弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 原判決主文一項を取り消す。
二 被控訴人の控訴人国に対する請求を棄却する。
三 控訴人登記官の本件控訴及び被控訴人の附帯控訴を、いずれも棄却する。
四 被控訴人と控訴人国との間では、訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人の負担
とし、控訴人登記官との間では、当審費用は各自の負担とする。
       事実及び争点
第一 申立
一 控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
二 被控訴人
1 原判決主文第二項を取り消す。
2 被控訴人が原判決添付別紙登記目録記載の登記につき平成一〇年三月三日付け
でした登録免許税法三一条二項に基づく還付通知請求について、控訴人登記官が平
成一〇年三月一三日付けで被控訴人に通知してなした「過誤納付の事実は認められ
ないので、税務署長への還付の通知はできません」という旨の処分を取り消す。
第二 事案の概要
一 二以下に付加するほかは、原判決事実摘示(第二事案の概要等、第三争点に関
する当事者の主張)のとおりであるから、これを引用する。
 ただし、原判決八頁五行目の「前記1記載の建物に代わるものとして」を削る。
二 当審における控訴人らの主張
1 (控訴人登記官)
 原判決の争点3に関する控訴人国の主張2(原判決二七頁二行目以下)のとお
り、登録免許税法三一条二項の還付通知請求に関しては、右請求の期間制限、還付
加算金の付加、民事法定利率を超える年七・三パーセントの利率の定め等、民法上
の不当利得返還請求権には存在しない特徴がみられるのであり、還付通知や還付通
知をしない旨の通知には、これらの特殊な効果の享受、不享受という法的効果が結
びつけられている。
 したがって、右のいずれの通知も、還付請求者の法的地位に変動を及ぼすものと
いうことができ、行政処分性を肯定するに足りるものというべきである。
2 (控訴人ら)
 特例法三七条一項は、「阪神・淡路大震災の被災者であって」及び「阪神・淡路
大震災により滅失した建物又は当該震災により損壊したため取り壊した建物」と規
定している。
 右の規定の仕方からも、同項の適用要件である「被災者であること」あるいは
「被災を受けたこと」を証明するための書類が要求されるものであることの判断の
手掛かりは存在するということができる。
 また、不動産登記法上、登記官の登記申請書類に対する審査は、同法五〇条の場
合を除いては、提出書類の
書面審査であるとされているのであり、登記における手続的課税要件としては、右
登記官の審査の性質に鑑みると、せいぜい書類の添付ないしそれと同質のものしか
想定できないところである。
 したがって、特例法三七条一項の規定が、行政機関の無制限の裁量を認めたもの
で、租税法律主義に反する無効なものということはできない。
三 被控訴人の反論(二の1に対し)
 登録免許税法三一条二項の還付通知請求に関する請求の期間制限等の民法上の不
当利得返還請求権には存在しない特徴は、元々国税の還付金について国税通則法が
定めていることに基づくものであって、還付通知や還付をしない旨の通知によって
生じる効果ではないから、右各通知の行政処分性を肯定すべき理由とすることはで
きない。
       理   由
一 争点3(登録免許税法三一条二項の還付通知請求に対する還付通知をしない旨
の回答が存在しても、登録免許税の納付につき法律上の原因を欠くことを理由とし
て、直接不当利得の返還を求めることができるか)について
 登録免許税法三一条二項の通知をすべき旨の請求に対し、登記機関がした通知を
しない旨の回答は、請求人の登録免許税にかかる過誤納金返還請求権の不存在を確
定する法的効果を有しないと解するべきである。その理由は次のとおりである。
1 登録免許税は、申告や行政庁の処分を要しないで、登記と同時に税額が確定す
る(国税通則法一五条二項一二号、三項五号)から、納税義務がないのに納付され
た登録免許税は納付の時点で直ちに過誤納金となり、税務署長はこれを返還せねば
ならず(同法五六条一項)、登記機関も納付者の請求がなくとも、その事実を税務
署長に通知しなければならない(登録免許税法三一条一項)こととなっている。
 このことは過誤納金の有無が公権力で確定される構造とはなっていないことを示
している。
2 登録免許税法三一条二項の請求は、登記機関に対し、税務署長に事実を通知す
べき旨の請求であって、過誤納金を返還すべき旨の請求ではない。この点では所得
税など申告納税方式を採っている税についての更正請求とは性格を異にしている。
同項が登記を受けた者に右のような請求権を与えている以上、登記機関はその請求
に応答すべき義務があるが、その請求を拒否する回答は、税務署長への通知を拒否
する内容しか持たないのであって、同条の文言からすると、過誤納金返還請求権の
不存在を確定する
効力は持たないというほかはない。
