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平成12年(ネ)第3780号,同第3781号,同第3810号 損害賠償等請
求各控訴事件(原審・東京地方裁判所平成10年(ワ)第21507号,同第21
524号,同第21508号)(平成15年5月30日口頭弁論終結)
          判    決
 平成12年(ネ)第3780号,同第3781号,同第3810号事件控訴人
             ファブリカ・ダルミ・ピエトロ・ベレッタ・エス・ピ
ー・エー
 平成12年(ネ)第3780号,同第3781号,同第3810号事件控訴人
             株式会社ウエスタン・アームス
 両名訴訟代理人弁護士  北新居 良 雄
 同           中 島   敏
 同           牧 野 利 秋
 同           青 木 裕 史
 平成12年(ネ)第3780号事件被控訴人
             有限会社マルゼン
 平成12年(ネ)第3780号事件被控訴人
             有限会社丸前商店
 平成12年(ネ)第3781号事件被控訴人
             株式会社ケーエスシープロショップ
             (旧商号) ケーエスシー株式会社
             (旧々商号)株式会社ケーエスシー
 平成12年(ネ)第3781号事件被控訴人
             株式会社ケーエスシー
             (旧商号)株式会社島
 4名訴訟代理人弁護士  安 原 正 之
 同           佐 藤 治 隆
 同           鷹 見 雅 和
 4名補佐人弁理士    安 原 正 義
 平成12年(ネ)第3810号事件被控訴人
             株式会社東京マルイ
 訴訟代理人弁護士    湊 谷 秀 光
 同           中 島   茂
 同           栗 原 正 一
 同           浅 見 隆 行
 同           原   正 雄
 補佐人弁理士      井 澤   洵
 同           井 澤   幹
          主    文
      控訴人らの本件各控訴並びに当審での追加請求及び拡張請求をいずれ
も棄却する。
      当審における訴訟費用は控訴人らの負担とする。
          事実及び理由
(略称)以下,平成12年(ネ)第3780号事件を「A事件」,平成12年
(ネ)第3781号事件を「B事件」,平成12年(ネ)第3810号事件を「C
事件」,A事件・B事件・C事件控訴人ファブリカ・ダルミ・ピエトロ・ベレッ
タ・エス・ピー・エーを「控訴人ベレッタ」,A事件・B事件・C事件控訴人株式
会社ウエスタン・アームスを「控訴人ウエスタンアームス」,A事件被控訴人有限
会社マルゼンを「被控訴人マルゼン」,A事件被控訴人有限会社丸前商店を「被控
訴人丸前商店」,B事件被控訴人株式会社ケーエスシープロショップを「被控訴人
プロショップ」,B事件被控訴人株式会社ケーエスシーを「被控訴人ケーエスシ
ー」という。
第1 控訴の趣旨
(A事件について)
 1 原判決を取り消す。
 2 A事件被控訴人らは,玩具銃並びにそのパッケージ,広告,カタログ及び取
扱説明書に,別紙「A事件被控訴人表示目録」(以下「A事件被控訴人表示目録」
という。)一ないし五記載の表示を付してはならない。
 3 A事件被控訴人らは,A事件被控訴人表示目録一ないし五記載の表示を付し
た玩具銃並びにそのパッケージ,広告,カタログ及び取扱説明書を譲渡し,引き渡
してはならない。
 4 A事件被控訴人らは,A事件被控訴人表示目録一ないし五記載の表示を付し
た玩具銃並びにそのパッケージ,広告,カタログ及び取扱説明書,並びにその製作
に用いる金型及び印刷用原版を廃棄せよ。
 5 A事件被控訴人らは,控訴人ベレッタに対し,各自,4441万6000円
及びこれに対する平成14年11月13日から支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
 6 A事件被控訴人らは,控訴人ウエスタンアームスに対し,各自,1176万
円及びうち882万円に対する平成10年10月1日から,うち294万円に対す
る平成13年6月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(8
82万円及びこれに対する附帯金員を超える部分は当審での拡張請求)。
 7 A事件被控訴人らは,控訴人らに対し,各自,250万円を支払え(当審で
の追加請求)。
 8 訴訟費用は,第1,2審ともA事件被控訴人らの負担とする。
(B事件について)
 1 原判決を取り消す。
 2 B事件被控訴人らは,玩具銃並びにそのパッケージ,広告,カタログ及び取
扱説明書に,別紙「B事件被控訴人表示目録」(以下「B事件被控訴人表示目録」
という。)一ないし七記載の表示を付してはならない。
 3 B事件被控訴人らは,B事件被控訴人表示目録一ないし七記載の表示を付し
た玩具銃並びにそのパッケージ,広告,カタログ及び取扱説明書を譲渡し,引き渡
してはならない。
 4 B事件被控訴人らは,B事件被控訴人表示目録一ないし七記載の表示を付し
た玩具銃並びにそのパッケージ,広告,カタログ及び取扱説明書,並びにその製作
に用いる金型及び印刷用原版を廃棄せよ。
 5 B事件被控訴人らは,控訴人ベレッタに対し,各自,5091万9000円
及びこれに対する平成10年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え。
 6 B事件被控訴人らは,控訴人ウエスタンアームスに対し,各自,3億147
0万円及びうち4270万円に対する平成10年10月1日から,うち2億720
0万円に対する平成13年6月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員
を支払え(4270万0500円及びこれに対する附帯金員を超える部分は当審で
の拡張請求)。
 7 B事件被控訴人らは,控訴人らに対し,各自,500万円を支払え(当審で
の追加請求)。
 8 訴訟費用は,第1,2審ともB事件被控訴人らの負担とする。
(C事件について)
 1 原判決を取り消す。
 2 C事件被控訴人は,玩具銃並びにそのパッケージ,広告,カタログ及び取扱
説明書に,別紙「C事件被控訴人表示目録」(以下「C事件被控訴人表示目録」と
いう。)一ないし八記載の表示を付してはならない(同目録八に係る部分は当審で
の追加請求)。
 3 C事件被控訴人は,C事件被控訴人表示目録一ないし八記載の表示を付した
玩具銃並びにそのパッケージ,広告,カタログ及び取扱説明書を譲渡し,引き渡し
てはならない(前同)。
 4 C事件被控訴人は,C事件被控訴人表示目録一ないし八記載の表示を付した
玩具銃並びにそのパッケージ,広告,カタログ及び取扱説明書,並びにその製作に
用いる金型及び印刷用原版を廃棄せよ(前同)。
 5 C事件被控訴人は,控訴人ベレッタに対し,9340万9140円及びうち
6408万円に対する平成10年10月1日から,うち2932万9140円に対
する平成13年6月26日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え
(6408万円及びこれに対する附帯金員を超える部分は当審での拡張請求)。
 6 C事件被控訴人は,控訴人ウエスタンアームスに対し,10億5577万4
940円及びうち6696万円に対する平成10年10月1日から,うち9億88
81万4940円に対する平成13年6月26日から各支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え(6696万円及びこれに対する附帯金員を超える部分は当審
での拡張請求)。
 7 C事件被控訴人は,控訴人らに対し,1000万円を支払え(当審での追加
請求)。
 8 訴訟費用は,第1,2審ともC事件被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要
 控訴人ベレッタは,イタリア共和国の銃器メーカーであり,控訴人ウエスタ
ンアームスは,我が国の玩具銃の製造・販売業者であって,両者間には,控訴人ウ
エスタンアームスが,控訴人ベレッタの業務に係る各種商品等表示を玩具銃に付し
て使用すること等に関して全世界的な独占使用権を取得する旨のライセンス契約が
存在している。本件は,控訴人らが,別紙「控訴人表示目録」(以下「控訴人表示
目録」という。)一ないし八記載の各表示(以下,これらの各表示をその番号に従
い「控訴人表示一」~「控訴人表示八」といい,併せて「控訴人各表示」とい
う。)が,控訴人らの業務に係る著名な商品等表示又は需要者の間に広く認識され
ている商品等表示に該当し,被控訴人らが不正競争防止法2条1項2号又は1号所
定の不正競争を行っていると主張(ただし,2号所定の不正競争は,B事件被控訴
人ら及びC事件被控訴人に対してのみ主張)して,玩具銃やそのパッケージ等にA
~C事件被控訴人表示目録記載の各表示(以下,これらの各表示を目録の表題及び
番号に従い「A事件被控訴人表示一」~「C事件被控訴人表示八」といい,各事件
の被控訴人各表示を目録の表題に従い「A事件被控訴人各表示」~「C事件被控訴
人各表示」といい,これらを総称して「被控訴人各表示」という。)を付して譲渡
等をしている被控訴人らに対し,その使用差止め,金型等の廃棄及び損害賠償を求
めている事案である。
 原判決は,被控訴人らの不正競争の成立を否定して,控訴人らの請求をいず
れも棄却した。これに対して控訴した控訴人らは,当審において,A,B事件につ
いて損害賠償請求につき請求を拡張,追加及び一部減縮し,C事件について控訴人
表示目録記載八及びC事件被控訴人表示目録八記載の各表示を追加し,差止請求及
び損害賠償請求とも請求を拡張,追加した。
(以下,A~C事件の証拠を,それぞれ「A甲」「A乙」~「C甲」「C
乙」,「A検甲」~「C検甲」のように略して引用し,重複する書証については,
アルファベット順に先の事件の書証番号により引用する。)
1 前提となる事実
(1)控訴人ベレッタは,イタリア共和国ブレシア市に本拠を置く銃器メーカー
であり,その製造,販売に係る実銃(以下「控訴人実銃」という。)には,控訴人
各表示が付されているものがある。
(2)控訴人ウエスタンアームスは,玩具銃の製造・販売業者であり,平成9年
6月17日,控訴人ベレッタとの間で,控訴人ベレッタの業務に係る各種商品等表
示を玩具銃に付して使用することなどに関して,全世界的な独占的使用権を取得す
る旨のライセンス契約(以下「本件ライセンス契約」という。)を締結し,同月2
0日,その効力が発生した。
(3)被控訴人マルゼンは,玩具銃の製造・販売業者であり,その製造に係る玩
具銃をすべて被控訴人丸前商店(以下,両者を併せた営業主体を「マルゼン」とも
いう。)に売り渡し,被控訴人丸前商店は,玩具銃を被控訴人マルゼンから買い受
けて,国内で販売している。
 A事件被控訴人らは,平成2年12月ころから,「ベレッタM93R」という
商品名の玩具銃(エアーソフトガン。以下「A事件被控訴人商品」という。)を製
造又は販売し,そのパッケージ,広告,商品カタログ及び取扱説明書(以下,これ
らを総称して「パッケージ等」という。)と共に,譲渡し,引き渡していた。
(4)被控訴人プロショップ及び被控訴人ケーエスシー(以下,両者を併せた営
業主体を「ケーエスシー」ともいう。)は,いずれも玩具銃の製造・販売業者であ
る。
  B事件被控訴人らは,①平成7年5月ころから平成9年10月ころまで,
「ベレッタM93Rファーストバージョン」という商品名の玩具銃(エアーソフトガ
ン。以下「B事件被控訴人商品一」という。)を,②平成7年7月ころから平成9
年10月ころまで,「ベレッタM93Rオート9」という商品名の玩具銃(エアーソフト
ガン。以下「B事件被控訴人商品二」という。)を,③平成7年8月ころから平成
9年10月ころまで,「ベレッタM93Rスーパーカスタム」という商品名の玩具銃
(エアーソフトガン。以下「B事件被控訴人商品三」という。)を,④平成7年8
月ころから平成9年10月ころまで,「ベレッタM93Rロングコンプカスタム」とい
う商品名の玩具銃(エアーソフトガン。以下「B事件被控訴人商品四」という。)
を,⑤平成7年12月ころから平成9年10月ころまで,「ベレッタM93Rセカンド
バージョン」という商品名の玩具銃(エアーソフトガン。以下「B事件被控訴人商
品五」という。)を,⑥遅くとも平成9年8月ころから現在まで,「ベレッタ
M8000クーガー」という商品名の玩具銃(エアーソフトガン。以下「B事件被控訴人
商品六」といい,B事件被控訴人商品一ないし六を併せて「B事件被控訴人各商
品」という。)を製造,販売し,そのパッケージ等と共に,譲渡し,引き渡してい
た。
(5)C事件被控訴人は,玩具銃の製造・販売業者である。
   C事件被控訴人は,①平成2年6月ころから,「ベレッタ92F」という商品
名の玩具銃(エアーソフトガン。以下「C事件被控訴人商品一」という。)を,②
遅くとも平成5年1月ころから,「ステンレスタイプ・ベレッタ92F」という商品名
の玩具銃(エアーソフトガン。以下「C事件被控訴人商品二」という。)を,③平
成9年12月ころから現在まで,「M92Fミリタリーモデル」という商品名の玩具銃
(エアーソフトガン。以下「C事件被控訴人商品三」という。)を,④「ベレッタ
M8000クーガーG」(「HOPUPGタイプ」,「10才以上用ハイグレードタイプ」及び
「18才以上用ハイグレードタイプ」)という商品名の玩具銃(エアーソフトガ
ン。以下「C事件被控訴人商品四」といい,C事件被控訴人商品一ないし四を併せ
て「C事件被控訴人各商品」という。)を製造,販売し,そのパッケージ等と共
に,譲渡し,引き渡していた。
 2 控訴人らの主張
 2-1 控訴人ベレッタとの関係における不正競争の成否について
  (1)控訴人各表示の周知性又は著名性
 以下のとおり,我が国において,控訴人表示一ないし七-2は,遅くとも
昭和57年ころまでには,控訴人表示八は,遅くとも平成7年ころまでには,いず
れも控訴人ベレッタの業務に係る商品であることを表示する商品等表示として著名
なもの又は需要者の間に広く認識されているものとなり,現在に至っている。
ア 控訴人ベレッタは,世界で最も古く,かつ,最も著名な銃器メーカーで
あり,その武器製造の歴史は15世紀後半にさかのぼる。狩猟用銃,高級ライフ
ル,護身用ピストルなどの小型銃器を民間向けに製造,販売し,20世紀初頭には
政府調達用銃器の分野に参入して飛躍的発展を遂げ,最近では控訴人実銃がイタリ
ア政府のみならずアメリカ政府やフランス政府の制式けん銃として採用されるな
ど,輝かしい歴史と実績を誇っており,今日,控訴人実銃は,ヨーロッパや北米大
陸諸国ばかりでなく,我が国を含め広く世界中に広まっている。
イ 控訴人表示一は,創始者の名前に由来する控訴人ベレッタの商号の要部
であり,15世紀の創業以来現在に至るまで,控訴人実銃の本体に刻印されるなど
