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             主         文
 1 1審原告の本件控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
  (1) 1審被告は,1審原告に対し,金3億6960万1255円及び内金1億
0847万9793円に対する平成8年11月14日から,内金2億6112万1
462円に対する平成9年11月11日から各支払済みまで年5分の割合による金
員を支払え。
  (2) 1審原告のその余の請求を棄却する。
 2 1審被告の本件控訴を棄却する。
 3 訴訟費用は,第1,2審を通じ,これを5分し,その4を1審原告の,その
余を1審被告の各負担とする。
 4 この判決は,第1項(1)に限り,仮に執行することができる。
             事 実 及 び 理 由
第1 当事者が求めた裁判
 1 1審原告
  (1) 原判決を次のとおり変更する。
    1審被告は,1審原告に対し,19億1509万7394円及び内金13
億0697万1134円に対する平成8年11月14日から,内金2億6165万
4722円に対する平成9年11月11日から,内金3億4647万1538円に
対する平成15年10月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払
え。
  (2) 1審被告の本件控訴を棄却する。
 2 1審被告
  (1) 原判決中1審被告敗訴部分を取り消す。
  (2) 1審原告の請求を棄却する。
  (3) 1審原告の本件控訴を棄却する。
第2  事案の概要
 1 本件は,1審原告と1審被告(ただし,本件訴訟の提起当時の被告はa町の
みであったが,平成15年4月1日付けでb町及びc町と合併して現在の1審被告
となった。)とが1審被告所有地(d干拓地。以下「本件干拓地」という。)への
土砂の搬入に関する契約を締結したところ,1審被告の債務不履行によって土砂の
搬入ができず,損害を被ったと主張する1審原告が,1審被告に対し,損害賠償請
求をした事案である(なお,1審原告は,原審において,総損害額を21億301
7万9134円と主張し,その一部である18億6453万5133円の支払を求
めていたが,当審において,総損害額を19億1509万7394円と主張し,同
額の支払を求めてその請求を拡張した。)。
   その余の事案の概要は,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」欄
に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決15頁3行目の「主
張が」を「主張するが」に,16頁7行目の「⑳損益相殺に主張について」を「⑳
損益相殺の主張について」に,18頁末行の「である」を「である。」にそれぞれ
改める。また,1審原告は,当審において請求を拡張しており,損害額に関する主
張で,当審において変更された部分は引用しない。)。
   原審は,1審被告の債務不履行を認め,1審原告の請求の一部(請求額18
億6453万5133円,認容額1億0951万9912円)を認容した。
   これを不服として双方から提起されたのが,本件控訴事件である。
 2 当審における争点は,原審とほぼ同様であって,次のとおりである。
  (1) 1審被告の債務不履行の有無
   ア 本件契約の成立時期
   イ 本件契約における1審被告の義務
   ウ 搬入開始時期の遅延の有無
   エ 搬入開始時期遅延についての1審被告の帰責性の有無
  (2) 1審原告の損害の有無及びその額
 3 当審における当事者の主張
  (1審原告)
  (1) 争点(1)について
   ア 1審被告に,その不履行により損害賠償義務を発生させる法的な搬入土
砂の受入義務があることは明らかである。
     すなわち,本件契約の履行のためには,①膨大な量の公共残土の確保,
②土質の適合性を確保するための中間処理事業の免許取得とリサイクル・プラント
の設置,③土質の適合性チェックのための視察の受入れ,④1審被告の要請による
1審原告の結成,⑤ポンツーン(陸揚施設)整備費,保証金及び追加工事費など多
額の出費,⑥ポンツーンの設置,⑦1審被告に対する土地利用料の支払約束,など
の準備が必要であり,1審原告は,相当な時間と費用を費やさなければならないの
である。このような契約において,1審被告に本件干拓地への土砂搬入受入れの履
行を強制できないとすれば,1審原告に極めて過酷な負担を課すことになるのは明
白であり,1審被告もこれを承知していたものである。
   イ 搬入開始時期について,1審原告と1審被告とは平成4年度と合意して
おり,したがって,1審被告の債務不履行は平成5年4月1日に始まったことにな
る。
     すなわち,搬入開始時期について,1審原告と1審被告は,すでに平成
4年11月時点で,平成4年度とすることに合意していた。本件契約書(甲1)が
作成されたのは平成6年6月15日であるが,同書面の作成日付が平成4年12月
25日とされているのも,その時点で本件契約の主要部分が成立していたからであ
る。本件契約書の作成が遅れたのは,1審被告が本件契約書の草案作成に手間取っ
たこととポンツーンの所有権の帰属をめぐって争いがあったことによる。1審被告
は,他の搬入業者との契約について平成4年12月25日に成立したことを認めて
いるが,その契約書も実際には平成5年9月28日と契約成立よりのちに作成され
ている。そして,1審原告は,搬入開始時期が平成4年度であることを前提とし
て,保証金等1億円もの支払をし,その使途の変更にも応じているのである。ま
た,1審被告は,書面をもって,度々1審原告に土砂搬入の延期を要請している
が,それも,搬入開始時期が平成4年度と合意されていたからこそされたものであ
る。このように搬入開始時期を平成4年度とすることは,平成4年12月25日に
合意が成立していたのであるから,本件契約書の記載の意思解釈も平成4年12月
25日を基準にされるべきであって,本件契約書が実際に作成された平成6年6月
15日を基準にすべきではない。 1審被告は,本件契約書記載の搬入開始時期
(平成4年度)は一応の目安にすぎないと主張する。
     しかし,1審原告は,平成4年度の搬入開始に向けて,公共残土の確
保,保証金,ポンツーン設置のための費用の納入等の準備を行い,実際にも平成4
年11月には1審被告から1審原告ら搬入業者に対し土砂受入れが受諾され,平成
5年3月にはポンツーンが建造され,同年6月には完成するなど,平成5年3月こ
ろの土砂搬入開始に向けて準備が整えられていたのである。このようなことからす
れば,平成4年度という搬入開始時期は一応の目安などであるはずがなく,一般の
契約同様,当事者を拘束する法的効力を有するものであるといわざるを得ない。
   ウ 1審原告は,1審被告に対し,搬入土砂受入義務の履行を猶予したこと
はない。
     本件契約書(甲1),1審被告と他の搬入業者との契約書のいずれも,
Aの撤退表明後に作成されているが,いずれも搬入開始時期は平成4年度とされて
いる。すなわち,Aの撤退によって,搬入開始時期の変更合意をしたことはない
し,実際にもAの撤退は,搬入開始時期に影響を与えるものではなかったから,搬
入開始時期延期の理由にはならない。
     1審被告は,1審原告に対し,平成5年9月28日付け文書をもって,
搬入時期の延期の要請をしているが,同文書は,無期限に延期を求めるものではな
いし,また,1審原告がこれを承諾したことはない。1審原告は,当時いつでも土
砂搬入を開始できるよう準備していたが,搬入開始が多少遅れても土砂の搬入が実
現できるのであれば,1審被告に対して法的責任を追及するまでのことはないと考
えて,事実上土砂の搬入を差し控えることにしたにすぎないのであって,搬入開始
時期延期の合意などはしていない。
     1審原告は,平成6年3月26日に開催された土砂搬入会議において
も,地元住民の同意が得られるまで搬入開始時期を延期することに同意などしてい
ない。同会議において「土砂の搬入は,防塵対策等周辺の対策完了後とする」とさ
れているのは,土砂搬入前に防塵対策等の周辺対策が立案されていなければならな
いことを確認した趣旨にすぎない。
   エ 1審被告の債務不履行
    (ア) 1審被告は,本件契約に定める搬入開始時期に搬入土砂受入義務を
履行しなかったのであるから,1審被告の債務不履行は明らかである。
    (イ) 1審被告は,本件干拓地への土砂搬入について,地元住民らの同意
取付け義務が1審原告に課されており,これが履行されない限り,本件干拓地への
土砂搬入を受け入れることはできないから,履行遅滞の責を負わないと主張する。
       しかし,本件契約上,地元住民らの同意取付け義務については何ら
の規定もなく,したがって,1審原告,1審被告のいずれにも課されていない。1
審被告は,地元住民らの同意について,法律上の義務はなく,行政の立場として,
地元住民らを尊重する意味において,同意が必要であるとしている。実際にも,1
審被告は,平成6年7月27日,地元住民らの同意のないまま,1審原告ら搬入業
者に搬入開始を指示し,同年8月1日,B,Cの共同体に土砂搬入を行わせてい
る。このように1審被告の行政責任はともかく,本件契約上は同意取付け義務は規
定されておらず,1審被告は,地元住民らの同意の有無にかかわらず,平成4年度
に履行する義務があったというべきである。
    (ウ) 仮に本件契約上同意取付け義務が認められるとしても,同義務は1
審被告に課されていたものである。
       aマリンリゾート構想,A撤退後のジョイフルアイランド構想を通
じて,1審被告は,これらの事業主体であった。また,本件干拓地への埋立事業に
ついては,Aの撤退の前後を通じて内容に変更はなく,その事業主体は継続して1
審被告であった。このように1審被告が事業主体である以上,地元住民らの同意取
付け義務が1審被告に課されるのは当然である。
       1審被告は,本件契約9条をもって,1審原告に地元住民らの同意
取付け義務があると主張するが,同条は,土砂の搬入業者としての1審原告に,土
質や搬入作業等の安全対策等を説明して1審被告に協力することを規定しているに
すぎず,事業内容を始め工事の施工に至るまでの説明は1審被告がすべきものであ
る。
    (エ) 1審被告は,地元住民らの同意が得られなかったのは,Aの撤退と
いう予想外の事態により事業内容が急変したこと,地元住民らの搬入土砂の安全性
に対する根強い不安に対し1審原告が説明義務を尽くさなかったことが原因である
として,1審被告には帰責性がないと主張するが,次のとおりいずれも理由がな
い。
       少なくとも,本件干拓地への埋立事業に限れば,事業主体は一貫し
て1審被告であり,事業内容にも変更はなかった。また,地元住民らは,ジョイフ
ルアイランド構想についての事業説明を強く希望していた。ところが,平成6年4
月30日,同年5月1日に開催された地元住民に対する説明会において,1審被告
が,地元住民らにジョイフルアイランド構想の事業説明を行うことなく,1審原告
ら搬入業者に工事説明を行わせようとしたため,地元住民らから「事業内容も分か
らないまま,搬入業者が工事説明に出てくるような段階ではない」と追い返され,
