弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人南出一雄、同松坂清、同青木正芳、同竹田周平、同尾崎陞、同北山六
郎、同島田正雄、同関谷信夫、同大塚一男、同竹沢哲夫、同和島岩吉、同原田香留
夫、同谷村正太郎、同川坂二郎、同真部勉、同荒木哲也、同古高健司、同上野登子、
同岡田忠典、同猪崎武典、同袴田弘、同西口徹、同高橋治、同佐藤唯人、同佐川房
子、同増田隆男、同佐藤正明、同犬飼健郎、同阿部泰雄、同岡田正之、同相良勝美、
同檜山公夫、同西嶋勝彦、同枝川哲、同林伸豪、同角田由紀子、同大川隆康、同豊
川正明、同白井正明、同鶴見祐策の上告理由第二の一、二及び第三について
 裁判官がした争訟の裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によって是正されるべき
瑕疵が存在したとしても、これによって当然に国家賠償法一条一項の規定にいう違
法な行為があったものとして国の損害賠償責任の問題が生ずるものではなく、当該
裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権
限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情がある
場合にはじめて右責任が肯定されると解するのが当裁判所の判例(最高裁昭和五三
年(オ)第六九号同五七年三月一二日第二小法廷判決・民集三六巻三号三二九頁、
昭和五五年(オ)第七九二号同五七年三月一八日第一小法廷判決・裁判集民事一三
五号四〇五頁)であるところ、この理は、刑事事件において、上告審で確定した有
罪判決が再審で取り消され、無罪判決が確定した場合においても異ならないと解す
るのが相当である。
 これを本件についてみるに、原審の適法に確定した事実関係の下においては、刑
事第二審裁判所が上告人Aに対する殺人の公訴事実につき有罪の判決をし、同事件
の上告審裁判所がこれを維持した点について国家賠償法一条一項の規定にいう違法
な行為があったものと認めることができない。したがって、被上告人の同法一条一
項に基づく責任を否定した原審の判断は、正当として是認することができる。所論
は、違憲をも主張するが、その実質は単なる法令違背の主張にすぎず、原判決に右
違法のないことは前示のとおりである。また、所論引用の判例は、前記判断と異な
る解釈をとるものではない。論旨は、独自の見解をもって原判決を論難するものに
すぎず、採用することができない。
 同第二の三ないし五及び第三について
 刑事事件において、無罪の判決が確定したというだけで直ちに検察官の公訴の提
起及び追行が国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為となるものではなく、公
訴の提起及び追行時の検察官の心証は、その性質上、判決時における裁判官の心証
と異なり、右提起及び追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断
過程により有罪と認められる嫌疑があれば足りるものと解するのが当裁判所の判例
(最高裁昭和四九年(オ)第四一九号同五三年一〇月二〇日第二小法廷判決・民集
三二巻七号一三六七頁)であるところ、この理は、上告審で確定した有罪判決が再
審で取り消され、無罪判決が確定した場合においても異ならないと解するのが相当
である。
 これを本件についてみるに、原審の適法に確定した事実関係の下においては、検
察官が上告人Aに対する殺人の公訴事実につき有罪の嫌疑があるとして本件公訴の
提起をし、その追行をしたことについて、国家賠償法一条一項の規定にいう違法な
行為があったものと認めることができない。したがって、被上告人の同法一条一項
に基づく責任を否定した原判決は、その説示において必ずしも適切でないところが
あるが、これを是認することができる。論旨は、採用することができない。
 その余の上告理由について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属す
る証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。
 よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意
見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    香   川   保   一
            裁判官    藤   島       昭
            裁判官    奧   野   久   之
            裁判官    中   島   敏 次 郎

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