弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人芹沢孝雄、同相磯まつ江、同渡辺良夫の上告理由第二点、第三点およ
び上告人A1、同A2、同A3、同A4、同A5、同A6の各上告理由について。
 原判決は、被上告人会社の月掛生命保険の外勤職員たる上告人らが会社から受け
る給与のうち勤務手当、交通費補助並びに給料、出勤手当、功労加俸および地区主
任手当は、固定給であり、従つて、被上告人会社が上告人らのストライキを理由と
して行なつた右各項目の給与の削減は有効である、と判断した。そして、その説明
によると、従来被上告人会社の外務員については、勤務上の拘束がなく、能率給一
本建による給与体系がとられていたが、上告人らのごとき月掛生命保険の外勤職員
は、保険契約の募集のほか継続的保険料の集金事務に従事し、その保険料は零細で、
これが集金の回数も頻繁であるため、被上告人会社としてはその事務を常時掌握す
る必要があるところから、新らたに、就業規則で、勤務時間を一日につき実働八時
間(但し、全時間にわたる社内勤務が要求されているわけではない。)、遅刻、早
退その他就業時間中勤務を離れる場合には所定の手続をふむべきことと定め、それ
に対応してこの種職員の所得の安定を図る必要が生じたので、固定的給与を加味し
た給与体系を採用するにいたつた。しかし、実際には、仕事の性質上、かかる就業
規則の定めにもかかわらず、勤務時間を問題とせず、訪問先の都合によつては夕方
ないし夜間に勧誘または集金を行ない、或いは日曜、祭日を選んでこれを行なうの
が普通であり、かかる場合、時間外手当や休日、深夜の割増賃金等の支払はなく、
また、給与の支払態様にしても、給与項目のうち純然たる能率給といわれている超
過奨励金、集金奨励金、募集旅費および集金旅費は、いずれも募集、集金の成績に
比例して毎月その金額が変動するのに反し、所論の勤務手当および交通費補助は、
当該職員の資格や募集、集金の成績に関係なく、毎月一定額が支給され、給料、出
勤手当、功労加俸および地区主任手当も、過去の成績によつて決定された資格を有
する者のみに対し、過去の成績を考慮して算出された各資格によつて異なる金額が、
所定の時間(給料および出勤手当にあつては三箇月間または四箇月間、功労加俸に
あつては一箇年間、地区主任手当にあつては六箇月間)、その期間中における募集、
集金の成果に関係なく支給される。しかし、他面、給料および出勤手当の受給資格
たる係長、係長補、主任等の地位は、純然たる給与の級別に過ぎず、その職務の内
容においては全く同一であるのみならず、それはまたすこぶる不安定なものであつ
て、過去三箇月間の成績が良好で一定の基準に達したときは四箇月目から、当然に、
主任は係長補に、係長補は係長にそれぞれ昇格し、係長、係長補、主任の資格にあ
る者でも、過去三箇月間または四箇月間の成績が一定の基準に達しないときは、四
箇月目または五箇月目にはそれぞれ係長補、主任または主任補に格下げされること
を建前とし、昇格、格下げの結果は、直ちに給料、出勤手当のみならず、功労加俸
および地区主任手当とし受ける給与の額にも変動をきたし、主任補以下に格下げさ
れた場合には、外勤職員の地位を失ない、これに伴なう利益も消滅することとなつ
ている、従つて、これら項目の給与は、固定給の形をとつているとはいえ、或る程
度能率給に類似した性格をおびるものと認むべきであるが、もともと固定的給与を
加味した給与体系を採用するにいたつたのは、単なる仕事の成果に応ずる能率給の
実を挙げるためではなく、前叙のごとく、外勤職員の所得の安定、会社との関係の
緊密化を図る目的に出たものであり、また、少くとも三箇月間は仕事の成果に関係
なく一定の金額が支給され、職員の資格の昇格、格下げということも、本件事案の
程度では、勤務の質の向上または低下に伴なう昇給、減給と解して妨げないから、
これら項目の給与は、職員の時間的継続的勤務に対する対価たる固定給と認むべき
である、というのである。
