弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を死刑に処する。
理由
【被告人の身上,経歴】
被告人は,徳島県三好郡a村で,Aを父,Bを母として出生し,地元の小中学校を
卒業後,親元を離れて下宿しながら同県内の高校に通学した。高校卒業後,被告人
は,音楽の勉強を志して上京し,別荘地販売の営業,広告代理店などの仕事を転々
としたが,知人から会社の手伝いを依頼されて山梨県に移住し,その後,土木作業
員などの仕事を経て,平成6年ころまでに,「C企画」の名称で,東京都内や大阪
府内などから集めた浮浪者を寮に住まわせた上,山梨県内の工事現場等に人夫とし
て派遣することを内容とする人材派遣業を始めた。平成9年11月ころ,被告人は,
C企画を法人として「有限会社C企画」を設立し,平成11年7月には「有限会社
D建設」に名称を変えた。
なお,被告人は,2度の婚姻歴があり,最初の妻との間に2人,2人目の妻との
間に4人の子供をもうけているが,2人目の妻とは本件発覚後に離婚している。
【犯罪事実第1の犯行に至る経緯】
被告人は,前記のとおり,平成9年3月当時,山梨県都留市bに事務所を置いて
「C企画」の名称で人夫の派遣業を営んでいたところ,ある朝,当時人夫として雇
っていた氏名不詳の男性(犯罪事実第1の犯行の被害者。以下「被害男性」とい
う。)が,その前夜人夫寮でナイフを持って暴れるなどの騒ぎを起こしたとの話を
聞きつけた。騒ぎが大きくなれば警察沙汰になって仕事ができなくなってしまうな
どと考えた被告人は,被害男性に対して説教を始めたが,被害男性が被告人に対し
て反抗的な態度をとったことから,被告人は,被害男性に対して制裁を加えようと
考え,木刀を手に取り,被害男性に対して暴行を加えることとした。
【犯罪事実第1】
被告人は,平成9年3月ころ,山梨県都留市bc番地C企画事務所において,被害
男性(平成15年10月6日,同市de番地の土中から発掘されたプラスチック製収
納箱に収納され,青色ビニールシートなどで梱包された死体の者。)に対し,所携
の木刀でその背部等を多数回にわたり殴打する暴行を加え,よって,同人に肺挫滅
による気管支肺炎の傷害を負わせ,そのころ,C企画事務所において,同人を前記
傷害により死亡するに至らせた。
【犯罪事実第2の犯行に至る経緯】
平成12年5月14日,当時D建設の人夫であったE,F及びGは,D建設が管
理する山梨県都留市bc番地所在のHキャンプ場において飲酒するなどした後,車で
山梨県都留市fg番地所在のD建設の人夫寮へと向かったが,その途中に酒店に立ち
寄った際,店の前に停まっていた酒店の車に自車を衝突させる物損事故を惹起した。
Eら3名はそのまま現場を立ち去ったが,その後,酒店の経営者がD建設の事務所
に苦情の電話をかけてきたことから,この当て逃げ事故は被告人の知るところとな
った。
事故の報告を聞いた被告人は,当時D建設において人夫を管理する立場にあった
I,J及びKらとともに,Eら3名に制裁を加えることとし,既に人夫寮に戻って
いたEら3名をD建設の事務所に呼び出し,「酒を飲んで当て逃げして,会社をつ
ぶす気か。」などと怒鳴りながら,Eら3名に対して殴ったり蹴飛ばしたりするな
どの暴行を加えた。
これに対し,Eは,ひたすら謝る対応をしたが,F及びGは,悪態をつくなどし
て反抗的な態度をとり続け,さらに,Fにおいては,事務所を飛び出して人夫寮に
戻り,追いかけてきたIの腹部付近をナイフで刺すなどの行動をとった。
そこで,被告人は,反抗的な態度をとるF及びGについては,さらに制裁を加え
るべくHキャンプ場へ連れて行くこととした。
【犯罪事実第2】
被告人は,I,J,K及びLと共謀の上,F(当時51歳)及びG(当時50
歳)に制裁を加えるため,F及びGを監禁しようと企て,平成12年5月14日午
後5時ころ,前記D建設の事務所及び人夫寮において,標識ロープでFの両手首及
び両足首を緊縛し,ナイロン製紐でGの両手首を緊縛し,同日午後6時過ぎころ,
F及びGを普通乗用自動車に押し込み,同所から約17キロメートル離れた前記H
キャンプ場に至るまで同車を疾走させ,さらに同キャンプ場事務所において,Fの
両手首及び両足首に布製粘着テープを巻き付け,Gの両手首に布製粘着テープを巻
き付けるなどした上,再度F及びGを同キャンプ場に駐車中の前記普通乗用自動車
に押し込み,よって,同日午後7時ころまでの間,F及びGがその場から脱出する
ことを不能ならしめ,もってF及びGを不法に逮捕監禁した。
【犯罪事実第3の犯行に至る経緯】
被告人は,犯罪事実第2のとおり同日午後6時過ぎころにF及びGを乗せた前記
普通乗用自動車がD建設事務所からHキャンプ場に向けて出発した後,自らもHキ
ャンプ場へと向かったが,遅くともそのころまでには,反抗的な態度をとるなどし
たF及びGをHキャンプ場で殺害しようなどと考え,死体を埋めるための重機の手
配を依頼した上,Hキャンプ場に到着後,F及びGを殺害することについてI及び
Jと順次共謀を遂げた。
【犯罪事実第3】
被告人は,I及びJと共謀の上,同日午後7時過ぎころ,前記Hキャンプ場駐車
場に駐車中の前記普通乗用自動車内において,殺意をもって,
1被告人がFの頸部に前記標識ロープを巻いて強く締め付け,よって,そのころ,
同所において,Fを窒息死させて殺害し,
2被告人がGの頸部を両手で強く締め付け,よって,そのころ,同所において,
Gを窒息死させて殺害した。
【犯罪事実第4の犯行に至る経緯】
被告人は,犯罪事実第2の犯行に至る経緯に記載したとおり,F及びGとともに
当て逃げ事故を起こしたものの,ひたすら謝る対応をしたEについては,D建設の
事務所内に監禁して制裁を加えることとした。
【犯罪事実第4】
被告人は,M,J及びNと共謀の上,E(当時41歳)に制裁を加えるため,E
を監禁しようと企て,
1同日午後6時ころ,前記D建設事務所において,Jが標識ロープでEの両手首
を後ろ手に緊縛し,M,N及びJが交代でEを監視するなどし,そのころから翌
15日午後2時ころまでの間,Eがその場から脱出することを不能ならしめ,
2Eが隙を窺い同所から脱出した後の同日午後5時過ぎころ,山梨県都留市hi番
地付近路上において,通行中のEを発見するや,被告人が甘言を用いてEを被告
人運転の普通乗用自動車に乗車させて疾走し,Eを前記D建設事務所まで連行し,
同所において,被告人,M,J,Nの4名がEを監視した上,被告人がEに対し,
模造刀を示しながら,「今度逃げたらこれで頭をかち割ったろか。」などと怒号
して脅迫し,Jが標識ロープでEの両手首,両足首を緊縛するなどし,そのころ
から同日午後11時ころまでの間,Eがその場から脱出することを不能ならしめ,
もってEを不法に逮捕監禁した。
【犯罪事実第5の犯行に至る経緯】
D建設は,平成14年ころには運転資金が枯渇し,暴力団関係者や従業員などか
ら借金をするなどしてやり繰りをしていたところ,平成14年10月1日,当時D
建設の人夫であったOを乗せた普通乗用自動車が単独交通事故を起こし,Oがけが
を負い,保険会社からOに対して損害賠償金が支払われることになったことから,
被告人は,借金返済のために,保険会社からOに対して支払われる損害賠償金を着
服しようと考えた。
【犯罪事実第5】
被告人は,Mと共謀の上,Oにかかる前記交通事故について,平成15年6月2
6日,山梨県都留市jk丁目l番m号株式会社P銀行Q支店O名義の普通預金口座に,
株式会社RからOに対する損害賠償金として振り込まれた2411万9387円を
含む2412万387円をOのため預かり保管中,これを自己等の用途に費消する
ため,同日,前記普通預金口座から,前記P銀行Q支店において299万円,同市
no丁目p番q号P銀行Q支店R店出張所において1100万円をそれぞれ払い戻して
