弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を禁錮六月以上壱年以下に処する。
     原審において生じた訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人堤牧太の陳述した控訴趣意は、記録に編綴されている同弁護人並びに弁護
人桑原純煕から提出の各控訴趣意書記載のとおりであるからこれを引用する。
 弁護人桑原純煕の控訴趣意第一点(理由不備)第三点並びに第四点(審理不尽及
び事実誤認)について、
 しかし、原判決に挙示する証拠に徴すると、原判示事実は、被告人が自動車運転
の業務に従事していたとの点及び本件事故が被告人の業務上の過失に基因するとの
点を除き、その余はすべてこれを認定するに充分であり、所論は本件自動車の後方
荷台にAが乗車したのは、被告人において乗車せしめたものでないというにある
が、同人が進行中の自動車に便乗すべく合図したので、同人の従兄Bにおいて、被
告人に同人の同乗方を依頼したため、被告人はこれを承諾し、停車の上、同人を乗
車せしめたことが記録上明かであるから、被告人にAを乗車せしめたことの責任を
否定するに由ない。また所論によれば、本件衝突については、被告人ばかりでな
く、列車の機関士により以上の過失があつたのであるから、被告人にのみこれによ
る責任を負わしめるべきでないと主張するにあるけれども、本件事故発生の経緯は
後段説示のとおりであつて、道路を通行する本件自動三輪車こそ、専用の鉄道上を
定時に進行するより高速度の列車の通行を妨害しないよう万全の措置を講ずべき筋
合のものであるから、被告人に過失があることは優にこれを認め得られるのみか、
列車の機関士は踏切に近づくや警笛を吹鳴し、被告人の運転する自動車が踏切のた
めに設置された警報器附近で停車せず、これを通過する気配を察知して、直ちに急
停車の措置をとつたことが明らかであるから、列車の機関士に過失のあつたものと
は容易に断じ難い。そして被告人に過失の存する限り、列車の機関士の過失の有無
を問わず、被告人は本件事故による責任を免れ得ないことは言を俟たないから右所
論も当らず、原判決には所論のように、理由不備、又は審理不尽乃至事実誤認の違
法があるということはできない。論旨はいづれも採用の限りでない。
 弁護人桑原純熙の控訴趣意第二点(理由不備)、及び弁護人堤牧太の控訴趣意第
一点事実誤認)、第二点(理由不備、事実誤認、法令適用の誤)、第三点(審理不
尽、理由不備)について、
 刑法第二百十一条にいう業務とは、各人の社会生活上の地位に基づいて、継続的
に従事する事務であつて、人の生命、身体に対する危険を伴うものを指称し、その
事務について法規上官庁の免許を必要とする場合にも、免許の有無は問うところで
ないから、その性質上或る程度の危険を伴う自動三輪車を運転する仕事を、社会生
活上の地位に基づき継続反覆して行い、または一回でもこれを継続反覆する目的を
以て行う者は、免許を有しなくとも、その運転を業務としている者に該当すること
は言を俟たない。ところで、本件記録及び原裁判所において取調べた証拠並びに当
裁判所の事実取調の結果を綜合して考察するに被告人は自動車運転の免許をもたな
かつたが、自家の農業兼薪炭の販売運搬の営業に使用し、時に他人の需により物品
の運搬にも使用していた自家所有の判示自動三輪車に運転免許を有する実兄Cの運
転助手として昭和二十九年一月頃以来乗車しており、近く自らも免許を得るべく運
転の練習をしていたものであつて、兄Cと共に本件事故の十日位前からDの需によ
り八代市a町の海岸より建地石材をb村まで運搬する仕事を続けていたところ、た
またま本件当日兄Cが他出して不在のため、Dからの要求を断りきれず、自ら該自
動車を運転して一回その運搬を了え、更に二回目の運搬をなす途上において、判示
のごとく事故を惹起した事実はこれを認め得られるけれども、被告人が自動車の運
転の業務に従事していたこと、換言すると、従来その社会生活上の地位に基いて該
自動車の運転を反覆していたこと、または、将来これを継続して行う目的を以て判
示のごとく運転をなしたことは、いづれもこれを確認し難く、ただ被告人の検察官
に対する供述調書中に「兄に教つて運転を覚え、時々兄に代つて自分で運転してお
りました」旨の供述はあるが、爾余の証拠に照し、右供述により直ちに被告人が該
自動車の運転を業務としていたものと速断するのは早計であつて、他にこれを肯定
するに足りる資料は記録上見当らない。それで被告人が自動車運転の業務に従事し
ていたものと認めるにはその証明が不十分であるというのほかなく、原判決が判示
のごとく被告人が自動車運転の業務に従事していたものとして、本件の事故をその
業務上の過失に起因するものである旨の事実を認定し、刑法第二百十一条を適用処
断したのは、事実の認定を誤つたか、または前示法条の解釈適用を誤つたものと認
められ、その誤りは判決に影響すること明らかであるから、論旨は理由があり、原
判決は破棄を免れない。
 しかし、職権を以て按ずるに、前記各証拠に徴すると、本件事故発生現場の鉄道
踏切に通ずる道路は、幅約七、七米の平担な路面で、国鉄鹿児島本線に並行し、踏
切附近において、やや曲線をなしているが、鉄道との間には畑地があるのみである
ので列車の進行は容易に発見し得る状況にあり、且つ該踏切には遮断機の設置はな
いが、警報器が設けられ、列車が踏切に到達する五百米手前より自動的に吹鳴する
ばかりか、同時に赤電燈二個が交互に点滅し、危険信号をなす仕掛となつており、
