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裁判例


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主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用及び参加費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴人
()原判決を取り消す。1
()鎌倉市長が平成18年4月27日付け鎌倉市指令開指第○−○号で行っ2
た開発行為許可処分について,神奈川県開発審査会が平成19年1月4日
付け神開審第○号で行った裁決を取り消す。
()訴訟費用は,1,2審とも被控訴人の負担とする。3
2被控訴人
主文同旨
第2事案の概要等
1鎌倉市長は,控訴人に対して,鎌倉市α×番1ほか3筆の土地における共
同住宅を予定建築物とする都市計画法29条1項に基づく開発行為の許可処
分(以下「」という)を行った。被控訴人参加人らが,同第一次許可処分。
許可処分の取消しを求めて神奈川県開発審査会に対し審査請求を行ったとこ
ろ,神奈川県開発審査会は,予定建築物の敷地には接道要件(都市計画法3
3条1項2号)を満たさない違法があるとして,同許可処分を取り消す旨の
裁決(以下「」という。)をした。前裁決
そこで,控訴人は,接道要件の不備を補正し,鎌倉市長は,再度開発許可
処分(以下「」という)をした。これに対し,被控訴人本件開発許可処分。
参加人らが再度神奈川県開発審査会に対し審査請求を行ったところ,神奈川
県開発審査会は,実体上の違法を理由として処分が取り消された場合,違法
理由の補正により改めて処分をすることはできず,新たな申請が必要であっ
(「」たとして本件開発許可処分を取り消す旨の裁決をした以下本件取消裁決
という。。)
本件は,本件取消裁決に不服申立適格や裁決の拘束力等についての判断を
誤った違法があるとして,控訴人が同裁決の取消しを求めた事案である。
なお,被控訴人参加人らは,原審において,主位的に行政事件訴訟法22
条1項に基づく訴訟参加を申し立て,予備的に民訴法42条に基づく補助参
加の申出をし(横浜地方裁判所平成▲年(行ク)第▲号第三者の訴訟参加
の申立て事件,主位的申立が認められた。)
原審は,控訴人の請求を棄却するとの判決をした。
そこで,これを不服とする控訴人は,上記裁判を求めて控訴した。なお,
控訴人補助参加人鎌倉市は,当審において,補助参加を取り下げた。
2本件の「基礎となる事実「争点」及び「争点に関する当事者の主張」」,
は,次項において当審における控訴人の主張を付加するほか,原判決の「事
実及び理由」の「第2事案の概要」の「2基礎となる事実」及び「3
」「」(,争点並びに第3争点に関する当事者の主張に記載のとおりただし
「原告補助参加人」に関する部分を除く)であるから,これを引用する。。
3当審における控訴人の主張
()不服申立適格について1
本件開発行為は,当該開発行為による崖崩れ防止等の安全設計を定
めた都市計画法33条1項7号の基準(地盤の沈下,崖崩れ,出水「
その他による災害を防止するため,開発区域内の土地について,地盤
の改良,擁壁又は排水施設の設置その他安全上必要な措置が講ぜられ
るように設計が定められていること。この場合において開発区域内の
土地の全部又は一部が宅地造成等規制法第三条第一項の宅地造成工
事規制区域内の土地であるときは,当該土地における開発行為に関
する工事の計画が,同法第九条の規定に適合していること)を充。」
足しているとした第一次許可処分の判断につき,前裁決は「開発区域,
内の地盤の安全性,雨水排水の状況並びに擁壁や芝貼り等によるがけ面の
保護及び計画地内の表土保護のための植栽設置等の計画が妥当であると認
めて,法第33条第1項第7号の基準を満たしているとした処分庁の判断
。」(,),に違法又は不当な点は認められない甲617頁との判断を示し
その判断は確定している。かように,前裁決により,本件開発行為を進
めていったとしても,本件開発区域に崖崩れが生ずるおそれはないと判断
されている。
すなわち,神奈川県開発審査会は,原判決別紙審査請求人目録記載の2
審査請求人らが,開発行為を行った場合に,崖崩れ等により生命,身体
等に直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者で
あったとしても,本件開発行為(第一次許可処分と本件許可処分とにお
ける開発区域の実質的相違は接道部分のみである)は,都市計画法33。
条1項7号の基準を満たしているという処分庁の判断に違法・不当な点
はないとしているのであるから,本件取消裁決においては,不服申立適
格が認められるための要件を充足しなかったと判断すべきであるにもか
かわらず,原判決別紙審査請求人目録記載の審査請求人らに不服申立適2
格を認めた本件取消裁決は違法であり,この点を看過した原判決も,ま
た違法である。
原判決は,審査請求人らの不服申立適格の判断にあたり予定建築物
等の存在を考慮していないが(原判決38頁,当該開発行為の安全)
設計を定めた都市計画法33条1項7号に基づき不服申立適格を判
断するのであるから,当該開発行為の内容たる予定建築物等の存在
を判断要素とすべきは当然である。
