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平成23年11月1日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成23年(行ケ)第10036号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成23年10月13日
判決
原告X
訴訟代理人弁理士鈴江正二
木村俊之
吉村哲郎
被告日本ファーネス株式会社
被告トヨタ自動車株式会社
両名訴訟代理人弁理士村一美
佐藤和彦
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた判決
特許庁が無効2010-800074号事件について平成22年12月27日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
原告は,被告らの有する本件特許について無効審判請求をしたが,請求不成立の
審決を受けた。本件はその取消訴訟であり,争点は容易推考性の存否である。
1特許庁における手続の経緯
(1)被告らは,平成21年7月13日に,名称を「熱風循環炉」とする発明に
ついて特許出願(特願2009-164365号。本件出願)をし,平成21年9
月18日に,特許第4378432号(本件特許)として特許登録を受けた(請求
項の数5)。
なお,本件出願は,平成15年2月26日にした出願(特願2003-4904
7号)の一部を新たな特許出願としたものである。
(2)原告は,平成22年4月21日,本件特許について無効審判請求をしたが
(無効2010-800074号),特許庁は,平成22年12月27日,「本件
審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成23年1月7日に
原告に送達された。
2本件発明の要旨
本件特許の請求項1~5(本件発明1~5)は次のとおりである(【請求項1】
のA~Eの符号は,審決が付したもの。)。
【請求項1】
A熱源と回転炉床とを備える炉体と,
B前記回転炉床の外周側寄りの部位に前記炉体の周壁に沿って備えられると共
に放射方向に前記ワークを搬入搬出可能に載置しかつ熱ガスの循環流が上下方向に
通過可能な通気性の素材ないし構造から成るワーク載置棚を内部に備える通気性の
構造から成る環状のワーク載置台と,
C前記炉体内を前記ワーク載置台が設置されている外周側領域とそれよりも内
側の内方側領域とに区画すると共に前記回転炉床付近及び前記天井付近に前記内方
側領域と前記外周側領域とを連通させる上下の通路をそれぞれ設ける環状仕切り
と,
D前記炉体の天井付近に備えられ前記熱源から熱を受けた熱ガスをファンの外
周から中心部に向かって吸い込み前記環状仕切りの内側である前記内方側領域を通
して前記回転炉床に向けて吐出する軸流ファンとを備え,
E前記熱ガスは前記軸流ファンによって前記内方側領域に吐出され,前記環状
仕切りの内側を前記環状仕切りに沿って前記回転炉床付近の前記下の通路を経て前
記環状仕切りの外側の前記外周側領域に放射状に流出され,前記ワーク載置台の前
記ワーク載置棚を通過して上昇し,再び前記熱源で昇温されてから前記軸流ファン
に吸い込まれる循環流を形成することを特徴とする熱風循環炉。
【請求項2】
前記ワーク載置台は複数段の前記ワーク載置棚を有することを特徴とする請求項
1記載の熱風循環炉。
【請求項3】
前記ワーク載置台は,一度に処理する分のワークを載置するスペース毎に周方向
に区画する仕切りによって周方向に隔離されると共に,鉛直方向には前記ワーク載
置棚を介して連通することを特徴とする請求項1または2記載の熱風循環炉。
【請求項4】
前記ワーク載置台の各段のワーク載置棚毎に前記ワークの出し入れを可能とする
装入口並びに抽出口を前記炉体の周壁に有することを特徴とする請求項1から3の
いずれか1つに記載の熱風循環炉。
【請求項5】