着服し,同月27日,前記普通預金口座から,前記P銀行Q支店において100万
円を,前記P銀行Q支店R店出張所において900万円をそれぞれ払い戻して着服
し,さらに,同年7月1日,前記普通預金口座から,前記P銀行Q支店において1
3万円を払い戻して着服し,もって横領した。
【証拠】
(略)
【事実認定の補足説明】
第1氏名不詳者に対する傷害致死事件(犯罪事実第1)について
1争点
被告人及び弁護人は,主として被告人の被害男性に対する暴行と被害男性の死
亡結果との間の因果関係を争っている。以下,まず被告人の被害男性に対する暴
行態様を認定した後,被害男性の死因及び被告人の暴行と被害男性の死亡結果と
の間の因果関係について検討する。
2被告人の被害男性に対する暴行態様について
(1)被告人が被害男性に対し木刀で暴行を振るったこと自体については公判
廷で被告人自身も認めているところであるが,その程度については争いがある。
検察官は,被告人の捜査段階供述などに基づき,被告人が木刀で被害男性の背
部,脇腹等を多数回にわたって殴打したものであると主張するのに対し,被告
人は,公判段階(第17回公判被告人質問)では,左足膝の外側を1回,腰と
尻を約2回,背中を約2回くらい殴打したのみであって,被害男性の前面や脇
腹,顔面に対する暴行は加えていない旨供述している。
(2)そこで,まず,被害男性の前面や脇腹に対する暴行があったかどうかに
ついて検討すると,被告人による暴行の直後に被害男性の介抱に当たったD建
設の従業員であるSは,その際の被害男性の状態に関し,「寝かせるために敷
いた布団まで連れていき,上半身を裸にさせたところ,棒状のようなもので殴
ったみみず腫れのような青い傷が,体の前面に8本くらい,背中のほうには5
本くらいあった。」などと被告人の暴行が被害男性の体の前面にも及んでいた
ことをうかがわせる事実について証言している。S証言は,相当古い記憶を喚
起したものであるとはいえ,その内容は具体的であって特段不自然な内容は含
まれていないし,Sが被告人による暴行の直後から被害男性の治療や世話に当
たっていたD建設の従業員であって,あえて被告人に不利益な証言をする理由
も見当たらないことからすれば,S証言の信用性は高いと評価できる。
また,被害男性の死体の解剖結果によると,死体の左第5肋骨と右第7肋骨
が骨折していることが認められるところ,解剖を行ったT証人は,肋骨骨折が
左右1本ずつしか認められないということは,局所的な圧力が加わったものと
考えられる旨の所見を示している(第2回公判)。この骨折状況自体から暴行
行為の態様が断定できるものではないが,T証言を踏まえると,この骨折状況
は被告人の木刀による暴行が被害男性の脇腹に対しても行われた可能性を相当
程度示すものである。
これらの点に加え,被告人自身が,捜査段階において,被害男性の背中や脇
腹を含む体中を夢中で木刀で殴り続けた旨繰り返し供述していること(証拠
略)などを踏まえると,被告人が被害男性の脇腹や前面に対しても木刀で殴打
する暴行を加えたと認めるのが相当である。
(3)一方,被害男性の顔面に対する暴行の有無についてみても,この点は被
告人自身が捜査段階から一貫して否定しているとはいえ,Sは,被害男性の手
当をした際,血がシャツに飛び散っていたことや,被害男性の顔面が黒ずみ,
鼻や口から血を流していたような感じを受けとった旨,顔面に対する相当苛烈
な暴行があったことをうかがわせる証言をしているし,程度が若干ずれるとは
いえ,被害男性の顔面に傷があったこと自体については,暴行を受けた後の被
害男性を目にしたというUも明確に証言している(第7回,第24回公判)。
両名の証言内容を疑わせる事情は特段見受けられないことからすると,顔面に
対する殴打行為もあったものと認めるのが相当である。
(4)この点,被告人は,前記のとおり暴行の程度は数回殴打した程度であっ
て,被害男性の前面や脇腹,顔面を殴打したことはないなどと公判廷で供述し
ているが,被告人自身,現在の記憶と異なる内容の供述調書が捜査段階におい
て重ねて作成されていた理由について納得のいく説明はできておらず,SやU
の証言との対比からしても到底信用しがたい。
弁護人は,被告人が捜査段階においては自らの暴行に先行してUらによる被
害男性に対する暴行があったことを知らされておらず,被害男性に対する暴行
を振るったのは自分しかいないと考えていたから,敢えて記憶に反する供述を
してしまったものであると主張している。しかし,被告人の捜査段階における
供述調書には,致命傷を避けるために絶対に頭や顔は殴っていないなどと自ら
の言い分が明確に録取されている部分もあるのであって,Uらによる行為を知
らされていなかったにせよ,殴打行為の程度といった自らの罪責の程度に関わ
る重要部分につき被告人が記憶とは異なり,かつ,自らに不利になるような供
述を敢えてしていたとはおよそ考えがたく,この点の弁護人の主張は採用でき
ない。
また,弁護人は,暴行態様については公判廷における被告人供述こそが正し
いことの根拠として,捜査段階における被告人の立会いによる犯行再現の検証
結果(証拠略)を挙げてはいるが,被告人は,この犯行再現の中でも脇腹を殴
った旨の説明をしている上,殴った回数についても覚えていない旨説明してい
るのであるから,この検証結果も公判供述を特段補強するものではなく,その
他被告人の暴行態様に関して弁護人が縷々主張するところは,いずれも採用で
きない。
(5)以上によれば,被告人は,被害男性に対し,木刀で,その背部や前面,
脇腹,顔面などを繰り返し殴打する暴行を加えたものと認められる。
3被告人の暴行後,被害男性が死亡するに至るまでの経過について
S証言及びU証言や被告人の供述等によれば,被告人の暴行後,被害男性が死
亡するに至るまでの経過として,被害男性が被告人による暴行を受けた直後に倒
れ伏していたことや,そのために被告人がSに対して被害男性の手当てを命じ,
Sが布団を敷いて被害男性を寝かせた上,その看病を続けたこと,その後,被害
男性は,重湯を食べたり,自力でトイレに行ったりするなどした時期はあったも
のの,暴行を受けて数日くらい経過した後に突如死亡したことなどの事実が認め
られる。
なお,被害男性の容態に関し,被告人は,被害男性が被告人の暴行を受けた後
も1週間程度は生存しており,1人で片道600メートルも離れたコンビニエン
スストアにも行ける程度にまで回復していたなどと供述している(証拠略)が,
その内容自体,被害男性が突如死亡したという被告人も自認するその後の経過と
の対比からして違和感を感じざるを得ないものであって,この点に関しては,被
告人による暴行の後,被害男性と最も身近に接していた人物であるSが,「被害
男性が死亡したのは暴行後4,5日くらいであり,その間,被害男性が1人でト
イレには行けたものの,1人で自由に歩き回れる程度には回復していなかっ
た。」旨の証言をしていることや,Uも,暴行後2,3日くらい経った後の被害
男性の状況としてS証言に沿う証言をしていることからして,Sらの証言に基づ
いて認定するのが相当である。
4被害男性の死因及び被告人の暴行と死亡結果との間の因果関係について
(1)被害男性の死因について,被害男性の死体の解剖医であるT証人(第2
回公判)は,死体の解剖所見自体からは死因を断定することはできない旨述べ
つつも,被害男性の死体に肋骨骨折や血色素浸潤が認められたことなどからす
ると経験的に肺挫滅が生じていた確率は非常に高いとし,さらに,死体の解剖
所見や,被害男性が被告人の暴行を受けた後に何日かは生存していたという事
実を前提として消去法で被害男性の死因を考えていった場合には,被害男性が
肺挫滅により気管支肺炎になって死亡したという機序しか残らず,被害男性が
そのような経過をたどって死亡した可能性は非常に高いと証言している。