また,原判決は,不服申立適格の判断において地盤の安全性を考慮
していないが(原判決38頁,地盤の状況は崖崩れのおそれがあるか)
を判断するのに根本的な要素である。また,神奈川県開発審査会は,本
件開発区域の地盤が安全であることを理解していたのであるから(甲6,
17頁以下,ことさら地盤の安全性を考慮しないとする理由はない。)
以上のとおり,原判決は,不服申立適格の判断基準も誤っており,
誤った判断基準に基づいてなされた審査請求人らの不服申立適格の判
断も誤りである。
()不服申立の利益について2
ア前裁決の判断との関係
,,本件において審査請求人らが審査請求を行う法的利益としては
本件開発行為により崖崩れが生じ審査請求人らの生命・身体の安全
等が害されるおそれを排除することに尽きる。
ところが,審査請求人らは,前裁決において本件開発行為を行う
,ことで崖崩れは生じないとの判断がなされていることを知りながら
崖崩れが生じるおそれがあるとして審査請求を行っている。しか
も,甲3,2(2)以下の主張構成等からすれば,都市計画法33
条1項7号が,不服申立適格を基礎づけるためだけに主張されたこ
とは明らかである。
かかる行為が審査請求人らの権利保護の実益を欠くものであり,
。,,紛争の蒸し返しにあたることは明らかである特に審査請求人A
B及びCは,前裁決時の当事者として,他の審査請求人らよりも前
裁決の内容等を知っていたのであるから,なおさらである。
イ前裁決の基礎となった事情の変更について
甲1と甲4を比較すれば明らかなように,控訴人が行った申請の
,。補正により本件開発行為の工事内容に実質的変更は生じていない
つまり,審査請求人らの権利救済の観点からは,前裁決時と再度の
。,,審査請求時において全く事情の変化はないしたがって原判決が
この補正の事実のみを捉え,審査請求人らの審査請求は紛争の蒸し
返しに当たらないと判断した点は誤りである。
ウ工事協定(甲10)について
原判決は,審査請求人らの不服申立の利益の判断にあたり,工事
協定書の存在を考慮していない(原判決41頁以下。)
ところで,上記工事協定は,控訴人が本件開発区域の周辺住民
,らとの工事協定なく本件開発工事に着工することはできないと考え
周辺住民らに工事協定の締結を行いたい旨申し入れ,締結に至った
ものである。
当然,控訴人らは,審査請求人らを含むβ町内会γ組(甲12)
に対しても,工事協定締結に至る上記理由を説明している。すなわ
ち,審査請求人らは,控訴人らの本件開発行為に反対したいのであ
れば,端的に工事協定締結に反対すればよいことを認識していたの
。,,,であるそして審査請求人らは工事協定締結に立ち会いながら
,。,工事協定につき特段反対の意向を述べることもなかったまた
工事協定書には審査請求の取下げ等についての記載がなされていな
いが,これは,控訴人らが,この工事協定締結により,以後審査請
求人らを含む本件開発区域付近の住民から本件開発工事を反対され
ることはないものと考え,工事協定書にそうした記載をなすことま
で深く考慮していなかったからに過ぎない。
工事協定締結までの上記経緯に鑑みれば,審査請求人らが,工事
協定締結時点において,本件開発行為を是認していたことは明らか
である。
エ以上からすれば,審査請求人らには不服申立の利益がないものと
考えざるを得ず,この点に関する原判決の判断には誤りがあるとい
う他ない。
()本件取消裁決の審査事項について3
,,原判決は行政不服審査では職権探知主義が認められるものと解し
本件取消裁決が審査請求人らの不服申立適格を認めた根拠条文である
都市計画法33条1項7号以外の事項に関しても不服申立にかかる本
件許可処分の法適合性を審査したことは違法ではないと判断している
(原判決42頁以下。)
かかる原判決の見解に従えば,判例上明確に原告適格(不服申立適
格)の根拠とはならないとされている同項1号,同項2号,同項14号
(最判平成9年1月28日,横浜地判平成11年10月4日,同平成12
年1月26日等参照)についても,都市計画法33条1項7号を突破口と
して,裏口から原告適格(不服申立適格)を認めることとなる。さらに言
えば,崖崩れのおそれが多い土地に居住する者は,都市計画法33条1項
7号を盾として,自らの権利保護と全く関係ない事項につき,無制限に不
服申立を行うことができることとなる。
しかしながら,かかる帰結が不合理であるのは明らかであろう。
そもそも,行政不服審査が,一次的には私人の権利救済を制度趣旨と
する法律であることからすれば(行政不服審査法1条1項,塩野宏「行
政法Ⅱ第4版」12頁以下,田中二郎「新版行政法上巻全訂第2
版」231頁以下,行政不服審査法は,行政処分により自己の権利若し)
くは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれの
ある者の権利救済に必要な範囲内で補充的に職権探知ができることを定
めていると解するべきである。
少なくとも,本件の審査請求人らは本件許可処分の直接の名宛人でも
ない第三者なのであるから,かかる者が審査請求を行った場合にまで,
権利救済に必要な範囲を超えて職権探知をできるものと解するのは,行
政不服審査本来の制度趣旨が逆転する結果を生じることとなり,首肯で
きない。
本件において,審査請求人らが審査請求を行う法的利益としては,
