弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人東海林民蔵上告趣意書第一点は「原判決は第一事実中に於て被告人は『同
月(昭和二十二年六月)十三日頃右申請の書類に添付すべき東京都三田労政事務所
長の作成した同人の公印を押してある公文書であるAプレス工業所従業員数証明書
一通(略)をBから預かると即日肩書自宅において行使の目的で右証明書中の男子
「五七名」とあるのを万年筆を使つて勝手にその百位のとにろに「一」の字を書き
加えて男子「一五七名」の右公務員の印の押してある証明書に変造した上云々』と
摘示し此の事実は「一、被告人の当公廷における判示と同旨の供述、一、B、Cと
Dとに対する各司法警察官の聴取書中同人等の陳述として各自の関係部分について
判示に照応する記載、一、押収してある(略)Aプレス工業所従業員証明書(略)
の存在、を綜合してこれを認め云々」と説示して居る。仍て一、先づ被告人の原審
公廷に於ける供述中右の事実に関するもの(記録一二九丁以下)を検討すると 問、
Eは被告人から左様な話があつたので勤労署へ行つて三田労政事務所長名義の従業
員証明書を貰つて来て一通を被告人に預けたと云つて居る様だが何うか 答、左様
です 問、夫れを被告人が勝手に百五十七名と変造した訳だな 答、間違ありませ
ん とありて判決理由は一応合致するようであるが更に此の問答に続くものを見る
と 問、何うして左様な事をしたのか 答、数日洋服のポケツトの中に入れて歩い
て居つたので汗や何かで字が判然見えなくなつて仕舞つたのであります、夫れで字
を直す心算りで万年筆で書き直したら偶々インクが落ちたので夫れを拭いた処恰度
一と書いた様になつて仕舞つたのであります 問、然し被告人は其時の模様に付原
審で斯様に述べて居るではないか(此の時裁判長は原審公判調書中記録第八十丁裏
の六行目より同十二行目迄を読聞けたり) 答、左様ではありません、恰度一五七
に一の字を書入れた様になつて仕舞つたのです 問、利用しようと考へたのではな
いか 答、違ひます 問、Eに共の事を話したか 答、話しました、字が変になつ
て仕舞つたので使へないかも知れない、もう一度証明書を取つて来て貰ひ度いと言
つた事もあります 問、其の時証明書をEに見せたか 答、見せませんでした 間、
最初からごまかす心算りでやつたのではないか 答、左様な事はありませんとあり
て被告人は決して自分が判示のように変造したものではない旨を供述して変造の事
実を否認して居る事が明かである。偶々落ちたインクを拭いた処が其為に恰も変造
したものの如く見えるようになつて仕舞つたと主張して居るのだから「変造の意思
はなかつた旨、従て其の意思発動たる変造行為は存在しない旨、又勿論行使の目的
は之を有したものではない旨」を供述して居るのだから原審判決は此の点に於て理
由不備又は齟齬あるものと認める。二、次にB、CとDとに対する各司法警察官の
聴取書中石の事実に関するものに付検討するに(い)Bは「東京都へ出した方は四
行共インクの色が変つて居て男五七名の上に一が加入して一五七名に変造してあり
ます(記録一九丁裏)」と供述して居るに止る、即ち証拠物件たる文書を其の形式
上より観察した結果生じた意見を供述したるに止り被告人が現実に変造せる行為其
のものを直接見聞した経験を供述せるものではない、変造したものの如き形式にな
つて居ると言ふに止りそれが被告人主張の如く偶々落ちたインクを拭いたのが変造
したように見える結果となつたのか或は判示の如く行使の目的を以て変造したのか、
孰れが真実なりやに付ては何等触れる所はない、従つて是を以て被告人変造行為の
証拠とする事は相当でない、(ろ)Cは「其の書類はFが持つて来た書類に相違あ
りませんが成程良く見ると従業員数を書いた四行のインクの色が変つて居て一を加
入した形跡があり変造されてゐる事は確かであります」と供述して居る丈けであり