また,地元住民の1審被告に対する反発は強まった。同年7月26日に開催された
説明会においても,1審被告の前町長が土砂搬入には地元住民の同意は不要である
などと強弁した。さらに,1審被告は,同年8月1日,地元住民の同意がないま
ま,土砂の搬入を強行した。こうしたことから地元住民らの1審被告に対する反発
は高まるばかりで,1審被告に対する信頼も失われていった。そのため,平成7年
2月16日,18日,19日に開催された説明会においても,事業主体である1審
被告からの事業説明もないのに,工事説明を受ける段階ではないと,集まった地元
住民は1審原告ら搬入業者の説明を聞くまでもなく帰ってしまった。このような地
元説明会の経過からすれば,1審被告の帰責性は明らかである。
    (オ) 1審被告は,本件契約が継続的取引契約であると主張する。
       しかし,本件契約は,1回的な契約であり,1回的な債権債務が分
割して給付されるというにすぎず,基本契約と個別契約とに規律される継続的取引
契約とは性質を異にしている。したがって,本件契約には,継続的取引契約をめぐ
る法理論は妥当せず,本件契約が継続的取引契約であることを前提とする1審被告
の主張はいずれも失当である。
  (2) 争点(2)について
   ア 1審原告が1審被告の債務不履行により被った損害額の内訳は次のとお
りであり,その根拠は次項以下のとおりである。
    ① 逸失利益       11億0200万0000円
    ② 支払済み契約保証金等  1億0951万9912円
    ③ 土砂移転費用        4545万1222円
    ④ 搬入土砂整地費用等   6億0812万6260円
    ⑤ 一般経費              5000万円
   イ 逸失利益
     本件契約上,1審原告の土砂の搬入量は「概ね350万立方メートルの
3分の1」とされている。本件契約は,本件干拓地の埋立てを目的とするものであ
るから,1審原告の土砂の搬入量が350万立方メートルの3分の1に達するか否
かにかかわらず,本件干拓地の埋立てが完了した時点で,土砂の搬入は終了するこ
とになり,土砂の搬入量は厳格に特定されていたわけではない。しかし,「概ね」
という表現は,本件契約の性質上不可避であったし,また,350万立方メートル
は本件埋立て完了に必要な土砂の量として認識されていたのであって,1審原告も
その3分の1を目途に準備をし,土砂を搬入することになっていたのであるから,
原審のように土砂の搬入量が確定していないからといって,搬入量がゼロの場合と
同様に損害を認めないというのは,あまりに過酷で非常識である。本件において
は,1審被告の債務不履行により1審原告に損害が発生したことは明らかである
が,本件契約の性質上,損害額を確定することが困難であり,民事訴訟法248条
が適用されるべき事案である。同条は,損害の性質によっては,損害が発生したこ
とが確実であるのに,損害額算定の根拠となる具体的事実を立証することが困難で
ある場合に,被害者が損害の填補を受けられないとすれば,衡平の理念に著しく反
することから,裁判所が相当な損害額を認定できる旨規定している。同条の趣旨に
従えば,350万立方メートルの3分の1である116万立方メートルを基礎にし
て損害額が認定されるのが相当というべきである。
     そして,1審原告は,公共残土1立方メートルを処分するにつき,Dか
ら2400円を受け取る一方,運送費用等で合計1450円(De町保管場所から
e港運送費用250円,e港からa町港海運費用800円,a町港から本件干拓地
荷役費用300円,土地使用料100円)の費用を要するため,1審原告の公共残
土1立方メートル当たりの純利益は950円となるから,逸失利益は11億020
0万円(950円×116万立方メートル)となる。
   ウ 支払済み契約保証金等
     1審原告は,平成4年12月15日,本件契約の保証金として,1審被
告に対して1億円を支払い,その他施設工事費等として,平成5年10月19日以
降E株式会社に対して663万6633円,平成7年11月28日F株式会社に対
して288万3279円をそれぞれ支払い,合計1億0951万9912円を支出
した。
   エ 土砂移転費用
     1審被告は,1審原告に対し,平成4年4月ころから公共残土の収集を
依頼していたため,1審原告は,Dに対し,公共残土の収集を依頼し,Dは,兵庫
県加古川土木事務所の発注により公共残土を収集し,高砂市の所有するe町の仮置
場を無償で借り受け,同仮置場に平成4年度は4万1400立方メートル,平成5
年度は2万5890立方メートルの合計6万7290立方メートルの公共残土を保
管していた。ところが,1審被告は1審原告が本件干拓地への土砂の搬入を認めな
かったため,高砂市は,Dに対し,同仮置場で保管していた土砂を移転し,同仮置
場を明け渡すよう求めた。このため,Dは,平成5年8月,上記土砂の移転作業を
行い,移転及び整地などの費用として,4545万1222円を支出したが,この
費用を1審原告が負担することになっているため,1審原告は同額の損失を被っ
た。
   オ 搬入土砂整地費用等
    (ア) 1審原告から公共残土の収集を依頼されたDは,公共残土を収集
し,自社の残土保管所に搬入して保管していたところ,1審被告が本件契約を履行
しないため,公共残土を搬出することができず,堆積していったため,残土保管所
のある高砂市から整地等を行うよう法令に基づいた行政指導があり,Dは,堆積す
る公共残土の整地等を余儀なくされた。
    (イ) Dは,兵庫県の自治体から公共残土を受け入れ始めた平成元年3月
から平成5年6月30日の1審被告によるポンツーン(陸揚施設)の完成日までの
52か月間に18万2532立方メートル,平成5年7月1日から平成9年3月3
1日(1審原告は,平成8年11月に本件契約を解除したが,その時点で同年度末
である平成9年3月31日までの公共残土受入れを兵庫県の自治体と合意していた
ため,この期間内に収集した残土は本件契約の期間内に収集されたものとみな
す。)までの45か月間に60万1120立方メートルの合計78万3652立方
メートル(以下「本件契約残土」という。)を収集した。Dは,平成7年2月から
平成14年5月末日までの88か月間をかけて本件契約残土を搬出処分した。
    (ウ) Dが,これらの公共残土の整地等,本件契約残土の搬出処分等に要
した費用は,別紙損害計算書のとおり24億8889万1060円であるところ,
Dは,公共残土の処分費用として自治体から1立方メートル当たり2700円,す
なわち本件契約残土を受け入れたことにより21億1586万0400円を受領し
たから,前記費用等の損害額は,この差額である3億7303万0660円とな
る。
       また,Dは,1審原告との間で,本件契約残土の処分費として1立
方メートル当たり2400円を1審原告に対して支払う旨の合意をしていたから,
本件契約残土の処分により1立方メートル当たり300円(2700円-2400
円)の利益を得ることができたにも関わらず,1審被告の債務不履行により,これ
を得ることができなくなった。その額は,2億3509万5600円である(30
0円×78万3652立方メートル)。なお,Dが残土収集のためにすべき作業
は,計量とふるいであるが,これに要する費用は極めて微々たるもので算定不可能
で,経済的合理性からすれば無視されるものである。
       Dが被った前記合計6億0812万6260円は,1審原告がDに
対して賠償すべき義務のあるものであり,最終的に1審原告の損害となる。
    (エ) 1審被告は,Dに生じた損害は,特別損害であると主張する。
       しかし,当初,本件土砂搬入は,Dが単独で行う予定であり,1審
被告の要請に応じて平成元年3月から本件干拓地用の公共残土の収集を開始し,1
審被告町長,助役,町議会議長らは,平成2年以降平成5年ころまで,1審原告設
立後も多数回にわたってDのリサイクル・プラント,土砂置場及び搬入土砂調達先
の視察に訪れた。これらの事情から,Dが本件干拓地用の公共残土を収集していた
事実を1審被告が認識していたことは明らかであるから,1審原告がDから逸失利
益の損害賠償請求を受けていることは,1審被告と1審原告との間においても,債
務不履行により通常発生する損害に当たる。仮に特別損害であるとしても,前記の
とおり1審被告に予見可能性があったことは明らかであるから,1審被告には賠償
する義務がある。
    (オ) 1審被告は,前記18万2532立方メートルの搬入土砂の整地費
用は債務不履行がなくとも発生したと主張する。
       しかし,1審被告が本件契約どおり土砂搬入を受け入れていれば,
本件干拓地へは,1か月平均10万立方メートルの搬入が可能であったのであるか
ら,前記搬入土砂であれば,1か月もあればすべて搬入可能であった。この間に追
加で土砂が収集されたとしても,その土砂はDの中間処理場に仮置きされることな
しに順次e港から直接搬出されることになっていたから,中間処理場に土砂が堆積
することはなかった。すなわち,1審被告の債務不履行がなければ,整地費用は不
要であったことは明らかである。
    (カ) 1審被告は,1審原告には,適宜残土を処分し,また,Dに残土の
収集を中止させるなどして,損害の発生をくい止める義務(損害軽減義務)がある
と主張する。
       しかし,1審原告は,1審被告から,繰り返し熱心に早期に搬入が
実現できることを通知され,あわせて土砂の確保を求められたために,土砂の搬入
に備え,土砂を処分することもできなかったし,Dに土砂の収集の中止を求めるこ
ともできなかったのであるから,1審被告の主張は認められない。
    (キ) 1審被告は,Dが収集した公共残土の土質について,本件契約の受
入基準を満たしているかどうか,すなわち,本件干拓地への搬入が可能かどうかが
不明であると主張する。
       しかし,1審原告は,1審被告による土質の視察を何度も受け入
れ,また,自主的にサンプル検査して,その結果に問題のないことを1審被告に報
告したこともある。さらに1審被告の職員が高砂市の仮置場から搬入土砂のサンプ
ルを持ち帰り土質検査をしている。こうした過程で1審被告から土質に問題がある
旨の指摘を受けたことはなく,1審原告が収集した土砂の土質は搬入可能なもので
あって,このことは1審被告の議会も認めていた。
       また,そもそも,本件契約上,土質のサンプル検査は,積出港(具
体的には,土砂の仮置場のあった高砂市のe港である。)において,土砂搬入のた
め積み出す際と定められていたところ,1審被告の債務不履行により,土砂の搬入
ができず,したがって積出しもできなかったことから,本件契約に基づくサンプル
検査は実施されなかったが,それは1審被告の債務不履行の結果であるから,1審
被告は,土質のサンプル検査が実施されていないとの理由で土砂搬入ができないと
主張することは信義則上許されないというべきである。
   カ 一般経費
     1審原告は,本件契約の履行のため5000万円の経費を支出した。
   キ 1審被告は,1審原告が本件干拓地に土砂を搬入するのに,1450円
/m3のほか,392円/m3の経費を要するとして1審原告の逸失利益の主張を否認
するが,これに対する認否・反論は次のとおりである。
    (ア) 管理業者への管理業務委託料58円/m3,縦排水井戸管理費用7.