本件開発行為により崖崩れが生じ審査請求人らの生命・身体の安全等
が害されるおそれを排除することに尽きる。
そうであるとすれば,本件取消裁決においては,都市計画法33条1
項7号のみが審査事項とされるべきだったのであり,原判決には職権探
知に関する解釈を誤った違法がある。
()控訴人による申請の補正及び鎌倉市が同申請に基づき本件許可処分を行4
ったことについて
ア行政不服審査法43条2項について
原判決は,認容処分が実体的な理由で取り消された場合は,裁決
の拘束力の関係上,再度やり直しても認容処分のなされる見込みが
ない(すなわち,申請者にやり直しの利益が認められない)ので,
行政不服審査法43条2項には申請を認容した処分を審査庁が実体
上の違法を理由として取り消した場合の規定がないとする(原判決
49頁以下。その上で,原判決は,本件については,前裁決にお)
いて第一次許可処分が接道要件を満たさないとの実体的な理由で取
り消されたのであり,申請者たる原告(控訴人)には,再度の処分
,,を受ける法律上の利益は認められないので処分庁である鎌倉市は
残存した申請について,裁決の拘束力に従って不許可処分をすべき
であったとする(原判決50頁。)
しかしながら,何故認容処分が実体的な理由で取り消された場合
には,裁決の拘束力の関係上,再度やり直しても認容処分のなされ
る見込みがないこととなるのか不明である。
行政不服審査法43条2項に申請を認容した処分を審査庁が実
体上の違法を理由として取り消した場合の規定がないのは,かか
る場合には,裁決の拘束力によって,再度申請等を認容する余地が
ないのが「通常」であることに鑑み,あえて明文化しなかっただけ
に過ぎない(司法研修所編「改訂行政事件訴訟の一般的問題に関
する実務的研究(法曹界)307頁。認容処分が実体的な理由で」)
取り消された場合においても,再度の許可処分があり得ないわけで
はなく,実体的違法と手続的違法を区別する実益自体が疑問視され
ているところである(園部逸夫編「注解行政事件訴訟法(有斐」
閣)423頁,南博方・高橋滋編「条解行政事件訴訟法(弘文」
堂)552頁。)
,,この点が本件における大きな争点であることからすれば原審は
認容処分が実体的な理由で取り消された場合に,再度の許可処分が
なされる見込みがないとする理由を述べるべきであり,原審が争点
に対して十分な判断を下したと言えないことは明らかである。
仮に,行政不服審査法43条2項が手続的違法を理由とした取消裁
決のみを対象とした規定であるとしても,本件許可処分は,以下のとお
り,同項に基づき再度の許可処分をなしえたものであり,本件取消裁決
には,この点を看過した違法があるというべきである。
同項と同様の規定である行政事件訴訟法33条3項でいう手続的違法
については,申請者のやり直しの利益に鑑み,改めて申請に対する処分
または審査請求に対する裁決をすれば再び許可処分または認容裁決がさ
れる余地がある違法をいうと解されている(南博方・高橋滋編「条解
行政事件訴訟法」弘文堂552頁。具体的には,行政事件訴訟法33条)
3項にいう手続的違法には,処分庁の構成に関する瑕疵,他の機関の同
意・承諾等の欠缺,行為の方式,表示に関する瑕疵などを広く含むと解
されている(前掲「条解行政事件訴訟法」552頁,塩野宏著「行政
法Ⅱ第4版」有斐閣168頁。)
前裁決において,鎌倉市は,市有地×××−2が将来的に市道△−y
y号線の一部となることから,同道路及び同道路と機能的に一体となっ
ている市道△−y号線に接しているとして,本件開発区城内の予定建築
物の敷地が接道義務を果たしていると主張していた(甲6,16頁。そ)
して,鎌倉市は,前裁決によって本件開発区域内の予定建築物の敷地が
接道義務を果たしていないとして第一次許可処分が取り消されるや,控
訴人に対して,接道義務に関する申請の補正を行うよう指導し,前裁決
が下ってから短期間の内に,市道△−yy号線の一部等の編入同意を行
った(甲1の5,甲3の5頁。これらのことからすれば,そもそも鎌倉)
市は,第一次許可処分の時点において,市道△−yy号線の一部等を本
件開発区域に編入することに同意していたというべきであり,そうでな
くとも,編入に同意していたのと同様の状況にあった。そうすると,第
一次許可処分は,控訴人が鎌倉市による市道△−yy号線の一部等を本
件開発区域に編入することの同意を得ながら,または実質的に編入同意
を得ていながら,同意を示す書面を欠缺したという手続的違法を帯びて
いたものである。かかる本件許可処分の手続的違法は,改めて申請に対
する処分または審査請求に対する裁決をすれば再び許可処分または認容
裁決がされる余地がある違法である。そうだとすれば,行政不服審査法
43条2項が手続的違法のみを対象としていたとしても,鎌倉市による
,,本件許可処分は手続的違法が治癒した申請に対する許可処分にすぎず
何ら同項に反するものではなかったというべきである。
以上からすれば,本件取消裁決には,本件許可処分が行政不服審査法
43条2項に反するものではなかったにもかかわらず,これを看過した
という違法がある。
イやり直しの利益について
原判決は,学説上に本件のような開発許可処分が開発許可基準違
反の実体的違法を理由に取り消された場合を同項の手続違法に含め
る見解が見あたらないこと,一般的に開発許可基準違反の瑕疵が容