T証人は,解剖結果や自身の専門的知識,経験を基に,死体所見から責任を
もって証言できる部分と仮定の事実を前提に答えざるを得ない部分とを明確に
区別しながら証言しており,その証言内容に不合理な部分や疑問を抱かせる部
分は特段見当たらない上,証言の前提としている事実関係も,証拠上認められ
る事実のみを前提としていて特に問題は見受けられない。
他方,本件証拠上,T証人が提示する経過以外には被害男性が死亡するに至
った経過として具体的かつ説得的に提示されているものは何もないし,T証人
が提示する経過とは別の経過によって被害男性が死亡したのではないかと疑わ
せるような特段の事情も見当たらない。
そうすると,被害男性は,T証人が可能性が非常に高いと述べている経過,
すなわち,骨折や血色素浸潤を生じさせる程度の打撃が加えられたことによっ
て表在性の肺挫滅が生じ,さらに肺胞が破けて最終的に気管支肺炎を起こした
結果,死亡したと認めるのが相当である。
(2)以上の死因に,被告人の被害男性に対する暴行が前記認定のとおり木刀
を用いた相当執拗なものであったと認められることや,被告人による暴行から
被害男性の死亡に至るまでの経過を併せみれば,被告人の暴行と被害男性の死
亡結果との間に因果関係が認められることは明らかである。
(3)これに対し,弁護人は,前記のとおり被害男性が自力でトイレに行ける
ようになるなどしたことをとらえて,被害男性の症状は気管支肺炎に罹患した
者の症状とは明らかに矛盾しており,被告人の暴行と被害男性の死亡との間に
因果関係は認められない旨主張している。
しかし,被害男性が自分でトイレに行ったというのも,寝ていた部屋からす
ぐ近くのトイレ(証拠略)に「這いずって行った。」,「伝い歩きもしてい
た。」(S証言),「しっかりはしていなかった。」,「膝を曲げてるような
感じの歩き方だった。」(第7回公判U証言)といったものに過ぎないもので
あることを踏まえれば,これらが気管支肺炎を発症した,又は,発症する直前
の者の行動としてみて考えられないものではない。
一方で,関係者の証言を子細に見ても,後述するUらの前日の行為を含めて,
被害男性が被告人の暴行とは独立した別個の原因によって死亡したのではない
かと積極的にうかがわせるような具体的事情は何ら見当たらない。むしろ,被
告人の暴行直後から被害男性を看ていたSが,被害男性が死亡したのを見て,
被告人の暴力が原因だと考えた旨証言していることや,Sらの証言によれば,
被告人も,被害男性が死亡した後も警察等に届け出ることはせず,自ら被害男
性の死体をブルーシートに密閉するなどして長期間隠匿したほか,Sとの間で
他の人夫に対しては被害男性が死亡したことを隠しておくよう口裏合わせをす
るなど,自らの暴行に起因して被害男性が死亡したと考えていたかのような行
動をとっていたこと,被告人自身,捜査段階においては,被害男性が死亡した
原因は,自分が木刀で何度も殴ったことしか考えられない旨供述していたこと
(証拠略)などを踏まえると,被害男性が被告人の暴行に起因する気管支肺炎
の傷害によって死亡したことにつき合理的な疑いが生じるものではない。
(4)弁護人は,被害男性の肋骨骨折は,被告人の暴行によるものではなく,
被告人による暴行の前日に被害男性に対して加えられたUらの暴行によって生
じたことが明らかであるとして,被害男性の死亡がUらの暴行に起因する疑い
があるとも主張している。
確かに,被告人による暴行の前夜,Uが中心となって,人夫寮でナイフを持
って暴れるなどした被害男性を取り押さえるなどしたという事実はあったと認
められる。
しかし,Uの証言(第7回,第24回公判)によれば,その際は,他の人夫
が立っている被害男性の手足等を押さえて動けないようにしたほか,Uにおい
て,濡れタオルを被害男性の手に巻き付けてナイフを取り上げたり,はさみを
取り上げるべく被害男性の腕を取ってねじ伏せたり,その際に顔か頭を2,3
回たたいたり,押さえつけるために被害男性の上に上半身を乗せた可能性があ
るという程度の行為をしたに留まっているのであって,それ以上に強度な暴行
をUや他の人夫において加えた事実は,関係証拠からはうかがえない。
この点,弁護人は,Uが自己防衛心から控えめに証言しているとも主張して
いるが,Uは,弁護側証人として二度目の証言にも応じ,その際は,被害男性
の顔面の傷の程度など,前回の証言の際に控えめに証言をしていた部分につい
ては自ら積極的に明らかにしているのであって,それとの対比からしても,取
り押さえる際の行動の部分についてのみ未だ控えめな証言を続けるとは考えが
たいし,それを疑わせる事情もない。
肋骨骨折の発生は受傷者側の要件や加害者・外力作用側の要件などが複合的
に関与して定まるものであるとするV作成の意見書(証拠略)も提出されてい
るが,T証人(第15回公判)や,当のV証人が,仮にUが被害男性を取り押
さえる際,被害男性の胸の上にのしかかったり,Uのひじが被害男性の脇腹に
入ったとしても,1度の衝撃で左右の肋骨が1本ずつのみ骨折していることを
説明するのは難しいという趣旨の証言もしていることからすれば,前記した程
度のUらの行為によって被害男性に肋骨骨折が生じた可能性は非常に低いと考
えられる。
一方,Uらが被害男性を取り押さえた後の被害男性の行動等をみてみると,
被告人やU,Sの供述等によれば,Uらに取り押さえられた直後に被害男性の
顔にあざ等は見られなかったし,その翌朝も,被害男性は通常どおりC企画の
事務所に出勤するなどしていたばかりか,被告人が前日の行為について説教を
した際にも,これに反抗的な態度を示し,被告人の暴行を招いたものと認めら
れる。このような被害男性の行動等は,既に肺挫滅や肋骨骨折といった重傷を
負っていた者のものとは考えがたいし,他に被害男性が被告人による暴行以前
の段階で肋骨骨折等の重傷を負っていたことをうかがわせる事情は見当たらな
い。
そうすると,被害男性の死亡結果が前日のUらによる暴行に起因する疑いが
残るとする弁護人の主張も採用できない。
5以上のとおり,被告人が木刀で被害男性の背部や前面,脇腹等を繰り返し殴打
する暴行を加えた事実が認められるとともに,被害男性は,その暴行に起因した
気管支肺炎に罹患して死亡したものと認められるから,犯罪事実第1のとおり,
被告人には傷害致死罪が成立する。
第2F及びGに対する殺人事件(犯罪事実第3)について
1争点
検察官は,被告人が,平成12年5月14日,犯行現場であるHキャンプ場
(以下「キャンプ場」という。)に赴き,I及びJとの間でF及びG(以下,両
名を「Fら」ということがある。)の殺害を共謀した上,自らもその殺害を実行
したものであると主張している。これに対し,被告人及び弁護人は,被告人は犯
行時にキャンプ場へは行っていないし,殺害の共謀もしていないと主張し,弁護
人は,被告人にはアリバイが成立するとも主張している。
以下,まずは被告人による殺害の実行行為やそれに先立つ共謀状況などを目撃
したとするK,J及びLらの証言の信用性を検討した上,それとの対比において,
弁護人の主張するアリバイが成立するかどうかを検討するものとする。
2Jの公判証言の信用性
(1)Jの証言要旨(以下「J証言」という。)は,以下のとおりである。
被告人及びIにFらをキャンプ場に連れて行くよう指示され,キャンプ場で
待っていると,Iに続いて被告人が黒か紺の乗用車を運転してきた。被告人は,
車から降りるとIのクラウンの方へ歩いていき,I及びKと5,6分話してい
た。3人の話が終わった後,Iの方へ歩いていくと,「J,今からやるから
な。」などと言われた。IがFからナイフで刺されたこともあって,殺すとい
う意味かと思い,「はい。」と返事をした。気が付くと,被告人は,Fらが乗
せられていたデリカの車内の3列目の座席でかがんでいた。車内の様子は,ス
モークフィルムを貼っていない隙間や貼ったガラス越しに見えた。被告人がか