04円/m3(別紙内訳表⑦),周辺建物現況調査費用1.40円/m3(同⑬),周
辺井戸調査費用0.14円/m3(同⑭)の経費が必要であることは認める。
    (イ) 土質管理(同③),品質管理(同④),盛土管理(同⑤),動態観
測(同⑥),f谷補償(同⑪),G氏への補償(同⑫),現場事務所費(同ア),
周辺建物事後調査(同イ),周辺井戸事後調査(同ウ),法面管理(同カ),雑
草・木・竹除去費(同ク),海面使用料(同セ)は否認する。その理由は次のとお
りである。
     ① 土質管理について
       搬入土砂については,官々の協定に基づき土砂を引き渡す側の自治
体が土質試験や化学分析を行うのであって,1審原告が土質管理について行うの
は,同結果について確認するだけのためであり,その費用は無視できる程度のわず
かなものにすぎず,Dが手元に残す300円/m3に含まれているというべきであ
る。
     ② 品質管理,盛土管理,動態観測について
       これらは,管理業務委託料58円/m3に含まれるものであって,そ
れ以外には発生しない。
     ③ f谷補償について
       f谷地区は,aマリンリゾート構想の対象地区内であったが,ジョ
イフルアイランド構想への変更後対象地区でなくなり,地元住民自ら埋立てを完了
し,1審被告は住民に何ら補償を行っていない。
     ④ G氏への補償について
       G氏への補償は,1審原告が了解しないまま1審被告より支払われ
たものである以上,1審被告が負担すべきである。
     ⑤ 現場事務所費について
       1審原告は,1審被告との間で共同事業体が現場事務所を設置する
ことに合意したことはなく,搬入業者が個々に必要に応じて設置すべきものであ
る。1審原告についていえば,有限会社H(以下「H」という。)にa町港から本
件干拓地荷役の作業を依頼していたから,同社が現場事務所を設置すれば十分であ
り,その費用は1審原告がHに仮設事務所費として支払う300円/m3に含まれて
いる。
       搬入業者3社が円滑適正に土砂搬入を実施するために現場事務所の
設置が必要であったとしても,それは管理業者が行うべきことであるから,その費
用は管理業務委託料に含まれている。
     ⑥ 周辺建物事後調査,周辺井戸事後調査について
       これらの調査は,地元住民らから被害の訴えがあった場合に実施さ
れるものであって,周辺建物影響補償(別紙内訳表⑮),周辺井戸影響補償(同
⑯)に含まれ,「万一,影響が発生したらば業者が負担する」というものにすぎな
いもので,周辺建物影響補償,周辺井戸影響補償と同様費用に含まれないものとし
て扱われるべきである。
     ⑦ 法面管理について
       本件干拓地の埋立ては,窪地に行うもので,盛土の高さが西側(外
浜)が高く,東側(干拓g港線)に向けて3段階に低くなるように施工するもの
で,窪地との境に1.5メートル程度のわずかな高低差しかないから,法面として
管理する必要はなく,したがって費用も発生しない。
       また,1審被告は,費用を1立方メートル当たりで算定して396
9万円と主張するが,法面管理の性格上,土砂の体積ではなく法面の面積単位で算
定されるべきであり,それを前提として,前記わずかな斜面を法面として管理する
とすれば,その費用は合計71万2000円(法面の幅8メートル×法面の長さ5
00メートル×178円/㎡)となり,1審原告の負担分はその3分の1である2
3万7333円にすぎない。
     ⑧ 雑草,木,竹除去費について
       本件干拓地の立木については,基本的にはすべて伐採されている。
その後に生じた雑草,竹木などがあれば,その除去費は,Hが行うa町港から本件
干拓地荷役の作業に伴う共通仮設費(経費)に含める旨の合意があるのであって,
1審原告が別途負担すべきものではない。
     ⑨ 海面使用料
       海面使用料については,その金額が確定しておらず,1審原告との
間でも合意がなかったものを,1審被告が一方的に500万円と決めて漁協に支払
ったのであるから,1審被告が負担すべきである。
       また,そもそも,海面使用料は保証金から支払われるものであり,
逸失利益から控除されるべきものではない。
    (ウ) 共通仮設費(同コ)について
       前記の縦排水井戸管理,周辺建物現況調査,周辺井戸現況調査は,
役割分担表(乙14)上,1審被告が実施し,費用負担すべき「地盤対策工事」,
「沈下対策工事」という直接工事に関連して必要不可欠な作業であり,その費用は
前記直接工事の「共通仮設費」に該当するものである。そして,「共通仮設費」と
いう費用項目は,個別に算定することができないため,本体工事に一定割合を乗じ
て算出されるもので,性質上,直接工事費,間接工事費のすべてを含んだ金額であ
るから,縦排水井戸管理,周辺建物現況調査,周辺井戸現況調査の作業にさらに間
接工事費たる「共通仮設費」(同コ)を加算することは誤りである。
    (エ) 現場管理費(同サ),一般管理費(同シ)について
       1審被告の主張する経費率は不当に高く,およそ適用されるもので
はない(因みに,1審原告は,損害を請求するにあたって経費率を10%としてい
る。)。
   ク 損益相殺について
     損益相殺とは,債務不履行により債権者に損害を与えると同時に利益を
与えた(又は出費を免れさせた)場合,その利益が債務不履行と相当因果関係に立
つものである限り,これを総損害額から控除することをいうのであって,本件にお
いて,損益相殺の対象になるのは,1審被告の残土受入義務の不履行により1審原
告が利益を得,又は出費を免れたものである。1審被告が主張するDの残土受入れ
に伴い発生する収益は,1審被告の債務不履行の有無とは関係なく発生するもので
あって,損益相殺の対象とはならない。また,Dは,1審原告とは全く別の法人格
であり,同一視されるような関係にもない。
     なお,Dに莫大な利益が発生したという事実自体もない。前記オのとお
り,Dは,本件干拓地の埋立てのために公共残土を収集し,自治体から処分費を受
領したが,すでにそれを超えて残土処分費用,搬入土砂整地費用等,土砂移転費用
を出捐しており,損害が発生していることは明らかである。
  (1審被告)
  (1) 争点(1)について
   ア 本件契約において,1審被告には土砂の受入義務はない。
     本件契約は,1審被告が土砂搬入を求める権利を有し,1審原告におい
て土砂を搬入する債務を負担する契約であり,1審被告に土砂の受入義務はないか
ら,同債務の不履行ということはない。
     すなわち,本件契約においては,1審被告に埋立地に事業計画があり土
砂を一定量確保することが必要であったことから,土地利用料を1立方メートル当
たり100円と極めて低額に設定している。このような事情からすれば,1審被告
は土砂搬入を求める権利を有し,1審原告は土砂を搬入する債務を負担していると
いうべきである。
     1審原告は,土地利用料の納付,契約保証金等として多額の負担をした
ことを根拠として,1審被告に土砂の受入義務が課されていると主張するが,本件
契約に基づく公共残土搬入事業により1審原告には莫大な利益が見込まれていた一
方,前記のような1審原告の負担は折り込み済みのリスクであるというべきである
から,これをもって1審被告に土砂受入義務があるということはできない。
     また,本件契約において,役割分担表(乙14)に明らかなとおり,1
審被告も本件契約上種々の義務を負っているのであって,原審認定のように本件契
約は1審原告に一方的に義務を負わせるようなものではない。
     さらに,1審原告は,公共残土を本件干拓地に搬入できなかったとして
も,他に処分することが可能であったから,1審被告には逸失利益の賠償義務を発
生させるような土砂搬入義務はないというべきである。
   イ 搬入開始時期の遅延はない。
     すなわち,本件契約2条では搬入期間として平成4年度から平成10年
度までとされているが,本件のように公共機関が関わる埋立ては,計画から実現ま
で紆余曲折をたどるのが通常であり,このような実情に照らせば,契約上の搬入期
間の定めも確定的なものではなく一応の目安にすぎないというべきである。しか
も,本件干拓地に搬入する土砂は,搬入条件に適合した公共残土に限定されている
ことから,搬入業者は土砂を安定的に確保できるとは限らない。実際,本件契約が
交わされた当時,陸揚施設の完成は平成5年度になることが予想されており,1審
原告にも平成4年度からの搬入は不可能であることが分かっていたが,搬入期間は
一応の目安にすぎないことから,契約書上の記載は平成4年6月16日の土砂搬入
会議の説明にあわせて平成4年度と記載された。このように本件契約2条の搬入期
間は,法的拘束力のない一応の目安にすぎないというべきである。
     そして,土砂搬入開始には,地元住民の同意が前提条件であるから,地
元住民の同意が得られるまで(地元住民の同意は平成9年11月4日付けで得られ
ている。),搬入開始時期は到来していないというべきである。
     1審被告は,1審原告ら搬入業者との間でも,平成6年3月26日に開
催された土砂搬入会議おいて,地元住民らの同意が得られてから土砂搬入を開始す
ることを確認しており,その際,土砂の搬入開始時期を地元住民らの同意が得られ
るまで延期する旨合意した。
     仮に,そうでないとしても,本件契約書9条には,「乙(1審原告)
は,この契約に基づく土砂の搬入に伴う安全対策等については,適切な措置を講ず
るとともに,甲(1審被告)立会のもとに地元g区民に対して十分な説明を行い,
甲に迷惑を及ぼさないものとする。」と規定されており,その時点で同意が得られ
ていないことを前提に地元g区民の同意を得るための説明義務が1審原告にあるこ
とは明らかである。したがって,地元住民らの同意が得られないままでは土砂の搬
入ができないことは,当事者双方の共通認識であったから,1審被告と1審原告
は,平成6年6月15日の本件契約書(甲1。契約書の作成日付は平成4年12月
25日であるが,実際に作成されたのは平成6年6月15日である。)の調印に際
し,土砂の搬入開始時期を地元住民らの同意が得られるまで延期する旨合意したと
いうべきである。
     1審被告は,平成9年11月4日,地元住民らの同意が得られたことか
ら,1審原告に対し,本件干拓地への土砂搬入が可能となった旨を伝えたが,1審
原告は土砂搬入を拒絶した。
     以上のとおり,仮に1審被告に土砂の受入義務があるとしても,搬入開
始時期の遅延はない。
   ウ 仮に搬入開始時期の遅延があったとしても,1審被告に帰責性はない。
     土砂搬入が遅延したのは,地元住民らからの同意取付けに難航したから
であるところ,前記のとおり,本件契約によれば,地元住民らの同意を得るため
に,土砂搬入に関わるすべての事項(土砂の土質や安全性を含む。)についての説
明義務が1審原告にあることは明らかである。当初計画されていた「瀬戸内中央a
マリンリゾート構想」(以下「aマリンリゾート構想」という。)がAの撤退によ
り変更を余儀なくされたのちについても,1審原告ら搬入業者に説明義務があるこ
とに変わりはない。
     1審被告は,Aの撤退後,本件干拓地の開発について事業主体となるこ
とを表明した。そこで,1審被告に,その事業内容について,説明義務が発生する
としても,1審被告は,次のとおり説明義務を怠ったことはない。
     1審被告が事業主体となったのはAの撤退という不測の事態による。ま
た,1審被告が主体となる事業実施は町民全体の利益に関わる事項であり,事業実