して使用されている。
  控訴人表示二は,控訴人ベレッタを飛躍的に発展させた中興の祖ピエト
ロ・ベレッタ(PietroBeretta)に由来するものであり,遅くとも1915年(大
正4年)から現在に至るまで,控訴人実銃M1915量産型等の本体に刻印されるなどし
て使用されている。
  控訴人表示三は,ピエトロ・ベレッタのイニシャル「PB」を横書きして
二重の横長楕円で囲んだ独創性のある図形であり,遅くとも1919年(大正8
年)から現在に至るまで,控訴人実銃M1919ポケット・サイズ・ピストル等の本体に
刻印されるなどして使用されている。
  控訴人表示四は,3本の矢を二重円で囲んだ独創性のある図形とピエト
ロ・ベレッタに由来する「P.BERETTA」を結合させて一体的にしたものであり,遅く
とも1958年(昭和33年)から現在に至るまで,控訴人実銃M70S等の本体に刻
印されるなどして使用されている。
  控訴人表示五は,3本の矢を二重円で囲んだ独創性のある図形であり,
1977年(昭和52年)から現在に至るまで,控訴人実銃M82等の本体に刻印され
るなどして使用されている。
  控訴人表示六は,控訴人実銃M92を基に,イタリア内務省からの要請によ
ってテロ対策用として1982年(昭和57年)に開発,発表された携帯用自動小
型火器控訴人実銃M93Rの名称であり,数字と欧文字との組合せが独創的なものであ
る。
  控訴人表示七の1及び2は,いずれも1985年(昭和60)に米軍制
式けん銃として採用され,控訴人ベレッタの名を世界的に高めた控訴人実銃M92Fの
名称であり,数字と欧文字との組合せが独創的なものである。
  控訴人表示八は,控訴人実銃M92の高い命中精度を維持しながら,新しい
ロッキング方式(ロータリー・バルブ・ロッキング・システム)を採用し,199
5年(平成7年)に発表されたセミコンパクト・オートマチック・ピストル控訴人
実銃M8000COUGARの名称であり,数字と欧文字との組合せが独創的なものである。
ウ 我が国においては,実銃の所持が規制されており,控訴人各表示が刻印
されている控訴人実銃が市場において多数流通するようなことはない。しかし,実
銃の所持が禁止されている国においては,銃砲愛好者は,実銃に代えて模擬弾を発
射できる玩具銃を所持するほかなく,また,実銃所持の規制が緩やかな国において
も,実銃使用は容易に許されないから,銃砲愛好者は,日常的には玩具銃を購入し
てその発射で代替させている。玩具銃は,青壮年向けに,決して安価とはいえない
価格で販売されており,これらの需要者は,実銃自体に関心を寄せ,当該実銃メー
カーの製造する実銃の性能の優秀性,当該実銃メーカーの信用性を化体したものと
して,玩具銃を購入するものであって,玩具銃関係雑誌に実銃に関する記事が多数
掲載されていることなどに照らしても,実銃と玩具銃の需要者層は,重複,共通す
るものといえる。
エ 前記の控訴人ベレッタの実銃製造,販売における輝かしい歴史と実績,
控訴人各表示の使用の継続性,控訴人各表示自体の独創性に加え,我が国におい
て,控訴人実銃が種々の報道や玩具銃関係の各雑誌の記事等によって広く紹介され
たり,小説や映画(「007」シリーズ等)などで取り上げられた結果,控訴人各表示
は,いずれも遅くとも昭和57年ころまでには,控訴人ベレッタの業務に係る実銃
であることを示す商品等表示として,我が国において著名なもの又は実銃需要者及
び玩具銃愛好者の間において広く認識されているものとなって,現在に至ってい
る。最近においても,控訴人各表示を題号に含めたビデオ映画が製作,販売された
り,控訴人実銃を紹介するためにのみ独立の文庫本が刊行されていることなどは,
その証左である。
オ 被控訴人らは,我が国において,実銃の取引,所持,使用が原則として
禁止されており,その市場が存在しないことを理由に,実銃に付された表示が商品
等表示として周知性を具備し得るものではないと主張するが,ある表示がある者の
商品等表示として周知であることを認定するためには,我が国においてその商品が
実際に販売され,あるいは多数販売されていることを要するものではない。
(2)商品等表示としての使用
ア A事件被控訴人商品について
 A事件被控訴人商品にはA事件被控訴人表示二及び五が,そのパッケー
ジ等にはA事件被控訴人表示一ないし五が付されている。
 A事件被控訴人表示一は控訴人表示一と,A事件被控訴人表示二は控訴
人表示二と,A事件被控訴人表示三は控訴人表示三と,A事件被控訴人表示四は控
訴人表示四と,A事件被控訴人表示五は控訴人表示六と,それぞれ同一の表示であ
る。
イ B事件被控訴人各商品について
 平成9年10月ころまでは,B事件被控訴人商品一ないし五及びそのパ
ッケージ等にはB事件被控訴人表示一ないし六が付され,B事件被控訴人商品六及
びそのパッケージ等にはB事件被控訴人表示一ないし五及び七が付され,平成9年
10月ころ以降は,B事件被控訴人商品一ないし五のパッケージ等にB事件被控訴
人表示六が,B事件被控訴人商品六及びそのパッケージ等にはB事件被控訴人表示
七が付されている。
  B事件被控訴人表示一は控訴人表示一と,B事件被控訴人表示二は控訴
人表示二と,B事件被控訴人表示三は控訴人表示五と,B事件被控訴人表示四は控
訴人表示四と,B事件被控訴人表示五は控訴人表示三と,B事件被控訴人表示六は
控訴人表示六と,B事件被控訴人表示七は控訴人表示八と,それぞれ同一の表示で
ある。
ウ C事件被控訴人各商品について
 C事件被控訴人商品一にはC事件被控訴人表示二ないし四及び五の1
が,そのパッケージ等にはC事件被控訴人表示一,二,四及び五の1が付され,C
事件被控訴人商品二にはC事件被控訴人表示二ないし四及び五の1が,そのパッケ
ージ等にはC事件被控訴人表示一,二,四及び五の1が付され,C事件被控訴人商
品三にはC事件被控訴人表示六及び七が,そのパッケージ等にはC事件被控訴人表
示五の2,六及び七が付され,C事件被控訴人商品四にはC事件被控訴人表示八
が,そのパッケージ等にはC事件被控訴人表示六及び七が付されている。
  C事件被控訴人表示一は控訴人表示一と,C事件被控訴人表示二は控訴
人表示二と,C事件被控訴人表示三は控訴人表示三と,C事件被控訴人表示四は控
訴人表示四と,C事件被控訴人表示五の1は控訴人表示七の1と,C事件被控訴人
表示五の2は控訴人表示七の2と,C事件被控訴人表示八は,控訴人表示八とそれ
ぞれ同一の表示であり,C事件被控訴人表示六は控訴人表示三と,C事件被控訴人
表示七は控訴人表示四とそれぞれ類似する表示である。
エ 被控訴人らの製造,販売に係る玩具銃(以下「被控訴人商品」とい
う。)及びそのパッケージ等に被控訴人各表示を付すことは,「商品等表示」とし
ての「使用」に当たる(なお,控訴人らは,A事件被控訴人らの行為が不正競争防
止法2条1項2号所定の不正競争に該当する旨の主張はしない。)。
  被控訴人らは,被控訴人商品に被控訴人各表示を付すのは,そのモデル
の対象となった実銃の種類,品質を示しているにすぎないと主張する。しかし,控
訴人実銃において,控訴人各表示は,いずれも控訴人ベレッタの商品であることを
示す表示として使用されている。そして,被控訴人商品は,プラモデルやミニチュ
アカーとは異なり,控訴人実銃を実物大でそのまま模したものであり,被控訴人ら
は,控訴人各表示と同一の表示を,控訴人実銃に付された控訴人各表示と同一の位
置,同一の態様で被控訴人商品に付しているのであって,単に説明的に記載してい
るのではない。このような場合にまで,被控訴人商品に被控訴人各表示を付すこと
が,商品等表示としての使用に当たらないということはできない。
  玩具の商品分野においては,実物を模した玩具を製造,販売するに当た
り,実物の形態やそれに付された表示の使用について,実物メーカーの許諾を得る
慣行が既に確立しており,被控訴人商品及びそのパッケージ等に被控訴人各表示を
付すことが,商品等表示としての使用に当たることは明らかである。
(3)混同
  被控訴人商品及びそのパッケージ等に被控訴人各表示を付す行為は,控訴
人ベレッタの業務に係る商品と混同を生じさせるものである。
 不正競争防止法2条1項1号所定の「混同」とは,取引者,需要者をし
て,商品の出所が同一であると誤信させること(いわゆる狭義の混同)のみなら
ず,ある商品等表示と同一又は類似の表示が商品に付された結果,その商品が当該
商品等表示の主体と組織上,営業上関連のある者の業務に係る商品であると誤認さ
せること(いわゆる広義の混同)をも含むものである。
  上記のとおり,玩具の商品分野においては,実物を模した玩具を製造,販
売するに当たり,実物の形態やそれに付された表示の使用について,実物メーカー
の許諾を得る慣行が既に確立し,実銃と玩具銃の需要者層は,重複,共通してお
り,実銃に対して最も密接な関連性を有する商品は玩具銃である。そして,控訴人
ベレッタは,実銃のみならず,衣服類,くつ類,かばん類,帽子,ナイフ,ライタ
ー,装飾品等にまで商品分野を拡大し,これらの商品を自ら販売し,又は他社にラ
イセンスを付与して販売している。玩具銃についても,1985年(昭和60年)
から1987年(昭和62年)までイタリア企業に,1986年(昭和61年)か
ら1991年(平成3年)までアメリカ企業にそれぞれライセンスを付与して製
造,販売させ,最近では,控訴人ウエスタンアームスと共同して世界的なライセン
ス活動を開始している。平成5年及び平成6年には,実銃から稼働機構を除去した
模型銃(以下「控訴人模型銃」という。)を製造し,日本で販売したこともある。
このような事情の下においては,被控訴人商品及びそのパッケージ等に被控訴人各
表示を付した場合には,需要者は,控訴人らの許諾を得て当該表示が付されている
ものと認識し,その結果,被控訴人商品が,控訴人らと組織上,営業上関連のある
者の業務に係る商品であるとの誤認を,需要者に生じさせることは明らかである。
 実銃は,我が国において,狩猟用のものを除き店頭販売されることはな
く,また,通常,玩具銃と並べて販売されることもないが,それらの事実は,混同
の認定の妨げとなるものではない。
(4)C事件被控訴人の不正競争防止法12条1項1号の主張について
  C事件被控訴人の不正競争防止法12条1項1号の主張は争う。
(5)以上のとおり,被控訴人商品及びそのパッケージ等に被控訴人各表示を付
す行為,並びに被控訴人各表示が付されたこれらの商品等を譲渡し,引き渡す行為
は,いずれも不正競争防止法2条1項2号又は1号所定の不正競争に該当する。
2-2 控訴人ウエスタンアームスとの関係における不正競争の成否について
(1)不正競争防止法2条1項1号所定の「他人」には,特定の表示に関する商
品化契約によって結束した商品等表示の使用許諾者,使用権者及び再使用権者のグ
ループのように,当該表示の持つ出所識別機能,品質保証機能及び顧客吸引力を保
護発展させるという共通の目的の下に結束しているものと評価することのできるよ
うなグループも含まれる(最高裁昭和59年5月29日第三小法廷判決・民集38
巻7号920頁参照)。
  控訴人ウエスタンアームスは,本件ライセンス契約が発効した平成9年6
月20日以降,同契約に基づき,玩具銃の分野で,全世界において控訴人ベレッタ
の業務に係る各種商品等表示を使用し,かつ,第三者にサブライセンスを付与する
権限を有し,控訴人ベレッタと共に当該商品等表示の商品化事業を共同で遂行する
立場にある。したがって,控訴人ウエスタンアームスは,控訴人ベレッタと共に,
上記商品等表示の持つ出所識別機能,品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させ
るという共通の目的の下に結束した,使用許諾者及び許諾を受けた使用権者のグル
ープを形成している。
(2)控訴人各表示は,控訴人ベレッタと控訴人ウエスタンアームスとで構成さ
れる控訴人らグループの商品であることを表示する標章に当たる。そして,我が国
において,控訴人表示一ないし七-2は,遅くとも昭和57年ころまでには,控訴
人表示八は,遅くとも平成7年ころまでには,いずれも控訴人ベレッタの業務に係
る実銃であることを示す商品等表示として著名なもの又は需要者の間に広く認識さ
れているものとなっていること,被控訴人商品及びそのパッケージ等に被控訴人各
表示を付すことが「商品等表示」としての「使用」に当たり,控訴人らグループの
商品と混同を生じさせるものであることは,上記2-1と同様である。
(3)したがって,本件ライセンス契約発効の日である平成9年6月20日以
降,被控訴人各表示を被控訴人商品に付す等の行為は,控訴人らグループの商品等
表示と同一の商品等表示を使用するものとして,控訴人ウエスタンアームスとの関
係においても,不正競争防止法2条1項2号又は1号所定の不正競争に当たるとい
うべきである。
2-3 控訴人らの差止請求権の有無について
 被控訴人らは,被控訴人商品に被控訴人各表示を付してこれを販売し,その
パッケージ等に被控訴人各表示を付してこれらを譲渡し,引き渡して,不正競争を
行っている。そして,さらに今後,上記行為以外にも,被控訴人玩具銃及びそのパ
ッケージ等について被控訴人各表示を付し,これらを譲渡し,引き渡して,同様の
不正競争を行うおそれがある。
 控訴人らは,被控訴人らの上記不正競争により,控訴人各表示の持つ出所識
別機能,品質保証機能を害され,控訴人各表示についての商品化事業の展開が妨げ
られるものであって,営業上の利益を現に侵害され,又は将来侵害されるおそれが
ある。
 よって,控訴人らは,不正競争防止法3条1項に基づき,被控訴人らに対
し,玩具銃及びパッケージ等について被控訴人各表示を付し,被控訴人各表示を付
した玩具銃及びパッケージ等を譲渡し,引き渡すことの差止めを求めるとともに,
同条2項に基づき,被控訴人各表示を付した玩具銃及びパッケージ等並びにその製
作に用いる金型及び印刷用原版の廃棄を求める。
2-4 控訴人らの損害
 (1)被控訴人らは,控訴人各表示が有する著名性とこれによる強力な顧客吸引
力に専ら便乗したものであり,上記不正競争によって利益を得ていたものにほかな
らない。
 (2)控訴人ベレッタは,実銃メーカーであり,若干の玩具としての銃の輸出実
績があったとはいえ,殊に我が国において自ら設備投資や従業員などの雇用を新た
に必要としない状態で,玩具としての銃を製造,販売していたとはいい難いから,
その被った損害については,控訴人各表示の使用に対して受けるべき金銭の額とす
るのが相当である。この場合,控訴人ベレッタが受けるべき金銭の額は,被控訴人
らが販売した商品の販売価格(卸売価格)の12パーセントに当たる金額が相当で
ある。
 (3)控訴人ウエスタンアームスが被った損害の算定に当たっては,被控訴人ら
が得た利益の額を,その損害額とすることが相当である。そして,控訴人ウエスタ
ンアームスと被控訴人マルゼン及び同丸前商店との間の別訴東京地裁平成9年
(ワ)第5741号特許権侵害差止等請求事件における公認会計士a作成の平成1
2年7月7日付け計算鑑定報告書(A甲236)によれば,製造メーカー(被控訴
人マルゼン)及び一次問屋(被控訴人丸前商店)の限界利益率は,平均値で48.
