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平成25年3月13日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成24年(ワ)第10734号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成25年2月13日
判決
横浜市都筑区<以下略>
原告クオード株式会社
上記訴訟代理人弁護士弘中徹
同三好重臣
同仙田正一
同別所司
同野村亮輔
同高橋知久
同植村理栄子
同小屋敷雄二
東京都江東区<以下略>
被告株式会社エヌ・ティ・ティ・データ
東京都港区<以下略>
被告株式会社コンストラクション・イーシー・ドットコム
上記2名訴訟代理人弁護士升永英俊
同補佐人弁理士佐藤睦
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告らは,原告に対し,それぞれ7000万円及びこれに対する平成24年
5月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2仮執行宣言
第2事案の概要
1争いのない事実等(証拠を掲げていない事実は当事者間に争いがない。以下,証拠
番号の枝番を省略することがある。)
(1)当事者
原告は,コンピュータシステムの企画,開発,改善等を目的とする株式会
社であり,被告株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(以下「被告NTTデー
タ」という。)は,電気通信事業等を目的とする株式会社であり,被告株式
会社コンストラクション・イーシー・ドットコム(以下「被告コンストラク
ション」という。)は,情報処理及び情報提供サービス等を目的とする株式
会社である。〔弁論の全趣旨〕
(2)原告の有する特許権
ア原告は,次の特許権を有している(以下「本件特許権」といい,本件特
許権に係る特許を「本件特許」という。)。
発明の名称内容証明を行う通信システムおよび内容証明サイト装置
特許番号第3796528号
出願日平成11年12月28日
登録日平成18年4月28日
イ本件特許の特許請求の範囲,明細書及び図面の内容は,別紙特許公報記
載のとおりである(以下,上記明細書及び図面を「本件明細書等」とい
う。)
ウ本件特許の特許請求の範囲
本件特許の特許請求の範囲における請求項の数は14であるが,そのう
ち請求項8の記載は,別紙特許公報の特許請求の範囲【請求項8】記載の
とおりである(以下,同請求項記載の発明を「本件発明」という。)。
(3)構成要件の分説
本件発明を構成要件に分説すると次のとおりである。
1発信者の装置から暗号化された状態で送信された伝達情報が,ネットワ
ークを介して受信者の装置に受信されて復号化されたことを証明する内容
証明サイト装置であって,
2前記発信者装置から,該発信者装置が送信した伝達情報の内容の同一性
を確認できるデータに該発信者が電子署名した発信者署名データを受け取
る第1の受信手段と,
3前記受信者装置から,該受信者装置が受け取って復号化した伝達情報の
内容の同一性を確認できるデータに該受信者が電子署名した受信者署名デ
ータを受け取る第2の受信手段と,
4前記発信者装置から受け取った前記発信者署名データと前記受信者装置
から受け取った前記受信者署名データとを内容証明を行うために保管する
保管手段と,
5前記内容証明の一環として,前記発信者署名データのうち,前記発信者
装置が送信した伝達情報の内容の同一性を確認できるデータと,前記受信
者署名データのうち,前記受信者装置が受け取って復号化した伝達情報の
内容の同一性を確認できるデータとを照合する手段と,を備え,
6前記発信者装置が送信した伝達情報の内容の同一性を確認できるデータ
が,該発信者装置が送信した伝達情報のダイジェスト又は該伝達情報を暗
号化した暗号情報のダイジェストに限られ,
7前記受信者装置が受け取って復号化した伝達情報の内容の同一性を確認
できるデータが,該受信者装置が受け取って復号化した伝達情報のダイジ
ェスト又は該伝達情報を暗号化した暗号情報のダイジェストに限られてい
る,
ことを特徴とする内容証明サイト装置。
(4)被告装置及び被告らの行為
被告NTTデータは,顧客に対し,「CECTRUST」と称する電子契
約サービス(以下「CECサービス」という。)を行うに当たり,原本性証
明装置(以下「CECサーバ」という。)を使用して,内容証明の一環とし
て原本性証明を行っており,被告コンストラクションは,被告NTTデータ
との業務委託契約等に基づき,被告NTTデータを代行してCECサーバを
使用して,顧客に対して,内容証明の一環として原本性証明を行っている。
〔甲3,弁論の全趣旨〕
2本件は,本件特許権を有する原告が,被告らに対し,被告らが顧客と契約し
て実施している内容証明の一環としての原本性証明に係る装置であるCECサ
ーバは,本件発明の技術的範囲に属し本件特許権を侵害するとして,民法70
9条に基づき,不法行為による損害賠償請求として,それぞれ7000万円及
びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合
による遅延損害金の支払を求める事案である。
3本件の争点
(1)CECサーバは,本件発明の技術的範囲に属するか
ア構成要件5の充足性
イ構成要件6及び7の充足性
(2)損害の有無及びその額
第3争点に関する当事者の主張
