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判決言渡日平成19年5月29日
平成18年(行ケ)第10480号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成19年5月15日
判決
原告石原産業株式会社
訴訟代理人弁護士吉武賢次
同弁理士小泉勝義
同大岡啓造
同弁護士宮嶋学
同高田泰彦
被告特許庁長官
中嶋誠
指定代理人岡田美加
同井岡賢一
同内山進
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2000−15604号事件について平成18年9月1日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
本件は,原告が後記商標につき商標登録出願をしたところ,拒絶査定を受け
たので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁が請求不成立の審決をし
たことから,その取消しを求めた事案である。
第3当事者の主張
1請求原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,平成11年7月27日,下記内容の商標登録出願(以下「本願」
という。)をしたが,特許庁から拒絶査定を受けたので,平成12年10月
2日これに対する不服の審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2000−15604号事件として審理した上,
平成18年9月1日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決を
し,その謄本は平成18年9月26日原告に送達された。
(2)本願商標の内容
(商標)
(指定商品)
第5類
・「薬剤」(平成11年7月27日の出願時)
・「ホスチアゼートを主成分とする医薬用外劇物に相当する液状の殺線
虫剤」(平成17年12月19日の補正時。以下「第1次補正」とい
う。)
・「ホスチアゼートを主成分とする医薬用外劇物及び危険物に相当する
液状の殺線虫剤」(平成18年7月14日の補正時。以下「第2次補
正」という。)
(3)審決の内容
審決の詳細は,別添審決写し記載のとおりである。
その要点は,本願商標は,下記引用商標(商標権者株式会社エーオーエ
ーアオバ)と,外観及び称呼において類似する商標であり,かつ,その指定
商品も互いに類似するものであるから,商標法4条1項11号に該当する,
としたものである。

(商標)
(指定商品)
第1類
・「土壌改良剤」(平成10年3月20日の設定登録時)
・「凝灰質砂岩のパウダーよりなる土壌改良剤」(取消2004−3
0450号事件についての平成17年8月10日付け審決後のもの。平
成17年10月17日登録)
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決は,以下に述べる理由により,違法として取り消され
るべきである。
ア取消事由1(本願指定商品の認定の誤り)
(ア)審決は,本願の指定商品について,第5類「ホスチアゼートを主成分
とする医薬用外劇物に相当する液状の殺線虫剤」(審決1頁下第2段
落。第1次補正時のもの)と認定したが,誤りである。
(イ)本願の指定商品については,さらに平成18年7月14日付けの手続
補正書をもって,第5類「ホスチアゼートを主成分とする医薬用外劇物
及び危険物に相当する液状の殺線虫剤」と補正(第2次補正)され,こ
の補正書は,本件審判事件の審理終結通知書(甲28。以下「本件審理
終結通知書」という。)の発送の日(平成18年7月14日)と同日付
けで提出され,本件審理終結通知書の送達(平成18年7月18日)よ
り前に特許庁に提出されたものであるから,商標法(以下「法」とい
う。)68条の40の規定により適法な補正として受理されるべきもの
である。
しかるに審決は,平成17年12月19日付け手続補正書(第1次補
正)における指定商品である第5類「ホスチアゼートを主成分とする医
薬用外劇物に相当する液状の殺線虫剤」をもって審理したものであるか
ら,本願の指定商品の認定を誤ったもので,違法である。
なお審決は,第2次補正に係る指定商品と第1次補正に係る指定商品
とは,「指定商品の本質を実質的に変更するものでない」(審決5頁第
5段落)と判断しているが,この部分は,「なお書き」であって,第2
次補正に係る指定商品について,審理したとはいえない。
イ取消事由2(商標の類否判断の誤り)
(ア)審決は,本願商標と引用商標は,互いに類似する商標であると判断し
た(審決2頁第6段落)が,誤りである。
(イ)本願商標と引用商標が称呼において類似することは認めるが,外観に
おいて類似するものではない。
すなわち,商標の外観上の類否は,両商標の構成全体により,これに
接する取引者・需要者が混同を生じるおそれがあるほどに似ているか否
かによって判断されるべきものであり,その一部を取り出して類否判断
されるべきものではない。これを本件についてみると,本願商標は,「
青葉」,「アオバ」,「あおば」,「AOBA」の各文字を,上から順
に4段に横書きしてなるものであるのに対して,引用商標は,「アオバ
の」,「土壌改良用」,「パウダー」の文字を3列に縦書きしてなる,
というように全体の構成が異なるものであるから,これに接する取引者
・需要者は,外観上,両商標を混同することなどないというべきであ
る。
したがって,本願商標と引用商標との外観上の類否についての審決の
判断は,誤りというほかない。
ウ取消事由3(指定商品の類否判断の誤り)
(ア)第1次補正に係る指定商品との類否についての判断の誤り
a審決は,本願の第1次補正に係る指定商品と引用商標の指定商品と
の類否について,第1次補正に係る指定商品は「殺虫剤」の範ちゅう
に属する商品であり,引用商標の指定商品は,設定登録時の「土壌改
良剤」に含まれる商品であることは明らかであるとした上で,両商品
の上位概念である「殺虫剤」と「土壌改良剤」についての判断をして
いるもので,個別具体的に商品の類否を審理し,判断しているとはい
えないから失当である。
本願の第1次補正に係る指定商品「ホスチアゼートを主成分とする
医薬用外劇物に相当する液状の殺線虫剤」は,「線虫」の防除を目的