施や予算措置についての議会承認の問題を含めて慎重な対応が求められることから
すれば,早急に確定的な事業計画の策定を求めることは不可能であって,1審被告
としては,このような諸事情を勘案し,相当な期間内に一応の事業計画を策定し,
これをもとに地元住民等への説明を行えば足りるというべきである。1審被告は,
A撤退後,「健康と福祉とゆとりのジョイフルアイランド構想」(以下「ジョイフ
ルアイランド構想」という。)を計画し,平成5年12月19日以降合計50回近
く地元説明会を開催して地元住民に説明をしており,1審被告に説明義務があると
しても,1審被告がこれを怠ったことはない。
     実際にも,地元住民らの同意の取付けが難航したのは,変更後の事業内
容について地元住民らの理解を得られなかったからではなく,搬入土砂の土質,環
境への影響,土砂搬入に伴う粉塵,騒音及び振動等に対する強い不安があったから
である。このことは,平成8年8月から開始された中国電力の土砂(地元の土砂)
搬入に対する同意がスムースに得られたことからも明らかである。
     また,前記のとおり,本件契約上,地元住民らへの説明は1審原告ら搬
入業者が行うものとされているところ,当初1審原告ら搬入業者は共同事業体協定
書を締結し,当該共同事業体において管理業者と管理業務に関する協定書を締結
し,管理業者に地元住民らへの説明を委託する予定であったが,1審原告が意見を
二転三転させたことから協定の締結に至らず,搬入業者側は,地元住民らへの説明
を実施できなかった。
     このように,地元住民らは搬入土砂の安全性等について強い不安があっ
ったにも関わらず,説明義務のある1審原告ら搬入業者が十分な説明をしなかった
ために,同意の取付けが困難だったのであり,また,1審被告としては,事業内容
について十分説明し,地元住民らの理解を得られていたのであるから,地元住民ら
の同意の取付けが難航したことについて1審被告に帰責性はない。
   エ ところで,本件契約は,契約関係が相当長期間にわたって継続すること
が予定されている継続的取引契約の範疇に属する契約である。このような契約にお
いては,一定期間契約関係が継続されるとする当事者の信頼を保護するとともに,
契約当事者が信義に従い,契約目的実現に向けて互いに協力しあう必要がある。ま
た,契約の安定性を確保する趣旨から,契約を解除するためには,契約の継続を期
待し難いような重大な債務不履行があること(やむを得ない事由の存在)を要する
と解すべきところ,1審被告には,仮に何らかの帰責事由があるとしても,土砂搬
入開始の遅延について,契約の継続を期待し難いような重大な債務不履行はない。
     前記のとおり,1審被告は,平成5年12月19日以降50回近く説明
会を開催している。土砂搬入開始が遅延したのは,地元住民らの同意の取付けが遅
れたためであるが,1審被告が的確な見通しのもとで地元住民らに対して適切な対
応を行っていれば期限どおりに搬入を開始することができた,ということはできな
い。
     すなわち,地元住民らの同意の取付けが困難であったのは,地元住民ら
としては,地元外の業者が地元外の土砂を搬入するということで,土砂の安全性や
工事に伴う騒音,粉塵等の被害への対策に強い不信や不安があったからであるにも
かかわらず,1審原告が,土砂搬入会議等において,意見を二転三転させたり自己
の利益だけを追求する態度に終始したため,地元説明会の開催等の準備作業が搬入
業者間で進まなかったこと,1審原告ら搬入業者が,1審被告からの要請にもかか
わらず1審被告に頼るばかりでなかなか説明会に出席せず,また,町内に現場事務
所を設置し地元住民らにより積極的に対応するよう要請しても何らの対応もしなか
ったことなども大きな要因であった。
     本件契約は,契約当事者が信義に従い,契約目的実現に向けて互いに協
力することが要請されているところ,前記のような1審原告の態度はこれに違反し
ており,土砂搬入開始の遅延について,仮に1審被告に何らかの帰責事由があると
しても,それはごく軽微なもので,かえって,本件契約上地元住民らに対して説明
義務を負担している1審原告の帰責性の方が重大であるというべきである。
     また,前記のとおり,本件のような公共機関が関わる埋立ては,計画か
ら実現まで紆余曲折をたどるのが通常であり,そのような埋立てに関わることの多
い1審原告のような業者においては係る実情を承知し,実現までに相当の時間と費
用を要するものであることを認識した上で営業活動を行っているというべきであ
り,本件搬入開始時期の遅延は,折り込み済みのリスクといえる。しかも,1審原
告(公共残土を収集したのはDであるが,両者は実質的には同一とみるべきであ
る。)は,公共残土の収集により多額の利益を上げており,損害もない。さらに,
1審原告と同一の契約上の地位にあるIらは,1審被告との契約を継続し,土砂搬
入を行っている。
   オ 1審原告は,1審被告が中国電力に本件干拓地の一部につき埋立てを認
めたことが債務不履行(一部履行不能)を構成すると主張するが,本件干拓地に
は,当初から中国電力との契約による土砂,1審被告が別に実施する公共工事によ
り発生する土砂の搬入も予想されていたことから,本件契約でも,搬入土量につい
て概ね350万立方メートルの3分の1とされているのであって,本件契約と中国
電力との契約とは何ら矛盾するものではない。中国電力の土砂搬入によっても,1
審原告が本件干拓地に概ね350万立方メートルの3分の1の土砂を搬入すること
は可能であるし,1審原告は,任意に本件土砂の搬入場所を選択することができる
わけではないから,中国電力の土砂搬入によって,土砂搬入場所が制限され,その
結果コストが増加するとしても,1審原告の一方的な思惑どおりにならなかったと
いうだけのことで,1審被告の債務不履行とはならない。
     また,中国電力が陸揚施設を利用して本件干拓地に土砂を搬入すること
については,平成8年4月10日,1審原告を含む搬入業者全員がこれを了承して
おり,その意味においても1審被告に債務不履行はない。
   カ 1審原告は,1審被告の履行遅滞により公共残土の確保が不可能となっ
たと主張するが,前記のとおり1審被告には履行遅滞はなく,仮に1審原告が主張
するように川崎市等からの信用を失ったとしても,公共残土の処分を必要としてい
る自治体は多数存在し,現に平成11年7月から搬入業者により本件干拓地への土
砂搬入が実施されている事実に照らしても,1審原告が自治体等から公共残土を引
き受けることは困難でなかったはずであって,公共残土の確保が不可能になったと
の主張は理由がない。
  (2) 争点(2)について
   ア 損害全般について
     本件契約において,1審原告の搬入土量は,概ね350万立方メートル
の3分の1とされていることから,1審原告は116万立方メートルの土砂搬入を
前提として逸失利益を算定して損害額を主張する。本件においては,そもそも本件
干拓地の埋立て完了までに必要な土量が確定できない上,搬入する残土は受入基準
に適合していなければならないことからすれば,1審原告が116万立方メートル
の土砂を搬入できる蓋然性があるかどうかについては多大な疑問がある。
     また,民訴法248条の趣旨は,損害賠償制度の理念である損失の公平
な分担にあるところ,搬入できる土砂の量が不確定なこと,1審原告と同視すべき
Dが公共残土の収集により多大な利益を上げており損害を生じていないこと,一
方,1審原告請求に係る損害賠償額は,合併前のa町の平成14年度一般会計予算
約36億円の半分にも匹敵するものであることなどからすると,1審原告主張のよ
うな逸失利益を認めることは損失の公平な分担という損害賠償制度の理念に照らし
失当であることは明白である。
     前記のとおり,本件契約は継続的取引契約であるから,仮に債務不履行
による解除が認められるとしても,全損害の賠償を原則とすることは妥当性を欠
く。解除に至るまでの契約当事者双方の有責性や程度等を総合的に勘案し,相当な
賠償額に減額されるべきである。そして,本件においては,それまでさしたる売上
げのなかったDが,1審被告の協力により大量の公共残土の収集が可能となり急激
に売上げを増大させていること,前記のとおり,土砂の搬入開始が遅れたことにつ
いては,1審原告の帰責性が大きいこと,現在本件土地に残土を搬入している業者
は,採算ラインぎりぎりのところで搬入を継続していること,1審原告は,本件干
拓地に搬入できなかったとしても,公共残土を他に処分することで,損害の発生を
くい止めることができ,また,そのようにすべきであったこと(信義則上の損害軽
減義務)などが考慮されるべきである。
   イ 逸失利益について
    (ア) 1審原告は,処理費用の単価を,それぞれ自治体からDに対し27
00円,Dから1審原告に対し2400円,運送費等の経費を1450円とし,継
続的に1立方メートル当たり950円の利益を上げ得ることを前提として逸失利益
を算定するが,そのような蓋然性はない。実際,現在,本件干拓地に土砂を搬入し
ている業者は,公共残土の排出量の減少から,残土の確保自体に苦慮している上,
処理費用の単価も2000円を割り込むような状況になっていることから,採算ラ
インぎりぎりでの搬入を余儀なくされている。
       そもそも,1審原告は,本件干拓地に残土を搬入できないとして
も,他に処分することによって損害の発生をくい止めることが可能であったから,
1審原告が主張する逸失利益は,通常発生する損害とはいえず,特別損害というべ
きであるが,損害の発生及びその額に対する予見可能性はない。
    (イ) 土砂搬入に要する経費は,1立方メートル当たり1450円にとど
まらない。1立方メートル当たりの経費として,1審原告主張のほか,管理業者へ
の管理業務委託料58円/m3及び別紙内訳表のとおり334円/m3の合計392円
/m3が必要となる。
       なお,1審原告は,同経費について争うが,争いのある項目等に関
する根拠は次のとおりである。
     ① 土質管理(別紙内訳表③)
       搬入業者は,搬入土の土質試験や化学分析を1発生地ごとに1回以
上実施すること等を義務づけられており,管理業者はその結果に対し是正の指示や
指導助言を行うもので,土質管理そのものに要する費用は管理業者に支払われる管
理業務委託料には含まれない。
     ② 品質管理(同④)
       搬入土の試験盛土や盛土の土質試験の実施等に要する費用であり,
管理業者はその結果に対し是正の指示や指導助言を行うもので,品質管理そのもの
に要する費用は管理業務委託料には含まれない。
     ③ 盛土管理(同⑤)
       盛土計画の作成や盛土実施状況の把握,盛土管理測量の実施等に要
する経費であり,管理業者はその結果に基づいて盛土の場所や厚さ(撒出し高さ)
の指示等を行うことである。
     ④ 動態観測(同⑥)
       動態観測機器(沈下板,基準杭,変位杭等)の設置,日常的な動態
観測や観測データの解析・検討等に要する経費である。管理業者が分担する業務
は,搬入業者から提出された解析検討結果に基づいて,円弧滑り等が発生しないよ
う,盛土の場所や厚さ(撒出し高さ)の指示等を行うことである。したがって,管
理業務委託料には含まれない。
       なお,前記①ないし④は,当初管理業者の管理業務の中に含まれて
いたが,これらを搬入業者が行うこととして,管理業務委託料を当初の見積額から
減額して58円/m3とした経緯がある。
     ⑤ f谷補償(同⑪)
       f谷はジョイフルアイランド構想の下では埋立ての範囲外であると