がんでいたのは5,6分であり,その間,後ろのタイヤが上下したことから,
首を締めているのかと思った。その後,Iから,「J手伝え。」などと言われ
たので,デリカの車内に入り,2列目の座席でGの胸と太ももあたりを押さえ
た。被告人は,Gの腰のあたりにまたがり,両手で首を締め,5,6分してG
は動かなくなった。死亡したFらの顔にガムテープを巻くなどしていたところ,
いつの間にか被告人はいなくなっていた。
(2)J証言は,殺害を持ちかけられた際の状況や殺害状況を含め,その内容
が非常に具体的であって,迫真性に富んでいるし,内容的にも特段不自然な点
は見当たらない。
また,被告人らがキャンプ場にやってきた順序や,被告人運転車両の車種,
最初に被告人とI,Kの3人で話し合いが行われたこと,その後Kに替わって
Jが殺害を持ちかけられたこと,ワゴン車内で被告人によって殺害が行われた
ことなどといったFらの殺害が実行されるまでの主要な流れについては,後述
するとおりKやLもJ証言と概ね一致する証言をしているし,被告人がそのこ
ろにキャンプ場に来たことについては,キャンプ場の管理人であるWもそのと
おり証言している。これら事件関係者が逮捕前に被告人を陥れるべく通謀した
ような事情もうかがえない。
さらに,Jは,自身もF及びGに対する殺人等の罪により有罪判決を受けて
おり,この判決はJが2度にわたり証言をした段階では既に確定していたもの
であって,自己保身のために殊更虚偽の証言をしなければならないような状況
にはなかったものであるし,公訴事実を真っ向から否認している被告人の面前
でも何ら臆することなく2度に渡って証言をし,反対尋問にも大きく崩れるこ
とはないのであって,他にJが被告人を陥れるべく殊更虚偽の証言をしている
ようにうかがわせる事情も全く見当たらない。
以上によれば,J証言の信用性は,十分に肯定することができる。
(3)この点,弁護人は,X作成の回答書(証拠略)を根拠に,Jが述べてい
るような車の窓に周辺に隙間を空けてカーフィルムを貼付するようなやり方は
考えられないし,仮に隙間があったとしてもJが説明する立ち位置からは車両
内部の様子が見えることはあり得ないなどと主張し,J証言に疑問を呈してい
る。
しかし,隙間が空いてカーフィルムが貼り付けられていたということ自体が
あり得ない話とまでは言い難いし,Jは,車内にはルームランプが点いており,
カーフィルム越しにも被告人の姿が見えたというのであるから,それにもかか
わらず,あえてカーフィルムの貼り方というような細かな点についてまで言及
していることを踏まえると,この点はJ証言の信用性を特段損なうものではな
い。
また,弁護人は,J証言の内容に不自然,不合理な点や変遷等が多くあるな
どと縷々主張してはいるが,いずれもJ証言の信用性の評価に当たって大きく
影響するような問題ではない。
弁護人は,Jが実際には自身が供述している以上に殺害行為に関与しており,
自己の刑事責任を軽減すべく被告人に罪をなすりつけているとの見方も示して
いるが,前記したとおりJ自身の判決が証言時には既に確定していたことや,
共犯者であるIが既に死亡している状況において殊更被告人に罪をなすりつけ
る必要性が乏しいことなどを踏まえれば,そのような見方が適切でないことは
明らかである。
3Kの公判証言の信用性
(1)Kの証言要旨(以下「K証言」という。)は,以下のとおりである。
被告人とIから,Fらをキャンプ場へ連れて行き,自分たちが到着するまで
Fらを見張っているように指示された。その後キャンプ場にIが来たことから,
これからどうなるのか気になったので聞いたところ,「社長(被告人)が来な
きゃ分からないけど,今から来るから,もうちょっと待ってろ。」などと言わ
れた。Iがデリカを駐車場へ移動したころ,下から車が上がってくる音が聞こ
え,紺色のクラウンに乗った被告人が来た。被告人が車から降りるとすぐにI
が駆けより,2人で話をしながらFらを乗せたデリカに向かって歩いていった。
その後,被告人とIから呼ばれ,被告人が,「実はK君。」と話し出したとこ
ろにIが割って入り,「社長(被告人)とちょっと話をしたんだけど,この2
人(F及びG)をこのまま帰すと会社に対しても社長に対しても何をしてくる
か分からないし,何をされるか分からないので,このまま2人を帰すわけには
いかないから,この2人をちょっと今から殺すから,ちょっと手伝え。」など
と言われ,被告人からも,「そういうことだから,頼むよ。」などと言われた。
しかし,とてもではないがそこまで手伝えないと思い,「できません。」と断
った。すると,入れ違いにJが呼ばれ,今から殺すから手伝えなどと言われて
いた。Jは,「はい。」と言って頷いていた。その後,被告人がスライドドア
からデリカの車内に入り,Fのいる一番後ろの座席の方へ行ったのが分かった。
被告人らしき人物の影が動いたりかがんだりし,4,5分くらい車体が揺れて
いた。その間,Iは,スライドドアから中の様子を見ていた。Gらしき声で,
「助けてくれ。」とか「許してください。」などと叫び声が聞こえた後,被告
人の怒鳴り声が聞こえた。すると,Iが,「おい,J,来い。」とJを呼び,
Jはスライドドアから車内に入っていった。中の様子が気になったので,移動
してスライドドア側から中を見た。すると,Gが寝かされており,Iがドアの
入口でGの足下の辺りを押さえ,Jがその奥でGの腰から胸の辺りにかけて被
さるようにしており,さらに被告人がその奥に同じくGに被さってまたがるよ
うにしていた。その様子を見て,被告人がGの首を締めて殺しているのではな
いかと思った。その間,時間にして5分から10分程度だった。その後,Iか
ら指示されてガムテープを買いに行ったが,キャンプ場へ戻る途中で被告人の
運転する車とすれ違い,車のクラクションを鳴らすと被告人も気付いて手を挙
げた。
(2)Kの証言も具体的なものであって,特にキャンプ場に着いてからの関係
者の言動については詳細な供述がされているし,全体的に見て不自然,不合理
な点は見当たらない。
また,被告人らがキャンプ場にやってきてから,F及びGがワゴン車内で殺
害されるまでの一連の経過については,前述したJ証言や後述するL証言と大
筋で一致しており,相互に補強し合って互いにその信用性を高めているという
ことができる。
さらに,Kも,弁護人の反対尋問にも大きく崩れることはないし,Jと同様,
証言時までにF及びGに対する逮捕監禁罪により既に有罪判決を言い渡されて
いるのであって,証言時に自己保身を図らなければならない状況であったとは
うかがえず,他にKに関し殊更被告人を陥れなければならない動機や事情は本
件証拠上見当たらない。
(3)この点,弁護人は,Kの証言は捜査段階から公判段階に至るまで著しい
変遷を生じており,信用に足りるものではないと主張している。
確かに,弁護人が指摘するとおり,Kは,取調べを受けた当初,死体を埋め
る際に死体であることは知らされていなかったといった供述(証拠略)をして
いたのが,「死体と知りつつ埋めた。」(証拠略)という供述に変わり,その
後は「被告人の命令でIとJが手をかけて(Fらを)殺した。」などと被告人
がキャンプ場には来ていなかった旨の供述をしていた(証拠略)ところ,「被
告人がキャンプ場に来て,直接Fらの殺害を命じてきた。」(証拠略)などと
さらに供述内容を変遷させ,最終的に被告人も実行犯として殺害に関与した旨
の供述をするようになったという供述経過が認められるのであって,その捜査
段階における供述内容には大きな変遷があると言わざるを得ない。
しかし,Kは,供述を変遷させてきた理由については,「警察の取調べを受
ける前日,被告人と会い,Iがやったことにするように頼まれた。本当のこと
を言うと被告人に殺されるかもしれないと思った。」,「自分とJが逮捕され