2%と算出されている。したがって,本件においても,その卸売価額に対する製造
原価ないし直接経費を控除したいわゆる利益率は,40%を下らないと認めるのが
相当である。
2-4-1 A事件被控訴人らについて
 (1)平成9年6月20日までに製造,販売されたA事件被控訴人商品の販売価
額は合計7億4028万円であり,控訴人ベレッタが使用料として受けるべき金額
は,その12%に当たる8883万2000円である。
(2)平成9年6月20日以降製造,販売されたA事件被控訴人商品の販売価額
は合計5880万円であり,その40%に当たる2352万円が控訴人ウエスタン
アームスが被った損害である。
(3)控訴人らは,被控訴人らに対し,標章の侵害による損害賠償請求と形態の
侵害による損害賠償請求を別訴として提起した関係から,標章の侵害による損害賠
償を請求する本訴においては,控訴人ベレッタが被った損害として,上記8883
万2000円の2分の1に当たる4441万6000円(原審における請求額52
92万円を減縮するが,一部請求として請求する。)を,控訴人ウエスタンアーム
スが被った損害として,上記2352万円の2分の1に当たる1176万円(原審
における請求額882万円から拡張するが,一部請求として請求する。)を請求す
る。
(4)さらに,控訴人らは,A事件被控訴人らの不正競争によって,これを阻止
するために弁護士を依頼し,訴訟遂行をせざるを得なかったものであるから,控訴
人らにおいて支出を免れなかった弁護士費用相当額250万円は,同被控訴人らに
よって負担されるべきものであり,これを請求する。
2-4-2 B事件被控訴人らについて
 (1)平成9年6月20日までに製造,販売されたB事件被控訴人商品一ないし
五の販売価額は合計7億3765万円であり,控訴人ベレッタが使用料として受け
るべき金額は,その12%に当たる8851万8000円である。
(2)平成9年6月20日以降製造,販売されたB事件被控訴人商品一ないし五
の販売価額は合計7億5710万円であり,その40%に当たる3億0284万円
が控訴人ウエスタンアームスが被った損害である。
(3)平成9年6月20日までに製造,販売されたB事件被控訴人商品六の販売
価額は合計1億1100万円であり,控訴人ベレッタが使用料として受けるべき金
額は,その12%に当たる1332万円である。
(4)平成9年6月20日以降製造,販売されたB事件被控訴人商品六の販売価
額は合計8億1640万円であり,その40%に当たる3億2656万円が控訴人
ウエスタンアームスが被った損害である。
(5)以上のとおり,控訴人ベレッタが被った損害額は合計1億0183万800
0円であり,控訴人ウエスタンアームスが被った損害額は合計6億2940万円で
あるところ,上記2-4-1の(3)と同様の理由により,本訴においては,控訴人ベ
レッタが被った損害として,上記1億0183万8000円の2分の1に当たる50
91万9000円(原審における請求額7449万4800円を減縮するが,一部
請求として請求する。)を,控訴人ウエスタンアームスが被った損害として,上記
6億2940万円の2分の1に当たる3億1470万円(原審における請求金額4
270万0500円から拡張するが,一部請求として請求する。)を請求する。
(6)さらに,控訴人らは,B事件被控訴人らの不正競争によって,これを阻止
するために弁護士を依頼し,訴訟遂行をせざるを得なかったものであるから,控訴
人らにおいて支出を免れなかった弁護士費用相当額500万円は,同被控訴人らに
よって負担されるべきものであり,これを請求する。
2-4-3 C事件被控訴人について
 (1)平成9年6月20日までに製造,販売されたC事件被控訴人商品一ないし
三の販売価額は合計17億9094万3000円であり,控訴人ベレッタが使用料
として受けるべき金額は,その12%に当たる2億1491万3160円である。
(2)平成9年6月20日以降製造,販売されたC事件被控訴人商品一ないし四
の販売価額は合計62億0946万7000円であり,その40%に当たる24億
8378万6800円が控訴人ウエスタンアームスが被った損害である。
(3)上記2-4-1の(3)と同様の理由により,本訴においては,控訴人ベレッ
タが被った損害としてその一部である9340万9140円を,控訴人ウエスタン
アームスが被った損害としてその一部である10億5577万4940円を請求す
る。
(4)さらに,控訴人らは,C事件被控訴人の不正競争によって,これを阻止す
るために弁護士を依頼し,訴訟遂行をせざるを得なかったものであるから,控訴人
らにおいて支出を免れなかった弁護士費用相当額1000万円は,同被控訴人によ
って負担されるべきものであり,これを請求する。
2-5 権利濫用の主張について
 控訴人ウエスタンアームスは,実際に玩具銃業界において実銃の形態やそれ
に付された表示の使用についてのライセンス契約が締結されるのが慣例になってい
るという認識の下,これまでの玩具銃業界の悪弊を断つべく,控訴人ベレッタと交
渉を重ねた末,本件ライセンス契約を締結したものであり,また,日本遊戯銃協同
組合においても,控訴人ウエスタンアームス代表者が玩具銃業界全体として対応す
べき旨を主張したところ,専ら被控訴人らの代表者らによる反対によって業界とし
ての結束に至らず,玩具銃メーカー各社が個別的に控訴人ベレッタと折衝するよう
になったものであり,控訴人ウエスタンアームスが他の玩具銃メーカーを出し抜い
たものではない。被控訴人らは,控訴人ベレッタに対し,控訴人各表示等の無断使
用の事実を認め,今後無断で使用しない旨を通知しながら,控訴人ベレッタの要求
に応ずることなく,旧態依然として控訴人各表示等の無断使用を継続したものであ
る。このように,何らの努力も対価の支払もなく無許諾で他人の信用を利用する者
が,誠実な努力と正当な対価も支払い,様々な負担の上で知的財産権の保護,保全
を図ろうとしている控訴人ウエスタンアームスを非難する資格はなく,控訴人らの
本訴請求は権利濫用に当たらない。
2-6 C事件被控訴人の過失相殺の主張について
 C事件被控訴人は,控訴人ベレッタから警告があった後も,継続して模倣製
品を製造,販売している。控訴人ベレッタは,C事件被控訴人あるいは日本の業界
全体に対して免責を与えたことはなく,むしろ,平成8年には具体的に警告を発
し,平成9年には控訴人ウエスタンアームスと契約交渉の結果独占権を付与してい
る。
 したがって,控訴人ベレッタが得べかりし使用許諾料相当額について,過失
相殺による減額をすべき事情はない。
2-7 C事件被控訴人の消滅時効の主張について
 控訴人らが明らかにした玩具銃の機種は,いずれも,控訴人実銃M92Fを模し
た玩具銃の色彩の違いや,玩具銃としての呼称の違いにすぎず,控訴人ベレッタの
標章を侵害した一連の不正競争の数量的内訳にすぎないものであるから,その請求
権が各別に時効にかかることはない。
 3 被控訴人らの主張
 3-1 訴えの追加的変更に対するC事件被控訴人の異議
 控訴人らは,当審において,C事件につき控訴人表示八に基づく訴えを追加
したが,同追加に係る請求は,当初の請求と請求の基礎が同一ではないから,C事
件被控訴人は,同訴えの追加的変更に異議がある。
 3-2 控訴人ベレッタとの関係における不正競争の成否について
  (1)控訴人各表示の周知性又は著名性について
 ある者の商品等表示が広く認識されるためには,当該表示が付された商品
が取引市場に普及し,営業活動が地域に実在することが前提となるから,当該表示
を付した商品がなく,あるいは容易に手に入らず,その商品についての営業活動も
行われていない地域においては,間接的な媒体によって当該表示が周知となること
は相当困難である。我が国では,実銃の取引,所持,使用が一部の例外を除いて禁
じられており,その市場及び需要者層は存在しない。そして,控訴人ベレッタは,
我が国において控訴人実銃につき何ら営業活動及び宣伝活動をしたことがなく,我
が国で控訴人実銃ないしこれに付されている表示を目にすることができた機会とし
ては,控訴人実銃の紹介記事の掲載された外国の出版物やカタログが日本に持ち込
まれてこれを見るか,あるいは,外国で控訴人実銃の紹介文献に接触した人によっ
て日本国内で出版された控訴人実銃を紹介した出版物を見るといった,極めて限ら
れた例があるにすぎない。加えて,欧文字と数字を組み合せた表示には何ら独創性
がないこと,小説や映画の中でたまたま控訴人ベレッタの名称や控訴人実銃が使用
されたとしても,それによってその表示が周知な商品等表示となるものではないこ
と,平成9年に至るまで,おもちゃ等を指定商品とする「Beretta」の文字からなる
登録商標が控訴人ベレッタと無関係に存在し,また,銃砲等,被服等,装身具等,
電気機械器具等を指定商品として,「BERETTA」,「ベレッタ」及びこれに類似する
商標につき,控訴人ベレッタ以外の者が商標登録を受けた事例も多数あること等を
も併せ考えれば,控訴人各表示が控訴人ベレッタの実銃であることを示す商品等表
示として著名性又は周知性を具備しているとは到底いえない。
 仮に,控訴人各表示が控訴人ベレッタの業務に係る実銃であることを示す
商品等表示として周知となった時期があったとしても,我が国においては,十数社
に及ぶ多数の玩具銃メーカーが古くから控訴人各表示と共に自社の名称を併せて付
した玩具銃を製造,販売してきたことにより希釈化され,控訴人各表示は,玩具銃
の需要者の間で,特定の商品の出所を表示するものではなくなったというべきであ
る。
(2)商品等表示としての使用について
  被控訴人商品及びそのパッケージ等に被控訴人各表示を付すことは,自他
商品の識別力を持つ態様で用いるものではなく,商品等表示としての使用に当たら
ない。
  玩具銃(モデルガン,エアーソフトガン)は,その性質上,実銃と同一の
外形,表示を有することが必要な商品である。玩具銃が実銃と同一の表示を有する
ことがあっても,それはモデルとされた実銃の種類,品質を示しているにすぎず,
玩具銃の出所表示の機能を有する商品等表示としての使用には当たらない。控訴人
実銃をモデルとした玩具銃を製造,販売する業者は,いずれもその商品の本体又は
パッケージ等に「BERETTA」等の表示と併せて,自らの名称を示す表示を必ず付して
いる。そして,玩具銃の需要者は,「BERETTA」等の表示に基づいて玩具銃を選択,
購入するのではなく,玩具銃メーカー名ごとに玩具銃の性能,威力,品質について
の評価をして,これを選択,購入している。このように,玩具銃の分野において
は,玩具銃メーカー名の表示こそが,自他商品識別力を有する商品等表示として機
能しているものであって,「BERETTA」等の表示は,被控訴人らの製品と他社の製品
とを識別する商品等表示としての機能を有しているわけではない。控訴人ウエスタ
ンアームス自身,控訴人ベレッタからその各種商品等表示の使用許諾を得たといい
ながら,自らの商品について,従来どおり「ウエスタンアームス」やその略号であ
る「WA」等の表示を併せて付しており,これが控訴人ウエスタンアームスの製造,
販売に係る玩具銃の自他商品識別表示となっている。玩具銃の需要者も,玩具銃に
付されている「BERETTA」等の表示が控訴人ベレッタの商品を表示するものとは考え
ていない。これは,戦後,控訴人実銃その他の各種実銃をモデルとしたモデルガ
ン,エアーソフトガンが国内に製造,販売されて,既に30年以上の実績を積み重
ねて,取引者,需要者間に定着した慣行となっている事実である。控訴人らは,玩
具の商品分野においては,実物を模した玩具を製造,販売する際,実物の形態やそ
れに付された表示の使用について,実物メーカーの許諾を得る慣行が既に確立して
いると主張するが,実物メーカーが玩具についての意匠権や商標権を有していない
場合にもその許諾を得るような慣行はなく,逆に,玩具銃業界においては,実銃メ
ーカーの許諾を得ることなく実銃を模した玩具銃を製造,販売するのが慣行であっ
た。また,我が国の自動車メーカーが模型メーカーに許諾をした例があったとして
も,それは我が国で認められていない「物についての商品化権(パブリシティ
権)」の許諾契約であり,模型メーカー側も自動車メーカーから当該自動車に関す
る情報を入手するために契約をしたものであって,このような例をもって,直ちに
被控訴人商品及びそのパッケージ等に被控訴人各表示を付すことが商品等表示とし
ての使用に当たるということはできない。
(3)混同について
  被控訴人商品及びそのパッケージ等に被控訴人各表示を付す行為は,控訴
人ベレッタの業務に係る商品と混同を生じさせるものではない。
  被控訴人商品は,我が国において流通せず,所持することができない控訴
人実銃をモデルとした玩具銃であるが,控訴人ベレッタは,玩具銃を製造,販売し
ておらず,他方,我が国においては,十数社に及ぶ多数の玩具銃メーカーによっ
て,控訴人実銃をモデルとしてその形状を模し,それに付されている表示をも付し
た玩具銃を製造,販売することが,従前から広く行われてきた。そして,被控訴人
らは,控訴人実銃を模した玩具銃の製造,販売に当たり,その本体やパッケージ等
に必ず自らの名称を付しており,玩具銃の需要者も,玩具銃に付されてい
る「BERETTA」等の表示が控訴人ベレッタの業務に係る商品を表示するものとは考え
ていない。控訴人ベレッタの業務内容に実銃以外の製品の製造,販売又はライセン
ス付与が加わったとしても,それは比較的最近のことであり,その数量も少ない。
控訴人ベレッタの最近の商品カタログには,射撃の際に着用するウェア,銃を収容
するケース,ベルト等の商品も掲載されているが,これらは,一般的な衣服,雑貨
として販売されているものではない。控訴人ベレッタが日本で販売した控訴人模型
銃についても,発射機構は取り除いてあるものの,実銃の部材そのものを使用し,
価格も20万円以上するものであって,玩具銃(モデルガン,エアーソフトガン)
とは別異の商品として取引者,需要者間に取引されており,その販売数量も極めて
わずかである。
  したがって,被控訴人商品及びそのパッケージ等に被控訴人各表示が付さ
れているからといって,その玩具銃が控訴人ベレッタ若しくはその子会社又はその
ライセンシーの製造したものと誤認されるおそれはなく,また,そのように誤認さ
れた事実もないから,いわゆる広義の混同を生じさせるものではない。
(4)C事件被控訴人の不正競争防止法12条1項1号の主張
  モデルガン,エアーソフトガンの業界には,「ベレッタM92Fタイプ」とい
う一つの商品群が存在し,「M92F」,「ベレッタ」,「ガバメント」などの名称
が,玩具銃商品の種別を示す,普通名称として用いられている。そして,C事件被
控訴人各商品及びそのパッケージ等,広告,カタログなどに記載されてい
る,「BERETTA」,「PIETROBERETTA」,「M92F」,「8000COUGAR」などの表示
は,こうした普通名称を,商品の種別を示すためのものとして,普通に用いられる
方法で表示をしたものであるから,不正競争防止法12条1項1号により,同法2
条1項1号,2号は適用されない。
3-3 控訴人ウエスタンアームスとの関係における不正競争の成否について
 控訴人ウエスタンアームスは,控訴人ベレッタと競業関係にあるコルト社や
ストレイヤー・ヴォルト社等の実銃メーカーから,そのマークの使用についてのラ
イセンスを受け,これを玩具銃に使用しており,控訴人ベレッタと共にその各種商
品等表示の持つ出所識別機能,品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるとい
う共通の目的の下に結束しているという関係にあるとはいえない。
3-4 控訴人らの差止請求権の有無について
 我が国において,控訴人実銃の需要者層がないにもかかわらず,「BERETTA」
