について
(1) 被告が、本件補正において、実用新案登録請求の範囲の記載について、当
初明細書の「このバイパス管路に」の後の「小型圧力調整器を設けて主管路にガス
が流れたときバイパス管路にも必ずガスが流れるようにし、さらに、このバイパス
管路に」を、「、前記圧力調整器より出口圧力を少し高く設定した小型圧力調整
器、及び一定期間ガス流れが停止しないときに漏洩していると判断して表示する」
と追加したことは、前記第2(当事者間に争いのない事実)の2から明らかであ
る。
 そして、甲第2号証及び甲第3号証によれば、被告は、上記のとおりの実
用新案登録請求の範囲における構成の追加と同時に、考案の詳細な説明において、
次のような変更又は追加をしたことが認められる。
① 〔従来の技術〕欄の末尾に、「ここで、圧力調整器4は、弁の開閉によ
り、下流側が設定圧より低圧ならばガスを流通させて供給し、一方下流側が設定圧
になればガス流通を停止させる作用を行なって、供給するガス圧(出口圧力)を一
定に保つ働きをするものである。また、小型漏洩検知機能付ガスメータ5は、小流
量の配管の漏洩検知に使用され、流量センサ、マイコン制御部および異常表示装置
を備え、一定の期間(通常30日間)、ガス流れが停止しない場合、漏洩の疑いが
あることを表示等の手段で警報する機能を有する、非常に有効なものである。」と
の記載を追加した。
② 〔作用〕欄の「この考案は上記の構成であるから、主管路を流れる大量
のガスの一部は必ずバイパス管路を流れている。また、主管路にガス漏れが生じて
ガスの流れに異常が生じると、バイパス管路内のガスの流れも異常となり、小型漏
洩検知機能付ガスメータが働いて警報を発する。」(甲第3号証明細書3頁12行
~18行)との記載を、「この考案は上記の構成であり、主管路の圧力調整器の設
定圧力により、バイパス管路の小型圧力調整器の設定圧力が高くしてあるため、主
管路を流れる大量のガスの一部は必ずバイパス管路を流れている。このため、この
状態では、小型漏洩検知機能付ガスメータはガス流れを検出している。したがっ
て、ガスが使用されている問は、ガスメータは、ガス流れを検出しており、ガス器
具の使用がなくなると、主管路内のガス圧は徐々に上昇し、そのガス圧が圧力調整
器の設定圧力より高くなると(同圧になると)、圧力調整器にはガスは流れなくな
る。一方、小型圧力調整器の圧力設定は前記圧力調整器の出口圧力より少し高く設
定されているため、主管路の圧力調整器にガスが流れなくなっても、流れつづけ、
その設定圧力より高くなった時点(同一となった時点)で小型圧力調整器、すなわ
ち、バイパス管のガス流れも停止する。このため、ガスメータはそのガス流れの停
止を検出する。このガス流れの停止が生じることは漏洩が生じていないことであ
り、ガスメータは警報動作は行わない。ところが、ガス器具の使用がなくなり、主
管路の大量のガス流れが停止しても、主管路にガス漏洩が生じていると、通常、そ
の漏洩量は主管路の大流最に比べて極めて少ないため、主管路の圧力には大きな影
響もなく、主管路のガス圧は圧力調整器の設定圧力に達してその圧力調整器のガス
流れは停止されるが、小型圧力調整器は、主管路の圧力調整器の設定圧力よりその
設定圧が高いため、ガスは流れつづけ、バイパス管路は小流量のため、漏洩によっ
ても顕著な流れが生じる。このため、ガスメータはそのガス流れを検出することと
なる。すなわち、ガス漏洩が生じていれば、ガスの使用がなくなっても、ガスメー
タはガス流れを検出することとなり、その連続検出期間が、例えば30日間続け
ば、ガス漏洩として警報を発するなどの表示を行う。」(甲第2号証2頁左欄30
行~右欄12行)との記載に変更した。
③ 〔実施例〕欄の「・・・バイパス管路13にも必ずガスが流れるように
する。」の後の「上記の実施例の場合は、主管路11内をガスが流れると、その一
部が必ずバイパス管路13にも流れる。従って主管路11内を流れるガスの流量に
異常を生じると、バイパス管路13内のガス流量にも異常を生じるのでメータ5の
マイクロコンピュ一タが、異常を検知して警報を発する。ガスメータ5にその容量
以上のガスが流れるおそれがある場合は第2図のようにバイパス管路13にオリフ
ィス15を設けて管路13に流れるガス量を制限すればよい。」(甲第3号証明細
書4頁15行~5頁7行)との記載を、「したがって、ガスが使用されて、主管路