てからは,被告人から何かされるおそれもなく,Jも本当のことを供述してく
れると思ったので,本当のことを供述することにした。」などと具体的に説明
しているところ,これらの説明は供述経過とも矛盾しないし,その内容もあな
がち不合理なものではない。Sも,別の機会ではあるものの,被告人から「2
人の人夫をとにかく帰したことにしてくれ。」,「Iに全部かぶせよう。」な
どとKが述べるのと同様の口裏合わせを求められた旨証言していることや,関
係者の証言等からうかがえる被告人の会社における社長としての振る舞い,普
段は穏和だが怒らせると怖いといった被告人の性格評などを併せみれば,以上
のような変遷に関するKの説明は概ね信用できるものであって,変遷を辿って
いる事実がK証言の信用性を決定的に損うものではない。
弁護人は,KがD建設を一度退社したにもかかわらず後に復帰していること
や,被告人から金銭を融通してもらっていたことなどを挙げて,Kが被告人を
怖がっていたというのは到底考えられないとも主張している。
しかし,捜査段階当時において,Kが被告人に対して恐怖心を有していたか
を考えてみれば,制裁として暴力を振るった上,自分の目の前でFらを殺害し,
その死体を自分たちに埋めさせ,さらにもう一体の死体までも埋めさせた挙げ
句,「Iがやった話で頼む。」などと口裏合わせまで求めてきたなどというK
の述べる被告人の行動等が前提であれば,本件についての捜査が始まったこと
を知ったKが被告人に対して相当強い恐怖心を抱いたとしても決しておかしな
ことではなく,被告人とKとの間に本件以前や本件の後に弁護人が指摘してい
るような事実があるにしても,そのこと自体が供述の変遷に関するKの説明の
信用性を疑わせるものではない。
(4)また,弁護人は,弁護人自身による視認実験結果などをもとに,犯行後
に被告人の運転する車とすれ違った際,被告人も気付いて手を挙げたとする部
分のK証言は虚偽であると主張したり,L証言やJ証言,W証言などとの間の
細かな矛盾点や,Kが述べる口裏合わせの時期に関する他の証拠との矛盾点な
どを摘示して,K証言の信用性に疑問を呈している。
しかし,視認実験については,場所,明るさ,視認者などといった点におい
て完全に条件を一致させて実験がされたわけではなく,その信用性については
限定的に解さざるを得ないし,他の証言等との食い違いの点にしてみても,本
件捜査が事件から3年以上も経過した時点から開始され,関係者の供述もその
段階になって初めて録取されたものであることや,前記のとおり被告人がキャ
ンプ場に来たことはもとより,その後被告人らがワゴン車内に乗り込むまでの
一連の経過については,K,J,Lの三者において概ね一致した証言をしてい
ることなどに照らせば,弁護人が指摘するような細部の事実についての他の証
拠との矛盾や,他者の証言との部分的な食い違いなどがあるからといって,K
証言全体の信用性を大きく損なうものではない。
弁護人は,Kが,自身が殺人罪に問われたくないがために検察官に迎合して
被告人に罪をかぶせている疑いがあるとも主張しているが,この点も想像の域
を出ない主張であって,採用できない。
4L,W証言の信用性
以上に加え,前記したとおり,Fらを乗せた自動車をキャンプ場まで運転した
Lも,被告人がキャンプ場に来た後,最初に被告人とI,Kの3人で話し合いが
あり,その後,Jが呼ばれ,被告人が「これからやるぞ。」といったようなこと
を言ってワゴン車に乗り込んだなどと,細部はともかく全体の流れとしてはJ及
びK証言に概ね沿う証言をしているし,キャンプ場の管理人を務めていたWも,
被告人が当日キャンプ場を訪れたことを認める証言をしている。
弁護人は,Lが捜査段階当初は被告人がキャンプ場に来たとは供述していなか
ったこと(証拠略)や,その後にこの点に関する供述を変更した理由につきLが
「日々の仕事で頭が一杯で思い出せなかった。」などと説明していること,被告
人が到着する前の行動につきJ証言との間に矛盾があることなどを理由として,
L証言は到底信用できないものであると主張している。
確かにLの供述の変遷理由については腑に落ちない部分もありはするものの,
事件発生から取調べまでの間に相当時間が経過していることや,LがF及びGに
対する逮捕監禁罪により有罪判決を受けた後に証人として出廷し,2度にわたっ
て被告人がキャンプ場に来たことを明確に証言していること,LはFらが殺害さ
れる直前にワゴン車を離れており,その後も殺害が行われたことを知らされてお
らず,本件に対する関心が他の共犯者に比して高くなかったように見受けられる
ことなどからすると,弁護人が指摘する変遷等の点を踏まえても,その信用性に
つき決定的な問題があるとまでは言い難く,K及びJの証言を支える程度の証拠
価値を見出すことはできる。
また,弁護人は,Wに関しても,出面帳(証拠略)には当日キャンプ場にWが
勤務した記載がなく,関係者の中でも当日キャンプ場にWがいたことはKしか言
及していないことなどを理由として,Wの証言内容は全く信用できないものであ
ると主張している。
しかし,KのほかにもE(証拠略)やS(証拠略)が当日キャンプ場でWに会
った旨の供述をしていることや,WはFらに対する監禁や殺人の実行行為には関
与していないため,他の関係者の記憶に残らなかった可能性も十分考えられるこ
となどからすると,出面帳の記載がないからといってW証言の信用性を否定的に
解すべきではなく,むしろ,当日の出来事に関するW自身の供述は相当具体的で
あって創作した内容とは考えがたい上,W自身が殊更事実関係について虚偽の証
言をする理由が全くうかがえないことからすると,W証言の信用性は相当高いと
考えられる。
5以上のとおり信用性を肯定できるJ,K,L,Wの証言のほか,前記のとおり
被告人が後日K及びSに対してIに全部責任を負わせる旨の口裏合わせを求めて
いたと認められることなどをも併せみれば,被告人がキャンプ場に到着した後,
まずIとの間でFらを殺害することについて合意した上,Jにも殺害を手伝うよ
うに指示して3名の間で殺害の共謀を遂げたことや,その後,デリカの車内に入
り,まず被告人が単独でFを殺害し,さらに,Jを呼び入れて胸等を押さえつけ
させるなどしながら,被告人が両手でGの首を締めて殺害した事実を認めること
ができる。
なお,弁護人は,本件証拠上,Fらの死因について特定できない旨主張してい
るが,Fについては,その死因等についての鑑定書(証拠略)や鑑定医であるT
証人の所見(第15回公判)及び死体発見時に標識ロープが死体の頸部を締める
ように巻かれていた事実などを総合すれば,被告人に標識ロープで首を締められ
た結果窒息死したものと認めるのが相当であるし,Gについては,同じく鑑定書
(証拠略)等や殺害の実行行為を分担したJの証言などによれば,被告人に両手
で首を締められた結果,窒息死したものと認めることができる。
6被告人のアリバイの成否について
(1)弁護人は,被告人の娘であるY及びその友人であるZの証言などを根拠
として,犯行日とされる平成12年5月14日には被告人はYらと行動をとも
にしていたのであって,被告人にはアリバイが成立すると主張している。
(2)そこでまず,Z及びYの証言をみると,両名の証言要旨は以下のとおり
である。
アZの証言要旨
平成12年5月13日にY宅へ泊まりに行き,翌14日は昼過ぎに起きた。
食事をとった後,午後2時か3時くらいに被告人から出かけようと声をかけ
られ,午後4時前後ころに被告人やYらとともにA1や花屋へ買い物に行っ
た。買い物を終えてY宅に戻った後,被告人と一緒に食事をしたかどうかは
分からないが,被告人もその間は一緒に家におり,午後9時か9時半くらい
に被告人に車で送ってもらって自宅に帰った。
イYの証言要旨
平成12年5月14日は昼過ぎに起きて,午後3時か4時くらいに被告人,