前記装入口と前記抽出口とは各々独立して開閉する扉を有し,前記装入口と前記
抽出口との間には前記ワーク載置台のワーク収容スペースが少なくとも1つ存在す
る間隔が設定されていることを特徴とする請求項4記載の熱風循環炉。
3本件発明1~5に関する原告主張の無効理由(特許法29条2項)
本件発明1,2及び4は,実願昭57-116480号(実開昭59-2149
5号)のマイクロフィルム(甲2),実公昭49-11292号公報(甲3),実
願昭56-60229号(実開昭57-172396号)のマイクロフィルム(甲
4)及び実願昭63-12243号(実開平1-116394号)のマイクロフィ
ルム(甲5)に記載された発明に基づいて,本件発明3は,甲2~5及び実公昭4
6-29925号公報(甲6)に記載された発明に基づいて,本件発明5は,甲2
~5及び実願平2-89758号(実開平4-46554号)のマイクロフィルム
(甲7)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたも
のであり,特許法29条2項の規定に違反する。
4審決の理由の要点
(1)本件発明1について
ア本件発明1と甲2に記載された甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明との一致点,相違点は次のとおりである。
【一致点】
A’熱源と炉床とを備える炉体と,
B’ワークを載置しかつ熱ガスの循環流が上下方向に通過可能な通気性の素材な
いし構造から成るワーク載置棚を内部に備える通気性の構造から成るワーク載置台
と,
C’前記炉体内を外周側領域とそれよりも内側の内方側領域と前記炉床付近及び
天井付近に前記内方側領域と前記外周側領域とを連通させる上下の通路とを備え,
D’前記炉体の天井付近に備えられ前記熱源から熱を受けた熱ガスを外周から中
心部に向かって吸い込み前記内方側領域を通して前記炉床に向けて吐出し,
E’前記熱ガスは前記内方側領域に吐出され,前記炉床付近の前記下の通路を経
て前記外周側領域に放射状に流出され,上昇し,再び吸い込まれる循環流を形成す
る熱風循環炉。
【相違点1】
本件発明1においては,炉床が「回転炉床」であって,「前記回転炉床の外周側
寄りの部位に炉体の周壁に沿って備えられると共に放射方向に」ワークを「搬入搬
出可能に」載置しかつ熱ガスの循環流が上下方向に通過可能な通気性の素材ないし
構造から成るワーク載置棚を内部に備える通気性の構造から成る「環状の」ワーク
載置台を備えるのに対して,甲2発明においては,「炉本体内の中央側と前記炉本
体内の周壁側との間に備えられると共に」被加熱物品を載置しかつ上下方向の通気
口を多数備えた多段の台を備えるものの,そもそも炉床が回転するのか不明である
から,ワーク載置棚及びワーク載置台が,回転炉床の外周側寄りの部位に炉体の周
壁に沿って備えられる環状のものであるのかも不明であると共に,ワークをどの方
向に搬入搬出するのかも不明である点。
【相違点2】
本件発明1においては,炉体内を「ワーク載置台が設置されている」外周側領域
とそれよりも内側の内方側領域と「に区画すると共に」炉床付近及び天井付近に前
記内方側領域と前記外周側領域とを連通させる上下の通路「をそれぞれ設ける環状
仕切り」を備えることで形成される循環流が,「前記環状仕切りの内側を前記環状
仕切りに沿って」前記炉床付近の前記下の通路を経て「前記環状仕切りの外側の」
前記外周側領域に放射状に流出され,「前記ワーク載置台のワーク載置棚を通過し
て」上昇するのに対して,甲2発明においては,炉体内を外周側領域とそれよりも
内側の内方側領域と炉床付近及び天井付近に前記内方側領域と前記外周側領域とを
連通させる上下の通路とを備えることで形成される循環流が,前記炉床付近の前記
下の通路を経て前記外周側領域に放射状に流出され,上昇するものの,そもそもこ
のように区画すると共にそれぞれ設ける環状仕切りを備えるのか不明であるから,
前記環状仕切りの内側を前記環状仕切りに沿って前記炉床付近の前記下の通路を経