しても,同地区の排水が本件干拓地に流入しているため,干拓地の埋立てにより,
同地区は低地となって排水ができなくなるので埋立てが必要になり,住民への家屋
や農作物の移転補償費が必要となる。
     ⑥ G氏への補償(同⑫)
       G氏は,本件陸揚施設を設置した岸壁に隣接して柑橘を耕作してい
る住民であり,海上から自船の接岸ができなくなり,陸上から通わざるを得なくな
るため,補償が必要となった。
     ⑦ 現場事務所費(同ア)
       土砂搬入にあたっては,その期間中,現場に事務所を設置し,同事
務所に,動態観測等を実施する技術者や管理業務に関わる技術者以外に,現場の安
全衛生管理や派遣職員の統括などを担当する所長,所長を補佐する主任,一般事務
を処理する事務職員を配置する必要がある。同事務所は,共同事業体が事業を遂行
するため設置するものであって,Hが行う作業に係る従業員等が一時的に休息する
事務所とは別物であるから,Hに支払われる荷役費用等には含まれない。
     ⑧ 周辺建物事後調査(同イ),周辺井戸事後調査(同ウ)
       これらは,土砂搬入完了後,土砂搬入による影響の有無を調査し,
事前の調査と比較して影響があった場合に補償額決定の判断資料とするために,必
要な調査であり,役割分担表(乙14)には記載されていないが,事前調査(同
⑬,⑭)に関連した業務として搬入業者の負担で実施することを黙示的に合意した
というべきである。
     ⑨ 法面管理費(同カ)
       本件埋立ては,窪地に埋立てを行うものであるとしても,造成施工
範囲は干拓地の一部であり窪地が残ることになるから,窪地との境の段差部分に法
面が生じることになる。
     ⑩ 雑草・木・竹除去費(同ク)
       1審被告は,平成3年に立木をブルドーザー等で踏み倒したが,倒
した立木は現地に残したままで干拓地から撤去しなかった。その後も立木は生え,
雑草や竹等については伐採していない。埋立てをするに際して土砂の底に雑草等が
埋没すると造成後の地盤が不安定となるため,事前に撤去しておく必要がある。
     ⑪ 共通仮設費(同コ)
       運搬費,準備費,事業損失防止施設費等々の現場管理費に当たらな
い間接工事費であり,直接工事費に対し所定の共通仮設比率(平成15年度の土木
積算基準〔乙71〕によれば,本件工事は公園費用に該当し,その共通仮設費率を
算定すると6.75%になる。)を乗じて算定したものである。
     ⑫ 現場管理費(同サ)
       現場管理費は,現場労働者に係る労務管理費,安全訓練等に要する
等の間接工事費であり,純工事費の額に対し所定の現場管理比率(本件工事は公園
費用に該当し,工事原価の額に対して所定の現場管理費率を算定すると,18.19
%になる。)を乗じて求めたものである。
     ⑬ 一般管理費(同シ)
       一般管理費は,工事施工に当たる企業が,その経営を継続していく
ために必要な費用であり,工事原価の額に対して所定の一般管理費率(本件工事費
用は公園費用に該当し,その一般管理費率を算定すると,9.02%になる。)を乗
じて求めたものである。
     ⑭ 海面使用料(同セ)
       1審原告は,本件契約に基づき,1審被告に対し,施設整備費とし
て6666万7000円を納入しているが,これは陸揚施設の設置及び維持管理に
充てられる費用であり,漁業補償費を含んでいるところ,漁協への海面使用料は,
漁業補償費により賄われること,すなわち1審原告が負担することが合意されてい
た。
   ウ 土砂移転費用について
    (ア) 1審原告は,土砂転費用を主張するが,原審認定によっても,搬入
開始時期は,平成6年4月1日であるところ,1審原告が残土を移転したのはそれ
以前であるから,債務不履行による損害に当たらないことは明らかである。また,
そもそもDは,自社で残土保管場所を有していたのであるから,必ずしも高砂市の
有するe町の仮置場に土砂を保管する必要はなかったはずである。たまたま同仮置
場に保管していた土砂を1審原告が高砂市の求めに応じて移転せざるを得なくなっ
たとしても,そのリスクはDにおいて負担すべきものである。
    (イ) また,1審原告主張の費用には次のとおり問題がある。
     ① 転圧に要する費用が含まれているが,暫定的に残土を置いておくだ
けであるから転圧の必要はない。
     ② 移転の際にガードマンを配置する必要はなく,交通整理員で十分で
あり,その単価は広島県の場合8900円である。
     ③ H作成の見積書(甲47)によれば,「積込み,整地,転圧,散水
費用」の単価は225円であるのに照らし,1審原告の主張(1立方メートル当た
り540円である。)は過大である。
     ④ 仮置場整地費用としてリサイクル材を使用することを前提としてい
るが,整地にリサイクル材を使用する必要はない。1審原告は,植樹を700本行
った等として芝の吹きつけ及び植樹費用を主張するが,植樹は実際には50本程度
しか行われていない。
   エ 搬入土砂整地費用等について
    (ア) 1審原告は,Dが平成元年3月から平成5年6月30日までの間に
18万2532立方メートルの残土を収集したとして,同年7月以降の整地費用等
を主張する。しかし,1審原告が作成した土砂搬入計画書(甲20)を前提とする
と,年間最大土砂搬入量は70万立方メートル,年間作業可能日は280日とされ
ているから,1日に搬入可能な土砂は最大2500立方メートルとなるところ,残
土搬入は1審原告を含め3業者で行うことになっていたから,1審原告が搬入可能
な日数は年間93日,月間7.77日であり,1審原告が1か月間に搬入可能な土砂
は1万9425立方メートルとなる。そうすると,Dの収集した前記残土18万2
532立方メートルを搬入するのに9.4か月を要することになる上,平成5年7月
以降も月間約1万ないし3万立方メートルの残土を受け入れていたというのである
から,仮に平成5年7月以降残土搬入が可能となったとしても,その後も残土の保
管が必要であり,そのための費用を出捐しなければならなかったというべきである
から,これらは債務不履行による損害ということはできない。しかも,残土搬入の
開始時期は,原審認定よっても平成6年4月1日であり,1審原告の平成5年7月
以降とする主張は失当である。
    (イ) 1審原告の主張によれば,Dは,Aの撤退や地元住民らの同意の取
付けが難航し,土砂搬入開始時期の見通しがたたない状況下であるにも関わらず,
平成5年7月1日から平成9年3月末までの45か月もの間,残土の収集を続けて
いたというのであるが,1審原告としても,損害発生をくい止め,又は最小限にす
る義務(損害軽減義務)を信義則上負っているというべきであるから,前記の状況
を前提とすれば,1審原告は,地元住民らの同意取付けの目途が立つまで残土の収
集を中止すべきであったというべきであり,それをせずに発生させた損害を1審被
告に請求することは信義則上許されない。
    (ウ) なお,Dが保管していた残土については,本件契約に規定された残
土受入基準を満たしているかどうか証拠上明らかでなく,これらを搬入できるかど
うかは未定であって,これらに関する移転費用や整地費用が賠償すべき損害に該当
しないことは明らかである。
    (エ) 1審原告の具体的な金額の主張についても次のとおり疑問がある。
     ① 1審原告は,残土を積み上げるためにパワーショベル2台とブルド
ーザー1台を常用することを前提に整地費用を算定するが,工事費用は,取扱数量
の実績に基づいて積算するのが合理的かつ原則であり,1審原告の構成員であるH
も,見積書(甲47)に「積込み,運搬,整地費用」として200円/m3を記載し
ている。そして,同見積金額に照らすと,1審原告主張の整地費用(1立方メート
ル当たりに換算すると476円となる。)は過大である。そもそも整地には,ブル
ドーザーだけで足り,パワーショベルを使用する必要はない。
     ② 1審原告は,Dから逸失利益の賠償請求を受けていることをもっ
て,これを損害として主張するが,これは契約当事者ではないDに発生した,しか
も逸失利益にすぎず,社会一般の通念に従って1審原告に通常発生すると考えられ
る範囲の損害とは到底いえず,特別損害であるというべきであるところ,1審被告
には予見可能性がなかったから賠償すべき義務はない。
   オ 損益相殺
    (ア) Dは,公共残土の処理費用として,1立方メートル2700円を受
領しているところ,1審原告の主張によれば公共残土受入数量は120万499
0.45立方メートルであるから,公共残土の処理費用として総額約32億530
0万円もの収入を得ていることになる。そうすると,Dは,仮に一方で搬入土砂整
地費用や残土移転費用等の損害を受けたとしても,他方で莫大な利益を得ているか
ら,損益相殺により1審原告が1審被告に請求できる損害はないというべきである
(1審原告の主張によれば,Dは搬入土砂整地費用や残土移転費用等を負担してい
ることになるが,これらは同社において経費として計上されているはずであるとこ
ろ,Dには追徴課税されるほどの所得〔利益〕があったことからすれば,経費を超
える利益を得ていたことになる。)。
    (イ) 1審原告は,本件において損益相殺の対象になりうる利益とは,理
論上本件残土を処分することにより得られた利益であると主張する。
       しかしながら,損益相殺は,損害賠償法が被害者を利得させること
を目的とするものではないとの趣旨から同一事件により得られた利益の控除を認め
るものであり,どのような利益を控除すべきかは公平原理によって決定されるべき
であって,1審原告の主張のように限定的に解しなければならない理由はない。
       そして,Dは,1審原告の主張のとおり本件干拓地用に残土を収集
したものとすれば,本件契約があったからこそ莫大な収入を得ることができたもの
であるから,これを利益として控除するのは公平の観点から当然である。
       また,1審原告は,Dと1審原告とは全く別の法人であると主張す
るが,両法人は,実質的には同一の法人であるから,損益相殺の判断にあたって
は,損益相殺の制度趣旨である公平の観点から,Dの利益は1審原告の利益と同一
視されるべきである。仮に,Dと1審原告とを別に取り扱うとしても,1審原告の
1審被告に対する請求は,Dから1審原告に対する請求権を前提とするものである
から,Dの損害額が前記のとおり損益相殺によりゼロであるとすれば,1審原告か
ら1審被告に対する請求もできないはずである。
第3 当裁判所の判断
   当裁判所は,原審と同様,①本件契約は平成4年12月25日に成立した,
②1審被告が,中国電力と土砂搬入契約を締結し,本件干拓地に土砂を搬入させた
行為は,本件契約に違反するものとはいえない,③本件契約において1審被告には
土砂搬入の受入義務がある,④搬入開始時期については,当初平成5年6月30日
ころから搬入を開始するとの合意があったが,1審被告の要請により平成6年3月
ころまで延期された,と判断するが,⑤搬入開始時期の遅延については,1審被告
には債務不履行責任を負わせるだけの帰責性を認めることはできないが,1審被告
は,本件契約の締結に際し,信義則上,土砂搬入を開始するには地元住民の同意が
必要であることを明らかにし,1審原告に損害を生じさせないようにする義務を負
っていたにもかかわらず,これを怠ったというべきであるから,その限度で1審原
告に生じた損害を賠償すべき義務がある,⑥1審被告が賠償義務を負う範囲は,い
わゆる信頼利益にとどまるところ,1審原告としても,本件のように地方公共団体