とした液状の農業用薬剤で,医薬用外劇物であり,農薬取締法により
登録が義務付けられ,農林水産省登録第20346号として登録さ
れ,その製造,品質,販売,商品表示,使用等について,農薬取締法
による厳しい規制がなされている商品である。また,「ホスチアゼー
トを主成分とする医薬用外劇物に相当する液状の殺線虫剤」は,「毒
物及び劇物取締法」に基づく「毒物及び劇物指定令」により劇物に指
定されている特定の「ホスチアゼート」を主成分とすることから劇物
に指定され,その製造,販売,購入,商品表示,保管,使用等につい
て,「毒物及び劇物取締法」による厳しい規制がなされており,例え
ば,劇物の製造,販売,所持等につき厳しい譲渡手続,譲渡制限が規
定されていて,劇物の購入に際しては,譲受書の提出が求められる商
品である。さらに,「ホスチアゼートを主成分とする医薬用外劇物に
相当する液状の殺線虫剤」は,消防法の別表第1,第4類,引火性液
体,第3石油類に該当する「飽和ジカルボン酸ジメチルエステル」を
有機溶剤として使用していることから,その製造,保管等についても
消防法による厳しい規制がなされている商品である。
このように,「ホスチアゼートを主成分とする医薬用外劇物に相当
する液状の殺線虫剤」には,法律に基づく厳しい規制がなされている
ことから,農薬取締法及び毒物及び劇物取締法に基づき,商品の表示
には,農薬登録番号,劇物表示,使用方法,解毒法,保管方法等の様
々な表示が付されて,液剤が100ミリリットル,250ミリリット
ル,または1リットル入りのプラスチック容器に密封されて販売され
ており,商品の使用に当たっても,そこの表示の指示に従って実施す
ることが求められている。そして,「ホスチアゼートを主成分とする
医薬用外劇物に相当する液状の殺線虫剤」は,農薬に位置付けられる
もので,他の農薬と同じく,農薬取締法,毒物及び劇物取締法に基づ
く登録を受けた医薬品製造メーカー,化学品製造メーカー等の原体製
造メーカー及び製剤メーカーにより製造され,農薬取締法,毒物及び
劇物取締法に基づく販売の届出をした,全農・JA,あるいは卸売業
者・小売業者を通じて販売される商品である。
bこれに対して,引用商標の指定商品は,商標登録の取消審判(20
01−30450号)により指定商品中「凝灰質砂岩のパウダーより
なる土壌改良剤以外の土壌改良剤」について取り消す旨の審決がさ
れ,平成17年10月17日にその確定登録がされたことから,現在
においてその内容は「凝灰質砂岩のパウダーよりなる土壌改良剤」と
なっている。「凝灰質砂岩のパウダーよりなる土壌改良剤」は,単
に「凝灰質砂岩」をパウダー状にした商品で,化学的な性質を持つ商
品とはいえず,農薬取締法,毒物及び劇物取締法,消防法の法律に基
づく法規制がないばかりでなく,農業に関係する肥料取締法,地力増
進法等の法規制をも受けることのない商品である。そして,その商品
は,引用商標の商標権者(株式会社エーオーエーアオバ)以外のいか
なるメーカーも取り扱うことのない商品で,農業・園芸に関心を持つ
特定の顧客の注文に応じてOEMで生産され,実質的にはハーモニー
ライフシステムの会員のみに,いわゆるマルチレベルマーケティング
の手法により,ごく微量が販売される商品で,一般にはほとんど販売
されない商品である。また,ハーモニーライフシステムでは,本願商
標の第1次補正後の商品を販売していない。このような商品であるこ
とからすれば,「凝灰質砂岩のパウダーよりなる土壌改良剤」は,薬
剤としての「土壌改良剤」には相当しないものであるばかりでなく,
地力増進法で法規制のあるパーライト等の土壌の改良を目的とした「
土壌改良用の資材」にも相当しない商品で,何ら法規制のない,効能
・効果も「土壌改良用」に適しているか否かさえ明確でない「鉱物質
の資材」とでもいうべき商品である。この「凝灰質砂岩のパウダーよ
りなる土壌改良剤」は,農業に密接した農薬,肥料を生産するメーカ
ーはもとより,「土壌改良用の資材」を製造するメーカーにおいても
生産しているメーカーもない極めて特殊な商品である。さらに,「凝
灰質砂岩のパウダーよりなる土壌改良剤」を指定商品とする引用商標
の商標権者は,「土壌改良用の資材」を製造,販売する事業者にも相
当しない。
cそこで,商品の類否判断についての商標審査基準に即して,本願の
第1次補正後の指定商品「ホスチアゼートを主成分とする医薬用外劇
物に相当する液状の殺線虫剤」と引用商標の取消審判の審決後の指定
商品「凝灰質砂岩のパウダーよりなる土壌改良剤」とを比較すると,
下記のとおりである。

本願の第1次補正後の指定商品引用商標の指定商品
「ホスチアゼートを主成分とする医薬用「凝灰質砂岩のパウダーよりなる土
外劇物に相当する液状の殺線虫剤」壌改良剤」
生産部門薬品・化学品メーカー商標権者のみ
薬品・化学品メーカーはもとより,
肥料・地力増進資材の製造メーカー
等の農業に関連する商品を製造する
如何なるメーカーも取り扱っていな
い。
販売部門農協,農薬卸売業者,農薬小売業者農業・園芸に関心を持つ特定の顧客
系統と商系に分けられる。の注文に応じてOEMで生産され,
系統:全農−JA販売される。
商系:卸−小売
原材料ホスチアゼート凝灰質砂岩
飽和ジカルボン酸ジメチルエステルを有
機溶剤として使用
品質・形液状で,100ミリリットル,250ミパウダー状で,15キロ入り紙製袋
状リリットル及び1リットル入りプラスチで包装
ック製ボトルで包装
薬剤,化学品に相当する。薬剤,化学品に相当しない。
用途線虫の防除土壌改良
ただし,商品上の表示から見て,効
能,効果も「土壌改良用」に適して
いるか否かさえ明確でない「鉱物質
の資材」とでもいうべき商品。
法規制の法規制有り法規制なし
有無及び農薬取締法肥料取締法に定める肥料,地力増
種類毒物及び劇物取締法進法に定める土壌改良資材のいずれ
にも相当しない。
法律に基表示義務有り表示義務なし
づく表示農薬取締法に基づく表示
義務の有「農林水産省登録第20346号」
無及び種「殺線虫剤」
類毒物及び劇物取締法に基づく表示
「医薬用外劇物」
注意表示安全使用上の注意表示,治療法・保管等注意表示なし
についての注意表示有り
販売方法施錠された場所に保管し,管理簿の作成農業・園芸に関心を持つ者の注文に
が義務づけられ,購入者から,書面(劇より販売される
物譲受書)を受け取って販売する。(なお,普通の「土壌改良用資材」
といわれている商品は,ホームセン