11内をガスが流れると、その一部が必ずバイパス管路13にも流れ、ガスメータ
5はその流れを検出する。次に、ガス器具の使用がなくなると、主管路11内のガ
ス圧は徐々に上昇し、そのガス圧が圧力調整器R3の設定圧力より高くなると、圧
力調整器R3にはガスは流れなくなる。一方、小型圧力調整器14は、その出口圧
力が前記圧力調確器R3の出口圧力より少し高く設定されているため、圧力調整器
R3のガス流れがなくなっても、流れつづけ、主管路11のガス圧がその設定圧力
より高くなった時点で、小型圧力調整器14にガスが流れなくなり、バイパス管1
3のガス流れが停止する。このため、ガスメータ5はそのガス流れの停止を検出す
る。このガス流れの停止が生じることは漏洩が生じていないことであり、ガスメー
タは警報動作は行わない。ところが、ガス器具の使用がなくなり、主管路11の大
量のガス流れが停止しても、主管路11にガス漏洩が生じていると、通常、その漏
洩量は主管路の大流量に比べて極めて少ないため、主管路の圧力には大きな影響も
なく、主管路のガス圧は圧力調整器R3の設定圧力に達して圧力調整器R3のガス流
れは停止されるが、小型圧力調整器14は、圧力調整器R3の設定圧力よりその設
定圧が高いため、ガスは流れつづけ、バイパス管路13は小流量のため、漏洩によ
っても顕著な流れが生じる。このため、ガスメータ5はそのガス流れを検出するこ
ととなる。すなわち、ガス漏洩が生じていれば、ガスの使用がなくなっても、ガス
メータ5はガス流れを検出することとなり、その連続検出期間が、例えば30日間
続けば、ガス漏洩として警報を発する。なお、ガスメータ5はその容量以上のガス
が流れると、ガス遮断する機能が付加されているが、異常な流れが生じて故障する
場合もあるため、第2図のようにバイパス管路13にオリフィス15を設けて管路
13に流れるガス量を制限し、異常な大容量のガスが流れないようにすることが好
ましい。」(甲第2号証2頁右欄28行~3頁左欄12行)との記載に変更した。
 審決は、本件補正前の特許請求の範囲にいう「小型漏洩検知機能付ガスメ
ータ」が「一定期間ガス流れが停止しないときに漏洩していると判断して表示す
る」ものであることが当初明細書に実質的に記載されている旨(審決書11頁8行
~11行参照)、また、補正明細書の「・・・その連続検出期間が、例えば30日
間続けば、ガス漏洩として警報を発する。」との記載は、当初明細書に記載されて
いるに等しい事項といえる旨(審決書16頁11行~14行)認定判断した。
 以下、その当否について検討する。
(2) 甲第3号証によれば、当初明細書には、①〔産業上の利用分野〕欄に、
「この考案は、例えば複数のLPガスボンベからなる集団供給装置から各家庭へガ
スを供給する設備などに用いる配管漏洩検知装置に関するものである。」(1頁1
3行~16行)、②〔従来の技術〕欄に、「第6図に示すものは複数のLPガスボ
ンベ1と、複数の圧力調整器R1、R2、R3を組合せた自動切換調整器8からなる
集団供給装置10に通じる主管路11に各家庭2毎に分岐した管路12を接続した
もので、小型漏洩検知機能付ガスメータ5は各管路12毎に取付けてある。」(2
頁3行~8行)、③〔考案が解決しようとする課題〕欄に、「第6図のものは主管
路11の漏洩が検知できない。主管路11の流量は大きいから漏洩を検知するため
には大容量型漏洩検知機能付ガスメータが必要であるが、このようなガスメータは
現在では商品化されておらず、また、今後商品化されたとしても非常に高価なもの
となる。この考案の課題は上記の問題点を解決するために、流量の大きい主管路の
ガス漏洩を家庭用の小型漏洩検知機能付ガスメータにより検知し得るようにするこ
とにある。」(2頁12行~3頁1行)、④〔作用〕欄に、「この考案は上記の構
成であるから、主管路を流れる大量のガスの一部は必ずバイパス管路を流れてい
る。また、主管路にガス漏れが生じてガスの流れに異常が生じると、バイパス管路
内のガスの流れも異常となり、小型漏洩検知機能付ガスメータが働いて警報を発す
る。」(3頁12行~18行)、⑤〔実施例〕欄に、「第1図に示す実施例の場
合、主管路11に二次用圧力調整器R3をバイパスするバイパス管路13を設け
る。そして、上記バイパス管路13に小型圧力調整器14および前記の小型漏洩検
知機能付ガスメータ5を設ける。実施例に用いたガスメータ5は高圧ガス保安協会
