弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人磯田亮一郎の上告趣意について。
 所論は、刑法九六条ノ三、二項後段の「不正ノ利益」に関する東京高等裁判所判
決の見解を採つて、この見地から本件談合の所為が不正の利益を得る目的に出たも
のである旨の認定を非難し、原判決は「東京高等裁判所の判決の示すところのもの
と遠い距離を持つた判決といわなくてはならぬ」と主張する。しかし原判決は控訴
趣意の事実誤認の主張に対し、単に第一審判決挙示の証拠によればその判示事実を
認められる旨判示したに止まり、所論の論点についてはなんら特に判示するところ
はないのであるから、所論は適法な上告理由に当らないものといわなければならな
い(原判決は、公の工事の競争入札につき指名入札人の一員たる被告人が落札希望
者の懇請により、これに応ずれば若干の謝礼金を供与せらるべきことを知りながら、
同人よりも高額に入札することを承諾し、落札の結果謝礼金として二万三千円また
は一万三千六百円を受領し、もつて不正の利益を得る目的をもつて談合したもので
ある旨の刑法九六条ノ三、二項後段に当る事実を肯認しているのであるから、これ
によつて窺い知られる原判決の同項後段にいう「不正ノ利益」についての見解は、
当裁判所判例(昭和二九年(あ)第三一九八号、同三二年一月二二日第三小法廷判
決、判例集一一巻一号五〇頁)の趣旨に照し正当ということができる。しかして所
論引用の東京高等裁判所判決に判示するごとき、「不正ノ利益」であるか否かの区
別の標準は、その利益の授受により当該入札における公正な価格すなわち最も有利
な条件を有する者が実費に適正な利潤を加算した額で落札すべかりし価格を害する
に至つたか否かに存するという見解は、前提たる「公正ナル価格」の点について当
裁判所判例〔昭和二八年(あ)第一一七一号、同年一二月一〇日第一小法廷決定、
判例集七巻一二号二四一八頁、前掲第三小法廷判決〕の採らないところであり、「
不正ノ利益」に関する前掲第三小法廷判決の趣旨と相容れないものであるから、既
に右判例により変更されたものということができる)。
 また記録を調べても本件につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
  昭和三二年七月一九日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
            裁判官    池   田       克
            裁判官    河   村   大   助
            裁判官    奥   野   健   一

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