ター等において,肥料,園芸用資
材(土,砕石等)と併置して販売さ
れているが,殺虫剤,植物ホルモン
剤等とは,場所,棚を分けて販売さ
れるのが実情である。)
d上記のとおり,両者は,生産部門,販売部門,原材料,品質,用途
を全く異にし,完成品と部品との関係にないことも明らかであり,法
律上の規制の有無,法律に基づく表示義務の有無,注意方法,商品の
販売方法も異なり,かつ,需要者も大きく相違し,わずかに需要者の
範囲が一致することがあり得る程度である。
これらを総合して考慮すれば,両商品に同一又は類似の商標を付し
て使用しても,これに接する取引者・需要者が,その商品の出所につ
いて誤認,混同を生じるおそれがあるほどに類似する商品とはいえ
ず,本願の第1次補正後の指定商品「ホスチアゼートを主成分とする
医薬用外劇物に相当する液状の殺線虫剤」と引用商標の取消審判の審
決後の指定商品「凝灰質砂岩のパウダーよりなる土壌改良剤」とは,
非類似の商品というべきである。
(イ)第2次補正に係る指定商品との類否についての判断の誤り
aなお,仮に審決の「なお書き」による判断のみで,本願の第2次補
正に係る指定商品について適法な認定判断がなされているとしても,
審決は,本願商標の第2次補正に係る指定商品と引用商標の指定商品
との商品の類否についての判断を誤っている。
b商品の類否判断についての商標審査基準に即して,本願の第2次補
正後の指定商品「ホスチアゼートを主成分とする医薬用外劇物及び危
険物に相当する液状の殺線虫剤」と引用商標の指定商品「凝灰質砂岩
のパウダーよりなる土壌改良剤」とを比較すると,下記のとおりであ
る。

本願の第2次補正後の指定商品引用商標の指定商品
「ホスチアゼートを主成分とする医薬用「凝灰質砂岩のパウダーよりなる土
外劇物及び危険物に相当する液状の殺線壌改良剤」
虫剤」
生産部門薬品・化学品メーカー商標権者のみ
薬品・化学品メーカーはもとより,
肥料・地力増進資材の製造メーカー
等の農業に関連する商品を製造する
如何なるメーカーも取り扱っていな
い。
販売部門農協,農薬卸売業者,農薬小売業者農業・園芸に関心を持つ特定の顧客
系統と商系に分けられる。の注文に応じてOEMで生産され,
系統:全農−JA販売される。
商系:卸−小売
原材料ホスチアゼート凝灰質砂岩
飽和ジカルボン酸ジメチルエステルを有
機溶剤として使用
品質・形液状で,100ミリリットル,250ミパウダー状で,15キロ入り紙製袋
状リリットル及び1リットル入りプラスチで包装
ック製ボトルで包装
薬剤,化学品に相当する。薬剤,化学品に相当しない。
用途線虫の防除土壌改良
ただし,商品上の表示から見て,効
能,効果も「土壌改良用」に適して
いるか否かさえ明確でない「鉱物質
の資材」とでもいうべき商品。
法規制の法規制有り法規制なし
有無及び農薬取締法肥料取締法に定める肥料,地力増
種類毒物及び劇物取締法進法に定める土壌改良資材のいずれ
消防法にも相当しない。
法律に基表示義務有り表示義務なし
づく表示農薬取締法に基づく表示
義務の有「農林水産省登録第20346号」
無及び種「殺線虫剤」
類毒物及び劇物取締法に基づく表示
「医薬用外劇物」
消防法に基づく表示
「三石・Ⅲ・火気厳禁\飽和ジカル
ボン酸ジメチルエステル」
注意表示安全使用上の注意表示,治療法・保管等注意表示なし
についての注意表示有り
販売方法施錠された場所に保管し,管理簿の作成農業・園芸に関心を持つ者の注文に
が義務づけられ,購入者から,書面(劇より販売される
物譲受書)を受け取って販売する。(なお,普通の「土壌改良用資材」
といわれている商品は,ホームセン
ター等において,肥料,園芸用資
材(土,砕石等)と併置して販売さ
れているが,殺虫剤,植物ホルモン
剤等とは,場所,棚を分けて販売さ
れるのが実情である。)
c上記のとおり,両者は,本願の第1次補正後の指定商品「ホスチア
ゼートを主成分とする医薬用外劇物に相当する液状の殺線虫剤」との
比較以上に,生産部門,販売部門,原材料,品質,用途を全く異に
し,完成品と部品との関係にないことも明らかであり,法律上の規制
の有無,法律に基づく表示義務の有無,注意方法も,商品の販売方法
も異なり,かつ,需要者も大きく相違し,わずかに需要者の範囲が一
致することもあり得る程度であり,その相違が顕著なものである。
そうしてみると,これらを総合して考慮すれば,両商品に同一又は
類似の商標を付して使用しても,これに接する取引者・需要者が,そ
の商品の出所について誤認,混同を生じるおそれがあるほどに類似す
る商品とはいえず,本願の第2次補正後の指定商品「ホスチアゼート
を主成分とする医薬用外劇物及び危険物に相当する液状の殺線虫剤」
と引用商標の取消審判の審決後の指定商品「凝灰質砂岩のパウダーよ
りなる土壌改良剤」とは,非類似の商品というべきである。
(ウ)以上から明らかなとおり,審決は,本願の指定商品と引用商標の指定
商品との類否判断を誤っており,仮に審決における「なお書き」による
判断のみで,本願の第2次補正に係る指定商品について適法な認定判断
がなされているとしても,商品の類否についての上記判断の誤りが審決
の結論に影響することは明らかであるから,審決は取消しを免れない。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。
3被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
(1)取消事由1に対し
ア本願の指定商品については,平成18年7月14日付けの第2次補正を
もって第5類「ホスチアゼートを主成分とする医薬用外劇物及び危険物に
相当する液状の殺線虫剤」と補正され,同補正は本件審理終結通知書の送
達(平成18年7月18日)より前に特許庁に提出されたものであるか
ら,法68条の40の規定により適法な補正として受理されるべきもので
あることは認める。
イ原告は,審決は第2次補正に係る指定商品について実質的に審理してい
るとはいえないから,本願の指定商品の認定を誤ったものであると主張す
る。
しかし,審決は,第2次補正に係る指定商品についても検討した上で,
第1次補正に係る指定商品と,それぞれの商品説明からすると,その本
質,内容において実質的に変わるものではないと判断し,本願商標の指定
商品と引用商標の指定商品について,その類否を審理したものである。