が定める基準に合格してマイコンメータⅡとして市販しているもので、メータ上部
に内蔵されているマイクロコンピュータがガスの流量をチェックして、異常時にガ
スを遮断したり、警報を発したりするものである。」(3頁末行~4頁11行)、
⑥〔考案の効果〕欄に、「この考案は大量のガスが流れる主管路に設けた圧力調整
器をバイパスするバイパス管路の流量変化を検知するものであり、バイパス管路に
設けた家庭用の小型漏洩検知機能付ガスメータによって漏洩の検知ができるのでき
わめて経済的である。また、前記バイパス管路には小型圧力調整器を設けてその出
口圧力の設定を主管路の調整器の出口圧力より少し高くして主管路にガスが流れる
ときはバイパス管路にもかならずガスが流れるようにしたから主管路の流量に関係
なく漏洩検知ができるなどの効果がある。」(5頁18行~6頁8行)との、各記
載があることが認められる。
 上記認定の記載によれば、本件考案は、「流量の大きい主管路のガス漏洩
を家庭用の小型漏洩検知機能付ガスメータにより検知し得るようにすること」を課
題とし、実用新案登録請求の範囲記載の構成を採用することによって、「主管路を
流れる大量のガスの一部は必ずバイパス管路を流れ」、また、「主管路にガス漏れ
が生じてガスの流れに異常が生じると、バイパス管路内のガスの流れも異常とな
り、小型漏洩検知機能付ガスメータが働いて警報を発する」ことになり、「バイパ
ス管路に設けた家庭用の小型漏洩検知機能付ガスメータによって漏洩の検知ができ
るのできわめて経済的である」、及び、「主管路の流量に関係なく漏洩検知ができ
る」等の効果を奏するというのであるから、上記のバイパス管路内のガスの流れの
「異常」とは、主管路にガス漏れが生じたことによって生じる主管路のガスの流れ
の異常に基づくものであることが明らかである。そして、当初明細書を詳細に検討
しても、検知されるべき主管路のガス漏れについて、その種類や程度に限定を加え
る記載は一切見出せないから、当初明細書にいうガスの流れの異常には、主管路の
ガス漏れによって生ずる、当時、家庭用の小型漏洩検知機能付ガスメータによる検
知の対象とされていた、ガス漏れがないときとは異なるガスの流れ一般が含まれて
いるとみるべきは当然であり、かつ、「一定期間ガス流れが停止しない」という漏
洩も、当時、家庭用の小型漏洩検知機能付ガスメータによる検知の対象とされてい
たことは、乙第3号証(昭和63年8月29日高圧ガス保安協会発行「家庭用LP
ガスの設備要領(供給編)」三訂版200頁~203頁)、第4号証(昭和63年
10月1日LPガス安全器具普及促進連絡協議会発行「LPガス安全機器ニュース
 ご家庭に安心が広がる「マイコンメータⅡ」 No.2」)、第5号証(昭和6
4年ころ株式会社金門製作所作成「マイコンメータⅡ シャダンエース」カタロ
グ)及び第6号証(昭和63年ころ愛知時計電機株式会社作成「アイチのマイコン
メータⅡ」カタログ)及び弁論の全趣旨で明らかであるから、これが上記ガス流れ
の異常に含まれることは明らかというべきである。
 そして、このことは、次のとおり、当初明細書の実施例についての記載に
よっても裏付けることができるのである。
(3) 上記のとおり、当初明細書の〔実施例〕欄中には、実施例では、ガスメー
タ5として、高圧ガス保安協会が定める基準に合格してマイコンメータⅡとして市
販しているものを用いていることが記載されている。
 そこで、「マイコンメータⅡ」の記載がいかなる技術的事項を開示してい
るか、言い換えれば、本件考案の登録出願当時、上記記載に接した当業者が、これ
によりいかなる技術を把握し、認識するかについて検討する。
 甲第7号証によれば、同号証刊行物(昭和62年7月20日発行の高圧ガ
ス保安協会発行の「高圧ガス」Vol.24 No.7通巻206号)には、「マ
イコンメーターⅡは、各消費者宅のLPガスの使用状況を常に監視し、ガス流量等
に異常があった場合には自動的にガス遮断あるいは警報の表示等を行うものであ
る。」(13頁右欄17行~20行)との記載があり、また、「マイコンメーター
Ⅱの基本仕様」の項に、「(1) 主な機能 マイコンメーターⅡには、以下に示す
機能がある。①合計流量オーバー遮断機能 ガス流量が消費先の保有燃焼器具の合
計消費流量を超えて流れた場合、元せんの誤開放等によるガス漏れと判断し遮断す