等の表示が玩具銃の需要者に知られるようになったのは,控訴人ベレッタの営業活
動とは無関係に,被控訴人らを含めた玩具銃製造・販売業者が控訴人実銃をモデル
に玩具銃として開発し,普及させたからにほかならず,控訴人ベレッタには,これ
によって侵害され得る営業上の利益は存在しない。
3-5 控訴人らの損害について
 控訴人らの損害の主張は争う。
3-6 権利濫用の主張
 仮に,控訴人各表示が,我が国の玩具銃の取引者,需要者間に著名又は周知
になっているとすれば,これは,20年以上にもわたって控訴人実銃の形態やそれ
に付された表示を模した玩具銃を製造,販売した我が国の玩具銃メーカーの営業努
力によるものである。控訴人ベレッタは,我が国の玩具銃メーカーが控訴人実銃の
形態やそれに付された表示を使用していた状態を,平成8年3月ないし4月ころに
警告するまで長年にわたって放置したものであり,自ら控訴人各表示についての権
利の保全に何ら努力することなく,玩具銃メーカーの営業努力により当該表示が玩
具銃の取引者,需要者にある程度知られるようになってから,その玩具銃メーカー
に対して権利を行使しようとするものであって,到底容認し得るものではない。控
訴人ベレッタの本訴請求は,権利の濫用に当たるか,あるいは,長年の権利不行使
によりその権利が失効するに至っているものというべきである。
 また,控訴人ウエスタンアームスは,我が国の玩具銃の製造・販売業者で組
織する日本遊戯銃協同組合の組合員で,同控訴人の代表者は平成7年10月から平
成9年10月まで同組合の代表者理事長の職にあった者であるが,同組合あてに控
訴人ベレッタからその表示等の使用の許諾について打診があった際,他の玩具銃メ
ーカーを出し抜いて控訴人ベレッタから許諾を得たものであり,それまでは他の玩
具銃メーカーと同様,控訴人ベレッタの許諾を得ることなくその表示を玩具銃に付
していたものである。控訴人ウエスタンアームスは,玩具銃の製造・販売業者が実
銃の製造業者からその表示等の使用の許諾を受けることなく,長年にわたり特段の
争いもなく実銃をモデルとした玩具銃の製造,販売を続けてきた業界の実情を熟知
しながら,控訴人ベレッタからのクレームに乗じて他の玩具銃メーカーによる使用
を差し止めるために控訴人ベレッタから許諾を受けたものであって,控訴人ウエス
タンアームスの本訴請求は,クリーンハンドの原則に反するばかりでなく,不正競
争防止の名の下に公正な競業秩序を破壊し,自らの利益の独占を図ろうとするもの
であり,権利の濫用に当たる。
3-7 C事件被控訴人の過失相殺の主張
 仮に,控訴人ベレッタがC事件被控訴人に対し損害賠償請求できるとして
も,長くC事件被控訴人の行為を容認し,その損害発生に寄与したというべきであ
るから,損害額の算定においては,過失相殺により減額されるべきである。また,
控訴人ウエスタンアームスも,控訴人ベレッタから許諾を受けた者にすぎないか
ら,控訴人ベレッタと同様に過失相殺の適用を受けるべきである。
3-8 C事件被控訴人の消滅時効の主張
 仮に,C事件被控訴人に不正競争が成立するとしても,控訴人ベレッタは,
遅くとも平成6年4月ころには,C事件被控訴人各商品の存在を知り,その損害及
び加害者を知ったものである。したがって,平成7年9月22日までに生じた損害
については,C事件の訴え提起がされた平成10年9月22日までに3年の消滅時
効期間が経過した。
 また,平成13年6月21日付け「請求の変更申立書」により追加された請
求(C事件被控訴人商品一のうち「ベレッタ92Fブラックメタル」に係る損害)につ
いては,同「請求の変更申立書」が提出された同日までに3年の消滅時効期間が経
過した。
 C事件被控訴人は,本訴において,控訴人らに対し,上記各消滅時効を援用
する旨の意思表示をした。
第3 当裁判所の判断
 1 控訴人各表示の周知性又は著名性について
(1)上記第2の1の前提となる事実と,平成6年6月15日徳間書店発行の床
井雅美著「ベレッタ・ストーリー」(以下「ベレッタ・ストーリー」という。A甲
1),控訴人ベレッタ作成の1996年(平成8年)版会社案内(A甲9),国際
出版発行の「GUN」(以下「GUN」という。)昭和56年12月号(A甲13),昭
和57年5月号(A甲18),昭和60年4月号(A甲14),同年8月号(A甲
15),平成2年6月号(A甲17),平成7年5月号(A乙9-1~4),同年
10月号(A甲20),平成8年4月号(A乙10-1~3),同年8月号(A甲
23),ワールドフォトプレス発行の「月刊コンバットマガジン」(以下「コンバ
ットマガジン」という。)昭和60年11月号(A甲16),平成8年3月号(A
甲22),ジョージ・マーカム著,床井雅美翻訳・監修の「月刊モデルグラフィッ
クス別冊ガンズ・オブ・ジ・エリート 特殊部隊の最新ウェポン」(以下「特殊部
隊の最新ウェポン」という。A甲19),ホビージャパン発行の「月刊アームズ・
マガジン」(以下「アームズマガジン」という。)平成7年4月号(A甲21),
平成9年5月号(A甲24),同年6月号(A甲26),控訴人ベレッタ代表者作
成の陳述書(A甲11),控訴人ベレッタ作成のカタログ(A甲31),商標登録
証(A甲32),商標公報(A甲33),ガンケース,バッグ及びティーシャツの
写真(A甲34-1~8),商業送り状(A甲35-1,2),控訴人ウエスタン
アームス代表者作成の平成13年3月15日付け報告書(A甲158)並びに弁論
の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。
ア 控訴人ベレッタは,イタリアで古くから銃器を製造していたベレッタ・
ファミリーを継承したイタリア共和国ブレシア市に本拠を置く銃器メーカーであ
る。
  控訴人ベレッタは,1903年(明治36年)に社長に就任したピエト
ロ・ベレッタの下で工場を拡大し,イタリア政府調達用銃器の分野に参入し,19
30年代には,我が国から発注を受けたライフル銃の一部を製造した。
  第2次世界大戦後,控訴人ベレッタの大型セミ・オートマチック・ピス
トルがイタリア軍及び警察の制式けん銃として採用され,1975年(昭和50
年)に発表された控訴人実銃M92は,ブラジル軍制式けん銃として採用された。控訴
人実銃M92の改良型として,1977年(昭和52年)に発表され,イタリア警察の
制式けん銃として採用された控訴人実銃M92S,1983年(昭和58年)に発表さ
れた控訴人実銃M92F及びその軍用型でありアメリカ陸軍制式けん銃に採用された控
訴人実銃M92SB-F,準サブマシンガンとして機能を有する控訴人実銃M93Rなどがあ
る。また,控訴人は,1995年(平成7年),セミコンパクト・オートマチッ
ク・ピストルである控訴人実銃M8000COUGARを発表した。
イ 控訴人ベレッタ代表者作成の陳述書(A甲11)によれば,平成10年
において,控訴人ベレッタの売上高は,全世界において2211億5100万伊リ
ラであり,我が国への輸出額は,実銃,衣類,アクセサリー,靴,皮革製鞄,眼
鏡,時計,ナイフ等を含め,平成元年が15億0900万伊リラ,平成2年が21
億0900万伊リラ,平成3年が33億5700万伊リラ,平成4年が22億18
00万伊リラ,平成5年が41億8800万伊リラ,平成6年が34億7300万
伊リラ,平成7年が24億1600万伊リラ,平成8年が46億8100万伊リ
ラ,平成9年が52億5000万伊リラ,平成10年が44億7900万伊リラで
ある。
  控訴人ベレッタは,観賞用に控訴人実銃から発砲機能及び稼働機能を除
去して商品化した高価な控訴人模型銃を製造し,平成5年に21丁,平成6年に1
1丁を我が国に輸出したが,これまで玩具銃を製造,販売したことはない。また,
控訴人ベレッタが実銃のほかに控訴人各表示を付して販売している商品は,いずれ
も実銃の関連商品としてのいわゆるシューティング・アクセサリーのたぐいであっ
て,主に実銃所持者を販売対象とするものであり,一般的な衣服,雑貨として販売
されているわけではなく,その販売数量も多くはない。
ウ 控訴人表示一は,控訴人表示目録一記載のとおり,控訴人ベレッタの創
始者であるベレッタ・ファミリーの「Beretta」の欧文字を,通常の活字体の大文
字「BERETTA」で横書きしてなるものであり,控訴人実銃については,控訴人実銃
M92FSデザート・ストーム(A甲1の42頁)のスライド左側面に金字で刻印された
2段の欧文字中の上段の「BERETTA92FSCAL.9mmPARABELLUM」の冒頭部分,控訴人
実銃M92G(PA・MAS9mmG1)(同57頁)のスライド左側面に刻印され
た「FABRICATIONSOUSLICENCEBETETTA」の末尾部分,控訴人実銃M87BBLONG
BARREL(同104頁~105頁)にスライド右側面に刻印された「PATENTED
BERETTAUSACORP.,ACKK,MD.」の中間部分,控訴人実銃M1922(同112頁)の左側
面に刻印された「PISTOLAAUTBERETTA・・・」の中間部分,控訴人実銃M1948
LONGBARREL(同175頁)及び同M950(同207頁)のグリップ両側面の上部の刻
印などとして使用され,また,控訴人作成のカタログ(A甲31)の表紙上部にも
使用されている。同標章は,控訴人ベレッタにより,指定商品を第28類「おもち
ゃのけん銃,その他のおもちゃ」とする商標について,平成9年10月8日に商標
登録出願が
され,平成11年4月23日設定登録(商標登録第4265019号)がされた。
エ 控訴人表示二は,控訴人表示目録二記載のとおり,控訴人ベレッタの事
業を大きく発展させたピエトロ・ベレッタ「PietroBeretta」の欧文字を,通常の
活字体の大文字「PIETROBERETTA」で横書きしてなるものであり,控訴人実銃
M92S(A甲1の25頁),同M92FS(同33頁),同M93R(同54頁),同M8000
COUGAR(同14頁)など多くの控訴人実銃のスライド左側面の刻印などとして使用
されている。同標章は,控訴人ベレッタにより,指定商品を第28類「おもちゃの
けん銃,その他のおもちゃ」とする商標について,平成9年10月8日に商標登録
出願がされ,平成11年4月30日設定登録(商標登録第4267149号)がさ
れた。
オ 控訴人表示三は,控訴人表示目録三記載のとおり,ピエトロ・ベレッタ
のイニシアル「PB」の欧文字を,デザイン化された白抜きの文字で横書きして二重
の横長楕円図形で囲んだものであり,控訴人実銃M92SBコンパクト・モデル(A甲1
の27頁上),同M92SBコンパクト・タイプM(同下),同M1919(A甲1の125
頁),同M1919/26(A甲1の199頁)などのグリップ両側又は片側側面の刻印,
控訴人実銃M8000 COUGAR(A甲1の14頁)のスライド左側面の刻印などとして使
用されている。同標章は,控訴人ベレッタにより,指定商品を第28類「おもちゃ
のけん銃,その他のおもちゃ」とする商標について,平成9年10月8日に商標登
録出願がされ,平成11年5月28日設定登録(商標登録第4276682号)が
された。
カ 控訴人表示四は,控訴人表示目録四記載のとおり,デザイン化された3
本の矢を,長い1本の矢を真ん中に,それよりやや短い2本の矢を両側に略「山」
字に配し,これを二重円で囲んだ図形の下部に円の内側に沿ってピエトロ・ベレッ
タに由来する「P.BERETTA」の欧文字を,デザイン化された白抜き文字で横書きして
配したものであり,控訴人実銃M92FS(A甲1の33頁)及び同M92SB(A甲1の6
1頁)のグリップ両側の刻印などとして使用され,また,控訴人模型銃のケース表
面(A甲34-1),控訴人ベレッタのティーシャツ(A甲34-5~8)にも使
用されている。同標章は,控訴人ベレッタにより,指定商品を第28類「おもちゃ
のけん銃,その他のおもちゃ」とする商標について,平成9年10月8日に商標登
録出願がされ,平成11年5月28日設定登録(商標登録第4276684号)が
された。
キ 控訴人表示五は,控訴人表示目録五記載のとおり,デザイン化された3
本の矢を,長い1本の矢を真ん中に,それよりやや短い2本の矢を両側に略「山」
字に配し,これを二重円で囲んだ図形であり,控訴人実銃M98SBCOMPACT(A甲1の
62頁)のグリップ右側の刻印などとして使用され,また,控訴人ベレッタ作成の
1996年(平成8年)版会社案内(A甲9)及び同カタログ(A甲31)の表
紙,控訴人模型銃のケース裏面(A甲34-2),バッグ(甲34-3)にも使用
されている。同標章は,控訴人ベレッタにより,指定商品を第28類「おもちゃの
けん銃,その他のおもちゃ」とする商標について,平成9年10月8日に商標登録
出願がされ,平成11年5月28日設定登録(商標登録第4276683号)がさ
れた。
ク 控訴人表示六は,控訴人表示目録六記載のとおり,準サブマシンガンと
しての機能を有する控訴人実銃M93Rの名称である「M93R」の文字を,通常の活字体
で横書きしてなるものである。なお,控訴人実銃M93Rに同表示が付されていること
を認めるに足りる証拠はなく,控訴人ベレッタ作成の1996年(平成8年)版会
社案内(A甲9)及び同カタログ(A甲31)にも,同表示は見当たらない。
ケ 控訴人表示七-1は,控訴人表示目録七-1記載のとおり,控訴人ベレ
ッタが1983年(昭和58年)に発表した控訴人実銃M92Fの名称である「M92F」
中の「92F」の文字を,通常の活字体で横書きしてなるものであり,控訴人表示七-
2は,控訴人表示目録七-2記載のとおり,上記名称「M92F」の文字を,通常の活
字体で横書きしてなるものである。なお,控訴人実銃M92FS(A甲1の33頁)及び
同M92FSCOMPACT(同43頁)のスライド右側側面の刻印の一部に「MOD.92FS」ない
し「MOD.92F」ないしの文字が使用されているが,控訴人実銃M92Fに控訴人表示七-
1,2と同一と認められる表示が付されていることを認めるに足りる証拠はなく,
控訴人ベレッタ作成の1996年(平成8年)版会社案内(A甲9)及び同カタロ
グ(A甲31)にも,同表示は見当たらない。
コ 控訴人表示八は,控訴人表示目録八記載のとおり,控訴人ベレッタが1
995年(平成7年)に発表したセミコンパクト・オートマチック・ピストル控訴
人実銃M8000COUGARの名称である「M8000COUGAR」の文字を,通常の活字体で横書
きしてなるものである。なお,控訴人実銃M8000COUGARF(A甲1の243頁)の
スライド右側側面の刻印の一部に「MOD.8000COUGARF」の文字が使用されている
が,控訴人実銃M8000COUGARに控訴人表示八と同一と認められる表示が付されてい
ることを認めるに足りる証拠はなく,控訴人ベレッタ作成の1996年(平成8
年)版会社案内(A甲9)及び同カタログ(A甲31)にも,同表示は見当たらな
い。
(2)控訴人実銃に係る控訴人各表示について,まず,書籍の記載を見ると,
「ベレッタ・ストーリー」(A甲1)は,控訴人ベレッタの歴史及びその製造,販
売に係るセミ・オートマチック・ピストルについて解説した文庫本であり,同書籍
には,上記ウないしキ記載のとおり,控訴人表示一ないし五が刻印された控訴人実
銃の写真が掲載されているほか,これら写真の表題及び説明,本文,並びに「凡
例・使用説明」(244頁~254頁)中には,控訴人表示一ないし五,七-2及
び八が記載されている。また,雑誌の記載を見ると,「GUN」昭和56年12月号
(A甲13)には,「米軍次期制式拳銃最新情報」との表題の下,スライド左側面
に控訴人表示二が,グリップ左側面に控訴人表示四が刻印された控訴人実銃M92Sの
写真が掲載され(52頁),「以上,気の狂いそうな要求性能。まさに米軍はスー
パー・ピストルの採用をめざしているわけだ。・・・希望メーカーはS&W,ベレッ