易には治癒しないことなどから,本件のような開発許可処分が開
発許可基準違反の実体的違法を理由に取り消された場合について,
行政不服審査法43条2項が,申請者にやり直しの利益を認めてい
るとは解することができないとする(原判決51頁。)
しかしながら,原判決の見解のように,同項にいう手続違法は,
処分を再度行うと,申請が再度認容される可能性のある違法という
意味であり,本来の手続違法よりも広く,実体関係的な審査により
取り消された場合も含まれると解するのであれば(原判決51頁,)
本件のような開発許可処分が開発許可基準違反の実体的違法を理由
に取り消された場合を除外する理由はないはずである。
また,申請者のやり直しの利益を趣旨とする同項が,例外的にで
も開発許可基準違反の瑕疵が治癒した場合において,申請者にやり
直しの利益を認めないと解するのはその趣旨にそぐわない。同項の
趣旨からすれば,申請を認容した処分が実体上の理由により取り消
された場合においても,やり直しの利益があるといえるのか否かを
実質的見地から判断すべきである。
なお,学説上に本件のような開発許可処分が開発許可基準違反の
実体的違法を理由に取り消された場合を同項の手続違法に含める
見解が見あたらないのは,そもそも本件のような事例が正面から議
論されたことがないことの帰結にすぎないものと考えられる。
以上の点から,同項は実体的違法を理由に開発許可が取り消され
た場合であっても,申請者にやり直しの利益がある場合には,処分
庁が裁決の趣旨に従った再処分を行うことを否定するものではない
と解するべきであり,原判決には同項の解釈・適用を誤った違法が
ある。
ウ申請の補正について
原判決は,行政不服審査は当初申請を基にした処分に対する不服
審査を行うものであることから,裁決後になされる処分は,当初
申請と同一事情の下でなされることが本来予定されており,取消
裁決後に当初申請を補正し,これにより事情変更が生じたとされ
る事態は,行政不服審査制度上予定されていないことから,取消
裁決後に当初申請の実体的内容に関する補正を行うことはできな
いとする(原判決51頁以下。)
確かに,行政不服審査は当初申請を基にした処分に対する不服審
査を行うものであるが,このことから論理的に裁決後になされる処
分が当初申請と同一事情の下でなされなければならないということ
にはつながらない。
原判決の見解に従えば,本件のように当初申請の補正が実質的に
当初申請の変更をきたすものではない場合にも,申請を全て最初か
らやり直さなければならないこととなるが,このことは申請者に過
度の負担を強いる結果となることがある。まさに,本件は,控訴人
が再度の申請を行わなければならないとすれば,既に行ってきた鎌
倉市開発事業等における手続及び基準等に関する条例及び都市計画
法に定められる諸手続を全てやり直さなければならず,まさに過度
の負担を強いられる状況にあった。
逆に,本件のような場合に申請の補正を認めることは,申請者
に無駄を強いることなく行政の事務処理上の便宜も図れる上,再
度の認容処分がなされたとしても,それに対する不服申立は可能
であり,特段の不都合は生じない。
また,裁決後になされる処分が,当初申請と同一事情の下でなさ
れなければならないのだとすれば,手続的違法による取消裁決の後
に,申請者が手続的違法を治癒して改めて原処分庁から認容処分を
受けることも不可能となるが,そのような見解は見当たらない。
仮に,原判決の見解が正しいとしても,本件では,当初申請の補
正が実質的に当初申請の変更をきたすものではなく,実質的に当初
申請における事情と等しい事情下にあるといえるのであるから,本
件の申請補正は許されるべきである。
したがって,本件において,控訴人が前裁決後に当初申請の実体
的内容に関する補正を行ったことは行政不服審査法上許容されてい
る行為であったというべきであり,原判決は,この点に関する判断
を誤っているという他ない。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人の請求を棄却すべきであると判断する。その理由は,
次項において当審における控訴人の主張につき判断を付加するほか,原判決
「」「」(,の事実及び理由中の第4当裁判所の判断に記載のとおりただし
「原告補助参加人の主張」に関する部分を除く)であるから,これを引用。
する。ただし,原判決54頁21行目から同55頁1行目にかけての「これ
は,同一事情の下で,同一内容の処分を繰り返すことが許されなくなるとい
,。」う裁決の拘束力に反するものであるから本件開発許可処分は違法である
を「これは,当初申請と同一事情の下で,裁決に従った処分をしなければな
らないという前裁決の拘束力に反するものであるから,本件開発許可処分は
違法である」と改める。。
2当審における控訴人の主張に対する判断
()控訴人は,前記第2,3,()中で,前裁決において神奈川県開発審査11
会は,原判決別紙審査請求人目録記載の審査請求人らが,開発行為を行2
った場合に,崖崩れ等により生命,身体等に直接的な被害を受けることが
予想される範囲の地域に居住する者であったとしても,本件開発行為は,
都市計画法33条1項7号の基準を満たしているという処分庁の判断に違
法・不当な点はないとしているのであるから,本件取消裁決においては,
