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平成18年(ネ)第10087号損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所
平成17年(ワ)第15455号)
平成19年5月30日判決言渡,平成19年3月28日口頭弁論終結
判決
控訴人株式会社平河工業社
訴訟代理人弁護士澤田三知夫
同中田好昭
同弁理士滝田清暉
補佐人弁理士中村成美
被控訴人三菱製紙株式会社
訴訟代理人弁護士熊倉禎男
同富岡英次
同奥村直樹
同弁理士近藤直樹
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴人
()原判決を取り消す。1
()被控訴人は,控訴人に対し,3億円及びこれに対する平成17年9月1日2
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
()訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。3
2被控訴人
主文と同旨
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,多頁面付け方法の発明についての特許権を被控訴人と共有する控訴
人が,①被控訴人が多頁面付け方法を内包する製版印刷に関するパッケージソ
フトウェアである被控訴人製品を製造,販売する行為は,特許法101条3号
又は4号により,上記特許権の控訴人の共有持分10分の6を侵害するものと
みなされる,あるいは,②被控訴人において被控訴人製品の販売利益を不当利
得しているとして,被控訴人に対し,主位的に,損害賠償請求と不当利得返還
請求,予備的に,不当利得返還請求をした事案である。原判決が,被控訴人製
品に基づく多頁面付け方法は本件発明の技術的範囲に属しないとして,控訴人
の請求をいずれも棄却したため,控訴人が控訴し,原判決の上記判断を争って
いる。
2争いのない事実及び争点
原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」の「1争いのない事
実」及び「2争点」のとおりであるから,これを引用する。
第3争点に関する当事者の主張
以下のとおり,当審における当事者の主張を付加するほか,原判決「事実及
び理由」欄の「第2事案の概要」の「3争点に対する当事者の主張」のと
おりであるから,これを引用する。
1本件発明の技術的範囲の解釈について
〔控訴人の主張〕
()本件発明におけるパターンデータは,画像情報に属し,フォーマットデー1
タは,文字情報に属する。「パターン」は,画像の概念に属する図柄,模様,
型等を意味する語として認知されており,パターン情報がコンピュータ上の
画像情報に属することは周知であり,「パターンデータ」がパターン情報を
コンピュータ処理可能なデータとしたものであり,画像データに属すること
は明らかである。この点について,被控訴人は,「頁の順番」等のパターン
データが数字で表されている旨主張するが,この場合の「数字」は頁を表す
もので,寸法を表すフォーマットデータとはなり得ず,発明の実施において,
コンピュータ処理した後のデータについて,文字情報のように取り扱ってい
るものである。
そして,コンピュータ処理に当たり,画像情報と文字情報を区別せず同じ
ように処理することができないこと,画像データと文字データのデータ処理
の仕方が異なること,及び,画像情報処理には文字情報処理とは比べものに
ならないほど膨大なメモリーを必要とすることは,平成元年7月13日の本
件発明の特許出願(以下「本件出願」という。)の当時,当業者に周知であ
った。コンピュータ処理に際し,情報が,画像情報と文字情報のいずれに属
するかを認識すれば,その認識された情報は,必然的にいずれかのデータに
分類され,処理されることになる。
このようなコンピュータ上の分類が,本件発明における「分類」の概念で
あり,本件発明の「分類」は,パターンデータ(画像データ)とフォーマッ
トデータ(文字データ)の両方を含んでいる「多頁面付けに必要なデータ」
を,それを構成している,画像データである各最小パターンデータと文字デ
ータである各最小フォーマットデータにそれぞれ分類すること,すなわち,
その違いを認識することである。このような認識と分類は,コンピュータを
扱う当業者には常識であり,本件明細書(甲3)においては,「認識」につ
いては当然の前提であるとして記載せず,「認識」の結果であり,より具体
的な概念である「分類」について,本件発明の構成要件として記載したにす
ぎない。
そして,本件発明において,情報をパターンデータとして認識すると,そ
のデータは画像情報として分類され,画像データ(パターンデータ)として
コンピュータ処理されるという作用効果が生じ,情報をフォーマットデータ
として認識すると,そのデータが文字情報として分類され,文字データ(寸
法データ)としてコンピュータ処理されるという作用効果が生じる。本件明
細書に記載された,「任意のパターンと任意のフォーマットデータとを組み
合わせて多種多様の多頁面付け最終フォーマットを得ることができる」(8
欄29行目∼31行目)という本件発明の作用効果は,パターンデータとフ
ォーマットデータを認識するという,本件発明の一構成要素の作用効果では
ない。
この点について,被控訴人は,本件出願の審査段階における,平成7年3
月3日付けの拒絶理由通知(以下,同拒絶理由通知に係る拒絶理由通知書を
「本件拒絶理由通知書」という。)において引用された特公昭59−472
90号公報(甲8,乙7,以下「本件引用例」という。)記載の発明におい
ても,上記意味での「分類」が行われている旨主張するが,本件引用例で使
用されている最終フォーマットはコンピュータを用いて作成されたものでな
く,本件引用例は「分類」を行っているものではない。
また,被控訴人は,本件出願日前に,多頁面付け作業は既にコンピュータ
処理されていたものであるから,コンピュータ上の分類が本件発明における
「分類」の概念であるとすると,「分類」の要件について本件発明と公知技
術との間には何らの差異もないこととなる旨主張するが,その根拠とする文
献は,審査段階で提出されたものでなく,それに基づいて本件発明を解釈す
ることはできないし,それらの文献は,本件出願日後の文献か「パターンデ
ータ」及び「フォーマットデータ」という「分類」を示唆するものではない。
被控訴人の主張は,実質的にいわゆる特許無効の抗弁をいうものであり,自
ら共有持分を有する本件特許権に対して無効の主張をするものにほかならず,
信義誠実の原則に反するものである。
()平成7年5月17日付け手続補正書(乙3)による補正(以下「本件補2
正」という。)は,後記()のとおり,特許請求の範囲の減縮を目的とする4
補正ではなく,本件補正の前後を通じ,本件発明の「パターンデータ」及び
「フォーマットデータ」は,セットデータのみならず,最小データである
「最小パターンデータ」及び「最小フォーマットデータ」をも含むものであ
る。
多頁面付けの実際の作業においては,セットパターンの作成の際,同種の
データの群をその群ごとに記憶させ,例えば,頁の天の方向であれば,上下
左右の4つの方向からなるデータ群の中から1つを選択し,これを,例えば,
面付け数というような他のパターンデータと組み合わせることによって入力
し,同様の手順で,他のパターンデータについても順次入力を行ってセット
パターンを作成することが合理的である。また,フォーマットデータとして
認識され分類された複数のフォーマットデータ(例えば,Aシリーズ,Bシ
リーズといった一連の頁サイズ)についても,この中から適宜選択してデー
タ入力することもできるが,特に,寸法のような連続的に変更可能な物理量
については,手入力する場合も避けられない場合が想定される。
パターンデータ及びフォーマットデータは,「最小パターンデータ」及び
「最小フォーマットデータ」の群からなり,各データ群の中から一つの最小
データを選択し,これら選択された最小データを組み合わせていって最終フ
ォーマットを作成する態様を含むのが本件発明である。本件発明では,一度
セットパターン及びセットフォーマットを作成し,セットデータを組み合わ
せることによって最終フォーマットの作成を行うこともできるが,これは本
件発明の単なる一態様にすぎず,各最小データ群の中から最小データを一つ