1争点(1)ア(構成要件5の充足性)
〔原告の主張〕
(1)本件発明における「照合する手段」
本件明細書等の【図1】のとおり,本件発明において,証明サイト1は,
発信者側サイトA及び受信者側サイトBとインターネット4を介して通信し
ている。また,内容証明サイト1の内容証明サーバCは,通信の内容証明
(発信者名,受信者名,伝達情報の内容などの確認)を行う機能を有してい
る(本件明細書等の段落【0018】)。
そして,本件発明は,内容証明サーバCにおいて内容証明の一環として,
発信者署名データのうち,発信者装置が送信した伝達情報の内容の同一性を
確認できるデータと,受信者署名データのうち,受信者装置が受け取って復
号化した伝達情報の内容の同一性を確認できるデータを照合している。
(2)CECサーバにおける「照合する手段」
原本性証明は,原本性登録をしてタイムスタンプを施した発信者A及び受
信者Bの各署名値のうち,契約書の内容の同一性を確認できる各データを原
本性の照合値として用いて,原本性を証明する契約書から照合値と照合する
ことによって行われるものである。この点に関し,CECサーバにおいては,
原本性登録をしてタイムスタンプを施してある発信者A及び受信者Bの各署
名値の照合値(εとζ)を用いることによって,A及びBが同一の契約書デ
ータDに電子署名しているか否かが判明することとなり,その結果,A及び
Bの原本性を証明する契約書データDの非改ざん性を証明することができる。
すなわち,原本性を検証する契約書データDから算出してある照合値をδと
すると,CECサーバにおいては,発信者署名データのうち,発信者Aが送
信した契約書Dの内容の同一性を確認できるデータ(照合値ε)をもって,
上記照合値δと照合し,受信者署名データのうち,受信者Bが受け取って復
号化した契約書Dの内容の同一性を確認できるデータ(照合値ζ)をもって,
上記照合値δと照合しているのであるから,結局,CECサーバにおいては,
照合値εをもって照合値ζと照合していることになる。
したがって,CECサービスの発信者Aが「発信者装置」に,原本性登録
してタイムスタンプを施した発信者Aの署名値のうちの契約書Dの内容の同
一性を確認できるデータが「発信者装置が送信した伝達情報の内容の同一性
を確認できるデータ」に,受信者Bが「受信者装置」に,原本性登録してタ
イムスタンプを施した受信者Bの署名値のうちの契約書Dの内容の同一性を
確認できるデータが「受信者装置が受け取って復号化した伝達情報の内容の
同一性を確認できるデータ」に,それぞれ該当し,CECサーバは,両デー
タを照合して,「発信者の装置から暗号化された状態で送信された伝達情報
が,ネットワークを介して受信者の装置に受信されて復号化されたことを証
明」している。
以上のとおり,CECサーバは,構成要件5を充足する。
(3)被告らの主張に対する反論
ア被告らは,CECサービスは,文書につき,当該文書の内容が,タイム
スタンプを登録した日時以降原本性検証を行った日時まで改ざんされてい
ないことを証明するサービスであって,照合するサービスを一切提供して
いない旨主張する。
しかし,被告らは,CECサービスについて,自ら公開している「電子
契約サービスCECTRUSTの特徴」(甲3の6)において,上記の特
徴のほかに,「NTTデータのセキュリティ技術/インフラを結集した信
頼性の高いサービス」との特徴を挙げ,「特に電子文書の原本性を長期に
わたり証明するための電子署名,セキュア配送,原本性証明,電子文書保
管のサービスを提供します。インターネット上でセキュアな環境の中で電
子契約文書の交換と原本性証明を実現したASP電子契約サービス」と説
明しており,また,「発注者及び受注者が同一の契約書に電子署名する場
合,受注者が,発注者が電子署名した契約書上に電子署名することを想定
したサービスです・・・」(甲10)と説明している。これらは,電子署
名が,電子文書の原本性を長期にわたり証明するために用いられるもので
あることを説明した上で,電子署名をして交換(通信)された電子契約文
書の原本性(非改ざん性)を証明(検証)する電子契約サービスを提供し
ていることを意味するものである。
イ被告らは,CECサーバにおける原本性証明の処理態様は,別紙「図1
CECTRUST処理ステップ抜粋」(甲7。以下「本件処理ステップ」
という。)のとおりであるとして,本件処理ステップのうち,「⑥照合」
から得た照合結果と「⑬照合」から得た照合結果は,相互に無関係であっ
て,相互に独立した照合結果であるから,CECサーバでは構成要件5の
「照合する手段」を備えていない旨主張する。
しかし,被告らは,(D)aと(D)cの照合(下記「本件照合2」)を
「⑥照合」にすり替え,本件照合1と本件照合2は無関係とする前提をお
いた主張をしているにすぎない。
すなわち,被告らの主張する本件処理ステップによると,(D’)bと
(D’)cの照合(以下「本件照合1」という。)の(D’)c及び(D)aと
(D)cの照合(以下「本件照合2」という。)の(D)cには,原本性を証
明する同一の電子契約文書「D」(照合値δ)から算出した照合値が存在
するから,本件照合1と本件照合2は,原本性を検証する電子契約書(照
合値δ)を同一とする関係がある。
また,長期にわたり原本性を検証(証明)する際は,本件照合1と本件
照合2は,原本性を証明する電子契約文書から作成される同一の照合値δ
との照合,すなわち,発信者が電子署名した電子契約文書から算出されて
いる照合値であるε及び,受信者が電子署名した電子契約文書から算出さ