不服申立適格が認められるための要件を充足しなかったと判断すべきであ
るにもかかわらず,上記審査請求人らに不服申立適格を認めた本件取消裁
,,。決は違法でありこの点を看過した原判決もまた違法である旨主張する
確かに,都市計画法33条1項7号は,崖崩れ等のおそれのない良好な
都市環境の保持・形成を図るとともに,崖崩れ等による被害が直接的に及
ぶことが想定される開発区域内外の一定範囲の地域の住民の生命,身体の
安全等を保護する趣旨を含むものであり,そのために同号は,開発許可に
際し,崖崩れを防止するために崖面,擁壁等に施すべき措置について具体
的かつ詳細に審査すべきものとしているところ,前裁決においては,本件
開発行為は,都市計画法33条1項7号の基準を満たしているとされてい
るのであり,前裁決が,崖崩れを防止するため,本件開発区域内の土地に
ついて,安全上必要な措置が講ぜられるように設計が定められていると判
断したということはできる。
しかしながら,第一次許可処分と本件開発許可処分は,それぞれその処
分時において許可の要件の有無を審査して処分しているのであり,各処分
について事後審査した前裁決と本件取消裁決とでは,その対象が異なって
いるから,審査請求人らが,本件許可処分に対する不服理由として,本件
開発行為が都市計画法33条1項7号の要件を満たしていないと主張する
ことは許されると解すべきであり(そのように解しないと,再度の許可処
分を認める裁決がなされた場合には,結果として,崖崩れのおそれを行政
訴訟で争えないことになってしまう,結論として上記審査請求人らに。)
不服申立適格を認めた原判決は適法というべきであり,控訴人の主張は理
由がないと言わざるをえない。
さらに,控訴人は,前記第2,3,()中で,原判決は,審査請求人1
らの不服申立適格の判断にあたり予定建築物等の存在を考慮していな
いが,当該開発行為の安全設計を定めた都市計画法33条1項7号
に基づき不服申立適格を判断するのであるから,当該開発行為の内
容たる予定建築物等の存在を判断要素とすべきは当然である旨主張
する。
しかしながら,前判示のとおり(原判決を引用,予定建築物の安)
全性等については,建築基準法に基づき建築確認の手続において審査され
るべきことであり,開発許可の審査の対象ではないのであるから,予定建
築物等が建築されることを根拠に崖崩れによる直接的な被害を被ることが
予想されないとの控訴人の主張は採用することができない。
よって,控訴人の上記主張は採用できない。
さらに,控訴人は,前記第2,3,()中で,原判決は,不服申立適1
格の判断において地盤の安全性を考慮していないが,地盤の状況は崖
崩れのおそれがあるかを判断するのに根本的な要素であり,神奈川県開
発審査会は,本件開発区域の地盤が安全であることを理解していたのであ
,。るからことさら地盤の安全性を考慮しないとする理由はない旨主張する
しかしながら,前判示のとおり(原判決を引用,地盤の安全性は,本)
案において,都市計画法33条1項7号の法適合性審査の中で判断される
べきことであり,本案前の不服申立適格の判断において考慮されるべき事
項ではない。
よって,控訴人の上記主張は採用できない。
()控訴人は,前記第2,3,()中で,審査請求人らは,前裁決におい22
て本件開発行為を行うことで崖崩れは生じないとの判断がなされてい
ることを知りながら,崖崩れが生じるおそれがあるとして審査請求
を行っており,しかも,都市計画法33条1項7号が,不服申立適
格を基礎づけるためだけに主張されたことは明らかであり,かかる行
為が審査請求人らの権利保護の実益を欠くものであり,紛争の蒸し返
しにあたることは明らかである旨主張する。
しかしながら,前記のとおり,第一次許可処分と本件開発許可処分と
は判断時点を異にする別個の処分であり,本件許可処分に対する不服理由
として,本件開発行為が都市計画法33条1項7号の要件を満たしていな
いと再度主張することは許されると解すべきであり,この主張は採用でき
ない。
また,控訴人は,前記第2,3,()中で,控訴人が行った申請の補2
正により,本件開発行為の工事内容に実質的変更は生じておらず,審
査請求人らの権利救済の観点からは,前裁決時と再度の審査請求時に
おいて全く事情の変化はないのであるから,原判決が,この補正の事
実のみを捉え,審査請求人らの審査請求は紛争の蒸し返しに当たらな
いと判断した点は誤りである旨主張する。
しかしながら,引用にかかる原判決「事実及び理由」の第2,2,
()及び()のとおり,控訴人は,前裁決を受けて,開発行為の許可申請25
の補正(具体的には,開発区域北端部を鎌倉市道△−y号線に接するよう
に開発区域を変更し,鎌倉市道△−y号線を開発区域外の既存道路として
鎌倉市道△−yy号線の一部,×××−2の市有地の一部及び予定建築物
の敷地の土地〔×××−3〕の一部の各土地に新たに道路〔都市計画法施
行令25条2号所定の道路〕を築造することに補正した)を行い,これ。
によって,開発行為の許可申請の内容が「ア開発区域に含まれる地域,
の名称」について「鎌倉市α××番2,同×番1,同×××番2,同×,
××番3」から「鎌倉市α×番1ほか5筆」に「イ開発区域の面積」,
について「2512.29平方メートル」から「2537.22平方メ,
ートル」に「エ工事施行者」について「控訴人」から「株式会社D,,