ずつ選択して組み合わせていく方法も,本件発明の基本的実施態様である。
被控訴人は,請求項3の「パターンデータ」を「最小パターンデータ」と
解すると,請求項の記載に矛盾が生じる旨主張するが,矛盾は生じない。請
求項3における「パターンデータは,少なくとも頁の順番,頁の天の方向,
背丁のデータであり」との記載は,請求項3に記載された発明においては,
そこに記載されたデータを「パターンデータ」として必ず使用するが,それ
以外の「パターンデータ」として取り扱えるデータをさらに「パターンデー
タ」として,適宜使用してもよいという意味であり,また,それに加えて,
「パターンデータ」として「頁の露光の順番」,「くわえの方向のデータ」
も必ず使用するとしたのが請求項4であり,そこには,何らの矛盾もない。
また,被控訴人は,本件明細書の「版の寸法,頁サイズ,ドブの幅,くわ
えの幅,その他の各種の寸法で決まるフォーマットデータ」(4欄4行目∼
5行目)との記載によれば,控訴人の主張に矛盾が生じる旨主張するが,上
記記載における「版の寸法」等は,フォーマットデータの例示列挙であり,
これらの各フォーマットデータが,それぞれ「最小フォーマットデータ」の
群からなるものであり,控訴人の主張には,何らの矛盾もない。
さらに,被控訴人は,本件明細書の実施例及び図面には,セットパターン
データが1枚のディスクに入力されて「パターンデータ」が作成される様子
と,1枚のディスクともう1枚のディスクが読み込まれることによって,
「最終フォーマット」が作成されることが記載されている旨主張するが,本
件明細書には,「セットパターンデータ」を作成するために個々のパターン
データを組み合わせていく過程も記載されていて,その組合せ工程も本件発
明の実施態様を説明していると解するのが相当である。
()原判決は,「相互に組合わされるべき『パターンデータ』と『フォーマッ3
トデータ』とを,データディスクなどにそれぞれ別々に記憶させることによ
り『分類』することに意味があることになる。」(37頁21行目∼24行
目)としたが,本件発明とは全く無関係といえる事項について,本件発明の
構成要件中の「分類」と位置付けて本件発明を解釈するものである。
「『パターンデータ』と『フォーマットデータ』とを,データディスクな
どにそれぞれ別々に記憶させること」は,本件発明における「データの分
類」とは無関係であって,データディスクなどに別々に記憶させるか否かは,
コンピュータの性能上の問題であり,一般的には,「データの格納」という
概念に属するものであり,本件発明の技術的思想の一部を構成するものでは
ない。
本件出願時においては,コンピュータの性能の関係から,一つのセットパ
ターンを作成したら,通常,その結果であるセットパターンデータをフロッ
ピー等のメモリ媒体に一時的に格納し,パソコンのメモリを最大限に活用で
きるように前のデータをすべて消去して内部メモリを復活させた後,次の作
業をする必要があった。しかし,現在では,コンピュータの高性能化により,
データディスクなどの記憶媒体にデータを一時的に格納する手順は不要とな
っているのであり,データディスクなどの記録媒体にデータを一時的に格納
する手順は,本件発明の本質的部分ではあり得ない。
仮に,上記一時的格納の手順を本件発明の技術的範囲の解釈において参酌
するとしても,その一時的格納の手順を使用する代わりに,同じ内容を実施
することのできるより高性能のコンピュータを使用して上記一時的格納の手
順を省略し多頁面付けを行う方法は,正に本件発明の技術的範囲に属するも
のである。
()原判決は,本件補正と同日付けの本件発明の出願人(被控訴人)が提出し4
た意見書(乙4,本件意見書)の記載について,「本件意見書では,本件拒
絶理由通知書で指摘された本件引用例に記載された発明について,多種多様
の数多くのモードの中から所望のものを選択する必要があるため,最終フォ
ーマットの作成が面倒であるという難点があることを主張した上で,本件発
明では,各種のデータの中から任意に選択した一つのパターンデータと一つ
のフォーマットデータとを組み合わせるだけで最終フォーマットを作成でき
る旨を述べたものであり,これは,各種のセットデータの中から,一つのセ
ットパターンデータと一つのセットフォーマットデータとを組み合わせるだ
けで最終フォーマットデータを作成できることを開示したものと認められ
る。」(原判決39頁14行目∼23行目)と判示したが,本件発明の出願
人が,本件意見書において,本件発明が,「パターンデータ」と「フォーマ
ットデータ」を「ただ一回の組合せだけ」で最終フォーマットを作成するも
のであるとの主張をした事実はなく,上記の判示は本件意見書に記載されて
いない「だけ」という文言を不当に補充して解釈するものである。
本件発明において,例えば,「頁の天の方向」を示すパターンデータの群
の中から組み合わせるデータを選択する場合,頁の天の方向を決定するため
には一つの方向を特定しなければならないから,必然的に一つのデータを選
択する。フォーマットデータの場合も同様であり,頁のサイズを決定しよう
とするときにA4版とB5版を同時に選択すればサイズを決定することはで
きないから,必然的に一つのデータを選択することになる。本件意見書の
「多頁面付けに必要なデータを,パターンデータ群(Pn)と,フォーマッ
トデータ群(Fn)に分類し,それぞれのデータ群の中から多頁面付けに
要求される両データのそれぞれ一つを選択し」との記載及び「本願発明のよ
うに,パターンデータ群の中から一つとフォーマットデータ群の中から一つ
を選択して組み合わせるようにしたもの」との記載は,このような当然の選
択操作を説明したものである。これらの記載において,本件発明が「ただ一
回の組合せだけ」で最終フォーマットを作成するものであるとはされていな
い。
本件拒絶理由通知書において,審査官は,本件引用例の「製版機において,
製本様式に応じた複数のモードを予め記憶しておき,その中のモードを選択
する点及び撮影倍率や寸法を考慮して面付けを行う点」を本件発明の先行技
術としたが,上記「モード」の一つ一つは,本件発明における「最終フォー
マット」に対応するものであり,本件引用例には,最終フォーマット自体を
作成する方法である本件発明を示唆する記載や本件発明で導入した基本概念
である,「パターンデータ」及び「フォーマットデータ」の分類概念が存在
しないし,本件引用例は,本件発明のように,最終フォーマットの作成や変
更をすべてコンピュータ上で行い,その場合に使用する各データを,あらか
じめコンピュータに記憶されているデータの中から選択して用いるものでは
ないから,本件発明と本件引用例に記載された発明とは,明らかに異なって
いる。
したがって,出願人としては,審査官の拒絶理由通知に対して,本件発明
の特許請求の範囲を減縮して対応しなければならない必要はなく,本件発明
の基本的な概念である,多頁面付けに必要なデータを「パターンデータ」と
「フォーマットデータ」に分類する点を明らかにし,本件発明と本件引用例
との違いを審査官が十分理解するために本件補正を行ったものであり,特許
請求の範囲の減縮を目的として補正をしたものではない。このことは,本件
意見書の「この認定(注,本件発明が本件引用例等に基づいて当業者が容易
に想到し得るものであるとした審査官の認定)は,本願発明の構成上の特徴
を看過したものと考えられ,本出願人は上記認定を承服することができませ
ん。本出願人は,本願発明の構成上の特徴をより明確にするために,別途手
続補正書によって本願特許請求の範囲を改めましたので,以下,改めた特許
請求の範囲の記載に沿って意見を述べます。」との記載からも明らかである。
そして,出願人は,本来,特許請求に係る発明について最大の権利範囲を
獲得する権利を有すること,錯誤の場合は別として,必要もないのに特許請
求の範囲を自ら減縮する補正をするはずがないことを考慮すれば,上記の解
釈が合理的であることは明らかである。
〔被控訴人の主張〕
()本件発明の構成要件Bにいう「パターンデータとフォーマットデータに分1
類し」の「パターンデータ」及び「フォーマットデータ」は,それ自体で具
体的なパターンやフォーマットを形成でき,それぞれ一つずつ組み合わせて
最終フォーマットを作成するに足りる,「セットパターンデータ」及び「セ
ットフォーマットデータ」を意味し,本件発明における「分類」は,上記の
ような「パターンデータ」と「フォーマットデータ」とが現実に分けられる