れている照合値であるζとの照合であるから,両照合は,同一の照合値δ
を介した関係にある。
したがって,「⑥照合」から得た照合結果と「⑬照合」から得た照合結
果は相互に無関係であるとの被告らの上記主張は失当である。
〔被告らの主張〕
CECサーバの処理態様は,本件処理ステップのとおりである。CECサー
バでは,「写真報告書1」と題する書面(甲10,乙2)のとおり,当該文書
にタイムスタンプを登録し,案件完了時以降10年間当該文書を保管し,発注
者又は受注者の求めに応じて,「案件完了時以降,保管中の当該文書が非改ざ
んであること」の「原本性検証」をするというサービスを提供するだけである。
つまり,CECサービスは,ある文書の内容が,タイムスタンプを登録した日
時以降原本性検証を行った日時まで改ざんされていないことを証明するサービ
スであって,内容証明についての手法として,CECサーバは発注者の電子署
名した文書と受注者の電子署名した文書が同一であるか否かを照合するサービ
スを一切提供していないから,構成要件5の「照合する手段」を備えていない。
これを本件処理ステップにおいて見ると,送信者AはCECサーバに文書
(D)とそのダイジェスト((D)a)を送信し,CECサーバは受信した文
書(D)から(D)cを生成し,この(D)cを受信した(D)aと比較する
こと(⑥照合),また,受信者BはCECサーバに文書(D’)とそのダイジ
ェスト((D’)b)を送信し,CECサーバは受信した文書(D’)から
(D’)cを生成し,この(D’)cを受信した(D’)bと比較すること
(⑬照合)が記載されるのみであって,送信者Aから送信されたデータと受信
者Bから送信されたデータを比較する処理はなされていない。つまり,「⑥照
合」から得た照合結果と「⑬照合」から得た照合結果は,相互に無関係であっ
て,CECサーバで原本性検証の対象となる文書は,あくまで,案件が完了し
た後の文書であり,CECは,案件が完了する前に対象たる文書に改ざんがあ
ったかどうかについては,発注者が自らの判断で確認することを前提としたサ
ービスである。
以上のとおり,CECサーバは,構成要件5を充足しない。
2争点(1)イ(構成要件6及び7の充足性)
〔原告の主張〕
(1)構成要件6及び7における「同一性を確認できるデータ」の意義
ア本件発明において,内容証明サーバCが受け取るAの「署名値」には,
Aが送信した伝達情報の内容の同一性を確認できる照合値が含まれており,
この照合値は,Aが送信した伝達情報のダイジェスト又はその伝達情報を
暗号化した暗号情報のダイジェストである。
イまた,本件発明において,内容証明サーバCが受け取るBの「署名値」
にはBが受け取って復号化した伝達情報の内容の同一性を確認できる照合
値が含まれており,この照合値は,Bが受け取って復号化した伝達情報の
ダイジェスト又はその伝達情報を暗号化した暗号情報のダイジェストであ
る。
(2)CECサーバにおける「同一性を確認できるデータ」の内容
CECサーバにおいて,原本性登録をしてタイムスタンプを施してある発
信者Aの「署名値」中に存する,発信者Aが送信した契約書の内容の同一性
を確認できるデータは,発信者Aが送信した契約書のダイジェストであり,
また,原本性登録をしてタイムスタンプを施してある受信者Bの「署名値」
中に存する,受信者Bが受け取って復号化した契約書の内容の同一性を確認
できるデータは,受信者Bが受け取って復号化した契約書のダイジェストで
ある。
したがって,CECは,構成要件6及び7を充足する。
(3)被告らの主張に対する反論
被告らは,本件発明の審査経過で提出された平成17年12月16日付け
手続補正書(方式)(乙1。以下「本件手続補正書」という。)において,
「伝達情報」が,「発信者装置」又は「受信者装置」から「内容証明サイト
装置」に送られることを明確に除外していると主張する。
しかし,被告らは,本件手続補正書において,「伝達(通信された)情報
(電子契約文書)の内容の同一性を確認できるデータに関して」との限定で
記述されている部分を,伝達情報そのもののことであると曲解し,請求項の
文言を否定しているにすぎない。
また,本件発明の従属項である,本件特許の特許請求の範囲請求項10は,
「該内容証明サイト装置は,該発信者装置または該受信者装置の何れかから
該伝達情報を,該受信者装置に受け渡すためではなく内容証明の処理のため
に必要なデータとして受け取るように構成した請求項8~9のいずれかに記
載の内容証明サイト装置」というものであり,内容証明サイト装置が内容証
明を行うために伝達情報を受け取れることが明記されているから,上記請求
項10の前提となる本件発明で,内容証明サイト装置が内容証明のために伝
達情報を受け取れることを排除していないことは明らかである。
さらに,被告らが,原本性証明のサービスの他に,伝達情報そのものを送
受信し保管サービス等に利用しているとしても,それは,構成要件6及び7
とは無関係である。
〔被告らの主張〕
原告は,本件特許の審査経過において提出された本件手続補正書において,
「伝達情報」が,「発信者装置」又は「受信者装置」から「内容証明サイト装
置」に送られることを明確に除外している。そうすると,構成要件6及び7の
「伝達情報」は,「発信者装置」又は「受信者装置」から「内容証明サイト装
置」に送られるものではないと解するのが相当であるところ,CECサービス
では,本件処理ステップのとおり,伝達情報である契約書をCECサーバ(サ