E本店」に「カ工事完了予定年月日」について「平成19年1月3,,
1日」から「平成19年11月30日」に,それぞれ変更されており,こ
れらに照らせば,前裁決の基礎となった事情が変更されているといえるか
,。ら後発の本件審査請求が紛争の蒸し返しに当たるということはできない
それゆえ,控訴人の上記主張は採用できない。
また,控訴人は,前記第2,3,()中で,審査請求人らは,工事協2
定締結に立ち会いながら,工事協定につき,特段反対の意向を述べ
ることもなく,また,工事協定書には審査請求の取下げ等についての
記載がなされていないのは,控訴人らが,この工事協定締結により,
以後審査請求人らを含む本件開発区域付近の住民から本件開発工事に
反対されることはないものと考えていたからに過ぎない,それゆえ,
審査請求人らには不服申立の利益がないものと考えざるを得ず,この
点に関する原判決の判断には誤りがある旨主張する。
しかしながら,前判示のとおり(原判決を引用,証拠(甲10)及)
び弁論の全趣旨によると,上記協定書を締結した住民側は,個々の住民で
はなく,町内会等が当事者として締結したものであったこと,ところで,
同協定書が締結されたのは平成17年7月4日で,当時,第一次許可処分
等をめぐり開発業者である控訴人と審査請求人らとの間に紛議があり,同
年5月16日には審査請求が申し立てられていたこと,上記協定書には第
一次許可処分,第一次開発工事の是非はもちろん,同審査請求を取り下げ
ること等に関する事項は記載がなく,一般的な,工事に際しての作業方法
,,や作業時間工事用車両の通行時間等を取り決めるにとどまっていること
したがって,同審査請求の申立てはなお維持され,同年12月9日付けの
前裁決に至ったことが認められる。以上の事実によれば,開発を業とする
控訴人が当事者となって上記協定を締結するに当たり,仮に控訴人主張の
ように,前裁決につき審査請求を申し立て,後に本件審査請求をするに至
った住民も控訴人らのする開発工事を是認していたとするなら,当然に上
記協定書にその旨及び審査請求を取り下げる等の記載があってしかるべき
ものと解される。しかるに,上記協定書にはその旨の記載がなく,一般的
な,工事に際して住民と工事を行う側との間で作業方法や作業時間,工事
用車両の通行時間等を自主的に取り決めたという程度の内容にとどまって
いるというのであるから,同協定を締結したからといって,直ちに当該審
査請求人につき,行政不服申立てや訴訟提起の権利を制限するなどという
効果が生ずると解することはできない。
したがって,審査請求人らが不服申立ての利益を欠くとの控訴人の上記
主張は採用できない。
()控訴人は,前記第2,3,()のとおり,行政不服審査法は,行政処分33
により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に
侵害されるおそれのある者の権利救済に必要な範囲内で補充的に職権探知
ができることを定めていると解するべきであり,本件において,審査請
求人らが審査請求を行う法的利益としては,本件開発行為により崖崩
れが生じ,審査請求人らの生命・身体の安全等が害されるおそれを排
除することに尽きるから,本件取消裁決においては,都市計画法33条
1項7号のみが審査事項とされるべきだったのであり,原判決には職権探
知に関する解釈を誤った違法がある旨主張する。
,,,,しかしながら前判示のとおり(原判決を引用)行政不服審査はなお
行政過程における争訟であって,私人の権利利益の救済とともに行政の適
正な運営の確保をも目的とするものであることをも考慮すると,行政不服
審査法も職権探知を認めていると解すべきである(訴願法当時のものとし
て,最高裁昭和29年10月14日第一小法廷判決・民集8巻10号18
58頁参照。)
なお控訴人は原判決の見解に従えば判例上明確に原告適格不,,,(
服申立適格)の根拠とはならないとされている都市計画法33条1項
1号,同項2号,同項14号についても,都市計画法33条1項7号を突
破口として,裏口から原告適格(不服申立適格)を認めることとなり,さ
らに,崖崩れのおそれが多い土地に居住する者は,都市計画法33条1項
7号を盾として,自らの権利保護と全く関係ない事項につき,無制限に不
服申立を行うことができることとなる旨主張するが,原告適格(不服申
立適格)の有無は,当該事案に即して判断されるべきものであり,控
訴人指摘のような事案がありうるからといって,これによって,行政
不服審査法における職権探知一般が否定ないし制限されるわけではない。
よって,控訴人の上記主張は採用できない。
()控訴人は,前記第2,3,()ア中で,行政不服審査法43条2項に44
申請を認容した処分を審査庁が実体上の違法を理由として取り消し
た場合の規定がないのは,かかる場合には,裁決の拘束力によって,
再度申請等を認容する余地がないのが「通常」であることに鑑み,あ
えて明文化しなかっただけに過ぎず,実体的違法と手続的違法を区別
する実益自体が疑問視されているところからすれば,認容処分が実体
的な理由で取り消された場合においても,再度の許可処分があり得な
いわけではない旨主張する。
しかしながら,行政不服審査法43条1項は「裁決は,関係行政庁,
を拘束する」と規定しており,これにより,関係行政庁は裁決の内容を。
