弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件特別抗告を棄却する。
         理    由
 抗告人松井佐の特別抗告理由について。
 所論のごとく弁護人が「訴訟の途中に於て本件公訴の提起が合憲性を有するや否
やに付重大なる疑問を生じた」からといつて公訴棄却の申立をしても裁判所が事案
を審理するに当り、これに関する弁護人の申立を却下するに際し、公訴提起の憲法
適否につき理由を示さなければならぬことは、憲法上も訴訟法上も要請されてはな
いのである。それ故、論旨を採ることはできない。
 よつて刑訴四三四条、四二六条一項後段に従い主文のとおり決定する。
 以上は裁判官斎藤悠輔、同沢田竹治郎を除く、その他の裁判官全員の一致した意
見である。
 右斎藤、沢田両裁判官の意見は次のとおりである。
 本件特別抗告について主張するところは次のとおりである。
 すなわち、被告人Aの本件犯行は脅迫に因るものでその自由意思に基くものでな
いから、期待可能性なく、被告人B及び同Cは密輸入品たる情を知らなかつたもの
である。従つてこれを起訴した本件公訴は起訴権を濫用したもので憲法一一条、一
二条、一四条、三四条に違反する疑がある。しかるに佐賀地方裁判所伊万里支部は
昭和二四年九月二日何等理由を示さずして抗告人の公訴棄却の判決を求める申立を
却下し、その儘事実審理に入る旨の訴訟指揮の裁判をしたのは有罪の予断を抱き居
るものであるから、刑訴三〇九条二項に則り異議の申立をしたところ、これを却下
する旨の決定をした。よつて憲法違反と認め刑訴四三三条に則り該異議申立却下決
定を取り消し、同裁判所は本件公訴が憲法上有効なりゃ否やを判断において示すべ
きことを求めるというのである。
 記録を調査すると、所論公訴棄却の申立に対し、検察官は、弁護人主張の犯意に
関する事実は本件の審理をまつて初めて判るものでその理由がない旨意見を述べ、
原審は抗告人の申立はその理由なきものと認め却下する旨決定を言い渡したもので、
所論のように何等理由を示さないで却下したものでないこと明らかである。そして、
抗告人主張の理由だけでは本件公訴権を濫用したといえないばかりでなく、毫も所
論憲法の条規に反するものとはいえない。しかるに、記録で明らかなように、抗告
人は右却下決定が言い渡され未だ事実審理に入る旨の宣言もないにかかわらず即時
却下決定に対し予め作成して来た「本件が起訴権を濫用したりと申立てたるに之を
却下し判事はその儘何等却下の理由を解明せずして事実審理に入る旨の訴訟指揮の
裁判をなしたるは洵に有罪の予断を抱き居るものにし茲に刑訴三〇九条二項に則り
異議申立てる次第なり」と全く事実に副わない記載をした異議申立書に基き異議を
申し立てたものであるから、訴訟指揮の裁判もないのに異議申立権を濫用したもの
であること明白であつて、原審がこれを理由なきものと認め却下したのは当然であ
る。そして本件特別抗告の実質的内容は、その主張自体で明らかなように公訴棄却
の申し立を却下する決定に対する抗告であるのか又は異議申立却下決定に対する抗
告であるのか明らかでないばかりでなく、その理由とするところは、単に憲法違反
なりと主張するだけで特に特別抗告を許す刑訴四三三条に規定する同四〇五条所定
の事由に該当する具体的な理由は何等示していない。それ故本件抗告は採用するこ
とができない。
  昭和二五年三月二七日
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    井   上       登
            裁判官    真   野       毅
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    島           保
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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