弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役六月に処する。
     当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
         理    由
 弁護人原定夫の本件控訴趣意は別紙控訴趣意書記載のとおりであるからその主張
するところに対し当裁判所は次のとおり判断する。
 <要旨>第一点について。所論にかんがみ本件訴訟記録及び原裁判所の取り調べた
証拠を精査し弁護人所論の点を検討するに被告人は昭和二九年四月二〇日頃
大田市a町bA方前道路上で遊んでいた子供数名(内一名は当時一四才三ケ月、他
の数名は一二才二名、九才一名、八才二名その他)に対し同町B墓地内のC所有の
位牌堂から古銅板を窃つて来いと言つたこと、そこでその子供らは皆連れだつて右
位牌堂に赴きその壁に張つてあつた古銅板を一人が数枚づつ剥ぎ取つてきたことを
窺知することができる。即ち、右の場合右数名の子供らは同時に同所で同一の所有
者所有の古銅板を剥き取つて来たものであり、被告人はそれらの子供を使つて一個
の窃盗罪を敢行したものと言うべく、たとえその子供らのうちに一人の責任能力を
有する子供があつたとしても全体を包括的に観察して被告人に対して一個の窃盗罪
を以て問擬するを相当とする。されば弁護人主張の相像的競合の一罪であるとの論
旨には賛成し難いけれども、原審が責任能力者に対する関係においては窃盗教唆罪
を以て問擬しその他の者に対する関係においては窃盗の一罪を以て問擬し両者を刑
法第四五条前段の併合罪として処断したことは法律の適用を誤つたものであり且そ
の誤りが判決に影響を及ぼすことが明かであるから原判決は破棄を免れない。
 第二点について。所論にかんがみ本件訴訟記録によつて弁石人所論の点を検討す
るに、なる程本件犯罪に被害の面よりすれば重大とは言えないけれども純真なる児
童を使つてなした犯行であること、被告人に前科ある点等を考えるときは原審刑は
相当であつて再度の執行猶予の恩典を与えることはとうていできない。論旨は採用
し難い。
 よつて刑事訴訟法第三九七条を適用し原判決を破棄し同法第四〇〇条但し書によ
り被告事件について当裁判所は次のとおり判決する。
 被告人は昭和二九年四月二〇日頃大田市a町B墓地内のC所有の位牌堂において
数名の子供(一四才三ケ月一名、一二才二名、九才一名、八才二名その他)使用し
古銅板約一貫百匁時価約四九〇円相当を窃取したものである。
 右事実を認定する証拠は原判決挙示の証拠のとおり。
 法律に照すと被告人の所為は刑法第二三五条に該当するから所定刑期範囲内で主
文の刑を量定処断し、当審における訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一事項を適
用し被告人をして負担せしめる。よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 平井林 裁判官 藤間忠顕 裁判官 組原政男)

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