すなわち,第2次補正において,指定商品の表示中に「危険物に相当す
る」の趣旨の部分が明示されたとしても,第1次補正に係る商品と第2次
補正に係る商品は,「ホスチアゼートを主成分とする液状の殺線虫剤」で
あり,いずれも「飽和ジカルボン酸ジメチルエステル」を有機溶剤として
使用しているものと説明している(乙1・乙2の各手続補正書参照)こと
から,上記のように明示してもしなくてもその商品自体は何ら変わりのな
いものである。そして,審決は,第2次補正の指定商品が本願商標の指定
商品であることを前提に,第1次補正に係る指定商品「ホスチアゼートを
主成分とする医薬用外劇物に相当する液状の殺線虫剤」と引用商標の指定
商品である「凝灰質砂岩のパウダーよりなる土壌改良剤」の類否を検討し
た上で,第2次補正に係る商品と第1次補正に係る商品が実質的に同一の
ものであるとして,第2次補正に係る指定商品について実質的に審理して
いるものであり,このことは,「3むすび」における「なお,…上記認
定を左右するものではない」(審決5頁下第2段落)との記載からも明ら
かである。
したがって,審決に,原告主張の誤りはない。
(2)取消事由2に対し
本願商標は,「青葉」,「アオバ」,「あおば」及び「AOBA」の文字
を4段に横書きしてなるものであり,引用商標は,「アオバの」,「土壌改
良用」及び「パウダー」の文字を3列に縦書きしてなるものである。
そして,商標の類否判断は,必ずしも全体的な対比観察のみによって比較
しなければならないものではなく,商標中の独立して自他商品識別標識とし
ての機能を果たす部分(要部)の有する外観,称呼又は観念により判断する
場合も十分あり得るというべきである。
引用商標においては,2列目及び3列目の「土壌改良用パウダー」の文字
部分は,指定商品との関係においては,商品自体を表すものというべきであ
って,1列目の「アオバの」の文字部分に含まれる「の」は,所有又は所属
を表す助詞と理解されるものであるから,引用商標において自他商品の識別
機能を果たす要部は,「アオバ」の文字部分にあると解される。他方,本願
商標は,上記構成よりなるところ,「青葉」,「アオバ」,「あおば」及
び「AOBA」のそれぞれの文字が自他商品識別標識としての機能を有する
といえるものである。してみれば,本願商標構成中の「アオバ」の文字と引
用商標構成中の「アオバ」の文字は,横書きと縦書きとの差異はあれ,その
構成文字を同じくし,外観上も相紛らわしいものというべきである。
また,両商標が称呼において類似することは,原告も認めるところであっ
て,これらを総合的に考慮すれば,本願商標と引用商標とは,外観及び称呼
において互いに相紛らわしい類似の商標というべきであり,互いに類似する
とした審決の判断に誤りはない。
(3)取消事由3に対し
ア原告は,審決は「殺虫剤」と「土壌改良剤」についての判断をし,本願
の指定商品と引用商標の指定商品について実質的な判断をしていない旨主
張する。
しかし,本願の指定商品及び引用商標の指定商品は,ともに原材料,形
状においても限定されているものであるところ,例えば,「ホスチアゼー
トを主成分とする医薬用外劇物及び危険物に相当する液状の殺線虫剤」
は,現時点では,原告のみが製造する商品であるとしても,この商品が将
来も他の業者により行われることがないとはいえないことから,該商品を
含む殺線虫剤,さらには,殺虫剤の取引の実情を踏まえて検討することは
当然であり,同様に引用商標の指定商品についても,「凝灰質砂岩のパウ
ダーよりなる土壌改良剤」を含む「土壌改良剤」の取引の実情を踏まえて
検討すべきところ,審決はこうした観点から検討し,本願の指定商品と引
用商標の指定商品の類否について判断したものであるから,原告の主張は
失当である。
イ本願の指定商品は,「ホスチアゼートを主成分とする医薬用外劇物及び
危険物に相当する液状の殺線虫剤」であるから,線虫の防除に有効な成分
であるホスチアゼートを用いて農作物等に寄生する線虫を防除するための
農薬であるといえる。一般に農薬については,その薬効として有効な成分
や溶剤がその危険性から,農薬取締法・毒物及び劇物取締法・消防法等の
法律によって,その商品の管理,取扱いを規制する場合はあるが,通常,
農薬の製造者は,上記のような法律の規制の対象であるもの,あるいは,
対象でないものに限定することなく,多種の商品を製造しているものであ
り,販売業者も,法律の規制を受ける農薬のみを取り扱うのではなく,規
制の対象とならない農薬も取り扱うのが一般的であり,需要者である農業
者においても,取扱い上の注意の度合いが異なるとはいえ,農薬として取
り扱うことに変わりがないから,本願の指定商品が法律の規制対象となる
商品であるとしても,そのことによって,同一又は類似の商標を使用した
場合に商品の出所の混同を生ずるおそれがあるか否かに影響を及ぼすもの
とは考え難く,原告の主張は,商品の類否判断における取引の実情とはい
えないというべきである。
ウ引用商標の指定商品は,「凝灰質砂岩のパウダーよりなる土壌改良剤」
であるから,原材料が凝灰質砂岩であり,形状が粉状の土壌改良剤という
ことができる。
そして,「土壌改良剤」とは,本来的には「土壌を耕作に適する状態に
するために施用する薬剤」(広辞苑。乙3)を指称するものであるとして
も,「肥料用語辞典」(乙4),「最新土壌・肥料・植物栄養事典」(
乙5)の記載,新聞記事(乙6,7),インターネット上のホームペー
ジ(乙8∼11)等にもみられるように,土壌本来の物理的,化学的な性
質ならびに微生物的な性質を改良して,土壌の肥よく性を高め,作物の生
産性を高める目的で土壌に施用する物料をいい,その原材料は,動植物
質,鉱物質,合成化合物等多岐にわたるものであり,このように様々な原
材料による土壌を改良するための商品を「土壌改良剤」と称して,認識さ
れ,取引されているものである。
エ商品の類似については,「商品自体が取引上互いに誤認混同を生ずるお
それがないものであっても,それらの商品に同一または類似の商標を使用
するときは,同一営業主の製造または販売にかかる商品と誤認混同される
おそれがある場合には,これらの商品は旧商標法(大正10年法律第99
号)第2条第1項第9号にいう類似の商品にあたると解すべき」(最高裁
昭和39年(行ツ)第54号・昭和43年11月15日第二小法廷判決・
民集22巻12号2559頁)である。したがって,本願の指定商品「ホ