ことを必要とするものであって,このことは,本件発明の特許請求の範囲の
記載,本件明細書の記載,及び,本件発明の出願経過から明らかである。
控訴人は,本件発明における「パターンデータ」が「画像データ(情
報)」に当たる旨主張するが,本件明細書の記載に基づかない主張であるば
かりでなく,技術的にも誤りである。本件明細書には,「パターンデータ」
が「画像データ(情報)」であることを示す記載も示唆する記載も全くない。
かえって,本件明細書には,「パターンデータ」に関し,「面付け数」,
「ページデータ(各ページの番号)」,「天方向」,「背丁の数」等がある
ことが記載され,特許請求の範囲の請求項3として,パターンデータは,少
なくとも「頁の順番,頁の天の方向,背丁のデータ」である「請求項1記載
の多頁面付け方法」との構成が示されているところ,パターンデータとされ
るこれらの各データは,いずれも数字などの文字情報として表わされるもの
であって,画像情報ではない。本件発明においては,「頁の順番」等のパタ
ーンデータが数字で表わされているから,最終フォーマットを作成後,パタ
ーンデータが表わす数値(すなわち文字情報)に基づいて,「製版用カメラ
で1枚の感光材料に多数ページの原稿の像を頁面付けする場合」(本件明細
書の7欄30行目∼31行目)に,「撮影しようとする1画面ごとに上記各
ステッピングモータを駆動して撮影位置と撮影範囲を決めて撮影を繰返
(す)」(同欄47行目∼49行目)ことが可能になるものである。
そして,構成要件Bに係る特許請求の範囲の記載は,「多頁面付けパター
ンに必要な各種データをパターンデータとフォーマットデータに分類し」と
いうものであり,「違い」を認識するだけでも「分類」の要件に当たるとす
る控訴人の解釈は,「分類」という請求項の文言から技術的に乖離したもの
であって,構成要件Bに続く「パターンデータ群と・・・フォーマットデー
タ群を記憶」及び「各データを組み合わせて」という要件の前提となってい
ることにかんがみても,本件発明における「分類」は,現実に分けられ,別
々の群として記憶されるものである。本件明細書の実施例においては,本件
発明における「分類」の要件に相当する構成として,セットパターンとセッ
トフォーマットが別々に各1枚のデータディスクに保存されている構成が明
確に示されていて,「分類」が現実に分けられることを必要とするとの解釈
に,極めて整合した構成が示されている。
既成の最終フォーマットのみを用いる従来技術の場合には,新規作成しよ
うとする最終フォーマットに一部でも既成のものとは異なる最小パターン
(フォーマット)データが存在した場合には,既成の最終フォーマットを用
いることができず,様々な最終フォーマットに対応することが困難であった
のに対し,本件発明は,このような従来技術の課題を解決するものである。
そうすると,仮に,「分類」を,控訴人主張のとおり,単に,画像情報と文
字情報のいずれに属するかの違いを「認識」するだけで足りるものとすれば,
本件発明が解決しようとする上記課題との関係において,「分類」という要
件の有する意義が,全く不明のものとなり,「本発明によれば,任意のパタ
ーンと任意のフォーマットデータとを組み合わせて多種多様の多頁面付け最
終フォーマットを得ることができる」(本件明細書の8欄29行目∼31行
目)という本件発明の作用効果との関連も全く不明なものとなる。
控訴人は,本件発明でパターンデータとして認識すると,そのデータは画
像情報として分類され,画像データ(パターンデータ)としてコンピュータ
処理されるという作用効果が生じ,フォーマットデータとして認識すると,
そのデータが文字情報として分類され,文字データ(寸法データ)としてコ
ンピュータ処理されるという作用効果が生じる旨主張するが,そのような作
用効果は,本件明細書には何ら開示されていないし,そもそも発明の作用効
果といい得るか自体疑問なものであり,「コンピュータ処理」は,通常,
「コンピュータに記憶させる」処理を含むことを意味するから,控訴人は,
「分類し,記憶させる」手段を他の用語で述べているにすぎない。
本件発明の出願経過に照らしても,出願人は,本件意見書において,本件
引用例に記載された発明について,「本願発明のように,多頁面付けパター
ンに必要な各種データをパターンデータとフォーマットデータに分類すると
いう思想・・・・はありません。」として,コンピュータ(CPU)を用い
る本件引用例記載の発明においても,当然,控訴人が主張する意味での「分
類」が行われているにもかかわらず,本件引用例記載の発明においては,本
件発明における「分類」の構成が存在しないとしている。さらに,本件出願
日前に,多頁面付け作業が既にコンピュータ処理されていたことは,複数の
刊行物(乙7,15∼22)の記載からも明らかであるから,コンピュータ
上の分類が本件発明における「分類」の概念であるとすると,「分類」の要
件について本件発明と公知技術との間には何らの差異もないこととなる。
()控訴人は,本件発明の「パターンデータ」及び「フォーマットデータ」が,2
「最小パターンデータ」及び「最小フォーマットデータ」を含むものである
とした上で,単に,各最小データ群の中から一つずつを選択して組み合わせ
ていく方法が,本件発明の構成要件Dにいう「各データを組み合わせて最終
フォーマットを作成する」との要件に相当すると主張する。
しかし,本件発明の構成要件Dにいう「最終フォーマット」は,セットデ
ータである「パターンデータ」及び「フォーマットデータ」を組み合わせて
作成されるものであり,仮に,控訴人主張のように「最小データ」を含むと
解すると,「パターンデータ」と「フォーマットデータ」とに別々に記憶さ
せて「分類」する技術的な意味が失われ,構成要件Bに相当する部分が無意
味な記載となる。
また,他の請求項の記載との比較によっても,「パターンデータ」及び
「フォーマットデータ」の意義を控訴人主張のように解することは不可能で
ある。
すなわち,本件明細書の特許請求の範囲の請求項3には,「パターンデー
タは,少なくとも頁の順番,頁の天の方向,背丁のデータであり,フォーマ
ットデータは,少なくとも版の寸法,頁のサイズ,ドブの幅,くわえの幅の
データである」と記載されているところ,そこに摘示されていない「頁の露
光の順番」及び「くわえの方向のデータ」は,「最小パターンデータ」に当
たり,かつ,多頁面付け作業を行うために設定することが必要なデータであ
るから,「パターンデータ」が「最小パターンデータ」を含むものとして解
釈すると,請求項3記載の発明においては,「頁の露光の順番」及び「くわ
えの方向のデータ」等の,「最小パターンデータ」に該当するデータであっ
ても,「パターンデータ」に含まれなくてもよいことになり,請求項の記載
に矛盾が生じる。
さらに,本件明細書における発明の詳細な説明の記載も,本件発明の構成
要件Dに関し,控訴人の主張が成り立ち得ないことを裏付けるものである。
すなわち,本件明細書には,「版の寸法,頁サイズ,ドブの幅,くわえの
幅,その他各種の寸法で決まるフォーマットデータ」(4欄4行目∼5行
目)との記載が存在するところ,この記載は,「フォーマットデータ」が最
小データ,すなわち,「版の寸法」,「頁サイズ」,「ドブの幅」等のみで
決定されるものではなく,これら最小データが集まることによってはじめて
決定されることを示す。また,本件明細書の「パターンデータは,少なくと
も頁の順番,頁の天の方向,背丁のデータとし,フォーマットデータは,少
なくとも版の寸法,頁のサイズ,ドブの幅,くわえの幅のデータとする。ま
た,パターンデータは,少なくとも頁の順番,頁の天の方向,背丁,頁の露
光の順番,くわえの方向のデータとしてもよい。」(5欄34行目∼39行
目)との記載に照らせば,「パターンデータ」及び「フォーマットデータ」
について,「最小パターンデータ」及び「最小フォーマットデータ」を含む
ものと解釈すると,構成要件Dの記載は矛盾を生じる。
加えて,本件明細書において,「パターンデータ」と「フォーマットデー
タ」とが複数回「組み合わせ」られることにより,「最終フォーマット」が
作成されることを示す記載は何ら存在しない。本件明細書の実施例には,
「パターンデータ」の作成動作について,「面付け数」,「ページデータ」,
「天方向」,「背丁の数」,「背丁の位置」,「背丁の順位」,「背丁の天
方向」,「表裏の区別のあり,なし」,「1折りのページ数」及び「1版中