 しかし、ストライキによつて削減し得る意義における固定給とは、労働協約等に
別段の定めがある場合等のほかは、拘束された勤務時間に応じて支払われる賃金と
しての性格を有するものであることを必要とし、単に支給金額が相当期間固定して
いるというだけでは足らず、また、もとより勤務した時間の長短にかかわらず完成
された仕事の量に比例して支払わるべきものであつてはならないと解するのが相当
である。
 ところで、前記原審の確定した限りの事実関係の下においては、
 所論諸項目の給与のうち、勤務手当および交通費補助は、労働の対価として支給
されるものではなくして、職員に対する生活補助費の性質を有することが明らかで
あるから、これら項目の給与は、職員が勤務に服さなかつたからといつてその割合
に応ずる金額を当然には削減し得るものでないと認むべきである。次に、給料、出
勤手当、功労加俸および地区主任手当についていえば、被上告人会社における勤務
時間拘束の制度は、主として業務管理の手段として設けられたものであつて、そこ
に右各項目の給与の額を決定する絶対的基準としての意味は見いだし難く、従つて
また、これが設けられたことに対応して固定的給与を加味した給与体系が採られる
にいたつたということも、この種職員の所得の安定を図る趣旨に出たものというべ
きであり、しかも、右係長、係長補、主任等の資格が純然たる給与の級別に過ぎず、
且つ、該資格の決定がその者の過去における仕事の成績によつて行なわれる以上、
給与の額は、主として、仕事の成果によつて決定されるものであつて、それが一定
の資格にとどまる間その期間中における募集、集金の成果と関係なく支給されるの
は、過去において完成された仕事の量に対して支払わるべき報酬を給与の平均化を
図る目的で右期間に分割して支給されるというほどの意味を有するに過ぎないもの
と認めるのが当然であり、また、右期間中の仕事の成果が次期の給与額に直接自動
的に影響を及ぼすことも否定し得ないところである。それ故、右各項目の給与は、
上告人らが勤務に服した時間の長短を基準として決定された面が全然ないとはいえ
ないにしても、その実質は、むしろ、本件ストライキの行なわれた昭和三二年六月
以前における上告人らの募集、集金の成果に比例して決定されたものであつて、純
然たる能率給であるかどうかは格別、少なくとも、前記意義における固定給ではな
い、と認むべきである。もつとも、典型的な固定給の受給者と目されている一般労
働者にあつても、日常の仕事の成績を考慮してその者の昇格、格下げが決定され、
これに伴ない給与の増減が招来されることは疑いを容れないところであるが、この
場合には、仕事の量によつて決定さるべき資格が給与そのものの級別ではなくして
職務の内容に関するものであることを看過してはならないのであつて、単に仕事の
成績が給与の額に影響を及ぼすの一事をもつて、右両者の間に存する給与決定上の
本質的相違を無視することは許されないものといわなければならない。
 しかるに、原審が、前叙のごとく、勤務時間拘束の制度が仕事の成果に応ずる能
率給の実を挙げるために設けられたものではなく、また所論諸項目の給与が一定の
資格にとどまる間その期間中における募集、集金の成果と関係なく支給されるもの
であるということにのみ着目し、本件事案の程度では資格の昇格、格下げも勤務の
質の向上または低下に伴なう昇給、減給と解して妨げないとして、たやすく、所論
諸項目の給与を固定給と認め、ひいては被上告人会社が上告人らのストライキを理
由として行なつた賃金の削減を違法でないと判断したことは、法令の解釈適用を誤
つたか、審理不尽の違法に陥つたものというべく、右の違法は判決に影響を及ぼす
ことが明らかであるから、論旨は、理由あるに帰し、原判決は、その余の上告理由
について判断を加わえるまでもなく、破棄を免かれない。そして、本件につき、さ
らに審理を尽さしめる必要があるものと認め、これを原裁判所に差し戻すこととす
る。
 よつて、民訴四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