が行う工事にあっては,地元住民の同意が必要であることを知っていた,あるいは
容易に知り得たというべきであるから,これを考慮して,損害額の3割を控除した
額について1審被告に支払義務を認めるべきものと判断する。その理由は,前記①
ないし④については,後記に付加するほかは,原判決「事実及び理由」の「第3 
争点に対する判断」欄説示(原判決29頁下から3行目から44頁6行目まで)の
とおりであるから,これを引用する(ただし,原判決38頁下から10行目の「チ
ャック体制」を「チェック体制」に,44頁6行目に「あったいうべきである。」
を「あったというべきである。」にそれぞれ改める。)。また,前記⑤,⑥につい
ては,後記のとおりである。
 1 搬入土砂受入義務について
   1審被告は,本件契約上1審被告に搬入土砂受入義務はないと主張する。
   確かに,本件契約は,工事等から発生した残土を処分する必要のある業者が
一方的に土砂を捨てるというような契約とは性質を異にしており,1審被告に直ち
に搬入土砂の受入義務があるとはいい難い面がある。すなわち,本件契約は,1審
被告に,事業主体となって行う事業計画があり,そのために本件干拓地に土砂を搬
入する必要があるという状況を背景に,土砂の搬入量,搬入期間,土質の受入基準
が定められており,また,1審原告が支払うべき土地の利用料は,1立方メートル
当たり100円と通常の場合よりもかなり低額に設定されている。この契約におい
ては,1審原告は,本件干拓地へ搬入するための公共残土を収集することで公共団
体から処分費用を取得し,原審認定のとおり,本件契約が円滑に履行されれば,大
きな利益を得ることができる。しかし,1審原告は,そのために,一定の期間内に
受入基準に適合する公共残土を必要量収集しなければならず,土砂の確保,土質の
適合性の確保,収集した土砂の保管場所の確保,陸揚施設設置費用の負担,保証金
等の事前納入など費やさねばならない時間と費用は膨大なものである。したがっ
て,土砂の搬入開始が長期にわたって遅延するなど本件契約が円滑に履行されない
事態に陥れば,1審原告は重大な損害を被ることにもなる。一方,1審被告は,土
砂搬入会議で合意された役割分担表(乙14)によれば,本件契約に関し,地盤対
策工事,造成計画書作成など,負担すべき役割や費用がないわけではないが,原審
認定のとおり,山土等を購入して本件干拓地の埋め立てを行うとすれば,莫大な費
用を要することになるが,本件契約によりそれを免れるばかりか,1審原告ら搬入
業者が土砂を搬入すること自体から1立方メートル当たり100円(350万立方
メートルであれば,3億5000万円)を1審原告ら搬入業者から受領することに
なるのであって,1審被告の得る利益は極めて大きい。また,1審原告ら搬入業者
が1審被告に支払う土地利用料は低額であるにせよ,公共工事から発生した残土を
捨てさせるという側面が本件契約から完全に失われているわけではない。この点
は,1審被告が公共残土を受け入れるについては,残土が発生し,これを処分する
公共団体との間で直接協定を締結することになっていたり,Dの考えとしては,残
土を処分したい公共団体と残土を求めている公共団体とを引き合わせる,あるいは
仲介するようなことで,利益を上げようとしたものであったこと(甲328,乙4
1)からも認められる。さらに,本件契約が1審原告にこのような負担を負わせる
ものであることは,1審被告も知っていたことは明らかである(保証金等の納入や
その一部を陸揚施設設置費用に充てること,追加工事費用の負担は,1審被告が1
審原告に求めたものであるし,土砂の収集に関しても,1審被告は,残土を出す地
方公共団体を1審原告ら関係者とともに訪れてもいる。)。
   こうした本件契約の内容や実態(特に,本件契約の準備に要する費用,本件
契約が実現しない場合に被る双方の不利益,双方に課されている義務など)を考慮
すれば,本件契約においても,他の双務契約同様,双方が利害得失を検討した上,
合意に至ったものというべきである以上,公平の観点から,本件契約は,1審被告
に土砂搬入受入義務を課したものと解するのが,当事者の意思に合致するものとい
うべきである。
 2 搬入開始時期について
  (1) 1審原告は,搬入開始時期は平成4年度であると主張し,他方,1審被告
は,本件契約の搬入期間は一応の目安にすぎないと主張する。
    まず,本件契約については,平成6年6月15日,平成4年12月25日
付け本件契約書が作成されているところ,原審認定のとおり,本件契約の主要部分
については,平成4年12月25日時点で合意に至っており,主として陸揚施設の
帰属等をめぐって見解の相違があったため契約書の作成が後になったといういきさ
つがある。そして,本件契約書作成の時点において,平成4年12月25日時点の
合意から変更されたのは,同日以降の事情の変化に従い搬入期間が従前平成9年ま
でとされていたのが平成10年までとされたこと,搬入土量が概ね400万立方メ
ートルとされていたのが概ね350万立方メートルとされたこと,契約保証金が1
億円であったものが,契約保証金3333万3000円,施設整備費6666万7
000円とされたことである。こうしたことからして,本件契約は平成4年12月
25日に成立したものというべきである。
    そうすると,搬入開始時期について,本件契約成立の時点では「平成4年
度から平成9年度まで」とされ,実際に契約書が作成された当時は事情の変化を受
けて「平成4年度から平成10年度まで」とされ,また,本件契約書上,搬入時
期,搬入数量を変更しようとするときは,契約当事者間の協議が必要であるとされ
ている(本件契約書第2条2)ように,本件契約締結に際し,1審被告と1審原告
との間で期間は明確に意識されていたということができるのであって,一応の目安
にすぎないとみるのは困難である。さらに,実際にも,平成4年12月5日には,
県道付け替え部分の限定つきながら,地元住民等からの同意は得られており,1審
被告は,本件干拓地への土砂搬入についての地元住民らからの同意を得られるもの
と見込んで,平成5年から土砂搬入を開始する予定で,陸揚施設発注のための準備
をし,同施設は平成5年6月に完成している。これらのことからすれば,原審の認
定判断のとおり,1審原告と1審被告は,当初,平成5年3月まで(平成4年度)
に搬入を開始する予定で本件契約を締結したが,陸揚施設の完成が遅れたため,陸
揚施設の完成を待って搬入を開始することに合意した,すなわち,平成5年6月3
0日ころから搬入を開始することで合意したと解するのが相当であり,同合意は法
的な効力を持つものというべきである。
  (2) その後搬入開始時期が延期されたかどうかについて,1審原告は,1審被
告の平成5年9月28日付け書面による搬入開始時期の延期要請を承諾していない
と主張する。
    しかしながら,原審認定のとおり,1審被告は,Aの撤退によって事業計
画の変更を余儀なくされ,1審原告ら搬入業者に対し,同年12月までの土砂搬入
延期を求めたのに対し,1審原告は,同年10月,1審被告に対し,今後の方針を
明らかにするよう求めたところ,1審被告は,目途として平成6年3月ころという
回答をしている。1審原告は,これに対して,何らの回答もしていないが,特段異
議をとどめることもなく,そのまま搬入開始に向けての準備を進めている。原審認
定のとおり,1審被告も平成6年2月ころ,川崎市等に同年4月から本件干拓地へ
公共残土が搬入できるよう依頼している。そして,平成6年6月15日に本件契約
書を作成し,その際には,平成4年12月25日の本件契約成立時点では搬入期間
を「平成4年度から平成9年度まで」としていたものを,「平成4年度から平成1
0年度まで」とした。こうしたことからすると,1審原告も1審被告からの延期要
請について約1年程度,すなわち平成6年3月ころまで延期する限度で,これを承
諾したものと認めるのが相当である。
  (3) 1審被告は,平成6年3月26日に開催された土砂搬入会議において,
「土砂搬入開始は,防塵対策等周辺の対策完了後とする」旨確認されたことをもっ
て,1審原告ら搬入業者との間で,地元住民らの同意が得られるまで搬入開始を延
期する旨の合意が成立したと主張する。
    しかしながら,原審認定のとおり,本件契約成立時点(平成4年12月2
5日)では,1審原告,1審被告とも地元住民らの同意は得られるものと考えてお
り,本件契約書にも明確に地元住民の同意の取付けについて触れるところはない。
後記3(1)のとおり,同契約書の9条には1審原告が土砂搬入に伴う安全対策として
適切な措置を講じ,地元住民に対して説明をすべきことが定められているものの,
同規定は,もっぱら本件干拓地への土砂搬入の具体的な工事に関しての説明義務と
解されるのであって,本件埋立てを含めたジョイフルアイランド構想に基づく事業
の遂行について地元住民の同意を取り付ける義務を1審原告に課したものと解する
ことは,同事業の主体が1審被告であることに照らしても,到底できない。そし
て,前記搬入会議における確認事項に関しても,地元住民らの同意については明確
にされておらず,文言からみても,もっぱら土砂搬入工事についての安全対策等に
関するものと解するのが自然である。すなわち,1審原告,1審被告とも,本件契
約成立当時から前記搬入会議のころにおいても,地元住民の同意は近く得られるも
のと考えていたことから,搬入開始時期が平成6年4月1日よりさらに大きく遅れ
る可能性が高いことを懸念して,搬入開始時期を決めたり,また,確定的な期限を
定めず,延期したりする考えはなかったというべきであり,したがって,地元住民
らの同意が得られるまで搬入開始を延期する旨の合意もなかったものというほかは
ない。
  (4) したがって,1審原告との関係において,1審被告において,遅くとも平
成6年4月1日以降は搬入開始の遅延があったというべきである。
 3 搬入開始時期遅延についての1審被告の帰責性の有無について
  (1) 前記のとおり,1審被告は,1審原告との関係において,平成6年4月1
日以降,搬入開始の遅延があったというべきであるが,搬入開始が遅延したのは,
地元住民らの同意の取付けが困難を極めていたことにある(なお,原審〔第2回〕
及び当審証人Jによれば,最終的に地元住民らの同意を得たのは平成9年11月4
日であり,平成11年になって,IとCとの共同事業体によって土砂の搬入が開始
されたことが認められる。)。
    この点に関し,1審被告は,本件契約書第9条(1審原告は,本件契約に
基づく土砂の搬入に伴う安全対策等については,適切な措置を講ずるとともに,1
審被告の立会のもとに地元g区民に対して十分な説明を行う,1審被告に迷惑を及
ぼさないものとする旨の規定)に基づき,1審原告に地元住民らの同意を取り付け
る義務があり,1審被告にはそのような義務はなく,また,事業内容についての説
明義務はないし,仮にそのような説明義務があったとしても,説明義務を怠ったと
いうことはないから帰責性はないと主張する。
    しかしながら,まず,本件契約書第9条の規定は,文言上,1審原告が地
元住民の同意を取り付けることを明示していない。そもそも,本件干拓地への土砂
搬入は,1審被告が事業主体となっているジョイフルアイランド構想においては,
その準備段階,あるいは最初の段階ともいうべきものであって,地元住民らにして
も,土砂搬入に同意するについては,ジョイフルアイランド構想を進めることに同
意することが前提であり,そのことは,地元住民らの説明会において土砂の搬入に
ついて説明しようとした1審原告に対し,1審被告からの事業についての説明がな