ーバC)に送信しているから,構成要件6及び7を充足しない。
3争点(2)(損害の有無及びその額)
〔原告の主張〕
被告ら各自においての,平成20年3月から平成23年3月までの,それぞ
れの累積実施件数,契約者数等からすると,それぞれ2億円の売上げがあり,
経費率30パーセントとして,それぞれ1億4000万円の利益を得ていると
いうべきである。
したがって,原告は,上記の一部請求として,被告ら各自に対し,それぞれ
7000万円及び訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分によ
る遅延損害金の支払を求める。
〔被告らの主張〕
上記原告の主張は否認ないし争う。
第4当裁判所の判断
1本件発明の意義
本件明細書等の【発明の詳細な説明】の段落【0001】,【0002】,
【0003】,【0004】,【0005】,【0006】,【0021】
及び図1ないし図5によれば,本件発明は,インターネット等のネットワー
クを用いて送受信する伝達情報の内容証明を行う通信システムと内容証明サ
イト装置に関するものであり,従来,インターネット等のネットワークでは,
通信を行っている者の本人確認をパスワードや公開鍵暗号などにより行う電
子認証(デジタル認証)や,送る伝達情報に公開鍵暗号などにより署名を入
れる電子署名(デジタル署名)などがよく知られていたが,ネットワーク上
における伝達情報の内容証明,すなわち,ある発信者から送られたある伝達
情報がある受信者に渡されたことを第三者が内容証明する技術はなかったた
め,本件特許は,かかるネットワーク上における伝達情報の内容証明を行う
ことを目的とし,特に,本件発明では,特許請求の範囲請求項8記載の構成
を採用することにより,保管手段に保管されている発信者署名データと受信
者署名データとに基づいて,発信者と受信者の本人確認と発信者が送った伝
達情報と受信者が受け取って復号化した伝達情報の同一性確認を行うことが
でき,それにより伝達情報に関する内容証明を第三者の立場で行うことがで
きるようにした発明であると認められる。
2争点(1)ア(構成要件5の充足性)について
(1)本件発明における「照合する手段」の意義
ア本件明細書等には,次の記載がある。
・「以下、図2に示すシーケンス図と、図3~図5に示すフローチャート
を参照してこの実施例システムの動作概要を説明する。この図2のシー
ケンス図では、左側から順に発信側端末A、内容証明サーバC、認証サ
ーバN、受信側端末Bが配置され、それらの間でネットワークを介して
受け渡されるデータの種類が図中に書き込まれている。これらのデータ
中、〔α〕βの表記は、データαが鍵βで暗号化されていることを表す。
また、〔α,ε〕βの表記は、データαとデータεがそれぞれ鍵βで暗
号化されていることを表し、〔α〕βと〔ε〕βとが各々独立してある
ことと等価であるものとする。さらに、(γ)xという表記は、サイト
Xでデータγをダイジェスト化(後述する)した値であることを表して
いる。」(段落【0021】)
・「また、図3~図5は発信側端末A、受信側端末B、内容証明サーバC
において各々実行される処理手順をフローチャートの形で示したもので
ある。これらの図では、発信者たる発信側端末Aが伝達情報Dを受信者
たる受信側端末Bに内容証明サイト1の内容証明サーバC経由で送り、
内容証明サイト1ではその伝達情報Dを受け渡すにあたりその内容証明
を行うものとする。」(段落【0022】)
・「まず、発信側端末Aが内容証明サーバCに内容証明付の通信を行うこ
とを要求する。この際、発信側端末Aは、以下の処理を行う(ステップ
A1)。すなわち、送りたい伝達情報Dを用意するとともに、この伝達
情報Dを暗号化するための共通鍵暗号方式の共通鍵(秘密鍵とも称す
る)Rを生成する。この共通鍵Rとしては例えば乱数などが利用できる。
この共通鍵Rを用いて伝達情報Dを暗号化して暗号文〔D〕Rを作成す
る。この共通鍵Rの生成は、発信側端末Aがこの内容証明通信を行う毎
に新たなものに変更して生成しており、それにより通信機密性の高いセ
キュリティを確保している。」(段落【0024】)
・「さらに、この暗号文〔D〕Rと伝達情報Dとをそれぞれハッシュ関数
などで変換演算を行って圧縮してダイジェスト値(〔D〕R)aとダイ
ジェスト値(D)aを得る。」(段落【0026】)
・「この暗号化された伝達情報のダイジェスト値(〔D〕R)aと伝達情
報のダイジェスト値(D)aとを発信側端末Aの秘密鍵(プライベート
鍵)SKaで暗号化した暗号文〔(〔D〕R)a,(D)a〕SKaを
作成する。この暗号文〔(〔D〕R)a,(D)a〕SKaは、それを
受け取った側にて、発信側端末Aの公開鍵(パブリック鍵)PKaを用
いて暗号解読できることで、その発信者が発信側端末Aであると本人確
認でき、また、ダイジェスト値(〔D〕R)aとダイジェスト値(D)
aは発信側端末Aが送った伝達情報Dの内容を一意的に特定して内容の
完全性(変更されていないこと)を確認できるデータであるので、本発
明における発信者の本人確認と伝達情報の内容特定とを行う電子署名デ
ータとして用いることができる。」(段落【0028】)
・「そして、発信側端末Aは送信データとして以下のものを揃えて、イン
ターネット4を介して内容証明サイト1の内容証明サーバCに送る(図
3のステップA2)。
マル1アドレスAA:発信元としての発信側端末Aのネットワーク上
のアドレス
マル2アドレスBB:受信先としての受信側端末Bのネットワーク上
のアドレス
