弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原決定中抗告人関係部分を取り消す。
     原決定中A関係部分に対する本件抗告は却下する。
         理    由
 抗告代理人は「原決定を取り消す。」との裁判を求め、その抗告理由の要旨は
「原裁判所は和解調書にはなんらの誤謬が存在しないのに更正決定をしたものであ
つて原決定は違法である。抗告人はAに対しては多額の債権存するにつきこれを相
手方に話した結果金一一〇、〇〇〇円の支払義務となつたものである。よつて本件
抗告に及んだ次第である。」というにあるので、考えてみる。
 和解調書は民事訴訟法第二〇三条により確定判決と同一の効力を有するものであ
るから、同法第一九四条を準用し、裁判所はいつでも申立によりまたは職権をもつ
て更正決定をすることができるものであるが、それは和解調書に明白な誤謬がある
場合に限つて許されるものであることはいうまでもない。原審は本件和解調書の和
解条項中の抗告人関係部分すなわち「被告Bは原告に対し金十一万円の支払義務を
認め、被告Aと連帯して昭和三十年八月十五日限り金三万円、同年八月二十一日限
り金三万円、同年九月から昭和三十一年一月まで毎月末日限り金一万円宛を支払う
こと」という趣旨の記載は誤りであつて、「被告Bは原告に対し金二十万五千円の
支払義務を認め、昭和三十年八月十五日限り金三万円、同年八月三十一日限り金二
万円を単独で支払い、被告Aと連帯して昭和三十年八月から昭和三十一年十月まで
毎月末日限り金一万円宛(但し最終は金一万五千円)を支払うこと」というのが真
実成立した右和解条項の趣旨であり、そう記載すべきであつたのを<要旨>誤つて表
現したものである。右誤謬は明白であるとして、職権をもつてその趣旨の更正決定
をしている。しかしながら和解調書における明白な誤謬とは和解調書の記載
内容や文言の前後から判断し、あるいは和解調書自体からでなくとも、その事件に
おいて従来現われた訴訟資料と対照すれば、調書の表現が誤りであることが看取さ
れ、かつ本来表現せらるべきであつたものが知得できる場合であることを要し、和
解調書自体からはもちろん、従来の訴訟資料と対比しても、調書の表現に誤りがあ
り、かつ本来表現さるべくして果されなかつたものが何であるかが推知できない場
合には、明白な誤謬ということはできないのである。
 ところが抗告人と相手方との間に成立した和解条項の抗告人が認めた債務額が
「金一一〇、〇〇〇円」ではなく「金二〇五、〇〇〇円」であること、その支払方
法が「第一回金三〇、〇〇〇円第二回金三〇、〇〇〇円、以後昭和三一年一月末ま
で六回に金一〇、〇〇〇円いずれも相被告Aと連帯支払」ではなく「第一回金三
〇、〇〇〇円第二回金二〇、〇〇〇円の単独支払、なお昭和三一年一〇月末まで金
一〇、〇〇〇円宛(最終は金一五、〇〇〇円)相被告Aと連帯支払」の定であるこ
とは、和解調書はもとより本件記録全体にもその片りんすら現われていないのであ
る。そうすると本件和解調書の前示部分には更正を受けるための要件である誤謬の
明白性が欠けているものと解するほかはなく、前示部分の更正決定は違法として取
消を免れない。
 抗告人は原決定中のAの関係部分すなわち本件和解調書中のAが認めた債務額金
二〇五、〇〇〇円を金一五五、〇〇〇円と更正し、かつその支払方法を更正した部
分の取消をも求めているが、抗告人としては右部分の取消を求める法律上の利益を
有しないから、この部分についての本件抗告は不適法として却下すべきである。
 よつて主文のとおり決定する。
 (裁判長判事 田中正雄 判事 神戸敏太郎 判事 平峯隆)

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