て前記環状仕切りの外側の前記外周側領域に放射状に流出されるものかも不明であ
ると共に,前記ワーク載置台のワーク載置棚を通過して上昇するものかも不明であ
る点。
【相違点3】
本件発明1の炉体の天井付近に備えられ熱源から熱を受けた熱ガスを外周から中
心部に向かって吸い込み内方側領域を通して炉床に向けて吐出し,前記熱ガスは内
方側領域に吐出され,前記炉床付近の下の通路を経て外周側領域に放射状に流出さ
れ,上昇し,再び吸い込まれる循環流を形成するものが,「軸流ファン」であるの
に対して,甲2発明においては,「エジェクター」である点
【相違点4】
本件発明1において形成される循環流が,上昇し,再び「熱源で昇温されてから」
吸い込まれるのに対して,甲2発明においては,上昇し,再び熱源で昇温されるも
のの,上昇し,再び吸い込まれる前には,熱源で昇温されない点。
イ相違点3に関する審決の判断
原告は,本件発明1の「軸流ファン」と甲2発明の「エジェクター」の機能が同
一なので,相違点3は実質的な相違点ではないと主張する。
しかしながら,そもそも「軸流ファン」は,1mAqより低いような低圧で風量
の多い場合に用いられるものであって,翼列の回転によって気体を軸方向に圧送す
るものであるのに対して,「エジェクター」は,高速で噴出する作動流体の巻込み
作用により気体輸送を行うものであって,第1の流体のもつ高レベルの圧力エネル
ギーを一部運動エネルギーに変換し,目的とする第2の流体を吸引,輸送するもの
である。そして,甲2発明の「エジェクター」が,「タービンから2000ないし
3000mmAqもの高圧で,かつ,650ないし700℃もの高温ガスをエジェ
クターに供給でき,エジェクターから300ないし350m/secもの極めて高
速で高温ガスを噴出させる」ものであり,エジェクターから吐出する熱ガスを,2
~3mAqもの高圧の圧力エネルギーを利用して高速で流体輸送するものであるの
に対して,本件発明1の「軸流ファン」は,軸流ファンから吐出する熱ガスを,1
mAqより低いような低圧で風量を多くして翼列の回転によって軸方向に圧送する
ものであり,吐出される熱ガスによって形成される循環流についても,その圧力状
態や流速が異なるものと認められる。
したがって,相違点3は,実質的な相違点である。
甲2発明は,「電動ファン(15)によって得られるガス流速は20m/sec
程度にとどまり,高温ガスから被加熱物品(3)への伝熱効率が,境膜が厚くなる
ために悪くなり,加熱に要する時間が長くなり,さらには,均一加熱が困難になる
等,機能面及び省エネルギー面での欠点があり,また,電動ファン(15)に起因
して,設備費が高額になり,コスト面でも劣っていた。」という問題点を解決する
ために,エジェクターを用い,極めて高速でガスを噴出させることにより,「高温
ガスから被加熱物品への伝熱を…極めて効率良くでき,また,短時間で極めて均一
な加熱が可能になり,…電動モータに比して高温ガス循環のための設備費が半額以
下になり,…炉内容積を1/2ないし1/3にでき,…設備費の低減及び炉からの
放熱抑制による省エネルギーを図れるようになった。」という作用効果を奏するも
のである。
そうすると,甲2発明の「エジェクター」に代えて「軸流ファン」を用いる場合
には,新たに翼列を炉体内に配置する必要があり,炉内容積が増大するし,吐出さ
れる熱ガスによって形成される循環流の圧力状態や流速も変化し,300~350
m/secもの極めて高速の熱ガスを吐出させることができるものとも認められな
いから,甲2発明において,「エジェクター」に代えて「軸流ファン」を用いるこ
とは,甲2の記載に反することであって,阻害要因となる。
また,甲3~7にも,「エジェクター」に代えて「軸流ファン」を用いることは,
記載されていない。
したがって,甲2発明の「エジェクター」に代えて「軸流ファン」を用いること
は,甲2~7の記載から当業者が容易に想到し得たことではない。
ウよって,他の相違点について検討するまでもなく,本件発明1は,甲2