の折りの種類数」といったデータがすべて入力されて「パターン作成処理」
が行われ,データディスクにパターンデータの書き込みを行うことが記載さ
れ(6欄8行目∼31行目),さらに,本件出願の願書に添付され,平成元
年8月9日付け手続補正書(乙1添附)により補正された後の図面(以下
「本件図面」という。)の第1図においても,「パターン作成」として,上
記各最小データのデータディスクへの入力を経て「データディスクへパター
ン書き込み」を行う処理が示されており,「パターンデータ」が「セットパ
ターンデータ」を意味するとの解釈と整合する記載がされている。そして,
本件明細書の実施例には,セットパターンデータの入ったディスクと,セッ
トフォーマットデータの入ったディスクが,それぞれ1回ずつ読み込まれて,
最終フォーマットが作成される経過が記載され(6欄46行目∼7欄28行
目),本件図面の第3図においても,実施例と同様,セットパターンデータ
の入ったディスクと,セットフォーマットデータの入ったディスクが,それ
ぞれ1回ずつ読み込まれて,最終フォーマットが作成される経過が記載され
ている。
()控訴人は,本件意見書が,一つのセットパターンデータと一つのセットフ3
ォーマットデータとを組み合わせるだけで最終フォーマットデータを作成で
きることを開示したものとは認められない旨主張する。
しかし,本件意見書において,出願人は,「多頁面付けに必要なデータを,
パターンデータ群(Pn)と,フォーマットデータ群(Fn)に分類し,そ
れぞれのデータ群の中から多頁面付けに要求される両データのそれぞれ一つ
を選択し,これを組み合わせて(P1+F1),所望の最終フォーマット
(FF)を得ることを特徴としています。」と記載した上で,「引例1(注,
本件引用例)記載の発明によれば,多種多様の数多くのモードの中から所望
のものを選択する必要があるため,本願発明のように,パターンデータ群の
中から一つとフォーマットデータ群の中から一つを選択して組み合わせるよ
うにしたものに比べて,最終フォーマットの作成が面倒であるという難点が
あります。」と記載している。出願人の上記意見は,本件引用例に記載され
た発明は,多種多様のモードの中から目標とする多頁面付けに最適なモード
を検索し選択する必要があるのに対し,本件発明は,「パターンデータ」と
「フォーマットデータ」とを分類し,両者を組み合わせたことによって,検
索及び選択の手間が省けるようになったことを述べるものであり,このよう
な本件意見書の趣旨にかんがみれば,控訴人の主張が失当であることは明ら
かである。
()控訴人は,本件補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正には当た4
らない旨主張する。
しかし,補正前の特許請求の範囲が「1枚の版に複数頁分の原稿の像を形
成するための多頁面付け方法であって,多頁面付けパターンに必要な各種デ
ータを入力して各種の多頁面付けパターンを作成し,作成された各種多頁面
付けパターンの中から任意のパターンを選択し,これに各種寸法データ(フ
ォーマットデータ)を入力して最終フォーマットを作成することを特徴とす
る多頁面付け方法。」であったのに対して,本件補正により,特許請求の範
囲は,「1枚の版に複数頁分の原稿の像を形成するための多頁面付け方法で
あって,多頁面付けパターンに必要な各種データをパターンデータとフォー
マットデータに分類し,複数のパターンデータからなるパターンデータ群と
複数のフォーマットデータからなるフォーマットデータ群を記憶させておき,
各データ群の中から任意に選択した各データを組み合わせて最終フォーマッ
トを作成することを特徴とする多頁面付け方法。」となり,「分類」,「記
憶」及び「組み合わせ」の要件を付加したことによって,これらの構成を具
備しない多頁面付け方法は,本件発明の技術的範囲を外れることとなったも
のであり,本件補正が特許請求の範囲の減縮に当たることは,客観的に明ら
かである。
また,本件出願時には,既に,多頁面付け方法に関する技術として,既存
の最終フォーマットを利用する本件引用例記載の発明,及び,コンピュータ
上において最小データを一つずつ入力していく多頁面付け用ソフトウェアで
ある「」,「」(乙15∼22参照)が存在したところ,本ImpostripPostStrip
件補正によってこれらの公知技術の関係でも抵触が避けられ,本件発明の特
許性が揺るがないものとなった。
2被控訴人製品を用いた多頁面付け方法について
〔控訴人の主張〕
被控訴人製品であるファシリスは,1枚の版に複数頁の原稿の像を形成する
ためのレイアウトの作成を含む多頁面付け作業を支援するソフトウエアであり,
レイアウトの作成作業は,「1枚の版に複数頁の原稿の像を形成するための多
頁面付け方法であって,面付け数,背丁/背標,及び刷版サイズや仕上がりサ
イズのようなデータからなる,複数頁の原稿の像を形成するための,多頁面付
け方法」を実施することによってされ,より具体的には,「刷版サイズと仕上
がりサイズ,面付け数,折りの種類など,台の基本的な情報を設定してレイア
ウトを組み,トンボ,背丁/背標などを貼り込んだ状態で作成・保存する」も
のである。
したがって,ファシリスを使用して多頁面付けを行う作業は,「(A’)1
枚の版に複数頁の原稿の像を形成するための多頁面付け方法であって,
(B’)刷版サイズと仕上がりサイズ,面付け数,折りの種類など,台の基本
的な情報を用い,(D’)これらの情報を組み合わせてレイアウトを作成する
こと(E’)を特徴とする多頁面付け方法。」との技術的構成からなる。
そして,本件発明の構成要件Aとファシリスにおける技術的構成A’が同一
であることは自明である。
ファシリスの技術的構成B’の「刷版サイズと仕上がりサイズ」は寸法デー
タであるから,本件発明の「フォーマットデータ」に属し,「面付け数,折り
の種類」は「パターンデータ」に属する。そして,面付け数に応じた1枚の刷
版中に配列される頁の配列パターンや折りの種類に対応したパターンは,画像
データとしてコンピュータにあらかじめ登録して使用され,コードデータであ
るフォーマットデータは,ファシリスにおいて,フォーマットデータ群として
登録可能になっていて,登録することは,コンピューターに記憶させることで
ある。したがって,パターンデータとフォーマットデータとは,異なった種類
のデータであるから,ファシリスの技術的構成B’の,フォーマットデータで
ある「刷版サイズと仕上がりサイズ」,及び,パターンデータである「面付け
数,折りの種類」は,当然,パターンデータ群とフォーマットデータ群に分類
されていて,ファシリスの技術的構成B’は,本件発明の構成要件Bを充足し
ている。
上記のデータは,それぞれ登録して使用されることから,ファシリスにおい
ても,「複数のパターンデータからなるパターンデータ群と複数のフォーマッ
トデータからなるフォーマットデータ群を記憶」していて,ファシリスの技術
的構成B’は,本件発明の構成要件Cも充足している。
また,ファシリスの技術的構成D’の「これらの情報」は,「予め記憶され
たパターンデータ群及びフォーマットデータ群」として記憶された情報を意味
し,本件発明における「最終フォーマット」がファシリスにおける「レイアウ
ト」に対応することは明らかであるから,ファシリスの技術的構成D’と本件
発明の構成要件Dは同一である。
そして,本件発明の構成要件AないしDとファシリスの技術的構成A’,B’
及びD’は実質的に同一であるから,本件発明における構成要件Eとファシリ
スの技術的構成E’も同一である。
したがって,ファシリスを使用する多頁面付け方法は,本件発明の構成要件
のすべてを充足しているから,ファシリスが本件発明には含まれない台割機能
等を有するとしても,ファシリスを使用すれば本件発明をそっくりそのまま実
施することになり,ファシリスの「レイアウトの作成」が本件発明の技術的範
囲に属することは明らかである。
〔被控訴人の主張〕
本件発明の構成要件B及びCにおける「パターンデータとフォーマットデー
タに分類」し,「パターンデータ群と・・・フォーマットデータ群に記憶」と
いう要件は,「『パターンデータ』と『フォーマットデータ』とを,データデ
ィスクなどにそれぞれ別々に記憶させておく」ことを意味し,本件発明の構成
要件Dにおける「各データを組み合わせ」という要件は,「一つのセットパタ
ーンデータと一つのセットフォーマットデータとを組み合わせて最終フォーマ
