弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人沢田竹治郎同竹谷勇四郎の上告趣意第一点について。
 所論は、農地法九二条の処罰の対象は所有権移転そのものであるところ、知事の
許可がない限り、所有権が移転することは法律上あり得ないのであるから、被告の
本件所為を同法同条に問擬するを得ず、また、農地法九二条が同法五条一項本文違
反を処罰するのは、同条に規定する知事の許可権限を確保するためで、それ以外の
理由はないものであるところ、知事の許可がなければ、所有権を移転する方法はな
いのであるから、このことで知事の許可権限は十分に確保されたものというべく、
これ以上、処罰の規定を設けることは行政犯設定の合理的範囲を超えたものといわ
ざるを得ないから、農地法九二条は憲法一三条、三六条の精神に違反するものであ
つて、国民の自由幸福を追求する権利を奪う残虐な刑罰であると主張する。
 所論の前段は、その実質において単なる法令違反の主張に帰着し適法な上告理由
に当らない。(農地法九二条処罰の対象は権利の設定移転のためになされる法律行
為であつて、その効力が生ずるか否かは、これを問わない。法定の許可なくして転
用目的で農地を売買したものは同法五条一項九二条に該当するのであつて、論旨は
採るを得ない。)
 所論の後段は、農地法九二条が農地法の目的達成のための手段として設けられた
規定であることを正解しないものであつて、所論違憲の主張はその前提を欠き適法
な上告理由に当らない。
 同第二点について。
 所論は単なる法令違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 なお所論一および二は、都市計画法一二条一項の土地区画整理施行区域内にある
土地は、現に耕作されている土地であつても、農地法所定の農地ではなく、仮に然
らずとするも、仮換地の指定処分により従前の農地は法律上宅地たるの性質を取得
するから右指定処分後の取引にかかる本件土地の売買は、宅地の売買であつて農地
の売買ではないと主張するが、農地とは、耕作の目的に供される土地をいい、その
土地が現に耕作の目的に供されている以上、都市計画法一二条一項による土地区画
整理施行地区内にあるからといつて、また、仮換地の指定処分があつたからといつ
てそのことから直ちに当該農地が、農地法所定の農地たるの性質を失うものではな
いと解すべきである。論旨は、理由がない。
 所論の三は、農地法九二条の違反者は所有権を移転した者であつてその移転を受
けた者ではないと主張するが、同法五条に明定するごとく、知事の許可を受くべき
者は取引の当事者であつて、同法九二条の違反者に買主を含むことはいうまでもな
い。論旨は失当である。
 所論の四は、被告人に農地売買の犯意がなかつたと主張するが、所論の点に関す
る第一審判決の事実認定ならびに、これを支持した原判決の説示は正当である。
 所論の五は、市町村農業委員会の所掌事務中には農地がいつから宅地になつたか
を証明する権限が含まれていないから、本件証明書は公務員がその職務に関して発
行したものということができず、刑法一五六条の公文書に該当しないと主張するが、
論旨は原審の主張判断を経ていないばかりか、刑法一五六条に所謂公文書とは公務
所又は公務員が其の名義を以て其の権限において所定の形式に従い作成すべき文書
であつて、其の権限が法令に因ると内規又は慣例に因るとを問わず、あまねく其の
職務執行の範囲内において作成せられたものを謂うと解すべきところ(大審院明治
四五年四月一五日宣告第二刑事部判決、録一八輯四六五頁参照)、記録によれば、
鳥取法務局において、地目変換申告書に本件のごとき農業委員会の証明書を添付す
べき取扱をするに至つたのは、昭和二六年頃当時の同法務局長が管内支局長、出張
所長及び土地調査士等に対して通牒を発し申告にかかる土地が地目変換につき制限
のなかつた昭和一九年三月二五日以前から非農地で旧農地調整法の適用をうけない
土地である旨の農業委員会の証明書を添付させることにしたことに由来し、爾来農
業委員会において右の如き証明書を作成し地目変換申告者に対して之を交付するこ
とが慣行化していることを認めることができるから、鳥取市A農業委員会に主事と
して勤務し、農地に関する事務を取扱うBが本件土地が昭和一八年一〇月一五日か
ら宅地として使用され農地法の適用がないことを証明する旨記載し、鳥取市A農業
委員会なるゴム印を押捺しその名下同農業委員会の印章を押捺して作成した本件証
明書は刑法一五六条に所謂る公文書に該る。論旨は理由がない。
 弁護人沢田竹治郎、同竹谷勇四郎の上告趣意(補充)について。
 所論は違憲をいう点もあるが、その部分は原判決に対する論難でないことが明ら
かであり、その余の主張は単なる法令違反の主張であつて、論旨はすべて適法な上
告理由に当らない。
 記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとお
り決定する。
  昭和三八年一二月二七日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奧   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

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