マル3暗号文〔〔(〔D〕R)a,(D)a〕SKa〕PKc:
暗号化された伝達情報のダイジェスト値(〔D〕R)aと伝達情報の
ダイジェスト値(D)aとを発信側端末Aが秘密鍵SKaで電子署名し
た暗号文〔(〔D〕R)a,(D)a〕SKaを、内容証明サーバCの
公開鍵PKcで暗号化した暗号文
マル4暗号文〔D〕R:伝達情報Dを共通鍵Rで暗号化した暗号文
マル5暗号文〔〔R,(R)a〕SKa〕PKc:共通鍵Rとそのダ
イジェスト値(R)aを発信側端末Aが秘密鍵SKaで電子署名した暗
号文〔R,(R)a〕SKaを、内容証明サーバCの公開鍵PKcで暗
号化した暗号文」(段落【0031】)
・「そして、内容証明サーバCは、自己の秘密鍵SKcを用いて暗号文
〔〔(〔D〕R)a,(D)a〕SKa〕PKcと暗号文〔〔R,
(R)a〕SKa〕PKcを暗号解読して、伝達情報に関するダイジェ
スト値の暗号文〔(〔D〕R)a,(D)a〕SKaと共通鍵に関する
暗号文〔〔R,(R)a〕SKaを得る。この暗号解読をできるのは内
容証明サーバCだけであるので、通信の高い秘匿性が確保できる。」
(段落【0033】)
・「受信先の受信側端末Bは、内容証明サーバCからデータを受信すると、
そのうちの発信元アドレスCCに基づいて、内容証明サーバCからの通
信であることを認識する。」(段落【0039】)
・「さらに、内容証明サーバCから受信した伝達情報の暗号文〔D〕Rを
発信側端末A側と同じハッシュ関数を用いてダイジェスト化してダイジ
ェスト値(〔D〕R)bを作成する(図4のステップB1)。」(段落
【0042】)
・「受信側端末Bは、内容証明サーバCから受け取った発信日時Taと自
局算出のダイジェスト値(〔D〕R)bとに自局の秘密鍵SKbで電子
署名して暗号文〔(〔D〕R)b,Ta〕SKbを作成し、この暗号文
〔(〔D〕R)b,Ta〕SKbを受取証とする。この受取証
〔(〔D〕R)b,Ta〕SKbは、これを受け取った側で受信側端末
Bの公開鍵PKbを用いて暗号解読できることで、発信元が受信側端末
Bであることを確認でき、また受信側端末Bが受け取った伝達情報の暗
号文〔D〕Rの内容を一意的に特定して内容の完全性(変更されていな
いこと)を確認できるデータであるので、本発明における受信者の本人
確認と伝達情報の内容特定とを行う電子署名データとして用いることが
できる。」(段落【0044】)
・「受信側端末Bは、この受取証〔(〔D〕R)b,Ta〕SKbを内容
証明サーバCの公開鍵PKcで暗号化した暗号文〔〔(〔D〕R)b,
Ta〕SKb〕PKcを作成して、内容証明サーバCに送る(ステップ
B3)。」(段落【0045】)
・「この受取証〔(〔D〕R)b,Ta〕SKbを受け取った内容証明サ
ーバCは、受信側端末Bの公開鍵PKbを用いて暗号解読して、受信側
端末Bで算出したダイジェスト値(〔D〕R)bを得る。この暗号解読
により、この受取証〔(〔D〕R)b,Ta〕SKbが受信側端末Bか
ら発信されたものであることを本人確認できる。」(段落【004
6】)
・「受信側端末Bは、この受け取った暗号文〔〔〔R,(R)a,Tb〕
SKc〕PKbを、自己の秘密鍵SKbと内容証明サーバCの公開鍵P
Kcを用いて暗号解読して、共通鍵Rとそのダイジェスト値(R)a、
さらに受取日時Tbを取得する。そして、この共通鍵Rを用いて、先に
内容証明サーバCから受け取った伝達情報の暗号文〔D〕Rを暗号解読
して伝達情報Dを得る。そして、この伝達情報Dを、ハッシュ関数を用
いてダイジェスト化して伝達情報のダイジェスト値(D)bを作成する
(図4のステップB4)。」(段落【0049】)
・「この伝達情報のダイジェスト値(D)bと受取日時Tbに自己の秘密
鍵SKbで電子署名した暗号文〔(D)b,Tb〕SKbを作成し、こ
れを暗号解読済証(受取証)とする。この暗号解読済証〔(D)b,T
b〕SKbを更に内容証明サーバCの公開鍵PKcで暗号化することで、
通信の秘匿化を図った上で内容証明サーバCに送る(図5のステップB
5)。」(段落【0050】)
・「内容証明サーバCは、受信した暗号文を自己の秘密鍵SKcで暗号解
読して暗号文〔(D)b,Tb〕SKbを得て、この暗号文〔(D)b,
Tb〕SKbを受信側端末Bの電子署名入の暗号解読済証(受取証)と
する。さらに、この暗号解読済証〔(D)b,Tb〕SKbを受信側端
末Bの公開鍵PKbで暗号解読してダイジェスト値(D)bと受取日時
Tbを得る。この受信側端末B側作成のダイジェスト値(D)bと発信
側端末A側から受信した発信側端末A側作成のダイジェスト値(D)a
とを照合し、内容が一致していれば、発信側端末A側から送信された伝
達情報の暗号文〔D〕Rは間違いなく受信側端末B側に受け取られて、
そして伝達情報Dとして正しく暗号解読されたことが確認できる(図5
のステップC9)。」(段落【0051】)
イ以上の記載によれば,本件発明では,内容証明の一環として,前記発信
者署名データ(実施例の[(D)a,([D]R)a]SKa)のうち,前
記発信者装置が送信した伝達情報の内容の同一性を確認できるデータ(実
施例の(D)a,([D]R)a)と,前記受信者署名データ(実施例の
[(D)b,([D]R)b]SKb)のうち,前記受信者装置が受け取っ
て復号化した伝達情報の内容の同一性を確認できるデータ(実施例の
(D)b,([D]R)b)とを「照合」することによって,発信側端末A
側から送信された伝達情報の暗号文〔D〕Rが間違いなく受信側端末B側