~7に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと
はいえない。
(2)本件発明2~5について
本件発明2~5は,本件発明1の構成をすべて含む発明であるから,本件発明1
について判断したのと同様に,甲2~7に記載された発明に基づいて,当業者が容
易に発明をすることができたものとはいえない。
第3原告主張の審決取消事由(相違点3に関する判断の誤り)
審決は,甲2発明について,「エジェクター」に代えて「軸流ファン」を用いる
ことは,甲2の記載に反することであって,阻害要因となるとして,本件発明1の
進歩性を肯定した。
しかしながら,炉の天井部分に軸流ファンを設けて風を炉底に吹き降ろすことが
周知技術にすぎず,軸流ファンを設けたことにより生じる課題を特に気にする必要
がなければ,甲2発明についてエジェクターに代えて軸流ファンを選択することは,
当業者にとって単なる設計事項又は容易に考え出せることというべきである。
そして,炉の天井部分に軸流ファンを設けて風を炉底に吹き降ろすことは,甲2
の従来技術に関する記載や第2図,その他多数の公開特許公報(甲22~27)に
示されるように,周知技術にすぎない。
また,甲2発明(考案)の出願公開日である昭和59年2月9日から,本件原出
願日である平成15年2月26日までの間,炉の天井部分に軸流ファンを設け,軸
流ファンによって炉の天井部分から風を吹き降ろすことは広く実施されており,こ
のことは,甲2発明の出願後も,軸流ファンを設けたことにより生じる課題を特に
気にする必要が現になかったことを示している。
したがって,相違点3に係る本件発明1の構成は当業者が容易になし得るものに
すぎず,審決の判断は誤りである。また,これと同様の理由から,本件発明2~5
に関する審決の判断も誤りである。
第4被告らの反論
1炉の天井部分に軸流ファンを設けて風を炉底に吹き降ろすことは周知技術と
はいえない。甲2の炉本体の天井部分に設けられているのは,電動ファンであって,
これが軸流ファンを意味するかどうか明らかではない。また,甲2には,風が下向
きに吹くことを示す記載はあるが,風を炉底に吹き下ろすことは記載されていない。
原告主張の他の公開特許公報(甲22~27)についても,軸流ファンが設けられ
ているのが天井部分ではないものが含まれており,風を炉底に吹き下ろすことも記
載されていない。
なお,甲22~27の公開特許公報については,本件訴訟において新たに提出さ
れた証拠であるところ,本件発明の構成を想到することの容易性そのものに関わる
ものであり,単に技術水準を知るとか刊行物の記載内容を明らかにするためのもの
とは異なるから,周知技術に関する証拠であっても,これらを参酌することは許さ
れない。
2仮に,「炉の天井部分に軸流ファンを設けて風を炉底に吹き降ろす」技術が
周知であるとしても,当該周知技術を適用して本件発明1の構成とすることが容易
であったというためには,当該周知技術が他の構成との関係においてそのような適
用をするに適した内容のものであり,かつ,当該周知技術を適用して本件発明1の
構成とすることが技術的合理性の見地からみて可能であり,また相当であることが
前提である。しかしながら,原告は,「エジェクター」を除くその他の甲2発明の
構成を何ら前提とすることなく,単に上記技術が周知であることを主張しているに
すぎない。審決は,甲2発明について,従来技術の「電動ファン」を用いた場合に
は,ガス流速が低速である,伝熱効率が悪くなる,加熱時間が長くなる,均一加熱
が困難である,設備費が高額になるなどの問題点があり,「エジェクター」を用い
ることによって上記問題点を解決するものであるから,そのような「エジェクター」
に代えて「軸流ファン」を用いることは,甲2の記載に反することであって,阻害
要因になると判断したもので,審決の判断に誤りはない。
3原告は,本件原出願時において,軸流ファンを設けたことにより生じる課題
を特に気にする必要はなかったと主張する。