る機能。②増加流量オーバー遮断機能 ガスメーターを流れるガスの流量が増加し
たとき、その増加流量が保有燃焼器具の消費量最大の機器の消費量に比べて異常に
大きい流量の増加であった場合、ゴム管付元せんの誤開放等によるガス漏れと判断
し遮断する機能。③継続使用時間オーバー遮断機能 普通ではありえないような器
具の長時間使用が発生しているかどうかを判断するものである。流量に変動がない
状態で、燃焼器具が使用され続け使用時間がその燃焼器具のガス消費量に応じて定
められた時間を超えた場合、器具の消し忘れ又は元栓の不完全閉止等によるガス漏
れと判断し遮断する機能。④微少漏洩表示機能 微少流量のガスが定められた期間
を超えて流れ続けた場合、口火の消し忘れ又は配管類からの微小漏洩と判断し微小
漏洩表示を行う機能。⑤復帰安全機能 マイコンメーターⅡが異常と判断してガス
流路を遮断した後、マニュアルで遮断弁を復帰させた場合遮断弁の下流側にガス漏
れがないかどうかをチェックし、ガス漏れがあった場合は再び遮断する機能。 ⑥
その他 電池電圧低下表示機能、オプション機器入力端子等」(14頁左欄25行
~右欄10行。審決書6頁16行~10頁9行参照)との記載があることが認めら
れる。
 上記記載によれば、マイコンメータⅡは、各消費者宅のLPガスの使用状
況を常に監視し、ガス流量等に異常があった場合には自動的にガス遮断あるいは警
報の表示等を行うものであり、また、その主な機能の一つとして、微少漏洩表示機
能を包含するものであることは、明らかである。
 さらに、同じ甲第7号証刊行物には、「昭和61年5月、通商産業省立地
公害局長の私的諮問機関であるLPガス安全器具普及懇談会・・・から報告が出さ
れ、この中で、LPガス消費の異常の検出と対応を目的としたマイコンメーターⅡ
を早急に開発し、普及を図る必要性が指摘された。・・・このような経過を経て、
昨年6月以降関連企業の協力を得てマイコンメーターⅡの開発に精力的に取急み、
この4月からフィールドテストに入った。当研究所における開発の進行状況及びメ
ーターメー力ー各社の量産品の試作状況からみて、本年10月からのマイコンメー
ターⅡの普及開始は十分可能になったと言える。・・・なお、本研究開発にあた
り、松下住設機器㈱、矢崎計器㈱、リコー精器㈱、東洋計器㈲、リンナイ㈱、㈱金
門製作所、東洋ガスメーター㈱、愛知時計電機㈱、(社)日本エルピーガス連合会
及び各県プロパソガス協会、町田ガス㈱及び三ツ輪液化瓦斯㈱の関係各位の多大の
御支援と御協力をいただいた。」
(昭和62年7月20日高圧ガス保安協会発行の「高圧ガス」Vol.24
 No.7通巻206号13頁左欄11行~右欄15行)との記載があることが認
められ、同記載によれば、マイコンメータⅡは、昭和62年10月ころから、全国
的な規模で普及し始めたものであって、前記の乙第3号証(昭和63年8月29日
高圧ガス保安協会発行「家庭用LPガスの設備要領(供給編)」三訂版200頁~
203頁)、第4号証(昭和63年10月1日LPガス安全器具普及促進連絡協議
会発行「LPガス安全機器ニュース ご家庭に安心が広がる「マイコンメータⅡ」
 No.2」)、第5号証(昭和64年ころ株式会社金門製作所作成「マイコンメ
ータⅡ シャダンエース」カタログ)及び第6号証(昭和63年ころ愛知時計電機
株式会社作成「アイチのマイコンメータⅡ」カタログ)をも併せ考えると、マイコ
ンメータⅡは、本件考案の登録出願当時、LPガスに係る一般的な安全機器とし
て、その機能とともに、当業者の間において、全国的に広く知られたものとなって
いたことが認められる。
 そうすると、本件考案の登録出願当時、当初明細書に接した当業者は、
「マイコンメータⅡ」の記載から、直ちに、当初明細書の考案の詳細な説明に示さ
れているガスメータが微少漏洩を検知し表示する機能を含んでいると把握し、認識
するものというべきである。
(4) 以上、(2)及び(3)で検討したところによれば、当初明細書においては、検
知されるべきガスの流れの異常には、「一定期間ガス流れが停止しない」漏洩の場
合のものも含まれるものとされているから、当初明細書には、そこでいう「小型漏
洩検知機能付ガスメータ」が「一定期間ガス流れが停止しないときに漏洩している
と判断して表示する」ものであることが実質的に記載されているとした、審決の認
定判断に誤りはない。
(5) 当初明細書には、「・・・その連続検出期間、例えば30日間続けば、ガ