に受け取られて、伝達情報Dとして正しく暗号解読されたことを確認する
ものであると認められる。
(2)CECサーバにおける原本性証明の処理態様
ア証拠(甲3,9,10,乙2,4,5)及び弁論の全趣旨によれば,次
の事実が認められる。
(ア)電子契約内容証明装置説明書(甲3の6)には,次の内容が記載さ
れている。
「【電子契約サービスの業務フロー】
1.NTTデータより,電子署名された契約書を送信(案件登録)。
2.取引先企業は,受領契約書の内容を確認後,電子署名を行い返信。
3.電子契約書を受領・完了,保管(10年間)。
4.保管された契約書は,電子原本性証明センタにより,自動的に登
録(時刻証明)。
5.保管契約書は常に検索・閲覧でき,原本性が確保されていること
の確認が可能」
「【電子契約サービスCECTRUSTの特徴】
・パソコン1台から導入可能な,簡単低コストの電子契約ASPサー
ビス
(途中省略)
・NTTデータのセキュリティ技術/インフラを集結した信頼性の高
いサービス
1.電子文書流通プラットホームSecurePod(R)(セキ
ュアポッド)をインフラに採用し,電子文書の生成から流通,保
管までのライフサイクルをトータルにサポート。特に電子文書の
原本性を長期にわたり証明するための電子署名,セキュア配送,
原本性証明,電子文書保管のサービスを提供します。インターネ
ット上でセキュアな環境の中で電子契約文書の交換と原本性証明
を実現したASP電子契約サービス。
(途中省略)
・タイムスタンプ機能により,長期間の原本性を証明
いつの時点でどのような電子文書が存在したかを,NTTデータ
のSecureSeal(R)(セキュアシール)が証明。電子文
書が万が一改ざん,あるいは作成時刻の真偽性が争点となった場合,
タイムスタンプがその証拠となり,電子文書の原本性と作成時刻を
長期間にわたり証明。」
(イ)「写真報告書1」と題する書面(甲10,乙2,5)及びCECサー
ビスの「原本性検証」の表示画面(乙4)には,CECサービスの処理
手順につき,大要,次の内容が記載されている。
a発注者(送信者)が電子署名付き契約書(パターン4-1署名済)
を作成する。
b発注者がCECサーバにログインし,発注者の電子署名付き契約書
(パターン4-1署名済)を送信する。
c受注者(受信者)はサーバにログインし発注者の電子署名付き契約
書(パターン4-1署名済)を受注者端末に表示し,この発注者の電
子署名付き契約書(パターン4-1署名済)に基づき修正したと思わ
れる受注者のみの電子署名付き契約書(パターン4-2署名済)を作
成するが,このとき受注者のみの電子署名付き契約書(パターン4-
2署名済)には受注者の電子署名が2つ埋め込まれているものの,発
注者の電子署名はない。
d受注者がサーバに受注者のみの電子署名付き契約書(パターン4-
2署名済)を送信する。
e発注者がサーバにログインし受注者のみの電子署名付き契約書(パ
ターン4-2署名済)を発注者端末に表示すると,「案件内容に問題
がない場合は,完了処理を行ってください」と表示され,内容を確認
し「完了の確認」ボタンを押すと,契約処理を完了し,CECサーバ
は受注者のみの電子署名付き契約書を保管する。
f発注者は契約が完了した案件を検索し,電子署名付き契約書(パタ
ーン4-2署名済)を発注者端末に表示することができる。
g発注者が発注者端末に「原本性検証」画面を表示すると,同画面に
は,検証日,案件番号,ファイル名,タイムスタンプ検証結果(案件
完了時以降,改ざんされていません。)が表示される(乙4)。
イ上記事実によれば,CECサービスにおいては,発信者が,契約書等の
文書データ(伝達情報)に電子署名して受信者に送信し,受信者が,同伝
達情報に電子署名して発信者に送信した後,発信者が,同伝達情報に問題
がないか確認し完了処理を行うこと,同完了処理が行われたときは,同伝
達情報がCECサーバに送信されて保管され,「SecureSeal
(R)センタ」がタイムスタンプを発行し,同タイムスタンプがCECサ
ーバに存置されること,CECサーバにおいては,同タイムスタンプの情
報を検証した結果として,同タイムスタンプの情報に変更がないことで同
伝達情報の改ざんがないことを証明するものであることが認められる。
また,本件全証拠を精査しても,CECサーバが,タイムスタンプを取
得するためにどこから取得したダイジェストを使用するかを説明するもの
は見当たらず,CECが,発信者及び受信者の双方の伝達情報を突き合わ
せるような形式で原本性を証明することを具体的に裏付けるに足りる証拠
はない。
(3)「照合する手段」の充足性
上記(2)によれば,CECサービスは,あくまで,完了処理が行われ伝達
情報がCECサーバに保管された後に,保管時に発行されて存置されている
タイムスタンプの情報を検証することによって,同完了処理後の伝達情報の
改ざんがないことを証明するものであるにすぎず,発信者署名データ,受信
者署名データを用いたデータを照合することにより伝達情報の改ざんがない
ことを証明するものではないから,構成要件5の「前記発信者署名データの
うち,前記発信者装置が送信した伝達情報の内容の同一性を確認できるデー
タと,前記受信者署名データのうち,前記受信者装置が受け取って復号化し
た伝達情報の内容の同一性を確認できるデータとを照合する手段」を有して
いると認めることはできない。
したがって,CECサーバは,構成要件5を充足しないというべきである。
(4)原告の主張について
ア原告は,原本性を検証する契約書データDから算出してある照合値をδ