 そうすると、右の回答があったことにより、被控訴人が国を相手に過誤納金返還
請求をすることが妨げられるものではない。
二 争点1(本件拒否通知の取消しを求める訴えは適法か)
 右一判断のとおり、登録免許税法三一条二項の請求を拒否する回答は、法律に基
づくものではあるが、その効力は国の機関の内部での通知を行わないというだけで
あって、被控訴人の過誤納金返還請求権の存否に影響を与えるものではないから、
この回答に対して抗告訴訟を提起する利益は存しないというべきである。
 したがって、この回答の取消しを求める訴を却下した部分の原判決は正当であ
る。控訴人登記官の控訴及び被控訴人の附帯控訴は理由がない。
三 争点4(本件納付は法律上の原因を欠くものであるかー本件納付は誤納付に当
たるかー登記申請時における被災証明書の添付は免税要件か)について
 特例法施行規則二〇条一項は、特例法三七条一項の委任に基づくもので有効と解
される。その理由は次のとおりである。
1 憲法八四条の定める租税法律主義は、課税が国民の財産権の侵害であることに
鑑み、課税要件の全てと租税の賦課・徴収の手続は法律によって規定すべきことを
明らかにしたものである(最高裁判所昭和三〇年三月二三日大法廷判決・民集九巻
三号三三六頁、同昭和六〇年三月二七日大法廷判決・民集三九巻二号二四七頁参
照)が、このことは、特例法三七条一項のように、通常の課税要件よりも納税者に
有利な特例措置を定めるものについても、同様に妥当すると解するのが相当であ
る。
 もっとも、租税関係の立法においても、課税要件及び租税の賦課・徴収に関する
定めを政令・省令等に委任することは許されるが、憲法八四条の趣旨からすると、
それは具体的・個別的委任に限られるのであり、一般的・白紙的委任は許されない
と解するのが相当である。したがって、法律による委任は、その規定自体から委任
の内容が一義的に明確でなければならないと解される。
2 特例法三七条一項は、「阪神・淡路大震災の被災者であって政令で定めるもの
又はその者の相続人その他の政令で定める者が阪神・淡路大震災により滅失した建
物又は当該震災により損壊したため取り壊した建物に代わるものとして新築又は取
得をした建物で政令で定めるものの所有権の保存又は移転の登記については、大蔵
省令で定めるところにより平成七年四月一日から平成
一二年三月三一日までの間に受けるものに限り、登録免許税を課さない。」と規定
している。
3 この「大蔵省令で定めるところにより登記を受けるものに限り」という表現か
らすると、書面主義が行われている登記手続の中では、一定の書面の添付を予定し
ていると考えられる。そして、省令は主として純粋に手続的事項の定めしか置かな
いのが通常である。そうすると、特例法三七条一項の大蔵省令への委任は、一般
的・白紙的に委任をしたものではく、法律及び委任を受けた政令の定める免税の実
体的要件を証明すべき添付書類の内容の定めに限り、大蔵省令に委任したものと解
される。
4 特例法施行規則二〇条一項により添付すべき証明書類は、本件の事案に即して
言えば、特例法の定める「阪神・淡路大震災の被災者」、特例法施行令二九条一項
の定める「阪神・淡路大震災によりその所有する建物に被害を受けた者であること
につき、市長から証明をうけた者」との要件を立証する書面であるから、右規則の
定めはまさに法律の委任の範囲に属する合理性のある規定であり、有効であると解
される。
5 被控訴人の指摘するとおり、登録免許税法四条二項、同法五条一項、租税特別
措置法四一条八項は、免税の要件としての一定の書類の添付を、法律で定め、又は
その書類の細目の定めを大蔵省令に委任する旨を定めている。
 しかし、右のように、法律が手続的課税要件の内容を明文で規定までしていなく
とも、右3のように法律が委任内容を限定していると解される場合には、その範囲
で定められた省令は有効というべきである。
6 なお、被控訴人は、特例法三七条一項には、例えば租税特別措置法七〇条五項
のように、一定の書類の添付等をしない場合には適用しないというような明文の失
権規定を欠いており、このような場合に、省令により失権効のある要件が定められ
ているというような解釈は、租税法律主義に反すると主張するが、特例法三七条一
項の規定自体から、登記手続上一定の書類を添付しない場合には、免税の利益を失
うことが読み取れるというべきである。
7 弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、本件登記申請に際して、特例法施行規則
二〇条一項所定の書類添付をしなかったことが認められる。したがって、本件納付
が法律上の原因を欠く過誤納金であるとは認められない。
8 そうすると、被控訴人の控訴人国に対する請求は理由がない。よって、この請
求を認容した部分
の原判決を取り消して、右請求を棄却することとする。
大阪高等裁判所第五民事部
裁判長裁判官 井関正裕
裁判官 前坂光雄
裁判官 牧 賢二

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