ットを作成すること」を意味するものであるから,被控訴人製品を用いた多頁
面付け方法が,本件発明の構成要件BないしDをいずれも充足しないことは明
らかである。
控訴人は,被控訴人製品を用いた多頁面付け方法の構成として,「(A’)
1枚の版に複数頁の原稿の像を形成するための多頁面付け方法であって,
(B’)刷版サイズと仕上がりサイズ,面付け数,折りの種類など,台の基本
的な情報を用い,(D’)これらの情報を組み合わせてレイアウトを作成する
こと(E’)を特徴とする多頁面付け方法。」とするが,本件発明における
「分類」及び「記憶」等の構成要件に対応する構成については何らの主張がな
く,しかも,「組み合わせ」との要件についてみても,具体的に被控訴人製品
を用いた多頁面付け方法のどのような構成をもって,「組み合わせ」に対応す
る構成と主張するかも明らかではないから,控訴人の主張する被控訴人製品を
用いた多頁面付け方法では,そもそも本件発明との比較が不可能である。
第4当裁判所の判断
1本件発明の技術的範囲の解釈について
()前記第3において引用する原判決の「事実及び理由」欄の第2の1()の11
とおり,本件発明の特許請求の範囲には,「1枚の版に複数頁分の原稿の像
を形成するための多頁面付け方法であって,多頁面付けパターンに必要な各
種データをパターンデータとフォーマットデータに分類し,複数のパターン
データからなるパターンデータ群と複数のフォーマットデータからなるフォ
ーマットデータ群を記憶させておき,各データ群の中から任意に選択した各
データを組み合わせて最終フォーマットを作成することを特徴とする多頁面
付け方法。」との記載があり,同()のとおり,本件発明は,構成要件Aな2
いしEに分説される。
ところで,上記の構成要件B及びCにいう「パターンデータ」及び「フォ
ーマットデータ」の意義は,特許請求の範囲には定義はなく,その意義につ
いて当事者間に争いがあり,また,構成要件Dにいう「各データ群の中から
任意に選択した各データを組み合わせて最終フォーマットを作成」の意義に
ついても同様に争いがある。すなわち,控訴人は,本件補正の前後を通じ,
パターンに関する個々の設定項目についてのデータである「最小パターンデ
ータ」やフォーマットに関する個々の設定項目についてのデータである「最
小フォーマットデータ」も「パターンデータ」及び「フォーマットデータ」
に含まれ,「最終フォーマット」は,「最小パターンデータ」及び「最小フ
ォーマットデータ」の群の中から一つの最小データを選択し,選択された最
小データを組み合わせて作成される態様を含む旨主張するのに対し,被控訴
人は,本件発明の「パターンデータ」及び「フォーマットデータ」は,「最
小パターンデータ」及び「最小フォーマットデータ」を含むものでなく,そ
れ自体で具体的なパターンやフォーマットを形成でき,それぞれ一つずつ組
み合わせて最終フォーマットを作成するに足りる,「セットパターンデー
タ」及び「セットフォーマットデータ」であり,「最終フォーマット」は,
セットデータである「パターンデータ」及び「フォーマットデータ」を組み
合わせて作成される旨主張するので,検討する。
()本件明細書(甲3)の記載には,以下の記載がある。2
ア「【請求項2】パターンデータ群及び/又はフォーマットデータ群は変
更可能であることを特徴とする請求項1記載の多頁面付け方法。
【請求項3】パターンデータは,少なくとも頁の順番,頁の天の方向,
背丁のデータであり,フォーマットデータは,少なくとも版の寸法,頁の
サイズ,ドブの幅,くわえの幅のデータである請求項1記載の多頁面付け
方法。
【請求項4】パターンデータは,少なくとも頁の順番,頁の天の方向,
背丁,頁の露光の順番,くわえの方向のデータであり,フォーマットデー
タは,少なくとも版の寸法,頁のサイズ,ドブの幅,くわえの幅のデータ
である請求項1記載の多頁面付け方法。」(【特許請求の範囲】)
イ「パターンとは,頁の順番,頁の天の方向,背丁に関するデータ,頁露
光の順番,印刷機のくわえの方向等の頁面付けレイアウトを指定するもの
をいう。」(3欄19行目∼21行目)
ウ「各種の条件を考慮すると,片面8頁の頁面付けだけでも数100種の
パターンが考えられる。しかも,これは頁面付けパターンだけの種類であ
り,これに版の寸法,頁サイズ,ドブの幅,くわえの幅,その他各種の寸
法で決まるフォーマットデータを考慮すると,無数の種類がある。」(4
欄1行目∼6行目)
エ「ここで,パターンのデータとフォーマットデータからなる頁面付けに
必要な全データを『最終フォーマット』ということにする。」(5欄5行
目∼7行目)
オ「上記マイコンが上記各ステッピングモータを順次制御するためには,
多頁面付けのパターンとフォーマットデータが予め決められていなければ
ならない。そこでこれまでは,各種の最終フォーマットを用意しておき,
その中から一つを選択して使用していた。しかし,予め用意されていた最
終フォーマットはいわば既成のものであり,希望する最終フォーマットデ
ータの中に一部でも上記既成のデータと異なるデータがあるとその最終フ
ォーマットは適用することができない。しかも,前に説明したように,多
頁面付けパターン及びフォーマットデータには多種多様のものがあるし,
製版カメラのユーザー独自のパターン及びフォーマットデータがあること
を考えると,総ての最終フォーマットを網羅することは困難である。本発
明は,かかる従来技術の問題点を解消するためになされたもので,希望す
る任意の最終フォーマットを自由に作成することができるようにして,製
版用カメラ等に対応できる範囲をほとんど無限に拡大することができるよ
うにした多頁面付け方法を提供することを目的とする。」(5欄8行目∼
27行目)
カ「(課題を解決するための手段)本発明は多頁面付けに必要なデータを
パターンデータ群とフォーマットデータ群に分類し,それぞれのデータ群
の中から任意に選択して入力することにより最終フォーマットを作成する
ことを特徴とする。パターンデータ群及び/又はフォーマットデータ群は
変更可能としてもよい。パターンデータは,少なくとも頁の順番,頁の天
の方向,背丁のデータとし,フォーマットデータは,少なくとも版の寸法,
頁のサイズ,ドブの幅,くわえの幅のデータとする。また,パターンデー
タは,少なくとも頁の順番,頁の天の方向,背丁,頁の露光の順番,くわ
えの方向のデータとしてもよい。」(5欄28行目∼39行目)
キ「(作用)多頁面付けパターンはそれに必要な各種データの入力によっ
て作成されるため,所望のパターンを任意に作成することができる。また,
最終フォーマットは,作成された各種パターンの中に各種寸法データ(フ
ォーマットデータ)を入力することによって作成する。パターンとフォー
マットデータは任意に設定でき,これらの組み合わせも自由であるから,
希望する多頁面付け最終フォーマットに柔軟に対応することができる。」
(5欄40行目∼48行目)
ク「(実施例)以下,第1図ないし第4図を参照しながら本発明にかかる
多頁面付け方法の実施例について説明する。本発明は,多頁面付けパター
ンの作成部分と最終フォーマット作成部分に大別することができる。第1
図,第2図は多頁面付けパターンの作成の例を示し,第3図は最終フォー
マット作成の例を示す。」(5欄49行目∼6欄5行目)
ケ「これによってパターン作成に必要な一通りのデータの入力が終了する。
そこで次に,ディスクドライブ装置にデータディスクをセットし,パター
ン作成処理を行う。そして,作成したパターンに付する番号を入力し,デ
ータディスクにそのパターンデータを書き込む。書き込まれたパターンデ
ータは,あとで説明する最終フォーマット作成時に読み出される。」(6
欄26行目∼33行目)
コ「次に,第3図を参照しながら最終フォーマット作成について説明する。
最終フォーマット作成では,まずディスクドライブ装置にパターンデータ
の入ったディスクをセットし,パターンデータの読み込みを行う。次に,
過去のフォーマットデータを参照するかどうかを選択し,過去のフォーマ
ットデータを参照しない場合は,最終フォーマット作成に必要な全データ
を入力する。最終フォーマット作成に必要な全データ(フォーマットデー
タ)とは,感光材料の幅,感光材料の長さ,ページサイズ(縦横寸法)各
ドブの幅,くわえの幅,トンボと称する祈り(注,「折り」の誤記と認め
る。)の基準マークの撮影幅,背丁の撮影幅,その他必要な各種寸法デー
タである。一方,入力済みの過去のフォーマットデータを参照する場合は,
