弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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        主    文
1 原判決中上告人甲及び同乙の事業認定(昭和44年建設省告示第3865号に
係るもの)の取消請求に関する部分を破棄し,第1審判決中同部分を取り消し,同
部分につき本件訴えを却下する。
2 上告人丙及び同Dの上告を棄却する。
3 上告人甲のその余の上告並びに同E,同F,同G,同H,同I及び同Jの上告
を却下する。
4 訴訟の総費用は上告人らの負担とする。
         理    由
第1 上告人丙及び同Dの上告について
1 上告代理人葉山岳夫,同前田裕司,同一瀬敬一郎,同森谷和馬,同井上智治,
同深澤信夫の上告理由第一点,第四点(土地収用法(平成11年法律第160号に
よる改正前のもの)20条3号違反をいう部分を除く。)について
行政手続に憲法31条による保障が及ぶと解すべき場合であっても,保障されるべ
き手続の内容は,行政処分により制限を受ける権利利益の内容,性質,制限の程度
,行政処分により達成しようとする公益の内容,程度,緊急性等を総合較量して決
定されるべきものである。そして,土地収用法(昭和47年法律第52号による改
正前のもの)第3章第1節の規定の定める手続の下に事業の認定を行うことが土地
等の所有者又は関係人の権利保護に欠けると解することはできず,【要旨1】これ
らの規定及びこれに基づいて建設大臣がした事業認定(昭和44年建設省告示第3
865号に係るもの。以下「本件事業認定」という。)が憲法31条の法意に反す
るということはできない。以上は,当裁判所の判例(最高裁昭和61年(行ツ)第
11号平成4年7月1日大法廷判決・民集46巻5号437頁,最高裁平成8年(
行ツ)第90号同年8月28日大法廷判決・民集50巻7号1952頁)の趣旨に
徴して明らかというべきである。上記憲法31条違反のあることを前提とする所論
憲法13条違反の主張は,その前提を欠く。論旨は採用することができない。
2 同第二点について
土地収用法(平成13年法律第103号による改正前のもの)71条の規定が憲法
29条3項に違反するものではないことは,当裁判所の判例(最高裁昭和25年(
オ)第98号同28年12月23日大法廷判決・民集7巻13号1523頁)の趣
旨に徴して明らかである(最高裁平成10年(行ツ)第158号同14年6月11
日第三小法廷判決・民集56巻5号958頁参照)。上記憲法29条3項違反のあ
ることを前提とする所論憲法14条違反の主張は,その前提を欠く。論旨は採用す
ることができない。
3 同第三点について
公共用地の取得に関する特別措置法(平成11年法律第160号による改正前のも
の。以下「法」という。)7条の規定による特定公共事業の認定を受けた起業者は
,収用委員会に対し,法20条1項の規定により緊急裁決を申し立てることができ
,緊急裁決においては,損失の補償に関する事項でまだ審理を尽くしていないもの
がある場合においても,権利取得裁決又は明渡裁決がされ(同項),概算見積りに
よる仮補償金が定められるものとされている(法21条1項)。緊急裁決は,公共
の利害に特に重大な関係があり,緊急に施行することを要する事業に必要な土地等
を取得するため(法1条,7条),明渡裁決が遅延することによって事業の施行に
支障を及ぼすおそれがある場合に特に認められるものであり(法20条1項),緊
急裁決において定められた権利取得の時期又は明渡しの期限までに仮補償金の額の
払渡し又は供託がなければ,緊急裁決は失効するとされている(法27条,土地収
用法100条)。そして,収用委員会は,緊急裁決の後も引き続き審理して,遅滞
なく補償裁決をし(法30条1項),補償裁決で定められた補償金額と緊急裁決で
定められた仮補償金の額とに差額があるときは,年6分の利率により算定した利息
を付して清算するものとされ(法33条1項,2項,34条1項),緊急裁決にお
いては最終的な補償義務の履行を確保するために起業者に担保の提供を命ずること
が(法26条1項),補償裁決においては起業者が裁決に基づく義務の履行を怠っ
た場合に支払うべき過怠金を定めることが(法34条2項),それぞれできるとさ
れ,法は,最終的に正当な補償がされるための措置を講じている。
憲法29条3項は,補償の時期については何ら規定していないのであるから,補償
が私人の財産の供与に先立ち又はこれと同時に履行されるべきことを保障するもの
ではないと解すべきである(最高裁昭和23年(れ)第829号同24年7月13
日大法廷判決・刑集3巻8号1286頁)。そして,上記関係規定が定める補償に
関する措置に不合理な点はないから,【要旨2】法が定める緊急裁決の制度が憲法
29条3項に違反するとはいえない。以上は,上記大法廷判決の趣旨に徴して明ら
かである。
また,法20条4項の規定があるからといって,収用委員会における審理手続の公
正を欠くとはいえず,所論憲法31条違反の主張は,その前提を欠く。
論旨は採用することができない。
4 同第四点のうち土地収用法(平成11年法律第160号による改正前のもの)
20条3号違反をいう部分,第五点,第六点について
所論の点に関する原審の認定判断は,原判決挙示の証拠関係に照らし,正当として
是認することができ,その過程に所論の違法はない。論旨は,違憲をいう点を含め
,原審の専権に属する証拠の取捨判断,事実の認定を非難するか,又は独自の見解
に基づいて原判決の法令違背をいうものにすぎず,採用することができない。
5 同第七点ないし第九点について
論旨は,本件第2期工事区域に係る本件事業認定の失効に伴い,本件事業認定の全
部が取り消されるべきことをいう。しかし,本件事業認定後の事由によって本件事
業認定が違法となる余地はない。論旨は,原判決の結論に影響のない事項について
の違法をいうものにすぎず,採用することができない。
第2 上告人甲及び同乙の本件事業認定の取消請求について
職権をもって調査するに,K国際空港公団は,平成5年6月16日,上告人甲及び
同乙の所有地につき権利取得裁決の申請及び明渡裁決の申立てを取り下げ,上記所
有地については,土地収用法29条1項により本件事業認定の効力が失われるに至
ったから,上記上告人両名が本件事業認定の取消しを求める法律上の利益も消滅し
たものといわざるを得ない。そうすると,上記上告人両名の本件事業認定の取消し
を求める訴えは却下すべきであり,同訴えに係る請求につき本案の判断をした原判
決は失当であることに帰するから,原判決中同請求に関する部分を破棄し,第1審
判決中同部分を取り消し,上記訴えを却下すべきである。そして,上記訴えは,不
適法でその不備を補正することができないものであるから,当裁判所は,口頭弁論
を経ないで上記判決をすることとする。
第3 その余の上告について
上告人甲の特定公共事業の認定(昭和45年建設省告示第1824号に係るもの)
の取消請求に関する上告並びに同E,同F,同G,同H,同I及び同Jの上告につ
いては,前記各上告人が上告理由を記載した書面を提出しないから,これを不適法
として却下することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 横尾和子 裁判官 深澤武久 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉
 徳治 裁判官 島田仁郎)

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