しかしながら,原告主張の公開特許公報(甲22,25)では,軸流ファンを設
けたことにより生じる課題があるために,従来用いられていた軸流ファンに代わっ
てシロッコファンや遠心ファン(ターボファン)が用いられているのであって,軸流
ファンを設けたことにより生じる課題があったことは明らかである。
第5当裁判所の判断
1本件発明1~5について
本件明細書及び図面(甲1)によれば,本件発明1~5について,次のとおり認
められる。
本件発明1~5は,熱風を循環させてワークを所定の熱処理温度まで加熱する熱
風循環炉に関するものである(段落【0001】)。従来の高速昇温炉には,①バ
ッチ処理(不連続処理)のため,ワークの搬入・搬出のたびに熱風の流出等が生じ,
熱効率が悪く,処理時間がかかる,②シロッコファンを用いているため,高速で加
熱できず,循環流の偏りが生じるため加熱むらが生じ易い,③ワークを中央に配置
し周囲に循環通路を設けるようにしているため,デッドスペースが多く,炉体容積
の割に処理できるワーク量が少ない,④炉内を加熱帯と均熱帯とに分けることがで
きないので,昇温に時間がかかり,サーマルヘッド(被加熱物と雰囲気との温度差)
を大きくとることができないなどの問題があり,また,従来のトンネル型の連続処
理炉には,大型化してしまい,処理量の小さい炉を求める要望に応じることができ
ないという問題があった(段落【0002】,【0003】,【0005】~【0
009】)。そこで,本件発明1~5は,小型でありながら処理量が多い,連続処
理の熱風循環炉を提供することを目的とするものである(段落【0010】)。本
件発明1は,回転する炉床を備え,炉内を外周側領域とそれより内側の内方側領域
に分ける環状仕切り(下記【図1】及び【図3】の8)を設け,外周側領域に環状
のワーク載置台(下記【図1】の23)を配置し,天井付近に軸流ファン(下記【図
1】の11)を設けるなどの構成により,軸流ファンが熱ガスを内方側領域の炉床
に向けて吐出し,この熱ガスが環状仕切り下の通路を経て放射状に外周側領域へと
流出し,外周側領域のワーク載置台を通過して上昇するようにしたものであり(段
落【0011】),軸流ファンが,外周の雰囲気をあまり攪拌せずにほぼ同じ所を
循環させるので,特定のバーナの出力を特定のゾーンに供給することが可能となり,
加熱帯と均熱帯を分けることが可能となると共に,均等加熱も可能となり,また,
デッドエリアとなる炉の中央を利用して軸流ファンを設置することで,炉がコンパ
クトになり,環状のワーク載置台を外周側領域に配置することで,ワーク載置棚を
長くすることが可能となり,炉の面積の割に大量のワークを処理することができる
などの効果を奏するものである(段落【0012】,【0017】,【0018】)。
本件発明2~5は,本件発明1の構成をすべて含み,上記の効果を奏するもので
あるが,これに加えて,本件発明2は,ワーク載置台を複数段とすることで大量処
理を可能とするもの,本件発明3は,ワーク載置台に仕切りを設けることで,循環
流がワークに接触しても乱れることなく,ほぼ同じ所を循環可能としたもの,本件
発明4は,各段のワーク載置台ごとに装入口・抽出口を設けることで,搬入・搬出
時の熱ロスを少なくしたもの,本件発明5は,ワークの装入口・抽出口を独立の扉
とし,その間隔を定めることで,搬入・搬出時に余分な熱が逃げず,装入口と抽出
口とを同時に開放してもそれらが直接連通することはないという効果を奏するもの
である(段落【0013】~【0016】,【0019】~【0022】)。
【図1】一実施形態を示す正面図【図3】一実施形態を示す平面図
2取消事由(相違点3に関する審決の判断の当否)について
(1)実願昭57-116480号(実開昭59-21495号)のマイクロフ
ィルム(甲2)によれば,甲2発明について,次のとおり認められる。
甲2発明は,炉本体内に高温ガスを供給する給気装置及び前記炉本体内において
高温ガスを強制循環流動させる循環装置を設けた熱風循環炉に関するものである