参照フォーマットデータの入ったディスクをディスクドライブ装置にセッ
トし,過去のデータを読み込む。読み込まれた過去のデータの中から参照
しようとするデータのデータ番号を入力して選択し,これに変更しようと
するデータを入力する。」(6欄45行目∼7欄12行目)
サ「データ入力をしなおす必要がない場合はディスクドライブ装置にデー
タディスクをセットしたあとデータ番号を入力し,さらに綴じの種類を入
力したあと最終フォーマット作成処理を行い,データディスクへ最終フォ
ーマットを書き込む。・・・こうして,データディスクに書き込まれたパ
ターンデータ群とフォーマットデータ群は,製版用カメラで1枚の感光材
料に多数ページの原稿の像を頁面付けする場合に利用される。」(7欄1
9∼32行目)
シ「上記実施例によれば,パターン作成において任意のパターンデータを
入力することにより任意の多頁面付けパターンを作成することができ,こ
れに任意の寸法データ(フォーマットデータ)を入力して任意の最終フォ
ーマットを作成することができるため,任意のパターンと任意のフォーマ
ットデータとを組み合わせて多種多様の多頁面付け最終フォーマットを作
成することができる。従って,製版カメラのユーザーによって独自のパタ
ーンとフォーマットデータがあったとしても,これに柔軟に対応すること
ができる。なお,多頁面付けパターンは,予め各種のパターンを用意して
おき,これに任意のフォーマットデータを入力して所望の最終フォーマッ
トを作成するようにしてもよい。この場合,パターンについてはいわゆる
既成のパターンということになるが,フォーマットデータは任意のものを
入力することができるため,これまで行われてきたように,既成の最終フ
ォーマットの中から選択する場合に比べて,対応(する)できる範囲を格
段に拡大することができる。」(8欄3行目∼21行目)
ス「(発明の効果)本発明によれば,任意のパターンと任意のフォーマッ
トデータとを組み合わせて多種多様の多頁面付け最終フォーマットを得る
ことができるため,製版カメラ等において対応できる範囲をほとんど無限
に拡大することができる。また,製版カメラ等のユーザーによって独自の
パターンとフォーマットデータがあったとしても,これに柔軟に対応する
ことができる。さらに,予め用意した各種のパターンデータ群の中から適
宜のパターンデータを選択し,これに任意のフォーマットデータを入力し
て所望の最終フォーマットを作成するようにした場合でも,フォーマット
データは任意のものを入力することができるため,既成の最終フォーマッ
トの中から選択する場合に比べて,対応できる範囲を格段に拡大すること
ができる。」(8欄28行目∼42行目)
()本件明細書の上記記載によれば,「最終フォーマット」とは,多頁面付け3
のために必要な全データのことであること,「最終フォーマット」は,パタ
ーンデータとフォーマットデータとからなること,「パターンデータ」は,
頁の順番,頁の天の方向,背丁に関するデータ,頁露光の順番,印刷機のく
わえの方向等の頁面付けレイアウトを指定するデータであること,「フォー
マットデータ」とは,版の寸法,頁サイズ,ドブの幅,くわえの幅,その他
の面付けのために必要な各種の寸法についてのデータであることが認められ
る。
また,本件発明の構成要件B及びCにいう「多頁面付けパターンに必要な
各種データをパターンデータとフォーマットデータに分類し,複数のパター
ンデータからなるパターンデータ群と複数のフォーマットデータからなるフ
ォーマットデータ群を記憶させておき」との記載から,本件発明が,多頁面
付けパターンに必要な各種データについて,「パターンデータ」と「フォー
マットデータ」に分類して記憶させるという構成を有し,また,構成要件D
にいう「各データ群の中から任意に選択した各データを組み合わせて最終フ
ォーマットを作成する」との記載から,分類し,記憶された「パターンデー
タ」と「フォーマットデータ」を組み合わせて,多頁面付けのために必要な
全データである最終フォーマットを作成するという構成を有することが認め
られる。
そして,上記()の本件明細書の記載によれば,従来は,多頁面付け方法2
において,各種の最終フォーマットを用意しておき,その中から一つを選択
して使用していたが,多種多様のデータがあるため,すべての最終フォーマ
ットを網羅することは困難であったところ,本件発明は,必要なデータをパ
ターンデータ群とフォーマットデータ群に分類し,それぞれのデータ群の中
から任意に選択して最終フォーマットを作成することを特徴とするものであ
るとされている。そうすると,本件発明は,多頁面付け方法に必要なデータ
について,「パターンデータ」と「フォーマットデータ」に分類して記憶し,
各データを組み合わせて「最終フォーマット」を作成するという構成に技術
的意義が認められるものである。
ここで,「最終フォーマット」を作成するのに,一つの「パターンデー
タ」と一つの「フォーマットデータ」を組み合わせるのではなく,「パター
ンデータ」同士又は「フォーマットデータ」同士を組み合わせる場合がある
とすると,最終フォーマット作成のためには,「パターンデータ」又は「フ
ォーマットデータ」として,同一の類型のものとして分類して記憶させたも
の同士で組み合せられる場合が生じることとなり,結局,「最終フォーマッ
ト」は,上記の「パターンデータ」及び「フォーマットデータ」の分類,記
憶と関係なく,データの性質を参酌してこれらを選択し,組み合わせること
により作成されることとなりかねない。これは,本件発明において,「パタ
ーンデータ」と「フォーマットデータ」に分類して記憶するとの構成を無意
味とし,多頁面付けに必要なデータについて,「パターンデータ」と「フォ
ーマットデータ」に分類して記憶させるという本件発明の技術的意義が失わ
れることとなるものである。
そうすると,「最終フォーマット」を作成するのに,「パターンデータ」
同士又は「フォーマットデータ」同士を組み合わせる場合が生じることとな
る解釈は不合理であるといわざるを得ないところ,本件発明の「パターンデ
ータ」及び「フォーマットデータ」が最小データを含むとすると,「最終フ
ォーマット」を作成するのに,「パターンデータ」同士又は「フォーマット
データ」同士を組み合わせる場合が生じることとなるのであるから,本件発
明の「パターンデータ」は「最小パターンデータ」を含まず,また,「フォ
ーマットデータ」は「最小フォーマットデータ」を含まないものと認めるの
が相当である。したがって,本件発明においては,その技術的意義からも,
一つの「パターンデータ」と一つの「フォーマットデータ」を組み合わせる
ことにより,「最終フォーマット」が作成されるものと解釈されるのであっ
て,「パターンデータ」は「セットパターンデータ」をいい,「フォーマッ
トデータ」は「セットフォーマットデータ」をいうものと認められる。すな
わち,本件発明は,多頁面付けパターンに必要な各種データについて,「セ
ットパターンデータ」又は「セットフォーマットデータ」として,分類して
これを記憶させ,「パターンデータ」のデータ群のうちの一つの「セットパ
ターンデータ」と「フォーマットデータ」のデータ群のうちの一つの「セッ
トフォーマットデータ」を組み合わせることで「最終フォーマット」を作成
することを技術的思想とするものである。
()本件発明の技術的意義を上記()のとおりに解釈することは,本件発明の43
出願経過及び本件補正と同日付けで本件発明の共同出願人の一人である被控
訴人名義で提出された本件意見書の記載からも裏付けられる。
すなわち,本件発明は,平成元年7月13日に特許出願され,同年8月9
日付けで,本件出願の願書に最初に添付された明細書(以下「当初明細書」
という。)及び図面について,誤記の訂正のために,若干の補正がされ,そ
の後,平成3年2月27日に出願公開(乙1)がされたが,平成7年3月3
日付けで,審査官から,本件出願について,特許法29条2項により特許を
受けることができないことを理由とした拒絶理由通知が発せられた(乙2)。
そこで,出願人は,同年5月17日付けで,平成元年8月9日付けの上記補
正により補正された後の明細書の特許請求の範囲のすべてと発明の詳細な説
明の一部を補正する旨の本件補正(乙3)をし,併せて,審査官に対し,同
日付けの本件意見書(乙4)を提出した。
当初明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は,「1枚の版に複数頁分