,,実現すべく義務付けられ処分の取消し又は撤廃の裁決があった場合には
同一事情の下で,同一内容の処分を繰り返すことが許されなくなる(反復
禁止効。そして,同条2項は「申請に基づいてした処分が手続の違法),
若しくは不当を理由として裁決で取り消され,又は申請を却下し若しくは
,,,棄却した処分が裁決で取り消されたときは処分庁は裁決の趣旨に従い
改めて申請に対する処分をしなければならない」と規定しているが,本。
件のように,処分庁が申請を認容した処分について,審査庁が手続上の違
法を理由として当該処分を取り消した場合においては,処分庁が裁決の趣
旨に従って再度適法に手続を行えば,申請を認容する処分をする余地が残
されており,この場合は申請者に再度の処分を受ける法律上の利益(やり
直しの利益)が認められるべきであるから,処分庁に「改めて申請に対す
る処分をしなければならない」と処分を行うことを義務付けているのであ
る。これに対し,同条2項は,申請を認容した処分を審査庁が実体上の違
法を理由として取り消した場合については何らふれておらず,同条にはそ
の場合についての規定がない。前判示のとおり(原判決を引用),これは,
認容処分が実体的な理由で取り消された場合は,裁決の拘束力の関係上,
再度やり直しても認容処分のなされる見込みはない(すなわち,申請者に
やり直しの利益が認められない)ので,一般に,このことをあえて法律に
よって強制するまでの必要はないと考えたからであると解すべきである。
以上のことから,行政不服審査法43条2項は,申請を認容した処分につ
き裁決が処分を手続上の違法若しくは不当を理由として取り消したもので
ある場合には,処分庁は裁決の趣旨に従って改めて申請に対する処分をす
べきものとしたと解される。そして,本件では前裁決において第一次許可
処分が接道要件を満たさないとの実体的な理由で取り消されたのであり,
申請者たる控訴人には,再度の処分を受ける法律上の利益は認められない
のであるから,処分庁である鎌倉市長は,残存した申請について,裁決の
拘束力に従って不許可処分をすべきであったということになる。
これに対し,控訴人は,上記のとおり,実体的違法と手続的違法を区
別する実益自体が疑問視されているところからすれば,認容処分が実
体的な理由で取り消された場合においても,再度の許可処分があり得
ないわけではないなどと主張する。確かに,行政不服審査法43条2項
にいう手続違法とは,裁決で違法とされた手続的瑕疵が治癒された後に処
分を再度行うと,申請が再度認容される可能性のある違法という意味であ
り,その意味では,本来の手続違法よりも広く,処分庁の構成に関する瑕
疵,他の機関の同意,承認等の欠缺,行為の方式,表示に関する瑕疵も含
まれるし,処分庁が適切な利益衡量を誤った場合のような裁量権の濫用に
当たるような裁量権の行使に関する瑕疵も含まれると解され,なかでも裁
量権の濫用といった事柄は実体的な違法とみることもできるものである。
しかしながら,裁決後になされる再度の許可処分は,これを行うことが行
政庁に義務づけられていることに照らしても,治癒されることによって再
度の許可処分が可能となる瑕疵の範囲には一定の限界があるというべきで
あり,そもそも行政不服審査制度は,申請の応答の延長にある制度で,当
初の申請に基づいた処分に対する不服審査を行うものであるから,裁決後
になされる再度の許可処分は,当初の申請と同一の事情の下でなされるこ
とが当然に予定されているというべきである。そうであるとすれば,行政
不服審査法43条2項によって,再度の許可処分が許されるのは,当初の
申請と同一事情下で先に述べたような範囲の瑕疵の追完がなされた場合に
限られると解すべきであり,処分後に実体的事由に関する事情を新たに追
,,加しあるいは変更することによって再度の許可処分を得るということは
もとより予定されていないものというべきである(そう解さなければ処分
庁は,一度の申請により何度も処分時点における許可要件存否の実質的判
断を強いられることになる。結局,立法論としてはともかくも,行政。)
不服審査法43条2項は,同条1項を前提として規定されており,明文
上同条2項に該当しない以上,同条1項に基づき,処分庁は,残存した申
請について,裁決の拘束力に従って不許可処分をすべきであるというべき
である。
よって,控訴人の上記主張は採用できない。
さらに,控訴人は,前記第2,3,()ア中で,仮に,行政不服審査法4
43条2項が手続的違法を理由とした取消裁決のみを対象とした規定であ
るとしても,同項と同様の規定である行政事件訴訟法33条3項でいう手
続的違法については,申請者のやり直しの利益に鑑み,改めて申請に対す
る処分または審査請求に対する裁決をすれば再び許可処分または認容裁決
がされる余地がある違法をいうと解されており,鎌倉市は,第一次許可処
分の時点において,市道△−yy号線の一部等を本件開発区域に編入する
ことに同意していたというべきであり,そうでなくとも,編入に同意して
いたのと同様の状況にあったから,第一次許可処分は,この編入同意を得
ながら,または実質的に編入同意を得ていながら,同意を示す書面を欠缺
したという手続的違法を帯びていたものであり,かかる本件許可処分の手
続的違法は,改めて申請に対する処分または審査請求に対する裁決をすれ
ば再び許可処分または認容裁決がされる余地がある違法であり,そうだと