(い)と同様証拠価値が無いものと認める。(は)Dに対する司法警察官の聴取書
中には右の変造事実に関する供述の記載は全然存在しない。三、更に押収物件たる
Aプレス工業従業員証明書に付検討するに此の証明書は右二(い)(ろ)と同様の
理由に依り被告人が行使の目的を以てした変造事実に付ての完全な証拠と為すには
不充分である。従つて以上の点に於ても原判決は其の理由に不備又は齟齬あるもの
と言はざるを得ない」と云うのである。
 原判決は判示第一事実認定の証拠として被告人の原審公廷における判示同趣旨の
供述を挙げているのである。そして同公判調書によつてみると被告人がその審理の
前半において本件犯行を自白しているのであるが後半に至つて本件公文書変造の事
実を否認する趣旨の供述をしていることは論旨に述べている通りである。しかし右
の如く被告人の公判廷の供述が前後矛盾する場合にその一部分を採用し他の部分を
排斥することは証拠の取捨選択の一場合であつて原審の専権に属するのである。
 原審は被告人の供述中その前半の部分を採用してこれを他の証拠と綜合して判示
事実を認定したものであつて、その判断には何等違法の点はない。要するに所論は
原審の専権に属する証拠の取捨及び事実の認定を非難するに帰着し、論旨は理由が
ない。
 同上告趣意書第二点は「原審の事実誤認が上告理由とならない事は刑訴応急措置
法第十三条第二項に依て肯認せられなければならない所であるが併し其の事実が犯
罪の構成要素に属し若し其の事実無かりせば判示の犯罪成立せざることを当然とす
る場合に於て而も一件記録に表はれて居る全趣旨からして斯かる事実誤認の存在を
認められる場合に於ては国民は斯かる裁判に依り憲法上の基本的人権を侵されるも
のとして救済せられなけれならないものと考へられる、従て斯かる裁判に対しては
上告を許されなければならない。尚刑訴応急措置法に於ては上告審では事実審理を
しない建前となつて居るのを理由として斯かる上告は之を許さないものと解するの
は妥当でない。上告審は必ずしも破毀自判を以て唯一の使命とせず不法の裁判に対
しては破毀差戻又は破毀移送を以て臨むべき方途も存するのであるから右の如き上
告も是を許して差支無いものと思ふ。今本件に就て観るに原判決は第一点記述の如
く『同月十三日頃(略)Aプレス工業所従業員数証明書一通(略)をBから預り即
日肩書自宅において行使の目的で右証明書中の男子「五七名」とあるのを万年筆を
使つて勝手にその百位のところに「一」の字を書き加えて男子「一五七名」の(略)
証明書に変造した上云々』と判示して居るが是れが証拠となつて居る被告人の原審
公廷に於ける供述の趣旨は第一点記述の如く「数日間洋服のポケツトの中に入れて
歩いて居つたので汗や何かで字が判然見えなくなつて仕舞つたので字を直す心算り
で万年筆で書直したら偶々インクが落ちたので夫れを拭いた処恰度一と書いた様に
なつて仕舞つた」と言ふに在る。被告人は連繋した他の犯罪事実に付ては悉く卒直
に是を認めて居る事情に対比し此の事実のみに付て之を隠秘し虚構の供述を敢てし
て居るものとは常識上考へられない。且原審が証拠として採用して居る司法警察官
聴取書中のBの陳述に依れば第一点記述の如く「四行共インクの色が変つて居て云
々」とあり又Cの陳述に依れば同様「四行のインクの色が変つて居て云々」とあり
て単に「五七」の上に「一」を追記した丈けではなく被告人主張の如く数日間持歩
き中に字が摺れて判然見え無くなつたので四行共インクでなすり直したものと認め
るのが相当である。従て是等の点を綜合考覈すれば本件の真相は被告人供途の如く
偶々落ちたインクを拭いた結果恰も変造したもののように見える形跡を呈するに至
つたのが不幸にして之に継続する犯行の偶発的動機となつたものであると認めるの
が妥当と考へる、即ち原審認定の犯罪中東京都三田労政事務所長作成のAプレス工