とすると,CECサーバにおいては,発信者署名データのうち,発信者A
が送信した契約書Dの内容の同一性を確認できる照合値εをもって,上記
δと照合し,受信者署名データのうち,受信者Bが受け取って復号化した
契約書Dの内容の同一性を確認できる照合値ζをもって,上記δと照合し
ているから,構成要件5の「照合する手段」を充足すると主張する。
しかし,前記(2)のとおり,本件全証拠を精査しても,CECサーバが,
タイムスタンプを取得するためにどこから取得したダイジェストを使用す
るかを説明するものは見当たらず,CECサーバの動作については,上記
(2)のとおりであって,CECサーバが,発信者及び受信者の双方の伝達
情報を突き合わせるような形式で原本性を証明することを具体的に裏付け
るに足りる証拠はない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
イ原告は,被告らは,CECサービスについて,「特に電子文書の原本性
を長期にわたり証明するための電子署名,セキュア配送,原本性証明,電
子文書保管のサービスを提供します。・・・」,「発注者及び受注者が同
一の契約書に電子署名する場合,受注者が,発注者が電子署名した契約書
上に電子署名することを想定したサービスです・・・」としており,CE
Cサーバにおいて原本性を証明するのは電子署名である旨を自認している,
と主張する。
しかし,上記の記載の通常の読み方からすれば,上記の記載からは,C
ECサービスが,電子文書の原本性を証明するためのサービスであり,同
サービスの内容が,電子署名,セキュア配送,原本性証明,電子文書保管
から成っていること,受信者が,発信者が電子署名した契約書上に電子署
名することを想定していることが読み取れるに止まり,それを超えて,C
ECサービスにおいて,発信者と受信者の電子署名が原本性証明のために
用いられていることを読み取ることはできないというべきである。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
ウ原告は,本件処理ステップについて,本件照合1の(D’)c及び本件照
合2の(D)cには,原本性を証明する同一の電子契約文書「D」(照合値
δ)から算出した照合値が存在するから,本件照合1と本件照合2は,原
本性を検証する電子契約書(照合値δ)を同一とする関係があり,被告ら
は,本件照合2を「⑥照合」にすり替え,本件照合1と本件照合2は無関
係とする前提をおいている,と主張する。
しかし,たとえ本件照合1と本件照合2において,原本性を証明する同
一の電子契約文書「D」(照合値δ)から算出した照合値が存在し,原本
性を検証する電子契約書(照合値δ)を同一とする関係があったとしても,
そのことは,発信者と受信者とが同一の電子契約書「D」を取り扱った結
果として,照合値がδという同一の値となっていることを意味するにすぎ
ず,また,原告の主張においても,厳密に見れば,本件照合1において
(D’)cを,本件照合2において(D)cを取り上げており,照合値ε,照
合値ζと照合する照合値δが,それぞれ異なる値をとることは明らかであ
るから,上記のことが,CECサーバにおいて,データの値が同一である
ことを照合する手段を備えていることを直ちに意味するものではない。そ
して,前記のとおり,CECサーバが,発信者及び受信者の双方の伝達情
報を突き合わせるような形式で原本性を証明することを具体的に裏付ける
に足りる証拠はない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
エ原告は,長期にわたり原本性を検証(証明)する際は,本件照合1と本
件照合2は,原本性を証明する電子契約文書から作成される同一の照合値
δとの照合,すなわち,発信者が電子署名した電子契約文書から算出され
ている照合値であるε及び,受信者が電子署名した電子契約文書から算出
されている照合値であるζとの照合であるから,両照合は,同一の照合値
δを介した関係にある,と主張する。
しかし,長期にわたり原本性を検証(証明)する際においても,前記の
とおり,CECサービスは,完了処理が行われ契約書DがCECサーバに
保管された際に発行されたタイムスタンプを検証するにすぎず,それを超
えて,CECサーバが,発信者Aと受信者Bの各署名データの中の照合値
(εとζ)との照合を行っていたり,同照合手段を備えていることを認め
るに足りる具体的な証拠はない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
3争点(1)イ(構成要件6及び7の充足性)について
(1)本件特許の出願経過
証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件特許の拒絶査定不
服審判請求書の理由補充書である本件手続補正書(9頁~10頁)において,
下記のとおり記載し,その結果,平成18年3月7日付けで特許査定がなさ
れ,平成18年4月28日付けで本件特許権が設定登録をされている(甲
1)ことが認められる。

・「原査定の拒絶理由は,本願・・・発明が,引用文献1(「暗号を用い
た内容証明・配達証明サービス」,電子情報通信学会論文誌,1987年
2月25日,VOl.J70-DNo.2,p.423-432)と特開平10-187836
号公報とに基づいて当業者が容易に想到し得たものであるから,特許法第
29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものであ
