弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人五十嵐与吉の上告理由について。
 本件について、原審の認定した事実によれば、訴外D、同Eの両名は、被上告銀
行F支店に対し各金五〇万円宛合計金一〇〇万円の預金をしていたが、右銀行は同
人らの依頼に基づき同人らに対し右一〇〇万円の払戻に代えて昭和二五年一一月九
日金額一〇〇万円振出人支払人とも右銀行支店として、すなわち自己宛にて持参人
払式小切手を振出し交付し、同人らはこれを上告人に交付によつて譲渡したところ、
上告人は右小切手を翌一〇日訴外Gらに盗取され、同人らの手中に存する間に右小
切手の呈示をするものなく呈示期間を徒過し、そのため右小切手は手続の欠映によ
り権利が消滅したが、右Gらは右小切手を同月二四日訴外H貿易株式会社に対し商
品代金の支払に代えて交付し、同会社は更に翌二五日Iに対し商品代金の内入弁済
のため交付した。一方前記Dおよび上告人らは同月一〇日小切手を盗まれるや直ち
に被上告銀行F支店に対し、盗難にあつたから小切手の支払を停止せられたい旨届
出ておいたところ、右Iは同月二八日右F支店において右小切手を呈示してその支
払いを求めた。しかし前記の如く盗難届が出ていたので同支店係員の連絡によつて
警察および検察庁の捜査するところとなり、その小切手は一応警察署、検察庁に領
置され、取調べの結果前記小切手移転の経路が明らかとなり、小切手持参人である
右Iは犯人ではなく、又情を知つて取得した者でもないことが判明し、右小切手は
検察庁から右F支店を通じ右Iに返還された。そして同人は更に同年一二月一八日
J銀行を通じ被上告人銀行に支払のため呈示したところ、右呈示は期間経過後のも
のであつたけれども、銀行振出の自己宛小切手は、期間経過後に呈示があつても、
一般に支払を拒絶することのない取引上の慣習があるので、被上告銀行は、これに
従い右小切手金を支払つたことが明らかである。而して原審は、右事実に対し、こ
の事実のもとでは、右Iは外観上正当な小切手上の権利者と認められ、被上告銀行
も右小切手金支払については、前記認定のとおり公的捜査機関をとおし十分調査の
うえ右Iを実質上小切手の権利者であり、正当な所持人と信じて支払をしたもので
あるから、右は小切手債権の準占有者に対する善意、無過失の弁済というべきであ
つて、被上告銀行は本件小切手金の有効な支払をしたものであり、従つて本件小切
手が法定の呈示期間内に呈示されなかつたことにより、小切手上の権利が消滅した
としても、被上告銀行にはこれにより何らの利得を生じていないものと断ぜざるを
得ないとして、上告人の小切手法七二条に基づく本件利得償還請求を誹斥したので
ある。
 しかし債権の準占有者に対する弁済が有効とされるためには、弁済者が善意かつ
無過失であることを要することは、原判決も判示し又当裁判所の判例とするところ
である(昭和三三年(オ)第三八八号、同三七年八月二一日第三小法廷判決、民集
第一六巻第九号一八〇九頁参照)。そして、本件小切手は、訴外Gらが正当所持人
から窃取した小切手であり、同人らは呈示期間内に呈示を為さず、従つて失効小切
手となりたるものをその後(勿論呈示期間経過後において)訴外H貿易株式会社に、
同会社は更に訴外Iにそれぞれ譲渡したものであり、従つてその最後の所持人たる
前示Iは、期限後の失効小切手の譲受人にすぎないものであるから如何なる意味に
おいても本件小切手としての権利者ということは出来ない(最高裁判所昭和三五年
(オ)第一二九七号同三八年八月二三日第二小法廷判決、民集第一七巻第六号八五
一頁)。そして振出人たる被上告銀行は、本件小切手所持人たる前示Iに支払をな
すに当りては、概に検察庁の取調べがあり、前記Iは本件窃取小切手の期限後の裏
書による譲受人であることを十二分に了知していたにも拘らずこれを支払つたとい
うのであるから、その支払の無効であることは云うをまたない。けだし、これを債
権の準占有者に対する支払であるとしても、被上告銀行が総ての事情を知つていて
支払つたものである以上その支払には少くとも過失あるものというべきであるから
である。従つて本件小切手金の支払について被上告銀行が善意無過失であつて有効
であるとの原判決の判断には、すでにこの点において理由齟齬又は理由不備の違法
が存し、本件上告理由の論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして右の
如く被上告銀行の本件小切手金の弁済にして無効であるならば、右弁済はなかつた
ものとして本件小切手上の権利が手続の欠映により消滅した場合、本件小切手の振
出人たる被上告銀行に何らかの利得があれば、これを上告人に償還すべきであり、
もしその利得がなければ、結局上告人の本件請求は排斥を免れないこととなるから
本件を東京高等裁判所に差し戻すのを相当とする。
 なお、上告代理人五十嵐与吉から昭和三六年七月一五日附上告理由追加と題する
書面、昭和三八年五月六日附上告理由記載補正書と題する書面、同月七日附上告理
由記載補正書(一)と題する書面、同年八月一日附上告理由記載補正書(二)と題
する書面、同年一二月一九日附上告理由記載補正書(三)と題する書面を各提出し
ているけれども、右各書面はいずれも期間経過後の提出にかかり不適法なものであ
るから、判断を加えない。
 よつて民訴法四〇七条一項に則り、全裁判官の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

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