の原稿の像を形成するための多頁面付け方法であって,多頁面付けパターン
に必要な各種データを入力して各種の多頁面付けパターンを作成し,作成さ
れた各種多頁面付けパターンの中から任意のパターンを選択し,これに各種
寸法データ(フォーマットデータ)を入力して最終フォーマットを作成する
ことを特徴とする多頁面付け方法。」であり,請求項2の記載は,「1枚の
版に複数頁分の原稿の像を形成するための多頁面付け方法であって,予め用
意されている各種の多頁面付けパターンの中から任意のパターンを選択し,
これに各種寸法データ(フォーマットデータ)を入力して最終フォーマット
を作成することを特徴とする多頁面付け方法。」であった(以下,同請求項
1に記載された発明を「補正前発明1」,同請求項2に記載された発明を
「補正前発明2」という。)。
そして,本件拒絶理由通知書(乙2)には,本件出願に係る発明の進歩性
が否定される理由として,本件引用例が先行文献の一つとして引用され,本
件引用例について,審査官から,「製版機において,製本様式に応じた複数
のモードを予め記憶しておき,その中のモードを選択する点及び撮影倍率や
寸法を考慮して面付けを行う点」が記載されているとの指摘がされた。
これに対し,本件意見書(乙4)には,本件補正後の発明である本件発明
について,「本願請求項1記載の発明(注,本件発明)は,別途手続補正書
で改めた特許請求の範囲に記載されているとおり,a.1枚の版に複数頁分
の原稿の像を形成するための多頁面付け方法であること,b.多頁面付けパ
ターンに必要な各種データをパターンデータとフォーマットデータに分類し,
複数のパターンデータからなるパターンデータ群と複数のフォーマットデー
タからなるフォーマットデータ群を記憶させること,c.各データ群の中か
ら任意に選択した各データを組み合わせて最終フォーマットを作成すること,
を構成上の特徴としています。これを具体的に説明すると,多頁面付けに必
要なデータを,パターンデータ群(Pn)と,フォーマットデータ群(F
n)に分類し,それぞれのデータ群の中から多頁面付けに要求される両デー
タのそれぞれ一つを選択し,これを組み合わせて(P1+F1),所望の最
終フォーマット(FF)を得ることを特徴としています。」(2頁4行目∼
15行目),「これに対して引例1(注,本件引用例)記載の発明は,引例
1の第5欄第31行ないし第36行に『制御部CのCPU55には,用紙の
寸法,印刷機の形式と大きさ,製本の様式等各種の要求に対応した,用紙に
刷り合わせる原稿の数とその配置に関する多種のモードが予め記録され,操
作盤54の選択ボタンにより,上記モードを自由に選択することができるよ
うになっている。』とあるとおり,本願発明でいうところのパターンに関す
るデータとフォーマットに関するデータとが分類されることなく混然と記録
された多種多様のモードの中から一つを選択するものであって,本願発明の
ように,多頁面付けパターンに必要な各種データをパターンデータとフォー
マットデータに分類するという思想や,複数のパターンデータからなるパタ
ーンデータ群と複数のフォーマットデータからなるフォーマットデータ群を
記憶させるという思想や,各データ群の中から任意に選択した各データを組
み合わせて最終フォーマットを作成するという思想はありません。従って,
引例1記載の発明によれば,多種多様の数多くのモードの中から所望のもの
を選択する必要があるため,本願発明のように,パターンデータ群の中から
一つとフォーマットデータ群の中から一つを選択して組み合わせるようにし
たものに比べて,最終フォーマットの作成が面倒であるという難点がありま
す。」(2頁16行目∼3頁3行目)との記載がある。
上記の特許請求の範囲の記載によれば,補正前発明1及び補正前発明2は,
「パターンデータ」と「フォーマットデータ」を分類して記憶させるという
構成を規定していなかったところ,本件補正により,「パターンデータ」と
「フォーマットデータ」を分類して記憶させるという構成が規定された。
そして,本件拒絶理由通知書においては,本件引用例に製本様式における
複数のモードを記憶させること等が記載されていると指摘されたところ,出
願人は,本件引用例に記載された発明においては,本件発明における,各種
データを「パターンデータ」と「フォーマットデータ」に分類して記憶させ
るという思想がないことを指摘し,本件引用例に記載された発明は,数多く
のモードの中から所望のものを選択する必要があるため,最終フォーマット
の作成が面倒であるのに対し,本件発明は,「パターンデータ」と「フォー
マットデータ」に分類して記憶させたため,最終フォーマットが一つの「パ
ターンデータ」と一つの「フォーマットデータ」を選択して組み合わせるも
のであり,最終フォーマットの作成が容易であると述べている。
このように,出願人は,本件発明は,本件補正により規定された,「パタ
ーンデータ」と「フォーマットデータ」を分類して記憶し,それらを組み合
わせて「最終フォーマット」が作成されるという点に技術的意義があること,
また,分類して記憶させることによって,各一つの「パターンデータ」と
「フォーマットデータ」を組み合わせることで,多様な「最終フォーマッ
ト」を容易に作成できることを記載している。そして,「最終フォーマッ
ト」作成のために,「パターンデータ」同士又は「フォーマットデータ」同
士を組み合わせる場合もあることは,分類して記憶させたにもかかわらず,
分類,記憶と関係なく,データの性質を参酌してこれらを選択し,組み合わ
せる必要が生じ,分類して記憶させたという本件発明の技術的意義を失わせ
ることになり,また,本件意見書における「パターンデータ群(Pn)と,
フォーマットデータ群(Fn)に分類し,それぞれのデータ群の中から多頁
面付けに要求される両データのそれぞれ一つを選択し」,「本願発明(注,
本件発明)のように,パターンデータ群の中から一つとフォーマットデータ
群の中から一つを選択して組み合わせるようにした」との記載にも反するこ
ととなるから,前記()のとおり,本件発明における「パターンデータ」及3
び「フォーマットデータ」は,一つの「パターンデータ」及び一つの「フォ
ーマットデータ」を組み合わせることにより「最終フォーマット」を作成で
きる「セットパターンデータ」及び「セットフォーマットデータ」のことで
あることが裏付けられる。
()これに対し,控訴人は,本件発明の「パターンデータ」は画像データであ5
り,「フォーマットデータ」は文字データであって,本件発明の「分類」は,
画像データである「パターンデータ」と文字データである「フォーマットデ
ータ」の両方を含んでいる「多頁面付けに必要なデータ」を,それを構成し
ている最小パターンデータと最小フォーマットデータとして,その違いを認
識することであるとし,また,「パターンデータ」として認識すると,その
データが画像情報として分類され,画像データとしてコンピュータ処理され
るという作用効果を生じ,「フォーマットデータ」として認識すると,その
データが文字情報として分類され,文字データ(寸法データ)としてコンピ
ュータ処理されるという作用効果を生じる旨主張する。
しかし,本件明細書には,「パターンデータ」が,控訴人主張のように画
像データであるとの記載はないし,それを示唆する記載もなく,「フォーマ
ットデータ」が「パターンデータ」との対比において文字データをいうとす
る記載もなく,また,「分類」について,控訴人主張のような意義を有する
ことの記載もなく,それを示唆する記載もない。控訴人は,「パターン」は,
画像の概念に関する図柄,模様,型などを意味する語として認知されていて,
パターン情報がコンピュータ上の画像情報に属することは周知であり,「パ
ターンデータ」がパターン情報をコンピューター処理可能なデータとしたも
のであり,画像データに属することは明らかである旨主張するが,「パター
ン」が控訴人主張のような意味を有する語であったとしても,「パターンデ
ータ」が「パターン」に関する情報ということを超えて,当然に画像情報を
意味するものであることを認めるには足りない。そして,本件発明における
「分類」の技術的意義は,前記()及び()のとおりと認められるのであり,34
控訴人主張のように,画像データが画像データとしてコンピュータで認識さ
れて,処理され,文字データが文字データとしてコンピュータで認識されて,