業所従業員数証明書に関する被告人の行使の目的を以てした変造の犯行は是を認め
得るに由なきものと言ふべきである。従つて原判決は此点に於ても破毀の運命を免
れざるものと考へる。」と云うのである。
 しかし刑訴応急措置法第十三条第二項の規定は犯罪の構成要件たる事実に関する
事実誤認の主張と上告理由とすることができない趣旨と解すべきである。所論は右
と反対の見解を主張するもので論旨は理由なきものである。
 同上告趣意書第三点は「原判決は不当に長く拘禁された後の自由を断罪の証拠と
して居るものであるから憲法第三十八条第二項及刑訴応急措置法第十条第二項に違
反した不法の判決である。被告人は昭和二十二年八月二十二日逮捕、拘禁せられて
から勾留を更新せられる事六回、昭和二十三年四月七日の保釈決定に依て同月九日
漸く身柄を釈放せられるに至つた。其間昭和二十二年十一月五日より昭和二十三年
三月二十二日に亘り保釈申請を為す事六回而も本人は肺侵潤になやまされ在監に堪
えない旨の理由を具して願出でたけれども許可せられるに至らず昭和二十三年三月
十五日の公判期日に於ける被告人の供述を証拠として同月二十二日有罪の判決が言
渡され其後四月七日に至り漸く保釈決定があつたのである。病気在監に堪えざる旨
具申して居る被告人を其儘継続勾留して保釈を許さず殊に本件は昭和二十二年六月
十三日頃から同月二十九日頃迄の短期間内に継続して行はれた比較的単純な犯行で
決して複雑なものではなく検事の聴取及第一、二審の審理何れも唯一回丈けで終つ
て居るような事案である。それにも拘らず前記の如き期間に渉て被告人を拘禁した
のは不当に長く拘禁したものと言はざるを得ない。」と云うのである。
 記録によつて調査すると被告人は本件に関し昭和二十二年八月二十二日逮捕され
た後同二十四日勾留せられ同年九月二日公判請求を受けたが同年十月十日の第一審
公判期日は開廷後弁護人の請求により延期となり同年十一月五日第二回公判期日に
おいて審理を受け同月十二日第一審判決の言渡を受け、これに対し被告人から控訴
を申立て昭和二十三年三月十五日の原審公廷において本件犯行を自白する趣旨の供
述を為したものであることは明らかである。ところで被告人は昭和二十二年八月二
十四日司法警察官に対し、同月三十日検察官に対しそれぞれ本件犯行を自白してお
るのみならず、第一審第二回公判廷においても本件犯行を自白しておるのであつて
これらの自白はいづれも不当に長い拘禁後の自白と云うことはできないのである。
そして被告人の原審公廷における自白も単に前にした自白を繰返したに過ぎないも
のと認められるから右自白は不当に長い拘禁の結果なされたものでないことが明か
であつて、かゝる場合にはその自白は憲法第三十八条第二項及び刑訴応急措置法第
十条第二項にいわゆる不当に長い拘禁後の自白にあたらないことは既に当裁判所の
判例(昭和二二年(れ)第二七一号、昭和二三年六月二十三日大法廷判決参照)と
するところである。
 従つて被告人の原審公廷における自白が不当に長い拘禁後の自白であることを前
提とする本論旨は理由なきものである。
 よつて本件上告は理由がないから刑事訴訟法第四四六条により主文の如く判決す
る。
 この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。
 検察官 十蔵寺宗雄関与
  昭和二三年九月一八日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    塚   崎   直   義
            裁判官    霜   山   精   一
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重

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