すれば,行政不服審査法43条2項が手続的違法のみを対象としていたと
しても,鎌倉市による本件許可処分は,手続的違法が治癒した申請に対す
る許可処分にすぎず,何ら同項に反するものではなかったというべきであ
る,それゆえ,本件許可処分は,同項に基づき再度の許可処分をなしえた
,,。ものであり本件取消裁決にはこの点を看過した違法がある旨主張する
しかしながら,前判示のとおり(訂正後の原判決を引用),取消裁決後に
当初の申請の実体的内容に関する補正を行うことはできないと解するのが
相当であり,他方,当初の申請が残存するのであるから,鎌倉市長は,残
存する当初申請について,前裁決の拘束力に従って不許可処分をすべきで
あったものであるが,これに反して,鎌倉市長は,当初申請の補正を認め
た上で,再度の許可処分である本件開発許可処分を行ったが,これは,当
初申請と同一事情の下で,裁決に従った処分をしなければならないという
,,前裁決の拘束力に反するものであるから本件開発許可処分は違法であり
この明らかな違法は,控訴人主張のごとく,改めて申請に対する処分また
は審査請求に対する裁決をすれば再び許可処分または認容裁決がされる余
地がある違法であるとはいえない。
よって,控訴人の上記主張は採用できない。
()控訴人は,前記第2,3,()イのとおり,原判決の見解のように,54
行政不服審査法43条2項にいう手続違法は,処分を再度行うと,申請
が再度認容される可能性のある違法という意味であり,本来の手続違
法よりも広く,実体関係的な審査により取り消された場合も含まれる
と解するのであれば,本件のような開発許可処分が開発許可基準違反
の実体的違法を理由に取り消された場合を除外する理由はないはずで
あり,申請を認容した処分が実体上の理由により取り消された場合に
おいても,やり直しの利益があるといえるのか否かを実質的見地から
判断すべきである,同項は実体的違法を理由に開発許可が取り消され
た場合であっても,申請者にやり直しの利益がある場合には,処分庁
が裁決の趣旨に従った再処分を行うことを否定するものではないと解
するべきであり,原判決には同項の解釈・適用を誤った違法がある旨
主張する。
しかしながら,前判示のとおり(原判決を引用),本件の場合のよう
な開発許可基準違反の実体的違法についてまで行政不服審査法43条2項
の手続違法に含まれるとする見解は,採用する余地のないものであり,一
般的に開発許可基準違反の瑕疵が容易には治癒しないことも考慮するなら
ば,本件のように開発許可処分が開発許可基準違反の実体的違法を理由に
取り消された場合について,同項が申請者にやり直しの利益を認めている
と解することはできない。
よって,控訴人の上記主張は採用できない。
()控訴人は,前記第2,3,()ウのとおり,本件のように当初申請の64
補正が実質的に当初申請の変更をきたすものではない場合にも,申請
を全て最初からやり直さなければならないこととなると,控訴人は,
既に行ってきた鎌倉市開発事業等における手続及び基準等に関する条
例及び都市計画法に定められる諸手続を全てやり直さなければなら
ず,過度の負担を強いられる,仮に,裁決後になされる処分は当初
申請と同一事情の下でなされるべきであるとの原判決の見解が正し
いとしても,本件では,当初申請の補正が実質的に当初申請の変更を
きたすものではなく,実質的に当初申請における事情と等しい事情下
にあるといえるのであるから,本件の申請補正は許されるべきである
旨主張する。
しかしながら,前判示のとおり,そもそも,行政不服審査制度とは,
申請に対する応答の延長にある制度であり,当初申請を基にした処分に対
する不服審査を行うのであるから,裁決後になされる処分は,当初申請と
同一事情の下でなされることが本来予定されていると解されるので,取消
裁決後に当初の申請を補正し,これにより事情変更が生じたとされる事態
は,行政不服審査制度上は予定されていないと考えられる。したがって,
取消裁決後に当初の申請の実体的内容に関する補正を行うことはできない
と解するのが相当である。また,前記のとおり,補正によって,開発行為
の許可申請の内容が「ア開発区域に含まれる地域の名称」について,,
「鎌倉市α××番2,同×番1,同×××番2,同×××番3」から「鎌
倉市α×番1ほか5筆」に「イ開発区域の面積」について「251,,
2.29平方メートル」から「2537.22平方メートル」に「エ,
工事施行者」について「控訴人」から「株式会社DE本店」に「カ,,
工事完了予定年月日」について「平成19年1月31日」から「平成1,
9年11月30日」に,それぞれ変更されており,これらに照らせば,前
裁決の基礎となった事情が変更されているものであり,本件での当初申請
の補正は,実質的にも当初の申請の変更をきたすものといえる。
よって,控訴人の上記主張は採用できない。
3以上によれば,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却する
こととし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第14民事部
裁判長裁判官西岡清一郎
裁判官中野信也
裁判官脇博人

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