スチアゼートを主成分とする医薬用外劇物及び危険物に相当する液状の殺
線虫剤」と引用商標の指定商品「凝灰質砂岩のパウダーよりなる土壌改良
剤」とに同一又は類似の商標を使用した場合,同一の者の製造又は販売に
係る商品と誤認混同されるおそれがあるか否かという観点から判断すべき
であり,その際には,現時点における原告の取り扱いに係る商品と引用商
標権者の取り扱いに係る商品の特殊的,限定的な取引の実情をもとに判断
すべきではなく,「殺線虫剤(殺虫剤)」と「土壌改良剤」の一般的な取
引の実情を踏まえて,商品の類否について検討するということになる。ま
た,商品の類否の判断に際しては,「(イ)生産部門が一致するかどうか(
ロ)販売部門が一致するかどうか(ハ)原材料及び品質が一致するかどうか
(ニ)用途が一致するかどうか(ホ)需要者の範囲が一致するかどうか(
ヘ)完成品と部品との関係にあるかどうか」という具体的な基準を総合的に
考慮するもの(商標審査基準。甲17)とされるところ,本願の指定商品
と引用商標の実質的指定商品は,原材料及び品質が相違し,完成品と部品
との関係にはないが,次に述べるとおり,上記の(イ),(ロ),(ニ),(ホ)につ
いては,その関連性が極めて深い商品といえる。
(ア)生産部門
「殺線虫剤」は,一般的には,薬品メーカー,化学品メーカーによっ
て生産されるものである。一方,引用商標の実質的指定商品を含む「土
壌改良剤」は,その原材料が泥炭,草炭,貝殻などの動植物質,微生物
質,ゼオライトなどの鉱物質等,多岐にわたり,製法も様々である。し
たがって,メーカーもそれぞれの特長を生かした原材料の土壌改良剤を
生産していることが多いことから,土壌改良剤メーカーは,薬品,化学
品ほどに特定の業種のメーカーに限られるものではなく,多種多様の者
が土壌改良剤の開発,生産に携わっている。このことから,土壌改良剤
に係る商品の類否に関しては,生産部門の同一性が与える影響はそれほ
ど大きいものではないと考えられる。
(イ)販売部門
「殺線虫剤(殺虫剤)」及び「土壌改良剤」は,農業・園芸用に使用
される商品といえるものであり,一般的には,農業協同組合や農業資材
小売業者,ホームセンターなどで販売されているものであり,ホームセ
ンター等においては,例えば「家庭園芸用コーナー」,「家庭菜園用コ
ーナー」等と称して,同じ区画・エリア内において,双方の商品が販売
されているのが実情といえる。
以上のことからすると,「殺線虫剤(殺虫剤)」及び「土壌改良剤」
は共に,農業協同組合や,ホームセンター等で取り扱われる商品であっ
て,しかも引用商標の指定商品「凝灰質砂岩のパウダーよりなる土壌改
良剤」と同様に遠赤外線による効果を利用する土壌改良剤も同様の場所
において販売されるものであるから,「凝灰質砂岩のパウダーよりなる
土壌改良剤」についても,一般的・恒常的取引の実情の観点よりすれ
ば,農業協同組合,ホームセンター等で取り扱われる商品と見ても差し
支えない。
したがって,「ホスチアゼートを主成分とする医薬用外劇物及び危険
物に相当する液状の殺線虫剤」と「凝灰質砂岩のパウダーよりなる土壌
改良剤」とは,その販売部門を共通にする商品というべきである。
(ウ)用途・需要者
「ホスチアゼートを主成分とする医薬用外劇物及び危険物に相当する
液状の殺線虫剤」を含む「殺線虫剤」は,作物の根の表面や組織に寄生
し加害する線虫類を防除し,作物の成長を助け,生産性を高めることを
目的とする殺虫剤であるから,農業者や家庭菜園等を行う者を,その需
要者とするものである。一方,「土壌改良剤」は,土壌本来の物理的,
化学的な性質及び微生物的な性質を改良して,土壌の肥よく性を高め,
作物の生産性を高めることを目的とするものであり,「凝灰質砂岩のパ
ウダーよりなる土壌改良剤」は,遠赤外線のエネルギー等の作用を利用
し,土壌の性質を改良して,土壌の肥よく性ひいては作物の生産性を高
めることを目的とするものというべきであるから,農業者,家庭菜園等
を行う者を,その需要者とするものである。また,「殺線虫剤」を有効
成分として含有させた「土壌改良剤」や,線虫被害を抑止する効果を有
する「土壌改良剤」が存在している。
以上のことからすると,「殺線虫剤」と凝灰質砂岩を原材料とするも
のを含む「土壌改良剤」とは,前者が,線虫の防除により作物の成長を
助け生産性を高めるものであり,後者が,遠赤外線のエネルギー等の作
用を利用し土壌の性質を改良し土壌の肥よく性を高めることにより作物
の成長を助け生産性を高めるものである違いはあるとしても,共に作物
の成長を助け,生産性を高めるために使用する点において,同一目的の
商品といえるものであって,しかも,土壌改良剤の中には,線虫等の害
虫に対する効果を有するものもあり,「殺線虫剤」と「土壌改良剤」の
関連性は極めて強いものといえることから,「ホスチアゼートを主成分
とする医薬用外劇物及び危険物に相当する液状の殺線虫剤」と「凝灰質
砂岩のパウダーよりなる土壌改良剤」とは,需要者をして,その用途が
極めて近似する商品として認識されるというべきである。さらに,両商
品は,ともに農作物を育てる農業者及び家庭菜園等を行う者が使用する
商品といえるから,その需要者の範囲も共通にする商品というべきであ
る。
(エ)以上よりすれば,「ホスチアゼートを主成分とする医薬用外劇物及び
危険物に相当する液状の殺線虫剤」と「凝灰質砂岩のパウダーよりなる
土壌改良剤」とは,原材料及び品質に相違するところがあるとしても,
販売者を同じくする場合も少なくないのであって,かつ,それぞれの効
果である「害虫の防除」及び「土壌環境の整備」が,最終的には「作物
の成長を促進させる」という目的を共通にする商品というべきであり,
しかも土壌改良剤の中に,線虫等の害虫の防除に効果があるものもあ
り,その用途が極めて近似する商品であって,同様に,需要者の範囲も
一致する場合が多い商品というべきである。
したがって,商品の類否の判断に関する上記具体的基準に従い総合
的に考慮すれば,商品「ホスチアゼートを主成分とする医薬用外劇物及
び危険物に相当する液状の殺線虫剤」と商品「凝灰質砂岩のパウダーよ
りなる土壌改良剤」に,同一または類似の商標を使用した場合,同一の
者の製造または販売に係る商品と誤認混同されるおそれがあることを否
定することはできないというべきである。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(本願商標の内容)及び