処理されることが,本件発明における「分類」であるということはできない。
また,控訴人は,「『パターンデータ』と『フォーマットデータ』とを,
データディスクなどにそれぞれ別々に記憶させること」は,本件発明におけ
る「データの分類」とは無関係であり,一般的には,「データの格納」とい
う概念に属するにすぎないものである旨主張する。
しかし,「多頁面付けパターンに必要な各種データをパターンデータとフ
ォーマットデータに分類し,複数のパターンデータからなるパターンデータ
群と複数のフォーマットデータからなるフォーマットデータ群を記憶させて
おき,各データ群の中から任意に選択した各データを組み合わせて最終フォ
ーマットを作成することを特徴とする多頁面付け方法。」との本件発明の特
許請求の範囲の記載からも,「複数のパターンデータからなるパターンデー
タ群と複数のフォーマットデータからなるフォーマットデータ群を記憶させ
ておき,」(構成要件C)との構成は,最終面付けに必要なデータ(最終フ
ォーマット)を「パターンデータ」と「フォーマットデータ」に「分類」す
ることを前提として,それを記憶させるものであり,「記憶」自体は「デー
タの格納」という概念に属するとしても,その記憶は,「パターンデータ」
と「フォーマットデータ」との分類を前提としてされるものであり,また,
その分類の意義は前記()及び()のとおりであって,控訴人の主張は,上記34
説示を左右するものではない。
()控訴人は,本件発明において,例えば,「頁の天の方向」を示すパターン6
データの群の中から組み合わせるデータを選択する場合,頁の天の方向を決
定するためには一つの方向を特定しなければならないから,必然的に一つを
選択するのであり,フォーマットデータの場合も同様であって,本件意見書
中の「パターンデータ群(Pn)と,フォーマットデータ群(Fn)に分類
し,それぞれのデータ群の中から多頁面付けに要求される両データのそれぞ
れ一つを選択し」との文言,及び「本願発明のように,パターンデータ群の
中から一つとフォーマットデータ群の中から一つを選択して組合わせるよう
にしたもの」との文言は,上記当然の選択操作を説明したものにすぎないと
して,本件意見書において,本件発明が,「パターンデータ」と「フォーマ
ットデータ」を「ただ一回の組合せだけ」で最終フォーマットを作成するこ
とが本件発明であるとの主張をした事実はない旨主張する。
しかし,本件意見書の上記記載は,その文言に照らしても,「パターンデ
ータ」の一つと「フォーマットデータ」の一つを組み合わせて「最終フォー
マット」を作成するものであると自然に理解できるものであり,控訴人が主
張するような,「頁の天の方向」等の個々のデータについて,一つを選択す
るものであると当然に理解できるものではないし,控訴人主張のような解釈
は,「最終フォーマット」作成に当たり,結局,「頁の天の方向」等の個々
のデータの性質を参酌して,これらを選択し,組み合わせることになるもの
であって,本件発明が,分類して記憶させるところに技術的意義があるにも
かかわらず,分類して記憶させたことと関係なく,「最終フォーマット」作
成に当たっては,データの性質を参酌しながら,個々のデータの選択をしな
ければならなくなるものであって,本件発明の「分類」の技術的意義を失わ
せるものであることは,前示のとおりである。
控訴人は,また,本件発明と本件引用例に記載された発明とは明らかに異
なっているとして,出願人は,本件拒絶理由通知に対して本件発明の特許請
求の範囲を減縮して対応しなければならない必要はなく,本件補正は,特許
請求の範囲の減縮を目的としたものではなく,本件発明の基本的な概念であ
る,多頁面付けに必要なデータを「パターンデータ」と「フォーマットデー
タ」に分類する点を明らかにし,本件発明と本件引用例との違いを審査官が
十分理解するためにしたものであって,本件補正の前後を通じ,本件発明の
「パターンデータ」は,「最小パターンデータ」であり,「フォーマットデ
ータ」は,「最小フォーマットデータ」である旨主張する。
しかし,本件引用例の記載内容については控訴人主張の事実が認められる
としても,本件発明の特許請求の範囲の記載,本件明細書の記載に本件意見
書の記載を併せ考慮すれば,本件補正により規定された「分類」の技術的意
義,並びに,本件発明の「パターンデータ」及び「フォーマットデータ」の
意義は,前記()及び()のとおりであると認められるのであり,控訴人の主34
張は,採用の限りではない。
2被控訴人製品を用いた多頁面付け方法について
()証拠(甲5,乙11の1∼4)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人製品1
のうちの「」を利用した多頁面付けは,同製品をパソFACILISIMVer.3.5J
コンにインストールした上で,パソコンの操作により行われるが,その詳細
は次のとおりであることが認められる。
ア新規にレイアウトを作成する方法
刷版サイズ,仕上がりサイズ,面付け数,用紙の返し方向,マージン,
くわえ量,ドブ幅,綴じる位置,裁落とし幅,ページの番号と向き,トン
ボ,背丁,背標等の各データを入力し(なお,以上のデータの項目の中に
は,例えば,仕上がりサイズの項目では,A5版やA4版等のデータがあ
らかじめ登録されているように,その項目を構成する個々のデータ(最小
データ)があらかじめ登録されており,ユーザーはその個々のデータの中
から任意のものを選択して設定することができるようになっているものも
ある。),レイアウトを作成する。作成したレイアウトのデータは,ファ
イルに保存することができるが,レイアウト作成前のセットデータに当た
るデータを保存することはできない。
イ既存のレイアウトを利用して新たなレイアウトを作成する方法
保存していたレイアウトのデータの中から任意のものを選択して読み出
し,個々の設定項目についてのデータを変更して新たなレイアウトを作成
する。
()「」に基づく多頁面付け方法は,前記()のとおり2FACILISIMVer.3.5J1
であり,同多頁面付け方法において,「セットパターンデータ」又は「セッ
トフォーマットデータ」として分類し,記憶するという作業は行われず,し
たがって,記憶させておいた「セットパターンデータ」と「セットフォーマ
ットデータ」を組み合わせるという作業も行われない。
本件発明においては,前記1のとおり,「パターンデータ」とは「セット
パターンデータ」を,「フォーマットデータ」とは「セットフォーマット」
をいい,本件発明は,多頁面付けパターンに必要な各種データについて,
「セットパターンデータ」又は「セットフォーマットデータ」として,分類
して(構成要件B),複数のセットパターンデータからなるパターンデータ
群と複数のセットフォーマットデータからなるフォーマット群を記憶させ
(構成要件C),「パターンデータ」のデータ群うちの一つの「セットパタ
ーンデータ」と「フォーマットデータ」のデータ群のうちの一つの「セット
フォーマットデータ」を組み合わせることで「最終フォーマット」を作成す
るもの(構成要件D)であるのに対し,「」に基づくFACILISIMVer.3.5J
多頁面付け方法は,前記のとおり,多頁面付けの各種データについて,「セ
ットセットパターンデータ」又は「セットフォーマットデータ」として分類
した上で,それぞれを記憶することをせず,したがって,記憶させておいた
「セットパターンデータ」と「セットフォーマットデータ」を組み合わせる
という作業も行われないから,上記多頁面付け方法は,本件発明の構成要件
BないしDを充足しない。
そして,被控訴人製品には,いくつかのバージョンがあるが,いずれのバ
ージョンも,その多頁面付け方法が,本件発明との対比の関係では同一であ
ることは,当事者間に争いがないから,すべての被控訴人製品に基づく多頁
面付け方法は,本件発明の構成要件BないしDを充足しない。
3以上によれば,被控訴人製品に基づく多頁面付け方法は本件発明の技術範囲
に属しないものであるから,控訴人の請求は,その余の点について判断するま
でもなく,いずれも理由がなく,これらを棄却した原判決は相当であって,控
訴人の控訴は理由がない。
よって,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官篠原勝美
裁判官宍戸充
裁判官柴田義明

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