ス漏洩として警報を発する。」との技術事項が明示的には記載されていないこと
は、甲第3号証により明らかである。
 他方、本件考案が、LPガスの配管漏洩検知装置に関するものであること
は、実用新案登録請求の範囲の記載自体から明らかである。
 そこで、本件考案の登録出願当時、当初明細書に接した当業者が、LPガ
スの配管漏洩検知装置について、いかなる技術を把握し、認識するかについて検討
する。
 甲第6号証によれば、同号証刊行物(昭和62年8月31日改正の「液化
石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律施行規則関係基準」の「29
 供給管又は配管等の気密試験方法及び漏えい試験の方法」)には、「3 漏えい
試験(漏えい検知装置を用いる場合に限る。) 供給管及び配管の漏えい試験は、
漏えい検知装置を設置した箇所から末端閉止弁までの間(以下この項において「被
検知部分」という。)については、次の基準により行うものとする。(1) 漏えい検
知装置は、被検知部分へのガスの流入の状況によりガスの漏えいを有効に検知し、
ガスの消費者若しくはその他建物の関係者に音響若しくは表示により警報するもの
又は被検知部分へのガスの供給を自動的に停止するもの(流量検知式のもの)であ
って、次の基準に適合するものとする。①被検知部分からのガスの漏えい量を被検
知部分への流入量として検知するものをいう。②検知可能な最少のガスの漏えい量
は3リットル毎時を超えるものではないこと。③被検知部分へのガスの流入を30
日間連続して検知した場合は、自動的に音響又は表示により警報し、かつ、ガスの
漏えいがないことを確認できるまでは、警報し続けるものであること
ニ。④検知機能が維持できなくなった場合は、自動的に音響又は表示により警報する
ものであること。⑤ガスの供給を自動的に停止するものにあっては、作動状況の確
認が容易にでき、かつ、復帰安全機構を有すること。」(1026の54頁~55
頁。審決書7頁4行~8頁9行参照)との記載があることが認められる。
 上記記載及び甲第6号証刊行物に係る基準が液化石油ガスの保安の確保及
び取引の適正化に関する法律施行規則を補完するものとして定められたことからす
れば、我が国においては、本件出願前から、現実に用いられる「漏えい検知装置」
は、必ず、漏洩試験によって、被検知部分へのガスの流入を30日間連続して検知
した場合は、自動的に音響又は表示により警報し、かつ、ガスの漏洩がないことを
確認できるまでは、警報し続けるものである、という基準を満たしたものでなけれ
ばならなかったことが明らかである。そうすると、本件出願当時、当初明細書に接
した当業者は、LPガスの配管漏洩検知装置について、上記基準を満たしたもので
あると把握し、認識することは明らかであり、本件考案にいう配管漏洩検知装置
は、当然に、「・・・その連続検出期間が、例えば30日間続けば、ガス漏洩とし
て警報を発する。」との技術事項を包含していると理解するものというべきであ
る。
 補正明細書の「・・・その連続検出期間が、例えば30日間続けば、ガス
漏洩として警報を発する。」との記載は、当初明細書に記載されているに等しい事
項といえるとした審決の認定判断に誤りはない。
(6) 原告は、明細書の記載を解釈するに当たり、公知技術あるいは公知事実を
参酌することは許されないわけではないとしても、それはあくまで当該明細書自体
から知ることができる具体的内容に関連する場合に限られるものと解すべきである
とし、「一定期間ガス流れが停止しない」という微少漏洩に係る技術や「・・・そ
の連続検出期間が、例えば30日間続けば、ガス漏洩として警報を発する。」とい
う技術が当初明細書に記載されているとするのは誤りである旨主張する。
 確かに、客観的にみて周知・慣用の事項であり、当該発明に適用し得るも
のであったとしても、明細書又は図面に記載があると認識できる程度に自明となっ
ていない場合であるにもかかわらず、後になって明細書又は図面にこれらの技術を
取り込むことを許したなら、当初明細書又は図面に記載された技術内容をいたずら
に拡大することを認めることになり(いずれの技術分野においても無数の周知・慣
用の技術が存在することは当裁判所に顕著である。)、後願者に不当な不利益を負
わせることになる。このような結果が許されないことは明らかである。