(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,審決の適否につき,原告主張の取消事由ごとに判断する。
2取消事由1(本願指定商品の認定の誤り)について
(1)原告は,本件審理終結通知書が送達された平成18年7月18日より前の
平成18年7月14日付けをもって,第2次補正書(甲26)により指定商
品を「ホスチアゼートを主成分とする医薬用外劇物及び危険物に相当する液
状の殺線虫剤」と補正したにもかかわらず,審決は,本願の指定商品を平成
17年12月19日付け第1次補正に係る「ホスチアゼートを主成分とする
医薬用外劇物に相当する液状の殺線虫剤」と認定した(審決1頁下第2段
落)ものであり,本願の指定商品の認定に誤りがあると主張する。
(2)法68条の40は「商標登録出願,防護標章登録出願,請求その他商標登
録又は防護標章登録に関する手続をした者は,事件が審査,登録異議の申立
てについての審理,審判又は再審に係属している場合に限り,その補正をす
ることができる。」と,法56条の準用する特許法156条1項は「審判長
は,事件が審決をするのに熟したときは,審理の終結を当事者及び参加人に
通知しなければならない。」と各規定しているから,商標登録出願人は,審
判係属中は商標登録出願の補正ができると解すべきところ,平成18年7月
14日付け第2次補正は本件審理終結書が送達された平成18年7月18日
より前に特許庁に提出されたものであるから,本願の指定商品は,第2次補
正により「第5類「ホスチアゼートを主成分とする医薬用外劇物及び危険物
に相当する液状の殺線虫剤」」に補正されたものである。
ところが,審決は,「第1本願商標」において「本願商標は,…第5
類「薬剤」を指定商品として,平成11年7月27日に登録出願されたもの
であるが,その後,指定商品については,当審における平成17年12月1
9日付け提出の手続補正書において,第5類「ホスチアゼートを主成分とす
る医薬用外劇物に相当する液状の殺線虫剤」に補正されたものである」(審
決1頁下第2段落)と認定し,同認定に基づき,「第3当審の判断」にお
いて,引用商標と対比して両者の類否判断を行っている(審決2頁第3段落
∼5頁第3段落)から,審決は,本願の指定商品の認定を誤ったものという
ほかない。
(3)しかし,第2次補正は,第1次補正に係る指定商品「ホスチアゼートを主
成分とする医薬用外劇物に相当する液状の殺線虫剤」を,「ホスチアゼート
を主成分とする医薬用外劇物及び危険物に相当する液状の殺線虫剤」(下線
付加)に補正するもので,「及び危険物」を付加したにすぎない。
ところで,「液状の殺線虫剤」は,消防法別表第1の第4類「引火性液
体」の「第3石油類」に該当する「飽和ジカルボン酸ジメチルエステル」を
有機溶剤として使用していることから,消防法2条7項の「危険物」に該当
するものである(乙1参照)。そして,本件審判手続における平成18年7
月14日付け手続補正書(方式)(乙2)には,「第1指定商品の補正に
ついて本願の指定商品につきましては,平成17年12月19日提出の手
続補正書により,第5類「ホスチアゼートを主成分とする医薬用外劇物に相
当する液状の殺線虫剤」と補正したところですが,さらにこれを,同時に提
出した手続補正書をもって,「ホスチアゼートを主成分とする医薬用外劇物
及び危険物に相当する液状の殺線虫剤」と補正しました。…「ホスチアゼー
トを主成分とする医薬用外劇物及び危険物に相当する液状の殺線虫剤」
は,「消防法」の別表第1,第4類,引火性液体,第3石油類に該当する「
飽和ジカルボン酸ジメチルエステル」を有機溶剤として使用していることか
ら,消防法の危険物とされ,その製造,保管等についても「消防法」による
厳しい規制がなされている商品です。」(乙2の2枚目∼3枚目)と記載さ
れている。
したがって,本願の指定商品は,第1補正に係る「ホスチアゼートを主成
分とする医薬用外劇物に相当する液状の殺線虫剤」自体が,消防法の「危険
物」に該当するものであるが,第2次補正によりこれを指定商品の記載に明
示したにすぎず,これにより商品の内容に実質的な変更があったものとは認
められない。そうすると,本願の指定商品に係る審決の上記認定誤りは,そ
の結論に影響を及ぼすものということはできない。
また,審決は,「なお」書きとしてではあるが,第2次補正について,『
…かかる補正は,「ホスチアゼートを主成分とする医療用外劇物に相当する
液状の殺線虫剤」を「ホスチアゼートを主成分とする医薬用外劇物及び危険
物に相当する液状の殺線虫剤」のように,該商品が「危険物に相当する」も
のであるという文言を加えるのみであって,これまで請求人(出願人)が主
張してきた指定商品の本質を実質的に変更するものではないというのが相当
である。してみれば,本願商標の指定商品を「ホスチアゼートを主成分とす
る医薬用外劇物及び危険物に相当する液状の殺線虫剤」に補正しても,これ
と引用商標の指定商品とは,その本質において,非類似の商品であるとする
ことは妥当ではないことに変わりはなく,上記認定を左右するものではな
い。』(審決5頁第5段落∼最終段落)として,本願の第2次補正後の指定
商品についても類否判断を行っているところである。
したがって,原告の取消事由1の主張は理由がない。
3取消事由2(商標の類否判断の誤り)について
(1)本願商標は,前記第3の1(2)のとおり,「青葉」,「アオバ」,「あお
ば」及び「AOBA」の文字を太字をもって4段に横書きしてなるものであ
り,これに対し引用商標は,前記第3の1(3)のとおり,「アオバの」,「
土壌改良用」及び「パウダー」の文字を太字をもって3列に縦書きしてなる
ものである。
ところで,商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用
された場合に,商品の出所につき誤認混同を生じるおそれがあるか否かによ
って決すべきであるが,それには,そのような商品に使用された商標がその
外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して
全体的に考慮すべく,しかもその商品の取引の実情を明らかにしうるかぎ
り,その具体的取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和4
