弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における未決勾留日数中六〇日を本刑に算入する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 被告人Aの弁護人堀田勝二の上告趣意及び被告人Aの上告趣意は後に添えた書面
記載のとおりである。
 弁護人堀田勝二の上告趣意第一点について。
 本件第一審のはじめより判決言渡まで終始関与した判事Bが、原審の昭和二六年
四月二一日第四回公判に関与したことは所論のとおりである。しかし記録によれば、
右判事が、原審の構成員として関与しているのは、前記第四回公判のみであつて、
且つ公判調書の記載によると、当日被告人は出頭せず、原審弁護人Cのみ出頭し、
被告人が出頭できない理由で、公判期日の延期を求めたところ、立会検察官におい
ても異議がなかつたので、裁判長は合議の上弁護人の申請を許し、同日公判期日を
五月一〇日に延期し閉廷したことが認められる。もとより同公判においては、なん
ら本件の審理をせず、また同日だけで、判事Bはその後の公判には全く関与してい
ないのである。このように第一審の裁判に関与した裁判官が、第二審の公判にその
構成員として加わり、職務の執行に関与した場合においても、単に弁護人の申請に
より、公判期日を延期し閉廷したに止まるときは、なんら事件の審理に実質的に関
与していないのであるから、刑訴二〇条七号に定める、裁判官が職務の執行から除
斥される場合に当らないと解すべきである。このことは、同条同号に、「原判決又
はこれらの裁判の基礎となつた取調に関与したとき」とあるによつても明らかであ
る。また記録を精査しても、原審第四回公判以後において、裁判長鈴木正路、判事
若山資雄、判事赤間鎮雄の構成により、事件の審理は正しく進行し、その間なんら
不公平な、裁判をする虞があることを疑わしめる形跡はいずこにも認められない。
されば、所論原判決が、憲法三七条一項に違反するという主張は、その前提たる事
実を欠くこととなり、理由がないといわなければならない。
 同第二点及び被告人の上告趣意について。
 被告人は、はじめより犯行を否認し、上告趣意においても、繰り返し述べている
ところは、自己の主張事実に基いて、原判決の事実誤認を論難するのであり、弁護
人の所論も同趣旨に帰着するから刑訴四〇五条の適法な上告理由とはいえない。ま
た被告人の所論中に憲法の文字が数個所に散見するが、全趣旨より見て、必ずしも
原判決の違憲を主張するのではないと認められる。所論は、結局刑訴四一一条によ
る職権の発動を求めるものと解せられるが、所論の特に強調する犯行現場に遺留し
てあつた被告人所有の自転車とその他の雑品は、前日何人かに窃取されたものであ
ること、自転車と共に遺留してあつた手拭が被告人の所有物でなく、これについて
原審の採用した鑑定の結果は、その経過が不確実であること、足の負傷は草むらを
歩いたとき受けたもので、その部位は、電柱の登降によつては生ずることを得ない
ところであること等について、記録を精査しても、原判決が援用した第一審判決の
挙示する各証拠及び原審の採用した鑑定の結果を綜合すれば、原判決の事実認定を
もつて、不合理であるとか経験則に反するということはできない。その他、被告人
の挙げる多くの主張についても、到底原審の認定が誤りであると認めることはでき
ない。よつて論旨はいずれも採ることを得ない。また被告人の論旨が、原判決の憲
法違反を主張するものとしてもすでにその前提たる事実を欠くから、同じく理由が
ないことに帰着する。
 よつて刑訴四〇八条一八一条及び刑法二一条により主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見である。
  昭和二七年一月二九日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    小   林   俊   三

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