い段階で,工事業者が説明するというのは時期尚早であるとして地元住民らが反発
したことがあった事実(原審証人J〔第1回〕,同K〔第1回〕)からも明らかで
ある。そして,1審被告がジョイフルアイランド構想の事業主体である以上,法律
上の義務はなかったとしても,事業計画を地方公共団体の事業として円滑に推進
し,行政上の責任を尽くすために住民の同意を得ることは必要であると考えていた
こと(原審証人J〔第1回〕)などからすれば,具体的な事業計画全般について,
1審被告に説明義務があるものというべきであり,同規定は,その文言からして
も,1審原告は,その関与すべき具体的な搬入工事に伴う安全対策等について措置
を講じ,1審被告に協力して,具体的な工事内容や安全対策等について住民に説明
することを義務づけたものと解するのが自然であって,土砂搬入について地元住民
らの同意を取り付けることまでも含んでいると解するのは困難である。
  (2) そこで,1審被告がこうした地元住民らに対する説明義務を尽くしたがど
うか検討する。
   ア 証拠(甲30,31の1ないし3,甲83,89,105,乙17,5
1,53,54,77,原審証人J〔第1,2回〕,同K〔第1回〕,同L及び当
審証人M)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
    (ア) Aが,平成5年4月ころaマリンリゾート構想から撤退する意思を
表明した上,同年9月ころ正式に撤退した後,1審被告は,事業計画を変更するこ
ととし,同年10月ころ,ジョイフルアイランド構想について,検討・協議を開始
した。1審被告は,当初,財団法人Nに依頼して構想の策定をさせ,平成6年3月
に報告書が完成したのを受けて,基礎地盤コンサルタントに実施計画の作成を依頼
した。詳細な実施計画に結びつく報告書は平成7年3月に完成して1審被告に提出
された。
    (イ) 1審被告は,Aの撤退とジョイフルアイランド構想については,平
成5年12月から地元住民らに対する説明会を開始し,平成6年5月ころまでに十
数回の説明会を実施した。しかし,平成6年4月30日に開催された地元住民らに
対する説明会において,搬入工事について説明しようとした1審原告に対して,ジ
ョイフルアイランド構想の事業内容について具体的な説明がない状態で業者が説明
する段階ではないとして地元住民らが反発したこともあった。
    (ウ) 平成6年5月になっても,地元住民らからは,ジョイフルアイラン
ド構想に基づく施設整備の内容が明らかでないなどとして,事業計画ができるまで
の間の工事の中止を求められたり,また,県外から搬入する土砂の安全性に対する
不安も強く,1審原告ら土砂搬入業者が地元住民に対して搬入土砂の安全性や搬入
作業の手順等についての説明をするということができないような状況であった。
    (エ) 1審被告は,その後も地元説明会を開催しているが,地元住民らの
同意を得ることは困難であり,平成6年7月26日に開催された地元説明会では,
当時の1審被告のM町長が,土砂搬入にg区住民の同意は必要ない旨の発言を行う
場面もあった。また,同月27日には,完全には同意が得られないまま,1審原告
ら搬入業者に対し,本件干拓地への土砂搬入を受入れる旨通知した。
    (オ) これを受けて,I及びB・Cの共同事業体は,平成6年8月1日,
川崎市からの公共残土の陸揚作業を行ったが,その中にコンクリート片等が混入し
ていたこと(ただし,同土砂は,産業廃棄物が含まれていたわけではなく,実際に
は適合基準を充たすものではあった。)から地元住民らから抗議の声があがり,本
件干拓地への土砂搬入について,これに反対するという状況となった。
    (カ) 1審被告は,平成6年6月以降も十数回にわたり地元説明会を開催
したが,平成7年2月ころになっても,地元住民の理解は得られず,打開の糸口す
ら見いだせない状況であった。
       また,同年8月1日には,広島県から1審被告に対し,漁協の同意
が得られない場合には,陸揚施設を撤去するようにとの通知がされる事態ともなっ
た。
    (キ) こうした状況の中で,1審被告は,中国電力からの残土を(県内で
発生したもの)受け入れることにし,地元住民も,平成8年3月26日,これに同
意し,中国電力は,同年8月19日,本件干拓地への土砂の搬入を開始した。
    (ク) その後,1審被告は,平成9年11月4日,地元住民らの同意を得
て,g区住民との間で,本件干拓地への土砂搬入についての協定書を締結し,平成
10年7月22日,Iに対し,本件干拓地への土砂搬入を許可した。そして,I,
Cの共同事業体は,平成11年に入り,本件干拓地への土砂の搬入を開始した。
   イ 以上の事実によれば,Aの撤退後,ジョイフルアイランド構想の具体化
に時間を要し,1審被告は,地元住民らに対し,同構想の具体的な説明を早期に行
うことができず,地元住民の理解を得ることが困難になっていった状況下で土砂の
搬入を強行し,さらに住民の反発を強めたことや地元住民らの県外からの搬入土砂
の安全性に強い不安があったことなどから,地元住民らの同意の取付けが困難を極
め,搬入開始が遅延したということができる。このことからすると,1審被告の地
元住民らに対する説明に関し,不十分な点があったことは否定できないが,Aの撤
退に伴う事業計画の変更や県外からの搬入土砂の安全性に対する不安など,1審被
告の落ち度とは言い難い事情もまた地元住民らの同意の取付けが困難であった原因
といえる(県外の土砂を搬入することについて地元住民らの不安が強かったこと
は,前記のとおり,地元の土砂を搬入する計画であった中国電力の土砂搬入につい
ては,地元住民らは,平成8年3月26日に同意していることからも明らかであ
る。)。また,1審被告は,不十分な点があったにせよ,前記のとおり,相当な回
数にわたって地元住民らに対して説明会を開催して,事業説明等を行っている。さ
らに,地元住民らの同意を得られるかどうかは,本件がそうであるように,説明が
不十分,不適切かどうかといった要因のみによるものでもない。このようなことか
らすると,1審被告としては,地元住民らに対し,不十分ではあったにせよ,一応
の説明義務を尽くしていたというべきであり,債務不履行責任を根拠づけるだけの
帰責性を認めることはできないものといわざるをえない。
  (3) 本件において,土砂搬入についての地元住民らの同意は法律上必要ではな
かったにしろ,1審被告が,行政上の責任を尽くす上で地元住民らの同意を得るま
で,土砂搬入は開始できないと考えていたことは前記のとおりである。地方公共団
体が主体となって行う事業にあっては,これらの事業をめぐる不祥事や環境への影
響等が報道などを通じて広く世間に知られるようになったこと,これに伴い環境や
権利に対する地元住民の意識が高まってきたことなどから,近年は,地元住民らの
支持ないし同意なしには,事業を円滑に進めることは事実上極めて困難であり,ま
た,公共団体やその長が行政上の責任等を追及される可能性も高くなっていること
から,法律上の義務がなくとも事業を行おうとする地方公共団体が地元住民の同意
を得た上で事業計画を進めようとすることは珍しいことではなく,地元住民の同意
は,事業計画を進める上で重要な,あるいは必要不可欠ともいえる事項となってき
ている。こうしたことからすれば,1審被告が,行政上の責任を尽くす上で,法律
上の義務はなくとも,土砂の搬入に地元住民らの同意が必要と考えていた以上,1
審被告は,本件契約締結時点において,地元住民らの同意がない限りは土砂の搬入
は開始できないこと,地元住民らの同意が得られる時期が確定していないことは熟
知していたというべきである。したがって,地元住民らの同意が搬入開始時期に極
めて重大な影響を及ぼすことは明らかなのであるから,1審被告としては,本件契
約の締結に際しては,地元住民らの同意を誰が取り付けるのか,その義務と責任の
所在を明らかにするとともに,地元住民らの同意が搬入開始の条件であることを明
らかにし,1審原告ら搬入業者が,損害を被ることなく,適切に搬入開始準備を行
うことができるようにする信義則上の義務があったというべきである。しかしなが
ら,本件契約上,地元住民らの同意取付けについては,何ら触れるところはなく,
地元住民らの同意と搬入開始の関係についても同様に何ら触れるところはない上,
本件契約成立(平成4年12月25日)の前後を通じて,1審被告と1審原告ら搬
入業者間で地元住民らの同意に関して協議された形跡もない(前記のとおり,1審
被告は,安易に地元住民らの同意を得ることができると見込んでいたことがうかが
われ,このため,契約当事者間での協議が不十分であったものと推認できる。)の
であって,1審被告は,前記義務を怠ったものといわざるをえない。
    もっとも,前記のように,公共団体が主体となって行う事業を進めるにつ
いて住民の同意が重要な要件といえるほどの状況になっていることは,公知の事実
であるともいうべき上,1審原告ないしDのように公共団体と取引を行う企業等で
あれば容易に知り得たというべきであり,また,本件契約書が作成された平成6年
6月15日ころには,地元住民らの同意を取り付けることが容易でないことは,1
審原告も知っていたというべきである(前記のとおり,同年4月30日,5月1日
に開催された地元住民らに対する説明会においては,地元住民らの反発が強く,1
審原告が土砂搬入工事に関して説明することすらできなかった。)。
 4 1審原告の損害の有無及びその金額について
  (1) 前記のとおり,1審被告に本件契約について説明義務違反の債務不履行責
任を認めることはできないものの,1審被告は,本件契約締結に際して,信義則上
負うべき義務を怠ったもので,これにより1審原告に生じた損害を賠償すべき義務
がある。そして,1審被告が賠償すべき損害の範囲は,前記の債務不履行責任を負
う場合と異なり,本件契約が円滑に実現できるものと信じたことによって1審原告
が被った損害(信頼利益)の賠償に限られるのであって,いわゆる履行利益は含ま
れないものと解するのが相当である(なお,1審原告は,1審被告の債務不履行に基
づく損害賠償を求めるところ,具体的には,本件干拓地への土砂搬入ができなかっ
たことについての1審被告の帰責性,すなわち,本件契約の性質はもとより,土砂
搬入についての1審被告の地元住民らに対する同意取付け義務の有無及び説明の実
態を主張し,信頼利益にとどまらず,逸失利益を含む履行利益をも請求しており,
本件契約締結に際して信義則上負うべき義務を怠ったことについての主張を含むも
のと解することができるのであって,これを認めることは弁論主義に違背しな
い。)。したがって,少なくとも1審原告が主張する損害のうち,逸失利益につい
ては,1審被告に賠償義務を認めることはできない(この点,1審原告の請求する
損害項目中,Dが1審原告に賠償請求している損害があり,同損害にはにはDの逸
失利益が含まれているが,これについても同様に1審被告の損害賠償義務を認める
ことはできない。)。
  (2) これを踏まえ,1審原告の損害の有無及びその額について検討する。
    まず,原審認定のとおり,1審原告は,本件契約についての保証金,陸揚
施設設置費,追加工事費など合計1億0951万9912円を支出している。
    また,証拠(甲37ないし44,49,50,73,250,275,2
76の1ないし14,278の1ないし3,282ないし289,290の1ない
し3,291,317の1ないし11,323ないし326,328ないし330
及び原審証人K〔第2回〕)並びに弁論の全趣旨によれば,1審原告は,平成6年
4月1日以降も本件干拓地へ土砂を搬入することができなかったため,次のような