タ,H&K,SIG/Sauer,コルトの5社で,トライアル・テストのスタートは9月15
日と決められた。・・・おもしろいことに要求性能をほぼ満たせたのはS&Wとベレッ
タだけで」(53頁中上欄~右上欄)と記載され,昭和60年4月号(A甲14)
には,「特報!ベレッタM92SB-F米軍制式となる!」との表題の下,スライド左側面
に控訴人表示二が,グリップ左側面に控訴人表示四が刻印された控訴人実銃M92SBの
写真が掲載され,「1月14日朝,U.S.アーミー報道官・・・は1981年以来,
えんえんと続けられていたU.S.サイドアーム・トライアルの最終結果を発表した。
選ばれたのはベレッタM92SB-Fである。・・・ベレッタM92SBシリーズはトップ・ク
ラスのミリタリー・オート・ピストル。米軍用として十分期待に応えてくれるはず
だ」(頁不明左上欄~右下欄)と記載され,昭和60年8月号(A甲15)には,
表紙に,スライド左側に控訴人表示二,三が,グリップ左側に控訴人表示四が刻印
された控訴人実銃M92SB-Fの写真が掲載され,「米軍新制式拳銃ベレッタM92SB-F」
との表題の下,グリップ右側面に控訴人表示四が刻印された同実銃の写真及びその
データが掲載され(21頁),平成2年6月号(A甲17)には,「アメリカ軍制
式拳銃のすべて」との表題の下,スライド左側面に控訴人表示二が,グリップ両側
面に控訴人表示四が刻印された控訴人実銃M92F等の多数の写真と共に,同実銃に関
するレポート記事が記載され(10頁~21頁),「コンバットマガジン」昭和6
0年11月号(A甲16)にも,控訴人実銃M92SB-Fに関する同様の記事が掲載され
(8頁~12頁),「GUN」昭和57年5月号(A甲18)には,「BERETTA・M93R」
との表題の下,スライド左側面に控訴人表示二が刻印された控訴人実銃M93Rの多数
の写真と共に,同実銃に関するレポート記事が記載され(56頁~72頁),平成
7年10月号(A甲20)にも,「BERETTAM93R ベレッタ社製小型マシン・ピス
トル」との表題の下,控訴人実銃M93Rに関する同様の記事が掲載され(46頁~5
9頁),「特殊部隊の最新ウェポン」(A甲19)には,上記同様の控訴人実銃
M93Rの写真と共に,同実銃を紹介する記載がされ(92頁),「アームズマガジ
ン」平成7年4月号(A甲21)には,グリップ右側面に控訴人表示四が刻印され
た控訴人実銃M8000COUGARの写真と共に,「ベレッタの新シリーズとして登場した
モデル8000クーガー。ベレッタの象徴であったスライドの切り欠きがなくなってい
る」との記載がされ(26頁最上段中央),平成9年5月号(A甲24)には,ス
ライド左側面に控訴人表示二が,グリップ左側面に控訴人表示三が刻印された控訴
人実銃M8000COUGAR及びグリップ右側面に控訴人表示四が刻印された控訴人実銃
M8040D等の写真と共に,「まだ発売されてそれほど日のたっていないベレッタ社の
M8000クーガーに新バリエーションが登場。・・・9mmモデルがM8000F,.40S&Wモデ
ルがM8040Fだ。ダブルアクションオンリーのDタイプも発売された」との記載がされ
(10頁),同年6月号(A甲26)には,「BERETTAM8000FCOUGAR」の表題の
下,スライド左側面に控訴人表示二が,グリップ両側面に控訴人表示四が刻印され
た控訴人実銃M8000COUGARの多数の写真と共に,同実銃に関するレポート記事が記
載され(10頁~15頁),「GUN」平成8年8月号(A甲23)(46頁~59
頁),平成9年6月号(A甲25)(52頁~61頁),「コンバットマガジン」
平成8年3月号(A甲22)(6頁~19頁)及び「アームズマガジン」平成9年
6月号(A甲26)(10頁~15頁)にも,控訴人実銃M8000COUGARに関する同
様の記事が掲載されている。そのほか,「GUN」平成2年6月号(A甲161-
1),同年12月号(A甲164-1),平成3年6月号(A甲168),平成4
年6月号(A甲174),同年9月号(A甲177-1~3),平成5年6月号
(A甲180-1),同年8月号(A甲181),同年9月号(A甲182-1,
2),平成6年6月号(A甲186),同年10月号(A甲187-1~3),平
成8年5月号(A甲193-1,2),同年6月号(A甲194),同年10月号
(A甲195-1,2),平成9年1月号(A甲197),同年3月号(A甲19
8-1,2),同年5月号(A甲199-1),同年6月号(A甲200-1),
平成10年4月号(A甲203-1,2),同年6月号(A甲205-1),同年
9月号(A甲206-1),同年10月号(A甲207-1,2),平成11年1
月号(A甲208-1,2),同年3月号(A甲210-1),同年8月号(A甲
214-1,2),平成12年4月号(A甲222-1),同年6月号(A甲22
3-1),平成13年1月号(A甲227-1,2)及び同年4月号(A甲228
-1)等にも,控訴人実銃を紹介する記事,写真等が掲載されている。
  さらに,控訴人ベレッタの製造,販売に係るけん銃を模した玩具銃につい
ての記事が,「GUN」平成2年4月号(A甲159-1,2),同年5月号(A甲1
60),同年9月号(A甲162),同年11月号(A甲163),平成3年2月
号(A甲165-2,3),同年3月号(A甲166),同年4月号(A甲16
7),同年9月号(A甲169),同年12月号(A甲170),平成4年1月号
~3月号(A甲171~173),同年7月号(A甲175),同年8月号(A甲
176),平成6年1月号(A甲183),同年4月号(A甲184),平成7年
8月号(A甲189),同年9月号(A甲190-1),同年10月号(A甲19
1-2),平成8年2月号(A甲192),平成9年6月号(A甲200-2),
平成10年2月号(A甲201-2),同年3月号(A甲202-2),同年6月
号(A甲205-2),平成11年2月号(A甲209),同年3月号(A甲21
0-2),同年4月号(A甲211-1),同年6月号(A甲212-1),同年
7月号(A甲213),同年9月号~12月号(A甲215~218),平成12
年1月号(A甲219-1~4),同年2月号(A甲220),同年3月号(A甲
221),同年6月号(A甲223-2),同年7月号(A甲224),同年9月
号(A甲225)及び同年12月号(A甲226)等に掲載されている。
(3)平成5年6月12日付け産経新聞夕刊(A甲37)には,「P・ベレッタ
氏死去」との表題の下,「イタリアの武器製造会社ベレッタ社のピエールジュゼッ
ペ・ベレッタ氏が10日夜・・・死去した。・・・同氏は短銃などを米軍をはじめ
世界各国の軍に売り込み,販路を拡大し,15世紀創業のベレッタ社を国際的企業
に育て上げた」との記事が掲載された。また,朝日新聞記事データベース
/G-Searchによる新聞記事の要約(A甲38)によれば,朝日新聞昭和63年3月1
9日付け朝刊には,「リビアへの武器密輸で『ベレッタ』社の社長聴取 イタリ
ア」との記事が掲載され,平成4年9月16日付け朝刊,同年10月1日付け夕
刊,平成5年1月20日付け夕刊,同年2月24日付け朝刊,同年6月4日付け朝
刊,平成6年5月10日付け朝刊,同年11月25日付け朝刊,平成7年4月7日
付け朝刊,同年10月13日付け朝刊,平成8年10月8日付け朝刊,平成9年1
月11日付け夕刊,同年5月17日付け朝刊及び平成10年11月19日付け朝刊
には,控訴人実銃が使用された犯罪及び事故の記事が掲載されたことが認められ
る。
  控訴人ら訴訟代理人弁護士北新居良雄作成の平成11年9月1日付け報告
書(A甲36)並びに「GUN」平成2年6月号(A甲161-2),同年12月号
(A甲164-2.3),平成4年10月号(A甲178),平成5年1月号(A
甲179),同年6月号(A甲180-2),平成6年10月号(A甲187-
4),平成8年12月号(A甲196-1,2),平成10年2月号(A甲201
-1)及び同年3月号(A甲202-1)によれば,東京創元社発行イアン・フレ
ミング著井上一夫訳の小説「007」シリーズでは,主人公ジェームズ・ボンドが使用
するけん銃を「ベレッタ」として,光文社発行門田泰明著の小説「黒豹」シリーズ
では,主人公黒木豹介が使用するけん銃を「ベレッタ・ダブルアクションM92」とし
て引用されるなど,いくつかの小説で引用された。
  また,我が国で上映された映画「ダイハード」,同「ベレッタM92F 凶
弾」,同「スーパー・コップ'90」,同「いつかギラギラする日」,同「8マン」,
同「極東黒社会」,同「XX 美しき狩人」,同「GANGSTER 東京魔悲夜-外伝」,
同「XX 美しき機能」,同「ピースメーカー」,同「蘇る金狼」,同「ドーベルマ
ン」,同「ゼロ・ウーマン」,同「リーサル・ウェポン4」,同「スネーク・アイ
ズ」,同「鉄と鉛」,同「黒の天使vol.1」,同「シュリ」,同「NYPD15分署」及び
同「ユリョン」には,控訴人実銃ないしこれを模した模型銃(実銃か模型銃かは証
拠上明らかではない。)又は控訴人実銃を模した玩具銃(以下,控訴人実銃並びに
これを模した模型銃及び玩具銃を総称して,「ベレッタ銃」という。)が使用さ
れ,このことを紹介する記事が「GUN」誌上に掲載されているが,これらの映画に
は,ベレッタ銃以外の銃が共に使用されることも多く,また,これらの映画の画面
自体から使用されている銃がベレッタ銃であると識別することは困難である。
(4)「GUN」平成10年6月号に掲載されたC事件被控訴人の広告(A甲15
2)には,玩具銃の写真と共に「生まれ変わった92F!!・・・M92Fミリタリーモデ
ル新発売\2,900」と記載され,同年11月号に掲載された同被控訴人の広告(A甲
153)には,玩具銃の写真と共に「M8000COUGARG・・・M8000クーガーG新発売
\2,900」と記載され,平成11年12月号に掲載されたケーエスシーの広告(A甲
155)には,玩具銃の写真と共に「M8000クーガーF・・・\18,500」と記載され,
平成12年9月号に掲載されたケーエスシーの広告(A甲156)には,玩具銃の
写真と共に「洗練のプロフィールM92ELITE・・・\19,500」と記載され,同年12月
号に掲載されたケーエスシーの広告(A甲157)には,玩具銃の写真と共に「ス
テンレスシルバーフィニッシュ新登場!!M92FSINOX・・・\21,000」と記載され,
また,控訴人ウエスタンアームス代表者作成の平成13年3月15日付け報告書
(甲158)によれば,玩具銃メーカーによる控訴人実銃を模した玩具銃の広告
が,「GUN」,「コンバットマガジン」及び「アームズマガジン」に多数回にわたり
掲載されたことが認められる。
(5)平成9年12月6日日本映像出版第10刷発行の田宮俊作著「田宮模型の
仕事 木製モデルからミニ四駆まで」(A甲30),「GUN」平成2年11月号(A
乙1-1~3),同年12月号(A乙2-1~3),平成3年2月号(A乙4-1
~3),平成7年5月号(A乙9-1~4),平成8年4月号(A乙10-1~
3),平成6年1月号臨時増刊「エアーソフトガン&モデルガンオール・カタロ
グ'94」(A乙17-1~3),平成8年1月号臨時増刊「エアーソフトガン&モデ
ルガンオール・カタログ'96」(A乙19-1~3),平成9年9月号(A乙20-
1~3),平成10年1月号臨時増刊「エアーソフトガン&モデルガン・オール・
カタログ'98」(A乙21-1~3),同年1月10日成美堂出版発行の「最新エア
ガンカタログ'98」(A乙7-1~5),平成9年7月20日同発行の「最新エアガ
ンカタログ'97-'98」(A乙8-1~6),平成7年8月10日同発行の「最新エア
ガンカタログ'95-'96」(A乙14-1~3),「コンバットマガジン」同年2月号
(A乙18-1~3),同年4月号(A乙13-1~3),B事件被控訴人ケーエ
スシー企画室長b作成の平成14年8月25日付け「外観変更製品および玩具銃の
形態について」(A乙113),同年9月12日付け「報告書 ベレッタ社と
MGC社,および玩具銃との関連」(A乙114),同年11月1日付け「報告書 玩
具銃の著名性(実像)と実銃の著名性(虚像)」(A乙118-1),同「乙第1
36号証の1(注,A乙118-1)の,添付資料1の報告内容の礎となった集計
内容及び証拠資料一式」(A乙118-2),C事件被控訴人訴訟代理人弁護士原
正雄作成の平成15年3月13日付け「実銃許可数報告書」(C乙139),C事
件被控訴人作成の平成15年3月27日付け「アンケートはがき分析結果に関する
報告書」(C乙140-1),アンケートはがき(C乙140-4)及びC事件被
控訴人取締役c作成の「猟銃関係専門誌報告書」(C乙143)によれば,次の事
実を認めることができる。
ア 我が国においては,銃砲刀剣類所持等取締法により,実銃の所持が一部
の例外を除いて禁止されており,控訴人実銃は,いずれも合法的には一般に流通す
ることがなく,所持することもできないものであり,平成13年末において,各都
道府県公安委員会から所持の許可を受けた銃砲の数は,総数が43万5645丁,
うち猟銃が35万7571丁であり,上記許可を受けた銃砲のうちけん銃の数は,
試験・研究用が53丁,競技用が47丁の合計100丁にすぎず,けん銃の一般市
場はほとんど存在しない。なお,我が国には猟銃関係専門誌として,月刊発行部数
約7万部の「狩猟界」,同1万部の「全猟」があるが,控訴人ベレッタは,両誌に
広告を掲載したことはない。
イ 玩具銃には,実銃の外観を模しただけで,弾丸を発射する機能を有しな
いモデルガンと,空気やガスの圧力によって実際にプラスチック製の弾丸を発射で
きる機能が付加されたエアーソフトガンがあり,我が国では,昭和35年10月創
業の日本MGC協会(昭和56年に株式会社エムジーシーとなる。以下,併せて「エム
ジーシー」という。)が,おもちゃの銃を超える模型銃という意味合いを込めた
「モデルガン」の名称で販売を開始した。その後,エアーソフトガンが製造,販売
され,昭和60年ころからは,エアーソフトガンの占める割合が多くなるようにな
り,平成3年及び平成4年において,モデルガンの製造台数はエアーソフトガンの
1%以下である。
  我が国における玩具銃市場は,昭和48年には生産台数約35万丁,愛
好者数100万人,昭和53年には国内メーカー7社,生産台数約60万丁であ
り,その後,生産台数は平成元年の約365万台をピークに,平成2年約303万
台,平成3年約288万台,平成4年は約209万台と減少し,愛好者数も,平成
元年の250万人~300万人から,現在は150万人程度に減少したと推測され
ている。国内の玩具銃メーカーは,平成3年から平成12年までの間において,控
訴人ウエスタンアームス及び被控訴人ら,エムジーシーなど合計57社が営業活動
を行った。各玩具銃メーカーは,各実銃メーカーの製造,販売に係る各種実銃をモ
デルとして各種各様のモデルガン,エアーソフトガンをそれぞれ製造,販売してい
るが,これらは,いずれも現実に存在する実銃を基に,実物大でその形態や実銃本
体に刻印された表示まで忠実に再現したものも多いが,同じ実銃をモデルにしたも
のであっても,材質,重量,リアルさの程度及び玩具としての対象年齢,更にエア
ーソフトガンの場合は射弾性能等において種々の違いがあり,それに応じて販売価
格も様々である。
  玩具銃の商品名については,ほとんどの場合,商品名の全部又は一部に
基になった実銃の名称が単独で,あるいはその製造者名と併せて用いられ,それに
よってモデルとされた実銃が特定されている。そのため,メーカーは異なるが商品
名は同じというものも数多く存在する。
  玩具銃には,その本体に当該玩具銃を製造したメーカーを示す表示が付