また危険標識も設置してあること、而して当日右警報器に故障があつたことを認め
る資料は存しないのみか、本件自動車と衝突した列車は貨車三二輌を連結し、八代
駅を発車後は、肥後高田、aの各駅に停車せずして本件踏切に差蒐つたものである
が、警笛を吹鳴しつつ進行して来て、踏切に近づく頃には機関車から該自動車は目
撃されているので、該自動車を運転していた被告人も右列車の進行に気付き得る状
態であつたこと、本件事故の時刻は真昼間であつて、現場の見透は良好であつたこ
と、被告人は無免許で、自動車運転の技術について左まで確信を有しないのに、助
手席にBを乗せ、石材を積載した荷台にAを同乗させ、a町から南進し、時速約三
〇キロで進行して来て、警報器附近で前方から来る自動三輪車と摺れ違う際約二〇
キロに減速したものであること、また被告人は法令上鉄道の踏切手前で、自動車は
一旦停車しなければならないとされていることは充分これを熟知していたこと、が
いづれも明らかである。そして、被告人は、前示のごとく前方から進行して来た自
動三輪車と離合する際これに注意を奪われ、列車の進行及び警報器の吹鳴や危険信
号の赤電燈の点滅に気付かず、列車の通過等に依る危険のないことを確認するため
踏切で一旦停車すべきに拘らず、停車もせず漫然踏切内に進入したため、列車側の
急停車の措置も効なく、これと衝突するに至り、因つて判示のごとき人の死傷並び
に列車の脱線や、破損及び線路枕木の破壊や軌道の使用不能による列車の往来に危
険を生ぜしめる結果を惹起した事実を認めることができる。従つて、被告人は前示
のごとき諸点に気付くだけの僅かの注意を払うことにより本件事故の発生すること
を容易に予見し事故を未然に避止し得たに拘らず、その怠慢によりこれを予見しな
かつたことが明白であるから右は被告人に重大な過失があつたものと認定せぞるを
得ない。
 <要旨>而しておよそ業務上過失致死傷と非業務重過失致死傷とはその犯罪構成要
件を異にするが、業務上の過失には、業務者に単純な軽過失あるときのほ
か、重大な過失あるときをも包含するは言を俟たないから、業務上過失致死傷の訴
因事実の過失にして重大な過失に該当する限り、前者に対する被告人の防禦は当然
に後者に対するそれを包含するものということができるのみならず、元来被告人の
起訴された所為を軽過失と判定するか重過失と判定するかは該所為を前提とする法
律上の価値判断に属するので、訴因の変更又は追加の手続なくして、業務上過失致
死傷の公訴事実を非業務重過失致死傷として認定することは許されるものと解すべ
きである。これを本件についてみるに、起訴状に記載の業務上過失致死傷の事実の
うち、その業務上の過失は判示のとおりであつて、まさに重大な過失に該当するの
で、前に説示したところにより、訴因の変更手続がなくとも、これを非業務重過失
致死傷と認定することによつて、被告人の防禦に特に不利益を与えるものというこ
とはできないから、これを違法とする理由は存しない。されば、当裁判所は原判示
の業務上過失致死傷の事実を非業務重過失致死傷として認定し、被告人に対し、刑
法第二百十一条後段を適用処断するを相当であると認める。
 そこで、爾余の論旨に対る判断を省略し、刑事訴訟法第三百九十七条に則り、原
判決を破棄した上、同法第四百条但書に則り更に裁判をすることとする。
 当裁判所が原判決に示の証拠及び当審第一回公判調書中、被告人並びに証人Cの
各供述により認定する事実は、原判示冒頭の「で自動車運転の業務に従事してい
た」との部分を削除し、且つ第二事実のうち「業務上当然の注意義務があるにもか
かわらず、之を怠り、漫然同踏切内に進入した為」とあるを「当然の注意義務があ
り、僅かの注意を払うことにより事故を容易に防止し得たにも拘らず、これを怠
り、一旦停車することなく同踏切内に進入した重大な過失があつた為」と訂正する
ほか原判決に適示事実のとおりである。
 法律に照すと、被告人の所為中、運転の資格を有しないで自動車を運転した点は
道路交通取締法第七条第一項、第二号、第九条、第二十八条第一号に、法定の除外
事由なくして荷台に人を乗車させて運転した点は同法施行令第三十八条第二項、第
七十二条第一号に、各重過失致死傷の点はいずれも刑法第二百十一条後段に、過失
により汽車の往来の危険を生ぜしめた点は同法第百二十九条第一項にそれぞれ該当
(そのほか罰金等臨時措置法第二条及び第三条)するところ、無資格運転と荷台に
乗車させて運転した点は一個の所為で二個の罪名に触れる場合であり重大な過失致
死、同致傷、及び往来の危険を生じた点はいづれも一個の所為で三個の罪名に触れ
る場合であるので、各刑法第五十四条第一項前段、第十条を適用し、前者について
は重い無資格運転の罪の刑に従い、所定刑中懲役刑を選択し、後者については重い
Aを死に致した罪の刑に従つて処断することとし、所定刑中禁錮刑を選択し、以上
は刑法第四十五条前段の併合罪であるから、同法第四十七条、第十条を適用し、重
い重過失致死傷の罪の刑に法定の加重をなした刑期範囲内で処断すべきところ、被
告人は少年であるから少年法第五十二条第一項に則り、主文のとおり不定期に処す
ることとし、原審において国選弁護人に支給した訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一
条第一項に従い、被告人をして負担させることとする。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 筒井義彦 裁判官 柳原幸雄 裁判官 岡林次郎)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