支出をしたことが認められる。
   ア 土砂移転費用
     Dは,1審原告から依頼を受け,兵庫県加古川土木事務所の発注に係る
公共残土を収集し,高砂市の所有するe町所在の仮置場を無償で借り受けて,同仮
置場に平成4年度は4万1400立方メートル,平成5年度は2万5890立方メ
ートルの合計6万7290立方メートルの公共残土を保管していたが,これらの土
砂を本件干拓地に搬入できない間に高砂市から土砂を移転して同仮置場を明け渡す
よう求められた。このため,Dは,平成5年8月,前記土砂の移転作業,同市との
契約に従って移転後の整地作業をそれぞれ行い,それらの費用として4545万1
222円を支出した。同費用については,1審原告とDとの間で1審原告が負担す
る旨の合意があるため,1審原告は,同額の損害を被った。
     1審被告は,これに対し,①Dは自社で保管場所を確保していたから,
高砂市の仮置場を借り受ける必要はなかった,②不必要な作業や材料が含まれてい
ること,実際に行っていない作業が含まれていることなどから過大な請求となって
いる,などと主張する。
     しかしながら,①については,高砂市の仮置場に保管した土砂は,平成
5年1月から3月,平成6年1月から3月までのh掘削工事から発生した土砂であ
るところ,当時,Dの保管場所には,18万立方メートル以上の土砂が保管され山
のように堆積している状況であったが,h掘削工事から発生した土砂は,川底の土
砂で,水分を含んだ軟弱な土砂であったため,これをDの保管場所に搬入しようと
すると,土砂の崩落の危険があったことから,高砂市の仮置場を借り受けることに
なったこと(甲37ないし39,原審証人K〔第1回〕,弁論の全趣旨)などから
すれば,高砂市の仮置場を借り受ける必要がなかったとはいえず,1審被告の主張
は採用できない。②については,1審原告が整地にリサイクル材を使用したのは,
むしろ真砂土を使用するよりも費用が半分から3分の1ですむためであったこと
(原審証人K〔第2回〕)からすれば,リサイクル材を使用する必要がなかったと
いうことはできず,また,土砂の移転作業の中で,植樹はその都度に行い,また埋
め立てるということをしていたため,地上に見える樹木は50本程度であったが,
植樹は合計700本に及んだこと(原審証人K〔第2回〕)からすれば,1審被告
の主張は採用できない。さらに,1審被告主張に係るガードマンの設置が不要であ
ること,積算が高額にすぎることなどについても,これを認めるに足りる的確な証
拠はなく,前記認定を覆すことはできない。
   イ 土砂整地費用等(なお,1審原告は,原審においては,土砂整地費用と
して,すでに金額の確定していた整地等に要した費用3億1270万8000円を
請求したが,当審において,その後に全額が確定した本件契約残土処分費用及び土
砂整地費用の合計からDが地方公共団体から受領した処分費用を控除したものに内
容を変更した。)
     1審原告から依頼されて公共残土を収集していたDは,収集した残土を
自社の残土保管所に搬入して保管していたが,これを搬出することができないま
ま,堆積していったことから,住民の間で土砂災害のおそれや景観の悪化などが問
題とされ,残土保管所の所在する高砂市から堆積した残土の整地等を行うよう法令
に基づいて行政指導がされるに至り,Dは,堆積する公共残土の整地等をした。ま
た,Dは,兵庫県の自治体から公共残土を受け入れ始めた平成元年3月から平成9
年3月31日(1審原告は,平成8年11月に本件契約を解除したが,その時点
で,兵庫県の自治体との間で,平成9年3月までの公共残土受入れを合意してい
た。)までの合計97か月間に合計78万3652立方メートルの公共残土(本件
契約残土)を収集し,平成7年2月から平成14年5月31日までの88か月間に
わたってこれを処分した。Dが,前記整地のために要した費用及び本件契約残土の
処分費用の合計は,別紙損害計算書のとおり24億8889万1060円であると
ころ,Dは,自治体から公共残土の処分費用として1立方メートル当たり2700
円を受領したため,本件契約残土の処分費用として合計21億1586万0400
円を受領した。そして,前記24億8889万1060円と21億1586万04
00円の差額である3億7303万0660円は,Dの損害であるが,1審原告
は,その賠償を求められているから,同額は1審原告の損害というべきである。
     1審被告は,これに対し,①1審原告は,土砂搬入開始の見通しが立た
ないにもかかわらず,平成5年7月1日から平成9年3月31日までの45か月も
の間残土の収集を続け,損害発生をくい止め,又は最小限にする義務を怠ったか
ら,損害賠償は信義則上許されない,②本件契約残土は,本件契約に規定された受
入基準に適合しているかどうか明らかではなく,本件干拓地に搬入できるかどうか
未定であるから,これに関する整地費用等は1審被告が賠償すべき損害には当たら
ない,③1審原告請求に係る費用自体も不要なパワーショベルの使用を前提とする
などしているため過大である,などと主張する。
     しかしながら,①については,1審被告は,平成5年9月28日には,
1審原告に対し,搬入延期を要請し,その後平成6年4月を目途に土砂搬入を開始
する予定であることを通知し,平成6年2月ころ,川崎市やOに対しても同年4月
1日が搬入開始予定であることを文書で通知し,同年7月27日には,1審原告ら
搬入業者に対して,搬入開始の通知をしている(前記2(2),甲3ないし7)ことな
どからすれば,1審原告としても,搬入開始が数年も遅れる可能性を考慮して,直
ちに土砂の収集を中止するのは困難な状況にあったというべきであるから,1審被
告の主張は採用できない。また,②については,本件については,実際に搬入が開
始されなかったことから,土質の検査はされておらず,厳格には,公共残土が適合
基準を充たしていたかどうかは判然としない点もあるが,1審原告は,1審被告に
よる土質の視察を受け入れ,また,独自にサンプル検査をしており,1審被告も独
自に土質検査を行ったりしていたところ,これまで,土質が問題となったことはな
いこと,さらに土砂の処分を求める公共団体側も処分土砂の内容については一定の
基準を定め,これを充たした土砂のみ搬出することになっていたこと(甲82,8
3,105,224,225の1ないし4,226ないし228,229の1ない
し3,230,231の1,2,原審証人L,同J〔第2回〕,弁論の全趣旨),
などからすれば,1審原告が本件契約に定める適合基準を充たさない残土を収集し
たことを示す証拠がない以上,1審原告の収集した残土は適合基準を充たし,搬入
が可能であったものと推認するのが相当であり,1審被告の主張は採用できない。
③については,1審被告の主張するように1審原告による費用の積算方法が不適切
であること,実際の作業方法としてパワーショベルの使用が不要であったことなど
を認めるに足りる的確な証拠はない。
   ウ そうすると,1審原告の損害は,前記1億0951万9912円,45
45万1222円及び3億7303万0660円の合計5億2800万1794円
となる。
     なお,1審原告はこの他に支出した費用として,一般経費5000万円
を主張するが,これを認めるに足りる的確な証拠はない。
  (3) ところで,前記3(3),4(1)のとおり,1審被告は,1審原告に対して,
土砂の搬入開始について地元住民らの同意を取り付ける義務のあることや地元住民
らの同意を得ることが土砂の搬入開始の条件であることなどを明らかにしないま
ま,本件契約を締結し,1審原告が土砂の搬入を開始する準備をするに任せていた
結果,1審原告に前記損害を被らせたのであるから,1審被告には,これを賠償す
べき義務があるというべきであるが,他方,1審原告としても,公共団体が主体と
なって行う事業については,地元住民らの同意を得ることが必要であることを知っ
ていた,あるいは容易に知り得たというべきであるから,この点を看過した1審原
告にも落ち度のあることは否定できないというべきである。これらの事情に照らす
と,1審被告が賠償すべき額としては,民法418条を類推し,1審原告に生じた
損害のうち,その3割を控除した3億6960万1255円(円未満切り捨て)で
あると認めるのが相当である。
    なお,遅延損害金の発生時期について,遅くとも1審原告が本件契約解除
の意思表示をした時点(平成8年11月13日)においては,具体的な金額は特定
していなかったものの,搬入開始時期が遅延したことによる損害は1審原告に発生
していたものというべきところ,1審原告は,請求の趣旨において,合計19億1
509万7394円のうち13億0697万1134円(1審原告の主張によれ
ば,1審原告の逸失利益のほか,支払済み契約保証金等1億0951万9912
円,土砂移転費用4545万1222円及び一般経費5000万円が含まれている
ことが明らかである。)については平成8年11月14日から,うち2億6165
万4722円については平成9年11月11日から,うち3億4647万1538
円については平成15年10月1日から,それぞれ遅延損害金の支払を求めてい
る。そこで,少なくとも,1審原告が,支払済み契約保証金等及び土砂移転費用に
ついては,平成8年11月14日からの遅延損害金の支払を求めていることは明ら
かであり,これを認めることはできるものの,残りの当審において主張された搬入
土砂整地費用等(本件契約残土の処分費用と搬入土砂整地費用の合計額からDが地
方公共団体から受領した残土処分費用を控除したもの)については,いつから遅延
損害金の支払を求めたものかは必ずしも明確ではない。しかし,前記のとおり,本
件契約解除当時すでに損害が発生していたこと,平成8年11月14日からの遅延
損害金の支払を求めるものではないことが明らかであることなどからすれば,請求
拡張後の搬入土砂整地費用等3億7303万0660円のうち1審被告が賠償すべ
き2億6112万1462円(1審原告に生じた損害からその3割を控除したも
の)について発生する遅延損害金については,平成15年10月1日ではなく,損
害発生の時により近い平成9年11月11日からその支払を求めるのが1審原告の
意思であると推測するのが相当である。
    したがって,1審被告は,1審原告に対して3億6960万1255円及
びうち1億0847万9793円(円未満切り捨て。支払済み契約保証金等1億0
951万9912円と土砂移転費用4545万1222円の合計1億5497万1
134円からその3割を控除したもの)に対する本件契約解除の意思表示の日の翌
日である平成8年11月14日から,うち2億6112万1462円に対する平成
9年11月11日から,各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を
支払う義務があるというべきである。
第4 結論
   以上によれば,1審原告の本件請求は,1審被告に対して前記第3の4(3)の
額の支払を求める限度で理由があるから,これを認容すべきであり,1審原告の本
件控訴に基づき,これと異なる原判決を変更し,1審被告の本件控訴は理由がない
から棄却することとし,主文のとおり判決する。
       広島高等裁判所第2部
           裁判長裁判官     鈴   木   敏   之
              裁判官     松   井   千 鶴 子
              裁判官     工   藤   涼   二

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