されていないものと本体にメーカーを示す表示が併せて付されているものとがある
が,玩具銃本体にメーカーを示す表示がなくても,そのパッケージ等には,基にな
った実銃を特定する表示と共に当該モデルガンを製造したメーカーを示す表示が付
されている。
ウ 「GUN」,「コンバットマガジン」及び「アームズマガジン」等の銃関係
の専門雑誌には,控訴人実銃を始めとする実銃や射撃に関する記事,写真のほか,
玩具銃の紹介記事や宣伝広告が当該玩具銃の写真と共に掲載されているが,玩具銃
に関する記事や広告においては,まず,その玩具銃を製造したメーカー名のほか,
それがどの実銃をモデルにしたものかが玩具銃の商品名や当該実銃自体の名称をも
って明示された上,当該実銃の外観,質感,射弾動作メカニズムがいかにリアルに
再現されているかという点や,装弾数,命中精度等の射弾性能の点が主に記述され
ている。我が国で製造,販売されている玩具銃についての情報を一覧できるような
形で編集したカタログも出版されているが,これにも当該玩具銃を製造したメーカ
ー名,商品名等が掲載されている。
  控訴人実銃をモデルとしてその外観を実物大で模した玩具銃について
も,控訴人ウエスタンアームスを始め,多数の玩具銃メーカーによってかなり以前
から製造,販売され,これらの玩具銃の多くは,他の玩具銃と同様,基になった控
訴人実銃の形態や実銃本体に刻印された表示も再現されている。
エ 玩具銃の需要者は,上記イのとおり現在約150万人程度と推測される
が,そのうち上記銃関係の専門雑誌の購読者は,雑誌の販売部数から推計すると1
0%に満たず,また,C事件被控訴人作成の平成15年3月27日付け「アンケー
トはがき分析結果に関する報告書」(C乙140-1)及び平成11年12月ない
し平成15年2月までの間にC事件被控訴人が購入者から回収したアンケートはが
き(C乙140-4)によれば,「お買い上げ載いた商品を何で知りましたか?」
との質問欄について,「雑誌」の外,「店頭で見て」と回答する者も多く,「お買
い上げ載いた商品の・・・好きなところ」との質問欄について,約30%が連射機
能,電動機能などの玩具銃としての作動のおもしろさを挙げ,約14%が重量感,
表面仕上げ等の銃らしさが表現されていることを挙げ,実銃が好きであることを挙
げたものは回答1000件中7件であり1%に満たない。
(6)以上認定した事実に基づき,控訴人各表示の周知性又は著名性について判
断する。
 ア 控訴人表示一について
 控訴人表示一は,創始者であるベレッタ・ファミリーの「Beretta」の欧
文字を,通常の活字体の大文字「BERETTA」で横書きしてなるものである。そして,
ベレッタ銃は,「ベレッタ・ストーリー」や銃関係の専門雑誌である「GUN」,「コ
ンバットマガジン」及び「アームズマガジン」などのベレッタ銃を紹介する記事及
び玩具銃の広告等に,「ベレッタ○○」(○○はけん銃の機種名),「BERETTA○
○」(同)として,また,そのメーカーである控訴人ベレッタ自体も,「ベレッ
タ」,「ベレッタ社」として,多数回にわたって取り上げられていたことは上記認
定のとおりであり,「ベレッタ」及びその欧文字による表記を通常の活字体の大文
字で横書きしてなる控訴人表示一は,遅くとも平成2年ころまでには,控訴人ベレ
ッタの業務に係る実銃であることを示す商品等表示として玩具銃の取引者,需要者
の間に広く認識され,周知となっていたことが推認される(なお,控訴人表示一に
係る上記周知性の希釈化をいう被控訴人らの主張が採用し難いことは,後記3の(6)
のとおりである。)。
 しかしながら,他方,我が国には実銃の一般市場はほとんど存在しない
上,控訴人ベレッタの我が国への輸出額は,控訴人ベレッタ代表者作成の陳述書
(A甲11)によれば,実銃,衣類,アクセサリー,靴,皮革製鞄,眼鏡,時計,
ナイフ等を含め,平成元年ないし平成10年までの間,1年当たり15億0900
万伊リラないし52億5000万伊リラ(当裁判所に顕著な平成12年末の外国為
替相場である100伊リラにつき5円で換算すると,7545万円ないし2億62
50万円)であって,それ自体,客観的な資料に裏付けられているわけではなく,
上記認定の玩具銃市場の規模・程度に加え,控訴人ベレッタが我が国において宣伝
広告を行ったことを認めるに足りる証拠はないことなどにかんがみると,控訴人表
示一は,控訴人ベレッタの業務に係る実銃であることを示す商品等表示として玩具
銃の取引者,需要者の間に著名なものとなっていたと認めることはできず,また,
実銃の取引者,需要者の間に著名なものであったとしても,我が国における実銃の
上記特殊性に照らすと,その取引者,需要者は,極めて少数の者に限定されるか
ら,不正競争防止法2条1項2号にいう「著名な商品等表示」に当たると
いうことはできない。
イ 控訴人表示二について
  控訴人表示二は,控訴人ベレッタの事業を大きく発展させたピエトロ・
ベレッタ(PietroBeretta)の欧文字を,通常の活字体の大文字「PIETRO
BERETTA」で横書きしてなるものである。そして,控訴人実銃M92S,同M92FS,同
M93R,同M8000COUGARなど多くの控訴人実銃のスライド左側面の刻印などとして使
用され,その実銃の写真が「ベレッタ・ストーリー」(A甲1)及び雑誌等に掲載
されたことは上記のとおりである。しかしながら,ピエトロ・ベレッタは,「ベレ
ッタ・ストーリー」に紹介されているものの,特にこれを取り上げた刊行物等は他
に見当たらず,それ自体を周知,著名なものということはできない。また,上記刻
印は,いずれも無色の小さなもので,字体も通常の活字体であって,目立つもので
はなく,上記写真から直ちに刻印が判読できるほど明りょうなものでもなく,控訴
人表示二が,宣伝広告等に使用されたことを認めるに足りる証拠もない。そうする
と,控訴人表示二が,控訴人ベレッタの実銃であることを示す商品等表示として需
要者の間に広く認識されていたものとは認め難い。
ウ 控訴人表示三ないし五について
 控訴人表示三は,ピエトロ・ベレッタのイニシアル「PB」の欧文字を,
デザイン化された白抜きの文字で横書きして二重の横長楕円図形で囲んだものであ
り,控訴人表示四は,デザイン化された3本の矢を,長い1本の矢を真ん中に,そ
れよりやや短い2本の矢を両側に略「山」字に配し,これを二重円で囲んだ図形の
下部に円の内側に沿ってピエトロ・ベレッタに由来する「P.BERETTA」の欧文字を,
デザイン化された白抜きの欧文字で横書きして配したものであり,控訴人表示五
は,デザイン化された3本の矢を,長い1本の矢を真ん中に,それよりやや短い2
本の矢を両側に略「山」字に配し,これを二重円で囲んだ図形である。そして,控
訴人表示三は,控訴人実銃92SBコンパクト・モデル,同コンパクト・タイプM,同
M1919,同M1919/26などのグリップ両側又は片側側面の刻印,同M8000COUGARのスラ
イド左側面の刻印などとして使用され,控訴人表示四は,控訴人実銃M92FS及び同
M92SBのグリップ両側の刻印などとして使用されているほか,控訴人模型銃のケース
表面,控訴人ベレッタのティーシャツにも使用され,控訴人表示五は,控訴人実銃
M98SBCOMPACTのグリップ右側の刻印などとして使用されるとともに,控訴人ベレッ
タ作成の1996年(平成8年)版会社案内(A甲9)及び同カタログ(A甲3
1)の表紙,控訴人模型銃のケース裏面,バッグにも使用されている。そして,そ
の実銃の写真が「ベレッタ・ストーリー」(A甲1)及び雑誌等に掲載されたこと
は上記のとおりである。しかしながら,上記刻印は,金色のものもあるが,ほとん
どは無色のものであって,さほど目立つものではない。また,上記会社案内及びカ
タログは,いずれも英文のものであって,我が国の需要者を対象としたものとは認
められず,控訴人模型銃の我が国への輸出数も上記のとおりごく少量であり,上記
ティーシャツの販売数も不明である。そうすると,控訴人表示三ないし五が,控訴
人ベレッタの実銃であることを示す商品等表示として需要者の間に広く認識されて
いたものとは認め難い。
エ 控訴人表示六ないし八について
 控訴人表示六は,準サブマシンガンとしての機能を有する控訴人実銃
M93Rの名称である「M93R」の文字を,通常の活字体で横書きしてなるものであり,
控訴人表示七-1は,控訴人ベレッタが1983年(昭和58年)に発表した控訴
人実銃M92Fの名称である「M92F」中の「92F」の文字を,通常の活字体で横書きして
なるものであり,控訴人表示七-2は,上記名称「M92F」の文字を,通常の活字体
で横書きしてなるものであり,控訴人表示八は,控訴人ベレッタが1995年(平
成7年)に発表したセミコンパクト・オートマチック・ピストル控訴人実銃M8000
COUGARの名称である「M8000COUGAR」の文字を,通常の活字体で横書きしてなるも
のである。しかしながら,控訴人表示六は,控訴人実銃M93R自体に付されているこ
とを認めるに足りる証拠はなく,控訴人表示七-1,2は,これらと同一と認めら
れる表示が控訴人実銃M92Fに付されていることを認めるに足りる証拠はなく,控訴
人表示八は,これと同一と認められる表示が控訴人実銃M8000COUGARに付されてい
ることを認めるに足りる証拠はない。
 ところで,「ベレッタ・ストーリー」(A甲1)には,控訴人実銃の写
真の表題及び説明,本文,並びに「凡例・使用説明」中に,控訴人表示六,七-
2,八が記載され,また,雑誌「GUN」,「コンバットマガジン」及び「アームズマ
ガジン」には,控訴人実銃M92F,同M93R及び同M8000クーガーの多数の写真と共に,
同実銃に関するレポート記事が記載され,控訴人実銃の多数の写真と共に,これら
控訴人実銃に関するレポート記事が多数回にわたって掲載されたほか,上記控訴人
実銃を模した玩具銃について掲載された多数の記事や玩具銃メーカーによる控訴人
実銃を模した玩具銃の広告中にも,控訴人実銃を表す表示として,控訴人表示六な
いし八が使用された。しかしながら,これらの雑誌の購読者は,玩具銃の需要者の
10%に満たない上,その記事及び広告には,ベレッタ銃のほか,スミス・アン
ド・ウェソン・コープ(以下「スミス・アンド・ウェソン社」という。),コルト
社,ワルサー社,ルガー社,ラーマ(ガビロンド社),タンホグリオ社等,多数の
実銃メーカー及びその製造,販売に係るけん銃やこれを模した玩具銃が記載され,
そのけん銃の機種名が,M4006(スミス・アンド・ウェソン社),P88(ワルサー
社),P94DC(ルガー社),M87(ラーマ〔ガビロンド社〕),M90S(タンホグリオ
社)等多数記載されている。このように,けん銃の機種名として,アルファベット
と数字を組み合わせてなるものが極めて多く,また,控訴人実銃M92F,同M93R及び
同M8000COUGARは,控訴人表示七-1「92F」と冒頭の「M」を省略し,あるいは実
銃の刻印のように「MOD.92F」,「MOD.93R」,「MOD.8000COUGARF」と表示される
こともあることから,控訴人表示六,七-2,八の冒頭の「M」は,「型」を意味す
る英語「model」を省略した表示であると推認され,これに接する需要者にも,そう
いう意味の表示にすぎないものとして認識されるものと認められる。そうすると,
2桁の数字とアルファベット1字を組み合わせたにすぎない控訴人表示七-1並び
に「model」の意味の表示にすぎない「M」に2桁の数字とアルファベット1字を組
み合わせたにすぎない控訴人表示六及び七-2は,いずれもけん銃の名称として,
ごくありふれたものであり,需要者に機種を示す単なる記号番号として認識される
にすぎないものと認められる。また,控訴人表示八の後半部分の「COUGAR」は,
「アメリカライオン」を意味する英語である(当裁判所に顕著)が,けん銃の名称
中には,上記のようなアルファベットと数字の組合せに続けて,「EAGLE」(イーグ
ル),「MAGNUM」(マグナム),「MILITARY」(ミリタリー)などの英語の名詞を
組み合わせたものも多く存在する。そして,我が国において,多数の実銃メーカー
の製造,販売に係る多数のけん銃が紹介されている中で,控訴人表示六ないし八に
ついて,書籍,雑誌等に上記の記載がされていても,このことは,他の実銃メーカ
ーの製造,販売に係る多数のけん銃についても同様であったことが推認されるとこ
ろ,控訴人表示六ないし八のみが,書籍,雑誌に取り上げられた回数やその宣伝広
告の量などにおいて,他の多数のけん銃と比較して,歴然とした差異があったこと
を認めるに足りる証拠はない。したがって,控訴人表示六ないし八が,控訴人ベレ
ッタの実銃であることを示す商品等表示として需要者の間に広く認識されていたも
のとは認め難い。
(7)そうすると,控訴人各表示のうち,控訴人らの業務に係る著名な商品等表
示に当たるものはなく,また,控訴人らの業務に係る商品等表示として需要者の間
に広く認識されているものは,控訴人表示一のみであるから,控訴人らのB事件被
控訴人ら及びC事件被控訴人に対する不正競争防止法2条1項2号所定の不正競争
を理由とする請求,並びに被控訴人らに対する同項1号所定の不正競争を理由とす
る請求のうち,控訴人表示二ないし八に基づく請求は,いずれも,その余の点につ
いて判断するまでもなく,理由がないというべきである。
2 被控訴人商品について
 A~C事件被控訴人表示一と控訴人表示一が同一の表示であることは,上記
のとおり当事者間に争いがないから,被控訴人商品においてA~C事件被控訴人表
示一が使用されているか否かについて検討する。
(1)A事件被控訴人商品
 使用説明書(A甲4),BerettaM93R玩具銃(A検甲1)及び同パッケー
ジ上箱(A検甲2)によれば,次の事実を認めることができる。
 A事件被控訴人商品(A検甲1)は,「ベレッタM93R」という商品名の控
訴人実銃M93Rの外観を模したエアーソフトガンであり,その商品名は,基になった
実銃の名称及びその製造者である控訴人ベレッタの名称に由来する。
 A事件被控訴人商品は,エアーソフトガンとしての機能上必要な部分を除
き,控訴人実銃M93Rとほぼ同一の形状,色合いを有するとともに,スライド左側面
の「PIETROBERETTA」(A事件被控訴人表示二),「GARDONEV.T.CAL.9
Parabellum」,同右側面の「P.B.-MOD.93R」という表示,フレーム左側面に付さ
れた製造番号と思われるアルファベットと数字からなる7桁の記号番号が,同控訴
人実銃と同一の位置に忠実に再現されているが,スライド右側面には控訴人実銃
M93Rと異なり「MADEINJAPAN」の表示があり,フレーム右側面には製造者を示
す「MARUZEN」の表示も付されている。
 A事件被控訴人商品のパッケージ上箱(A検甲2)及び使用説明書(A甲
4)には,同商品の外観を示す写真や図面,その商品名を示す「Beretta」及
び「M93R」(A事件被控訴人表示五)の表示が随所に付されているが,それととも
に,同商品がエアーソフトガンであることやその対象年齢が18歳以上であるこ
と,エアーソフトガンとしての機能・性能,使用方法の説明,使用上の注意,製造
者を示す「MARUZEN」ないし「マルゼン」の表示等も,併せて記載されている。
(2)B事件被控訴人商品
 M93Rファーストバージョン玩具銃(B検甲1-1),同パッケージ上箱
(B検甲1-2),M93Rオート9玩具銃(B検甲2-2),同パッケージ上箱(B検
甲2-1),M93Rスーパーカスタム玩具銃(B検甲3-1),同パッケージ上箱
(B検甲3-2),M93Rロングコンプカスタム玩具銃(B検甲4-1),同パッケ
ージ上箱(B検甲4-2),M93Rセカンドバージョン玩具銃(B検甲5-1)及び
同パッケージ上箱(B検甲5-2)によれば,次の事実を認めることができる。