ZらとともにA1等に買い物に行った。帰宅した際,午後6時は過ぎていた。
その後,夕食を被告人と一緒にとった。被告人は,午後8時からはテレビで
大河ドラマを見ていた。この日は買い物に出かけたときから夜まで被告人と
一緒にいたのであって,被告人が出かけていったことはない。被告人が夜に
Zを車で家まで送っていったかは覚えていない。
(3)Z及びY証言の信用性について
Z及びYの証言は,いずれもその内容に具体性が備わっている上,内容的に
ほぼ一致しているし,殺人事件の犯行日とされる平成12年5月14日の出来
事であって別の年との混同はあり得ないことや,記憶を喚起して証言するに至
るまでに時間を要した理由などについてもきちんと説明できている。また,反
対尋問にも崩れておらず,その証言態度にも不審な点はうかがえないし,Yは
ともかくZについては被告人のために記憶に反することまで証言するような立
場にあるとは考えがたい。さらに,両名の証言は,前日からY宅に泊まりに行
ったことを記したZの手帳の記載や,当日,Zから花を贈られ,その夜,被告
人がZを車で送り届けてきた記憶があるとするZの母親の証言によっても裏付
けられているのであって,両名の証言は,一見するとその証言内容全体につき
信用できるようにも思われる。
しかし,他の関係者の供述との対比という観点から両名の証言の信用性につ
いてみると,Fらがキャンプ場で殺害された日が平成12年5月14日である
ことは,関係者の供述やそれを裏付ける客観的証拠(証拠略)から明らかであ
るとともに,その日の午後から夕方にかけて,被告人がD建設の事務所内で他
の共犯者とともにE,F及びGの3名に対して暴行を加えるなどしたことや,
その後KらがF及びGを普通乗用自動車に乗せてキャンプ場に向けて連れ出し
たこと,その後も被告人がしばらくの間はD建設の事務所内に留まっていたこ
とは,被告人自身を含む多くの関係者が一致して供述しているところであって,
これらの点は動かし難い事実と認められる(なお,D建設事務所においてFら
に対する暴行や逮捕監禁が行われた時間帯については,関係者の供述にばらつ
きはあるものの,多くの者が午後3時ころ以降,午後6時ころまでの間の出来
事であった旨供述している上,被告人自身も,公判廷で,根拠のない感覚的な
ものであるとしながらも,当日,D建設事務所には午後1時か2時前後に赴き,
午後4時前後ころにデリカが出発したのを見て,その後もしばらくは事務所に
いた記憶がある旨供述している。)ところ,Z及びYは,その日の午後から夕
方の時間帯にかけ,被告人が家におり,あるいは,一緒に買い物に行った旨証
言しているのである。そうすると,Z及びYの証言は少なくとも時間的な面に
ついての正確性という意味で,その信用性に大きな疑問を抱かざるを得ない。
また,被告人のアリバイの成否との関係で肝心な当日夕方以降の被告人の行
動に関するZらの証言内容自体も,「被告人もずっと家にいた。」(Z),
「1人で出かけていったことはない。」(Y)などと被告人が家にいたことを
断言こそするものの,その根拠としては,「一緒に夕食を食べたような気はす
るが,はっきり覚えていない。」(Z)とか,「大河ドラマを見ていたが,そ
の後は覚えていない。」(Y)などといった曖昧なものに留まっているし,そ
の日の夜に被告人がZをZ宅に送り届けたという点を除けば,客観的な裏付け
や両名以外の第三者による裏付けはない。Zらの証言によれば,Zらの記憶は
早期の段階で喚起されたものではなく,Zの手帳の記載と断片的な記憶に基づ
いて5年も前の日の出来事を回想して思い出したというものであるから,両者
の証言が最終的に一致しているとはいえ,とりわけ曖昧で具体性を欠く部分に
ついての信用性は低いと評価せざるを得ない。
そうすると,Zが5月13日から被告人方に泊まりにやってきたことや,翌
14日の夜に被告人がZをZ宅まで車で送り返したことなどといった客観的な
記録やZの母親の証言などによって裏付けられている部分についてはともかく
として,殺人事件当日(14日)の午後以降の被告人の行動,とりわけキャン
プ場において殺害行為が行われたとされる午後7時ころの時間帯における被告
人の行動に関するZらの証言については,前記のとおり被告人がキャンプ場に
来たことなどを一致して証言し,Zらのアリバイ証言の内容を聞かされた上で
も従前の証言内容を維持したJ,K,Lの3人の証言等との対比からして信用
することはできないと言うべきである。
弁護人は,Zらの証言内容に多少の時間のずれがあり得るとしても,Zらの
証言によれば,被告人が,D建設事務所におけるFらに対する暴行の後,買い
物に行き,その後はずっと家にいた可能性がある旨主張している。
しかし,弁護人の述べるとおりの事実経過であったとすれば,被告人は,F
らに制裁を加えた後,自宅に戻って,ほどなくして娘やその友人と買い物をす
るなどしていたということになるが,そのような対応は,自らに反抗的な態度
をとった人夫に対して制裁を加えたという状況の中では,かなり不自然なよう
に思われるばかりか,被告人においても,この点について当日の行動として思
い出せてしかるべきであるにもかかわらず,被告人自身,捜査段階のみならず,
Zらの証言を聞いた後も,未だ当日の自己の行動としてZらの証言を前提にし
た供述はしていない。このことからも,当日の夕方の被告人の行動に関するZ
らの証言には信用性を認めることはできない。
(4)以上によると,Zらの証言等によっても,被告人に当日のアリバイが成
立するとの疑いを合理的に差し挟むものではない。
7殺害動機について
(1)弁護人は,被告人にはFらに殺意を抱く事情はどこにも見出せないとも
主張している。
(2)しかし,関係者の供述からすれば,被告人は,Fらが飲酒をした上で当
て逃げ事故を起こし,しかも相手の酒店の経営者から「警察に言う。」などと
苦情が寄せられたことにより,Fらに対して相当な怒りを抱いていたことが認
められ,この点は被告人自身も否定はしていないところである。
そして,関係者の供述によれば,その後,被告人は,D建設事務所において,
Fらに対して説教をするとともに,制裁として暴行を加えたところ,F及びG
は,被告人に対して反抗的な態度を取り,特にFは,被告人らに向かって「こ
んなことしやがって覚えていろ。」,「仲間を連れて仕返しに来る。」などと
悪態をつき続け,更にはI及びJに対してナイフでけがまで負わせたという経
過が証拠上認められるのであって,このような経過や,関係者の供述等からも
うかがわれる被告人の短絡的な性格などに照らすと,被告人が,そのような反
抗的な態度をとり続けたFらに対してより一層怒りを強め,そのような怒りが
高じて殺意に転化したとみることも,あながち不自然なものではなく,被告人
の殺害動機を推認するについて格別の支障はない。
なお,検察官は,①被告人がFらによる報復を恐れて自己保身のために殺害
したとか,②Fらが労働者支援団体に訴え出た場合にはD建設の経営に支障を
来すおそれがあるので口封じのために殺害したなどと主張しているが,弁護人
も指摘するとおり,Fらによる報復のおそれが実際にどの程度あったかは疑問
である上,Fらが労働者支援団体に訴え出るような状況や,被告人がこのこと
を恐れていたことをうかがわせる適切な証拠もないことからすれば,殺害動機
としては前記した程度のものと解するのが相当である。
8被告人の公判供述の信用性について
被告人は,犯行当日の行動については,捜査段階から一貫して,キャンプ場に
は行っていないし,殺害行為はおろかその共謀もしていないなどと供述し,殺害
時刻とされている時間帯は自宅にいたと思うなどと供述している。
しかし,被告人の供述は,前記信用できるJ,K,Lらの証言と明らかに矛盾
するものであるばかりか,被告人は,当日の夜,Iから「社長,めんどうくせえ
からやっちまったよ。」などと連絡を受けたものの,その真意を測りかねて特に