3年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
(2)そこで,以上の見地に立って本件事案について検討する。
ア称呼
本願商標と引用商標が,いずれも「アオバ」の称呼を生ずる点で類似す
ることは明らかである(当事者間に争いがない)。
イ観念
(ア)本願商標は,上記のとおり「青葉」,「アオバ」,「あおば」及び「
AOBA」の文字からなるから,「青葉」すなわち「①緑色の,木の
葉。②新たに芽ざした葉。若葉。また,若葉の茂ったもの。新緑。」(
広辞苑第5版15頁)との観念を生じるものである。
(イ)他方,引用商標は,上記のとおり「アオバの」,「土壌改良用」及
び「パウダー」の文字からなり,1列目の「アオバの」の「の」は,連
体格を示す格助詞で,「…前の語句の内容を後の体言に付け加え,その
体言の内容を限定する。…所有者を示す。…所属を示す。…」(広辞苑
第5版2078頁)語であり,2列目及び3列目の「土壌改良用パウダ
ー」は,指定商品「凝灰質砂岩のパウダーよりなる土壌改良剤」との関
係においては商品自体を表すものと理解される。
そして,引用商標は,一列目の「アオバの」と2列目及び3列目の「
土壌改良用パウダー」とが組み合わされた結合商標として認識されるも
のであるが,「土壌改良用パウダー」の部分は商品自体を表示するもの
として認識され,自他役務識別力が希薄な部分であると認められる。ま
た,「アオバの土壌改良用パウダー」は,13文字とかなり冗長である
上,3列からなり,1列目の「アオバの」と2,3列目の「土壌改良用
パウダー」が一体のものとして把握されなければならないものとも認め
られない。そうすると,引用商標は,「アオバの」の部分と「土壌改良
用パウダー」の部分とに分離して認識されるものであり,かつ,商品の
出所を表示する自他商品識別力のある要部は「アオバの」の部分である
というべきである。そして,「アオバの」は,「アオバ」が片仮名,「
の」が平仮名からなるから,「アオバ」と「の」とが分離して把握され
るところ,「の」は所属を示す格助詞と理解されるから,「アオバ」の
部分が「の」以下の商品「土壌改良用パウダー」が帰属する主体,すな
わち業務の主体と理解されるものと認められる。
以上の引用商標の構成からすると,引用商標からは,商品の業務主体
としての「アオバ」が認識され,そこから「青葉」の観念を生じるもの
というべきである。
(ウ)以上検討したところによれば,本願商標と引用商標は,上記「青葉」
の観念が生じる点において共通するから,観念において類似するものと
認められる。
ウ外観
本願商標は,「青葉」,「アオバ」,「あおば」及び「AOBA」の文
字からなるから,全体は12字とかなり冗長である。また,2段目ないし
4段目は,一列目の「青葉」を,片仮名,平仮名,ローマ字でそれぞれ表
記したものと理解されるから,これに接する者は,各段を「青葉」(1段
目)・「アオバ」(2段目)・「あおば」(3段目)・「AOBA」(4
段目)と分離して認識するものと認められる。他方,引用商標から「アオ
バ」が認識されることは上記のとおりであるから,両商標は,本願商標の
2段目の「アオバ」と引用商標の1列目の「アオバ」を共通する点におい
て,外観上類似する点を有するものである。しかし,本願商標は4段に横
書きしてなるものであるのに対し,引用商標は3列に縦書きしてなるもの
であり,外観を全体的に見ると,本願商標の文字数は,上から2字,3
字,3字,4字であり,文字が配置された全体は,やや末広がりのほぼ台
形状をなしているのに対し,引用商標の文字数は,右から4字,5字,4
字であり,文字が配置された全体は,右上がり上辺と底辺及び垂直の左辺
と右辺からなる,ほぼ平行四辺形をなしており,外観全体としてはやや異
なった印象を与えるものと認められる。
エ原告は,本願商標は4段に横書きしてなるものであるのに対し,引用商
標は3列に縦書きしてなるものであるというように全体の構成が異なるか
ら,これに接する取引者・需要者は,外観上,両商標を混同することはな
いと主張する。
確かに本願商標と引用商標とは,上記のとおり構成が異なり,その構成
の相違から外観が異なることは原告主張のとおりであり,審決が両商標の
外観上の相違について何ら検討することなく,単に「自他商品識別標識と
しての機能を有する「アオバ」の片仮名文字部分において,外観上も相紛
らわしい」(審決2頁第6段落)としたことは,その説示が不十分といわ
ざるを得ない。しかし,商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似
の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生じるおそれが
あるか否かによって決すべきであり,それには商標の外観,観念,称呼等
によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考慮すべ
きことは上記のとおりであるところ,本願商標と引用商標とは,外観上の
上記相違を考慮しても,同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の
出所につき誤認混同を生じるおそれがある類似の商標と認められることは
次に述べるとおりであり,原告の上記主張は採用することができない。
(3)両商標の類否についての検討
以上に述べたところにより,本件商標と引用商標とを対比すると,称呼及
び観念において類似する。一方,外観においては,本願商標の2段目の「ア
オバ」と引用商標の1列目の「アオバ」を共通する点において類似する点を
有するものの,外観全体としてはやや異なった印象を与えるものである。
しかし,本願商標も引用商標も,文字のみからなる商標であり,特徴のあ
る外観を備えるものとは認められない上,「アオバ」の文字を共通する点に
おいて外観上も一部類似しているから,外観全体としてのやや異なった印象
は,称呼及び観念における類似性をしのぐほどの特段の差異を取引者・需要
者に印象付けるものと認めることはできず,結局,本願商標と引用商標は,
同一又は類似の商品に使用された場合には,商品の出所につき誤認混同を生
じるおそれがあり,全体として類似する商標であると認めるのが相当であ
る。
したがって,本願商標と引用商標は,互いに類似する商標であるとした審
