弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
被告人を懲役3年に処する。
この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。
理由
(犯罪事実)
第1被告人は,平成22年3月10日前後ころ,福岡市a区bc丁目d番e号f
マンションg号の被告人方において,次女であるA(当時3歳)に対し,点火
して加熱させたライターの金属部分を同人の左頸部に数回押しつける暴行を加
え,よって,同人に加療約2か月間を要する左頸部3度熱傷の傷害を負わせた。
第2被告人は,同月中旬ころ,前記被告人方において,Aに対し,点火して加熱
させたライターの金属部分を同人の右胸部に数回押し付ける暴行を加え,よっ
て,同人に加療約2か月間を要する右胸部3度熱傷の傷害を負わせた。
第3被告人は,同月中旬から下旬ころ,前記被告人方において,Aに対し,点火
して加熱させたライターの金属部分を同人の下腹部に数回押し付ける暴行を加
え,よって,同人に加療約2か月間を要する下腹部3度熱傷の傷害を負わせた。
第4被告人は,Bと共謀の上,同年4月11日午前零時45分ころ,前記被告人
方において,Aに対し,同人を同所浴室内に連れて行って空の状態の浴槽内に
入れ,その右手首をガムテープで水道の蛇口に巻き付けて緊縛し,同状態のま
ま同日午前8時43分ころまでの間,同人を放置して同所浴室内から脱出する
ことを不能とし,もって同人を不法に逮捕監禁した。
第5被告人は,同日午後10時10分ころ,前記被告人方において,テーブルの
上に立っていたAに対し,その背中を手のひらで突き押す暴行を加えて同人を
床上に転落させ,よって,同人に加療約1週間を要する上口唇白唇部挫滅創,
上口唇粘膜部裂創の傷害を負わせた。
(証拠の標目)省略
(法令の適用)省略
(量刑の理由)
1本件は,被告人が,3度にわたって,ライターで次女である被害者にやけどを
負わせ(判示第1ないし第3),夫と共謀して自宅浴室内に同女を監禁し(判示
第4),テーブルの上にいた同女を突き押してけがを負わせた(判示第5)とい
う,いわゆる児童虐待の事案である。
2被告人は,離婚,内縁関係の解消を経て,経済的理由もあって,長女のほか,
次女の被害者も生後間もない時期から児童養護施設に預けていたところ,平成2
1年12月下旬に現在の夫であるBと婚姻し,そのころ,被害者らを引き取って
同居するようになった。家族4人の同居生活は,当初は順調であったが,一,二
箇月すると,被害者は,それまでトイレで出来ていた用便ができなくなったり,
うそをつくようになったりしたため,被告人は,被害者の育児に悩むようなった。
そして,被告人は,平成22年3月ころからは,被告人の言うことを聞かなかっ
たり,素直に謝ったりしない被害者に対し,しつけと称して体罰を加えるように
なり,その一環として,本件各犯行に及んだ。被告人は,被害者と離れていた時
期を早く取り戻して良い母親にならなければならないという焦りもあって,悪い
ことと分かりながらもつい体罰を加えてしまったなどと述べる。3歳という被害
者の年齢を考えれば,その能力に応じた対応をすべきであるのが当然であり,本
件各犯行は,結局,身勝手な感情からくる短絡的な動機に基づくものというほか
ない。なお,本件の背景事情として,①被害者らとは血縁関係になかった夫は被
告人の子育て方針に遠慮があったこと,②被告人は,両親や姉を頼ることができ
ず,また,同人らから実効的な助言も得られなかったこと,③被告人は,児童相
談所等の適切な支援を得られず,また,再び子らと隔離されてしまうことを恐れ
て行政等の支援を自ら求めることができなかったことなどから,被告人は孤立し
た状態にあり,悪循環に陥っていたことがうかがわれる。この点は,育児に悩む
母親の立場として同情しうる余地がないわけではないが,虐待を正当化する事情
には決してなり得ず,被告人にさほど有利に考慮できない。
そして,上記のとおり,本件各犯行には,常習性が認められ,その犯行態様は
いずれも悪質というほかない。
さらに,判示第1ないし第3の傷害は,いずれも加療約2か月を要する3度熱
傷であって,傷跡が残る深刻なものであり,判示第5の傷害も加療約1週間を要
するものと軽視できないものである。また,判示第4の監禁は,自宅内とはいえ,
浴室内に拘束した時間は約8時間にもなる。このように,本件各犯行による被害
結果も重大である。なお,検察官は,論告において,最終的には被害者が意識障
害に陥る事態にまで至っていることを指摘して,一連の被告人の虐待行為による
被害結果は深刻である旨主張する。確かに,被害者は今現在意識障害状態にある
ことがうかがわれる。しかし,意識障害自体は,傷害結果として公訴事実に含ま
れていないため,本件各犯行の結果の一部として考慮できず,せいぜい,本件各
犯行の態様の悪質さや常習性を推知させる一事情として考慮できるに過ぎない。
そして,関係証拠上,意識障害の原因となった心肺機能の停止の原因は複数考え
られ,また,それらの原因も,虐待行為によるものか否かも含めて必ずしも明ら
かになっていない。だからこそ,検察官は,意識障害について起訴していないも
のと思われる。そうすると,被害者が意識障害に陥ったことは,本件各犯行の態
様の悪質さや常習性を推知する根拠としても限界があり,その意味でも,これを
重視することは適当ではない。
以上によれば,本件の背景事情として多少は同情しうる余地があり,被害者が
意識障害に陥ったことは重視すべきでなく,傷害結果は判示のものを前提とすべ
きとはいえ,その態様の悪質さ,常習性などを踏まえると,本件各行為により問
われるべき刑事責任には,重いものがあり,実刑の選択もあり得るところである。
3しかしながら,被告人は,本件各事実を認めて,反省の態度を示している。ま
た,被告人の実父が,今後の被告人の更生に助力する旨述べている。そして,被
告人の夫も,被害者への虐待を容認していたことからすれば,心許ない面もある
が,本件を機に現状を認識し,被告人に十分な支援をする旨述べている。そして,
被害者らと同居に至った経緯などをみれば,被告人は,もともとは子供に対する
愛情を持っていたことが認められ,被害者のほかにも,被告人の帰りを待つ長女
がいる。また,被告人には前科前歴はない。このように,被告人の更生可能性や
刑事罰の必要性について,被告人に有利に考慮すべき事情も多々認められる。
4そこで,以上の事情を総合考慮すると,本件行為により問われるべき刑事責任
には重いものがあるが,前記の有利な事情もあることから,被告人を直ちに実刑
に処するのはためらわれ,今回に限って,社会内での更生の機会を与えることが
相当であると判断した。しかし,本件に至る経緯や子育てをめぐる環境,そして,
被害者の現状などに照らせば,被告人が更生して適切に家族関係を構築していく
ためには,保護観察による支援指導が不可欠であると判断した。よって,主文の
とおり,刑の量定をした。
(求刑懲役5年)
(福岡地方裁判所第3刑事部裁判官駒田秀和)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