対応はせず,翌朝,Iから同じような連絡が何回かあったことから,Iが本当に
Fらを殺してしまったのかと考えるようになり,重機の手配をさせるとともに,
自らも傷害致死事件の被害男性の遺体の投棄をIに依頼したなどとも供述してい
るところ,自社の人夫が死亡したという事態が生じたと考えたにもかかわらず,
その経過等を確認しないまま死体を埋めるための重機の手配をしてやったなどと
いうのは非常に不自然な話であるし,自身もそのついでと考え,それまで隠して
おいた被害男性の死体を,その埋める場所も聞かずにIに頼んで処理してもらっ
たなどという話に至っては,およそ理解できない話であって,信用できるもので
はない。
9以上のとおり,被告人には犯行当日のアリバイは成立せず,J,K,Lらの証
言等に基づき,犯罪事実第3のとおり,被告人が,I及びJと共謀の上,被告人
自身が実行役となってF及びG両名を殺害した事実を認めることができる。
【法令の適用】
被告人の犯罪事実第1記載の所為は平成16年法律第156号による改正前の刑
法205条に,犯罪事実第2記載の所為は被害者ごとに包括して刑法60条,平成
17年法律第66号による改正前の刑法220条に,犯罪事実第3の1及び同2記
載の各所為はいずれも刑法60条,平成16年法律第156号による改正前の刑法
199条に,犯罪事実第4の1及び同2記載の各所為はいずれも包括して刑法60
条,平成17年法律第66号による改正前の刑法220条に,犯罪事実第5記載の
所為は刑法60条,252条1項にそれぞれ該当するところ,犯罪事実第2は1個
の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,同法54条1項前段,10条により
1罪として犯情の重いFに対する逮捕監禁罪の刑で処断することとし,各所定刑中
犯罪事実第3の1及び同2の各罪についていずれも死刑をそれぞれ選択し,以上は
同法45条前段の併合罪であるから,同法46条1項本文,10条により刑及び犯
情の最も重い犯罪事実第3の2の罪の刑で処断して他の刑を科さないこととして被
告人を死刑に処し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告
人に負担させないこととする。
【量刑の理由】
1事案の概要
本件は,人夫を工事現場等に派遣する人材派遣業をしていた被告人が,人夫1
名の反抗的な態度に激昂し,木刀で暴行を加えて死亡させたという傷害致死事件
(犯罪事実第1),飲酒した上で当て逃げ事故を起こし,その後も反抗的な態度
を示し続けた人夫2名について,人夫の管理職的立場にある共犯者と共謀の上,
ロープ等で拘束するなどしてキャンプ場まで連行し,最終的に殺害したという逮
捕監禁及び殺人事件(犯罪事実第2,第3),殺害された2名の人夫とともに当
て逃げ事故を起こしていた人夫1名について,共犯者と共謀の上,ロープで拘束
するなどして事務所内に監禁するなどしたという逮捕監禁事件(犯罪事実第4),
会社の運営のために多額の借金を抱え,その返済等に窮したことから,共犯者と
共謀の上,交通事故に遭った人夫に支払われた損害賠償金を着服したという横領
事件(犯罪事実第5)からなる事案である。
2F及びGに対する逮捕監禁及び殺人事件について(犯罪事実第2及び犯罪事実
第3)
まず,本件各犯行のうち最も犯情の重いF及びGに対する殺人等の事件につい
てみると,被告人がFらを殺害するにまで至った動機は,前記のとおりFらが当
て逃げ事件を起こしたばかりか,説教をするなどした被告人に対して反抗的な態
度をとり続けるなどしたことから,Fらに対する怒りを強め,殺害にまで及んだ
ものと認められる。Fらの問題行為をきっかけとした犯行という面はあるものの,
Fらの側には,殺害はもちろん,逮捕監禁されなければならないような落ち度が
あった事案ではない。自らの怒りに任せ,人命を奪うことを意に介さない身勝手
極まりない犯行であり,動機に酌量の余地はない。しかも,被告人は,このFら
に対する殺人事件の当時は,その約3年前に自らの暴行に起因して人夫を死亡さ
せた傷害致死事件を起こしていたのであって,それにもかかわらず再び自らの怒
りに任せて2名の命を奪った被告人には,傷害致死事件に対する自責の念は全く
見受けられず,かえって,自らの意に沿わない者に対してはその命を奪うことさ
え厭わない人命軽視の態度を強く見て取ることができる。
犯行態様をみると,まず,逮捕監禁については,丈夫な標識ロープやナイロン
製紐でFらを緊縛した上,自動車に押し込み,一層苛烈な制裁を加えることを予
定して人気のない山中のキャンプ場まで連行するなどしたというものであって,
組織的犯行である上,それ自体,相当な肉体的精神的苦痛を与える悪質な犯行で
ある。また,殺人も,被告人とIのほか,Jをも巻き込んで行った集団による犯
行である上,被告人らは,人気のないキャンプ場の駐車場に停めた自動車内にお
いて,標識ロープ等で緊縛されるなどして全く抵抗もできず,目と口をガムテー
プで塞がれて視界をも奪われ,満足に声も出せない状態であったFらに対し,ま
ず,Fについて,標識ロープで絞首する方法で絶命させ,さらにGについては,
Fの殺害を察知したGが必死に命乞いをしていたにもかかわらず,それを全く聞
き入れることなく両手で首を締めて絶命させたものである。そこには憐憫の情の
かけらも見られず,残忍で冷酷,非道な犯行である。前述のとおり被告人はFら
の反抗的な態度に対して怒りを強めてその殺害を決意したものであって,従前か
ら周到に殺害を計画していたような事案ではないものの,被告人は,Fらを殺害
しようなどと考えた後,あらかじめ死体を埋めるための重機の手配を依頼してい
るほか,IらとFらを殺害することを確認しあった上で,F及びGを続けざまに,
かつ,絞殺という確実な方法で殺害したものであって,激昂のあまりとっさにそ
の場で殺害してしまったなどといった事案ではない。
Fら2人を逮捕監禁した挙げ句,その尊い命を奪ったという犯行結果が誠に重
大であることはいうまでもない。Fらは,いずれも手足等を緊縛されるなどした
上,ガムテープにより目を塞がれて視界を奪われるとともに,口も塞がれて満足
に叫ぶこともできない中,首を締められ,激しい苦悶の中で息絶えたものであっ
て,遠のいていく意識の中,Fらが感じたであろう苦痛や恐怖感,悔しさや無念
さなどは察するに余りある。
Fの元妻は,捜査機関に対し,離婚した後もFが娘とは連絡を取っていた事実
などを指摘しながら,「実の父親が無惨な死に方をしたことで,将来娘がどのよ
うにこのことを受け止めていくか,そう考えると,娘が不憫でなりません。」,
「人の命を奪うなどという行為は許せません。Fを殺めた人にはその命で償って
ほしいと考えています。」などと供述した上,犯人に対しては死刑の適用を望む
し,娘も同様の意見である旨述べている。また,Gの元妻も,Gと離婚した後相
当期間が経過していたとはいえ,2人の間の子供も成人し,そろそろ父親である
Gに会わせても良いかと思っていた矢先に,突如,Gが殺されるなどしたことを
知らされたというのであって,捜査機関に対し,「父親が殺されたことを知った
子供たちのショックを考えると,母親の私もやりきれない気持ちです。G(G)
を殺した上,冷たい土の中に埋めて何年もそのままにしていた犯人達を絶対に許
せません。」などと述べ,犯人に対する死刑の適用を求めている。このように遺
族らの被告人に対する処罰感情は峻烈である。それにもかかわらず,被告人から
は何らの慰謝の措置も取られていないし,今後も取られる見込みは薄い。
被告人らは,Fらを殺害した後,犯行の発覚を防ぐべく,息絶えたFらの死体
を緊縛された状態のまま重機を使ってキャンプ場の土中に埋め,その後,長期間
にわたって放置したものであって,犯行後の情状も悪い。両名の死体は,死後3