ア B事件被控訴人商品一(B検甲1-1)は,「ベレッタM93Rファースト
バージョン」という商品名の,同五(B検甲5-1)は,「ベレッタM93Rセカンド
バージョン」という商品名の,いずれも控訴人実銃M93Rの外観を模したエアーソフ
トガンであり,その商品名の一部は,基になった上記控訴人実銃の名称及びその製
造者である控訴人ベレッタの名称に由来する。
  B事件被控訴人商品一については,同商品及びそのパッケージ等にB事
件被控訴人表示一が付されていることを認めるに足りる証拠はない。
  B事件被控訴人商品五は,控訴人実銃M93Rとほぼ同一の形状を有し,ス
ライド右側面の「P.B.-MOD.93R」,「MADEINITALY」,同左側面の「PIETRO
BERETTA」(B事件被控訴人表示二),「GARDONEV.T.CAL.9Parabellum」という表
示や,フレーム左側面の製造番号と思われるアルファベットと数字からなる7桁の
番号が,同控訴人実銃と同一の位置に忠実に再現されているが,フレーム右側面に
は製造者を示す「KSC」の表示も付されている。また,そのパッケージ上箱(B検甲
5-2)には,同商品の外観を示す写真,その商品名を示す「BERETTA」(B事件被
控訴人表示一)と「93R」を続けた表示が随所に付されているが,それとともに,
同商品がエアーソフトガンであることやその対象年齢が18歳以上であること,使
用上の注意,製造者を示す「KSC」の表示等も,併せて記載されている。
イ B事件被控訴人商品二(B検甲2-2)は,「m93Rオート9」という商品
名の,同三(B検甲3-1)は,「ベレッタM93Rスーパーカスタム」という商品名
の,同四(B検甲4-1)は,「ベレッタM93Rロングコンプカスタム」という商品
名の,いずれも控訴人実銃M93Rの基本的な外観を模したエアーソフトガンであり,
その商品名の一部は,基になった控訴人実銃の名称及びその製造者である控訴人ベ
レッタの名称に由来するが,これらと同一の形状を有する控訴人実銃は存在しな
い。
  B事件被控訴人商品二については,同商品及びそのパッケージ等にB事
件被控訴人表示一が付されていることを認めるに足りる証拠はない。
  B事件被控訴人商品三,四については,控訴人実銃M93Rと異なり,銃口
部が膨大に角ばって形成されている。もっとも,いずれも,控訴人実銃M93Rと同
様,スライド左側面に「PIETROBERETTA」(B事件被控訴人表示二),同右側面
に「P.B.-MOD.93R」,「MADEINITALY」の表示があり,また,フレーム左側面
に製造番号と思われるアルファベットと数字からなる7桁の記号番号も付されてい
る。また,そのパッケージ上箱(B検甲3-2,4-2)には,同商品の外観を示
す写真,その商品名を示す「BERETTA」(B事件被控訴人表示一)と「M93R」を続け
た表示が随所に付されているが,それとともに,同商品がエアーソフトガンである
ことやその対象年齢が18歳以上であること,使用上の注意,製造者を示す「KSC」
の表示等も,併せて記載されている。
ウ B事件被控訴人商品六(B検甲6-1)については,同商品及びそのパ
ッケージ等にB事件被控訴人表示一が付されていることを認めるに足りる証拠はな
い。
(3)C事件被控訴人商品
 92FBERETTA玩具銃(C検甲1),同パッケージ上箱(C検甲2),同取扱
説明書(C検甲4),M92FUSMILITARYMODEL玩具銃(C検甲6),同パッケージ
上箱(C検甲7),同取扱説明書(C検甲8),写真(C甲232),「東京マル
イ製 ベレッタ商品 侵害項目一覧表(商品表示)」(C甲252-14)及び写
真帳(C甲252-17)によれば,次の事実を認めることができる。
ア C事件被控訴人商品一(C検甲1)は,「ベレッタ92F」という商品名
の,同二は,「ステンレスタイプ・ベレッタ92F」という商品名の,同三(C検甲
6)は,「M92Fミリタリーモデル」という商品名の,いずれも控訴人実銃M92Fの外
観を模したエアーソフトガンであり,その商品名の全部又は一部は,基になった控
訴人実銃の名称及びその製造者である控訴人ベレッタの名称に由来する。
  C事件被控訴人商品一,二は,いずれも控訴人実銃M92Fとほぼ同一の形
状を有するとともに,スライド両側面やグリップ両側面中央部分に付された表示
(C事件被控訴人表示二ないし四),「MOD.92F」という表示や,フレーム左側面の
製造番号と思われるアルファベットと数字からなる7桁の記号番号までもが,同控
訴人実銃と同一の位置に忠実に再現されている。
  C事件被控訴人商品三については,スライド両側面やグリップ両側面中
央部分に控訴人実銃M92Fに付されている表示と同一の表示(C事件被控訴人表示二
ないし四),「MOD.92F」という表示が付されているわけではなく,スライド右側面
には「MARUICo.Ltd.」,「MADEINJAPAN」の表示が,同左側面にはC事件被控
訴人表示六が付され,グリップ両側面中央部分にはC事件被控訴人表示七が付され
ている。
  C事件被控訴人商品一ないし三のパッケージ及び取扱説明書には,いず
れも当該商品の外観を示す写真,その商品名を示すC事件被控訴人表示一,五の1
又はC事件被控訴人表示五の2が随所に付されているが,それとともに,当該C事
件被控訴人商品がエアーソフトガンであることやその対象年齢が18歳以上である
こと,エアーソフトガンとしての機能・性能,使用方法の説明,使用上の注意,製
造者を示す「MARUI」ないし「東京マルイ」の表示等も,併せて記載されている。
イ C事件被控訴人商品四については,同商品及びそのパッケージ等にC事
件控訴人表示一が付されていることを認めるに足りる証拠はない。
(4)そうすると,B事件被控訴人商品一,二及び六,並びにC事件被控訴人商
品四については,控訴人表示一と同一の商品等表示が使用されていないのであるか
ら,控訴人らの同被控訴人らに対する控訴人表示一に基づく請求のうち,上記各商
品に係るものについては,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
次に,控訴人ベレッタの業務に係る実銃であることを示す周知の商品等表示である
控訴人表示一と同一の商品等表示が使用されている,A事件被控訴人商品(なお,
同商品に係る「Beretta」の表示と控訴人表示一「BERETTA」との同一性について
は,ひとまず肯定した上で検討を進める。),B事件被控訴人商品三ないし五,C
事件被控訴人商品一ないし三(以下,これらを「被控訴人各商品」という。)及び
これらのパッケージ等について,被控訴人らは,上記表示はモデルとされた実銃の
種類,品質を示しているにすぎず,玩具銃の出所表示の機能を有する商品等表示と
しての使用には当たらないと主張する。しかしながら,不正競争防止法2条1項1
号にいう「混同を生じさせる行為」には,他人の周知の商品等表示と同一又は類似
のものを使用する者が自己と当該他人とを同一営業主体として誤信させるおそれの
ある行為のみならず,両者間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関
係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係が存在すると誤信
させるおそれのある行為(以下「広義の混同惹起行為」という。)をも含むものと
解するのが相当であり(最高裁平成10年9月10日第一小法廷判決・裁判集民事
189号857頁参照),控訴人実銃においては,控訴人表示一が控訴人ベレッタ
の業務に係る実銃であることを示す商品等表示として使用されていることは上記の
とおりであるから,実銃を模した玩具銃を製造,販売するに当たり,実銃に付され
た実銃メーカーの業務に係る商品等表示の使用について,実銃メーカーの許諾を得
る慣行が確立し,このような慣行の存在について取引者,需要者の認識が定着して
いる場合には,被控訴人各商品に控訴人表示一を付すことが,広義の混同惹起行為
に該当することもあり得るというべきである。したがって,被控訴人各商品に控訴
人表示一を付すことが,直ちに商品等表示としての使用に当たらないということは
できない。そこで,進んで,被控訴人各商品について,後記3の判断をする。
3 混同について
(1)本件において,控訴人らは,被控訴人各商品及びそのパッケージ等にA~
C事件被控訴人表示一を付すなどの被控訴人らの行為が,控訴人らの業務に係る周
知の商品等表示である控訴人表示一についての広義の混同惹起行為に当たる旨主張
し,さらに,玩具の商品分野においては,実物を模した玩具を製造,販売するに当
たって,実物の形態やそれに付された表示の使用について,実物メーカーの許諾を
得る慣行が既に確立しており,実銃と玩具銃の需要者層は,重複,共通すること,
控訴人ベレッタは,実銃のみならず,衣服類,くつ類,かばん類,帽子,ナイフ,
ライター,装飾品等の商品を自ら販売し,又は他社にライセンスを付与して販売
し,玩具銃についても,1985年(昭和60年)から1987年(昭和62年)
までイタリア企業に,1986年(昭和61年)から1991年(平成3年)まで
アメリカ企業にそれぞれライセンスを付与して製造,販売させ,最近では,控訴人
ウエスタンアームスと共同して世界的なライセンス活動を開始し,平成5年及び平
成6年には,実銃から稼働機構を除去した控訴人模型銃を製造し,日本で販売した
こともあることなどの具体的事実を主張する。
(2)この点について控訴人らが提出した主な証拠は,控訴人ベレッタと控訴人
ウエスタンアームス間の1997年(平成9年)6月17日付け契約書(A甲2-
1),平成8年10月16日日本玩具協会発行の「おもちゃの知的財産法Q&A」(A
甲27),商標使用に関する覚書(A甲28),商品化許諾基本契約書(A甲2
9),平成9年12月6日日本映像出版第10刷発行の「田宮模型の仕事」(A甲
30),「GUN」平成12年12月号掲載の3PS.A.社のライセンシー募集広告(A甲
46),「GUN」平成9年11月号掲載のマルゼンの広告(A甲48),株式会社ヨ
ネザワ(以下「ヨネザワ」という。)作成の「ワルサー社商標権に関する件」(A
甲49),「コンバットマガジン」平成10年1月号掲載のランパント・クラシッ
クの広告(A甲50),「アームズマガジン」平成10年1月号掲載のケーエスシ
ーの告知記事(A甲51),スミス・アンド・ウェソン社とグンゼ産業株式会社
(以下「グンゼ産業」という。)間の1993年(平成5年)9月1日付け「商標
ライセンス及びロイヤリティ契約書」(A甲52),日本模型新聞平成6年5月号
~平成12年11月号(A甲55~97),レ・トロワ・ピロンヌの商品カタログ
(A甲54),「GUN」平成元年2月号掲載のヨネザワの広告(A甲136),dの
1989年(平成元年)12月6日付け通知書(A甲138),「コンバットマガ
ジン」平成9年10月号掲載のマルゼンの広告(A甲139),「GUN」平成8年2
月号掲載の控訴人ウエスタンアームスの広告(A甲141),「ホビーズ
GTOPPRESS」平成9年9月号(A甲146),「コンバットマガジン」平成10年1
月号掲載のランパント・クラシックの広告(A甲147),「GUN」同年5月号掲載
の「スクープ」と題する記事(A甲148),「コンバットマガジン」平成11年
7月号掲載のザ・リアル・マッコイズ社の広告(A甲149),株式会社シェリフ
(以下「シェリフ」という。)及びタニオ・コバのインターネットのホームページ
(A甲150,151),「GUN」平成8年4月号~平成13年10月号掲載の広告
(A甲253-1~8,10~21),シェリフのインターネットのホームページ
(A甲253-9),「アームズマガジン」平成4年4月号掲載の記事(A甲25
3-22),「コンバットマガジン」平成13年12月号掲載の3PS.A.社の広告
(A甲253-23),日本航空発行の「JALSHOP」平成14年
8,9月号(A甲263)並びに玩具及びそのパッケージ(A検甲10,11,1
6~38の各1,2)などである。
(3)そこで,上記各証拠について,順次,検討する。
ア 平成8年10月16日日本玩具協会発行の「おもちゃの知的財産法Q&A」
(A甲27)は,玩具とは全く関係のない分野で使われている有名ブランドを玩具
のブランドとして使うことについての記載であって,模型に実物の形態やそれに付
された表示を使用する場合を想定したものではない。
イ 商標使用に関する覚書(A甲28),商品化許諾基本契約書(A甲2
9),平成9年12月6日日本映像出版第10刷発行の「田宮模型の仕事」(A甲
30),日本模型新聞平成6年5月号~平成12年11月号(A甲55~97),
日本航空発行の「JALSHOP」平成14年8,9月号(A甲263)並びに玩具及びそ
のパッケージ(A検甲10,11,16~38の各1,2)は,いずれも玩具銃に
関するものではなく,これらにより,直ちに,実物であるけん銃の一般市場がほと
んど存在しないという特別の事情が存在する玩具銃に関する慣行を認定することは
できない。
ウ 玩具銃に関するものは,控訴人ベレッタと控訴人ウエスタンアームス間
の1997年(平成9年)6月17日付け契約書(A甲2-1),「GUN」平成12
年12月号掲載の3PS.A.社のライセンシー募集広告(A甲46),「GUN」平成9年
11月号掲載のマルゼンの広告(A甲48),ヨネザワ作成の「ワルサー社商標権
に関する件」(A甲49),「コンバットマガジン」平成10年1月号掲載のラン
パント・クラシックの広告(A甲50),「アームズマガジン」平成10年1月号
掲載のケーエスシーの告知記事(A甲51),スミス・アンド・ウェソン社とグン
ゼ産業間の1993年(平成5年)9月1日付け「商標ライセンス及びロイヤリテ
ィ契約書」(A甲52),レ・トロワ・ピロンヌの商品カタログ(A甲5
4),「GUN」平成元年2月号掲載のヨネザワの広告(A甲136),dの1989
年(平成元年)12月6日付け通知書(A甲138),「コンバットマガジン」平
成9年10月号掲載のマルゼンの広告(A甲139),「GUN」平成8年2月号掲載
の控訴人ウエスタンアームスの広告(A甲141),「ホビーズGTOPPRESS」平成9
年9月号(A甲146),「コンバットマガジン」平成10年1月号掲載のランパ
ント・クラシックの広告(A甲147),「GUN」同年5月号掲載の「スクープ」と
題する記事(A甲148),「コンバットマガジン」平成11年7月号掲載のザ・
リアル・マッコイズ社の広告(A甲149),シェリフ及びタニオ・コバのインタ
ーネットのホームページ(A甲150,151),「GUN」平成8年4月号~平成1
3年10月号掲載の広告(A甲253-1~8,10~21),シェリフのインタ
ーネットのホームページ(A甲253-9),「アームズマガジン」平成4年4月
号掲載の記事(A甲253-22)及び「コンバットマガジン」平成13年12月
号掲載の3PS.A.社の広告(A甲253-23)などである。
エ 上記ウの各証拠について子細に検討すると,まず,「GUN」平成元年2月
号掲載のヨネザワの広告(A甲136)及び平成10年7月号掲載の記事(A甲2
53-12)には,実銃メーカーの許諾に関する記載は認められない。
  dの1989年(平成元年)12月6日付け通知書(A甲138)によ
れば,平成元年当時,玩具銃メーカーであるヨネザワが実銃メーカーであるワルサ
ーの登録商標につき許諾を得ていたことが認められるが,契約の具体的内容は不明
である。
オ 平成4年について,「アームズマガジン」同年4月号掲載の記事(A甲
253-22)によれば,玩具銃メーカーである株式会社ポイント(以下「ポイン
ト」という。)が,ウインチェスター・カービンM1892について実銃メーカーの許諾
を得たことが認められる。なお,上記銃はけん銃とは認められない。