決の判断(審決2頁第6段落)は結論において誤りはなく,原告の取消事由
2の主張は理由がない。
4取消事由3(指定商品の類否判断の誤り)について
(1)本願の指定商品は,上記2のとおり,「ホスチアゼートを主成分とする医
薬用外劇物及び危険物に相当する液状の殺線虫剤」であり,一方,引用商標
の指定商品は,上記3(3)のとおり,「凝灰質砂岩のパウダーよりなる土壌
改良剤」ということになるところ,原告は,商品の類否判断についての商標
審査基準(甲17)に即して比較すると,両者は,生産部門,販売部門,原
材料,品質,用途を全く異にし,完成品と部品との関係にないことも明らか
であり,法律上の規制の有無,法律に基づく表示義務の有無,注意方法に
も,商品の販売方法も異なるから,両者は非類似の商品であると主張する。
ところで,指定商品が類似のものであるかどうかは,商品自体が取引上互
いに誤認混同を生ずるおそれがあるかどうかだけにより判定すべきものでは
なく,それらの商品に同一又は類似の商標を使用するとき同一営業主の製造
又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあると認められる関係がある場合
には,たとえ,商品自体が互いに誤認混同を生じるおそれがないものであっ
ても,類似の商品に当たると解するのが相当である(最高裁昭和36年6月
27日第三小法廷判決・民集15巻6号1730頁参照)。
(2)そこで以上の見地に立って,本件事案について検討する。
アまずこれらの商品の生産者についてみると,本願の指定商品である「ホ
スチアゼートを主成分とする医薬用外劇物及び危険物に相当する液状の殺
線虫剤」は,殺虫剤であり,一般的には,薬品メーカー,化学品メーカー
によって生産されるものである(甲7,33,弁論の全趣旨)。
他方,引用商標の指定商品は,上記のとおり「凝灰質砂岩のパウダーよ
りなる土壌改良剤」であり,「土壌改良剤」の生産者は,薬品メーカー,
化学品メーカーに限定されるものではないが,薬品メーカー,化学品メー
カーもこれを生産しており,「殺虫剤」と「土壌改良剤」の双方を生産し
ているメーカーも存在する(乙36∼40)。
イ次に販売者についてみると,本願の指定商品を含む殺線虫剤も引用商標
の指定商品を含む土壌改良剤も,共に農業・園芸用に使用される商品であ
り,一般的には,農業協同組合,ホームセンターなどで販売されているも
のである(乙41∼47)。
ウさらに需要者についてみると,本願の指定商品を含む殺線虫剤も引用商
標の指定商品を含む土壌改良剤も,共に農家や家庭菜園を行う者等をその
需要者とする者である上,殺線虫剤を有効成分として含有させた土壌改良
剤や,線虫被害を抑止する効果を有する土壌改良剤も存在することが認め
られる(乙48∼54)。
エ以上検討したところによれば,本願の指定商品の属する殺線虫剤と引用
商標の指定商品の属する土壌改良剤は,通常同一の営業主によって製造・
販売され,その需要者も共通であるから,両商品に同一又は類似の商標を
使用するときは同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認されるおそれ
があると認められ,本願の指定商品と引用商標の指定商品は類似であると
いうべきである。
(3)原告は,本願の指定商品である「ホスチアゼートを主成分とする医薬用外
劇物及び危険物に相当する液状の殺線虫剤」は,農薬取締法,毒物及び劇物
取締法に基づく登録を受けた医薬品製造メーカー,化学品製造メーカー等の
原体製造メーカー及び製剤メーカーにより製造され,農薬取締法,毒物及び
劇物取締法に基づく販売の届出をした,全農・JA,あるいは卸売業者・小
売業者を通じて販売される商品であるのに対して,引用商標の指定商品であ
る「凝灰質砂岩のパウダーよりなる土壌改良剤」は,農薬取締法,毒物及び
劇物取締法,消防法の法律に基づく法規制がない上,引用商標の商標権者(
株式会社エーオーエーアオバ)以外のいかなるメーカーも取り扱うことのな
い極めて特殊な商品であると主張する。
しかし,指定商品が類似のものであるかどうかは,商品自体が取引上誤認
混同のおそれがあるかどうかだけにより判定すべきものではなく,前記のと
おり,それらの商品に同一又は類似の商標を使用するとき同一営業主の製造
又は販売に係る商品と誤認されるおそれがあると認められる関係がある場合
には,たとえ,商品自体が互いに誤認混同を生じるおそれがないものであっ
ても,類似の商品に当たることは上記(1)のとおりである。また,商標の類
否判断に当たり考慮すべき取引の実情とは,その指定商品全般についての一
般的・恒常的なそれを指すものであって,単に該商標が現在使用されている
商品についてのみの特殊的・限定的なそれを指すものではないと解すべきで
ある(最高裁昭和47年(行ツ)第33号・昭和49年4月25日第一小法
廷判決参照)ところ,「凝灰質砂岩のパウダーよりなる土壌改良剤」が現在
引用商標の商標権者以外のメーカーが取り扱っていないとしても,指定商品
全般についての一般的・恒常的な取引の実情と認めることはできない。
そうすると「ホスチアゼートを主成分とする医薬用外劇物及び危険物に相
当する液状の殺線虫剤」と「凝灰質砂岩のパウダーよりなる土壌改良剤」に
ついての法規制が異なるとしても,両商品は通常同一の営業主によって製造
・販売されるものと認識され,しかも,その需要者が共通であることは上記
のとおりであり,生産者・販売者は法規制の対象となる商品も対象とならな
い商品も共に取り扱っているのであるから,両商品について法規制の異なる
ことが同一又は類似の商標を使用した場合に商品の出所の混同を生ずるおそ
れがあるか否かに影響を及ぼすものとは認め難いから,原告の上記主張は採
用することができない。
(4)以上に検討したとおり,本願の指定商品と引用商標の指定商品とは互いに
類似する商品であるとした審決の判断(審決5頁第3段落)に誤りはなく,
原告の取消事由3の主張は理由がない。
5結論
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判
決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官岡本岳
裁判官今井弘晃

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