年以上経ってようやく発見されるに至ったが,いずれも屍ろう化した状態で発見
されたものであって,まことに哀れというほかない。
また,犯罪事実第1の傷害致死の被害男性の死体と併せ,キャンプ場から3体
もの死体が発見されたということで事件が大きく報道され,近隣住民や地域社会
にも大きな衝撃を与えたものであり,その社会的影響も大きい。
被告人は,会社社長として共犯者及びFら人夫に対して絶対的な地位にあった
と認められるが,Fらに制裁を加えることを発意し,共犯者らに指示してFらを
逮捕監禁させたほか,その後もFらの反抗的態度に怒りを高じさせ,Fらを殺害
することとし,自らの手でFらの殺害を行ったものである。Fらの殺害を最初に
言い出したのが,被告人であったのか,Fから直前にナイフで刺されていたIで
あったのかまでは不明であるものの,殺害の実行を最終的に決定し,かつ,実行
したのは被告人であって,被告人が殺人事件についても中心的立場にあり,最も
重大な責任を負うべきことは明らかである。
それにもかかわらず,被告人は,事件の捜査が始まると,既に死亡していたI
に全ての責任を転嫁しようとして,関係者に対して口裏合わせをしようとしたほ
か,審理の終結に至るまで責任逃れのための不合理な弁解に終始しているのであ
って,反省の態度は全く見られない。
3氏名不詳者に対する傷害致死事件について(犯罪事実第1)
Fらに対する殺人事件の約3年前に敢行した氏名不詳の被害男性に対する傷害
致死事件は,被告人が,犯行前日における被害男性の行動や被告人に対する反抗
的な態度に対する制裁として敢行したものである。社長としての絶対的な立場を
確立すべく,逆らう者に対しては制裁を加えてでも分からせてやろうという被告
人の考え方がうかがえるところであり,Fらに対する殺人事件と同様,あまりに
独善的な動機に基づく犯行である。
犯行態様についてみても,被告人は,被害男性が完全に抵抗できなくなるまで,
激情に任せて木刀で全身を繰り返し殴打したものであって,執拗で危険な犯行で
ある。
この犯行により貴重な生命が奪われるに至ったという結果は重大である。被害
男性は,被告人に執拗に殴打された上,満足に動くこともできないまま死んでい
ったものであって,その悔しさや無念さなどはFらと同様察するに余りある。し
かも,現在に至ってもなお身元は不明のままであり,被害男性自身にとっても,
遺族にとっても,まことに不憫というほかない。
被告人は,倒れ伏した被害男性を見たSから医者に診せることを勧められたに
もかかわらず,自己の暴行の発覚を恐れてこれに従わず,看病をSに任せたまま
放置して結果的に被害男性を死亡させたほか,被害男性が死亡した際も,警察に
届けることを勧められたにもかかわらず,再び自己保身の目的からこれに従わず,
かえって関係者に死体の処理の手伝いと口裏合わせを頼み,凶器の木刀や被害男
性を寝かせていた布団を焼却するなどの罪証隠滅行為まで行っているのである。
その結果,被害男性は,以後約6年半という長い間,プラスチック製収納箱に梱
包され,押入れの中や車の中,挙げ句の果てにはFらの死体ともども重機で土中
に埋没させられ,屍ろう化して朽ち果てていったものであって,死亡後の扱いも
無惨と言うほかなく,死者に対する畏敬の念は全く感じられない。
加えて,被告人は,捜査段階では自己の刑責を認める供述をするなど反省の言
葉を述べていたものの,公判段階においては,第三者に責任を転嫁するかのよう
な供述を始めたものであって,真摯な反省の情は見られない。
4Eに対する逮捕監禁事件について(犯罪事実第4)
Eに対する逮捕監禁事件も,Fらに対する逮捕監禁事件と同様,当て逃げ事件
を起こしたEに対する怒りに基づき敢行された犯行である。自己中心的で身勝手
な犯行動機に酌量の余地はないし,被告人は,Eがひたすら謝罪したにもかかわ
らず,暴行を加え,共犯者に命じてロープで拘束するなどした上,昼夜続けて複
数人で監視させ,約20時間もの長時間監禁し,いったんは逃げ出されたものの,
その後偶然発見すると,未払給料を支払ってやるなどと甘言を用いて事務所に連
れ戻した上,態度を翻して悪辣な言葉で脅したり,再び共犯者にロープで緊縛さ
せるなどしてEが再び逃げ出すまで約6時間監禁したというのであって,組織的,
かつ,執拗で悪質な犯行である。
Eは,2回目の監禁において,このままでは殺されるかもしれないという恐怖
を感じて,縛られているロープをライターの火であぶってほどいて事務所から自
力で脱出し,その後も追っ手の追跡から逃れつつ,2日間も山中をさまよった末
に警察に保護されたものであって,その間の肉体的精神的苦痛は甚大であったと
推察される。にもかかわらず,何らの慰謝の措置も講じられておらず,当然のこ
とながらEの処罰感情には厳しいものがある。
被告人は,共犯者に見張り等の指示を出すほか,自らもEに対して暴行や脅迫
を行ったり,逃げたEを連れ戻したりするなど,中心的な役割を果たしている。
5横領事件について(犯罪事実第5)
横領の動機は,着服した損害賠償金を会社の借金返済等に充てるためであって,
会社経営のためには手段を選ばない利欲的な動機に酌量の余地はない。
その態様も,被告人は,当初から損害賠償金を着服するつもりでいながら,一
生面倒を見るかのように装って言葉巧みに被害者であるOを信じ込ませ,これに
代わって損害賠償金を預かり,着服したというものであって,狡猾で計画的な犯
行である。
着服した金額も,2400万円余りと多額であるところ,被害回復の見込みは
全くないのであって,今後の人生を障害を負ったまま送らなければならないOの
損害は計り知れず,その精神的苦痛も大きいものがある。
この犯行も,被告人が首謀かつ主導したものであり,横領金額も被告人が会社
資金に流用している。
6被告人にとって酌むべき事情
他方,前述したように,逮捕監禁事件や殺人事件はF及びGらの行動に端を発
したものであって,当初から計画されていた犯行ではないことや,氏名不詳者に
対する傷害致死事件も被害男性の反抗的な態度に起因して敢行された事案である
こと,横領事件に関して被害者であるOから被告人を宥恕する旨の陳述書(証拠
略)が提出されていること,被告人のことを案ずる老齢の母親が情状証人として
出廷して被告人のために証言してくれたこと,罰金前科1犯のほかに前科はない
こと,一部の犯罪については反省の情を示していることなどといった被告人に有
利に斟酌し得る事情も認められる。
7そこで,以上の諸般の事情を総合考慮すると,被告人の犯行が多岐にわたり,
その刑事責任が非常に重いことは言うまでもないが,とりわけ3名の尊い命を前
記のとおりの身勝手な動機から奪った被告人の刑事責任は極めて重大である。し
かも,既に述べたとおり,被告人は,自らの暴行に起因して1名の命を奪った経
緯がありながら,その約3年後に,今度は確実に殺すつもりで,2名の人命を続
けざまに奪ったのであって,人命軽視の態度は甚だしいし,F及びGに対する殺
人事件については捜査段階から不合理な弁解を貫き,罪責を免れることに汲々と
していることなどをも併せみれば,改善可能性は乏しいと言わざるを得ない。
そうすると,既に指摘したとおりの被告人に有利に斟酌しうる事情を最大限考
慮し,かつ,死刑が真にやむを得ない場合にのみ科しうる究極の刑罰であって,
その適用が慎重に行われなければならないことを踏まえても,罪刑の均衡及び一
般予防の双方の見地に照らし,被告人に対しては,死刑をもって臨むことはやむ
を得ない。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑死刑)
平成18年10月20日
甲府地方裁判所刑事部
裁判長裁判官川島利夫
裁判官矢野直邦
裁判官福嶋一訓

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