カ 平成5年について,スミス・アンド・ウェソン社とグンゼ産業間の同年
9月1日付け「商標ライセンス及びロイヤリティ契約書」(A甲52)及び「GUN」
同年10月号掲載のグンゼ産業の広告(A甲253-20)によれば,実銃メーカ
ーであるスミス・アンド・ウェソン社と玩具銃メーカーであるグンゼ産業は,同年
9月1日,スミス・アンド・ウェソン社がグンゼ産業に対し,「スミス・アンド・
ウェソンの名称並びにその名称に関する登録商標・サービスマーク及びパブリシテ
ィ,別紙Aに表示された文字(注,「Smith&Wesson」及び「S&WMonogram」),
シンボル,意匠,同様物及び視覚的表示に限らず,それら全てに関する知的財産
権」(訳文1頁)をエアーソフトガンに使用することを許諾する旨の「商標ライセ
ンス及びロイヤリティ契約書」を締結したことが認められる。
キ 平成8年について,「GUN」同年2月号及び同年4月号掲載の控訴人ウエ
スタンアームスの広告(A甲141,253-1)には,控訴人ウエスタンアーム
スがビル・ウィルソンと「正式契約」を締結した旨の記載があるが,ビル・ウィル
ソンが実銃メーカーであるとは認められない。
ク 平成9年について,控訴人ベレッタと控訴人ウエスタンアームス間で,
控訴人ウエスタンアームスが控訴人ベレッタの業務に係る各種商品等表示を玩具銃
に付して使用することなどに関して全世界的な独占使用権を取得する旨の本件ライ
センス契約が締結されたほか,「コンバットマガジン」同年10月号及び「GUN」同
年11月号掲載のマルゼンの広告(A甲139,253-15)には,マルゼンの
玩具銃ワルサーPPK/S及び同P99につき「ワルサー社承認」との記載がある。また,
「ホビーズGTOPPRESS」同年9月号(A甲146)には,「米国レミントンアームズ
社と商標・製造ライセンス契約・・・(株)シェリフ・・・は,このほど米国レミ
ントンアームズ社と商標の独占使用と遊技銃製造に関わるライセンス契約を締結し
たと発表した」との記載があり,「GUN」同年12月号掲載のシェリフの広告(A甲
253-7)には,「本製品は,米国レミントン社の許諾に基づきシェリフが販売
するものです」との記載があるが,同広告に掲載された銃は,けん銃とは認められ
ない。なお,マルゼン及びシェリフが実銃メーカーと締結した契約の具体的内容は
不明である。
ケ 平成10年について,「GUN」同年1月号掲載の控訴人ウエスタンアーム
スの広告(A甲253-2)には,「ピエトロ・ベレッタとの正式契約を得て生ま
れ変わったM92FS」との記載があり,「コンバットマガジン」同年1月号及
び「GUN」同年1月号掲載のランパント・クラシックの広告(A甲50,147,2
53-17)には,「コルト正式公認 私達“ランパントクラシック”は・・・米
国COLT社の正式公認を受けました。したがって,ランパントクラシックは今後,日
本及び東南アジア全域において正式にCOLT社ロゴ(PMS287)及びCOLT社商標を使用
することができる“COLTOFFICIALLISENCEDCOMPANY”となり,また,今後当社の
製品には,COLT社からの全面協力が得られます」との記載がある。「アームズマガ
ジン」同年11月号掲載のケーエスシーの告知記事(A甲51)に
は,「KSC・・・GM系カスタムの新鋭メーカーSTI社と正式契約・・・実銃メーカー
のロゴ等の扱いに関するKSCの基本方針は『可能な限り実銃メーカーの承認を受けた
うえでロゴ等を使用したい』ということです」との記載が,「GUN」同年9月号掲載
のケーエスシーの広告(A甲253-6)には,「STI社と正式契約」との記載があ
る。
「GUN」同年5月号掲載の「スクープ」と題する記事(A甲148)には,「日本の
MGC社が,コルトとライセンス契約を結んだ。これによって,MGC社製コルト・ピス
トルには,全てオリジナルの刻印が打たれるようになる」との記載が,同年7月号
掲載のエムジーシーの広告(A甲253-10)には,「Colt」の商標についてコ
ルト社とエムジーシーとの間にライセンス契約が締結された旨の記載がある。な
お,実銃メーカーと締結した上記各契約の具体的内容は不明である。
コ 平成11年について,「コンバットマガジン」同年7月号掲載のザ・リ
アル・マッコイズ社の広告(A甲149)には,「Colt」の商標及び跳びはねるポ
ニーのロゴマークの使用権が極東地域ではザ・リアル・マッコイズ社に対してのみ
付与されている旨の記載がある。「GUN」同年12月号掲載のC事件被控訴人の広告
(A甲253-14)には,「U.S.ナイツ社正式認可」との記載がある。「GUN」同
年1月号掲載の控訴人ウエスタンアームスの広告(A甲253-3)には,同控訴
人の玩具銃COLTGOVERNMENTマークⅣSERIES'70,同M1911A1ミリタリー及び同
COMBATCOMMANDERにつき「コルト社正式契約・・・コルト社との正式契約を得て生ま
れ変わる45オート」との記載がある。「GUN」同年9月号掲載のKTWの広告(A甲2
53-21)には,玩具銃ワルサーP99につき「このワルサー・バナーは無断使用で
はなく,きちんとワルサー社の使用許諾を得て使われているものとのことだ」との
記載がある。なお,実銃メーカーと締結した上記各契約の具体的内容は不明であ
る。
サ 平成12年について,「GUN」同年7月号掲載の控訴人ウエスタンアーム
スの広告(A甲253-5)には,玩具銃S&Wショーティ・フォーティにつき「スミ
ス&ウェッソン社正式契約」との記載がある。シェリフのインターネットのホーム
ページ(A甲150)には,「SPRINGFIELDARMORY社の商標使用権を取得しまし
た。かねてより商標使用契約交渉をいたしておりました米国スプリングフィールド
社との契約を2000年2月某日契約が成立いたしました。弊社発売のスライド&
フレームにも,美しい刻印,を施すことが可能となりました」との記載があ
り,「GUN」同年4月号掲載のシェリフの広告(A甲253-8)には,玩具銃スプ
リングフィールドFBIspecialにつき「Springfield社のロゴ,及びマーク等
は,Sheriffにライセンスしたものです。無断使用は固く禁じます」との記載があ
る。タニオ・コバのインターネットのホームページ(A甲151)には,玩具銃
COLTコマーシャル・スライドにつき「2000年下期にタニオコバはフランス〈3P
コーポレーション〉との許諾契約によりCOLTの商標使用権を獲得しました」との記
載がある。また,「GUN」同年12月号掲載の3PS.A.社の広告(A甲46)に
は,「COLT」の商標につき「マルシン」,「ウエスタンアームズ」,「ランパント
クラシック」が,「UZI」の商標につき「マルゼン」,「東京マルイ」
が,「Smith&Wesson」の商標につき「マルシン」,「ウエスタンアームズ」
が,3PS.A.社からライセンスを受けた我が国の企業として記載されているが,その
契約の具体的内容は不明である。
シ 平成13年について,「コンバットマガジン」同年12月号掲載の
3PS.A.社の広告(A甲253-23)には,「COLT」の商標につき「マルシン」,
「ウエスタンアームズ」,「ランパントクラシック」,「ホビーフィックス」,
「タニオ・コバ」,「タップス」,「東京マルイ」,「ジーショット」,「タナ
カ」が,「UZI」の商標につき「マルゼン」,「東京マルイ」が,「Smith&Wesson」
の商標につき「マルシン」,「ウエスタンアームズ」,「ハートフォード」,「タ
ナカ」,「ホビーフィックス」が,3PS.A.社からライセンスを受けた我が国の企業
として記載されているが,その契約の具体的内容は不明である。
(4)他方,「GUN」臨時増刊「GUNsDIGEST」平成3年~平成12年(C乙11
1~120)及びC事件被控訴人取締役c作成の「『別表1』作成報告書」(C乙
122)によれば,我が国の玩具銃メーカー及び実銃を模して製造,販売された玩
具銃の機種数は,平成3年が30社,440機種,平成4年が30社,501機
種,平成5年が26社,409機種,平成6年が25社,449機種,平成7年が
27社,466機種,平成8年が28社,389機種,平成9年が25社,436
機種,平成10年が25社,466機種,平成11年が24社,484機種,平成
12年が30社,474機種である。そうすると,平成3年は玩具銃メーカー30
社中,実銃メーカーの許諾を得たものはヨネザワ1社,平成4年は,仮に,上記の
許諾が継続していたことを前提にしても(以下,同様の前提とする。),30社中
ヨネザワ及びポイントの2社,平成5年ないし平成8年は,グンゼ産業が加わり2
5~28社中3社,平成9年は,控訴人ウエスタンアームス,マルゼン及びシェリ
フが加わり25社中6社,平成10年は,ランパントクラシック,ケーエスシー及
び新日本模型が加わり25社中9社,平成11年はザ・リアル・マッコイズ社及び
C事件被控訴人が加わり24社中11社,平成12年はタニオ・コバが加わり30
社中12社となる。しかしながら,上記許諾を受けた玩具銃メーカー数は,いった
ん実銃メーカーから受けた許諾がその後も継続していることを仮定としている上,
玩具銃の基になった実銃の機種数及びその実銃メーカー数は多数に上るところ,上
記許諾を受けた玩具銃メーカー数は,その製造,販売する多数の玩具銃のうち1機
種でも許諾を得たことのあるものは1社として計上していることを考慮すると,玩
具銃の商品分野において,実物の形態やそれに付された表示の使用について,実銃
メーカーの許諾を得る例は,近時増加しつつあるものの,従前は長年にわたりごく
少数であって,今日にあってさえ,いまだ大勢を占めるまでには至っていないとい
うべきである。加えて,玩具銃のパッケージの写真(A乙111-1~7)及び上
記(3)ウに引用した各証拠によれば,玩具銃メーカーは,実銃メーカーの許諾を得た
玩具銃については,その広告や当該商品のパッケージに,その旨を明示しているこ
とが認められる。
  以上によれば,控訴人らの主張のように,玩具の商品分野においては,実
物を模した玩具を製造,販売するに当たり,実物の形態やそれに付された表示の使
用について,実物メーカーの許諾を得る慣行が既に確立しているということは,少
なくとも,玩具銃に係る玩具銃メーカーと実銃メーカーとの関係に関する限り,困
難というべきであり,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(5)また,控訴人らは,実銃と玩具銃の需要者層は,重複,共通するとも主張
するが,我が国にはけん銃の一般市場がほとんど存在しないことは上記のとおりで
ある上,実銃の所持には法律による厳しい規制があるのに対し,玩具銃の購入は自
由であり,両者の使用目的も全く異なるのであって,その取引者,需要者が異なる
ことは明らかである。すなわち,被控訴人各商品は,一般に流通することがなく,
所持することもできない実銃の外観を再現したエアーソフトガンであり,その基と
なった実銃とは別個の市場において,飽くまで本物と区別された商品として取引さ
れているものであり,玩具銃メーカーは,実銃メーカーの許諾を得た玩具銃につい
ては,その広告や当該商品のパッケージに,その旨を明示していること,被控訴人
各商品のパッケージ等には,当該商品がエアーソフトガンであること,エアーソフ
トガンとしての機能・性能,使用方法の説明,使用上の注意のほか,製造者である
被控訴人らを示す「MARUZEN」ないし「マルゼン」,「KSC」,「MARUI」ないし「東
京マルイ」の表示も併せて記載され,B事件被控訴人商品五及びC事件被控訴人商
品三については,商品本体にもその旨表示されていること,控訴人ベレッタはこれ
まで玩具銃を製造,販売したことがなく,現在も製造,販売していないこと,控訴
人ベレッタが我が国において販売した控訴人模型銃は,観賞用に実銃から発砲機能
及び稼働機構を除去して商品化した高価なものであり,玩具銃とは性質を異にし,
その輸入数もごく少数にとどまること,控訴人ベレッタが実銃のほかに控訴人各表
示を付して販売している商品は,いずれも実銃の関連商品としてのいわゆるシュー
ティング・アクセサリーのたぐいであって,主に実銃所持者を販売対象とするもの
であり,一般的な衣服,雑貨として販売されているわけではなく,その販売数量も
多くはないこと,控訴人ベレッタが我が国において宣伝広告を行った実績がないこ
とは,上記認定のとおりである。さらに,実銃メーカーが玩具銃を製造,販売し,
玩具銃メーカーが実銃を製造,販売していることをうかがわせる証拠はなく,かつ
て国外の玩具銃業者が控訴人ベレッタからライセンスを受けて玩具銃を製造,販売
したことがあったとしても,その玩具銃が我が国において販売されたことを認める
に足りる証拠はなく,また,そのようなライセンス生産の事実が我が国において一
般の需要者に知られていることをうかがわせる証拠もない。そうすると,我が国に
おいては,市場において合法的に流通することがなく,所持することも一般に禁じ
られているけん銃の外観を忠実に再現したエアーソフトガンは,実銃とは別個の市
場において,飽くまで実銃とは区別された商品として取引されているものであっ
て,その取引者,需要者は,控訴人実銃の形状及びそれに付された表示と同一の形
状・表示を有する多数の玩具銃メーカーの業務に係るエアーソフトガンの中から,
その商品本体やパッケージ等に付された当該エアーソフトガンの製造者を示す表示
等によって各商品を識別し,そのエアーソフトガンとしての性能や品質について吟
味,評価した上で,これを選択し,購入しているものと認められる。
(6)被控訴人らは,控訴人表示一が控訴人ベレッタの実銃であることを示す商
品等表示として周知となった時期があったとしても,我が国においては,十数社に
及ぶ多数の玩具銃メーカーが古くから控訴人各表示と共に自社の名称を併せて付し
た玩具銃を製造,販売してきたことにより希釈化され,同表示は,玩具銃の需要者
の間で,特定の商品の出所を表示するものではなくなったと主張するところ,上記
認定の事実関係の下では,同表示の周知性がその主張のような理由で希釈化された
ものということはできない。しかしながら,被控訴人各商品及びそのパッケージ等
に控訴人ベレッタの業務に係る実銃を示すものとして周知の商品等表示である控訴
人表示一と同一のA~C事件被控訴人表示一が付されていても,その玩具銃が,控
訴人ベレッタの業務に係るものと誤信されるおそれがないばかりでなく,同控訴人
との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な業務上の関係又は同一の表示によ
る商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主体の業務に係るものと誤信
させるおそれがあるとも認め難いから,被控訴人らの上記行為は,不正競争防止法
2条1項1号所定の広義の混同惹起行為に当たらないものというべきである。
 4 結論
   以上のとおり,その余の点について判断するまでもなく,控訴人らの被控訴
人らに対する請求をいずれも棄却した原判決は相当であって,控訴人らの本件各控
訴は理由がなく,また,控訴人らの当審での追加請求及び拡張請求も理由がないか
ら,いずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
   東京高等裁判所第13民事部
       裁判長裁判官 篠  原  勝  美
          裁判官   岡  本     岳
    裁判官 長  沢  幸  男
(別紙)
A事件被控訴人表示目録B事件被控訴人表示目録C事件被控訴人表示目録
控訴人表示目録

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