る。」
・「3-1)…本願発明が,発信者装置A及び受信者装置Bから内容証明サ
イト装置Cにそれぞれ送るデータを,伝達情報の内容の同一性を確認でき
るデータに関して,伝達情報等のダイジェストだけとしているのに対して,
引用文献1及び特開平10-187836号公報は,伝達情報等に相当す
るものをも送っている。・・・引用文献1及び特開平10-187836
号公報においては,内容証明サイト装置に相当する調停者(取引証明装置
1)に送信する通信量(情報量)は,ダイジェストに比べて格段に多くな
らざるを得ず,内容証明サイト装置(調停者,取引証明装置1)への通信
量の点で,引用文献1及び特開平10-187836号公報は,本願発明
に比べて劣らざるを得ない。」
・「3-2)本願発明が,内容証明サイト装置Cにおいて,伝達情報の内容
の同一性を確認できるデータに関して,・・・伝達情報等のダイジェスト
だけを保管対象としているのに対して,特開平10-187836号公報
は,取引証明装置1(公証人,公証装置11)において,伝達情報等に相
当する取り引き文書Mも保管対象としている。このため,特開平10-1
87836号公報においては,取引証明装置1(公証人,公証装置11)
は,本願発明に比して,多くの情報量を保管する構成とならざるを得ない
と共に,公証人等による取り引き文書Mへの不正関与の可能性が高まるこ
とになり,特開平10-187836号公報は,保管量,秘密保持性の点
で,本願発明に比べて劣らざるを得ない。また,引用文献1については,
・・・調停者が保管しない構成をとっており,この引用文献1が本願発明
と基本的に異なることは明らかなことである。」
(2)以上によれば,原告は,本件特許の拒絶査定不服審判において,拒絶査
定の理由(進歩性欠如)における引用文献1及び特開平10-18783
6号公報(以下「引用文献等」という。)との相違点を,本件発明は「伝
達情報」等を発信者装置A及び受信者装置Bから内容証明サイト装置Cに
送信せず,「伝達情報」を内容証明サイト装置Cが保管しないこと,とし
ているのであって,そのことにより,本件発明は,引用文献等記載の発明
と異なり,通信量(情報量)が多くならず,多くの情報量を保管する構成
でもなく,公証人等による伝達情報への不正関与の可能性を高くしないと
いう効果(特開平10-187836号公報)を奏すると陳述しており,
本件発明は,原告のこのような陳述を踏まえた上で,特許査定がされたも
のであると認められる。
したがって,本件発明の構成要件6及び7の意義は,契約当事者双方が
契約書の「原本」を管理し,内容証明サイト装置は原本が改ざんされてい
ないことを伝達情報のダイジェスト又は伝達情報を暗号化した暗号情報の
ダイジェストのみに基づいて検証することで証明するサービスであると解
するのが相当であるところ,証拠(甲3,7,9,10,乙2,4~6)
及び弁論の全趣旨によれば,CECサーバは,伝達情報である原本そのも
のをセンタに送り保管する構成を有するものであるから,CECサーバは,
構成要件6及び7を充足しないというべきである。
(3)原告の主張について
ア原告は,本件手続補正書において,「伝達(通信された)情報(電子契
約文書)の内容の同一性を確認できるデータに関して」との限定で記述さ
れている部分を,被告らは「伝達情報」そのもののことであると曲解し,
請求項の文言を否定しているにすぎないと主張する。
しかし,本件手続補正書の記載は前記(1)のとおりであって,原告は,
本件発明は「伝達情報」等を発信者装置A及び受信者装置Bから内容証明
サイト装置Cに送信せず,「伝達情報」を内容証明サイト装置Cが保管し
ないことを引用文献等との相違点と主張していることが明らかであるから,
原告の上記主張は採用することができない。
イ原告は,本件発明の従属項である,本件特許の特許請求の範囲請求項1
0には,内容証明サイト装置が内容証明を行うために伝達情報を受け取れ
ることが明記されているから,上記請求項10の前提となる本件発明で,
内容証明サイト装置が内容証明のために伝達情報を受け取れることを排除
していないことは明らかであると主張する。
しかし,たとえ従属項であったとしても,本件発明と異なる請求項であ
る上記請求項10の文言によって,前記(1)の説示が左右されるものでは
ないから,原告の上記主張は採用の限りでない。
ウ原告は,被告らが,原本性証明のサービスの他に,伝達情報そのものを
送受信し保管サービス等に利用しているとしても,それは,構成要件6及
び7とは無関係であると主張する。
しかし,前記(1)の説示に照らせば,本件発明は,原本をセンタに送り
保管する構成が排除されるとの原告の陳述を踏まえて特許査定をされたの
であるから,同構成を有するCECサービスが,構成要件6及び7と無関
係ということはできない。
以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。
4結論
以上によれば,CECサーバは,本件発明の構成要件5,6及び7を充足す
るとは認められないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の請
求はいずれも理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
東海林保
裁判官
田中孝一
裁判官
寺田利彦

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