(2頁1~4行)。従来の熱風循環炉は,下記【第2図】に示すように,炉本体2
の内部を隔壁11により高温ガス発生室12と加熱室13とに区画し,電動ファン
15により高温ガス発生室12から加熱室13に高温ガスを供給して,加熱室13
内の被加熱物品3を加熱し,加熱後のガスは電動ファン15の吸引作用により流路
16を経由して高温ガス発生室12に戻るというものであったが,電動ファン15
によって得られるガス流速が20m/sec程度にとどまるため,高温ガスから被加
熱物品3への伝熱効率が悪く,加熱に要する時間が長くなり,均一加熱が困難にな
るという問題があるほか,電動ファンに起因して設備費が高額になるという問題が
あった(2頁5~19行,【第2図】)。そこで,甲2発明では,電動ファンでは
なくエジェクターを採用するなどの構成をとることにより,エジェクターの作用で
炉内の高温ガス流速が従来よりも大幅に増大して,被加熱物品への伝熱が効率化し,
短時間で均一な加熱が可能となり,省エネ,設備費の半減,炉内容積を小さくする
ことができるなどの効果を奏するほか,炉本体の具体的構成を自由に変更すること
が可能で,エジェクターの位置や噴出方向等も変更することができるというもので
ある(3頁4行~4頁18行,6頁17行~20行)。
【第1図】甲2発明の実施例を示す図【第2図】従来例の概略縦断面図
(2)原告は,甲2発明について,エジェクターに代えて軸流ファンを選択する
ことは,当業者にとって単なる設計事項であるか,容易に考え出せるものであると
主張する。
しかしながら,甲2の【第2図】に示された電動ファンの形状等に照らすと,こ
こにいう電動ファンを本件発明1の軸流ファンに対比させることができるところ,
上記(1)で認定したとおり,甲2発明は,電動ファン(軸流ファン)が隔壁の内側に
置かれた被加熱物品に高温ガスを送って加熱する従来技術の熱風循環炉の問題点を
解消するため,軸流ファンに代えて高速でガスを送るエジェクターを用いることで,
伝熱の効率化等の効果を奏するほか,炉本体の構成を自由に変更することができる
というものであり,甲2発明の実施例を示す【第1図】をみても,従来技術の熱風
循環炉を示す【第2図】と比較して,隔壁がなくなり,被加熱物品3の位置が変更
されるなどしている。このように,甲2において,電動ファンは,隔壁を設け,そ
の内側に置かれた被加熱物品を加熱する構成と結び付いた従来技術として開示され
ており,電動ファンをエジェクターに変更することにより,炉本体の構成を変更し
得るとされているのであるから,これら隔壁の有無や被加熱物品の配置場所等の構
成とは無関係に甲2発明からエジェクターのみを取り出して軸流ファンに代える
(戻す)ことの可否を検討することはできないというべきである。そして,甲2発
明のエジェクターを軸流ファンに戻そうとすると,これに伴い隔壁の内側に被加熱
物品が置かれることになり,本件発明1の環状仕切りの外周側領域にワーク載置台
を置くという技術的思想に反することになるから,甲2発明のエジェクターを軸流
ファンに変更し,相違点3に係る本件発明1の構成とする発想は生じる余地がない
というべきである。
したがって,原告が本訴で新たに提出した書証について判断するまでもなく,本
件発明1と甲2発明との相違点3に関する審決の判断に誤りはない。また,本件発
明2~5は,本件発明1の構成をすべて含むから,同様の理由により,本件発明2
~5に関する審決の判断にも誤りはない。
よって,原告主張の取消事由は理由がない。
第6結論
以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がないから,原告の請求を棄却するこ
ととして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
塩月秀平
裁判官
古谷健二郎
裁判官
田邉実

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