 しかしながら、「一定期間ガス流れが停止しない」という微少漏洩に係る
技術事項も、また、「・・・その連続検出期間が、例えば30日間続けば、ガス漏
洩として警報を発する。」という技術事項(これは、我が国において、本件考案の
ような配管漏洩検知装置が、必然的に具備していなければならないものである。)
も、前述のとおり、当初明細書に接した当業者が、考案の詳細な説明の記載及び
「マイコンメータⅡ」の記載から、直ちに把握し、認識する技術事項というべきで
ある。「一定期間ガス流れが停止しない」という微少漏洩に係る技術事項を含まな
い配管漏洩検知装置にせよ、また、「・・・その連続検出期間が、例えば30日間
続けば、ガス漏洩として警報を発する。」という技術事項を含まない配管漏洩検知
装置にせよ、本件全証拠を検討しても見いだすことはできないことをも併せ考えれ
ば、むしろ、逆に、このような技術事項を含まないものを認識することは不可能あ
るいは極めて困難であった、ということも許されるというべきである。
 以上によれば、上記技術事項を補正によって加えることを認めたとして
も、それが、当初明細書に記載された技術内容をいたずらに拡大することを容認す
ることになることは、全くないものというべきである。
 原告の主張は、採用できない。
(7) 原告は、当初明細書にいう「ガス漏れ」は、主管路にガス漏れが生じる
と、バイパス管路のガスの流れにも異常が生ずるような特殊な「ガス漏れ」である
とし、当初明細書に係る考案は、「主管路の流量に関係なく漏洩検知ができる」も
のであるから、主管路に大量のガスが流れているときに、主管路にガス漏れが生じ
るとガスの流れに異常が生じるようなガスの漏洩であり、微少漏洩は、一般には長
期にわたり(パイプの修理、取替え等がない限り)徐々に漏洩するものであって、
漏洩に流量の変動がない状態で漏洩するものであるから、当初明細書記載の「配管
漏洩検知」には、流量の変動がない状態で漏洩する微少漏洩の検知は含まれない旨
主張する。
 しかしながら、前記(2)認定のとおり、本件考案にいうガスの流れの異常
に、主管路のガス漏れによって生ずる、ガス漏れがないときとは異なるガスの流れ
一般が含まれ、したがって、「一定期間ガス流れが停止しない」という漏洩も含む
ことが明らかであるから、原告の主張は、前提を欠くものである。原告の主張は、
採用することができない。
 以上によれば、原告主張の取消事由1に理由がないことは、その余の原告
主張につき触れるまでもなく、明らかである。
2 取消事由2(審理不尽ないし理由不備)について
 原告は、審決は、当初明細書に全く記載のない甲第6号証及び甲第7号証に
記載された技術的事項を、当初明細書自体から知ることができる具体的技術的事項
といえるかどうかについて何ら検討することなく、それらを周知・慣用技術である
と決めつけて当初明細書に記載された技術的事項と認定判断し、これを根拠に明細
書の要旨変更を認定判断した旨主張する。
 しかしながら、審決が、甲第6号証及び甲第7号証に記載された技術的事項
を、当初明細書自体から知ることができる具体的技術的事項といえるかどうかにつ
いて検討していないわけではないことは、前記認定判断に照らし明らかである。そ
して、仮に審決の検討に不十分なところがあったとしても、それがその結論に影響
するものでないことは、上述したところに照らして明らかである。
 原告主張の取消事由2(審理不尽ないし理由不備)も、採用できないことが
明らかである。
3 取消事由3(周知・慣用技術の認定判断の誤り)について
 原告主張の取消事由3に理由がないことも、前記認定判断に照らし明らかと
いうべきである。
4 そうすると、原告主張の審決取消事由は、いずれも理由がなく、その他審決
にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
 よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事
件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所第6民事部
裁判長裁判官山  下  和  明
  裁判官山  田  知  司
        裁判官宍  戸     充
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